説明

放射線検出器および放射性ダストモニタ

【課題】一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度の気体中の放射性ダスト濃度を計測可能な放射線検出技術を提供する。
【解決手段】放射線検出器10は、ポリエチレンナフタレートまたはポリエチレンナフタレートを主成分とする混合物で構成されたシンチレータ22と、シンチレータ22の外側で外来光を遮光する可視光に対して不透明な遮光部21と、シンチレータ22から発する光を受光して電気信号を信号処理部へ出力する光電子増倍管24と、光電子増倍管24とシンチレータ22を遮光部21よりもシンチレータ22側から入射する光に対して遮光するケース25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器および放射性ダストモニタに関する。
【背景技術】
【0002】
β線を放出する核種を含む放射性ダストの空気中の濃度測定を目的とした放射性ダストモニタには、γ線に対する感度が低いポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータを放射線センサとした放射線検出器が一般的に用いられている。このようなポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータは、通常熱に弱く、60℃程度で軟化が始まるため、60℃程度よりも低い温度で使用される。
【0003】
放射線検出器を製造する際には、外から入射する光がシンチレータに到達しないように遮りつつ、測定対象となる放射線を通過させる遮光部が設けられる。この遮光部を設ける方法としては、特開2007−248266号公報(特許文献1)に記載されるようなプラスチックシンチレータに遮光層を熱転写する方法や遮光層をプラスチックシンチレータの表面に蒸着またはスパッタリングする方法がある。
【0004】
一方、近年一般に広く使用されはじめているポリエチレンナフタレート(olythylene aphthalate:PEN)が放射線により発光するという報告がある(例えば、非特許文献1を参照)。また、ポリエチレンナフタレートは、ガラス転移温度155℃、水蒸気透過率1.2g/m/24hなどの優れた特性を有していることが知られている(例えば、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−248266号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中村秀仁、他3名(H.Nakamura et al.) “Evidence of deep-blue photon emission at high efficiency by common plastic” EPL (Europhysics Letters) (2011), 95(2)、[online]、2011年(平成23年)7月1日、EDP Science、[平成23年9月22日検索]、インターネット(URL:http://hdl.handle.net/2433/141973)
【非特許文献2】PENフィルムの特性、[online]、帝人デュポンフィルム株式会社ホームページ、[平成23年9月22日検索]、インターネット(URL:http://www.teijindupontfilms.jp/product/name/pen/pen_teo.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、遮光部を設ける方法としては、プラスチックシンチレータに遮光層を熱転写する方法(以下、「熱転写方式」と称する。)や遮光層をプラスチックシンチレータの表面に蒸着またはスパッタリングする方法(以下、「蒸着方式」と称する。)等があるが、これらの方法には、それぞれ長所と短所がある。
【0008】
熱転写方式は、蒸着方式と比較すると、プラスチックシンチレータと遮光層とを接着する接着層が必要となる分、検出感度が低下する点で不利となる。また、大面積または大量に生産する際にも不利となる。
【0009】
一方、蒸着方式は、熱転写方式と比較すると、検出感度および生産効率の面で有利となるが、ポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータが軟化しないような低い温度領域で行う場合には遮光層を蒸着等するのが困難という課題がある。また、遮光層がキズ付かないように保護するため、遮光層の表面に保護層を蒸着等する場合もあるが、保護層の蒸着等もポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータが軟化しないような低い温度領域で行うのは困難である。
【0010】
