説明

散水システム

【課題】 水の使用量を抑えた効率的な散水システムを提供する。
【解決手段】 散水器から対象面(屋根、屋上、壁および/または壁面にかける簾など)に散水する散水システムであって、対象面の温度上昇度および/または表面抵抗率を指標として散水を制御する散水システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散水システムに関する。より詳細には、建物の外部である対象面へ効率的に散水することにより冷却するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災以降、快適性を保ちつつも電力消費量を減らす工夫が求められている。しかしながら、夏になると屋根、屋上や壁面は日中大量の太陽熱を蓄え、ひどい場合には60℃以上になることもある。その蓄積された熱が階下の部屋や熱された壁面に囲まれた部屋に放熱され続けると、冷房なしでは最上階の部屋の温度は日中40℃前後に、夜間は30℃以上になることもある。夏は電力の需要が一年の中で最も高く、予想される電力不足下では大量の電力に頼らない冷涼化が必要になるだろうと考えられる。そこで、日本で旧来から行われている打ち水(散水)が有用である(非特許文献1)。
【0003】
しかし、屋根への散水を安易に至るところで行うと、水を大量に使用することとなり、その結果水不足を引き起こす可能性がある。そこで、水消費を最小に抑えつつ散水の効果を発揮できる方法の開発が望まれている。
【0004】
これまで、屋根散水冷却システムを採用することにより、その気化潜熱で屋根面を冷却し、屋内空間の温度上昇を抑制する技術が報告されている(特許文献1および2)。
【0005】
特許文献1は、大きな揚水力および大量の水が必要とされていたという問題点を解決するために、屋上を複数のパーティションに分けて、そのパーティションごとに順番に散水するシステムを開示する。
【0006】
特許文献2は、面倒な手動設定の散水を自動化すべく、また高額な電磁弁を用いない屋根など散水冷却装置を開示する。特許文献2では外気温に応じて自動的に散水パターンを決定する旨記載されている。具体的には、温度に応じて4種類のインターバル長の値(標準モード/ビジーモード/超ビジーモード/最超ビジーモード)を決定し、それに従ってポンプが作動し、給水タンクから散水器への送水が実行され、散水されるように構成されている。
【0007】
さらには、非特許文献2は、外気温に応じ散水および休止時間を制御する全自動屋根散水冷却装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4156139号公報
【特許文献2】特開2011−1804号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー「打ち水による電力不足緩和について」
【非特許文献2】カーネル株式会社ウェブサイト(http://www.kernel-k.co.jp/yanecool.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には複数のパーティションごとに順番に散水することしか記載されていない。また、特許文献2には温度に応じて散水の間隔を設定することしか記載されておらず、散水パターンについての検討が十分になされているとは言えない。なぜなら、温度以外にも日射量、風量、天候(例えば、温度が高くても雨天であれば散水する必要がない)、湿度などの要因により散水の必要性は変わりうるものである。屋根全面を常時濡らしておくことにより、最大の打ち水効果は期待できるが、過剰量の水を用いると、温度低下に寄与しない水は屋根より下に流れるため、水資源の無駄となり、さらに過度に地面を濡らす可能性もある。余剰水をタンクに集めて循環利用する方法もあるが、ポンプや濾過装置などの設備を必要とする。非特許文献2は外気温に着目しているものの、散水が行われる対象面の諸条件に必ずしも合致したものとはいえない。そこで、本発明者は、打ち水効果をさらに高めるため、必要な時に散水するための手段を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、屋根などの対象面が乾燥する時点に着目し、散水を効果的に行うシステムを開発し、本発明を完成した。詳細には、本発明者は、屋上に散布した水が完全に乾きつくす時点において温度や水の電気抵抗が急上昇することに注目し、その時点を目安として水を散布することが効率的に屋根温度や壁面温度、ひいては屋根直下の部屋や壁面に囲まれた部屋の温度を効果的に低下させることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明は、以下の〔1〕〜〔5〕からなる。
