説明

放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法

【課題】放射線しゃへい注射装置の梱包時、輸送時および使用時の間において、放射線しゃへい注射装置に付設された鉛ガラスが傷ついたり、破損したりするのを防止する。
【解決手段】(A)鉛ガラス保護カバー1が鉛ガラスの突出部分に装着された放射線しゃへい注射装置20と、プレフィルシリンジ21と、容器本体22の内側に鉛製部材23、24が設けられた輸送用容器25とを具備し、プレフィルシリンジが放射線しゃへい注射装置に収容され、放射線しゃへい注射装置が輸送用容器に収容されている輸送構造体を作製する梱包工程と、(B)上記輸送構造体を輸送する輸送工程と、(C)輸送された輸送構造体の輸送用容器から放射線しゃへい注射装置を取り出し、放射線しゃへい注射装置内のプレフィルシリンジにプランジャーおよび注射針を取り付ける使用工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性薬液を投与する際に使用される放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用放射性医薬品を人体に投与する際、術者の被曝を軽減するために、薬液が既に充填されたシリンジタイプの注射器(以下、プレフィルシリンジという)とそれを収容する放射線しゃへい注射装置が汎用されている。
【0003】
例えば図2(符号1を除く)のような、タングステンの筒体3に欠切部を設け、この欠切部に筒内透視用の鉛ガラス2を付設し、筒体3の一端には翼部4が付設され、さらに筒体内に挿入されるプレフィルシリンジの固定用キャップ5を有する放射線しゃへい注射装置が汎用されている。この放射線しゃへい注射装置に使用されているタングステンは、以前に使用されていた鉛に比べ放射線しゃへい効率が良いため、筒体の肉厚を薄くすることができ、装置を小型化することが可能となり、術者の操作性を向上させた。
【0004】
しかし、筒体内のプレフィルシリンジを透視するために付設されている鉛ガラスは、タングステンに比べ放射線しゃへい効率が悪いため、相当の厚みが必要であり、そのため鉛ガラス部分のみが筒体よりかなり突出した構造となり、高価な鉛ガラスが傷ついたり破損したりしやすいという欠点を有していた。
【0005】
これに対し、プレフィルシリンジによる薬液の投与時に放射線しゃへい注射装置本体(筒体3)に鉛ガラス保護用のスロットを装着し、さらにこのスロットに鉛ガラスを着脱可能に挿入する技術が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献1の技術は、放射線しゃへい注射装置の使用時のみに鉛ガラスを保護するもので、放射線しゃへい注射装置の梱包時、輸送時に鉛ガラスを保護するものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特公昭60−54071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、放射線しゃへい注射装置の梱包時、輸送時および使用時の間において、放射線しゃへい注射装置に付設された鉛ガラスが傷ついたり、破損したりするのを防止することができるとともに、放射性薬液が充填されたプレフィルシリンジからの放射線による被爆から、輸送中、使用中の作業者、術者を守ることができる放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスに鉛ガラス保護カバーを施すことで、上記課題が解決されることを見いだした。すなわち、本発明は、
(A)放射線しゃへい金属筒に切欠部を設け、前記切欠部に筒体内部を透視するための鉛ガラスを前記金属筒より突出した状態で付設して固定した放射線しゃへい注射装置であって、前記鉛ガラスの外形に即した形状を有する鉛ガラス保護カバーが、前記鉛ガラスの突出部分の少なくとも傷ついたり破損したりしやすい部分を覆い、かつ前記鉛ガラスの突出部分より取り外し可能に、前記鉛ガラスの突出部分のみに装着されてなる放射線しゃへい注射装置と、
放射性医薬品が充填されたプレフィルシリンジと、
容器本体の内側に鉛製部材が設けられた輸送用容器と
を具備し、前記プレフィルシリンジが前記放射線しゃへい注射装置に収容され、前記放射線しゃへい注射装置が前記輸送用容器に収容されている輸送構造体を作製する梱包工程と、
(B)前記輸送構造体を輸送する輸送工程と、
