説明

放熱用被膜及び放熱部品

【課題】AlNと同等以上の高い放熱性の放熱用薄膜及び部品、また、放熱特性の簡便な測定方法を提供し、放熱用被膜の評価する。
【解決手段】基材1の最上層面にMを金属成分としたとき、MxNyO(1−y)の形で成膜され、x=0.80以上1.5以下、y/(1−y)>0.5、1>yであり、Mの主成分たる金属元素は、Mを1とするとき、アトミックな元素比率でCu、M’αよりなり、Cuが0.50超、かつCu+6A(Cr、Mo又はWの少なくとも1種)が0.75以上のPVDによる導電性放熱用被膜3を成膜する。所定の基材1の一面1aに熱源2を接触加熱させ、反対面3の表面温度3aを輻射温度計にて測定する。さらに、加熱後所定時間経過後の温度を加熱直後温度で割った値をIndexKとして、各放熱用被膜を比較評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLEDやヒートシンクあるいは自動車のヘッドライトに代表される熱発生部材に対し、放射熱散逸を高める放熱が良好な放熱用被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放熱特性は、特に熱伝達率に関連して窒化アルミ(AlN)が知られており、これの他にはシリコン系などのシート材やアルミナ粉体などを溶射するといった手法がとられている。パワーサイリスタ等といったものではフィンを取付けて熱の散逸が工夫されている。こうした部材では熱伝導率の高いアルミニウムが用いられ、効率と強度を高める意味で陽極酸化による手法がとれられているのが現状である。
【0003】
また、現状では最も優れた特性を持つのはAlNであることが知られており、パソコンなどの発熱部の放熱板として使用されている。しかし、AlNは セラミックの板状のものであり、高価でもあるため使用が限定されている。一方、形状物の場合にはアルミニウムが用いられ、効率と強度を高める意味で陽極酸化による手法がとれられている。しかし、アルミナ自身の放熱特性は窒化アルミと比較して決して高いものではない。
【0004】
そこで、AlNを薄膜化することが考えられた。しかし、基材によって熱伝達率がことなり、特性の計測が非常に難しいという問題があった。さらに、AlNを成膜するためには絶縁材でもあるため、高価な製造装置となってしまい汎用には適するとはかならずしも言えない。さらに、AlNを成膜する際、低温で処理する場合にはアモルファス化してしまい放熱特性は著しく低下し、その後もしくは処理中の温度を上昇させると基板の耐熱温度や熱膨張係数差の制約によって適用用途が限定されるという問題があった。
【0005】
そこで、他の薄膜による放熱特性の向上の例として、特許文献1のものがある。特許文献1においては、プロジェクタ用反射器の放熱用薄膜として、TiCN層、WCH層、AlTiN層のPVD法等の蒸着層が開示されている。また、酸化チタン層、酸化クロム層、酸化珪素層を積層することが開示されている。また、特許文献2では、放熱層の保護膜にAl,N,Oからなり、酸素濃度が5〜14原子%が開示されている。
【0006】
一方、かかる薄膜の放熱特性を正確に計ることは難しく、例えば特許文献3の様に真空容器内に熱源及び基盤を配置して測定する。また、特許文献4においては、LED基板の表面温度を放射温度計を用いて、LED基板の発熱による温度上昇変化を測定し、LED基板に接続する金属性支持部材の接続適否を確認している。このものは、LED基板と金属製支持部材の接続が良好であれば、金属支持部材と基板との熱伝達も良好であるため、発熱する基板の温度上昇が低く、接続が不良であれば、熱伝達しにくくなり、基板の温度上昇が高くなる。この差を利用して、金属支持部材の良否を判断している。また、発熱面の測定の均一化を図るため黒色の皮膜を付加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−126827号公報
【特許文献2】特開平5−325258号公報
【特許文献3】特開平7−63717号公報
