説明

放射線位相画像撮影方法および装置

【課題】2つの格子を用いた放射線位相画像撮影装置において、2つの格子を透過した放射線が放射線画像検出器の検出面内に収まらずに外側にはみ出してしまうのを防止する。
【解決手段】拡大撮影における拡大率の入力を受け付けて取得する拡大率取得部62と、入力された拡大率に応じて、放射線画像検出器を放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させる移動機構と、放射線画像検出器のサイズ情報を取得するカセッテサイズ情報取得部63と、放射線画像検出器のサイズ情報に基づいて、第1および第2の格子を透過した放射線が放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出する許容拡大率算出部64と、拡大率取得部62によって取得された拡大率が許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、拡大率に応じた距離だけ放射線画像検出器を移動させるよう移動機構を制御する移動機構制御部60aとを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子を利用した放射線位相画像撮影方法および装置に関するものであり、特に、拡大撮影を行う放射線位相画像撮影方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被写体の内部を調べるためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影システムでは、X線を放射するX線源とX線画像を検出するX線画像検出器との間に被写体を配置して、被写体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射された各X線は、X線画像検出器までの経路上に存在する被写体を構成する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器に入射する。この結果、被写体のX線透過像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
しかし、X線吸収能は、原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなり、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収能の差が小さく、従ってX線透過像としての十分な画像の濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する関節軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線の吸収量の差が小さいため、画像のコントラストが得られにくい。
【0005】
近年、被検体の吸収係数の違いによるX線の強度変化に代えて、被検体の屈折率の違いによるX線の位相変化に基づいた位相コントラスト画像を得るX線位相イメージングの研究が行われている。この位相差を利用したX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を取得することができる。
【0006】
このようなX線位相イメージングとして、たとえば、第1の格子と第2の格子の2つの格子を所定の間隔で平行に配列し、第1の格子によるタルボ干渉効果によって第2の格子の位置に第1の格子の自己像を形成し、この自己像を第2の格子によって強度変調することによってX線位相コントラスト画像を取得するX線位相画像撮影装置が提案されている。
【0007】
一方、一般的なX線撮影システムにおいて、X線画像検出器などを小型の筐体に収容したX線画像撮影用カセッテも種々提案されている。このX線画像撮影用カセッテは、比較的薄型で且つ搬送可能なサイズのものであるため取り扱いが便利である。また、被写体の大きさや種類などに合わせて、それぞれに適した大きさや形状ものが準備されており、被写体の条件に応じて撮影装置に着脱できるように構成されている。そして、上述したX線位相画像撮影装置においても、このようなカセッテを用いることが考えられる。
【0008】
また、X線位相画像撮影装置における第1の格子と第2の格子についても、被写体サイズなどに応じて種々のサイズがあり、第1および第2の格子ついてもX線画像検出器と同様に、装置に対して着脱可能な構成とし、用途に応じて取り替え可能にすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−205208号公報
【特許文献2】国際公開WO2008−102598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、従来、被写体とX線画像検出器との距離を調整することにより拡大された被写体のX線画像をX線画像検出器に投影して撮影を行う、いわゆる拡大撮影が提案されている。
【0011】
この拡大撮影において、上述したようなX線画像撮影用カセッテを用いた場合を考えると、使用されるカセッテのサイズと、X線焦点から第1および第2の格子までの距離とX線焦点からカセッテまでの距離の比とによっては、第1および第2の格子を透過した放射線がカセッテ内のX線画像検出器の検出面内に収まらない場合が生じてしまう。
【0012】
また、第1および第2の格子を着脱可能に構成した場合も同様に、使用される第1および第2の格子のサイズと、X線焦点から第1および第2の格子までの距離とX線焦点からカセッテまでの距離との比とによっては、第1および第2の格子とを透過した放射線がカセッテ内のX線画像検出器の検出面内に収まらない場合が生じてしまう。
【0013】
このように第1および第2の格子を透過した放射線がX線画像検出器の検出面内に収まらない場合、X線画像が欠けてしまい、欠けた部分を診断できなかったり、被検者は画像が欠けた部分で余計な被曝を被ることになる。たとえば、マンモグラフィの例では、X線画像検出器は通常胸壁側に当接されて撮影されるので、拡大撮影を行うと乳頭側の画像が検出面内からはみ出すことになり、精査に必要十分な範囲を撮影できない問題が生じる。
【0014】
特許文献1においては、位相コントラスト画像の撮影装置において、放射線画像検出器のサイズを取得し、そのサイズに応じて拡大率許容範囲を算出することが提案されているが、特許文献1に記載の装置は、上述したような第1および第2の格子を用いたものではなく、このような格子を透過した放射線が放射線画像検出器の検出面内に収まるように拡大率の許容範囲を算出することについては一切提案されていない。
【0015】
また、特許文献2においても、タルボ干渉計方式、タルボロー干渉計方式、屈折コントラスト方式の3つの方式を切り換えて撮影を行う装置において、被写体台の上下により拡大率を変更することが提案されているが、特許文献2においても、格子を透過した放射線が放射線画像検出器の検出面内に収まるように拡大率の許容範囲を算出することについては一切提案されていない。
【0016】
本発明は、上記事情を鑑み、2つの格子を用いた放射線位相画像撮影方法および装置において、2つの格子を透過した放射線が放射線画像検出器の検出面内に収まらずに外側にはみ出してしまうのを防止することができる放射線位相画像撮影方法および装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の放射線位相画像撮影方法は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、第1の格子により形成された周期パターン像を透過する部分と遮蔽する部分とからなる格子構造が周期的に配置され、第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線位相画像撮影装置であって、移動機構によって放射線画像検出器を放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させて拡大撮影を行う放射線位相画像撮影装置を用いた放射線位相画像撮影方法において、放射線画像検出器のサイズ情報と第1および第2の格子の少なくとも一方のサイズ情報とに基づいて、第1および第2の格子を透過した放射線が放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出することを特徴とする。
【0018】
本発明の放射線位相画像撮影装置は、格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、第1の格子により形成された周期パターン像を透過する部分と遮蔽する部分とからなる格子構造が周期的に配置され、第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、第2の格子によって形成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器と、放射線画像検出器を放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させる移動機構とを備え、移動機構によって放射線画像検出器を移動させることによって拡大撮影を行う放射線位相画像撮影装置であって、放射線画像検出器のサイズ情報と第1および第2の格子の少なくとも一方のサイズ情報とに基づいて、第1および第2の格子を透過した放射線が放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出する許容拡大率算出部を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、上記本発明の放射線位相画像撮影装置においては、放射線画像検出器を交換可能なものとできる。
【0020】
また、放射線画像検出器のサイズ情報を取得する検出器サイズ情報取得部を設け、許容拡大率算出部を、検出器サイズ情報取得部によって取得されたサイズ情報に基づいて許容拡大率を算出するものとできる。
【0021】
また、拡大撮影における拡大率の入力を受け付けて取得する拡大率取得部を設け、移動機構を、拡大率取得部において取得された拡大率に応じて放射線画像検出器を移動させるものとできる。
【0022】
また、拡大率取得部によって取得された拡大率が許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、拡大率に応じた距離だけ放射線画像検出器を移動させるよう移動機構を制御する移動機構制御部を設けることができる。
【0023】
また、拡大率取得部によって取得された拡大率が許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、拡大率に応じた拡大撮影を許可する撮影制御部を設けることができる。
【0024】
また、第1および第2の格子のうちの少なくとも一方を交換可能に構成することができる。
【0025】
また、第1および第2の格子のうちの少なくとも一方のサイズ情報を取得するグリッドサイズ取得部を設け、許容拡大率算出部を、グリッドサイズ取得部によって取得された第1および第2の格子のうちの少なくとも一方のサイズ情報と放射線画像検出器のサイズ情報とに基づいて、許容拡大率を算出するものとできる。
【0026】
また、拡大率取得部において取得された拡大率が許容拡大率よりも大きい場合には、その旨を報知する拡大率報知部を設けることができる。
【0027】
また、許容拡大率を出力する許容拡大率出力部を設けることができる。
【0028】
また、放射線源と第1の格子との間に配置され、放射線源から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞りと、許容拡大率に基づいて、照射野絞りの許容照射野サイズを算出する許容照射野サイズ算出部とを設けることができる。
【0029】
また、照射野絞りの照射野サイズの入力を受け付けて取得する照射野サイズ取得部と、照射野サイズ取得部によって取得された照射野サイズが許容照射野サイズよりも大きい場合には、その旨を報知する照射野サイズ報知部とを設けることができる。
【0030】
また、許容照射野サイズを出力する許容照射野サイズ出力部を備えたものとできる。
【0031】
また、許容照射野サイズに基づいて、照射野絞りの設定可能な照射野サイズを制限する照射サイズ制限部を設けることができる。
【0032】
また、放射線源と第1の格子との間に配置され、放射線源から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞りと、放射線画像検出器のサイズ情報と第1および第2の格子のサイズ情報とに基づいて算出された許容拡大率を第1の許容拡大率候補として取得するとともに、放射線画像検出器のサイズ情報と照射野絞りの照射野サイズとに基づいて第2の許容拡大率候補を算出する許容拡大率候補取得部とを設けることができる。
【0033】
また、照射野絞りの照射野サイズの入力を受け付けて取得する照射野サイズ取得部を設けることができる。
【0034】
また、照射野絞りの照射野サイズを予め取得した画像に基づいて取得する照射野サイズ取得部を設けることができる。
【0035】
また、許容拡大率算出部を、第1の許容拡大率候補と第2の許容拡大率候補とを比較し、大きい方の許容拡大率候補を最終的な許容拡大率として決定するものとできる。
【0036】
また、移動機構制御部を、入力された拡大率が最終的な許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、拡大率に応じた距離だけ放射線画像検出器を移動させるよう移動機構を制御するものとできる。
【0037】
また、入力された拡大率が最終的な許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、拡大率に応じた拡大撮影を許可する撮影制御部を設けることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の放射線位相画像撮影方法および装置によれば、移動機構によって放射線画像検出器を放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させて拡大撮影を行う放射線位相画像撮影装置において、放射線画像検出器のサイズ情報と第1および第2の格子の少なくとも一方のサイズ情報とに基づいて、第1および第2の格子を透過した放射線が放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出するようにしたので、たとえば、入力された拡大率が許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、その拡大率に応じた距離だけ放射線画像検出器を移動させることができ、第1および第2の格子を透過した放射線を放射線画像検出器の検出面内に確実に収まるようにすることができ、上述したような画像の欠損を防止することができる。
【0039】
また、第1および第2の格子を交換可能に構成し、第1および第2の格子のサイズ情報を取得し、その取得した第1および第2の格子のサイズ情報と放射線画像検出器のサイズ情報とに基づいて、許容拡大率を算出するようにした場合には、第1および第2の格子のサイズに応じた適切な許容拡大率を算出することができる。
【0040】
また、放射線源と第1の格子との間に放射線源から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞りを設け、許容拡大率に基づいて、上記照射野絞りの許容照射野サイズを算出するようにした場合には、許容拡大率に応じて照射野絞りにおいて放射線の照射範囲を制限するので、放射線の照射範囲をより確実に放射線画像検出器の検出面内に収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の放射線位相画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの概略構成図
【図2】図1に示す乳房画像撮影装置の放射線源、第1および第2の格子、放射線画像検出器を抽出した模式図
【図3】図2に示す放射線源、第1および第2の格子、放射線画像検出器の上面図
【図4】第1の格子の概略構成図
【図5】第2の格子の概略構成図
【図6】図1に示す乳房画像撮影表示システムにおけるコンピュータの内部構成を示すブロック図
【図7】本発明の放射線位相画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの作用を説明するためのフローチャート
【図8】許容拡大率の算出方法を説明するための図
【図9】被検体のX方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つの放射線の経路を例示する図
【図10】第2の格子の並進移動について説明するための図
【図11】位相コントラスト画像を生成する方法を説明するための図
【図12】第1および第2の格子を交換可能にした場合の乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内を示すブロック図
【図13】照射野絞りを示す図
【図14】許容拡大率に基づいて許容照射野サイズを算出する乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内を示すブロック図
【図15】許容照射野サイズを算出する方法を説明するための図
【図16】カセッテサイズと設定入力された照射野サイズとに基づいて許容拡大率候補を算出する方法を説明するための図
【図17】1回の撮影により複数の縞画像を取得する場合の第1の格子の自己像、第2の格子および放射線画像検出器の画素の配置関係を示す図
【図18】第2の格子に対する第1の格子の自己像の傾き角を設定する方法を説明するための図
【図19】第2の格子に対する第1の格子の自己像の傾き角の調整方法を説明するための図
【図20】放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図
【図21】放射線画像検出器から読み取られた画像信号に基づいて、複数の縞画像を取得する作用を説明するための図
【図22】光読取方式の放射線画像検出器の一例を示す図
【図23】図22に示す放射線画像検出器における放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図24】図22に示す放射線画像検出器における放射線画像の読取りの作用を説明するための図
【図25】吸収画像と小角散乱画像を生成する方法を説明するための図
【図26】第1および第2の格子を90°回転させる構成を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明の放射線位相画像撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムについて説明する。図1は、本発明の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システム全体の概略構成を示す図である。
【0043】
本乳房画像撮影表示システムは、図1に示すように、乳房画像撮影装置10と、乳房画像撮影装置10に接続されたコンピュータ30と、コンピュータ30に接続されたモニタ40および入力部50とを備えている。
【0044】
そして、乳房画像撮影装置10は、図1に示すように、基台11と、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12と、回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。
【0045】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、アーム部13の一方の側には乳房Bが設置される撮影台14が設けられ、他方の側には撮影台14と対向するように放射線源ユニット15が設けられている。アーム部13の上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ33により制御される。
【0046】
また、撮影台14の乳房設置面とは反対側には、グリッドユニット16とカセッテユニット17とが撮影台14からこの順に配置されている。
【0047】
グリッドユニット16は、グリッド支持部16aを介してアーム部13に接続されており、グリッドユニット16の内部には、後で詳述する第1の格子2、第2の格子3および走査機構5が設けられている。
【0048】
カセッテユニット17は、カセッテユニット17を支持するとともに、カセッテユニット17が着脱可能であるカセッテ支持部17aを介してアーム部13に接続されている。そして、アーム部13内には、カセッテ支持部17aを上下方向(Z方向)に移動させるカセッテ移動機構6が設けられている。カセッテ移動機構6は、拡大撮影における拡大率に応じた距離だけカセッテユニット17を移動させるものであり、アームコントローラ33によって制御される。カセッテ移動機構6の制御方法については、後で詳述する。
【0049】
カセッテユニット17の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線画像検出器4と、放射線画像検出器4からの電荷信号の読み出しなどを制御する検出器コントローラ35とが備えられている。また、図示省略したが、カセッテユニット17の内部には、放射線画像検出器4から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。
【0050】
放射線画像検出器4は、放射線画像の記録と読出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線画像検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線画像検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチがオン・オフされることによって放射線画像信号が読みだされる、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0051】
放射線源ユニット15の中には放射線源1と、放射線源コントローラ34が収納されている。放射線源コントローラ34は、放射線源1から放射線を照射するタイミングと、放射線源1における放射線発生条件(管電流、露光時間、管電圧等)を制御するものである。
【0052】
また、アーム部13の中央部には、撮影台14の上方に配置されて乳房を押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する圧迫板支持部20と、圧迫板支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる圧迫板移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ36により制御される。
【0053】
ここで、本実施形態の乳房画像撮影表示システムは、放射線源1、第1の格子2、第2の格子3および放射線画像検出器4を用いて乳房Bの位相コントラスト画像を撮影するものであるが、この位相コントラスト画像の撮影を行うために必要とされる放射線源1、第1の格子2および第3の格子3の構成についてより詳細に説明する。図2は、図1に示す放射線源1、第1および第2の格子2,3および放射線画像検出器4のみを抽出して示したものであり、図2は、図3は、図2に示す放射線源1、第1および第2の格子2,3および放射線画像検出器4を上方から見た模式図である。
【0054】
放射線源1は、乳房Bに向けて放射線を射出するものであり、第1の格子2に放射線を照射したとき、タルボ干渉効果を発生させうるだけの空間的干渉性を有するものである。たとえば、放射線の発光点のサイズが小さいマイクロフォーカスX線管やプラズマX線源を利用することができる。また、通常の医療現場で用いられるような比較的放射線の発光点(いわゆる焦点サイズ)の大きな放射線源を用いる場合は、所定のピッチを有するマルチスリットMSを放射線の射出側に設置して使用することができる。この場合の詳細な構成は、たとえば、“Franz Pfeiffer, Timm Weikamp, Oliver Bunk, Christian David, Nature Physics 2, 258-261(01 Apr 2006)Letters, Phase retrieval and differential phase-contrast imaging with low-brilliance X-ray sources”に記されているが、そのスリットMSのピッチPは以下の式を満たすような大きさとする必要がある。
【数1】

