説明

整流子の製造方法

【課題】容易に製造することができるとともに、整流子片が絶縁体から剥離し難い構造とすることができ、更に真円度を容易に高くすることができる整流子の製造方法を提供する。
【解決手段】凸部11を有する板材Tを円筒形状にする丸め工程と、充填した樹脂の硬化後、アンダーカット予定部Aを切削する整流子形成工程とを有する。そして、丸め工程の前に、円弧凹部20aが凸部11毎に対応して並設されたダイ20に板材Tを当接させ分割パンチ21にてプレスすることで凸部11に分割溝12を形成するとともに、凸部11を分割した一対の分割凸部9とし、更に板材Tの平面側を円弧凸部Tbが複数並設された形状とする凸部分割工程と、その後、斜め溝形成パンチにてプレスすることで分割凸部9に平行方向に対して傾斜した斜め溝を形成するとともに、斜め溝を形成することで同時に分割凸部の凸設方向の直交方向に突出する突出部を形成する突出部形成工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、整流子(コンミテータ)は、樹脂からなる略円筒形状の絶縁体と、その絶縁体の外周に周方向に複数配設される整流子片(整流子セグメント)とを備える。この整流子の製造方法としては、整流子形成用板材を円筒形状に丸め、その内周側に液体状態の樹脂を充填し、その樹脂の硬化後、円筒形状の板材における所定間隔毎のアンダーカット予定部を切削する(等角度間隔に分割する)ことによって板材の分割された一つを整流子片とし、硬化した樹脂を絶縁体とする方法が一般的である。
【0003】
そして、この方法における整流子形成用板材としては、(軸方向に)平行に複数(整流子片の数と対応した数であって、例えば整流子片が1個につき1個や2個)並設された凸部を有し、その凸部を硬化した樹脂と係合させることで、各整流子片の絶縁体からの剥落を防止するものがある。
【0004】
又、このような整流子形成用板材を斜め溝形成パンチにてプレスすることで凸部に前記平行方向に対して傾斜した斜め溝を形成するとともに、該溝を形成することで同時に凸部の凸設方向の直交方向に突出する突出部を形成し、各整流子片の絶縁体からの剥落を更に低減するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3673151号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したような整流子では、1つの整流子片に2個の平行な(軸方向に沿った)凸部が設けられている方が、1つの整流子片に1個の凸部が設けられる場合より、樹脂と係合する箇所が増え、整流子片の保持力が高くなり、絶縁体から剥落し難くなる。
【0006】
しかしながら、特に整流子片が多数の整流子では、整流子片の周方向幅が小さくなることから、2個の凸部を周方向に並設することが困難であった。尚、詳しくは、前記整流子形成用板材を圧延加工にて成形する場合、並設される凸部同士の間隔を狭くすると、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうことになるため、結果的に周方向幅の小さい整流子片に2個の凸部を設けることが困難となっていた。
【0007】
又、上記した整流子形成用板材における前記凸部と対応した部分は、凸部同士の間の部分(単なる板の部分)に比べて分厚く湾曲し難いため、単に丸めるだけで円筒形状とされた板材の真円度は低くなってしまっていた。尚、このことは、最終的に整流子の外周面の真円度を高精度とする仕上げ切削加工工程での切削代を増大させ、ひいては仕上げ切削加工工程の長時間化や歩留まり低下等を招く原因となっていた。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、容易に製造することができるとともに、整流子片が絶縁体から剥離し難い構造とすることができ、更に真円度を容易に高くすることができる整流子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、平行に複数並設された凸部を有する板材を、前記凸部が内周側に配置されるように丸めて円筒形状にする丸め工程と、前記円筒形状の板材の内周側に絶縁材料としての液体状の樹脂を充填する充填工程と、前記樹脂の硬化後、前記円筒形状の板材における所定間隔毎のアンダーカット予定部を切削することで、該板材から整流子片を複数形成する整流子形成工程とを有する整流子の製造方法であって、少なくとも前記丸め工程の前に、整流子の外周と略対応した円弧凹部が前記凸部毎に対応して並設されたダイに前記板材の平面側を当接させて分割パンチにてプレスすることで前記凸部に前記平行方向に延びる分割溝を形成するとともに、前記凸部をそれらの並設方向に分割した一対の分割凸部とし、更に前記板材の平面側を前記円弧凹部に沿った円弧凸部が複数並設された形状とする凸部分割工程と、前記凸部分割工程の後であって少なくとも前記丸め工程の前に、斜め溝形成パンチにてプレスすることで前記分割凸部に前記平行方向に対して傾斜した斜め溝を形成するとともに、該斜め溝を形成することで同時に前記分割凸部の凸設方向の直交方向に突出する突出部を形成する突出部形成工程とを有する。
