説明

放電加工装置

【課題】電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる放電加工装置を得ること。
【解決手段】放電加工装置は、被加工物を加工する際に、電極揺動指令に従って、電極の送り方向に垂直な平面内で前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる揺動手段と、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を算出する算出手段と、前記差が小さくなるように前記電極揺動指令を変更する変更手段とを備え、前記揺動手段は、前記変更手段により変更された前記電極揺動指令に従って、前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工現象を利用することにより、導電性のある被加工物であれば、被加工物と電極との極間に発生させる放電エネルギーにより、高硬度材などの難加工材であっても所望の形状加工を実現することができる。このとき、加工速度を向上させるために、極間に放電エネルギーを大量に投入すると、加工面あらさが悪化したりや加工精度を維持することが困難になる。そのため、放電加工を利用して高精度加工を実現するためには、より微細な放電エネルギーに切り替えて加工をするのが一般的となっている。このように、微細な放電エネルギー(微細な放電パルス)を使用した場合、加工効率は低下するため、荒加工条件と比較して加工速度は低下する傾向にある。また、微細な放電エネルギーによる加工では、放電発生時の極間間隙も小さくなるため、加工屑が逃げにくく、加工の不安定化により、さらに加工速度が低下する傾向にある。
【0003】
それに対して、特許文献1には、被加工物を保持する加工台と、加工台に接続された板ばねと、板ばねに接続された圧電素子からなる振動付加部とを備えた放電加工装置において、振動付加部が、板ばねを介して、被加工物の加工中常に被加工物を振動させることが記載されている。これにより、特許文献1によれば、放電間隙の加工屑の排出を促進し、微細な加工の高速化及び安定化を実現できるとされている。
【0004】
特許文献2には、電極と被加工物との間の極間電圧を評価し、極間電圧と設定電圧とに電圧差がある場合に、その電圧差に応じて被加工物と電極との間隙を一定に保つように揺動半径を増減させた後、一定周回速度で揺動運動させる放電加工方法が記載されている。これにより、特許文献2によれば、極間の間隔が常に一定に保たれるので、高速で高精度の加工が可能になるとされている。
【0005】
特許文献3には、放電加工装置において、電極の送り方向に垂直な揺動平面内において可変な旋回速度で電極を揺動させながら被加工物を加工する際に、加工遅れ量(電極の指令された位置からの現在の電極位置の差)が大きくなるに従って旋回速度を小さくすることが記載されている。これにより、特許文献3によれば、電極形状や加工くずによって生じる加工の進行速度の差をなくし、揺動平面内の全領域において加工が均一に進行するので、高速かつ高精度な加工が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3253812号公報
【特許文献2】特開平1−316131号公報
【特許文献3】特許第4052325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された放電加工装置では、圧電素子と板ばねとがZ軸方向に接続されており、振動付加部が被加工物をZ軸方向のみに振動させると考えられる。すなわち、特許文献1には、電極の送り方向に垂直な揺動平面内で電極と被加工物とを揺動させることに関する記載がないため、そのように揺動させながら被加工物を加工する際にどのようにして加工速度を向上させるのかに関しても一切記載がない。
【0008】
特許文献2に記載された放電加工方法では、被加工物と電極との間隙を常に一定に保つので、間隙(極間)に加工屑やタールがつまった場合に、極間に存在する加工屑やタールを除去できない可能性がある。このため、揺動半径が初期値に戻った際に、加工不安定化が発生し、加工速度を向上できない傾向にある。
【0009】
特許文献3に記載された放電加工装置では、加工遅れ量が大きくなった際に旋回速度を低下させるので、加工速度の改善には限界がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる放電加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかる放電加工装置は、被加工物を加工する際に、電極揺動指令に従って、電極の送り方向に垂直な平面内で前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる揺動手段と、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を算出する算出手段と、前記差が小さくなるように前記電極揺動指令を変更する変更手段とを備え、前記揺動手段は、前記変更手段により変更された前記電極揺動指令に従って、前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高速に揺動動作を行いながら基準揺動軌道に追従させることができるため、加工屑の排出特性が悪い状態においても、的確に加工屑を排除できる。これにより、電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる放電加工装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1におけるNC制御装置等の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1における制御動作を示すフロー図である。
【図4】図4は、実施の形態1による電極の軌跡を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態1における電極揺動指令変更手段の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態1における変更手段の動作を示すフロー図である。
【図7】図7は、実施の形態1による電極の軌跡を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態1における高速揺動時の揺動半径と加工速度との関係を示す図である。
【図9】図9は、実施の形態1における高速揺動時の揺動速度と加工速度との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施の形態1の変形例における揺動半径と極間平均電圧変動との関係を示す図である。