もし、上記非特許文献1に記載されるポリエチレンナフタレート(PEN)をシンチレータとして採用できれば、上記非特許文献2に記載されるポリエチレンナフタレートのガラス転移温度(155℃)を考慮する限り、従来のポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータを製造する場合(60℃程度以下)よりも高い温度での蒸着等が可能となる。その結果、蒸着方式における遮光層および保護層の蒸着等の困難性が解消され、蒸着方式は、熱転写方式と比較して現状よりもさらに有利な方式となることが期待できる。
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度(60℃以上)にある気体中の放射性ダスト濃度を求めることができる放射線検出器および放射性ダストモニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る放射線検出器は、上述した課題を解決するため、ポリエチレンナフタレートおよびポリエチレンナフタレートを主成分とする混合物の何れか一方で構成されたシンチレータと、前記シンチレータの外側で外来光を遮光する可視光に対して不透明な遮光部と、が発する光を受光し、受光した光を光電変換して得られた電気信号を信号処理部へ出力する光センサと、前記光センサと前記シンチレータを前記遮光部よりも前記シンチレータ側から入射する光に対して遮光するケースと、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の実施形態に係る放射性ダストモニタは、上述した課題を解決するため、気体を導入し外部へ排出する流路中に設置される本発明の実施形態に係る放射線検出器と、この放射線検出器の遮光部に対向して配置され、前記流路に導入されたダストを集塵する集塵部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度にある気体中の放射性ダスト濃度についても求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る放射線検出器の機能的な構成を示す機能ブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る放射線検出器の主要な構成要素を概略的に示した図であり、(A)はシンチレータにおける放射線の検出面が光電子増倍管の入射面よりも大きい場合の構成例を示す概略図、(B)はシンチレータにおける放射線の検出面が光電子増倍管の入射面よりも小さい場合の構成例を示す概略図。
【図3】本発明の実施形態に係る放射線検出器と従来の放射線検出器とのβ線検出感度をそれぞれ測定する実験装置の構成を示す概略図。
【図4】β線エネルギーに対するプラスチックシンチレータおよびポリエチレンナフタレート(PEN)の感度を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係る放射線検出器における遮光部の構成例を概略的に示した図であり、(A)は第1の遮光部の概略図、(B)は第2の遮光部の概略図、(C)は第3の遮光部の概略図。
【図6】本発明の実施形態に係る放射性ダストモニタの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る放射線検出器および放射性ダストモニタについて、添付の図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る放射線検出器の一例である放射線検出器10の機能的な構成を示す機能ブロック図である。
【0018】
放射線検出器10は、例えばβ線源1等の放射線源から放射されるβ線等の放射線を検出するシンチレータ式の放射線検出器である。放射線検出器10は、例えばβ線等の放射線を検出する放射線検出部11と、放射線検出部11が放射線を検出することで生じる電気信号を信号処理する信号処理部12と、放射線検出部11と信号処理部12に電力を供給する電源部13と、を具備する。
【0019】
放射線検出部11は、放射線を受けると電気信号を出力する放射線検出機能を有する。放射線検出部11は、例えば、放射線を受けて発生する光を光電変換して電気信号を得ることで放射線を検出する。
【0020】
信号処理部12では、増幅器15で放射線検出部11から入力される電気信号が増幅され、カウンタ16で予め設定される閾(しきい)値よりも大きいレベルの電気信号(パルス信号)、すなわち、パルスの数をカウントする。
【0021】
信号処理部12の増幅器15は、電気信号の増幅機能と、電気信号のレベルに対して所望の閾値を設定する閾値設定機能と、設定した閾値と電気信号のレベルとを比較する比較機能とを有し、例えば、入力された信号を増幅する増幅回路(アンプ)と、入力された信号のレベルと設定される閾値との大小を比較する比較回路(コンパレータ)とを備えて構成される。
