説明

放電灯点灯装置

【課題】ノイズ成分による音響共鳴現象を抑えて、放電灯を安定的に点灯させることができる放電灯点灯装置を提供する。
【解決手段】放電灯点灯装置1が備える直流昇圧回路3は、直流電源2に直列にスイッチ素子15と昇圧トランス14の1次巻き線14aが接続され、2次巻き線14bの出力端子間に平滑用コンデンサ18が接続されてなる。スイッチ素子15を所定の周期で切り替えることによりインバータ回路4で生成される交流出力に重畳させたリップルのピーク値強度が、該交流出力に存在するリップル周波数帯におけるノイズのピーク値強度よりも大きくなるように、平滑用コンデンサ18の容量値が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のヘッドランプに使用されるHIDランプ(High Intensity Discharge Lamp)などの放電灯を点灯させる放電灯点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HIDランプなどの放電灯を点灯させる放電灯点灯装置としては、図8に示すように、バッテリなどの直流電源100から入力される直流電圧を昇圧する直流昇圧回路(DC/DCコンバータ)101と、この直流昇圧回路101の出力を交流に変換可能なインバータ回路102と、放電灯の点灯開始時に該放電灯の放電を開始させる起動用高圧パルスを放電灯に印加する起動回路103とを備え、直流昇圧回路101からインバータ回路102を介して放電灯104に電力を供給して、放電灯104を点灯させるようにしたものが一般に知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
直流昇圧回路101は、スイッチング周波数が数10KHz〜数100KHzのスイッチ素子と、スイッチ素子に1次側が接続された昇圧トランスと、昇圧トランスの2次側を整流後に平滑化する平滑用コンデンサとを有し、スイッチングによるリップルを完全に平滑せずにある程度リップルを残した直流をインバータ回路102に出力する。インバータ回路102は、その直流をトランジスタのHブリッジ回路により1kHz以下(例えば、150Hz〜500Hz程度)の低周波矩形波交流に変換して放電灯104を点灯させる。
【0004】
ここで、低周波矩形波交流にリップルを含ませているのは、例えば、放電灯104として、35Wのメタルハライドランプを150Hz〜500Hz程度の低周波矩形波交流で点灯させるためには、数10KHz以上のリップルを有しないと点灯の安定性が得られないためである。
【0005】
また、リップルの周波数を数100KHz程度までに留めるのは、放電アーク点灯電力の変化によって放電灯104内の圧力が変化し、放電灯104内に音波が発生して共振する音響共鳴現象を回避するためである。すなわち、リップルの周波数が共振周波数を外れた数100KHz程度に留めることで、リップルの周波数が、放電灯104のサイズに固有の共振周者数と一致し、音響共鳴現象により放電アークが不安定となり、放電にちらつきが生じたり、放電が立ち消えすることが防止される。
【特許文献1】特表2001−505360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リップルの周波数帯域の周辺には高調波ノイズによるスパイク状の連続スペクトルが発生する。そのため、放電灯の点灯電流にリップル以外の高調波による連続スペクトルのノイズ成分が混入し、かかるノイズ成分が音響共鳴により共振を起こして放電アークを不安定にし、ひいては、放電におけるちらつきや立ち消えを起こし易くしている。
【0007】
そこで、本発明は、ノイズ成分による音響共鳴現象を抑えて、放電灯を安定的に点灯させることができる放電灯点灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、放電灯点灯装置において音響共鳴現象を引き起こさないようにするためには、放電灯の点灯に必要なリップル以外の高調波ノイズ成分を減衰させておく必要があるが、リップルの周波数帯域の周辺に存在する高調波ノイズのみを減衰させることは困難であるため、リップルのピーク値強度と高調波ノイズのピーク値強度に着目し、リップルのピーク値強度が高調波ノイズのピーク値強度を上回っていれば、音響共鳴現象を起こし難いこと見出し、かかる知見に基づいて発明を創造するに至った。
【0009】
