説明

放射線コリメーター及び該放射線コリメーターの製造方法

【課題】開口部間隔が0.2mmから0.3mm程度で開口部径が0.1mm程度の微細な穴径の10倍以上の深穴開口部を1ないし複数持つ微細放射線コリメーターを容易に製造すること。
【解決手段】板状の材料物質にエッチングまたはプレス加工若しくはレーザー加工により開口部及び位置決め穴を形成し、これを1枚ないし複数枚あらかじめ固定治具に設置された位置決めピンを貫通させて積層するか若しくは材料板のエッジを位置決め治具に当て位置決めしながら積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
医療用や産業用のX線透視装置やX線CT装置のX線検出器において、被写体で発生した散乱X線等がX線検出器の所定外のチャンネルで検出され画像の解像度を低下させることを防止するために用いられるコリメーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線等による透視撮像では、X線が被写体にて乱反射し画像の解像度を低下させることが知られている。X線エネルギーが高くなるにつれ、空間分解能において致命的な問題になりつつある。電子線形加速器ベースのX線源では顕著である。
特許文献1では、X線エネルギーの選択性がある検出器を用いてこの問題を回避しようとしている。
【0003】
このような散乱線を除去するために、放射線検出器の各チャンネルを分離するように、放射線検出器素子間あるいは前方に、コリメーターが設置される場合がある。
【0004】
コリメーターは様々な形状が考案されている。例えば特許文献2や特許文献3、図1のような多数の薄板をスペーサーを挟んで配置するスリットなどがある。大抵は放射線入射方向に垂直に設置された板状のものである。
特許文献4には、工業用X線検査用のX線コリメーターの製造方法が開示されている
【0005】
特許文献5では、鋳造によりコリメーターを製造するとしている。
【0006】
また、細いガラス管を束ねたもの(マイクロチャンネルプレート:MCP)、多毛細管チューブをコリメータとして利用することも行われている。
【0007】
放射線核医学のうちSPECT(Single Photon Emission Computer Tomography : 単一光子放射断層撮影)では旧来よりガンマカメラにコリメーターが使用されている。非特許文献1によれば、SPECT用の平行多孔型コリメータの具体的なスペックは、99m Tc(140keV)などを対象とする低エネルギーのコリメータでは、孔の直径が2〜3mm 程度、隔壁の厚さは0.3mm 程度、孔数が1〜5万個程度となっている。
【0008】
また、非特許文献2によれば、比較的低エネルギーのX線菅によるX線透視検査では、X線グリッドが用いられる。古くは移動グリッドまたはブッキー・ブレンデと呼ばれる装置が使われているが、リスホルム・ブレンデと呼ばれる微細なグリッドも用いられる。これは板(箔)の厚さ0.03-0.05mm、高さ(放射線入射方向に対する長さ)1.5mm-3.0mm、格子間隔(ドットピッチ)0.2mm-0.3mmである。
【0009】
これらの構造は概ね図1に示すものと大差ない。微細なグリッドを構成する場合は、二組のスリットを90度ずらして重ね合わせている。
箔が肉厚であれば、箔に切れ目を入れて互いにかみ合わせ一体化することも出来るが、薄い箔では非常に困難であり、ただ重ねて設置することになる。
【0010】
放射線がパラレルビーム(平行)の場合は問題は無いが、ファンビーム(扇型)やコーンビーム(円錐形)の場合、スリットを構成する箔を線源にあわせ傾けて支持しなければならない。ファンビームの場合では二組のスリット同士を噛み合わせることは不可能ではないが、コーンビームの場合は極めて困難であると思われる。
【0011】
こういったスリットやグリッドの最大の難点は、放射線検出器に対して垂直な状態で薄板を支持する構造である。スリットまたはグリッドの上部あるいは下部にある支持体によりX線が散乱される可能性があることである。
特許文献6は、スリット間に低密度の発泡材料(高抵抗泡)を充填してこれをスリットの支持体とすることを提案している。しかし、低エネルギーX線ではこういった発泡材料でも吸収されてしまう場合がある。
【0012】
上記スリットでは製造上の困難さもある。スリットを構成する板を等間隔に精密に並べ、支持体に接着剤等で固定しなければならない。間隔に多少の誤差があった場合、それは放射線検出器側では開口部大きさの変化となり、感度のばらつきを招く。
【0013】
また、上記スリットやグリッドでは、使用者が使用状況に合わせて自由に高さを変更できないということも問題になる。
複数のスリット、グリッドを用意しなければならず、煩雑であり、コストもかかる。
【0014】