【0022】
なお、放射線検出器10では、閾値設定機能と比較機能とを増幅器15に持たせているが、カウンタ16等の別の構成要素に持たせても良いし、閾値設定機能と比較機能とを有する構成要素をそれぞれ設けても良い。
【0023】
図2は放射線検出器10の主要な構成を概略的に示した図であり、図2(A)はシンチレータ22における放射線の検出面が光電子増倍管(PMT)24の入射面よりも大きい場合の構成例を示す概略図、図2(B)はシンチレータ22における放射線の検出面が光電子増倍管(PMT)24の入射面よりも小さい場合の構成例を示す概略図である。
【0024】
図2(A)に示される放射線検出器10は、放射線検出部としての遮光部21、シンチレータ22、導光部23および光電子増倍管24がケース25に収容される。ケース25に収容される光電子増倍管24には、電気信号を信号処理部へ伝送する信号線26と光電子増倍管24に高電圧を供給する高電圧線27が接続される。
【0025】
遮光部21は、シンチレータ22の入射側(入力側)において外来光がシンチレータ22へ到達することを防止する一方で測定対象となる放射線を通過させる。遮光部21は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の樹脂フィルムの両表面に伸展性に優れるアルミニウムを蒸着して可視光に対して不透明とした遮光フィルムやアルミニウム等の金属材料から選択される。
【0026】
シンチレータ22は、ポリエチレンナフタレート(PEN)である。なお、シンチレータ22を構成するにあたり、従来のプラスチックシンチレータのように少量の蛍光物質等をポリエチレンナフタレートに混入させても良い。すなわち、シンチレータ22をポリエチレンナフタレート単体またはポリエチレンナフタレートを主成分とする混合物とすることができる。
【0027】
導光部23は、例えば、アクリル板等の光透過性に優れた透明な材料で構成され、シンチレータ22で発光した光を光電子増倍管24へ効率良く導く構成要素である。なお、導光部23は、シンチレータ22の厚さや光電子増倍管24の入射面の大きさ等の状況によっては、図2(B)に示される放射線検出器10のように省略される場合もある。
【0028】
光センサとしての光電子増倍管(PMT)24は、光電効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能と、電子増倍機能(電流増幅機能)とを有する。光電子増倍管24は、シンチレータ22側から入射した光を光電変換し増幅した電気信号を出力する。
【0029】
ケース25は、遮光部21、シンチレータ22、導光部23および光電子増倍管24を収容するとともに、シンチレータ22の発光側(出力側)において外部光を遮断する遮光構造体としての役割も果たす。
【0030】
なお、放射線検出器10を構成するにあたり、遮光部21の遮光層の厚さは最大β線エネルギー318keVであるコバルト60(60Co)のβ線の減弱を可能な限り低減する意味から、0.015g/cm(密度1.5g/cmの物質で100マイクロメートル)程度以下の厚さであることが望ましい。但し、β線エネルギーがより高い物質の測定を主眼とする場合についてはより厚いものを使用しても構わない。
【0031】
上述した非特許文献1,2に示されるように、ポリエチレンナフタレートは、放射線が入射すると425nmをピークとする光を発する素材である。また、ポリエチレンナフタレートは、ガラス転移温度155℃であり、ポリビニルトルエンなどを主成分としたプラスチックシンチレータよりも高温の環境下で耐え得る素材であるとともに、水蒸気透過率1.2g/m/24h(厚さ125マイクロメートル)という高いガスバリア性を有する。
【0032】
そこで、ポリエチレンナフタレートまたはポリエチレンナフタレートを主成分とする材料をシンチレータとする放射線検出器10のβ線に対する感度を検証するため、後述する図3に示される実験装置30を用いて、ポリエチレンナフタレート(PEN)とプラスチックシンチレータの感度について評価した。評価結果については後述する図4に示す。
【0033】
なお、ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とするシンチレータを採用した放射線検出器が実際に適用できるか否かの評価基準は、プラスチックシンチレータを採用した従来の放射線検出器の検出性能等を考慮した結果、従来の放射線検出器に対して10%以上の感度が得られれば、放射線検出器として十分使用できると考えられる点に鑑み、ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とするシンチレータを採用した放射線検出器の感度が、従来の放射線検出器の感度に対して10%を超えていれば、ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とするシンチレータを採用した放射線検出器が実際に適用できると評価する。
