説明

放射線治療および磁気共鳴複合装置

【課題】放射線治療中における磁気共鳴による質的に価値の高い画像監視を可能にすることを僅かな構成費用のもとで可能にする放射線治療および磁気共鳴複合装置を提供する。
【解決手段】半径方向において静磁場磁石によって区切られた内部空間を有する磁気共鳴診断部と、内部空間内の照射領域を照射するための放射線治療部とを備え、ビーム偏向装置を含む放射線治療部の少なくとも一部が内部空間内に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療および磁気共鳴複合装置(放射線治療−磁気共鳴複合装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療の枠内においては一般に人間の体内の標的が病気、特に癌の克服のために照射される。この場合に、照射装置の照射中心部(照射点)に集中的に高い放射線量が発生される。照射時にしばしば体内の照射標的が移動するという問題が生じる。例えば、腹部における腫瘍が呼吸過程中に移動する。他方では腫瘍が照射計画と実際の照射との間の期間において成長し、あるいは既に縮小化することもある。そこで、放射線を適切に制御し、または場合によっては照射の中止を可能にし、それによって治療成果を高めるために、体内における照射標的の位置を照射中に画像化によって監視することが提案された。これは、特に上腹部および下腹部におけるならびに骨盤範囲、例えば前立腺における照射標的にとって重要である。標的ボリュームの外側における放射線量を最小限にして健全な組織を大切にするために、全ての放射線発生が患者の周りにおいて移動される。それによって放射線量が回転軸範囲における放射線に集中する。
【0003】
治療の監視のための画像化(撮像)手段として、X線装置も超音波装置も提案された。しかしながら、これらは問題の限られた解決しか具現しない。超音波画像化は、多くの用途にとって浸透深さが不足している。X線撮像の場合には、X線センサが加速器のガンマ線によって妨害され、または損傷させられることがある。更に、組織の撮影画質がしばしば満足できない。
【0004】
したがって、患者が照射装置において先行の照射計画時と同じ位置を有し、したがって実際においても照射装置の照射中心部が照射標的に一致することを保証するために、今日では主として、位置決め補助および固定化装置または患者の皮膚に付けられるマーキングが使用される。しかし、この位置決め補助および固定化装置は高価であり、患者にとって大概は心地が悪い。更に加えてこれは照射失敗の危険の問題を含んでいる。なぜならば、一般には照射中に照射中心部の実際の位置の更なるチェックが行なわれないからである。
【0005】
磁気共鳴技術は、特別に良好な軟組織表示も検査領域のスペクトル分析も可能にする公知技術である。したがって、この技術は基本的に放射線治療の監視に向いている。
【0006】
放射線治療装置をさまざまの磁気共鳴画像化システムと統合することは公知である(例えば、特許文献1参照)。この公知の装置では全ての実施形態において磁気共鳴画像化システムの磁石装置が2つの部分に分割されている。付加的に幾つかの実施形態においては磁気共鳴画像化システムの主要部分が放射線治療装置の放射線源と一緒に回転する。この場合に、放射線源は、それぞれ磁気共鳴画像化システムの外側にあり、遮蔽装置によって磁気共鳴画像化システムの漏れ磁場から保護されなければならない。磁石の2分割と同様に、回転可能な磁石および放射線源の遮蔽は技術的に費用がかかり、コストを上昇させる。
【0007】
放射線治療またはX線撮像システムが磁気共鳴画像化システムと統合されている他の装置も公知である(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0008】
一体化された磁気共鳴画像化システムを備えた直線加速器が公知である(例えば、特許文献7参照)。これによると一実施例において、磁気共鳴画像化システムが、加速器の位置において磁気共鳴画像化システムの磁場の磁場強度を最小限にするために、磁場を相殺するための手段を持っている。他の実施例では、磁気共鳴画像化システムの磁場によって生じさせられ得る治療放射線における異質性を補償するためにフィルタが使用される。
【特許文献1】米国特許第6366798号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2427479号明細書
【特許文献3】米国特許第6925319号明細書
