説明

放射能汚染検査装置および放射能汚染検査方法

【課題】コストの増加を抑制しつつ、放射線検出装置の検出面を大面積化しても、バックグラウンド計数を低減できるようにする。
【解決手段】放射能汚染検査装置に、放射線検出器と放射線入射位置測定手段8と検出領域設定手段15と放射能算出部16とを備える。放射線検出器は、陰極である第1の電極2内の空間を線状に延びる抵抗性電極である第2の電極3を備えている。放射線入射位置測定手段8は、放射線検出器から伝達される第2の電極3の両端の信号強度の比から第2の電極3が延びる方向の放射線入射位置を求める。検出領域設定手段15は、2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する。放射能算出部16は、検出領域毎に設定されたバックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染検査装置および放射能汚染検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの放射線管理区域内から一般区域への放射能汚染を防止する目的で、退域する人間やその衣服類、搬出する工具類などの汚染検査に、体表面モニタや物品搬出モニタなどの放射能汚染検査装置が用いられる。これら放射能汚染検査装置には、大面積のプラスチック母材のシンチレータを備えた放射線検出器などが搭載されている。
【0003】
一方、平成17年度に経済産業省からガイドライン(NISA−161b−05−2)が発信された。このガイドラインで、放射線管理区域内から外に出す非放射性物質の放射能汚染判定を行う測定機器の性能について、放射能面密度の検出下限値が4Bq/cmから0.8Bq/cm60Coβ線)へ変更された。この値が、今後の搬出基準となることが予想される。
【0004】
一般に検出面積を大きくしていくと、方式に寄らず検出面積に比例して自然放射線(宇宙線など)の反応確率が高まる。このため、必然的にバックグラウンド計数が増加し、前述した放射能面密度の検出下限値:0.8Bq/cm60Coβ線)を確保することが困難となる。
【0005】
たとえば特許文献1には、バックグラウンドの低減技術が開示されている。この技術は、平板状のシンチレータを2枚重ねて配置し、その1層目および2層目のシンチレータの厚さの合計を対象放射線の飛程とし、1層目および2層目のシンチレータの信号の同時計数を行うことでバックグラウンドを低減する。しかし、この方法では、複雑な集光構造に加えて高価な光電子増倍管の使用数が増加するため、従来よりも高コストになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−13250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射線検出装置の検出面を大面積化すると、バックグラウンド計数が大きくなり、感度を高めることが困難である。バックグラウンド計数の低減のためにシンチレータを重ねて設けると、集光構造が複雑化し、また、高価な光電子増倍管の使用数が増加するため、従来よりも高コストになってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、コストの増加を抑制しつつ、放射線検出装置の検出面を大面積化しても、バックグラウンド計数を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明は、放射能汚染検査装置において、線状に延びる抵抗性電極を備えた放射線検出器と、前記放射線検出器から伝達される前記抵抗性電極の両端の信号強度の比から前記抵抗性電極が延びる方向の放射線入射位置を求める放射線入射位置測定手段と、2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する検出領域設定手段と、前記検出領域毎に設定されたバックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する放射能算出部と、を有すること特徴とする。
【0010】
また、本発明は、放射能汚染検査方法において、線状に延びる抵抗性電極を備えた放射線検出器で放射線を検出して、前記放射線検出器から伝達される前記抵抗性電極の両端の信号強度の比から前記抵抗性電極が延びる方向の放射線入射位置を求める放射線入射位置測定工程と、2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する検出領域設定工程と、前記検出領域毎に設定されたバックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する放射能算出工程と、を有すること特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コストの増加を抑制しつつ、放射線検出装置の検出面を大面積化しても、バックグラウンド計数を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態におけるブロック図である。
