説明

断熱性不定形耐火物及びその施工方法

【課題】粒状綿状のセラミックファイバーや多孔質断熱骨材を使用することなく、常温から1000℃以上での高温使用時において発生する亀裂の伝播及び成長を抑制し、剥離することなく長期間使用できる断熱性不定形耐火物を提供する。
【解決手段】粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、粘度が5〜220 mPa・s及び添加量が前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である混練液とを混練して得られた耐火物スラリーに、前記耐火物スラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、撹拌して得られる断熱性不定形耐火物であって、1,000℃で3時間焼成することにより70〜85%の見掛気孔率、及び累積80%径が500μm以下の気泡径分布を有する施工体となることを特徴とする断熱性不定形耐火物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工後の脱水及び加熱による亀裂の発生が少ない断熱性不定形耐火物、及びその施工方法に関し、特に加熱炉や均熱炉等の工業炉の内張り材、鍋蓋等の保温設備の内張り材等の高耐火性及び高断熱性が要求される設備に使用する断熱性不定形耐火物、及びかかる断熱性不定形耐火物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から鋼材等用の加熱炉、均熱炉等の雰囲気炉に断熱性不定形耐火物が用いられている。そのような断熱性不定形耐火物として、例えば特開昭51-067307号(特許文献1)、及び特開昭57-071877号(特許文献2)は、耐火キャスタブルに起泡剤を添加し、水で混練しながら空気を取り込むことにより断熱性を付与する方法を提案している。しかしこれらの断熱キャスタブルは、一般的な耐火性骨材、耐火性微粉及び結合材等からなり、特に高い断熱性を有さない耐火キャスタブルを、起泡剤の作用により発泡させてなるものであり、十分に優れた断熱性を発揮するものではない。
【0003】
不定形耐火物を用いて断熱性に優れた施工体を製造する方法として、特開2007-326733号(特許文献3)、及び特開2008-013430号(特許文献4)は、耐火性粉末及び結合剤に、起泡剤、発泡剤、気孔形成剤及び水を添加し、混練しながらスラリーに空気を取り込み、鋳込み成形することにより、発泡剤の発泡と気孔形成剤の焼失とにより気泡を形成してなる施工体の製造方法を提案している。しかしこれらの方法はいずれも成形体に加熱処理を施して作製した施工体、いわゆる定形耐火物に関するものであり、不定形耐火物施工体のように拘束した状態で使用した場合、脱水及び焼結による収縮によって亀裂が発生しやすいという問題がある。
【0004】
通常、現場で混練し、直接施工して得られる不定形耐火物の施工体は、拘束された状態のまま、施工後から加熱されそのまま高温で使用される。この時、不定形耐火物の施工体は、単純に耐火性原料の熱膨張だけでなく、混練時の水が脱水することによる収縮や高温での耐火性微粉の焼結による収縮等が起こる。拘束された状態のままで膨張や収縮を繰り返すことによって、施工体に亀裂が発生し、剥離や脱落が発生する。
【0005】
特開平06-087666号(特許文献5)は、耐火骨材、粒状綿状のセラミックファイバー、及び起泡剤を含む耐火断熱キャスタブルを用いて施工体を形成する方法を提案しており、粒状綿状のセラミックファイバーの使用により、亀裂が発生してもその伝播を抑制することができると記載している。しかしながら、セラミックファイバーが大気中に大量に飛散するため、施工環境が悪いという問題がある。
【0006】
特開2002-179471号(特許文献6)は、多孔質断熱骨材と水硬性アルミナとからなる耐火断熱キャスタブルを用いて断熱耐火性施工体を得る方法を提案しており、多孔質断熱骨材の使用により亀裂が発生してもその伝播を抑制することができると記載している。しかしながら、高耐火性を有し、かつ最適な気孔径分布及び気孔率を有する多孔質断熱骨材は種類が少ないため、高価であるので、そのような多孔質断熱骨材を用いて断熱耐火性施工体を製造するとコスト増になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51-067307号公報
