説明

放射線検出器

【課題】アルファ線、ベータ線、ガンマ線など放射線の種類が不明の現場であっても、1つの放射線検出器でこれらの放射線の種類を弁別し、個別の計数率を高精度で出力可能な放射線検出器を提供する。
【解決手段】アルファ線は飛程が短いので1層目の厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータですべて検出する。ベータ線は1層目の第1のシンチレータではごく一部のエネルギーのみ失い、そのほとんどのエネルギーを2層目の厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータで失う。2層目の厚さは目標とする2〜3MeVのベータ線のエネルギーをほぼすべて失うものを選択する。ガンマ線は透過力が高いので3層目の厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータで検出する。各層のシンチレータにおいて、発光減衰時間の異なるものを用いて、その発光減衰時間の違いを電子回路で計測し、波形解析することで高い精度で弁別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器に関し、特に原子力発電所等の事故に伴う放射能汚染用の検出用のサーベイメータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のサーベイメータは、アルファ線用、ベータ線用、ガンマ線用などに分かれており、それぞれの用途に応じて使い分けることが多かった。しかし、原子力発電所の事故等に伴う放射能汚染の検出においては、多種類の核分裂生成物が環境中に放出され、その中にはアルファ線放出核種、ベータ線放出核種、ガンマ線放射核種が存在する。
一般的なサーベイメータはシンチレーション検出器を用いているが、構造上、環境中のガンマ線量を計測していることが多い。そのため、アルファ線やベータ線の検出には、それぞれ専用のサーベイメータを用いる必要がある。例えば、アルファ線サーベイメータには、ZnS(Ag)薄膜と光電子増倍管を組み合わせたシンチレーションサーベイメータが用いられる。
【0003】
また、異なるエネルギー領域の放射線を吸収するものとして、放射線の入射方向に対峙して設けられ、それぞれ異なるエネルギー領域の放射線を吸収して放射線量に応じた放射線検出信号を出力する複数層の半導体放射線検出器が知られている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に開示された半導体放射線検出器の場合、各層での放射線検出信号に重率を乗算するといったエネルギー感度特性の補正を行わねばならず、かかる重率によって感度が大きく変動するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−214869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般には、アルファ線用、ベータ線用、ガンマ線用のサーベイメータの3種を、緊急を要する汚染現場で使用することは困難である。また、測定器を複数種類そろえることは経済的な負担になる。
上記状況に鑑みて、本発明は、原子力発電所の事故等に伴う放射能汚染のような、アルファ線、ベータ線、ガンマ線など放射線の種類が不明の現場であっても、1つの放射線検出器でこれらの放射線の種類を弁別し、個別の計数率を高精度で出力可能な放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明の第1の観点の放射線検出器は、発光減衰時間の互いに異なる、厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータと、厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータと、厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータとが、順に入射側から積層され、各シンチレータでの発光を検出し得る光検出器と光結合されたことを特徴とする。
かかる構成によれば、アルファ線用の第1のシンチレータ、ベータ線用の第2のシンチレータ、ガンマ線用の第3のシンチレータの3種を順に入射側から積層し、各シンチレータでの発光を検出できる光検出器と光結合させることにより、アルファ線、ベータ線、ガンマ線を同時に、弁別して測定可能にする。
【0007】
アルファ線は飛程が短いので1層目の厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータですべて検出できる。ベータ線は1層目の第1のシンチレータではごく一部のエネルギーのみ失い、そのほとんどのエネルギーを2層目の厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータで失う。2層目の厚さは目標とする2〜3MeVのベータ線のエネルギーをほぼすべて失うものを選択する。ガンマ線は透過力が高いので3層目の厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータで検出される。このように、各層のシンチレータにおいて、発光減衰時間の異なるものを用いれば、その発光減衰時間の違いを電子回路で計測し、これを波形解析することで高い精度で弁別することができる。
光検出器と光結合させる目的は、各層のシンチレータから放出された光の経路を把握して最適の方法で損失なしに光受信面にガイドすることにより、光信号を電気的に転換させることにある。
【0008】
また、本発明の第2の観点の放射線検出器は、厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータと、第1のシンチレータと同じ厚さのアルファ線吸収体が入射側に積層された厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータと、第1のシンチレータの厚さと第2のシンチレータの厚さの合計した厚さのベータ線吸収体が入射側に積層された厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータとが、それぞれ並行に配置され、各シンチレータでの発光を検出し得る光検出器と光結合されたことを特徴とする。
