説明

放射線遮蔽構造

【課題】遮蔽構造構築に要するコスト低減を達成できる放射線遮蔽構造の提供を課題とする。
【解決手段】放射線源を収容する照射室2の放射線遮蔽構造において、鉄筋コンクリート造の壁構造躯体10の室内側に立設され放射線を遮蔽する壁遮蔽部材20と、壁構造躯体10の上部に構造的に一体形成された鉄筋コンクリート造の天井構造躯体30の上に敷設され放射線を遮蔽する天井遮蔽部材40と、を備え、壁遮蔽部材20の上端部に、室内側に突出する突出部21を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線利用施設における放射線投影面の放射線遮蔽構造に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線利用施設の照射室では、放射線源から放射線投影面に照射される放射線を遮蔽するため、壁や天井の照射面に鋼材などの遮蔽部材を埋設するようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2−173600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図6に示すように、従来の遮蔽構造51では、建屋躯体となる鉄筋コンクリート造躯体54の室内側または内部に、鋼や鉛などの金属等からなる遮蔽性の高い部材(以下、「遮蔽部材52」と称する)を設置し、この遮蔽部材52を支持するため、鉄筋コンクリート造躯体53を遮蔽部材52の室内側の面に別途設ける必要があった。このような遮蔽構造51では、建屋躯体の他に、前述の遮蔽部材52支持のための余分な鉄筋コンクリート造躯体53が必要となり、不経済であった。
【0004】
そこで、本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、遮蔽構造構築に要するコスト低減を達成できる放射線遮蔽構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、放射線源を収容する照射室の放射線遮蔽構造において、鉄筋コンクリート造の壁構造躯体の室内側に立設され放射線を遮蔽する壁遮蔽部材と、前記壁構造躯体の上部に構造的に一体形成された鉄筋コンクリート造の天井構造躯体の上に敷設され放射線を遮蔽する天井遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする放射線遮蔽構造である。
【0006】
本発明は、言い換えれば、壁構造躯体と天井構造躯体とで一体に構成された門型の構造躯体を形成し、その内側に壁遮蔽部材を設けるとともに、その上に天井遮蔽部材を壁遮蔽部材と分離して設けたものである。このように、壁遮蔽部材と天井遮蔽部材を分離して、天井遮蔽部材を天井構造躯体の上に載せれば、天井遮蔽部材を天井構造躯体で支持することができるので、遮蔽部材支持用の余分な鉄筋コンクリート造躯体が不要になる。したがって、遮蔽構造構築に要する材料、施工コストを削減できる。また、壁構造躯体と天井構造躯体とを構造的に一体形成しているので、これらを同時に施工することができ、施工手間の軽減が図れ、施工性の向上を達成できる。
【0007】
また、本発明は、前記壁遮蔽部材の上端部に、室内側に突出する突出部を形成したものが好ましい。突出部は、放射線源から直線的に放射される放射線が壁遮蔽部材、突出部または天井遮蔽部材のいずれかで遮蔽されるように形成される。このような構成によれば、天井遮蔽部材と壁遮蔽部材との離間距離が大きい場合でも、放射線を確実に遮蔽することができる。
【0008】
さらに、本発明は、前記天井遮蔽部材の端部に、前記壁遮蔽部材の外側表面よりも外方に延出する延出部を形成したものが好ましい。延出部は、放射線源から直線的に放射される放射線が壁遮蔽部材または、延出部を含む天井遮蔽部材で遮蔽されるように形成される。このような構成によれば、天井遮蔽部材と壁遮蔽部材との離間距離が大きい場合でも、放射線を確実に遮蔽することができる。
【0009】
