説明

放電イオン化電流検出器

【課題】低周波誘電体バリア放電を用いた放電イオン化電流検出器のSN比を改善する。
【解決手段】励起用高圧電源8と放電用の電極5との間に電流検出器20を設け、プラズマ生成によりパルス的に流れる放電電流を検出する。この検出信号とイオン電流を増幅する電流アンプ18の出力信号とは出力抽出部21に入力され、出力抽出部21は放電電流検出信号の急峻な立ち上がりを検出してトリガを発生し、そのトリガから所定時間だけイオン電流信号を抽出する。これにより、プラズマ発光が生じていない期間中に信号に乗るノイズの影響を除去することができ、検出信号のSN比を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてガスクロマトグラフ(GC)用の検出器として好適な放電イオン化電流検出器に関し、更に詳しくは、低周波バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
GC用の検出器としては、熱伝導度検出器(TCD)、エレクトロンキャプチャ検出器(ECD)、水素炎イオン化検出器(FID)、炎光光度検出器(FPD)、フレームサーミオニック検出器(FTD)など、様々な方式の検出器が、従来から実用に供されている。こうした検出器の中で最も一般的に、特に有機物を検出するために使用されているのはFIDである。FIDは、水素炎により試料ガス中の試料成分をイオン化し、そのイオン電流を測定するものであり、6桁程度の広いダイナミックレンジを達成している。しかしながら、FIDは、(1)イオン化効率が低いため十分に低い最小検出量が得られない、(2)アルコール類、芳香族、塩素系物質に対するイオン化効率が低い、(3)危険性の高い水素を必要とするため防爆設備等の特別な設備を設置する必要があり、取扱いも面倒である、といった欠点を有している。
【0003】
一方、無機物から低沸点有機化合物までを高い感度で検出可能な検出器として、パルス放電イオン化電流検出器(PDD:Pulsed Discharge Detector)が従来知られている(特許文献1など参照)。PDDでは、高圧のパルス放電によってヘリウム分子などを励起し、その励起状態にある分子が基底状態に戻る際に発生する光エネルギーを利用して分析対象の分子をイオン化する。そして、生成されたイオンによるイオン電流を検出し、分析対象の分子の量(濃度)に応じた検出信号を得る。
【0004】
上記PDDでは一般的に、FIDよりも高いイオン化効率を達成することができる。一例を挙げると、プロパンに対するFIDのイオン化効率は0.0005%程度にすぎないのに対し、PDDでは0.07%程度のイオン化効率が得られている。しかしながら、それにも拘わらずPDDのダイナミックレンジはFIDに及ばず、1桁程度以上低いのが実状である。これが、PDDがFIDほど普及しない一つの原因である。
【0005】
従来のPDDにおけるダイナミックレンジの制約要因は、イオン化のためのプラズマの不安定性やプラズマ状態の周期的変動であると考えられる。これに対し、プラズマ状態を安定化・定常化するために、低周波交流励起誘電体バリア放電(以下「低周波バリア放電」と称す)を利用した放電イオン化電流検出器が提案されている(特許文献2など参照)。低周波バリア放電により生成されるプラズマは大気圧非平衡プラズマであり、高周波放電によるプラズマのような高温にはなりにくい。また、パルス高電圧励起によるプラズマのような印加電圧の状態の遷移に伴う周期的な変動も抑制され、安定した定常的なプラズマ状態が得られ易い。こうしたことから、本願発明者は低周波バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器に関する様々な検討や提案を行ってきている(特許文献3、非特許文献1、2など参照)。
【0006】
前述のように低周波バリア放電はプラズマ状態が安定でありノイズの点でも有利であることから、低周波バリア放電を用いた放電イオン化電流検出器は高いSN比を実現可能である。一方で、そのイオン化効率はFIDよりは高いものの、現状では最大でも0.1%以下であるため、要求される検出限界(1pgC/sec程度)に相当するイオン化電流ノイズは1pA以下のオーダーとなる。これを実現するには、測定系に起因する外乱ノイズ(例えば信号ケーブルに飛び込む電磁波ノイズ、温度差による熱起電力によるノイズなど)の影響を十分に抑える必要がある。しかしながら、試料ガスやキャリアガスの導入・排出のための開口部等からのノイズの侵入を完全に防止することは実際には不可能である。また高沸点成分の検出のために検出セルは最大400℃程度まで加熱されるため、この検出セルと室温である回路部との間に発生する熱起電力の影響を完全に抑えることも非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5394092号明細書
【特許文献2】米国特許第5892364号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/119050号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】品田ほか3名、「大気圧マイクロプラズマを用いたガスクロマトグラフ用イオン化電流検出器」、2008年春季第55回応用物理学関係連合講演会予稿集