【特許文献4】英国特許出願公開第2247478号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0197564号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0273795号明細書
【特許文献7】英国特許出願公開第2393373号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、放射線治療中における磁気共鳴による質的に価値の高い画像監視を可能にすることを僅かな構成費用のもとで可能にする放射線治療および磁気共鳴複合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1の対象物によって解決される。有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明によれば、放射線治療および磁気共鳴複合装置が、半径方向において静磁場磁石によって区切られる内部空間を有する磁気共鳴診断部と、内部空間内の照射領域を照射するための放射線治療部とを備え、放射線治療部の少なくとも一部が内部空間内に配置されている。
【0012】
磁気共鳴診断部はリアルタイムでの照射標的の移動解析を可能にし、したがって照射治療の最適な監視および制御を可能にする。磁気共鳴装置への放射線治療部の組込みおよびそれにともなう照射標的に対する放射線治療部の近距離化が、高い放射輝度ならびにビーム経路制御における高い精度を可能にする。通常の静磁場磁石の使用が可能である。
【0013】
放射線治療部が電子加速器を含むとよい。電子が容易に発生され、加速された電子が簡単に治療ビームを発生させることができる。
【0014】
特に有利な実施態様では、電子加速器内の電子ビーム方向が静磁場軸に対して実質的に平行に延びる。磁場に対して平行に移動する電子は磁場によって飛行軌道に影響を及ぼされない。それゆえ、磁場によって影響を及ぼされて加速される電子に比べて、電子の飛行方向および速度の決定が容易になる。
【0015】
放射線治療部が、電子ビームを内部空間の内側に向けて偏向する特に電磁石を含むビーム偏向装置を含むとよい。このようにして、加速された電子が既に所望の治療ビーム方向に持ち込まれる。
【0016】
特に有利な実施態様では、ビーム偏向装置がパルス磁石を含む。これは、(短時間だけ)特別な費用なしに静磁場の大きさかそれ以上の大きさの範囲の磁場を発生することができる。特に短いパルスによって更に磁気共鳴装置への障害が最小限にされる。
【0017】
放射線治療部が、X線ビーム通路に沿ったX線ビームを発生させるためのターゲット陽極を含むことが望ましい。X線、特に高エネルギーX線は、放射線治療に特に適し、磁気共鳴装置内に生じさせられる電磁場によって影響を及ぼされない。
【0018】
特に有利な実施態様では、ターゲット陽極が照射陽極である。照射陽極は高エネルギーのX線の発生に特に適している。
【0019】
他の実施態様では、ターゲット陽極後のX線通路中に均質化要素が配置されている。均質化要素は、例えばビーム中心部を弱め、ビーム横断面におけるX線ビーム分布を均一化する。
【0020】
ターゲット陽極後のX線ビーム通路中にコリメータが配置されていることが好ましい。コリメータはX線ビーム方向およびX線ビームの横断面積の調節を可能にする。
【0021】
特に有利な実施態様では、コリメータの少なくとも一部分が、磁気共鳴装置の軸方向に隔てられた2つの部分傾斜磁場コイルの間に配置されている。これは、特にスペースを節約する配置と同時に照射標的に対する有利な近距離化を具現する。
【0022】
他の有利な実施態様では、コリメータがX線ビームの横断面を変化させるための調整手段を含む。それによってX線ビームの横断面を照射中にも照射標的の形状に理想的に適合化させることができる。
【0023】
傾斜磁場コイルシステムの少なくとも部分傾斜磁場コイルが放射線治療部に対して遮蔽されている。これは、作動時に回転する放射線治療部と磁気共鳴診断部との依存性のない作動、特に同時作動を可能にする。なぜならば、傾斜磁場コイルの交番傾斜磁場が回転する放射線治療部に影響を及ぼさないからである。
【0024】
放射線治療部が静磁場磁軸の周りを回転可能である場合、他の利点として、標的ボリュームの外側、すなわち照射中心部の外側における適用放射線量の最小限化がもたらされる。したがって、放射線治療中における健全な組織の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の他の利点および詳細を以下に図面に基づいて説明する実施例から明らかにする。記載例は本発明を限定するものではない。