また、本発明は、前記壁遮蔽部材の室内側にコンクリートにて形成され放射線の反射を防止する壁放射線反射防止層をさらに備えたものが好ましい。このような構成によれば、壁遮蔽部材が露出しないので、放射線の反射を防止できる。また、壁放射線反射防止層をコンクリートにて形成する場合でも、構造体とする必要はないので、配筋量の増加を抑えることができる。
【0010】
さらに、本発明は、前記天井遮蔽部材の上側に形成される天井打増しコンクリート層をさらに備えたものが好ましい。天井打増しコンクリート層は、上階に一般室がある場合や屋上設備がある場合に形成されるものである。このような構成によれば、天井遮蔽部材が露出しないので、放射線の散乱を低減できる。また、天井打増しコンクリートは、構造体とする必要はないので、配筋量の増加を抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遮蔽部材支持用の余分な鉄筋コンクリート造躯体を不要にすることができるので、遮蔽構造構築に要する材料、施工コストを削減できるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の第一の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、放射線源として高エネルギーリニアック(放射線治療器)3を収容する照射室2に形成される放射線遮蔽構造1を例に挙げて、その構成を説明する。
【0013】
図1乃至図3に示すように、高エネルギーリニアック3は、放射線発生装置4と治療台5とで構成されており、放射線発生装置4は、回転可能なガントリー部4aを備えており、ガントリー部4aに設けられた照射部Pから患者の患部に向けて放射線を照射する。照射部Pは、ガントリー部4aの回転中心Gに対向するように設けられている。照射部Pは、ガントリー部4aが回転することで、回転中心Gを中心とする移動軌跡L上を360度回転可能になっている。これによって、照射部Pは、回転中心Gに向かって全角度から放射線を照射できる。
【0014】
本発明に係る放射線遮蔽構造1は、放射線源である高エネルギーリニアック3を収容する照射室の内外を区画する構造であって、鉄筋コンクリート造の壁構造躯体10の室内側に立設され放射線を遮蔽する壁遮蔽部材20と、壁構造躯体10の上部に構造的に一体形成された鉄筋コンクリート造の天井構造躯体30の上に敷設され放射線を遮蔽する天井遮蔽部材40と、を備えたことを特徴とする。すなわち、壁構造躯体10と天井構造躯体30とで一体に構成された門型の構造体部を形成し、その内側に壁遮蔽部材20を設け、その上に天井遮蔽部材40を壁遮蔽部材20と分離して設けた構成となっている。さらに、壁遮蔽部材20の室内側に壁放射線反射防止層50が形成され、天井遮蔽部材40の上側に天井打増しコンクリート層60が形成されている。
【0015】
壁構造躯体10は、図1に示すように、壁横筋11と壁縦筋12がそれぞれ所定のピッチで配筋され、これらを覆うようにコンクリート13が所定厚さで打設されて形成されている。壁縦筋12は、その下端が地中梁70(照射室2が二階以上にある場合は下階の梁)内に挿入され、上端が上部の梁71に挿入されている。なお、図示しないが、地中梁70および梁71には、上端筋、下端筋やフープ筋等の鉄筋が配筋されている。壁構造躯体10の厚さは、放射線源から照射される放射線の強さと、壁遮蔽部材20の厚さおよび材質に応じて、適宜設定される。なお、放射線遮蔽性能から決まるコンクリート厚さは、構造的要求から決まるコンクリート厚さより十分に厚い。壁構造躯体10は、壁の厚さ方向に見て室外側に配置されており、壁遮蔽部材20が室内側に配置されるようになっている。
【0016】
