放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両
【課題】高温時および低電源電圧時における熱ストレスを低減すると共に、放電灯の始動性を向上させることができる放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両を提供する。
【解決手段】放電灯Laに電力を供給するDC/DCコンバータ部2,インバータ部3と、DC/DCコンバータ部2,インバータ部3を制御する制御部5と、周囲温度Taの温度を検出する温度検出部7と、電源電圧Vinを検出する電源電圧検出部6とを備え、制御部5は、放電灯Laを始動させた後、放電灯Laに供給する電力を最大電力目標値から定常電力目標値に向かって低減させ、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、電源電圧Vinが低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、第2の目標値とのうち、いずれか一方を最大電力目標値に設定する。
【解決手段】放電灯Laに電力を供給するDC/DCコンバータ部2,インバータ部3と、DC/DCコンバータ部2,インバータ部3を制御する制御部5と、周囲温度Taの温度を検出する温度検出部7と、電源電圧Vinを検出する電源電圧検出部6とを備え、制御部5は、放電灯Laを始動させた後、放電灯Laに供給する電力を最大電力目標値から定常電力目標値に向かって低減させ、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、電源電圧Vinが低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、第2の目標値とのうち、いずれか一方を最大電力目標値に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタルハライドランプなどの高輝度放電灯は、その輝度の高さから車載用途にも用いられている。車載用途では、特に視認性の早期確保を実現するため、始動時に光束を急速に立ち上げる必要があり、放電灯の点灯直後に定格電力より過大な電力を放電灯に供給することで光束の立ち上がりを早めている放電灯点灯装置がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
図1に、放電灯点灯装置1の回路構成図を示す。放電灯点灯装置1は、DC/DCコンバータ部2とインバータ部3とイグナイタ部4と制御部5(制御回路)とを主構成としており、直流電源E1を入力電源として放電灯Laに電力を供給することで放電灯Laを点灯させる。DC/DCコンバータ部2は、直流電源E1から印加される電源電圧Vinを昇降圧し、放電灯Laを点灯するのに必要な直流電圧V1を生成する。インバータ部3は、直流電圧V1を低周波の矩形波からなる交流電圧V2に変換する。イグナイタ部4は、放電灯Laを始動させる数10kVの高電圧を発生させる。制御部5は、DC/DCコンバータ部2の出力電圧(直流電圧V1)および出力電流(電流I1)を検出し、この検出結果から算出された出力電力が目標値となるようにDC/DCコンバータ部2を制御する。
【0004】
以下に、放電灯点灯装置1の具体的な構成について説明する。
【0005】
DC/DCコンバータ部2は、コンデンサC1,C2と、スイッチング素子Q1と、トランスTr1と、ダイオードD1と、スイッチング素子Q1とでフライバック型のDC/DCコンバータ回路を構成している。
【0006】
直流電源E1の出力端間にスイッチS1を介してコンデンサC1が接続されており、スイッチS1がオンすると、コンデンサC1の両端間に直流電源E1から出力される直流の電源電圧Vinが印加される。コンデンサC1の両端間には、トランスTr1の一次巻線n11とnチャネルMOSFETからなるスイッチング素子Q1とが直列接続されている。また、トランスTr1の二次巻線n12の両端間にダイオードD1とコンデンサC2とが直列接続されている。そして、スイッチング制御部21がスイッチング素子Q1をオンすると、トランスTr1の一次巻線n11に電流が流れ、トランスTr1にエネルギーが蓄積される。そして、スイッチング素子Q1をオフすると、トランスTr1に蓄積されたエネルギーによって、二次巻線n12→コンデンサC2→ダイオードD1の経路で電流が流れコンデンサC2が充電される。そして、スイッチング素子Q1がオン・オフを繰り返すことで、コンデンサC2の両端間に直流電圧V1が生成される。
【0007】
インバータ部3は、4つのnチャネルMOSFETからなるスイッチング素子Q2〜Q5でフルブリッジインバータ回路を構成している。DC/DCコンバータ部2の出力端間にスイッチング素子Q2,Q4からなる直列回路と、スイッチング素子Q3,Q5からなる直列回路が並列接続されており、スイッチング素子Q4,Q5が高圧側に接続され、スイッチング素子Q2,Q3が低圧側に接続されている。そして、インバータ部3は、スイッチング素子Q2,Q4の接続点と、スイッチング素子Q3,Q5の接続点とが出力端を構成している。
【0008】
イグナイタ部4は、コンデンサCsと、トランスTr2と、スパークギャップSG1とで構成されている。コンデンサCsは、インバータ部3の出力端間に接続されている。このコンデンサCsと並列に、トランスTr2の一次巻線n21とスパークギャップSG1とからなる直列回路および、トランスTr2の二次巻線n22と放電灯Laとからなる直列回路が接続されている。
【0009】
制御部5は、電力目標記憶部51と、最大電力制限部52と、電流目標演算部53と、誤差アンプ54とで構成されている。電力目標記憶部51は、放電灯Laに供給する出力電力目標値を記憶しており、この出力電力目標値を最大電力制限部52が取得する。そして最大電力制限部52は、取得した出力電力目標値を補正して電流目標演算部53に出力する。電流目標演算部53は、DC/DCコンバータ部2が出力する直流電圧V1を検出しており、補正後の出力電力目標値と直流電圧V1とから目標電流を算出し、誤差アンプ54に出力する。また、誤差アンプ54には、DC/DCコンバータ部2が出力する電流I1の検出結果が入力されており、目標電流と電流I1との差が生じなくなるように出力制御信号をDC/DCコンバータ部2に出力する。なお、抵抗R1を電流検出部として構成しており、電流I1の検出結果を誤差アンプ54に出力している。
【0010】
次に、放電灯点灯装置1の動作について説明する。
【0011】
スイッチS1がオンすると、直流電源E1からDC/DCコンバータ部2に電源電圧Vinが印加される。そして、DC/DCコンバータ部2は、スイッチング素子Q1をオン・オフすることで直流電圧V1を生成する。なお、DC/DCコンバータ部2は、制御部5から出力される出力制御信号に基づいてスイッチング素子Q1のオン時間や駆動周波数を変動することで、直流電圧V1を変動させる。
【0012】
インバータ部3は、放電灯Laの始動前は、スイッチング素子Q2,Q5をオン状態に維持し、スイッチング素子Q3,Q4をオフ状態に維持する。放電灯Laの始動前は、放電灯Laが開放状態であるため、コンデンサC2の両端間に生成される直流電圧V1が上昇すると、コンデンサCsの両端電圧も上昇する。そして、直流電圧V1が上昇して所定電圧以上になると、スパークギャップSG1がブレークダウンし、トランスTr2の一次巻線n21に瞬時に電圧が印加される。それによって、トランスTr2の二次巻線n22には、一次巻線n21に印加される電圧の巻数比倍の高電圧(数10kV程度)が印加される。この高電圧により放電灯Laがブレークダウンする。その瞬間にDC/DCコンバータ部2からスイッチング素子Q2,Q5を介して電流が流れ、放電灯Laがアーク放電に移行して放電灯Laが始動する。
【0013】
放電灯Laの始動後は、スイッチング素子Q2〜Q5を所定時間間隔で交番させることで交流電圧V2を生成し、放電灯Laに供給する。また、制御部5は、DC/DCコンバータ部2の出力電力が出力電力目標値と一致するように、DC/DCコンバータ部2のフィードバック制御を行う。それによって、放電灯Laの安定点灯を実現している。
【0014】
また、放電灯点灯装置1は、放電灯Laの光束の立ち上がり性能を確保しつつ、光束のオーバーシュートやアンダーシュートを防ぐため、放電灯Laの温度上昇に応じて出力電力目標値を変動させている。電力目標記憶部51は、図19に示す目標電力カーブK1を記憶している。この目標電力カーブK1は、放電灯Laの始動後の時間に対する出力電力目標値を示している。目標電力カーブK1は、放電灯Laが始動した時間をt0とした場合、時間t0から時間t1までの期間TAの間は、放電灯Laの定格電力Ws0(35W)の倍以上の電力を出力電力目標値としている。以降、期間TAにおける出力電力目標値を最大電力目標値と称し、ここでは最大電力目標値に放電灯Laの許容最大電力値Wp0(70〜90W程度)が設定されている。放電灯Laの始動直後は、放電灯Laに大きな電力を供給することによって、放電灯Laの光束を急速に立ち上がらせる。なお、この期間TAは4秒間程度が望ましい。
【0015】
そして、時間t1から時間t2までの期間TBの間は、放電灯Laの光束がオーバーシュートやアンダーシュートを起さないように、出力電力目標値を最大電力目標値Wp0から滑らかに低減して定常電力目標値に漸近させる。ここでは、定常電力目標値に放電灯Laの定格電力Ws0が設定されている。なお、この期間TBは約40〜50秒程度が望ましい。そして、時間t2以降の期間TCは、出力電力目標値を定常電力目標値Ws0に維持することで、放電灯Laを安定点灯させる。
【0016】
なお、上述した制御は、放電灯Laが冷えた状態から始動(以降、初始動と称す)させる場合のみ行う。放電灯Laを短期間消灯した直後における放電灯Laの温度が高い状態で、初始動(コールドスタート)時の制御を行うと、期間TA,TBにおいて放電灯Laが過剰発光する。そこで、点灯していた放電灯Laを短期間消灯した直後の始動(以降、再始動と称す)を行う場合は、以下の制御を行う。
【0017】
図20に示すように、放電灯Laの消灯時間に応じて、目標電力カーブK1における期間TA,TB中の時間ta,tbから出力電力目標値の変動をスタートする。それによって、再始動後に放電灯Laに供給される電力が抑えられ、再始動時の過剰発光を抑制している。
【0018】
すなわち、図20に示すように、再点灯前の消灯期間が比較的長い場合、目標電力カーブK1の時間taにおける出力電力目標値Waから開始し、再点灯前の消灯期間が比較的短い場合、目標電力カーブK1の時間tb(>ta)における出力電力目標値Wb(<Wa)から開始する。それによって、再点灯前の消灯期間が短い、つまり、放電灯Laの温度が高いほど放電灯Laに供給される電力が抑制される。
【0019】
なお、再始動時は、例えばコンデンサの充放電回路で構成されるタイマ回路を用いて、再始動時のコンデンサの両端電圧(充電電荷量)に応じて放電灯Laに供給する電力を決定する。
【0020】
また、放電灯点灯装置1を車載用途等の高温環境下で使用し、放電灯点灯装置1の周囲温度が高い場合や電源電圧Vinが低下した場合は、回路損失および構成部品の熱ストレス増加による回路破壊を起すおそれがある。これを防止するために、電源電圧Vinおよび周囲温度Taを検出し、この検出結果に基づいて最大電力目標値を低減させる制御を行う(例えば、特許文献3,4,5参照)。
