説明

放射線管及びそれを用いた放射線発生装置

【課題】中間電極と集束電極又は電子源との間で放電が発生した場合に、放電電流を低減することにより、この放電が引き金となって発生する2次放電を防止し、高耐圧化された放射線管及びそれを用いた放射線発生装置を提供する。
【解決手段】電子銃構造体5が接続された陰極2と、ターゲット12が設けられた陽極3と、の間に、絶縁性の管状側壁4が電子銃構造体5を囲んで配置された放射線管であって、管状側壁4には、管状側壁4の中心軸方向の中間部に電位規定部材13が設けられ、電位規定部材13は、電気抵抗部材14又はインダクタ15を介して電位規定手段と電気的に接続され、陰極2の電位よりも大きく、かつ陽極3の電位よりも小さい電位に規定されることを特徴とする放射線管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型ターゲットを用いた放射線管及びそれを用いた放射線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型放射線管は、陰極、陽極及び絶縁性の管状側壁からなる真空管であって、陰極の電子源から放出された電子を、陰極−陽極間に印加された高電圧で加速し、陽極に設けられた透過型ターゲットに照射して放射線を発生させる。発生した放射線は放射線取り出し窓を兼ねる透過型ターゲットから外部に放出される。このような透過型放射線管は、医療用や工業用の放射線発生装置に採用されている。
【0003】
従来、このような透過型放射線管や反射型放射線管では、放射線管の耐電圧性能(以下、「耐圧」)の確保が課題となっていた。耐圧確保の方法として、特許文献1には、透過型放射線管において、電子の集束電極の陰極側の端部を管状側壁と陰極に挟んで固定し、かつ管状側壁と集束電極の間に隙間を作る構造により、管状側壁の沿面距離を稼いで耐圧を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2や非特許文献1には、反射型放射線管において、中間電位電極(中間電極)を設ける構造により耐圧を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−180660号公報
【特許文献2】特開2010−086861号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「カーボンナノ構造体を利用した可搬型X線源を開発」,産業技術総合研究所プレスリリース,2009年3月19日発表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献の技術において、更に耐圧を上げようとした場合、次のような課題があった。特許文献1の技術では、管状側壁の電位が、管状側壁の誘電率(場合によっては体積抵抗)によって場所毎に決まり、集束電極と管状側壁の内壁との距離によっては、集束電極と管状側壁の内壁との間で放電が発生する可能性があった。特許文献2や非特許文献1の技術では、中間電極が管状側壁の内壁面よりも内部空間へ突出しているため、中間電極の先端部や、中間電極と放射線管の内壁との境界部から電子放出し、中間電極と陽極との間で放電が発生する可能性があった。
【0007】
上記放電を抑制するために、発明者らは中間電極を適当に電位規定する考えに至ったが、中間電極を適当に電位規定した構造でさえ、中間電極−集束電極間、又は中間電極−電子源間で放電が発生する可能性があった。ここで放電が発生すると、中間電極の電位が急激に下がるなどし、管状側壁の帯電状態によっては、陽極と集束電極又は陰極との間の2次放電を誘発させる可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、中間電極と集束電極又は電子源との間で放電が発生した場合に、放電電流を低減することにより、この放電が引き金となって発生する2次放電を防止し、高耐圧化された放射線管及びそれを用いた放射線発生装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、電子放出部を有する電子銃構造体が接続された陰極と、該電子放出部から放出された電子の照射により放射線を発生するターゲットが設けられた陽極と、の間に、絶縁性の管状側壁が該電子銃構造体を囲んで配置された放射線管であって、
前記管状側壁には、前記管状側壁の中心軸方向の中間部に電位規定部材が設けられ、