図1は本発明による放射線治療および磁気共鳴複合装置の概略図を示し、
図2乃至図4は本発明による放射線治療および磁気共鳴複合装置の他の実施形態の一部分の概略図を示す。
図5乃至図8は本発明による放射線治療および磁気共鳴複合装置において使用可能なビーム偏向装置の模範的な実施形態を示す。
【0026】
図1は、磁気共鳴診断部3と放射線治療部5とを備えた本発明による放射線治療および磁気共鳴複合装置1の(実物どおりの縮尺ではない)概略図を示す。磁気共鳴診断部3は、静磁場磁石10と、ここでは対称な部分傾斜磁場コイル21A,21Bを含む傾斜磁場コイルシステムと、例えば2つのボディコイル部分14A,14Bからなる高周波コイル14と、患者用テーブル6とからなる。磁気共鳴診断部のこれらの構成部分の全てが制御ユニット31および操作・表示コンソール32とに接続されている。
【0027】
図示の例では、静磁場磁石10も部分傾斜磁場コイル21A,21Bも、水平軸15の周りに中空円筒状にてかつ同軸に配置されている。静磁場磁石10の内側面が半径方向(軸15から垂直に離れてゆく方向)において円筒状の内部空間7を区切っている。内部空間7には放射線治療部5、傾斜磁場システム、高周波コイル14および患者用テーブル6が配置されている。より正確には、放射線治療部5は傾斜磁場コイル21A,21Bの外面と静磁場磁石10の内側に向く外被面との間の内部空間7内に配置されている。
【0028】
静磁場磁石10は、磁石コイルのほかに、支持部材、ハウジング等のような他の構造要素を含み、磁気共鳴検査に必要な均一な静磁場を発生する。図示の例では静磁場方向は水平軸15に対して平行である。患者の核スピンの励起は、高周波コイル14を介して発射される磁気的な高周波励起パルスを介して行なわれる。励起された核スピンから送出された信号が再び高周波コイル14によって受信される。
【0029】
軸方向において隔てられた部分傾斜磁場コイル21A,21Bはそれぞれ傾斜磁場コイル20を含み、傾斜磁場コイル20はそれぞれシールド27によって完全に包囲されている。傾斜磁場コイル20は、それぞれ、支持部材と、選択スライス励起および3つの空間方向における磁気共鳴信号の空間エンコーディングのための傾斜磁場を発射する個別傾斜磁場コイルとを含む。
【0030】
放射線治療部5はガントリ8に配置され、ここでは直線加速器として構成されている電子加速器9と、ビーム偏向装置17と、ターゲット陽極19と、均質化要素22と、コリメータ23とを含む。ガントリ8は開口部(破線)を含むとよく、それによって磁気共鳴診断部への接近がこの側からも可能となる。
【0031】
放射線治療部5の電子加速器9は、電子ビーム13を発生する電子源11、例えばタングステン陰極を含み、電子ビーム13は電子加速器9によって静磁場磁石10の静磁場に対して平行に、特にパルス状に加速される。例えば電子加速器9は5msごとに5μsの長さの電子ビームパルス列を発生する。電子加速器9がパルス化された電子ビーム13を発生する場合に、電子加速器9は、例えば約1/2メートルの長さに圧縮構成され、それにもかかわらず高エネルギー電子ビーム13による負担に耐えることができる。
【0032】
電子ビーム13の電子の加速は、電子加速器9の円筒状中空案内体内の交番磁場によって行なわれる。電子ビーム13の電子は数MeVの範囲までのエネルギーに加速される。電子加速器9は交番磁場の制御のための加速器制御ユニット12と電子源11とに接続されている。
【0033】
電子ビーム13は、電子源とは反対側の端部で電子加速器9から出射し、ビーム偏向装置17によって半径方向に90°だけ転向させられて軸15の方向へ向けられる。このためにビーム偏向装置17は適切な磁場を発生する磁石を含む。磁石は、周囲の磁場との望ましくない相互作用を防止するために非強磁性材料からなる電磁石として構成されている。ビーム偏向装置17は、強い外部磁場内で動作しなければならないために、従来のビーム偏向装置に対してそれ相応に変更されている。
【0034】
パルス化された電子ビーム13を小さな空間に転じることができるようにするためには、ビーム偏向装置17が強い磁場を発生しなければならない。損失出力を低減するために、ビーム偏向装置17の磁場は、パルス化された電子ビーム13と同期化されているパルス化磁場である。このためにビーム偏向装置17は、加速器制御ユニット12にも接続されているビーム偏向制御ユニット18に接続されている。
【0035】
偏向された電子ビーム13はターゲット陽極19に命中し、ビーム延長部分においてターゲット陽極から出るX線ビームをX線ビーム通路に沿って発生する。X線ビームは均質化要素22によって均質化される。