【0021】
図1に示す放電灯点灯装置1は、電源電圧検出部6と温度検出部7とを備えている。電源電圧検出部6は、直流電源E1からDC/DCコンバータ部2に印加される電源電圧Vinを検出し、最大電力制限部52に出力している。また、温度検出部7は、放電灯点灯装置1の周囲温度Taを検出し、最大電力制限部52に出力している。なお、温度検出部7は、放電灯点灯装置1の温度を検出するように構成してもよい。
【0022】
そして、最大電力制限部52は、電源電圧検出部6と温度検出部7との検出結果とに基づいて最大電力目標値を許容最大電力値Wp0から低減させる。
【0023】
例えば、図21に示すように、周囲温度TaがTa0(常温)の場合における目標電力カーブをK1とし、周囲温度TaがTa0からTa1に上昇した場合における目標電力カーブをK1aとする。最大電力制限部52は、周囲温度TaがTa0からTa1に上昇した場合、最大電力目標値をWp0よりも低いWpcに補正し、時間tcまでWpcを維持する。そして、時間tc以降は、目標電力カーブK1に沿って出力電力目標値を変動させる。また、周囲温度TaがTa2(>Ta1)に上昇した場合における目標電力カーブをK1bとする。この場合、最大電力制限部52は、最大電力目標値をWp0よりも低いWpd(<Wpc)に補正し、時間tdまでWpdを維持する。そして、時間td以降は、目標電力カーブK1に沿って出力電力目標値を変動させる。
【0024】
上記制御を行うために、最大電力制限部52は、図22に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図22に示す制限特性は、周囲温度Taに対する最大電力目標値の低減量(以降、第1の低減量と称す)を示している。周囲温度Taが温度Tth1以下では第1の低減量は0であり、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて第1の低減量が増加し、周囲温度Taが温度Ta1(>Tth1)である場合、第1の低減量がWta1となる。したがって、周囲温度Taが温度Ta1である場合、最大電力目標値は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量Wta1を減算した値(Wp0−Wta1)となる。
【0025】
同様に、最大電力制限部52は、図23に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図23に示す制限特性は、電源電圧Vinに対する最大電力目標値の低減量(以降、第2の低減量と称す)を示している。電源電圧Vinが電圧Vth1以上では第2の低減量は0であり、電源電圧Vinが電圧Vth1より低くなるにつれて第2の低減量が増加し、電源電圧Vinが電圧Vin1(<Vth1)である場合、第2の低減量がWv1となる。
【0026】
そして、周囲温度Taが温度Ta1かつ電源電圧Vinが電圧Vin1である場合、最大電力目標値は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量Wta1および第2の低減量Wv1を減算した値(Wp0−Wta1−Wv1)となる。
【0027】
以上により、電源電圧Vinが低下した場合や、放電灯点灯装置1の周囲温度Taが上昇した場合などにおいて、最大電力目標値を低減することにより、回路損失および構成部品のストレスが抑制され、回路破壊の防止や放電灯点灯装置1の小型化が実現可能となる。
【0028】
また、上記では最大電力目標値のみ低減するように制御しているが、電源電圧検出部6および温度検出部7の各検出結果に基づいて、図24に示すように全ての期間(TA〜TC)にわたって出力電力目標値を目標電力カーブK1から低減した目標電力カーブK2を生成し、この目標電力カーブK2に沿って制御してもよい。なお、目標電力カーブK2において、最大電力目標値はWp1(<Wp0)に設定され、定常電力目標値はWs1(<Ws0)に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特許第2946384号
【特許文献2】特開2000−235899号公報
【特許文献3】特開平4−12496号公報
【特許文献4】特開2002−216989号公報
【特許文献5】特開2001−43991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
放電灯Laに供給する電力が一定の場合、電源電圧Vinが高くなるにつれて、直流電源E1から供給される電源電流Iinが低減し回路損失が低下するので、より高い電力を出力することが可能となる。つまり、図25の破線で示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも高い場合、回路損失や構成部品の熱ストレスで決まる回路の出力性能として、許容最大電力値Wp0よりも高い電力を出力することができる。例えば、電源電圧Vin2(>Vth1)では、最大電力目標値はWp0+Wv2とすることができる。
【0031】
しかし、図22,23に示す二つの制限特性を用いて最大電力目標値を決定する場合、最大電力目標値は許容最大電力値Wp0以下となる。例えば、電源電圧Vinが電圧Vin2で周囲温度Taが温度Ta1である場合、回路の出力性能としては最大電力目標値をWp0−Wta1+Wv2に設定可能である。しかし、図22,図23に示す制限と構成を用いた場合、最大電力目標値はWp0−Wta1と低い値となる。
【0032】
これを解決するため、図22および図25の破線に示す制限特性で最大電力目標値を制限すれば最大電力目標値をWp0−Wta1+Wv2に設定でき、回路の出力性能同等の電力を出力可能になる。しかし、電源電圧Vinが電圧Vin2で周囲温度Taが温度Tth1以下の場合には、最大電力目標値がWp0+Wv2となり、許容最大電力値Wp0を超える電力が放電灯Laに供給されることになる。
【0033】
この結果、光束の立ち上がり時にオーバーシュートが発生する。放電灯点灯装置1を車両の前照灯に用いた場合、対向車や歩行者への幻惑の要因となる。また、短時間の使用でも放電灯Laの電極が劣化し放電灯Laの寿命が短くなる等の課題があるため、放電灯Laに供給する電力は許容最大電力値Wp0以下に設定する必要がある。
【0034】
また、車両の前照灯では、光源としてHIDランプが主流になりつつあるが、近年、環境負荷軽減のため水銀フリーHIDランプの採用が加速している。ただし、水銀を無くすことで、水銀を封入した従来のHIDランプに比べて、点灯始動後の数秒間において光束の立ち上がりが遅くなっており、点灯始動後により大きな電力を供給して光束の立ち上がりを早くする必要がある。
【0035】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温時および低電源電圧時における熱ストレスを低減すると共に、放電灯の始動性を向上させることができる放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の放電灯点灯装置は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする。
【0037】
この放電灯点灯装置において、前記制御回路は、前記放電灯の許容最大電力値から前記第1の低減量および前記第2の低減量を減算することで前記第1の目標値を算出し、
前記第1の目標値と前記第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を前記最大電力目標値に設定することが好ましい。
【0038】
この放電灯点灯装置において、前記制御回路は、前記電源電圧検出部の検出値が所定電圧以上である場合、前記第2の目標値を前記放電灯の許容最大電力値に設定し、前記電源電圧検出部の検出値が前記所定電圧未満である場合、前記第2の目標値を、前記許容最大電力値未満、かつ前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における自装置の回路損失が所定値以下となるように設定することが好ましい。
【0039】
この放電灯点灯装置において、前記直流電源の電流を検出する電源電流検出部を備え、
前記制御回路は、前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における前記電源電流検出部の検出値が所定電流以下となるように、前記第2の目標値を設定することが好ましい。
【0040】
本発明の前照灯は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定する放電灯点灯装置と、前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備えることを特徴とする。
【0041】
本発明の車両は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定する放電灯点灯装置と、前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備える前照灯と、前記前照灯が取り付けられる車体とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明では、高温時および低電源電圧時における熱ストレスを低減すると共に、放電灯の始動性を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図2】第1の低減量を示すグラフである。
【図3】第2の低減量を示すグラフである。
【図4】第2の目標値を示すグラフである。
【図5】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図6】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図7】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図8】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図9】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図10】放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図11】(a)時間に対する出力電力目標値を示すグラフである。(b)時間に対する電源電流を示すグラフである。(c)時間に対するコンデンサ電圧を示すグラフである。
【図12】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図13】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図14】電源電圧に対する回路損失の変動を示すグラフである。
【図15】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図16】電源電圧に対する回路損失の変動を示すグラフである。
【図17】放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図18】前照灯および車両の概略構成図である。