本発明の放電灯点灯装置は、直流電源から入力される直流電圧を昇圧する直流昇圧回路と、該直流昇圧回路の出力を交流に変換して放電灯に入力するインバータ回路と、前記放電灯の点灯を開始するための起動用高圧パルスを該放電灯に印加する起動回路とを備え、前記直流昇圧回路は、前記直流電源に直列にスイッチ素子と昇圧トランスの1次巻き線が接続され、該昇圧トランスの2次巻き線の出力端子間に平滑用コンデンサが接続されてなり、前記スイッチ素子を所定の周期で切り替えることにより、前記インバータ回路で生成される交流出力にリップルを重畳させ、前記リップルのピーク値強度が前記交流出力に存在するリップル周波数帯におけるノイズのピーク値強度よりも大きくなるように、前記平滑用コンデンサの容量値が設定されることを特徴とする。
【0010】
本発明の放電灯点灯装置によれば、インバータ回路で生成される交流出力に重畳するリップルのピーク値強度が、該交流出力に存在するノイズのピーク値強度よりも大きくなるように設計されているため、交流出力にノイズ成分が残存しても、音響共鳴現象の発生を抑制することができ、放電灯を安定的に点灯させることができる。
【0011】
すなわち、スイッチ素子の切り替えによって生成したリップルは、昇圧トランスの2次巻き線に並列に接続された平滑用コンデンサの容量によって、ピーク値強度を変更することが可能である。そのため、リップルのピーク値強度が交流出力に存在するノイズのピーク値強度よりも大きくなるように、平滑用コンデンサの容量値を設定することで、リップルのピーク値強度が高調波ノイズのピーク値強度を上回り、音響共鳴現象の発生を抑制することができる。
【0012】
前記起動回路は、前記インバータ回路の出力端子間にコンデンサが接続され、該コンデンサの両端にブレークダウン素子と起動用トランスの1次巻き線が接続され、該起動用トランスの2次巻き線が前記インバータ回路の出力端子間に前記放電灯と共に直列に接続されてなり、前記ノイズのピーク値強度が小さくなるように、前記起動用トランスの2次巻き線のインダクタンスが設定されることが好ましい。
【0013】
また、本発明者は、起動回路を構成する起動用トランスの2次巻き線が、インバータ回路の交流出力に放電灯と共に直列に接続されている場合、かかる起動用トランスの2次巻き線をインダクタとして利用することができることを見出した。
【0014】
そこで、本発明の好ましい態様によれば、交流出力に含まれるノイズのピーク値強度が小さくなるように、起動用トランスの2次巻き線のインダクタンスを設定することで、交流出力の中からノイズ成分を減衰させることができる。例えば、交流出力に含まれるノイズのうち、リップルのピーク値強度よりも高周波のノイズ成分のみを減衰することや、リップル周波数の近傍に存在するノイズをリップルと共に減衰させることで、交流出力におけるノイズ成分の影響を相対的に低減させることができる。これにより、音響共鳴現象の発生を抑制することができ、放電灯を安定的に点灯させることができる。
【0015】
また、放電灯点灯装置は、前記インバータ回路と前記起動回路との間で、前記放電灯と直列に接続されるインダクタを備え、前記ノイズのピーク値強度が小さくなるように、前記インダクタのインダクタンスが設定されることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の好ましい態様によれば、起動用トランスの2次巻き線をインダクタとして利用することに替えて、又は起動用トランスの2次巻き線をインダクタとして利用することに加えて、交流出力に放電灯と共に直列に接続されるインダクタを設けて、交流出力の中からノイズ成分を減衰させるようにしてもよい。また、インダクタをインバータ回路と起動回路との間に設けることで、起動用トランスの2次巻き線に発生する起動用高電圧パルスの影響を受けなくなる。そのため、インダクタの耐電圧性を問題とすることなく、放電灯点灯装置を簡易に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の放電灯点灯装置の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施形態の放電灯点灯装置の回路構成を説明する。図示の放電灯点灯装置1は、直流電源2から入力される直流電圧を昇圧する直流昇圧回路(DC/DCコンバータ)3と、直流を交流に変換して出力可能なインバータ回路4と、放電灯5に起動用高圧パルスを印加する起動回路6と、直流昇圧回路3およびインバータ回路4を制御するコントローラ(制御回路)7とを備える。また、放電灯点灯装置1は、放電灯5の発生電圧を検出するための電圧検出手段として、一対の電圧検出用分圧抵抗10,11を備えると共に、放電灯5に流れる電流を検出するための電流検出手段として、電流検出用抵抗12を備える。
【0019】
直流電源2は、例えば自動車用のバッテリであり、その出力電圧は約12Vである。また、放電灯5は、例えば、自動車のヘッドランプ用のHIDランプである。以下、放電灯をHIDランプとして説明する。
