説明

放電検出方法および放電検出システム

【課題】回転電機の固定子の絶縁部の放電部位を特定する。
【解決手段】放電検出方法は、固定子コイルに所定の電圧が印加されるよう結線した後に、固定子コイル32に電圧を印加する工程と、固定子30の軸方向両側に配置した一対の軸方向アンテナ装置61、62で、絶縁部で発生する放電を検出して軸方向位置を特定する工程と、固定子30の所定の軸方向位置で、周方向に等間隔に配列された周方向アンテナ装置群70により、絶縁部で発生する放電を検出して周方向位置を特定する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の放電を検出可能な放電検出方法およびその方法に用いる放電検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギを効率よく利用するためや、省エネの観点からインバータモータの可変速運転が頻繁に行われている。
【0003】
しかしながら、モータをインバータ駆動した場合、ケーブルとモータのインピーダンス不整合に伴い、モータは立ち上がり時間が短い高電圧パルスに晒される(以降インバータサージ電圧と称する)。このため、通常の正弦波駆動用モータの場合に比べて、インバータモータは強い電気的なストレスに晒されることになる。モータに電気的なストレスが加わると、その絶縁構成部内の空隙間の電界強度が高まり、部分放電が生じることがある。
【0004】
この部分放電によって、絶縁構成部は侵食され、最終的には絶縁破壊を生じ、モータは運転不能になることがある。このため、インバータモータに対しては、高いサージ電圧が加わったとしても、モータの絶縁部、例えば巻線ターン間で部分放電が発生しないように、絶縁設計する必要がある。また、当該絶縁設計に基づいて絶縁部を製作し、出荷前にはモータの絶縁性能を検査し、徹底的な部分放電管理の下で、不良品を出荷しないようにする必要がある。
【0005】
インバータモータ内の部分放電を高感度で検出する方法は、特許文献1および特許文献2に開示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−288250号公報
【特許文献2】特開2005−69745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記のような検出方法では、インバータモータ内の部分放電の発生位置を特定することができないことが多い。このため、絶縁不良部位の製造工程を特定することが困難である。
【0008】
特許文献1では、部分放電の検出を電流にて測定しているため、インバータモータ内の部分放電の発生位置を具体的に特定することができないことが多い。さらに、通常、不良と判定されたモータは分解し廃却されるため、これによる追加の材料費と工数が増大する可能性がある。
【0009】
一方、特許文献2では、部分放電による電磁波の変動によって、所望する絶縁不良箇所を特定できない可能性がある。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、回転電機の固定子の絶縁部の絶縁不良部位を特定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る放電検出方法は、固定子コイルと、前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、少なくとも前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁可能な絶縁部と、を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を検出する放電検出方法において、前記固定子コイルの前記絶縁部に所定の電圧が掛かるように結線するコイル結線工程と、前記コイル結線工程の後に、前記固定子コイルに所定の電圧を印加する印加工程と、前記印加工程の継続中に、前記回転電機用固定子の軸方向両側それぞれに配置した一対の軸方向アンテナ対で、前記絶縁部で発生する放電を検出する第1の放電検出工程と、前記第1の放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の軸方向位置を特定する軸方向位置特定工程と、前記印加工程の継続中に、前記回転電機用固定子の所定の軸方向位置で、互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数の周方向アンテナ装置により、前記絶縁部で発生する放電を検出する第2の放電検出工程と、前記第2の放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の周方向位置を特定する周方向位置特定工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る放電検出方法は、固定子コイルと、前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、少なくとも前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁する絶縁部と、を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を検出する放電検出方法において、前記固定子コイルの前記絶縁部に所定の電圧が掛かるように結線するコイル結線工程と、前記コイル結線工程の後に、前記固定子コイルに所定の電圧を印加する印加工程と、前記印加工程の継続中に、互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