説明

放電ランプ点灯装置およびプロジェクタ

【課題】 プロジェクタなどの光学装置において使用される、キセノン放電ランプを点灯するための放電ランプ点灯装置において、陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、
光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避すること。
【解決手段】 出力電流変調回路は、陰極電極の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さを1ミリ秒あたり2.6A以下に制御するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プロジェクタなどの光学装置において使用される、キセノンを主成分とした放電媒質を有するショートアーク高輝度放電ランプ、所謂キセノン放電ランプを点灯するための放電ランプ点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶プロジェクタやDLP(TM)プロジェクタのような画像表示用のプロジェクタにおいては、高輝度放電ランプ(HIDランプ)が使用される。前記したプロジェクタには、ダイクロイックプリズム等により赤、緑、青すなわちR,G,Bの3原色を分離し、各色毎に設けた空間変調素子によって各3原色別の画像を発生させ、ダイクロイックプリズム等により光路を再合成してカラー画像を表示する方式のものがある。また他方では、R,G,Bの3原色の透過色を有するカラーホイールからなるフィルタを回転させ、このフィルタ、すなわち動的色フィルタに光源からの光を通すことにより各3原色の光束を順次発生させ、これに同期させて空間変調素子を制御することにより、各3原色別の画像を時間分割によって順次発生させ、カラー画像を表示する方式のものもある。
【0003】
これらのプロジェクタのための光源としては、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノン放電ランプなどの高輝度放電ランプが用いられている。しかし、色再現性が重要視される、高品位映像の用途や、映画館などの大面積画面映像の用途においては、発光スペクトルが太陽光に近似しており、かつ大電力のものが比較的実現し易いキセノン放電ランプが専ら使用されている。
【0004】
キセノン放電ランプの概略構造の一例を図12に示す。
キセノンガスを主成分とする放電空間(Es)を囲む、石英ガラス等の耐熱性の高い透明材料で作られた外囲器(10)の中で、タングステン等の耐熱性の高い導電性材料で作られた陰極電極(E1)と陽極電極(E2)が対向配置され、これら両電極間でアーク放電が生じせしめられる。点灯中は、陰極電極(E1)から発し、陽極電極(E2)に達した電子が、その運動エネルギーを熱として解放するため、陽極電極(E2)は著しく発熱する。そのため陽極電極(E2)は、太さ・長さとも、陰極電極(E1)に比して、寸法を大きくして放熱効率を上げる必要がある。陰極電極(E1)および陽極電極(E2)は、通電のため、モリブデン等の金属箔(02,04)を介して、それぞれ陰極側および陽極側の口金(03,05)に接続される。図12のランプの場合、アーク放電領域から発した光を効率的に利用するため、放物面や楕円面形状を有する凹面鏡がランプの近傍に設けられ、ライトトンネルなどの次段の光学系に導かれる。
【0005】
一方、図13に概略構造の一例を示すキセノン放電ランプは、放電空間(Es)を囲む外囲器(70)が前記した凹面鏡を兼ねるものであり、特開平09−161727号において提案されている。陰極電極(E1)は、モリブデン板などの耐熱性の高い導電性材料で作られた導電サポータ(61,62,63)を介して陰極口金(64)に接続され、陽極電極(E2)は、陽極口金(65)に直接接続される。外囲器(70)は透明性が必要無いため、アルミナ等の耐熱性の高いセラミック材料で作られるが、光取り出し窓(71)は、サファイアなどの耐熱性が高く高強度の透明材料で作られ、外囲器(70)と、陰極口金(64)および陽極口金(65)との接合面には、気密と保護のための金属カバー(66,67)が設けられる。陰極口金(64)および陽極口金(65)への給電接続は、導電性の放熱フィンを介して行われる。
【0006】
前記したキセノン放電ランプを点灯させる放電ランプ点灯装置においては、先ず、始動に際しては、ランプに無負荷開放電圧と呼ばれる電圧を印加した状態で、スタータにより高電圧を印加して放電空間内に絶縁破壊を発生させ、適当なピーク値の突入電流を供給してアーク放電に移行させて始動し、最終的に、安定な定常点灯を実現するように動作する。通常、放電ランプ点灯装置は、所定のランプ投入電力を実現するために必要な目標ランプ電流を出力できるよう、入力電源の出力をランプの放電電圧に適合させるコンバータを有している。また、ランプ電圧、すなわちコンバータの出力電圧を検出し、この情報に基づいて、例えば目標電力を検出電圧で除算した商の値によって、目標ランプ電流を決定する仕組を有している場合もある。
【0007】
ところで、前記したプロジェクタに限らず、あらゆる用途において、光源ランプは長寿命であることが望ましいことは言うまでもないが、キセノン放電ランプにおいては、その長寿命化のためには、点灯中の温度管理が重要である。ランプ各部の温度が低い方が長寿命化の点で有利に思えるかも知れないが、実際にはそれは真ではなく、最適な温度より低い場合には、逆に寿命が短くなる部分もある。
【0008】
点灯中の陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプの場合、放電に伴う陰極の消耗が抑制される効果があるために、連続点灯条件での寿命は長くなるかも知れないが、ランプの始動時にランプバルブの黒化現象が発生し、陰極電極の温度があまり低くならないように設計されたものよりもかえって寿命が短くなる問題があり、これは、点滅点灯を行うことにより、容易に確認できるものである。そのため、これまでは、点滅点灯の使用条件のもとでの寿命が最長となるように、陰極電極の温度を最適化するランプ設計が行われてきた。
【0009】
一方、表示画像の色再現性能を高いものとするためには、光源ランプのスペクトル分布と前記した動的色フィルタを用いた色順次光束への変換形態の整合が重要である。前記したカラーホイールの場合、R,G,B(場合によってはこれらに加えてWすなわち白)各色の領域の角度分布、すなわち1回転あたりの各色が透過している時間の割合を、ランプのスペクトルに合わせて設定することにより、色再現性能の向上、もしくは所望の色再現性能への改善を図ることができる。
【0010】
例えば、B成分が不足する場合は、B成分の透過領域を大きくする、すなわちB成分が透過している時間の割合を他の色よりも長くすることが有効である。しかしながら、このような方法によって色再現性能を所望のものに改善させる場合は、例えばDLP方式のプロジェクタでは、表示画像の各画素の色毎の輝度を空間変調素子の各画素の動作のデューティサイクル比で制御するため、透過している時間の割合を減じた色成分においては、画素の階調の細かな制御ができ難くなるという不都合が生じる。また、色再現特性の改変を動的に行う場合には、さらに階調の制御の細かさが損なわれることになる。
【0011】
このような不都合を解決するために、例えば、特表平08−505031号には、画像投射装置において、カラー変化手段の出力によって与えられる光ビームのカラーに同期して光源の出力パワーを変化させる光源駆動制御手段を設け、光源輝度変調を加えることが提案されている。
【0012】
また、特開平02−119005号には、回転カラーホイールの回転に同期させて、フィルタ域の色に応じて光源の発光光量を調整する照明装置が提案されている。なお、この文献は、プロジェクタではなく内視鏡装置を対象としたものであるが、光源輝度変調を加える点では、前記文献と変わりなく、したがって光源輝度変調に起因して発生する、後述する問題に関しては全く同様の状況にある。
【0013】
このように、前記した不都合を解決するためには、動的色フィルタを用いた色順次光束への変換動作に同期した、光源輝度変調が有益であることが知られていた。しかしながら、特に陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプの場合、前記した黒化現象とは別に、このような光源輝度変調のために、出力電流変調を加えた放電ランプ点灯装置によって点灯した場合にもランプバルブの黒化が発生し易くなる問題があった。
【0014】