【図11】図11は、実施の形態1の変形例における変更手段の動作を示すフロー図である。
【図12】図12は、実施の形態2におけるNC制御装置の構成を示す図である。
【図13】図13は、実施の形態2における制御動作を示すフロー図である。
【図14】図14は、実施の形態2における揺動軌跡の合成を示す図である。
【図15】図15は、実施の形態2における揺動軌跡の合成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる放電加工装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
実施の形態1にかかる放電加工装置100の概略構成について図1を用いて説明する。図1は、実施の形態1にかかる放電加工装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
放電加工装置100は、電極10、被工作物20、駆動部(揺動手段)30、電極位置検出装置40、駆動制御部50、NC制御装置60、加工電源70、及び極間電圧検出部(検出手段)80を備える。
【0017】
電極10は、加工電源70の一端に接続されている。電極10は、図1に示すように、例えば、その長手方向に沿って送られる。
【0018】
被工作物20は、定盤(図示せず)上に載置され固定されている。定盤は、加工電源70の他端に接続されている。すなわち、被工作物20は、定盤を介して加工電源70の他端に接続されている。
【0019】
駆動部30は、駆動制御部50により制御され、電極10を駆動する。すなわち、駆動部30は、電極揺動指令を駆動制御部50から受ける。駆動部30は、被加工物20を加工する際に、電極揺動指令に従って、電極10の送り方向に垂直な平面(揺動平面)内で電極10と被加工物20とを相対的に揺動させる。
【0020】
電極位置検出装置40は、電極10の送り方向に垂直な平面(揺動平面)内における電極10の位置を検出する。電極位置検出装置40は、検出結果を駆動制御部50へ供給する。
【0021】
駆動制御部50は、電極揺動指令をNC制御装置60から受けて駆動部30へ供給する。また、駆動制御部50は、電極位置検出装置40による検出結果を電極位置検出装置40から受けてNC制御装置60へ供給する。
【0022】
NC制御装置60は、放電加工装置100による加工開始時に、初期状態の電極揺動指令を生成して駆動制御部50へ供給する。NC制御装置60は、所定の(任意に予め設定された)基準揺動軌跡を記憶している。NC制御装置60は、電極位置検出装置40による検出結果を受け、受けた検出結果に応じて実際の電極位置を求める。そして、NC制御装置60は、基準揺動軌跡と実際の電極位置とに応じて電極揺動指令を変更する。具体的には、NC制御装置60は、算出手段61及び変更手段62を有する。算出手段61は、基準揺動軌跡からの実際の電極位置の差を算出する。変更手段62は、算出手段61により算出される差が小さくなるように、電極揺動指令を変更して駆動制御部50へ供給する。
【0023】
加工電源70は、電極10と被加工物20との間(極間)に高周波電圧を印加し、特定微小距離にて発生するアーク放電現象を利用した放電を極間に発生させる。これにより、被加工物20の放電加工が行われる。
【0024】
極間電圧検出部80は、極間における平均電圧をモニタリング(検出)する。極間電圧検出部80は、検出結果をNC制御装置60へ供給する。これに応じて、NC制御装置60は、極間電圧検出部80によりモニタリング(検出)された平均電圧に応じた軸制御を行う。駆動制御部50は、NC制御装置60からの位置指令と、電極位置検出装置40からの位置フィードバック情報とを元に、電極10と被加工物20との相対的な位置関係を制御している。
【0025】
なお、駆動部30は、電極10と被加工物20とを相対的に移動(揺動)させる手段であるため、電極10側と被加工物20側(定盤側)とのどちらに装着されていても問題なく、3次元動作をさせるために、XYZ3軸方向それぞれについて駆動手段(駆動機構)を備えてもよい。また、NC制御装置60による位置制御は、極間を一定に維持するための加工サーボだけではなく、電極の送り方向に垂直な平面内に、任意の速度で電極を揺動させながら加工する場合の軌跡制御にも活用される。本実施形態では、揺動軌跡制御を効果的に行うために、基準揺動軌跡と実際の電極位置との差を算出する算出手段61と、その差が小さくなるように電極揺動指令を変更する変更手段62とが、NC制御装置60に組み込まれている。
【0026】
次に、電極位置検出装置40、駆動制御部50、及びNC制御装置60の構成について図2を用いて説明する。図2は、電極位置検出装置40、駆動制御部50、及びNC制御装置60それぞれの内部構成を示す図である。
【0027】
電極位置検出装置40は、電極位置情報取得手段41を有する。電極位置情報取得手段41は、電極10又は駆動部30の位置を直接検出したり、駆動部30による駆動量から算出したりすることにより、電極10の位置を検出し、その検出結果を、実際の電極10の位置(電極位置)を示す電極位置情報として取得する。電極位置情報取得手段41は、取得した電極位置情報をNC制御装置60へ供給する。
【0028】
NC制御装置60は、電極位置情報記憶手段63、基準揺動軌道記憶手段64、算出手段(差の算出手段)61、及び変更手段(電極揺動指令の変更手段)62を有する。電極位置情報記憶手段63は、電極位置情報取得手段41から供給された電極位置情報を一時的に記憶保持している。基準揺動軌道記憶手段64は、所定の(任意に予め設定された)基準揺動軌跡を示す基準揺動軌跡情報を記憶している。算出手段61は、所定のタイミングで、電極位置情報を電極位置情報記憶手段63から読み出すとともに、基準揺動軌跡情報を基準揺動軌道記憶手段64から読み出す。算出手段61は、基準揺動軌跡情報と電極位置情報とに応じて、基準揺動軌跡からの実際の電極位置の差を算出する。算出手段61は、算出した差を変更手段62へ供給する。変更手段62は、算出した差が閾値THより大きい場合に、算出手段61により算出される差が例えば閾値THより小さくなるように電極揺動指令を変更して駆動制御部50へ供給する。
【0029】
駆動制御部50は、電極位置制御手段51を有する。電極位置制御手段51は、変更手段62から供給された電極揺動指令を駆動部30へ供給する。これにより、駆動部30は、変更手段62により変更された電極揺動指令に従って、電極10と被加工物20とを相対的に揺動させる。
【0030】