【0055】
なお、Pは第2の格子3のピッチ、Zは、図3に示すように、マルチスリットMSの位置から第1の格子2までの距離、Zは第1の格子2から第2の格子3までの距離である。
【0056】
第1の格子2は、放射線源1から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成するものであり、図4に示すように、放射線を主として透過する基板21と、基板21上に設けられた複数の部材22とを備えている。複数の部材22は、いずれも放射線の光軸に直交する面内の一方向(X方向およびZ方向に直交するY方向、図4の紙面厚さ方向)に延伸した線状の部材である。複数の部材22は、X方向に一定の周期Pで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。部材22の素材としては、たとえば、金、白金などの金属を用いることができる。また、第1の格子2としては、照射される放射線に対して約90°または約180°の位相変調を与える、いわゆる位相変調型格子であることが望ましく、たとえば、部材22を金とした場合、通常の医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは1μm〜10μm程度になる。また、振幅変調型格子を用いることもできる。この場合、部材22は放射線を十分に吸収する厚さが必要である。たとえば、部材22を金とした場合、通常の医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは10μm〜数100μm程度になる。
【0057】
第2の格子3は、第1の格子2により形成された第1の周期パターン像を強度変調して第2の周期パターン像を形成するものであり、図5に示すように、第1の格子2と同様に、放射線を主として透過する基板31と、基板31に設けられた複数の部材32とを備えている。複数の部材32は放射線を遮蔽するものであり、いずれも放射線の光軸に直交する面内の一方向(X方向およびZ方向に直交するY方向、図5の紙面厚さ方向)に延伸した線状の部材である。複数の部材32は、X方向に一定の周期Pで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。複数の部材32の素材としては、たとえば、金、白金などの金属を用いることができる。第2の格子3は、振幅変調型格子であることが望ましい。このとき、部材32は放射線を十分に吸収する厚さが必要である。たとえば、部材32を金とした場合、通常の医療診断用のX線エネルギー領域において必要な厚さhは10μm〜数100μm程度になる。
【0058】
ここで、放射線源1から照射される放射線が、平行ビームではなく、コーンビームである場合には、第1の格子2を通過して形成される第1の格子2の自己像G1は、放射線源1からの距離に比例して拡大される。そして、本実施形態においては、第2の格子3の格子ピッチPと間隔dは、そのスリット部が、第2の格子3の位置における第1の格子2の自己像G1の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定される。すなわち、放射線源1の焦点から第1の格子2までの距離をZ、第1の格子2から第2の格子3までの距離をZとし、第1の格子2を90°の位相変調を与える位相変調型格子または振幅変調型格子とした場合、第2の格子ピッチPは、次式(2)の関係を満たすように決定される。なお、P’は、第2の格子3の位置における第1の格子2の自己像G1のピッチである。
【数2】

