説明

放射線測定装置

【課題】全方位にわたって放射線を検出するモニタリングポストにおいて、監視対象外成分としての検出データ成分を識別できるようにする。
【解決手段】データ処理部52は入射放射線について方位θ及びエネルギー区分Eを判定する。内外判定部108は、あらかじめ登録された方位判定条件に従って、演算された方位が監視方位であるか非監視方位であるかを判定する。演算された方位が非監視方位であれば、スペクトル処理部104は、入射放射線に対応する検出データ成分を監視対象外成分として除外する置換処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線測定装置に関し、特に、放射線の飛来方向を識別する機能を有するモニタリングポストに関する。
【背景技術】
【0002】
(1)本願の背景
本発明は、アロカ株式会社が、独立行政法人科学技術振興機構から委託された「全方向性ガンマ線検出器」に関する新技術開発を実施する過程において、その成果として生み出されたものである。
【0003】
(2)従来の技術
放射線測定装置としてのモニタリングポストは、例えば、原子力発電所、核燃料処理施設などの施設の周辺、あるいは、地方自治体により定められた観測点に設置され、その設置場所において放射線測定を連続的に遂行する。これにより異常発生の有無が常時監視される。モニタリングポストにおいては、放射線の飛来方向を自動的に識別することが望まれる。その方法として、指向性をもった検出器を回転させる方法があげられる。その検出器を回転させるためにはどうしても大掛かりな機構が必要となる。モニタリングポスト以外の放射線測定装置(例えば、フロア上に設置されるサーべイモニタ)においても、放射線の飛来方向を識別することが求められている。特許文献1、特許文献2、特許文献3及び、非特許文献1には、複数種類のシンチレータを用いて得られた複数のスペクトル上でそれぞれピークを特定し、複数のピークについて計数値の比率を求め、その比率から放射線の飛来方向(入射方向)を特定することが開示されている。
【0004】
なお、上述したようなスペクトル上でピークを特定する手法を用いる場合、ピークが不明瞭の場合あるいはピーク特定精度に問題がある場合には、演算結果の信頼性が低下する。ピークが明瞭に現れるまで待ってから演算を行うことも可能ではあるが、その場合には迅速な処理を行えなくなる。そこで、迅速な処理を行える装置が望まれる。また、複数の放射線が同時入射した場合にそれらを弁別することが望まれ、また、放射線の飛来方向とは別に、放射線のエネルギー(エネルギー区分)を識別することが望まれる。これらの要望に応える装置を開示する特許出願として特願2005−346308号がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−191327号公報
【特許文献2】特開2004−361290号公報
【特許文献3】特開2006−201086号公報
【非特許文献1】白川芳幸、全方向性γ線検出器の開発、RADIOISOTOPES、Vol.53、No.8、pp.445-450、Aug.2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、全方位にわたって空間放射線のモニタリングを行う場合であっても、本来的な監視対象は原子力発電所等の特定の放射線取扱施設であって、それは地理的に見て1又複数の特定方位(あるいは特定方位範囲)だけに存在するものである。つまり、本来的には、方位全体における一部が主な監視範囲である。にもかかわらず、全方位にわたって一律の観測条件又はデータ処理条件を適用すると、場合によっては不都合が生じる。
【0007】
例えば、診断用又は治療用の放射性同位元素が投与された(あるいは埋め込まれた)人がモニタリングポストに近付くと、あるいは、レントゲン撮影車がモニタリングポスト付近で稼働していると、モニタリングポストでは、本来監視したい放射線ではない、監視対象外の放射線を検出してしまう。そして、それに起因して線量情報が突然に上昇すると、異常事態の発生と誤認して、無用な混乱を引き起こしてしまうおそれがある。といっても、当初から単一の特定方位だけに放射線の監視範囲を絞る構成を採用すると、複数の放射線取扱施設について監視を行えなくなるし、その汎用性が失われてしまう。そこで、全方位からの放射線の検出を行えるようにしつつも、監視対象外の放射線が検出された場合にはそれを特定、識別できるようにすることが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、監視対象外からの放射線を検出する場合に生じる問題を解消又は軽減できるようにすることにある。
【0009】
本発明の他の目的は、全方位の監視と特定方位の監視の両立を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の説明
本発明は、全方位にわたって放射線を検出可能な検出部と、前記検出部を用いて取得された検出データに基づいて、入射放射線の飛来方位を演算する飛来方位演算部と、監視対象施設が存在する監視方位とそれ以外の非監視方位とを区別する方位条件が予め登録された記憶部と、前記方位条件に基づいて判定を行う手段であって、前記入射放射線の飛来方位が前記非監視方位である場合に、前記検出データの内で当該入射放射線に対応する検出データ成分を監視対象外成分として判定する判定部と、を含むことを特徴とする放射線測定装置に関する。
【0011】
上記構成によれば、検出部においては、全方位にわたって放射線の検出を行えるが、監視方位(監視方位範囲)からの放射線とそれ以外の非監視方位(非監視方位範囲)からの放射線とを区別して演算処理あるいは表示処理を行える。すなわち、監視方位外からの放射線については、それに相当する検出データ成分が監視対象外成分として判定される。そして、例えば、そのような監視対象外成分が除外された上で線量情報の演算が遂行され、また、そのような監視対象外成分を識別可能な態様で検出データがスペクトルあるいは数値として表示される。これにより、監視対象外からの放射線の入射により、急激に計数率(線量率)が上昇したような場合でも、それを異常として誤認してしまう問題を解消又は軽減できる。記憶部に監視対象施設をカバーする監視方位条件を予め登録しておくのが望ましい。その場合に、当該放射線測定装置の地理上の位置及び監視対象施設の地理上の位置から、監視対象が存在する方位やその範囲を自動的に計算させるようにしてもよい。監視対象施設からの放射線か否かを弁別する場合に、上記の方位に関する条件とは別にエネルギーに関する条件等を付加するようにしてもよい。このような場合にはたまたま別の線源が監視対象施設と同じ方位に存在しても、エネルギーの観点から各放射線を弁別できる。すなわち、複数の観点から総合判定を行えば、検出された放射線が監視すべき放射線なのか否かを精度良く判定できる。なお、複数の施設を監視対象とする場合でも上記構成を採用できる。上記構成によれば、全方位の検出を行いつつも、方位条件を適宜定めておけば入射放射線について監視対象か否かを簡便に識別できる。方位条件は一般に登録内容の変更等によって容易に改変できるので監視対象施設が追加あるいは除外されてもそれらに柔軟に対応でき、それ故、放射線測定装置としての汎用性を維持しながら同時に様々なニーズに応えることができる。
【0012】