【0020】
直流昇圧回路3は、一対の入力端子13a,13bと、1つの1次巻き線14aおよび2次巻き線14bを有する昇圧トランス14と、スイッチ素子15と、整流用ダイオード16と、平滑用コンデンサ18と、2つの出力端子19a,19bとを備え、一対の入力端子13a,13b間に、直流電源2から直流電圧を入力し、その直流電圧を昇圧してなる2種類の出力電圧を、それぞれ出力端子19a,19bから出力する。また、スイッチ素子15は、本実施形態ではFETからなる半導体スイッチである。
【0021】
この直流昇圧回路3では、昇圧トランス14の1次巻き線14aおよびスイッチ素子15が一対の入力端子13a,13b間に直列に接続されている。そして、スイッチ素子15は、そのゲート(制御信号入力部)がコントローラ7に接続され、そのゲートにコントローラ7から所定周期のパルス信号を付与することによってスイッチ素子15のON・OFF(導通・遮断)が制御されるようになっている。
【0022】
また、整流用ダイオード16は、そのアノードが昇圧トランス14の2次巻き線14bの一端に接続されると共に、カソードが2次巻き線14bの他端に平滑用コンデンサ18を介して接続されている。従って、整流用ダイオード16および平滑用コンデンサ18が、2次巻き線14bの両端間に直列に接続されている。そして、平滑用コンデンサ18の整流用ダイオード16側の一端(高電位側の一端)と、2次巻き線14b側の他端とが、それぞれ出力端子19a,19bに接続されている。
【0023】
上記のように構成された直流昇圧回路3では、その入力端子13a,13b間に直流電源2から直流電圧(約12V)を入力した状態で、スイッチ素子15のON・OFF切替えを所定周期で行って、昇圧トランス14の1次巻き線14aに直流電源2から直流電圧を周期的に印加することにより、直流電源2から入力される直流電圧を昇圧してなる2種類の直流電圧を、それぞれ出力端子19a,19bから出力する。このとき、スイッチ素子15のON・OFFのデューティ比が、コントローラ7により制御され、その制御によって、出力端子19a,19bからそれぞれ出力される直流電圧の大きさを調整可能とされている。
【0024】
この場合、本実施形態では、出力端子19aから出力可能な最大の電圧(出力電流を0とした状態での最大出力電圧)は、例えば、400V程度とされている。そして、昇圧トランス14の1次巻き線14aの巻き数と、これに対する各2次巻き線14bの巻き数比とは、出力端子19aからそれぞれ上記の最大出力電圧を発生し得るように設定されている。
【0025】
また、特に、昇圧トランス14の1次巻き線14aと2次巻き線14bの巻き数比は、出力端子19bから400V程度の最大出力電圧を発生し得ることに加えて、HIDランプ5の安定点灯中(定常的な点灯時)にできるだけ効率よく該HIDランプ5に電力を供給し得るように(昇圧トランス14における電力の変換効率ができるだけ高くなるように)、直流電源2の直流電圧とHIDランプ5の安定点灯時の発生電圧(ランプ電圧)との比に概ね等しくなるように設定されている。この場合、直流電源2(バッテリ)の直流電圧にはばらつきがあるので、1次巻き線14aと2次巻き線14bの巻き数比は、放電灯点灯装置1を正常に動作させ得る直流電源2の最低保証電圧とHIDランプ5の安定点灯時のランプ電圧との比に概ね等しくなるように設定することが好ましい。例えば、HIDランプ5の安定点灯時のランプ電圧が85V程度で、直流電源2(バッテリ)の最低保証電圧が10Vであるとした場合、昇圧トランス14の1次巻き線14aと2次巻き線14bの巻き数比は、1:8程度に設定することが好適である。このように、昇圧トランス14の1次巻き線14aと2次巻き線14bの巻き数比を設定することにより、HIDランプ5の連続的な点灯中における昇圧トランス14の変換効率を高めることができる。
【0026】
インバータ回路4は、4個の半導体スイッチ素子4a,4b,4c,4dをブリッジ接続して構成されている。より詳しくは、インバータ回路4は、その一対の入力端子20a,20b間に、半導体スイッチ素子4a,4bの直列回路と半導体スイッチ素子4c,4dの直列回路とを並列に接続して構成されている。そして、半導体スイッチ素子4a,4bの直列回路の中点と、半導体スイッチ4c,4dの直列回路の中点とが、それぞれインバータ回路4の一対の出力端子21a,21bに接続されている。なお、各半導体スイッチ素子4a〜4dは、本実施形態ではFETである。そして、各半導体スイッチ素子4a〜4dは、そのゲート(制御信号入力部)がコントローラ7に接続され、そのゲートにコントローラ7からパルス信号を付与することによって各半導体スイッチ素子4a〜4dのON・OFF(導通・遮断)が制御されるようになっている。