【図2】本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態における位置検出の方法を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態における検出領域設定手段が設定する検出領域の例を示す図である。
【図4】本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態における検出領域設定手段が設定する検出領域の他の例を示す図である。
【図5】本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態において図4に示した例の検出領域設定手段を用いた場合の放射線の検出頻度数の例を示すグラフである。
【図6】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態の一部のブロック図である。
【図7】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態における検出領域の設定方法を放射線検出頻度数と陽極長さ方向位置検出領域との関係の例を示すグラフとともに模式的に示す図である。
【図8】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態における位置検出分解能と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【図9】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態におけるバックグラウンド計数率と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【図10】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態における計数効率と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【図11】本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態における検出下限と検出領域の分割数nとの関係を示すグラフである。
【図12】本発明に係る放射能汚染検査装置の第3の実施の形態の一部のブロック図である。
【図13】本発明に係る放射能汚染検査装置の第3の実施の形態における検出領域のチャネルの設定を模式的に示す図である。
【図14】本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態における放射線検出器の平面図である。
【図15】本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態における放射線検出器の変形例の平面図である。
【図16】本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態における放射線検出器の他の変形例の平面図である。
【図17】本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態において図16に示す放射線検出器によって検出される放射線検出頻度数と陽極の長さ方向位置との関係を示す図である。
【図18】本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態において図16に示す放射線検出器によって検出される放射線検出頻度数と仕切られた空間それぞれを貫通する陽極の長さ方向位置との関係を示す図である。
【図19】本発明に係る放射能汚染検査装置の第5の実施の形態の一部のブロック図である。
【図20】本発明に係る放射能汚染検査装置の第5の実施の形態における放射線検出頻度数と波高値との関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る放射能汚染検査装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る放射能汚染検査装置の第1の実施の形態におけるブロック図である。
【0015】
本実施の形態の放射能汚染検査装置は、放射線入射位置検出装置を備えている。放射線入射位置検出装置は、高圧電源4、前置増幅器5、波形整形器6、AD変換器7、信号演算処理部9、ピーク比較処理部10、入射位置演算処理部11、表示処理部12、および、放射線検出器を備えている。この放射線検出器は、たとえば直方体に形成されたガス電離式などの放射線検出器であって、第1の電極2と、第2の電極3とを備えている。放射線検出器には、たとえばアルミ蒸着膜あるいはチタン膜などの遮光性を有しβ線の計測を対象とした放射線入射窓1が形成されている。第1の電極2は、たとえば金属などの導電性の物質で形成されている。第1の電極2の内空間には、たとえばPRガスなどが封入されている。