【0036】
コリメータ23は、隔てられた部分傾斜磁場21A,21Bの間の環状スリット内に、ターゲット陽極後のX線ビーム中に配置されている。それによって達成される照射標的への近距離化が一方では放射輝度を改善し、他方ではコリメータ23の実効性を改善する。
【0037】
コリメータ23はX線ビーム方向ならびにX線ビームの横断面積に対する影響を可能にする。このためにコリメータ23は可動調整手段24を有する。可動調整手段24は、定められた方向にのみ、例えば半径方向軸26に対して平行な方向にのみ、または軸26に対して最大で角度αまで離れる方向にのみ、かつ定められた横断面積にて、X線ビームを通過させる。X線ビームが軸26に対して平行に通過することができず、軸26から定められた角度だけ離れていく方向の「斜めの」X線ビームのみが通過するように、コリメータ23の調整手段24を設定することも可能である。調整手段24を制御するためにコリメータ23はコリメータ制御ユニット25に接続されている。この種のコリメータは十分に知られている。例を挙げれば、いわゆる「多分割絞り(multi−leaf)」コリメータがある。これは、X線ビームの大きさ、形および強度を照射標的に合わせることができるいわゆる強度変調放射線治療(IMRT:“ntensity
odulated adiation herapy”)を可能にする。特に、IMRTは放射線治療装置の回転軸の外側における照射中心部の位置決めも可能にする。
【0038】
X線ビームは、検査対象、ここでは患者Pを照射し、その際に磁気共鳴診断部3の診断ボリュームDを通るX線ビーム通路を進行する。照射標的ボリュームの外側において局所的放射線量を最小にするために、放射線治療部は静磁場軸を中心に回転する。それによって照射中心部Bにのみ全線量が適用される。コリメータ23は回転中にも常にX線ビームの横断面積を照射標的の当面の輪郭に適合させる。ガントリ8は放射線治療部の回転のために構成されている。ガントリ制御ユニット29は放射線治療部5の移動を制御する。例として、放射線治療部5が180°の回転後に放射線治療部5’として示されている。
【0039】
ガントリ制御ユニット29と、コリメータ制御ユニット25と、ビーム偏向制御ユニット18と、加速器制御ユニット12と制御ユニット31とは、磁気共鳴診断部によって取得された診断データ、例えば照射標的の3次元形状と、放射線治療部の回転位置と、X線ビームの横断面積および方向に関するコリメータ設定と、上述のパルス化されたビーム発生とを調整することができるようにするために互いに接続されている。。
【0040】
患者用テーブル6は3つの空間方向に移動可能である。これは照射の標的領域を正確に照射中心部Bに位置決めすることができるようにするためである。このために制御ユニット31が患者用テーブル6の移動を制御するように構成されているとよい。
【0041】
図2乃至図4は本発明による放射線治療および磁気共鳴複合装置の他の実施例の部分図を示す。図示の実施例では、図1の実施例に比べて、それぞれの放射線治療部5,105,205,305の配置がさまざまに変わっている。したがって、図の見易さのために、それぞれにおいて、放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場磁石110,210,310からほぼ放射線治療および磁気共鳴複合装置の高周波コイル114,214,314までの上側部分のみが示されている。残りの構造および動作態様は、違ったふうに説明しないかぎり、図1に示された例とほぼ同じであるので、これに関しては図1に示された例を参照されたい。
【0042】
図2は放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場磁石110を示し、静磁場磁石の放射線治療および磁気共鳴複合装置の内部空間107側に傾斜磁場コイルシステム120が配置されている。傾斜磁場コイルシステム120は特に1次コイル121および2次コイル122を含む。1次コイル121と2次コイル122との間に自由空間があり、自由空間内に放射線治療および磁気共鳴複合装置の放射線治療部105が配置されている。1次および2次コイル121,122のこのような隔てられた配置は傾斜磁場コイル120の効率を高める。更に、傾斜磁場コイルシステムの内部空間107側に高周波コイル114が配置されている。
【0043】
傾斜磁場コイルシステム120または少なくとも1次コイル121は、図1の例におけるように、2つの部分傾斜磁場コイル121A,121Bに分割され、放射線治療部105が静磁場軸の周りを回転する際に放射線治療部105の少なくとも一部が両部分傾斜磁場コイル間の環状間隙内を移動できるように配置されている。高周波コイル114も同様に2つの部分高周波コイル114A,114Bに分割されているとよい。