【0059】
また、第1の格子2を180°の位相変調を与える位相変調型格子とした場合には、次式(3)の関係を満たすように決定される。
【数3】

【0060】
そして、本実施形態の乳房画像撮影装置10をタルボ干渉計として機能させるためには、さらにいくつかの条件をほぼ満たさねばならない。その条件について以下に説明する。
【0061】
まず、第1の格子2と第2の格子3とのグリッド面が、図2に示すX−Y平面に平行であることが必要である。
【0062】
そして、さらに、第1の格子2と第2の格子3との距離Zは、第1の格子2が90°の位相変調を与える位相変調型格子である場合、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数4】

【0063】
ただし、λは放射線の波長(通常は第1の格子2に入射する放射線の実効波長)、mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0064】
また、第1の格子2が180°の位相変調を与える位相変調型格子である場合には、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数5】

【0065】
ただし、λは放射線の波長(通常は第1の格子2に入射する放射線の実効波長)、mは0か正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0066】
さらに、第1の格子2が振幅変調型格子である場合には、次の条件をほぼ満たさなければならない。
【数6】

【0067】
ただし、λは放射線の波長(通常は実効波長)、m’は正の整数、Pは上述した第1の格子2の格子ピッチ、Pは上述した第2の格子3の格子ピッチである。
【0068】
また、図4および図5に示すように、第1の格子2の部材22は厚みhで形成され、第2の格子3の部材32は厚みhで形成されるが、厚みhと厚みhとを厚くしすぎると、第1の格子2および第2の格子3に斜めに入射する放射線がスリット部を通過しにくくなり、いわゆるケラレが生じて部材22,32の延伸方向に直交する方向(X方向)の有効視野が狭くなるといった問題がある。このため、視野確保の観点から、厚みh,hの上限を規定することが好ましい。放射線画像検出器4の検出面におけるX方向の有効視野の長さVを確保するためには、厚みh,hは、次式(7)および次式(8)を満たすように設定することが好ましい。ここで、Lは、放射線源1の焦点から放射線画像検出器4の検出面までの距離である(図3参照)。
【数7】

【数8】

【0069】
そして、グリッドユニット16内に設けられた走査機構5は、上述したような第2の格子3をその部材32の延伸方向に直交する方向(X方向)に並進移動させることにより、第1の格子2と第2の格子3との相対位置を変化させるものである。走査機構5は、たとえば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。そして、走査機構5によって並進移動する第2の格子3の各位置において第2の格子3により形成された第2の周期パターン像が、放射線画像検出器4によって検出される。
【0070】
図6は、図1に示すコンピュータ30の構成を示すブロック図である。コンピュータ30は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスなどを備えており、これらのハードウェアによって、図6に示すような制御部60、位相コントラスト画像生成部61、拡大率取得部62、カセッテサイズ取得部63、および許容拡大率算出部64が構成されている。
【0071】
制御部60は、各種のコントローラ33〜36に対して所定の制御信号を出力し、システム全体の制御を行うものである。また、制御部60は、移動機構制御部60aを備えており、移動機構制御部60aは、入力部50において入力された拡大撮影の拡大率に基づいて、図1に示すカセッテ移動機構6を制御するものである。制御部60および移動機構制御部60aの具体的な制御方法については後で詳述する。
【0072】
位相コントラスト画像生成部61は、放射線画像検出器4により第2の格子3の位置毎に検出された互いに異なる複数種類の縞画像の画像信号に基づいて放射線位相コントラスト画像を生成するものである。放射線位相コントラスト画像の生成方法については、後で詳述する。
【0073】
拡大率取得部62は、入力部50において入力された拡大撮影の拡大率を取得し、これを制御部60に出力するものである。
【0074】
カセッテサイズ取得部63は、入力部50において入力されたカセッテサイズの情報を取得し、これを許容拡大率算出部64に出力するものである。なお、本実施形態におけるカセッテサイズは、実質的にはカセッテユニット17内の放射線画像検出器4のサイズであり、放射線画像検出器4の直交する2辺のうちの短い方の辺の長さとする。また、本実施形態においては、カセッテサイズの情報を入力部50から入力するようにしたが、カセッテサイズの取得方法としてはこれに限らず、たとえばカセッテユニット17にサイズ情報を記憶しておき、カセッテサイズ取得部63が、そのサイズ情報を読み出して取得するようにしてもよい。
【0075】
許容拡大率算出部64は、カセッテサイズ取得部63から出力されたカセッテサイズと、予め設定された第1および第2の格子2,3のサイズとに基づいて許容拡大率を算出し、これを制御部60に出力するものである。本実施形態における許容拡大率は、拡大撮影の際に、第1および第2の格子を透過した放射線が放射線画像検出器4の検出面内に収まる最大の拡大率とする。また、本実施形態における第1および第2の格子2,3のサイズとは、第1および第2の格子2,3の直交する2辺のうち、カセッテサイズとして選択した一方の辺、すなわち放射線画像検出器4の直交する2辺のうちの短い方の辺の方向と同一方向の辺の長さとする。許容拡大率の算出方法については、後で詳述する。
【0076】
モニタ40は、コンピュータ30の位相コントラスト画像生成部61において生成された位相コントラスト画像を表示するものである。
【0077】
入力部50は、たとえば、キーボードやマウスなどのポインティングデバイスから構成されるものであり、撮影条件や撮影開始指示などの撮影者による入力を受け付けるものである。本実施形態においては、特に、アーム部13に設置されたカセッテユニット17のカセッテサイズや拡大撮影における拡大率の入力を受け付けるものである。
【0078】
次に、本実施形態の乳房画像撮影表示システムの作用について、図7に示すフォローチャートを参照しながら説明する。
【0079】
まず、患者の乳房の大きさや撮影目的などに応じて、適切なサイズのカセッテユニット17がアーム部13のカセッテ支持部17aに設置される(S10)。カセッテサイズとしては、たとえば、18cm×24cm、24cm×30cm、17インチ×17インチ、17インチ×14インチ、9インチ×9インチなどがあるがこれに限らない。
【0080】
そして、その設置されたカセッテユニット17のカセッテサイズが、撮影者によって入力部50を用いて入力され、カセッテサイズ取得部63によって取得される(S12)。カセッテサイズ取得部63によって取得されたカセッテサイズは、許容拡大率算出部64に出力され、許容拡大率算出部64において、入力されたカセッテサイズと予め設定された第1および第2の格子2,3のサイズとに基づいて許容拡大率が算出される。
【0081】
具体的には、まず、図8に示すように、放射線源1と乳房Bとの距離をa、放射線源1と放射線画像検出器4の検出面との距離をbとすると、拡大率MはM=b/aと表すことができる。そして、第1の格子2のサイズをL1、第2の格子3のサイズをL2、カセッテサイズをL3としたとき、下式(9),(10)を満たすMのうちの小さい方の拡大率Mが、許容拡大率として算出される。
【数9】