【図19】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図20】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図21】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図22】第1の低減量を示すグラフである。
【図23】第2の低減量を示すグラフである。
【図24】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図25】第2の低減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0045】
(実施形態1)
本実施形態の放電灯点灯装置1の回路構成図を図1に示す。本実施形態の放電灯点灯装置1は、最大電力制限部52が電流目標演算部に出力する最大電力目標値を決定するための制御方法が従来の放電灯点灯装置1と異なり、他の構成および制御は従来の放電灯点灯装置1と同一であるので説明は省略する。なお、DC/DCコンバータ部2とインバータ部3とイグナイタ部4とが本願発明の駆動回路に相当する。
【0046】
本実施形態の最大電力制限部52は、図2,図3に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図2に示す制限特性は、周囲温度Taに対する最大目標値の低減量(第1の低減量)を示している。図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1以下では第1の低減量は0であり、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて第1の低減量が増加し、周囲温度Taが温度Ta1(>Tth1)である場合、第1の低減量がWta1となる。
【0047】
図3に示す制限特性は、電源電圧Vinに対する最大目標値の低減量(第2の低減量)を示している。図3に示すように、電源電圧Vinが低くなるにつれて第2の低減量が大きくなり、電源電圧Vinが電圧Vth1である場合、第2の低減量は0となる。また、図3は、電源電圧Vinに応じたDC/DCコンバータ部2の出力可能電力の上限も示している。一例として、DC/DCコンバータ部2の出力上限値は以下の方法で設定され、最大電力制限部52に事前に記憶している。
【0048】
DC/DCコンバータ部2が出力する電流I1が一定であるならば、電源電圧Vinが低いほど、DC/DCコンバータ部2の一次側(入力側)電流(電源電流Iin)が増加するため、主に電力制御用のスイッチング素子Q1での損失が増加する。また、DC/DCコンバータ部2はフライバックコンバータで構成されている場合、トランスTr1の一次側と二次側との巻数比が大きい場合は、電源電圧V1に関わらずスイッチング素子Q1に流れる電流が大きく発熱量が大きい。
【0049】
したがって、スイッチング素子Q1の発熱量が所定値以下となるようなDC/DCコンバータ部2の出力電力の測定結果を用いて図3に示す制限特性を生成すればよい。例えば、スイッチング素子Q1にMOSFETを用いる場合、ドレイン電流,ドレイン−ソース間電圧,ゲート電圧,ゲート電流,素子のオン抵抗値からスイッチング素子Q1のジャンクション温度は容易に算出することができる。
【0050】
以上より、電源電圧Vinが高いほどDC/DCコンバータ部2の出力可能電圧が増加し、電源電圧Vinが電圧Vth1以上の領域では、最大電力目標値に許容最大電力値Wp0を超える値に設定することができる。すなわち、電源電圧Vinが電圧Vth1以上の領域では、第2の低減量の符号がマイナスとなる。
【0051】
図4に示すグラフは、最大電力目標値の上限値である第2の目標値を示している。第2の目標値は最大電力制限部52に記憶されており、電源電圧Vinに関わらず放電灯Laの許容最大電力値Wp0を示している。
【0052】
本実施形態では、最大電力制限部52は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量および第2の低減量を減算することで第1の目標値を算出し、第1の目標値と第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を最大電力目標値として設定する。
【0053】
以下に、第1の目標値の具体的な計算方法を示す。なお、以下の計算例では低減量を、許容最大電力値Wp0に対して低減する量と定義する。したがって、電源電圧Vinが電圧Vth1以上である場合における第2の低減量の符号はマイナスとなる。
【0054】
まず、周囲温度Taが温度Tth1以下で、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2である場合について説明する。
【0055】
図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1以下であるので、第1の低減量は0となる。また、図3に示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2であるので、第2の低減量は−Wv2となる。したがって、第1の目標値は、許容最大電力Wp0から第1,第2の低減量を減算した値であるので、Wp0−0−(−Wv2)=Wp0+Wv2となる。
【0056】
また、図4に示すように、第2の目標値は電源電圧V1に関わらず一定であるので、Wp0となる。
【0057】
したがって、最大電力制限部52は、第1の目標値(Wp0+Wv2)と第2の目標値(Wp0)とを比較し、小さい第2の目標値であるWp0を最大電力目標値に設定する。
【0058】
次に、周囲温度Taが温度Tth1を超える温度Ta1で、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2である場合について説明する。
【0059】
図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1を超える温度Ta1であるので、第1の低減量はWta1となる。また、図3に示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2であるので、第2の低減量は−Wv2となる。したがって、第1の目標値は、Wp0−Wta1−(−Wv2)=Wp0−Wta1+Wv2となる。
【0060】
また、第2の目標値は、上述したようにWp0となる。
【0061】
ここで、−Wta1+Wv2<0である場合、すなわち第1の目標値が第2の目標値よりも小さい場合、最大電力制限部は第1の目標値(Wp0−Wta1+Wv2)を最大目標値に設定する。
【0062】
一方、−Wta1+Wv2≧0である場合、すなわち第2の目標値が第1の目標値よりも小さい場合、最大電力制限部は第2の目標値(Wp0)を最大目標値に設定する。
【0063】
上記のように制御することによって、放電灯Laに許容最大電力Wp0を超える電力を供給することなく、かつ高温時,高電源電圧時には、より高い最大電力目標値を設定することができる。それによって、放電灯Laの寿命を低下させることなく、高電源電圧時には、高温度環境下においても従来よりも大きな電力を放電灯Laに供給するので、速やかに放電灯Laの光束を立ち上げることが可能となる。
【0064】
なお、例えば車両の前照灯に本実施形態の放電灯点灯装置1を用いる場合、放電灯Laの許容最大電力値Wp0は70〜90W,温度Tth1は80〜100℃,電圧Vth1は9〜12Vに設定される。
【0065】
(実施形態2)
実施形態1では、電源電圧Vinに関わらず第2の目標値は許容最大電力値Wp0で一定であったが、本実施形態では電源電圧Vinに応じて変動させることに特徴を有する。なお、実施形態1と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
【0066】
DC/DCコンバータ部2の出力電力が一定の場合、電源電圧Vinが低下すると電源電流Iinは増加する。
【0067】
また、スイッチング素子Q1にMOSFETを用いる場合、電源電圧Vinが低下し、電源電流Iinが増加した状態が維持されると、部品温度の上昇によりオン抵抗(導通抵抗)が高くなり、スイッチング素子Q1での損失が増加する。それによって、電源電流Iinがさらに増加する傾向となり、電源電圧Vinが電圧Vin3以上では電源電流Iinは電流Iin0で略一定であるが、図5の破線で示すように、電源電圧Vinの低下に対して電源電流Iinは指数関数的に増加する傾向にある。
【0068】
したがって、放電灯点灯装置1が正常に動作する電源電圧Vinの範囲の下限値である電圧Vin4周辺では、電源電圧Vinの微小な減少に対しても電源電流Iinが急増する。それによって、放電灯点灯装置1の前段に設置されるヒューズを溶断したり、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊が危惧される。
【0069】
そこで本実施形態では、電源電圧Vinが低下した場合でも、電源電流Iinが所定の電流Iin1以下となるように、図6の実線に示すように電源電圧Vinが所定の電圧Vin3より低くなるにつれて、第2の目標値を許容最大電力値Wp0から低減させる。それによって、図5の実線に示すように電源電圧Vinが電圧Vin4付近でも電源電流Iin1以下にすることができる。
【0070】
なお、事前に電源電圧Vinを様々な値に変動させ、各条件での出力電力値に対する電源電流Iinの実測データを蓄積しておけば、第2の目標値の低減度合いを設定することは容易で、これを最大電力制限部に記憶しておけばよい。例えば、少なくとも電源電圧Vinを3水準、周囲温度Taを3水準程度のデータを蓄積すれば、図6に示す制限特性の設定は可能である。
【0071】
また、図7に示すように、電源電圧Vinがより低く電圧Vin5(<Vin3)以下である場合、電源電流Iinの増加度合いがより高くなる。この場合、図8に示すように、電源電圧Vinが電圧Vin5を下回ると第2の目標値の低減度合いを大きくし、第2の目標値をWp4以下に設定する。それによって、図7の実線に示すように電源電圧Vinの低下に対する電源電流Iinの増加の傾きが緩やかになり、放電灯点灯装置1の熱暴走を確実に抑制することが可能となる。
【0072】
なお、電源電圧Vinに対する第2の目標値の低減度合いの傾きは、図8に示すような直線に限らず、曲線的に低減するように設定してもよい。
【0073】
また、上記では、電源電流Iinが所定の電流Iin1以下となるように、電源電圧Vinの低下に応じて放電灯Laに供給する電力を低減する制御を行っている。しかし、放電灯Laに供給する電力を低減し過ぎると、放電灯Laを安定して点灯始動させるのに必要な電力の確保が難しくなり、不点や立ち消え等の要因となる。
【0074】
そこで、図9に示すように、放電灯Laを安定点灯させるのに必要な電力の下限値をWp3とした場合、電源電圧Vinがより低下した電圧Vin6以下でも第2の目標値が電力Wp3を下回らないように、第2の目標値を設定する。それによって、放電灯Laをより安定して点灯始動することが可能となる。なお、車両の前照灯に本実施形態の放電灯点灯装置1を用いる場合、放電灯La(HID)の定格電力が35Wである場合、Wp3を40〜50Wに設定する。
