説明

放射線画像撮影用格子ユニット、及び放射線画像撮影システム

【課題】小型化、及び位相コントラスト画像の画質の向上を図る。
【解決手段】X線源とX線画像検出器との間に第1及び第2の格子ユニットが配置される。第1及び第2の格子ユニットは、大きさが異なること以外は同様の構成である。第1の格子ユニットは、X線透過性の材料からなる格子基板30を備える。格子基板30には、複数の溝33aからなる格子部33、格子部33の一端に接続された第1の集合流路34、格子部33の他端に接続された第2の集合流路35が形成されている。第1の集合流路34には、X線吸収材供給部が接続されており、第2の集合流路35にはX線透過材供給部が接続されている。格子部33は、X線吸収材供給部から流体状のX線吸収材が供給されることによりX線に対する格子として機能し、X線透過材供給部から流体状のX線透過材が供給されることによりX線透過部として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を用いた放射線画像撮影用格子ユニット、及び放射線画像撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物体に入射したとき、相互作用により強度及び位相が変化する。X線の位相変化(角度変化)は、強度変化よりも大きいことが知られている。このX線の性質を利用し、被検体によるX線の位相変化に基づいて、X線吸収能が低い被検体から高コントラストの画像(以下、位相コントラスト画像と称する)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。
【0003】
X線位相イメージングの一種として、透過型の回折格子によるタルボ干渉効果を用いたX線画像撮影システムが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。このX線画像撮影システムは、X線源から見て、被検体の背後に第1の格子を配置し、第1の格子からタルボ干渉距離だけ下流に第2の格子を配置する。第2の格子の背後には、X線を検出して画像を生成するX線画像検出器が配置されている。第1及び第2の格子は、一方向に延伸されたX線吸収部及びX線透過部を、延伸方向に直交する配列方向に沿って交互に配列したものである。タルボ干渉距離とは、第1の格子を通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像を形成する距離である。タルボ干渉効果によって形成された自己像は、被検体とX線との相互作用により変調を受ける。
【0004】
上記X線画像撮影システムでは、第1の格子の自己像と第2の格子との重ね合わせ(強度変調)により生じる縞画像を、縞走査法により検出し、被検体による縞画像の変化から被検体の位相情報を取得する。この縞走査法では、第1の格子に対して第2の格子が、格子方向にほぼ垂直な方向に所定ピッチずつ並進移動され、並進移動が行なわれるたびにX線画像検出器により撮影が行われる。並進移動に対する各画素値の強度変化から、被検体で屈折したX線の角度分布が取得され、この角度分布に基づいて被検体の位相コントラスト画像が得られる。この縞走査法は、レーザ光を用いた撮影装置にも適用されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
しかし、X線位相イメージングでは、複数回のX線照射が要され、被検体の被曝が問題となるため、一度のX線照射で済むX線の吸収画像のほうが位相コントラスト画像よりも好まれる場合がある。そこで、位相コントラスト画像の生成にも吸収画像の生成にも柔軟に対応可能なように、第1及び第2の格子をX線源とX線画像検出器との間から退避可能とすることが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の放射線撮影システムには、位相コントラスト画像の撮影時には、第1及び第2の格子をX線源とX線画像検出器との間に配置し、吸収画像の撮影時には、第1及び第2の格子をX線源とX線画像検出器との間から退避させる格子移動機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4445397号公報
【特許文献2】特開2007−203042号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C. David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月,3287頁