【数10】

【0082】
なお、Z1およびZ2は、上式(2)または上式(3)を満たすように、通常、予め設定されている。
【0083】
また、本実施形態においては、第1の格子2のサイズと第2の格子3のサイズとの両方を考慮して許容拡大率を算出するようにしたが、これに限らず、いずれか一方のサイズに基づいて許容拡大率を算出するようにしてもよい。
【0084】
たとえば、放射線としてコーンビームを用いる場合には、放射線源1に近い格子の方が放射線画像検出器4上における拡大率が大きくなるので、第1の格子2のサイズに基づいて許容拡大率を算出することが望ましい。
【0085】
また、有効視野は第1の格子2と第2の格子3の両方を透過する必要があるため、第1の格子2と第2の格子3とを放射線が透過した範囲をそれぞれ放射線画像検出器4上における面積に換算して小さい方の格子のサイズを用いて許容拡大率を算出するようにしてもよい。
【0086】
すなわち、拡大撮影の際に、第1および第2の格子2,3を透過した放射線が放射線画像検出器4の検出面内に収まる最大の拡大率を許容拡大率として算出する。そして、許容拡大率算出部64は算出した許容拡大率を制御部60に出力する。なお、許容拡大率より大きい拡大率で撮影を行った場合、すなわち、放射線画像検出器4を、図3に示すb’の位置に移動させて撮影を行った場合、第1および第2の格子2,3を透過した放射線の一部が放射線画像検出器4の検出面内に収まらないことになるので、乳房の放射線画像の一部が放射線画像検出器4の検出面内に収まらないことになり、放射線画像が欠けてしまい、その欠けた部分を診断することができず、さらに被検者は、その画像が欠けた部分において余分な被曝を受けることになる。本実施形態の乳房画像撮影表示システムにおいては、このような問題が起こらないように、以下のようにして拡大撮影における拡大率を制限する。
【0087】
まず、上述したようにして算出された許容拡大率は、制御部60に出力されて設定される。そして、撮影台14の上に患者の乳房Bが設置され、圧迫板18により乳房Bが所定の圧力によって圧迫される(S16)。
【0088】
次に、撮影者によって入力部50を用いて拡大撮影の拡大率が入力される(S18)。入力部50において受け付けられた拡大率は、拡大率取得部62によって取得され、制御部60に出力される。
【0089】
そして、制御部60は、入力された拡大率と上述したようにして算出された許容拡大率とを比較し、撮影者によって設定入力された拡大率が許容拡大率以下である場合には、その拡大率に応じた拡大撮影が行われるように制御部60の移動機構制御部60aがアームコントローラ33に制御信号を出力し、その制御信号に応じてアームコントローラ33によってカセッテ移動機構6が駆動制御され、カセッテ移動機構6によってカセッテユニット17が上下方向に移動する(S20,YES)。すなわち、カセッテ移動機構6が、放射線源1と放射線画像検出器4の検出面との距離bが、撮影者によって設定入力された拡大率に応じた距離となるようにカセッテユニット17をZ方向に移動させる(S22)。
【0090】
一方、撮影者によって設定入力された拡大率が許容拡大率よりも大きい場合には、制御部60は、モニタ40において、設定入力された拡大率が許容拡大率よりも大きいことを報知する警告メッセージと許容拡大率を出力するとともに、許容拡大率以下の拡大率の再入力を促すメッセージを出力する(S20,NO、S24)。そして、撮影者によって許容拡大率以下の拡大率が再入力される。
【0091】
そして、上記のようにして許容拡大率以下の拡大率が設定され、その拡大率に応じた位置にカセッテユニット17が配置された後、位相コントラスト画像の撮影が行われる(S26)。
【0092】
次に、本実施形態における位相コントラスト画像の撮影について詳細に説明する。
【0093】
まず、上述したように乳房Bが配置され、カセッテユニット17の位置制御が行われた後、撮影者の撮影開始指示の入力に応じて放射線源1から放射線が射出される。そして、その放射線は乳房Bを透過した後、第1の格子2に照射される。第1の格子2に照射された放射線は、第1の格子2で回折されることにより、第1の格子2から放射線の光軸方向において所定の距離において、タルボ干渉像を形成する。
【0094】
これをタルボ効果と呼び、光波が第1の格子2を通過したとき、第1の格子2から所定の距離において、第1の格子2の自己像G1を形成する。たとえば、第1の格子2が、90°の位相変調を与える位相変調型格子の場合、上式(4)(180°の位相変調型格子の場合は上式(5)、強度変調型格子の場合は上式(6))で与えられる距離において第1の格子2の自己像G1を形成する一方、被検体である乳房Bによって、第1の格子2に入射する放射線の波面は歪むため、第1の格子2の自己像G1はそれに従って変形している。
【0095】
続いて、放射線は、第2の格子3を通過する。その結果、上記の変形した第1の格子2の自己像G1は第2の格子3との重ね合わせにより、強度変調を受け、上記波面の歪みを反映した画像信号として放射線画像検出器4により検出される。そして、放射線画像検出器4によって検出された画像信号はコンピュータ30の位相コントラスト画像生成部61に入力される。
【0096】
次に、位相コントラスト画像生成部61において位相コントラスト画像を生成する方法について説明するが、まず、本実施形態における位相コントラスト画像の生成方法の原理について説明する。
【0097】
図9は、被検体BのX方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つの放射線の経路を例示している。符号X1は、被検体Bが存在しない場合に直進する放射線の経路を示しており、この経路X1を進む放射線は、第1の格子2および第2の格子3を通過して放射線画像検出器4に入射する。符号X2は、被検体Bが存在する場合に、被検体Bにより屈折されて偏向した放射線の経路を示している。この経路X2を進む放射線は第1の格子2を通過した後、第2の格子3により遮蔽される。
【0098】
被検体Bの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Bの屈折率分布をn(x,z)、放射線の進む方向をzとして、次式(11)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【数11】

【0099】
第1の格子2から第2の格子3の位置に形成された自己像G1は、被検体Bでの放射線の屈折により、その屈折角ψに応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、放射線の屈折角ψが微小であることに基づいて、近似的に次式(12)で表される。
【数12】

【0100】
ここで、屈折角ψは、放射線の波長λと被検体Bの位相シフト分布Φ(x)を用いて、次式(13)で表される。
【数13】

【0101】
このように、被検体Bでの放射線の屈折による自己像G1の変位量Δxは、被検体Bの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、放射線画像検出器4で検出される各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψ(被検体Bがある場合とない場合とでの各画素の強度変調信号の位相ズレ量)に、次式(14)のように関連している。
【数14】

【0102】
したがって、各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを求めることにより、上式(14)から屈折角ψが求まり、上式(13)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まる。この微分量をxについて積分することにより、被検体10の位相シフト分布Φ(x)、すなわち被検体Bの位相コントラスト画像を生成することができる。本実施形態では、上記位相ズレ量Ψを、下記に示す縞走査法を用いて算出する。
【0103】
縞走査法では、第1の格子2または第2の格子3の一方を他方に対して相対的にX方向に並進移動させながら、上述したような撮影を行う。本実施形態においては、上述の走査機構5により第2の格子3を移動させる。第2の格子3の移動にともなって、放射線画像検出器4によって検出される縞画像が移動し、並進距離(X方向への移動量)が、第2の格子3の配列周期の1周期(配列ピッチP)に達すると、すなわち位相変化が2πに達すると縞画像は元の位置に戻る。このような縞画像の変化を、配列ピッチPの整数分の1ずつ第2の格子3を移動させながら、放射線画像検出器4において縞画像を検出し、その検出した複数の縞画像から各画素の強度変調信号を取得し、各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを取得する。
【0104】
図10は、配列ピッチPをM(2以上の整数)個に分割した移動ピッチ(P/M)ずつ第2の格子3を移動させる様子を模式的に示している。走査機構5は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各移動位置に、第2の格子3を順に並進移動させる。なお、図10では、第2の格子3の初期位置を、被検体Bが存在しない場合における第2の格子3の位置での第1の格子2の自己像G1の暗部が、第2の格子3の部材32にほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0105】
まず、k=0の位置では、主として、被検体Bにより屈折されなかった放射線が第2の格子3を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の格子3を移動させていくと、第2の格子3を通過する放射線は、被検体Bにより屈折されなかった放射線の成分が減少する一方で、被検体Bにより屈折された放射線の成分が増加する。特に、k=M/2では、主として、被検体Bにより屈折された放射線の成分のみが第2の格子3を通過する。k=M/2を超えると、逆に、第2の格子3を通過する放射線は、被検体Bにより屈折された放射線の成分が減少する一方で、被検体Bにより屈折されなかった放射線の成分が増加する。
【0106】
そして、k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で放射線画像検出器4による撮影を行うことによってM枚の縞画像信号が取得され、位相コントラスト画像生成部61に記憶される。
【0107】
以下に、このM枚の縞画像信号の各画素の画素信号から各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを算出する方法を説明する。
【0108】
まず、第2の格子3の位置kにおける各画素の画素信号Ik(x)は、次式(15)で表される。
【数15】

【0109】
ここで、xは、画素のx方向に関する座標であり、Aは入射放射線の強度であり、Aは強度変調信号のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、ψ(x)は、上記屈折角ψを放射線画像検出器4の画素の座標xの関数として表したものである。
【0110】
次いで、次式(16)の関係式を用いると、上記屈折角ψ(x)は、式(17)のように表される。
【数16】