この問題を解決するものとして、特開2007−280822号には、「放電容器にキセノンを含む放電媒質が封入され、主放電のための一対の陰極電極(E1)と陽極電極(E2)が対向配置され、少なくとも前記陰極電極(E1)が電子放射性物質を含む放電ランプ(Ld)を点灯するための放電ランプ点灯装置(Ex)であって、
前記放電ランプ点灯装置(Ex)は、始動時に高電圧を発生させて前記放電ランプ(Ld)の放電容器内に絶縁破壊を発生させるためのスタータ(Us)と、前記放電ランプ(Ld)に放電電流を供給するための給電回路(Ux)とを有し、前記給電回路(Ux)は、少なくとも定常点灯状態において前記放電ランプ(Ld)に流す電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調するための出力電流変調回路(Um)を有し、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さを1ミリ秒あたり3.9A以下に制御するとともに、前記給電回路(Ux)は、定常点灯状態の平均電流は、前記陰極電極(E1)の先端部に異形部が形成される範囲の値に設定されることを特徴とする放電ランプ点灯装置」が記載されている。
【0015】
すなわち、出力電流変調によってランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さを規定した上で、定常点灯状態の平均電流を、陰極電極(E1)の先端部に異形部が形成される範囲の値に設定することを特徴とする放電ランプ点灯装置が提案されている。しかしながら、このような放電ランプ点灯装置であっても、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定が存在すること、すなわち、ある水準のランプ電流に対して矩形的パルス電流を周期的に重畳する点灯状態を継続した場合、次にパルス電流の重畳をやめる、もしくは重畳するパルス電流の大きさを減じると、放電不安定が発生することがあることが判明した。
【0016】
この放電不安定について、具体的な応用における例を挙げると、例えば、カラーホイールのうちの1色もしくは複数色の指定した色セグメントを、放電ランプからのビームが通過するタイミングに同期して出力電流変調を行ってランプ電流を増強することにより、プロジェクタ映像において特定の色を強調補正して投影する動作を続けた後、夜景のような暗い映像を投影するために、出力電流変調を停止もしくは弱くしてランプ電流の増強を弱めた場合に、放電不安定が発生し、プロジェクタ映像にチラツキが現れる場合がある。このチラツキは、その点灯条件のまま点灯を継続することにより、普通は、数十秒から数分間で次第に消失するが、映像の鑑賞者にとっては、非常に目障りで、改善が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平09−161727号
【特許文献2】特表平08−505031号
【特許文献3】特開平02−119005号
【特許文献4】特開2007−280822号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、キセノン放電ランプ、特に陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、前記したように、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することを達成した放電ランプ点灯装置およびプロジェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記した放電不安定が生じる原因を調査するため、実際に放電不安定が生じていたランプを破壊して電極を取り出し、走査電子顕微鏡を用いて詳細の観察を行ったところ、その放電ランプ(Ld)の陰極電極(E1)の先端において、放電時のアークスポットが存在していた痕跡の内部または周辺部に、複数の微小突起が生じていることが判明した。なお、この微小突起の典型的な大きさは、直径が20〜60μm、高さが20〜50μmで、肉眼では視認困難なものであった。
【0020】
一般に放電現象は、必ずしも陰極と陽極の最短経路に沿って発生する訳では無いが、特にアーク放電時における陰極に関して言えば、熱電子放出に足る温度に達している限り、微小突起部のような、陽極に近い箇所からの放電が優勢になり易い。しかし、いまの場合、アークスポットにおいて微小突起が複数あるため、それぞれの微小突起の間で優勢な放電を引き寄せる作用の競合が発生し、放電不安定が発生すると考えられる。
【0021】
したがって、前記放電不安定を回避するためには、前記したように、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続した場合においても、前記した陰極電極(E1)の先端における放電時のアークスポットの内部または周辺部に複数の微小突起が生じることを防止できればよいことが判る。
【0022】
本発明の発明者らは、ある基準レベルのランプ電流に対して矩形的パルス電流を周期的に重畳する点灯状態を継続する際の、重畳するパルス部における、ランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さ、すなわち電流上昇速度、およびランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さ、すなわち電流下降速度が設定した値となる出力電流変調波形が生成されるようにして、重畳するパルス部の電流値が小さい値(前記基準レベルの約5%)の点灯、および大きい値(前記基準レベルの約28%)の点灯、さらにパルス電流を重畳しない点灯の3種類の点灯を短期間毎に繰り返す稼動モードを基本に、重畳するパルス部の電流値が大きい値で所定期間継続する稼動モードと所定時間だけ消灯する稼動モードを一定期間毎に挿入する試験稼動を、1〜2日間に亘って継続する模擬実働試験を、重畳するパルス部の電流上昇速度および電流下降速度の種々の値に対して実施した。なお、前記したランプ電流の基準レベルとして、定格の80〜90%に設定し、また、重畳するパルス部の電流値が大きい値の場合については、そのときの平均電流が定格平均電流の100%になるよう、重畳パルスのデューティ比を設定した。
【0023】
その結果、陰極電極の断面積1平方ミリメートルあたりの電流上昇速度を、1ミリ秒あたり3.9Aとした条件のもとで、陰極電極の断面積1平方ミリメートルあたりの電流下降速度を振って、それが、1ミリ秒あたり3.9Aのものでは放電不安定が生じ、また明らかに有害と思われる複数の微小突起が形成され、1ミリ秒あたり2.6Aのものでは放電不安定は生じないが、多少の複数の微小突起が形成され、さらに1ミリ秒あたり1.6Aのものでは、放電不安定は生じず、また有害と思われる複数の微小突起は形成されないことが判明した。
【0024】
なお、重畳するパルス部の電流下降速度を制限することにより複数の微小突起の形成が抑制される理由は定かではないが、アークスポットの面積は、概ね放電電流に比例すると考えて良く、そのため、重畳するパルス部の電流下降速度が大き過ぎると、アークスポットの面積が一定のまま、全体として電流密度が下がるため、パルスが重畳されない、電流が低い水準の期間においてアークスポット内の電流密度の不均一が生じて、温度分布のムラが発生するため、次に、パルス電流が重畳されたときに、温度が高かった箇所に選択的に電流が流れて陰極材料であるタングステンが局所的に溶融し、表面張力によって盛り上がって微小突起が形成されるが、前記したように、温度分布のムラがあるため、複数の微小突起が生成されることが考えられる。
【0025】
これとは反対に、重畳するパルス部の電流下降速度が小さいと、電流下降の進行に伴ってアークスポットの面積が徐々に収縮し、パルスが重畳されない、電流が低い水準の期間に達するとその期間での電流の大きさに見合ったアークスポットの面積が自動的に実現されるため、アークスポット内の電流密度の不均一が生じず、温度分布のムラが発生し難いため、次に、パルス電流が重畳されたときにも、選択的に電流が流れて陰極材料であるタングステンが局所的に溶融する箇所が出来難く、したがって微小突起が形成される作用が抑制されると推測される。
【0026】
このように考えると、点灯中の陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプにおいて重畳するパルス部の電流下降速度が大き過ぎると、複数の微小突起の形成による放電不安定が生ずる理由も説明できる。すなわち、前記したように、重畳するパルス部の電流下降速度が大き過ぎると、パルスが重畳されない、電流が低い水準の期間においてアークスポット内の電流密度の不均一が生じるが、それと同時に、陰極電極先端部から急速に熱が逃げて行くため、温度分布のムラが発生し易く、よって複数の微小突起が生成され易くなると理解できる。