【0010】
同発明によれば、凸部分割工程では、分割パンチにてプレスすることで凸部に平行方向に延びる分割溝が形成されるとともに、その凸部がそれらの並設方向に分割された一対の分割凸部とされる。そして、突出部形成工程では、斜め溝形成パンチにてプレスすることで分割凸部に平行方向に対して傾斜した斜め溝が形成されるとともに、該斜め溝が形成されることで同時に分割凸部の凸設方向の直交方向に突出する突出部が形成される。このようにすると、板材に並設される凸部同士の間隔を狭くすることなく、1つの整流子片に周方向に一対の分割凸部を設けることができ、各分割凸部に形成される突出部にて整流子片の絶縁体に対する保持力を高くすることができる。即ち、例えば、整流子片の周方向幅が小さいものにおいても、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうといったことを回避しながら凸部を有する板材、ひいては整流子を容易に製造することができ、整流子片が絶縁体から剥離し難い構造とすることができる。
【0011】
しかも、凸部分割工程では、整流子の外周と略対応した円弧凹部が凸部毎に対応して並設されたダイに板材の平面側を当接させて分割パンチにてプレスすることで、板材の平面側が、円弧凹部に沿った円弧凸部が複数並設された形状とされる。このようにすると、分厚く単に丸めるだけでは湾曲し難い凸部に対応した部分が予め整流子の外周と略対応した円弧形状とされるため、後の丸め工程で円筒形状とされた板材の真円度を容易に高くすることができる。よって、例えば、最終的に整流子の外周面の真円度を高精度とする仕上げ切削加工工程での切削代を低減することができ、ひいては仕上げ切削加工工程の時間短縮や歩留まり向上等を図ることができる。尚、板材の平面側(凸部が形成されない側)を円弧凸部が複数並設された形状とする工程は、凸部を一対の分割凸部とする工程と同じ工程(凸部分割工程)であるため、工程数が増大してしまうこともない。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の整流子の製造方法において、前記突出部形成工程は、前記凸部分割工程の直後に前記ダイを用いて行う。
同発明によれば、突出部形成工程は、凸部分割工程の直後に前記ダイを用いて行われるため、凸部分割工程で形成された円弧凸部の形状を保ったまま、良好且つ容易に突出部を形成する(突出部形成工程を行う)ことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の整流子の製造方法において、前記板材を圧延加工にて成形する圧延加工工程を備えた。
同発明によれば、圧延加工工程では、前記板材が圧延加工にて成形される。この場合、並設される凸部同士の間隔を狭くすると、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうことになるが、圧延加工工程では、1つの整流子片に対応して1つの凸部を形成するだけでよいので、凸部同士の間隔を確保することができ、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうことを回避することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の整流子の製造方法において、前記凸部分割工程では、前記凸部の前記並設方向における中間部に分割溝を形成するとともに、前記凸部を均等に分割した一対の分割凸部とする。
【0015】
同発明によれば、凸部分割工程では、凸部の並設方向における中間部に分割溝が形成されるとともに、凸部が均等に分割された一対の分割凸部とされるため、整流子片の絶縁体に対する保持力を整流子片の周方向の両方で均等とすることができる。よって、整流子片の周方向の一方のみが絶縁体から剥落し易くなるといったことを防止することができ、バランス良く剥離を防止することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の整流子の製造方法において、前記突出部形成工程の後に、潰しパンチにてプレスすることで一対の前記分割凸部の互いに向かい合う側の前記突出部を更に突出させる潰し工程を備えた。
【0017】