【数17】

【0111】
ここで、arg[]は、偏角の抽出を意味しており、放射線画像検出器4の各画素の位相ズレ量Ψに対応する。したがって、放射線画像検出器4の各画素について取得されたM個の縞画像信号の画素信号から、式(17)に基づいて位相コントラスト画像の各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψを算出することにより、屈折角ψ(x)が求められる。
【0112】
具体的には、放射線画像検出器4の各画素について取得されたM個の縞画像は、図11に示すように、放射線画像検出器4の位置kに対して、第2の格子2の格子ピッチPの周期で周期的に変化する。図11中の破線は被検体Bが存在しない場合の縞画像の変化を示しており、実線は、被検体Bが存在する場合の縞画像の変化を示している。この両者の波形の位相差が各画素の強度変調信号の位相ズレ量Ψに対応する。
【0113】
そして、屈折角ψ(x)は、上式(13)で示したように位相シフト分布Φ(x)の微分値に対応する値であるため、屈折角ψ(x)をx軸に沿って積分することにより、位相シフト分布Φ(x)を取得することができる。
【0114】
上記説明では、画素のy方向に関するy座標を考慮していないが、各y座標についても同様の演算を行うことにより、屈折角の2次元分布ψ(x,y)が得られ、これをx軸に沿って積分することにより、2次元的な位相シフト分布Φ(x,y)を位相コントラスト画像として得ることができる。
【0115】
また、屈折角の2次元分布ψ(x,y)に代えて、位相ズレ量の2次元分布Ψ(x,y)をx軸に沿って積分することにより位相コントラスト画像を生成するようにしてもよい。
【0116】
屈折角の2次元分布ψ(x,y)や位相ズレ量Ψ(x,y)は、位相シフト分布Φ(x,y)の微分値に対応するものであるため位相微分像と呼ばれるが、この位相微分像を位相コントラスト画像として生成するようにしてもよい。
【0117】
以上のようにして位相コントラスト画像生成部61において、複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像が生成される。
【0118】
また、上記実施形態においては、カセッテユニット17を交換可能に構成するようにしたが、さらにグリッドユニット16についても、被写体の種類や大きさ、撮影方法などに応じて交換可能に構成するようにしてもよい。第1の格子2および第2の格子3のサイズとしては、たとえば、たとえば、6インチ×6インチ、8インチ×8インチ、10インチ×10インチなどがあるがこれに限らない。
【0119】
そして、このようにグリッドユニット16についても交換可能とした場合には、許容拡大率算出部64は、設置されたグリッドユニット16のサイズ情報に基づいて許容拡大率を算出するようにすればよい。具体的には、図12に示すように、コンピュータ37内に第1および第2の格子2,3のサイズ情報を取得するグリッドサイズ取得部65をさらに設け、許容拡大率算出部64が、このグリッドサイズ取得部65によって取得された第1および第2の格子2,3のサイズ情報を用いて許容拡大率を算出するようにすればよい。なお、グリッドサイズ取得部65は、入力部50において撮影者によって入力され受け付けられた第1および第2の格子2,3のサイズ情報を取得するものとしてもよいし、各グリッドユニット16にそれぞれが内蔵する第1および第2の格子2,3のサイズ情報を記憶しておき、グリッドサイズ取得部65が、その記憶されたサイズ情報を読み出して取得するようにしてもよい。
【0120】
また、上記実施形態の変形例として、図13に示すように、放射線源ユニット15内に放射線源1から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞り15aを設けるようにしてもよい。そして、このように照射野絞り15aを設けるようにした場合には、照射野絞り15aによって制限される放射線の照射範囲が、確実に放射線画像検出器4の検出面内に収まるように、上述した許容拡大率Mac以下に設定された拡大率に基づいて、照射野絞り15aの許容照射野サイズを算出するようにしてもよい。
【0121】
具体的には、図14に示すように、コンピュータ38内に拡大率設定部66と許容照射野サイズ算出部67と照射野サイズ取得部68とを設ける。拡大率設定部66は、許容拡大率Mac以下の範囲で拡大率Mを設定する。なお、この拡大率Mは、撮影者によって設定入力され、拡大率取得部62によって取得されたものでもよいし、拡大率設定部66において許容拡大率Mac以下の範囲で自動的に設定するようにしてもよい。
【0122】
拡大率M=b/aであるので、移動機構制御部60aは、たとえば、図15に示すように、上記設定した拡大率Mおよび放射線源1の焦点と被写体との距離aに基づいて、放射線源1の焦点と放射線画像検出器4の検出面との距離bをb1に設定する。
【0123】
そして、許容照射野サイズ算出部66は、放射線画像検出器4のサイズL3、放射線源1の焦点と照射野絞りとの距離cから、下式に基づいて許容照射野サイズLacを算出する。
【0124】
Lac=L3×c/b1
そして、撮影者によって設定入力された照射野絞りのサイズ情報を照射野サイズ取得部67が取得し、制御部60において、設定入力された照射野サイズL4と上述したようにして算出された許容照射野サイズLacとを比較し、設定入力された照射野サイズが許容照射野サイズ以下である場合には、制御部60は、設定入力された照射野サイズとなるように照射野絞り15aに制御信号を出力してその絞りを制御する。
【0125】
一方、撮影者によって設定入力された照射野サイズが許容照射野サイズよりも大きい場合には、制御部60は、許容照射野サイズあるいは許容照射野サイズ以下となるように、照射野絞り15aの絞りを制限する。また、この場合、モニタ40において、設定入力された照射野サイズが許容照射野サイズよりも大きいことを報知する警告メッセージを出力するとともに、モニタ40において、許容照射野サイズを出力し、許容照射野サイズ以下の照射野サイズの再入力を促すメッセージを出力してもよい。そして、撮影者によって許容照射野サイズ以下の照射野サイズが再入力されることによって、制御部60が再入力された照射野サイズに基づいて照射野絞り15aの絞りを制御してもよい。
【0126】
また、上記実施形態の変形例として、制御部60が、カセッテサイズと第1および第2の格子2,3とに基づいて算出される許容拡大率Macを第1の許容拡大率候補として取得するとともに、カセッテサイズと上記照射野サイズ取得部67によって取得された照射野サイズとに基づいて第2の許容拡大率候補を算出するようにしてもよい。
【0127】
すなわち、照射野サイズL4と放射線画像検出器4のサイズL3との間には、c/L4=b/L3の関係があるため、移動機構制御部60aは、たとえば、図16に示すように、放射線源1の焦点と照射野絞り15aとの距離cに基づき、放射線源1の焦点と放射線画像検出器4の検出面との距離bをb2に設定する。そして、第2の許容拡大率候補Mac’は、下式に基づいて算出される。
【0128】
Mac’=b2/a=(c×L3)/(a×L4)
そして、制御部60において、第1の許容拡大率候補Macと第2の許容拡大率候補Mac’とを比較し、大きい方の拡大率候補を最終的な許容拡大率として設定するようにしてもよい。許容拡大率を設定した後の作用については上記実施形態と同様である。
【0129】
なお、照射野サイズ取得部67によって取得される照射野サイズについては、撮影者が入力部50を用いて直接設定入力したものを取得するようにしてもよいし、その他にもモニタ40に予め撮影された画像を表示し、その画像内において拡大撮影で画像化したい関心領域を設定することによってその関心領域に対応する照射野サイズを取得するようにしてもよい。なお、関心領域については撮影者が指定するようにしてもよいし、所定の条件に基づいて自動的に設定するようにしてもよい。また、関心領域と照射野サイズとの対応関係については予め設定されているものとする。また、上記の予め撮影された画像としては、たとえば、拡大撮影前に、低倍率もしくは広い視野で撮影された通常のマンモグラフィ画像などがある。
【0130】
また、上記実施形態の放射線位相画像撮影装置は、第1の格子2から第2の格子3までの距離Zがタルボ干渉距離となるようにしたが、これに限らず、第1の格子2が入射放射線を回折せずに投影させる構成とするようにしてもよい。このように構成すれば第1の格子2を通過して射影される投影像が、第1の格子2の後方の位置で相似的に得られるため、第1の格子2から第2の格子3までの距離Zを、タルボ干渉距離を無関係に設定することができる。
【0131】
具体的には、第1の格子2と第2の格子3とを、ともに吸収型(振幅変調型)格子として構成するとともに、タルボ干渉効果に関わらず、スリット部を通過した放射線を幾何学的に投影するように構成する。より詳細には、第1の格子2の間隔dと第2の格子3の間隔dとを、放射線源1から照射される放射線の実効波長より十分大きな値とすることで、照射放射線に含まれる大部分をスリット部で回折せずに、直進性を保ったまま通過するように構成することができる。たとえば、放射線源のターゲットとしてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、放射線の実効波長は約0.4Åである。この場合には、第1の格子2の間隔dと第2の格子3の間隔dを、1μm〜10μm程度とすればスリット部で大部分の放射線が回折されずに幾何学的に投影される。
【0132】
なお、第1の格子2の格子ピッチPと第2の格子3の格子ピッチPとの関係については、上記第1の実施形態と同様である。
【0133】
そして、上記のような構成の放射線位相画像撮影装置においては、第1の格子2と第2の格子3との距離Zを、上式(6)においてm=1とした場合の最小のタルボ干渉距離より短い値に設定することができる。すなわち、上記距離Zが、次式(18)を満たす範囲の値に設定する。
【数18】