【0044】
代替として、傾斜磁場コイルシステム120を、これが放射線治療部105と一緒に静磁場軸の周りを回転できるように構成することも考えられ得る。この場合には傾斜磁場コイルシステム120または1次コイルの分割は必ずしも有意義ではない。1次コイルは、治療ビームを照射中心部Bに向けて照射することを可能にするために、1次コイルが放射線治療部105を1個所で内部空間107に届かせるように構成することで十分である。同様のことが高周波コイル114にも当てはまる。場合によっては、傾斜磁場コイルシステム120の機械的な回転が傾斜磁場電流の適切な制御によって補償されなければならない。しかしながら、傾斜磁場のこのような電気的な回転は通常の磁気共鳴システムの通常の能力である。もちろん回転には精度および再現性が高度に要求される。
【0045】
この実施例は、特にコンパクトな構造様式によって、患者を内部空間107に収容する大きな空間を提供する。図2の実施例における放射線治療部105のコリメータは、放射線治療および磁気共鳴複合装置の内部空間107において患者になおも多くの空間を許すように、特別に平らに構成されている。
【0046】
図3には放射線治療および磁気共鳴複合装置の他の実施例の一部が略示されている。この実施例においては、傾斜磁場コイルシステム220が、通常の磁気共鳴装置と同様に、静磁場磁石210の放射線治療および磁気共鳴複合装置の内部空間207側に配置されている。静磁場磁石210および傾斜磁場コイルシステム220のために通常の構成部品を使用することができ、このことはとりわけコストを節約する。
【0047】
更に、傾斜磁場コイルシステム220の内部空間207側に高周波コイル214が配置されている。しかしながら、放射線治療および磁気共鳴複合装置の放射線治療部205を傾斜磁場コイルシステム220と高周波コイル214との間に配置するために、傾斜磁場コイルシステム220と高周波コイル214との間に十分な空間を許す。
【0048】
放射線治療部205は、照射中心部Bの照射中に放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場軸の周りを回転する。図2の実施例と同様に、ここでも高周波コイル214は、放射線治療部205の少なくとも一部分が部分高周波コイル214A,214B間の環状間隙内を移動できるように、2つの部分高周波コイル214A,214Bに分割されているとよい。あるいは高周波コイル214が放射線治療部205と一緒に回転させられてもよい。
【0049】
図4は放射線治療および磁気共鳴複合装置の他の実施例の一部を概略的に示す。この場合には、磁気共鳴装置の従来の構造様式と同様に、高周波コイル314が傾斜磁場コイルシステム320の内部に配置されていて、傾斜磁場コイルシステム自体は静磁場磁石310の内側に配置されている。放射線治療および磁気共鳴複合装置の内部空間307側に、放射線治療部305が配置されている。前述の実施例と同様に、放射線治療部305は照射中に放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場軸の周りを回転する。この実施例においては、放射線治療部のこの回転移動を可能にするために、傾斜磁場コイルシステム320および高周波コイル314に関する特別の構造上の措置は全く必要でない。
【0050】
内部空間7において患者に窮屈な思いをさせないためには、高周波コイル314の内径はできるだけ大きく選び、放射線治療部はできるだけ平らに構成することが好ましい。
【0051】
図2乃至図4の実施例の放射線治療部105,205,305は、それぞれ、図1の実施例の放射線治療部5とほぼ同様に構成されている。個々の構成部品は図の見易さのために再度示されていない。放射線治療部105,205,305および/または傾斜磁場コイルシステム120,220,320および/または高周波コイル114,214の回転運動は、それぞれ破線矢印で示されている。
【0052】
場合によっては、図2、図3および図4の実施例において、放射線治療部105,205,305の可動部分と磁気共鳴部の電磁的な交番磁場との間の障害となる相互作用を回避するために、放射線治療部105,205,305と、磁気共鳴診断部、特に傾斜磁場コイルシステム120,220,320および/または高周波コイル114,214,314とが同時ではなくて交替動作にて作動させられる。
【0053】
