説明

放射線撮影装置

【課題】放射線撮影装置において、放射線撮影の撮影効率を低下させることなく操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制できるようにする。
【解決手段】判別部50により、機器5に設けられた操作部20が操作されているか否かを判別する。補正部60が、操作部20が操作されていないと判別されているときに検出部30から出力されるこの操作部20に加えられた外力の大きさと方向を示す信号Sの値を、機器5の移動を支援する移動支援部10の制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する。制御部40により、検出部30で検出された信号Sの示す外力の方向への機器5の移動を支援するように、かつ、信号Sの値が制御の不感帯の範囲に含まれるときには前記支援を行わないように移動支援部10を制御して機器5を付勢しこの機器5の手動による移動を支援する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線撮影装置に関し、詳しくは、放射線撮影に用いられる機器を付勢してこの機器の手動による移動を支援する放射線撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、開業医、診療所等、比較的小規模な医療施設においては、撮影部位に応じた専用の放射線撮影装置を設置することは少なく、一台の放射線撮影装置を用いて要求される様々な撮影体位に応じた放射線撮影を実施している。例えば、立位撮影台、臥位撮影台等を同一の撮影室に設置し、放射線源を天井走行懸垂器等で支持してこの放射線源を移動させたり放射線源の姿勢を変えたりして、放射線の照射方向を各撮影台の方向に向けるように調節する放射線撮影装置が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、このような放射線源等の機器に一体化された操作ハンドルを有し、その操作ハンドルに対して外力が加えられたときにその外力の方向へ機器を付勢して機器の手動による移動を支援する(以後、この移動支援をパワーアシストともいう)放射線撮影装置も知られている(特許文献3参照)。このパワーアシスト付きの放射線撮影装置においては、放射線撮影を行う操作者が、手動で操作ハンドルへ外力を加えることによりこの操作ハンドルが取り付けられた各機器を移動させている。
【0004】
また、このようなパワーアシストの制御を行う際に不感帯が設けられている装置、例えば、操作ハンドルに加えられた外力を測定し、この測定された外力が一定値以上になったときにのみ、この操作ハンドルが取り付けられた機器を付勢するものが知られている(特許文献4参照)。このような不感帯を設けた制御により、不注意による操作ハンドルへの軽微な接触や外部から加えられた僅かな振動等によって生じる装置の不要な移動を防いでいる。
【0005】
さらに、操作ハンドルに加えられた外力からこの操作ハンドルの自重分を差し引いて上記移動支援を実施することにより、パワーアシストの制御をより正確に実施しようとする放射線撮影装置も知られている(上記特許文献3参照)。このパワーアシストの制御は、パワーアシストの制御対象とする機器に一体化された操作ハンドルの傾斜角度と、予め記憶させた操作ハンドルの自重とを用いてパワーアシスト用の付勢力を修正して、操作者が機器を移動させるときの操作性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−5909号公報
【特許文献2】特開2007−244569号公報
【特許文献3】特開2000―316838号公報
【特許文献4】特開2001−106082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、パワーアシストの制御における不感帯の設定は、経時変化、環境変化等の影響によってずれることがある。すなわち、例えば、操作ハンドル等の操作部に対して左右方向から加えられる外力が共に500gfを超えたときに、パワーアシストの付勢力が発生すべきところ、左方向から加えられた外力が700gfを超えたとき、および右方向から加えられた外力が300gfを超えたときにパワーアシストの付勢力が発生するように不感帯の設定がずれることがある。このような不感帯のずれが生じた場合には、操作部に一体化された機器を左右方向へ移動させるときの操作部の操作性の違いを操作者が感じることになる。
【0008】
さらに、このような不感帯のずれが大きくなると、操作部に外力が加えられていなくともパワーアシスト用の付勢力が発生してしまい、この操作部が取り付けられた機器が暴走するおそれがある。
【0009】
このような不感帯のずれを補正するためには、放射線撮影を中断して作業を行う必要があり、放射線撮影を中断させて不感帯のずれを修正しなければならない。
【0010】
そのため、パワーアシストの制御における不感帯の設定のずれを、放射線撮影を中断することなく修正したいという要請がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放射線撮影の撮影効率を低下させることなく操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制することができる放射線撮影装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線撮影装置は、放射線撮影に用いられる機器を付勢してこの機器の手動による移動を支援する移動支援手段と、移動支援手段の支援を受ける機器の移動を操作するためこの機器に設けられた操作部と、操作部に加えられた外力を検出し、この外力の大きさと方向を示す信号を出力する検出手段と、検出手段で検出され出力された信号の示す外力の方向への機器の移動を支援するように、かつ、前記信号の値が不感帯の範囲に含まれるものであるときには前記支援を行わないように移動支援手段を制御する制御手段とを備えた放射線撮影装置であって、操作部が操作されているか否かを判別する判別手段と、操作部が操作されていないと判別されているときに得られた信号の値を、制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する補正手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
なお、前記不感帯の範囲は、移動支援手段の制御における不感帯の範囲を意味するものである。すなわち、この不感帯の範囲は、操作部に加えられた外力を検出する検出手段から出力された信号の値に対して制御手段が感度を持たないように定められた範囲である。したがって、検出手段から出力された信号の値が、この制御の不感帯の範囲に含まれるときには、移動支援手段による機器の移動の支援は実施されない。
【0014】
また、「操作部が操作されていないと判別されているときに得られた信号の値を、制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する」とは、操作部が操作されていないと判別されているときに検出手段で検出され出力された信号の値の上限値と下限値の両方が、制御における不感帯の範囲内に対応付けられるように補正することを意味する。
【0015】
前記判別手段は、検出手段から出力された信号の値が一定のときに操作部が操作されていないと判別するものとすることができる。