【非特許文献2】品田ほか3名、「大気圧マイクロプラズマを用いたガスクロマトグラフ用イオン化電流検出器(II)」、2008年秋季第69回応用物理学会学術講演会講演予稿集
【非特許文献3】北野(K.Kitano)、「ノンイクゥイリブリウム・アトモスフェリック・プレッシャー・プラズマ・ジェッツ・ウィズ・ア・シングル・エレクトロード・アンド・ゼア・アプリケイションズ・トゥー・ケミカル・リアクションズ・アンド・ステリライゼイション(Nonequilibrium atmospheric pressure plasma jets with a single electrode and their applications to chemical reactions and sterilization)」、CAPSA2007 (The 3rd International Congress on Cold Atmospheric Pressure Plasmas : Sources and Applications)予稿集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、電磁波ノイズの飛び込みや温度差による熱起電力などに起因する外乱ノイズの影響をできる限り軽減し、検出対象の成分に由来するイオン化電流信号を高い感度及び精度で得ることができる放電イオン化電流検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
低周波誘電体バリア放電では、50Hz〜100kHz程度の周波数の低周波交流電圧を電極に印加することで放電を起こしプラズマを生起させるが、放電自体は連続的ではなく間欠的に起こりプラズマ発光も間欠的である。一方、本願発明者は各種の実験や検討から、試料成分のイオン化は主としてプラズマ光による光イオン化であり、それによって発生したイオンの寿命は比較的短いとの知見を得た。こうしたことから、検出対象である試料成分由来のイオンによって検出用電極にイオン電流が流れる期間もプラズマ発光からその後の比較的短い期間に限られており、それ以外の期間に得られる信号はノイズが支配的である、と考えられる。本発明はこうした知見と着想に基づいてなされたものである。
【0011】
即ち、上記課題を解決するために成された本発明は、放電により所定ガスからプラズマを生成するために、少なくとも1つの表面が誘電体で被覆された対をなす電極、及び該電極に低周波交流電圧を印加する電圧印加手段を含む放電生起手段と、生成されたプラズマの作用によりイオン化された気体状の試料成分に由来するイオン電流を検出する電流検出手段と、を具備する放電イオン化電流検出器において、
a)前記放電生起手段による放電により間欠的に生起されるプラズマ発光のタイミングを検出する発光タイミング検出手段と、
b)前記発光タイミング検出手段による検出結果に基づいて、前記電流検出手段により検出されるイオン電流に対応した信号をプラズマ発光と同期したタイミングで取得する信号抽出手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
前記所定ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、キセノンのいずれか1つ、又はそれらの混合ガスを用いることができる。
【0013】
また、前記電極に印加される低周波交流電圧の周波数は50Hz〜100kHz、好ましくは100Hz〜20kHz程度の範囲とすればよい。
【0014】
本発明の一態様として、前記発光タイミング検出手段は前記電圧印加手段から前記電極に供給される電流を検出する電流検出手段である構成とするとよい。電圧印加手段から電極には連続的に低周波交流電圧が印加されるが、実際に放電が起きてプラズマ発光が生起されるときにのみ放電電流が流れる。したがって、放電電流が流れるタイミングはプラズマ発光に同期しており、電流検出手段は間接的にプラズマ発光のタイミングを検出することができる。
【0015】
もちろん、前記発光タイミング検出手段は、より直接的にプラズマ発光光を検出する光検出手段である構成としてもよい。
【0016】
従来の低周波誘電体バリア放電を用いた放電イオン化電流検出器では、検出用電極で検出されたイオン電流を特に期間を限定せずに積分することで電圧信号に変換していた。この場合、プラズマ発光が実質的になく(少なくとも光イオン化に寄与するような強度の発光がなく)、試料成分由来のイオンによる電流が殆ど流れていない期間の電流信号も積分されている。
【0017】