図5乃至図8は、放射線治療部5,105,205,305において使用することができるビーム偏向装置17の可能な実施形態の3つの例を示す。
【0054】
図5には2つの環状の偏向コイル17A’ ,17B'からなるビーム偏向装置17'が示されている。偏向コイル17A',17B'は、放射線治療および磁気共鳴複合装置において、放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場磁石の静磁場に対して実質的に垂直に配置されている。偏向コイル17A',17B'の磁場方向は、放射線治療および磁気共鳴複合装置の半径方向軸26に対して実質的に平行に、したがって治療ビームにとって望まれる出射方向に延びる。静磁場と偏向コイル17A',17B'の磁場との組み合わせによって、電子ビーム13'が所望の方向に偏向される。
【0055】
偏向コイル17A’,17B’における電流密度は、とりわけ放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場磁石の磁場強度および電子ビームのエネルギーに応じて決定すべきである。例えば、6MeVの電子ビームおよび1.5Tの静磁場において、偏向コイル17A’,17B’における電流密度が約500MA/m2であるならば、偏向コイル17A’,17B’はビームを所望の方向に偏向する。
【0056】
図6乃至図8は、例えば有限要素法または差分法に基づくシミュレーションプログラムにより計算された構成を有するビーム偏向装置17'' ,17'''を示す。基礎をなす課題は、それぞれ、どのようにして静磁場に平行に入射する電子ビームを標的に命中させるために静磁場に対して垂直な方向に偏向させることができるかという問題であった。このためにこのような偏向のためにどのような磁場が必要であるか、そしてそれをどのようにして発生させることができるかが計算された。
【0057】
図6は、ビーム偏向装置として、設定された課題を解決するように形作られている能動的なコイル対17''を示す。水平な軸15に対して平行に入射する、したがって放射線治療および磁気共鳴複合装置の静磁場の方向に入射する電子ビーム13''が、位置「I」においてコイル対17''の間に入射し、位置「O」において放射線治療および磁気共鳴複合装置の半径方向軸26に対して平行な方向に電子ビームがコイル対17''から出射するように案内される。この場合にコイル対17''の磁場強度は電子ビームのエネルギーに応じて変化させられるとよい。
【0058】
模範的なコイル対17’’は約0.3Tの交差磁場を発生する。したがって、例えば6MeVの電子ビームを、1.5Tの磁場強度の放射線治療および磁気共鳴複合装置において所望のように偏向させることができる。
【0059】
図7および図8には、今度は受動的なビーム偏向装置による上述の課題の他の可能な解決策が示されている。
【0060】
図7に示されているように、課題解決のために必要な交差磁場を発生するビーム偏向装置17’’’は、4つの偏向ユニット117A,B,C,Dを含む。偏向ユニット117A,B,C,Dの配置は反復法によって次のように決定された。すなわち、電子ビーム13’’’が、図7の表示において右側から静磁場に対して平行に偏向ユニット117Aに入射し、偏向ユニット117Aから偏向ユニット117Bへ向けて偏向され、そして電子ビーム13’’’が偏向ユニット117Bを通して上方へ偏向される。偏向ユニット117Bからの電子ビーム13’’’は偏向ユニット117Cによって偏向され、偏向ユニット117Cを去る際には偏向ユニット117Dに向かって下方に偏向され、その結果電子ビーム13’’’は偏向ユニット117Dを去る際に静磁場に対して垂直方向になる。「上へ」、「下へ」、「右へ」および「下へ」のような指定は、それぞれ図7の模範的な表示に関連する。
【0061】
図8は、より正確に偏向ユニット117を示す。偏向ユニット117は多数の永久磁石118A,B,C,D,E,F,G,Hを含み、これらの磁石はとりわけ希土類元素、例えばNdFeBまたはSmCoから作られているとよい。
【0062】
例えば、6MeVの電子ビームを1.4Tの静磁場において所望のように偏向するために、約10×4×4mmの寸法を有する6個の永久磁石118A,B,C,D,E,Fと、約10×8×4mmの寸法を有する2個の永久磁石118G,Hとが、図示のように配置される。小さい方の寸法の永久磁石118A,B,C,D,E,Fの3個ずつが、永久磁石118A,B,C,D,E,Fのそれぞれの磁場の交互の整列にて互いに積み重ねられ、これらの積み重ねたものの間に大きい方の寸法の両永久磁石118G,Hが配置される。矢印は永久磁石118A,B,C,D,E,F,G,Hにおけるそれぞれの磁場方向を明確に示す。