【0016】
前記判別手段は、検出手段から出力された信号の変動幅が予め定められた所定幅以下であるときに操作部が操作されていないと判別し、信号の変動幅が予め定められた所定幅を超えているときに操作部が操作されていると判別するものとすることができる。なお、判別手段は、予め定められた所定時間以上に亘って検出手段から出力された信号の変動幅が予め定められた所定幅以下であるときに、操作部が操作されていないと判別するものとすることが望ましい。
【0017】
前記判別手段は、検出手段から出力された信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しであるときに操作部が操作されていないと判別し、信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しではないときに操作部が操作されていると判別するものとすることができる。
【0018】
前記補正手段は、操作部が操作されていないと判別されているときに検出手段から出力された信号の変動範囲の中心に対応する信号の値を、制御における不感帯の範囲の中心に対応させるように補正するものとすることができる。なお、検出手段から出力された信号の変動範囲の中心に対応する信号の値は、上記検出手段から出力された信号の値の最大値と最小値の中間の値とすることができる。
【0019】
前記補正手段は、操作部が操作されていないと判別されているときに得られた信号の値の平均値を、制御における不感帯の範囲の中心に対応させるように補正するものとすることができる。
【0020】
前記補正手段は、操作部が操作されていないと判別されているときに検出手段で検出され出力された信号の値の上限値と下限値の両方が制御における不感帯の範囲に入るように、不感帯の中心、不感帯の上限、および不感帯の下限のうちの少なくともいずれか1つを補正するものとすることができる。
【0021】
前記補正手段は、操作部が操作されていないと判別されているときに検出手段から出力された信号の変動幅に応じて不感帯の幅を変更するものとすることができる。
【0022】
前記補正手段は、検出手段から出力される信号および/または制御手段の制御特性に対して、補正を施すものとすることができる。なお、補正手段は、検出手段の出力特性を変更したり、制御手段の入力特性を変更したりして、操作部が操作されていないと判別されているときに検出手段から出力される信号の値を、制御における不感帯の範囲に含まれるように補正するものとすることができる。
【0023】
前記移動支援手段は、機器を天井から懸垂した状態で支持しつつ、この機器の鉛直方向および水平方向への移動を支援するものとすることができる。
【0024】
前記機器は、移動支援手段に対して姿勢を変更可能なものとすることができる。
【0025】
前記機器は、放射線撮影に用いられる放射線源または放射線検出器とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の放射線撮影装置によれば、操作部が操作されているか否かを判別する判別手段と、操作部が操作されていないと判別されているときに検出部から出力された信号の値を、制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する補正手段とを備えるようにしたので、放射線撮影の撮影効率を低下させることなく操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制することができる。
【0027】
すなわち、操作部は、放射線撮影中に常に操作され外力を受けているわけではなく、放射線撮影中であったとしても操作部が操作されることなくこの操作部が外力を受けていないときがある。そこで、放射線撮影中に操作部に外力が加えられているか否かを判別部で判別し、操作部に外力が加えられていないとき、すなわち操作部が操作されていないときに検出部から出力された信号(この操作部に加えられた外力の大きさと方向を示すはずの信号)を得、補正手段がこの信号の値を制御の不感帯の範囲内に対応付けるようにすることができる。これにより、放射線撮影を実施中であるか否かに拘わらず、操作部に外力が加えられていないときにはパワーアシスト用の付勢力を発生させないように自動的に補正ことができ、放射線撮影の撮影効率を低下させることなく操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制することができる。
【0028】
また、判別手段を、検出手段で検出された信号の値が一定のときに操作部が操作されていないと判別するものとすれば、より確実に操作部が操作されているか否かを判別することができる。
【0029】
また、判別手段を、検出手段から出力された信号の変動幅が予め定められた所定幅を超えているときに操作部が操作されていると判別し、検出手段から出力された信号の変動幅が予め定められた所定幅以下であるときに操作部が操作されていないと判別するものとしたり、また、この判別手段を、検出手段から出力された信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しであるときに操作部が操作されていないと判別し、検出手段から出力された信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しではないときに操作部が操作されていると判別するものとすれば、より確実に操作部が操作されているか否かを判別することができる。
【0030】
また、補正手段を、操作部が操作されていないと判別されているときに得られた信号の変動範囲の中心に対応する信号の値を制御における不感帯の中心に対応付けるように補正するものとしたり、この補正手段を、操作部が操作されていないと判別されているときに得られた信号の平均値を制御における不感帯の範囲の中心に対応付けるように補正するものとすれば、より確実に、操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制することができる。
【0031】
すなわち、例えば、操作部に対して正方向への外力を加えても移動支援手段が付勢力を発生させない不感帯となる正方向における外力の範囲と、操作部に対してこの1方向とは反対の逆方向への外力を加えても移動支援手段が付勢力を発生させない不感帯となる逆方向における外力の範囲とを略等しくすることができ、操作者が操作部を正方向と逆方向とへ移動させるときに付勢力を受けるときの操作性(操作感触)の違いを少なくすることができるので、操作部を用いた移動支援の品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態による立位撮影を行う場合の天井懸垂式の放射線撮影装置の概略構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態による臥位撮影を行う場合の天井懸垂式の放射線撮影装置の概略構成を示す図
【図3】移動支援手段を拡大して示す斜視図
【図4】検出部によって検出され出力される信号の値を示す図
【図5】無操作時の信号と制御の不感帯の範囲の関係が正しい状態を示す図
【図6】無操作時の信号と制御の不感帯の範囲の関係がずれた状態を示す図
【図7】無操作時の信号と制御の不感帯の範囲の関係が大幅にずれた状態を示す図
【図8】検出部によって検出され出力された2種類の信号の変動を示す図
