説明

放射線障害軽減剤

【課題】 本発明は、放射線の被爆により発生する造血抑制、臓器の繊維化、遺伝的な影響、皮膚の萎縮、老化の促進、更には、癌の発生を低減乃至抑制することができ、且つ、生体に投与しても安全な放射線障害軽減剤及びこの放射線障害軽減剤を配合した組成物を提供することを課題とするものである。
【解決手段】 α−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸を有効成分として含有する放射線障害軽減剤及びこの放射線障害軽減剤を配合した組成物を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線障害軽減剤及びその用途、より詳細には、α−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸(以下、「アスコルビン酸2−グルコシド」という。)を有効成分とする新規な放射線障害軽減剤及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、地球上に生活している人々は、放射線に被曝する機会は少ない。しかしながら、原子力発電所の作業者、X線技師などのように、放射線作業に従事している人々は、一般人よりも多量の放射線による被曝を受けている。また、一般人であっても、人体に影響がない程度であるといわれているものの、宇宙線や地殻からの放射線、すなわち、自然放射線による被曝を受けている。近年、オゾンホールの発生により地上に到達する宇宙線量の増加や、X線やγ線を利用した医療検査や癌などの治療により、一般人においても放射線被曝量が次第に増えつつあり、その悪影響が危惧されている。また、原子力発電所の事故により、不意に大量の放射線に被曝する危険性も増大している。大量の放射線による被曝は、細胞の機能障害や死滅を引き起こし、その結果、人体において、造血抑制、免疫能の低下、神経組織の死滅、消化管からの出血、生殖機能の低下をはじめとする多臓器不全、さらには、脱毛、皮膚のびらん、臓器の繊維化、皮膚の萎縮なども引き起こすといわれている。また、このような放射線障害が発生しない程度の比較的少量の放射線被曝であっても、それが累積されることにより、老化の促進、癌の発生率の増加、及び、子孫への遺伝的な影響に結びつくことが指摘されている。
【0003】
放射線障害を軽減する目的で、種々の放射線障害防護剤が提案されているものの(例えば、特開平6−145057号公報又は特開平10−72356公報を参照)、実用化されていないものも多く、また、実用化されていても、安全性や有効性の面で問題があるものも多い。したがって、有効かつ安全な、放射線障害軽減剤のさらなる開発が強く望まれている。また、これらとは別に、本発明者らは、アスコルビン酸2−グルコシドが、熱や酸化に対して優れた安定性を示すことを開示した(例えば、特許第2832848号公報参照)ものの、これらの特許文献には、アスコルビン酸2−グルコシドが放射線障害を軽減する作用を有することは、何ら記載も示唆もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、様々な放射線障害を軽減することを目的として、生体に投与しても安全な放射線障害軽減剤及びその用途を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決する目的で、種々の研究を行った結果、アスコルビン酸2−グルコシドが、放射線障害を軽減する効果に優れていることを新たに見いだした。また、それを配合した組成物についても放射線障害を軽減する効果が発揮されることを確認することにより、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、有効成分としてアスコルビン酸2−グルコシドを含有する放射線障害軽減剤及びその用途を提供することにより、前記課題を解決するものである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明で使用するアスコルビン酸2−グルコシドは、アスコルビン酸の2位の炭素の位置にグルコース1分子が結合したものであり、その由来や製法に制限はなく、発酵法、酵素法、有機合成法などにより製造されたものでもよいし、市販されているアスコルビン酸2−グルコシドを購入して使用することも随意である。アスコルビン酸2−グルコシドの製造方法としては、例えば、特許第2832848号公報に開示されているように、アスコルビン酸とデキストリンなどの澱粉質との混合溶液に、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼなどのα−グリコシル糖転移酵素を作用させて、アスコルビン酸を配糖化し、さらにグルコアミラーゼを作用させることにより製造することができる。また、これをイオン交換樹脂などを使用して精製し、共存するアスコルビン酸やデキストリンを除去して、高純度のアスコルビン酸2−グルコシドを調製することができる。本発明の放射線障害軽減剤に使用するアスコルビン酸2−グルコシドは、固形物換算で、アスコルビン酸2−グルコシドを、望ましくは90質量%(以下、本明細書では特に断らない限り、「質量%」を単に「%」と表記する。)以上含有しているものが使用され、95%以上のものがさら望ましく、97%以上のものが特に望ましい。また、医薬部外品や医薬品のように、ビタミンをはじめとするアスコルビン酸との反応性の高い有効成分を高濃度に含有するものや、アミノ酸やタンパク質などのメーラード反応を起こしやすい成分を含有する飲食品に配合する場合には、アスコルビン酸2−グルコシドの純度が98%以上の結晶品が特に望ましい。