【0027】
また、このインバータ回路4の入力端子20a,20bのうちの入力端子20aは、直流昇圧回路3の出力端子19aに接続され、入力端子20bは、電流検出用抵抗12を介して直流昇圧回路3の出力端子19b(基準電位端子)に接続されている。これにより、インバータ回路4には、直流昇圧回路3の出力端子19aから出力電圧(最大で400V程度の直流電圧)が入力されるようになっている。
【0028】
上記のように構成されたインバータ回路4では、半導体スイッチ素子4a,4dの組をONにし、且つ半導体スイッチ素子4b,4cの組をOFFにする状態と、半導体スイッチ素子4a,4dの組をOFFにし、且つ半導体スイッチ素子4b,4cの組をONにする状態とを交互に周期的に切り換えることにより、直流昇圧回路3の出力端子19aから入力される直流電圧とほぼ同等の振幅を有する交流電圧が、出力端子21a,21bから出力されることとなる。また、半導体スイッチ素子4a,4dの組をONにし、且つ半導体スイッチ素子4b,4cの組をOFFにする状態、あるいは、半導体スイッチ素子4a,4dの組をOFFにし、且つ半導体スイッチ素子4b,4cの組をONにする状態を継続させることによって、直流昇圧回路3の出力端子19aから入力される直流電圧と同極性または逆極性で、且つ、該直流電圧とほぼ同等の大きさの直流電圧がインバータ回路4の出力端子21a,21bから出力されることとなる。
【0029】
起動回路6は、整流用ダイオード22、充電用抵抗23およびコンデンサ24の直列回路と、起動用トランス25と、所定のブレークダウン電圧以上の電圧が印加されたときに自律的に導通するスイッチ素子としてのブレークダウン素子26とで構成されている。
【0030】
この場合、直列に接続された整流用ダイオード22、充電用抵抗23及びコンデンサ24が、整流用ダイオード17のアノードでインバータ回路4の出力端子21aに接続されると共に、コンデンサ24側の一端で、インバータ回路4の出力端子21bに接続されている。
【0031】
また、起動用トランス25の1次巻き線25aと400V以下で導通するブレークダウン素子26とが、コンデンンサ24の両端間で直列に接続されている。例えば、直流昇圧トランスに1000V程度出力する別の巻き線を設けて、この出力からダイオード22を介してコンデンサ24を充電すれば、ブレークダウン素子26としては、そのブレークダウン電圧(導通電圧)が1000Vよりも小さい電圧、例えば800V程度となるガス封入式のスパークギャップ素子を用いることができる。
【0032】
また、起動用トランス25の2次巻き線25bは、インバータ回路4の出力端子21a,21bの間で、HIDランプ5と直列に接続されている。
【0033】
上記のように構成された起動回路6では、コンデンサ24が800V程度まで充電されると、ブレークダウン素子26が導通し、コンデンサ24の充電電荷が瞬時的に起動用トランス25の1次巻き線25aを流れる。これに応じて、起動用トランス25の2次巻き線25bに起動用高圧パルスが発生し、これがHIDランプ5に印加されることとなる。この場合、起動用トランス25の1次巻き線25aの巻き数と、これに対する2次巻き線25bの巻き数の比は、例えば、起動用高圧パルスの波高値が25kV程度になるように設定されている。
【0034】
なお、前記電圧検出用分圧抵抗10,11は、直流昇圧回路3の出力端子19a,19b間で直列に接続されており、出力端子19b側の分圧抵抗11の発生電圧(これは直流昇圧回路3の出力端子19a,19b間の出力電圧に比例する)を、HIDランプ5の発生電圧(ランプ電圧)を示す検出信号として、コントローラ7に与えるようにしている。また、電流検出用抵抗12は、その発生電圧をHIDランプ5に流れる電流(ランプ電流)を示す検出信号としてコントローラ7に与えるようにしている。また、抵抗28とコンデンサ29の直列回路により構成される起動補助回路は、その両端に、直流昇圧回路3の出力電圧が電流検出用抵抗12を介して印加されるようになっている。補足すると、HIDランプ5には、25kV程度の起動用高圧パルスが印加されるため、そのHIDランプ5のランプ電圧を直接的に検出することは回路的に難しい。また、起動用高圧パルスの印加時以外では、インバータ回路4の半導体スイッチ素子4a〜4dのON抵抗などに起因する若干の誤差はあるものの、直流昇圧回路3の出力電圧は、HIDランプ5のランプ電圧と概ね同等となる。そのため、電圧検出用分圧抵抗10,11による検出信号(直流昇圧回路3の出力電圧に比例した電圧信号)が、HIDランプ5のランプ電圧の検出信号として使用される。