【図9】外力を示す信号の値と移動支援の付勢力の関係を示す2種類の制御特性曲線を示す図
【図10】操作部と検出部のハードウエア部分をそれぞれを拡大して示す斜視図
【図11】ハードウエア部分の標準状態と傾いた状態とを比較して示す図
【図12】本発明の放射線撮影装置の動作を示すフローチャート
【図13】本発明を適用した床上起立式の放射線撮影装置を示す図
【図14】本発明を適用した他の床上起立式の放射線撮影装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1、2は本発明の実施の形態による放射線撮影装置の概略構成を示す斜視図である。図1は、立位の放射線撮影を行うときの様子を示す側面図、図2は、臥位の放射線撮影を行うときの様子を示す側面図、図3は移動支援手段である移動支援部を拡大して示す斜視図である。
【0034】
図1、2、3に示すように本発明の放射線撮影装置100は、天井懸垂式の放射線撮影装置であって、放射線撮影に用いられる機器である放射線源5と、放射線源5から照射され被験者1を通った放射線を検出する放射線検出器6と、放射線源5を天井Teから懸垂した状態で支持しつつこの放射線源5を鉛直方向および水平方向へ付勢して、操作者2による放射線源5の手動による移動を支援する移動支援部10と、移動支援部10の支援を受ける放射線源5の移動を操作するための、この放射線源5に一体的に設けられた操作部の1例である操作ハンドル20と、操作ハンドル20に加えられた外力を検出し、その外力の大きさおよび方向を示す信号Sを出力する検出部30とを備えている。
【0035】
移動支援部10は、放射線源5を移動させるときに操作者2が操作ハンドル20に加える外力の大きさを軽減するために放射線源5を付勢するものであり、操作者2による放射線源5の移動を支援するものである。
【0036】
なお、放射線源5は、移動支援部10に対する姿勢の変更が可能である。また、この放射線源5は250Kg程度の質量を持つため手動のみでの移動は容易ではない。
【0037】
より具体的には、移動支援部10は、図3に示すように、天井9に架設された固定レール11、この固定レール11の延びる方向に対して直交する方向に延びるレールであって、固定レール11に懸架された状態でこの固定レール11の延びる方向(図中矢印Y方向)へ走行可能な可動レール12、この可動レール12に懸架された状態でこの可動レール12の延びる方向(図中矢印X方向)へ移動可能な水平移動台13、この水平移動台13の下側に取り付けられ、多段繰り出し方式により鉛直方向(図中矢印Z方向)へ伸縮可能な支柱14と、上記Y方向への可動レール12の移動、X方向への水平移動台13の移動、Z方向への支柱の伸縮を行うための各駆動モータ(図示は省略)とを備えている。
【0038】
支柱14の下端には放射線源5が取り付けられている。この放射線源5は、支柱14に対して姿勢の変更が可能であり、図1、2に示すように、立位の放射線撮影と臥位の放射線撮影とが可能となるように、水平軸Hjの回り(図3中矢印RA方向)に回転可能に支柱14に支持されている。
【0039】
ここでは、放射線源5は検出部30を介して操作ハンドル20に対して一体的に取り付けられており、この検出部30が、操作ハンドル20に加えられた外力の方向と大きさを検出する。検出部30は、例えば、X方向、Y方向、およびZ方向に加えられたそれぞれの力を検出したり、X方向の軸の回り、Y方向の軸の回り、Z方向の軸の回りに加えられたそれぞれの力(回転モーメント)を検出することにより、操作ハンドル20に加えられた外力の方向と大きさを検出する。
【0040】
また、この放射線撮影装置100は、検出部30で検出され出力された信号Sの示す外力の方向への放射線源5の移動を支援するように、かつ、信号Sの値が移動支援部10の制御における不感帯の範囲に含まれるものであるときには上記支援を行わないように移動支援部10を制御する制御部40を備えている。
【0041】
上記制御の不感帯は、操作ハンドル20に加えられた所定以下の外力に対して制御部40が感度を持たないように、すなわち上記支援を行わないようにするために定めたものであり、検出部30から出力され制御部40に入力された信号Sの値が所定範囲内に含まれるときにこの制御部40が上記放射線源5の移動を支援する付勢を行わないようにするためのものである。
【0042】
さらに、この放射線撮影装置100は、操作ハンドル20が操作されているか否かを判別する判別部50と、判別部50により、操作ハンドル20が操作されていないと判別されているときに出力された信号S(以後、無操作時の信号Sともいう)の値を、制御部40の制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する補正部60とを備えている。
【0043】
すなわち、補正部60は、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値を、制御部40の制御における不感帯の範囲内に対応付けるように補正する。ここで、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値が変動するものであっても、この変動する無操作時の信号Sの値に対して制御部40が制御の感度を持たないようにするため、補正部60が検出部30の出力特性を変更させる。より具体的には、補正部60は、変動する無操作時の信号Sの値が制御の不感帯の範囲に含まれるように、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値をシフトさせるように検出部30の出力特性を変更させる。
【0044】
ここでは、補正部60が、操作ハンドル20が操作されていないと判別されているときに検出部30から出力される無操作時の信号Sの値を一定量大きくあるいは小さくするように検出部30の出力特性を変更させて、この検出部30から出力される無操作時の信号Sの値が制御の不感帯の範囲内に対応付けられるようにする。
【0045】
なお、補正部60は、操作ハンドル20が操作されていないと判別されているときに検出部30で検出され出力される無操作時の信号Sの値の平均値やこの無操作時の信号Sの値の変動範囲の中心に対応する信号の値を、制御部40で制御を行うための入力における不感帯の範囲の中心に対応付けるように補正するものとすることが望ましい。
【0046】
ここで、無操作時の信号Sの値の変動範囲の中心に対応する信号の値は、所定時間以上に亘って出力される無操作時の信号Sの値の最大値と最小値との中間の値(中間の値=(最大値+最小値)/2)とすることができる。
【0047】
さらに、補正部60は、無操作時の信号Sの値の変動幅に応じて制御の不感帯の幅を変更するように、制御部40の制御特性を補正するものとすることができる。
【0048】
なお、このような無操作時の信号Sの値の変動は、例えば、この放射線撮影装置100を設置した建物自体の振動や、建物内の空調設備等の振動等に起因するものである。
【0049】
また、判別部50は、ここでは、検出部30から出力される信号を用いて、操作ハンドル20が操作されているか否かを判別するものである。
【0050】
この判別部50は、検出部30から出力される信号Sの値の変動幅が所定時間以上に亘って予め定められた所定幅以下であるときに、操作ハンドル20が操作されていないと判別し、その信号Sの値の変動幅が予め定められた所定幅を超えているときに、操作ハンドル20が操作されていると判別するものとする。