望ましくは、前記検出部を用いて取得された検出データに基づいて、前記入射放射線が属するエネルギー区分を求めるエネルギー区分演算部を含み、前記判定部は、前記入射放射線が属するエネルギー区分内の検出データ成分を前記監視対象外成分として判定する。監視対象外成分は、通常、全エネルギー範囲に及ぶものではなく、特定のエネルギー区分で生じるものであるので、エネルギー区分を単位として監視対象外成分の除外あるいは識別を行うのが望ましい。また、そのような処理によれば有効な監視対象成分までを不必要に除外等してしまうことを防止又は軽減できる。
【0013】
望ましくは、前記検出データに基づく情報を表示する場合に前記監視対象外成分を識別表示する表示処理部を含む。望ましくは、前記検出データに含まれる前記監視対象外成分をバックグランド成分に置換する置換処理を実行する置換処理部を含む。監視対象外成分を単に除外してもよいが、それをバックグランド成分に置換すれば実態に合致した自然な補正を行える。上記置換処理はスペクトル上において又は数値列上において行える。
【0014】
望ましくは、前記置換処理後の検出データに基づいて線量情報を演算する線量情報演算部を含む。監視対象外成分を除外した上で線量情報を演算すれば監視対象施設で異常が発生したと誤認してしまうおそれを解消又は軽減できる。
【0015】
(2)飛来方位とエネルギー区分の推定に関する説明
後述する実施形態に係る放射線測定装置は、指向特性が互いに異なるように設けられた複数の検出器を有し、それらの検出器によって放射線を検出する検出部と、前記複数の検出器を用いて得られた複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに、前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する実測比率情報演算部と、前記各エネルギー区分ごとに、飛来方向に応じて変化する理論比率情報を与える応答関数を生成する生成部と、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、その適合関係に基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分の少なくとも一方を識別する照合部と、を含むものである。これらの構成に上記の記憶部及び判定部を付加するのが望ましい。
【0016】
上記構成によれば、互いに指向特性が異なるように設けられた複数の検出器を用いて放射線(例えばγ線、β線)が検出される。例えば、複数の検出器についての配置関係を適宜定めることによって、各検出器の指向特性を互いに異ならせることができる。また、遮蔽部材などを利用して各検出器が有する主感度方向を異ならせることによって、各検出器の指向特性を互いに異ならせることもできる。各検出器は望ましくはシンチレータ部材によって構成される。その場合に、それらを同一材料且つ同一形態で構成してもよいし、それらの材料又は形態を互いに異ならせることも可能である。いずれにしても、各検出器の感度特性に方位依存性をもたせるようにすればよい。
【0017】
上記の演算部は、複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を演算する。複数のエネルギー区分は、それぞれ均一の区分幅を有していてもよいが、それぞれ非均一の区分幅を有していてもよい。例えば、精細な識別が求められるエネルギー領域については、そこに小さな区分幅をもったエネルギー区分を密に設定するようにしてもよい(その場合、それ以外の領域についてはエネルギー区分が粗に設定される)。但し、基本的に、実測比率情報を求める際の前提となる個々のエネルギー区分と、複数の応答関数を生成する際の前提となる個々のエネルギー区分とを合致又は整合させる必要がある。各エネルギー区分ごとに求められる実測比率情報は、複数の検出器に対応する複数の個別計数値について、それらの相互間比率を求めることによって演算される。例えば、後述するように、複数の個別計数値をそれらの総和でそれぞれ規格化することによって複数の計数比(複数の実測計数比)を求め、それらの組合せあるいは数列として、実測比率情報が構成されてもよい。いずれにしても、各エネルギー区分ごとに、各検出器の指向特性の相違が反映された計数値の比率に関係する情報を演算するのが望ましい。なお、各検出器についての個別計数値は、エネルギー区分内における積算計数値、計数率、等であってもよい。
【0018】
一方、複数のエネルギー区分に対応して複数の応答関数が予め用意される。各応答関数は、望ましくは、実験によりあるいはシミュレーションにより予め作成されるものであって、上記の実測比率情報に照合されるテンプレートとして機能する。すなわち、各エネルギー区分ごとの応答関数は、放射線の飛来方向に応じて変化する理論比率情報を表す関数である。理論比率情報は、実測比率情報と照合されるものであって、実測値に対する理論値として位置付けられる。生成部は、各応答関数を表すデータを生成する記憶部、各応答関数の数式を処理する演算部、又は、その他の手段、として構成される。
【0019】
上記の照合部は、複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合する。すなわち、各エネルギー区分ごとに、応答関数が表す各飛来方向ごとの理論比率情報に対して実測比率情報が照合される。その場合において、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定されると、つまり、実測値と理論値とが合致すると、それに基づいて、飛来方向及びエネルギー区分を推定することが可能となる。すなわち、適合関係が成立した時点における理論比率情報の属性(当該理論比率情報に対応する飛来方位及び当該理論比率情報を表す応答関数に対応付けられたエネルギー区分)から、入射した放射線の飛来方向及びエネルギー区分を識別できる。
【0020】
以上のように、上記構成によれば、スペクトルのピークを特定した上でそれを用いて演算処理を行う必要はないので、ピークが不明瞭な場合であっても、演算処理を行うことができ、また、ピーク特定精度に依存しない演算処理を実現できる。あるいは、スペクトル上においてピークが明瞭に認識できるまで演算開始を遅らせる必要がないので、迅速な演算を行うことが可能である。
【0021】
望ましくは、前記各エネルギー区分ごとの実測比率情報は、前記複数の個別計数値をそれらの総和で規格化することによって求められる複数の実測計数比からなり、前記飛来方向に応じた理論比率情報は、前記複数の実測計数比と照合される複数の理論計数比からなる。複数の実測計数比(実測計数比列)は、複数の検出器間における計数値の内分比を表す数列に相当する。複数の理論計数比(理論計数比列)は、実測計数比列に対比又は照合される数列である。
【0022】
望ましくは、前記演算部は、前記複数の検出データに基づいて前記複数の検出器に対応する複数のスペクトルを作成する作成部と、前記複数のスペクトルのそれぞれに対して複数のエネルギー区分を設定し、各エネルギー区分ごとに前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値を求める第1演算部と、前記各エネルギー区分ごとに、前記複数の個別計数値をそれらの総和である全体計数値で除することによって前記複数の実測計数比を求める第2演算部と、を含む。作成部は、マルチチャンネルアナライザ(MCA)によって構成されてもよいし、各エネルギー区分ごとに積算計数値を演算できる他のデバイス(例えば、シングルチャンネルアナライザ(SCA))によって構成されてもよい。複数のアナライザを並列動作させるのが望ましいが、単一のアナライザを時分割で動作させてもよい。第1演算部と第2演算部を統合して単一の演算手段として構成してもよい。これは更に他の手段についても同様に言えることである。各手段は専用のハードウエアあるいはソフトウエア機能として実現することが可能である。