前記電位規定部材は、電気抵抗部材又はインダクタを介して電位規定手段と電気的に接続され、前記陰極の電位よりも大きく、かつ前記陽極の電位よりも小さい電位に規定されることを特徴とする放射線管を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射線管の管状側壁の中心軸方向の中間部に電位規定部材を設け、電位規定部材を電気抵抗部材又はインダクタを介して電位規定手段と電気的に接続し、電位規定部材の電位を陰極の電位よりも大きく、かつ陽極の電位よりも小さい電位に規定する。電位規定部材と電位規定手段の間に電気抵抗部材又はインダクタを配置しているため、中間電極と集束電極又は電子源との間での放電が発生しにくい。また、中間電極と集束電極又は電子源との間で放電が発生した場合でも、電位規定部材から集束電極又は電子源に流れ込む放電電流を低減することができる。これにより、中間電極と集束電極又は電子源との間での放電が引き金となって発生する2次放電を防止することができる。よって、高耐圧化された放射線管、及び高エネルギー出力を可能とする放射線発生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の放射線管の例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の放射線管の別の例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の放射線管を用いた放射線発生装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の放射線管及び放射線発生装置の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但し、下記実施形態に記載されている構成部材の材質、寸法、形状、相対配置等は、特に記載がない限り、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0013】
図1に従い本発明の放射線管の構成を説明する。図1(a)(b)は本発明の実施形態を例示列挙し、これらの断面を模式的に示した図である。
【0014】
放射線管1は、陰極2、陽極3、及び絶縁性の管(以下、「管状側壁」)4からなる真空管である。
【0015】
陰極2には電子放出部を有する電子銃構造体5が接続されており、電子銃構造体5は陽極3に向かって突出させて設けられている。電子銃構造体5は主に電子源6、グリッド電極7、集束電極8からなる。
【0016】
電子源6は電子を放出する。電子源6には電子放出素子として冷陰極、熱陰極のいずれも用いることができるが、本実施形態の放射線管に適用する電子源としては、大電流を安定して取り出せる含浸型カソード(熱陰極)を好適に使用することができる。含浸型カソードは、電子放出部近傍のヒーターに通電することにより、カソードの温度を上昇させ、電子を放出する。
【0017】
グリッド電極7は、電子源6から放出された電子を真空中に引き出すために所定の電圧が印加される電極である。グリッド電極7は、電子源6と所定の距離を持って配置される。また、グリッド電極7の形状、孔径、開口率等は、電子の引き出し効率やカソード近傍の排気コンダクタンスを考慮して決定される。例えば線径50μm程度のタングステンメッシュを好適に使用することができる。
【0018】
集束電極8は、グリッド電極7によって引き出された電子線の広がり(=ビーム径)を制御するために配置される電極である。通常、集束電極8には数百V〜数kV程度の電圧が印加されてビーム径の調節を行う。電子源6近傍の構造や印加電圧によっては、集束電極8を省略し、電界によるレンズ効果のみによって電子線を集束することも可能である。
【0019】
陰極2は絶縁部材9を有する。絶縁部材9には電子源駆動用端子10とグリッド電極用端子11が、陰極2とは電気的に絶縁されるように固定されている。電子源駆動用端子10及びグリッド電極用端子11は、放射線管1内の電子源6及びグリッド電極7からそれぞれ陰極側に向かって延びており、放射線管1の外部へと引き出されている。集束電極8は直接陰極2に固定され、陰極2と同電位に規定されている。但し、集束電極8を陰極2と絶縁して、陰極2とは別の電位を与えられるようにしても良い。この場合、電子源6から放出された電子が効率良くターゲット12に照射されるような電位を適宜選ぶと良い。
【0020】
陽極3は、所定のエネルギーを有する電子線が照射されることにより、放射線を発生させるターゲット12を有する。この陽極3には数十kV〜百kV程度の電圧が印加される。電子源6により発生し、電子放出部から放出されグリッド電極7により引き出された電子線は、集束電極8により陽極3上のターゲット12へと向けられ、陽極3に印加された電圧により加速されて、ターゲット12と衝突し、放射線が発生する。発生した放射線は全方向に放射され、全方向に放射された放射線のうち、ターゲット12を透過した放射線が放射線管1の外部に取り出される。