同発明によれば、潰し工程では、潰しパンチにてプレスすることで一対の分割凸部の互いに向かい合う側の突出部が更に突出されるため、該突出部が絶縁体と係合する面積が増え、整流子片の絶縁体に対する保持力を更に高くすることができる。尚、周方向に隣り合う整流子片における突出部同士が互いに近づく方向に更に突出されると、それらが短絡してしまう虞が生じるが、この虞はない。即ち、整流子片同士の短絡の虞を回避しながら、整流子片が絶縁体から更に剥離し難い構造とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、容易に製造することができるとともに、整流子片が絶縁体から剥離し難い構造とすることができ、更に真円度を容易に高くすることができる整流子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1〜図8に従って説明する。
図1は、モータの要部断面図である。モータのモータハウジング1には、回転軸2が回転可能に支持され、その回転軸2には整流子(コンミテータ)3及び巻線4aが巻着された電機子コア4が固定されている。モータハウジング1には、電機子コア4と対向するようにマグネット5が固定され、整流子3と押圧接触される給電用ブラシ6が保持されている。
【0020】
図2に示すように、整流子3は、樹脂からなる略円筒形状の絶縁体7と、その絶縁体7の外周側に周方向に複数配設される整流子片8とを備える。尚、本実施の形態の整流子片8は、絶縁体7の外周に等角度間隔に18個配設されている。
【0021】
各整流子片8は、略円筒形状を所定角度で一部分切り取った形状に形成されている。又、整流子片8の絶縁体7に固定される側の面(以下、内周面という)には、板厚方向に突出し絶縁体7に埋設される一対の分割凸部9が周方向に並設されている。又、整流子片8の軸方向の一端における周方向中央には、径方向外側に折り返された整流子ライザ(結線爪)8aが形成され、その整流子ライザ8aには、前記巻線4aが係止されることになる。
【0022】
1つの整流子片8における一対の前記分割凸部9は、図5及び図7に示すように、元々1つの凸部11(図4(a)参照)に分割溝12が形成されることで一対に分割されてなり、その後、分割凸部9に斜め溝13a,13b(図7参照)が形成されることで同時に分割凸部9の凸設方向の直交方向に突出形成された突出部14を有する。尚、図5は、後に分割凸部9が内周側に配置されるように丸められて円筒形状とされ、等角度間隔毎(一対の分割凸部9毎)のアンダーカット予定部A(図5中、2点鎖線で示す)が切削される(等角度間隔に分割される)ことで整流子片8を構成する整流子形成用板材(板材T)を軸方向から見た模式図である。又、図7は、分割凸部9をその凸設方向の上方(整流子3の径方向内側)から見た模式図であって、突出部14の基端部、即ち、突出部14が形成される前の分割凸部9の側壁を2点鎖線で図示している。言い換えると、図7中、前記2点鎖線より突出した部分が突出部14である。又、本実施の形態における一対の分割凸部9のアンダーカット予定部A側の基端部には、前記凸部11(図4(a)参照)の時点で形成されていた軸方向から見て(整流子3の)周方向に広がる拡幅部15が形成されている。又、一対の分割凸部9の間の形状は、前記分割溝12の形状に応じて決まり、本実施の形態では、軸方向から見て分割凸部9の基端側に向かうほど互いに近づくV字状に形成されている。
【0023】
そして、分割凸部9は絶縁体7に埋設され(その突出部14が)該絶縁体7と係合することから、整流子片8が絶縁体7から剥離することが防止される。
次に、前記整流子3の製造方法について図3〜図7、図8(a)に従って説明する。
【0024】
まず、図3に示すように、圧延加工工程では、一平面上に複数(本実施の形態では、18個であって、図3中、9個のみ図示)の前記凸部11が(一定の高さで)平行に延びるように並設された導電性の板材Tを圧延加工にて成形する。尚、この凸部11は、等間隔であって、前記アンダーカット予定部A(2点鎖線で示す)間にそれぞれ1つ形成される。又、各凸部11の凸設方向の中間位置から基端側には、前記軸方向から見て(図4(a)参照)該中間位置から基端位置に向かうほど凸部11の並設方向(整流子3の周方向)に広がる前記拡幅部15が形成される。この板材Tの軸方向(凸部11の平行に延びる方向)の長さは、前記整流子3の軸線方向の長さ、詳しくは整流子ライザ8aが折り曲げられる前の整流子片8の長さを多数含むような長さに設定されている。又、この板材Tにおいて凸部11の前記並設方向の長さは、整流子3の外周面の長さより両端のフレーム部Ta(図3中、片方のみ図示)分だけ大きく設定されている。
