説明

放射温度測定装置

【課題】 石英ガラスよりなる部材の外表面の温度を高い精度で測定することのできる放射温度測定装置を提供することにある。
【解決手段】 放射温度測定装置は、特定の波長領域の光を透過するフィルタと、当該特定の波長領域を含む波長領域の光に対して有効感度を有する検出器とを備えてなり、石英ガラスよりなる部材を測定対象体とするものであって、前記フィルタが、波長5.0〜7.4μmの領域の光を透過するものであり、前記検出器が、少なくとも波長5.0〜7.4μmの領域の光に対して有効感度を有するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスよりなる部材を測定対象体とする放射温度測定装置に関し、更に詳しくは、例えばランプの発光管などとして用いられるその外表面に湾曲面を有する石英ガラス管の外表面の温度を当該外表面に接触することなく測定することのできる放射温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石英ガラスは、優れた耐熱性および熱衝撃性を有するものであることから、例えば管壁負荷の高いランプの発光管、高温下において半導体を搬送するための搬送用基板、加熱チューブなどの部材の材料として好適に用いられている。
【0003】
このような石英ガラスよりなる部材(以下、「石英ガラス製部材」ともいう。)は、石英ガラスに由来の優れた熱衝撃性を有するものではあるが、石英ガラス製部材材料を加熱することによって所望の形状に成形する成形工程において温度分布のばらつきが生じた場合には、この成形工程に続く冷却工程において大きな残留歪みが生じることとなるため、この残留歪みに起因して小さな外部応力によって破損するおそれがある。そのため、一般的には、得られた成形体における残留歪みを除去するために、当該成形体を均一な温度の炉によって加熱して徐冷するアニール処理などの熱処理が行われている。
【0004】
しかしながら、石英ガラス製部材をランプの発光管として用いる場合には、ランプの発光管の内部には電極、電極棒および金属箔などの種々の部材が設けられているため、これらの部材を構成する材料の熱膨張率と、発光管を構成する石英ガラスの熱膨張率とが異なることから、成形された石英ガラス管よりなる発光管に生じた残留歪みをアニール処理などの熱処理によって除去することが困難である。
また、発光管材料である石英ガラス管の端部を、例えばバーナーなどによって加熱して当該端部を所望の形状に成形することによりランプにおける封止部を形成する発光管の成形工程においては、成形温度が高い場合には、ランプを構成する他の部材が発光管に食い込むことに起因してクラックが発生するおそれがあり、一方、成形温度が低い場合には、形成される封止部において石英ガラスと他の部材との界面に十分な密着強度が得られず、最終的に得られるランプの耐圧強度が不十分となるおそれがある。
【0005】
而して、このようなランプの発光管の成形工程においては、発光管材料である石英ガラス管の温度を適切な温度に管理した状態で成形処理を行うことが必要とされることから、石英ガラス管の外表面の温度を測定するための温度測定手段が必要とされている。
このような要請は、例えば露光装置の光源として用いられている高圧水銀ランプや、プロジェクタ装置の光源として用いられているランプなどのより一層高い光放射性能が要求されているランプを構成する発光管の成形工程において顕著である。
【0006】
ここに、露光装置の光源として用いられる高圧水銀ランプには、露光装置に対して一層短時間で一層大面積の被露光領域を露光処理することのできる露光性能が求められていることに伴って大出力化が要求されており、また、プロジェクタ装置の光源として用いられているランプは、より一層優れた演色性および発光効率などを得るために、点灯時の圧力が15MPaを超える極限状態で用いられている。
【0007】
石英ガラス管の外表面の温度を測定するための温度測定手段としては、従来、熱電対が用いられているが、この熱電対は測定対象体である石英ガラス管の外表面に接触した状態に配設する必要があることから、通常、石英ガラス管を旋盤により固定して回転させながら加熱することによって行われる成形処理においては、成形処理自体の自由度が極めて小さくなるという弊害が生じるため、非接触型の温度測定手段を用いることが検討されている。
【0008】