【0021】
ターゲット12は、金属膜と金属膜を支持する基板からなる構成、又は金属膜のみからなる構成とすることができる。金属膜と金属膜を支持する基板からなる構成とする場合には、放射線を透過する基板の電子線照射面(電子銃構造体側の面)に、電子線の衝突により放射線を発生する金属膜を配置する。金属膜は、通常、原子番号26以上の金属材料を用いることができる。具体的には、タングステン、モリブデン、クロム、銅、コバルト、鉄、ロジウム、レニウム等、又はこれらの合金材料を用いた薄膜を好適に用いることができ、スパッタリング等の物理成膜によって緻密な膜構造をとるように形成される。金属膜の膜厚は、加速電圧によって電子線浸入深さ即ち放射線発生領域が異なるため、最適な値が異なるが、百kV程度の加速電圧を印加する場合には通常、数μm〜十μm程度の厚さである。一方、基板は、放射線の透過率が高く、熱伝導率が高く、真空封止に耐える必要があり、ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化アルミ、窒化アルミ、グラファイト、ベリリウム等を好適に用いることができる。放射線の透過率が高く、熱伝導率がタングステンよりも高い、ダイヤモンド、窒化アルミ、窒化ケイ素を用いるのがより好ましい。特に、ダイヤモンドは、他の材料に比べて熱伝導率が極めて高く、放射線の透過率も高く、真空を保持しやすいため、より優れている。基板の厚さは、上記の機能を満足すれば良く、材料によって異なるが、0.1mm以上2mm以下が好ましい。ターゲット12と陽極3の接合は、熱的接合の他、真空の維持を考慮し、ろう附けや溶接が好適である。
【0022】
管状側壁4は、ガラスやセラミック等の絶縁部材で形成され、陰極2と陽極3の間に、電子銃構造体5を囲んで配置される。管状側壁4の両端がそれぞれ陰極2及び陽極3とろう附けや溶接によって接合される。管状側壁4は、真空管を形成できれば良く、形状には制約は多くないが、小型化や作り易さの観点からすると円筒形が好ましい。放射線管1内の真空度を良くするために加熱排気を行う場合には、陰極2、陽極3、管状側壁4、及び絶縁部材9は熱膨張率が近い材料を用いるのが良い。例えば、陰極2及び陽極3にはコバールやタングステン、管状側壁4及び絶縁部材9にはホウケイ酸ガラスやアルミナを用いると良い。
【0023】
上述の放射線管では、陰極側に設置された電極の中で、集束電極8が最も管状側壁4の近くに配置されている。このような場合、管状側壁4と集束電極8の空間耐圧を上げることによって、放射線管1を更に高耐圧化させることができる。空間耐圧は、管状側壁4と集束電極8の間の電界強度を弱めれば達成できる。放射線管を大型化させずに電界強度を弱める手段として、管状側壁4の中心軸方向の中間部に電位規定部材13を設け、適当な電位に規定する。尚、以下、図1に従い集束電極8が有る場合について説明するが、集束電極8がない場合においても、電子銃構造体5をなす、例えばグリッド電極7に置き換えて適用できる。また、電子源6の形態によっては、グリッド電極7がない場合もあるが、そのような場合でも、他の電子銃構造体5の構成要素に置き換えて適用できる。
【0024】
電位規定部材13の電位は、集束電極8と電位規定部材13との間で放電が発生しないように規定するが、製造工程において発生したバリや異物の付着によって放電が発生する可能性がある。この時、電位規定部材13の電位が集束電極8の電位に短時間で近づき、管状側壁4の帯電状態によっては、陽極−集束電極間、又は陽極−陰極間の2次放電を誘発する可能性がある。この2次放電の誘発を防ぐために、電位規定部材13は電気抵抗部材14(図1(a))又はインダクタ15(図1(b))を介して電位規定手段と電気的に接続し、陰極2の電位よりも大きく、かつ陽極3の電位よりも小さい電位に規定するのが良い。電気抵抗部材14やインダクタ15によって、電位規定部材13と集束電極8との間で放電が発生した場合に、電位規定部材13から集束電極8に流れ込む放電電流を低減することができる。これにより、管状側壁4の帯電などによる近傍の2次放電を防止することができる。電気抵抗部材14やインダクタ15の配置方法は用途に応じて適宜選択すれば良い。代表的な方法を以下に述べる。
【0025】
第一の方法は、電気抵抗部材14やインダクタ15を放射線管1の外部に配置する方法である。この方法のメリットとしてはメンテナンス性の向上が挙げられる。万一放電した場合、電気抵抗部材14やインダクタ15は放電電流によってダメージを受けることがあるが、放射線管自体が不良品となる可能性は低くなる。よって、ダメージを受けた電気抵抗部材14やインダクタ15を交換することによって放射線発生装置としての劣化を防止できる。
【0026】