近年では医療用産業用として、二次元の高解像度(数十万から数百万画素で画素サイズ0.2mm)大面積のフラットパネル型二次元放射線検出器が多用されており、こういったコリメーター類に対する要求は厳しくなってきている。
【0015】
MCPは微細なコリメーターの構成が可能であるが、大面積化は困難である。
【0016】
他方、特許文献7 のようにX線源のコーンビームを整形するためのX線コリメーターも提案されているが、具体的な製造方法が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3569227号公報
【特許文献2】特許公開平05−312956号公報
【特許文献3】特許公開2003−116846号公報
【特許文献4】特許第4393793号公報
【特許文献5】特許第4630541号公報
【特許文献6】特許第4643885号公報
【特許文献7】特許第4421327号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】尾川 浩一 「IV コリメータの開口」 映像情報Medical 2002年7月 p.884
【非特許文献2】西臺 武弘 著 放射線医学物理学 第2版 2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
スリットやスリットを組み合わせたグリッドでは製造上の困難さがあり、また構成できるコリメーターの形状に制限があった。
【0020】
本発明は、穴径の10倍以上の任意形状の微細深穴を容易に成形できる放射線コリメーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
微細穴加工された薄コリメーター板を積層させることで微細深穴を所望の形状とすることによりる射線コリメーターを構成する。
具体的には、エッチングやプレス加工若しくはレーザー加工などで微細な穴を薄い材料板に成形し、これを積層する。
【発明の効果】
【0022】
エッチング、特にフォトエッチングという薄い金属板に穴を開ける技術はブラウン管(CRT)のシャドーマスク製造方法と同じであり、その技術をそのまま転用でき、従来の方法では困難であった微細な深穴を成形したコリメーターを容易に製造可能とする。
特にタングステン及びタングステン合金は放射線遮蔽材として最も有用と考えらる物質であるが、その加工の困難さから使用が制限されてきた。しかし、しかし、本発明によれば微細な深穴を成形したコリメーターとしての利用が容易になる。
【0023】
ブラウン管用のシャドーマスクは0.2mmから0.3mm程度の間隔(ドットピッチ)で開口部を形成しているので、これと同様の開口部を持つコリメーターを構成出来ることは明白である。また、そのまま二次元検出器に対応可能である。面積もブラウン管は29インチなどが存在したので、大面積にも対応可能である。
【0024】
本発明による放射線コリメーターは、光子線(X線、γ線)、荷電レプトン線(電子など)、α線、イオン(重イオン)粒子線、ハドロン粒子線(陽子、中性子など)に適用できる。
また、検出器側ではなく、放射線発生装置から放出される放射線をコリメートすることも可能である。例えば特許第4421327号公報 のようなものである。特許文献6に開示されている放射線コリメーターも本発明による方法で製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の放射線コリメータの例を示した斜視図。
【図2】微細放射線コリメーターの実施方法を示した平面図(a)及びA-A断面図(b)(実施例1)。
【図3】材料板(薄コリメーター板)の位置決め方法についての模式図。
【図4】薄コリメーター板の開口部の減肉についての模式図である。
【図5】は薄コリメーター板を減肉して互いに噛み合う凹凸を成型して位置決めすることについての模式図。
【図6】はX線CT用の湾曲型X線検出器に対する実施例を示した模式図(実施例2)。
【図7】コーンビームまたはファンビームに対してのコリメーター開口部の最適化についての模式図(実施例3)。
【図8】コリメーター開口部を斜めに成型する場合の成型角度の設定について示した模式図。
【図9】コリメーター開口部を垂直に成型する場合の開口部の拡大率について示した模式図。
【図10】像を縮小するコリメーターのコリメーター開口部の最適化について示した模式図。
【図11】像を縮小するコリメーターの機能と効果を示した模式図。
【図12】数式1及び数式2において、エミッタンスεが1の場合の、各βwについてのビームサイズσ(s)を示したグラフ
【図13】数式1及び数式2において、βwが1の場合の、各εについてのビームサイズσ(s)を示したグラフ
【図14】微細放射線コリメーターの厚さを増した場合の効果を示した模式図。
【図15】ピンホールコリメーターと本発明による拡大縮小系の放射線入射角度の相違を示した模式図。
