説明

放射線検出器

【課題】空気中のオゾンおよび腐食性ガスを含むプロセス流体に対する耐候性及び耐薬品性の向上を図り、信頼性の高い放射線検出器を提供する。
【解決手段】プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側に、ポリパラキシリレン樹脂を常温コーティングしてなる保護層3を設け、空気中のオゾンや腐食性ガスを含むプロセス流体がプラスチックシンチレータ2に直接接触しないようにしたので、プラスチックシンチレータ2の劣化が抑制され、耐候性、耐薬品性が大幅に向上する。また、反射シート7に圧力バランス孔73を設け、検出器ケース11の開口部に着脱可能に取り付けたので、反射シート7のたわみを防止することができるとともに、プラスチックシンチレータ2とライトガイド4の接合部5a、およびライトガイド4と光電子増倍管8の接合部5bの健全性を目視で確認することができ、信頼性の高い放射線検出器1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器に関し、特に空気中のオゾンや腐食性ガスに対する耐候性及び耐薬品性を向上させた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所や放射性同位元素の取扱施設等のプロセスで使用される、あるいは排出されるガス(以下、プロセス流体という)に含まれる放射線物質を測定し管理するための放射線検出器には、外部から入射した放射線を吸収して光に変換するプラスチックシンチレータが用いられている。
【0003】
この種の放射線検出器においては、プラスチックシンチレータの放射線入射面側に反射シートを配置し、プラスチックシンチレータが放射した光をライトガイドに向けて反射するようにしている。これにより、ライトガイドは、プラスチックシンチレータが放射した光を効率良く光電子増倍管に導くことができる。反射シートには、一般にプラスチックフィルムにアルミニウムを蒸着したものが使用されている。
【0004】
また、例えば特許文献1には、プラスチックシンチレータの放射線入射面にアルミニウムまたはクロムを直接蒸着し、反射膜を形成した放射線検出器が提示されている。この例では、被測定ガスがNOx、SOx、HCl等の腐食性ガスの場合、金属蒸着膜の金属としてはクロムが有効であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−55778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラスチックシンチレータは、例えば空気中のオゾンにより発光量に換算して5%/年程度の劣化があると言われている。さらに、被測定ガスとして腐食性ガスを含むプロセス流体が常時供給されるような環境では、プラスチックシンチレータおよび反射シートの金属蒸着膜の劣化が進行し、放射線の検出感度を低下させる恐れがある。
【0007】
また、特許文献1で提示された放射線検出器では、プラスチックシンチレータの放射線入射面にアルミニウムまたはクロムを直接蒸着しているが、プラスチックシンチレータに金属反射材をスパッタリング蒸着した場合、金属原子がプラスチックシンチレータの内部にまで打ち込まれるため、放射線の検出効率に少なからず影響するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、空気中のオゾンや腐食性ガスを含むプロセス流体に対する耐候性および耐薬品性の向上を図り、信頼性の高い放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る放射線検出器は、放射線を光に変換するプラスチックシンチレータと、プラスチックシンチレータからの放射光を電子に変換増幅する光電子増倍管と、プラスチックシンチレータからの放射光を光電子増倍管に導くライトガイドと、プラスチックシンチレータに放射線を入射させる開口部を有し、プラスチックシンチレータ、光電子増倍管、およびライトガイドを収納する検出器ケースと、検出器ケースの開口部に着脱可能に取り付けられ、プラスチックシンチレータからの放射光をライトガイドに向けて反射させる反射シートを備え、プラスチックシンチレータの放射線入射面側に、光を透過し且つその被塗布面を腐食性ガスから保護する保護層を設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラスチックシンチレータの放射線入射面側に保護層を設けることにより、空気中のオゾンや腐食性ガスを含むプロセス流体がプラスチックシンチレータに直接接触しないようにしたので、プラスチックシンチレータの劣化が抑制され、耐候性、耐薬品性が向上する。これにより、放射線の検出効率の低下が抑制され、長期にわたって安定した放射線計測が可能な信頼性の高い放射線検出器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る放射線検出器の全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る放射線検出器の反射シートを示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る放射線検出器を示す部分断面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る放射線検出器を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る放射線検出器の全体構成を示す断面図、図2は本発明の実施の形態1に係る放射線検出器の反射シートを示す平面図である。なお、図1中、矢印は放射線の入射方向を示している。