数のアンテナ装置かならなる周方向アンテナ装置群を、所定の軸方向間隔をあけて複数配置して、前記アンテナ装置で、前記絶縁部で発生する放電を検出する放電検出工程と、前記放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の軸方向位置および周方向位置をそれぞれ特定する軸方向位置特定工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る放電検出システムは、固定子コイルと、前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、少なくとも、前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁可能な絶縁部と、を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を測定する放電検出システムにおいて、前記回転電機用固定子を、軸方向が水平な状態で配置可能な固定子設置部と、前記回転電機固定子の軸方向両側それぞれに配置されて、放電により放射された電磁波を感知可能な一対の軸方向アンテナ装置と、前記回転電機固定子の所定の軸方向位置で周方向位置に互いに周方向間隔をあけて配置され、放電により放射された電磁波を感知可能な複数の周方向アンテナ装置と、前記一対の軸方向アンテナ装置および前記各周方向アンテナ装置それぞれに電気的に接続されて、前記一対の軸方向アンテナ装置および前記各周方向アンテナ装置のうち少なくとも一つが放電を感知したときに、その旨を示す電気信号を入力可能に構成された信号読取装置と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る放電検出システムは、固定子コイルと、前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、少なくとも、前記スロットの内面と前記固定子コイルの表面との間を絶縁する絶縁部と、を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を測定する放電検出システムにおいて、それぞれが放電により放射された電磁波を感知可能で互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数のアンテナ装置からなる周方向アンテナ群が、所定の軸方向間隔をあけて複数配列されてなるアンテナ装置群と、前記各アンテナ装置に電気的に接続されて、前記各アンテナ装置のうち少なくとも一つが放電を感知したときに、その旨を示す電気信号を入力可能に構成された信号読取装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転電機の固定子の絶縁部の絶縁不良部位を特定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の放電検出システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】図1の第1〜第8の周方向アンテナ装置を、配列した状態を模式的に示す概略斜視図である。
【図3】図2の第5の周方向アンテナ装置の平面図である。
【図4】図1の固定子コイル等の結線状態を示す結線図である。
【図5】図1の印加電圧測定部で測定して得られた波形と、放電検出装置で得られた部分放電の波形を示すグラフである。
【図6】図1の第1および第2の軸方向アンテナ装置で得られる電圧波形を示すグラフである。
【図7】図1の第1〜第8の周方向アンテナ装置で得られる電圧波形等を示すグラフである。
【図8】本発明に係る第2の実施形態の放電検出システムのコイルの結線状態を示す結線図である。
【図9】本発明に係る第3の実施形態の放電検出システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【図10】図9の固定子コイル等の結線状態を示す結線図である。
【図11】図9のU相のコイルの模式図である。
【図12】図10の変形例を示す結線図である。
【図13】本発明に係る第4の実施形態の放電検出システムの周方向アンテナ装置の配列を模式的に示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る放電検出システムおよび放電検出方法の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態の放電検出システムの構成を模式的に示すブロック図である。図2は、図1の第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78を、配列した状態を模式的に示す概略斜視図である。図3は、図2の第5の周方向アンテナ装置75の平面図である。図4は、図1の固定子コイル32等の結線状態を示す結線図である。
【0019】
図5は、図1の電圧検出装置16で測定して得られた波形と、部分放電検出装置14で得られた部分放電の波形を示すグラフである。図6は、図1の第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62で得られる電圧波形(HA、HA)を示すグラフである。図7は、図1の第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78で得られる電圧波形等を示すグラフである。
【0020】