【0023】
望ましくは、前記生成部で生成される前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記飛来方向ごとの理論比率情報を与える数式又はテーブルとして構成される。望ましくは、前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記検出部についての仮想的なモデルを用いて仮想的に各方位から所定エネルギーをもった放射線を照射するシミュレーションの実行結果として予め作成される。指定エネルギーは、望ましくは、各エネルギー区分における中央のエネルギーとして設定され、例えば、仮想的モデルに対してそのようなエネルギーに光電ピークが生じるγ線が仮想的に照射される。その場合には、照射方位が連続的に又は所定ピッチに可変される。
【0024】
望ましくは、前記複数の検出器は、前記検出部における中心軸回りに配列されたn(但しn≧3)個のシンチレータブロックによって構成される。3個以上のシンチレータブロックを円周方向に並べれば、それぞれの指向特性が異なることになり、水平方向全周囲からの放射線についてその飛来方向を判別できる。
【0025】
望ましくは、前記検出部に対してエネルギーが異なる複数の放射線が入射された場合、前記照合部により前記複数の放射線に対応する複数の適合関係が判定され、前記判定された各適合関係ごとに飛来方向及びエネルギー区分が識別される。上記のように、複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、各エネルギー区分に対応した実測比率情報が個別的に照合されるので、互いにエネルギーが異なる複数の放射線が同時入射した場合においても、それらを区別して取り扱うことができる。これは同一の飛来方向から複数の放射線が入射してきた場合においても同様である。なお、エネルギー(エネルギー区分)が同一の複数の放射線が入射した場合においても、それらを区別したい場合には、上記構成に対して更に別の識別方式を組み合わせればよい。
【0026】
望ましくは、前記照合部によって識別された飛来方向及びエネルギー区分に基づいて所定の座標系上にマークをマッピングすることによってチャートを作成する作成部と、前記チャートを表示する表示部と、を含む。このチャートによれば、飛来方向とエネルギー区分とを同時に直感的に把握できる。チャート上に上記の方位条件が明示されるようにしてもよい。つまり、監視対象か否かが識別表示されてもよい。
【0027】
望ましくは、前記所定の座標系における円周方向は飛来方向を表し、前記所定の座標系における径方向はエネルギー区分を表す。望ましくは、前記チャート作成手段は、線量情報に応じて前記マークの表示態様を変化させる。この構成によれば、更に同時に線量(あるいは線量率)の大小を直感的に認識できる。望ましくは、前記線量情報は、前記照合手段によって識別されたエネルギー区分について演算された線量を表す。望ましくは、前記マークの表示態様の変化には、サイズ変化、形状変化、色相変化及び輝度変化の内の少なくとも1つが含まれる。なお、上記のチャート表示技術を、放射線の飛来方向とエネルギー(あるいはエネルギー区分)を演算及び表示する他の放射線測定装置に適用することも可能であり、その場合においても上記同様の利点を得られる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、監視対象外からの放射線を検出する場合に生じる問題を解消又は軽減できる。あるいは、全方位の監視と特定方位の監視の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
(1)装置構成
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されている。本実施形態に係る放射線測定装置は環境放射線(特にγ線)を連続的に測定するモニタリングポストである。勿論、本発明はサーベイメータ等の他の放射線測定装置にも適用可能である。
【0031】
図1において、放射線測定装置は、測定ユニット10及び演算ユニット12を有する。測定ユニット10は、放射線検出部14及び光電変換部16を有する。放射線検出部14は、本実施形態において3つのシンチレータブロック(3つの検出器)20,22,24によって構成されている。3つのシンチレータブロック20,22,24は、水平面上において、放射線検出部14の垂直中心軸回りに均等角度で配置されており、各シンチレータブロック20,22,24は、上方から(又は下方から)見て、120度に開いた扇状の形態を有する。放射線検出部14は、それ全体として円柱形状又は円板形状を有する。放射線検出部14の直径は例えば7.62cm(3インチ)であり、その高さは例えば7.62cm(3インチ)である。
【0032】
上記のように放射線検出部14が構成されているため、各シンチレータブロック20,22,24の指向特性は互いに相違する。すなわち、例えば、符号32で示される方向から放射線が入射した場合、前方側に存在するシンチレータブロック20の感度が当該放射線に対して最も高くなり、後方側に存在するシンチレータブロック22,24の感度は、シンチレータブロック20がその前方に存在することから、相対的に低くなる。このように、3つのシンチレータブロック20,22,24を円周方向に配列した場合にはその固有の構造から、それぞれのシンチレータブロック20,22,24の指向特性が互いに相違することになる。
【0033】
本実施形態では、各シンチレータブロック20,22,24は、互いに同一の材料及び同一の形態をもって構成されている。しかし、それらを互いに異なる材料で構成することもできるし、それらを互いに異なる形態で構成することもできる。いずれにしても、複数の検出器の指向特性が異なるように、複数の検出器が構成される。例えば、複数の検出器に対して遮蔽材料を利用して指向性をもたせつつ、各検出器の主感度方向を異ならせて配置するようにしてもよい。その場合には複数の検出器を垂直方向に並べて配置することも可能である。
【0034】
3つのシンチレータブロック20,22,24の相互間には、反射層26,28,30が設けられている。それらの反射層26,28,30によって、シンチレータブロック20,22,24相互間における光の回り込みが防止されている。なお、下面側の光出射領域を除いて、各シンチレータブロック20,22,24の全体を反射材で覆うようにしてもよい。
【0035】
光電変換部16は、3つのシンチレータブロックに対応する3つの光検出器(光電子増倍管)34,36,38によって構成されている。各光検出器34,36,38の受光面が、それらに対応するシンチレータブロック20,22,24の下面に接合されている。よって、あるシンチレータブロックに放射線が入射し、そこで発光が生じると、その光は当該シンチレータブロックに接合された光検出器で検出されることになる。光検出器においては、光信号が電気信号に変換される。
【0036】
必要に応じて、各シンチレータブロック20,22,24の下面と各光検出器34,36,38の受光面との間にライトガイドなどを設けるようにしてもよい。いずれにしても、放射線の入射によりシンチレータブロック内にて発生した光が、当該シンチレータブロックに対応する光検出器にできる限り効率的に導かれるように、測定ユニット10を構成するのが望ましい。