【0075】
また、図10に示すように、電源電流Iinを検出する電源電流検出部8を設けて、回路動作時の電源電流Iinを検出し、第2の目標値を補正する制御を行ってもよい。なお、図10では、直流電源E1の代わりに交流電源E2とAC/DCコンバータ部9とで直流電源を構成している。なお、AC/DCコンバータ部9は、フィルタ回路と整流平滑回路とブーストコンバータとが組み合わされた周知の回路であるので、詳細な説明は省略する。また、DC/DCコンバータ2aは、昇圧チョッパ回路を構成しており、周知の回路であるので、詳細な説明は省略する。
【0076】
図11(a)〜(c)に示すように、放電灯Laの出力電力が最大値を維持している期間TAは電源電流Iinが増加し続け、電源電圧Vinは低下し続ける傾向になる。ここで、放電灯点灯装置1が接続される電源側の線路インピーダンスが想定以上に大きい場合は、より大きい電圧降下が発生する。したがって、放電灯点灯装置1を図1のように構成した場合、図11(c)に示すように、入力端のコンデンサC1に印加されるコンデンサ電圧Vc1は電源電圧Vinよりも低い値となる。それによって、電源電流Iinはさらに増大してしまう。
【0077】
また、放電灯点灯装置1の設置環境によっては、周囲温度Taが異常上昇し、回路損失の増加によって電源電流Iinが増大する場合も考えられる。この場合、電源電流Iinの増加とともに回路損失も増加する。
【0078】
このように、第2の目標値で設定された最大目標値に対する電源電流Iinが事前の想定以上に高くなる場合が考えられ、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊などが懸念される。
【0079】
そこで、電源電流Iinが所定の電流Iin2以下となるように、図12の破線に示すように第2の目標値を低減させたものの、電源電流検出部で検出された検出結果が電流Iin2を超えた場合、図12の実線に示すように第2の目標値をさらに低減させる。それによって、図13の実線に示すように、電源電流Iinが電流Iin2以下とする出力電力補正制御が可能となる。
【0080】
以上の構成によって、電源環境や周囲温度環境によらず、電源電流Iinの増大による回路の熱暴走をより確実に防止することが可能となる。
【0081】
なお、図10では、交流電源とAC/DCコンバータ回路を用いて直流電源を構成しているが、いかなる構成の直流電源でも適用可能である。また、図10では、DC/DCコンバータ2aを昇圧チョッパ回路で構成しているが、本実施形態はDC/DCコンバータの回路方式によらず適用可能である。
【0082】
(実施形態3)
実施形態2では、電源電流Iinが所定値(電流Iin1またはIin2)以下となるように第2の目標値を設定したが、本実施形態では放電灯点灯装置1の回路損失が所定値以下となるように第2の目標値を設定することに特徴を有する。なお、実施形態2と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
【0083】
電源電圧Vinの低下によって電源電流Iinは略指数関数的に増加することを実施形態2で述べたが、図13に示すように回路損失に関しても同様の増加傾向を示す。図13において、L1は周囲温度TaがTa3の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。L2は周囲温度TaがTa4(>Ta3)の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。L3は周囲温度TaがTa5(>Ta4)の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。図13に示すように、電源電圧Vinが低下するにつれて、かつ周囲温度Taが上昇するにつれて、回路損失が増加する傾向にある。
【0084】
電源電流Iinは、電源電圧Vinの変動以外にも、周囲温度Taの変動や放電灯Laに供給する電力によっても変動するため、必ずしも「電源電流Iinが大きい=回路損失が大きい」とは限らない。したがって、実施形態2では、回路損失の増加による放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊を検出しきれない場合がある。なお、電源電流Iinが増加した場合は回路損失が増加したと判断できる。
【0085】
これに対応して、電源電流Iinの閾値を電源電圧Vinや周囲温度Taの変化に合わせて複数設定することも考えられるが、第2の目標値を設定するために膨大な測定データが必要であり、かつ制御仕様が複雑化するため回路の応答性が遅くなるなどの課題がある。
【0086】
一方、実施形態2では、電源電流Iinが電流Iin2を超えたが、実際の回路損失は増加していない場合でも、放電灯Laに供給する電力を低減してしまうおそれがある。それによって、光束を速やかに立ち上げることができないまたは、電源電流Iinが電流Iin2を超えない限り回路損失が増大しても放電灯Laに供給する電力を変化させないため、熱暴走によって放電灯点灯装置1が破壊するなどの課題がある。
【0087】
そこで、本実施形態では、電源電流Iinではなく回路損失によって第2の目標値を設定することで、より確実に回路の熱暴走による放電灯点灯装置1の破壊を防止することを可能としたものである。
【0088】
図15の実線に示すように、電源電圧Vinが所定の電圧Vin7以下の場合には、第2の目標値を低減するように設定する。それによって、図16の実線に示すように、放電灯点灯装置1が正常に動作する電源電圧範囲の下限値である電圧Vin8周辺においても回路損失が所定のWloss1以下とすることができる。なお、図15に示すように、電源電圧Vinが電圧Vin7以上の領域では、回路損失があまり増加せず、Wloss0で略一定である。
【0089】
なお、実施形態2において第2の目標値を設定した場合と同様に、事前に電源電圧Vinを変動させ各条件での出力電力値に対する回路損失値の実測データを蓄積しておけば、第2の目標値の低減度合いを算出することは容易であり、これを記憶しておけばよい。
【0090】
また、回路損失値Wloss1は放電灯点灯装置1が破壊しない程度の値に設定され、電源電圧Vinの低下に対する第2の目標値の低減傾きは曲線的に設定してもよい。
【0091】
また、図17に示すように、入力電力演算部56と出力電力演算部57と回路損失演算部58とを備えるように構成してもよい。
【0092】
入力電力演算部56は、電源電圧検出部6および電源電流検出部8の各検出結果から入力電力を算出する。
【0093】
出力電力演算部57は、DC/DCコンバータ部2の出力電力(電圧V1)および出力電流(電流I1)から出力電力を算出する。なお、DC/DCコンバータ部2の出力を放電灯Laへの投入電力とみなす。
【0094】
そして、回路損失演算部58は、入力電力演算部56の算出結果から出力電力演算部57の算出結果を除算することで回路損失値を算出し、最大電力制限部52に出力する。
【0095】
最大電力制限部52は、回路損失演算部57が算出した回路損失値に応じて第2の目標値を補正することで、放電灯点灯装置1の回路損失値を所定値以下とすることができる。例えば、第2の目標値で設定された出力電力値に対する回路損失値が想定以上に高い場合には、第2の目標値の低減度合いを増資、放電灯Laへの投入電力をさらに低減することで回路損失を低減させる。それによって、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊等を確実に防止することができる。
【0096】
(実施形態4)
本実施形態の前照灯10および車両11は、実施形態1〜3のうちいずれか1つの放電灯点灯装置1を備えている。
【0097】
図18は、実施形態1〜3のうちいずれかの放電灯点灯装置1と、この放電灯点灯装置1によって点灯される放電灯Laとで構成される前照灯10および、この前照灯10を備える車両11の概略外観図である。Lowビームスイッチ電源12から車両11の左右両側に設けられた放電灯点灯装置1に電源が供給されると、放電灯点灯装置1から放電灯Laに電力が供給され、放電灯Laが点灯する。
【0098】
近年、自動車内の居住空間の極力確保や、燃費の改善のための軽量化により、エンジンルームは小スペース化の傾向にある。したがって、エンジンルーム内の温度が高温になるのに加え、放電灯点灯装置1は発熱量の大きいエンジンのより近傍に配置されることとなり、より小型でかつ、より高温環境下でも放電灯Laを安定点灯可能な放電灯点灯装置1が求められている。
【0099】
また、前照灯10に用いる放電灯点灯装置1の電源はバッテリーであるが、近年、数百Vもしくはそれ以上の電圧を使用するハイブリッド車や電気自動車が市場に投入され始め、バッテリーを含む数十V程度の低圧電源部は低容量化による小型化が加速する傾向にある。
【0100】
したがって、放電灯点灯装置1においても、バッテリーの消費電流を低減することが重要な課題となっている。
【0101】
しかし、前照灯10は、実施形態1〜3のうちいずれかの放電灯点灯装置1を備えているので、高温環境下での使用においても、電源電流Iinの抑制し、放電灯点灯装置1や構成部品の熱ストレスによる破壊を防止しつつ、放電灯Laの光束をより速やかに立ち上げることが可能となる。
【符号の説明】
【0102】
1 放電灯点灯装置
2 DC/DCコンバータ部
3 インバータ部
4 イグナイタ部
5 制御部
6 電源電圧検出部
7 温度検出部
51 電力目標記憶部
52 最大電力制限部
53 電流目標演算部
54 誤差アンプ
E1 直流電源
La 放電灯
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタルハライドランプなどの高輝度放電灯は、その輝度の高さから車載用途にも用いられている。車載用途では、特に視認性の早期確保を実現するため、始動時に光束を急速に立ち上げる必要があり、放電灯の点灯直後に定格電力より過大な電力を放電灯に供給することで光束の立ち上がりを早めている放電灯点灯装置がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
図1に、放電灯点灯装置1の回路構成図を示す。放電灯点灯装置1は、DC/DCコンバータ部2とインバータ部3とイグナイタ部4と制御部5(制御回路)とを主構成としており、直流電源E1を入力電源として放電灯Laに電力を供給することで放電灯Laを点灯させる。DC/DCコンバータ部2は、直流電源E1から印加される電源電圧Vinを昇降圧し、放電灯Laを点灯するのに必要な直流電圧V1を生成する。インバータ部3は、直流電圧V1を低周波の矩形波からなる交流電圧V2に変換する。イグナイタ部4は、放電灯Laを始動させる数10kVの高電圧を発生させる。制御部5は、DC/DCコンバータ部2の出力電圧(直流電圧V1)および出力電流(電流I1)を検出し、この検出結果から算出された出力電力が目標値となるようにDC/DCコンバータ部2を制御する。
【0004】
以下に、放電灯点灯装置1の具体的な構成について説明する。
【0005】
DC/DCコンバータ部2は、コンデンサC1,C2と、スイッチング素子Q1と、トランスTr1と、ダイオードD1と、スイッチング素子Q1とでフライバック型のDC/DCコンバータ回路を構成している。