【特許文献2】特開昭57-071877号公報
【特許文献3】特開2007-326733号公報
【特許文献4】特開2008-013430号公報
【特許文献5】特開平06-087666号公報
【特許文献6】特開2002-179471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、粒状綿状のセラミックファイバーや多孔質断熱骨材を使用することなく、常温から1000℃以上での高温使用時において発生する亀裂の伝播及び成長を抑制し、剥離することなく長期間使用できる断熱性不定形耐火物を提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、前記断熱性不定形耐火物を現場の様々な状況に応じて簡便な方法で施工できる施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
粒状綿状のセラミックファイバーや多孔質骨材等を使用せずに優れた断熱性及び耐火性を有するとともに優れた耐久性を有する施工体を得るために鋭意研究した結果、本発明者らは、高耐火性を有する耐火性微粉及び結合材からなる耐火組成物であっても、大量に取り込んだ空気の気泡径を十分に小さく制御することにより、施工体は優れた耐火性及び断熱性を有するとともに、熱応力が緩和されて亀裂の発生が抑制されることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の断熱性不定形耐火物は、粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、粘度が5〜220 mPa・s及び添加量が前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である混練液とを混練して得られた耐火物スラリーに、前記耐火物スラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、撹拌して得られる断熱性不定形耐火物であって、1,000℃で3時間焼成することにより70〜85%の見掛気孔率、及び累積80%径が500μm以下の気泡径分布を有する施工体となることを特徴とする。
【0012】
前記結合材は、アルミナセメントであるのが好ましい。
【0013】
本発明の断熱性不定形耐火物の施工方法は、粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、粘度が5〜220 mPa・s及び添加量が前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である混練液とを混練して得られる耐火物スラリーを、圧送ポンプにより圧送配管内を連続撹拌機まで圧送するとともに、前記耐火物スラリーにスラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、前記連続撹拌機で前記耐火物スラリーを撹拌することにより微細な気泡を有する断熱性不定形耐火物を調製し、前記連続撹拌機から吐出された前記断熱性不定形耐火物を施工箇所に流し込むことを特徴とする。
【0014】
前記連続撹拌機は、内周面に多数のステータピンを有する円筒状ステータと、前記円筒状ステータ内で回転するとともに外周面に多数のロータピンを有するロータとを具備し、前記ロータを周速2 m/秒以上で回転させることにより、前記ステータピンと前記ロータピンとの間の前記耐火物スラリーを撹拌し、もって前記耐火物スラリー内の気泡を微細化するのが好ましい。
【0015】
前記結合材は、アルミナセメントであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の断熱性不定形耐火物は、粒状綿状のセラミックファイバーや多孔質断熱骨材等の多孔質原料を使用しないでも、高温使用時における亀裂の伝播、成長が抑制されるため、耐火性及び断熱性に優れた施工体を長期間に亘って安定して使用できる。
【0017】
本発明の断熱性不定形耐火物の施工方法により、耐火性及び断熱性に優れるとともに長期間に亘って安定して使用できる断熱性不定形耐火物を、現場の状況に応じて簡便な方法で施工できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の断熱性不定形耐火物を施工する設備の一例を示す概略図である。
【図2】図1の施工設備の圧縮空気注入部を示す部分拡大図であって、(a)は組み立てた状態を示し、(b)は分解した状態を示す。