【図16】パラレルコリメーターを用いたSPECTとその撮像範囲を示した模式図。
【図17】縮小系コリメーターを用いたSPECTとその撮像範囲を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について説明する。
【0027】
本発明は、厚さ0.10〜0.25mm程度の薄い板状の材料に対し深穴開口部をフォトエッチングによって形成し、こうして製造された材料板を図2のように必要な厚さまで積層することを特徴とする。
積層する際には位置決めが必要であるので、予め位置決め用ピン4が貫通するための位置決め穴6も材料板に同時に形成しておく。または、予めエッジを精密に加工しておき、これを図3に示すように位置決め治具21(V字ブロックとも呼ばれる)に押し付けながら位置決めすることも考えられる。
積層された材料板は拡散接合や接着、溶接やろう付けなどで一体化することができる。板厚が1mm以上あれば溶接やろう付けは有効であると思われる。1mm以下であれば、拡散接合や接着の方が望ましい。
【0028】
薄コリメーター板の厚さは0.10mmから0.25mmに限定されない。より微細な加工を要するのであれば、最適な厚さを選択する。材質によっては、厚さ5μm以下の板に数μmの開口部を形成することも可能となっている。
逆に、厚さ1mmで、開口部2mmのものも可能である。非特許文献1に記載されている寸法のコリメーターは本発明による方法で製作可能である。
【0029】
また接着接合などは行わずに、位置決めピンが貫通した状態で使用することもできる。本発明の主な実施対象である微細放射線コリメーターでは、積層された材料板(薄コリメーター板2)を板状のコリメーター押さえ5にて放射線検出器1に密着させる。コリメーター押さえは、コリメーター開口部の部分をくりぬいた形状の金属製のものや、コリメーター全体を覆うような、放射線透過率の高い材料のものが考えられる。
【0030】
本願での図では、便宜上薄コリメーター板2同士の間に隙間があるように作図されているが、実際は密着または接着、接合されている。
【0031】
材料物質は、フォトエッチングの技術が確立されており且つ放射線遮蔽能力の高い材料が望ましい。銅、鉄やCRTシャドーマスク用の材料も選択肢に入る。遮蔽財として最も良いのはタングステンであるが、純タングステンは非常に硬く加工が困難であり、その為複雑な形状に切削加工するのは困難とされている。一般的には焼結による形成が行われている。加工性を良くするためにタングステン合金(ヘビーアロイ等)が用いられる場合もある。しかし、幸いにもタングステン系金属のエッチング方法も開示されている(特許公開平05−175170号公報、特許公開2008−258395号公報、特許公開2011−151287号公報)。
遮蔽能力は劣るが、軟X線領域であれば、シリコンも選択肢に入る。
【0032】
同様の加工ができる技術としてプレス加工があるが、金型が必要であり、初期投資が大きくなりがちである。ただし、鉛などエッチングに不向きな材料の加工に関してはプレス加工は有力な加工方法である。
【0033】
中性子線の遮蔽にはポリエチレン、パラフィン、などの高分子化合物が使われることが多い。また、中性子を捕捉しやすい硼素が添加される場合もある。しかしこれらはエッチングには不向きである。プレス加工であれば、これらの材料の加工が可能であり、コリメーターとして利用出来る。
【0034】
特開昭60−233154号公報には、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂からなる群から選ばれた高耐熱性と耐熱水性を有する一種又は二種以上をマトリックスとし、中性子吸収材料を混合分散させてなることを特徴とする中性子吸収遮蔽材組成物が開示されている。また、該公報には、中性子吸収材料がガドリニウム含有材料、硼素含有材料、リチウム含有材料等であることも開示されている。
ポリイミドのエッチング方法については特許第3251515号公報にて開示されている。これは主に電子回路のフレキシブルプリント基盤のスルーホールの成形などに使われ、フィルム厚25μm、穴サイズ50μm〜数百μmの微細加工も可能である。従って、ポリイミドによる微細中性子コリメーターは構成可能である。
【0035】
検出されるべき放射線がパラレルビーム(平行)であると仮定できるときは、同じマスクを用いた薄コリメーター板を必要な厚さの分だけ用意すれば良い。拡大を行わないSPECTがこれにあたる。
この場合、材料が鉄や鉛などプレス加工が可能なものなら、プレスも加工方法として選択肢に入る。
【0036】
しかし、実際の放射線はファンビームであったりコーンビームであったりすることが多い。この場合、薄コリメーター板は、各検出素子へのビームの入射角度にあわせ、各層で異なるドットピッチと開口径を有する必要があるので、ファンビーム及びコーンビーム用コリメーターの場合、金型が大量に必要となるのでプレス加工は不向きである。