第二の方法は、図2に示すように、電気抵抗部材14を管状側壁4の壁厚方向に局部的に形成する方法である。この電気抵抗部材14の電位規定のために電位規定部材13とは別の電位規定部材16を配置するのが好ましい。例えば管状側壁4の内壁側に設けられた電位規定部材13と、管状側壁4の外壁側に設けられた別の電位規定部材16と、により電気抵抗部材14を挟むのが良い。第一の方法では、配線等で2次放電が発生する可能性があり、配置場所によっては電気回路にダメージを与える可能性がある。このような懸念がある場合においては第二の方法を選択する方が好ましい。
【0027】
この電気抵抗部材14の形成方法としては、図2に示すように、予め電気抵抗部材14を電位規定部材13と別の電位規定部材16で挟んだ部材を形成し、この部材と管状側壁4を溶接等で接続する方法が考えられる。
【0028】
この電気抵抗部材14の他の形成方法としては、まず、管状側壁4として絶縁性のセラミックを用い、管状側壁4の壁厚方向に、Cr、Fe等の金属元素を含有する導電性物質をドープするドーピングを実施する。そして、管状側壁4の一部分に酸化クロムや酸化鉄等が拡散して含有され局部的に低抵抗化させ、管状側壁4の部材に対して、相対的に低抵抗や高インダクタンスとして、所定の電気定数を有する領域を形成する方法が考えられる。この方法では、管状側壁4へのドーピングにより低抵抗化された領域が電気抵抗部材14になる。前述の低抵抗化した領域を挟んで管状側壁4の内壁側や外壁側に、電位規定領域を確定する電位規定部材として適当な電極を配置することも可能である。前述の低抵抗化した領域も、電位規定部材(前記電極)を配置する領域も、静電耐圧の観点からは、管状側壁4の中心軸方向における陰極2からの距離が同一な位置に、電子源6から見て管状側壁4の中心軸に対して点対称となるように配置されるのが好ましい。例えば管状側壁4の中心軸方向における陰極2からの距離が同一な位置に、環状に配置することもできるし、管状側壁4の中心軸方向における陰極2からの距離が同一な位置の複数個所に離散的に配置することもできる。
【0029】
ドーピング法は、内部が減圧され大気圧加重がかかる管状側壁4に、応力を集中させるようなトリミング部や、線膨張の異なる他の部材との界面を形成する事が無い為、製造工程の短縮化やローコスト化に加え、放射線管の強度信頼性においても好適な手法である。
【0030】
絶縁性のセラミックとしては、アルミナ、ジルコニア等を使用可能であり、室温の体積抵抗が1×106Ωm以上の絶縁性、又は比誘電率が20以下の誘電性を有する事が耐圧を確保する点で好ましい。絶縁性のセラミックからなる管状側壁4に対するドーピング方法としては、任意の方法が適用可能であるが、例えばバブルジェット(登録商標)方式、インクジェット方式、イオンプレーティング法、スパッタリング法、蒸着法等を適用可能である。ドーパントとしては、絶縁性の管状側壁4の壁厚方向に導電性を付与可能な材料であれば良い。例えばSb、Mg等の半金属、金属、金属酸化物を適宜適用可能である。熱的に安定で再現性の良い抵抗値を持つ点で、遷移金属又は遷移金属の酸化物が好ましく適用可能である。例えばFe、Ti、Y、Cr、Zr、Ru等、又はこれらの酸化物等を用いることが可能である。
【0031】
電気抵抗部材14又はインダクタ15の電気抵抗値は100kΩ以上であることが望ましい。100kΩ以上であれば放電電流を低減することができるが、より好ましくは1MΩ以上であれば放電電流をより一層効果的に低減可能である。インダクタ15又は電気抵抗部材14のインダクタンス値は10mH以上であることが望ましい。10mH以上であれば放電電流を低減することができるが、より好ましくは100mH以上であればより一層放電電流を効果的に低減可能である。
【0032】
上述のような放射線管1を用いて放射線発生装置17を作製することができる。図3に本発明の放射線管を用いた放射線発生装置の概略模式図を示す。放射線発生装置17は、筺体18の中に、放射線管1及び放射線管1と電気的に接続された電源回路19を収納してなる。筺体18には、放射線管1のターゲット12(不図示)の位置に合わせて放射線放射窓20を設けている。また、筺体18の中は絶縁油等の絶縁性流体21で満たされ、封止されている。放射線管1のうち、陰極2、陽極3、電子源駆動用端子10、グリッド電極用端子11及び電位規定部材13は電源回路19に接続され、適当な電位に規定される。図3では、電気抵抗部材14を介して電位規定部材13が電源回路19と電気的に接続された構成としている。電気抵抗部材14に替えてインダクタ15を設けても良い。電源回路19は、電位規定部材13の電位規定手段としての電圧源を有する(不図示)。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