【0025】
次に、図4(a)及び図4(b)に示すように、凸部分割工程では、前記整流子3の外周と略対応した円弧凹部20aが前記凸部11毎に対応して並設されたダイ20に前記板材Tの平面側(凸部11が形成されない側)を当接させて分割パンチ21にてプレスすることで前記凸部11に平行方向(軸方向)に延びる前記分割溝12(図4(b)及び図6参照)を形成するとともに、凸部11をそれらの並設方向に分割した一対の前記分割凸部9とし、更に前記板材Tの平面側を円弧凹部20aに沿った円弧凸部Tbが複数並設された形状とする。即ち、本実施の形態の分割パンチ21は、図4(a)に示すように、複数の凸部11毎に対応したプレス凸部21aを備え、そのプレス凸部21aは、前記分割溝12を形成すべく凸部11の長手方向に沿って延び、その先端部は軸方向から見て先端に向かうほど幅が狭く(V字状に)なっている。そして、凸部11を分割パンチ21のプレス凸部21aにて(凸部11の凸設方向の上方から)プレスすることで、分割溝12を形成するとともに、該分割溝12を形成することで同時に凸部11を一対の分割凸部9とする。尚、本実施の形態の凸部分割工程では、凸部11の並設方向における中間部に分割溝12を形成することで、凸部11を均等に分割した一対の分割凸部9としている。又、本実施の形態のプレス凸部21aの基端部には、基端に向かうほど前記幅が広くされた(本実施の形態では軸方向から見て円弧形状の)拡幅部としてのR形状部21bが形成され、そのR形状部21bにて破損(プレス凸部21aの倒れ)が低減されている。又、本実施の形態のダイ20は、図4(a)に示すように、前記アンダーカット予定部Aと対応した位置を境に円弧凹部20aが並設されたもの、言い換えると、整流子3の外周を整流子片8の数で割り算した長さ毎に円弧凹部20aが繰り返し形成されたものであって、その各円弧凹部20aは、整流子3の整流子片8が18個であることから、角度が略(360°/18個=)20°の円弧となるように形成されている。
【0026】
次に、図5〜図7に示すように、突出部形成工程では、斜め溝形成パンチ22にてプレスすることで分割凸部9に前記斜め溝13a,13b(図7参照)を形成するとともに、該斜め溝13a,13bを形成することで同時に分割凸部9の凸設方向の直交方向に突出する前記突出部14(図7参照)を形成する。詳述すると、斜め溝形成パンチ22は、図6に示すように、複数のプレス凸部22aを備え、そのプレス凸部22aは、前記斜め溝13a,13bを形成すべく分割凸部9の長手方向に延びる辺(前記軸方向)に対して傾斜し、その先端に向かうほど幅が狭くなっている。尚、図6に示す斜め溝形成パンチ22のプレス凸部22aは、一方の前記斜め溝13aを形成すべく傾斜しているが、90°回転させることで他方の前記斜め溝13bを形成すべく傾斜したものとなる。そして、分割凸部9を斜め溝形成パンチ22のプレス凸部22aにて(分割凸部9の凸設方向の上方から)プレスすることで、斜め溝13aを形成するとともに、該斜め溝13aを形成することで同時に分割凸部9の凸設方向の直交方向に突出する突出部14を形成する。即ち、分割凸部9の長手方向に延びる辺(前記軸方向)に対して傾斜した斜め溝13aにて分けられる分割凸部9の角部分が、分割凸部9の凸設方向の直交方向に移動されて突出し、突出部14が形成される。尚、本実施の形態では、一方の前記斜め溝13aを形成した後、90°回転された形状の図示しない斜め溝形成パンチにて同様に他方の前記斜め溝13b及び突出部14を形成する。又、本実施の形態の互いに反対方向に傾斜した斜め溝13aと斜め溝13bとは、一対の分割凸部9に対してその長手方向(前記軸方向)に交互に連続して形成される。即ち、斜め溝13a,13bは、一対の分割凸部9に対してジグザグ形状に形成される。又、本実施の形態では、説明の便宜上、この状態、即ち斜め溝13a,13b及び突出部14が形成された状態の分割凸部9及び板材T等も、形成前と同様に分割凸部9及び板材Tとして記載する。又、本実施の形態の突出部形成工程は、前記凸部分割工程の直後に前記ダイ20を用いて(即ち、凸部分割工程の後、ダイ20から板材Tを離間させずに)行っている。
【0027】
次に、打ち抜き工程では、板材Tの前記フレーム部Ta(図3参照)等を打ち抜き除去し、板材Tを所定の大きさとするとともに、折り曲げられる前の前記整流子ライザ8aを形成する。尚、この所定の大きさとは、整流子3の軸方向長さや外周の長さと対応した大きさである。
【0028】
次に、丸め工程では、前記板材Tを、分割凸部9が内周側に配置されるように、言い換えると、前記円弧凸部Tbが外周側に配置されるように、丸めて円筒形状にする。尚、本実施の形態の丸め工程は、図8(a)に示すように、前記分割凸部9の先端と当接して支持する芯金23と、外側から板材Tを芯金23側に加圧する周方向に複数(図中、1個のみ図示)の加圧ツール24とによって行われる。