【0034】
図3はポリエチレンナフタレート(PEN)をシンチレータとして採用した放射線検出器(以下、「本発明の実施形態に係る放射線検出器」と称する。)とポリビニルトルエンを主成分としたプラスチックシンチレータを採用した従来の放射線検出器(以下、単に「従来の放射線検出器」と称する。)のβ線検出感度をそれぞれ測定する実験装置30の構成を示す概略図である。
【0035】
実験装置30は、本発明の実施形態に係る放射線検出器のβ線に対する感度を検証(評価)するための装置であり、図2(A)に示される放射線検出器10の遮光部21の表面にβ線源1を設置した構成である。この実験装置30において、ポリエチレンナフタレート(PEN)をシンチレータとして採用した放射線検出器と従来の放射線検出器とでは、シンチレータ22を構成する素材が異なるが、その他の箇所は同じ条件である。
【0036】
より詳細には、本発明の実施形態に係る放射線検出器ではシンチレータ22が厚さ200マイクロメートルのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(QF65FA,帝人デュポンフィルム社製)であり、従来の放射線検出器ではシンチレータ22が厚さ200マイクロメートルのポリビニルトルエンを主成分としたプラスチックシンチレータ(EJ−212,エルジェン社)である。なお、シンチレータ22の寸法は80mm×30mm×0.2mmである。
【0037】
実験装置(放射線検出器)30において、遮光部21はアルミ蒸着マイラーシートを2枚重ね合わせた厚さ12マイクロメートル(μm)の層である。アルミ蒸着マイラーシートは、1枚の厚さが6マイクロメートル(μm)であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の樹脂フィルムの両表面に伸展性に優れるアルミニウムを蒸着して可視光に対して不透明とした遮光フィルム(遮光層)である。遮光部21の寸法は80mm×30mm×0.012mmである。
【0038】
導光部23は、シンチレータ22が遮光部21と接する側と反対側の面に、例えば光学接着剤等の光透過性に優れた接着剤を用いて接着された透明なアクリル板で構成される。寸法は80mm×30mm×3mmである。
【0039】
図4はβ線エネルギーに対するプラスチックシンチレータおよびポリエチレンナフタレート(PEN)の感度を示すグラフであり、図4に示すグラフにおいて、横軸はβ線エネルギー(keV)、縦軸はプラスチックシンチレータに対するPENの感度比(%)である。なお、閾電圧値を300mVとして計測したものである。
【0040】
ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とするシンチレータを採用した放射線検出器の感度は、図4に示されるように、コバルト60(60Co)、塩素36(36Cl)および酸化ウラン(U)等、それぞれβ線エネルギーが異なる幅広い領域において、プラスチックシンチレータを採用した放射線検出器の感度に対する感度比で55〜70%程度の感度を示した。この結果から、ポリエチレンナフタレート(PEN)を主成分とするシンチレータを採用した放射線検出器が実際に適用できることが確認できた。
【0041】
このように、ポリエチレンナフタレート単体またはポリエチレンナフタレートを主成分とするシンチレータ22を採用した放射線検出器10によれば、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化し始める60℃程度の温度であってもポリエチレンナフタレート(ガラス転移温度155℃)は軟化しないため、従来よりも高温度の環境下であっても使用することができる。
【0042】
また、シンチレータ22が一般的なプラスチックシンチレータよりも高い温度に耐え得ることから、遮光部21を形成する際の温度も従来よりも高温度、すなわち、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう60℃程度以上の温度にしたとしてもポリエチレンナフタレート(PEN)の性質に影響を与えない温度範囲内であれば行うことができる。このことは、従来よりも蒸着やスパッタリングが容易になることを意味しており、大面積または大量の加工に対応し易い加工方法を選択できる。
【0043】