【0134】
なお、第1の格子2の部材22と第2の格子3の部材32とは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、放射線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上述した放射線吸収に優れる材料(金、白金等)を用いたとしても、吸収されずに透過する放射線が少なからず存在する。このため、放射線の遮蔽性を高めるためには、部材22,32のそれぞれの厚みh,hを、可能な限り厚くすることが好ましい。部材22,32による遮蔽は、照射放射線の90%以上であることが好ましく、たとえば、放射線源1の管電圧が50kVの場合には、厚みh,hは、金(Au)換算で100μm以上であることが好ましい。
【0135】
ただし、上記実施形態と同様に、いわゆる放射線のケラレの問題があるため、第1の格子2の部材22と第2の格子3の部材32との厚さh,hの制限がある。
【0136】
上記のような構成の放射線位相画像撮影装置によれば、第1の格子2と第2の格子3との距離Zをタルボ干渉距離よりも短くすることができるので、一定のタルボ干渉距離を確保しなければならない上記実施形態の放射線位相画像撮影装置と比較すると、撮影装置をより薄型化することができる。
【0137】
また、上記実施形態においては、グリッドユニット16内の走査機構5によって第2の格子3を並進移動させるとともに、複数回の撮影を行うことによって、位相コントラスト画像を生成するための複数の縞画像信号を取得するようにしたが、このように第2の格子を並進移動させることなく、一回の撮影によって複数の縞画像信号を取得する方法もある。
【0138】
具体的には、図17に示すように、第1の格子2と第2の格子3とが、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置されるようにする。そして、このように配置された第1の格子2と第3の格子3に対して、放射線画像検出器4によって検出される画像信号の各画素の主走査方向(図5のX方向)の主画素サイズDxと副走査方向の副画素サイズDyとが、図17に示すような関係となるようにする。
【0139】
主画素サイズDxは、たとえば、放射線画像検出器として、多数の線状電極を有し、その線状電極の延伸方向に直交する方向に延設された線状読取光源によって走査されて画像信号が読み出される、いわゆる光読取方式の放射線画像検出器を用いた場合には、その放射線画像検出器の線状電極の配列ピッチによって決定されるものである。また、副画素サイズDyは、放射線画像検出器に照射される線状の読取光の線状電極の延伸方向についての幅によって決定されるものである。また、いわゆるTFT読取方式の放射線画像検出器やCMOSを用いた放射線画像検出器を用いた場合には、主画素サイズDxは、画像信号が読み出されるデータ電極の配列方向の画素回路の配列ピッチによって決定され、副画素サイズDyは、ゲート電圧が出力されるゲート電極の配列方向の画素回路の配列ピッチによって決定される。
【0140】
そして、位相コントラスト画像を生成するための縞画像の数をMとすると、M個の副画素サイズDyが位相コントラスト画像の副走査方向の1つの画像解像度Dとなるように第1の格子2の自己像G1が第2の格子3に対して傾けられる。
【0141】
具体的には、図18に示すように、第2の格子3のピッチおよび第1の格子2によって第2の格子3の位置に形成される第1の格子2の自己像G1のピッチをP’、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1のX−Y面内の相対的な回転角をθ、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度をD(=Dy×M)とすると、回転角θを下式(19)を満たすように設定することによって、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相がn周期分ずれることになる。なお、図18においては、M=5、n=1の場合を示している。
【数19】