【0029】
次に、充填工程では、図示しない型に前記円筒形状の板材Tを配置し、円筒形状の板材Tの内周側に絶縁材料としての液体状の樹脂(溶融樹脂)を充填する。
次に、その樹脂の硬化後、整流子ライザ8aを径方向外側に折り曲げる(図2参照)。
【0030】
次に、図2に示すように、整流子形成工程では、円筒形状の板材Tにおける所定間隔毎の前記アンダーカット予定部A(図3〜図6参照)を切削する(即ち板材Tを等角度間隔に分割する)ことで、該板材Tから、周方向に一対の分割凸部9を有する整流子片8を複数(本実施の形態では18個)形成する。詳述すると、硬化した樹脂を含む円筒形状の板材Tの外周側から板材Tを貫通し樹脂まで達するように、前記アンダーカット予定部Aを切削加工により切削して切削溝25を軸方向一端部から他端部まで形成する。
【0031】
次に、仕上げ切削加工工程では、整流子3(整流子片8)の外周面を切削してその真円度を高精度に高くする。これにより整流子3の製造が完了する。
次に、上記実施の形態の方法及び整流子3の特徴的な作用効果を以下に記載する。
【0032】
(1)凸部分割工程では、分割パンチ21にてプレスすることで凸部11に平行方向に延びる分割溝12が形成されるとともに、その凸部11がそれらの並設方向に分割された一対の分割凸部9とされる。そして、突出部形成工程では、斜め溝形成パンチ22にてプレスすることで分割凸部9に平行方向に対して傾斜した斜め溝13a,13bが形成されるとともに、該斜め溝13a,13bが形成されることで同時に分割凸部9の凸設方向の直交方向に突出する突出部14が形成される。このようにすると、板材に並設される凸部11同士の間隔を狭くすることなく、1つの整流子片8に周方向に一対(2つ)の分割凸部9を設けることができ、各分割凸部9に形成される突出部14にて整流子片8の絶縁体7に対する保持力を高くすることができる。即ち、本実施の形態のように板材Tを圧延加工(圧延加工工程)にて成形する場合、並設される凸部11同士の間隔を狭くすると、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうことになるが、1つの整流子片8に対応して1つの凸部11を形成するだけでよい(最終的には一対の分割凸部9となる)ので、凸部11同士の間隔を確保することができ、圧延加工に用いる金型の寿命が大幅に低下してしまうことを回避することができる。その結果、整流子3を容易に製造することができ、且つ、一対の分割凸部9にて整流子片8が絶縁体7から剥離し難い構造とすることができる。
【0033】
又、ところで、整流子片8の軸方向の一端における周方向中央に形成される整流子ライザ8aは、巻線4aと電気的に接続される部分であり、十分に厚い板厚を確保したい場合がある。しかし、従来技術のように、1つの整流子片の周方向の両側に一対の平行な(軸方向に沿った)凸部を(圧延加工にて)予め形成しておいた場合では、整流子ライザの周方向位置が凸部の周方向位置と異なるため、該凸部を利用して整流子ライザの板厚を厚くすることはできず、凸部が形成されていない部分の板厚より厚くすることは困難となる。これに対して、本実施の形態では、分割凸部9とされる前の凸部11が整流子片8の周方向中央と対応した位置(整流子ライザを形成したい位置)に形成されるため、該凸部11を利用して(凸部11を潰さずに整流子ライザの形状に打ち抜いて)整流子ライザの板厚を厚くすることが可能となる。
【0034】
しかも、凸部分割工程では、整流子3の外周と略対応した円弧凹部20aが凸部11毎に対応して並設されたダイ20に板材Tの平面側を当接させて分割パンチ21にてプレスすることで、板材Tの平面側が、円弧凹部20aに沿った円弧凸部Tbが複数並設された形状とされる。このようにすると、分厚く単に丸めるだけでは湾曲し難い凸部11(分割凸部9)に対応した部分が予め整流子3の外周と略対応した円弧形状とされるため、後の丸め工程で円筒形状とされた板材Tの真円度を容易に高くすることができる。よって、例えば、最終的に整流子3の外周面の真円度を高精度とする仕上げ切削加工工程での切削代を低減することができ、ひいては仕上げ切削加工工程の時間短縮や歩留まり向上等を図ることができる。尚、板材Tの平面側(凸部11が形成されない側)を円弧凸部Tbが複数並設された形状とする工程は、凸部11を一対の分割凸部9とする工程と同じ工程(凸部分割工程)であるため、工程数が増大してしまうこともない。又、本実施の形態の丸め工程では、図8(a)に示すように、最初から加圧ツール24が円弧凸部Tbに略密着しその加圧力が製品(板材T)を介して芯金23にダイレクト(直線的)に伝わることなどから、製品(板材T)を良好に塑性変形させることができ、ひいては、丸め加工後に板材Tの合わせ部の開きが低減される。即ち、図8(b)に示すように、円弧凸部Tbが形成されていない(従来技術の)板材Tについて丸め工程を行っても、スプリングバックによって、湾曲し難い凸部11(分割凸部9)に対応した部分と加圧ツール24との間に隙間Sが生じ、塑性変形が不完全となり、ひいては、丸め加工後に板材Tの合わせ部に開きが生じ易いが、これが低減される。