【0037】
なお、測定ユニット10における放射線検出部14及び光電変換部16は図示されていないケース内に収容されているが、図1においてはそのケースが図示省略されている。本実施形態の測定ユニット10においては、従来のように放射線検出部を回転させる機構や大がかりな遮蔽構造を設ける必要がないので、測定ユニット10を小型化でき、またその重量を小さくできるという利点がある。
【0038】
演算ユニット12について説明する。本実施形態では、演算ユニット12は、第1部分12Aと第2部分12Bとで構成される。まず、第1部分12Aについて、以下に説明する。
【0039】
図1に示す構成例では、3つの放射線検出器(すなわち3つのシンチレータブロック20,22,24)に対応して、3つの信号処理部40,42,44と、3つのマルチチャンネルアナライザ(MCA)46,48,50と、が設けられている。各信号処理部40,42,44は、光検出器34,36,38から出力される信号を増幅する増幅器、各信号についてアナログ信号からデジタル信号への変換を行うA/D変換器、及び、その他の必要な回路、を有している。MCA46,48,50は3つの検出器を用いて得られた信号(検出データ)に基づいて3つのスペクトルを作成する回路である。すなわち、MCA46,48,50はスペクトル生成器として機能しており、それらに代えて3つのシングルチャンネルアナライザ(SCA)を設けるようにしてもよい。また、完全なスペクトルを形成するのではなく、後述の各エネルギー区分ごとに計数値を求める回路を設けるようにしてもよい。そのような回路は概略的に見ればスペクトル作成回路及びスペクトル解析回路に相当するものである。
【0040】
データ処理部52は例えばマイクロプロセッサなどによって構成されるものである。その具体的な処理内容については後に詳述するが、本実施形態におけるデータ処理部52は、複数のスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定し、各エネルギー区分ごとに所定演算を行った上で、その演算結果を後述の応答関数群と照合することにより、入射した放射線の飛来方向θ及びエネルギー(エネルギー区分)Eの識別を行っている。ここで、応答関数群は、データ処理部52に接続された記憶部54上に格納されている。ちなみに、応答関数群は、後に説明するように、所定のシミュレーションを実行することによって求めることができる。符号60によって、応答関数群を表すデータのメモリ54への格納が示されている。
【0041】
上記のようにデータ処理部52において、入射した放射線についての飛来方向θとエネルギー(エネルギー区分)Eとが求められると、表示処理部56は、それらの情報をユーザーに分かり易く提供するための所定の表示処理を実行する。後に説明するように、その場合においては、所定のチャートが作成され、表示部57上にはそのチャートが表示される。もちろん、データ処理部52によって求められた飛来方向θ及びエネルギーEの情報をネットワークを通じて外部装置に出力するようにしてもよい。
【0042】
次に、第2部分12Bについて詳述する。この第2部分12Bは、監視対象施設からの放射線かそれ以外の放射線かを識別しつつ線量情報を演算する機能等を具備するものである。
【0043】
加算器100では、3つの信号処理部からの出力が加算される。この場合、加算を行わずに、いずれか1つの出力を利用するようにしてもよいが、その場合には方位依存性が生じてそれを補償する処理が必要となるため、3つの出力を加算するのが望ましい。MCA102は、加算後の信号に基づいてスペクトルを求めるものである。上記MCA46,48,50のいずれかを代用するようにしてもよい。また、各エネルギー区分ごとに計数率を求めることが可能であれば、MCAを用いなくてもよい。BGスペクトルメモリ106には、予め実行されるバックグランド(BG)測定時に取得されたBGスペクトルが格納される。格納されるBGスペクトルを定期的に更新するようにしてもよい。
【0044】
スペクトル処理部104は、後に図21〜23を用いて詳述するように、識別処理及び置換処理を行う手段である。具体的には、内外判定部108において入射放射線の飛来方位が監視方位外であると判定された場合に、スペクトル上において、監視対象外からの検出データ成分を識別し、また、それをバックグランド成分に置換する処理を実行する。この場合、データ処理部において特定されたエネルギー区分に基づき、当該エネルギー区分内の検出データ成分が特定され、それについて置換処理がなされることになる。置換処理では、測定されたスペクトルにおける特定のエネルギー区分内の検出データが、BGスペクトルにおける同一エネルギー区分内のBG検出データ成分に置換される。そのエネルギー区分において、スペクトルの波形部分の置換に代えて計数値(計数率)の置換(数値置換)を行うようにしてもよい。
【0045】
上記の内外判定部108は、判定条件メモリ110に格納された判定条件に基づいて、データ処理部52で演算された飛来方位が、監視方位に該当するか(監視方位範囲内に属するか)、監視方位外であるか(非監視対象範囲内に属するか)を判定するものである。監視対象となっている施設あるいは設備が、当該モニタリングポストから見て、特定方位に存在する場合、その特定方位(あるいは当該方位を中心とした方位範囲)が監視方位(あるいは監視方位範囲)として定義される。複数の監視方位が定義されてもよい。1又は複数の監視方位以外が非監視方位(非監視方位範囲)として定義される。判定条件の登録に当たっては、当該モニタリングポストの地理上の位置と監視対象施設の地理上の位置とを指定して、監視方位が自動的に演算されるようにしもよい。前者の位置は当該モニタリングポストに設置されているGPSにより特定してもよい。監視方位の登録については後に図20を用いて説明する。なお、方位に関する条件の他、エネルギー区分等に関する条件を付加して、監視対象からの放射線か否かを判別するようにしてもよい。
【0046】
線量演算部112は、上記の置換処理後のスペクトルに基づいて線量率を演算するものである。この場合、更に、置換処理前のスペクトルに基づいて線量率を演算するようにしてもよい。置換処理の前後について線量率を併せて表示すれば置換処理による測定値への影響を確認することができる。それらの線量率の差分を別途表示するようにしてもよい。演算結果は、表示処理部56を介して表示部57に表示される。この場合に線量率の時間変化を表すグラフを表示するようにしてもよい。演算されたデータが外部へ出力されてもよい。
【0047】
(2)飛来方向及びエネルギー区分の判定
次に、図1に示したデータ処理部52の処理内容について詳述する。図2には、データ処理部52における各処理の内容がフローチャートとして示されている。これを図3〜図10を参照しながら説明する。
【0048】
S101,S102,S103は、3つの検出器に対応した3つのステップであって、それぞれのステップにおいては、各検出器ごとに作成されたスペクトルに対して複数のエネルギー区分が設定され、各エネルギー区分iごとに、積算された計数値N1i,N2i,N3iが求められる。ここで、N1,N2,N3は各検出器ごとに積算された計数値を表し、それらの添字iは、エネルギー区分の番号を示す正の整数(1,2,3,4,5)である。
【0049】