【0035】
以上が、本実施形態の放電灯点灯装置1の回路構成である。
【0036】
上記構成の放電灯点灯装置1によるHIDランプ5の動作制御は、次のように行われる。
【0037】
まず、直流昇圧回路3に直流電源2から直流電圧(例えば約12V)を入力した状態で、コントローラ7により、インバータ回路4の半導体スイッチ素子4a,4dの組をON状態に制御し、且つ半導体スイッチ素子4b,4cの組をOFF状態に制御する。さらに、コントローラ7により直流昇圧回路3のスイッチ素子15をPWM制御し、直流昇圧回路3の出力電圧を最大の400V程度まで昇圧する。このとき、直流昇圧回路3の出力電圧がインバータ回路4を介してHIDランプ104に印加される。
【0038】
この期間において、起動補助回路のコンデンサ27が充電され、さらに、起動回路6のコンデンサ24が充電される。そして、起動回路6のコンデンサ24の充電電圧がブレークダウンスイッチ素子26のブレークダウン電圧に達すると、ブレークダウンスイッチ素子26が導通し、コンデンサ24の充電電荷が、瞬時的に起動用トランス25aの1次巻き線25aを通って放電する。この時、起動用トランス25の2次巻き線25bに波高値が25kV程度の起動用高圧パルスが励起され、その起動用高圧パルスが、直流昇圧回路3からインバータ回路4を介してHIDランプ5に印加されている直流電圧(400V程度)に重畳されてHIDランプ5の両端子部29a,29bに印加される。
【0039】
これによりHIDランプ5の放電・点灯が開始する。このHIDランプ5の放電・点灯の開始時において、HIDランプ5には、直流昇圧回路3の平滑用コンデンサ18からインバータ回路4を介して該HIDランプ5の放電開始時の突入電流が供給されると同時に、起動補助回路のコンデンサ27からもインバータ回路4を介してHIDランプ5に突入電流が供給される。すなわち、起動補助回路8のコンデンサ27の充電電荷が、直流昇圧回路3の平滑用コンデンサ18とほぼ同時に、インバータ回路4を介してHIDランプ5に放電されることにより、HIDランプ5には、十分な突入電流が供給され、HIDランプ5の放電を支障なく開始することができる。
【0040】
HIDランプ5の起動直後は、その電極の温度が低く、HIDランプ5の放電が不安定になりやすい。そこで、HIDランプ5の電極を早急に昇温して、HIDランプ5の放電を安定化させるために、HIDランプ5の起動開始時から所定時間が経過するまでの期間(放電安定化期間)において、HIDランプ5の定常的な点灯時における交流点灯周波数(例えば400Hz)の周期よりも十分に長い所定時間(例えば10〜20ms程度)ずつ、正極性および負極性の直流電流を順次、HIDランプ5に流すようにインバータ回路4がコントローラ7により制御される。
【0041】
放電安定化期間の終了時には、HIDランプ5の電極は十分に昇温しているので、その後はHIDランプ5の交流点灯を行っても、HIDランプ5の立ち消えを生じることなく、放電・点灯を安定に行うことができる。そこで、前記放電安定化期間が終了すると、次に、インバータ回路4の半導体スイッチ素子4a,4dの組と、半導体スイッチ素子4b,4cの組との交互のON・OFFがコントローラ7により400Hz程度の周波数で制御される。これによりHIDランプ5の交流点灯が開始される。
【0042】
この交流点灯では、電圧検出用分圧抵抗10,11を介して検出されるランプ電圧に応じてランプ電流またはランプ電力の目標値が設定され、電流検出用抵抗12を介して検出されるランプ電流、あるいは、そのランプ電流の検出値とランプ電圧の検出値とから把握されるランプ電力が、それらの目標値になるように直流昇圧回路3の出力がコントローラ7によりスイッチ素子15を介してフィードバック制御される。
【0043】
以上が、放電灯点灯装置1によるHIDランプ5の動作制御である。
【0044】
次に、本実施形態の放電灯点灯装置1の回路定数などの設定方法について説明する。
【0045】
直流昇圧回路3の平滑用コンデンサ18は、直流昇圧回路3の出力端子19a,19b間の出力電圧を平滑化するためのものであるが、HIDランプ5の放電・点灯を開始した後、HIDランプ5の点灯を安定に行うためには、ランプ電圧やランプ電流にある程度のリップル成分(高周波成分)が必要である。このため、そのようなリップル成分を有するランプ電流を直流昇圧回路3からインバータ回路4を介してHIDランプ5に通電させることができるように、直流昇圧回路3の平滑用コンデンサ18の容量値が設定される。
【0046】
ここで、インバータ回路4を介して、HIDランプ5に印加される交流出力には、リップル成分の周波数帯域(数10kHz〜数100kHz)の周辺に高調波ノイズによるスパイク状の連続スペクトル存在する。