【0007】
本発明の放射線障害軽減剤の組成物への配合量については、当該組成物を摂取乃至投与(以下、摂取或いは投与をまとめて「投与」という場合がある)した場合に、放射線障害軽減作用を発揮できる量であれば、特に制限はなく、通常、組成物中に、アスコルビン酸2−グルコシドを、通常0.01乃至100w/w%好ましくは0.1乃至100w/w%、さらに好ましくは1乃至100w/w%配合する。
【0008】
また、本発明の放射線障害軽減剤は、他の放射線障害の軽減作用を有する成分と併用してもよい。そのような成分としては、ビタミンE、ビタミンAなどのテルペン類又はその誘導体、カテキン、エピガロカテキンなどのカテキン類又はその誘導体、ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンなどのフラボノイド類又はその誘導体などのラジカルスカベンジャー効果を有する成分が挙げられ、それらの1種又は2種以上を組合せて使用することもできる。なお、テルペン類、カテキン類及び/又はフラボノイド類として、これらの成分を含む植物体或いは水、アルコール、有機溶媒などを用いた植物体の抽出物や、これらの成分を含有するプロポリスなどを使用することも随意である。
【0009】
本発明において、放射線障害軽減用の組成物に配合する放射線障害軽減剤は、その形状を問わず、例えば、液状、シラップ、マスキット、ペースト、粉末、固状、半固状、顆粒、錠剤などの何れの形状であってもよく、必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、液剤、乳剤、懸濁剤、シラップ剤、ペースト、顆粒剤、粉末剤、錠剤など各種剤型で使用することも随意である。
【0010】
本発明の放射線障害軽減剤は、目的の組成物が完成するまでの工程で、或いは、完成品に対して、含有せしめればよく、その具体的な方法としては、例えば、混和、混捏、溶解、融解、分散、懸濁、乳化、浸透、晶出、散布、塗布、付着、噴霧、被覆(コーティング)、注入、浸漬、固化、逆ミセル化などの1種又は2種以上の方法の組み合わせが適宜に選ばれる。
【0011】
本発明の放射線障害軽減剤、或いは、これを配合した組成物は、主に、日常生活において放射線に被曝する可能性のあるヒトに対して使用され、とりわけ、放射線を扱う医療施設、工業目的での放射線使用施設、原子力発電所、核廃棄物の処理施設や原子炉を搭載している艦船、その他の放射線源を有する機器や設備を有する施設の従事者やこれらの近隣の作業者、X線による医療検査の受診者、癌などにより放射線治療を受ける患者、航空機の乗員や乗客、さらには、放射線源の取扱いミス、放射線物質の誤飲、原子炉事故、核爆発や劣化ウラン弾の使用などの核関連の事故、実験や戦争の被災者などの放射線障害の予防や軽減の目的に有利に使用することができる。また、家畜、家禽、ペット、魚類、軟体動物、甲殻類などのヒト以外の動物にも使用できる。また、本発明の放射線障害軽減剤、或いは、これを配合した組成物は、その有効成分であるアスコルビン酸2−グルコシドを、ヒトや動物の生体内に摂取乃至投与できる方法であれば、何れの方法で投与してもよく、例えば、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内や血管内(点滴や灌流も含む)及び/又は筋肉内への投与、更には、経口や、経胃・経腸、経鼻、経肺、経直腸、経膣などの経粘膜、点眼、外用(経皮)などの非経口の投与方法を適宜選択することができる。
【0012】
したがって、本発明の放射線障害軽減剤は用法や用量に応じて、例えば、公知の製剤学的製造法に準じた方法(第十三改正日本薬局方、USP24など)により、有効成分であるアスコルビン酸2−グルコシドを、単独で、或いは、これに加えて、製剤学的及び薬理学的に許容される、医薬品、医薬部外品或いは皮膚外用剤用の製剤用担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、安定剤、増量剤、湿潤化剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、矯味剤、矯臭剤、香料、保存剤、溶解補助剤、溶剤、被覆剤、糖衣剤などの添加剤とともに使用される。