【非特許文献2】Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月,6227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の放射線撮影システムでは、吸収画像の撮影時に第1及び第2の格子を退避させるためのスペースが必要であり、装置が大型化するといった問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の放射線撮影システムでは、吸収画像の撮影のために退避させた第1及び第2の格子を、位相コントラスト画像の撮影のためにX線源とX線画像検出器との間に戻した場合には、X線源及びX線画像検出器と、第1及び第2の格子との位置関係にずれが生じる可能性がある。位相イメージングでは、少なくともX線源から第1の格子までの距離、及び第1及び第2の格子間の距離を高精度に設定する必要があるため、位置ずれが生じた場合には、位相コントラスト画像の画質が劣化する。
【0011】
本発明の目的は、小型化、及び位相コントラスト画像の画質の劣化防止を可能とする放射線画像撮影用格子ユニット、及び放射線画像撮影システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線画像撮影用格子ユニットは、複数の溝からなる格子部が形成された放射線透過性の格子基板と、前記格子部への流体状の放射線吸収材の充填と、前記格子部からの前記放射線吸収材の排出と選択的に行なう媒体切替手段と、を備えることを特徴とする。格子部は、放射線吸収材が充填された場合に放射線に対する格子として作用し、放射線吸収材が排出された場合に放射線透過部として作用する。
【0013】
なお、前記媒体切替手段は、前記格子部からの前記放射線吸収材の排出を、前記格子部に流体状の放射線透過材を供給することにより行なうことが好ましい。
【0014】
また、前記格子基板は、前記格子部の一端に、前記媒体切替手段に接続された第1の流路が形成され、前記格子部の他端に、前記媒体切替手段に接続された第2の流路が形成されていることが好ましい。
【0015】
この場合、前記媒体切替手段は、前記第1の流路に接続され前記格子部に前記放射線吸収材を供給する放射線吸収材供給部と、前記第2の流路に接続され前記格子部に前記放射線透過材を供給する放射線透過材供給部とからなることが好ましい。
【0016】
さらに、前記放射線吸収材供給部及び前記放射線透過材供給部は、それぞれ加圧ポンプと貯留タンクからなることが好ましい。
【0017】
また、前記媒体切替手段は、前記放射線吸収材と前記放射線透過材とが交互に充填され、一方が前記第1の流路に接続されるとともに、他方が前記第2の流路に接続された循環路と、前記放射線吸収材及び前記放射線透過材を流動させる流動手段とからなるものであってもよい。
【0018】
また、前記媒体切替手段は、液体状の前記放射線吸収材が貯留された容器と、前記格子基板を、前記格子部が前記放射線吸収材に浸漬する位置と、前記格子部が前記放射線吸収材に浸漬しない位置との間で昇降させる昇降手段とからなるものであってもよい。
【0019】
本発明の放射線画像撮影システムは、少なくとも1つの格子ユニットと、前記格子ユニットに向けて放射線を放射する放射線源と、前記格子ユニットを介して放射線を検出し画像データを生成する放射線画像検出器と、前記格子ユニットの前記媒体切替手段を制御して、前記格子部を格子または放射線透過部として選択的に機能させる制御部と、前記格子ユニットの格子部を格子として機能させた場合に、前記放射線画像検出器により得られる画像データに基づき位相コントラスト画像を生成し、前記格子部を放射線透過部として機能させた場合に、前記放射線画像検出器により得られる画像データに基づき吸収画像を生成する画像処理部と、を備えることを特徴とする。
【0020】
なお、前記格子ユニットとして、前記放射線源と前記放射線画像検出器との間に対向配置された第1の格子ユニット及び第2の格子ユニットを備えることが好ましい。この場合には、前記第1の格子ユニットまたは前記第2の格子ユニットの前記格子基板の一方を他方に対して所定のピッチで複数の位置に移動させる走査手段を備え、前記画像処理部は、前記各位置で前記放射線画像検出器により得られた複数の画像データに基づき位相コントラスト画像を生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の放射線画像撮影用格子ユニットは、複数の溝からなる格子部への流体状の放射線吸収材の充填と、格子部からの前記放射線吸収材の排出と選択的に行なうことにより、格子部を格子または放射線透過部として機能させるものであり、従来のような格子の退避動作及び退避スペースが不要となるため、小型化を図ることができる。また、退避動作を行わないことから、放射線画像撮影システムでは、格子の位置ずれが軽減され、位相コントラスト画像の画質の劣化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態のX線画像撮影システムの構成を示す模式図である。