【0063】
この実施形態は、特に簡単に作ることができ、しかも特にコンパクトな解決手段である。更に、僅かな静力学的な力しか作用しないので、特別な固定装置は必要でない。しかも、第一の成果はビーム偏向装置17’’’が非常に僅かな漏れ磁場しか発生しないことである。もちろん永久磁石は周囲温度または周囲の静磁場に対して敏感である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明装置の実施形態を示す概略図
【図2】本発明装置の他の実施形態の部分概略図
【図3】本発明装置の他の異なる実施形態の部分概略図
【図4】本発明装置の他の更に異なる実施形態の部分概略図
【図5】本発明装置に使用可能なビーム偏向装置の実施形態の概略図
【図6】本発明装置に使用可能なビーム偏向装置の他の実施形態の概略図
【図7】本発明装置に使用可能なビーム偏向装置の他の異なる実施形態の概略図
【図8】図7の偏向ユニットをより詳細に示す概略図
【符号の説明】
【0065】
1 放射線治療および磁気共鳴複合装置
3 磁気共鳴診断部
5 放射線治療部
6 患者用テーブル
7 内部空間
8 ガントリ
9 電子加速器
10 静磁場磁石
11 電子源
12 加速器制御ユニット
13 電子ビーム
13’ 電子ビーム
13’’ 電子ビーム
13’’’ 電子ビーム
14 高周波コイル
14A 部分ボディコイル
14B 部分ボディコイル
15 水平軸
17 ビーム偏向装置
17’ ビーム偏向装置
17’’ ビーム偏向装置
17’’’ ビーム偏向装置
17A' 偏向コイル
17B’ 偏向コイル
18 ビーム偏向制御ユニット
19 ターゲット陽極
20 傾斜磁場コイル
21A 部分傾斜磁場コイル
21B 部分傾斜磁場コイル
22 均質化要素
23 コリメータ
24 調整手段
25 コリメータ制御ユニット
26 半径方向軸
27 シールド
29 ガントリ制御ユニット
31 制御ユニット
32 操作・表示コンソール
105 放射線治療部
107 内部空間
110 静磁場磁石
114 高周波コイル
114A 部分高周波コイル
114B 部分高周波コイル
117 偏向ユニット
117A〜D 偏向ユニット
118A〜H 永久磁石
120 傾斜磁場コイルシステム
121 1次コイル
121A 部分傾斜磁場コイル
121B 部分傾斜磁場コイル
122 2次コイル
205 放射線治療部
207 内部空間
210 静磁場磁石
214 高周波コイル
214A 部分高周波コイル
214B 部分高周波コイル
220 傾斜磁場コイルシステム
305 放射線治療部
307 内部空間
310 静磁場磁石
314 高周波コイル
320 傾斜磁場コイルシステム
B 照射中心部
D 診断ボリューム
I 入射位置
O 出射位置
P 患者
α 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向において静磁場磁石によって区切られた内部空間を有する磁気共鳴診断部と、内部空間内の照射領域を照射するための放射線治療部とを備え、ビーム偏向装置を含む放射線治療部の少なくとも一部が内部空間内に配置されていることを特徴とする放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項2】
放射線治療部が電子加速器を含むことを特徴とする請求項1記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項3】
電子加速器内の電子ビーム方向が静磁場軸に対して実質的に平行に延びることを特徴とする請求項2記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項4】
放射線治療部が、静磁場磁石の内部空間側の外被面と静磁場磁石に対して同軸の傾斜磁場コイルシステムの外側面とによって区切られた半径方向の広がりを有する自由空間内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項5】
放射線治療部が、傾斜磁場コイルシステムの1次コイルと2次コイルとの間の自由空間内に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項6】
放射線治療部が、磁気共鳴診断部の高周波コイルと傾斜磁場コイルシステムとの間に 配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項7】