【0142】
したがって、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度DをM分割したDx×Dyの各画素によって、第1の格子2の自己像G1のn周期分の強度変調をM分割した画像信号が検出できることになる。図18に示す例では、n=1としているので、副走査方向の画像解像度Dの長さに対して、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相が1周期分ずれることになる。もっとわかり易く言えば、第1の格子2の自己像G1の1周期分の第2の格子3を通過する範囲が、副走査方向の画像解像度Dの長さにわたって変化する。
【0143】
そして、M=5としているので、Dx×Dyの各画素によって第1の格子2の自己像G1の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できることになり、すなわち、Dx×Dyの各画素によって互いに異なる5つの縞画像の画像信号をそれぞれ検出することができることになる。
【0144】
なお、本実施形態においては、上述したとおり、Dx=50μm、Dy=10μm、M=5としているので、位相コントラスト画像の主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度D=Dy×Mが同じになるが、必ずしも主走査方向の画像解像度Dxと副走査方向の画像解像度Dとを合わせる必要はなく、任意の主副比としてもよい。
【0145】
さらに、本実施形態においては、M=5としているが、Mは3以上であればよく、5以外であってもよい。また、上記説明ではn=1としたが、nは0以外の整数であれば1以外の整数でもよい。すなわち、nが負の整数の場合には上述した例に対して反対周りの回転となり、また、nを±1以外の整数としてn周期分の強度変調としてもよい。ただし、nがMの倍数の場合は、1組のM個の副走査方向画素Dyの間で第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の位相が等しくなり、異なるM個の縞画像とならないため除外するものとする。
【0146】
また、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1の回転角θの調整については、たとえば、放射線画像検出器4と第2の格子3の相対回転角を固定した後、第1の格子2を回転させることによって行うことができる。
【0147】
たとえば、上式(19)でP’=5μm、D=50μm、n=1とすると、回転角θは約5.7°である。そして、第2の格子3に対する第1の格子2の自己像G1の実際の回転角θ’は、たとえば、第1の格子の自己像G1と第2の格子3によるモアレのピッチによって検出することができる。
【0148】
具体的には、図19に示すように、実際の回転角をθ’、回転によって生じたX方向への見た目の自己像G1のピッチP’とすると、観測されるモアレのピッチPmは、
1/Pm=|1/P’−1/P’|
であるので、P’=P’/cosθ’を上式に代入することによって実際の回転角θ’を求めることができる。なお、モアレのピッチPmについては、放射線画像検出器4によって検出された画像信号に基づいて求めるようにすればよい。
【0149】
そして、上式(19)で定めた回転角θと実際の回転角θ’とを比較し、その差の分だけで自動または手動で第1の格子2の回転角を調整するようにすればよい。
【0150】
そして、上記のように構成された放射線位相画像撮影装置においては、放射線画像検出器4から読み出された1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に記憶された後、その記憶された画像信号に基づいて、互いに異なる5つの縞画像の画像信号が取得される。
【0151】
具体的には、図18に示すように、位相コントラスト画像の副走査方向の画像解像度Dを5分割し、第1の格子2の自己像G1の1周期の強度変調を5分割した画像信号が検出できるように第1の格子2の自己像G1を第2の格子3に対して傾けるようにした場合には、図20に示すように、第1読取ラインから読み出された画像信号が第1の縞画像信号M1として取得され、第2読取ラインから読み出された画像信号が第2の縞画像信号M2として取得され、第3読取ラインから読み出された画像信号が第3の縞画像信号M3として取得され、第4読取ラインから読み出された画像信号が第4の縞画像信号M4として取得され、第5読取ラインから読み出された画像信号が第5の縞画像信号M5として取得される。なお、図20に示す第1〜第5読取ラインは、図17に示す副画素サイズDyに相当する。
【0152】
また、図20においては、Dx×(Dy×5)の読取範囲しか示していないが、その他の読取範囲についても、上記と同様にして第1〜第5の縞画像信号が取得される。すなわち、図21に示すように、副走査方向について4画素間隔毎の画素行(読取ライン)からなる画素行群の画像信号が取得されて1フレームの1つの縞画像信号が取得される。より具体的には、第1読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第1の縞画像信号が取得され、第2読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第2の縞画像信号が取得され、第3読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第3の縞画像信号が取得され、第4読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第4の縞画像信号が取得され、第5読取ラインの画素行群の画像信号が取得されて1フレームの第5の縞画像信号が取得される。
【0153】
上記のようにして互いに異なる第1〜第5の縞画像信号が取得され、この第1〜第5の縞画像信号に基づいて、位相コントラスト画像生成部61において位相コントラスト画像が生成される。また、上記説明では、図17に示すように、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像から、互いに異なる画素行群の画像信号を取得することによって複数の縞画像信号を取得し、その複数の縞画像信号を用いて位相コントラスト画像を生成するようにしたが、上記のようにして撮影された1枚の画像に基づいて複数の縞画像信号を生成するのではなく、上記のようにして撮影した1枚の画像に対してフーリエ変換を施すことによっても位相コントラスト画像を生成することができ、このような方法を採用してもよい。
【0154】
具体的には、まず、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像に対してフーリエ変換処理を施すことによって、その画像に含まれる被検体Bによる吸収情報と位相情報とを分離する。
【0155】
そして、周波数空間上において被検体Bによる位相情報の部分のみを抽出して周波数空間上の中心(原点)位置に移動した後、その抽出した位相情報に対して逆フーリエ変換処理を施し、各画素単位に対して、その結果の虚部を実部で除算したものの逆正接関数(arctan(虚部/実部))を演算することによって、式(17)における屈折角ψを求めることができる。そして、式(13)における位相シフト分布の微分量、すなわち、位相微分像を取得することができる。
【0156】
なお、上述のフーリエ変換を用いた位相コントラスト画像の生成方法では、第1の格子2の自己像G1の延伸方向と第2の格子3の延伸方向とが相対的に傾くように配置された状態で撮影された1枚の画像を用いることとしたが、これに限らず、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3の重ね合わせによってモアレが発生し、該モアレが検出されている少なくとも1枚の画像を用いてもよい。
【0157】
ここで、上述した光読取方式の放射線画像検出器の構成および作用について、以下に説明する。
【0158】
図22(A)は、光読取方式の放射線画像検出器400の斜視図、図22(B)は図22(A)に示す放射線画像検出器のXZ面断面図、図22(C)は図22(A)に示す放射線画像検出器のYZ面断面図である。
【0159】
放射線画像検出器400は、図22(A)〜(C)に示すように、放射線を透過する第1の電極層41、第1の電極層41を透過した放射線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層42、記録用光導電層42において発生した電荷のうち一方の極性の電荷に対しては絶縁体として作用し、且つ他方の極性の電荷に対しては導電体として作用する電荷蓄積層43、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層44、および第2の電極層45をこの順に積層してなるものである。なお、上記各層は、ガラス基板46上に第2の電極層45から順に形成されている。
【0160】
第1の電極層41としては、放射線を透過するものであればよく、たとえば、ネサ皮膜(SnO2)、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、アモルファス状光透過性酸化膜であるIDIXO(Idemitsu Indium X-metal Oxide ;出光興産(株))などを50〜200nm厚にして用いることができ、また、100nm厚のAlやAuなども用いることもできる。
【0161】
記録用光導電層42は、放射線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、放射線に対して比較的量子効率が高く、また暗抵抗が高いなどの点で優れているa−Seを主成分とするものを使用する。厚さは10μm以上1500μm以下が適切である。また、特にマンモグラフィ用途である場合には、150μm以上250μm以下であることが好ましく、一般撮影用途である場合には、500μm以上1200μm以下であることが好ましい。
【0162】
電荷蓄積層43は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性の膜であれば良く、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーやAs、Sb、ZnS等の硫化物、その他に酸化物、フッ化物より構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差がある物質が好ましい。
【0163】
好ましい化合物としては、AsSe、AsSeにCl、Br、Iを500ppmから20000ppmまでドープしたもの、AsSeのSeをTeで50%程度まで置換したAs(SeTe1−x(0.5<x<1)、AsSeのSeをSで50%程度まで置換したもの、AsSeからAs濃度を±15%程度変化させたAsSe(x+y=100、34≦x≦46)、アモルファスSe−Te系でTeを5−30wt%のもの等が挙げられる。
【0164】
この様なカルコゲナイド系元素を含む物質を用いる場合、電荷蓄積層の厚みは0.4μm以上3.0μm以下であること好ましく、より好ましくは0.5μm以上2.0μm以下である。この様な電荷蓄積層は、一度の製膜で形成しても良いし、複数回に分けて積層しても良い。
【0165】
なお、電荷蓄積層43の材料としては、第1の電極層41と第2の電極層45との間に形成される電気力線が曲がらないようにするため、その誘電率が、記録用光導電層42と読取用光導電層44の誘電率の1/2倍以上2倍以下のものを用いることが望ましい。
【0166】
読取用光導電層44としては、読取光の照射を受けることにより導電性を呈するものであればよく、たとえば、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc(Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Cupper phtalocyanine)などのうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。厚さは5〜20μm程度が適切である。
【0167】
第2の電極層45は、読取光を透過する複数の透明線状電極45aと読取光を遮光する複数の遮光線状電極45bとを有するものである。透明線状電極45aと遮光線状電極45bとは、放射線画像検出器400の画像形成領域の一方の端部から他方の端部まで連続して直線状に延びるものである。そして、透明線状電極45aと遮光線状電極45bとは、図22(A),(B)に示すように、所定の間隔を空けて交互に配列されている。
【0168】
透明線状電極45aは読取光を透過するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、第1の電極層41と同様に、ITO、IZOやIDIXOを用いることができる。そして、その厚さは100〜200nm程度である。
【0169】
遮光線状電極45bは読取光を遮光するとともに、導電性を有する材料から形成されている。たとえば、上記の透明導電材料とカラーフィルターを組み合せて用いることができる。透明導電材料の厚さは100〜200nm程度である。
【0170】
そして、放射線画像検出器400においては、後で詳述するが、隣接する透明線状電極45aと遮光線状電極45bとの1組を用いて画像信号が読み出される。すなわち、図22(B)に示すように、1組の透明線状電極45aと遮光線状電極45bとによって1画素の画像信号が読み出されることになる。たとえば、1画素が略50μmとなるように透明線状電極45aと遮光線状電極45bとを配置することができる。
【0171】
そして、図22(A)に示すように、透明線状電極45aと遮光線状電極45bの延伸方向に直交する方向(X方向)に延設された線状読取光源500を備えている。線状読取光源500は、LED(Light Emitting Diode)やLD(Laser Diode)などの光源と所定の光学系とから構成され、Y方向について略10μmの幅の線状の読取光を放射線画像検出器400に照射するように構成されている。そして、この線状読取光源500は、所定の移動機構(図示省略)によってY方向について移動するものであり、この移動により線状読取光源500から発せられた線状の読取光によって放射線画像検出器400が走査されて画像信号が読み出される。
【0172】
次に、上記のように構成された放射線画像検出器400の作用について説明する。
【0173】
まず、図23(A)に示すように高圧電源100によって放射線画像検出器400の第1の電極層41に負の電圧を印加した状態において、第1の格子2の自己像G1と第2の格子3との重ね合わせによって強度変調された放射線が、放射線画像検出器400の第1の電極層41側から照射される。
【0174】
そして、放射線画像検出器400に照射された放射線は、第1の電極層41を透過し、記録用光導電層42に照射される。そして、その放射線の照射によって記録用光導電層42において電荷対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層41に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として電荷蓄積層43に蓄積される(図23(B)参照)。
【0175】
次に、図24に示すように、第1の電極層41が接地された状態において、線状読取光源500から発せられた線状の読取光L1が第2の電極層45側から照射される。読取光L1は透明線状電極45aを透過して読取用光導電層44に照射され、その読取光L1の照射により読取用光導電層44において発生した正の電荷が電荷蓄積層43における潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が、透明線状電極45aに接続されたチャージアンプ200を介して遮光線状電極45bに帯電した正の電荷と結合する。
【0176】
そして、読取用光導電層44において発生した負の電荷と遮光線状電極45bに帯電した正の電荷との結合によって、チャージアンプ200に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出される。
【0177】