【0051】
なお、判別部50は、検出部30から出力された信号Sの変動が同じ変動パターンの繰り返しであるときに操作ハンドル20が操作されていないと判別し、信号Sの変動が同じ変動パターンの繰り返しではないときに操作ハンドル20が操作されていると判別するものとすることもできる。さらに、この判別部50は、検出部30から出力される信号Sの値が変動せず大きさが一定のときに操作ハンドル20が操作されていないと判別するものとすることもできる。
【0052】
図4は、判別部50による判別手法を示すものであり、横軸tに経過時間、縦軸Eに電圧を示す座標上に、検出部30によって検出され出力される信号Sの値(電圧)を示すものである。
【0053】
なお、信号Sは、上記のように操作ハンドル20に加えられた外力と方向を示すものであり、例えば、校正された標準状態において、右方向、前方向、および上方向に加えられた外力を正の電圧で示し、左方向、後方向、および下方向に加えられた外力を負の電圧で示すとともに、加えられた外力の大きさを電圧の絶対値で示すものとすることができる。
【0054】
上記図4中の領域R1に示すように、判別部50は、例えば、信号Sの示す電圧が、所定時間T1以上に亘り、所定幅Wo以下であるときに、操作ハンドル20が操作されていないと判別する。
【0055】
一方、図4中の領域R2に示すように、判別部50は、信号Sの示す電圧の所定時間T1以上に亘る変動が所定幅Woを超えるときに操作ハンドル20が操作されていると判別する。
【0056】
なお、上記図4中の領域R3に示すように、判別部50は、信号Sの示す電圧が上記領域R1に示す場合から平行移動(シフト)していても、所定時間T1以上に亘り信号Sの示す電圧の変動が所定幅Wo以下であるときには、操作ハンドル20が操作されていないと判別する。
【0057】
例えば、放射線源5の姿勢変更に伴い、操作ハンドル20の姿勢が変わると、検出部30で検出される無操作時の信号Sの値が変化することがある。しかしながら、そのような場合でもこの無操作時の信号Sの値の変動の幅は殆ど変化しない。それにより、判別部50は、操作ハンドル20が操作されているか否かを操作ハンドル20の姿勢に拘わらず正しく判別することができる。上記放射線源5の姿勢が変更されたときの作用については後述する。
【0058】
なお、上記無操作時の信号Sの示す電圧の値の変動幅は、この電圧の値の最大値と最小値との差の値として求めたり、この無操作時の信号Sの示す変動する電圧の値の平均値とこの平均値からの信号の値のずれを統計的に処理して求めたりすることができる。
【0059】
なお、放射線撮影を行うための装置全体の同期や各部の動作タイミング等はコントローラ95によって制御される。
【0060】
次に、上記実施の形態の放射線撮影装置100を用いて立位の放射線撮影を行う作用について説明する。
【0061】
立位の放射線撮影を行う操作者2は、立位の撮影台3に支持された放射線検出器6の前面側に被験者1を起立させる(図1参照)。なお、臥位の放射線撮影を行うときには、臥位の撮影台4に配された放射線検出器6の前面側に被験者1を臥位の姿勢で配置する(図2参照)。
【0062】
次に、操作者2は、放射線源5に一体的に設けられた操作ハンドル20を把持し、放射線源5を移動させる方向への外力を操作ハンドル20に対して加える。
【0063】
操作ハンドル20に加えられた外力の大きさと方向は、検出部30で検出され、検出された上記外力の大きさと方向を示す信号Sが連続的に判別部50および制御部40に入力される。
【0064】
制御部40は、この制御部40へ入力された信号Sの値がこの制御部40における制御の不感帯の範囲に含まれるときには、放射線源5の移動の支援を行わないように移動支援部10を制御する。一方、信号Sの値が制御の不感帯の範囲から外れているときには、この信号Sの示す方向へ放射線源5を付勢するように移動支援部10の有する各駆動モータを制御する。
【0065】
これにより、放射線源5は、移動支援部10からの付勢力と操作者2により操作ハンドル20を介して加えられた外力とを同時に受けて移動せしめられる。
【0066】
このように、操作者2による操作ハンドル20の操作に応じた制御部40の制御により、移動支援部10が質量250kgの放射線源5を鉛直方向および水平方向へ付勢するので、操作者2は放射線源5を所望位置へ容易に移動させることができる。
【0067】
そして、放射線撮影を行うときには、放射線源5、放射線検出器6、および被験者1が所定位置に配置された後、操作者2がコントローラ95を介して放射線撮影の指示を各部に与える。これにより、放射線源5から照射された放射線Xeが被験者1を通過して放射線検出器6で検出される。
【0068】
放射線検出器6は、この放射線検出器6で検出された被験者1の放射線像を表す画像信号を出力し、放射線撮影装置100を用いた放射線撮影が終了する。
【0069】
なお、上記操作ハンドル20に加えられた外力の大きさと方向を示す信号Sは、放射線撮影を実施している間においても連続的に判別部50や制御部40へ出力される。
【0070】
判別部50は、上記放射線撮影を実施している間においても、常に、検出部30から出力された信号Sを入力し、操作ハンドル20が操作されているか否かを判別して、この判別した結果を示す信号Skおよび上記信号Sを補正部60に入力する。
【0071】
そして、補正部60は、上記放射線撮影を実施している間においても、操作ハンドル20が操作されていないと判別した判別信号Skを判別部50から入力したときには、上記操作ハンドル20が操作されていないときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの変動の中心を制御部40による制御の不感帯の範囲の中心に対応させるように検出部30の出力特性を変更させる。
【0072】
次に、上記補正部60による補正について、図5から図7を参照して具体的に説明する。
【0073】
図5から図7は、いずれも縦軸に電圧E、横軸に力Gを示す座標上に、操作ハンドルに加えられた外力を検出して出力される信号Sの値である電圧と、この電圧を入力した制御部40の制御により移動支援部10に発生させる付勢力との関係を示すものである。上記電圧と付勢力の関係を示す制御特性曲線を符号F1で示す。また、制御における不感帯の範囲を符号Q1で示す。
【0074】
また、図5から図7中に、変動する無操作時の信号Sの電圧の値の平均値それぞれを各図中に符号S(0V)、S(3V)、S(7V)、S(4V)で示す。
【0075】
さらに、図5から図7中に、無操作時の信号Sの電圧の値の変動範囲それぞれを各図中に矢印U(0V)、U(3V)、U(7V)、U(4V)で示すとともに、各図中に上記無操作時の信号Sの電圧の値の変動を時間軸tに沿って補助的に破線で示す。
【0076】
なお、無操作時の信号Sの電圧の値の変動幅は、図5から図7のいずれの場合も4V(±2V)である。
【0077】
図5は、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値と制御部40における制御の不感帯の範囲Qとの関係が望ましい状態に設定されている様子を示すものであり、無操作時の信号Sの値が制御の不感帯の範囲内に入っており、かつ、無操作時の信号Sの値の平均値が制御における不感帯の範囲Qの中心に対応している場合を示している。
【0078】
