説明

断続装置

【課題】構造を簡素化できると共に小型化を図ることができる断続装置を提供すること。
【解決手段】スプリング25の付勢力により係合されると共に付勢力に抗する力が入力されることで解放されるクラッチ20の係合および解放を行うものであり、モータMにより回転されるカム6と、そのカム6によりクラッチ20を押圧する第1従節9と、その第1従節9と異なる位置に配設されると共に、カム6に向けて付勢される第2従節10とを備え、その第2従節10の付勢力によりカム6にクラッチを解放させる方向の回転力を与えるようにしたので、断続装置1の構造を簡素化できると共に小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチの断続装置に関し、特に、構造を簡素化できると共に小型化を図ることができる断続装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両等の変速機においては、入力軸と出力軸のそれぞれに接続された部材同士を接触させ、部材間に生じる摩擦力により円板同士を係合させて、入力軸の回転を出力軸に伝達する摩擦クラッチなど(以下「クラッチ」と称す)が用いられている。クラッチに配設されるスプリングの付勢力を利用して、部材同士を接触させてクラッチを係合しているので、クラッチを解放するには、スプリングの付勢力に抗する力をクラッチに入力する必要がある。このようなクラッチを解放させる断続装置としては、モータの駆動力を利用するものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モータ1701,1002により回転されるカム1708,2007の従節作動端をクラッチに連結すると共に、カム1708,2007と一体に構成されるクランク1713,2010に蓄力器1714,2015が配設されるアクチュエータ1700,2000(断続装置)が開示されている。特許文献1に開示される断続装置によれば、クラッチが係合するときに、クランクに配設される蓄力器に荷重が蓄積される一方、クラッチが解放されるときに、蓄積された荷重がクラッチに向かって出力される。その結果、モータの駆動力に加えて蓄力器に蓄積された荷重を出力して、クラッチを解放できる。
【0004】
また、特許文献2には、モータにより移動されるクランクアーム10と、そのクランクアーム10の移動に伴い荷重が蓄積される荷重蓄積手段(コイルスプリング18)と、荷重蓄積手段に回動可能に連結されたリンク21と、これらを互いに回動可能に連結することにより形成されるトグル装置とを備える自動断続装置(断続装置)が開示されている。特許文献2に開示される断続装置によれば、トグル装置が構成されているので、特許文献2の図3に示すように、摩擦クラッチが係合した後もコイルスプリング18に荷重が蓄積保持される。その結果、摩擦クラッチを解放させるときは、コイルスプリング18に蓄積保持された荷重を出力してクラッチを解放できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−207600(図23、図24)
【特許文献2】特開平11−201188(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される断続装置では、クランクを用いているので、クランクが揺動できるだけの大きな空間が装置内に必要となるため、装置が大型化するという問題点があった。特許文献2に開示される断続装置においても、クランクアーム10を備えるリンク機構が大きな空間を占有し、装置が大型化するという問題点があった。
【0007】
さらに、特許文献2に開示される断続装置では、摩擦クラッチが係合した後もコイルスプリング18に荷重を蓄積保持するため、リンク機構によりトグル装置を形成しているので、構造が複雑化するという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、構造を簡素化できると共に小型化を図ることができる断続装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1記載の断続装置は、モータにより回転されるカムと、そのカムによりクラッチを押圧する第1従節と、その第1従節と異なる位置に配設されると共にカムに向かって付勢され、クラッチを解放させる方向の回転力をカムに与える第2従節とを備えているので、カムによってモータの回転運動を直線運動に変換でき、構造を簡素化できる効果がある。また、カムは、クランクのようにそれが揺動できるだけの空間を確保する必要がないので、装置を小型化できる効果がある。
【0010】