【図3】図1の施工設備の圧縮空気注入部を示す部分拡大断面図であって、(a)は圧縮空気を注入している状態を示し、(b)は圧縮空気を注入していない状態を示す。
【図4】図1の施工設備の連続撹拌機を示し、(a)は部分拡大断面図であり、(b)は(a)のA-A断面図であり、(c)は(a)のステータ及びロータを示す分解斜視図である。
【図5】本発明の断熱性不定形耐火物を施工する設備の別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1] 断熱性不定形耐火物の組成
断熱性不定形耐火物は、粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、混練液とを混練して得られた耐火物スラリーに、前記耐火物スラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、撹拌して得られる。前記混練液の粘度は5〜220 mPa・sであり、その添加量は前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である。断熱性不定形耐火物は、1,000℃で3時間焼成することにより70〜85%の見掛気孔率、及び累積80%径が500μm以下の気泡径分布を有する施工体となる。
【0020】
(1) 耐火組成物
(a) 耐火性微粉
耐火性微粉の粒径が300μm超であると、粒子間隙が大きくなるため気泡径が大きくなり、施工後の脱水及び加熱による亀裂が発生しやすくなる。ここで「300μm以下の粒径」とは、気泡の生成に実質的に影響を与える量の300μm超の耐火性微粉が存在しないことを意味する。具体的には、300μm超の耐火性微粉の含有量が10質量%未満であれば、300μm以下の粒径ということができる。耐火性微粉の粒径は200μm以下が好ましい。耐火性微粉が60質量%未満だと相対的に結合材の量が多くなるため施工体の耐火性が低くなり、90質量%超だと相対的に結合材の量が少なくなるため施工体の強度が低くなる。
【0021】
耐火性微粉は1,000℃以上の高温で使用可能なものであれば良く、仮焼アルミナ、焼結アルミナ、電融アルミナ等のアルミナの微粉、焼結スピネル、電融スピネル等のスピネルの微粉、電融マグネシア、海水マグネシア等のマグネシアの微粉、シリカ微粉、チタニア微粉、ムライト微粉、ジルコニア微粉、炭化珪素微粉、炭素微粉等が挙げられる。これらの耐火性微粉は単独でも組合せても良い。
【0022】
(b) 結合材
結合材は施工した断熱性不定形耐火物を常温で速やかに硬化させるもので、アルミナセメント、水硬性遷移アルミナ(例えばρ−アルミナ)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルミン酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の燐酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の珪酸塩、塩基性乳酸アルミニウム等が挙げられるが、耐熱性及び養生強度の面からアルミナセメントが好ましい。
【0023】
(2) 起泡剤
起泡剤は耐火物スラリーを良好に起泡するものであれば特に制限されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等の合成界面活性剤系起泡剤、樹脂せっけん系起泡剤、加水分解たん白系起泡剤等が挙げられる。起泡剤の添加量は、耐火組成物100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。起泡剤が0.1質量部未満であると、気泡の微細化が困難である。起泡剤を3質量部超にしてもさらなる起泡効果は得られず、施工体の強度低下の原因となる。
【0024】
(3) 混練液
混練液としては、水、水溶性高分子の水溶液又は水分散液等が挙げられるが、高粘度を有するために水溶性高分子の水溶液又は水分散液が好ましい。水溶性高分子としては、植物系多糖類、微生物醗酵多糖類、タンパク質等の天然高分子、セルロース誘導体、デンプン誘導体、アルギン酸誘導体等の半合成高分子、水溶性ビニル系樹脂、水溶性アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0025】