【0016】
第2の電極3は、電気抵抗を持つ、たとえば細径のワイヤーである。第2の電極3は、第1の電極2の内空間を貫通して、放射線入射窓1に平行に延びている。第2の電極3は、第1の電極と電気的に絶縁されている。
【0017】
第2の電極3の両端は、高圧電源4に接続されている。第2の電極3と高圧電源4との接続部の一方は、前置増幅器5を挟んで波形整形器6に接続されている。第2の電極3と前置増幅器5との間には、図示しないカップリングコンデンサが設けられている。また、第2の電極3と高圧電源4との他方の接続部は、他の高圧電源4を介して他の波形整形器6に接続されている。これら2つの波形整形器6は、2つのAD変換器7にそれぞれ接続されている。
【0018】
2つのAD変換器7は、2つの信号演算処理部9にそれぞれ接続されている。2つの信号演算処理部9は、ピーク比較処理部10に接続されている。ピーク比較処理部10は、入射位置演算処理部11に接続されている。2つの信号演算処理部9、1つのピーク比較処理部10および1つの入射位置演算処理部11を、まとめて放射線入射位置測定手段8と呼ぶ。入射位置演算処理部11は、表示処理部12と接続されている。
【0019】
第2の電極3は、第1の電極2に対して正の電圧が印加される。つまり、第1の電極2は陰極となり、第2の電極3は陽極となる。また、第2の電極3の両端間には、高圧電源4によって高電圧が印加される。
【0020】
この状態で、放射線入射窓1から放射線が入射すると、第1の電極2の内空間に封入されたガス分子がイオン化して電子を放出する。この電子は、第1の電極2と第2の電極3との間に生じた電場によって加速されながら、陽極である第2の電極3に向かって移動する。その結果、放射線が入射した部位の第2の電極3には、電荷が生じる。カップリングコンデンサを介して接続された前置増幅器5は、発生した電荷を電気信号に置き換えて出力する。
【0021】
図2は、本実施の形態における位置検出の方法を模式的に示す図である。図2中、Lは、第2の電極3の長さ、xは第2の電極3の一方の端部から電荷発生位置までの長さ、RaおよびRbは第2の電極3のそれぞれの端部から電荷発生位置までの抵抗を示す。
【0022】
電荷発生位置xと第2の電極3の長さLとの関係は、放射線入射位置xを挟んで両側の抵抗値RaおよびRbとを用いて、L/x=(Ra+Rb)/Rbと表される。第2の電極3の両端のそれぞれに生じる電荷の大きさは、電荷発生位置からそれぞれの端部までの抵抗値と比例関係にある。このため、第2の電極3の両端のそれぞれに生じた電荷の量から、電荷発生位置x、すなわち放射線の入射位置を求めることができる。
【0023】
波形整形器6は、前置増幅器5の出力した信号が所定の時定数となるように波形成形する。波形整形器6で波形成型された信号は、AD変換器7でデジタル信号に置き換えられる。
【0024】
放射線入射位置測定手段8の信号演算処理部9は、ディスクリミネータを備えていて、AD変換器7で置き換えられたデジタル信号から信号とノイズの弁別を行い、信号のピーク検出と、ピーク位置に対する時間上方を取得し、時間遅延処理を施してピーク領域に時間ゲートを設定する。ピーク比較処理部10は、時間ゲートで信号のピーク値を比較し、その差分値を頻度分布として計測する。入射位置演算処理部11は、この頻度分布の値に基づき、放射線の入射位置を演算処理によって同定する。同定された放射線の入射位置は、表示処理部12で表示処理される。
【0025】
また、本実施の形態の放射能汚染検査装置において、放射線入射位置測定手段8の後段には、検出領域設定手段15が設けられている。検出領域設定手段15は、放射線入射位置測定手段8に接続された窓走査部20と、窓走査部20に接続された窓設定部19とを有している。
【0026】
検出領域設定手段15の後段には、放射能算出部16が接続されている。放射能算出部16は、検出領域設定手段15で設定した検出領域の放射能を算出する。
【0027】
放射能算出部16には、バックグラウンド計数記憶部13と、計数効率係数記憶部14と、放射能汚染判定部17とが接続されている。放射能汚染判定部17には、表示処理部18が接続されている。放射能汚染判定部17は、放射能算出部16が算出した放射能の値から放射能汚染の有無を判定する。放射能算出部16が算出した放射能の値、および、放射能汚染判定部17による放射能汚染の有無の判定結果は、表示処理部18によって表示される。
【0028】
図3は、本実施の形態における検出領域設定手段が設定する検出領域の例を示す図である。
【0029】
検出領域設定手段15は、第2の電極3の軸方向に対して、たとえば位置検出分解能と等しい幅の検出領域を並べて設定する。
