説明

斜面侵食防止用の起毛付フィルターマット

【課題】斜面の風化した土粒子の剥離や流下を抑え侵食防止に効果的な侵食防止用マットを提供する。
【解決手段】斜面の侵食は始めに地盤表面の風化した細かい土粒子が浸透水等により流下して水路が形成され、次第に水路が拡大して大きな土粒子の崩落につながっている。このような事から布地にフサフサした柔らかいタオル状の起毛を形成したマットを構成して地盤表面に敷設し、土粒子をマットの糸輪内や糸柱から成る起毛に付着させて留め置き流下の抑止を図り、緑化の植栽にも効果的な斜面侵食防止用の起毛付きフィルターマットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
斜面の侵食防止を図るために使用する土木資材用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
切土や盛土斜面は年月が経過すると地質や斜面勾配の状況に応じて風化し侵食が進行しており、モルタル吹付けやコンクリートブロック護岸等の構造物背面の地面に、侵食防止シート等を敷設しているが空洞が多数確認されている。
空洞化の主な要因としては凍結融解や浸透水による地面の侵食が挙げられており、下記の特許文献1、特許文献2、特許文献3のような斜面の侵食防止を目的に敷設される侵食防止シートやジオテキスタイルのマット等の断面構造でも、年月が経過すると法面構造物の背面に空洞が発生し法面補修等が必要になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−649237号公報(図1)
【特許文献2】特開2001−164576号公報(図1)
【特許文献3】特開2001−234540号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの法面保護施設の現場状況を確認すると、斜面下には細かい細粒土の土粒子がヘドロの様に堆積し中には礫も混入しており、また法面保護施設の背面には空洞が発生していることから凍結融解や浸透水等により上部斜面より風化した土粒子が斜面を流下していることが確認された。また緩斜面な現場と急斜面な現場を比較すると侵食規模に違いが生じていることも確認された。
現場の斜面の侵食過程を見ると始めは凍結融解や地盤内の応力開放等により地盤表面が風化し細かい細粒土状の土粒子が地盤表面を剥離しまたは地面に付着した状況となっている。この斜面に降雨や浸透水が流れ込むと土粒子は浸透水に混入しながら、シートやマット等を敷設した地盤表面の密着の弱い箇所に流れ込み次第に水路が確保され侵食が拡大することにつながっていることが確認された。
【0005】
このようなことから模型斜面に様々なシートやマット等を敷設し実験を試みたところ、シートやマット等が凹凸を有する地盤表面にも均等に密着し、土粒子を地盤に留め置き、さらにシートやマット等の背面の浸透水の流れを阻害して弱め、浸透水の水圧が大きくならないよう、シートやマット上面に土粒子を濾過しながら上昇し流下させるような、フワフワした糸やループ状の糸輪の付いた起毛を形成したタオル状の断面構造等から構成されたマット状の材質が効果的であった。
この実験結果によりマット背面の浸透水の流下を阻止するには、シートを圧着し密着するだけでは浸食防止につながらない事が判明し、これまでの法面保護の土木資材シート、または侵食防止シートやジオテキスタイルのマット等は、起毛付の断面構造等ではなかったことから、特に地盤が硬質の場合には地盤表面を平滑に均すことが困難なことから侵食が著しい。また浸透水はシートやマットの密着の弱い箇所を目指して流下し水路が確保され侵食の拡大につながることが確認された。このようなことからこれまでのジオテキスタイルのマット等の断面構造では、長年経過した現場状況から見て十分な効果が上がっていないことが判明した。また年月が経過するとマット背面が侵食を受けて空洞化となり保水機能を失いマット表面の緑化を施しても枯れるなどの被害が生じていることも確認された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこでさらに地盤表面の侵食状況を調査すると、始めは細かい粒子が流下して次に礫質等が流下している状況が確認された。このことから浸透水に含まれるミクロン(μm)単位の細粒土の土粒子を分離し斜面に留め置くことが侵食拡大を抑止する要因であることが判明した。そこで本発明は図1拡大断面図に明示のようなマットAの断面構造を構成するために、織布または不織布から成る布地1の面全体に糸孔を設けて柔軟性を有する糸2を挿入して糸輪3や糸柱4を形成し柔らかいフサフサしたタオル状のような起毛を表面に形成し飛躍的に表面積を拡大し土粒子が付着しやすい斜面侵食防止用の起毛付フィルターマットを開発した。