このS101,S102,S103の処理を図3を用いて説明する。図3には、一例として、第1検出器から得られた検出データに基づくスペクトル62が示されている。このスペクトル62に対して図示されるように複数のエネルギー区分64−72が設定される。各エネルギー区分64−72は、互いに同一の区分幅を有するものであってもよいし、それぞれ異なる区分幅を有するものであってもよい。本実施形態においては、全てのエネルギー区分64−72に対して同一の区分幅が設定されており、その区分幅は200keVである。もちろん、その数値は一例である。ちなみに、より詳細な識別を行いたいエネルギー領域があればそこにエネルギー区分を密に設定し、それ以外の領域についてはエネルギー区分を粗に設定するようにしてもよい。
【0050】
本実施形態では、各エネルギー区分64−72ごとに、スペクトラムに基づいて計数値についての積算処理が実行される。すなわち、積算計数値が求められる。これが図3においてN11−N15で表されている。ここで、エネルギー区分70においてスペクトラム62のピークが存在しているが、本実施形態に係る手法によれば、そのようなピークを弁別あるいは特定することなく、入射放射線について解析を行うことが可能である。図3においては、第1検出器についてのスペクトル処理が示されていたが、他の検出器についてのスペクトルに対しても同様な処理が実行される。
【0051】
本実施形態において、3つの検出器について上記のS101,S102,S103の処理を実行すると、図4の(A)に示す結果を得ることができる。ここで、符号74は、第1検出器についてのスペクトルを処理した結果を表しており、すなわち、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数値N11−N15を示している。符号76は、第2検出器についてのスペクトルを処理した結果として、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数N21−N25を示している。符号78は、第3検出器についてのスペクトルを処理した結果として、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数値N31−N35を示している。
【0052】
図2に戻って、S104では、各エネルギー区分iごとに3つの積算計数値の総和として全計数値Tiが求められる(例えばT1=N11+N21+N31である)。そして、S105,S106,S107においては、それぞれのエネルギー区分ごとに求められた3つの積算計数値をそれぞれ全計数値Tiで除することにより、各積算計数値に対応した計数比が求められる。これについて図4を用いて説明する。
【0053】
図4の(B)には上記のS104−S107を実行した結果が示されている。ここで、0-200keVのエネルギー区分に着目すると、(A)に示したように、3つの検出器に対応する3つの積算計数値N11,N21,N31を、それらの総和T1(=N11+N21+N31)で除すると(規格化すると)、(B)に示されるように、3つの計数比K11,K21,K31が求められる。同様に、他のエネルギー区分についても規格化演算によって各積算計数値ごとに計数比が求められる。これにより、(B)に示されるように、3つの検出器及び5つのエネルギー区分に対応した15個の計数比が求められる(符号80,82,84参照)。各エネルギー区分ごとの3つの計数比は3つの検出器間における感度差あるいは検出効率の差を表すものであり、換言すれば、各エネルギー区分内における全計数値に対する内分比を表すものである。
【0054】
図2に戻って、S108においては、各エネルギー区分iごとの3つの計数比(すなわち、実測計数比列)Riを、各エネルギー区分iごとの応答関数(具体的には、全ての理論計数比列)と照合する処理が実行される。これについて図4の(C)及び(D)を用いて説明する。
【0055】
図4の(C)に示されるように、0-200keVのエネルギー区分に着目すると、当該エネルギー区分においては3つの計数比K11,K21,K31が求められ、それらの組み合わせとして実測計数比列R1が定義される。同様に、他のエネルギー区分についても実測計数比列R2−R5が定義される。そして、(D)に示されるように、それぞれのエネルギー区分ごとに、実測計数比列が応答関数と照合される。
【0056】
本実施形態においては、5つのエネルギー区分に対応した5つの応答関数があらかじめ用意されている。各応答関数は、本実施形態において後に詳述するようなシミュレーションを実行することによって得られた関数であり、0−360度の範囲内における理論計数比列を表すものである。図4においては、5つの応答関数が、I1-0360,I2-0360,I3-0360,I4-0360,I5-0360で表されている。例えば、0-200keVのエネルギー区分においては、実測計数比列R1は応答関数I1-0360と照合されることになる。これは他のエネルギー区分についても同様である。
【0057】
図5〜9には、5つのエネルギー区分に対応した、第1応答関数から第5応答関数までが示されている。図5は、エネルギー区分0-200keVについての第1応答関数を示している。図6は、エネルギー区分200-400keVについての第2応答関数を示している。図7は、エネルギー区分400-600keVについての第3応答関数を示している。図8は、エネルギー区分600-800keVについての第4応答関数を示している。図9は、エネルギー区分800-1000keVについての第1応答関数を示している。各図において、横軸は角度(飛来方位に相当)を示しており、縦軸は理論計数比を示している。ここで、丸記号で標識されたライン(破線)は第1検出器についての理論計数比の変化を示しており、三角形記号で標識されたライン(破線)は第2検出器についての理論計数比の変化を示しており、四角形記号で標識されたライン(破線)は第3検出器についての理論計数比の変化を示している。
【0058】
各理論計数比はシミュレーション実行結果に対して上記同様の演算処理を行うことによって求められる。すなわち、後に説明するように、仮想的な検出部モデルに対して、個々のエネルギー区分の中央にエネルギーピークをもった仮想的なγ線が照射される。その場合に、γ線の照射方位(角度)が可変される。これによって、各エネルギー区分ごとに、且つ、各照射方位ごとに、3つの検出器に対応する3つのスペクトルが得られる。それらのスペクトルに対して、複数のエネルギー区分を設定した上で、各エネルギー区分ごとに、3つの検出器に対応する3つの積算計数値N1,N2,N3を求め、それぞれをそれらの総和Tで規格化することによって、複数の理論計数比(N1/T,N2/T,N3/T)が求められる。それらをプロットしたものが5つの応答関数である。
【0059】
図5〜9に示されるように、各エネルギー区分に対応する応答関数において、3つの理論計数比が角度に応じてサインカーブのように変動する。ただし、図5〜9の相互比較から明らかなように、エネルギーが高くなると放射線の透過力が高くなるために、3つの検出器間における理論計数比の差が小さくなる。いずれにしても、各エネルギー区分ごとにかつ各方位ごとに異なる理論計数比列(3つの理論計数比の組)が予め特定され、それらが応答関数群として用いられる。
【0060】
図2において、上述したS108では、各エネルギー区分iごとに、応答関数に対して実測計数比列Riを照合する処理が実行され、S109において適合判定が行われる。すなわち、実測計数比列が理論計数比列と一致したか否かが判断される。この場合においては、例えば相関演算などを用いるようにしてもよく、相関値が一定範囲内に入った場合には適合判定を行うようにしてもよい。また、各理論計数比ごとに適合判定を行うための範囲を設定して、その範囲に実測計数比が属するか否かをもって適合判定を行うようにしてもよい。