より具体的には、操作ハンドル20が操作されていないと判別されているときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの電圧の変動範囲±2V(図5中矢印U(0V)で示す)が制御の不感帯の範囲±5V内に入っており、かつ、無操作時の信号Sの値の平均値(図5中符号S(0V)で示す値)が、制御における不感帯の範囲±5Vの中心である0Vに対応している場合を示す図である。
【0079】
このように、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値とこの無操作時の信号Sが入力される制御部40における不感帯の範囲Qとの関係が定められている場合には、移動支援部10による放射線源5の移動の支援は、操作ハンドル20を押した場合と引いた場合のいずれの方向においても同じ力を加えたときに付勢力の支援が始まるので、操作ハンドルを用いた移動支援について良好な操作性を得ることができる。
【0080】
ここで、判別部50が操作ハンドル20が操作されていないと判別しているときには、補正部60が、無操作時の信号Sの電圧の平均値を、制御部40による制御の不感帯の範囲Qの中心である0Vに対応させるように補正しようとする。しかしながら、既に無操作時の信号Sの電圧の平均値は0Vなので、そのような補正を行なっても、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値とこの無操作時の信号Sを入力する制御部40の制御における不感帯の範囲Qとの関係は変化しない。したがって、このような状態において補正部60による補正が実施されても、移動支援部10による移動支援に関する操作性について変化はない。
【0081】
図6は、無操作時の信号Sの値の平均値が、制御における不感帯の範囲の中心から外れているが、変動する無操作時の信号Sの値が制御の不感帯の範囲内に入っている場合を示す図である。
【0082】
より具体的には、操作ハンドルが操作されていないと判別されているときに得られた無操作時の信号Sの電圧の値の平均値(図6中符号S(3V)で示す値)が+3Vであり、制御における不感帯の範囲±5Vの中心から外れているが、無操作時の信号Sの値の変動範囲+1V〜+5V(図6中矢印U(3V)で示す)は制御の不感帯の範囲±5V内に入っている場合を示す図である。
【0083】
このような場合の移動支援部10による放射線源5の移動の支援は、例えば、操作ハンドル20を押したときには僅かな力で付勢力の支援を受けられるが、操作ハンドル20を引いたときには上記押したときよりも大きな力で引かないと付勢力の支援を受けられない状態となり、操作ハンドルを用いた移動支援の操作性は多少が低下する。しかしながら、操作ハンドル20に外力を加えていないのに移動支援部10による駆動力が発生して放射線源5が自走(暴走)するようなことは防ぐことができる。
【0084】
なお、補正部60を、操作ハンドル20が操作されていないと判別部50により判別されているときに、単に、無操作時の信号Sの値を制御の不感帯の範囲に含まれるように補正するものとした場合には、既に無操作時の信号Sの値の変動範囲+1V〜+5Vが制御の不感帯の範囲±5V内に入っているので、補正部60による補正を行なっても、無操作時の信号Sの値と不感帯の範囲Qとの関係は変化しない。したがって、補正部60による補正が実施されても、移動支援部10による移動支援に関する操作性について変化はない。
【0085】
一方、判別部50が操作ハンドル20が操作されていないと判別しているときに、補正部60が、無操作時の信号Sの電圧の値である+3Vを、制御部40による制御の不感帯の範囲Qの中心である0Vに対応させるように検出部30の出力特性を補正するようにしてもよい。そのような場合には、制御の不感帯Qと無操作時の信号Sとを望ましい関係に、すなわち上記図5を参照して説明した場合と同様の関係に定めることができる。
【0086】
図7は、無操作時の信号の値の変動範囲が制御における不感帯の範囲から外れている場合を示す図である。
【0087】
より具体的には、図7は、操作ハンドルが操作されていないと判別されているときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの電圧の値の平均値が+7V(図7中の符号S(7V)参照)で制御における不感帯の範囲±5Vから外れたており、かつ、無操作時の信号Sの電圧の値の変動範囲+5V〜+9V(図7中矢印U(7V)で示す)が全て制御における不感帯の範囲±5Vから外れたている場合を示している。
【0088】
このような場合の移動支援部10による放射線源5の移動の支援は、操作ハンドル20が操作されていない状態であっても、例えば、無操作時の信号Sの電圧の値が+7Vである場合に対応する図中の符号G1で示す付勢力が生じており、放射線源5がこのような付勢力を受けて自走(暴走)してしまうおそれがある。
【0089】
ここで、例えば、移動支援部10による付勢力により放射線源5が自走(暴走)している最中であっても、判別部50が操作ハンドル20が操作されているか否かを正しく判別することができるので、補正部60は、操作ハンドル20が操作されていないと判別されているときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの値を、制御部40による制御の不感帯の範囲Qに入れるように補正する。これにより、放射線源5の自走(暴走)を停止させることができる。例えば、補正部60は、検出部30から出力される無操作時の信号Sの電圧の平均値である+7Vを、制御部40による制御の不感帯の範囲Qの中心である0V(図5参照)あるいは3V(図6参照)に対応させるように検出部30の出力特性を補正し、検出部30から出力される無操作時の信号Sの電圧の値を補正する。これにより、無操作時の信号Sの値の変動範囲を制御の不感帯の範囲±5V内に対応させることができ、放射線源5の自走(暴走)を停止させることができる。すなわち上記図5や図6を参照して説明した場合と同様の設定状態となるように補正することができる。
【0090】
また、図7に示すように、操作ハンドルが操作されていないと判別されているときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの電圧の値の平均値が+4V(図7中の符号S(4V)参照)で制御における不感帯の範囲±5V内に入っているが、無操作時の信号Sの電圧の値の変動範囲+2V〜+6V(図7中矢印U(4V)で示す)の一部のみが制御における不感帯の範囲±5Vに含まれ、その変動範囲一部が不感帯の範囲±5Vから外れている場合にも、上記と同様の補正が実行される。
【0091】
すなわち、補正部60は、検出部30から出力される無操作時の信号Sの電圧の平均値である+4Vを、制御部40による制御の不感帯の範囲Qの中心である0V(図5参照)あるいは3V(図6参照)に対応させるように検出部30の出力特性を補正する。これにより、検出部30から出力される無操作時の信号Sの値の変動範囲を制御の不感帯の範囲±5V内に対応させることができるので、放射線源5の自走(暴走)を停止させることができる。すなわち上記図5や図6を参照して説明した場合と同様の設定状態となるように補正することができる。
【0092】
このように、上記補正部60による補正は、放射線源5が移動しているときにも実行することができる。さらに、この補正部による補正を、放射線源5が移動しているときにのみ実施して放射線源5の暴走を避けるために利用するようにすることもできる。