混練液の粘度は5〜220 mPa・sである。粘度が5 mPa・s未満であると、高速撹拌しても微細な気泡を得るのが困難であり、気泡の結合や消失が起こり易い。一方220 mPa・s超であると、耐火物スラリーの流動性が低くなるため、高速撹拌しても剪断されにくく微細な気泡を得るのが困難となる。混練液の添加量は、耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である。添加量が25質量部未満であると多量の空気を含有することができないため熱伝導率が上がる。添加水量が40質量部超であると気泡径が大きくなり施工体の強度が低下する。
【0026】
(4) 耐火物スラリー
耐火物スラリーは、前記耐火組成物と、前記起泡剤と、前記混練液とを混合し、混練することによって得られる。混合及び混練はパン型ミキサー等を用いて行うのが好ましい。
【0027】
[2]施工方法
前記耐火物スラリーに空気を注入し、高い剪断をかけて撹拌することにより、耐火物スラリー中の気泡を微細化し断熱性不定形耐火物を作製する。施工体の見掛気孔率は、耐火物スラリーに注入する空気の量によって決まる。断熱性不定形耐火物を1,000℃で3時間焼成したときに施工体が70〜85%の気孔率を有するためには、空気の注入量は、1 Lの耐火物スラリーに対して0.3〜1.2 L(大気圧下)が好ましく、0.5〜1.0 L(大気圧下)がより好ましい。この注入量が0.3 L未満の場合、見掛気孔率が70%未満となり断熱性が低下し、1.2 L超の場合、得られる施工体は見掛気孔率が85%超となり施工体の強度が低下する。
【0028】
(1) 圧縮空気の導入
図1〜図4は断熱性不定形耐火物の施工装置の一例を示す。この施工装置は、パン型ミキサー等を用いて調製した耐火物スラリーAを送給するポンプ1と、連続撹拌機2と、ポンプ1と連続撹拌機2とを接続する配管3と、連続撹拌機2の直近の配管3の部分に取り付けられた圧縮空気導入装置4と、連続撹拌機2の出口24に取り付けられた管5と、管5に設けられた圧力調節器6とを具備する。
【0029】
耐火物スラリーAへの空気の注入は、圧縮空気導入装置4によって行う。圧縮空気導入装置4は、配管3の枝管部3aに挿入され、固着されるノズル41と、ノズル41に圧縮空気を送給する管45と、管45の途中に設けられた流量調節器46とを具備する。ノズル41は、大径の本体部41aと、小径の先端部41bと、先端部41bの途中に設けられた球状部41cと、先端部41bの先端付近に設けられた排出口42とを有する。ノズル41の先端部41bには筒状ゴム43が装着されており、筒状ゴム43は球状部41cに係止される。耐火物スラリーに圧縮空気を高速で注入するために、排出口42の開口径Dは配管3の内径に対して十分に小さいのが好ましい。例えば配管3の内径が15 mmの場合、排出口42の開口径Dは約1〜5 mmが好ましい。排出口42の数は特に制限されず、必要に応じて複数個設けても良い。
【0030】
図3(a)に示すように、ノズル41に耐火物スラリーAより高圧の圧縮空気を送給すると、筒状ゴム43は僅かに押し広げられ、先端部41bと筒状ゴム43との隙間から圧縮空気が耐火物スラリーA中に連続的に注入される。十分に高圧の圧縮空気を送給して、圧縮空気が気泡状となるように耐火物スラリーA中に注入するのが好ましい。圧縮空気の送給を停止すると、図3(b)に示すように筒状ゴム43は排出口42を覆うので、耐火物スラリーAはノズル41に進入しない。このように筒状ゴム43は逆止弁として機能する。
【0031】
圧縮空気の注入量は、耐火物スラリーの配管内での送り速度、耐火物スラリーの粘度等によって変動するので、圧縮空気の圧力をコントロールすることによって適正な空気量が注入できるように調節するのが好ましい。圧縮空気の注入圧力は、0.1 Pa以上であるのが好ましい。注入圧力が0.1 Pa未満では、適正な空気量を注入することができない場合がある。
【0032】
(2) 耐火物スラリーの撹拌
圧縮空気導入装置4によって耐火物スラリーAに注入した気泡をさらに微細化するため、耐火物スラリーに剪断をかけて撹拌する。攪拌機は耐火物スラリー中の気泡を微細化することのできる剪断力を有するものであればバッチ式の攪拌機でも、連続的に撹拌できる装置でもよいが、連続的に撹拌できる装置を用いるのが好ましい。連続撹拌機を用いる場合、図1に示すように、連続撹拌機2は、気泡が結合するのを抑制するために圧縮空気導入装置4にできるだけ近い位置に設けるのが好ましい。
【0033】