【0030】
図4は、本実施の形態における検出領域設定手段が設定する検出領域の他の例を示す図である。図5は、図4に示した例の検出領域設定手段を用いた場合の放射線の検出頻度数の例を示すグラフである。
【0031】
この例において、窓設定部19は、位置検出分解能と等しい幅の窓を設定する。また、窓走査部20は、第2の電極3の軸方向に対して窓を走査する。このような検出領域設定手段15は、窓を所定の移動幅で走査する。この際、窓の1回の移動量は、窓の幅よりも小さく、たとえば位置検出分解能の幅の50%以下に設定する。それぞれの検出領域での放射線の計数は、移動平均法を用いて求める。また、位置検出分解能は、放射線を測定して得られた頻度分布のスペクトル半値幅と定義する。この走査によって、図5に示すように、バックグラウンドと区別し難く、ピーク検出が困難となる僅かな有意領域を定量的に検出できる。
【0032】
このような放射能汚染検査装置では、位置検出分解能の幅に応じて検出領域を信号処理で複数に分割する。分割した検出領域の数をnとした場合、バックグラウンド計数率は1/nで定義されるので、バックグラウンド計数率を著しく低減することができる。その結果、放射線検出装置の検出面を大面積化しても、バックグラウンド計数を著しく低減させることができ、高感度かつ低コストの放射能汚染検査装置を提供できる。
【0033】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明に係る放射能汚染検査装置の第2の実施の形態の一部のブロック図である。
【0034】
本実施の形態の放射能汚染検査装置は、第1の実施の形態と検出領域設定手段15の構成が異なる。本実施の形態の検出領域設定手段15は、ピーク検出部21と検出領域設定部22と位置検出分解能記憶部23とを備えている。ピーク検出部21は、放射線入射位置測定手段8と接続されている。検出領域設定部22は、ピーク検出部21と接続されている。位置検出分解能記憶部23は、検出領域設定部22と接続されている。また、放射能算出部16は、検出領域設定部22と接続されている。
【0035】
ピーク検出部21は、測定によって得られた頻度分布のピークを検出してその位置情報を取得する。検出領域設定部22は、ピーク検出部21が検出した位置のピーク点を中心として幅、すなわち抵抗性電極が延びる方向の長さが、位置検出分解能と等しい検出領域を設定する。
【0036】
図7は、本実施の形態における検出領域の設定方法を放射線検出頻度数と陽極長さ方向位置検出領域との関係の例を示すグラフとともに模式的に示す図である。
【0037】
本実施の形態では、たとえば図7に示すように、ピーク検出部21が検出した頻度分布のピーク点を中心点として位置検出分解能と等しい幅の検出領域が設定される。位置検出分解能は、検出領域の中央域と周辺域で異なる場合がある。
【0038】
図8は、本実施の形態における位置検出分解能と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【0039】
図8に示すように位置検出分解能が検出領域の中央域と周辺域で異なる場合、検出領域の所定位置に対する位置検出分解能を取得しておく。さらに、たとえば図8に示すような関数フィッティングを行う。得られた関数曲線は、位置検出分解能として位置検出分解能記憶部23に記憶する。検出領域設定部22は、位置検出分解能記憶部23からピーク位置に対応する位置検出分解能を取得し、その位置検出分解能に基づいて検出領域を設定する。通常、位置検出分解能は検出領域の中央域が最良であって中央域から離れるにつれて広がる傾向があるため、位置検出分解能の関数フィッティングとして多項式のフィッティングを用いることができる。
【0040】
図9は、本実施の形態におけるバックグラウンド計数率と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【0041】
第2の電極3の長さ方向に対するバックグラウンドの頻度分布は、放射線入射位置測定手段8のピーク比較処理部10の出力から求められる。得られた頻度分布は、たとえば図9に示すような多項式などの関数でフィッティングする。この関数曲線は、バックグラウンド係数として、バックグラウンド係数記憶部13に記憶される。校正された放出数の放射線を放射線入射窓1の複数の所定位置に順次入射させて、ピーク比較処理部10の出力から第2の電極3の長さ方向に対する頻度分布を計測する。ここで得られた頻度分布に対して、バックグラウンド計数率Nbおよび放射線放出数Ncから、計数効率EffをEff=(Ng−Nb)/Ncにより換算する。
【0042】
図10は、本実施の形態における計数効率と陽極長さ方向位置との関係の例を示すグラフである。
【0043】
換算された計数効率は、たとえば図10に示すように多項式などの関数でフィッティングする。この関数曲線は、計数効率係数記憶部14に計数効率係数として記憶される。