【0037】
薄コリメーター板を多数積層すると、コリメーター開口部の状況によっては、各薄コリメーター板が密着せずに盛り上がってしまう可能性もある。
これを防ぐには、コリメーター板積層後さらにある程度剛性のある板を設置し、薄いコリメーター板を押さえ込むことが考えられる。
別の方法として、開口部成形の前に、図4に示すようにコリメーター開口部の板厚を薄コリメーター板の縁の部分よりも若干薄く(数%から10%程度)加工しておくこと(減肉)も考えられる。薄くするのは片面だけでも良いし、両面でも良い。
ハーフエッチング加工を適用すれば、この減肉加工は可能である。
【0038】
また、逆に、薄コリメータ板よりも十分薄い(10%以下)の薄膜を、薄コリメータの縁の部分に挟み込むことでも、同様の効果を得られる。
【0039】
他にも、成膜等(真空蒸着やスパッタリング、CVD)で縁の部分に薄い箔を追加し、コリメーター開口部についてはフォトマスクを用いて箔取り除くリフトオフという方法もある。
図5に示すように、薄コリメーター板の減肉により上下の薄コリメーターに互いに噛み合うような凹凸構造を成型し、これをもって位置決めすることもできる。特に1mm程度の厚い板状材料の場合に有効と考えられる。
【0040】
開口部は複数個形成しなければならない訳ではなく、単一の開口部を持つ放射線コリメーターも製造可能である。
【実施例1】
【0041】
検出されるべき放射線がパラレルビーム(平行)であると仮定できるときは、図2の通り、同じマスクを用いた薄コリメーター板を必要な厚さの分だけ用意すれば良い。拡大を行わないSPECTに用いるコリメーターががこれにあたる。
【実施例2】
【0042】
実際の放射線はファンビーム(扇形)であったりコーンビーム(円錐形)であったりすることが多い。
この場合、薄コリメーター板は、各検出素子への放射線の入射角度にあわせ、各層で異なるドットピッチと開口径を有する必要がある。
【0043】
また、X線CTの場合は、検出器が凹面状に曲げられているので、コリメーターもこれに合わせ図6のようにドットピッチ及び開口径を最適化する。
放射線検出器位置でのコリメーター開口部を基準とし、放射線源から検出器までの距離をR、放射線源から各薄コリメーター板までの距離をrとした場合、各薄コリメーター板の開口部形状は、放射線検出器位置でのそれのr/R倍になる。
放射線検出器からn番目の薄コリメーターの放射線源との距離rnは、rn=R-d-t(n-1)のように表すことができる。ここで、dは放射線検出器と一番目の薄コリメーター板の中心までの間の距離、tは各コリメーター板の中心同士の距離である。
tが薄コリメーター板の厚さではないのは、薄コリメーター板同士の接着や接合などで薄コリメーター板間距離が変わる可能性があるからであり、tはこれを考慮した距離であるべきである。
【実施例3】
【0044】
ファンビームまたはコーンビームでは図7のようにドットピッチ及び開口径を最適化すれば良い。
最適化は、放射線検出器位置でのコリメーター開口部形状を各薄コリメーター板に対し拡大縮小することで行える。
放射線源33から放射線検出器1までの距離をL、下からn枚目の薄コリメーター板から放射線源33までの距離をlnとすると、放射線検出器位置での薄コリメーター板2に対するn番目の薄コリメーター板の開口部形状の拡大率はln/Lである。放射線検出器から1番目の薄コリメーター板までの距離をd、各コリメーター板間の距離をtとすると、n番目の薄コリメーター板と放射線検出器との距離はt(n-1)+dと書けるので、ln=L-t(n-1)-dとなる。
つまり検出器側からn番目の薄コリメーターの開口形状の拡大率は、(L-t(n-1)-d)/L (&lt1)である。つまり現実には薄コリメーター板のドットピッチ及び開口径は縮小することになる。
【0045】
言うまでも無いが、ファンビームの場合は平面の一方向のみ、コーンビームの場合は二方向に対して拡大縮小を行う。
【0046】
但し、すべての薄コリメーター板について最適な開口形状を形成するのはコストアップに繋がるので、コリメーター使用者側の要求の許す範囲で、2枚おき、3枚おきなど、複数枚ごとに形状を変化させることも可能である。
【0047】
ファンビームまたはコーンビーム用コリメーターにおいて、形状について厳しい要求があり、各薄コリメーター板の穴を斜めに加工すべき場合でも、ハーフエッチングという方法を適用し、表裏両面から別々のマスクを用いてエッチングすることにより板面に対して斜めになった開口部を形成することも可能とされる。
この場合の角度は、図8の説明図にもあるが、板面の鉛直方向からの傾きをθとし、該当する開口部の線源から放射線検出器及びコリメーターに引いた垂線(実質的に放射線検出器の中心軸)からの距離をmとした場合、θ=arctan(m/l)となる。当然、コーンビームの場合は、傾きの方向は垂線に向かう方向である。ファンビームの場合は、線源線から検出器に引かれた垂面に対して向かう方向となる。