【0027】
また、前記した、電流下降速度を振った模擬実働試験の結果において、放電不安定が生じなかった条件では、ランプ電圧の波形において、アンダーシュートが生じないことが判明している。図11は、出力電流変調を行っているときの、前記放電ランプ(Ld)の電圧および電流の波形を、例えばオシロスコープを用いて観測したときの様子を模式的に示すもので、(a)はランプ電圧(VL)の波形、(b)はランプ電流(IL)の波形であり、前記した基準レベルのランプ電流に、前記した小さい値のパルス電流を周期的に重畳している状態にあるとき、時刻(t1)以降において、重畳するパルス電流を、前記した大きい値に変更した場合の様子を描いてある。
【0028】
図11に示したように、ランプ電圧(VL)の波形には、重畳するパルス部におけるランプ電流の大きさが増加するときにはオーバーシュート(Pov)が、また重畳するパルス部におけるランプ電流の大きさが減少するときにはアンダーシュート(Pun)が生じ得る。ただし、これらのオーバーシュート(Pov)やアンダーシュート(Pun)は、前記時刻(t1)からの時間の経過とともに減少して行く。前記したように、放電不安定が生じなかった条件では、前記時刻(t1)の直後においても、ランプ電圧(VL)のアンダーシュート(Pun)が生じないため、これを、ランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さが適正であることの証として理解することができる。
【0029】
逆に、この速さが不適正であると、このようなランプ電圧(VL)のアンダーシュート(Pun)が生じる理由は定かではないが、重畳するパルス部の電流下降速度が大き過ぎると、電流が下降する過程、および電流が下降し切ったときに、その時点での熱電子放出可能なアークスポットの面積が、電流全体の大きさに見合う面積よりも過剰になって、プラズマの導電率が一時的に異常に大きくなり、その結果、ランプ電圧(VL)のアンダーシュート(Pun)が生じるものと推測している。
【0030】
一方、前記した模擬実働試験の他の結果として、陰極電極の断面積1平方ミリメートルあたりの電流下降速度を、1ミリ秒あたり2.6Aとした条件のもとで、陰極電極の断面積1平方ミリメートルあたりの電流上昇速度を振って、それが、1ミリ秒あたり3.0Aのものでは、放電不安定は生じず、また有害と思われる複数の微小突起は形成されないことが判明した。
【0031】
このように、重畳するパルス部の電流上昇速度を制限することにより複数の微小突起の形成が抑制される理由についても定かではないが、重畳するパルス部の電流上昇速度が小さいと、前記した、パルス電流が重畳されたときに、温度が高かった箇所に選択的に電流が流れて陰極材料であるタングステンが局所的に溶融し、表面張力によって盛り上がって微小突起が形成される作用が弱められることが推測される。
【0032】
また、前記した、電流上昇速度を振った模擬実働試験の結果において、放電不安定と複数の微小突起が生じなかった条件では、前記時刻(t1)の直後においても、図11に示したような、ランプ電圧(VL)のオーバーシュート(Pov)が生じないことが判明しており、これを、ランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さが適正であることの証として理解することができる。
【0033】
逆に、この速さが不適正であると、このようなランプ電圧(VL)のオーバーシュート(Pov)が生じる理由は定かではないが、重畳するパルス部の電流上昇速度が大き過ぎると、電流が上昇する過程、および電流が上昇し切ったときに、その時点での熱電子放出可能なアークスポットの面積が、電流全体の大きさに見合う面積よりも不足するため、電圧の高いグロー放電を、部分的にでも発生させることによって電流を補わざるを得なくなり、その結果、ランプ電圧(VL)のオーバーシュート(Pov)が生じるものと推測している。
【0034】
なお、前記した、陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプの実現に関しては、陰極電極の冷却構造を含めてランプを設計すればよい。具体的には、図12に記載のキセノン放電ランプにおいては、例えば陰極電極(E1)の長さを長くする、あるいは、太さを増した放熱部(01)を設けたり、また、図13に記載のキセノン放電ランプにおいては、例えば導電サポータ(61,62,63)の寸法を調節するなどにより、最適温度が実現されるように構造設計することができる。
【0035】
因みに、前記した特開2007−280822号公報に記載されている、陰極電極(E1)の先端部に形成される異形部について、同公報では、「全体的な先細り形状から逸脱して出張る部分やコブ状の突起、あるいは先端での複数分枝への分裂」と説明されているが、これは、本発明で言及している前記微小突起とは異なり、巨視的に視認可能なものであって、前記した放電不安定の原因とはならない。
【0036】
したがって、対象とする放電ランプ(Ld)の特徴にも配慮した上で、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することのできる放電ランプ点灯装置(Ex)を構成する戦略とは、以下のようになる。
すなわち、放電容器にキセノンを含む放電媒質が封入され、主放電のための一対の陰極電極(E1)と陽極電極(E2)が対向配置された放電ランプ(Ld)であって、かつ定格平均電流より低い水準のランプ電流に対して、周期的に矩形的パルス電流重畳を行う点灯状態を継続すると、陰極電極(E1)の先端における、放電時のアークスポット部の内部または周辺部に、複数の微小突起が生じる放電ランプ(Ld)を点灯するための放電ランプ点灯装置(Ex)であって、
前記放電ランプ点灯装置(Ex)は、始動時に高電圧を発生させて前記放電ランプ(Ld)の放電容器内に絶縁破壊を発生させるためのスタータ(Us)と、前記放電ランプ(Ld)に放電電流を供給するための給電回路(Ux)とを有し、前記給電回路(Ux)は、少なくとも定常点灯状態において前記放電ランプ(Ld)に流す電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調するための出力電流変調回路(Um)を有し、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さを1ミリ秒あたり2.6A以下に制御するように構成する。
以上に基づき、本発明においては、次のようにして課題を解決する。
【0037】
本発明における第1の発明の放電ランプ点灯装置は、放電容器にキセノンを含む放電媒質が封入され、主放電のための一対の陰極電極(E1)と陽極電極(E2)が対向配置された放電ランプ(Ld)を点灯するための放電ランプ点灯装置(Ex)であって、
前記放電ランプ点灯装置(Ex)は、始動時に高電圧を発生させて前記放電ランプ(Ld)の放電容器内に絶縁破壊を発生させるためのスタータ(Us)と、前記放電ランプ(Ld)に放電電流を供給するための給電回路(Ux)とを有し、前記給電回路(Ux)は、少なくとも定常点灯状態において前記放電ランプ(Ld)に流す電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調するための出力電流変調回路(Um)を有し、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さを1ミリ秒あたり2.6A以下に制御することを特徴とするものである。
【0038】
本発明における第2の発明の放電ランプ点灯装置は、前記出力電流変調回路(Um)は、ランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さをランプ電圧のアンダーシュートが生じない速さに制限することを特徴とするものである。
【0039】
本発明における第3の発明の放電ランプ点灯装置は、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さを1ミリ秒あたり3.0A以下に制御することを特徴とするものである。
【0040】
本発明における第4の発明の放電ランプ点灯装置は、前記出力電流変調回路(Um)は、ランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さをランプ電圧のオーバーシュートが生じない速さに制限することを特徴とするものである。
【0041】
本発明における第5の発明のプロジェクタは、放電ランプにより発生された光束(Ox1)を動的色フィルタ(Of)により色順次光束(Ox2)に変換し前記色順次光束(Ox2)を利用して画像を投影表示するプロジェクタであって、前記放電ランプ(Ld)を始動し点灯するための放電ランプ点灯装置が請求項1から4に記載の放電ランプ点灯装置(Ex)であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0042】
陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、ランプ電流の変化の速さが緩やかになるため、陰極電極(E1)の先端における放電時のアークスポットの内部または周辺部に複数の微小突起が生じることを防止できるため、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することを達成した放電ランプ点灯装置およびプロジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の放電ランプ点灯装置の一形態を簡略化して示すブロック図を表す。
【図2】本発明の放電ランプ点灯装置の一形態を簡略化して示すブロック図を表す。
【図3】本発明のプロジェクタの一形態を簡略化して示すブロック図を表す。
【図4】本発明の放電ランプ点灯装置の一部の一形態を簡略化して示す図を表す。
【図5】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の一形態を簡略化して示す図を表す。
【図6】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の一形態の簡略化して示す図を表す。
【図7】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の一形態の簡略化して示す図を表す。
【図8】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の一形態の簡略化して示す図を表す。
【図9】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の動作の一形態を簡略化して示すタイミング図を表す。
【図10】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の一部の一形態を簡略化して示す図を表す。
【図11】本発明の放電ランプ点灯装置の実施例の動作の一形態を簡略化して示す図を表す。
【図12】本発明の放電ランプ点灯装置に係わるランプ一種の構造を説明する概念図を表す。
【図13】本発明の放電ランプ点灯装置に係わるランプ一種の構造を説明する概念図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
先ず、本発明の放電ランプ点灯装置を簡略化して示すブロック図である図1を用いて、本発明を実施するための形態について説明する。
図1において、放電ランプ(Ld)の始動時に絶縁破壊を発生させるためのスタータ(Us)が、前記放電ランプ(Ld)に直列に接続され、これらに対し、放電電流を供給するための給電回路(Ux)が接続されている。なお、前記スタータ(Us)は、30kV程度の高電圧を発生する必要があるために放射ノイズを発生し易く、そのため、ノード(T31,T32)よりランプ側の部分を、他の部分とは分離して放電ランプ点灯装置(Ex)を構成することが望ましい場合がある。
【0045】
前記放電ランプ(Ld)に流れる電流を検出するために設けたランプ電流検出手段(Ix)からのランプ電流検出信号(Si)は、この信号を後段の回路に必要な信号強度と整合するよう変換するために設けた、バッファや増幅器などのランプ電流検出信号変換回路(Ai)によってランプ電流相関信号(Sj)に変換される。一方、前記放電ランプ(Ld)に流す電流の目標値大きさを示すランプ電流目標信号(St)は、出力電流変調回路(Um)において生成される。前記ランプ電流相関信号(Sj)と前記ランプ電流目標信号(St)とは、これら両者の差異が小さくなるように、前記給電回路(Ux)をフィードバック制御するための給電能力制御回路(Ud)に入力される。前記給電能力制御回路(Ud)は、例えばデューティサイクル比変調されたゲート駆動信号(Sg)を生成し、前記給電回路(Ux)に対して入力する。
【0046】
前記出力電流変調回路(Um)には、変調信号(Sm)が入力され、これに従って前記ランプ電流目標信号(St)に変調を加える。ここで、前記変調信号(Sm)は2値の論理信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の真・偽によって、前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加える・加えないの別を指定するようなものや、あるいは、前記変調信号(Sm)はアナログ信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の大きさに連続的に相関させた量だけ前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加えるようなものでもよい。さらには、前記変調信号(Sm)は複数本の信号線からなる多ビットのディジタル数値データであって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の数値データ値の大きさに相関させた量だけ前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加えるようなものでもよい。そして、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さが1ミリ秒あたり2.6A以下になるよう、前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さを限定して出力する。
【0047】
これを実現するためには、最も簡単には、前記出力電流変調回路(Um)の応答速度を調整して遅くする構成とすればよく、そうした場合は、前記変調信号(Sm)の変化速さによらず、前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さが限定して出力される。実際、前記した、変調信号(Sm)は2値の論理信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の真・偽によって、前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加える・加えないの別を指定するものの場合は、このような構成が必要になる。ただし、前記したランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さは、前記給電回路(Ux)の応答速度や前記給電能力制御回路(Ud)の応答速度の影響をも受けるため、前記出力電流変調回路(Um)の応答速度を調整する際は、実験的に決定するのがよい。
【0048】
一方、前記した、変調信号(Sm)はアナログ信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の大きさに連続的に相関させた量だけ前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加えるものや、前記した、変調信号(Sm)は複数本の信号線からなる多ビットのディジタル数値データであって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の数値データ値の大きさに相関させた量だけ前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加えるものの場合は、同様に前記出力電流変調回路(Um)の応答速度を調整して遅くするものとしてもよいし、あるいは、前記変調信号(Sm)それ自体が、変化速度が限定された信号として生成され、前記出力電流変調回路(Um)に入力されることにより、前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さが1ミリ秒あたり2.6A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にアンダーシュート(Pun)が生じないよう、あるいはさらに、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さが1ミリ秒あたり3.0A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にオーバーシュート(Pov)が生じないよう、前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さを限定して出力するものとしてもよい。
【0049】