これに対し、本発明に係る放電イオン化電流検出器では、発光タイミング検出手段は直接的又は間接的に実質的なプラズマ発光が生じるタイミングを検出し、信号抽出手段は、プラズマ発光と同期したタイミングで、例えば実質的なプラズマ発光が生じている期間のみ、又は実質的なプラズマ発光時点からその終了後のイオンの寿命を考慮した所定時間が経過するまでの期間に、検出されたイオン電流に対応する信号を抽出する。具体的には例えば、上記期間に検出されたイオン電流のみを積分して電圧信号を取得する。これにより、検出対象である試料成分由来のイオンによる電流が検出されない筈である期間に検出された、主としてノイズに由来する電流は、出力される電圧信号には反映されなくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る放電イオン化電流検出器によれば、検出出力として取り出される信号に含まれる外乱ノイズを少なくすることができるので、信号のSN比が向上し、結果的に、試料成分の検出感度や検出精度を向上させることができる。
【0019】
なお、低周波誘電体バリア放電では、高圧側電極に対し正電圧が印加されたときに放電する場合(正電圧放電)と負電圧が印加されたときに放電する場合(負電圧放電)とで、放電の状態が異なることが非特許文献3で報告されている。本願発明者の実験においても、正電圧放電によるプラズマ発光は負電圧放電によるプラズマ発光と比べて輝度が高く、大きなイオン電流が流れることが確認されている。
【0020】
そこで、本発明に係る放電イオン化電流検出器において、前記信号抽出手段は、前記発光タイミング検出手段による検出結果に基づいて、前記放電生起手段に含まれる対をなす電極のうちの高圧側の電極に正極性の電圧が印加されている期間中に、前記電流検出手段により検出されるイオン電流に対応した信号をプラズマ発光と同期したタイミングで取得する構成とするのが好ましい。この構成によれば、さらに一層高いSN比の検出信号を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例による放電イオン化電流検出器の概略構成図。
【図2】本実施例の放電イオン化電流検出器の動作を説明するための波形図。
【図3】図2中のイオン電流検出信号のピーク部分の拡大図。
【図4】本発明の別の実施例による放電イオン化電流検出器の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例による放電イオン化電流検出器について添付図面を参照して説明する。図1は本実施例による放電イオン化電流検出器の概略構成図である。
【0023】
本実施例の放電イオン化電流検出器1は、石英などの誘電体から成る円筒管2を備え、この内部がガス流路4となっている。円筒管2としては例えば外径がφ3.9mmの石英管を用いることができる。この円筒管2の外壁面にそれぞれ所定距離離して、金属(例えばSUS、銅など)製の環状のプラズマ生成用電極5、6、7が周設されている。プラズマ生成用電極5、6、7とガス流路4との間には円筒管2の壁面が存在するから、誘電体であるこの壁面自体が電極5、6、7の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、誘電体バリア放電を可能としている。
【0024】
3個のプラズマ生成用電極5、6、7のうち、中央の電極5には励起用高圧電源8が接続され、この電極5を上下から挟む2個の電極6、7はいずれも接地されている。このように、高電圧が印加される電極5を2つの接地した電極6、7で挟む構造を採用することにより、放電で発生したプラズマがガス上流側及び下流側に拡がるのを抑えることができ、実質的なプラズマ生成領域を2個のプラズマ生成用電極6、7の間に制限することができる。
【0025】
励起用高圧電源8は低周波の高圧交流電圧を発生するものであり、その周波数は50Hz〜100kHzの範囲、さらに好ましくは100Hz〜20kHzの範囲とするとよい。交流電圧の波形形状は、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状などのいずれでもよい。
【0026】
円筒管2の下部(ガス下流側)には、ガス流に沿って反跳電極10、バイアス電極11、及びイオン収集電極12が、アルミナ、PTFE樹脂などの絶縁体13、14を間に介挿して配置されている。これらはいずれも同一内径の円筒形状体であり、それらの内側には円筒管2中のガス流路4に連続したガス流路が形成されるから、電極10、11、12は流路中のガスに直接晒される。このガス流路中には下端のガス排出口からキャピラリ管15が挿入されており、キャピラリ管15を通して所定流量で検出対象である試料成分を含む試料ガスが供給される。
【0027】
反跳電極10は接地されており、プラズマ中の荷電粒子が下流側のイオン収集電極12に到達することを抑制する。これによって、ノイズを低減し、SN比を改善することができる。バイアス電極11はイオン電流検出部19に含まれるバイアス直流電源17に接続され、イオン収集電極12は同じくイオン電流検出部19に含まれる電流アンプ18に接続されている。
【0028】
本実施例の放電イオン化電流検出器1に特徴的な構成として、励起用高圧電源8と電極5との間に、該電極5に供給される放電電流を検出する電流検出器20が本発明における発光タイミング検出手段として設けられている。また、この電流検出器20による検出信号と電流アンプ18からの出力信号は、本発明における信号抽出手段に相当する出力抽出部21に入力されている。この出力抽出部21は、電流検出器20による検出信号をトリガとして電流アンプ18からの出力信号を所定時間抽出し、その間の電流信号を積分した電圧信号を出力する。