次に、電極位置検出装置40、駆動制御部50、及びNC制御装置60の動作について図3を用いて説明する。図3は、放電加工装置100における制御動作を示すフロー図である。
【0031】
ステップS111では、放電加工装置100による放電加工を行う前に、NC制御装置60の基準揺動軌道記憶手段64に、所定の(任意に予め設定された)基準揺動軌跡を示す基準揺動軌跡情報が記憶される。その後、放電加工装置100による放電加工の開始の指示を受けたら、NC制御装置60は、初期状態の電極揺動指令(初期指令値)を生成して駆動制御部50経由で駆動部30へ供給し、駆動部30が電極揺動指令に従って電極10の送り方向に垂直な平面内で電極10と被加工物20とを相対的に揺動させるように、駆動制御部50及び駆動部30を制御する。また、NC制御装置60は、加工電源70を制御して極間に放電を発生させ放電加工を開始させる。そして、NC制御装置60は、処理をステップS112へ進める。
【0032】
ステップS112では、電極位置検出装置40の電極位置情報取得手段41が、電極10の位置を検出し、その検出結果を、実際の電極10の位置(電極位置)を示す電極位置情報として取得する。電極位置情報取得手段41は、取得した電極位置情報をNC制御装置60へ供給する。NC制御装置60の電極位置情報記憶手段63は、電極位置情報取得手段41から供給された電極位置情報を一時的に記憶保持する。
【0033】
ステップS113では、NC制御装置60の算出手段61が、所定のタイミングで、電極位置情報を電極位置情報記憶手段63から読み出すとともに、基準揺動軌跡情報を基準揺動軌道記憶手段64から読み出す。算出手段61は、基準揺動軌跡情報と電極位置情報とに応じて、基準揺動軌跡からの実際の電極位置の差を算出する。算出手段61は、算出した差を変更手段62へ供給する。
【0034】
ステップS115では、変更手段62が、基準揺動軌跡からの実際の電極位置の差が存在するか否かを判断する。すなわち、変更手段62は、算出手段61により算出された差が閾値TH以上である(ステップS115で「有」の)場合、差が存在すると判断し処理をステップS116へ進め、算出手段61により算出された差が閾値TH未満である(ステップS115で「無」の)場合、差が存在しないと判断し処理をステップS112へ戻す。
【0035】
ステップS116では、変更手段62が、算出手段61により算出される差が例えば閾値THより小さくなるように電極揺動指令を変更して駆動制御部50へ供給する。
【0036】
ステップS117では、駆動制御部50の電極位置制御手段51が、変更手段62から供給された電極揺動指令を駆動部30へ供給する。これにより、駆動部30は、変更手段62により変更された電極揺動指令に従って、電極10と被加工物20とを相対的に揺動させる。そして、NC制御装置60は、処理をステップS112へ戻す。
【0037】
所定の電極揺動指令にて、電極10を高速に移動させた場合、移動速度が大きくなるほど、駆動部30の軸端での追従が遅れることになり、目標とする移動速度の実現と基準揺動軌道への追従とを両立することが困難になる傾向にある。その対策として、特許文献1に示すような圧電素子を放電加工装置に新たに追加するのではなく、本実施形態では、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を検出してその差が小さくなるように電極揺動指令を変更している。このため、既存の駆動構成のままで、目標とする移動速度の実現と基準揺動軌道への追従とを両立させた状態で加工を行うことができる。
【0038】
次に、放電加工装置100における電極10の位置補正について、図4を使用して具体的に説明する。図4(a)は、電極10が揺動中心102に対して、旋回方向105に旋回しながら揺動距離103で基準揺動軌道104を移動したときの動作を示している。基準揺動軌道104からの実際の電極位置の差が無い(差が閾値THより小さい)場合、電極中心101の軌跡は基準揺動軌道104と一致する。一方、基準揺動軌道104からの実際の電極位置の差が発生する(差が閾値TH以上になる)と、図4(b)に示すように、電極中心軌跡106と基準揺動軌道104との間に、差107が発生したものとして変更手段62が認識する。そのため、変更手段62は、図4(c)のように、差107に応じた揺動補正量108を電極揺動指令に追加するように、電極揺動指令を変更する。これにより、補正後の電極中心軌跡109は、基準揺動軌道104とほぼ同じ形状になる。
【0039】
次に、変更手段62の構成について図5を用いて説明する。図5は、変更手段62の内部構成を示す図である。
【0040】
変更手段62は、電極揺動指令の変更を、揺動の1周期が経過する毎に行い、揺動の1周期が経過する途中に行わない。なお、揺動1周期とは、図4(a)で示す電極中心101が、基準揺動軌跡104に沿って1周する期間である。
【0041】
具体的には、変更手段62は、判断手段624、差の最大値の記憶手段621、揺動周期管理手段625、揺動補正量算出手段622、及び電極揺動指令変更手段623を有する。
【0042】
判断手段624は、基準揺動軌道104からの実際の電極位置の差の算出結果を算出手段61から供給される。判断手段624は、算出手段61から供給された差の算出結果と、差の最大値の記憶手段621に記憶された差の値とを比較し、差の算出結果と差の値とのいずれが大きいか判断する。判断手段624は、差の算出結果のほうが大きいと判断した場合、差の最大値の記憶手段621に記憶された差の値を差の算出結果で上書き更新し、差の値のほうが大きいと判断した場合、特に上書き更新を行わない。
【0043】
差の最大値の記憶手段621には、上記のようにして、例えばN回目(Nは整数)の揺動開始からN+1回目の揺動開始までの間、すなわち揺動の1周期が経過するまでの間、差の最大値が常に記憶される。例えば、数msec〜数100msecの周期(揺動の1周期より小さい周期)で、位置情報に基づく差のサンプリングを行い、その最大値を記憶するようにすれば良いが、このような方法に限るものではなく、(揺動の1周期より小さい)任意のサンプリング周期にて対応が可能である。
【0044】
揺動周期管理手段625は、タイマ(図示せず)等を用いて、1回目の揺動開始からの経過時間をカウントしており、そのカウント値に応じて揺動1周期が経過するタイミングを管理している。そして、揺動周期管理手段625は、例えば揺動1周期が経過するたびに次の揺動開始のタイミングになったことを判断手段624及び揺動補正量算出手段622へ通知する。例えば、揺動周期管理手段625は、N回目の揺動1周期が経過するタイミングで、N+1回目の揺動開始のタイミングになったことを判断手段624及び揺動補正量算出手段622へ通知する。