一般に、非接触型の温度測定手段としては、例えば測定対象体から放射される赤外領域の光の光量を検知してこれに基づいて温度測定を行う赤外放射温度計が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、赤外放射温度計は、その測定精度が測定対象体の放射特性に大きく依存するものであり、ランプの発光管として用いられる石英ガラス管が測定対象体である場合には、石英ガラスの放射特性がその放射方向に大きく依存し、しかも図7示すように、石英ガラス管51の外表面が湾曲面を有するものであることから、当該石英ガラス管51から放射される赤外領域の光が様々な入射角度によって赤外放射温度計55に入射することとなるため、この赤外放射温度計55に入射される赤外領域の光には大きな放射特性のばらつきが生じ、高い測定精度を得ることができない。
ここに、図7においては、石英ガラス管51から放射されて赤外放射温度計55に入射される光の光路の例を一点鎖線によって示している。
【0009】
而して、ランプの発光管などとして用いられるような外表面に湾曲面を有する石英ガラス管を測定対象体とする赤外放射温度計としては、例えばテルル化カドミウム水銀(HgCdTe)よりなる、波長4.8〜5.2μmの領域の光を透過するフィルタと、このフィルタを透過する光に対して有効感度を有する検出器とを備え、当該フィルタを透過した光のみが検出器に供給される構成を有するものが広く用いられている。
【0010】
このような赤外放射温度計は、固体がその温度に応じて固有の大きさの分光放射エネルギーを放射するという特性を利用し、具体的には石英ガラス管の外表面から放射される分光放射エネルギー(以下、「特定分光放射エネルギー」ともいう。)の量を光量として検出し、この分光放射エネルギー量に基づいて温度を測定するものであるが、特定分光放射エネルギー以外のエネルギーに係る光、具体的には、石英ガラス管の内部(例えば石英ガラス管の管壁内)から放射され、当該石英ガラス管内を透過して外方に放射されたエネルギーに係る光や、石英ガラス管を介して検出器に対向する位置に配置されている、例えばバーナーの炎などの放射体から放射され、石英ガラス管を透過したエネルギーに係る光なども検出器に供給されてしまうため、石英ガラス管の外表面の温度を高い精度で測定することができない、という問題がある。
【0011】
【特許文献1】特公平6−76925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、石英ガラスよりなる部材の外表面の温度を高い精度で測定することのできる放射温度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の放射温度測定装置は、特定の波長領域の光を透過するフィルタと、当該特定の波長領域を含む波長領域の光に対して有効感度を有する検出器とを備えてなり、石英ガラスよりなる部材を測定対象体とする放射温度測定装置であって、
前記フィルタが、波長5.0〜7.4μmの領域の光を透過するものであり、
前記検出器が、少なくとも波長5.0〜7.4μmの領域の光に対して有効感度を有するものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の放射温度測定装置においては、フィルタが、波長6.0〜7.4μmの領域に透過ピーク波長を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射温度測定装置によれば、特定の波長領域の光を透過するフィルタを介して検出器に光が供給される構成を有するものであることから、特定の波長領域以外の領域の光が検出器に対して供給されることがなく、この特定の波長領域においては、当該特定の波長領域の光に対する石英ガラスの吸収係数が大きいことから、石英ガラス製部材の外表面以外から当該放射温度測定装置に向かって放射された光は最終的に放射温度測定装置に入射されることなく、石英ガラス製部材に吸収されることとなり、しかも、この特定の波長領域の光に係る石英ガラスの放射特性の放射方向依存性が小さいため、石英ガラス製部材の外表面から放射された、放射特性のばらつきの小さな光のみが検出器に供給されることとなり、この光の光量によって示される、石英ガラス製部材の外表面から放射された分光放射エネルギーの量に基づいて温度の測定がなされることから、石英ガラス製部材の外表面の温度を、当該外表面に接触することなく高い精度で測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の放射温度測定装置の構成の一例を示す説明図である。
この放射温度測定装置10は、石英ガラスよりなる部材(石英ガラス製部材)を測定対象体とし、この測定対象体である石英ガラス製部材の外表面の温度を測定するための非接触型の測定装置であって、測定対象体と対向する面(図1において下面)に開口を有し、この開口に結像レンズ13が嵌め込まれて固定されている本体ケース11を備えており、この本体ケース11内には、結像レンズ13を介して入射された光を受光し、この受光した光の光量を検出して光電変換することにより電気信号を出力する検出器16と、この検出器16に接続され、検出器16から出力される電気信号に基づいて石英ガラス製部材の外表面の温度を算出する信号処理部17と、結像レンズ13を透過した光を検出器16に導入する光路上に配置されたフィルタ15とが設けられている。
図1において、19は、信号処理部17において算出された石英ガラス製部材の外表面の温度を表示する表示部である。
【0017】
そして、この放射温度測定装置10を構成するフィルタ15は、特定の波長領域の光を透過するものであり、また、検出器16は、当該特定の波長領域を含む波長領域の光に対して有効感度を有するものである。
【0018】
フィルタ15は、波長5.0〜7.4μmの領域(以下、「特定波長領域」ともいう。)の光を透過するものであり、この特定波長領域以外の領域の光を遮断し、検出器16に対して特定波長領域以外の領域の光が供給されることを防止する機能を有するものである。
【0019】
ここに、フィルタ15の特定波長領域の光に対する透過性能は、波長4.0〜10.0μmの領域の光に対して、特定波長領域の光の透過光量Aと、それ以外の領域(具体的には、波長4.0μm以上で5.0μm未満の領域および波長7.4を超えて10.0μm以下の領域)の光の透過光量Bとの比(B/A)(以下、「透過性能比」ともいう。)が、0.2以下であることが必要とされる。
【0020】
フィルタが波長5.0μm未満の領域の光を透過するものである場合には、波長5.0μm未満の領域の光に対する石英ガラスの吸収係数が小さいことから(具体的には、100cm-1未満)、石英ガラス製部材の外表面以外から放射された光が石英ガラス製部材を透過し、検出器に供給されることとなるため、放射温度測定装置に高い測定精度を得ることができない。
一方、フィルタが7.4μmを超える領域の光を透過するものである場合には、当該波長7.4μmを超える領域の光に係る石英ガラスの放射特性がその放射方向に大きく依存することから、検出器に供給される光の光量が、放射温度測定装置に対する入射角度(検出角度)の大小によって大きく変化することとなるため、放射温度測定装置に高い測定精度を得ることができない。
【0021】
また、フィルタ15は、波長6.0〜7.4μmの領域に透過ピーク波長を有するもの(図3参照)であることが好ましい。
フィルタ15がこのような波長領域に透過ピーク波長を有するものである場合には、フィルタ15が、石英ガラスの放射特性の放射方向依存性が極めて小さい光を選択的に透過させることとなるため、放射温度測定装置10により一層高い測定精度を得ることができる。
【0022】
フィルタ15としては、バンドパスフィルタなどの干渉フィルタを好適に用いることができる。
【0023】
バンドパスフィルタとしては、フッ化カルシウム(CaF2 )、フッ化バリウム(BaF2 )、フッ化マグネシウム(MgF2 )、酸化アルミニウム(Al2 3 )などの赤外領域の光に対する透過性を有する結晶質材料よりなる基板上に、フッ化カルシウム(CaF2 )、フッ化バリウム(BaF2 )、フッ化マグネシウム(MgF2 )、酸化アルミニウム(Al2 3 )、セレン化亜鉛(ZnSe)などよりなる誘電体多層膜や、ゲルマニウム(Ge)、シリコン(Si)よりなる薄膜が形成されてなるものが挙げられる。
【0024】
検出器16は、少なくともフィルタ15を透過する光、具体的には特定波長領域の光に対して有効感度を有するものである。
この検出器16は、特定波長領域(波長5.0〜7.4μmの領域)の光に対して有効感度を有するものであれば、特定波長領域よりも小さい波長の領域(以下、「過小波長領域」ともいう。)の光に対しても有効感度を有するものであっても、また特定波長領域よりも大きい波長の領域(以下、「過大波長領域」ともいう。)の光に対しても有効感度を有するものであってもよく、更に過小波長領域と過大波長領域との両方の領域の光に対しても有効感度を有するものであってもよい。
【0025】
検出器16としては、例えばHgCdTe半導体検出器、GeAu半導体検出器、PbSe半導体検出器、Si半導体検出器、Ge半導体検出器等の半導体検出器や、CCDカメラなどを用いることができる。
【0026】
検出器16としてCCDカメラなどの二次元配列の検出器を用いた場合には、測定対象体の温度分布を測定することもできる。
【0027】
放射温度測定装置10としては、具体的に、例えば図2および図3に示すような感度特性を有するフィルタ15および検出器16を組み合わせて用いることができ、特に、図3に係る感度特性を有するフィルタ15および検出器16を備えてなる放射温度測定装置10は、フィルタ15が波長6.0〜7.4μmの領域に透過ピーク波長が表れる透過特性、すなわち感度特性を有するものであることから、より一層高い測定精度を得ることができる。
図2および図3においては、各々、フィルタ15の感度特性を曲線(イ)によって示し、検出器16の感度特性を曲線(ロ)によって示し、放射温度測定装置10自体の感度特性を曲線(ハ)によって示す。
【0028】
ここに、図2に係る感度特性を有するフィルタ15および検出器16を備えてなる放射温度測定装置10においては、それ自体の感度を基準として1としたときの特定波長領域における感度が0.88である。
また、図3に係る感度特性を有するフィルタ15および検出器16を備えてなる放射温度測定装置10においては、それ自体の感度を基準として1としたときの特定波長領域における感度が0.99である。
【0029】
このような構成の放射温度測定装置10によれば、例えば図4に示すように、大気中において石英ガラス製部材の外表面の温度の測定が行われる。
図4は、放射温度測定装置10によってランプの発光管として用いられる石英ガラス管21に封止部を形成するための発光管の成形工程において、当該石英ガラス管21の外表面の温度を測定する状態を示す説明図である。
測定対象体である石英ガラス管21は、楕円球状部と、当該楕円球状部分の両端の各々に連続して形成された管軸方向に伸びる直管状部とよりなる形状を有するものであり、その内部には、先端に、例えばタングステンなどよりなる電極26が設けられた、例えばタングステン線などよりなる電極棒27の中央部に、例えば石英ガラスなどよりなる円筒状の封止部材28が装着されてなる組立体25が所期の位置に配設されている。そして、石英ガラス管21は、その端部において旋盤31によって固定され、例えば数十〜数百rpmの回転速度で回転されながら、組立体25を構成する封止部材28が配置されている領域がバーナー32による、例えば温度3000℃の炎によって加熱されている。
この図の例において、放射温度測定装置10は、その内部に組立体25が配設されている石英ガラス管21を介してバーナー32に対向する位置に配置されている。
【0030】
ここに、放射温度測定装置10は、通常、測定対象体である石英ガラス管21との関係において、当該放射温度測定装置10を構成するフィルタ15と石英ガラス管21との離間距離が1m以内となる位置に配置されることから、実質上、測定環境下に存在する水蒸気により赤外領域の光が吸収される現象に起因して測定誤差が生じることがない。
【0031】
この放射温度測定装置10によれば、旋盤31によって回転されながらバーナー32に加熱されることによって石英ガラス管21の外表面の温度が次第に上昇し、この外表面からはその温度に応じて分光放射エネルギーが光として放射されることから、この分光放射エネルギーの量に基づいて石英ガラス管21の外表面の温度が測定される。
【0032】
具体的には、石英ガラス管21の外表面から放射された光が結像レンズ13を介して放射温度測定装置10に入射されると、フィルタ15によって特定波長領域以外の領域の光がカットされて特定波長領域の光のみが検出器16に供給され、この検出器16においては、供給された光の光量を検出し、この検出値を光電変換した電気信号を出力する。
そして、検出器16から出力された電気信号が信号処理部17に入力されると、プランクの放射法則に係る、下記式(1)によって表される黒体の放射発散度(Me)と、石英ガラスに固有の放射特性とにより示される石英ガラスの温度と放射エネルギーとの関係に基づいて演算がなされて石英ガラス管21の外表面の温度が算出され、この算出された温度が測定値として表示部19に表示される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここに、式(1)において、λは、黒体から放射される光の波長(nm)を示し、Tは、黒体の絶対温度(K)を示す。また、C1 およびC2 は、各々、下記式(2)および式(3)で表される定数であり、これらの式中、hはプランク定数、kはボルツマン定数、およびcは真空中の光速(2.99792458×108 m/s)を示す。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
このような成形処理中においては、放射温度測定装置10による石英ガラス管21の外表面の温度の測定動作は、成形される発光管に残留歪みが発生することを防止すると共に、最終的に得られるランプにクラックなどの欠陥が発生することを防止し、かつ高い耐圧強度を得るために、成形処理を適切な温度に管理された状態で行う必要があることから、例えば1秒間隔で行われる。
【0038】
以上のような放射温度測定装置10は、フィルタ15を透過した特定波長領域の光が検出器16に対して供給されるものであるが、この特定波長領域においては、石英ガラス自体の特定波長領域の光に対する吸収係数が大きいことから、例えば石英ガラス管21の内部(例えば石英ガラス管21の管壁内)から放射された光、あるいはバーナー32の炎から放射された光などの石英ガラス管21の外表面以外から放射温度測定装置10に向かって放射された光(以下、「非測定対象光」ともいう。)が、非測定対象光の発光点と結像レンズ13とを結ぶ直線上に存在する石英ガラス管21のいずれかの部分に吸収され、この放射温度測定装置10に入射されることがないため、非測定対象光が検出器16に供給されることがない。
また、この特定波長領域の光に係る石英ガラス自体の放射特性の放射方向依存性が小さいことから、測定対象体である石英ガラス管21が外表面に湾曲面を有するものであり、当該外表面から放射された光が様々な入射角度(検出角度)によってこの放射温度測定装置10に入射された場合であっても、当該入射角度によって検出器16に供給される光の光量に大きなばらつきが生じることがない。
従って、放射温度測定装置10によれば、石英ガラス管21の外表面から放射された、放射特性のばらつきの小さな光のみが検出器16に供給され、この光の光量によって示される、石英ガラス管21の外表面から放射された分光放射エネルギーの量に基づいて温度の測定がなされることから、バーナー32により加熱されている石英ガラス管21の外表面の温度を高い精度で測定することができる。
【0039】
また、放射温度測定装置10は、測定対象体の外表面に接触することなく、大気中において当該測定対象体の測定を行うことができるものであることから、大気中において回転されている状態の石英ガラス管21の外表面の温度を弊害を伴うことなく測定することができる。
【0040】
更に、放射温度測定装置10は、成形工程における石英ガラスよりなる成形体の外表面の温度の他、例えば石英ガラスよりなる発光管を有するランプの点灯状態における当該発光管の外表面の温度を測定することもできる。
この場合においても、測定対象体であるランプの輝点から放射される光および当該ランプを構成する発光管の内部(例えば発光管の管壁内)から放射される光などの非測定対象光が検出器16に供給されることがなく、しかも発光管の外表面から放射された、放射特性のばらつきの小さな光のみが検出器16に供給されることとなるため、高い精度で測定することができる。
【0041】
本発明の放射温度測定装置は、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明の放射温度測定装置において、特定波長領域の光を透過するフィルタは、図1に示したように1枚のフィルタ体よりなるものであってもよいが、2枚以上のフィルタ体が組み合わされてなる複合体よりなるものであってもよい。
【0042】
また、放射温度測定装置は、特定波長領域の光を透過するフィルタと、少なくとも特定波長領域の光に対して有効感度を有する検出器とを備えてなるものであれば、その他の構成部材としては適宜のものを用いることができる。
【0043】
以下、本発明の作用効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0044】
〔実験例1〕
図5に示すように、赤外分光光度計よりなる赤外線検知器45を用い、炭化珪素(SiC)を棒状に焼結したグローバ光源から放射された光を石英ガラス板42に照射したときの反射光の赤外線検知器45に対する入射角αを、各々、20°、40°および60°とした場合の分光反射率を測定した。結果を図6に示す。
図6においては、入射角αが20°である場合の分光反射率を曲線(A)によって示し、入射角αが40°である場合の分光反射率を曲線(B)によって示し、入射角αが60°である場合の分光反射率を曲線(C)によって示す。
【0045】
ここに、「入射角α」とは、図5に示されているように、石英ガラス板42の垂線Lと、当該石英ガラス板42の反射光を反射率測定装置45に導入する光路Mとのなす角を示す。
【0046】
この実験例1の結果から、特に波長7.4〜11.0μmの領域においては、入射角αの大きさの大小によって分光反射率が大きく異なっているが、波長5.0〜7.4μmの領域においては、入射角αの大きさの大小による分光反射率の差が小さいことから、この波長領域の光に係る石英ガラスの分光反射率は、角度依存性が小さいことが確認された。従って、波長5.0〜7.4μmの領域の光に係る石英ガラスの放射特性、すなわち放射率は、放射率が反射率との関係において下記式(A)で示される値であることから、角度依存性が小さいものであるということが確認される。
【0047】
【数4】

【0048】
〔実験例2〕
赤外分光光度計よりなる赤外線検知器を用い、グローバ光源から放射された波長6.8μmの光、波長7.3μmの光、および波長7.6μmの光、波長7.8μmの光の各々を石英ガラス板に照射したときの反射光の赤外線検知器に対する入射角α(図5参照)を、各々、0°、20°、40°および60°とした場合の反射率を測定した。結果を表1に示す。
表1においては、入射角αが0°の条件で測定された反射率を基準とし、入射角αが20°、40°および60°である場合の反射率を、各々、入射角αが0°に係る測定値を100%とする相対値によって示した。
【0049】
【表1】

【0050】
この実験例2の結果から、特定波長領域(波長5.0〜7.4μmの領域)以外の領域における光、具体的には、波長7.6μmの光および波長7.8μmの光は、入射角αの大きさの大小によって反射率が大きく異なっているが、特定波長領域における光、具体的には、波長6.7μmの光および波長7.3μmの光は、入射角αの大きさの大小による反射率の差が極めて小さくなっていることから、特定波長領域の光に係る石英ガラスの放射特性は、特定波長領域以外の領域の光に係る放射特性に比して角度依存性が極めて小さいことが確認された。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
図1の構成に従って、図2に示された感度特性を有するバンドパスフィルタよりなるフィルタおよびHgCdTe半導体検出器よりなる検出器を備えてなる放射温度測定装置(以下、「放射温度測定装置(1)」ともいう。)を作製した。
ここに、放射温度測定装置(1)を構成するフィルタの透過性能比は、0.12である。
【0053】
この放射温度測定装置(1)により、図4に示したように、大気中において、その内部に、タングステン製の電極(26)が設けられた、タングステン線よりなる電極棒(27)の中央部に石英ガラス製の円筒状の封止部材(28)が装着された組立体(25)が配設され、その端部において旋盤(31)によって固定されて回転されながら、組立体(25)を構成する封止部材(28)が配置されている領域がバーナー(32)によって加熱されている石英ガラス管(21)の外表面の温度を、1秒間隔で測定することによって管理した状態で封止部を形成し、最終的に、その両端に封止部が形成されてなる発光管を備えたランプを製造した。
【0054】
製造された複数のランプを確認したところ、いずれのランプも、石英ガラス管(21)が成形されてなる発光管にはクラックが発生しておらず、また高い耐圧強度が得られ、更に小さな外部応力によって破損することがないものであった。
【0055】
〔実施例2〕
実施例1において、フィルタおよび検出器として、図3に示された感度特性を有するバンドパスフィルタおよびHgCdTe半導体検出器を備えてなること以外は実施例1に係る放射温度測定装置(1)と同様の構成を有する放射温度測定装置(以下、「放射温度測定装置(2)」ともいう。)を作製し、放射温度測定装置(1)に代えて放射温度測定装置(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、放射温度測定装置(2)により石英ガラス管の外表面の温度を測定しながら封止部を形成し、最終的にランプを製造した。
ここに、放射温度測定装置(2)を構成するフィルタの透過性能比は、0.01である。
【0056】
製造された複数のランプを確認したところ、いずれのランプも、石英ガラス管(21)が成形されてなる発光管にはクラックが発生しておらず、また高い耐圧強度が得られ、更に小さな外部応力によって破損することがないものであった。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1において、フィルタおよび検出器として、テルル化カドミウム水銀(HgCdTe)よりなる、波長4.8〜5.2μmの領域の光を透過するフィルタと、このフィルタを透過する光に対して有効感度を有する検出器を備えてなること以外は実施例1に係る放射温度測定装置(1)と同様の構成を有する放射温度測定装置(以下、「比較用放射温度測定装置(1)」ともいう。)を作製し、放射温度測定装置(1)に代えて比較用放射温度測定装置(1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較用放射温度測定装置(1)により石英ガラス管の外表面の温度を測定しながら封止部を形成し、最終的にランプを製造した。
【0058】
製造された複数のランプを確認したところ、これらの複数のランプには、石英ガラス管(21)が成形されてなる発光管にクラックが発生しているもの、耐圧強度が不十分なもの、また、小さな外部応力によって破損してしまうものがあった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の放射温度測定装置の構成の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の放射温度測定装置を構成するフィルタおよび検出器並びに当該放射温度測定装置自体の感度特性の一例を相対的に示す説明図である。
【図3】本発明の放射温度測定装置を構成するフィルタおよび検出器並びに当該放射温度測定装置自体の感度特性の他の例を相対的に示す説明図である。
【図4】図1の放射温度測定装置によってランプの発光管として用いられる石英ガラス管に封止部を形成するための発光管の成形工程において当該石英ガラス管の外表面の温度を測定する状態を示す説明図である。
【図5】実験例1に係る分光反射率の測定状態を示す説明図である。
【図6】実験例1において測定された分光反射率を示すグラフである。
【図7】その外表面に湾曲面を有する石英ガラス管から放射される光が赤外放射温度計に入射する状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
10 放射温度測定装置
11 本体ケース
13 結像レンズ
15 フィルタ
16 検出器
17 信号処理部
19 表示部
21 石英ガラス管
25 組立体
26 電極
27 電極棒
28 封止部材
31 旋盤
32 バーナー
42 石英ガラス板
45 赤外線検知器
51 石英ガラス管
55 赤外放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の波長領域の光を透過するフィルタと、当該特定の波長領域を含む波長領域の光に対して有効感度を有する検出器とを備えてなり、石英ガラスよりなる部材を測定対象体とする放射温度測定装置であって、
前記フィルタが、波長5.0〜7.4μmの領域の光を透過するものであり、
前記検出器が、少なくとも波長5.0〜7.4μmの領域の光に対して有効感度を有するものであることを特徴とする放射温度測定装置。
【請求項2】
フィルタが、波長6.0〜7.4μmの領域に透過ピーク波長を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の放射温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−46926(P2006−46926A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223996(P2004−223996)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】