【0006】
直流電源E1の出力端間にスイッチS1を介してコンデンサC1が接続されており、スイッチS1がオンすると、コンデンサC1の両端間に直流電源E1から出力される直流の電源電圧Vinが印加される。コンデンサC1の両端間には、トランスTr1の一次巻線n11とnチャネルMOSFETからなるスイッチング素子Q1とが直列接続されている。また、トランスTr1の二次巻線n12の両端間にダイオードD1とコンデンサC2とが直列接続されている。そして、スイッチング制御部21がスイッチング素子Q1をオンすると、トランスTr1の一次巻線n11に電流が流れ、トランスTr1にエネルギーが蓄積される。そして、スイッチング素子Q1をオフすると、トランスTr1に蓄積されたエネルギーによって、二次巻線n12→コンデンサC2→ダイオードD1の経路で電流が流れコンデンサC2が充電される。そして、スイッチング素子Q1がオン・オフを繰り返すことで、コンデンサC2の両端間に直流電圧V1が生成される。
【0007】
インバータ部3は、4つのnチャネルMOSFETからなるスイッチング素子Q2〜Q5でフルブリッジインバータ回路を構成している。DC/DCコンバータ部2の出力端間にスイッチング素子Q2,Q4からなる直列回路と、スイッチング素子Q3,Q5からなる直列回路が並列接続されており、スイッチング素子Q4,Q5が高圧側に接続され、スイッチング素子Q2,Q3が低圧側に接続されている。そして、インバータ部3は、スイッチング素子Q2,Q4の接続点と、スイッチング素子Q3,Q5の接続点とが出力端を構成している。
【0008】
イグナイタ部4は、コンデンサCsと、トランスTr2と、スパークギャップSG1とで構成されている。コンデンサCsは、インバータ部3の出力端間に接続されている。このコンデンサCsと並列に、トランスTr2の一次巻線n21とスパークギャップSG1とからなる直列回路および、トランスTr2の二次巻線n22と放電灯Laとからなる直列回路が接続されている。
【0009】
制御部5は、電力目標記憶部51と、最大電力制限部52と、電流目標演算部53と、誤差アンプ54とで構成されている。電力目標記憶部51は、放電灯Laに供給する出力電力目標値を記憶しており、この出力電力目標値を最大電力制限部52が取得する。そして最大電力制限部52は、取得した出力電力目標値を補正して電流目標演算部53に出力する。電流目標演算部53は、DC/DCコンバータ部2が出力する直流電圧V1を検出しており、補正後の出力電力目標値と直流電圧V1とから目標電流を算出し、誤差アンプ54に出力する。また、誤差アンプ54には、DC/DCコンバータ部2が出力する電流I1の検出結果が入力されており、目標電流と電流I1との差が生じなくなるように出力制御信号をDC/DCコンバータ部2に出力する。なお、抵抗R1を電流検出部として構成しており、電流I1の検出結果を誤差アンプ54に出力している。
【0010】
次に、放電灯点灯装置1の動作について説明する。
【0011】
スイッチS1がオンすると、直流電源E1からDC/DCコンバータ部2に電源電圧Vinが印加される。そして、DC/DCコンバータ部2は、スイッチング素子Q1をオン・オフすることで直流電圧V1を生成する。なお、DC/DCコンバータ部2は、制御部5から出力される出力制御信号に基づいてスイッチング素子Q1のオン時間や駆動周波数を変動することで、直流電圧V1を変動させる。
【0012】
インバータ部3は、放電灯Laの始動前は、スイッチング素子Q2,Q5をオン状態に維持し、スイッチング素子Q3,Q4をオフ状態に維持する。放電灯Laの始動前は、放電灯Laが開放状態であるため、コンデンサC2の両端間に生成される直流電圧V1が上昇すると、コンデンサCsの両端電圧も上昇する。そして、直流電圧V1が上昇して所定電圧以上になると、スパークギャップSG1がブレークダウンし、トランスTr2の一次巻線n21に瞬時に電圧が印加される。それによって、トランスTr2の二次巻線n22には、一次巻線n21に印加される電圧の巻数比倍の高電圧(数10kV程度)が印加される。この高電圧により放電灯Laがブレークダウンする。その瞬間にDC/DCコンバータ部2からスイッチング素子Q2,Q5を介して電流が流れ、放電灯Laがアーク放電に移行して放電灯Laが始動する。
【0013】
放電灯Laの始動後は、スイッチング素子Q2〜Q5を所定時間間隔で交番させることで交流電圧V2を生成し、放電灯Laに供給する。また、制御部5は、DC/DCコンバータ部2の出力電力が出力電力目標値と一致するように、DC/DCコンバータ部2のフィードバック制御を行う。それによって、放電灯Laの安定点灯を実現している。
【0014】
また、放電灯点灯装置1は、放電灯Laの光束の立ち上がり性能を確保しつつ、光束のオーバーシュートやアンダーシュートを防ぐため、放電灯Laの温度上昇に応じて出力電力目標値を変動させている。電力目標記憶部51は、図19に示す目標電力カーブK1を記憶している。この目標電力カーブK1は、放電灯Laの始動後の時間に対する出力電力目標値を示している。目標電力カーブK1は、放電灯Laが始動した時間をt0とした場合、時間t0から時間t1までの期間TAの間は、放電灯Laの定格電力Ws0(35W)の倍以上の電力を出力電力目標値としている。以降、期間TAにおける出力電力目標値を最大電力目標値と称し、ここでは最大電力目標値に放電灯Laの許容最大電力値Wp0(70〜90W程度)が設定されている。放電灯Laの始動直後は、放電灯Laに大きな電力を供給することによって、放電灯Laの光束を急速に立ち上がらせる。なお、この期間TAは4秒間程度が望ましい。
【0015】
そして、時間t1から時間t2までの期間TBの間は、放電灯Laの光束がオーバーシュートやアンダーシュートを起さないように、出力電力目標値を最大電力目標値Wp0から滑らかに低減して定常電力目標値に漸近させる。ここでは、定常電力目標値に放電灯Laの定格電力Ws0が設定されている。なお、この期間TBは約40〜50秒程度が望ましい。そして、時間t2以降の期間TCは、出力電力目標値を定常電力目標値Ws0に維持することで、放電灯Laを安定点灯させる。
【0016】
なお、上述した制御は、放電灯Laが冷えた状態から始動(以降、初始動と称す)させる場合のみ行う。放電灯Laを短期間消灯した直後における放電灯Laの温度が高い状態で、初始動(コールドスタート)時の制御を行うと、期間TA,TBにおいて放電灯Laが過剰発光する。そこで、点灯していた放電灯Laを短期間消灯した直後の始動(以降、再始動と称す)を行う場合は、以下の制御を行う。
【0017】
図20に示すように、放電灯Laの消灯時間に応じて、目標電力カーブK1における期間TA,TB中の時間ta,tbから出力電力目標値の変動をスタートする。それによって、再始動後に放電灯Laに供給される電力が抑えられ、再始動時の過剰発光を抑制している。
【0018】
すなわち、図20に示すように、再点灯前の消灯期間が比較的長い場合、目標電力カーブK1の時間taにおける出力電力目標値Waから開始し、再点灯前の消灯期間が比較的短い場合、目標電力カーブK1の時間tb(>ta)における出力電力目標値Wb(<Wa)から開始する。それによって、再点灯前の消灯期間が短い、つまり、放電灯Laの温度が高いほど放電灯Laに供給される電力が抑制される。
【0019】
なお、再始動時は、例えばコンデンサの充放電回路で構成されるタイマ回路を用いて、再始動時のコンデンサの両端電圧(充電電荷量)に応じて放電灯Laに供給する電力を決定する。
【0020】
また、放電灯点灯装置1を車載用途等の高温環境下で使用し、放電灯点灯装置1の周囲温度が高い場合や電源電圧Vinが低下した場合は、回路損失および構成部品の熱ストレス増加による回路破壊を起すおそれがある。これを防止するために、電源電圧Vinおよび周囲温度Taを検出し、この検出結果に基づいて最大電力目標値を低減させる制御を行う(例えば、特許文献3,4,5参照)。
【0021】
図1に示す放電灯点灯装置1は、電源電圧検出部6と温度検出部7とを備えている。電源電圧検出部6は、直流電源E1からDC/DCコンバータ部2に印加される電源電圧Vinを検出し、最大電力制限部52に出力している。また、温度検出部7は、放電灯点灯装置1の周囲温度Taを検出し、最大電力制限部52に出力している。なお、温度検出部7は、放電灯点灯装置1の温度を検出するように構成してもよい。
【0022】
そして、最大電力制限部52は、電源電圧検出部6と温度検出部7との検出結果とに基づいて最大電力目標値を許容最大電力値Wp0から低減させる。
【0023】
例えば、図21に示すように、周囲温度TaがTa0(常温)の場合における目標電力カーブをK1とし、周囲温度TaがTa0からTa1に上昇した場合における目標電力カーブをK1aとする。最大電力制限部52は、周囲温度TaがTa0からTa1に上昇した場合、最大電力目標値をWp0よりも低いWpcに補正し、時間tcまでWpcを維持する。そして、時間tc以降は、目標電力カーブK1に沿って出力電力目標値を変動させる。また、周囲温度TaがTa2(>Ta1)に上昇した場合における目標電力カーブをK1bとする。この場合、最大電力制限部52は、最大電力目標値をWp0よりも低いWpd(<Wpc)に補正し、時間tdまでWpdを維持する。そして、時間td以降は、目標電力カーブK1に沿って出力電力目標値を変動させる。
【0024】
上記制御を行うために、最大電力制限部52は、図22に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図22に示す制限特性は、周囲温度Taに対する最大電力目標値の低減量(以降、第1の低減量と称す)を示している。周囲温度Taが温度Tth1以下では第1の低減量は0であり、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて第1の低減量が増加し、周囲温度Taが温度Ta1(>Tth1)である場合、第1の低減量がWta1となる。したがって、周囲温度Taが温度Ta1である場合、最大電力目標値は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量Wta1を減算した値(Wp0−Wta1)となる。
【0025】
同様に、最大電力制限部52は、図23に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図23に示す制限特性は、電源電圧Vinに対する最大電力目標値の低減量(以降、第2の低減量と称す)を示している。電源電圧Vinが電圧Vth1以上では第2の低減量は0であり、電源電圧Vinが電圧Vth1より低くなるにつれて第2の低減量が増加し、電源電圧Vinが電圧Vin1(<Vth1)である場合、第2の低減量がWv1となる。
【0026】
そして、周囲温度Taが温度Ta1かつ電源電圧Vinが電圧Vin1である場合、最大電力目標値は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量Wta1および第2の低減量Wv1を減算した値(Wp0−Wta1−Wv1)となる。
【0027】
以上により、電源電圧Vinが低下した場合や、放電灯点灯装置1の周囲温度Taが上昇した場合などにおいて、最大電力目標値を低減することにより、回路損失および構成部品のストレスが抑制され、回路破壊の防止や放電灯点灯装置1の小型化が実現可能となる。
