説明

放射線発生装置および放射線撮影装置

【課題】簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却、小型軽量化を可能とし、かつより信頼性の高い放射線発生装置、およびそれを備える放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】冷却媒体が充填された収納容器の内部に、透過型放射線管が収納され、透過型放射線管は、開口部を有する外囲器と、外囲器の内部に、外囲器の開口部に臨んで配設された電子放出源と、放射線を透過する透過基板と、透過基板の電子放出源側の面に設置され、電子放出源から放出された電子の照射により放射線を発生するターゲットと、ターゲットから放出された放射線を遮る遮蔽体と、透過基板と冷却媒体との間に設置された断熱部材と、を備え、遮蔽体は外囲器の開口部に連通する通路を有し、遮蔽体の通路に透過基板が設けられ、冷却媒体は遮蔽体の少なくとも一部に接していることを特徴とする放射線発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器および産業機器分野における非破壊X線撮影等に適用できる放射線発生装置、および該放射線発生装置を備える放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射線管(放射線発生管)は電子放出源から放出される電子を高エネルギーに加速し、タングステン等の金属から構成されるターゲットに照射して、X線等の放射線を発生させている。このとき発生した放射線は全方位に向かって放出される。そこで、必要以外の放射線を遮蔽するために、放射線管を収納した容器、もしくは放射線管の周囲を鉛のような遮蔽体(放射線遮蔽部材)で覆い、不要な放射線を外部に漏洩しないようにしている。このため、このような放射線管および放射線管を収納した放射線発生装置においては、小型軽量化が困難となっていた。
【0003】
この課題を解決する手段として、透過型放射線管において、ターゲットの放射線放出側および電子入射側にそれぞれ遮蔽体を配置することにより、簡易な構造で不要な放射線を遮蔽し、かつ装置の小型軽量化を実現する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、一般に、このようなターゲット(陽極)固定型の透過型放射線管は、ターゲットの放熱性が比較的劣るため、高エネルギーの放射線を発生させることが困難であった。このターゲットの放熱に関し、特許文献1の透過型放射線管では、ターゲットと遮蔽体を接合した構造とすることにより、ターゲットで発生した熱が遮蔽体に伝わって放熱され、ターゲットの温度上昇が抑えられると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−265981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の透過型放射線管では、遮蔽体が真空容器内に配置されており、遮蔽体から真空容器外部への熱伝達領域が限られている。このため、ターゲットの放熱性が必ずしも十分ではなく、ターゲットの冷却能力と装置の小型軽量化の両立に課題があった。
【0007】
そこで、本発明者らはターゲットを支持する透過基板に遮蔽体を接合し、透過基板の少なくとも一部および遮蔽体の少なくとも一部が冷却媒体と接する構造をとる透過型放射線管を考え、この構造でターゲットを冷却したところ十分な冷却能力が得られた。
【0008】
しかし、透過基板と冷却媒体が接触している上記構成では、ターゲットで発生する熱により、透過基板に接触している部分の冷却媒体の温度が局所的に急激に上昇する。この局所的な温度上昇により冷却媒体の対流が生じ、透過基板表面では冷却媒体の入れ替わりが生じるものの、一部は分解温度を超え冷却媒体の分解(劣化)が生じることがあった。冷却媒体の分解が進行すると、冷却媒体の耐圧性が低下し、長時間の駆動において放電等の問題が生じる場合があった。
【0009】
そこで、本発明は、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却を可能とするとともに、小型軽量化を可能とし、かつより信頼性の高い放射線発生装置、およびそれを備える放射線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、冷却媒体が充填された収納容器の内部に、透過型放射線管が収納され、