先ず、本実施形態の放電検出システムの構成について説明する。このシステムは、回転電機の固定子30の絶縁部(図示せず)に発生する部分放電を検出可能で、3相コイルのうちの2相間(異相間)で発生する部分放電を検出するものである。
【0021】
このシステムは、AC電源装置10と、回転電機の固定子30を設置するための固定子設置部12と、部分放電検出装置14と、を有する。また、このシステムは、二つの軸方向アンテナ装置、すなわち、第1の軸方向アンテナ装置61および第2の軸方向アンテナ装置62と、1組の周方向アンテナ装置群70と、これらのアンテナ装置で検出した放電信号を読み取って確認するための第1のオシロスコープ51および第2のオシロスコープ52と、を有する。また、当該システムは、電圧検出装置16と、接地用スイッチSgと、を有する。
【0022】
AC電源装置10は、所定のAC電圧Vtを発生可能で、後述する接続部36に電気的に接続可能である。
【0023】
電圧検出装置16は、AC電源装置10で発生する電圧値を測定可能に構成されている。
【0024】
部分放電検出装置14は、モータ内において発生した部分放電に基づいた信号を出力するもので、固定子30に部分放電が発生しているか否かを判定可能である。この例では、後述する固定子コイル32にAC電圧Vtを作用させたときに発生する部分放電を検出可能である。
【0025】
本実施形態の放電検出システムを用いた放電検出の対象となる回転電機の固定子30は、固定子コイル32と、固定子鉄心34と、絶縁部(図示せず)と、を有する。
【0026】
固定子コイル32は、U相、V相およびW相それぞれのコイルを構成するもので、各相のコイル端には、例えばAC電源装置10に電気的に接続される配線に配線可能な接続部36が形成される。各相それぞれはコイル両端が他の配線に接続可能で、U相のコイルの一方の端部にU接続部を形成し、反対側にU接続部を形成する。同様に、V相のコイルの各端部に、V接続部およびV接続部がそれぞれ形成されて、W相のコイルの各端部に、W接続部およびW接続部がそれぞれ形成される。異相間(本例では、U相およびV相の間)に発生する部分放電を検出するための結線方法については、後で説明する。
【0027】
固定子鉄心34は、複数の鋼鈑が積層されて構成された略円筒状で、内部に軸方向に貫通する貫通部35が形成される。この貫通部35には、回転子(図示せず)が配置される。また、この固定子鉄心34の貫通部35の内面には、半径方向内側に開口し、固定子コイル32を挿入可能な複数のスロット(図示せず)が形成される。このスロットは、周方向に互いに等間隔に形成される。また、固定子鉄心34は、電気的に接地可能で、接地用スイッチSgが閉じられたときに接地するように構成されている。
【0028】
絶縁部としては、各スロットそれぞれの内面と固定子コイル32の導体表面との間を絶縁する対地間絶縁部と、異なる相の固定子コイル間同士を絶縁する異相間絶縁部と、固定子コイル内のターン間を絶縁するターン間絶縁部がある。これら絶縁部を形成した後、固定子コイルは、固定子と共に、エポキシもしくはポリエステル系樹脂からなるワニスにて、真空含浸およびは浸漬処理がなされ、乾燥および硬化される。
【0029】
第1の軸方向アンテナ装置61は、固定子30の軸方向外側で、モータ結線側(図1の左方)に配置される。第2の軸方向アンテナ装置62は、固定子の軸方向外側で、モータ反結線側(図1の右方)に配置される。これらの第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62は、ホーンアンテナタイプのもので、絶縁部で発生する部分放電により放射された電磁波を検出可能である。
【0030】
周方向アンテナ装置群70は、8個の周方向アンテナ装置、すなわち、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78からなる。
【0031】
第1の周方向アンテナ装置71は、固定子30の貫通部35内に配置される所定の直径Dで構成されるループアンテナタイプのものである(図3)。第2〜第8の周方向アンテナ装置72〜78それぞれは、第1の周方向アンテナ装置71と同様に、ループアンテナタイプのもので、絶縁部で発生する部分放電により放射された電磁波を検出可能である。
【0032】
これらの第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78は、所定の軸方向位置に、互いに等間隔で周方向に配列さる(図2)。また、これらの第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78は、軸方向に一体で平行移動可能である。
【0033】
第1のオシロスコープ51は、第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62がそれぞれ電気的に接続され、これらの第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62で検出された部分放電に係る電気信号を入力可能である。
【0034】
また、第1のオシロスコープ51は、部分放電検出装置14に電気的に接続されている。部分放電検出装置14で検出した部分放電に係る信号を入力可能である。
【0035】
第2のオシロスコープ52は、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78がそれぞれ電気的に接続可能で、これらの第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78で検出された部分放電に係る電気信号を入力可能である。また、第2のオシロスコープ52は、第1のオシロスコープ51と電気的に接続可能である。