【0047】
図2(a)は、平滑用コンデンサ18の容量値が、例えば0.47μFであって、リップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズが、リップルのピーク値強度よりも大きい場合のランプ電流の周波数スペクトルを示した図である。ここで、横軸は周波数kHz、縦軸は強度dBを表している。この場合、リップル周波数は306kHzであり、その周辺には(図中、50kHz〜550kHzの全体に亘って)、リップルのピーク値強度を上回るピーク値強度を有する高調波ノイズが存在している。
【0048】
図2(b)は、図2(a)のランプ電流の波形を示した図である。図2(b)は、横軸が時間tmsであり、縦軸がランプ電流ImAとなっている。この場合(高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値強度よりも大きい場合)には、交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わりの際(ゼロクロス)に、ランプ電流が一時的に0になっており、立ち消えが頻繁に発生する。また、切り替わりの際に、ランプ電流がオーバーシュートしており、ランプ電流及びランプ電圧が不安定である。
【0049】
図3(a)は、平滑用コンデンサ18の容量値が、例えば0.22μFであって、リップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズが、リップルのピーク値強度と同程度の場合のランプ電流の周波数スペクトルを示した図である。この場合、リップル周波数は304kHzであり、その周辺には(図中、50kHz〜550kHzの全体に亘って)、リップルのピーク値強度と同程度のピーク値強度を有する高調波ノイズが存在している。
【0050】
図3(b)は、図3(a)のランプ電流の波形を示した図である。この場合(高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値と同程度の場合)には、立ち消えが稀に発生すると共に、切り替わり(ゼロクロス)の際にランプ電流がオーバーシュートしており、ランプ電流及びランプ電圧も不安定である。
【0051】
図4(a)は、平滑用コンデンサ18の容量値が、例えば0.10μFであって、リップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズが、リップルのピーク値強度よりも小さい場合のランプ電流の周波数スペクトルを示した図である。この場合、リップル周波数は304kHzであり、その周辺には(図中、50kHz〜550kHzの全体に亘って)、リップルのピーク値強度を下回る(ΔdBは約5dB程度)ピーク値強度を有する高調波ノイズが存在している。
【0052】
図4(b)は、図4(a)のランプ電流の波形を示した図である。この場合(高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値強度よりも小さい場合)は、交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わりの際に、ランプ電流が一時的に0になって、立ち消えが頻繁に発生することはない。また、切り替わり(ゼロクロス)の際に、ランプ電流がオーバーシュートすることもなく、ランプ電流及びランプ電圧も安定である。
【0053】
本発明者は、各種実験及び検討により、リップルのピーク値強度と高調波ノイズのピーク値強度に着目し、リップルのピーク値強度が高調波ノイズのピーク値強度を約5dB程度上回っていれば、音響共鳴現象を起こし難いことを見出し、平滑用コンデンサ18の容量値を0.1μF以下とした。尚、平滑用コンデンサ18の容量を小さくすると、直流昇圧回路3の出力電圧及び出力電流にノイズ成分が増加する傾向がある。そのため、本実施形態では、平滑用コンデンサ18の容量値は、0.1μFとした。
【0054】
次に、起動用トランス25の2次巻き線25bのインダクタンスについて説明する。上述のように、起動用トランス25は、起動用高圧パルスの波高値が25kV程度になるように、1次巻き線25aの巻き数と、これに対する2次巻き線25bの巻き数との比が決定されるが、本発明者は、2次巻き線25bのインダクタンスに着目し、これをノイズに対するフィルタとして用いることについて各種実験を行い、検討した。
【0055】