さらに、遮光部21を形成する際、シンチレータ表面の微小な突起を除去し表面を滑らかにする処理(以下、単に「表面処理」と称する。)を行わない状態のままでは遮光層となるアルミニウムの蒸着やスパッタリングを行った際にピンホールが生じやすいという課題があるが、この表面処理方法も、ポリエチレンナフタレート(PEN)単体をシンチレータ22とした放射線検出器10であれば、従来(プラスチックシンチレータ)では選択し得ないシクロヘキサノン等の有機溶剤で行うことができる。
【0044】
従来、プラスチックシンチレータの表面処理を研磨により行っていたのは、プラスチックシンチレータには均一に混入されている蛍光物質が存在するためであり、有機溶剤を使用すると感度が低下してしまうという課題があるためである。すなわち、プラスチックシンチレータの感度低下を避けるため、表面処理は研磨で行わざるを得ない実状がある。
【0045】
これに対して、ポリエチレンナフタレート(PEN)単体をシンチレータ22とした放射線検出器10では、プラスチックシンチレータのように均一に蛍光物質が混入されていないため、シクロヘキサノン等の有機溶剤を使用したとしても、シンチレータ22の感度が低下することもないと考えられる。シクロヘキサノン等の有機溶剤を使用した方法は研磨に比べて単位時間当たりに処理できる面積が大きい点で有利である。
【0046】
上述した放射線検出器10では、例えば、遮光層のみで構成されるもの、遮光層と遮光層を保護する保護層を有するもの等、遮光部21の構成には幾つかの実施例が考えられる。そこで、次に、放射線検出器10における遮光部21の構成例について説明する。
【0047】
図5は、放射線検出器10における遮光部21の構成例を概略的に示した図であり、図5(A)はアルミニウム等の可視光に対して不透明となる金属膜で構成される第1の遮光部21Aの概略図、図5(B)は遮光層としての第1の遮光部21Aに保護膜(保護層)32を積層して構成される第2の遮光部21Bの概略図、図5(C)は遮光層としての第1の遮光部21Aおよび保護膜(保護層)32が交互に積層され、第1の遮光部21Aおよび保護膜(保護層)32の少なくとも一方は複数の層となる第3の遮光部21Cの概略図である。
【0048】
第1の遮光部21Aは、例えば、図5(A)に示されるように、アルミニウム等の可視光に対して不透明となる金属を直接蒸着またはスパッタリングして形成された厚さ0.5マイクロメートル程度の膜で構成される。ポリエチレンナフタレートはガラス転移温度が155℃であり、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化し始める60℃程度の温度であっても軟化しないため、従来よりも高温度の環境下で蒸着またはスパッタリングが可能になる。従って、蒸着方式における遮光層の蒸着等をより容易にすることができる。
【0049】
第1の遮光部21Aを備える放射線検出器(以下、「第1の放射線検出器」と称する。)10Aによれば、遮光フィルムの重ね合わせで構成される遮光層を有する遮光部よりも厚さを薄くすることができるので、放射線に対して感度を有しない遮光層による放射線の減弱を軽減することができる。すなわち、より高感度な放射線検出器を提供することができる。
【0050】
また、ポリエチレンナフタレート(PEN)は、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化し始める60℃程度の温度であっても軟化しないため、従来よりも高温度の環境下(但しガラス転移温度155℃未満)で第1の放射線検出器10Aを使用することができる。
【0051】
第2の遮光部21Bは、例えば、図5(B)に示されるように、金属膜(遮光層)としての第1の遮光部21Aの表面に保護膜(保護層)32を積層して構成される。この保護膜32の生成はポリエチレンナフタレートの性質に影響を与えない限り公知の材料および手法を任意に選択できる。
【0052】
保護膜32は、例えば、使用想定温度環境下で軟化しない樹脂、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)または二酸化ジルコニウム(ジルコニア)等の酸化物、ダイアモンドライクカーボン(DLC)等から少なくとも一つを選択される単層または多層の膜である。ダイアモンドライクカーボン(DLC)は一般的なプラスチックシンチレータでは軟化し始める60℃程度の温度では成膜温度が低く膜厚等にムラがない等の良好な膜を生成することが困難であったが、ポリエチレンナフタレートをシンチレータとする放射線検出器では、従来よりも高温度での成膜が可能となるので、従来よりも良好な膜を生成することができる。
【0053】
上記材料から選択される保護膜32を第1の遮光部21Aの表面に積層して構成される第2の遮光部21Bを備える放射線検出器(以下、「第2の放射線検出器」と称する。)10Bによれば、遮光層としての第1の遮光部21Aへの物理的な接触による損傷、ダストによる擦過による遮光層の劣化を防止することができる。
