説明

放電加工電極

【課題】効率的かつ効果的な仕方で、エーロフォイルの高度な輪郭を有するエーロフォイルセクションに適用可能な高品質の孔を生成できるEDM電極が提供される。
【解決手段】本発明によるEDM電極30は、電極基部36から延在する第一の複数の電極歯32と第二の複数の電極歯34とを含む。Y平面内に画定されたこれら複数の電極歯は、変化する長さを有する。第二の複数の電極歯34は、第一の複数の電極歯32に比較して湾曲して、エーロフォイルセクション24などのような高度な輪郭を有するワークピースの輪郭に概略追随している。第二の複数の電極歯34はまた、第一の複数の電極歯32に比較してZ平面内で湾曲して、高度な輪郭を有するワークピース(例えば、エーロフォイルセクション24)の輪郭にさらに追随している。電極ホルダー基部40が、EDM電極30をX平面およびY平面について整列させて維持し、Z平面に対して曲率を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン部品などのような物品に孔を形成することに関し、より詳細には、放電加工(electrical discharge machining)(EDM)装置に使用するための電極に関する。
【0002】
本発明は、海軍省が結んだ契約第N00014−02−C−3003号に基づく米国政府の援助の下に行われた。従って米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ガスタービンエンジンは、効率を増加させるため極めて高い温度で作動する。エンジンのタービンセクション内で可動ブレードのリング間に配置された固定ベーンは、可動ブレードの一つの段から次の段へ高温ガス流を導きかつ安定させる。しかしながら、この高温ガスへの直接露出は、部品のひずみを生じさせることで、また極端な場合は溶融すら生じさせることによってベーンおよびブレードに有害な影響を及ぼす。
【0004】
内部冷却技術は、高温で作動している間にブレードおよびベーンの温度を設計限界内に維持するために開発されてきた。エンジン部品の外側表面は一般に、フィルム冷却を行うためにエンジンの圧縮機セクションからの高圧冷却空気で冷却される。この方法では、冷却空気の層が、高温ガスとエンジン部品の外部表面の間に流れる。冷却空気の層は、所定のパターンで形成された部品中の一連の小孔を通して冷却空気を通過させることによって形成される。結果として得られる空気フィルムによって、部品表面温度が低下され、それによって、部品のひずみが防止される。より高いタービン入口温度範囲が可能となるので、エンジン効率も増加する。
【0005】
ガスタービンエンジン部品に費用対効果が高くかつ高品質の冷却孔を形成する多くのプロセスが存在する。そのようなプロセスの一つは、放電加工(EDM)である。EDMは、孔やその他の開口部を金属に生成するためのよく知られたプロセスであり、このプロセスでは、電流放電が金属を侵食するのに使用される。例えば、正に帯電させたワークピース(陽極)と負に帯電させた電極(陰極)の間に直流をパルス通電(pulse)させることにより、火花放電を生成する。両方とも誘電性流体に接触している電極とワークピースの間の電位差が誘電性流体を破壊しかつ電気伝導性チャネルを生成するのに十分大きなものとなったときに電流が生じる。電圧を印加する際、ワークピースを溶融させかつ侵食するのに十分な熱エネルギーと共に電流が生じる。このプロセスは、他の手段では製造するのが不可能ではないにしろ面倒な小さく深く特殊な形状の孔を加工するのに適用される。
【0006】
エンジン部品に拡散孔を生成する従来のEDM方法では、一般にスタンピングやコイニングにより製造される平板状銅電極すなわち「EDMくし」が使用される。電極の歯は、小さな直径の細長い端部であり、これが、電極過燃焼(overburn)とEDM電極侵食を考慮して電極により画定される孔形状を形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したEDM方法は成功しているとはいえ、限界が存在する。そのような限界の一つは、従来の平板状EDMくしが一直線の列に並んだ孔に制限されており、比較的直線的なエーロフォイルセクションにのみ適用可能であることである。
【0008】
従って、効率的かつ効果的な仕方で、エーロフォイルの高度な輪郭を有するエーロフォイルセクションに適用可能な高品質の孔を生成できるEDM電極を提供するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるEDM電極は、電極基部から延在する第一の複数の電極歯と第二の複数の電極歯とを含む。Y平面内に画定されたこれら複数の電極歯は、変化する長さを有する。第二の複数の電極歯は、第一の複数の電極歯に比較して湾曲して、エーロフォイルセクションなどのような高度な輪郭を有するワークピースの輪郭に概略追随している。第二の複数の電極歯はまた、第一の複数の電極歯に比較してZ平面内で湾曲して、高度な輪郭を有するワークピース(例えば、エーロフォイルセクション)の輪郭にさらに追随している。電極ホルダー基部が、EDM電極をX平面およびY平面について整列させて維持し、Z平面に対して曲率(curvature)を維持する。
【0010】
従って本発明は、効率的かつ効果的な仕方で、エーロフォイルのエーロフォイルセクションなどのような高度な輪郭を有するワークピースに適用可能な高品質の孔を生成できるEDM電極を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のさまざまな特徴および利点は、現在好ましい実施態様についての以下の詳細な説明から当業者には明らかとなるであろう。詳細な説明を伴う図面は、以下に簡潔に述べられる。