【0029】
この放電イオン化電流検出器1による測定動作を図1に加えて図2を参照して説明する。図2中の(a)は励起用高圧電源8からの出力電圧波形、(b)は電流検出器20による検出信号波形、(c)は電流アンプ18の出力信号波形である。なお、これらは、試作装置の実測波形である。
【0030】
図1中に下向き矢印で示すように、ガス供給口3にはプラズマガスとしてヘリウムが所定流量で供給される。また、図1中に上向き矢印で示すように、キャピラリ管15には試料ガスが供給される。なお、プラズマガスとしては、電離され易いガスであればヘリウムのほか、アルゴン、窒素、ネオン、キセノンなどのうちの1種又はそれらを2種以上混合したガスなどでもよい。ヘリウムガスはガス流路4を下向きに流れ、キャピラリ管15を通して供給される試料ガスと合流し、キャピラリ管15の外側の流路を下方に向かって流れ、最終的に下端のガス排出口16から排出される。
【0031】
上述したようにヘリウムガスがガス流路4中に流通している状態で、図示しない制御部による制御の下で励起用高圧電源8は駆動され、励起用高圧電源8は図2(a)に示すような低周波の高圧交流電圧をプラズマ生成用の電極5と電極6、7との間に印加する。これにより、電極5と6、7との間で放電が起こる。この放電は誘電体被覆層(円筒管2)を通して行われるため誘電体バリア放電である。この誘電体バリア放電によって、ガス流路4中を流れるヘリウムガスが広く電離されてプラズマ(大気圧非平衡マイクロプラズマ)が発生する。
【0032】
電極5には低周波交流電圧が連続的に印加されるが、電極5と6、7との間の放電は交流電圧の特定の位相位置においてのみパルス状に起こる。図2(b)に示す放電電流検出信号波形では、正方向(上向き)及び負方向(下向き)の鋭いピーク波形が、励起電圧波形と同周期の正弦波波形に重畳していることが分かる。この正弦波波形はプラズマが生成されていない状態でも観測されることから、放電とは無関係の充電電流によるものであり、プラズマ生成時に現れるピーク波形が放電電流によるものである。1周期の励起電圧波形の中で、電極5に正極性の電圧が印加されている期間(半周期)に正方向の鋭いピーク波形が1回発生し、電極5に負極性の電圧が印加されている期間(半周期)に負方向の鋭いピーク波形が1回発生している。即ち、励起電圧の1周期中に正電圧放電と負電圧放電とが1回ずつ起こる。
【0033】
上記のような放電により生成されたプラズマから放出された光は、ガス流路4中を通して試料ガスが存在する部位まで到達し、主として光イオン化により試料ガス中の試料成分分子(又は原子)をイオン化する。こうして生成された試料イオンは、バイアス電極11に印加されている100〜200V程度のバイアス直流電圧の作用により、イオン収集電極12で電子を授受する。前述のように、放電はパルス的に起こり、これによるプラズマの生起も同様であるため、プラズマ発光光による試料成分由来のイオンの発生も間欠的である。また、発生したイオンの寿命は比較的短くたかだか10〜数十μsec程度に過ぎない。このため、イオン収集電極12に到達したイオンによるイオン電流が流れるのは、プラズマ発光が起こった時点からごく短い時間の間だけである。そのため、電流アンプ18の出力は図2(c)に示すようになる。
【0034】
従来は、図2(c)に示したような電流信号を単位時間毎に積分することで電圧信号に変換して出力していたが、本実施例の装置では、出力抽出部21において、試料成分由来のイオンによる電流が流れる期間に得られる電流信号のみを抽出して電圧信号に変換する。即ち、図2(b)に示した電流検出器20から得られる検出信号の立ち上がりは急峻であるので、放電電流と充電電流との識別は容易である。そこで、出力抽出部21は、この放電電流検出信号の急峻な立ち上がり部分を検出してトリガ信号を生成し、トリガ信号から所定時間(例えば10〜数十μsec程度)の期間だけ電流アンプ18から入力される電流信号を取り込んで(図2(d)に示すタイミング)電圧信号に変換する。これにより、プラズマ発光に同期してパルス的に流れる試料成分由来のイオン電流信号のみを切り出して計測することが可能となる。
【0035】
上記のように電流信号を取り込む以外の期間に電流アンプ18から入力される電流信号には、試料成分由来のイオンに関する情報は含まれておらず、ノイズ成分のみである。従来の装置では、このような電流信号を単位時間毎に平均化する形式で計測していたため、ノイズ成分の影響が相対的に大きく良好なSN比が得られにくい。それに対し、本実施例の装置では、試料成分由来のイオンに関する情報が含まれている時間範囲のみの電流信号を平均化して電圧信号に変換しているため、ノイズ成分の影響が相対的に小さくなり、良好なSN比が得られる。
このようにして、この放電イオン化電流検出器1では、導入された試料ガスに含まれる試料成分の量(濃度)に応じた検出信号を高いSN比でもって得ることができる。
【0036】