図5(a)は、例えば、平滑用コンデンサ18の容量値が0.47μFで、2次巻き線25bのインダクタンスが0.4mHであって、リップル及びリップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズを除去した場合のランプ電流の周波数スペクトルを示した図である。この場合、リップル周波数は304kHzであるが、その周辺に存在する高調波ノイズと共にそのリップル成分は完全に平滑化されている。
【0056】
図5(b)は、図5(a)のランプ電流の波形を示した図である。この場合(リップル成分がその周辺に存在する高調波ノイズと共に完全に平滑化されている場合)には、交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わり(ゼロクロス)の際に、ランプ電流が一時的に0になって部分が存在し、立ち消えが発生する。また、切り替わりの際に、ランプ電流がオーバーシュートしており、ランプ電流及びランプ電圧も不安定である。
【0057】
図6(a)は、例えば、平滑用コンデンサ18の容量値が0.10μFで、2次巻き線25bのインダクタンスが1mHであって、リップル及びリップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズを減衰させた場合のランプ電流の周波数スペクトルを示した図である。この場合、リップル周波数は305kHzであり、その周辺から高周波側のリップルのピーク値強度を下回る(ΔdBは約5dB程度)ピーク値強度を有する高調波ノイズが存在しているが、リップル周波数周辺から高周波側のリップル及びノイズ成分が減衰されている(リップル成分は完全に平滑されていない)。
【0058】
図6(b)は、図6(a)のランプ電流の波形を示した図である。この場合(リップル及びリップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズを減衰させた場合)には、交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わり(ゼロクロス)の際に、ランプ電流が一時的に0になって、立ち消えが頻繁に発生することはない。また、切り替わりの際に、ランプ電流がオーバーシュートすることもなく、ランプ電流及びランプ電圧も安定である。
【0059】
本発明者の各種実験、検討によれば、平滑用コンデンサ18の容量を小さくすることによって増加傾向となるノイズ成分を、リップル成分強度の優位性が保たれる範囲で、2次巻き線25bにより減衰させることで、音響共鳴現象を起こし難いことを知見した。ここで、2次巻き線25bのインダクタンスを大きくし過ぎると、リップル成分の減衰が大きくなる。また、インダクタンス成分により交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わり(ゼロクロス点)での電流の上昇が緩慢になる。そこで、2次巻き線25bのインダクタンスは、0.5mH以上約3mH未満であることが望ましい。特に本実施形態では、リップル成分強度の優位性を重視し、1.0mHとした。
【0060】
また、本発明者の検討によれば、交流出力におけるランプ電流及びランプ電圧の切り替わり(ゼロクロス点)後のランプ電流の上昇率が、1μsec当たりランプ電流の増加が20mA以上であれば、ゼロクロス点でランプ電流が一時的に0になることがなく、HIDランプ5の交流点灯における再点弧の動作に問題がないことを知見した。
【0061】
このように、本実施形態の放電灯点灯装置1によれば、リップルのピーク値強度と高調波ノイズのピーク値強度から、直流昇圧回路3の平滑用コンデンサ18の容量値及び起動回路6における起動用トランス25の2次巻き線25bのインダクタンスを適正値に設定することで、装置構成に大きな変更を加えることなく、ノイズ成分による音響共鳴現象を抑えて、放電灯を安定的に点灯させることができる。
【0062】
尚、図1に示す本実施形態の構成では、起動用トランス25の2次巻き線25bのインダクタンスに着目し、これをノイズに対するインダクタとして用いたが、これに限定されるものではない。例えば、図7に示すように、インバータ回路4の出力端子21aと起動用トランス25の2次巻き線25bとの間に、インダクタ30を追加してもよい。
【0063】
この場合、起動用トランス25の2次巻き線25bをフィルタとして用いることに替えて、又はフィルタとして用いることに加えて、インダクタ30をフィルタとして用いることができる。いずれの場合にも、起動用トランス25の2次巻き線25bのインダクタンスと、インダクタ30のインダクタンスの総和が、上述の0.5mH以上、望ましくは、1.0mHとすることで、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0064】