【0045】
揺動補正量算出手段622は、揺動周期管理手段625からの通知に応じて、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングになったことを把握する。揺動補正量算出手段622は、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングにおいて、差の最大値の記憶手段621から差の最大値を読み出す。揺動補正量算出手段622は、差の最大値に応じて、揺動補正量(図4(c)に示す揺動補正量108)を算出して設定する。揺動補正量算出手段622は、例えば、差の最大値をそのまま揺動補正量としてもよいし、差の最大値に所定の係数をかけたものを揺動補正量としてもよいし、所定の関数を用いて差の最大値から演算したものを揺動補正量としてもよい。また、揺動補正量算出手段622は、差の最大値の記憶手段621にアクセスして、差の最大値の記憶手段621に記憶されていた差の最大値をリセット(消去)する。
【0046】
電極揺動指令変更手段623は、揺動補正量算出手段622により設定された揺動補正量に応じて、N+1回目の揺動用に電極揺動指令を変更する。例えば、電極揺動指令変更手段623は、N回目の電極揺動指令値を初期指令値+揺動補正量で置き換える。これにより、電極揺動指令変更手段623は、電極揺動指令を、N回目の揺動用の電極揺動指令からN+1回目の揺動用の電極揺動指令へ変更する。
【0047】
次に、変更手段62の動作について図6を用いて説明する。図6は、図3の電極揺動指令変更ステップ(ステップS116)における変更手段62の詳細動作を示すフロー図である。
【0048】
ステップS211では、変更手段62の揺動周期管理手段625が、N回目の揺動開始のタイミングになったことを示すN回目揺動開始フラグを生成して判断手段624及び揺動補正量算出手段622へ供給する。
【0049】
ステップS212では、変更手段62の判断手段624が、所定のサンプリング周期で、算出手段61から供給された差の算出結果と、差の最大値の記憶手段621に記憶された差の値とを比較し、差の算出結果と差の値とのいずれが大きいか判断する。判断手段624は、差の算出結果のほうが大きいと判断した場合、差の最大値の記憶手段621に記憶された差の値を差の算出結果で上書き更新し、差の値のほうが大きいと判断した場合、特に上書き更新を行わない。
【0050】
ステップS213では、揺動周期管理手段625が、N+1回目の揺動開始のタイミングになったか否かを判断する。揺動周期管理手段625は、N+1回目の揺動開始のタイミングになっていない(ステップS213でNo)と判断する場合、処理をステップS212へ戻す。揺動周期管理手段625は、N+1回目の揺動開始のタイミングになった(ステップS213でYes)と判断する場合、N+1回目の揺動開始のタイミングになったことを示すN+1回目揺動開始フラグを生成して判断手段624及び揺動補正量算出手段622へ供給し、処理をステップS214へ進める。
【0051】
ステップS214では、揺動補正量算出手段622が、揺動周期管理手段625からN+1回目揺動開始フラグが供給されたことに応じて、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングになったことを把握する。揺動補正量算出手段622は、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングにおいて、差の最大値の記憶手段621から差の最大値(最新の差の最大値)を読み出す。揺動補正量算出手段622は、差の最大値に応じて、揺動補正量(図4(c)に示す揺動補正量108)を算出して設定する。揺動補正量算出手段622は、例えば、差の最大値をそのまま揺動補正量としてもよいし、差の最大値に所定の係数をかけたものを揺動補正量としてもよいし、所定の関数を用いて差の最大値から演算したものを揺動補正量としてもよい。また、揺動補正量算出手段622は、差の最大値の記憶手段621にアクセスして、差の最大値の記憶手段621に記憶されていた差の最大値をリセット(消去)する。
【0052】
ステップS215では、電極揺動指令変更手段623が、揺動補正量算出手段622により設定された揺動補正量に応じて、N+1回目の揺動用に電極揺動指令を変更する。例えば、電極揺動指令変更手段623は、N回目の電極揺動指令値を初期指令値+揺動補正量で置き換える。これにより、電極揺動指令変更手段623は、電極揺動指令を、N回目の揺動用の電極揺動指令からN+1回目の揺動用の電極揺動指令へ変更する。
【0053】
なお、揺動補正量算出手段622におけるN回目揺動開始フラグに応じた処理、すなわちN回目揺動開始フラグに応じたステップS214の処理は、N回目揺動開始フラグに応じたステップS212及びステップS213の処理に並行して行なわれるが、N+1回目揺動開始フラグに応じたステップS214の処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0054】
本プロセスにより、揺動1周期中は、常に一定の揺動半径で加工が行われることとなる。揺動加工中に、揺動半径が変動した場合、加工間隙のスラッジ排出量が不規則化し、加工不安定化につながる。そのため、本プロセスのように揺動半径を一定化し、揺動平面方向の軌跡動作を安定化すれば、放電加工中の間隙が均一に維持され、加工速度を向上させる場合においても、加工精度を維持することができる。
【0055】
一方、機械本体の応答性が、揺動平面内における交差する少なくとも2軸方向の間で異なる場合が考えられる。例えば、X軸方向の機械剛性に比較してY軸方向の機械剛性が弱く、応答性を低く設定する場合に、揺動動作を行った場合における基準揺動軌道から実際の電極位置の差は、Y軸方向の方が大きくなる傾向にある。この場合、電極揺動軌跡は揺動中心に対して非円形状になることが想定される。
【0056】
図7は、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差がXY軸方向間で均等な場合(図7(a))と不均等な場合(図7(b)、(c))とについて電極中心軌跡106を比較したものである。図7(b)に示すように、X軸方向の差110に比べてY軸方向の差111が大きい場合、電極中心軌跡106は楕円形状の歪な形状になる。
【0057】