【0061】
実測計数比列に対して適合する理論計数比列が存在しない場合には、計測対象となる一定レベル以上の放射線の入射がないものと判断される。この場合には、自然放射線(環境放射線)の入射と判断される。一方、複数の方向から同一エネルギーをもった放射線が入射された場合において、演算を適正に行えずに判定結果に問題が生じるのであれば、図2のS115においてエラー処理を実行し、例えばアラームなどを発生させるようにしてもよい。ちなみに、本実施形態における放射線測定装置においては、エネルギーが異なる限りにおいて、複数の放射線が同一方向あるいは異なる方向から同時に入射した場合においても、各放射線を識別してそれぞれについて飛来方向及びエネルギー(エネルギー区分)の判定を行い得る。なお、図2において、S108及びS109の工程は順次実行させる必要はなく、S110で示されるように、同時に実行させるようにしてもよい。
【0062】
図10には、適合判定が成立する場合の一例が示されている。図10に示す例において、R4は4番目のエネルギー区分(600-800keV)について演算された実測計数比列を示しており、それは3つの実測計数比K14,K24,K34で構成されるものである。その実測計数比列R4は、同エネルギー区分に対応する第4応答関数と照合され、その場合において、図10では270度の角度に対応づけられた理論計数比列I4-270が実測計数比列R4と合致している。このような適合関係が見出されると、適合関係にある理論計数比列I4-270の属性としての角度(270度)を読み取ることにより、放射線の飛来方向を特定することができる。また、適合関係が成立した応答関数の属性としてのエネルギー区分(600-800keV)を読み取ることにより、入射した放射線についてのエネルギー区分を識別することが可能となる。なお、互いにエネルギーの異なる複数の放射線が同時に入射された場合には、複数のエネルギー区分において複数の適合関係が成立することになる。そして、それぞれについて飛来方位及びエネルギー区分の識別を行うことが可能である。
【0063】
図2におけるS111及びS112には、以上説明した飛来方向θの特定及びエネルギー区分Eの特定が示されている。そして、S113及びS114においては、特定された飛来方向θの情報及びエネルギー区分Eの情報が出力される。
【0064】
後に説明するように、各応答関数の作成にあたっては、シミュレーションにおいて各エネルギー区分の中央に光電ピークを有するγ線の照射が行われる。そのような前提の下で、各応答関数が作成されているため、実測計数比列と理論計数列との適合関係が判断された状態においては、当該実測計数比列は、結果として、3つの検出器に対応する3つのスペクトル上における3つのピークに対応したものとなる。しかしながら、本実施形態においては、基本的に、全エネルギー区分について実測計数比列の照合が行われており、各スペクトル上においてピークを特定する必要はない。すなわち、結果としてピークを利用することになるとしても、演算処理上においてピークを特定する必要はない。したがって、スペクトル上において必ずしもピークが明瞭でないような場合においても、精度良く入射放射線についての飛来方向及びエネルギー区分の判定を行うことができる。
【0065】
次に、図11〜15を用いて、上記の本実施形態に係る方式に関し、シミュレーションによる実証結果を説明する。図11は、エネルギー区分0-200keVについて、応答関数(図5参照)及びシミュレーション結果を示している。図12は、エネルギー区分200-400keVについて、応答関数(図6参照)及びシミュレーション結果を示している。図13は、エネルギー区分400-600keVについて、応答関数(図7参照)及びシミュレーション結果を示している。図14は、エネルギー区分600-800keVについて、応答関数(図8参照)及びシミュレーション結果を示している。図15は、エネルギー区分800-1000keVについて、応答関数(図9参照)及びシミュレーション結果を示している。各図において、破線は、理論計数比列の変化すなわち応答関数(RF)を示している。それらの応答関数は図5〜9に示したものと同一である。一方、実線は、662keVに光電ピークを有するγ線を放射する仮想的な線源(137Cs)を用いたシミュレーション結果を示している。すなわち、そのシミュレーションでは、仮想的なモデルとしての検出部の周囲において、上記γ線の照射方向を回転させており、その場合における計数比列(実測計数比列に相当)の変化を示したものが各図に示された実線である。ここで、各実線上における丸印は第1検出器に対応する計数比を表しており、三角形記号は第2検出器に対応する計数比を表しており、四角形記号は第3検出器に対応する計数比を表している。それぞれの計数比は上述したようにシミュレーション結果によって得られたものであって、実測されたものではないが、上記の実測計数比とみなせるものである。
【0066】
入射された放射線のピークエネルギーは662keVであるため、それは600-800keVのエネルギー区分に属する。このため、図14で示されるように、同エネルギー区分においては、全ての方位についてシミュレーションによる計数比列(実測計数比列)が理論計数比に合致している。その一方、他のエネルギー区分においては、どの方位においても適合関係が成立していない。すなわち、本実施形態の手法によれば、放射線が入射された場合に、当該放射線について適正にエネルギー区分を判断することができ、かつ、その飛来方向を適正に判断することが可能である。
【0067】
図16には、上述した応答関数群の作成方法がフローチャートとして示されている。本実施形態においては、公知の電磁カスケードモンテカルロシミュレーション(EGS)を用いて各応答関数が作成されている。
【0068】
S201では、複数のエネルギー区分が定義される。本実施形態では、上記のように区分幅を200keVとして5つのエネルギー区分が設定される。もちろん、応答関数群の作成に係る複数のエネルギー区分とスペクトラム解析時における複数のエネルギー区分とが合致していれば十分であり、各エネルギー区分の区分幅を同一にする必要はない。
【0069】
S202では、仮想的なモデルとして、図1に示した放射線検出部の構造を幾何学的に定義した上で、そのモデルとしての放射線検出部の周囲から、所定のエネルギーをもったγ線を照射するシミュレーションが実行される。この場合においては、各エネルギー区分ごとに、その中央にピークエネルギーをもったγ線が照射される。しかもその照射方位は0-360度の範囲内にわたって可変される。この場合においては連続的に照射方位を可変するようにしてもよいし、Δθピッチで可変するようにしてもよい。上述した図5−9に示した各応答関数においてはΔθとして30度が設定されている。S202の実行結果として、各エネルギーごとに且つ各方位ごとに、3つの検出器に対応する3つのスペクトルが得られることになる。
【0070】