壁遮蔽部材20は、図1および図2に示すように、高エネルギーリニアック3の側方の両側で、放射線の照射方向に位置する壁(放射線投影面)に配置されている。壁遮蔽部材20は、高エネルギーリニアック3の照射部Pから壁に向かって横向きに照射される放射線の照射方向先端部を覆うことができる水平長さに形成されている。壁遮蔽部材20は、鉄板を所定の厚さに積層して構成されているが、材質および形状はこれに限られるものではない。例えば、放射線の種類に応じて、ガンマ線遮蔽に有効な鉛製のプレートを用いたり、中性子遮蔽に有効なポリエチレン製、或いはボロン含有材のプレート等を用いたりしてもよい。遮蔽性の高い材質を用いると壁遮蔽部材20を薄く形成することができる。壁遮蔽部材20の厚さは、放射線源から照射される放射線の強さと、壁遮蔽部材20の材質に応じて、適宜設定される。
【0017】
壁遮蔽部材20は、必要に応じて建屋の床構造躯体、壁構造躯体10、天井構造躯体30にアンカーで固定したり、下部を床構造躯体に落としこんだりして転倒を防止するようにしてもよい。また、壁遮蔽部材20は、コンクリートに埋設することで、壁遮蔽部材20と一体的に仕上げてもよい。
【0018】
壁遮蔽部材20は、図1に示すように、下端が床面より下側に位置され、上端が天井面と略同等の高さに位置されている。壁遮蔽部材20の上端部には、照射室2の室内側に突出する突出部21が形成されている。突出部21は、壁遮蔽部材20の長さ方向(図1の紙面表裏方向)の全長に亘って形成されている。突出部21は、所定厚さの鉄板を積層して構成されており、平板状の鉄板の上端に接合されている。なお、突出部21の材質は、スチールに限定されるものではなく、例えば、放射線の種類に応じて、ガンマ線遮蔽に有効な鉛を用いたり、中性子遮蔽に有効なポリエチレン製、或いはボロン含有材等を用いたりしてもよい。また、突出部21は、平板状の壁遮蔽部材20と一体で形成してもよい。突出部21は、その室内側先端の上端部と照射部Pとを結んだ直線の延長線(図1中、一点鎖線にて示す)が後述する天井遮蔽部材40に交差するように、突出寸法が設定されている。これによって、照射部Pから壁方向または天井方向に照射された放射線は必ず壁遮蔽部材20、突出部21または天井遮蔽部材40のいずれかに当ることとなり、確実に遮蔽される。特に、壁遮蔽部材20と天井遮蔽部材40の隙間部分においても、放射線は、図1中、一点鎖線にて示すように、天井遮蔽部材40に当って、外部に漏れることはない。
【0019】
天井構造躯体30は、図1に示すように、それぞれ格子状に配置された上端筋31と下端筋32が所定のピッチで配置され、これらを覆うようにコンクリート33が所定厚さで打設されて形成されている。上端筋31と下端筋32は、その端部が上部の梁71に挿入されている。天井構造躯体30の厚さは、放射線源から照射される放射線の強さと、天井遮蔽部材40の厚さおよび材質に応じて、適宜設定される。天井構造躯体30は、壁構造躯体10の上部に構造的に一体形成されており、壁構造躯体10の構築後にコンクリートが打設されて形成されている。天井構造躯体30は、壁遮蔽部材20の上端を覆うように形成されている。
【0020】
このような構成によって、壁構造躯体10と天井構造躯体30が一体化されて断面門型を呈し、その内側に、一対の壁遮蔽部材20が所定の間隔を隔てて互いに対向するように配置されることとなる。
【0021】
天井遮蔽部材40は、互いに対向する壁遮蔽部材20,20間の空間の上部を覆うように、天井構造躯体30上に敷設されており、壁遮蔽部材20に対して、所定の間隔を空けて上方に配置されるようになっている。天井遮蔽部材40は、天井の放射線投影面を覆うように配置されている。天井遮蔽部材40は、天井構造躯体30にアンカー(図示せず)で固定されている。なお、天井遮蔽部材40は、天井構造躯体30に落とし込んで天井構造躯体30に固定するようにしてもよい。なお、天井遮蔽部材30はコンクリートに埋設して仕上げてもよい。
【0022】
天井遮蔽部材40は、所定厚さの長方形状を呈しており、鉄板を所定の厚さに積層して構成されている。なお、天井遮蔽部材40の材質および形状はこれに限られるものではない。例えば、例えば、放射線の種類に応じて、ガンマ線遮蔽に有効な鉛を用いたり、中性子遮蔽に有効なポリエチレン製、或いはボロン含有材等を用いたりしてもよい。天井遮蔽部材40の厚さは、放射線源から照射される放射線の強さと、天井遮蔽部材40の材質に応じて、適宜設定される。天井遮蔽部材40は、短辺部が壁遮蔽部材20の水平方向長さと同じ長さあって、平面視して、短辺部が下方の壁遮蔽部材20の外側表面と重なる大きさとなっている。また、天井遮蔽部材40は、その長辺部が隣り合う梁71,71の離間距離より短く、これら梁71,71の間に配置可能となっている。なお、壁遮蔽部材20の突出部21の突出寸法を長くすれば、天井遮蔽部材40の長辺部の長さを短くすることが可能となる。