また、グルコース、マルトースなどの還元性糖質、α,α−トレハロース、α−グルコシルα,α−トレハロースやα−マルトシルα,α−トレハロースをはじめとするα,α−トレハロースの糖質誘導体、国際公開WO 02/10361明細書或いは特願2004−174880号明細書に記載の環状四糖、サイクロデキストリンなどの非還元性糖質、キシリトール、マルチトールなどの糖アルコール、高甘味度甘味料、水溶性多糖類、無機酸、有機酸、塩類、乳化剤、エリソルビン酸、クロロゲン酸又はこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上と併用することも随意である。また、さらに必要であれば、公知の着色料、着香料、保存料、酸味料、旨味料、甘味料、安定剤、増量剤、アルコール類、水溶性高分子、キレート剤、酸化防止剤、褐変防止剤、異味・異臭の防止剤などの1種又は2種以上を適量を混合し、製剤化したものを用いて組成物の形態で利用することが可能である。また医薬上許容される不活性な単体または希釈剤及び/又は他の薬理作用物質との混合物とすること、リポソームなどに封入した形態や投薬量単位形とすることも随意である。
【0013】
本発明の放射線障害軽減剤を配合した組成物について、具体的に説明すると、溶液剤である場合は、蒸留水や、生理的食塩水、リンゲル液などの水溶性製剤、又はゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油などの油性溶剤を用いて、常套手段により調製される。
【0014】
この際、所望により、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの溶解補助剤;クエン酸ナトリウムなどの緩衝剤;グリセリンなどの保湿剤;ブドウ糖などのなど張化剤;ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなどの安定剤;ベンジルアルコール、フェノールなどの保存剤;塩化ベンザルコニウム、酢酸プロカインなどの無痛化剤などの添加剤を用いることもできる。
【0015】
本発明の放射線障害軽減剤は、非経口投与剤として用いる場合には、必要に応じて、適宜の滅菌方法により無菌化したり、血液に対して等張液としたり、パイロジェンフリーとしてもよい。
【0016】
経口投与のための組成物としては更に、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、噴霧剤などが挙げられる。かかる組成物自体は公知の方法によって製造され、担体もしくは賦形剤として、乳糖、マンニトール、澱粉、セルロース、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
【0017】
非経口投与のためには、たとえば注射剤、坐剤、貼付剤、点眼剤、外用剤などとして用いられる。注射剤は、通常適当なアンプルに充填される。坐剤としては例えば、直腸坐剤、膣坐剤などが挙げられ、外用剤としては例えば、軟膏、経鼻投与剤、経皮投与剤などが挙げられる。
【0018】
外用剤として用いる場合には、公知の方法に従い、本発明の組成物を固状、半固状または液状の外用剤とすることができる。例えば、上記固状のものとしては本発明の組成物をそのままで、あるいは、賦形剤、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル重合体など)などを添加混合して粉状の組成物とする。液状のものとして用いる場合には、油性あるいは水性懸濁剤などとする。半固形状の場合は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものが望ましい。
【0019】
また、これらの外用剤はいずれも、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節液やパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤などを加えてもよい。坐剤として用いる場合には、公知の方法に従い、本発明の組成物を油性または水性の固状、半固状、あるいは液状形態とすることも有利に実施できる。
【0020】
また、本発明の放射線障害軽減剤を配合した組成物が、化粧品や医薬部外品の場合には、通常、上記成分やその他の化粧品、医薬部外品に使用される原料と共に配合してクリーム、ローション、乳液、ジェル、ハップ剤などの皮膚外用剤として利用することができる。なお、アスコルビン酸2−グルコシドを化粧品に配合する場合、高分子物質と中和剤と併用した場合、オリ、着色及び/又は異臭が発生する場合があるこのような場合、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール−60水添ヒマシ油などの1種又は2種を配合すればよい。また、アスコルビン酸2−グルコシドと併用する高分子物質としては、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのアニオン系高分子、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの非イオン系高分子、アクリル酸/アクリル酸アルキル共重合体などの合成高分子をはじめとするアルキル化されたカルボキシビニルポリマー、ビニルピロリドン/スチレン共重合体などの高分子の何れか1種又は2種以上が望ましい。また、エチレンジアミン四酢酸3ナトリウムなどのキレート剤、クエン酸緩衝液、エタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムやL−アルギニンなどの中和剤の使用により、アスコルビン酸2−グルコシドを配合した化粧品や医薬部外品の安定化と着色の抑制をはかることができる。