【特許文献4】特開2009−031050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1や2のものは、AlNのような高い放熱性を得ることは困難であった。また、薄膜の放熱特性を比較し、種々の薄膜について比較し高い放熱特性を有する薄膜を特定することためには特許文献3のような真空装置を必要とする等装置が複雑となっていた。さらに、特許文献4においては放熱特性の違いにより、断線検出を行っているが、基板表面の放熱特性の評価までは言及していない。
【0009】
本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、AlNに相当する又は超える高い放熱性を有する薄膜を提供することである。また、かかる薄膜の放熱特性を簡便に計測する方法を提供し、放熱性のよい薄膜を特定又は比較評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、まず、放熱特性の測定方法について、図1に示すような計測法を提供する。図1は放射温度計を用いて表面温度を計測するものである。このものは、所定の大きさの基板1の一方1aに熱源2を設け、反対側の測定すべき薄膜等3の面3aの温度を放射温度計4で測定するものである。熱源から供給される熱量は、基板に伝達され基板表面に達する。基板表面からは放射熱により熱が放熱される。熱の対流分を無視すると、放射熱量5が伝達熱量6より大きければ、所定時間経過後、放射熱量が安定する。この放射熱量を放射温度計で表面温度として測定することにより、表面の放熱特性を特定できる。基板の材料、厚さ、大きさを一定とすれば、熱の対流分や、供給熱量、伝達熱量を一定とすることができるので、放射温度計により放熱量即ち表面温度を測定して、比較することにより、表面の放熱特性を相対的に評価できるのである。
【0011】
本発明者はかかる装置を用いて、種々の薄膜の放熱特性を測定した。その結果、かかる放熱特性は熱伝達率、即ち熱伝導率が高いものが有効ではないかと考えた。そこで、前述したAlN系 AlO系などの種々の薄膜に対して、熱伝導率が高いCuを添加し、二元系さらに三元系を基調に調査した。その結果、こうした薄膜形成による放熱特性についてはAlより4B属の関与が著しく、Cuベースの窒化物の形成が大きな成果をもたらすことを知得した。
【0012】
かかる知得により、本発明においては、金属又はセラミックスからなる基材の最上層面にPVDにより成膜され、その膜厚が30nm(0.03μm)以上の導電性薄膜であって、
Mを金属成分としたとき、
MxNyO(1−y)の形で成膜され、x=0.80以上1.5以下、y/(1−y)>0.5、1>y、(1>y>1/3)であり、
Mの主成分たる金属元素は、Mを1とするとき、アトミックな元素比率でCu、M’αよりなり、Cuが0.50超、かつCu+6A(Cr、Mo又はWの少なくとも1種)が0.75以上、M’αはその他不可避成分、又は不純物である放熱用被膜を提供することにより前述した課題を解決した。
【0013】

即ち、ターゲット原料に金属を使用する窒化物の薄膜は、コスト、機能の点からPVDを用いた。また、膜厚に関してはセラミック薄膜の干渉が生じない範囲を下限とした。なお、上限については、製法を考慮しないか、あるいは経済的理由、薄膜の機械的特性等を考慮しなければ上限は特にないが、厚くしても放熱特性には大きく寄与しない。放熱特性、成膜時間が長時間に及ばない範囲(1時間以内)の条件を考慮すれば2000nm以下が好ましい。
【0014】
また、PVDにおける金属主成分以外のガス成分について、通常のEPMAあるいはXPSの計測では計測上の残留ガスならびに表層吸着ガスの影響から金属対ガス量では1:1を越えてガス成分が多くなる場合があり、それは10%内外があるので下限をMxNyO(1−y)と記述する場合、x=0.8とした。Mx中のCu成分は窒化物を形成しないが、実際、CuNは結晶もしくは固溶体として存在し、銅色ではない薄膜状態を呈する。その場合に最大で金属成分中30%が限度であったのでその1/2の比率ならびに通常の数%内の反応率から査定して、x=1.5をその上限と定めた。別の見方をすれば、ガス成分については所謂セラミックスの要素として概算66%以上反応すればよく、希にガス成分が計測上の問題を含めて越えることを考慮し、X=0.8以上とした。酸素は熱処理の場合等で50%も存在し得るのであるが、基本的に化学量論的に酸化物は熱導電性がよくないので、あくまで量論比については金属成分とガス成分は1:1で特異な非晶質にちかい、優先方位の存在する薄膜とした。さらに、範囲外の酸素の存在は絶縁性酸化膜を形成し、その放熱性を著しく低下させるので導電性薄膜であることを条件とした。