それに対する対処手段として、本実施形態では、算出手段61(図2参照)が、揺動平面内における交差する少なくとも2軸(X軸及びY軸)について差110、111(図7(b)参照)をそれぞれ算出する。また、変更手段62(図2参照)は、少なくとも2軸(X軸及びY軸)について電極揺動指令をそれぞれ変更する。例えば、変更手段62の電極揺動指令変更手段623は、N回目のX軸方向の電極揺動指令値をX軸方向の初期指令値+X軸方向の揺動補正量112(図7(c)参照)で置き換えるとともに、N回目のY軸方向の電極揺動指令値をY軸方向の初期指令値+Y軸方向の揺動補正量113(図7(c)参照)で置き換える。これにより、電極揺動指令変更手段623は、2軸(X軸及びY軸)方向のそれぞれについて、電極揺動指令を、N回目の揺動用の電極揺動指令からN+1回目の揺動用の電極揺動指令へ変更する。なお、このような対処手段は、揺動平面内における交差する3軸以上の方向について適用してもよい。
【0058】
このような対処手段により、例えば機械剛性がXY軸方向間で異なり、揺動動作時に電極揺動軌跡が揺動平面内にて非円形状となる場合でも、応答性の低い軸方向の電極揺動指令を相対的に増加することができる。そのため、揺動軌跡を本来の真円形状に補間できるため、加工速度を向上させる場合においても、加工精度を維持することができる。
【0059】
次に、高速揺動時に電極中心からの揺動距離を変化させた場合の加工速度特性を図8に示す。ここで示す加工速度とは、電極が加工進行方向に対して、単位時間当たりに移動する量のことである。揺動が無い状態(揺動距離が0μmの状態)と比較して、揺動距離を2μm以上にすることにより加工速度が向上することが確認できる。例えば、揺動距離を5μmにすると、30%程度の速度改善効果(加工速度が約1.3倍となる効果)が得られる。ただし、揺動距離が大きくなりすぎると、加工対向面積が大きくなることにより加工速度が低下する。そのため、加工速度が極大となる揺動距離を選択することにより、最大60%程度の速度改善効果(加工速度が約1.6倍となる効果)が得られる。
【0060】
また、図9は、高速揺動時に揺動距離5μmにて加工した場合の、揺動速度と加工速度の関係を示したものである。揺動速度(揺動周波数)を5Hz以上とすることにより、30%程度の速度改善効果(加工速度が約1.3倍となる効果)が得られる。
【0061】
このように、加工速度を向上させるためには、揺動速度(揺動周波数)は5Hz以上に維持することが好ましく、揺動距離(揺動量)は2μm以上に維持することが好ましい。これにより、加工時の不安定化を効果的に解消し、それにより加工速度の向上を図ることが可能である。
【0062】
ここで、仮に、放電加工装置において、電極10を駆動するための駆動部30のほかに、被加工物20を加工中に常に振動させるための圧電素子からなる振動付加部を備えた場合について考える。この場合、本来の放電加工装置とは別に、独立した高応答の圧電素子(特別なアクチュエータ)が必要となるため、装置全体の構成が複雑化し、トータルコストが増大する傾向にある。また、微細加工、高精度仕上げ加工などにおいて、微細放電パルス条件を使用した場合、放電発生時の極間間隙が小さくなるため、駆動部30を使用したとしても加工屑が逃げにくくなる。特に、振動付加部による被加工物20の振動方向が加工進行方向(電極10の送り方向)に限定された場合、加工屑は加工底面部に停滞し続けるため、加工不安定化を解消することが困難となり、加工速度が低下することとなる。
【0063】
それに対して、実施の形態1では、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を算出し、算出される差が小さくなるように電極揺動指令を変更する。このため、特別なアクチュエータなしに、既存の駆動系を使用した加工が可能であり、さらに、電極の追従遅れを揺動半径の変更により補完することができるため、所定の揺動半径で高速に旋回動作させることができる。すなわち、既存の駆動装置を用いて高速に揺動動作を行いながら所望の揺動軌道(基準揺動起動)に追従させることができるため、駆動軸端の応答性が低い放電加工装置においても、加工中に極間に発生する加工屑やタールを的確に排除し、加工速度を向上させることができる。この結果、形彫放電加工、細穴加工等の高速化を実現できる。特に、微細放電加工など、加工屑の排出特性が悪い状態においても、的確に加工屑を排除でき、高速化が可能となる。すなわち、実施の形態1によれば、トータルコストを抑制しながら、放電加工の加工速度を高速化できる。
【0064】
あるいは、仮に、油中加工などにおいて微細加工を行う場合について考える。この場合、放電が発生する際の極間間隙が小さくなるため、加工中に電極と被加工物とが接触する、短絡という動作が頻発する。極間短絡状態で電圧を印加した場合、極間では放電現象は発生せずに、短絡電流が流れることとなる。短絡電流により発生する熱エネルギーは、加工液である油をタール状の付着物へ変成させ、被加工物の加工面へ付着することとなる。この場合、加工進行方向に電極を振動させたとしても、付着したタールは適切に排除されにくく、短絡現象の継続により、加工速度が低下する傾向にある。
【0065】
それに対して、実施の形態1では、所定の基準揺動軌道と実際の電極位置の差を算出し、算出される差が小さくなるように電極揺動指令を変更する。このため、上記のように、油中加工などの加工屑の排出特性が悪い状態においても、的確に加工屑を排除でき、加工の高速化が可能となる。すなわち、実施の形態1によれば、油中加工などの微細加工を行う場合でも、電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる。
【0066】
あるいは、仮に、電極を一定角速度で円運動させて揺動半径方向にサーボし、被加工物と電極との間隔を一定に保って揺動運動をさせつつ、加工深さ方向に一定速度で往復動作を繰り返す放電加工を行う場合について考える。この場合、加工エネルギーの大きい荒加工や中仕上げ加工での加工安定化に効果があるものの、揺動半径が小さい高精度条件を考慮に入れていない。このような高精度条件では加工屑を十分に排除することが困難であり、加工不安定化の解消には限界がある。特に、加工屑滞留などにより極間にて短絡現象が頻発した場合、極間電圧が低下することによる問題が発生する。つまり、電極は被加工物に対して揺動半径方向にサーボしているため、極間電圧が低下した場合、揺動中心方向へ電極は退避し、それに伴い有効放電率は低下し、結果的に加工速度が低下する。
【0067】
それに対して、実施の形態1では、所定の基準揺動軌道と実際の電極位置の差を算出し、算出される差が小さくなるように電極揺動指令を変更する。このため、上記のように、揺動半径が小さい高精度条件などの加工屑の排出特性が悪い状態においても、的確に加工屑を排除し、加工の高速化が可能となる。すなわち、実施の形態1によれば、高精度条件で加工を行う場合でも、電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる。