【0036】
なお、第1および第2のオシロスコープ51、52の電気配線の詳細は省略する。
【0037】
ここで、U相およびV相の間に発生する部分放電を検出するための結線方法について説明する。
【0038】
接続部を高圧側としてV接続部を接地側として(図1、図4)、U接続部およびV接続部の間にAC電圧Vtが作用するように結線される。また、U接続部、V接続部およびW接続部は、開放された状態である。また、モータの固定子は、接地用スイッチSg等により、対地から電気的に非接続状態とする。これにより、U相およびV相の間に発生する部分放電を検出するための結線が完了する。
【0039】
続いて、部分放電検出装置14を用いて、U相およびV相の間に発生する部分放電を検出する手順について説明する。
【0040】
先ず、固定子30を固定子設置部12に設置して、図4に示すように結線する。この状態で所定のAC電圧Vtを作用させる。当該AC電圧Vtは、図5に示す電圧波形VACで示される正弦波である。この電圧波形VACは、電圧検出装置16で得られる電圧測定値である。
【0041】
AC電圧Vtの値は、インバータ駆動時にモータ端に現れるインバータサージ電圧と、そのピークツーピーク電圧値が同じであり、且つ加工落ちや実機における電源電圧変動等を加味した安全率を乗じた所定の電圧値とする。通常、実機の部分放電開始電圧がVt以上であれば、部分放電は検出されず、その機種の絶縁は合格と判定する。
【0042】
これに対し、AC電圧Vtを作用させたとき固定子30の絶縁部で部分放電が発生すると、部分放電検出装置14がこの部分放電を検出する。このとき、この図5に示すような当該部分放電に起因するパルス波形VIPが発生する。
【0043】
固定子30の絶縁部に部分放電が発生したことを確認した後に、当該部分放電の軸方向位置および周方向位置を特定する。先ず、軸方向位置を特定する工程について説明する。
【0044】
先ず、第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62を固定子30の軸方向両側それぞれに配置する。この状態で、AC電源装置10により固定子コイル32にAC電圧Vtを作用させて、図5に示されるような部分放電を発生させる。
【0045】
図6のグラフは、第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62で得られる電圧信号を示すもので、横軸が時間で、縦軸が各アンテナ装置61、62で得られる電圧である。図6のグラフのうち上方に示す波形(波形HA)は、第1の軸方向アンテナ装置61で得られる電圧信号で、下方に示す波形(波形HA)は、第2の軸方向アンテナ装置62で得られる電圧信号である。
【0046】
波形HAは、時間ゼロの点(図6中の縦軸と横軸の交差部)から図6における左から右への方向は、第1の軸方向アンテナ装置61から遠くなる方向(図1の右方向)に対応している。波形HAは、時間ゼロの点から図6における左から右への方向は、第2の軸方向アンテナ装置62から遠くなる方(図1の左方向)に対応している。すなわち、図6の横軸(時間軸)は、固定子30の軸方向位置に対応する。このため、波形HAや波形HAから軸方向位置が以下のように特定できる。
【0047】
図6では、波形HAは、図6中の破線が囲まれた部分に最大電圧値VP1(ピーク)がある。また、波形HAは、破線が囲まれた部分に最大電圧値VP2(ピーク)がある。これらピークVP1、VP2は部分放電に起因するものである。これらピークVP1とVP2を比較すると、VP1がVP2よりも、その位相が時間的にτだけ進んでいることが確認できる。この位相差τは、放電源から放出される電磁波がHAおよびHAに到達するまでの時間差を表している。また、強度もVP1がVP2よりも大きいことがわかる。強度の差は、放電源からの距離に対する情報が含まれており、時間差と併せて、これらの情報から部分放電発生箇所の軸方向位置が特定できることになる。
【0048】
図6では、VP1の方がVP2よりも早く信号を検出しており、この結果、部分放電の発生位置はモータのやや左側に存在していることが特定できる。なお、VP1とVP2の強度及び時間差に差が生じない場合は、放電源が回転機の中央部で生じているものと特定できる。
【0049】
次に、上記手順で特定した軸方向位置で、部分放電が発生する周方向位置を特定する工程について説明する。
【0050】
先ず、特定した軸方向位置、すなわち、固定子30の軸方向中央よりもやや左方の位置に、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78を配置する。その後、これらの第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78を第1のオシロスコープ51に電気的に接続し、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78それぞれから得られる波形を観察可能な状態にする。
【0051】
図7のグラフは、第1のオシロスコープ51で得られる波形をまとめて表示したもので、横軸は時間で縦軸は電圧を示している。このグラフは、図6で説明した第1の軸方向アンテナ装置61で得られる電圧信号と、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78で得られる電圧信号と、を示す。図7中のループ番号1〜8および波形R〜波形Rは、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78にそれぞれ対応する。
【0052】