【0015】
窒素/酸素比は重要である。本発明者等の研究においては、放射特性が高い場合にはCrNの存在が確認されている。CrNは立方晶系の結晶状態である。窒素を確保することにより、CuNの存在が確認された。また、酸素を導入して窒素比率を下げすぎるとこの放熱特性は低下する。よって、本発明においては、窒素比率をy/(1−y)>0.5、1>yとした。
【0016】
Cu+Crが効果的であるが、Crはその外殻電子の関係があり、その格子振動が熱伝達に関与することを鑑みると同族であるMo、Wについても同様の効果を奏するので、Cu+6Aとした。Cu+6Aは不可欠な系であり、その窒化物の影響が多大であることは、後述する実施例にあるように明らかなため、総枠で0.75以上と設定した。不純物たる他の元素についてはその詳細は不明であるが、Alが最も好ましく、4B、5B、ならびにMn、Fe、Co、Ni、Mg、Si、Cから選ばれる単数もしくは複数の構成元素が含めるのが好ましい。これは鉄鋼系の不純物が効を奏す場合が存在するためである。
【0017】
また、基材には種々の機能性膜を積層させることにより、耐摩耗性、耐熱性、摩擦軽減等の種々の効果が期待できるので、請求項2に記載の発明においては、前記基材と前記最上層面間に金属又はセラミック薄膜が積層されている放熱用被膜とした。
【0018】
前述した測定方法により、容易に表面の放熱特性を相対的に評価できる。そこで、請求項3に記載の発明においては、放熱用被膜の放熱特性を測定するための測定方法であって、各辺及び厚みが所定寸法にされた板状の基材を測定用基材とし、前記測定用基材の一面に熱源を供給する熱源部を接触させ、前記測定用基材温度を所定温度に加熱するとともに、測定用基材の反対面の表面温度を輻射温度計にて測定し、加熱後所定時間経過後の温度を加熱直後温度で割った値をIndexKとして算出する測定方法を用いて、前記放熱用被膜を測定したIndexKが前記測定用基材と同形状同寸法のAlNセラミックス板材のIndexKの値以上である放熱用被膜を提供する。これにより、放熱特性が評価可能な皮膜を提供する。
【0019】
なお、各辺及び厚みが所定寸法にされた板状の基材は30mm角、厚さは1mmのステンレス鋼板(SUS304)とし、所定温度は100℃以上300℃以下とした場合にはIndexKの値は1.5以上とするとよい。この条件での測定によれば、後述するように、AlNセラミックスの場合に、IndexKが1.6位であるのに対し、ステンレス板状にTiAlN被膜をしたものでは、IndexKが1.4、DLCでは0.75と評価できる。さらに、本発明品の例(y=y−1=0.5、x=1において、Cu66%、Cr22%、Al6%およびTi6%)ではIndexKが1.7と非常に高い放熱性を評価された放熱用被膜を得られるのである。
【0020】
かかる放熱用被膜はPVDにより成膜できるので、種々の形状の放熱部品に適用できる(請求項4)。また、かかる放熱用被膜を成膜した基材は容易にプラスチックス等に結合可能なので、前記放熱用被膜の基材側がプラスティクス、フィルム、紙もしくはセラミックスのいずれか一つ以上からなる別基材と結合されている放熱部品を提供するものとなった(請求項5)。なお、本放熱用被膜は反応性イオンプレーティング、反応性スパッタイオンプレーティングもしくは反応性アークイオンプレーティング法等のイオンプレーティング手法により成膜可能である。さらに、本放熱用被膜は下地の基材の耐熱温度に応じて、熱処理あるいは時効もしくは照射処理を行うことも可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、基材の最上層面にMを金属成分としたとき、MxNyO(1−y)の形で成膜され、x=0.80以上1.5以下、y/(1−y)>0.5、1>yとし、Mの主成分たる金属元素を、Mを1とするとき、アトミックな元素比率でCu、M’αよりなり、Cuが0.50超、かつCu+6Aが0.75以上の窒化物からなる放熱用被膜としたので、AlNセラミックス板より高い放熱性を有する薄膜を提供するものとなった。また、導電性膜とし、PVDで容易成膜できるので、低コスト、大量に生産できるものとなった。