【0021】
本発明の放射線障害軽減剤を配合した組成物が飲食品、飼料、餌料、或いは、ペットフードの場合には、通常の飲食品、飼料、餌料、或いは、ペットフードに、必要量の本発明の放射線障害軽減剤を配合すればよい。
【0022】
これらの組成物の投与量・投与方法は、対象とするヒトや動物の体重、年齢、症状、剤形、投与形態、投与期間、被曝の状況などにより適宜調整されるが、通常成人一回当たり、望ましくは、アスコルビン酸2−グルコシドとして0.01〜100g、さらに望ましくは0.1〜5gを、1〜数回/日の割合で行うのが望ましい。また、投与の期間については、アスコルビン酸2−グルコシドは、生体に投与すると、酵素的にアスコルビン酸とグルコースとに分解される安全な物質であることから、毎日或いは1〜数日/週で継続して利用してもよい。また、航空機への搭乗、健康診断や病理検査の際のX線検査や、癌などの放射線治療などのように、日常の放射線の被曝量よりも多くの放射線を短時間に被曝することがあらかじめわかっている場合は、照射を受ける直前に、投与すれば高い効果が期待できる。なお、本発明の放射線障害軽減剤は、放射線の被曝の前及び/又は後に投与した何れの場合でも放射線障害軽減効果が望めるものの、放射線を被曝した直後に投与した場合、最も高い軽減効果を得ることができる。また、事故や装置の操作ミスなどにより大量の放射線を被曝した場合には、経口投与よりも、皮膚に塗布したり、血管内や筋肉内に投与する方が、高い治療効果を得ることができる。
【0023】
以下、実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0024】
<実験>
一定線量以上のX線を照射されたマウスは、細胞の機能障害や死滅が起こり、造血抑制や免疫能の低下などが進行し、消化管からの出血をはじめとする多臓器不全や感染症により死に至ることが知られている。そこで、このマウスのX線被曝に対するアスコルビン酸2−グルコシドの効果を以下の方法にて検討した。即ち、アスコルビン酸2−グルコシド(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)を生理食塩水(大塚製薬株式会社販売)に溶解し、アスコルビン酸2−グルコシドを100mg/ml含有する試験液を調製し、生理食塩水を対照液として使用した。また、実験には、何れも、1群につき10週齢のC3H系マウスの雌(体重22〜25g)10匹を使用した。試験液或いは対照液は、その0.2mlをマウスの腹腔内に投与した。X線照射には、医療用のX線照射装置を使用した。
【0025】
<実験1>
試験液の前投与群(X線照射120分前に試験液を投与し、照射10分後に対照液を投与)、試験液の前後投与群(X線照射120分前および10分後に試験液を投与)、対照液投与群(X線照射120分前および10分後に対照液を投与)に分け7GyのX線を照射した。最初のX線照射後、30日、60日目に同様の条件でX線照射と試験液或いは対照液の投与を行い、その後30日目まで、最初のX線照射から10日目ごとの生存マウス数(匹)をカウントして、その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、アスコルビン酸2−グルコシドを配合した試験液投与群では生理食塩水を投与した対照液投与群に比較して有意に生存率が高く延命効果が認められ、アスコルビン酸2−グルコシドの放射線障害軽減作用が示された。また、試験液を、X線照射の前後で投与した試験液の前後投与群の方が、試験液の前投与群よりも生存率が高いことが確認された。
【0028】
<実験2>
X線を被曝したマウスの死因の一つとして挙げられる造血抑制に対するアスコルビン酸2−グルコシドの効果を調べる実験を、マウスの脾細胞のコロニー形成能を指標として、以下のように行った。即ち、試験液の前投与群(X線照射120分前に試験液を投与し、照射10分後に対照液を投与)、試験液の後投与群(X線照射120分前に対照液を投与し、照射10分後に試験液を投与)、試験液の前後投与群(X線照射120分前および10分後に試験液を投与)、および対照液投与群(X線照射120分前および10分後に対照液を投与)に分けX線(5Gy)を照射した。その9日後に開腹し、幹細胞に対する試験液の放射線障害軽減作用を、脾細胞を用いたコロニー法(放射線生物学実習書編集委員会編、放射線生物学実習、第116−118頁、講談社サイエンティフィック)により検討した。なお結果は、各群の脾コロニーの形成数をカウントし、脾コロニー形成率(%)を対照液投与群のマウスの脾コロニー数の平均値を100とする相対値として求め、表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2から明らかなように、アスコルビン酸2−グルコシドを含有する試験液投与群は、生理食塩水を投与した対照液投与群に比べて、脾コロニー形成率が上昇し、アスコルビン酸2−グルコシドの脾細胞(幹細胞)に対する放射線障害軽減作用が確認された。なお、試験液投与群間で比較すると、試験液の前後投与群の脾コロニー形成率が最も高く、次いで試験液の後投与群が高く、試験液の前投与群が最も低かった。