【0023】
壁放射線反射防止層50は、壁遮蔽部材20の室内側にコンクリートにて形成されている。壁放射線反射防止層50は、放射線が壁遮蔽部材20で室内へ反射するのを防止するために設けられている。壁放射線反射防止層50は、コンクリートを100mm〜1000mm程度の厚さで打増しして形成された打増しコンクリートにて構成されている。壁放射線反射防止層50には、コンクリートの割れや剥離を防止するための鉄筋またはメッシュシート(図示せず)が設けられている。なお、剥離防止用の鉄筋は、構造用として配筋されていないので、配筋量が少なくて済む。壁放射線反射防止層50は、壁構造躯体10と同時打設施工してもよいし、壁構造躯体10の構築後に後打ち施工してもよい。
【0024】
なお、壁放射線反射防止層50は、通常のコンクリートではなく、低放射化コンクリートを用いてもよい。低放射化コンクリートを用いれば、コンクリートが中性子線を浴びたときに起こるコンクリートの放射化を低減することができるので好ましい。低放射化コンクリートを採用する場合は、壁放射線反射防止層50は、壁構造躯体10の構築後に後打ち施工される。
【0025】
天井打増しコンクリート層60は、天井遮蔽部材40の上面が露出するのを防止するために設けられている。天井打増しコンクリート層60は、特に上階に一般室がある場合に形成されるものである。天井打増しコンクリート層60は、コンクリートを100mm〜1000mm程度の厚さで打増しして形成されている。天井打増しコンクリート層60には、コンクリートの割れや剥離を防止するための鉄筋またはメッシュシート(図示せず)が設けられている。なお、剥離防止用の鉄筋は、構造用として用いられてないので、配筋量が少なくて済む。天井打増しコンクリート層60は、天井構造躯体30の構築後に後打ち施工される。
【0026】
以上のような構成の放射線遮蔽構造1によれば、壁遮蔽部材20と天井遮蔽部材40とが分離されて形成されているので、従来の遮蔽構造(図6参照)のように鉄板(壁遮蔽部材および天井遮蔽部材)の内外でコンクリートの構造体部が分割形成されることはない。したがって、壁遮蔽部材20の室外側の片面のみに壁構造躯体10を形成すればよく、また、天井遮蔽部材40の下側の片面のみに天井構造躯体30を形成すればよい。これによって、遮蔽部材支持用の余分な鉄筋コンクリート造躯体が不要になる。したがって、遮蔽構造構築に要する施工手間の軽減が図れるとともに、材料、施工コストを削減できる。
【0027】
また、壁遮蔽部材20と天井遮蔽部材40が分離して設けられているので、その荷重を分散してバランスよく効率的に負担できる。これによって、壁構造躯体10および天井構造躯体30の配筋量およびコンクリート量をさらに低減でき、施工コストを低減できる。
【0028】
さらに、壁構造躯体10と天井構造躯体30とを構造的に一体形成しているので、これらを同時に施工することができ、施工手間の軽減が図れ、施工性の向上を達成できる。
【0029】
また、本実施形態では、壁遮蔽部材20の室内側に壁放射線反射防止層50を設けたことによって、壁遮蔽部材20が露出しないので、放射線の室内側への反射を防止できる。また、壁放射線反射防止層50をコンクリートにて形成する場合でも、コンクリートの割れや剥離を防止できる程度の鉄筋またはメッシュシートを設ければよく、壁放射線反射防止層50を構造体とする必要はないので、配筋量の増加を抑えることができる。
【0030】