【0028】
また、上記では最大電力目標値のみ低減するように制御しているが、電源電圧検出部6および温度検出部7の各検出結果に基づいて、図24に示すように全ての期間(TA〜TC)にわたって出力電力目標値を目標電力カーブK1から低減した目標電力カーブK2を生成し、この目標電力カーブK2に沿って制御してもよい。なお、目標電力カーブK2において、最大電力目標値はWp1(<Wp0)に設定され、定常電力目標値はWs1(<Ws0)に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特許第2946384号
【特許文献2】特開2000−235899号公報
【特許文献3】特開平4−12496号公報
【特許文献4】特開2002−216989号公報
【特許文献5】特開2001−43991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
放電灯Laに供給する電力が一定の場合、電源電圧Vinが高くなるにつれて、直流電源E1から供給される電源電流Iinが低減し回路損失が低下するので、より高い電力を出力することが可能となる。つまり、図25の破線で示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも高い場合、回路損失や構成部品の熱ストレスで決まる回路の出力性能として、許容最大電力値Wp0よりも高い電力を出力することができる。例えば、電源電圧Vin2(>Vth1)では、最大電力目標値はWp0+Wv2とすることができる。
【0031】
しかし、図22,23に示す二つの制限特性を用いて最大電力目標値を決定する場合、最大電力目標値は許容最大電力値Wp0以下となる。例えば、電源電圧Vinが電圧Vin2で周囲温度Taが温度Ta1である場合、回路の出力性能としては最大電力目標値をWp0−Wta1+Wv2に設定可能である。しかし、図22,図23に示す制限と構成を用いた場合、最大電力目標値はWp0−Wta1と低い値となる。
【0032】
これを解決するため、図22および図25の破線に示す制限特性で最大電力目標値を制限すれば最大電力目標値をWp0−Wta1+Wv2に設定でき、回路の出力性能同等の電力を出力可能になる。しかし、電源電圧Vinが電圧Vin2で周囲温度Taが温度Tth1以下の場合には、最大電力目標値がWp0+Wv2となり、許容最大電力値Wp0を超える電力が放電灯Laに供給されることになる。
【0033】
この結果、光束の立ち上がり時にオーバーシュートが発生する。放電灯点灯装置1を車両の前照灯に用いた場合、対向車や歩行者への幻惑の要因となる。また、短時間の使用でも放電灯Laの電極が劣化し放電灯Laの寿命が短くなる等の課題があるため、放電灯Laに供給する電力は許容最大電力値Wp0以下に設定する必要がある。
【0034】
また、車両の前照灯では、光源としてHIDランプが主流になりつつあるが、近年、環境負荷軽減のため水銀フリーHIDランプの採用が加速している。ただし、水銀を無くすことで、水銀を封入した従来のHIDランプに比べて、点灯始動後の数秒間において光束の立ち上がりが遅くなっており、点灯始動後により大きな電力を供給して光束の立ち上がりを早くする必要がある。
【0035】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温時および低電源電圧時における熱ストレスを低減すると共に、放電灯の始動性を向上させることができる放電灯点灯装置および、これを用いた前照灯,車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の放電灯点灯装置は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする。
【0037】
この放電灯点灯装置において、前記制御回路は、前記放電灯の許容最大電力値から前記第1の低減量および前記第2の低減量を減算することで前記第1の目標値を算出し、
前記第1の目標値と前記第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を前記最大電力目標値に設定することが好ましい。
【0038】
この放電灯点灯装置において、前記制御回路は、前記電源電圧検出部の検出値が所定電圧以上である場合、前記第2の目標値を前記放電灯の許容最大電力値に設定し、前記電源電圧検出部の検出値が前記所定電圧未満である場合、前記第2の目標値を、前記許容最大電力値未満、かつ前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における自装置の回路損失が所定値以下となるように設定することが好ましい。
【0039】
この放電灯点灯装置において、前記直流電源の電流を検出する電源電流検出部を備え、
前記制御回路は、前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における前記電源電流検出部の検出値が所定電流以下となるように、前記第2の目標値を設定することが好ましい。
【0040】
本発明の前照灯は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定する放電灯点灯装置と、前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備えることを特徴とする。
【0041】
本発明の車両は、直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、放電灯に電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御回路と、周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、前記制御回路は、前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定する放電灯点灯装置と、前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備える前照灯と、前記前照灯が取り付けられる車体とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明では、高温時および低電源電圧時における熱ストレスを低減すると共に、放電灯の始動性を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図2】第1の低減量を示すグラフである。
【図3】第2の低減量を示すグラフである。
【図4】第2の目標値を示すグラフである。
【図5】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図6】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図7】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図8】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図9】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図10】放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図11】(a)時間に対する出力電力目標値を示すグラフである。(b)時間に対する電源電流を示すグラフである。(c)時間に対するコンデンサ電圧を示すグラフである。
【図12】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図13】電源電圧に対する電源電流の変動を示すグラフである。
【図14】電源電圧に対する回路損失の変動を示すグラフである。
【図15】電源電圧に対する第2の目標値の変動を示すグラフである。
【図16】電源電圧に対する回路損失の変動を示すグラフである。
【図17】放電灯点灯装置の回路構成図である。
【図18】前照灯および車両の概略構成図である。
【図19】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図20】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図21】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図22】第1の低減量を示すグラフである。
【図23】第2の低減量を示すグラフである。
【図24】時間に対する出力電力目標値の変動を示すグラフである。
【図25】第2の低減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0045】
(実施形態1)
本実施形態の放電灯点灯装置1の回路構成図を図1に示す。本実施形態の放電灯点灯装置1は、最大電力制限部52が電流目標演算部に出力する最大電力目標値を決定するための制御方法が従来の放電灯点灯装置1と異なり、他の構成および制御は従来の放電灯点灯装置1と同一であるので説明は省略する。なお、DC/DCコンバータ部2とインバータ部3とイグナイタ部4とが本願発明の駆動回路に相当する。
【0046】
本実施形態の最大電力制限部52は、図2,図3に示す最大電力目標値の制限特性を記憶している。図2に示す制限特性は、周囲温度Taに対する最大目標値の低減量(第1の低減量)を示している。図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1以下では第1の低減量は0であり、周囲温度Taが温度Tth1より高くなるにつれて第1の低減量が増加し、周囲温度Taが温度Ta1(>Tth1)である場合、第1の低減量がWta1となる。
【0047】
図3に示す制限特性は、電源電圧Vinに対する最大目標値の低減量(第2の低減量)を示している。図3に示すように、電源電圧Vinが低くなるにつれて第2の低減量が大きくなり、電源電圧Vinが電圧Vth1である場合、第2の低減量は0となる。また、図3は、電源電圧Vinに応じたDC/DCコンバータ部2の出力可能電力の上限も示している。一例として、DC/DCコンバータ部2の出力上限値は以下の方法で設定され、最大電力制限部52に事前に記憶している。
【0048】
DC/DCコンバータ部2が出力する電流I1が一定であるならば、電源電圧Vinが低いほど、DC/DCコンバータ部2の一次側(入力側)電流(電源電流Iin)が増加するため、主に電力制御用のスイッチング素子Q1での損失が増加する。また、DC/DCコンバータ部2はフライバックコンバータで構成されている場合、トランスTr1の一次側と二次側との巻数比が大きい場合は、電源電圧V1に関わらずスイッチング素子Q1に流れる電流が大きく発熱量が大きい。
【0049】
したがって、スイッチング素子Q1の発熱量が所定値以下となるようなDC/DCコンバータ部2の出力電力の測定結果を用いて図3に示す制限特性を生成すればよい。例えば、スイッチング素子Q1にMOSFETを用いる場合、ドレイン電流,ドレイン−ソース間電圧,ゲート電圧,ゲート電流,素子のオン抵抗値からスイッチング素子Q1のジャンクション温度は容易に算出することができる。
【0050】