【0031】
以上の実験結果から、アスコルビン酸2−グルコシドは、放射線の被曝により発生する細胞の機能障害や死滅、造血抑制や免疫能の低下などの進行や、消化管からの出血をはじめとする多臓器不全や感染症の発生症などの放射線障害の軽減作用があり、放射線障害の予防や治療に有効であると判断した。
【0032】
以下、実施例を挙げて更に詳しく本発明について説明するが、本発明がこれら実施例に限定を受けないことはいうまでもない。
【実施例1】
【0033】
<放射線障害軽減剤>
アスコルビン酸2−グルコシド(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)5質量部と含水結晶α,α−トレハロース5質量部(医薬用、株式会社林原生物化学研究所販売)とを、0.05Mリン酸緩衝生理食塩水90質量部に溶解し、常法によりpHを7.2に調整後、膜により除菌し5mlずつアンプルに封入して、パイロジェンフリーの放射線障害軽減用注射剤を調製した。
【実施例2】
【0034】
<放射線障害軽減用錠剤>
アスコルビン酸2−グルコシド(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)20質量、乳糖10質量部、乳酸カルシウム10質量部、ステアリン酸マグネシウム25質量部、炭酸カルシウム5質量部を混合した後、常法により、打錠機にて打錠し、直径約8mm、重量約200mgの放射線障害軽減用錠剤を製造した。
【実施例3】
【0035】
<放射線障害軽減用顆粒剤>
アスコルビン酸2−グルコシド(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)20質量、含水結晶α,α−トレハロース5質量部(医薬用、株式会社林原生物化学研究所販売)10質量部、乳酸カルシウム10質量部、ステアリン酸マグネシウム25質量部、炭酸カルシウム5質量部を混合した後、噴霧造粒法を用いて、25〜50メッシュの放射線障害軽減用顆粒剤を製造した。
【実施例4】
【0036】
<放射線障害軽減用カプセル剤>
アスコルビン酸2−グルコシド(試薬級、株式会社林原生物化学研究所販売)50質量、乳酸カルシウム20質量部、ステアリン酸マグネシウム20質量部、炭酸カルシウム10質量部、グルコシルルチン(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名「アルファグルコシルルチン」)5質量部を混合し、これを0.5gずつゼラチンカプセルに封入し、放射線障害軽減用カプセル剤を製造した。
【実施例5】
【0037】
<放射線障害軽減用軟膏>
含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、商品名「トレハ」)200質量部及びマルトース300質量部を混合し、これに、ヨウ素3質量部を溶解したメタノール50質量部を加えて混合し、更に、プルランの10%(W/V)水溶液200質量部を加えて混合して軟膏を得た。本品は、適度の延びと付着性を有する、使用感に優れた、放射線障害軽減用軟膏である。
【実施例6】
【0038】
<放射線障害軽減用化粧クリーム>
モノステアリン酸デカグリセリル1.2質量部、モノミリスチン酸デカグリセリル1.8質量部、ステアリルアルコール0.5質量部、ベヘニルアルコール3質量部、バチルアルコール1質量部、パルミチン酸セチル1質量部、ステアリン酸グリセリル1.8質量部、脂肪酸(C10−30)(コレステリル/ラノステリル)2質量部、パルミチン酸イソプロピル4質量部、スクワラン5質量部、ミリスチン酸オクチルドデシル5質量部、マカデミアンナッツ油0.5質量部、トリオクタノイン1.8質量部、ジメチコン0.3質量部を混合し、これに、ブチレングリコール6質量部、ペンチレングリコール2.5質量部、濃グリセリン12質量部、ポリクオタニウム−51 0.25質量部、クエン酸(1%水溶液)1質量部、国際公開WO 02/10361号明細書に記載の環状四糖5含水結晶1質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名「AA2G」)5質量部、精製水43.5質量部を混合したものと、グルコシルルチン(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名「アルファグルコシルルチン」)1質量部を精製水5質量部に溶解したものとを混合して、常法により、化粧クリームを調製した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付した放射線障害軽減用化粧クリームとして使用することができる。