【0044】
図11は、本実施の形態における検出下限と検出領域の分割数nとの関係を示すグラフである。
【0045】
たとえば放射線を測定して得られた頻度分布のスペクトルを正規分布と仮定した場合、検出領域の幅は面積当たりのバックグラウンド(cps)と感度(cps/Bq)により、図11に示す特性を有する。検出下限は、検出領域の分割数nが大きくなると一端小さくなった後大きくなっていく。つまり、検出下限は、検出領域の分割数nが所定の範囲にあることが好ましい。平成17年度に経済産業省から出されたガイドライン(NISA−161b−05−2)に示される検出下限の放射能面密度である0.8Bq/cmを目標ラインとし、検出下限をこの目標ライン以下とするためには、上記検出領域の幅を位置検出分解能値の0.9倍〜2.9倍の範囲で設定する。
【0046】
このような放射能汚染検査装置でも、放射線検出装置の検出面を大面積化しても、バックグラウンド計数を著しく低減させることができ、高感度かつ低コストの放射能汚染検査装置を提供できる。
【0047】
[第3の実施の形態]
図12は、本発明に係る放射能汚染検査装置の第3の実施の形態の一部のブロック図である。
【0048】
本実施の形態の放射能汚染検査装置は、検出領域移動手段24、2つの放射線検出器29、被検体搬送機30および被検体情報記録部33を有している。検出領域移動手段24は、放射線入射位置測定手段8の後段に設けられている。
【0049】
検出領域移動手段24は、チャネルシフト部27、搬送機制御部25、被検体情報記憶部26、計測値補正処理部28、計数効率係数記憶部14およびバックグラウンド計数記憶部13を備えている。チャネルシフト部27は、放射線入射位置測定手段8に接続されている。搬送機制御部25、被検体情報記憶部26および計測値補正処理部28は、チャネルシフト部27に接続されている。計数効率係数記憶部14およびバックグラウンド係数記憶部13は、計測値補正処理部28に接続されている。
【0050】
被検体搬送機30は、たとえば無限軌道式であって、被検体31を搬送する。2つの放射線検出器29は、被検体搬送機30の搬送路を挟んで検出面を互いに対向させて配置されている。被検体搬送機30の2つの放射線検出器29に挟まれた搬送路の入口および出口には、被検体検出部32が設けられている。被検体搬送機30は、検出領域移動手段24の搬送機制御部25に接続されている。
【0051】
計測値補正処理部28の後段には、放射能算出部16が設けられている。放射能算出部16には、被検体情報記録部33が接続されている。被検体情報記録部33は、被検体情報記憶部26に接続されている。
【0052】
搬送機制御部25は、被検体搬送機30の搬送動作のON/OFF並びに被検体の搬送速度を所定の速度に制御する。被検体検出部32は、カメラなどで被検体の有無を検出し、また、あらかじめ被検体31に取り付けた無線タグのID情報を取得する。被検体情報記憶部26は、被検体検出部32が送信した情報を受信し、該当する被検体31にID番号を設定し、そのID番号を記憶する。チャネルシフト部27は、移動chを設定する。
【0053】
図13は、本実施の形態における検出領域のチャネルの設定を模式的に示す図である。図13において、被検体の移動に伴って(a)、(b)、(c)の順に、チャネルが設定される。
【0054】
チャネルシフト部27では、たとえば位置検出幅の分解能を10ch=固定チャネルと定義し、同数の移動chを設ける。搬送機制御部25の搬送速度情報に基づいて、被検体31のA部位が常に移動chの特定chに積算されるようになっている。図13(a)に示すように被検体31が搬送路に入ったとき、まず被検体31のA部位は、「0」番の固定chに設定される。また、「0」番の固定chには、「0」番の移動chが設定される。
【0055】
次に、図13(b)に示すように被検体31のA部位が固定chの「1」番の位置まで搬送路を移動したとき、「1」番の固定chに対応する移動chが「0」番となるように移動chがシフトされる。さらに、被検体31の移動速度に応じて移動chをシフトしていくことにより、図13(c)の位置まで移動しても、被検体31のA部位には常に「0」番の移動chが設定される。
【0056】
同様に、被検体31のB部位には常に「9」番の移動chが設定される。また、被検体31のC部位には常に「7」番の移動chが設定される。被検体31のD部位には常に「6」番の移動chが設定される。被検体31のE部位には常に「4」番の移動chが設定される。被検体31のF部位には常に「3」番の移動chが設定される。被検体31のG部位には常に「2」番の移動chが設定される。被検体31のH部位には常に「1」番の移動chが設定される。
【0057】
このようにして、固定チャネルの計測値は、移動chに移行される。このため、被検体31は、被検体31同士が積み重ならないようにすれば、複数の被検体31を連続して計測できる。