(C)輸送された輸送構造体の輸送用容器から放射線しゃへい注射装置を取り出し、前記放射線しゃへい注射装置内のプレフィルシリンジにプランジャーおよび注射針を取り付ける使用工程とからなることを特徴とする放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法である。
【0009】
本発明において用いられる鉛ガラス保護カバーは、鉛ガラスが傷ついたり破損したりするのを防ぐのに充分なものであればよく、放射線しゃへい注射装置自体を大型化しないためにも、可能な限り薄いものであることが望ましい。
【0010】
鉛ガラス保護カバーの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS、MMA樹脂等様々な合成樹脂が用いられ、特に透明度の高いものが好適である。
【0011】
鉛ガラス保護カバーは、鉛ガラスの外形に即した形状を有するもの、すなわち鉛ガラスにぴったりとつく(密着する)形状を有するものである。
【0012】
鉛ガラス保護カバーは、鉛ガラスの傷ついたり破損したりしやすい部分を覆っていればよく、必ずしも鉛ガラスのすべての面を覆う必要はないが、保護効果を高めるためにはすべての面が被覆されていることが望ましい。
【0013】
鉛ガラス保護カバーの鉛ガラスの透視面を覆っていない部分は、不透明な部材で製作しても差し支えないが、視野を明るくし、放射線しゃへい注射装置内部を見やすくするため、また製作上の容易さからも、鉛ガラス保護カバー全体を透明部材で製作することが望ましい。
【0014】
鉛ガラス保護カバーの形状は、鉛ガラスに接する面にリブを設けて脱着を防止し、かつ取り外しが容易であるようにしてもよい。また、鉛ガラスの側面にスライドするようにして着脱が容易であるようにしてもよい。また、放射線しゃへい注射装置と別々に製作したあとで接着して一体としてもよいし、放射線しゃへい注射装置の製造の段階で接着したり、合成樹脂に熱や圧力を加えて外形に即した形状に変形させ一体に製作したりしてもよい。あるいは、鉛ガラス保護カバーを伸縮性や密着性のある軟質の材質のもので製作し、その性質を利用して鉛ガラスに固定することも可能である。この場合は、特に接着を施したり特殊な着脱機構を設けたりする必要がなく好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法は、下記の効果を奏する。
(1)鉛ガラス保護カバーによって、汎用の放射線しゃへい注射装置の高価な鉛ガラスが傷ついたり破損したりするのを防止することができる。この場合、放射線しゃへい注射装置の梱包、輸送から使用完了まで、鉛ガラス保護カバーは鉛ガラスを破損から保護する。また、放射線しゃへい注射装置の寿命を延ばすことが可能となり、経済的である。
(2)放射性薬液が充填されたプレフィルシリンジからの放射線は、輸送用容器の鉛製部材と、放射線しゃへい注射装置の金属筒および鉛ガラスとによってしゃへいされ、輸送中、使用中の作業者、術者を被爆から守る。使用に当たっては、薬液の移し替えを必要とせず、術者の手間を省き、被爆の危険をさらに防止する。
(3)使用後のシリンジや他の汚染された部品を除去した、放射線しゃへい注射装置、輸送容器は回収され再利用されるが、傷ついたり、役目を終えたりした鉛ガラス保護カバーは、鉛ガラスから容易に取り外され、新しい鉛ガラス保護カバーと交換される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面とともに説明する。本発明の梱包工程で作製する輸送構造体は、図1に示すように、放射性薬液を投与する際に使用される放射線しゃへい注射装置20と、放射性医薬品が充填されたプレフィルシリンジ21と、容器本体22の内側に鉛製部材(蓋側)23および鉛製部材(容器側)24が設けられた輸送用容器25とを具備し、プレフィルシリンジ21が放射線しゃへい注射装置20内に収容され、この放射線しゃへい注射装置20が輸送用容器25内に収容されている。
【0017】
ここで、図2〜図4を参照して放射線しゃへい注射装置20について説明する。図2〜図4において、鉛ガラス保護カバー1を適用する放射線しゃへい注射装置20は、タングステンにより成形焼結された筒体3に欠切部を設け、この欠切部に鉛ガラス2を付設して固定したもので、筒体3の一端には翼部4が付設され、さらにプレフィルシリンジ固定用キャップ5が装着されている。
【0018】