以上のように構成したことにより、図1の放電ランプ点灯装置は、陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、ランプ電流の変化の速さが緩やかになるため、陰極電極(E1)の先端における放電時のアークスポットの内部または周辺部に複数の微小突起が生じることを防止できるため、、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することを達成した放電ランプ点灯装置を提供することができる。
【0050】
次に、本発明の放電ランプ点灯装置を簡略化して示すブロック図である図2を用いて、本発明を実施するための形態について説明する。
先に、図1に基づいて説明した放電ランプ点灯装置は、ランプ電流の定電流制御を基本とするもの、および定電流制御を基本として出力電流変調を加えるものであった。これをランプ電力の定電力制御を基本とするものとすることもできる。
【0051】
図2に記載の放電ランプ点灯装置においては、ランプ電圧(VL)を検出しランプ電圧検出信号(Sv)を生成するためのランプ電圧検出手段(Vx)を設け、ランプ電流目標信号生成回路(Up)は、前記ランプ電圧検出信号(Sv)を受けて、所定のランプ電力目標値を実現するためのランプ電流目標信号(St)を生成する。ここで、前記ランプ電流目標信号生成回路(Up)は、例えば所定のランプ電力目標値を前記ランプ電圧検出信号(Sv)の値で除算することによりランプ電流目標信号(St)を生成する。このための回路構成としては、例えば、前記ランプ電流目標信号生成回路(Up)はマイクロプロセッサを用いて構成され、前記ランプ電圧検出信号(Sv)をAD変換して値によって、前記した除算演算を実行し、DA変換によってランプ電流目標信号(St)を生成するように構成すればよい。
【0052】
一方、変調信号(Sm)が入力される出力電流変調回路(Um)は、前記放電ランプ(Ld)に流れる電流を検出するために設けたランプ電流検出手段(Ix)からのランプ電流検出信号(Si)を変換するためのランプ電流検出信号変換回路(Ai)に対して作用するように構成し、前記ランプ電流検出信号変換回路(Ai)は、前記ランプ電流検出信号(Si)を、前記変調信号(Sm)に従って変調されたランプ電流相関信号(Sj)に変換するように構成することが好適である。前記ランプ電流目標信号生成回路(Up)には、前記変調信号(Sm)は入力されておらず、また、キセノン放電ランプの場合、ランプ電流(IL)が変化しても、ランプ電圧(VL)の変化は僅少であるため、前記ランプ電流目標信号生成回路(Up)は、前記変調信号(Sm)の状態と無関係に、所定のランプ電力目標値を実現するためのランプ電流目標信号(St)を生成する動作を継続する。しかし、給電能力制御回路(Ud)には、前記変調信号(Sm)に従って変調されたランプ電流相関信号(Sj)が入力されるため、結果的に、給電回路(Ux)は、前記変調信号(Sm)に従う変調の影響を受けてフィードバック制御される。
【0053】
ただし、ランプ電流(IL)が変化したときのランプ電圧(VL)の僅少な変化による電力制御の擾乱を嫌う場合は、ランプ電圧(VL)の取得タイミングを、特定の変調状態にある場合に限定するとよい。ここでいう特定の変調状態とは、前記変調信号(Sm)が2値の論理信号である場合は、例えば、それが真のである状態、あるいは前記変調信号(Sm)がアナログ信号である場合や、多ビットのディジタル数値データである場合は、例えば、その値が規定の範囲内にある状態などを指す。このような特定の変調状態が生じる頻度が低く、ランプ電圧取得の頻度が過ぎて、正常に電力制御できないことが心配されるかも知れないが、アーク放電に移行後の安定点灯時ランプ電圧は、もし出力電流変調を加えなければ、電極消耗に起因した寿命進行に伴う、極めてゆっくりした変化しかしないため、ランプ電圧取得の頻度が低くても問題は無い。
【0054】
図3は、本発明のプロジェクタの一つの形態を簡略化して示すブロック図である。
本発明の放電ランプ点灯装置(Ex)によって始動・点灯される放電ランプ(Ld)から発せられた光束(Ox1)は、必要に応じて設けられる、凹面鏡や集光レンズ等を含むコンデンサ光学系(Oc)を通過した光束(Ox1’)を経て、回転カラーホイールなどの動的色フィルタ(Of)により色順次光束(Ox2)に変換される。前記色順次光束(Ox2)は、DMD(TM)やLCD、LCOS(反射型の液晶表示パネル)などを用いた空間変調素子(Oi)によって色順次の画像光束(Ox3)に変調され、投影レンズ(Op)によって、プロジェクタと一体の、あるいはプロジェクタの外部に設けられたスクリーン(Os)に投影画像が形成される。
【0055】
プロジェクタの画像処理部(Ox)は、ロータリエンコーダなどの動的色フィルタ(Of)が発現している色情報に対応するセンサからの信号(Soc)に基づいて、前記変調切換タイミング信号(So)を生成し、変調信号生成部(Om)は、これに基づいて変調信号(Sm)を生成して放電ランプ点灯装置(Ex)に送信し、出力電流変調による光源輝度変調が加えられるように構成される。前記放電ランプ(Ld)は本発明の放電ランプ点灯装置(Ex)によって点灯されるため、陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することを達成したプロジェクタを提供することが可能となる。
【0056】
以下において、発明を実施するための形態について、より具体的な構成を示した図面を用いて説明する。
先ず、図4、図5、図6、図7、図8に記載の回路から構成される放電ランプ点灯装置について説明する。図4は、給電回路(Ux)の構成の一例について、簡略化して示す図である。給電回路(Ux)は、商用電源を整流し高調波電流低減用アクティブフィルタを含む、所謂PFC等を用いて構成されたDC電源(Mx)より電圧の供給を受けて動作し、放電ランプ(Ld)への給電量調整を行う。本図の給電回路(Ux)は、一例として、フルブリッジ方式のインバータにより、トランス(Ty)の1次側巻線(Py)を駆動する方式のコンバータを描いてあるが、他の方式の回路、例えばフォワードコンバータや降圧チョッパなどによって構成することもでき、コンバータの方式は、本発明の本質とは無関係である。
【0057】
インバータは、FET等のスイッチ素子(Q1,Q2,Q3,Q4)を用いたフルブリッジ回路により構成してある。 それぞれのスイッチ素子(Q1,Q2,Q3,Q4)は、それぞれのゲート駆動回路(G1,G2,G3,G4)により駆動され、前記ゲート駆動回路(G1,G2,G3,G4)は、一方の対角要素の前記スイッチ素子(Q1)と前記スイッチ素子(Q3)がオン状態の位相においては、他方の対角要素の前記スイッチ素子(Q2)と前記スイッチ素子(Q4)はオフ状態に維持され、逆に他方の対角要素の前記スイッチ素子(Q2)と前記スイッチ素子(Q4)がオン状態の位相においては、一方の対角要素の前記スイッチ素子(Q1)と前記スイッチ素子(Q3)はオフ状態に維持されるよう、ゲート駆動信号(Sg)を受けてインバータ制御回路(Uf)により生成されるインバータ制御信号(Sf1,Sf2)により制御される。前記した2つの位相の切換えを行うときは、前記スイッチ素子(Q1,Q2,Q3,Q4)の全てがオフ状態になる、デッドタイムと呼ばれる期間が挿入される。フルブリッジインバータ動作の1周期の時間長さに対する、デッドタイムを除いた時間長さの比、すなわちデューティサイクル比が大きくなるほど、前記トランス(Ty)の1次側から2次側への電力伝達が増加する。
【0058】
なお、前記スイッチ素子(Q1,Q2,Q3,Q4)が例えばMOSFETである場合は、ソース端子からドレイン端子に向かって順方向となる寄生ダイオードが素子自体に内蔵されている(図示を省略)が、バイポーラトランジスタのような、前記寄生ダイオードが存在しない素子の場合は、前記した位相の切換え時、またはデッドタイムの期間において、インバータ(Ui)の後段に存在しているインダクタンス成分に起因する誘導電流が流れようとすることにより、逆電圧の発生により素子が破損される恐れがあるため、前記寄生ダイオードに相当するダイオードを、逆並列に接続することが望ましい。
【0059】
前記トランス(Ty)の主2次側巻線(Sy1)の出力は、ダイオードブリッジ(Dy1)により整流され、平滑コンデンサ(Cy1)とチョークコイル(Ly)によって低リプル化されて、ノード(T21,T22)を介して、放電ランプ(Ld)のアーク放電電流を供給する。一方、前記トランス(Ty)の補助2次側巻線(Sy2)は、前記主2次側巻線(Sy1)よりも巻数を大きく設定することにより、始動前の放電ランプ(Ld)に無負荷解放電圧を印加するための、比較的高い電圧を出力し、ダイオードブリッジ(Dy2)および抵抗(Ry2)を介して前記平滑コンデンサ(Cy1)に電荷を充電する。スタータ(Us)が動作して、放電ランプ(Ld)が始動し、アーク放電電流が流れ始めると、前記抵抗(Ry2)が存在することにより前記補助2次側巻線(Sy2)は有意な電流を流せないため、次に始動するまで休止する。