【0035】
(2)突出部形成工程は、凸部分割工程の直後に(凸部分割工程で用いた)ダイ20を用いて行われるため、凸部分割工程で形成された円弧凸部Tbの形状を保ったまま、良好且つ容易に突出部14を形成する(突出部形成工程を行う)ことができる。
【0036】
(3)凸部分割工程では、凸部11の並設方向における中間部に分割溝12が形成されるとともに、凸部11が均等に分割された一対の分割凸部9とされるため、整流子片8の絶縁体7に対する保持力を整流子片8の周方向の両方で均等とすることができる。よって、整流子片8の周方向の一方のみが絶縁体7から剥落し易くなるといったことを防止することができ、バランス良く剥離を防止することができる。
【0037】
(4)分割パンチ21におけるプレス凸部21aの基端部には、基端に向かうほど幅が広くされた(本実施の形態では軸方向から見て円弧形状の)R形状部21bが形成されるため、プレス凸部21aの破損(倒れ)が低減される。
【0038】
上記実施の形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態の前記突出部形成工程の後であって少なくとも前記丸め工程の前に、図9(a)及び図9(b)に示すように、潰しパンチ31にてプレスすることで一対の前記分割凸部9の互いに向かい合う(相対向する)側の前記突出部14を更に突出させる潰し工程を行ってもよい。即ち、潰しパンチ31は、図9(a)に示すように、一対の分割凸部9毎に対応したプレス凸部31aを備え、そのプレス凸部31aの前記軸方向から見た幅は、突出部形成工程を終えた後の相対向する突出部14の間隔より大きく(この例では前記プレス凸部21aより大きく)設定されている。そして、相対向する突出部14を含む分割凸部9を潰しパンチ31のプレス凸部31aにて(分割凸部9の凸設方向の上方から)プレスすることで、突出部14を更に相対向する方向に突出させる(図9(b)参照)。
【0039】
このようにすると、一対の分割凸部9の相対向する側の突出部14が更に突出されるため、該突出部14が絶縁体7と係合する面積が増え、整流子片8の絶縁体7に対する保持力を更に高くすることができる。尚、周方向に隣り合う整流子片8における突出部14同士が互いに近づく方向に更に突出されると、それらが短絡してしまう虞が生じるが、この虞はない。即ち、整流子片8同士の短絡の虞を回避しながら、整流子片8が絶縁体7から更に剥離し難い構造とすることができる。又、この例の潰し工程は、前記突出部形成工程の直後に前記ダイ20を用いて(即ち、突出部形成工程の後、ダイ20から板材Tを離間させずに)行っている。
【0040】
・上記実施の形態の突出部形成工程は、前記凸部分割工程の直後に前記ダイ20を用いて(即ち、凸部分割工程の後、ダイ20から板材Tを離間させずに)行うとしたが、これに限定されず、凸部分割工程と突出部形成工程との間に何らかの他の工程を行ってもよい。
【0041】
・上記実施の形態の凸部分割工程では、凸部11の並設方向における中間部に分割溝12を形成するとともに、凸部11を均等に分割した一対の分割凸部9とするとしたが、これに限定されず、凸部11の並設方向における中間部から若干ずれた位置に分割溝を形成し、凸部11を不均等に分割した分割凸部としてもよい。
【0042】
・上記実施の形態の分割パンチ21におけるプレス凸部21aの基端部には、基端に向かうほど幅が広くされた軸方向から見て円弧形状のR形状部21b(拡幅部)が形成されるとしたが、これに限定されず、基端に向かうほど幅が広くされた他の形状(非円弧形状)の拡幅部としてもよいし、拡幅部のないプレス凸部21aとしてもよい。
【0043】
・上記実施の形態では、整流子片8を18個備えた整流子3に具体化したが、整流子片の数が異なる整流子に具体化してもよい。
上記実施の形態から把握できる技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
【0044】
(イ)請求項1乃至5のいずれか1項に記載の整流子の製造方法において、前記分割パンチは、分割溝を形成すべく凸設されたプレス凸部を有するものであって、前記プレス凸部の基端部には、基端に向かうほど幅が広くされた拡幅部が形成されたことを特徴とする整流子の製造方法。