S203では、各エネルギーごとに且つ各方位ごとに得られた3つのスペクトルに対して複数のエネルギー区分が設定され、各エネルギー区分ごとに3つのスペクトル上において積算計数値が求められる。そして、3つの積算計数値をそれらの総和で除することによって、3つの計数比(理論計数比)が求められる。それらは計数比列(理論計数比列)を構成するものである。そして、各エネルギー区分ごとにかつ各方位ごとに求められた理論計数比列が各エネルギー区分ごとに用意された座標上にプロットされる。そして、S204では、必要に応じて、各座標上にプロットされた複数の点に対して補間処理を実行することにより、応答関数を求めることが可能となる。この場合においては、数値列として応答関数を定義するようにしてもよいし、数式として応答関数を定義するようにしてもよい。いずれにしても、図16に示す各処理を実行することにより、図5−9に示した複数のエネルギー区分に対応する複数の応答関数を事前に生成することが可能となる。
【0071】
以上のように、実際の計測に先立って様々なエネルギーをもったγ線を様々な方位から照射した場合を想定し、それによる理論値集合(応答関数群)を保存しておけば、実際に実測値が得られた段階で、それを理論値集合と照合することにより、適合関係が認められる理論値を特定することができ、その属性として飛来方位及びエネルギー区分を推定することが可能となる。
【0072】
したがって、適合関係が適切に判定できる限りにおいて、複数の放射線が様々な方位から同時に入射しても、それらを弁別して計測することが可能である。ただし、同一エネルギー区分に属する複数の放射線が同時に入射した場合には、実測値と理論値との照合が適切に行えない可能性がある。そこで、そのような場合にはエラー処理を実行して判定の信頼性を高めるようにしてもよい。
【0073】
次に、図1に示した表示処理部56の処理例について説明する。図17〜19には表示処理部56によって作成されるチャートが例示されている。
【0074】
各図に示されるチャートは極座標で構成されており、その座標系における円周方向は放射線の飛来方向θに相当している。また当該座標系における径方向は放射線のエネルギー(エネルギー区分)に対応している。
【0075】
図17に示されるように、上述した処理の結果として、入射した放射線について飛来方向とエネルギー区分が判定されると、極座標系上において、その判定された飛来方向及びエネルギー区分に対応する位置にマークM1が表示される。この例では、飛来方位が90度であり、エネルギー区分が600-800keVである。また、本実施形態においてはマークM1のサイズが、それが存在するエネルギー区分における線量の大きさに対応付けられている。すなわち、線量が高い場合にはよりマークM1の直径が大きく表現され、線量が低い場合にはマークM1の直径が小さく表現される。したがって、図17に示されるチャートを見れば、入射した放射線の飛来方向、エネルギー区分、及び、線量情報を直感的に認識できるという利点がある。
【0076】
以上の例においては、線量の大小をマークM1の直径の大小として表したが、例えばマークの形態、色相あるいは輝度などを変化させて線量の大小を表現するようにしてもよい。例えば、線量の大きさと色相とを対応付ける場合には、図17に示すようなチャートの近傍にカラーバーを表示するのが望ましい。
【0077】
図18には、同一方向から互いにエネルギーの異なる2つの放射線が入射した場合の表示例が示されている。マークM2及びマークM3で示されるように、この例では方位120度の方向から2つの放射線が入射され、各放射線は、600-800keVのエネルギー区分及び800-1000keVのエネルギー区分の2つの区分に存在している。もちろん、エネルギーの区分幅をより細かく設定することにより、チャート上においてエネルギー分解能を高めることができる。
【0078】
図19に示す例においては互いに異なる方位から互いに異なるエネルギーをもった2つの放射線が入射した場合の表示例が示されている。この例では、マークM4によって、30度の飛来方位から600-800keVのエネルギー区分に属する放射線が入射されており、また、90度の飛来方位から800-1000keVのエネルギー区分に属する放射線が入射されている。
【0079】
上記実施形態においては、シミュレーションを用いて応答関数群の作成を行ったが、実験によって応答関数群を作成するようにしてもよい。上記実施形態における放射線測定装置はモニタリングポストであったが、サーベイメータその他の放射線測定装置に対して本発明を適用することも可能である。例えば、β線を検出するサーベイメータに本発明を適用するようにしてもよい。上記実施形態においては、3つのシンチレータブロックによって放射線検出部が構成されていたが、もちろん4つ以上のシンチレータブロックによって放射線検出部を構成するようにしてもよい。2つのシンチレータブロックを配置した場合、すなわち上方から見て半円形状の2つのシンチレータブロックを配置した場合、0−180度及び180−360度の2つの範囲内における飛来方向の弁別は可能であるが、上記実施形態のように具体的な飛来方向を特定することはできない。よって、3つ以上のシンチレータブロックを配置するのが望ましい。上記実施形態においては、5つのエネルギー区分を設定したが、6個以上あるいは4個以下のエネルギー区分を設定するようにしてもよい。ただし、エネルギー区分の個数が少ない場合には適合関係を的確に判断することが難しくなるので、例えば4つ以上のエネルギー区分を設定するのが望ましい。
【0080】
図1に示したデータ処理部はマイクロプロセッサなどによって構成することができるが、CPU上で動作するソフトウエアの機能として実現するようにしてもよい。その場合においては、MCA46,48,50以降の構成をコンピュータに置き換えてもよい。
【0081】
以下に説明するように入射放射線が監視対象からのものであるか否かが判定された場合に、上記のチャート上にその判定結果が反映されるようにしてもよい。例えば、監視対象に相当するマーク及び非監視対象に相当するマークを識別表示するようにしてもよい。また上記チャート上に判定条件が明示されるようにしてもよい。
【0082】
(3)入射放射線の判別処理
図20には、図1に示した判定条件メモリ110内に登録される方位条件が概念的に示されている。符号120は方位円を示しており、方位円上で東西南北が特定される。つまり、方位は角度θで特定される。θ1−θ2で特定される方位範囲122が第1の監視方位範囲であり、θ3−θ4で特定される方位範囲124が第2の監視方位範囲である。入射放射線について演算された方位がいずれかの監視方位範囲122,124に属する場合には当該入射放射線が監視対象から飛来した放射線であるとみなされ、演算された方位がそれ以外の方位範囲(非監視方位範囲)126,128に属する場合には当該入射放射線が非監視対象から飛来した放射線であるとみなされる。更に、演算されたエネルギー区分等を考慮して内外判定を行うようにしてもよい。1つの監視方位あるいは監視方位範囲が登録されてもよいし、3つ以上の監視方位あるいは監視方位範囲が登録されてもよい。本実施形態の構成によれば、登録内容の変更によって監視対象の増減に柔軟に対応できるという利点がある。また、具体的な設置場所に応じて登録内容を定めればよいので、モニタリングポストとしての汎用性を維持できる。モニタリングポストの地理上の位置を、装備されたGPSから取得するようにしてもよい。本発明が適用された放射線測定装置を車両等の移動体に搭載する場合には、自己の位置と監視対象の位置との地理的関係、移動体の向き、等に応じた自動演算により方位条件を適応的に変化させることも可能である。
【0083】