【0007】
方法としては図1に明示したマットAを図3のように斜面に敷設して挿筋やピンDにより固定する。次に降雨になると浸透水V2は図4のように地盤表面を流下し、始めに降雨はマットA表面より背面に糸孔を通して地面に流れ込み浸透水となり、土粒子を含んでマットAの背面を流下するが、土粒子は糸2や糸輪3、糸柱4から成る起毛に流下を阻害され付着する。次にマットAの背面が満水状態に成り水圧が高まり浸透水V2はさらに細かい土粒子を糸孔や糸内部を通過して濾過しマットAの表面に上昇して、他の浸透水と合流しV1となって流れ落ちることになる。
マットAの規格寸法は、厚さTは5〜10mm程度、幅は持ち運びに便利なように2m程度で長さは現場斜面規模にあわせて加工する。起毛の材質や断面構造は現場に応じた土粒子を捕捉し、また法面緑化に活用できる材質であれば繊維質でも化学繊維でも良い。
【発明の効果】
【0008】
長年経過した法面保護施設等の現場状況を確認すると背面に空洞が発生し安全性が低下している。このようなことから斜面勾配30度の粘土質で細粒土の土粒子からなる模型斜面を作り様々なマットに見立てた布地等を粘土質の斜面に敷設し土砂の侵食状況を確認した。この結果、タオル状のフサフサした起毛で構成した斜面が、土粒子の流下量が最も少なくその効果が確認された。また緑化については糸輪3付の起毛状のマットであることから保水機能に優れており、マットA表面に種子を施すだけで植栽の根が絡み落下し難い状況となり繁殖が容易となった。また斜面侵食を抑えることは補修費用の軽減や公共施設の延命化にもつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明マットAの請求項1記載の拡大断面図を現し、マットAの厚さTは5〜10mm程度、糸の太さは0.2〜2mm程度、糸輪3、糸柱4の高さT1は2〜10mm程度、布地1の厚さは0.2〜2mm程度を標準として現している。なお布地1面には糸輪3や糸柱4を形成する糸2を通す孔が設けられ、浸透水V2に含んだ土粒子Eを糸2の内部を通過することによりろ過することとなり、材質はビニールシート状や布製でもよい。糸2の材質は腐食に強く弾力性に富みフサフサした柔らかい繊維質でも化学繊維でもよく、目詰まりが発生しないように土粒子Eの形状が細かい場合には糸2の太さは太めに、粗い場合には細めに調整し構成する。
また糸輪3と糸柱4の混入割合は地盤表面の土粒子の大きさに応じて目詰まりが生じないように、土粒子が細かい場合には糸輪3の割合を多くし、大きい場合には糸柱4の割合を多くして調整し、表面は種子Fを付着でき、柔軟性に富み腐食に強く緑化に活用できる材質であればよい。
【0010】
図2は本発明マットAの請求項2記載の拡大断面図を現し、網やシートからなる被覆材Bと合成し一体化した状況図を現しており、マットAの上面に図6のようなコンクリートブロック、モルタル吹付け等Cを施し被覆する現場に使用し、浸透水の流れV1が阻害されないようにした断面構造を現している。なお被覆材Bの厚さT3は薄いシートでも布織でもよく浸透水V1の流下を遮断しない断面構造や材質であればよい。
【0011】
図3は請求項1記載のマットAを斜面に敷設した図7の円内に囲まれた範囲を現している。起毛の付いたマットA背面が地面に圧着して糸輪3や糸柱4が折れ曲がり地面に凹凸の不陸があっても均等に隙間に密着して付着し、アンカーピンDにより固定した施工状況を現した拡大断面図である。また緑化の必要な斜面については種子Fを糸輪3の隙間に施し付着した状況を現し請求項3記載の状況の説明図となる。
【0012】
図4は図3の現場に降雨が有った場合に本発明のマットAの背面の起毛の隙間が満水となり土粒子Eが糸輪3内や糸柱4、および糸2に付着してフィルター状となり、浸透水のみがマットAの表面に上昇して流水V2となり他の流水V2と合流してV1の流れとなってマットAの上面を流下する現象を現している。またマットA上面の起毛が緑化を施す場合に効果を発揮し、特に糸輪3が種子Fの流下を抑え植栽Hの根を絡め繁殖を促すことにつながる状況を現している。