【0022】
さらに、前記基材と前記最上層面間に金属又はセラミック薄膜が積層されている放熱用被膜とし、機能性被膜としての特性をも与えることができるので、放熱のみでなく、耐摩耗性、耐食性等の各薄膜の特性を合わせもたせることも可能である(請求項2)。
【0023】
また、請求項3に記載の発明においては、所定形状寸法の測定用基材の一面に熱源を接触させ、反対面の表面温度を輻射温度計にて測定し、IndexKとして算出することにより、放熱特性を簡便に計測することができる。これにより、放熱特性を比較し、AlNセラミックス板材のIndexKの値以上のものを特定すりこともできるので、放熱性のよい薄膜を特定又は比較評価し、良質の放熱用被膜を提供できる。さらに、種々の放熱部品、別基材と結合されている放熱部品を提供できるので、種々の形状の放熱部品を提供できるものとなった(請求項4、5)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る放熱特性を測定するための測定装置の説明図である。
【図2】図1の測定装置を用いて種々の薄膜に関しての加熱、放熱状態での表面温度の変化を示す加熱・放熱時間−表面温度のグラフである。
【図3】従来の薄膜の放熱特性を示す加熱時間−表面温度のグラフである。
【図4】本発明を含む薄膜の加熱特性としてのIndexKの値を示すグラフである。
【図5】アルミを基板とした場合の薄膜の放熱特性を示す加熱時間−表面温度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、各種薄膜等の放熱特性を比較するための測定装置について詳述する。前述した図1において、所定の大きさの基板1として、各種硬質薄膜を被覆したステンレス板(SUS304)を用いた。硬質薄膜の膜厚は2〜3μmであり、各辺が30mmの正方形で、厚さt=1mmのステンレス板(SUS304)ものを用いた。この膜厚は板厚に対しては十分小さいものである。熱源2として、発熱体として比較的安定性が得られるハンダ用ごてを使用した。ハンダごての先端部には被覆超硬合金を用いて熱容量を確保し接触面には被覆サーメット(TiN基Niバインダ)を用いた。
【0026】
まず、かかる装置を用いた測定法において、その傾向を確認するために予備実験を行った。その結果を図2に示す。図2は加熱して安定しているハンダごての先端を基板1の一方1aに接した直後から、90秒後にハンダごてを外し、180秒後まで基板の表面の放射熱量を表面温度として、放射温度計4にて測定した結果である。加熱温度は、低温域(常温から数百℃以内)の場合について、ここでは80℃から180℃以下の場合について計測したものである。
【0027】
図2に示すように、いずれも接触後急激に温度が上昇し、10秒経過後から漸増状態となる。90秒後にハンダごてを外すと温度が漸減していく。上昇温度、下降温度は、CrN,TiN,TiCN2被膜は近似しているが、上昇が低く、放熱の傾斜も少なく、放熱量が少ない。TiCN被膜の場合は、温度上昇も大きくなるが、SUSのまま、即ち被膜をしていない場合に対して依然として低い温度である。さらに、TiC、TiAlN膜の場合は、より高い温度を示し、SUSのままより放熱し易いということがわかる。この結果は、従来の結果からもうなずけるものであり、本測定方法が充分放熱特性を定量比較するに適した測定方法であるといえる。
【0028】
次に、本測定方法により、前述した高い放熱性を有するAlNとの比較を行った。アーク法およびプラズマCVDによりTiAlNおよびDLCを基材となる前述したと同形状のSUSステンレス板上に各々3μmおよび1μmのコーティングを行ったもの。同SUSステンレス板の表面に市販の黒色マジックインク(商標登録)で塗りつぶしたもの。市販のAlNセラミック板を用いた。なお、90秒までの温度上昇域での測定をした。その結果を図3に示す。図3に示すように、AlNが最も高い放熱を示し、次にTiAlN、マジック、SUS、DLC被膜の順であり、図2と同様の結果を得られた。
【0029】