【実施例7】
【0039】
<放射線障害軽減用ハップ剤>
カルボキシメチルセルロース4質量部、ポリアクリル酸ナトリウム5質量部、グリセリン22質量部、カオリン10質量部、ニカゾールTS−620(日本カーバイト社販売)6質量部、ハッカ油0.3質量部、セフソール(日光ケミカルズ社製)0.3質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名「AA2G」)3質量部、精製水49.4質量部を混合して、常法により、ハップ剤を調製した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付した放射線障害軽減用ハップ剤として使用することができる。
【実施例8】
【0040】
<放射線障害軽減用パン>
フランスパン用小麦粉100質量部、冷凍用イースト5質量部、α,α−トレハロースの糖質誘導体含有シラップ(株式会社林原商事販売、商品名「ハローデックス」)3質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)1質量部、食塩2質量部、モルトエキス0.3質量部、イーストフード0.1質量部、少量の乳化剤、水65質量部を混捏し、小分けしてロール状に成形した。これを、28℃、湿度75%で80分間発酵させた後、20分間焼成してフランスパンを製造した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しいパンである。
【実施例9】
【0041】
<放射線障害軽減用クッキー>
小麦粉45質量部、植物性タンパク質8質量部、マーガリン6質量部、コーンスターチ6質量部、膨張剤0.7質量部、乳化剤0.3質量部、水25質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)3質量部、砂糖5質量部、適量のビタミン及びミネラルを加えて全量を100質量部とし、常法によりクッキーを調製した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しいクッキーである。
【実施例10】
【0042】
<放射線障害軽減用チョコレート>
カカオマス15質量部、カカオ脂21質量部、含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原は商事販売、商品名「トレハ」)44質量部、レシチン1質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)1質量部、全脂粉乳19質量部を使用して、常法に従い、まずカカオマス、カカオ脂、α,α−トレハロース、レシチン、全脂粉乳、アスコルビン酸2−グルコシドをミキサーで混合し、リファイニングおよびコンチング終了後、テンパリング工程において均質化した。その後、型流し・冷却工程を経て板チョコレートを作製した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しいチョコレートである。
【実施例11】
【0043】
<放射線障害軽減用ガム>
ガムベース20質量部、砂糖55質量部、ブドウ糖12質量部、含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、商品名「トレハ」)5質量部、水飴5質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)2質量部、軟化剤1質量部、色素微量、香料2部を使用して、常法により、ガムベースをニーダーに入れ、約120℃にて溶解攪拌し、50℃まで温度を下げた後に混合機に投入した。混合機に移されたガムベースに上記成分を砂糖、ブドウ糖、α,α−トレハロース、水飴、アスコルビン酸2−グルコシド、軟化剤、色素、香料の順で投入し、同温度で45分間攪拌した。よく混合した後、射出成型器に入れブロック状に押し出し、更にロールにかけて徐々に圧延し、裁断機により細断した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しいガムである。
【実施例12】
【0044】
<放射線障害軽減用飴>
水飴17質量部、水60質量部、砂糖20部、練乳1質量部、バター2質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)2質量部、バニラエッセンス適量、砂糖、水飴および水を鍋に加えて煮沸し、煮沸温度が125℃に到達した後に攪拌しながら練乳とアスコルビン酸2−グルコシドを加えた。その後、攪拌しながら更に煮沸し、煮沸温度が130℃に達した後にバターを加えた。引き続き煮沸を行い、温度が130℃に到達した後、火から下ろしバニラエッセンスを添加した。その後攪拌を行い冷却盤に流し込んだ。温度を約80℃まで下げた後、棒状にして適当な長さに切断した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しい飴である。