図7では、波形R〜波形Rのうち、波形Rに最大電圧値が現れている。また、波形Rおよび波形Rには、波形Rの最大電圧値よりもやや小さいピークが現れている。波形Rに係る最大電圧値は、波形Rに係る最大電圧値よりもやや大きい。
【0053】
また、波形R〜波形Rは、ほぼノイズで部分放電に起因するピークは認められない。すなわち、最大電圧値で見ると、R>R>Rの関係が認められる。
【0054】
この場合、第2の周方向アンテナ装置72が配置される周方向位置付近に部分放電が発生していることがわかる。また、波形Rおよび波形Rそれぞれの最大電圧値の関係から、第2の周方向アンテナ装置72が配置される周方向位置よりも、やや第3の周方向アンテナ装置73が配置される周方向位置の方に部分放電が発生していることが特定できる。
【0055】
以上の説明からわかるように本実施形態によれば、異相間で発生する部分放電の軸方向位置および周方向位置を特定することが可能になる。これにより、絶縁部を製作する複数の製造工程内で、不良が発生した工程を特定することが可能になる。また、本実施形態では、U相およびV相の間の放電開始電圧はVt以下であった。したがって、本工程にて特定した部位に起因する絶縁箇所と製造工程を修正すれば、回転機はVt以上の放電開始電圧を有することとなり、出荷可能となる。
【0056】
なお、本実施形態では、U相およびV相の間以外の異相間、V相およびW相の間、並びにW相およびU相の間についても、U相およびV相の間の検出と同様に、部分放電を検出可能である。
【0057】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の放電検出システムについて、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態の放電検出システムのコイルの結線状態を示す結線図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態(図1〜図7)の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0058】
また、本実施形態の放電検出システムの構成は、第1の実施形態で説明した図1と同様である。
【0059】
本実施形態の放電検出システムは、回転電機の固定子30の絶縁部に発生する部分放電を検出可能で、3相コイルそれぞれと、接地との間で発生する部分放電を検出するものである。この例では、U相における対地間に発生する部分放電を検出するための結線方法について説明する。
【0060】
接続部を高圧側としてAC電源装置10と接続する。また、V接続部およびW接続部を互いに接続して接地する(図8)。このとき、接地用スイッチSgは閉じておく。
【0061】
また、U接続部、V接続部およびW接続部は、開放された状態である。これにより、U相における対地間に発生する部分放電を検出するための結線が完了する。
【0062】
部分放電が発生する軸方向位置および周方向位置は、第1の実施形態と同様の手順で検出することができる。
【0063】
また、V相およびW相それぞれの対地間で発生する部分放電を検出することも可能である。
【0064】
[第3の実施形態]
第3の実施形態の放電検出システムについて、図9〜図12を用いて説明する。図9は、本実施形態の放電検出システムの構成を模式的に示すブロック図である。図10は、図9の固定子コイル32等の結線状態を示す結線図である。図11は、図9のU相のコイルの模式図である。図12は、図10の変形例を示す結線図である。
【0065】
なお、本実施形態は、第1の実施形態(図1〜図7)の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0066】
本実施形態の放電検出システムは、回転電機の固定子30の絶縁部に発生する部分放電を検出可能で、3相コイルそれぞれのターン間で発生する部分放電を検出するものである。このシステムは、第1の実施形態で説明したシステム(図1)の構成要素の他に、インパルス発生装置20と、電源選択用スイッチSvを有する。
【0067】
インパルス発生装置20は、所定の電圧強度のインパルス信号を発生可能な装置である。インパルス発生装置20の立ち上がり時間は1μs以下程度である。インパルス発生装置20およびAC電源装置10のうち一方が、電源選択用スイッチSvによって、部分放電検出装置14に電気的に接続される。
【0068】
電源選択用スイッチSvによって、インパルス発生装置20と部分放電検出装置14とを電気的に接続させることにより、インパルス発生装置20は、固定子コイル32の接続部36に電気的に接続される。
【0069】
ここで、U相におけるターン間に発生する部分放電を検出するための結線方法について説明する。
【0070】
電源選択用スイッチSvによって、インパルス発生装置20と部分放電検出装置14とを電気的に接続させて、U接続部をインパルス発生装置20に電気的に接続させる。また、V接続部を接地して、W接続部は開放する(図10)。このとき、接地用スイッチSgを閉じる。また、U接続部、V接続部およびW接続部は、互いに接続させる。これにより、U相におけるターン間に発生する部分放電を検出するための結線が完了する。
【0071】
固定子コイル32のU相は、固定子鉄心34に複数のスロットを跨ぐように巻きまわされている。一巻きを1ターンとしてU相を模式化すると、U相は複数ターン(図11における、Ut1、Ut2、…Utx)からなる。
【0072】
図示は省略するが、V相およびW相も、U相と同様に複数巻きまわされて構成されている。
【0073】