さらに、壁放射線反射防止層50が薄くて済む場合は、遮蔽部材支持用の余分な鉄筋コンクリート造躯体が不要になるとともに、必要な室内寸法に対して、壁面から近い位置に壁遮蔽部材20を配置することができる。これによって、互いに対向する壁遮蔽部材20,20間の距離を短くすることができ、上方に配置される天井遮蔽部材40の寸法を小さくすることができるので、高エネルギーリニアック3の場合の放射線遮蔽効率がよく、コンパクト化が可能となる。したがって、天井遮蔽部材40の重量を低減でき、天井構造躯体30に作用する荷重が低減されるとともに、天井遮蔽部材40自体の製造コストも低減できる。
【0031】
次に、本発明を実施するための最良の第二の形態について、図4および図5を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
本実施形態に係る放射線遮蔽構造1’は、壁の室外側部分に形成される鉄筋コンクリート製の壁構造躯体15と、この壁構造躯体15の室内側に立設される壁遮蔽部材25と、壁構造躯体15の上部に構造的に一体形成された鉄筋コンクリート製の天井構造躯体35と、この天井構造躯体35上に敷設される天井遮蔽部材45と、を備えている。また、本実施形態では、壁遮蔽部材25の室内側および室外側の両方に、打増しコンクリート層55が形成されている。壁遮蔽部材25の両側の打増しコンクリート層55のうち、壁遮蔽部材25の室内側部分55aが壁放射線反射防止層の役目を果たしている。さらに、天井遮蔽部材45の上側に、天井打増しコンクリート層65が形成されている。
【0033】
壁構造躯体15は、図4に示すように、壁横筋11と壁縦筋12がそれぞれ所定のピッチで配筋され、これらを覆うようにコンクリート13が所定厚さで打設されて形成されている。壁構造躯体15は、構造的な強度を備えるための配筋量と厚さを備えて構成されており、第一実施形態の壁構造躯体10(図1参照)よりも薄く形成されている。なお、壁構造躯体15は、柱16(図5参照)と一体で形成されている。
【0034】
壁遮蔽部材25は、鉄板を所定の厚さに積層して構成されている。なお、壁遮蔽部材25の材質および形状はこれに限られるものではない。本実施形態の壁遮蔽部材25には、第一実施形態のような突出部は形成されておらず、下端から上端にかけて平坦な表面が形成されている。壁遮蔽部材25は、壁構造躯体15の室内側表面から所定の間隔を隔てて立設されている。壁遮蔽部材25は、下端が床面より下側に位置され、上端が天井面と略同等の高さに位置されている。
【0035】
打増しコンクリート層55は、図4および図5に示すように、壁遮蔽部材25の室内側および室外側の両方に形成されている。打増しコンクリート層55は、第一実施形態の壁放射線反射防止層50(図1参照)と同様に、通常のコンクリートで形成してもよいし、低放射化コンクリートで形成してもよい。壁放射線反射防止層の役目を果たす打増しコンクリート層55の室内側部分55aには、コンクリートの割れや剥離を防止するための鉄筋またはメッシュシート(図示せず)が設けられている。打増しコンクリート層55に設けられる鉄筋は、割れや剥離防止のためのものであって構造用ではないので、配筋量が少なくて済む。打増しコンクリート層55は、壁構造躯体15と同時打設施工してもよいし、壁構造躯体15の構築後に後打ち施工してもよい。
【0036】
一方、打増しコンクリート層55のうち、壁遮蔽部材25の室外側部分55bは、壁遮蔽部材25の室外側におけるコンクリートを厚くする役目を果たしている。すなわち、本実施形態の壁構造躯体15の厚さでは、天井構造躯体35や天井遮蔽部材45等を支持することはできるものの、放射線遮蔽性能が不足する。そこで、壁遮蔽部材25の室外側でも、壁構造躯体15との間に打増しコンクリート層55を形成することによって、室外側部分55bと壁構造躯体15とが合わさって、必要な放射線遮蔽性能を得ることができるコンクリート厚さを確保するようになっている。なお、打増しコンクリート層55の室外側部分55bは、無筋でもよい。
【0037】
なお、壁遮蔽部材25が配設されていない部分では、図5に示すように、打増しコンクリート層55は、室内側部分55aと壁遮蔽部材25と室外側部分55bとを合わせた厚さと同等の厚さに形成されている。