連続撹拌機2は、図4(a)〜(c)に示すように、内周面に半径方向内方に突設された多数のステータピン20aを有する円筒状ステータ20と、ステータ20内に回転自在に配置され、外周面に半径方向外方に突設された多数のロータピン21aを有する円柱状ロータ21と、円筒状ステータ20及び円柱状ロータ21を覆う密閉式のケーシング25と、ロータ21を駆動するモータ22と、ケーシング25の一端部に設けられた入口23と、ケーシング25の他端部に設けられた出口24とを有する。必要に応じて連続撹拌機2を水冷又は空冷してもよい。
【0034】
ステータピン20a及びロータピン21aは円柱状でも角柱状でも良いが、剪断力に優れている角柱状が好ましい。ピン20a,21aは、摩耗を抑制するために超硬、サーメット、セラミックス等の耐摩耗性材により形成するのが好ましい。ロータピン21a及びステータピン20aは接触しないように狭い隙間で交互に配列されているので、気泡を有する耐火物スラリーAを剪断しながら撹拌することができる。
【0035】
耐火物スラリーAに高い剪断をかけて気泡を微細化させるためには、連続撹拌機2のロータ21は周速2 m/秒以上で回転させるのが好ましく、3 m/秒以上がより好ましい。周速が2 m/秒未満だと剪断力が弱すぎて気泡が十分に微細化されない場合がある。ロータ21の周速の上限は技術的に可能な限り特に制限されない。連続撹拌機2における耐火物スラリーAの滞留時間は、結合材が硬化しない時間以内に設定する。
【0036】
(3)施工
連続撹拌機2での高速攪拌により得られた、微細な気泡を有する断熱性不定形耐火物Bは、流し込み施工法、圧入施工法等により施工することができる。流し込み施工法の場合、図1に示すように、管5の出口から直接型枠8に流し込むことができる。しかし、加熱炉等における施工現場では連続撹拌機2を設置するのは煩雑であるので、図5に示すように、連続撹拌機2を離隔した位置に配置し、そこから施工現場まで延びるホース7を設け、型枠8まで断熱性不定形耐火物Bを圧送するのが好ましい。
【0037】
[4] 断熱性不定形耐火物の施工体
断熱性不定形耐火物Bは、1,000℃で3時間焼成することにより70〜85%の見掛気孔率、及び累積80%径が500μm以下の気泡径分布を有する施工体となる。見掛気孔率が70%未満だと、施工体の断熱性が不十分であり、見掛気孔率が85%を超えると施工体としての強度が低下する。累積80%径が500μm超であると、施工体の機械的強度が不十分であるのみならず、熱応力の緩和効果(耐熱応力性)も不十分である。
【0038】
熱応力の緩和効果は、施工体の変形率を指標に用いて評価することができる。変形率は弾性変形及び塑性変形の両方の特性を有する材料に用いられる指標であり、荷重−変位曲線において、最大荷重及び最大荷重点までの変位を求め、JIS R 1659に記載の3点曲げ試験での弾性率計算式を用いて算出した値で表され、その値が小さいほど応力緩和しやすいため、亀裂の抑制効果が高い。施工体の変形率は25 MPa以下が好ましい。
【0039】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
仮焼アルミナ微粉(粒径45μm以下)30質量%、スピネル微粉(粒径150m以下)30質量%、マグネシア微粉(粒径200μm以下)10質量%及びアルミナセメント30質量%からなる耐火組成物と、耐火組成物100質量部に対する配合割合がそれぞれ1質量部及び30質量部のラウリル硫酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース水溶液(粘度:100 mPa・s)とを、パン型強制練りミキサー(株式会社友定建機製、図示せず)を用いて1.38 m/秒の周速で1分間混練し、耐火物スラリーAを調製した。
【0041】
この耐火物スラリーAを、図1〜図4に示すように、ポンプ1により0.1 MPaで圧送するとともに、圧縮空気導入装置4より耐火物スラリーAに圧縮空気を注入(ノズル41の排出口42の直径D:3 mm、1 Lの耐火物スラリーAに対する空気注入量:0.7 L、注入圧力:0.12 Pa)しながら、連続撹拌機2(形式:BM90、株式会社ヤナギヤ製、ロータピン21aとステータピン20aとの間隔:2.5 mm)に導入した。連続撹拌機2に導入した耐火物スラリーAは、滞留時間30秒で連続的に撹拌(ロータ21の周速:4.7 m/秒)し、微細化された気泡を有する断熱性不定形耐火物Bを調製した。断熱性不定形耐火物Bは型枠に流し込み、24時間養生することにより硬化させ、さらに110℃で24時間乾燥した後、1,000℃で3時間焼成した。焼成後の施工体から試験片を作製した。