かかる構成によれば、アルファ線用の第1のシンチレータ、ベータ線用の第2のシンチレータ、ガンマ線用の第3のシンチレータの3種が並列に配置され、各シンチレータでの発光を検出できる光検出器を設けることにより、アルファ線、ベータ線、ガンマ線を同時に、弁別して測定できる。
光検出器と光結合させる目的は、各シンチレータから放出された光の経路を把握して最適の方法で損失なしに光受信面にガイドすることにより、光信号を電気的に転換させることにある。
【0009】
第2の観点の放射線検出器の場合、アルファ線用の第1のシンチレータ、ベータ線用の第2のシンチレータ、ガンマ線用の第3のシンチレータの3種は、第1の観点の放射線検出器と異なり、発光減衰時間が互いに異なる必要はなく、発光減衰時間が同じものでもよい。
【0010】
ここで、第1の観点の放射線検出器における光検出器は、各シンチレータでの発光を検出し電気信号として出力する光電子増倍管である。光電子増倍管を用いることにより、波形解析スペクトル、エネルギースペクトルの情報を得ることが可能になる。
また、第1の観点もしくは第2の観点の放射線検出器における光検出器は、各シンチレータでの発光を検出し電気信号として出力する位置有感型光電子増倍管である。
光検出器として位置有感型光電子増倍管を用いることにより、波形解析スペクトル、エネルギースペクトルに加えて、シンチレータで検出された放射線の位置の情報を得ることが可能になる。位置情報の計算は、例えば出力信号の重心を計算することで求めることができる。例えば、アルファ線を放出するプルトニウムは粒子状で存在するため、位置情報がプルトニウムの検出に役立つことになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1つの放射線検出器でアルファ線、ベータ線、ガンマ線を同時に、弁別して測定できるといった効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の放射線検出器の概略構成模式図
【図2】オシロスコープで観察したアルファ線(A)、ベータ線(B)、ガンマ線(C)に対する光電子増倍管出力信号波形
【図3】アルファ線、ベータ線、ガンマ線を個別に測定したときの波形解析スペクトル(左)とエネルギースペクトル(右)
【図4】アルファ線、ベータ線、ガンマ線を順番に照射したときの各層の計数率
【図5】実施例2の放射線検出器の概略構成模式図
【図6】実施例3の放射線検出器の概略構成模式図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0014】
図1に本発明の実施例1の放射線検出器の概略構成模式図を示す。シンチレータには厚さ50μmのプラスチックシンチレータ、厚さ0.5mmのCe濃度1.5mol%のGdSiO(GSO)、厚さ0.5mmのCe濃度0.4mol%のGSOをそれぞれ光結合し、光検出器である光電子増倍管(PMT)に光結合した構成になっている。
核反応生成物の代表的な核種であるアメリシウムなどから放出される6MeV程度のアルファ線の飛程はプラスチック内では50μm程度であるので、アルファ線はすべてのエネルギーをプラスチックシンチレータ内で失い、シンチレーション光を発生する。このシンチレーション光の発光減衰時間は2.4ns程度である。
【0015】
代表的な核分裂生成物であるSr−Y−90から放出される2MeVの程度のベータ線の飛程は、水中において平均2mm程度である。従って、ベータ線の飛程は、密度が6倍以上のGSOの中では平均で0.3mm程度となり、ほぼすべてのエネルギーを2層目のGSO内で失うことになる。1層目においてもベータ線はエネルギーを失うが、プラスチックシンチレータの厚みが50μmであるので、この中でのベータ線のエネルギー損失はごく僅かである。このシンチレーション光の発光減衰時間は35ns程度である。
【0016】
代表的な核分裂生成物であるCs−137から放出される662keVのガンマ線の透過性は極めて高く、1層目では検出されず、2層目と3層目で略同じ割合で検出される。したがって、3層目の計数は、それまでの1層目と2層目でアルファ線とベータ線が吸収され3層目には到達しないのでガンマ線のみとなる。このシンチレーション光の発光減衰時間は70ns程度である。
これら3層の発光は光電子増倍管に導かれ、電気信号に変換される。電気信号のシンチレーション光の信号は、1層目、2層目、3層目でそれぞれ異なっているので、この信号を波形解析することで3層のどの層で発光した信号かを弁別することが可能になる。
【0017】
図2に実施例1の放射線検出器で、Am−241からのアルファ線、Sr−Y−90からのベータ線、Cs−137からのガンマ線を個別に測定したときの光電子増倍管の信号波形を示す。
アルファ線が検出器に入射した場合、1層目のプラスチックシンチレータでのみ検出されるので、速い発光減衰時間(回路で少し平滑化され10ns程度)の波形が観察される。
ベータ線が検出器に入射した場合、2層目のGSOでのみ検出されるので、中程度の発光減衰時間(回路で少し平滑化され40ns程度)の波形が得られる。
ガンマ線が検出器に入射した場合、2層目と3層目の両方で検出されるので、中程度(回路で少し平滑化され40ns程度)と遅い発光減衰時間(回路で少し平滑化され80ns程度)の波形が得られる。
この信号の波形解析を行うことで、波形解析スペクトルを得ることができる。信号処理の方法としては光電子増倍管の信号をアナログ−デジタル変換し、2種類の積分時間(例えば50nsと320ns)で積分し、その比を取れば良い。
【0018】
図3に実施例1の放射線検出器で、Am−241からのアルファ線、Sr−Y−90からのベータ線、Cs−137からのガンマ線を個別に測定したときの波形解析スペクトルとエネルギースペクトルを示す。図3(A)〜(C)において、左が波形解析スペクトルで右がエネルギースペクトルである。