【0058】
より現実的には、たとえば、位置検出幅を2000mm、位置検出幅の分解能を50ch=固定チャネル、被検体31の移動(搬送)速度を20mm/秒とすれば、分解能当たりの長さは40mm/chとなる。よって、2秒毎に移動チャネルをシフトすることで連続した計測ができる。
【0059】
計測値補正処理部28は、バックグラウンド係数記憶部13と計数効率係数記憶部14に記憶された情報に基づいて、移動chの計測データをチャネル毎に逐次補正する。この補正データに基づいて、放射能算出部16は被検体31の放射能を求める。求められた放射能は、被検体情報記録部33によって当該被検体31の放射能として記憶される。
【0060】
このような放射能汚染検査装置では、搬送機を停止することなく被検体をいくつでも連続して計測することができる。また、バックグラウンドを低減できるため、より高感度な装置を実現できる。
【0061】
[第4の実施の形態]
図14は、本発明に係る放射能汚染検査装置の第4の実施の形態における放射線検出器の平面図である。
【0062】
本実施の形態の放射線検出器は、第1の電極2の内空間に2つ以上の独立した検出領域を設けるために、1つ以上の仕切り板34を備えている。仕切り板34で仕切られた空間のそれぞれには、第2の電極3が貫通して延びている。複数の空間内を延びる第2の電極3は、電気的に直列に結合されている。
【0063】
図15は、本実施の形態における放射線検出器の変形例の平面図である。
【0064】
図15に示す変形例では、2つ以上の第1の電極2を密着配置して複数の独立した空間を形成している。
【0065】
図16は、本実施の形態における放射線検出器の他の変形例の平面図である。図17は、図16に示す放射線検出器によって検出される放射線検出頻度数と陽極の長さ方向位置との関係を示す図である。図18は、図16に示す放射線検出器によって検出される放射線検出頻度数と仕切られた空間それぞれを貫通する陽極の長さ方向位置との関係を示す図である。
【0066】
図17に示すように、第2の電極3(陽極)の両端の電荷から、陽極の長さ方向位置に対して得られる放射線の検出の頻度分布が得られる。陽極の放射線入射窓のそれぞれの端部A,C,E,Gを位置的にあるいは時間的に揃えると、図18のようにそれぞれの位置での放射線の検出の頻度が得られる。このようにして、たとえば平行に並んだ複数の領域のそれぞれについて、放射線検出頻度分布を求めることができる。その結果、より広い検出面に対して、第1ないし第3の実施の形態における放射能汚染検査を行うことができる。
【0067】
このような放射能汚染検査装置では、たとえば、体表面汚染モニタの周囲に構成される高さ1800mm×幅300mの検出領域を構成する場合、構造上一つの検出器で構成できる。あるいは、検出面長さ1800mm×幅100mmを有する放射能汚染検査装置を3つ平行に並べて密着配置すれば、1800mm×300mmの検出面を形成することができ、容易に大面積の検出面を構成できる。
【0068】
[第5の実施の形態]
図19は、本発明に係る放射能汚染検査装置の第5の実施の形態の一部のブロック図である。
【0069】
本実施の形態において、放射線入射位置測定手段8の2つの信号演算処理部9には、波高比較部35が接続されている。波高比較部35には、ガス劣化判定部36が接続されている。ガス劣化判定部36は、表示処理部18に接続されている。本実施の形態では、たとえば放射線検出器を一定期間使用した後、検出領域の中央位置にβ線を照射し、信号演算処理部9で横軸を波高値とした頻度分布を求める。
【0070】
図20は、本実施の形態における放射線検出頻度数と波高値との関係の例を示すグラフである。
【0071】
波高値比較部35は、信号演算処理部9で求めた頻度分布のうち最大頻度に対する波高値を予め設定した閾値と比較する。ガス劣化判定部36は、波高値比較部35が比較した結果に基づいて、波高値が閾値検出器内のガスの劣化度を判定する。ガス劣化判定部36の判定結果は、表示処理部18で表示される。
【0072】
このような放射能汚染検査装置を用いると、ガス劣化を、ガス濃度計などを使用せず、より機能的にかつ容易に判定することができる。
【0073】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0074】