しかし、図3に示すような測定比較では、初期の値は急激な上昇のために読みづらい面もあるため、初期の下地の数値と載せて90秒経過後の温度を計測してその変化を指標とした。図3の場合の指標について 放熱IndexKと定義して図4に示した。放熱IndexK=計測温度(90秒後)/下地の計測直前温度である。さらに、本発明品の例として、SUSステンレス板上に、膜厚1.35μm、膜の組成比が金属成分がCu66%、Cr22%、Al6%およびTi6%のものを用いて測定した。
【0030】
図4に示すように、AlNのIndexKが1.6に対して、TiAlNが1.4、マジックが1.1、SUSが0.9、DLCが0.75と最も低い放熱特性を示した。同様に本発明品例の場合は1.7とAlNより大きな値をしめした。これらの予備実験により、本願発明で用いる測定方法により、放熱特性の比較及び特性の特定が容易であることがわかった。また、本願薄膜がより高い放熱特性を提供できることが示された。
【0031】
次に、本発明実施例について説明する。なお、本発明の薄膜は反応性スパッタイオンプレーティングにより成膜した。このものは従来と同様であるので、説明を省略する。反応性スパッタイオンプレーティングと単なるスパッタリングとは構造的には近いものであるがその差は基板に作用するイオンボンバード効果の有無であり、その点で通常のスパッタリングとは異なる。特に窒化物の機能薄膜についてはターゲット原料に金属を使用することを前提とすればイオンボンバード効果の強いイオンプレーティングを選択する方が経済的に好ましい結果を生む。しかしながら本質的には硬質薄膜のように窒化物あるいは窒酸化物をターゲット原料に用いる場合でもまた金属をターゲット原料に使用して成膜しても可能である。従ってイオンビームアシスト法、レーザ蒸着法および成膜金属及び窒化物や窒酸化物をターゲット原料に用いたスパッタリング法によって成膜しても同様の効果は奏される。
【実施例1】
【0032】
各辺が30mmの正方形、厚み1mmのステンレス板(SUS304相当)に反応性スパッタイオンプレーティングによりCu、Cr、Al、Tiターゲットを配置した構成によって反応ガスとして酸素および窒素の混合ガスを用いて種々の成膜を行った。反応ガスと金属成分比は80―110ガス成分で調整した。それぞれ成膜された種々の薄膜成膜基材を前述した図1に示す方法で放熱特性を測定した。表1は本発明品及び比較品(区分の記載空欄)の物質名、金属成分比、ガス成分比、膜厚、IndexKの値、効果(IndexKが1.5以上を○としている)記載したものである。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、本発明品のNo1〜5,No11のものはIndexKが1.5以上であり、効果が確認できた。No18はAlNであり、ベンチマークである。No6、No8はガス成分比が0.5以下、No7はCuが50%以下であり、No9は6A族であるCrがなく、ガス成分比が0.5以下、No10はガス成分比が0.5以下、No12はCuのみであり、それぞれIndexKが1.5未満であった。さらに、No13〜17のCuを含まないものは全てIndexKが1.5未満であった。このように、CuNOのように、Cuのみでは効果がなく、6A族の介在が必要であり、また、ガス成分比が0.5以下である。
【実施例2】
【0035】
次に、Cu、Cr、Al、Wiターゲットを配置して反応ガスとして酸素および窒素の混合ガスを用いて実施例1と同様な成膜を行った。表2はその結果を示したものである。No16〜18は実施例1と同じデータである。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、本発明品のNo21、23、No30〜32、36のものはIndexKが1.5以上であり、効果が確認できた。No22、25、26、27、29、35はCuが50%以下であり、No28はCuが51%であるが、ガス成分比が0.5以下であり、また、No24、34はCu+Wが75%未満、No33は膜厚が0.03μm未満であり、それぞれIndexKが1.5未満となり、実施例1と同様の結果であった。
【実施例3】
【0038】