【0042】
実施例2〜4
空気の注入量をそれぞれ0.3 L、1.0L及び1.2 Lに変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0043】
実施例5及び6
カルボキシメチルセルロース水溶液の添加量を32質量部とし、粘度をそれぞれ5 mPa・s及び200 mPa・sに変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0044】
実施例7及び8
カルボキシメチルセルロース水溶液の添加量をそれぞれ25質量部及び40質量部に変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0045】
実施例9
ロータ21の周速を2.0 m/秒に変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0046】
比較例1
耐火組成物として、電融アルミナ微粒(粒径1 mm以下)70質量%及びアルミナセメント30質量%からなる組成物を用いた以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0047】
比較例2及び3
空気の注入量をそれぞれ0.2 L及び1.4 Lに変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0048】
比較例4
カルボキシメチルセルロース水溶液の添加量を34質量部、粘度を1 mPa・sに変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0049】
比較例5
カルボキシメチルセルロース水溶液の添加量を32質量部、粘度を250 mPa・sに変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0050】
比較例6及び7
カルボキシメチルセルロース水溶液の添加量をそれぞれ23質量部及び45質量部に変更した以外、実施例1と同様にして、断熱性不定形耐火物の施工体を作製し試験片を得た。
【0051】
実施例1〜9及び比較例1〜7で作製した試験片について、以下の方法により、見掛気孔率、熱伝導率、圧縮強度、気泡の累積80%径及び変形率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0052】
(1) 見掛気孔率
JIS R 2205に準じて測定した。
【0053】
(2) 熱伝導率
JIS R 2616に準じて測定した。
【0054】
(3) 圧縮強度
JIS R 2553に準じて測定した。
【0055】
(4) 気泡の累積80%径
累積80%径は、下記の方法により測定した気泡径からその分布を求め、気泡の全個数を100%として、気泡径の小さいものから累積し80%となる気泡が有する径で定義した。気泡径は、エンジニアリングセラミックス分野で一般に行われている結晶粒径の測定法(切断法)に準じて測定した。具体的には、試験片切断面の走査型電子顕微鏡写真の任意の位置に画像を横切る直線を引き、各気泡を横切る線分の長さをそれぞれの気泡の径とした。
【0056】
(5) 変形率
JIS R 1659に準じて測定した。具体的には、長さ160 mm×幅40 mm×厚さ32 mmの試験片を用いて、オートグラフAG-50KNX(株式会社島津製作所製)で、荷重ロールの降下速度を0.01 mm/minとして測定することにより得られた荷重−変位曲線から、最大荷重及び最大荷重点までの変位(荷重ロールの降下量)を求め、3点曲げ試験での弾性率計算式を用いて下記の通り変形率を算出した。
変形率=L3P/(4WT3Y) (MPa)
P:最大荷重(N)
L:支持用ロール間距離(mm)
W:試験片の幅(mm)
T:試験片の厚さ(mm)
Y:荷重ロールの降下量(mm)
【0057】
【表1−1】

【0058】
【表1−2】

【0059】
【表1−3】

【0060】
【表1−4】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜9の施工体は、気泡の累積80%径が500μm以下であり、25 MPa以下の優れた変形率を有していた。すなわち実施例1〜9の断熱性不定形耐火物を用いると、応力緩和しやすく、亀裂の発生が抑制された施工体が得られるといえる。