以上より、電源電圧Vinが高いほどDC/DCコンバータ部2の出力可能電圧が増加し、電源電圧Vinが電圧Vth1以上の領域では、最大電力目標値に許容最大電力値Wp0を超える値に設定することができる。すなわち、電源電圧Vinが電圧Vth1以上の領域では、第2の低減量の符号がマイナスとなる。
【0051】
図4に示すグラフは、最大電力目標値の上限値である第2の目標値を示している。第2の目標値は最大電力制限部52に記憶されており、電源電圧Vinに関わらず放電灯Laの許容最大電力値Wp0を示している。
【0052】
本実施形態では、最大電力制限部52は、許容最大電力値Wp0から第1の低減量および第2の低減量を減算することで第1の目標値を算出し、第1の目標値と第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を最大電力目標値として設定する。
【0053】
以下に、第1の目標値の具体的な計算方法を示す。なお、以下の計算例では低減量を、許容最大電力値Wp0に対して低減する量と定義する。したがって、電源電圧Vinが電圧Vth1以上である場合における第2の低減量の符号はマイナスとなる。
【0054】
まず、周囲温度Taが温度Tth1以下で、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2である場合について説明する。
【0055】
図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1以下であるので、第1の低減量は0となる。また、図3に示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2であるので、第2の低減量は−Wv2となる。したがって、第1の目標値は、許容最大電力Wp0から第1,第2の低減量を減算した値であるので、Wp0−0−(−Wv2)=Wp0+Wv2となる。
【0056】
また、図4に示すように、第2の目標値は電源電圧V1に関わらず一定であるので、Wp0となる。
【0057】
したがって、最大電力制限部52は、第1の目標値(Wp0+Wv2)と第2の目標値(Wp0)とを比較し、小さい第2の目標値であるWp0を最大電力目標値に設定する。
【0058】
次に、周囲温度Taが温度Tth1を超える温度Ta1で、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2である場合について説明する。
【0059】
図2に示すように、周囲温度Taが温度Tth1を超える温度Ta1であるので、第1の低減量はWta1となる。また、図3に示すように、電源電圧Vinが電圧Vth1よりも大きい電圧Vin2であるので、第2の低減量は−Wv2となる。したがって、第1の目標値は、Wp0−Wta1−(−Wv2)=Wp0−Wta1+Wv2となる。
【0060】
また、第2の目標値は、上述したようにWp0となる。
【0061】
ここで、−Wta1+Wv2<0である場合、すなわち第1の目標値が第2の目標値よりも小さい場合、最大電力制限部は第1の目標値(Wp0−Wta1+Wv2)を最大目標値に設定する。
【0062】
一方、−Wta1+Wv2≧0である場合、すなわち第2の目標値が第1の目標値よりも小さい場合、最大電力制限部は第2の目標値(Wp0)を最大目標値に設定する。
【0063】
上記のように制御することによって、放電灯Laに許容最大電力Wp0を超える電力を供給することなく、かつ高温時,高電源電圧時には、より高い最大電力目標値を設定することができる。それによって、放電灯Laの寿命を低下させることなく、高電源電圧時には、高温度環境下においても従来よりも大きな電力を放電灯Laに供給するので、速やかに放電灯Laの光束を立ち上げることが可能となる。
【0064】
なお、例えば車両の前照灯に本実施形態の放電灯点灯装置1を用いる場合、放電灯Laの許容最大電力値Wp0は70〜90W,温度Tth1は80〜100℃,電圧Vth1は9〜12Vに設定される。
【0065】
(実施形態2)
実施形態1では、電源電圧Vinに関わらず第2の目標値は許容最大電力値Wp0で一定であったが、本実施形態では電源電圧Vinに応じて変動させることに特徴を有する。なお、実施形態1と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
【0066】
DC/DCコンバータ部2の出力電力が一定の場合、電源電圧Vinが低下すると電源電流Iinは増加する。
【0067】
また、スイッチング素子Q1にMOSFETを用いる場合、電源電圧Vinが低下し、電源電流Iinが増加した状態が維持されると、部品温度の上昇によりオン抵抗(導通抵抗)が高くなり、スイッチング素子Q1での損失が増加する。それによって、電源電流Iinがさらに増加する傾向となり、電源電圧Vinが電圧Vin3以上では電源電流Iinは電流Iin0で略一定であるが、図5の破線で示すように、電源電圧Vinの低下に対して電源電流Iinは指数関数的に増加する傾向にある。
【0068】
したがって、放電灯点灯装置1が正常に動作する電源電圧Vinの範囲の下限値である電圧Vin4周辺では、電源電圧Vinの微小な減少に対しても電源電流Iinが急増する。それによって、放電灯点灯装置1の前段に設置されるヒューズを溶断したり、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊が危惧される。
【0069】
そこで本実施形態では、電源電圧Vinが低下した場合でも、電源電流Iinが所定の電流Iin1以下となるように、図6の実線に示すように電源電圧Vinが所定の電圧Vin3より低くなるにつれて、第2の目標値を許容最大電力値Wp0から低減させる。それによって、図5の実線に示すように電源電圧Vinが電圧Vin4付近でも電源電流Iin1以下にすることができる。
【0070】
なお、事前に電源電圧Vinを様々な値に変動させ、各条件での出力電力値に対する電源電流Iinの実測データを蓄積しておけば、第2の目標値の低減度合いを設定することは容易で、これを最大電力制限部に記憶しておけばよい。例えば、少なくとも電源電圧Vinを3水準、周囲温度Taを3水準程度のデータを蓄積すれば、図6に示す制限特性の設定は可能である。
【0071】
また、図7に示すように、電源電圧Vinがより低く電圧Vin5(<Vin3)以下である場合、電源電流Iinの増加度合いがより高くなる。この場合、図8に示すように、電源電圧Vinが電圧Vin5を下回ると第2の目標値の低減度合いを大きくし、第2の目標値をWp4以下に設定する。それによって、図7の実線に示すように電源電圧Vinの低下に対する電源電流Iinの増加の傾きが緩やかになり、放電灯点灯装置1の熱暴走を確実に抑制することが可能となる。
【0072】
なお、電源電圧Vinに対する第2の目標値の低減度合いの傾きは、図8に示すような直線に限らず、曲線的に低減するように設定してもよい。
【0073】
また、上記では、電源電流Iinが所定の電流Iin1以下となるように、電源電圧Vinの低下に応じて放電灯Laに供給する電力を低減する制御を行っている。しかし、放電灯Laに供給する電力を低減し過ぎると、放電灯Laを安定して点灯始動させるのに必要な電力の確保が難しくなり、不点や立ち消え等の要因となる。
【0074】
そこで、図9に示すように、放電灯Laを安定点灯させるのに必要な電力の下限値をWp3とした場合、電源電圧Vinがより低下した電圧Vin6以下でも第2の目標値が電力Wp3を下回らないように、第2の目標値を設定する。それによって、放電灯Laをより安定して点灯始動することが可能となる。なお、車両の前照灯に本実施形態の放電灯点灯装置1を用いる場合、放電灯La(HID)の定格電力が35Wである場合、Wp3を40〜50Wに設定する。
【0075】
また、図10に示すように、電源電流Iinを検出する電源電流検出部8を設けて、回路動作時の電源電流Iinを検出し、第2の目標値を補正する制御を行ってもよい。なお、図10では、直流電源E1の代わりに交流電源E2とAC/DCコンバータ部9とで直流電源を構成している。なお、AC/DCコンバータ部9は、フィルタ回路と整流平滑回路とブーストコンバータとが組み合わされた周知の回路であるので、詳細な説明は省略する。また、DC/DCコンバータ2aは、昇圧チョッパ回路を構成しており、周知の回路であるので、詳細な説明は省略する。
【0076】
図11(a)〜(c)に示すように、放電灯Laの出力電力が最大値を維持している期間TAは電源電流Iinが増加し続け、電源電圧Vinは低下し続ける傾向になる。ここで、放電灯点灯装置1が接続される電源側の線路インピーダンスが想定以上に大きい場合は、より大きい電圧降下が発生する。したがって、放電灯点灯装置1を図1のように構成した場合、図11(c)に示すように、入力端のコンデンサC1に印加されるコンデンサ電圧Vc1は電源電圧Vinよりも低い値となる。それによって、電源電流Iinはさらに増大してしまう。
【0077】
また、放電灯点灯装置1の設置環境によっては、周囲温度Taが異常上昇し、回路損失の増加によって電源電流Iinが増大する場合も考えられる。この場合、電源電流Iinの増加とともに回路損失も増加する。
【0078】
このように、第2の目標値で設定された最大目標値に対する電源電流Iinが事前の想定以上に高くなる場合が考えられ、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊などが懸念される。
【0079】
そこで、電源電流Iinが所定の電流Iin2以下となるように、図12の破線に示すように第2の目標値を低減させたものの、電源電流検出部で検出された検出結果が電流Iin2を超えた場合、図12の実線に示すように第2の目標値をさらに低減させる。それによって、図13の実線に示すように、電源電流Iinが電流Iin2以下とする出力電力補正制御が可能となる。
【0080】
以上の構成によって、電源環境や周囲温度環境によらず、電源電流Iinの増大による回路の熱暴走をより確実に防止することが可能となる。
【0081】
なお、図10では、交流電源とAC/DCコンバータ回路を用いて直流電源を構成しているが、いかなる構成の直流電源でも適用可能である。また、図10では、DC/DCコンバータ2aを昇圧チョッパ回路で構成しているが、本実施形態はDC/DCコンバータの回路方式によらず適用可能である。
【0082】
(実施形態3)
実施形態2では、電源電流Iinが所定値(電流Iin1またはIin2)以下となるように第2の目標値を設定したが、本実施形態では放電灯点灯装置1の回路損失が所定値以下となるように第2の目標値を設定することに特徴を有する。なお、実施形態2と同一構成には同一符号を付して説明は省略する。
【0083】
電源電圧Vinの低下によって電源電流Iinは略指数関数的に増加することを実施形態2で述べたが、図13に示すように回路損失に関しても同様の増加傾向を示す。図13において、L1は周囲温度TaがTa3の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。L2は周囲温度TaがTa4(>Ta3)の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。L3は周囲温度TaがTa5(>Ta4)の場合における電源電圧Vinに対する回路損失の特性を示している。図13に示すように、電源電圧Vinが低下するにつれて、かつ周囲温度Taが上昇するにつれて、回路損失が増加する傾向にある。