【0054】
なお、保護膜32として樹脂を選択する場合、黒色の樹脂を選択しても良い。保護膜32として黒色の樹脂を選択すれば、第2の遮光部21Bにおいて遮光層となる第1の遮光部21Aを保護する機能に加え、遮光の機能も保護膜32に持たせることができる。
【0055】
第3の遮光部21Cは、金属膜としての第1の遮光部21Aと非金属膜としての保護膜32とが交互に積層する多層構造であり、少なくとも第1の遮光部21Aと保護膜32の一方を複数有する。第3の遮光部21Cがシンチレータと接する面は、金属膜(遮光層)としての第1の遮光部21Aであっても、保護膜32であっても良い。
【0056】
図6は本発明の実施形態に係る放射性ダストモニタの一例である放射性ダストモニタ50の構成を示す概略図である。
【0057】
符号51は、気体をサンプリング領域52に導入(吸気)して外部へ導出(排気)する流路であり、符号54は流路51内に気体を導入するとともに流路51内の気体を外部へ排気するポンプである。
【0058】
放射性ダストモニタ50は、流路51内のサンプリング領域52に設置される本発明の実施形態に係る放射線検出器の一例である放射線検出器10と、放射線検出器10の遮光部21に対向して設置され、サンプリング領域52内に浮遊するダストを集塵する例えばろ紙等の集塵部53とを備える。放射性ダストモニタ50は、サンプリング領域52よりも流路51の上流側から導入した気体中に浮遊するダストを集塵部53で集塵し、集塵部53に集塵したダストの濃度を計測する。
【0059】
なお、放射性ダストモニタ50は、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度(60℃程度以上)よりも高温の気体を導入する場合もあることから、気体と放射線検出器10および流路51との温度差によって結露が発生し得る。このような結露発生を防止するため、放射性ダストモニタ50は、集塵部53よりも流路51の上流側の位置に適宜加熱用のヒータ56を設置しても良い。
【0060】
また、放射線検出器10の信号処理部(図6において図を省略)は必ずしも高温(60℃程度以上)となり得るサンプリング領域52に設置しておく必要はなく、サンプリング領域52から離れた別の場所に設置しても良い。例えば、常温にあるサンプリング領域52とは別の空間等に設置しても良い。
【0061】
放射性ダストモニタ50によれば、一般的なプラスチックシンチレータを採用した放射性検出器を備える従来の放射性ダストモニタでは、そのまま導入するとシンチレータが軟化してしまう温度(60℃程度以上)にある高温の気体であっても、ポリエチレンナフタレート(PEN)が安定な温度であれば、そのまま導入して集塵部53に集塵したダストの濃度を計測することができる。
【0062】
従来の放射性ダストモニタを使用して高温の気体中の放射性ダストを測定しようとする場合、集塵する前にサンプリングした気体を冷却する等の予備的なプロセスが必要となるため、冷却設備および冷却プロセスが余計に発生してしまう。また、気体が高温かつ高湿度であった場合、冷却する箇所において水が凝縮してしまい、その凝縮水中に水溶性の放射性物質が溶け込んでしまうおそれがある。この場合、気体導入箇所における放射性ダスト濃度(実際の放射性ダスト濃度)よりも測定箇所における放射性ダスト濃度が低くなる不都合を招来する。
【0063】
このように、従来の放射性ダストモニタを使用する場合に必要となる冷却プロセスが不要な放射性ダストモニタ50は、従来の放射性ダストモニタを使用する場合と比較すると、冷却設備および冷却プロセスが不要で場所、費用および時間の面で節約できる。また、実際の放射性ダスト濃度よりも測定結果が低くなるという不都合も招来しないという利点がある。
【0064】
以上、本発明の実施形態に係る放射線検出器および放射性ダストモニタによれば、シンチレータ部分が一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度(60℃程度以上)でも軟化しないので、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう温度(60℃程度以上)にある気体中の放射性ダスト濃度についても求めることができる。
【0065】
また、本発明の実施形態に係る放射線検出器および放射性ダストモニタによれば、放射線検出器の遮光層および保護層を形成する際の温度を、従来よりも高温度、すなわち、一般的なプラスチックシンチレータでは軟化してしまう60℃程度以上の温度にしたとしてもポリエチレンナフタレート(PEN)の性質に影響を与えない温度範囲内であれば行えるため、従来よりも蒸着やスパッタリングが容易になり、大面積または大量の加工に対応し易い。さらに、成膜環境が従来よりも改善されるので、従来よりも厚さムラ等が少ない良好な膜の生成が実現できる。