【0012】
図1は、例示的な物品、すなわち、エーロフォイルセクション24に拡散孔22を有する中空のタービンステータ20(ワークピース)の概略斜視図を示す。本発明の支援によって、拡散孔22は、ステータ内側セクション26とステータ外側セクション28に隣接するフィレット(fillet)などのようなエーロフォイルセクション24の高度な輪郭を有する領域に存在できる。ここで使用する「高度な」輪郭を有するとは、一般にエーロフォイル本体の湾曲セクションまたはシュラウドをエーロフォイル表面と架橋するような領域として定義される。エーロフォイル表面は開示された実施態様に例示されているとはいえ、EDM孔が望ましい任意の若干の輪郭を有する物品もまた本発明から利益を得ることは理解されるはずである。当業者に通常理解されるように、冷却空気が一般に根元部(root)にある開口部を通ってステータ20の内部キャビティに流入する。ステータ20の内部表面は、対流により冷却され、一方、外部表面は、拡散孔22から流出する空気からのフィルム冷却を通して冷却される。本発明の結果としてエーロフォイルセクション24の高度に輪郭付けられた領域に拡散孔22を形成する能力によって、そうでなければ冷却されないセクション上にフィルム冷却を提供可能となり、その結果、より高い温度に耐える、より耐久性のあるエーロフォイルが得られる。例示的な実施態様に開示されたワークピースはステータであるとはいえ、エーロフォイル形状の部品を含む他のワークピースもまた本発明から利益を得ることは理解されるはずである。
【0013】
限定ではなく例示としての意味をもつ実例を用いて、拡散孔の放電加工(EDM)によって本発明を説明する。EDMを用いてガスタービンエンジン部品に拡散孔を形成することは当業技術内でよく知られているので、プロセスの具体的な詳細はここに説明する必要はないであろう。
【0014】
図2Aを参照すると、EDM電極30は、電極基部36から延在する第一の複数の電極歯32と第二の複数の電極歯34とを含む。これら複数の電極歯32、34は、「くし」状構造を形成する。複数の電極歯32、34は、任意の導電性材料から製造でき、好ましくは銅から製造されるが、これは、それが比較的高価でなく、また所望の形状へのスタンピングおよびコイニングなどのような操作を受け入れるからである。
【0015】
一実施態様では、第一の複数の電極歯32は好ましくは、EDM電極30の中心部分に沿って配置され、第二の複数の電極歯34によって両側において横付けされている。すなわち、第二の複数の電極歯34は、X平面内で第一の複数の電極歯32の両側に配置されている。他の実施態様も可能であることは理解されるはずである。
【0016】
複数の電極歯32、34は、Y平面内で画定されており、変化する長さを有する。第二の複数の電極歯34は、第一の複数の電極歯32に比較してY平面内で長さを画定して、高度な輪郭を有するエーロフォイルセクション24(図1)の輪郭に概略追随している。Y平面内における変化は好ましくは、フライス削り(milling)操作によりEDM電極30の正面にこの曲率を機械加工することによって達成される。電極の周囲もまた、ワイヤーカットまたはスタンピング操作によって外側形状を生成することで生成できる。本発明と共にさまざまな曲率および形状を使用して、第二の複数の電極歯34をエーロフォイル内へ所望の深さに確実に貫入させて拡散孔の形成を確実なものにできることは理解されるはずである。
【0017】
第一の複数の電極歯32と第二の複数の電極歯34は、電極基部36から延在しており、電極基部36は好ましくは、電極32、34より大きな深さである(図2B)。すなわち、基部36は、より厚くなっており、歯32、34ためのより剛性の支持体を与える。電極基部36は好ましくは、電極ホルダー基部40(図3)内への取り付けを容易にするための取り付けピン孔37と逃がし溝39とを有する。本発明と共にさまざまな外形(図2B)の歯を使用できることは理解されるはずである。
【0018】
第二の複数の電極歯34はまた好ましくは、第一の複数の電極歯32に比較してZ平面内で湾曲して(図2C)、高度な輪郭を有するエーロフォイルセクション24(図1)の輪郭にさらに追随している。すなわち、第二の複数の電極歯34は、第一の複数の電極歯32により画定されたZ平面から延在している。
【0019】
図3を参照すると、電極ホルダー基部40は、上部基部部分40aと下部基部部分40bとを含む。下部基部部分40bは、取り付けピン孔37と係合する複数の取り付けピン42を含む。取り付けピン42は、EDM電極30をX平面およびY平面軸周りに整列させて維持し、一方、逃がし溝39は、Z平面に対してEDM電極30の曲率を生成する(図2C)のを容易にする。
【0020】
EDM電極30は、電極ホルダー基部40の形状に押し込まれるように電極ホルダー基部内に装填される。上部基部部分40aは本質的に、電極ホルダー基部40の形状にEDM電極30を撓ませる。逃がし溝39は、ホルダーの形状に電極を撓ませるのを容易にする。電極は最終的に、それ自体が曲率を維持するように締め付け固定(clamp)される。上部基部部分40aと下部基部部分40bとは締め付け固定具および/またはクランプによっていっしょに保持される。
【0021】
図4を参照すると、EDM電極は、従来の仕方で前縁20Lに隣接して中空のタービンステータ20内に進めさせる(概略図示する)。概略の第二の複数の電極歯34は、高度な輪郭を有するエーロフォイルセクション24に適合するような輪郭となっているので、EDM電極30は、高度に輪郭付けられたエーロフォイルセクション24(図1)に拡散孔を形成するように従来の仕方で進められる。すなわち、第一の複数の電極歯32は、概略直線の一群の拡散孔22を形成し、一方、第二の複数の電極歯34は、拡散孔22(図1)から偏位(offset)した一群の拡散孔22’を形成する。