【0012】
本発明〔1〕は、
散水器から対象面である屋根、屋上、壁および/または壁面にかける簾に散水する散水システムであって、
対象面の温度を連続的または断続的に検知する検知手段と、
弁が開放することによって対象面上に散水する散水手段と、
検知手段によって検知された温度のうちの最低温度と、最低温度検知後の時点において連続的または断続的に最低温度からの温度上昇度が設定値以上であるか否かを判定し、設定値以上であると判定した場合には弁を開放する制御を実行する一方、設定値未満であると判定した場合には弁を開放する制御を実行しない散水制御手段と
を有する散水システムに関する。
【0013】
本発明〔2〕は、散水制御手段は、前記温度上昇度が設定値以上であると判定した場合、弁の開放時間を延長して散水量を増加させる、前記〔1〕の散水システムに関する。
【0014】
本発明〔3〕は、散水制御手段が、弁を開放する制御を実行した後、設定時間経過時において対象面の温度が設定値以上であるときに弁を再度開放する制御を実行する、請求項1または2記載の散水システムに関する。
【0015】
本発明〔4〕は、
散水器から対象面である屋根、屋上、壁および/または路面あるいは壁面にかける簾に散水する散水システムであって、
対象面の表面抵抗率を連続的または断続的に検知する検知手段と、
弁が開放することによって対象面上に散水する散水手段と、
検知手段によって検知された表面抵抗率が設定値以上であるか否かを判定し、設定値以上であると判定した場合には弁を開放する制御を実行する一方、設定値未満であると判定した場合には弁を開放する制御を実行しない散水制御手段と
を有する散水システムに関する。
【0016】
本発明〔5〕は、散水制御手段は、表面抵抗率が設定値以上であると判定した場合、弁の開放時間を延長して散水量を増加させる、前記〔4〕の散水システムに関する。
【0017】
このように、本発明は、対象面(屋根、屋上、壁面および/または路面)に散布した水が蒸発して乾燥したと判定した時点で散水するシステムに関する。このような構成により、効率的に散水できるため、対象面である屋根や壁面、ひいてはその下部または内部の部屋の温度を必要最小限の水量で効果的に下げることができる。乾燥状態の判定は、温度測定および/または表面電気抵抗の測定による。散水して水が蒸発し尽くすと、気化熱による吸熱がないため表面温度は濡れている場合と比べて急上昇する。また、電気伝導性がある水膜の連続が絶たれるため電気抵抗値が急上昇する。この時点を経時的に検知することにより、乾燥状態を判定し、散水を効果的に行う。
【0018】
本発明においては、表面抵抗率、温度上昇度のいずれの測定対象を用いることも好ましいが、両者を組み合わせる態様がより好ましい。屋根が対象面である場合、金属屋根のように電気伝導度が高い素材だと、表面抵抗率で表面の乾燥状態を把握することが必ずしもできない。また、陸屋根であってもウレタンやFRP防水の場合、表面が濡れていても散水した水は水滴となり水膜を形成しないため電気伝導の連続性がないので、表面抵抗率を用いて乾燥状態を判定するのは必ずしも可能ではない。このような場合は、温度上昇度を用いて乾燥状態を判定する。なお、金属屋根のような電気抵抗が低い素材の場合、測定箇所に電気抵抗が大きい塗料を散布した後で、親水性塗料を散布すると、表面抵抗率及び温度測定が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明〔1〕および〔4〕により、温度上昇度や表面抵抗率により対象面が乾燥状態であることを検知した場合に散水を行うよう構成されているので、少ない散水量で冷却作用を継続することができる。打ち水効果により、真夏であっても高い電気代のかかる冷房を高出力で用いなくても、屋上直下階は非常に涼しくなる。夜間の就寝時は特に涼しくなる。
【0020】
本発明〔2〕および〔5〕により、乾燥速度が高い場合には散水量を増加させるよう構成されているため、次の散水時までに対象面の温度上昇を抑制することができる。