【実施例13】
【0045】
<放射線障害軽減用飲料>
ブドウ糖果糖液糖3質量部、含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、商品名「トレハ」)4質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)4質量部、グリコシルヘスペリジン(株式会社林原生物化学研究所販売、商品名「アルファグルコシルヘスペリジン」)1質量部、ミネラル・調味料適量、酸味料2質量部、香料適量、水92質量部の配合を使用し、300mlの精製水を70℃に加熱し、これに少量のミネラル、調味料および酸類を加えて攪拌・混合した。これにトレハロース、ブドウ糖果糖液糖、アスコルビン酸2−グルコシドおよび1500ml精製水を加えて攪拌・溶解した。ポアサイズ1μmのフィルターで濾過し、さらに適量の精製水を加えて最終製品約3000mlに液量調整し、少量の香料を加えて攪拌した。中間タンクでブリックスおよび酸度調整を施し、85℃に達するまで加熱し、80℃にて缶または瓶に充填した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる美味しい飲料である。
【実施例14】
【0046】
<放射線障害軽減用栄養ドリンク>
アミノ酸混合物として、イソロイシン4質量部、ロイシン6質量部、リジン8質量部、フェニルアラニン8質量部、チロシン1質量部、トリプトファン12質量部、バリン8質量部、アスパラギン酸1質量部、セリン1質量部、アミノ酢酸8質量部、アラニン8質量部、ヒスチジン2質量部、アルギニン8質量部、スレオニン2質量部、メチオニン1質量部の混合物を調製し、水に溶解して1%溶液を調製し、これにオレンジ果汁を2%、α,α−トレハロースの糖質誘導体含有シラップ(株式会社林原商事販売、商品名「ハローデックス」)2質量部、アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原商事販売、商品名「アスコフレッシュ」)2質量部を添加した栄養ドリンクを調製した。本品は、放射線障害の軽減のために用いられるものである旨の表示を付して放射線障害軽減に使用することができる風味のよい栄養ドリンクである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
アスコルビン酸にグルコースが等モル結合した、アスコルビン酸2−グルコシドを有効成分とする本発明の放射線障害軽減剤は、生体に経口的或いは非経口的に投与することにより、放射線の被曝に起因する火傷、細胞の機能障害や死滅、造血抑制、免疫能の低下神経組織の死滅や消化管からの出血をはじめとする多臓器不全、さらには、脱毛、皮膚のびらん、臓器の繊維化、遺伝的影響、皮膚の萎縮、老化の促進、癌の発生などの放射線障害を効果的に軽減することができる。また、これらの放射線障害に伴う下痢、悪心、嘔吐、食欲不振、発熱などの種々の臨床症状を改善することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1日当たりの摂取量として0.01乃至100gのα−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸を有効成分として含有し、α−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸による酸味を緩衝するに足る量のクエン酸ナトリウムを緩衝剤として含有する、X線又はγ線による放射線障害を軽減するための液状の経口用剤。
【請求項2】
本質的に、1日当たりの摂取量として0.01乃至100gのα−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム、非還元性糖質、高甘味度甘味料、及び水からなる、X線又はγ線による放射線障害を軽減するための液状の経口用剤。
【請求項3】
1日当たりの摂取量として0.01乃至100gのα−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸を有効成分として含有し、さらに非還元性糖質及び高甘味度甘味料を含有する、X線又はγ線による放射線障害を軽減するための顆粒状の経口用剤。

【公開番号】特開2012−121914(P2012−121914A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48534(P2012−48534)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【分割の表示】特願2006−536426(P2006−536426)の分割
【原出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】