【図2】格子基板の構成を示す斜視図である。
【図3】第2実施形態に係る第1の格子ユニットの構成を示す平面図である。
【図4】第3実施形態に係る第1の格子ユニットの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
図1において、X線撮影システム10は、X線源11、撮影部12、画像処理部13、コンソール14、及びシステム制御部15を備えている。X線源11は、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0024】
撮影部12は、X線画像検出器20、第1の格子ユニット21、第2の格子ユニット22、及び走査機構23からなる。X線照射方向であるz方向に沿って、第1の格子ユニット21、第2の格子ユニット22、X線画像検出器20の順に配置されている。走査機構23は、位相コントラスト画像の撮影(位相イメージング)時には、第2の格子ユニット22をz方向に直交する一方向であるx方向に所定ピッチで段階的に移動させる。
【0025】
X線源11と第1の格子ユニット21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器20は、半導体回路により構成されたフラットパネル型検出器であり、第2の格子ユニット22の背後に、検出面がz方向に直交するように配置されている。
【0026】
第1の格子ユニット21は、X線透過性の材料からなる格子基板30と、格子基板30の一端に接続されたX線吸収材供給部31と、格子基板30の他端に接続されたX線透過材供給部32とから構成されている。詳しくは後述するが、格子基板30は、X線吸収材供給部31から流体状のX線吸収材が供給されることによりX線に対する吸収型格子として機能する。一方、格子基板30は、X線吸収材供給部31から供給されたX線吸収材に代えて、X線透過材供給部32から流体状のX線透過材が供給された場合には、平板状のX線透過部となる。
【0027】
X線吸収材供給部31は、X線吸収材が貯留された貯留タンク31aと、供給路31cを介して格子基板30にX線吸収材を流入させる加圧ポンプ31bとを備えている。加圧ポンプ31bは、格子基板30にX線透過材供給部32からX線透過材が供給される際には、格子基板30に供給されたX線吸収材を逆流させ、貯留タンク31aに戻す。このとき、X線吸収材は、X線透過材に押されて貯留タンク31aに戻る。
【0028】
X線吸収材は、常温で液体(例えば、融点が0°C以下)である。X線吸収材としては、水銀(Hg)や、X線吸収性の微粒子が分散された液体(例えば、金コロイド粒子を水や有機溶剤に分散させた金コロイド溶液)が用いられる。
【0029】
X線透過材供給部32は、X線透過材が貯留された貯留タンク32aと、供給路32cを介して格子基板30にX線透過材を流入させる加圧ポンプ32bとを備えている。加圧ポンプ32bは、格子基板30にX線吸収材供給部31からX線吸収材が供給される際には、格子基板30に供給されたX線透過材を逆流させ、貯留タンク32aに戻す。このとき、X線透過材は、X線吸収材に押されて貯留タンク32aに戻る。
【0030】
X線透過材は、X線吸収材とは混合及び化学反応しない液体または気体からなる。X線吸収材としては、フッ素系の溶媒や、水、油等の液体、空気等の気体が用いられる。
【0031】
第2の格子ユニット22は、第1の格子ユニット21と同様の構成であり、格子基板40、X線吸収材供給部41、及びX線透過材供給部42から構成されている。X線吸収材供給部41は、貯留タンク41a及び加圧ポンプ41bを備える。同様に、X線透過材供給部42は、貯留タンク42a及び加圧ポンプ42bを備える。第2の格子ユニット22は、格子基板40の大きさが異なること以外は、第1の格子ユニット21と同一の構成であるため、第2の格子ユニット22についての詳しい説明は省略する。
【0032】
コンソール14は、位相コントラスト画像と吸収画像とのいずれの撮影を行うかの撮影種別の選択や、撮影開始指示の入力等を可能とする操作部や、撮影により得られた画像を表示する表示部を備える。システム制御部15は、コンソール14の操作部の入力信号に応じて、X線撮影システム10の各部を統括的に制御する。