【0060】
なお、図1においては、ランプ電流検出信号(Si)を生成するためのランプ電流検出手段(Ix)は、給電回路(Ux)の外に設けるように図示してあったが、放電ランプ(Ld)のアーク放電への移行時のランプ電圧の急激な低下時に、前記平滑コンデンサ(Cy1)からの放電により供給される大きな突入電流が流れる経路に前記ランプ電流検出手段(Ix)を設置すると、前記ランプ電流検出信号(Si)にそれが現れ、その後段の給電能力制御回路(Ud)がそれに反応してランプ電流を抑制するようにフィードバック動作を行い、突入電流が終了したときに放電の立消えを誘発する可能性があるため、実際的な回路においては、図4に示したもののように、突入電流が流れる経路に前記ランプ電流検出手段(Ix)を設置しないものの方が望ましい。因みに、前記チョークコイル(Ly)は、放電の立消えが発生もしくは発生し始めて、ランプ電流が停止もしくは低下したときに、その誘導作用によって高い電圧を発生し、立ち消えを防止する機能を有している。
【0061】
前記インバータ制御回路(Uf)の構成の一例について、図5に簡略化して示す。給電能力制御回路(Ud)から送られるゲート駆動信号(Sg)は、Dフリップフロップ(Fe1)のクロック信号入力端子に入力され、その出力信号(Se1)、およびその論理反転の出力信号(Se2)は、前記ゲート駆動信号(Sg)の立ち下がりの度に反転する。前記出力信号(Se1,Se2)は、それぞれ前記ゲート駆動信号(Sg)とともに論理積ゲート(Ge1,Ge2)に入力され、前記ゲート駆動信号(Sg)のデューティサイクル比に応じて前記フルブリッジインバータを駆動するための前記インバータ制御信号(Sf1,Sf2)を生成する。
【0062】
図6は、給電能力制御回路(Ud)の構成の一例について、簡略化して示す図である。
ランプ電流目標信号(St)は、コンバータ駆動目標信号(Sd2)として、抵抗(Rd2)と抵抗(Rd3)で分圧されて、演算増幅器(Ade)の反転入力端子に入力される。一方、ランプ電流相関信号(Sj)は、前記演算増幅器(Ade)の非反転入力端子に入力される。そして、前記演算増幅器(Ade)の出力信号(Sd1)は、積分コンデンサ(Cd1)とスピードアップ抵抗(Rd6)を介して反転入力端子にフィードバックされているため、前記演算増幅器(Ade)は、前記コンバータ駆動目標信号(Sd2)の抵抗(Rd2)と抵抗(Rd3)による分圧電圧に対する、前記ランプ電流相関信号(Sj)の電圧の差を積分する、誤差積分回路としてはたらく。
【0063】
時定数を決めるための抵抗(Rd0)とコンデンサ(Cd0)が接続された発振器(Osc)は、図9のaに示すような鋸歯状波信号(Sd0)を発生し、この鋸歯状波信号(Sd0)と、前記誤差積分回路の出力信号(Sd1)とは、比較器(Cmg)で比較される。ただし比較に際しては、前記誤差積分回路の出力信号(Sd1)に対してオフセット電圧(Vd4)を加えた信号(Sd8)と前記鋸歯状波信号(Sd0)とが比較される。
前記鋸歯状波信号(Sd0)の電圧が前記信号(Sd8)の電圧よりも高い期間においてハイレベルとなる前記ゲート駆動信号(Sg)が生成され、前記給電能力制御回路(Ud)から出力される。
【0064】
前記したように、前記信号(Sd8)は誤差積分回路の出力信号(Sd1)にオフセットを加えたものであるため、前記誤差積分回路の出力信号(Sd1)が仮に零であったとしても、前記ゲート駆動信号(Sg)のデューティサイクル比は、100%より小さいある最大値、すなわち最大デューティサイクル比以下になるように構成されている。図9の(a)および(b)には、前記誤差積分回路の出力信号(Sd1)、およびこれに対してオフセットを加えた信号(Sd8)、前記鋸歯状波信号(Sd0)と前記ゲート駆動信号(Sg)の関係が示されている。
【0065】
前記給電能力制御回路(Ud)から出力された前記ゲート駆動信号(Sg)が、前記インバータ制御回路(Uf)に入力されることにより、結果として、前記ランプ電流相関信号(Sj)が、前記フルブリッジインバータの動作にフィードバックされたフィードバック制御系が完成する。
【0066】
図7は、出力電流変調回路(Um)の構成の一例について、簡略化して示す図である。
適当な電圧を有する電圧源(Vm)の出力は、抵抗(Rs)を介して演算増幅器(A00)の反転入力端子に接続される。前記演算増幅器(A00)の出力であるランプ電流目標信号(St)は、抵抗(Rf0)およびこれと並列のコンデンサ(Cf0)を介して前記反転入力端子にフィードバックされているため、前記演算増幅器(A00)は、前記抵抗(Rs)の抵抗値に依存して前記電圧源(Vm)の電圧に比例した成分を有する前記ランプ電流目標信号(St)を生成する。
【0067】
この図においては、変調信号(Sm)は、3ビットの変調データ(M0,M1,M2)からなる場合を示している。前記変調データ(M0,M1,M2)のそれぞれのビットの真と偽に対応してオン状態とオフ状態が制御されるスイッチ素子(Z0a,Z1a,Z2a)に対し、スイッチ素子(Z0b,Z1b,Z2b)のベースにはインバータ(I0,I1,I2)が挿入されているため、スイッチ素子(Z0a)とスイッチ素子(Z0b)とは一方がオン状態であれば他方はオフ状態に、スイッチ素子(Z1a)とスイッチ素子(Z1b)とは一方がオン状態であれば他方はオフ状態に、スイッチ素子(Z2a)とスイッチ素子(Z2b)とは一方がオン状態であれば他方はオフ状態に、それぞれなる。
【0068】
抵抗(R01,R02,R03,R04,R05,R06)からなるラダー抵抗ネットワーク(RA0)の、抵抗(R02)、抵抗(R04)、抵抗(R06)には、それぞれ前記スイッチ素子(Z0a,Z0b)、スイッチ素子(Z1a,Z1b)、スイッチ素子(Z2a,Z2b)が接続され、前記スイッチ素子(Z0a,Z1a,Z2a)を流れた電流は、前記演算増幅器(A00)の反転入力端子に接続されているため、DA変換回路の理論が教えるところにより、前記変調データ(M0,M1,M2)のディジタル値に依存して、前記電圧源(Vm)の電圧に比例した成分を有する前記ランプ電流目標信号(St)を生成する。
ただし、抵抗(R01,R02,R04,R06)の抵抗値は全て等しく、この抵抗値に対して抵抗(R03,R05)の抵抗値を半分にする。なおここでは、一例として3ビットの場合を示したが、必要に応じてビット数を増減して同様に構成することができる。当然ながら、ここで述べた回路については、DA変換用のICを用いて構成することができる。
【0069】
以上の構成により、前記ランプ電流目標信号(St)は、前記した前記抵抗(Rs)の抵抗値に依存した基本値に対して、前記変調データ(M0,M1,M2)のディジタル値に依存する値が重畳されたものとして生成される。ただし、前記変調データ(M0)が最下位ビット、前記変調データ(M2)が最上位ビットとなる。変調の深さ、すなわち、最大変調時の前記ランプ電流目標信号(St)の値に対して、最大変調時と最小変調時との前記ランプ電流目標信号(St)の値の差について、その比をとったものは、前記抵抗(Rs)の抵抗値によって設定することができる。また、最大変調時の前記ランプ電流目標信号(St)の値は、前記電圧源(Vm)の出力電圧によって設定することができる。
【0070】
そして、図7の出力電流変調回路(Um)の応答速度については、前記変調データ(M0,M1,M2)のディジタル値が増加することにより前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さが1ミリ秒あたり2.6A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にアンダーシュート(Pun)が生じないよう、あるいはさらに、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さが1ミリ秒あたり3.0A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にオーバーシュート(Pov)が生じないよう、前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さを限定して出力することができるように、前記コンデンサ(Cf0)の静電容量の値を設定すればよく、この静電容量を大きくするほど、変化の速さは遅くなる。
【0071】
前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さを限定して出力することを実現するためには、前記出力電流変調回路(Um)の応答速度を遅くする以外にも、前記した、変調信号(Sm)それ自体が、変化速度が限定された信号として生成され、前記出力電流変調回路(Um)に入力されるようにすることが可能である。前記変調信号(Sm)が多ビットのディジタル数値データであるから、前記変調データ(M0,M1,M2)を増加させるときは、ある値から他の値まで直接に増加させるのではなく、例えば、適当な時間間隔ごとに1LSBづつ増加させるようする方法によってもよい。
【0072】
ここでは、多ビットのディジタル数値データである前記変調信号(Sm)が、パラレルの前記変調データ(M0,M1,M2)として前記出力電流変調回路(Um)に入力される場合を記載したが、これがシリアル通信によって入力されるようにしてもよい。さらに、例えば、汎用の非同期シリアル通信インターフェイス(UART)などを介したコマンドとして、例えば、ASCIIなどの文字コード化で表現された数値情報によって前記変調信号(Sm)が入力されるように構成することもできる。
【0073】
図8は、出力電流変調回路(Um)の構成の一例について、簡略化して示す図である。
本図においては、変調信号(Sm)はアナログ信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の大きさに連続的に相関させた量だけ前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加えるものである。前記変調信号(Sm)は、必要に応じて設けられるインピーダンス整合用の抵抗(R10)と、必要に応じて設けられる演算増幅器(A10)による非反転バッファにより受信される。前記演算増幅器(A10)を通過した前記変調信号(Sm)は、ダイオード(D11)と抵抗(R11)との直列子と、前記ダイオード(D11)とは逆向きのダイオード(D12)と抵抗(R12)との直列子とが並列接続された回路を介してコンデンサ(C10)に流れ込む。
【0074】
このように構成したことにより、前記コンデンサ(C10)に現れる電圧は、前記変調信号(Sm)が、その上昇速度と下降速度とを、前記抵抗(R11)と前記抵抗(R12)とによって独立に規定されて変換された信号として観測される。この信号は、必要に応じて設けられる演算増幅器(A11)による非反転バッファを通じ、抵抗(Rt)を介して演算増幅器(A13)の反転入力端子に接続される。また、前記変調信号(Sm)がゼロの場合にもオフセット的に存在する、前記ランプ電流目標信号(St)の最小値を与えるために設ける、適当な電圧を有する電圧源(Vm’)の出力は、抵抗(Rs’)を介して前記演算増幅器(A13)の反転入力端子に接続される。
【0075】
このような構成によって、前記電圧源(Vm’)の電圧と前記コンデンサ(C10)の電圧との和が演算され、前記演算増幅器(A13)の出力信号として、ランプ電流目標信号(St)が生成される。ただし、前記電圧源(Vm’)の電圧と前記コンデンサ(C10)の電圧との和の演算に際しては、前記抵抗(Rt)と前記抵抗(Rs’)の値により、重みを設定することができる。また、フィードバック用の抵抗(Rf1)の値により、前記演算増幅器(A13)による反転増幅器のゲインを設定することができる。
【0076】
以上述べたように構成したことにより、図8の前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の上昇速度と下降速度とを、独立に制限した信号として前記ランプ電流目標信号(St)を生成することができる。よって、この出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さが1ミリ秒あたり2.6A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にアンダーシュート(Pun)が生じないよう、あるいはさらに、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さが1ミリ秒あたり3.0A以下になるよう、またはランプ電圧(VL)にオーバーシュート(Pov)が生じないよう、前記ランプ電流目標信号(St)の変化速さを限定して出力することができる。
【0077】
なお、前記した、変調信号(Sm)は2値の論理信号であって、前記出力電流変調回路(Um)は、前記変調信号(Sm)の真・偽によって、前記ランプ電流目標信号(St)を高める変調を加える・加えないの別を指定するものの場合には、図8の前記出力電流変調回路(Um)において、前記演算増幅器(A10)をコンパレータに置き換えると良い。
【0078】
以上述べたように、図4、図5、図6、図7、図8に記載の回路から構成された放電ランプ点灯装置は、陰極電極の温度が低くなるように設計されたキセノン放電ランプを点灯する際にも、ランプ電流の変化の速さが緩やかになるため、陰極電極(E1)の先端における放電時のアークスポットの内部または周辺部に複数の微小突起が生じることを防止できるため、、光源輝度変調のために強めの出力電流変調を加えた点灯を継続すると、次に出力電流変調を弱くしたときに発生し易い、放電不安定を回避することを達成した放電ランプ点灯装置を提供することができる。
【0079】
先に、ランプ電力の定電力制御を基本として、ランプ電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調する機能を有する放電ランプ点灯装置に好適なとして、図2に関連して、前記出力電流変調回路(Um)が前記ランプ電流検出信号変換回路(Ai)に対して作用するように構成することを述べたが、図10は、このための具体的な前記出力電流変調回路(Um)と前記ランプ電流検出信号変換回路(Ai)の構成の一例を簡略化して示す図である。この図のランプ電流検出信号変換回路は、演算増幅器(Aai)による非反転増幅回路を基本として、前記ランプ電流検出信号(Si)が、前記演算増幅器(Aai)により増幅され、その出力信号としてランプ電流相関信号(Sj)が生成される。
【0080】
前記演算増幅器(Aai)の出力は、抵抗(Rfc)と、抵抗(Rac)やこれに並列接続されてグランドに接続されている抵抗との合成抵抗と、により分圧されて前記演算増幅器(Aai)の反転入力端子に接続されるため、この非反転増幅回路のゲインは、この分圧比により規定される。抵抗(Rac)に並列接続されている抵抗(Ra0,Ra1,Ra2)とグランドとの間には、トランジスタによるスイッチ素子(Z0,Z1,Z2)がそれぞれ挿入されているため、スイッチ素子(Z0,Z1,Z2)それぞれのオンまたはオフにより、それぞれの抵抗(Ra0,Ra1,Ra2)が接続状態または非接続状態を切換えられるため、この非反転増幅回路のゲインを可変することができる。
【0081】
スイッチ素子(Z0,Z1,Z2)は、それぞれのベース端子がそれぞれベース抵抗(Rm0,Rm1,Rm2)を介して変調データ(M0,M1,M2)に接続されているため、スイッチ素子(Z0,Z1,Z2)は、前記変調データ(M0,M1,M2)のそれぞれのビットの真と偽に対応してオン状態とオフ状態が制御され、結果として、前記変調データ(M0,M1,M2)のそれぞれのビットの真と偽の組み合せによってこの非反転増幅回路のゲインを可変することができる。
【0082】
ここで、抵抗(Ra0,Ra1,Ra2)の抵抗値の関係として、抵抗(Ra0)を抵抗(Ra1)の2倍、抵抗(Ra1)を抵抗(Ra2)の2倍に設定することにより、変調データ(M0)を最下位ビット、変調データ(M2)を最上位ビットとした3ビットの2進数データとしてこの非反転増幅回路のゲインを可変することができる。ただし、非反転増幅回路のゲインと2進数データとは直線関係には無い。なおここでは、一例として3ビットの場合を示したが、必要に応じてビット数を増減して同様に構成することができる。
【0083】
当然ながら、ランプ電力の定電力制御を基本として、ランプ電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調する機能を有する放電ランプ点灯装置は、ここで述べた、図10に記載の回路を用いた図2に記載の構成とする以外にも、他の構成によってそれを実現することができる。例えば、図7に記載の回路を用いた図1に記載の構成を基本としてこれを実現することもできる。具体的には、前記したように、所定のランプ電力目標値を、前記ランプ電圧検出手段(Vx)からの前記ランプ電圧検出信号(Sv)の値で除算することにより得たランプ電流目標値をDA変換し、これを、図7に記載の前記電圧源(Vm)の電圧として出力するよう、前記電圧源(Vm)を構成すればよい。
【0084】
本明細書においては、主としてプロジェクタにおける用途について説明してきたが、本発明の放電ランプ点灯装置は、キセノン放電ランプを点灯するための放電ランプ点灯装置であれば、どのような用途に対しても適用可能であり、良好に効果を発揮する。
【0085】
本明細書に記載の回路構成は、本発明の光源装置の動作や機能、作用を説明することを目的として、必要最低限のものを記載したものである。したがって、説明した回路構成や動作の詳細事項、例えば、信号の極性であるとか、具体的な回路素子の選択や追加、省略、或いは素子の入手の便や経済的理由に基づく変更などの創意工夫は、実際の装置の設計時に遂行されることを前提としている。
【0086】
とりわけ過電圧や過電流、過熱などの破損要因から給電装置のFET等のスイッチ素子などの回路素子を保護するための機構、または、給電装置の回路素子の動作に伴って発生する放射ノイズや伝導ノイズの発生を低減したり、発生したノイズを外部に出さないための機構、例えば、スナバ回路やバリスタ、クランプダイオード、(パルスバイパルス方式を含む)電流制限回路、コモンモードまたはノーマルモードのノイズフィルタチョークコイル、ノイズフィルタコンデンサなどは、必要に応じて、実施例に記載の回路構成の各部に追加されることを前提としている。本発明になる放電ランプ点灯装置の構成は、本明細書に記載の回路方式のものに限定されるものではなく、また、記載の波形やタイミング図に限定されるものではない。
【0087】
また、本明細書で挙げた、例えば図5や図6のような、ディジタル、またはディジタルおよびアナログの信号処理回路によって組まれる制御回路の構成については、例えば、アナログで入力される信号は、入力段でAD変換してディジタル信号に変換し、マイクロプロセッサ内のディジタル演算によって生成されたディジタルデータに基づき、また必要があればDA変換によりアナログ信号に変換して出力するなどして、所期の機能を発揮するものとして実現してもよく、このような処理機能を1個のICに集積した、一般にDSP(digital signal processor)と呼ばれる専用のICを使用して実現することは、本発明の制御回路の構成方法として、とりわけ好適である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、プロジェクタなどの光学装置において使用される、キセノンを主成分とした放電媒質を有するショートアーク高輝度放電ランプ、所謂キセノン放電ランプを点灯するための放電ランプ点灯装置を設計・製造する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
01 放熱部
02 金属箔
03 口金
04 金属箔
05 口金
10 外囲器
61 導電サポータ
62 導電サポータ
63 導電サポータ
64 陰極口金
65 陽極口金
66 金属カバー
67 金属カバー
70 外囲器
71 窓
A00 演算増幅器
A10 演算増幅器
A11 演算増幅器
A13 演算増幅器
Aai 演算増幅器
Ade 演算増幅器
Ai ランプ電流検出信号変換回路
C10 コンデンサ
Cd0 コンデンサ
Cd1 積分コンデンサ
Cf0 コンデンサ
Cmg 比較器
Cy1 平滑コンデンサ
D11 ダイオード
D12 ダイオード
Dy1 ダイオードブリッジ
Dy2 ダイオードブリッジ
E1 陰極電極
E2 陽極電極
Es 放電空間
Ex 放電ランプ点灯装置
Fe1 Dフリップフロップ
G1 ゲート駆動回路
G2 ゲート駆動回路
G3 ゲート駆動回路
G4 ゲート駆動回路
Ge1 論理積ゲート
Ge2 論理積ゲート
I0 インバータ
I1 インバータ
I2 インバータ
IL ランプ電流
Ix ランプ電流検出手段
Ld 放電ランプ
Ly チョークコイル
M0 変調データ
M1 変調データ
M2 変調データ
Mx DC電源
Oc コンデンサ光学系
Of 動的色フィルタ
Oi 空間変調素子
Om 変調信号生成部
Op 投影レンズ
Os スクリーン
Osc 発振器
Ox 画像処理部
Ox1 光束
Ox1’ 光束
Ox2 色順次光束
Ox3 画像光束
Pov オーバーシュート
Pun アンダーシュート
Py 1次側巻線
Q1 スイッチ素子
Q2 スイッチ素子
Q3 スイッチ素子
Q4 スイッチ素子
R01 抵抗
R02 抵抗
R03 抵抗
R04 抵抗
R05 抵抗
R06 抵抗
R10 抵抗
R11 抵抗
R12 抵抗
RA0 ラダー抵抗ネットワーク
Ra0 抵抗
Ra1 抵抗
Ra2 抵抗
Rac 抵抗
Rd0 抵抗
Rd2 抵抗
Rd3 抵抗
Rd6 スピードアップ抵抗
Rf0 抵抗
Rf1 抵抗
Rfc 抵抗
Rm0 ベース抵抗
Rm1 ベース抵抗
Rm2 ベース抵抗
Rs 抵抗
Rs’ 抵抗
Rt 抵抗
Ry2 抵抗
Sd0 鋸歯状波信号
Sd1 出力信号
Sd2 コンバータ駆動目標信号
Sd8 信号
Se1 出力信号
Se2 出力信号
Sf1 インバータ制御信号
Sf2 インバータ制御信号
Sg ゲート駆動信号
Si ランプ電流検出信号
Sj ランプ電流相関信号
Sm 変調信号
So 変調切換タイミング信号
Soc 信号
St ランプ電流目標信号
Sv ランプ電圧検出信号
Sy1 主2次側巻線
Sy2 補助2次側巻線
T11 ノード
T12 ノード
T21 ノード
T22 ノード
T31 ノード
T32 ノード
T41 ノード
T42 ノード
Ty トランス
UART 非同期シリアル通信インターフェイス
Ud 給電能力制御回路
Uf インバータ制御回路
Ui インバータ
Um 出力電流変調回路
Up ランプ電流目標信号生成回路
Us スタータ
Ux 給電回路
VL ランプ電圧
Vd4 オフセット電圧
Vm 電圧源
Vm’ 電圧源
Vx ランプ電圧検出手段
Z0 スイッチ素子
Z0a スイッチ素子
Z0b スイッチ素子
Z1 スイッチ素子
Z1a スイッチ素子
Z1b スイッチ素子
Z2 スイッチ素子
Z2a スイッチ素子
Z2b スイッチ素子
t1 時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器にキセノンを含む放電媒質が封入され、主放電のための一対の陰極電極(E1)と陽極電極(E2)が対向配置された放電ランプ(Ld)を点灯するための放電ランプ点灯装置(Ex)であって、
前記放電ランプ点灯装置(Ex)は、始動時に高電圧を発生させて前記放電ランプ(Ld)の放電容器内に絶縁破壊を発生させるためのスタータ(Us)と、前記放電ランプ(Ld)に放電電流を供給するための給電回路(Ux)とを有し、
前記給電回路(Ux)は、少なくとも定常点灯状態において前記放電ランプ(Ld)に流す電流の大きさを変調信号(Sm)に従って変調するための出力電流変調回路(Um)を有し、
前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さを1ミリ秒あたり2.6A以下に制御することを特徴とする放電ランプ点灯装置。
【請求項2】
前記出力電流変調回路(Um)は、ランプ電流の大きさが減少するときの変化の速さをランプ電圧のアンダーシュートが生じない速さに制限することを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ点灯装置。
【請求項3】
前記出力電流変調回路(Um)は、前記陰極電極(E1)の断面積1平方ミリメートルあたりのランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さを1ミリ秒あたり3.0A以下に制御することを特徴とする請求項1または2に記載の放電ランプ点灯装置。
【請求項4】
前記出力電流変調回路(Um)は、ランプ電流の大きさが増加するときの変化の速さをランプ電圧のオーバーシュートが生じない速さに制限することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の放電ランプ点灯装置。
【請求項5】
放電ランプにより発生された光束(Ox1)を動的色フィルタ(Of)により色順次光束(Ox2)に変換し前記色順次光束(Ox2)を利用して画像を投影表示するプロジェクタであって、
前記放電ランプ(Ld)を始動し点灯するための放電ランプ点灯装置が請求項1から4のいずれかに記載の放電ランプ点灯装置(Ex)であることを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−105568(P2013−105568A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247426(P2011−247426)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】