図10に示す結線状態で、所定の電圧強度(この例ではVt)のインパルス信号を、U相とアース部間に作用させると、図11におけるUt1の入側および出側の間、すなわち、1ターン間に作用する電圧負荷が大きくなる。ここで、部分放電が発生するか否かを検出する。
【0074】
部分放電が発生する軸方向位置および周方向位置は、第1の実施形態と同様の手順で検出することができる。
【0075】
この構成により、U相におけるターン間に発生する部分放電を検出し、この部分放電が発生する軸方向位置および周方向位置を特定することが可能となる。
【0076】
また、図12に示すように、V接続部およびW接続部を互いに接続して接地し、接地用スイッチSgを閉じ、これらとU相間にインパルス電圧を印加しても、U相のターン間の部分放電を検出することができる。同様にして、V相およびW相それぞれのターン間で発生する部分放電を検出することも可能である。
【0077】
また、図12に示す結線では、接地用スイッチSgを開放しても、U相のターン間の部分放電を検出することができる。この場合、図12の結線を構成した場合に比し、U相のターン間に加わる電圧は2/3倍に低減されることに留意すればよい。同様にして、V相およびW相それぞれのターン間で発生する部分放電を検出することも可能である。
【0078】
[第4の実施形態]
第4の実施形態の放電検出システムについて、図13を用いて説明する。図13は、本実施形態の放電検出システムの周方向アンテナ装置71〜78の配列を模式的に示す概略斜視図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態(図1〜図7)の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0079】
また、本実施形態の放電検出システムの構成は、第1の実施形態で説明した図1と同様である。
【0080】
本実施形態の放電検出システムは、第1〜第8の周方向アンテナ装置71〜78を一つの周方向アンテナ装置群70として、この周方向アンテナ装置群70を、固定子30の貫通部35内に、所定の軸方向間隔で複数配列している。
【0081】
これにより、第1および第2の軸方向アンテナ装置61、62を用いなくても、部分放電が発生する軸方向位置を特定することが可能になる。従って、第1の実施形態に比べて、省スペース化が可能となる。
【0082】
[その他の実施形態]
上記実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0083】
第2の実施形態の結線方法では、固定子コイルと対地間の放電発生位置を相毎に測定しており、部分放電発生位置も絞り込みやすいが、例えば、第2の実施形態で説明した放電検出システムにおいて、U接続部、V接続部およびW接続部を互いに接続して、これらと対地間に電圧を印加してもよい。
【0084】
また、第3の実施形態で説明した放電検出システム(図9)を用いても、第1の実施形態の結線方法(図4)や、第2の実施形態の結線方法(図8)で結線することができる。この場合、電源選択用スイッチSvを切り替え、AC電源装置10と部分放電検出装置14を電気的に接続すればよい。これにより、図9の放電検出システムで、ターン間だけでなく、異相間や対地間の部分放電とその発生位置を検出することも可能である。
【符号の説明】
【0085】
10…AC電源装置、12…固定子設置部、14…部分放電検出装置、16…電圧検出装置、20…インパルス発生装置、30…固定子、32…固定子コイル、34…固定子鉄心、35…貫通部、36…接続部、51…第1のオシロスコープ、52…第2のオシロスコープ、61…第1の軸方向アンテナ装置、62…第2の軸方向アンテナ装置、70…周方向アンテナ装置群、71…第1の周方向アンテナ装置、72…第2の周方向アンテナ装置、73…第3の周方向アンテナ装置、74…第4の周方向アンテナ装置、75…第5の周方向アンテナ装置、76…第6の周方向アンテナ装置、77…第7の周方向アンテナ装置、78…第8の周方向アンテナ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コイルと、
前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、
少なくとも前記スロットの内面と前記固定子コイルの表面との間を絶縁する絶縁部と、
を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を検出する放電検出方法において、
前記固定子コイルの前記絶縁部に所定の電圧が加わるように結線するコイル結線工程と、
前記コイル結線工程の後に、前記固定子コイルに所定の電圧を印加する印加工程と、
前記印加工程の継続中に、前記回転電機用固定子の軸方向両側それぞれに配置した一対の軸方向アンテナ対で、前記絶縁部で発生する放電を検出する第1の放電検出工程と、
前記第1の放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の軸方向位置を特定する軸方向位置特定工程と、
前記印加工程の継続中に、前記回転電機用固定子の所定の軸方向位置で、互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数の周方向アンテナ装置により、前記絶縁部で発生する放電を検出する第2の放電検出工程と、
前記第2の放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の周方向位置を特定する周方向位置特定工程と、
を有することを特徴とする放電検出方法。
【請求項2】