次に、SUSに代えて、Al基板について同様な測定を行った。各辺が30mmの正方形、厚み1mmのアルミニウム板に反応性スパッタイオンプレーティングによりCuCrAlNO、CuAlNOおよびCuWAlNOを被覆し、前述したと同様に放熱特性を測定した。図5はAl基板の場合の、加熱後90秒後まで基板の表面の放射熱量を表面温度として、放射温度計にて測定した結果である。また、表3は、本発明品及び比較品(区分の記載空欄)の物質名、金属成分比、ガス成分比、膜厚、効果(90秒後の温度上昇がAlN板より高いものを○としている)記載したものである。
【0039】
【表3】

【0040】
図5及び表3に示すように、薄膜等を形成しないアルミニウム基板のみでは、温度は殆ど変わらず、熱吸収が大きく、SUSに比べて放熱しにくいことがわかる。また、同成分の被膜をしたAl基板の比較A及よりもSUS基板の比較A/SUSの方が温度上昇が高く、Al基板よりSUS基板の方が放熱量が多いことがわかる。また、本発明品A(Al基板上にCuCrAlNOを被覆)、本発明品B(Al基板上にCuWAlNOを被覆)は、AlN板より放熱量が高い。一方、比較A(CuAlNOでCr、Wをなしで被覆)は、Cuを含有するも6A属金属を含まないので、AlN板と同等程度であった。また、比較BはCuが50%以下であり、放熱効果が低い。
【0041】
以上述べたように、本発明のCu+6A属+NO膜は放熱性に優れた薄膜を提供する。また従来の高い放熱特性を有するAlNと同等以上のものを提供するものとなった。さらに、実施例3のように、基板をAlとしても放熱特性の向上が図れた。このことから、ステンレス以外の金属材料に変えても効果を奏すると考えられ、対象をえらばず、高い放熱性を有する薄膜を提供できる。また、本発明により、放熱を目的とした部材、例えば、ヘッドライト、放熱板あるいはヒートシンクに広く適用できる薄膜を提供するものとなった。なお、本発明はイオンプレーティングの各手法により薄膜を形成したが、これらの物質的作用はバルクの材料としても効果を奏するものと考えられる。また、容易に放熱特性を評価できる簡易な測定方法を提供するものとなった。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
1a 一方の面
2 熱源
3 薄膜(放熱用被膜)
3a 表面
4 放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又はセラミックスからなる基材の最上層面にPVDにより成膜され、その膜厚が30nm以上2000nm以下の導電性薄膜であって、
Mを金属成分としたとき、
MxNyO(1−y)の形で成膜され、x=0.80以上1.5以下、y/(1−y)>0.5、1>yであり、
Mの主成分たる金属元素は、Mを1とするとき、アトミックな元素比率でCu、M’αよりなり、Cuが0.50超、かつCu+6A(Cr、Mo又はWの少なくとも1種)が0.75以上、M’αはその他不可避成分、又は不純物であることを特徴とする放熱用被膜。
【請求項2】
前記基材と前記最上層面間に金属又はセラミック薄膜が積層されていることを特徴とする請求項1記載の放熱用被膜。
【請求項3】
放熱用被膜の放熱特性を測定するための測定方法であって、各辺及び厚みが所定寸法にされた板状の基材を測定用基材とし、前記測定用基材の一面に熱源を供給する熱源部を接触させ、前記測定用基材温度を所定温度に加熱するとともに、測定用基材の反対面の表面温度を輻射温度計にて測定し、加熱後所定時間経過後の温度を加熱直後温度で割った値をIndexKとして算出する測定方法を用いて、前記放熱用被膜を測定したIndexKが前記測定用基材と同形状同寸法のAlNセラミックス板材のIndexKの値以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放熱用被膜。
【請求項4】
請求項3記載の放熱特性を有し、前記請求項1又は2記載の放熱用被膜を有することを特徴とする放熱部品。
【請求項5】
前記放熱用被膜の基材側がプラスティクス、フィルム、紙もしくはセラミックスのいずれか一つ以上からなる別基材と結合されていることを特徴とする請求項4記載の放熱部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate