説明

放電ランプ

【課題】煩雑な作業工程を伴うことなく、放電容器の黒化を防ぐ。
【解決手段】放電ランプにおいて、ショットブラストによって陰極表面にアルミナを噴射させ、散在した状態でアルミナ26をテーパー状陰極側面に付着させる。そして、アルミナ26の融点以下で陰極20を真空加熱処理し、不純ガスを取り除く。ランプを点灯始動させると、陰極20の温度上昇に伴ってアルミナ26が溶融、蒸発する。そして、蒸発したアルミナが発光管の内面に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管内に電極を配置させた放電ランプに関し、特に、ショートアーク型放電ランプなど高輝度放電ランプ(HIDランプ)に使用される電極の表面処理に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプでは、石英ガラス製の放電管に陰極、陽極を対向配置させており、陰極から陽極への電子放出によってアーク放電が生じ、放電発光する。電極材料としては、点灯中の電極溶融を防ぐため、高融点のタングステン(W)が一般的に用いられる。
【0003】
また、高輝度放電ランプに使用される陰極の場合、電子放出能力を高めて高輝度発光させるため、動作温度が比較的低い電子放射性物質(電子放出材料)である酸化トリウム(ThO)をドーピングしたタングステン陰極(通称、トリタン陰極)が用いられる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
アーク放電している間、電子放出によって陰極先端部および陽極先端部の温度が上昇する。電極材料の融点付近まで温度が上昇すると、陰極先端部、陽極先端部が溶融、蒸発し、電極が消耗する。蒸発した金属は放電管内壁に付着し、これによって発光管内壁が黒化する。すなわち、金属の付着が透過率の低下(失透)を招き、ランプの光出力が低下する。
【0005】
トリタン陰極の場合、トリウムが還元作用によって単原子層を電極表面に形成するが、表面からトリウムから分離した酸素が陽極先端部のタングステンと結合し、これが陽極先端部の融点を低下させ、電極を消耗させる。このような電極消耗を防ぐため、例えば、トリタン陰極を成形した後、真空加熱処理によって、酸化トリウムの含まれない層(脱トリウム層)を陰極表面付近に形成する(特許文献3参照)。
【0006】
あるいは、透明な多結晶体であるアルミナ(Al)を発光管内面にコーティングすることにより、発光管の黒化を防ぐことが出来る(特許文献4、5参照)。アルミナは放電管材料の石英ガラスよりも化学的、物理的に安定であり、点灯中に電極から放出される金属、イオンなどの荷電粒子、化合物等に反応せず、発光管の黒化現象を防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−9044号公報
【特許文献2】特開2003−22780号公報
【特許文献3】特開2003−257365号公報
【特許文献4】特開昭61−294752号公報
【特許文献5】特開2002−157974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脱トリウム層のような特殊な金属層を陰極表面付近に形成する工程は、煩雑な作業工程であり、ランプ生産効率を低下させる。また、アーク放電中に適度なトリウム層を陰極表面に形成しなければ、放電管の黒化現象、あるいは輝度低下を招く。すなわち、電子放出するため陰極表面に再結晶するトリウムが多すぎると、電極温度の上昇によってトリウムが蒸発し、放電管に付着する。逆にトリウムが少なすぎると、陰極の電子放出能力が上がらない。
【0009】
一方、放電管内面にアルミナなどをコーティングする工程も煩雑な作業工程であり、生産効率を悪化させる。また、コーティングしても、加熱成形した放電管自身が熱をもつため、熱の影響よって十分なコーティング性能が満たされず、透過率が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放電ランプは、煩雑な作業工程をする必要なく、放電容器の黒化を防ぐことができる放電ランプであり、放電容器と、放電容器内に対向配置される陽極および陰極とを備える。例えば、ショートアーク型放電ランプなど、電極が高温状態で高輝度の光を出力する放電ランプが構成される。放電容器は、石英ガラスなど、光を透過する誘電体によって構成すればよく、電極はタングステンなどの金属材料によって構成すればよい。
【0011】
本発明では、少なくとも陰極表面に対し、表面処理が施される。表面処理は、例えば機械的仕上げによって表面上に凹凸を形成する。すなわち、表面を粗くする。例えば、ショットブラスト、湿式ブラスト、サンドブラストなどのブラスト処理によって表面仕上げを行う。
【0012】
そして本発明では、金属を含む放電容器の黒化を防ぐもの(以下、黒化抑制体という)が、表面処理された陰極表面に散在、付着している。ここで、「黒化抑制体」とは、放電容器の組成材料(例えば、石英ガラス)に反応せず(黒化現象を生じさせず)、放電容器内面に付着しても光の透過率をできるだけ低下させない粒状物質、組成物であることを示す。また、「散在する」とは、表面上でまばらに点在していることを示し、例えば黒化抑制体が隈無く陰極表面を覆う状態とは相違する。黒化抑制体は、例えば粒体、粉末のように微小な塊の集合体によって構成されており、その大きさは限定されない。
【0013】
本発明では、黒化抑制体が表面処理によって粗くなった陰極表面に付着するため、黒化抑制体が陰極表面に強く接着し、電極加熱処理などランプ製造工程の過程で黒化抑制体が陰極表面から剥離せず、製造後に初めてランプを点灯するまで黒化抑制体が強固に陰極表面に対し固定されている。
【0014】
特に、黒化抑制体を陰極表面の凹部に接着させることで、黒化抑制体が陰極表面から突出するのを防ぎ、真空排気処理など、ランプ製造工程の真空排気処理などで発光管内に流れが生じても、黒化抑制体が剥離しない。
【0015】
アーク放電によって陰極温度が上昇すると、陰極表面に付着した黒化抑制体は溶融し、蒸発する。放電容器内で生じている熱対流により、蒸発した黒化抑制体は、放電容器内面と接触し、固体となって付着する。このように本発明では、ランプ製造後の点灯動作によって、コーティングのような保護処理が、放電容器内面に対して点灯時間経過とともに行われる。
【0016】
黒化抑制体は陰極表面に散在しているため、陰極表面からランダムに蒸発し、熱対流によって放電容器に付着する。放電容器内面に付着した黒化抑制体は、放電容器と反応せず、光の透過率を下げないため、放電容器を黒化させない。
【0017】
タングステン、トリウムなど電極材料となる金属は、電極が加熱されると溶融、蒸発し、放電容器内に付着すると放電容器内面の黒化現象を引き起こす。特に、ショートアーク型放電ランプの場合、陰極、陽極先端部は2000℃付近まで高温になり、電極金属が蒸発しやすい。
【0018】
本発明では、ランプ製造後に点灯始動すると、あらかじめ陰極表面に付着させた黒化抑制体が蒸発し、放電容器に付着する。陰極表面が荒らされているため、黒化抑制体が蒸発しやすい。そして、黒化抑制体が放電容器内面に付着すると、タングステンなど電極から蒸発する電極材料の金属、あるいは水銀など発光のため放電管内に封入された金属がガラスと反応しない。すなわち、黒化を招く金属が放電容器に付着するのを妨げる。その結果、ランプを長時間使用しても黒化現象が進行せず、安定した照度でランプが点灯し続ける。
【0019】
タングステンなどの電極金属が蒸発すると、放電容器内で蒸発した金属が浮遊している。点灯開始からできるだけ早く黒化抑制体を陰極表面から蒸発させ、放電容器内面に早く付着させるため、陰極の電極材料である金属よりも先に蒸発する黒化抑制体を使用するのがよい。
【0020】
また、水銀が放電容器に封入される場合、石英などの放電容器は水銀、あるいは酸化水銀と反応する。放電容器内に水銀が入り込むと、発光に寄与する水銀量が減少し、照度が低下してしまう。これを防ぐため、黒化抑制体は、放電容器の組成材料(石英ガラスなど)と比べ、金属あるいは金属化合物と化学反応を起こさない黒化抑制体であるのが望ましい。
【0021】
黒化抑制体としては、金属黒化抑制体、あるいは、金属酸化物などの金属化合物黒化抑制体を使用すればよい。例えば石英ガラスに対して反応しないアルミナ(酸化アルミニウム)を使用するのが望ましい。アルミナは物理的、化学的に安定な多結晶体であり、例えば透明アルミナが使用される。
【0022】
簡易な方法で、かつ黒化抑制体を確実に付着させるため、表面処理を利用するのが望ましい。例えば、ブラスト処理を実行し、陰極表面に黒化抑制体を衝突させるのがよい。黒化抑制体を陰極表面に高圧縮で吹き付けることにより、凹凸状態(梨地状態)が陰極表面に形成される一方、衝突した黒化抑制体の一部は、陰極表面を陥没させながら衝突固定している。ブラスト処理であるため、黒化抑制体は散在した状態で陰極表面に付着する。
【0023】
ランプ始動後にできるだけ早く黒化抑制体を溶融、蒸発させるため、電子放出活動が活発な陰極先端部に黒化抑制体を付着させるのが望ましい。テーパー状先端部を有する陰極の場合、黒化抑制体をテーパー先端部側面に付着させるのがよい。
【0024】
放電特性を向上させる場合、電子放射性物質(電子放出材料)を含む陰極を構成するのがよい。例えば、酸化トリウムをタングステン陰極にドーピングさせたトリタン陰極で構成する。酸化トリウムが還元されて単原子トリウム層が形成され、電界放出機能が向上する。
【0025】
点灯中、トリウムなどの電子放射性物質が必要以上に生成されると、電子放射性物質が蒸発して陽極に衝突し、陽極を消耗させる。一方、電子放射性物質が少ないと、電子放出特性が上がらず、定格電流による点灯まで時間がかかる。
【0026】
本発明の放電ランプの製造方法は、ブラストにより黒化抑制体を陰極表面に投射し、黒化抑制体を陰極表面に散在、付着させ、黒化抑制体の融点以下の温度によって、不純物を除去するための加熱処理を陰極に対して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、煩雑な作業工程を伴うことなく、放電容器の黒化を防ぐことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【図2】陰極の側面側から見た拡大平面図である。
【図3】ブラスト処理前とブラスト処理後の陰極側面の拡大写真である。
【図4】陰極の温度上昇に伴った陰極側面表層部の変遷を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0030】
図1は、本実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【0031】
ショートアーク型放電ランプ10は、透明な石英ガラス製の発光管12を備え、発光管12内には陰極20、陽極30が所定間隔をもって対向配置される。発光管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが発光管12と連設し、一体的に形成されている。発光管12内には、水銀、およびアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0032】
封止管13A、13Bの内部には、陰極20、陽極30を支持する導電性の電極支持棒17A、17Bが配設されている。電極支持棒17A、17Bは、それぞれ金属箔16A、16Bを介して導電性のリード棒15A、15Bと接続される。封止管13A、13Bは、その両端が口金19A、19Bによって塞がれるとともに、内部に設けられたガラス管21、ガラス棒(図示せず)と溶着し、これによって発光管12が封止される。
【0033】
リード棒15A、15Bは外部の電源部(図示せず)に接続されており、リード棒15A、15Bを介して陰極20、陽極30に電力が供給される。数kWの電圧が陰極20、陽極30の間に印加されると、陰極20、陽極30の電極間でアーク放電が発生し、発光管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、陽極20、30が鉛直方向に沿って並ぶように放電ランプ10が配置されている。
【0034】
図2は、側面側から見た陰極の拡大平面図である。
【0035】
陰極20は、タングステン電極に酸化トリウム(ThO)をドープさせたトリタン陰極であり、電極支持棒17Aと連結する円柱状胴体部22と、胴体部22から陽極30に向けてテーパー状に形成された陰極先端部24から構成されている。陽極30も、円柱状胴体部32と円錐台状陽極先端部34から構成されている。ランプ点灯中、陰極先端部24から電子が放出し、陰極先端面24Sにアーク輝点を形成しながら陰極20、陽極30の間でアーク放電が生じる。
【0036】
陰極先端部24のテーパー状陰極側面24Tには、透明な多結晶体であるアルミナ26(Al)が散在し、付着している。アルミナ26は、物理的、化学的に安定した結晶体であり、石英ガラスの発光管12と反応しない。アルミナ26は、陰極20に対する表面処理によって陰極側面24Tに付着している。
【0037】
本実施形態では、表面処理としてブラスト処理を行い、具体的には、アルミナを陰極20に高圧で噴射するショットブラストを行っている。ショットブラストするとき、所定の範囲の粒径(105μm〜125μm)であるアルミナ粉末を、陰極側面24Tに向けて高圧で噴射する。
【0038】
陰極側面24Tは、アルミナによって叩き付けられる結果、梨地状、凹凸状に形成される。すなわち、粗い表面になる。また、陰極表面24Tに衝突したアルミナの一部は、陰極側面24Tに陥没した状態で突き刺さり(食い込み)、自らの衝突によって陰極表面24Tを凹ませながら、陰極表面24Tに衝突固定されている。
【0039】
ショットブラストのとき、アルミナ粉末を陰極表面24Tに向けて均一に噴射する。そのため、付着するアルミナは陰極表面24T全体に分散し、疏らになって散在する。表面処理を行う噴射装置(図示せず)では、アルミナが陰極側面24Tに衝突した後付着するように、噴射圧力が設定されている。
【0040】
ブラスト処理が行われると、真空雰囲気で陰極20を加熱する。加熱処理は、アルミナの融点よりも低い温度で行い、アルミナの蒸発を防ぐ。例えば、約1600℃で数分〜数十分間、陰極20を加熱する。これにより、陰極側面24Tに付着したアルミナが陰極側面24Tに馴染んで固定されるとともに、電極組立時の工程で電極に含まれた不純物が除去される。
【0041】
ランプ製造後にランプを点灯始動さると、陰極先端部24の温度がアルミナの融点付近(約2000℃)にまで達する。その結果、アルミナ26が溶融、蒸発する。点灯時間の経過とともにアルミナ26が次々と蒸発し、最終的には陰極表面24Tに付着していたほとんどのアルミナは陰極表面24Tから離れる。
【0042】
図3は、ブラスト処理前とブラスと処理後の陰極側面の拡大写真である。
【0043】
ブラスト処理前では、陰極側面24Tはほぼ平滑である。一方、ブラスト処理後の陰極側面24Tは、光沢のないザラザラした状態(梨地状態)となっていて、凹凸形状になっている。図3(B)の拡大写真では、アルミナの鋭利状に突き刺さった部分A、電極破片が付着している部分Bとともに、アルミナが陰極側面24Tに衝突し、食い込んだ状態で固定されている部分Cが写っている。
【0044】
図4は、陰極の温度上昇に伴った陰極側面表層部の変遷を示した図である。
【0045】
上述したように、陰極20は、タングステン陰極に酸化トリウムを所定の重量%(数%)でドープさせたトリアン陰極(トリエーデットタングステン陰極)であり、陰極側面24Tの表層部全体は、酸化トリウム(ThO)が混ざったタングステン(W)の混合層が形成されている。
【0046】
しかしながら、陰極側面24T上にアルミナが付着しているため、アルミナを加えたアルミナ、酸化トリウム、タングステンの混合層(ThO−W−Al層)が、陰極側面24の最上層に形成され、その下に酸化トリウム、タングステンの層(ThO−W層)が形成されているとみなすことができる。
【0047】
ランプを点灯始動すると、アーク放電によって陰極20内の酸化トリウムがタングステンによって還元される。その結果、陰極先端面24Sの表面付近にトリウムの単原子層が形成され、電子が陰極先端面24から陽極30に向けて放出される。電子放出によって陰極20の温度が上昇し、アーク放電に伴って陰極先端面24近傍が特に加熱される。
【0048】
陰極先端面24S付近の温度が、トリウムの動作環境である1600〜1800℃にあるとき、陰極側面24Tの表層部を3つの層によって分けて構成することが可能であり、最上層は、再結晶によって形成されるトリウムとタングステン、そして付着しているアルミナから成る層であり、その下に再結晶化されたトリウム、タングステンを含む層が形成される。さらにその下の深層部には、酸化トリウムとタングステンの混合層が形成されている。
【0049】
陰極先端面24S付近の表面温度がトリウム融点付近(約1800℃)を超えると、最上層にあるトリウムの一部が溶融、蒸発していく。その結果、トリウムのないタングステンと、アルミナの層(Al−W層)が最上層に形成される。トリウムが陰極20から放出されると、最下層にある酸化トリウムがタングステンによって還元され、トリウムが次々と再結晶化される。
【0050】
しかしながら、Al−W層によって最上層が形成され、その下にトリウム、タングステンの層が形成されるため、陰極側面24Tにおけるトリウムの蒸発は抑制される。また、陰極先端面24Sから離れるほど電極温度は急激に下がるため、陰極先端面24Sの近傍付近だけトリウムが蒸発する。
【0051】
一方、陰極先端面24S付近の温度がアルミナ融点(約2000℃)付近まで上がると、陰極側面24Tに付着していたアルミナが溶融、蒸発する。陰極20の温度上昇が続くと、アルミナがすべて蒸発する。蒸発したアルミナは、発光管12内の熱対流によって発光管12の内面の所定領域において付着する。この領域は、熱対流によって金属などが比較的付着しやすい領域となっている。
【0052】
発光管12の内面全体に渡って付着するアルミナは、コーティング膜と同じ機能を働かせる。すなわち、発光管12内で蒸発し、浮遊しているタングステン、トリウム、あるいは放電発光によって生じる酸化水銀、不純ガスなどは、発光管12の内面に付着せず、アルミナに付着するか、あるいは浮遊し続ける。
【0053】
このように本実施形態によれば、ショットブラストによって陰極表面にアルミナを噴射させ、散在した状態でアルミナ26をテーパー状陰極側面に付着させる。そして、アルミナ26の融点以下で陰極20を真空加熱処理し、不純ガスを取り除く。ランプを点灯始動させると、陰極20の温度上昇に伴ってアルミナ26が溶融、蒸発する。そして、蒸発したアルミナが発光管12の内面に付着する。
【0054】
タングステンの融点は非常に高いが、陰極先端面、陽極先端面が非常に加熱されると、タングステンが蒸発する。また、発光管内に封入された水銀は、酸素と反応して酸化水銀が生成され、これが発光管内面に付着する。このような酸化水銀、タングステンの付着は、発光管の黒化を進行させる。
【0055】
一方、アルミナは透明な多結晶体であり、発光管12の材料である石英ガラスと比べ、タングステン、水銀、あるいは放電発光中に発生する不純ガス、荷電粒子などと反応を起こさず、安定している。
【0056】
本実施形態では、ランプ製造後に点灯始動させてしばらくすると、アルミナが蒸発して発光管12に付着する。このアルミナの付着はタングステンの蒸発よりも時期的に早く、また、トリウム蒸発とほぼ同時である。その結果、陰極側面24Tに付着していたアルミナ26は、黒化を防ぐように先に発光管12の内面上に移動する。
【0057】
そのため、タングステン、酸化水銀が発光管12内で浮遊しても、発光管12に付着せず、タングステン、水銀が発光管内面に付着して発光管が黒化する(透過率が低下する)のを防ぐことができる。また、発光管12内では熱対流が生じているため、蒸発したアルミナは発光管12の内面に付着し、発光管12を全体的に黒化から防ぐ。
【0058】
このようなコーティングによる保護機能を、ランプ製造工程でコーティング作業することなく実現させているため、ランプ製造工程に煩雑な作業を持ち込む必要がない。さらに、電極表面の表面仕上げとしてブラスト処理を行い、それに合わせてアルミナを付着させることが可能であり、アルミナを付着するための工程を特別に設ける必要がない。
【0059】
陰極表面を粗くして凹凸を設けた状態でアルミナが表面に突き刺さる、食い込む、あるいは陥没した状態で付着しているため、アルミナ26は確実に陰極表面に付着する。そのため、ランプ点灯始動前の製造工程途中で剥離することが防止される。さらに、アルミナは、陰極が一体成形された後、陰極表面に付着、固定している。すなわち、陰極内部ほど強固な結合体をタングステン、酸化トリウムと形成していない。そのため、電極温度がアルミナ融点付近まで上昇すると、アルミナが陰極表面から容易に蒸発する。
【0060】
本実施形態では、電子放出作用が大きい陰極側面にアルミナを付着させたが、それ以外の陰極表面、あるいは陽極に対してアルミナを付着させてもよい。また、アルミナ以外の粉末を陰極に対し噴射させてもよい。噴射する粒体としては、発光管の透過率を下げないような透明性のある結晶体であって、石英ガラスなど発光管材料、あるいはタングステン、水銀、放電ガスなど発光管内部で対流する物質、化合物と化学反応を起こさず、物理的、化学的に安定した粒体(金属粒体、金属酸化物など)であればよい。
【0061】
ブラスト処理としては、サンドブラスト、湿式ブラスト(液体ホーニング)、ショットブラストいずれの方法で行っても良い。また、ブラスト以外によって陰極を表面加工処理し、アルミナを付着させるように構成してもよい。
【0062】
加熱処理により、脱トリウム層をあらかじめ陰極表面に酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムなど、トリウム以外の電子放射性物質(電子放出材料)をタングステン電極にドーピングさせてもよい。また、酸化トリウムを含有しないタングステン陰極を適用してもよく、タングステン以外の金属材料から成る電極を適用してもよい。さらに、ショートアーク型放電ランプ以外の放電ランプの電極に適用してもよい。
【実施例】
【0063】
アルミナを陰極表面に付着させたときに発光管の黒化を抑制する効果を確認する実験を行った。実施例のショートアーク型放電ランプは、外径121mm、容積885cc、石英ガラスから成る発光管を備える。発光管内には、約30mg/ccの水銀を封入した。また、常温時で約190kPaとなるようにアルゴンガスを封入した。
【0064】
陽極は、重量比約0.002%のカリウムを含むタングステン電極である。陰極は、重量比約2%の酸化トリウム(Th)をドーピングしたタングステン電極であり、電極間距離は約12mmに設定されている。陽極、陰極形状は上記実施形態に示した形状とほぼ同じである。陰極には、テーパー状先端部が形成されている。
【0065】
陰極のテーパー状側面に対し、アルミナ(Al)を吹き付けるブラスト処理を行い、陰極のテーパー状側面を加工した。粒径約115μmのアルミナ粉末を使用し、加圧ガスの噴射圧力でアルミナ粉末を陰極側面に衝突させ、表面仕上げをするとともに、アルミナを付着させた。