光イオン化におけるイオン生成効率は光の輝度に依存する。図2(b)に示されているように、負電圧放電時の放電電流は正電圧放電時よりも小さく、これは負電圧放電時のプラズマ発光光の輝度が正電圧放電時よりも低いことを意味している。この結果、図2(c)に示すように、負電圧放電時には検出されるイオン電流も小さくなっている。そこで、より好ましくは、励起電圧が正極性である期間中にのみ放電電流検出信号の急峻な立ち上がり部分を検出してトリガ信号を生成することにより、正電圧放電時に検出されるイオン電流信号のみを抽出するようにするとよい。これにより、出力抽出部21から取り出される信号のSN比をさらに向上させることができる。
【0037】
次に、上記実施例におけるSN比の改善効果の計算例について説明する。図3は図2(c)中の正電圧印加時におけるイオン電流検出信号のピーク部分の拡大図である。これはゲインが107 V/Aである電流アンプの出力であるので、約300nAのピーク電流が得られていることになる。このピーク面積を計算すると9.0V・μsecとなる。したがって、ジッタも考慮して広めに図3中の10〜40μsecの時間範囲を積分したとしても、300mVの出力電圧が得られる。これに対し、積分する時間範囲を限定せずに1周期2.5msecを全て積分したとして計算すると、得られる出力電圧は3.6mVにすぎない。即ち、単純な計算によれば、従来の装置では3.6mVの出力電圧しか得られなかったのに対し、本実施例の装置では300mVの出力電圧が得られることになり、SN比は約80倍向上することになる。
【0038】
図4は本発明の別の実施例による放電イオン化電流検出装置の概略構成図である。図1に示した実施例と同一又は相当する構成要素には同じ符号を付してある。上記実施例との基本的な相違は、放電によるプラズマ発光のタイミングを得る手法だけである。上記実施例では、励起用高圧電源8から電極5に供給される放電電流を検出し、その検出信号から間接的にプラズマ発光のタイミングを求めていた。それに対し、この実施例の装置では、透明又は半透明の円筒管2の外側に光検出器22を設置し、プラズマから発し円筒管2の壁面を通過して来る光を光検出器22で検出し、その検出信号に基づいてイオン電流信号を抽出するタイミングを決めるようにしている。したがって、上記実施例と同様に、試料成分由来のイオンによるイオン電流信号のみを選択的に捉え、高いSN比の検出信号を得ることができる。
【0039】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0040】
1…放電イオン化電流検出器
2…円筒管
3…ガス供給口
4…ガス流路
5、6、7…プラズマ生成用電極
8…励起用高圧電源
10…反跳電極
11…バイアス電極
12…イオン収集電極
13、14…絶縁体
15…キャピラリ管
16…ガス排出口
17…バイアス直流電源
18…電流アンプ
19…イオン電流検出部
20…電流検出器
21…出力抽出部
22…光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電により所定ガスからプラズマを生成するために、少なくとも1つの表面が誘電体で被覆された対をなす電極、及び該電極に低周波交流電圧を印加する電圧印加手段を含む放電生起手段と、生成されたプラズマの作用によりイオン化された気体状の試料成分に由来するイオン電流を検出する電流検出手段と、を具備する放電イオン化電流検出器において、
a)前記放電生起手段による放電により間欠的に生起されるプラズマ発光のタイミングを検出する発光タイミング検出手段と、
b)前記発光タイミング検出手段による検出結果に基づいて、前記電流検出手段により検出されるイオン電流に対応した信号をプラズマ発光と同期したタイミングで取得する信号抽出手段と、
を備えることを特徴とする放電イオン化電流検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の放電イオン化電流検出器であって、
前記発光タイミング検出手段は前記電圧印加手段から前記電極に供給される電流を検出する電流検出手段であることを特徴とする放電イオン化電流検出器。
【請求項3】
請求項1に記載の放電イオン化電流検出器であって、
前記発光タイミング検出手段はプラズマ発光光を検出する光検出手段であることを特徴とする放電イオン化電流検出器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の放電イオン化電流検出器であって、
前記信号抽出手段は、前記発光タイミング検出手段による検出結果に基づいて、前記放電生起手段に含まれる対をなす電極のうちの高圧側の電極に正極性の電圧が印加されている期間中に、前記電流検出手段により検出されるイオン電流に対応した信号をプラズマ発光と同期したタイミングで取得することを特徴とする放電イオン化電流検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232071(P2011−232071A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100647(P2010−100647)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】