図2〜図4において、鉛ガラス保護カバー1は無色透明の硬質のポリカーボネート製で、鉛ガラス2の表面を完全に被覆し、鉛ガラスの表面に傷がついたり角等が破損したりするのを防止するものである。すなわち、鉛ガラス保護カバーは鉛ガラスの表面2a、側面2b、角部2cを覆っている。この鉛ガラス保護カバーは、内側に設けられたリブ1aによって鉛ガラスに固定されているため、落着が防止されるとともに脱着が容易である。よって、カバーに傷がついたりカバーが損傷したりした場合は、カバーのみを取り替えることによって、引続き放射線しゃへい注射装置を使用することが可能となる。
【0019】
薬液の注射に際しては、まず、輸送用容器25の中から放射線しゃへい注射装置20を取り出す。次に、固定用キャップ5の貫通穴8からプランジャー9を通し、放射線しゃへい注射装置20内のプレフィルシリンジ21のガスケットに上記プランジャー9を螺着したのち、プレフィルシリンジに両刀型の注射針10を取りつけることによって図5に示すように注射準備が完了する。
【0020】
図1に示したような、プレフィルシリンジが放射線しゃへい注射装置に装着され、この放射線しゃへい注射装置が輸送用容器の中に収められた状態でメーカーから術者に届けられ、プレフィルシリンジの移し替え作業が不要な輸送構造体の場合は、鉛ガラス保護カバーは梱包中や輸送中の振動、衝撃等を吸収し、鉛ガラスのみならず放射線しゃへい注射装置内のプレフィルシリンジの破損を防ぐ役割も果たす。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の梱包工程で作製する放射線しゃへい注射装置の輸送構造体の一例を示す断面図である。
【図2】汎用の放射線しゃへい注射装置および装着前の鉛ガラス保護カバーを示す斜視図である。
【図3】鉛ガラス保護カバーを放射線しゃへい注射装置に装着したときの断面図である。
【図4】鉛ガラス保護カバーの側面図および下面図である。
【図5】注射準備完了状態における放射線しゃへい注射装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 鉛ガラス保護カバー
2 鉛ガラス
3 タングステン筒体
4 翼部
5 固定用キャップ
8 貫通穴
9 プランジャー
10 両刀型の注射針
20 放射線しゃへい注射装置
21 プレフィルシリンジ
22 容器本体
23 鉛製部材(蓋側)
24 鉛製部材(容器側)
25 輸送用容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)放射線しゃへい金属筒に切欠部を設け、前記切欠部に筒体内部を透視するための鉛ガラスを前記金属筒より突出した状態で付設して固定した放射線しゃへい注射装置であって、前記鉛ガラスの外形に即した形状を有する鉛ガラス保護カバーが、前記鉛ガラスの突出部分の少なくとも傷ついたり破損したりしやすい部分を覆い、かつ前記鉛ガラスの突出部分より取り外し可能に、前記鉛ガラスの突出部分のみに装着されてなる放射線しゃへい注射装置と、
放射性医薬品が充填されたプレフィルシリンジと、
容器本体の内側に鉛製部材が設けられた輸送用容器と
を具備し、前記プレフィルシリンジが前記放射線しゃへい注射装置に収容され、前記放射線しゃへい注射装置が前記輸送用容器に収容されている輸送構造体を作製する梱包工程と、
(B)前記輸送構造体を輸送する輸送工程と、
(C)輸送された輸送構造体の輸送用容器から放射線しゃへい注射装置を取り出し、前記放射線しゃへい注射装置内のプレフィルシリンジにプランジャーおよび注射針を取り付ける使用工程とからなることを特徴とする放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法。
【請求項2】
鉛ガラス保護カバーの材質が透明な合成樹脂である請求項1記載の放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法。
【請求項3】
鉛ガラス保護カバーは鉛ガラスに接する面にリブを設けてなるものである請求項1または2記載の放射線しゃへい注射装置の鉛ガラスの保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−117757(P2007−117757A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347094(P2006−347094)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【分割の表示】特願2002−315677(P2002−315677)の分割
【原出願日】平成6年3月4日(1994.3.4)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】