【0093】
なお、上記図5〜7を参照した説明においては、検出部30から出力される無操作時の信号の値の変動範囲の中心に対応する信号の値として無操作時の信号の値の平均値を採用したが、上記変動範囲の中心に対応する信号の値として無操作時の信号の値の最大値と最小値の中間の値を採用するようにしてもよい。
【0094】
なお、上記図5〜7を参照した説明においては、補正部60が検出部30の出力特性を変更してこの検出部30から出力される信号の値を補正し、検出部30から出力される無操作時の信号の値が制御における不感帯の範囲に含まれるようにする場合について説明した。しかしながら、このような場合に限らず、補正部60が制御部40の制御特性(入力特性)を補正し、検出部30から出力される無操作時の信号の値が制御における不感帯の範囲に含まれるようにしてもよい。
【0095】
次に、補正部60により制御の不感帯の範囲を狭める補正を実行する場合について説明する。
【0096】
図8は、横軸tに経過時間、縦軸Eに電圧を示す座標上に、検出部30によって検出され出力された2種類の信号Sの値である電圧を示すものである。図9は、縦軸Eに電圧、横軸に力Gを示す座標上に、操作ハンドルに加えられた外力を検出して得られた信号Sの値である電圧と、この電圧を入力した制御部40の制御により移動支援部10に生じる付勢力との関係を表す2種類の制御特性曲線を示すものである。上記電圧と付勢力の関係を示す制御特性曲線を符号F11、F12で示す。また、制御の不感帯の範囲を符号Q11、Q12で示す。
【0097】
図8中の領域R11に示すように、判別部50が、信号Sの示す電圧の変動幅W11が所定時間T1以上に亘り10V以下であるときに、操作ハンドル20が操作されていないと判別するものであり、制御部40が、図9に示すように、制御不感帯の範囲がこの変動幅と同じ10V(±5V)である制御特性F11を有するものであったとする。
【0098】
その後、図8中の領域R12に示すように、信号Sの示す電圧の変動幅W12が所定時間T1以上に亘り4V以下となったため、判別部50が、操作ハンドル20が操作されていないと判別したとする。
【0099】
このような場合には、図9に示すように、補正部60は、例えば、制御の不感帯の範囲を無操作時の信号Sの電圧の値の変動幅と同じ4V(±2V)の範囲に狭めてなる不感帯Q12が設けられた制御特性F12を持つように制御部40の制御特性を補正するものとすることができる。
【0100】
すなわち、補正部60は、無操作時の信号Sの値の変動幅が大きいときに、不感帯の幅を大きくし、無操作時の信号Sの値の変動幅が小さいときには、不感帯の幅を小さくするように制御部40の制御特性(入力特性)を補正するものとすることができる。
【0101】
以下、放射線源5の姿勢が変更されたときの作用について説明する。
【0102】
図10は操作ハンドル20と検出部30のハードウエア部分31をそれぞれを拡大して示す斜視図である。図11は上記ハードウエア部分31の標準状態と傾いた状態とを比較して示す図である。
【0103】
図10に示すように、操作ハンドル20は検出部30のハードウエア部分31を介して放射線源5に取り付けられている。すなわち、ハードウエア部分31は放射線源5に取り付けられており、このハードウエア部分31の中央に設けられた開口部35に、操作ハンドル20の中央から突出する軸21を嵌合させてハードウエア部分31に操作ハンドル20を固定することにより、操作ハンドル20をハードウエア部分31を介して放射線源5に取り付ける。
【0104】
操作ハンドル20に外力を加えると、このハードウエア部分31中の歪み易く加工された各検出領域32が歪む。検出領域32の歪みはこの検出領域32に取り付けられた歪ゲージ(図示は省略)によって検出される。このようにして検出された各検出領域32の歪みゲージからの出力は、検出部30のソフトウエア部分である基板33に入力される。この基板33は、歪みゲージで検出された各検出領域32の歪みの値を入力して、操作ハンドル20に加えられた外力の大きさと方向を求めその値を信号Sとして出力する。
【0105】
ここで、放射線源5の姿勢変更に伴い、例えば、操作ハンドル20の姿勢が変わると、操作ハンドル20の自重によってハードウエア部分31中の各検出領域32に加えられる力が変化する。すなわち、例えば、図11中に示すハードウエア部分31(A)で示される標準状態から、図11中に示すハードウエア部分31(B)で示されるようにハードウエア部分31をX軸の回りに角度αだけ傾けると、各検出領域32に加えられる力が変化し各検出領域32に生じる歪みも変化する。ここでは、説明の都合上、ハードウエア部分31がX軸の回りに回転する場合について説明している。
【0106】
このような各検出領域32に生じる歪みの変化により、基板33に入力される各歪みゲージからの出力の値が変化する。そのため、これらの値を用いて求められる上記操作ハンドル20に加えられた外力の大きさおよび方向を示す信号Sの値も変化する。
【0107】
例えば、検出部30と操作ハンドル20の合計質量が10Kgであり、姿勢変化が角度α(α=1°)であるとすると、各歪みゲージから出力される値から求められる外力は約1.7N程度(10kg×sinα=約0.17kg、0.17kg×9.8m/sec=約1.7N)変化する。
【0108】
このような場合にも、操作ハンドル20に外力が加えられてないときに検出部30で検出される無操作時の信号Sの値をシフトさせる上記と同様の補正により、無操作時の信号Sの値を制御の不感帯の範囲の中心に対応させるように補正することができる。
【0109】
また、検出領域32に取り付けられた歪ゲージから出力される値が徐々にドリフトすることも考えられるが、そのような場合にも上記と同様の補正により、無操作時の信号Sの値を制御の不感帯の範囲に含まれるように補正することができる。
【0110】
また、アルミニウム材料で形成した構造部材に、協和電業製の歪ゲージKFG−3−120−C1−23を接着剤PC-6を用いて接着しAk−22で保護して検出部30と類似の力センサを作成し、この力センサに対して±約100N(±約10kg・m/sec)の繰り返し外力を加えた。その結果、外力を加えていないときに力センサから出力される値は、繰り返し外力を加える前後において約5N(約0.5kg・m/sec)程度外力が変化することを示していることを確認した。
【0111】
医療機器は10年以上の長期に亘って使用されることが多いが、上記のように力センサの性能を一定に保つことは難しく、また、その対策コストは高額となる。本発明によれば、不感帯の設定を正しい状態に補正することができるので、性能が変化しやすい安価なセンサを用いたとしても、上記のような補正を行うことにより、常に、移動支援の制御における不感帯の範囲を正しくかつ小さな範囲に保つことができ、移動支援の操作力を小さくした良好な操作性を維持することができる。
【0112】
図12は、本発明の放射線撮影装置の動作を示すフローチャートである。
【0113】
以下、このフローチャートを参照して、本発明の放射線撮影装置100における上記とは多少異なる動作について説明する。
【0114】
まず、図12に示すように、ステップP1からスタートすると、力センサである検出部30が操作ハンドル20に加えられる外力の測定を開始する。
【0115】
次に、ステップP2において、判別部50が、検出部30により一定期間に亘って測定された外力の最大値と最小値を求める。
【0116】
さらに、ステップP3において、判別部50が、上記測定された外力の最大値と最小値との差(外力の変動幅)が一定範囲内か否かを判別する。外力の変動幅が一定範囲から外れているとき、すなわち、操作ハンドル20に外力が加えられていると判別された場合には、ステップP2の処理に戻る。一方、外力の変動幅が一定の範囲内のとき、すなわち、操作ハンドル20に外力が加えられていと判別された場合には、ステップP4の処理に移行する。
【0117】
つづいて、ステップP4において、操作ハンドル20に外力が加えられていないときに検出部30から出力された無操作時の信号Sの値を制御の不感帯の範囲の中心へ対応付ける際の補正量が大きすぎるときには、ステップP5の処理に移行し、上記補正量が大きすぎることが否定されたときにはステップP5′の処理に移行する。
【0118】
ステップP5においては、予め定められた補正量の上限値だけ補正を行なう。すなわち、無操作時の信号Sの値の変動範囲の中心に対応する信号の値、あるいは無操作時の信号Sの値の平均値を、制御の不感帯の範囲の中心により近い領域へ対応付ける。その後、ステップP6の処理に移行する。
【0119】
ステップP5′においては、操作ハンドル20に外力が加えられていない場合に検出部30で検出された信号Sの値の変動範囲の中心に対応する信号の値、あるいは無操作時の信号Sの値の平均値を、制御の不感帯の範囲の中心に対応付ける。すなわち、無操作時の信号Sの値を、制御の不感帯の範囲の中心へ対応付ける補正を行なう。その後、ステップP6の処理に移行する。
【0120】
なお、上記ステップP5、P5′は補正部60により処理が行われる。
【0121】
ステップP6において、上記のように無操作時の信号Sの値と制御の不感帯の範囲の中心との関係が定められた状態でのパワーアシスト動作を行う。すなわち、移動支援部10による放射線源5の移動の支援を実施する。
【0122】
ステップP7において、移動支援部10による放射線源5の移動の支援を終了する。
【0123】
なお、上記説明においては、放射線源の移動を支援する場合について説明したが、このような場合に限らず、放射線検出器等の移動を支援する場合にも本発明を適用することができる。
【0124】
このように、本発明によれば、放射線撮影中においても、無操作時の信号の値が、常に、パワーアシスト制御の入力における不感帯の範囲内に対応付けられるように、より望ましくはこの不感帯の範囲の中心に対応付けられるように自動的に補正することができる。
【0125】
例えば、操作部に外力が加えられていないのに、検出手段で検出された信号が操作部に外力が加えられたことを示すような値を有していたとしても、操作部に加えられた外力を示す信号の値の大きさにかかわらず、判別手段が、その信号が操作部が操作されているときに検出されたものか否かを判別することができる。したがって、そのような値を持つ無操作時の信号の値を制御の入力における不感帯の範囲内、あるいは不感帯の範囲の中心に対応させるように補正することができるので、操作部に外力を加えていないのに移動支援手段による駆動力が発生して操作部の取り付けられた機器が移動(暴走)してしまうことを防止することができる。
【0126】
さらに、例えば、無操作時の信号の値の平均値等を制御の入力における不感帯の範囲の中心に対応させるように補正することにより、操作部に対して前後方向あるいは左右方向に同じ大きさの外力を加えたときに移動支援手段による駆動(付勢力の支援)を開始させることができるので、操作部の取り付けられた機器を移動させるときの操作性を向上させることができる。
【0127】
さらに、例えば、装置に加えられた衝撃等により制御における不感帯の設定がずれて、操作ハンドルに外力が加えられていないときにパワーアシストの付勢力が発生して機器が自走(暴走)するようなときにも、判別手段が、機器の自走(暴走)中にこの操作部が外力を受けているかを判別することができるので、上記と同様の補正を行なうことができ、この補正により機器の自走(暴走)を停止させることができる。
【0128】
さらに、無操作時の信号の値の変動幅に応じて、制御の不感帯の範囲を拡大したり縮小したりすることができるので、例えば、空調設備の変更により装置に加えられる振動が大きくなって、無操作時の信号の値の変動幅が制御の不感帯の範囲より大きくなったとしても、無操作時の信号の値の変動幅が制御の不感帯の範囲内に含まれるようにこの不感帯の範囲を拡大するように補正手段により補正することができるので、操作部を用いた移動支援の操作性の低下を抑制することができる。
【0129】
また、上記とは反対に、無操作時の信号の値の変動幅が制御の不感帯の範囲より小さいときには、この変動幅に応じて制御の不感帯の範囲を狭くするように補正部により補正することができるので、より小さい外力の付与により付勢力を発生させることができ、操作部を用いた移動支援の操作性を向上させることができる。
【0130】
なお、上記実施の形態においては、天井懸垂式の放射線撮影装置について説明したが、本発明は、床面上に施設したレール上を移動する床上起立式の放射線撮影装置に適用することもできる。
【0131】
図13は、床上起立式の放射線撮影装置の1例を示す図である。この床上起立式の放射線撮影装置200は、放射線撮影に用いられる機器である放射線源105と、被験者を臥位の姿勢で支持するための臥位用の撮影台104と、放射線源105から照射され被験者を通った放射線を検出する臥位用の撮影台104に収容されている放射線検出器106と、放射線源105を支持しつつこの放射線源105を鉛直方向および水平方向へ付勢して、操作者による放射線源105の手動による移動を支援する移動支援部110とを備えている。
【0132】
さらに、この床上起立式の放射線撮影装置200は、移動支援部110の支援を受けた放射線源105の移動を操作するための、この放射線源105に一体的に設けられた操作ハンドル120と、操作ハンドル120に加えられた外力を検出し、その外力の大きさおよび方向を示す信号Sを出力する検出部130とを備えている。
【0133】
上記移動支援部110は、放射線源105を移動させるときに操作者が操作ハンドル120に加える外力の大きさを軽減するために放射線源105を付勢するものであり、操作者による放射線源105の移動を支援するものである。
【0134】
移動支援部110は、床面に架設された固定レール111、固定レール111に係合された状態でこの固定レール111の延びる方向(図中矢印YY方向)へ走行可能な可動支柱112、この可動支柱112に係合された状態でこの可動支柱112の延びる上下方向(図中矢印Z方向)へ移動可能であって、多段繰り出し方式により水平方向(図中矢印X方向)へ伸縮可能な水平伸縮アーム114と、上記Y方向への可動支柱112の移動、Z方向への水平伸縮アーム114の移動、水平伸縮アーム114のX方向への伸縮を行うための各駆動モータ(図示は省略)とを備えている。
【0135】
なお、固定レール111を床面に架設するとともに壁面あるいは天井面にも固定レールを架設してこれらの固定レールを上記可動支柱112に係合させることにより、可動支柱112の移動方向であるY方向以外へのこの可動支柱112の不要な位置変動を少なくするようにすることもできる。
【0136】
水平伸縮アーム114の先端には放射線源105が取り付けられており、この放射線源105は、水平伸縮アーム114に対して姿勢の変更が可能であ。
【0137】