【0068】
あるいは、仮に、極間電圧と設定電圧とに差がある場合に、電圧差に応じて被加工物と電圧との間隙を一定に保つように揺動半径を増減させた後、一定周回速度で揺動運動させる場合について考える。この場合、揺動中心方向へ電極が退避することで不安定化を解消できるものの、極間に存在する加工屑やタールを除去できない可能性がある。極間に存在する加工屑やタールを除去できないと、揺動半径が初期値に戻った際に、再び加工不安定化が発生し、加工速度を向上させることができない。
【0069】
それに対して、実施の形態1では、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を算出し、算出される差が小さくなるように電極揺動指令を変更する。これにより、被加工物と電圧との間隙が変動したとしても、基準揺動軌道に追従するように高速に揺動させながら加工を行うことができるため、極間の加工屑を的確に排出でき、加工速度向上を中心とした加工性能を最大限に発揮することができる。
【0070】
あるいは、仮に、電極位置と最前進位置との差である加工遅れ量が大きくなるに従い、旋回速度を小さくなるように動作させる場合について考える。この場合、不安定時に旋回速度を低下させるので、加工速度の向上に限界がある。
【0071】
それに対して、実施の形態1では、高速移動時の揺動半径方向の電極の追従遅れ量が小さくなるように揺動半径を増加させるので、既存の駆動装置を用いて高速に揺動動作を実施したとしても、所望の揺動軌道を維持できる。すなわち、旋回速度を低下させることなく電極の追従遅れを補完することができるため、不安定時であっても加工速度を向上できる。すなわち、実施の形態1によれば、不安定時であっても、電極の送り方向に垂直な平面内で電極と被加工物とを相対的に揺動させながら被加工物を加工する際における加工速度を向上できる。
【0072】
また、実施の形態1では、電極揺動指令の変更を、揺動の1周期が経過する毎に行い、揺動の1周期が経過する途中に行わない。これにより、揺動平面方向の軌跡動作を安定化でき、放電加工間隙を均一に維持できるため、加工速度を向上させる場合においても、加工精度を維持できる。
【0073】
また、実施の形態1では、基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を、揺動平面内における交差する少なくとも2軸についてそれぞれ算出するとともに、少なくとも2軸について電極揺動指令をそれぞれ変更する。これにより、放電加工装置の機械本体剛性が揺動平面内におけるXY軸方向で異なる場合においても、加工精度を維持できる。つまり、機械剛性がXY軸方向で非対称の場合、高速揺動動作時に揺動軌跡が揺動平面内にて非円形状となってしまうが、このような場合でも、剛性が弱い軸方向の揺動指令値を相対的に増加させることができる。この結果、揺動軌跡を本来の真円形状に補間できるため、加工速度の向上と加工精度の維持とを両立できる。
【0074】
また、実施の形態1では、揺動動作時の旋回速度(旋回周波数)が5Hz以上であり、電極中心(揺動中心)からの揺動距離(揺動量)が2μm以上である。これにより、加工面への加工油からの生成物であるタール付着や、加工屑が排出されにくいような加工形状であったとしても、それらを着実に除去可能となり、加工の安定化と加工速度を向上させることとを両立できる。
【0075】
なお、図8に相当する加工において、揺動無し(揺動距離0μm)の時と、揺動距離5μmの時の極間電圧の平均値の変化を図10(a)、(b)にそれぞれ示す。揺動が無い状態(図10(a))では、極間の平均電圧の変動幅(変動量)が平均電圧の実効値に対して最大100%(±100%)に達する場合があるのに対して、揺動距離を5μmとする(図10(b))ことにより平均電圧の変動幅(変動量)が平均電圧の実効値に対して30%(±30%)程度まで抑制されていることがわかる。
【0076】
揺動が無い状態で電圧変動が大きい理由は、極間に加工屑やタールが停滞しているため、極間短絡現象を回避するために、加工サーボ動作により極間を離したり近接したりする動作を繰り返しているためである。しかし、短絡現象を回避させるために極間を離しても、近接時に再び短絡が発生していることが想定される。
【0077】
一方、揺動距離を5μmとした場合、電圧変動は極めて少ない。これは、揺動動作により極間の加工屑やタールが除去されているため、極間の短絡現象が発生しにくくなっていることを示している。例えば、変更手段62(図2参照)は、図10(c)に示すように、極間の平均電圧の変動幅が規定値C(第1の閾値)以上の時には揺動距離の指令値を増加させ、極間の平均電圧の変動幅が規定値C(第2の閾値)未満である場合には、揺動距離の指令値を小さくする、もしくは現状値に維持する。規定値Cは、例えば、50%に設定できる。これにより、最小限の揺動距離にて加工速度の高速化が実現できる。
【0078】
あるいは、例えば、変更手段62(図2参照)は、図10(c)に示すように、極間の平均電圧の変動幅が規定値A(第1の閾値)より大きい時には揺動距離の指令値を増加させ、極間の平均電圧の変動幅が規定値A以上規定値B以上の時には揺動距離の指令値を現状値に維持させ、極間の平均電圧の変動幅が規定値B(第2の閾値)未満である場合には揺動距離の指令値を小さくすることにより、最小限の揺動距離にて加工速度の高速化が実現できる。
【0079】
このような考え方に従い、変更手段62は、図6に示す動作に代えて、図11に示す動作を行ってもよい。図11は、実施の形態1の変形例における図3の電極揺動指令変更ステップ(ステップS116)での変更手段62の動作を示すフロー図である。以下では、図6に示すフロー図と異なる部分を中心に説明する。
【0080】
図11に示すステップS301では、変更手段62の判断手段624が、極間における平均電圧の検出結果を極間電圧検出部80から受けて変動履歴記憶手段(図示せず)に記憶させる。判断手段624は、所定の期間において、極間の平均電圧の変動幅を求めて差の最大値の記憶手段621に記憶させる。
【0081】
ステップS302では、変更手段62の揺動補正量算出手段622が、揺動周期管理手段625からN+1回目揺動開始フラグが供給されたことに応じて、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングになったことを把握する。揺動補正量算出手段622は、例えばN+1回目の揺動開始のタイミングにおいて、差の最大値の記憶手段621から極間の平均電圧の変動幅を読み出す。揺動補正量算出手段622は、極間の平均電圧の変動幅と規定値A及び規定値Bとを比較する。また、揺動補正量算出手段622は、差の最大値の記憶手段621にアクセスして、差の最大値の記憶手段621に記憶されていた差の最大値をリセット(消去)する。