前記透過型放射線管は、
開口部を有する外囲器と、
前記外囲器の内部に、前記開口部に臨んで配設された電子放出源と、
放射線を透過する透過基板と、
前記透過基板の電子放出源側の面に設置され、前記電子放出源から放出された電子の照射により放射線を発生するターゲットと、
前記ターゲットから放出された放射線を遮る遮蔽体と、
前記透過基板と前記冷却媒体との間に設置された断熱部材と、
を備え、
前記遮蔽体は前記外囲器の開口部に連通する通路を有し、該通路に前記透過基板が設けられ、
前記冷却媒体は前記遮蔽体の少なくとも一部に接していることを特徴とする放射線発生装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ターゲットを支持する透過基板に遮蔽体を接合し、遮蔽体の少なくとも一部が冷却媒体と接し、透過基板と冷却媒体との間に断熱部材を設けた構造をとる。したがって、ターゲットで発生した熱が遮蔽体に伝わり、遮蔽体を介して冷却媒体に伝わって速やかに放熱される。また、透過基板と冷却媒体との間に断熱部材があることで透過基板から冷却媒体への熱伝導が抑制されるため、過熱による冷却媒体の劣化を抑制できる。これにより、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却を可能とする放射線発生装置を実現できる。また、不要な放射線を遮蔽する部材を低減できるため、放射線発生装置の小型軽量化を実現できる。さらに、過熱による冷却媒体の劣化を抑制できることにより長時間にわたって冷却媒体の耐圧性を確保できるため、より信頼性の高い放射線発生装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の放射線発生装置とターゲット周辺部の模式図である。
【図2】第2の実施形態のターゲット周辺部の模式図である。
【図3】第3の実施形態のターゲット周辺部の模式図である。
【図4】第4の実施形態のターゲット周辺部の模式図である。
【図5】本発明の放射線発生装置を用いた放射線撮影装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。なお、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0014】
〔第1の実施形態〕
まず、図1を用いて本発明の第1の実施形態について説明する。図1(a)は本実施形態の放射線発生装置の模式図であり、図1(b)は図1(a)におけるターゲット周辺部を拡大して表した模式図である。本実施形態の放射線発生装置は、透過型放射線管10を備えており、この透過型放射線管10は収納容器1の内部に収納されている。この収納容器1の内部に透過型放射線管10を収納した余空間には冷却媒体8が充填されている。収納容器1の内部には、本実施形態のように不図示の回路基板および絶縁トランス等から構成される電圧制御部3(電圧制御手段)を設けても良い。電圧制御部3を設けた場合、例えば透過型放射線管10に端子4、5、6、7を介して電圧制御部3から電圧信号が印加され放射線の発生を制御することができる。
【0015】
収納容器1は、容器としての十分な強度を有していれば良く、金属やプラスチックス材料等から構成される。収納容器1には、本実施形態のようにガラス、アルミニウム、ベリリウム等からなる放射線透過窓2を設けても良い。放射線透過窓2を設けた場合、透過型放射線管10から放出された放射線はこの放射線透過窓2を通して外部に放出される。
【0016】
冷却媒体8は、電気絶縁性を有していれば良く、例えば絶縁媒体および透過型放射線管10の冷却媒体としての役割を有する電気絶縁油を用いるのが好ましい。電気絶縁油としては、鉱油、シリコーン油等が好適に用いられる。その他に使用可能な冷却媒体8としては、フッ素系電気絶縁液体が挙げられる。
【0017】
透過型放射線管10は、外囲器19、電子放出源11、ターゲット14、透過基板15、遮蔽体16および断熱部材22を備えている。透過型放射線管10には、本実施形態のように引出し電極12とレンズ電極13を設けても良い。これらを設けた場合、引出し電極12によって形成される電界によって電子放出源11から電子が放出され、放出された電子はレンズ電極13で収束され、ターゲット14に入射し放射線が発生する。また、本実施形態のように排気管20を設けても良い。排気管20を設けた場合、例えば排気管20を通じて外囲器19内を真空に排気した後、排気管20の一部を封止することで外囲器19の内部を真空にすることができる。また、断熱部材22を構成する材料によっては本実施形態のように蓋基板21を設けても良い。
【0018】
外囲器19は、透過型放射線管10の内部を真空に保つためのもので、ガラスやセラミクス材料等が用いられる。外囲器19内の真空度は10-4〜10-8Pa程度であれば良い。外囲器19の内部には真空度を保つために、不図示のゲッターを配置しても良い。また、外囲器19は、開口部を有しており、その開口部には遮蔽体16が接合されている。この遮蔽体16は外囲器19の開口部に連通する通路を有しており、その通路に透過基板15が接合されることにより外囲器19が密閉される。
【0019】
電子放出源11は、外囲器19の内部に、外囲器19の開口部に臨んで配設されている。電子放出源11にはタングステンフィラメントや、含浸型カソードのような熱陰極、またはカーボンナノチューブ等の冷陰極を用いることができる。電子放出源11の近傍には引出し電極12が配置され、引出し電極12によって形成される電界によって放出された電子は、レンズ電極13で収束され、ターゲット14に入射し放射線が発生する。このとき、電子放出源11とターゲット14間に印加される電圧Vaは、放射線の使用用途によって異なるものの、概ね40〜120kV程度である。
【0020】
透過基板15は、ターゲット14を支持し、ターゲット14で発生する放射線の少なくとも一部を透過するものであり、外囲器19の開口部に連通する遮蔽体16の通路に設けられている。透過基板15を構成する材料は、ターゲット14を支持できる強度を有し、ターゲット14で発生した放射線の吸収が少なく、かつターゲット14で発生した熱をすばやく放熱できるよう熱伝導率の高いものが好ましい。例えばダイヤモンド、窒化シリコン、窒化アルミニウム等を用いることができる。透過基板15についての上記要求事項を満たすため、透過基板15の厚みは0.1mm〜数mm程度が適当である。
【0021】
ターゲット14は、透過基板15の電子放出源側の面に設置されている。ターゲット14を構成する材料は、融点が高く、放射線発生効率の高いものが好ましい。例えばタングステン、タンタル、モリブデン等を用いることができる。発生した放射線がターゲット14を透過する際に生じる吸収を軽減するため、ターゲット14の厚みは数μm〜十数μm程度が適当である。
【0022】
遮蔽体16は、ターゲット14から放出された放射線を遮るものであり、外囲器19の開口部に接合され、その開口部に連通する通路を有しており、その通路に透過基板15が接合されている。ターゲット14はその通路に接合されなくても良い。また、遮蔽体16は、本実施形態のように円筒等の筒型形状からなる2つの遮蔽体(第1の遮蔽体17と第2の遮蔽体18)で構成しても良い(図1(b))。
【0023】
第1の遮蔽体17は、ターゲット14に電子が入射し放射線が発生した際に、ターゲット14の電子放出源側に散乱した放射線を遮蔽する機能を備えており、外囲器19の開口部に連通する通路を有する。電子放出源11から放出された電子は外囲器19の開口部に連通する第1の遮蔽体17の通路を通過し、ターゲット14の電子放出源側に散乱した放射線は第1の遮蔽体17で遮蔽される。
【0024】
第2の遮蔽体18は、透過基板15を透過し放出された放射線の中で、不要な放射線を遮蔽する機能を備えており、外囲器19の開口部に連通する通路を有する。透過基板15を透過した放射線は外囲器19の開口部に連通する第2の遮蔽体18の通路を通過し、不要な放射線は第2の遮蔽体18で遮蔽される。
【0025】
本実施形態では、図1(b)のように透過基板15よりも電子放出源と反対側において、第2の遮蔽体18の通路の開口面積が徐々に大きくなっている(透過基板15から離れるほど大きくなっている)のが好ましい。これは、透過基板15を透過した放射線が放射状の広がりをもっているからである。
【0026】
また、本実施形態では、透過基板15よりも電子放出源側と、透過基板15よりも電子放出源と反対側とで、各々の側における通路の開口の重心(第1の遮蔽体17の通路の開口の重心と第2の遮蔽体18の通路の開口の重心)が一致しているのが好ましい。即ち、図1(b)のように第1遮蔽体17の通路の開口と第2の遮蔽体18の通路の開口が、透過基板15を挟んで透過基板15のターゲット設置面に垂直な同一直線上に配置されているのが好ましい。これは、本実施形態では、ターゲット14に電子を照射して放射線を発生させ、透過基板15を透過した放射線を放出するからである。
【0027】
遮蔽体16(第1の遮蔽体17および第2の遮蔽体18)を構成する材料は、放射線の吸収率が高く、かつ熱伝導率の高いものが好ましい。例えばタングステン、タンタル等の金属材料を用いることができる。不要な放射線を遮蔽するため、第1の遮蔽体17と第2の遮蔽体18の厚みは3mm以上が適当である。
【0028】
断熱部材22は、透過基板15と冷却媒体8との間(透過基板15の電子放出源と反対側の面)に設置されている。本実施形態では、蓋基板21を設けているため、透過基板15と蓋基板21との間に設けられている。この蓋基板21は、第2の遮蔽体18と接合されている。蓋基板21にはダイヤモンド、ガラス、ベリリウム、アルミニウム、窒化シリコン、窒化アルミニウム等の放射線吸収率の低い材料が好ましい。基板としての強度を有し、かつ放射線の吸収を少なくするため、蓋基板21の厚みは数十μm〜数mm程度が適当である。
【0029】
断熱部材22を構成する材料は、第2の遮蔽体18を構成する材料よりも熱伝導率が低く、放射線の吸収率が低く、かつ耐熱性が高いものが好ましく、真空または気体が適している。気体としては、大気、窒素やアルゴン、ネオン、ヘリウム等の不活性気体を用いることができる。断熱部材22を構成する気体は大気圧でも良いが、放射線を発生する際にターゲットで発生する熱によって膨張するため、断熱部材22の内部をあらかじめ大気圧よりも低い圧力の空間としておいても良い。断熱部材22を構成する気体の圧力は絶対温度に比例するため、想定される温度を基に形成時の圧力を設定すれば良い。本実施形態の透過型放射線管10は、真空もしくは気体雰囲気中で、第2の遮蔽体18に蓋基板21を接着または溶接することで形成できる。
【0030】
本実施形態では、透過基板15と冷却媒体8との間に断熱部材22を設けることにより、透過基板15と冷却媒体8を非接触にしている。透過基板15と冷却媒体8が接触している場合、ターゲット14で発生する熱により、透過基板15に接触している部分の冷却媒体8の温度が局所的に急激に上昇する。この局所的な温度上昇により冷却媒体8の対流が生じ、透過基板15の表面では冷却媒体8の入れ替わりが生じるものの、一部は分解温度(電気絶縁油では一般に200〜250℃程度)を超え冷却媒体8の分解(劣化)が生じてしまうこともある。冷却媒体8の分解が進行すると、冷却媒体8の耐圧性が低下し、長時間の駆動において放電等の問題が生じる場合がある。
【0031】
本実施形態の放射線発生装置では、ターゲット14と第1の遮蔽体17および第2の遮蔽体18とは、直接または透過基板15を介して、機械的かつ熱的に接触している。また、第2の遮蔽体18と蓋基板21は、外囲器19の外壁の一部を構成しており、収納容器1の中で冷却媒体8に接触している。さらに、透過基板15と冷却媒体8との間には第2の遮蔽体18よりも熱伝導率の低い断熱部材22が形成されている。このため、ターゲット14で発生した熱は第2の遮蔽体18に伝わり、第2の遮蔽体18を介して冷却媒体8に伝わって速やかに放熱される。よって、ターゲット14の温度上昇が抑制される。また、透過基板15から冷却媒体8への熱伝導が抑制されるため、過熱による冷却媒体8の劣化を抑制できる。
【0032】
このように、本実施形態の放射線発生装置によれば、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却が可能となるとともに、放射線発生装置の小型軽量化を実現できる。さらに、過熱による冷却媒体の劣化を抑制できることにより長時間にわたって冷却媒体の耐圧性を確保できるため、より信頼性の高い放射線発生装置を実現できる。
【0033】
また、本実施形態の放射線発生装置における電圧制御手段としては、陽極接地方式と中点接地方式のいずれの方式も採用することができるが、中点接地方式を採用するのが好ましい。陽極接地方式とは、ターゲット14と電子放出源11との間に印加する電圧をVa[V]としたとき、陽極であるターゲット14の電圧をグランド(0[V])に設定し、電子放出源11の電圧を−Va[V]に設定する方式である。一方、中点接地方式とは、ターゲット14の電圧を+(Va−α)[V]、電子放出源11の電圧を−α[V]、(ただし、Va>α>0)に、それぞれ設定する方式である。αの値はVa>α>0の範囲内の任意の値であるが、一般的にはVa/2に近い値である。中点接地方式を採用することで、グランドに対する電圧の絶対値を小さくすることができ、沿面距離を短くすることができる。沿面距離とは、ここでは電圧制御部3と収納容器1との距離、および透過型放射線管10と収納容器1との距離である。沿面距離を短くすることができると、収納容器1のサイズを小さくすることができ、その分冷却媒体8の重量も小さくすることができるため、放射線発生装置をより小型軽量化することが可能となる。