本実施例は上記実施形態で例示された構成の一例であり、以下、図1(a)を用いて説明する。図1(a)は放射線管を管状側壁4の中心軸で割った切断面の模式図である。本実施例の放射線管1は、陰極2、陽極3、管状側壁4、電子銃構造体5、絶縁部材9、電子源駆動用端子10、グリッド電極用端子11、ターゲット12、電位規定部材13及び電気抵抗部材14からなる。尚、電子銃構造体5は、電子源6、グリッド電極7、集束電極8からなる。
【0034】
陰極2、陽極3及び電位規定部材13にはコバール、管状側壁4及び絶縁部材9にはアルミナを用い、溶接によって接合している。管状側壁4は円筒形とした。電子源6として含浸型カソードを用いた。このカソードは電子放出部(エミッタ)が含浸された円柱形状をしており、筒形のスリーブ上端に固定されている。スリーブ内にはヒーターが取り付けられており、このヒーターに電子源駆動用端子10より通電することによってカソードが加熱されて電子が放出される。電子源駆動用端子10は絶縁部材9にろう附けされている。
【0035】
ターゲット12は、板厚0.5mmのシリコンカーバイド基板上に膜厚5μmのタングステン膜を形成した構成とし、陽極3にろう附けされている。
【0036】
電子銃構造体5は、電子源6と、電子源6からターゲット12に向かってグリッド電極7と集束電極8を順に配置してなる。グリッド電極7はグリッド電極用端子11から通電され、電子源6から電子を効率良く引き出す。グリッド電極用端子11は電子源駆動用端子10と同様に絶縁部材9にろう附けされている。集束電極8は陰極2に溶接され、陰極2と同電位に規定される。集束電極8は、グリッド電極7によって引き出された電子ビームのビーム径を絞り、電子ビームを効率良くターゲット12に照射させる。
【0037】
陰極2、陽極3及び管状側壁4の外径はΦ60mm、内径はΦ50mm、集束電極8の外形はほぼ円柱でΦ25mmであり、それぞれの中心を合わせている。管状側壁4は中心軸方向の中間部に電位規定部材13を挟み2分されており、トータルの長さが70mmである。電位規定部材13は外径Φ60mm、内径Φ50mmで厚さが5mmのリングであり、陰極2から35mm(陽極3から30mm)の位置に接合されている。
【0038】
最後に、加熱しながら、陰極2に溶接された不図示の排気管から排気し、封止される。
【0039】
上記方法で、図1(a)の放射線管1を作製し、絶縁油中で高電圧印加を試みた。陰極2を接地し、陽極3を高圧電源に接続し、100kVまで昇圧した。電位規定部材13は、放射線管1の外部に配置した電気抵抗部材14を介して陽極3の電位の5分の1で連動するように規定した。電気抵抗部材14は100kΩとした。電気抵抗部材14を配置しない場合と比べて、100kVまでの累積放電回数は同等レベルであったが、電位規定部材13から集束電極8に流れ込む放電電流が抑制されたことを確認した。
【0040】
更に、上記放射線管1を用いて、図3に示す放射線発生装置17を作製した。電気抵抗部材14は上記同様100kΩとした。陰極2の電位は−50kV、陽極3の電位は50kVとし、電位規定部材13の電位を−30kVとし、作製した放射線発生装置17を用いて放射線を発生させたところ、放電による障害なく放射線を発生させることができた。
【0041】
[実施例2]
本実施例は実施例1とは異なり、図1(b)に示すように、電気抵抗部材14に替えてインダクタ15を配置した。
【0042】
この放射線管1において、インダクタ15は10mHとし、実施例1と同様の確認を行ったところ、実施例1と同様に、電位規定部材13から集束電極8に流れ込む放電電流が抑制された。
【0043】
更に、上記放射線管1を用いて作製した放射線発生装置17も、実施例1と同様に、放電による障害なく放射線を発生させることができた。
【0044】
[実施例3]
本実施例は実施例1とは異なり、図2に示すように、電気抵抗部材14が電位規定部材13と別の電位規定部材16とで挟まれるよう形成した。電気抵抗部材14として金属酸化物粒子を分散させた導電性のセラミックを用いた。このセラミックをリング状に加工し、管状側壁4の内壁側に電位規定部材13、管状側壁4の外壁側に別の電位規定部材16を接合した部材を予め用意し、管状側壁4と別の電位規定部材16を接合するように形成した。電気抵抗部材14は約1MΩとした。
【0045】
このように作製した放射線管1において、実施例1と同様の確認を行った。実施例1と比べて電気抵抗部材14の抵抗を大きくしたため、100kVまでの累積放電回数は同等レベルであったが、電位規定部材13から集束電極8に流れ込む放電電流がより抑制されたことを確認した。
【0046】