【0022】
特定の工程順序を図示し、説明し、請求したとはいえ、工程は、特に指定しない限り、任意の順序で、別々にまたは組み合わせて実施でき、本発明からなお利益を得ることは理解されるはずである。
【0023】
上述した説明は、限定によって画定されるのではなく例示である。本発明の多数の変形および変更が上述の教示に照らして可能である。本発明の好ましい実施態様を開示したとはいえ、当業者ならば、特定の変形が本発明の範囲に含まれることを理解するであろう。従って、具体的に説明した以外に添付の特許請求の範囲で本発明を実施できることは理解されるはずである。それゆえに、本発明の真の範囲および内容を決定するには添付の特許請求の範囲を検討する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明と共に使用するための例示的なエーロフォイルセクションの概略斜視図である。
【図2A】本発明のEDM電極の平面図である。
【図2B】図2Aの2B−2B線に沿って取ったEDM電極のY平面側面図である。
【図2C】図2Aの2C−2C線に沿って取ったEDM電極のZ平面正面図である。
【図3】電極基部に取り付けて、図2Aの2B−2B線に沿って取ったEDM電極の側面図である。
【図4】高度な輪郭を有するエーロフォイルセクションにEDM電極を突き刺した、例示的なエーロフォイルセクションの概略斜視後面図である。
【符号の説明】
【0025】
20…中空のタービンステータ
22…拡散孔
24…エーロフォイルセクション
26…ステータ内側セクション
28…ステータ外側セクション
30…EDM電極
32…第一の複数の電極歯
34…第二の複数の電極歯
36…電極基部
40…電極ホルダー基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基部と、
電極基部から延在する第一の複数の歯と第二の複数の歯と、
を備える、放電加工電極であって、
第二の複数の歯の少なくとも一つが、第一の複数の歯の少なくとも一つに比較して長さの変化を有することを特徴とする放電加工電極。
【請求項2】
第二の複数の歯は、第一の複数の歯に比較して曲率を画定することを特徴とする請求項1記載の放電加工電極。
【請求項3】
第二の複数の歯は、第一の複数の歯に比較してY平面内で曲率を画定することを特徴とする請求項1記載の放電加工電極。
【請求項4】
第一の複数の歯は、Z平面内に配置され、第二の複数の歯は、このZ平面から延在することを特徴とする請求項1記載の放電加工電極。
【請求項5】
電極基部を収容して第一の複数の歯をZ平面内に維持しかつ第二の複数の歯をこのZ平面外に維持するホルダーをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の放電加工電極。
【請求項6】
前記基部は、前記電極をホルダー内に保持するための複数の取り付け開口部を画定することを特徴とする請求項1記載の放電加工電極。
【請求項7】
放電加工により輪郭を有するセクションを有する物品に孔を形成する方法であって、
(1) 第一の複数の歯と、この第一の複数の歯に比較して長さの変化を有する第二の複数の歯とを有する電極を形成し、
(2) 第二の複数の歯を輪郭を有するセクションに隣接して配置し、
(3) 複数の孔が高度な輪郭を有するセクションに形成されるように第一の複数の歯と第二の複数の歯とを前記物品内に進める、
各工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記工程(1)は、第二の複数の歯に比較してY平面内で第二の複数の歯を湾曲させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記工程(1)は、第一の複数の歯の両側に第二の複数の歯を配置する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記工程(1)は、第一の複数の歯をZ平面内に維持しかつ第二の複数の歯をこのZ平面外に維持する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記物品はエーロフォイルであることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項12】
第一のセクションと、
輪郭を有する第二のセクションと、
EDMプロセスにより形成され、第一のセクションと第二のセクションに存在する複数の孔と、
を含む、放電加工(EDM)プロセスにより少なくとも一部が形成された物品であって、
前記複数の孔は、所定の方向に略平行に延在し、第一のセクションにある前記孔は、第二のセクションにある前記孔から前記方向に沿って偏位している、
ことを特徴とする物品。
【請求項13】
前記物品はエーロフォイルであることを特徴とする請求項12記載の物品。
【請求項14】
前記エーロフォイルは、エーロフォイルとプラットホームとを有するステータセグメントであり、第二のセクションは、このエーロフォイルとプラットホームの間のフィレットであることを特徴とする請求項13記載の物品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−341363(P2006−341363A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105896(P2006−105896)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】