【0021】
本発明〔3〕により、温度が下がり続けていても、依然として温度自身が高い場合においては、任意の間隔をおいて間断的に散水することにより、無用の温度上昇を防ぐことができる。
【0022】
具体的な効果例を挙げる。まず、温度上昇度や表面抵抗率を指標として自動制御しながら散水するので使用水量は最大約6L/日・m2程度であり、水の過剰な使用を防ぐことができる。その結果、上下水道にかかる料金は少額ですむ。また、条件が整えば、無料の雑用水や井戸水を使うことができる。
【0023】
また、対象面からの輻射熱が減るため、建物の周囲の温度を下げ、その結果歩行者の熱中症などの軽減に寄与することができる。例えば、学校、役所、病院、工場などの建物に特に有用である。さらに、コスト的にも安く済み、例えば、同様の効果を得る屋上緑化と比べると、およそ10分の1以下の費用で施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシステムの模式図を表す。
【図2】本発明の機能ブロック図を表す。
【図3】本発明の第一態様での処理例を表す。
【図4】本発明の第二態様での処理例を表す。
【図5】本発明の第三態様での処理例を表す。
【図6】本発明の第四態様での処理例を表す。
【図7】本発明の第五態様での処理例を表す。
【図8】本発明の電気抵抗測定装置が屋根に装着された状態の模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
≪温度上昇度≫
散水後、屋根などの対象面が水で湿っている時にはその温度上昇が緩やかであるが、水が乾いた後は温度上昇が急になる傾向がある。それは、水が水蒸気へと気化する時点で熱を潜熱として蓄積することにより、屋根から熱を奪う一方で、水が蒸発し尽くし乾燥状態になると熱が屋根に蓄えられ、日射しが強い場合においては屋根の温度が短時間に上昇するからである。本発明の一態様では、対象面が乾燥していることを判定するために一旦散水により低下して得られた最低温度からの温度上昇度を測定することによって乾燥状態を判定する。
【0026】
≪表面抵抗率≫
散水後、絶縁体を素材とする屋根などの対象面が水で湿っている時には電気抵抗が低いが、水が乾くと電気抵抗が著しく高くなる傾向がある。それは、水が乾くことにより、測定にもちいられる電極間の水膜が水滴や完全に乾燥した対象面となり、その電極間においては通電しなくなるからである。本発明の一態様では、対象面の表面抵抗率(ここでは、単位面積あたりの電気抵抗値)を測定することによって乾燥状態を判定する。
【0027】
≪システムの全部の構成≫
以下、図1を参照して本発明の構成について説明する。本発明の散水システム1は、大別して、対象面Aに対して散水する散水系(散水器)と、対象面Aにおける温度や電気抵抗値を計測するセンサ系と、当該システムの制御を司る制御系と、電源系と、からなる。以下、これら系を詳述する。
【0028】
{散水系}
まず、散水系は、配管(例えばホース)11と、配管11に設けられた散水口11aと、配管11に取り付けられている弁12と、ポンプ13と、給水タンク14と、から構成される。なお、本例では理解の容易上、一組の散水系のみ例示したが、複数の散水系(具体的には、弁が取り付けられた複数の散水管が対象面の異なる箇所に配置されている態様など)が存在していてもよい。散水口としては、株式会社カクダイ、共立金属工業株式会社などから市販されている散水ノズルなどが好適に用いられる。
【0029】
(給水タンク)
給水タンク14には、水が貯められており、そこから配管11を介して、散水口11aから散水される。本態様においては給水タンク14は水源に接続されているが、接続されていなくてもよい。自動で水が追加されていてもよいし、手動で水が追加される態様であってもよい。上水道へ直結の場合には給水タンクは不要である。
【0030】
(ポンプ)
ポンプ13は制御システム100からの指令に応じて、給水タンク14からの水を散水口11aより排出する。ポンプ13にはモーター保護ブレーカーが備えられている。本態様ではポンプ13は制御システム100と一体となっているが、制御システム100から独立していてもよい。上水道へ直結の場合にはポンプは不要である。
【0031】
(散水器)