放射線源105は検出部130を介して操作ハンドル120に一体的に取り付けられており、この検出部130が、操作ハンドル120に加えられた外力の方向と大きさを検出する。
【0138】
この床上起立式の放射線撮影装置200のその他の構成および作用は、説明済みの図1、2等に示す天井懸垂式の放射線撮影装置と同様である。
【0139】
以上説明した図13の放射線撮影装置は、X、Y、Z方向に移動可能とされた放射線源を搭載した形式のものであるが、本発明は、操作ブロックに放射線検出器を搭載してなる床上起立式の放射線撮影装置に対しても適用可能である。図14は、そのような放射線撮影装置の一例を示すものである。なおこの図14において、図13中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。
【0140】
図14に示す放射線撮影装置201は、水平伸縮アーム114の先端に、放射線源105の替わりに放射線検出器106が取り付けられたものである。
【0141】
この放射線検出器106は、手操作あるいは駆動手段によって、水平方向に延びる軸の周りをα方向に回転可能とされている。また放射線検出器106の左右側面には、この放射線検出器106を手操作によってX、Y、Z方向に移動させ、あるいはα方向に回転させるための操作ハンドル120が固定されている。
【0142】
この放射線撮影装置201によれば、放射線検出器106を臥位用の撮影台104から外れた位置(例えば図14中で右上方に離れた位置)に動かし、その位置で放射線検出器106を図14に示された姿勢にしてこの放射線検出器106の検出面を床面に対して垂直に設定し、そして例えば天井から吊り下げられて適宜移動自在とされた図示外の放射線源を用いることにより、立位状態にある被写体の放射線画像を撮影することができる。
【0143】
また、放射線検出器106を臥位用の撮影台104の側方位置に動かし、その位置でこの放射線検出器106を図14に示された姿勢からα方向に90°回転させて放射線検出器106の検出面を上向きにして床面に対して水平に設定し、次いで放射線検出器106を下降させてから水平伸縮アーム114を伸長させて、放射線検出器106を臥位用の撮影台104の下方に配置することも可能である。この状態になれば、臥位用の撮影台104の上で臥位の姿勢となった被写体に上記放射線源から放射線を照射し、被写体を透過した放射線を放射線検出器106で検出することにより、臥位の姿勢となった被写体の放射線撮影を実施することができる。
【0144】
この種の装置においても、図13に示した装置と同様に、固定レール111を床面に架設するとともに壁面あるいは天井面にも固定レールを架設してこれらの固定レールを上記可動支柱112に係合させることにより、可動支柱112の移動方向であるY方向以外へのこの可動支柱112の不要な位置変動を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0145】
5 機器
10 移動支援部
20 操作部
30 検出部
40 制御部
50 判別部
60 補正部
S 信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線撮影に用いられる機器を付勢してこの機器の手動による移動を支援する移動支援手段と、
前記移動支援手段の支援を受ける前記機器の移動を操作するため、前記機器に設けられた操作部と、
該操作部に加えられた外力を検出し、該外力の大きさと方向を示す信号を出力する検出手段と、
該検出手段から出力された信号の示す外力の方向への前記機器の移動を支援するように、かつ、前記信号の値が不感帯の範囲に含まれるものであるときには前記支援を行わないように前記移動支援手段を制御する制御手段とを備えた放射線撮影装置であって、
前記操作部が操作されているか否かを判別する判別手段と、
前記操作部が操作されていないと判別されているときに得られた前記信号の値を、前記制御における不感帯の範囲に含まれるように補正する補正手段とを備えたものであることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記判別手段が、前記検出手段から出力された信号の値が一定のときに前記操作部が操作されていないと判別するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記判別手段が、前記検出手段から出力された信号の変動幅が予め定められた所定幅以下であるときに、前記操作部が操作されていないと判別し、前記信号の変動幅が前記所定幅を超えているときに、前記操作部が操作されていると判別するものであることを特徴とする請求項1または2記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記判別手段が、前記検出手段から出力された信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しであるときに前記操作部が操作されていないと判別し、前記信号の変動が同じ変動パターンの繰り返しではないときに前記操作部が操作されていると判別するものであることを特徴とする請求項1または2記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記補正手段が、前記操作部が操作されていないと判別されているときに前記検出手段から出力された前記信号の変動範囲の中心に対応する信号の値を前記制御における不感帯の中心に対応させるように補正するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記補正手段が、前記操作部が操作されていないと判別されているときに前記検出手段から出力された前記信号の平均値を前記制御における不感帯の範囲の中心に対応させるように補正するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記補正手段が、前記操作部が操作されていないと判別されているときに前記検出手段から出力された信号の変動幅に応じて前記不感帯の幅を変更するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記補正手段が、前記検出手段から出力される信号および/または前記制御手段の制御特性に対して、前記補正を施すものであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
前記移動支援手段が、前記機器を天井から懸垂した状態で支持しつつ、該機器の鉛直方向および水平方向への移動を支援するものであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記機器が、前記移動支援手段に対して姿勢を変更可能なものであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記機器が、放射線撮影に用いられる放射線源または放射線検出器であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−221003(P2010−221003A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192771(P2009−192771)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】