【0033】
X線撮影システム10は、第1の格子ユニット21の加圧ポンプ31b,32b、及び第2の格子ユニット22の加圧ポンプ41b,42bをそれぞれ制御し、位相コントラスト画像の撮影時には、格子基板30,40にX線吸収材を供給させてX線に対する吸収型格子として機能させる。一方、X線撮影システム10は、吸収画像の撮影時には、格子基板30,40にX透過材を供給させてX線透過部とし、格子がX線源11とX線画像検出器20との間から除去された状態とする。
【0034】
X線撮影システム10は、位相コントラスト画像の撮影時には、走査機構23を制御して第2の格子ユニット22を所定のピッチずつx方向に移動させるたびに、X線源11にX線照射を行なわせ、X線画像検出器20にX線の検出動作を行わせる。一方、X線撮影システム10は、吸収画像の撮影時には、第2の格子ユニット22を移動させず、X線源11に一度のX線照射を行なわせ、X線画像検出器20にX線の検出動作を行わせる。
【0035】
位相コントラスト画像の撮影時には、画像処理部13は、X線画像検出器20により生成される複数の画像データを用い、特許第4445397号公報等に記載の処理方法に基づいて位相微分像を生成し、この位相微分像を積分処理することにより位相コントラスト画像を生成する。一方、吸収画像の撮影時には、画像処理部13は、X線画像検出器20により生成された画像データに補正処理等を施して吸収画像とする。画像処理部13により生成された位相コントラスト画像または吸収画像は、コンソール14の表示部に表示される。
【0036】
次に、格子基板30,40の構成を説明する。図2において、格子基板30には、格子部33、第1の集合流路34、及び第2の集合流路35が形成されている。格子基板30は、シリコン等のX線透過性基板からなる。格子部33、第1の集合流路34、及び第2の集合流路35は、該X線透過性基板に、周知のフォトリソグラフィ法でエッチングを施すことにより形成される。
【0037】
格子部33は、z方向及びx方向と直交するy方向に延伸した溝33aが、x方向に所定のピッチで配設されてなる。各溝33aの一端に第1の集合流路34が接続されており、他端に第2の集合流路35が接続されている。第1の集合流路34は、X線吸収材供給部31の供給路31cに接続されている。第2の集合流路35は、X線透過材供給部32の供給路32cに接続されている。
【0038】
また、格子基板30には、格子部33、第1の集合流路34、及び第2の集合流路35を覆うように封止板36が接着剤等により接合される。封止板36は、格子基板30と同様に、シリコン等の平板状のX線透過性基板からなる。格子部33の各溝33aは、封止板36により上部が封止される。
【0039】
X線吸収材供給部31から第1の集合流路34を介して溝33aにX線吸収材が充填されることにより、格子部33は吸収型格子として機能する。一方、X線透過材供給部32から第2の集合流路35を介して溝33aにX線透過材が充填されることにより、格子部33はX線透過部となる。
【0040】
x方向に関する溝33aの幅は、2〜20μm程度であり、溝33aの配列ピッチは、幅の約2倍である。これに対して、X線画像検出器20のx方向及びy方向への画素サイズは、150μm程度である。また、溝33aのz方向の厚みは、X線源11から放射されるコーンビーム状のX線のケラレを考慮して、100μm程度となっている。同図には、溝33aを9本のみ示しているが、実際には、格子部33には多数の溝33aが形成されている。なお、X線吸収材を流れやすくするために、溝33aの側面及び底面に金属膜(例えば、Au)を形成してもよい。
【0041】
格子基板40は、格子部に形成される溝の幅、配列ピッチ、及び厚みが異なる以外は、格子基板30と同一構成である。格子基板40の溝の幅及び配列ピッチは、格子基板30によるX線の自己像のパターンとほぼ一致するように設計されている。
【0042】
以下に、X線画像撮影システム10の作用について説明する。まず、コンソール14の操作部から撮影種別の選択が行われる。撮影種別として位相コントラスト画像の撮影が選択された場合には、X線吸収材供給部31,41の加圧ポンプ31b,41bがそれぞれ駆動され、格子基板30,40にX線吸収材が供給される。これにより、格子基板30,40には、y方向に延伸したX線吸収部がx方向に所定のピッチで配列されてなる吸収型格子が構成される。一方、撮影種別として吸収画像の撮影が選択された場合には、X線透過材供給部32,42の加圧ポンプ32b,42bがそれぞれ駆動され、格子基板30,40にX線透過材が供給される。これにより、格子基板30,40はX線透過部となる。