散水口11aは、制御システム100と接続されており、対象面A上に設置される。好ましくは、散水口11aは散水ノズルまたは散水シャワーである。散水口11aの具体的構成は特に限定されるものではないが、例えば、噴霧状に散水するもの、噴水状に散水するもの、水を滴下するものなどが挙げられる。また、散水方向が固定されたものであってもよく、スプリンクラーのように散水方向が経時的に変化するものであってもよい。均一に散水するため、スプリンクラーのような態様が好ましい。散水器はどこに設置してもよいが、より広範囲に散水することができるよう、適宜配置することができる。例えば、対象面が尖端形状の屋根である場合、屋根の上部に設置することができる。また例えば、対象面が壁面の場合、壁の最も高い位置に散水することができる。
【0032】
(弁)
配管11には弁12が備えられ、制御システム100からの指令に応じて適宜開閉を行う。制御システム100が散水の指令を送れば電磁弁12が開き、散水停止の指令を送れば弁12が閉じる。弁は単に開閉のみが行われる構造のものであってもよいし、開度調整可能な構造のものであってもよい。複数の弁を有する場合、それらの弁を開放する具体的方法としては、弁を一つずつ開放するようにしてもよいし、二つ以上の適当な個数ずつ開放するようにしてもよい。弁としては、例えば、電磁弁(ソレノイド弁)、電動弁(モーター制御弁)などが好適に用いられる。
【0033】
{センサ系}
対象面Aに設置されたセンサ20は、対象面Aの温度を検知し、センサ21は電気抵抗値(表面抵抗率)を検知する。これらのセンサは必要に応じて、湿度、風速、日射量などを検知する構成であってもよい。ここではセンサと制御システム盤は独立しているが、センサ自身が情報を蓄積して演算する制御システム盤を有する構造であってもよい。
【0034】
{制御系}
制御系(制御システム100)は、CPUの他、プログラムを記録するROM、センサからの情報を一時記憶するRAMを備えている。ここで、また、制御システム100は、センサ20および21からの情報を入力可能であり、弁12の切換情報を弁に出力可能であると共に、電源系30から電源入力可能に構成されている。入出力形態は有線・無線を問わない。
【0035】
ここで、図2を参照しながら、当該制御系の機能を説明する。制御システム100は、当該制御を実行する上で必要な情報を一時記憶するための散水情報一時記憶手段101と、経過時間などを計測するためのタイマ102と、を有している。ここで、散水情報一時記憶手段101は、散水待機フラグなどの制御フラグのオン/オフ情報を管理するための制御フラグ管理手段101aと、散水間隔を一時記憶するための散水間隔一時記憶手段101b(散水間隔が一定の場合には、その都度ROMから読み出す構成でもよく、この場合には当該一時記憶手段は不要である)と、温度(または表面抵抗率)一時記憶手段101cと、散水すべき水量を一時記憶するための水量一時記憶手段101d(水量が一定の場合には、その都度ROMから読み出す構成でもよく、この場合には当該一時記憶手段は不要である)と、を有している。なお、温度(または表面抵抗率)一時記憶手段101cに一時記憶される情報は、温度(または表面抵抗率)そのものの値でも、対応するパラメータ値(例えば電圧値)でも、範囲を特定するID(例えば、ID1=0〜5℃、ID2=6〜10℃、ID3=11〜20℃・・・)でもよい。
【0036】
次に、図3〜図7を参照しながら、本形態での制御例を説明する。なお、散水の節水手法として、下記の複数態様(これらの任意の組み合わせも含む)を挙げることができる。
【0037】
第一態様〜第三態様は、温度上昇度を指標とした散水制御に関する。
<第一態様での処理例>
第一態様は、温度上昇度が最低温度から設定値に達したときに散水し、達していないときには散水しない、という態様である。図3は、第一態様での処理例である。まず、ステップ1001で、制御システム100は、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aを参照し、散水待機フラグがオフであるか否かを判定する。ステップ1001でYesの場合、すなわち散水待機フラグがオフである場合、ステップ1002で、制御システム100は、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aにおける散水待機フラグをオンにする。次に、ステップ1003で、制御システム100は、対象面の表面温度Tを測定する。