前記周方向放電特定工程は、前記軸方向放電工程で特定した放電発生の軸方向位置で、当該放電発生の周方向位置を特定する工程を含むこと、を特徴とする請求項1に記載の放電検出方法。
【請求項3】
前記固定子コイルは、少なくとも3相を構成し、互いに異なる相の間が絶縁された相間絶縁部を有すること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電検出方法。
【請求項4】
前記結線工程は、前記3相のうち2相の間に所定の電圧が加わるよう結線する工程を含み、
前記印加工程は、前記結線工程で結線された2相間に所定の電圧を印加する工程を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載の放電検出方法。
【請求項5】
前記結線工程は、前記3相のうちいずれか1相と、アース部との間を結線する工程を含み、
前記印加工程は、前記結線工程で結線された相およびアース部の間に所定の電圧を印加する工程を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載の放電検出方法。
【請求項6】
前記固定子コイルは、前記各相それぞれの前記固定子コイルのターン間が絶縁されたターン間絶縁部を有し、
前記結線工程は、前記3相のうちいずれか1相とアース部間に所定の強度のインパルス電圧を印加できるように結線する工程を含み、
前記印加工程は、前記結線工程で結線した相とアース部間にインパルス電圧を印加する工程を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載の放電検出方法。
【請求項7】
固定子コイルと、
前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、
少なくとも前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁する絶縁部と、
を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を検出する放電検出方法において、
前記固定子コイルの前記絶縁部に所定の電圧が加わるように結線するコイル結線工程と、
前記コイル結線工程の後に、前記固定子コイルに所定の電圧を印加する印加工程と、
前記印加工程の継続中に、互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数のアンテナ装置かならなる周方向アンテナ装置群を、所定の軸方向間隔をあけて複数配置して、前記アンテナ装置で、前記絶縁部で発生する放電を検出する放電検出工程と、
前記放電検出工程で検出した放電に基づいて、前記放電の軸方向位置および周方向位置をそれぞれ特定する軸方向位置特定工程と、
を有することを特徴とする放電検出方法。
【請求項8】
固定子コイルと、
前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、
少なくとも、前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁する絶縁部と、
を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を測定する放電検出システムにおいて、
前記回転電機固定子の軸方向両側それぞれに配置されて、放電により放射された電磁波を感知可能な一対の軸方向アンテナ装置と、
前記回転電機固定子の所定の軸方向位置で周方向位置に互いに周方向間隔をあけて配置され、放電により放射された電磁波を感知可能な複数の周方向アンテナ装置と、
前記一対の軸方向アンテナ装置および前記各周方向アンテナ装置それぞれに電気的に接続されて、前記一対の軸方向アンテナ装置および前記各周方向アンテナ装置のうち少なくとも一つが放電を感知したときに、その旨を示す電気信号を入力可能に構成された信号読取装置と、
を有することを特徴とする放電検出システム。
【請求項9】
前記固定子コイルは、少なくとも3相を構成し、前記絶縁部は、互いに異なる相の間が絶縁されていること、
を特徴とする請求項8に記載の放電検出システム。
【請求項10】
前記絶縁部は、前記各相それぞれの前記固定子コイルのターン間が絶縁されており、
前記3相のうちいずれか1相に所定の強度のインパルス電圧を印加できるように結線されていること、
を特徴とする請求項8または請求項9に記載の放電検出システム。
【請求項11】
固定子コイルと、
前記固定子コイルが挿入されるスロットが周方向に複数形成された固定子鉄心と、
少なくとも、前記スロットの内面と前記固定子コイルの導体表面との間を絶縁する絶縁部と、
を有する回転電機用固定子の前記絶縁部に発生する放電を測定する放電検出システムにおいて、
それぞれが放電により放射された電磁波を感知可能で互いに周方向間隔をあけて周方向に配列された複数のアンテナ装置からなる周方向アンテナ群が、所定の軸方向間隔をあけて複数配列されてなるアンテナ装置群と、
前記各アンテナ装置に電気的に接続されて、前記各アンテナ装置のうち少なくとも一つが放電を感知したときに、その旨を示す電気信号を入力可能に構成された信号読取装置と、
を有することを特徴とする放電検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−194065(P2012−194065A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58361(P2011−58361)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】