【0043】
次いで、コンソール14の操作部から撮影開始指示が入力される。撮影種別が位相コントラスト画像の撮影の場合には、走査機構23により第2の格子ユニット22がx方向に所定のピッチずつ移動されながら、移動のたびに、X線源11によりX線照射が行なわれ、X線画像検出器20によりX線の検出が行われる。なお、第2の格子ユニット22の移動ピッチは、格子基板40に構成される吸収型格子の格子ピッチを等分割(例えば、5分割)した値である。
【0044】
このとき、X線源11から放射されたX線は、被検体Hを通過することにより位相差が生じる。このX線が第1の格子ユニット21の格子基板30を通過することにより、被検体Hの屈折率と透過光路長とから決定される被検体Hの透過位相情報を反映した第1の周期パターン像が生成され、第2の格子ユニット22に投影される。なお、第1の周期パターン像は、特許第4445397号公報に記載のようにタルボ干渉効果により生成されたものであってもよいし、中国特許出願公開第101532969号明細書に記載のように幾何光学的に生成されたものであってもよい。格子基板30で、タルボ干渉効果が生じるか否かは、X線の波長と格子ピッチとの関係に依存する。タルボ干渉効果が生じない場合には、幾何光学的に第1の周期パターン像が生成される。
【0045】
第1の周期パターン像は、第2の格子ユニット22の格子基板40に構成された吸収型格子により部分的に遮蔽されることにより強度変調され、第2の周期パターン像となり、X線画像検出器20により検出される。X線画像検出器20により生成された複数の画像データは、画像処理部13に入力され、位相微分像が生成された後、x方向に沿った積分処理が施されることにより位相コントラスト画像が生成される。この位相コントラスト画像は、コンソール14の表示部に表示される。
【0046】
一方、撮影種別が吸収画像の撮影の場合には、第2の格子ユニット22は移動されず、X線源11によりX線照射が一度のみ行なわれ、X線画像検出器20によりX線の検出が行われる。このとき、第1及び第2の格子ユニット21,22の格子基板30,40はX線透過部となっているため、X線画像検出器20により生成される画像データは、吸収画像に対応するものである。この画像データは、画像処理部13により補正処理等が施され、コンソール14の表示部に表示される。
【0047】
なお、上記実施形態では、走査機構23により第2の格子ユニット22の全体を移動させているが、格子基板40のみを移動させるように構成してもよい。この場合には、供給路41c,42cをゴム等のフレキシブル性を有する材料で形成すればよい。
【0048】
また、上記実施形態では、走査機構23により第2の格子ユニット22を移動させているが、第1の格子ユニット21を移動させてもよい。この場合にも同様に、格子基板30のみを移動させるように構成することが可能である。
【0049】
また、上記実施形態では、第1の格子ユニット21にX線吸収材供給部31及びX線透過材供給部32を設けているが、X線透過材を空気等の気体とする場合には、X線透過材供給部32を設けず、X線吸収材供給部31のみとすることも可能である。
【0050】
また、上記実施形態では、X線源11が単一焦点であるが、X線源11の射出側に、焦点を分散化させるための線源格子(マルチスリット)を設けてもよい。この線源格子を、第1及び第2の格子ユニット21,22と同様の構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、第1の格子ユニット21の格子部33を吸収型格子とするように溝33aのz方向の厚みを設定しているが、この厚みを薄くすることにより、格子部33を位相型格子としてもよい。また、位相型格子はX線吸収が少ないため、第1の格子ユニット21に代えて、X線吸収部が固定的に設けられた従来の位相型格子を用いてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、縞走査法に基づいて位相コントラスト画像を生成しているが、国際公開WO2010/050483号公報に記載のフーリエ変換法により位相コントラスト画像を生成してもよい。この場合には、第1及び第2の格子ユニット21,22を固設したまま一度のX線照射を行なうことにより、1つの画像データを取得すればよい。フーリエ変換法では、画像データをフーリエ変換することによって空間周波数スペクトルを取得し、この空間周波数スペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトルを分離して逆フーリエ変換を行なうことにより位相微分像が得られる。この位相微分像を積分処理することにより位相コントラスト画像が得られる。この場合、第1及び第2の格子ユニットの格子部の溝を正方格子状とし、同公報に記載されているような2次元状格子を構成可能とすることも好ましい。