【0082】
揺動補正量算出手段622は、極間の平均電圧の変動幅が規定値Aよりも大きい場合(ステップS302で「変動幅>規定値A」)、加工状態が不安定と認識して、処理をステップS303へ進める。揺動補正量算出手段622は、極間の平均電圧の変動幅が規定値A以下規定値B以上である場合(ステップS302で「規定値A>変動幅>規定値B」)、加工状態が適正であると認識して、処理をステップS304へ進める。揺動補正量算出手段622は、極間の平均電圧の変動幅が規定値Bより小さい場合(ステップS302で「規定値B>変動幅」)、揺動距離が大きすぎると判断し、処理をステップS305へ進める。
【0083】
ステップS303では、揺動補正量算出手段622が、揺動距離(揺動半径)を増加させるための揺動補正量を算出する。例えば、揺動補正量算出手段622は、(変動幅−規定値A)×f(fは正の係数)を揺動補正量として算出して設定する。
【0084】
ステップS304では、揺動補正量算出手段622が、揺動距離(揺動半径)を現状値に維持させるための揺動補正量を算出する。例えば、揺動補正量算出手段622は、0(ゼロ)を揺動補正量として算出して設定する。
【0085】
ステップS305では、揺動補正量算出手段622が、揺動距離(揺動半径)を減少させるための揺動補正量を算出する。例えば、揺動補正量算出手段622は、(変動幅−規定値B)×f(fは正の係数)を揺動補正量として算出して設定する。
【0086】
このように、極間の平均電圧の変動幅を検出し、その変動幅が規定値より大きい場合に揺動距離(揺動半径)を増加させ、その変動幅が規定値より小さい場合に揺動距離(揺動半径)を減少させる。これにより、加工の安定化に最低限必要な揺動距離を、あらかじめ加工試験などにより調査すること無く、加工中の安定度に応じて自動的に設定できるため、加工プロセスの自動化、省人化への効果が期待される。規定値A、Bは、実験結果に基づき決定可能である。一例として、揺動半径を増加させ、加工速度が最速になった場合の電圧変動値をBとし、また、無揺動時の電圧変動値に対して、前記Bの値との中間値をAとすれば良い。本プロセスは、電圧変動をできるだけ規定値Aと規定値Bとの間の範囲に近づけることにより、最低限必要な揺動距離で、高速加工条件を選択することができる。
【0087】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかる放電加工装置200について図12を用いて説明する。図12は、実施の形態2におけるNC制御装置260の内部構成を示す図である。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0088】
放電加工装置200は、NC制御装置260を備える。NC制御装置260は、揺動軌跡記憶手段261、揺動速度記憶手段262、高速揺動半径記憶手段263、高速揺動速度記憶手段264、及び軌跡・速度合成手段265を有する。
【0089】
揺動軌跡記憶手段261には、低速揺動軌跡(図14(a)、図15(a)参照)に関する情報が記憶されている。低速揺動軌跡に関する情報は、低速揺動における揺動距離(第1の揺動量)の情報を含む。揺動速度記憶手段262には、低速揺動における揺動速度(第1の速度)の情報が記憶されている。
【0090】
高速揺動半径記憶手段263には、高速揺動軌跡(図14(b)、図15(b)参照)に関する情報が記憶されている。高速揺動軌跡に関する情報は、高速揺動における揺動半径(第2の揺動量)の情報を含む。第2の揺動量は、第1の揺動量より小さい(図15参照)。高速揺動速度記憶手段264には、高速揺動における揺動速度(第2の速度)の情報が記憶されている。第2の速度は、第1の速度より高速である。
【0091】
軌跡・速度合成手段265は、揺動軌跡記憶手段261、揺動速度記憶手段262、高速揺動半径記憶手段263、及び高速揺動速度記憶手段264に記憶された情報に応じて、電極揺動指令を生成する。具体的には、軌跡・速度合成手段265は、合成手段2651及び生成手段2652を有する。
【0092】
合成手段2651は、所定のタイミングで、低速揺動軌跡に関する情報を揺動軌跡記憶手段261から読み出し、揺動速度の情報を揺動速度記憶手段262から読み出す。合成手段2651は、読み出したそれらの情報に基づいて、第1の速度及び第1の揺動量を有する低速揺動軌跡情報(第1の揺動軌跡情報)を生成する。
【0093】
同様に、合成手段2651は、所定のタイミングで、高速揺動軌跡に関する情報を揺動軌跡記憶手段263から読み出し、揺動速度の情報を高速揺動速度記憶手段264から読み出す。合成手段2651は、読み出したそれらの情報に基づいて、第2の速度及び第2の揺動量を有する高速揺動軌跡情報(第2の揺動軌跡情報)を生成する。
【0094】
そして、合成手段2651は、低速揺動軌跡情報と高速揺動軌跡情報とを合成して、合成された情報を揺動軌跡情報として生成手段2652へ供給する。
【0095】
生成手段2652は、合成手段2651により合成された揺動軌跡情報に従って、電極揺動指令を生成して駆動制御部50へ供給する。これにより、駆動制御部50は、生成手段2652により生成された電極揺動指令に従って、電極10と被加工物20とを相対的に揺動させる(図1参照)。
【0096】
次に、NC制御装置260の動作について図13を用いて説明する。図13は、実施の形態2における制御動作を示すフロー図である。
【0097】
ステップS411では、軌跡・速度合成手段265の合成手段2651が、低速揺動軌跡に関する情報を揺動軌跡記憶手段261から読み出し、揺動速度の情報を揺動速度記憶手段262から読み出す。合成手段2651は、読み出したそれらの情報に基づいて、第1の速度及び第1の揺動量を有する低速揺動軌跡情報(第1の揺動軌跡情報)を生成する。
【0098】
ステップS413では、合成手段2651が、高速揺動軌跡に関する情報を高速揺動半径記憶手段263から読み出し、揺動速度の情報を高速揺動速度記憶手段264から読み出す。合成手段2651は、読み出したそれらの情報に基づいて、第2の速度及び第2の揺動量を有する高速揺動軌跡情報(第2の揺動軌跡情報)を生成する。
【0099】
このように、合成手段2651は、ステップS411の処理とステップS413の処理とを並行して行う。そして、合成手段2651は、ステップS411の処理の完了(低速揺動軌跡情報の生成)とステップS413の処理の完了(高速揺動軌跡情報の生成)とを確認したら、ステップS415の処理を開始する。
【0100】