1…放射線入射窓、2…第1の電極、3…第2の電極、4…高圧電源、5…前置増幅器、6…波形整形器、7…AD変換器、8…放射線入射位置測定手段、9…信号演算処理部、10…ピーク比較処理部、11…入射位置演算処理部、12…表示処理部、13…バックグラウンド係数記憶部、14…計数効率係数記憶部、15…検出領域設定手段、16…放射能算出部、17…放射能汚染判定部、18…表示処理部、19…窓設定部、20…窓走査部、21…ピーク検出部、22…検出領域設定部、23…位置検出分解能記憶部、24…検出領域移動手段、25…搬送機制御部、26…被検体情報記憶部、27…チャネルシフト部、28…計測値補正処理部、29…放射線検出器、30…被検体搬送機、31…被検体、32…被検体検出部、33…被検体情報記録部、34…仕切り板、35…波高値比較部、36…ガス劣化判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状に延びる抵抗性電極を備えた放射線検出器と、
前記放射線検出器から伝達される前記抵抗性電極の両端の信号強度の比から前記抵抗性電極が延びる方向の放射線入射位置を求める放射線入射位置測定手段と、
2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する検出領域設定手段と、
前記検出領域毎に設定されたバックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する放射能算出部と、
を有すること特徴とする放射能汚染検査装置。
【請求項2】
前記検出領域設定手段は前記抵抗性電極が延びる方向の長さが位置分解能と等しい前記検出領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項3】
前記検出領域設定手段は測定された放射線入射位置を中心として前記抵抗性電極が延びる両方向に前記検出領域を設定することを特徴とする請求項2に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項4】
前記検出領域設定手段は測定された放射線入射位置毎に前記検出領域を設定することを特徴とする請求項3に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項5】
全ての前記検出領域の位置検出分解能を関数として記憶する位置検出分解能記憶部を有し、前記検出領域設定手段は前記位置検出分解能記憶部に記憶されたそれぞれの位置検出分解能に基づいて前記検出領域の幅を設定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項6】
前記抵抗性電極が延びる方向の長さが位置検出分解能に等しく設定された窓と、前記窓を全ての前記検出領域に対して走査する窓走査手段と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項7】
前記検出領域設定手段は前記抵抗性電極が延びる方向の長さが位置検出分解能の0.9倍以上2.9倍以下の前記検出領域を設定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項8】
前記抵抗性電極が延びる方向に前記被検体を移動させる被検体移動手段と、前記被検体の移動に合わせて前記検出領域を移動させる検出領域移動手段と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項9】
前記放射線検出器は互いに独立した複数の領域を備えてこれらの領域内を延びる前記抵抗線電極は直列に接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項10】
前記検出領域の中央位置に放射線を照射したときの前記放射線検出器が出力する信号強度に基づいてガスの劣化度を判定する信号強度判定部を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の放射能汚染検査装置。
【請求項11】
線状に延びる抵抗性電極を備えて前記抵抗性電極の両端の信号強度の比から前記抵抗性電極が延びる方向の放射線入射位置を求める放射線入射位置測定装置を用いた放射能汚染検査方法において、
2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する検出領域設定工程と、
前記検出領域毎にバックグラウンドを設定する工程と、
前記バックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する放射能算出工程と、
を有すること特徴とする放射能汚染検査方法。
【請求項12】
線状に延びる抵抗性電極を備えた放射線検出器で放射線を検出して、前記放射線検出器から伝達される前記抵抗性電極の両端の信号強度の比から前記抵抗性電極が延びる方向の放射線入射位置を求める放射線入射位置測定工程と、
2つ以上の検出領域を信号処理によって設定する検出領域設定工程と、
前記検出領域毎に設定されたバックグラウンドに基づいて被検体の放射能を算出する放射能算出工程と、
を有すること特徴とする放射能汚染検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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