【0048】
上記の方法では、各コリメーター開口部が放射線源に対し同じ開口径を持つことになる。しかし、これは放射線検出器表面では楕円状に広がった形状となる。θが多きい場合は放射線検出器のとなりのピクセルに影響を与えるなどの問題も発生しうる。
【0049】
別の考え方として、放射線検出器表面での形状が円もしくは正方形などのゆがみの無い形状になるようなコリメーター開口も考えられる。
放射線検出器表面での開口形状を決め、それをl/mの関係をなす斜線にそって放射線源に向かって移動させた場合に出来る立体(斜柱体)をもって開口部形状とする。
さらに別の方法として、放射線源を頂点とし、放射線検出器表面の開口形状(円形若しくは正方形あるいは任意の形状)を底面とした斜円錐形若しくは斜四角錐形あるいは任意底面を持つ錘体をなすような開口部も考えられる。図6はこの方法に基づいて作図されている。
【0050】
しかしながら、上記の方法は、放射線源から見た開口部面積はθが大きくなるにつれ減少し、全ての開口部で同一であるということはでなくなる。
そのため、放射線検出器の実感度はθに依存することになり、なんらかの補正が必要になる。
そもそも、X線菅等の放射線源自体が理想的でないために放射線強度がθ依存性を持つ場合が多い(放射性同位体に関しては理想に近い放射線強度分布を示す可能性が高い)。従って、放射線検出器側で補正を行うこと自体が必須であり、上記補正は其の範疇で行えばよいということになる。よって、開口部面積の不均一性は致命的な問題にはならない。
【0051】
この問題を完全に回避するには、放射線検出器を図6のように放射線源に対し放射線検出器表面が常に正面を向くようにするのが適当である。ファンビームが対象の場合、これは実現可能である。
コーンビームが対象の場合は、検出器及びコリメーターは球面の一部をなすような形状でなければならない。
【0052】
その他の方法として、実施例6がある。
【0053】
ハーフエッチングを用いることが出来ない場合やプレス加工など、開口部を斜めに成型できない場合は、図9に示すとおり、線源または仮想焦点から放射線検出器及びコリメーターに引いた垂線若しくは垂面に向かう方向に対して拡大することでも対処できる。
【実施例4】
【0054】
実施例3におけるファンビーム用コリメーターにおいて、図10及び図11のように放射線入射側と検出器側の関係を入れ替え、像が縮小するようにすることも可能である。このようにすれば、広範囲の放射線の発生源を可視化することができる。
端的に言えば、図7の放射線源33の位置を放射線の仮想焦点71と読み替える。
【0055】
仮想焦点71から放射線検出器1までの距離をL、検出器側からn枚目の薄コリメーター板から仮想焦点までの距離をlnとすると、放射線検出器位置での薄コリメーター板2に対するn番目の薄コリメーター板の開口部形状の拡大率はln/Lである。放射線検出器から1番目の薄コリメーター板までの距離をd、各コリメーター板間の距離をtとすると、n番目の薄コリメーター板と放射線検出器との距離はt(n-1)+dと書けるので、ln=L+t(n-1)+dとなる。
つまり検出器側からn番目の薄コリメーターの開口形状の拡大率は、(L+t(n-1)+d)/L (&gt1)である。つまり現実には薄コリメーター板のドットピッチは検出器から離れるにつれ拡大することになる。
【0056】
ファンビームまたはコーンビーム用コリメーターと同様に、形状について厳しい要求があり、各薄コリメーター板の穴を斜めに加工すべき場合でも、ハーフエッチングという方法を適用し、表裏両面から別々にエッチングすることにより板面に対して斜めになった開口部を形成することも可能とされる。
この場合の角度は、図10に示す通り、板面の鉛直方向からの傾きをθとし、該当する開口部の仮想焦点から放射線検出器及びコリメーターに引いた垂線すなわち検出器中心軸からの距離をmとした場合、θ=arctan(m/l)となる。当然、傾きの方向は検出器中心軸に背く方向である。
【0057】
但し、開口部の開口径を被写体側で拡大してしまうと、像が滲む恐れがある。開口部の開口径は各薄コリメーター板全てで一定とし、開口部の間隔(ドットピッチ)のみを拡大するのが望ましい。つまり、開口部の形状は、中心軸が仮想焦点を通るような柱体ということになる。
【0058】
若しくは、放射線検出器位置での開口部を底面とし、放射線放射線検出器位置での開口部中心と仮想焦点を通るような中心軸を持ち、被写体方向のいずれかの位置に頂点を持つ(斜)垂体が考えられる。
(斜)垂体の頂点の位置はコリメーター表面よりも被写体側に無ければならない。