【0053】
また、上記実施形態では、位相微分像を積分処理したもの(X線の位相シフト分布に対応)を位相コントラスト画像としているが、位相微分像を位相コントラスト画像としてもよい。
【0054】
さらに、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子ユニット21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子ユニット21と第2の格子ユニット22との間に配置してもよい。
【0055】
以下では、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態では、既に説明済みの実施形態と同じ構成については、同符号を用いて詳しい説明は省略する。また、以下の各実施形態においても、第2の格子ユニットは、グリッド基板の大きさが異なる以外は、第1の格子ユニットと同様の構成であるため、詳しい説明は省略する。
【0056】
[第2実施形態]
図3において、第2実施形態に係る第1の格子ユニット50は、格子基板30、循環路51、及び加圧ポンプ52により構成されている。格子基板30には、第1実施形態と同様に、不図示の封止板が接合される。
【0057】
循環路51は、その一端が第1の集合流路34に接続され、他端が第2の集合流路35に接続されている。循環路51には、液体状のX線吸収材53及びX線透過材54が交互に充填されている。加圧ポンプ52は、循環路51のX線吸収材53及びX線透過材54を流動させ、格子基板30にX線吸収材53とX線透過材54とを交互に供給する。
【0058】
加圧ポンプ52は、システム制御部15により制御される。システム制御部15は、コンソール14の操作部から入力される撮影種別に応じて、加圧ポンプ52を制御し、格子基板30にX線吸収材53またはX線透過材54を選択的に供給する。
【0059】
本実施形態の第1の格子ユニット50は、1つの加圧ポンプ52で済み、また、貯留タンクが不要であるため、小型化及び低コスト化のうえで有利である。
【0060】
[第3実施形態]
図4において、第3実施形態に係る第1の格子ユニット60は、格子基板61、容器62、及び昇降機構63により構成されている。格子基板61は、シリコン等のX線透過性基板であり、y方向に延伸した溝61aが、x方向に所定のピッチで複数形成されている。容器62は、格子基板61と同様にシリコン等のX線透過性材料からなり、格子基板61が嵌合して収容される大きさとなっている。容器62には、液体状のX線吸収材64が貯留されている。
【0061】
昇降機構63は、格子基板61の溝61aが形成された面を容器62に対向させたまま、格子基板61をz方向に昇降させる。同図(A)は、格子基板61が容器62から上昇した状態である。このとき、容器62の底には、X線吸収材64が貯留されており、X線吸収材64のz方向の厚みが薄く一様であるため、X線吸収能は低く、X線透過部として機能する。
【0062】
一方、同図(B)は、格子基板61が降下し、容器62に収容された状態である。このとき、格子基板61がX線吸収材64に浸漬され、溝61aにX線吸収材64が充填される。これにより、格子基板61は、X線に対する吸収型格子として機能する。溝61aの厚みを調整することで、格子基板61を位相型格子とすることも可能である。
【0063】
昇降機構63は、システム制御部15により制御される。システム制御部15は、コンソール14の操作部から入力される撮影種別に応じて、昇降機構63を制御し、格子基板61をX線透過部または格子として機能させる。
【0064】
以上説明した実施形態は、医療診断用の放射線画像撮影システムのほか、工業用や、非破壊検査等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。また、本発明は、X線撮影において散乱線を除去する散乱線除去用格子にも適用可能である。さらに、本発明は、放射線として、X線以外にガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
21 第1の格子ユニット
22 第2の格子ユニット
30 格子基板
31 X線吸収材供給部
31a 貯留タンク
31b 加圧ポンプ
31c 供給路
32 X線透過材供給部
32a 貯留タンク
32b 加圧ポンプ
32c 供給路
33 格子部
33a 溝