【0013】
本実施の形態1に係る放射線検出器1の構成について、図1を用いて簡単に説明する。プラスチックシンチレータ2は、外部から入射した放射線を吸収して光に変換する。プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側には、光を透過し、且つその被塗布面を腐食性ガスから保護する保護層3が設けられている。
【0014】
プラスチックシンチレータ2は、光学接合材による接合部5aにおいてライトガイド4と接合されている。ライトガイド4の内側側面には反射材膜6が塗布され、プラスチックシンチレータ2からの放射光を効率的に光電子増倍管8に導くようにしている。また、プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側には空隙を介して反射シート7が設けられている。反射シート7は、プラスチックシンチレータ2からの放射光のうち、ライトガイド4と反対側の放射線入射面側に向かうものを、ライトガイド4に向けて反射する。
【0015】
ライトガイド4は、光学接合材による接合部5bにおいて光電子増倍管8と接合されている。光電子増倍管8は、プラスチックシンチレータ2からの放射光を電子に変換増幅して電気信号として取り出す。さらに、前置増幅器9は、光電子増倍管8から出力される電流パルスを電圧パルスに変換して出力する。ケーブル10は、前置増幅器9からの出力信号を後段の電子回路(図示せず)に送出する。
【0016】
検出器ケース11は、プラスチックシンチレータ2に放射線を入射させる開口部を有し、プラスチックシンチレータ2、ライトガイド4、光電子増倍管8および前置増幅器9を収納する。プラスチックシンチレータ2および反射シート7は、検出器ケース11の開口部に臨んで配置される。検出器ケース11の内部には、ライトガイド4を固定するためのクッション12が備えられている。また、ライトガイド4と検出器ケース11のシール部にはパッキン13が設けられ、検出器ケース11内を気密に保持している。
【0017】
本実施の形態1に係る放射線検出器1の反射シート7は、プラスチックフィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルム71の片面にアルミニウムを蒸着したアルミニウム蒸着層72を有し、このアルミニウム蒸着層72がプラスチックシンチレータ2の放射線入射面に対向して配置される。ただし、ポリエチレンテレフタレートフィルム71上に蒸着される金属はアルミニウムに限定されるものではなく、所定の反射効率を確保できる高光沢度を呈する金属であればよい。
【0018】
反射シート7は、ネジ止め、または馬蹄形のばねを溝にはめ込む等の固定手段(いずれも図示せず)により、検出器ケース11の開口部に着脱可能に取り付けられている。これにより、光学接合材による接合部5a、5bの健全性を目視確認することができる。プラスチックシンチレータ2からの放射光を効率的に光電子増倍管8に導くために、光学接合材にはライトガイド4と同程度の屈折率の材料が選択される。光学接合材の屈折率が1.5程度であるのに対して空気の屈折率は1.0であり、光学接合材による接合部5a、5bの中に気泡が入り込んだ場合、その気泡に光が入射することにより進路方向が大きく変更され、光伝達効率の低下が生じる。
【0019】
また、ライトガイド4と光電子増倍管8の接合部5bに用いられるシリコンオイルは、経年劣化によりオイルが蒸発して白粉化し、光伝達効率の低下の原因となる。しかし、これらの気泡またはオイルの白粉化が放射線検出器1の出力低下の原因となっていることは、検出器の出力変動からは判断することができないため、目視によって接合部5a、5bを確認する必要がある。
【0020】
また、図2に示すように、反射シート7は、放射線入射面70とその反対側の面の圧力差、すなわち検出器ケース11内外の圧力差を解消するための圧力バランス孔73を有している。放射線検出器1は、その放射線入射面側に、被測定ガスであるプロセス流体を溜めるサンプリングガス容器(図示せず)を備えており、この容器にはポンプにより大気中から吸気したガスが導かれる。
【0021】