(斜)垂体の頂点位置がコリメーターに近いほど、コリメーター視野は狭くなる。遠ければ遠いほど、視野は広くなる。焦点位置が無限遠では、同じ底面を持つ(斜)柱体に漸近する。
【実施例5】
【0059】
実施例4の発展形として、放射線検出器および放射線コリメーターが凸面となっているものも考えられる。
実施例4では、実施例3で詳しく説明した通り、放射線検出器中央部と端部での放射線コリメーター開口部面積が異なる。これを回避するには、実施例2を参考に、実施例2の放射線源位置を仮想焦点とみなして凸面状に放射線検出器を配置し、それに合わせて放射線コリメーターを構成する。
このようにすれば、放射線が放射線検出器に垂直に入射するようにできるので、実施例3で述べた放射線感度の位置依存性の問題を回避できる。
【0060】
実施例2と同様に考えると、放射線検出器からn番目にある薄コリメーター板の仮想焦点からの距離rは、rn=R+d+t(n-1)となる。
しかし、開口部の形状は、実施例4でも述べた通り、仮想焦点を頂点とする垂体ではなく、中心軸が仮想焦点を通るような柱体あるいは被写体側に頂点を持つ垂体を成すほうが望ましい。
【実施例6】
【0061】
実施例3で述べたとおり、X線管などのX線源では空間線量分布が一様ではなく、中心付近に強い線量分布を示し視野の外側に行くほど線量は弱くなる。
【0062】
本発明によれば、コリメーター開口部の大きさも隣接する開口部に干渉しな範囲で任意に決定できる。このことを利用し、放射線検出器における線量分布の簡易的な補正が可能である。
つまり、高線量である中心付近はコリメーター開口部面積を端のそれよりも小さくすることで、放射線検出器に入る線量を低下させることが出来る。
【0063】
これにより、放射線検出器における線量分布を均一に近づけることができ、放射線検出器側信号処理装置等での線量分布の補正が容易になる。ひいては、放射線検出器の実質的なダイナミックレンジの改善に繋がる。
【0064】
注意しなければならない点としては、この方法は、端の部分での感度を向上させるのではなく、中央部での感度を低下させていると言う点である。
検出器全体での感度低下は避けられないので、ダイナミックレンジ確保とのトレードオフであることは考慮すべき点である。
【実施例7】
【0065】
本発明によれば、放射線コリメーターの開口部形状は隣接する開口部に干渉しな範囲で任意に決定できる。上記実施例では、(斜)垂体や(斜)柱体のような形状を成すコリメーター開口部を考えていたが、それ以外の形状も実現可能である。
【0066】
例えば、H. Wiedemann著 "Particle Accelerator Physics I" Second Editionの式5.138(p.164)、(数式1)で表されるような形状の開口部も考えられる。
【0067】
(数1)
β(s-sw)=βw+(s-sw)2w
【0068】
数式1において、β(s)は加速器ビーム物理の分野でベータ関数と呼ばれる値である。swはビームウエイスト(焦点)のs軸上の位置、βwはビームウエイストでのβである。この式は、粒子ビームが収束された場合の収束から発散にいたる過程でどのようにそのビームサイズがs軸(ビーム運動方向軸)上で変化するかを示した式である。
sは本願では実施例2及び実施例3若しくは実施例4におけるrないしlと読み替えても差し支えない。
【0069】
粒子ビームは現実的には有限の広がり及び発散角(エミッタンス)を持つので、焦点では有限の広がりを持つ。数式2で表されるように、β(s)にエミッタンスεを掛けたものの平方根がビームサイズσ(s)に相当する。
【0070】
(数2)
σ2(s)=εβ(s)
【0071】
ビームサイズσ(s)やエミッタンスεは、其の定義は様々である。例えば、ビームプロファイルが正規分布であるとして標準偏差をもってビームサイズを定義する場合や、半値全幅(FWHM)を使う場合、ビーム粒子が一定の割合(例えば90%)含まれる範囲として定義する場合など様々である。
【0072】
数式1及び数式2の関係を用いてビームサイズσ(s)のsに対する変化のグラフを図12及び図13に示す。いずれの図もsw=0とした。
図12では、ε=1として、βwが0.5、1、2の場合をプロットした。ビームウエイストが小さいと、急激に収束発散するということが分る。
図13では、βw=1として、εが0.5、1、2の場合をプロットした。エミッタンスεが小さければ、急激に収束発散しなくてもビームウエイストを小さく出来ることが分る。
【0073】
これは、放射線源一般に言えることであり、放射線をある位置(焦点)であるサイズにコリメートするとすると、コリメートされた放射線は、数式1及び数式2に当てはまる空間を通過することになる。
従って、数式1及び数式2に従うような開口形状を持つ放射線コリメーターを用いることで、放射線をコリメートすることが可能である。
【0074】