34 第1の集合流路
35 第2の集合流路
40 格子基板
41 X線吸収材供給部
41a 貯留タンク
41b 加圧ポンプ
41c 供給路
42 X線透過材供給部
42a 貯留タンク
42b 加圧ポンプ
42c 供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝からなる格子部が形成された放射線透過性の格子基板と、
前記格子部への流体状の放射線吸収材の充填と、前記格子部からの前記放射線吸収材の排出と選択的に行なう媒体切替手段と、
を備えることを特徴とする放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項2】
前記媒体切替手段は、前記格子部からの前記放射線吸収材の排出を、前記格子部に流体状の放射線透過材を供給することにより行なうことを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項3】
前記格子基板は、前記格子部の一端に、前記媒体切替手段に接続された第1の流路が形成され、前記格子部の他端に、前記媒体切替手段に接続された第2の流路が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項4】
前記媒体切替手段は、前記第1の流路に接続され前記格子部に前記放射線吸収材を供給する放射線吸収材供給部と、前記第2の流路に接続され前記格子部に前記放射線透過材を供給する放射線透過材供給部とからなることを特徴とする請求項3に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項5】
前記放射線吸収材供給部及び前記放射線透過材供給部は、それぞれ加圧ポンプと貯留タンクからなることを特徴とする請求項4に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項6】
前記媒体切替手段は、前記放射線吸収材と前記放射線透過材とが交互に充填され、一方が前記第1の流路に接続されるとともに、他方が前記第2の流路に接続された循環路と、前記放射線吸収材及び前記放射線透過材を流動させる流動手段とからなることを特徴とする請求項3に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項7】
前記媒体切替手段は、液体状の前記放射線吸収材が貯留された容器と、前記格子基板を、前記格子部が前記放射線吸収材に浸漬する位置と、前記格子部が前記放射線吸収材に浸漬しない位置との間で昇降させる昇降手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項に記載の放射線画像撮影用格子ユニットにより構成された少なくとも1つの格子ユニットと、
前記格子ユニットに向けて放射線を放射する放射線源と、
前記格子ユニットを介して放射線を検出し画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記格子ユニットの前記媒体切替手段を制御して、前記格子部を格子または放射線透過部として選択的に機能させる制御部と、
前記格子ユニットの格子部を格子として機能させた場合に、前記放射線画像検出器により得られる画像データに基づき位相コントラスト画像を生成し、前記格子部を放射線透過部として機能させた場合に、前記放射線画像検出器により得られる画像データに基づき吸収画像を生成する画像処理部と、
を備えることを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項9】
前記格子ユニットとして、前記放射線源と前記放射線画像検出器との間に対向配置された第1の格子ユニット及び第2の格子ユニットを備えることを特徴とする請求項8に記載の放射線画像撮影システム。
【請求項10】
前記第1の格子ユニットまたは前記第2の格子ユニットの前記格子基板の一方を他方に対して所定のピッチで複数の位置に移動させる走査手段を備え、
前記画像処理部は、前記各位置で前記放射線画像検出器により得られた複数の画像データに基づき位相コントラスト画像を生成することを特徴とする請求項9に記載の放射線画像撮影システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−143396(P2012−143396A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4192(P2011−4192)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】