次に、ステップ1004で、制御システム100は、今回の温度Taと前回の温度Tbを比較する(なお、1回目の温度測定の場合には、「前回の温度」というものが存在しないので、引き続き2回目の温度測定を行い、そこではじめて二つの温度を比較することとなる)。ステップ1006で、制御システム100は、散水情報一時記憶手段101の温度一時記憶手段101cを参照し、TaがTb以上である場合には、温度低下が止まったか温度上昇が始まったとして、Tbを最低温度として一次記憶する。その後、ステップ1007で、表面温度Tcの測定を行う。ステップ1008で、表面温度Tcから先の最低温度Tbを減じ、温度上昇度を演算する。よりも所定の値以上の温度上昇を示すかどうかを判定する。そして、ステップ1008で、制御システム100は、温度上昇度(Tc−Tb)が所定値(X)以上であるか否かを判定する。ステップ1008でYesの場合、すなわち、最低温度Tbと比べて対象面の温度が一定以上上昇したと判定した場合、ステップ1009で、制御システム100は、所定時間、弁12を開放する。そして、ステップ1010で、制御システム100は、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aを参照し、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aにおける散水待機フラグをオンにする。なお、ステップ1001でNoの場合にはステップ1003に移行し、ステップ1005でNoの場合には再びステップ1003を繰り返し、ステップ1008でNoの場合にはステップ1007に戻る。ここで、ステップ1003の表面温度Tやステップ1007の表面温度Tcの測定は、連続的または断続的に行われ、断続的である場合、測定間隔は特に限定されないが、10秒間〜30分間の任意の間隔で行われる(30秒おき、1分おき、2分おき、3分おき、5分おき、10分おき、20分おきなど、固定の間隔であってもよいし、季節、天候や時間帯に応じて可変であってもよい)。連続的に行われる場合は、連続的に温度情報がモニタされている。
【0038】
<第二態様での処理例>
第二態様は、最低温度からの温度上昇度が設定値以上であるときには、その程度に応じ、散水量を変化させる、という態様である。図4は、第二態様の処理例である。図3との相違点は、ステップ1008の後で実行されるステップ1009(1)の処理の存在である。最低温度Tbからの温度上昇度(Tb−Tc)が所定値(X)以上であると判定された場合、ステップ1009(1)で、所定時間よりも長い時間、弁12を開放する。延長の程度は、温度上昇度によって異なるが、例えば、温度上昇度が2℃以上の時は当初の所定時間の1.1〜1.4倍、1℃以上の時は1.05〜1.3倍などとすることができる。
【0039】
≪第三態様での処理例≫
第三態様は、第一態様を行った後で、前記のように温度上昇度が設定値に達しない場合や、温度が低下し続ける場合であっても、一定の時間経過後においての温度が設定値以上である場合には、温度上昇度に関係なく散水を行う態様である。図5は、第三態様の処理例である。図3との相違点は、ステップ1009でNoの場合であっても、表面温度Tdが依然として高い場合(設定値<Y℃>が例えば、35℃、40℃、または45℃以上など)においては、表面温度が一定を保っている場合や、上昇しない場合でもさらに散水を行う。具体的には、ステップ1009(2)において温度を測定し、ステップ1009(3)においてTdが一定値以上であるか否かを判定し、Yesである場合、すなわち設定値(Y℃)以上であると判定された場合にはステップ1009(4)で、第一態様のステップ1009と同様に所定の時間、弁を開いて散水する。ステップ1009(3)においてNoである場合には当該処理を終了する。
【0040】
これは、例えば、電気伝導性のよい金属を素材とする屋根(折板金属屋根など)などの場合、屋根表面自体の電気伝導度が低いため表面抵抗率を指標としては必ずしも乾燥状態を判定することができないからである。また、折板金属屋根のような素材は熱容量が少ないため、午前中のように日射量が増加傾向にある時間帯は温度上昇度で乾燥状態を判定できるが、午後のように日射量は減少傾向にある時には乾燥しても温度上昇度が少なくなるため乾燥状態の判定に適さなくなる。このような場合を考慮し時間を設定する。例えば、最後の散水後20分、40分、60分などといった長時間散水が行われないにもかかわらず対象面が高温を保っているときに有用である。