【0062】
これに対して、粒径が300μm超の耐火性微粉を含有する比較例1、及び混練液の添加量が40質量部超の比較例7では、気泡の累積80%径が500μm超であり、変形率も25 MPaを超えて高いため亀裂の発生を抑制し難い。また、空気の注入量が耐火スラリー1 Lに対して0.3 L未満の比較例2、混練液の粘度が5 mPa・s未満の比較例4、250 mPa・s超の比較例5、及び混練液の添加量が25質量部未満の比較例6では、空気を十分に含有することができないため、熱伝導率も高く、高断熱性を得ることができない。空気の注入量が耐火スラリー1 Lに対して1.2 L超の比較例3は、熱伝導率は低く優れた断熱性を有するが、施工体としての十分な強度を得ることができない。
【符号の説明】
【0063】
1・・・圧送ポンプ
2・・・連続撹拌機
20・・・円筒状ステータ
20a・・・ステータピン
21・・・円柱状ロータ
21a・・・ロータピン
22・・・モータ
23・・・入口
24・・・出口
25・・・ケーシング
3・・・配管
3a・・・枝管部
4・・・圧縮空気導入装置
41・・・ノズル
41a・・・本体部
41b・・・先端部
41c・・・球状部
42・・・排出口
43・・・筒状ゴム
45・・・管
46・・・流量調節器
5・・・管
6・・・圧力調節器
7・・・ホース
8・・・型枠
A・・・耐火物スラリー
B・・・断熱性不定形耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、粘度が5〜220 mPa・s及び添加量が前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である混練液とを混練して得られた耐火物スラリーに、前記耐火物スラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、撹拌して得られる断熱性不定形耐火物であって、1,000℃で3時間焼成することにより70〜85%の見掛気孔率、及び累積80%径が500μm以下の気泡径分布を有する施工体となることを特徴とする断熱性不定形耐火物。
【請求項2】
請求項1に記載の断熱性不定形耐火物において、前記結合材がアルミナセメントであることを特徴とする断熱性不定形耐火物。
【請求項3】
粒径300μm以下の耐火性微粉60〜90質量%及び結合材10〜40質量%からなる耐火組成物と、起泡剤と、粘度が5〜220 mPa・s及び添加量が前記耐火組成物100質量部に対して25〜40質量部である混練液とを混練して得られる耐火物スラリーを、圧送ポンプにより圧送配管内を連続撹拌機まで圧送するとともに、前記耐火物スラリーにスラリー1 Lあたり0.3〜1.2 Lの空気を注入し、前記連続撹拌機で前記耐火物スラリーを撹拌することにより微細な気泡を有する断熱性不定形耐火物を調製し、前記連続撹拌機から吐出された前記断熱性不定形耐火物を施工箇所に流し込むことを特徴とする断熱性不定形耐火物の施工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の断熱性不定形耐火物の施工方法において、前記連続撹拌機は、内周面に多数のステータピンを有する円筒状ステータと、前記円筒状ステータ内で回転するとともに外周面に多数のロータピンを有するロータとを具備し、前記ロータを周速2 m/秒以上で回転させることにより、前記ステータピンと前記ロータピンとの間の前記耐火物スラリーを撹拌し、もって前記耐火物スラリー内の気泡を微細化することを特徴とする施工方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の断熱性不定形耐火物の施工方法において、前記結合材がアルミナセメントであることを特徴とする施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−168272(P2010−168272A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293260(P2009−293260)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000205111)大光炉材株式会社 (8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】