【0013】
図5は斜面の侵食状況を現した拡大断面構造図である。コンクリートモルタル吹付け構造物等や緑化を図る厚層基材等からなるCを、始めは斜面の地盤表面Gと密着して施工するのであるが、凍結融解や降雨により小さな隙間が発生し浸透水が入り込み大きな水圧が作用することにつながり、細かい土粒子を巻き込みながら斜面を侵食し浸透水の水路が構成され拡大して斜面の崩壊につながっている状況図で、浸透水を速やかに法面保護施設Cの上面に導水を図る必要性を現した図である。
【0014】
図6は図8の円内に囲まれた範囲を現しており、ダム湖等の水面下の斜面に本発明マットAを敷設し、ブロックやモルタル吹付けを施した現場状況図を表している。なお、法面勾配が20度以上にもなると本発明のマットAや構造物Cがスベリ落ちることがあることから鉄筋等から成る挿筋やピンDを地盤土質に応じて0.5〜1m間隔程を目安に斜面に設置し固定した状況を現している。
【0015】
図7は道路斜面に請求項1記載のマットAを敷設した状況を現した一般図である。なお、法面勾配が20度以上にもなると本発明のマットAや法面保護施設Cがスベリ落ちることがあり鉄筋等から成る挿筋やピンDを地盤土質に応じて0.5〜1m間隔程を目安に斜面に設置し固定した状況を現している。
図8はダム湖や河川、溜池等の水面下になる斜面に請求項2記載のマットを敷設した状況を現した一般図である。水面下になる斜面では波浪による侵食が著しいことから、コンクリートブロックやモルタル吹付け等による法面保護が実施されているが、水位の変動も多いことから法面保護護岸背面の斜面の侵食が激しい。このような現場に本発明のマットを使用した事例を現した一般図である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】請求項1記載の拡大断面図の一例。
【図2】請求項2記載の拡大断面図の一例。
【図3】図1のマットAを斜面に設置したところの拡大断面図の一例。
【図4】図1のマットAを斜面に設置し浸透水の流れと土粒子の動きを現したところの拡大断面図の一例。
【図5】マット等を敷設しない場合の浸透水の流れと侵食状況を現した斜面の拡大断面図の一例。
【図6】図2のマットを斜面に設置して法面保護護岸等を施したところの拡大断面図の一例。
【図7】道路法面保護に請求項1記載のマットAを使用したところの一般図。
【図8】ダム湖や河川の法面保護護岸工の背面に請求項2記載のマットを使用したところの一般図。
【符号の説明】
【0017】
A・・・・請求項1記載の斜面侵食防止用の起毛付フィルターマット。
B・・・・網やシートからなる被覆材
C・・・・モルタル吹付やコンクリートブロック、および緑化等の厚層基材等からなる法面保護施設
D・・・・マット等を斜面の地盤表面に固定する挿筋やピン
E・・・・土粒子
F・・・・緑化用の種子
G・・・・斜面の地盤表面
H・・・・発芽した植栽
J・・・・道路
V1・・・浸透水のマット表面の流れ方向
V2・・・浸透水のマット背面からの流れ方向
T・・・・請求項1記載のマットAの厚さ
T1・・・布地1の厚さ
T2・・・糸輪3や糸柱4の厚さ
T3・・・被覆材Bの厚さ
1・・・・織布や不織布等のシートから構成された布地
2・・・・糸
3・・・・糸輪
4・・・・糸柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地に無数の起毛を幾何学的に形成しタオル状のマットを構成して斜面の地盤表面に敷設し、風化等による地盤表面の土粒子の流下を抑えることを特徴とした斜面侵食防止用の起毛付きフィルターマット。
【請求項2】
請求項1記載のマットにシートを重ね合わせ合成した斜面侵食防止用の起毛付きフィルターマット。
【請求項3】
請求項1記載のマット表面に種子吹付けを施した斜面侵食防止用の起毛付きフィルターマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−174611(P2010−174611A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43089(P2009−43089)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(506044627)
【Fターム(参考)】