【0066】
一方、比較例として、アルミナの付着を除けば本実施例と同じ構成であるショートアーク型放電ランプを用意した。
【0067】
実施例、比較例を用いて、アルミナ蒸発の確認実験を行った。ここでは、陰極を真空環境で加熱処理を行い、実際にランプ点灯時の電極温度環境(1500℃以上)を作り出し、アルミナ融点より低い電極温度、高い電極温度でアルミナ残留量を調べた。
【0068】
表1は、陰極が1600℃、2200℃であるときのアルミナ残留量を示す。実施例、比較例とも2つの放電ランプを用意し、1600℃、2200℃まで加熱してそれぞれのアルミナ残留量を調べた。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、1600℃の加熱では、実施例の放電ランプにアルミナが残留している。一方、放電ランプを2200℃まで加熱すると、アルミナは残留していない。なお、比較例の放電ランプに含まれるアルミナはあらかじめ陰極に微量含まれた不純物である。
【0071】
次に、アルミナを陰極に付着させることで黒化を防止する確認実験を行った。ここでは、上記実施例、比較例のショートアーク型放電ランプに対し、10kWの電力で点灯させ、1000時間の点灯後の発光管内面の黒化状態を検査した。
【0072】
【表2】

【0073】
表2は、実施例の本ランプと、比較例の従来ランプの照度維持率を示している。照度維持率は、350nm付近に感度を有する照度計により測定した。表2に示すように、従来ランプの照度維持率が80%であるのに対し、実施例である本ランプの照度維持率は85%になり、発光管の黒化を抑制することが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10 ショートアーク型放電ランプ
12 発光管(放電容器)
20 陰極
24 陰極先端部
24S 陰極先端面
24T 陰極側面
26 アルミナ
30 陽極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器と、
前記放電容器内に対向配置される陽極および陰極とを備え、
表面処理によって、少なくとも陰極表面に凹凸が形成され、
金属を含む黒化抑制体が、前記陰極表面に散在し、付着していて、点灯時に蒸発することを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記黒化抑制体が、前記陰極の電極材料である金属よりも、先に蒸発することを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記黒化抑制体が、前記放電容器の組成材料と比べ、点灯時に前記放電容器内で浮遊する金属もしくは金属化合物と化学反応を起こさないことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記黒化抑制体が、金属粒体もしくは金属化合物粒体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記黒化抑制体が、アルミナを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記黒化抑制体が、前記陰極表面の凹部に接着していることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記表面処理が、前記陰極表面に前記黒化抑制体を衝突させるブラスト処理であり、
前記黒化抑制体が、前記陰極表面を陥没させながら衝突固定していることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項8】
前記陰極が、テーパー状陰極先端部を有し、
前記黒化抑制体が、前記陰極先端部側面に付着していることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項9】
前記陰極が、電子放射性物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項10】
前記電子放射性物質が、酸化トリウムを含むことを特徴とする請求項9に記載の放電ランプ。
【請求項11】
ブラストにより黒化抑制体を陰極表面に投射し、前記黒化抑制体を前記陰極表面に散在、付着させ、
前記黒化抑制体の融点以下の温度によって、不純物を除去するための加熱処理を陰極に対して行うことを特徴とする放電ランプの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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