アルファ線が放射線検出器に入射した場合、発光減衰時間の速いプラスチックシンチレータでのみ検出されるので、波形解析結果で最も右にピークが観察される(図3(A)の左図)。エネルギースペクトルはアルファ線に対する単一のピークが観察される(図3(A)の右図)。
【0019】
ベータ線が放射線検出器に入射した場合、発光減衰時間が中程度の2層目のGSOでのみ検出されるので、波形解析結果で中ほどにピークが観察される(図3(B)の左図)。エネルギースペクトルはベータ線に対する広がった分布が観察される(図3(B)の右図)。
ガンマ線が放射線検出器に入射した場合、発光減衰時間が中程度の2層目と遅い3層目の両方で検出されるので、中ほどと左側にピークが観察される(図3(C)の左図)。エネルギースペクトルはガンマ線に対する単一のピークが観察される(図3(C)の右図)。
これらの結果より、波形解析スペクトルを3分割すれば、右からアルファ線、ベータ線、ガンマ線の計数を得ることが可能となる。
【0020】
図4にアルファ線、ベータ線、ガンマ線を順番に照射したときの各層の計数率の変化を示す。まず、アルファ線を照射したときは1層目の計数のみ増加する。次に、ベータ線を照射すると2層目の計数のみが増加する。最後にガンマ線を照射すると2層目と3層目の計数が増加する。したがって、1層目の計数はアルファ線、2層目はベータ線、3層目はガンマ線の計数を表していることになる。
ベータ線とガンマ線が同時に照射された場合は、2層目の計数から3層目の計数を定数倍したものを減算すれば補正されたベータ線の計数率が得られる。
【実施例2】
【0021】
図5に本発明の実施例2の放射線検出器の概略構成模式図を示す。シンチレータには厚さ50μmのプラスチックシンチレータ、厚さ0.5mmのCe濃度1.5mol%のGSO、厚さ0.5mmのCe濃度0.4mol%のGSOをそれぞれ光結合し、光検出器である位置有感型光電子増倍管(PSPMT)に光結合した構成になっている。位置有感型光電子増倍管と3種のシンチレータの間には、透明アクリル板などで作成したライトガイドを挿入することもできる。
【0022】
3種のシンチレータで検出される放射線は実施例1と同じであるが、本実施例においては位置有感型光電子増倍管に光結合されているので、波形解析スペクトル、エネルギースペクトルに加えて、シンチレータで検出された放射線の位置の情報を得ることが可能になる。位置情報の計算は、例えば出力信号の重心を計算することで求めることが可能となる。アルファ線を放出するプルトニウムは粒子状で存在するので位置情報がプルトニウムの検出に役立つ。
【実施例3】
【0023】
図6に本発明の実施例3の放射線検出器の概略構成模式図を示す。シンチレータには厚さ50μmのプラスチックシンチレータを位置有感型光電子増倍管(PSPMT)の一部(図6の左側)に光結合し、厚さ0.5mmのCe濃度1.5mol%のGSOを図6に示すように中ほどに光結合し、その入射面には、例えば50μm程度の発光しないプラスチックを貼り付ける。厚さ0.5mmのCe濃度0.4mol%のGSOを図6に示すように右側に光結合し、その前には1mm程度のベータ線吸収材を貼り付ける。実施例3では、これらのシンチレータを、光検出器である位置有感型光電子増倍管に光結合した構成になっている。
【0024】
位置有感型光電子増倍管と3種のシンチレータの間には透明アクリル板などで作成したライトガイドを挿入し高さを一定にそろえることもできる。また発光が別のシンチレータの位置まで広がらないように光吸収材を各シンチレータの間に入れることもできる。
3種のシンチレータで検出される放射線は実施例1と同じであるが、本実施例3においては位置有感型光電子増倍管に光結合されているので、シンチレータで検出された放射線の位置の情報が各シンチレータで検出された種類を表すことができる。この場合、波形解析を併用することで精度が向上する。なお、本実施例3の場合、発光減衰時間の同じシンチレータを選択しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、原子力発電所等の施設内のサーベイメータとして有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光減衰時間の互いに異なる、厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータと、厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータと、厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータとが、順に入射側から積層され、各シンチレータでの発光を検出し得る光検出器と光結合されたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
厚さ0.1mm以下の第1のシンチレータと、第1のシンチレータと同じ厚さのアルファ線吸収体が入射側に積層された厚さ0.1〜1mmの第2のシンチレータと、第1のシンチレータの厚さと第2のシンチレータの厚さの合計した厚さのベータ線吸収体が入射側に積層された厚さ0.1〜50mmの第3のシンチレータとが、それぞれ並行に配置され、各シンチレータでの発光を検出し得る光検出器と光結合されたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】
前記光検出器が、各シンチレータでの発光を検出し電気信号として出力する光電子増倍管である請求項1の放射線検出器。
【請求項4】
前記光検出器が、各シンチレータでの発光を検出し電気信号として出力する位置有感型光電子増倍管である請求項1又は2の放射線検出器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242369(P2012−242369A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116276(P2011−116276)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(596146108)
【Fターム(参考)】