更に、上記放射線管1を用いて作製した放射線発生装置17も、放電による障害なく放射線を発生させることができた。
【0047】
[実施例4]
本実施例は、アルミナからなる管状側壁4の、実施例1で電気抵抗部材14を配置した領域に、陰極や陽極等の他の構成部材とアセンブリする前に、イオンプレーティング法とベーキング法により、酸化鉄をアルミナ中にドーピングして低抵抗化した領域を形成した。この低抵抗化した領域を電気抵抗部材14とし、この低抵抗化した領域を挟んで管状側壁4の内壁側と外壁側にそれぞれ電位規定部材13と別の電位規定部材16を環状に配置した。以上のようにして得られた管状側壁4の電位規定部材13と別の電位規定部材16との間の抵抗値を測定したところ、120kΩであった。
【0048】
このように作製した放射線管1において、実施例1と同様の確認を行った。実施例1と比べて電気抵抗部材14の抵抗を高くしたため、100kVまでの累積放電回数は同等レベルであったが、電位規定部材13から集束電極8に流れ込む放電電流がより抑制されたことを確認した。
【0049】
更に、上記放射線管1を用いて作製した放射線発生装置17も、放電による障害なく放射線を発生させることができた。
【符号の説明】
【0050】
1:放射線管、2:陰極、3:陽極、4:管状側壁、5:電子銃構造体、6:電子源、7:グリッド電極、8:集束電極、9:絶縁部材、10:電子源駆動用端子、11:グリッド電極用端子、12:ターゲット、13:電位規定部材、14:電気抵抗部材、15:インダクタ、16:別の電位規定部材、17:放射線発生装置、18:筺体、19:電源回路、20:放射線放射窓、21:絶縁性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出部を有する電子銃構造体が接続された陰極と、該電子放出部から放出された電子の照射により放射線を発生するターゲットが設けられた陽極と、の間に、絶縁性の管状側壁が該電子銃構造体を囲んで配置された放射線管であって、
前記管状側壁には、前記管状側壁の中心軸方向の中間部に電位規定部材が設けられ、
前記電位規定部材は、電気抵抗部材又はインダクタを介して電位規定手段と電気的に接続され、前記陰極の電位よりも大きく、かつ前記陽極の電位よりも小さい電位に規定されることを特徴とする放射線管。
【請求項2】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタは、前記放射線管の外部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線管。
【請求項3】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタは、前記管状側壁の内壁側に設けられた前記電位規定部材と、前記管状側壁の外壁側に設けられた別の電位規定部材と、により挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の放射線管。
【請求項4】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタは、前記管状側壁の局部に導電性物質が含有されている領域であることを特徴とする請求項3に記載の放射線管。
【請求項5】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタのいずれかの電気抵抗値は、100kΩ以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線管。
【請求項6】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタのいずれかの電気抵抗値は、1MΩ以上であることを特徴とする請求項5に記載の放射線管。
【請求項7】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタのいずれかのインダクタンスは、10mH以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線管。
【請求項8】
前記電気抵抗部材又は前記インダクタのいずれかのインダクタンスは、100mH以上であることを特徴とする請求項7に記載の放射線管。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の放射線管と、前記放射線管と電気的に接続された電源回路と、を少なくとも収納する筺体を備えることを特徴とする放射線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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