【0034】
〔第2の実施形態〕
次に、図2を用いて本発明の第2の実施形態について説明する。図2は本実施形態の放射線発生装置のターゲット周辺部を拡大して表した模式図である。本実施形態は、第1の実施形態における断熱部材を真空とした場合に適用できる別の一例である。
【0035】
図2において、断熱部材22は真空である。断熱部材22を真空とするために、本実施形態のように第1の遮蔽体17および第2の遮蔽体18に孔(連通孔)23を設け、その孔を介して外囲器19の内部と断熱部材22の内部を連通させる構造としても良い。連通孔23を設けた場合、本実施形態の透過型放射線管10は、蓋基板21を第2の遮蔽体18に接合した後に、排気管20を通じて外囲器19の内部と断熱部材22の内部を同時に排気し、排気管20を封止することで形成できる。
【0036】
本実施形態においても、断熱部材22によって透過基板15から冷却媒体8への熱伝導が抑制されるため、過熱による冷却媒体8の劣化を抑制でき、長時間にわたって冷却媒体8の耐圧性を確保することが可能となる。よって、本実施形態の放射線発生装置によれば、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却が可能となるとともに、より信頼性の高い小型軽量放射線発生装置を実現できる。
【0037】
〔第3の実施形態〕
次に、図3を用いて本発明の第3の実施形態について説明する。図3は本実施形態の放射線発生装置のターゲット周辺部を拡大して表した模式図である。本実施形態は、第1の実施形態の別の一例であり、透過基板15と冷却媒体8との間に設けられる断熱部材を、固体で形成したものである。その他の構成要素は第1の実施形態と同様の構成要素を用いることができる。
【0038】
図3において、断熱部材24は固体である。断熱部材24を構成する材料は、第2の遮蔽体18を構成する材料よりも熱伝導率が低く、放射線の吸収率が低く、かつ耐熱性が高いものが好ましい。例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等があげられる。また、断熱部材24は、透過基板15の表面に、上記材料をスパッタリング法、蒸着法、CVD法、ゾルゲル法等の成膜方法で成膜する方法、または上記材料からなる基板を接着もしくは接合することで形成することができる。透過基板15と冷却媒体8との間の熱伝導を抑制し、かつ放射線の吸収率を低くするため、断熱部材24の厚みは数十μm〜数mmの範囲であるのが好ましい。
【0039】
本実施形態においても、断熱部材24によって透過基板15から冷却媒体8への熱伝導が抑制されるため、過熱による冷却媒体8の劣化を抑制でき、長時間にわたって冷却媒体8の耐圧性を確保することが可能となる。よって、本実施形態の放射線発生装置によれば、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却が可能となるとともに、より信頼性の高い小型軽量放射線発生装置を実現できる。
【0040】
〔第4の実施形態〕
次に、図4を用いて本発明の第4の実施形態について説明する。図4は本実施形態の放射線発生装置のターゲット周辺部を拡大して表した模式図である。本実施形態は、第3の実施形態の別の一例であり、透過基板15と冷却媒体8との間に加えて、第2の遮蔽体18の通路の内壁と冷却媒体8との間にも断熱部材25を形成したものである。断熱部材25の材料および成膜方法は第3の実施形態の材料および成膜方法を用いることができる。
【0041】
本実施形態においては、透過基板15のみならず、第2の遮蔽体18の、比較的温度の高い透過基板15近傍部分からの、冷却媒体8への熱伝導をも抑制することができる。このため、過熱による冷却媒体8の劣化を抑制でき、長時間にわたって冷却媒体8の耐圧性を確保することが可能となる。よって、本実施形態の放射線発生装置によれば、簡易な構造で不要な放射線の遮蔽とターゲットの冷却が可能となるとともに、より信頼性の高い小型軽量放射線発生装置を実現できる。
【0042】
〔第5の実施形態〕