反射シート7に圧力バランス孔73を有していない場合、サンプリングガス容器内はポンプにより吸気されるため負圧となり、大気圧である検出器ケース11内部と圧力差が生じる。この圧力差により反射シート7がたわみ、反射効率の低下を招いたり、反射シート7が破れたりする恐れがある。また、反射シート7のたわみの変動により、反射シート7の反射効率および出力指示値が変動するため、放射線検出器としての安定な動作の妨げとなる。このため、反射シート7に圧力バランス孔73を設けることにより上記圧力差を解消し、反射シート7のたわみを防止している。
【0022】
一方、圧力バランス孔73を通過して腐食性ガスを含むプロセス流体が常時供給された場合、オゾンアタックによりプラスチックシンチレータ2を劣化させる恐れがある。このため、プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側に保護層3を設け、空気中のオゾンや、NOx、SOx、HCl等の腐食性ガスを含むプロセス流体が、直接プラスチックシンチレータ2に接触することを防止している。
【0023】
保護層3としては、光を透過し、且つ耐候性、耐薬品性に優れた樹脂が好適であり、本実施の形態1ではポリパラキシリレン樹脂を常温で塗布したものを用いている。ポリパラキシリレン樹脂は、腐食性ガスへの耐性に優れており、また、ピンホールフリーの薄膜を容易に形成することができる。さらに、常温コーティングが可能であることから、プラスチックシンチレータ2に熱ストレスを与えることなく保護層3を形成することができる。
【0024】
なお、保護層3の塗布範囲については特に限定するものではないが、プラスチックシンチレータ2の腐食性ガスと接触する可能性のある部分は全て覆うようにすることが望ましい。本実施の形態1では、プラスチックシンチレータ2とライトガイド4の接合部5a付近まで保護層3を設けている。なお、反射シート7のアルミニウム蒸着層72には、オゾンの作用により酸化アルミニウムの透明膜が形成され、これが保護層の役割を果たす。
【0025】
以上のように、本実施の形態1に係る放射線検出器1は、プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側に保護層3を設けることにより、空気中のオゾンや腐食性ガスを含むプロセス流体がプラスチックシンチレータ2に直接接触しないようにしたので、プラスチックシンチレータ2の劣化が抑制され、耐候性、耐薬品性が大幅に向上する。これにより、放射線の検出効率の低下が抑制され、長期にわたって安定した放射線計測が可能となる。
【0026】
また、反射シート7に圧力バランス孔73を設け、検出器ケース11の開口部に着脱可能に取り付けたので、反射シート7のたわみを防止することができるとともに、プラスチックシンチレータ2とライトガイド4の接合部5a、およびライトガイド4と光電子増倍管8の接合部5bの健全性を目視で確認することができ、接合部5a、5bに不具合があった場合の発見が可能であり、出力低下の原因究明が効率化される。これらのことから、本実施の形態1によれば、耐候性、耐薬品性に優れた信頼性の高い放射線検出器1を提供することができる。
【0027】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る放射線検出器を示す部分断面図である。図3中、図1と同一、相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。上記実施の形態1では、プラスチックシンチレータ2の放射線入射面側に保護層3を設けた放射線検出器1について述べた。本実施の形態2では、上記実施の形態1に係る放射線検出器1よりも保護層3の塗布範囲を拡げ、さらに耐候性、耐薬品性を向上させた放射線検出器1aについて説明する。
【0028】
本実施の形態2では、図3に示すように、反射シート7のアルミニウム蒸着層72表面、およびライトガイド4の被測定ガスと接触する可能性がある部分にも保護層3を設けた。なお、ライトガイド4と検出器ケース11のシール部は、パッキン13により気密に保持されているが、パッキン13に不具合があった場合、被測定ガスが検出器ケース11の内部に侵入し、ライトガイド4の外周側面に接触する可能性がある。保護層3は、上記実施の形態1と同様に、ポリパラキシリレン樹脂を常温コーティングして形成したものである。
【0029】
原子力発電所や放射性同位元素の取扱施設等においては、放射性物質を焼却減容する焼却炉の排気筒から排出される排ガス中のNOx、SOx、HCl等の酸性ガス、および復水器空気抽出器排ガスに含まれる防錆剤として高濃度のアンモニア等のアルカリ性ガスが排出される。このような酸性ガスやアルカリ性ガスを含む腐食性ガスが排出される環境においては、上記実施の形態1に係る放射線検出器1の場合、反射シート7のアルミニウム蒸着層72が腐食されて光の反射効率が低下し、放射線の検出効率の低下が生じる恐れがある。
【0030】