【0045】
このようにすると、プレス凸部の基端部には、基端に向かうほど幅が広くされた拡幅部が形成されるため、プレス凸部の破損(倒れ)が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】モータの要部断面図。
【図2】整流子の斜視図。
【図3】本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図4】(a)(b)本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図5】本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図6】本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図7】本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図8】(a)本実施の形態の整流子の製造方法を説明するための説明図。(b)従来の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【図9】(a)(b)別例の整流子の製造方法を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0047】
3…整流子、8…整流子片、9…分割凸部、11…凸部、12…分割溝、13a,13b…斜め溝、14…突出部、20…ダイ、20a…円弧凹部、21…分割パンチ、22…斜め溝形成パンチ、31…潰しパンチ、A…アンダーカット予定部、T…板材、Tb…円弧凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に複数並設された凸部を有する板材を、前記凸部が内周側に配置されるように丸めて円筒形状にする丸め工程と、
前記円筒形状の板材の内周側に絶縁材料としての液体状の樹脂を充填する充填工程と、
前記樹脂の硬化後、前記円筒形状の板材における所定間隔毎のアンダーカット予定部を切削することで、該板材から整流子片を複数形成する整流子形成工程と
を有する整流子の製造方法であって、
少なくとも前記丸め工程の前に、整流子の外周と略対応した円弧凹部が前記凸部毎に対応して並設されたダイに前記板材の平面側を当接させて分割パンチにてプレスすることで前記凸部に前記平行方向に延びる分割溝を形成するとともに、前記凸部をそれらの並設方向に分割した一対の分割凸部とし、更に前記板材の平面側を前記円弧凹部に沿った円弧凸部が複数並設された形状とする凸部分割工程と、
前記凸部分割工程の後であって少なくとも前記丸め工程の前に、斜め溝形成パンチにてプレスすることで前記分割凸部に前記平行方向に対して傾斜した斜め溝を形成するとともに、該斜め溝を形成することで同時に前記分割凸部の凸設方向の直交方向に突出する突出部を形成する突出部形成工程と
を有することを特徴とする整流子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の整流子の製造方法において、
前記突出部形成工程は、前記凸部分割工程の直後に前記ダイを用いて行うことを特徴とする整流子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の整流子の製造方法において、
前記板材を圧延加工にて成形する圧延加工工程を備えたことを特徴とする整流子の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の整流子の製造方法において、
前記凸部分割工程では、前記凸部の前記並設方向における中間部に分割溝を形成するとともに、前記凸部を均等に分割した一対の分割凸部とすることを特徴とする整流子の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の整流子の製造方法において、
前記突出部形成工程の後に、潰しパンチにてプレスすることで一対の前記分割凸部の互いに向かい合う側の前記突出部を更に突出させる潰し工程を備えたことを特徴とする整流子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−123285(P2010−123285A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293519(P2008−293519)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】