【0041】
第四態様および第五態様は、表面抵抗率を指標とした散水制御に関する。
<第四態様での処理例>
第四態様は、表面抵抗率(単位面積あたりの電気抵抗値)が設定値に達したときに散水し、表面抵抗率が設定値に達していないときには散水しない、という態様である。図6は、第四態様での処理例である。ステップ1001〜1002は第一態様と同様である。次に、ステップ1007(1)で、制御システム100は、対象面の単位面積あたりの電気抵抗値Ωを測定する。次に、ステップ1008(1)で、制御システム100は、前記電気抵抗値Ωが設定値以上の値を示すかどうかを判定する。そして、前記電気抵抗値Ωが設定値以上であると判定した場合、第一態様と同様に、ステップ1009で、制御システム100は、所定時間、弁12を開放し、続いてステップ1010で、制御システム100は、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aを参照し、散水情報一時記憶手段101の制御フラグ管理手段101aにおける散水待機フラグをオンにする。なお、ステップ1001でNoの場合にはステップ1007(1)に移行し、ステップ1008(1)でNoの場合には再びステップ1007(1)を繰り返す。ステップ1007の単位面積あたりの電気抵抗値の測定は連続的または断続的に行われ、断続的である場合、測定間隔は特に限定されないが、10秒間〜30分間の任意の間隔で行われる(30秒おき、1分おき、2分おき、3分おき、5分おき、10分おき、20分おきなど、固定の間隔であってもよいし、季節、天候や時間帯に応じて可変であってもよい)。
【0042】
<第五態様での処理例>
第五態様は、単位面積あたりの電気抵抗値が設定値以上であるときには、その程度に応じ、散水量を変化させる、という態様である。図7は、第五態様の処理例である。図6との相違点は、ステップ1008(1)の後で実行されるステップ1009(1)の処理の存在である。連続的または断続的に電気抵抗値を測定する中で、単位面積あたりの電気抵抗値が設定値に達したとき(設定値以上であると判定された場合)、ステップ1009(1)で、所定時間よりも長い時間、弁12を開放する。延長の程度は、電気抵抗値によって異なるが、例えば、例えば、単位面積あたりの電気抵抗値が10,000(104)Ω/sq以上の時は当初の所定時間の1.05〜1.4倍の時間、100,000(105)Ω/sq以上の時は1.1〜1.5倍の時間などとすることができる。
【0043】
(電源系)
電源系30は、制御システム100やポンプ13などに電源供給する。ここで、電源形態は特に限定されないが、停電しても電源供給されるべくバッテリ式としてもよい。なお、本形態では、制御システム100の外部周辺機器(弁12など)に対しては、制御システム100を介して電源供給されるがこれには限定されない。
【0044】
≪具体的条件≫
以下、温度、電気抵抗値などの具体的条件を例示する。
(温度)
温度は、温度計を屋根表面に設置した市販のサーミスターなどの温度センサによって測定することができる。同時にタイマも設置し、経時的温度変化に基づき温度上昇度(温度変化の差分)を測定することができる。散水を実行するにあたって、本発明の第一態様〜第三態様においては、予め設定された温度上昇度(X)が1℃以上、好ましくは2℃以上、より好ましくは3℃以上の時に散水されることができる。さらに、第三態様においては、温度上昇度(X)が前記に満たなくても、対象面の表面温度(Y)が28℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは32℃以上のときに散水することができる。また、本発明に加えて、対象面の表面温度の測定開始時点の温度が28℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは32℃以上のときに散水してもよい。
【0045】
(表面抵抗率)