そして、線状読取光源500が、副走査方向(Y方向)に移動することによって線状の読取光L1によって放射線画像検出器400が走査され、線状の読取光L1の照射された読取ライン毎に上述した作用によって画像信号が順次検出され、その検出された読取ライン毎の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に順次入力されて記憶される。
【0178】
そして、放射線画像検出器400の全面が読取光L1に走査されて1フレーム全体の画像信号が位相コントラスト画像生成部61に記憶される。
【0179】
また、上記実施形態は、本発明の放射線位相画像撮影装置を乳房画像撮影表示システムに適用した例を説明したが、これに限らず、本発明の放射線位相画像撮影装置は、被検者を立位状態で撮影する放射線画像撮影システムや、被検者を臥位状態で撮影する放射線画像撮影システムや、被検者を立位状態および臥位状態で撮影可能な放射線画像撮影システムや、長尺撮影を行う放射線画像システムなどにも適用可能である。
【0180】
さらに、本発明は、3次元画像を取得する放射線位相CT装置や、立体視が可能なステレオ画像を取得するステレオ撮影装置などに適用することも可能である。
【0181】
また、上記実施形態においては、位相コントラスト画像を取得することによりこれまで描出が難しかった画像を得ることができるが、従来のX線画像診断学は吸収画像に基づいているため、位相コントラスト画像と対応して吸収画像が参照できると読影の助けになる。たとえば、吸収画像と位相コントラスト画像を重み付けや階調、周波数処理などの適当な処理によって重ね合わせることにより吸収画像が表現できなかった部分を位相コントラスト画像の情報で補うことは有効である。
【0182】
しかし、位相コントラスト画像とは別に吸収画像を撮影することは、位相コントラスト画像の撮影と吸収画像の撮影との間の撮影肢体のズレによって良好な重ね合わせを困難にするのに加え、撮影回数が増えることにより被検体の負担となる。また、近年、位相コントラスト画像や吸収画像の他に、小角散乱画像が注目されている。小角散乱画像は、被検体組織内部の微細構造に起因する組織性状を表現可能であり、たとえば、ガンや循環器疾患といった分野での新しい画像診断のための表現方法として期待されている。
【0183】
そこで、位相コントラスト画像を生成するために取得した複数枚の縞画像から、吸収画像を生成する吸収画像生成部や小角散乱画像を生成する小角散乱画像生成部をコンピュータ30にさらに設けるようにしてもよい。
【0184】
吸収画像生成部は、画素毎に得られる画素信号Ik(x,y)を、図29に示すようにkについて平均化して平均値を算出して画像化することにより吸収画像を生成するものである。なお、平均値の算出は、画素信号Ik(x,y)をkについて単純に平均化することにより行ってもよいが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素信号Ik(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の平均値を求めるようにしてもよい。また、正弦波に限らず、矩形波や三角波形状を用いるようにしてもよい。
【0185】
また、吸収画像の生成には、平均値に限られず、平均値に対応する量であれば、画素信号Ik(x,y)をkについて加算した加算値等を用いることが可能である。
【0186】
小角散乱画像生成部は、画素毎に得られる画素信号Ik(x,y)の振幅値を算出して画像化することにより小角散乱画像を生成する。なお、振幅値の算出は、画素信号Ik(x,y)の最大値と最小値との差を求めることによって行ってもよいが、Mが小さい場合には誤差が大きくなるため、画素信号Ik(x,y)を正弦波でフィッティングした後、フィッティングした正弦波の振幅値を求めるようにしてもよい。また、小角散乱画像の生成には、振幅値に限られず、平均値に関係するばらつきに対応する量として、分散値や標準偏差などを用いることができる。
【0187】
また、位相コントラスト画像は、第1および第2の格子2,3の部材22,32の周期配列方向(X方向)のX線の屈折成分に基づくものとなり、部材22,23の延伸方向(Y方向)の屈折成分は反映されない。すなわち、X方向に交差する方向(直交する場合はY方向)に沿った部位輪郭がX方向の屈折成分に基づく位相コントラスト画像として描出されるのであり、X方向に交差せずにX方向に沿っている部位輪郭はX方向の位相コントラスト画像として描出されない。すなわち、被検体Hとする部位の形状と向きによっては描出できない部位が存在する。例えば、膝等の関節軟骨の荷重面の方向を格子の面内方向であるXY方向のうちY方向に合わせると、Y方向にほぼ沿った荷重面(YZ面)近傍の部位輪郭は十分に描出されるが、荷重面に交差しX方向にほぼ沿って延びる軟骨周辺組織(腱や靭帯など)については描出が不十分になると考えられる。被検体Bを動かすことにより、描出が不十分な部位を再度撮影することは可能ではあるが、被検体B及び術者の負担が増えることに加え、再度撮影した画像との位置再現性を担保することが難しいといった問題がある。
【0188】
そこで、他の例として、図30に示すように、第1および第2の格子2,3の格子面の中心に直交する仮想線(X線の光軸A)を中心として、第1および第2の格子2,3を、図30(a)に示すような第1の向きから任意の角度で回転させて、図30(b)に示すような第2の向きとする回転機構180をグリッドユニット16内に設け、第1の向きと第2の向きとのそれぞれにおいて位相コントラスト画像を生成するように構成することも好適である。
【0189】
こうすることで、上述した位置再現性の問題をなくせる。なお、図30(a)には、第2の格子3の部材32の延伸方向がY方向に沿う方向となるような第1および第2の格子2,3の第1の向きを示し、図30(b)には、図30(a)の状態から90度回転させ、第2の格子3の部材32の延伸方向がX方向に沿う方向となるような第1および第2の格子2,3の第2の向きを示したが、第1の格子2と第2の格子3との間の傾き関係を維持した状態であれば、第1および第2の格子2,3の回転角度は任意である。また、第1の向きおよび第2の向きに加えて、第3の向き、第4の向きなど、2回以上の回転操作を行って、それぞれの向きでの位相コントラスト画像を生成するように構成してもよい。
【0190】
また、上述したように、1次元格子である第1および第2の格子2,3を回転させるのではなく、第1および第2の格子の2,3を、それぞれの部材22,32を2次元方向に延設した2次元格子の構成としてもよい。
【0191】
このように構成することにより、1次元格子を回転させる構成と比較すると、1度の撮影で第1の方向、第2の方向に対する位相コントラスト画像が得られるため、撮影間の被検体の体動や装置振動の影響がなく、第1および第2の方向の位相コントラスト画像間の位置再現性においてより良好である。また、回転機構を排除することで、装置の簡略化、コストダウンが可能である。
【符号の説明】
【0192】
1 放射線源
2 第1の格子
3 第2の格子
4 放射線画像検出器
5 走査機構
6 カセッテ移動機構
10 乳房画像撮影装置
13 アーム部
14 撮影台
15 放射線源ユニット
16 グリッドユニット
16a グリッド支持部
17 カセッテユニット
17a カセッテ支持部
18 圧迫板
30,37,38 コンピュータ
40 モニタ
60 制御部
60a 移動機構制御部
61 位相コントラスト画像生成部
62 拡大率取得部
63 カセッテサイズ取得部
64 許容拡大率算出部
65 グリッドサイズ取得部
66 拡大率設定部
67 許容照射野サイズ算出部
68 照射野サイズ取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、該第1の格子により形成された周期パターン像を透過する部分と遮蔽する部分とからなる格子構造が周期的に配置され、第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器とを備えた放射線位相画像撮影装置であって、移動機構によって前記放射線画像検出器を前記放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させて拡大撮影を行う放射線位相画像撮影装置を用いた放射線位相画像撮影方法において、
前記放射線画像検出器のサイズ情報と前記第1および第2の格子のうちの少なくとも一方のサイズ情報とに基づいて、前記第1および第2の格子を透過した放射線が前記放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出することを特徴とする放射線位相画像撮影方法。
【請求項2】
格子構造が周期的に配置され、放射線源から射出された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1の格子と、該第1の格子により形成された周期パターン像を透過する部分と遮蔽する部分とからなる格子構造が周期的に配置され、第2の周期パターン像を形成する第2の格子と、該第2の格子によって形成された前記第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器と、該放射線画像検出器を前記放射線源に対して相対的に離接する方向に移動させる移動機構とを備え、該移動機構によって前記放射線画像検出器を移動させることによって拡大撮影を行う放射線位相画像撮影装置であって、
前記放射線画像検出器のサイズ情報と前記第1および第2の格子の少なくとも一方のサイズ情報とに基づいて、前記第1および第2の格子を透過した放射線が前記放射線画像検出器内に収まるような許容拡大率を算出する許容拡大率算出部を備えたことを特徴とする放射線位相画像撮影装置。
【請求項3】
前記放射線画像検出器が交換可能なものであることを特徴とする請求項2記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項4】
前記放射線画像検出器のサイズ情報を取得する検出器サイズ情報取得部を備え、
前記許容拡大率算出部が、前記検出器サイズ情報取得部によって取得されたサイズ情報に基づいて前記許容拡大率を算出するものであることを特徴とする請求項3記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項5】
前記拡大撮影における拡大率の入力を受け付けて取得する拡大率取得部を備え、
前記移動機構が、前記拡大率取得部において取得された拡大率に応じて前記放射線画像検出器を移動させるものであることを特徴とする請求項2から4いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項6】
前記拡大率取得部によって取得された拡大率が前記許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、該拡大率に応じた距離だけ前記放射線画像検出器を移動させるよう前記移動機構を制御する移動機構制御部を備えたことを特徴とする請求項5記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項7】
前記拡大率取得部によって取得された拡大率が前記許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、該拡大率に応じた拡大撮影を許可する撮影制御部を備えたことを特徴とする請求項5または6記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項8】
前記第1および第2の格子のうちの少なくとも一方が交換可能に構成されたものであることを特徴とする請求項2から7いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項9】
前記第1および第2の格子のうちの少なくとも一方のサイズ情報を取得するグリッドサイズ取得部を備え、
前記許容拡大率算出部が、前記グリッドサイズ取得部によって取得された前記第1および第2の格子のうちの少なくとも一方のサイズ情報と前記放射線画像検出器のサイズ情報とに基づいて、前記許容拡大率を算出するものであることを特徴とする請求項8記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項10】
前記拡大率取得部において取得された拡大率が前記許容拡大率よりも大きい場合には、その旨を報知する拡大率報知部を備えたことを特徴とする請求項5項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項11】
前記許容拡大率を出力する許容拡大率出力部を備えたものであることを特徴とする請求項2から10いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項12】
前記放射線源と前記第1の格子との間に配置され、前記放射線源から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞りと、
前記許容拡大率に基づいて、前記照射野絞りの許容照射野サイズを算出する許容照射野サイズ算出部とを備えたことを特徴とする請求項2から11いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項13】
前記照射野絞りの照射野サイズの入力を受け付けて取得する照射野サイズ取得部と、
該照射野サイズ取得部によって取得された照射野サイズが前記許容照射野サイズよりも大きい場合には、その旨を報知する照射野サイズ報知部とを備えたことを特徴とする請求項12記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項14】
前記許容照射野サイズを出力する許容照射野サイズ出力部を備えたものであることを特徴とする請求項12または13記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項15】
前記許容照射野サイズに基づいて、前記照射野絞りの設定可能な照射野サイズを制限する照射サイズ制限部を備えたことを特徴とする請求項12から14いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項16】
前記放射線源と前記第1の格子との間に配置され、前記放射線源から射出された放射線の照射範囲を制限する照射野絞りと、
前記放射線画像検出器のサイズ情報と前記第1および第2の格子のサイズ情報とに基づいて算出された前記許容拡大率を第1の許容拡大率候補として取得するとともに、前記放射線画像検出器のサイズ情報と前記照射野絞りの照射野サイズとに基づいて第2の許容拡大率候補を算出する許容拡大率候補取得部とを備えたものであることを特徴とする請求項2から11いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項17】
前記照射野絞りの照射野サイズの入力を受け付けて取得する照射野サイズ取得部を備えたことを特徴とする請求項16記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項18】
前記照射野絞りの照射野サイズを予め取得した画像において設定された範囲に基づいて取得する照射野サイズ取得部を備えたことを特徴とする請求項16記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項19】
前記許容拡大率算出部が、前記第1の許容拡大率候補と前記第2の許容拡大率候補とを比較し、大きい方の許容拡大率候補を最終的な許容拡大率として決定するものであることを特徴とする請求項16から18いずれか1項記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項20】
前記移動機構制御部が、入力された拡大率が前記最終的な許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、該拡大率に応じた距離だけ前記放射線画像検出器を移動させるよう前記移動機構を制御するものであることを特徴とする請求項19記載の放射線位相画像撮影装置。
【請求項21】
入力された拡大率が前記最終的な許容拡大率の範囲内の拡大率の場合にのみ、該拡大率に応じた拡大撮影を許可する撮影制御部を備えたことを特徴とする請求項19または20記載の放射線位相画像撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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