特に、インダクタ30を追加した構成とした場合には、装置構成の変更や回路構成の変更が事後的に生じた場合に、リップル周波数やノイズの存在する帯域に応じた最適なインダクタを選択して適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態の放電灯点灯装置の回路構成を示す図。
【図2】図2(a)は、高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値強度よりも大きい場合におけるランプ電流の周波数スペクトルを示した図、図2(b)は、図2(a)のランプ電流の波形を示した図。
【図3】図3(a)は、高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値と同程度の場合におけるランプ電流の周波数スペクトルを示した図、図3(b)は、図3(a)のランプ電流の波形を示した図。
【図4】図4(a)は、高調波ノイズのピーク値強度がリップルのピーク値強度よりも小さい場合におけるランプ電流の周波数スペクトルを示した図、図4(b)は、図4(a)のランプ電流の波形を示した図。
【図5】図5(a)は、リップル成分がその周辺に存在する高調波ノイズと共に完全に平滑化されている場合におけるランプ電流の周波数スペクトルを示した図、図5(b)は、図5(a)のランプ電流の波形を示した図。
【図6】図6(a)は、リップル及びリップル周波数の周辺に存在する高調波ノイズを減衰させた場合におけるランプ電流の周波数スペクトルを示した図、図6(b)は、図6(a)のランプ電流の波形を示した図。
【図7】図1の放電灯点灯装置の回路構成を一部変更した例を示す図。
【図8】従来の放電灯点灯装置の回路構成の例を示す図。
【符号の説明】
【0066】
1…放電灯点灯装置、2…直流電源、3…直流昇圧回路、4…インバータ回路、5…放電灯(HIDランプ)、6…起動回路、10,11…電圧検出用分圧抵抗、12…電流検出用抵抗、14…昇圧トランス、14a…昇圧トランスの1次巻き線、14b…昇圧トランスの第1の2次巻き線、15…スイッチ素子、16…整流用ダイオード、18…平滑用コンデンサ、22…整流用ダイオード、23…充電用抵抗、24…起動用コンデンサ、25…起動用トランス、25a…起動用トランスの1次巻き線、25b…起動用トランスの2次巻き線、26…ブレークダウン素子、27…起動補助回路のコンデンサ、28…充電用抵抗、30…インダクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から入力される直流電圧を昇圧する直流昇圧回路と、該直流昇圧回路の出力を交流に変換して放電灯に入力するインバータ回路と、前記放電灯の点灯を開始するための起動用高圧パルスを該放電灯に印加する起動回路とを備える放電灯点灯装置において、
前記直流昇圧回路は、前記直流電源に直列にスイッチ素子と昇圧トランスの1次巻き線が接続され、該昇圧トランスの2次巻き線の出力端子間に平滑用コンデンサが接続されてなり、
前記スイッチ素子を所定の周期で切り替えることにより、前記インバータ回路で生成される交流出力にリップルを重畳させ、
前記リップルのピーク値強度が前記交流出力に存在するリップル周波数帯におけるノイズのピーク値強度よりも大きくなるように、前記平滑用コンデンサの容量値が設定されることを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
請求項1記載の放電灯点灯装置において、
前記起動回路は、前記インバータ回路の出力端子間にコンデンサが接続され、該コンデンサの両端にブレークダウン素子と起動用トランスの1次巻き線が接続され、該起動用トランスの2次巻き線が前記インバータ回路の出力端子間に前記放電灯と共に直列に接続されてなり、
前記ノイズのピーク値強度が小さくなるように、前記起動用トランスの2次巻き線のインダクタンスが設定されることを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の放電灯点灯装置において、
前記インバータ回路と前記起動回路との間で、前記放電灯と直列に接続されるインダクタを備え、
前記ノイズのピーク値強度が小さくなるように、前記インダクタのインダクタンスが設定されることを特徴とする放電灯点灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−26548(P2009−26548A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187398(P2007−187398)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】