表面抵抗率(単位面積あたりの電気抵抗値)は、絶縁体の抵抗率測定によって行われる。電気抵抗値の測定器(図1におけるセンサ21)の一例を図8に示す。図8において、センサ21は二つの電極からなり、一定の間隔をおいて配置されている。陽極は金属板210Aが導電性粘着剤212Aを介して屋根Aの表面に接続されており、陰極は金属板210Bが導電性粘着剤212Bを介して屋根Aの表面に接続されている。二つの電極間で絶縁抵抗計により電気抵抗を測定し、電極形状から表面抵抗率を求める。導電性粘着剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリイミド、ポリウレタン系樹脂などをバインダとし、銀、ニッケル、カーボンなどの導電性フィラーから構成されるものが好適に用いられる。
【0046】
表面抵抗率は、絶縁体(屋根面)表面に設置した電極間の表面抵抗率(単位面積あたりの電気抵抗値)を測定することにより求められる。一般的に電気抵抗は、絶縁抵抗計を用いて測定されるが、これは短絡事故を防止するために電動機器(例えば水中ポンプ)の電源ケーブルの各動力芯線間、および各動力芯線とアース間の絶縁抵抗を測定するためである。したがって、各線間に使用電圧(例えば、200V)より高い電圧(例えば、500〜1000V)を印加し、短絡事故が発生しないための十分大きな絶縁抵抗値(一般的には数十MΩ以上)があるかを測定するものである。一方、本発明では、電極間の電気の流れを調べるという目的から、低電圧を用いることが好ましい。数百ボルトという高電圧だと、人体に危険を及ぼすおそれがあるうえ、取り扱いやすさ、電力消費の観点からも適切ではない。本発明では例えば、屋根面に設置した二つの電極間に20Vの電圧を印加して電気抵抗を測定し、電極形状から表面抵抗率を求める。表面抵抗率が設定値以上であれば乾燥と判断し、設定値未満であれば湿潤と判断する。例えば、本発明の実施にあたってのコンクリート表面の抵抗値測定実験から、乾湿の判断は、条件によっても異なるが、表面抵抗率の設定値を、1,000〜100,000Ω/sq、好ましくは2,000〜20,000Ω/sq、より好ましくは3,000〜10,000Ω/sqの範囲の任意の点とすることができる。例えば、表面抵抗率の設定値を1,000Ω/sq、好ましくは3,000Ω/sq、より好ましくは20,000Ω/sqとし、それ以上であれば乾燥と決定することができる。
【0047】
(散水時間)
散水時間は供給水の水圧や弁の開閉度により適宜調節することができる。特に限定されないが、例えば、10秒間〜15分間、より好ましくは30秒間〜9分間、さらに好ましくは2分間〜8分間とすることができる。
【0048】
(間断時間)
間断時間は1回あたりの散水量、検知された対象面の温度上昇度や表面抵抗率、湿度、日射量、風速などの要因によって異なる。本発明において間断時間とは、1回の散水が終了した後、その次の散水が開始する時点までの間隔をいう。特に限定されないが、例えば、間断時間は5〜60分間の任意の時間とすることができる。温度が30℃以上のとき10〜36分間、温度が32.5℃のとき9〜31分間、温度が35℃以上のとき8〜27分間である。高温になるほど間断時間が短くなり、低温では散水間隔が長くなる。また、1回あたりの散水量が多いほど間断時間が長くなり、散水量が少ないほど間断時間が短くなり、散水の頻度が高くなる。例えば、1回あたりの散水量が350ml/m2の場合、15〜60分間、より好ましくは17〜50分間、さらに好ましくは20〜45分間である(例えば、30℃のとき36分間、32.5℃のとき31分間、35℃のとき27分間)。また例えば、1回あたりの散水量が100ml/m2の場合、30℃のとき5〜15分間、より好ましくは6〜14分間、さらに好ましくは7〜13分間である(例えば、10分間、32.5℃で9分間、35℃で8分間)。
【0049】
(散水量)
夏の日射条件における一日当たりの水の蒸発量はおよそ6,000ml/m2とされる。散水量は特に限定されないが、対象面が保持することができるか水量により、1回の散水手段あたり50〜500ml/m2の散水が好ましく、コンクリート面では100〜500ml/m2、スレート波形屋根では70〜400ml/m2で金属屋根では50〜100 ml/m2である。屋根面が乾燥すると、濡れている時よりも表面温度が上昇しやすい(コンクリート面やスレート波型屋根面は熱伝導度が低く、折板金属屋根面は金属が薄く熱容量が小さいため)。逆に、散水すると屋根面が濡れ、その結果、屋根面の表面温度が短時間で低下する。これは、水が蒸発するときに熱が気化熱として奪われるからである。しかしながら、過剰量の水を用いた場合、屋根面から過剰の水は流れ落ちる。この流れ落ちる水の量をできるだけ低く抑えるために、散水時間、散水量および散水間隔を制御する必要がある。