【0066】
さらに、遮光部を形成する際、シンチレータ表面の微小な突起を除去し表面を滑らかにする表面処理方法として、ポリエチレンナフタレート(PEN)単体をシンチレータ22とした放射線検出器10であれば、従来(プラスチックシンチレータ)では選択し得ないシクロヘキサノン等の有機溶剤で行うことができる。
【0067】
従って、ポリエチレンナフタレートまたはポリエチレンナフタレートを主成分とする混合物で構成されたシンチレータを採用した放射線検出器を製造する際、シンチレータの表面を有機溶剤によって細かな凹凸を除去するステップと、前記凹凸を除去するステップによって、表面の細かな凹凸が除去された前記シンチレータの表面に金属材料を蒸着およびスパッタリングの何れかの方法で可視光に対して不透明な遮光部を形成するステップと、を有する製造方法を採用できる。
【0068】
さらにまた、本発明の実施形態に係る放射性ダストモニタは、従来の放射性ダストモニタを使用する場合に必要となる冷却設備および冷却プロセスが不要なので、従来の放射性ダストモニタを使用する場合と比較すると、場所、費用および時間が節約でき、測定結果が実際の放射性ダスト濃度よりも低くなるということもない。
【0069】
なお、本明細書において、説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10 放射性検出器
11 放射線検出部
12 信号処理部
15 増幅器
16 カウンタ
21(21A,21B,21C) 遮光部
22 シンチレータ
23 導光部
24 光電子増倍管
25 ケース
26 信号線
27 高電圧線
30 実験装置
32 保護膜
50 放射性ダストモニタ
51 流路
52 サンプリング領域
53 集塵部
54 ポンプ
56 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレートおよびポリエチレンナフタレートを主成分とする混合物の何れか一方で構成されたシンチレータと、
前記シンチレータの外側で外来光を遮光する可視光に対して不透明な遮光部と、
前記シンチレータが発する光を受光し、受光した光を光電変換して得られた電気信号を信号処理部へ出力する光センサと、
前記光センサと前記シンチレータを前記遮光部よりも前記シンチレータ側から入射する光に対して遮光するケースと、を備えることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記遮光部は、可視光に対して不透明な遮光層を有し、前記遮光層は前記シンチレータの表面に金属の蒸着およびスパッタリングの何れかの方法で形成されることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記遮光部は、前記遮光層の表面に前記遮光層を保護する保護層をさらに積層して構成されることを特徴とする請求項2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記遮光部は、前記遮光層と、前記遮光層の表面に前記遮光層を保護する保護層とが交互に繰り返して積層された少なくとも三層以上に構成されることを特徴とする請求項2または3記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記遮光層の金属は、アルミニウムで構成されることを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記保護層は、酸化ケイ素および酸化チタンの何れかで構成される層を少なくとも一つ有することを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記保護層は、ダイアモンドライクカーボンで構成される層を少なくとも一つ有することを特徴とする2から4の何れか1項に記載の放射線検出器。
【請求項8】
気体を導入し外部へ排出する流路中に設置される請求項1〜7の何れか1項に記載の放射線検出器と、前記放射線検出器の遮光部に対向して配置され、前記流路に導入されたダストを集塵する集塵部と、を備えることを特徴とする放射性ダストモニタ。
【請求項9】
前記集塵部よりも前記流路の上流側にヒータをさらに設置したことを特徴とする請求項8記載の放射性ダストモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72649(P2013−72649A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209573(P2011−209573)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】