図21には、図1に示したMCA102の計測結果であるスペクトルが示されている。横軸はエネルギーを示し、そこには複数のエネルギー区分T1,T2,T3,T4,T5,…が示されている。ここで、エネルギー区分T4に生じているピークは監視対象外から飛来した放射線に起因するものである。図1に示したデータ処理部52により、この放射線について方位θ及びエネルギー区分T4が演算される。そこで、図1に示したスペクトル処理部104は、このエネルギー区分T4の波形部分を、BGスペクトルメモリ106内に格納されたBGスペクトル(図22参照)における同一エネルギー区分のBG波形部分BG4に置換する。すると、図23に示されるように、部分的な加工が施されたスペクトル、つまり監視対象外成分が除外されてもっともらしい成分が挿入されたスペクトルが得られる。
【0084】
図24には、上記の置換処理を行わない場合における線量率グラフが示されている。横軸は時間軸である。符号114で示されるように、例えばモニタリングポストに放射性同位元素が投与された人が近付くと、線量率が急激にかつ一時的に上昇する。従来においては、このような場合には異常発生を誤認してしまうというおそれがあった。これに対し、本実施形態によれば、図25に示されるように、上記の置換処理によって異常波形部分をバックグランド成分に置き換えることができるので、線量率グラフ上において異常波形を解消、低減することができる。つまり、異常発生の誤認を未然に防止できる。データ加工を明示するため、置換処理を行わないグラフと置換処理行ったグラフとを同時表示するようにしてもよい。また、異常発生の有無をそれら2つのグラフをつき合わせて判断するようにしてもよい。既に説明したように、置換処理をスペクトル上で行うのではなく、数値上で行うようにしてもよい。例えば、各エネルギー区分内の積算計数値を差し替えるようにしてもよい。
【0085】
上記構成によれば、異常誤認、誤報等を未然に防止できるので、結果として、住民が不必要に不安感を抱いてしまうことを未然に防止できる。その一方、放射線取扱施設において事故等が発生した場合にはそれを的確に計測できる。よって、信頼できるモニタリングポストを提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すデータ処理部の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】スペクトルに対する複数のエネルギー区分の設定を説明するための図である。
【図4】データ処理部の処理内容を説明するための概念図である。
【図5】第1応答関数を示す図である。
【図6】第2応答関数を示す図である。
【図7】第3応答関数を示す図である。
【図8】第4応答関数を示す図である。
【図9】第5応答関数を示す図である。
【図10】実測計数比の列と理論計数比の列との適合を示す図である。
【図11】第1応答関数と実証結果を示す第1関数とを示す図である。
【図12】第2応答関数と実証結果を示す第2関数とを示す図である。
【図13】第3応答関数と実証結果を示す第3関数とを示す図である。
【図14】第4応答関数と実証結果を示す第4関数とを示す図である。
【図15】第5応答関数と実証結果を示す第5関数とを示す図である。
【図16】応答関数を作成する処理を示すフローチャートである。
【図17】第1表示例を示す図である。
【図18】第2表示例を示す図である。
【図19】第3表示例を示す図である。
【図20】方位判定条件を説明するための図である。
【図21】置換処理前のスペクトルを示す図である。
【図22】バックグランドスペクトルを示す図である。
【図23】置換処理後のスペクトルを示す図である。
【図24】置換処理前の線量率グラフを示す図である。
【図25】置換処理後の線量率グラフを示す図である。
【符号の説明】
【0087】
10 測定ユニット、12 演算ユニット、14 放射線検出部、16 光電変換部、100 加算器、102 MCA(マルチチャンネルアナライザ)、104 スペクトル処理部、106 BG(バックグランド)スペクトルメモリ、108 内外判定部、110 判定条件メモリ、112 線量演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全方位にわたって放射線を検出可能な検出部と、
前記検出部を用いて取得された検出データに基づいて、入射放射線の飛来方位を演算する飛来方位演算部と、
監視対象施設が存在する監視方位とそれ以外の非監視方位とを区別する方位条件が予め登録された記憶部と、
前記方位条件に基づいて判定を行う手段であって、前記入射放射線の飛来方位が前記非監視方位である場合に、前記検出データの内で当該入射放射線に対応する検出データ成分を監視対象外成分として判定する判定部と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記検出部を用いて取得された検出データに基づいて、前記入射放射線が属するエネルギー区分を求めるエネルギー区分演算部を含み、
前記判定部は、前記入射放射線が属するエネルギー区分内の検出データ成分を前記監視対象外成分として判定する、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記検出データに基づく情報を表示する場合に前記監視対象外成分を識別表示する表示処理部を含む、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記検出データに含まれる前記監視対象外成分をバックグランド成分に置換する置換処理を実行する置換処理部を含む、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記置換処理後の検出データに基づいて線量情報を演算する線量情報演算部を含む、ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
指向特性が互いに異なるように設けられた複数の検出器を有し、それらの検出器によって放射線を検出する検出部と、
前記複数の検出器により得られた複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに、前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する実測比率情報演算部と、
前記各エネルギー区分ごとに、飛来方向に応じて変化する理論比率情報を与える応答関数を生成する生成部と、
前記複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、その適合関係に基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分を識別する照合部と、
監視対象施設が存在する監視方位とそれ以外の非監視方位とを区別する方位条件が予め登録された記憶部と、
前記方位条件に基づいて判定を行う手段であって、前記入射放射線の飛来方位が前記非監視方位である場合に、前記検出データの内で当該入射放射線に対応する検出データ成分を監視対象外成分として判定する判定部と、
前記監視対象外成分についての識別表示処理あるいは前記監視対象外成分の除外処理を実行する手段と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2008−151539(P2008−151539A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337469(P2006−337469)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人科学技術振興機構新技術開発委託事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】