【0050】
(散水に供される水)
本散水システムの貯水タンクは任意に水源に接続され、散水に供される。散水に供される水は、清澄な水道水が好ましいが、井戸水、使用済みの風呂水、下水再生水、溜めた雨水などであってもよい。
【0051】
(風速)
なお、前記態様において、例えば、風速6m/秒以上、より好ましくは風速10m/秒以上の場合には、散水中に水が飛散しやすくなるので、散水指令が制御システム盤より行わないこともできる。風速計は、制御システム盤と接続されており、センサ近くに配してもよいし、制御システム盤近くに配してもよい。
【0052】
本発明によると、対象面は適切なタイミングで冷却され続け、蓄熱を防ぐことができるため、例えば、屋上直下の最上階の部屋は日中、夜間ともに非常に涼しくなり、冷却された壁面に囲まれた部屋内部も涼しくなる。食品倉庫のように室温を常に下げておかなければならない場合、冷房負荷が少なくなるため電力需要も少なくて済む。散水された水が蒸発時に大量の熱(水1Lの気化熱は約700W/hrである)を屋上から奪い、水蒸気が熱を上空へ持ち去るからである。
【0053】
散水の効果について、例えば、屋上緑化直下階は打ち水と同様に気化熱の作用により冷え、世田谷区の深沢環境共生住宅ではほとんど冷房なしで夏を快適に過ごしているとされ、また群馬県では気温37.5℃の日中、大量の熱を蓄熱し60℃になった路面に少量の散水をしたところ45℃に低下したとされる。愛知豊明花き市場では、屋根直下階の室温は約4℃低下している。三井住友建設によると常時濡らし続けた屋根面は乾燥した屋根と比べ14〜24℃屋根温度が低く、室温は2.4〜3.6℃低くなり、直下階に伝達される日射量は78〜90W/m2削減した。中部電力土木建築部建築設備・エネルギーGによると、断熱したRC造であっても、屋上直下階の室温は、散水した部屋では昼間、夜間を問わず散水を行わなかった部屋よりも4〜5℃低かったとのことである。昼のみならず夜間も室温が低い理由は、熱容量が大きいコンクリート屋根に蓄熱した熱が夜間も放熱され続けるためである。以上より、本発明はCO2削減と高騰必至の冷房コスト削減の切り札となりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散水器から対象面である屋根、屋上、壁および/または壁面にかける簾に散水する散水システムであって、
対象面の温度を連続的または断続的に検知する検知手段と、
弁が開放することによって対象面上に散水する散水手段と、
検知手段によって検知された温度のうちの最低温度と、最低温度検知後の時点において連続的または断続的に最低温度からの温度上昇度が設定値以上であるか否かを判定し、設定値以上であると判定した場合には弁を開放する制御を実行する一方、設定値未満であると判定した場合には弁を開放する制御を実行しない散水制御手段と
を有する散水システム。
【請求項2】
散水制御手段は、前記温度上昇度が設定値以上であると判定した場合、弁の開放時間を延長して散水量を増加させる、請求項1記載の散水システム。
【請求項3】
散水制御手段が、弁を開放する制御を実行した後、設定時間経過時において対象面の温度が設定値以上であるときに弁を再度開放する制御を実行する、請求項1または2記載の散水システム。
【請求項4】
散水器から対象面である屋根、屋上、壁および/または路面あるいは壁面にかける簾に散水する散水システムであって、
対象面の表面抵抗率を連続的または断続的に検知する検知手段と、
弁が開放することによって対象面上に散水する散水手段と、
検知手段によって検知された表面抵抗率が設定値以上であるか否かを判定し、設定値以上であると判定した場合には弁を開放する制御を実行する一方、設定値未満であると判定した場合には弁を開放する制御を実行しない散水制御手段と
を有する散水システム。
【請求項5】
散水制御手段は、表面抵抗率が設定値以上であると判定した場合、弁の開放時間を延長して散水量を増加させる、請求項4記載の散水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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