ステップS415では、合成手段2651は、低速揺動軌跡情報と高速揺動軌跡情報とを合成して、合成された情報を揺動軌跡情報として生成手段2652へ供給する。生成手段2652は、合成手段2651により合成された揺動軌跡情報に従って、電極揺動指令を生成して駆動制御部50へ供給する。
【0101】
揺動軌跡の合成に関して、図14にて説明する。例えば、図14(a)に示す低速の揺動軌跡に対して、図14(b)に示す高速の揺動軌跡を合成すると、図14(c)に示す合成後の揺動軌跡が得られる。高速揺動軌跡は、単位時間毎に変遷していくため(図14(d)参照)、単位時間毎に高速揺動軌跡の進行方向と距離を算出し、低速揺動軌跡との合成を行えば良い。以上のようなプロセスによる実際の電極軌跡を、図15に一例として示す。今回の事例では、四角状の低速揺動軌跡201に対して、円状の高速揺動軌跡202を合成した例となる。合成された揺動軌跡203の輪郭は、凹凸状になっているが、実際の高速揺動速度は、低速揺動速度よりも格段に速いため、螺旋状の軌跡は圧縮され、図で示されるような凹凸上の輪郭は、実際には平均化された形状になる。
【0102】
このように、実施の形態2では、任意の速度で揺動する軌跡に対して、電極の軸中心に高速揺動する速度指令と軌跡を合成し、合成された速度指令、軌跡に従い電極を駆動する。これにより、円などの単純な揺動形状だけでなく、複雑な揺動形状においても、極間の加工屑を的確かつ効率的に排除できる。例えば、形彫放電加工機のように複雑な三次元形状の電極を使用する場合においても、形状に応じた揺動軌跡を適用しながら、加工速度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、本発明にかかる放電加工装置は、電極と被加工物との間に電圧をかけて、両者の間に発生する放電現象を利用して加工する放電加工に有用である。
【符号の説明】
【0104】
10 電極
20 被加工物
30 駆動部
40 電極位置検出装置
41 電極位置情報取得手段
50 駆動制御部
51 電極位置制御手段
60 NC制御装置
61 算出手段
62 変更手段
63 電極位置情報記憶手段
64 基準揺動軌道記憶手段
70 加工電源
80 極間電圧検出部
100 放電加工装置
101 電極中心
102 揺動中心
103 揺動距離
104 基準揺動軌道
105 揺動時の旋回方向
106 電極中心軌跡
107 差
108 揺動補正量
109 補正後の電極中心軌跡
110 X軸方向の差
111 Y軸方向の差
112 X軸方向の揺動補正量
113 Y軸方向の揺動補正量
201 低速揺動軌跡
202 高速揺動軌跡
203 合成された揺動軌跡
260 NC制御装置
261 揺動軌跡記憶手段
262 揺動速度記憶手段
263 高速揺動半径記憶手段
264 高速揺動速度記憶手段
265 軌跡・速度合成手段
621 差の最大値の記憶手段
622 揺動補正量算出手段
623 電極揺動指令変更手段
624 判断手段
625 揺動周期管理手段
2651 合成手段
2652 生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工する際に、電極揺動指令に従って、電極の送り方向に垂直な平面内で前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる揺動手段と、
基準揺動軌道からの実際の電極位置の差を算出する算出手段と、
前記差が小さくなるように前記電極揺動指令を変更する変更手段と、
を備え、
前記揺動手段は、前記変更手段により変更された前記電極揺動指令に従って、前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる
ことを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記差が小さくなるように前記垂直な平面内における前記揺動の揺動半径を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記電極揺動指令の変更を、前記揺動の1周期が経過する毎に行い、前記揺動の1周期が経過する途中に行わない
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放電加工装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記垂直な平面内における交差する少なくとも2軸について前記差をそれぞれ算出し、
前記変更手段は、前記少なくとも2軸について前記電極揺動指令をそれぞれ変更する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項5】
前記電極と前記被加工物との極間における平均電圧の変動幅を検出する検出手段をさらに備え、
前記変更手段は、前記検出手段により検出された前記変動幅が第1の閾値より大きい場合、揺動量が増加するように前記電極揺動指令を変更し、前記検出手段により検出された前記変動幅が第2の閾値より小さい場合、揺動量が減少するように前記電極揺動指令を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項6】
前記揺動の周波数は、5Hz以上であり、
前記揺動の揺動量は、2μm以上である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項7】
被加工物を加工する際に、電極揺動指令に従って、電極の送り方向に垂直な平面内で前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる揺動手段と、
第1の速度及び第1の揺動量を有する第1の揺動軌跡情報と第2の速度及び第2の揺動量を有する第2の揺動軌跡情報とを合成する合成手段と、
前記合成手段により合成された揺動軌跡情報に従って、前記電極揺動指令を生成する生成手段と、
を備え、
前記揺動手段は、前記生成手段により生成された前記電極揺動指令に従って、前記電極と前記被加工物とを相対的に揺動させる
ことを特徴とする放電加工装置。
【請求項8】
前記第2の速度は、前記第1の速度より高速であり、
前記第2の揺動量は、前記第1の揺動量より小さい
ことを特徴とする請求項7に記載の放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−101295(P2012−101295A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249907(P2010−249907)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】