実施例3及び4及び5では放射線コリメーターの開口部形状について(斜)垂体若しくは(斜)柱体を想定していたが、数式1及び数式2を用いた開口部形状も考えられる。
焦点の位置は、放射線コリメーターの中間層位置である必要はなく、放射線コリメーター最前面に位置することも考えられる。
【0075】
数式1及び数式2で表される開口部形状を持つ放射線コリメーターの視野は、数式1及び数式2で表される。但し、開口部形状は、数式1のビームウエイストを含まなければならない。
【0076】
このことは、逆に、どのような形状のコリメーター開口部が有限の大きさを持つ放射線源から放射された放射線を有限の大きさを有する放射線検出器で検出する際に視野の面で最も効率が良いかを示唆している。
しかしながら、数式1のビームウエイストを含むような放射線コリメーター開口部形状を持たせるのは、おそらく空間配置的に困難であると思われる。
現実には、このことを考慮しつつ、(斜)垂体などの形状で近似することになる。
【0077】
他の考え方として、放射線源の広がりやエミッタンスは無視し、被写体付近で最も視野が狭くなるようなものも考えうる。放射線透過画像の解像度を上げるには、この考え方の方が良いように思われる。
しかしながら、被写体付近で最も視野が狭くなるということは、被写体付近にビームウエイストが存在しなければならないということである。これは、現実的ではない。
【0078】
実際には、この理想的な配置からビームウエイストを放射線コリメーター側に移動し、コリメーター最前面付近にビームウエイストが位置するように構成することになる。あるいは、ビームウエイストが放射線コリメーター内に存在することを諦めることも考えられる。
【0079】
実現が現実的ではないにしろ、その最適な構成を参考にして、現実の放射線コリメーターの設計に役立てることが出来る。その意味で、数式1及び数式2は有用である。
【0080】
一方で、数式1及び数式2は、レーザー光のガウシアン(ガウス)ビームの収束にも当てはまる。レーザー光の成形に使われるスペイシャルフィルターに、この形状を用いることも可能である。
【0081】
また、数式1及び数式2は、実施例8のような荷電粒子ビームの成形に適用することも可能である。
【実施例8】
【0082】
例えば、陽子線や電子線等の荷電粒子ビームの成形のためのコリメーターとして、銅とタングステンを交互に積層するようなコリメーターも考えられる。コリメーターによる発熱を銅により分散することが可能である。銅板をタングステン板よりも大きくして、銅を冷却フィンとすることもできる。もちろん、必ず交互でなければならない訳ではなく、タングステン複数枚おきに銅を挟むといったことも可能である。
【0083】
また、銅板を挿入する間隔も一定である必要はない。例えば、電子線が入射する側は発熱が大きいので銅版の挿入間隔を狭くし、逆側は発熱が少ないので銅板の挿入間隔を広くとることも考えられる。
具体的には、特許4650642号公報のX線ターゲットの製造に適用できると考えられる。
【0084】
銅板とタングステン板の厚さが同じである必要もない。とはいえ、エッチング加工上の都合で必然的に同じ厚さになる可能性が高いと思われる。
【0085】
拡散接合技術が確立されているので、各タングステン板を接合して一体化することもできる。銅-タングステンの接合も実用化されている。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本願に記載の方法で製造された放射線コリメーターをX線CTなどに用いられるX線検出器に応用すれば空間分解能が向上するので、より細かい病巣を発見できるようになる。また産業用途でも電子基盤検査で今まで発見できなかったような欠陥も発見できるようになる。非破壊検査や空港港湾での荷物検査でも同様である。
【0087】
前述の通りSPECTでは旧来よりガンマカメラにコリメーターが用いられていたが、本発明により、コリメーターのγ線入射方向長さをユーザーが自由に変更できるようになる。薄コリメーター板の枚数を変更することでγ線入射方向長さを変更する。図14のように、薄コリメーター板の枚数を増やすことで、放射線源61に対する検出器の視野63が狭くなったり、別の放射線源62からのペネトレーション線64が通過しなければならないコリメーター壁の枚数が増加したりする。その分γ線の検出効率は低下する。トレードオフの関係であるが、これをユーザーの判断で決定できる。
【0088】
実際は、コリメーター押さえ5を容易に取り外せるようにすればよい。すべての薄コリメーター板が独立であると取り扱いが面倒になるので、例えば10枚毎100枚毎に接着や接合を行い扱いやすくする。こうして製作したコリメーター板にタブをつけるとなお扱いやすくなるであろう。
【0089】
SPECTでは拡大縮小撮像系も用いられているが、一般的にはピンホールコリメーターが使用されている。ピンホールコリメーターの代わりに実施例3または実施例4を用いることも考えられる。