【0038】
天井構造躯体35は、図4に示すように、それぞれ格子状に配置された上端筋31と下端筋32が所定のピッチで配置され、これらを覆うようにコンクリート33が所定厚さで打設されて形成されている。天井構造躯体35は、上端が平坦に形成されている。
【0039】
天井遮蔽部材45は、天井構造躯体35上に敷設されており、壁遮蔽部材25に対して、所定の間隔を空けて上方に配置されるようになっている。天井遮蔽部材45は、所定厚さの長方形状を呈しており、鉄板を所定の厚さに積層して構成されている。天井遮蔽部材45の短辺部は、壁遮蔽部材25の水平方向長さと同じ長さである。また、天井遮蔽部材45の長辺部は、対向する壁遮蔽部材25,25の外側表面間の距離よりも長い。すなわち、天井遮蔽部材45の長手方向両端には、下方の壁遮蔽部材25の外側表面よりも外方に延出する延出部45a,45aが形成されている。延出部45aは、照射部Pと、壁遮蔽部材25の室内側上端部とを結んだ直線の延長線(図4中、一点鎖線にて示す)が必ず延出部45aに交差するように、延出寸法が設定されている。これによって、照射部から壁方向または天井方向に照射された放射線は必ず壁遮蔽部材25または天井遮蔽部材45のいずれかに当ることとなり、確実に遮蔽される。特に、壁遮蔽部材25と天井遮蔽部材45の隙間部分においても、放射線は、図4中、一点鎖線にて示すように、天井遮蔽部材45の延出部45aに当って、外部に漏れることはない。
【0040】
天井打増しコンクリート層65は、天井遮蔽部材45の上面が露出するのを防止するために設けられている。天井打増しコンクリート層65は、上階に一般室がある場合や屋上設備がある場合に形成されるものである。このような構成によれば、天井遮蔽部材45が露出しないので、放射線の散乱を低減できる。また、天井打増しコンクリートは、構造体とする必要はないので、配筋量の増加を抑えることができる。天井打増しコンクリート層65には、コンクリートの割れや剥離を防止するための鉄筋またはメッシュシート(図示せず)が設けられている。なお、天井遮蔽部材45が配設されていない部分では、天井打増しコンクリート層65は、天井遮蔽部材45とその上部の天井打増しコンクリート層65とを合わせた厚さと同等の厚さに形成されている。
【0041】
本実施形態では、照射室2の下階に一般室が設けられている場合を示しているが、その場合は、床面も、放射能遮蔽性能が必要となる。したがって、床スラブ17内に床遮蔽部材80が設けられている。
【0042】
床スラブ17は、図示しない上端筋と下端筋が所定のピッチで配置され、これらを覆うようにコンクリートが所定厚さで打設されて形成されている。床スラブ17では、床構造躯体81の上部に床遮蔽部材80を設置している。床遮蔽部材80は、床構造躯体81にアンカーで固定したり、床に落としこんだりして固定する。また、仕上げ等の必要性に応じて床遮蔽部材80はコンクリートに埋設しても良い。床遮蔽部材80は所望の放射線遮蔽性能を得られる厚さに形成されている。
【0043】
床遮蔽部材80は、所定厚さの矩形形状を呈しており、鉄板を所定の厚さに積層して構成されている。床遮蔽部材80の短辺部(図4の紙面表裏方向に延長する辺)は、壁遮蔽部材25の水平方向長さと同じ長さである。また、床遮蔽部材80の長辺部(図4の紙面左右方向に延長する辺)は、対向する壁遮蔽部材25,25の外側表面間の距離よりも長い。すなわち、床遮蔽部材80の長手方向両端には、上方の壁遮蔽部材25の外側表面よりも外方に延出する延出部80a,80aが形成されている。延出部80aは、図示しない照射部Pと、壁遮蔽部材25の室内側下端部とを結んだ直線の延長線(図示せず)が必ず延出部80aに交差するように、延出寸法が設定されている。なお、床遮蔽部材80は、天井遮蔽部材45よりも壁遮蔽部材25の近くに配置されているので、延出部80aの延出寸法が、天井遮蔽部材45の延出部45aよりも短くて済む。以上のような構成によって、照射部から壁方向または床方向に照射された放射線は必ず壁遮蔽部材25または床遮蔽部材80のいずれかに当ることとなり、確実に遮蔽される。
【0044】
以上のような構成の放射線遮蔽構造1’によれば、第一実施形態と同様の作用効果の他に、壁構造躯体15を薄く出来るので、施工手間および施工コストの低減が図れるといった作用効果が得られる。また、本実施形態の放射線遮蔽構造1’によれば、下階への放射線遮蔽性能も得ることができる。
【0045】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、壁や天井の遮蔽部材は、放射線源を囲うように、壁および天井の一部に埋設されているが、これに限定されるものではない。放射線源の出力が大きい場合、および放射線の投影面が多方向に亘る場合には、部屋全体に壁遮蔽部材、天井遮蔽部材および床遮蔽部材を設けるようにしてもよい。さらに、放射線源は、高エネルギーリニアックに限定されるものでなく、照射面を形成する全ての放射線治療装置において適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る放射線遮蔽構造を実施するための最良の第一の形態を示した鉛直方向断面図である。
【図2】本発明に係る放射線遮蔽構造を実施するための最良の第一の形態を示した水平方向断面図である。
【図3】本発明に係る放射線遮蔽構造を実施するための最良の第一の形態を示した鉛直方向断面図である。
【図4】本発明に係る放射線遮蔽構造を実施するための最良の第二の形態を示した鉛直方向断面図である。
【図5】本発明に係る放射線遮蔽構造を実施するための最良の第二の形態を示した水平方向断面図である。
【図6】従来の放射線遮蔽構造を示した鉛直方向断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 放射線遮蔽構造
2 照射室
3 高エネルギーリニアック(放射線源)
10 壁構造躯体
20 壁遮蔽部材
21 突出部
30 天井構造躯体
40 天井遮蔽部材
50 壁放射線反射防止層
60 天井打増しコンクリート層
1’ 放射線遮蔽構造
15 壁構造躯体
25 壁遮蔽部材
35 天井構造躯体
45 天井遮蔽部材
45a 延出部
55 打増しコンクリート層
65 天井打増しコンクリート層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源を収容する照射室の放射線遮蔽構造において、
鉄筋コンクリート造の壁構造躯体の室内側に立設され放射線を遮蔽する壁遮蔽部材と、
前記壁構造躯体の上部に構造的に一体形成された鉄筋コンクリート造の天井構造躯体の上に敷設され放射線を遮蔽する天井遮蔽部材と、を備えた
ことを特徴とする放射線遮蔽構造。
【請求項2】
前記壁遮蔽部材の上端部に、室内側に突出する突出部を形成した
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽構造。
【請求項3】
前記天井遮蔽部材の端部に、前記壁遮蔽部材の外側表面よりも外方に延出する延出部を形成した
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線遮蔽構造。
【請求項4】
前記壁遮蔽部材の室内側にコンクリートにて形成され放射線の反射を防止する壁放射線反射防止層をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の放射線遮蔽構造。
【請求項5】
前記天井遮蔽部材の上側に形成される天井打増しコンクリート層をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の放射線遮蔽構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−151617(P2010−151617A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330157(P2008−330157)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】