放射線治療部が、磁気共鳴診断部の高周波コイルの両側のうち放射線治療および磁気共鳴複合装置の診断ボリューム側に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項8】
電子加速器が加速器制御ユニットに接続されていることを特徴とする請求項1乃至7の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項9】
ビーム偏向装置が電子ビームを内部空間の内側に向けて偏向することを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項10】
ビーム偏向装置が、電子ビームを90°半径方向に内側に向けて偏向するように構成されていることを特徴とする請求項9記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項11】
ビーム偏向装置が少なくとも1つの電磁石を含むことを特徴とする請求項9又は10記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項12】
ビーム偏向装置が少なくとも1つの永久磁石を含むことを特徴とする請求項9又は10記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項13】
ビーム偏向装置が少なくとも1つのパルス磁石を含むことを特徴とする請求項9乃至11の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項14】
ビーム偏向装置がビーム偏向制御ユニットに接続されていることを特徴とする請求項9乃至11の1つ又は13記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項15】
放射線治療部が、X線ビーム通路に沿ったX線ビームを発生させるためのターゲット陽極を含むことを特徴とする請求項1乃至14の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項16】
ターゲット陽極が照射陽極であることを特徴とする請求項15記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項17】
ターゲット陽極後のX線ビーム通路中に均質化要素が配置されていることを特徴とする請求項15又は16記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項18】
ターゲット陽極後のX線ビーム通路中にコリメータが配置されていることを特徴とする請求項15乃至17の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項19】
コリメータの少なくとも一部分が、磁気共鳴装置の軸方向に隔てられた2つの部分傾斜磁場コイルの間に配置されていることを特徴とする請求項18記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項20】
コリメータがX線ビームの横断面を変化させるための調整手段を含むことを特徴とする請求項18又は19記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項21】
コリメータがコリメータ制御ユニットに接続されていることを特徴とする請求項18乃至20の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項22】
傾斜磁場コイルシステムの少なくとも部分傾斜磁場コイルが放射線治療部に対して遮蔽されていることを特徴とする請求項4乃至21の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項23】
放射線治療部が静磁場磁軸の周りを回転可能であることを特徴とする請求項1乃至22の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。
【請求項24】
X線ビーム通路が磁気共鳴診断部の診断ボリュームを通ることを特徴とする請求項1乃至23の1つに記載の放射線治療および磁気共鳴複合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−212667(P2008−212667A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43128(P2008−43128)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】