次に、図5を用いて本発明の放射線発生装置を用いた放射線撮影装置について説明する。図5は本実施形態の放射線撮影装置の構成図である。本実施形態の放射線撮影装置は、放射線発生装置30、放射線検出器31、信号処理部32、装置制御部33および表示部34を備えている。放射線発生装置30としては、例えば第1の実施形態乃至第4の実施形態の放射線発生装置が好適に用いられる。放射線検出器31は信号処理部32を介して装置制御部33に接続され、装置制御部33は表示部34および電圧制御部3に接続されている。
【0043】
放射線発生装置30における処理は装置制御部33によって統括制御する。例えば、装置制御部33は放射線発生装置30と放射線検出器31による放射線撮影を制御する。放射線発生装置30から放出された放射線は、被検体35を介して放射線検出器31で検出され、被検体35の放射線透過画像が撮影される。撮影された放射線透過画像は表示部34に表示される。また例えば、装置制御部33は放射線発生装置30の駆動を制御し、電圧制御部3を介して透過型放射線管10に印加される電圧信号を制御する。
【符号の説明】
【0044】
1:収納容器、8:冷却媒体、10:透過型放射線管、11:電子放出源、14:ターゲット、15:透過基板、16:遮蔽体、19:外囲器、22、24、25:断熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体が充填された収納容器の内部に、透過型放射線管が収納され、
前記透過型放射線管は、
開口部を有する外囲器と、
前記外囲器の内部に、前記開口部に臨んで配設された電子放出源と、
放射線を透過する透過基板と、
前記透過基板の電子放出源側の面に設置され、前記電子放出源から放出された電子の照射により放射線を発生するターゲットと、
前記ターゲットから放出された放射線を遮る遮蔽体と、
前記透過基板と前記冷却媒体との間に設置された断熱部材と、
を備え、
前記遮蔽体は前記外囲器の開口部に連通する通路を有し、該通路に前記透過基板が設けられ、
前記冷却媒体は前記遮蔽体の少なくとも一部に接していることを特徴とする放射線発生装置。
【請求項2】
前記透過基板よりも電子放出源と反対側において、前記通路の開口面積が徐々に大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項3】
前記透過基板よりも電子放出源側と、前記透過基板よりも電子放出源と反対側とで、前記通路の開口の重心が一致していることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線発生装置。
【請求項4】
前記断熱部材は、内部に大気圧よりも低い空間を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項5】
前記断熱部材は、内部が気体で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項6】
前記断熱部材は、内部が孔を介して前記外囲器の内部と連通しており、
前記孔は前記遮蔽体に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の放射線発生装置。
【請求項7】
前記断熱部材は、前記遮蔽体を構成する材料よりも熱伝導率の低い材料から構成される固体である特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項8】
前記断熱部材は、前記通路の内壁と前記冷却媒体との間にも設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項9】
前記冷却媒体は電気絶縁油であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項10】
前記ターゲットの電圧を+(Va−α)[V]、前記電子放出源の電圧を−α[V]、(ただし、Va>α>0)に、それぞれ設定する電圧制御手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の放射線発生装置と、該放射線発生装置から放出され、被検体を透過した放射線を検出する放射線検出器と、を備えることを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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