【0084】
電源電流Iinは、電源電圧Vinの変動以外にも、周囲温度Taの変動や放電灯Laに供給する電力によっても変動するため、必ずしも「電源電流Iinが大きい=回路損失が大きい」とは限らない。したがって、実施形態2では、回路損失の増加による放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊を検出しきれない場合がある。なお、電源電流Iinが増加した場合は回路損失が増加したと判断できる。
【0085】
これに対応して、電源電流Iinの閾値を電源電圧Vinや周囲温度Taの変化に合わせて複数設定することも考えられるが、第2の目標値を設定するために膨大な測定データが必要であり、かつ制御仕様が複雑化するため回路の応答性が遅くなるなどの課題がある。
【0086】
一方、実施形態2では、電源電流Iinが電流Iin2を超えたが、実際の回路損失は増加していない場合でも、放電灯Laに供給する電力を低減してしまうおそれがある。それによって、光束を速やかに立ち上げることができないまたは、電源電流Iinが電流Iin2を超えない限り回路損失が増大しても放電灯Laに供給する電力を変化させないため、熱暴走によって放電灯点灯装置1が破壊するなどの課題がある。
【0087】
そこで、本実施形態では、電源電流Iinではなく回路損失によって第2の目標値を設定することで、より確実に回路の熱暴走による放電灯点灯装置1の破壊を防止することを可能としたものである。
【0088】
図15の実線に示すように、電源電圧Vinが所定の電圧Vin7以下の場合には、第2の目標値を低減するように設定する。それによって、図16の実線に示すように、放電灯点灯装置1が正常に動作する電源電圧範囲の下限値である電圧Vin8周辺においても回路損失が所定のWloss1以下とすることができる。なお、図15に示すように、電源電圧Vinが電圧Vin7以上の領域では、回路損失があまり増加せず、Wloss0で略一定である。
【0089】
なお、実施形態2において第2の目標値を設定した場合と同様に、事前に電源電圧Vinを変動させ各条件での出力電力値に対する回路損失値の実測データを蓄積しておけば、第2の目標値の低減度合いを算出することは容易であり、これを記憶しておけばよい。
【0090】
また、回路損失値Wloss1は放電灯点灯装置1が破壊しない程度の値に設定され、電源電圧Vinの低下に対する第2の目標値の低減傾きは曲線的に設定してもよい。
【0091】
また、図17に示すように、入力電力演算部56と出力電力演算部57と回路損失演算部58とを備えるように構成してもよい。
【0092】
入力電力演算部56は、電源電圧検出部6および電源電流検出部8の各検出結果から入力電力を算出する。
【0093】
出力電力演算部57は、DC/DCコンバータ部2の出力電力(電圧V1)および出力電流(電流I1)から出力電力を算出する。なお、DC/DCコンバータ部2の出力を放電灯Laへの投入電力とみなす。
【0094】
そして、回路損失演算部58は、入力電力演算部56の算出結果から出力電力演算部57の算出結果を除算することで回路損失値を算出し、最大電力制限部52に出力する。
【0095】
最大電力制限部52は、回路損失演算部57が算出した回路損失値に応じて第2の目標値を補正することで、放電灯点灯装置1の回路損失値を所定値以下とすることができる。例えば、第2の目標値で設定された出力電力値に対する回路損失値が想定以上に高い場合には、第2の目標値の低減度合いを増資、放電灯Laへの投入電力をさらに低減することで回路損失を低減させる。それによって、放電灯点灯装置1の熱暴走による破壊等を確実に防止することができる。
【0096】
(実施形態4)
本実施形態の前照灯10および車両11は、実施形態1〜3のうちいずれか1つの放電灯点灯装置1を備えている。
【0097】
図18は、実施形態1〜3のうちいずれかの放電灯点灯装置1と、この放電灯点灯装置1によって点灯される放電灯Laとで構成される前照灯10および、この前照灯10を備える車両11の概略外観図である。Lowビームスイッチ電源12から車両11の左右両側に設けられた放電灯点灯装置1に電源が供給されると、放電灯点灯装置1から放電灯Laに電力が供給され、放電灯Laが点灯する。
【0098】
近年、自動車内の居住空間の極力確保や、燃費の改善のための軽量化により、エンジンルームは小スペース化の傾向にある。したがって、エンジンルーム内の温度が高温になるのに加え、放電灯点灯装置1は発熱量の大きいエンジンのより近傍に配置されることとなり、より小型でかつ、より高温環境下でも放電灯Laを安定点灯可能な放電灯点灯装置1が求められている。
【0099】
また、前照灯10に用いる放電灯点灯装置1の電源はバッテリーであるが、近年、数百Vもしくはそれ以上の電圧を使用するハイブリッド車や電気自動車が市場に投入され始め、バッテリーを含む数十V程度の低圧電源部は低容量化による小型化が加速する傾向にある。
【0100】
したがって、放電灯点灯装置1においても、バッテリーの消費電流を低減することが重要な課題となっている。
【0101】
しかし、前照灯10は、実施形態1〜3のうちいずれかの放電灯点灯装置1を備えているので、高温環境下での使用においても、電源電流Iinの抑制し、放電灯点灯装置1や構成部品の熱ストレスによる破壊を防止しつつ、放電灯Laの光束をより速やかに立ち上げることが可能となる。
【符号の説明】
【0102】
1 放電灯点灯装置
2 DC/DCコンバータ部
3 インバータ部
4 イグナイタ部
5 制御部
6 電源電圧検出部
7 温度検出部
51 電力目標記憶部
52 最大電力制限部
53 電流目標演算部
54 誤差アンプ
E1 直流電源
La 放電灯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、
放電灯に電力を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御回路と、
周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、
前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、
前記制御回路は、
前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、
前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記放電灯の許容最大電力値から前記第1の低減量および前記第2の低減量を減算することで前記第1の目標値を算出し、
前記第1の目標値と前記第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする請求項1記載の放電灯点灯装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記電源電圧検出部の検出値が所定電圧以上である場合、前記第2の目標値を前記放電灯の許容最大電力値に設定し、前記電源電圧検出部の検出値が前記所定電圧未満である場合、前記第2の目標値を、前記許容最大電力値未満、かつ前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における自装置の回路損失が所定値以下となるように設定することを特徴とする請求項1または2記載の放電灯点灯装置。
【請求項4】
前記直流電源の電流を検出する電源電流検出部を備え、
前記制御回路は、前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における前記電源電流検出部の検出値が所定電流以下となるように、前記第2の目標値を設定することを特徴とする請求項1または2記載の放電灯点灯装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放電灯点灯装置と、
前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備えることを特徴とする前照灯。
【請求項6】
請求項5記載の前照灯と、
前記前照灯が取り付けられる車体とを備えることを特徴とする車両。
【請求項1】
直流電源を入力として放電灯に電力を供給する放電灯点灯装置において、
放電灯に電力を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御回路と、
周囲温度または自装置の温度を検出する温度検出部と、
前記直流電源の電圧を検出する電源電圧検出部とを備え、
前記制御回路は、
前記放電灯を始動させた後、前記放電灯に供給する電力を最大電力目標値から当該最大電力目標値より低い定常電力目標値に向かって、前記放電灯の点灯時間に応じて低減させ、
前記最大電力目標値に対して、前記温度検出部の検出値が所定温度より高くなるにつれて大きくなる第1の低減量および、前記電源電圧検出部の検出値が低くなるにつれて大きくなる第2の低減量を用いて決定される第1の目標値と、前記最大電力目標値の上限値である第2の目標値とのうち、いずれか一方を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記放電灯の許容最大電力値から前記第1の低減量および前記第2の低減量を減算することで前記第1の目標値を算出し、
前記第1の目標値と前記第2の目標値とのうち、いずれか小さい目標値を前記最大電力目標値に設定することを特徴とする請求項1記載の放電灯点灯装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記電源電圧検出部の検出値が所定電圧以上である場合、前記第2の目標値を前記放電灯の許容最大電力値に設定し、前記電源電圧検出部の検出値が前記所定電圧未満である場合、前記第2の目標値を、前記許容最大電力値未満、かつ前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における自装置の回路損失が所定値以下となるように設定することを特徴とする請求項1または2記載の放電灯点灯装置。
【請求項4】
前記直流電源の電流を検出する電源電流検出部を備え、
前記制御回路は、前記最大電力目標値に前記第2の目標値を設定した場合における前記電源電流検出部の検出値が所定電流以下となるように、前記第2の目標値を設定することを特徴とする請求項1または2記載の放電灯点灯装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放電灯点灯装置と、
前記放電灯点灯装置によって点灯される放電灯とを備えることを特徴とする前照灯。
【請求項6】
請求項5記載の前照灯と、
前記前照灯が取り付けられる車体とを備えることを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2013−37901(P2013−37901A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173130(P2011−173130)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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