これに対し、本実施の形態2に係る放射線検出器1aは、反射シート7のアルミニウム蒸着層72表面に、耐薬品性に優れたポリパラキシリレン樹脂からなる保護層3を設けたので、上記のような高濃度の腐食性ガスが排出される環境下においても、反射シート7のアルミニウム蒸着層72の腐食を抑制することができる。従って、本実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに耐候性、耐薬品性に優れ、高濃度の腐食性ガスを排出する環境においても信頼性の高い放射線計測が行える放射線検出器1aを提供することができる。
【0031】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3に係る放射線検出器を示す部分断面図である。図4中、図1と同一、相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。上記実施の形態2では、反射シート7のアルミニウム蒸着層72表面に保護層3を設けた放射線検出器1aについて述べた。本実施の形態3では、金属蒸着層としてチタン蒸着層74を有する反射シート7aを用いることにより、耐候性、耐薬品性を向上させた放射線検出器1bについて説明する。
【0032】
放射線検出器1bの反射シート7aは、ポリエチレンテレフタレートフィルム71の片面にチタンを蒸着したチタン蒸着層74を有し、このチタン蒸着層74がプラスチックシンチレータ2の放射線入射面に対向して配置される。チタン蒸着層74は、耐候性、耐薬品性に優れているため、上記実施の形態2でアルミニウム蒸着層72表面に設けた保護層3を設ける必要はない。従って、本実施の形態3によれば、上記実施の形態2と同様の効果が得られるとともに、上記実施の形態2よりも反射シート7aの構造が簡略化できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る放射線検出器は、原子力発電所や放射性同位元素の取扱施設等のプロセスで使用される、あるいは排出されるガスに含まれる放射線物質を測定し管理するための放射線検出器として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1、1a、1b 放射線検出器、2 プラスチックシンチレータ、
3 保護層、4 ライトガイド、5a、5b 接合部、6 反射材膜、
7、7a 反射シート、8 光電子増倍管、9 前置増幅器、10 ケーブル、
11 検出器ケース、12 クッション、13 パッキン、70 放射線入射面、
71 ポリエチレンテレフタレートフィルム、72 アルミニウム蒸着層、
73 圧力バランス孔、74 チタン蒸着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を光に変換するプラスチックシンチレータ、
前記プラスチックシンチレータからの放射光を電子に変換増幅する光電子増倍管、
前記プラスチックシンチレータからの放射光を前記光電子増倍管に導くライトガイド、
前記プラスチックシンチレータに放射線を入射させる開口部を有し、前記プラスチックシンチレータ、前記光電子増倍管、および前記ライトガイドを収納する検出器ケース、
前記検出器ケースの開口部に着脱可能に取り付けられ、前記プラスチックシンチレータからの放射光を前記ライトガイドに向けて反射させる反射シートを備え、
前記プラスチックシンチレータの放射線入射面側に、光を透過し且つその被塗布面を腐食性ガスから保護する保護層を設けたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線検出器であって、前記保護層は、ポリパラキシリレン樹脂を常温で塗布したものであることを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線検出器であって、前記反射シートは、プラスチックフィルムの片面にアルミニウムを蒸着したアルミニウム蒸着層を有し、このアルミニウム蒸着層が前記プラスチックシンチレータの放射線入射面に対向して配置されることを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線検出器であって、前記反射シートの前記アルミニウム蒸着層表面に、さらに前記保護層を設けたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線検出器であって、前記ライトガイドの被測定ガスと接触する可能性がある部分に、さらに前記保護層を設けたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線検出器であって、前記反射シートは、プラスチックフィルムの片面にチタンを蒸着したチタン蒸着層を有し、このチタン蒸着層が前記プラスチックシンチレータの放射線入射面に対向して配置されることを特徴とする放射線検出器。
【請求項7】
請求項1に記載の放射線検出器であって、前記反射シートは、前記検出器ケース内外の圧力差を解消する圧力バランス孔を有することを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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