【0090】
ピンホールコリメーターによる拡大縮小撮像系の問題点は、一度ピンホール部に放射線を通してもう一度像を拡大するために、被写体と放射線検出器との距離を大きく取らなけらばならないことである。これは、最終的な放射線検出効率の低下を招く。
この距離を極端に短くしようとすると放射線検出器での放射線の入射角が極端に大きくなり、中心部分と端の部分での放射線感度の差が極端に大きくなる。勿論補正は可能であるが、適切な補正を行わないと、最終的な再構成画像にアーチファクトが表れる可能性がある。
【0091】
ピンホールコリメーターの代わりに実施例3または実施例4或いは実施例5を用いることで、幾らかこの問題を緩和できる。
図15に示すとおり、被写体である放射線源と放射線検出器が同じ距離である場合、左図のピンホールコリメーターよりも右図の実施例3の方が、放射線の入射角が小さい。
【0092】
さらに実施例6を適用することで、簡易的な感度分布の補正を行うことが出来る。
【0093】
特に、最近の高解像度大面積半導体放射線検出器においては、大面積といえども人体をすべてカバーできるほどの大型のものはまだ存在しない。しかし、実施例4或いは実施例5による縮小撮像系と現在存在する高解像度大面積半導体放射線検出器を組み合わせることにより、従来よりも小型で高解像度かつ人体全体をカバーできるガンマカメラを構成可能である。
【0094】
現在SPECTでは撮像用ガンマカメラの台数増加がトレンドとなっている。ガンマカメラの台数が増えればSPECTの撮影時間も短縮できるからである。しかし、実際は、図16に示すようにガンマカメラの外形寸法によりガンマカメラ台数が制限される。ガンマカメラの台数を増加させるためには、ガンマカメラを人体から離して設置することになる。これは装置の大型化を意味する。
実施例4または実施例5による縮小撮像系を用いたガンマカメラは撮影対象物よりも小さくてよいため、この制限を図17に示すように緩和できる可能性がある。
【0095】
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、東京電力福島第一原子力発電所で原子力災害が発生した。実施例4或いは実施例5を適用したガンマカメラは、放射線発生源の可視化が可能なので、事故復旧作業員の被爆低減のための情報を収集することに役立てることが可能である。
また、放射性物質に汚染された地域での、汚染箇所の可視化にも役立てることが出来る。
【符号の説明】
【0096】
1 放射線検出器
2 薄コリメーター板
3 コリメーター本体
4 位置決めピン
5 コリメーター押さえ
6 位置決め穴
7 コリメーター開口部
8 放射線入射方向
11 スリット形コリメーター
21 位置決め治具
33 放射線源
44 放射線(コーンビームまたはファンビーム)
45 被写体
52 減肉部
61 放射線源
62 放射線源
63 検出器の視野
64 ペネトレーション線
65 放射線検出器に入射できる放射線
71 仮想焦点
81 放射線源または仮想焦点
82 ピンホールコリメーター
91 SPECTの撮像可能範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細穴加工された薄コリメーター板を積層させることで1ないし複数の微細深穴を所望の形状とすることを特徴とする放射線コリメーター。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線コリメーターであって、異なる材質の薄コリメーター板が交互または任意の配置で積層されていることを特徴とする放射線コリメーター。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線コリメーターであって、放射線検出器に垂直な開口部若しくは放射線源または仮想焦点を向くような開口部を持つ様に成形されることを特徴とする放射線コリメーター。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線コリメーターであって、薄コリメーターが何枚か毎に接合もしくは接着されることとを特徴とした放射線コリメーター
【請求項5】
請求項4に記載の放射線コリメーターであって、接合もしくは接着された単位毎にタブを有することを特徴とする放射線コリメーター

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−88265(P2013−88265A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228388(P2011−228388)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(711010529)
【Fターム(参考)】