また、第1従節および第2従節の位置、速度、タイミングはカム形状から任意に決められるので、断続装置の設計の自在性を向上できる効果がある。さらに、第1従節および第2従節を変位させるのに必要な各々のカム軸トルクは、クラッチのスプリングや第2従節の荷重特性およびカム形状等に基づいて算出できる。算出された第1従節の変位に必要なカム軸トルクを、第2従節の変位に必要なカム軸トルクで打ち消すことによって、モータが必要とするカム軸トルクを平準化できる。カム軸トルクを平準化できれば、ピークトルクを小さくしてピーク電流を低減でき、その結果、モータを小型化できる。即ち、カムを用いて第1従節および第2従節を変位させるので、モータの小型化を、クラッチのスプリングや第2従節の荷重特性を考慮し、カム形状や第2従節の付勢力を最適化することによって容易に実現できる効果がある。
【0011】
請求項2記載の断続装置によれば、カムは、クラッチが係合されるときの第2従節の運動方向に対する圧力角が実質的に0°に設定されているので、クラッチの係合時に、クラッチを解放させる方向の回転力が第2従節からカムに与えられることを防止する。その結果、請求項1記載の断続装置の奏する効果に加え、第2従節の付勢力によってクラッチの係合力が弱くなり伝達トルクが低下することを防止できる効果がある。
【0012】
また、クラッチの係合時に第2従節の付勢力はカムを回転させないため、クラッチの係合を維持するのにモータが消費するエネルギーを大幅に削減できる効果がある。さらに、カムの回転角を制御して圧力角が実質的に0°になるようにカムを停止させるだけでクラッチは強く係合されるため、機構を大幅に簡素化することができ、装置を小型化できる効果がある。
【0013】
請求項3記載の断続装置によれば、カムは、クラッチが解放されるときの第1従節の運動方向に対する圧力角が実質的に0°に設定されているので、請求項1又は2に記載の断続装置の奏する効果に加え、クラッチの解放を維持するのにモータが消費するエネルギーを大幅に削減できると共に、機構を大幅に簡素化することができ、装置を小型化できる効果がある。
【0014】
即ち、クラッチが解放されるときは、その解放状態を維持するため、第1従節の変位を阻止する必要がある。第1従節の変位を阻止するには、クラッチのスプリングによる付勢力によりカムが回転しないようにすれば良い。請求項3記載の断続装置は、カムは、クラッチが解放されるときの第1従節の運動方向に対する圧力角が実質的に0°に設定されているので、クラッチのスプリングによる付勢力で第1従節がカムの方向に運動しても、カムは回転運動をすることができない。従って、クラッチの解放状態を維持するのにモータが消費するエネルギーを大幅に削減できる効果がある。また、カムの回転角を制御して圧力角が実質的に0°になるようにカムを停止させるだけでクラッチの解放状態を維持できるため、機構を大幅に簡素化することができ、装置を小型化できる効果がある。
【0015】
請求項4記載の断続装置によれば、第2従節の付勢力によりクラッチを解放させる方向にカムを回転させようとする第1カム軸トルクと、スプリングの付勢力によりクラッチを係合させる方向にカムを回転させようとする第2カム軸トルクとの差が、モータが必要とするカム軸トルクである。カムの形状および第2従節の付勢力は、停留区間を除き、カムの回転角に対して略一定となるように設定されているので、モータが必要とするカム軸トルクを平準化できる。その結果、ピークトルクを小さくすることができ、ピーク電流を低減できる。従って、モータを小型化できる効果がある。さらに、カム軸トルクを平準化できるため、カムのガタつきや回転ムラをなくすことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における断続装置を模式的に示した断面模式図である。
【図2】図1のII−II線における断続装置の断面模式図である。
【図3】(a)はクラッチが係合されるときの断続装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は蓄力部に保持した荷重をクラッチに出力するときの断続装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)はクラッチが解放されるときの断続装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
【図4】(a)は第1従節を変位させるときのカム軸トルクを説明するカム及び第1従節の模式図であり、(b)は第2従節を変位させるときのカム軸トルクを説明するカム及び第2従節の模式図である。
【図5】クラッチを解放するときの第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクの計算結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における断続装置1を模式的に示した断面模式図であり、図2は図1のII−II線における断続装置1の断面模式図である。
【0018】
図1に示すように、断続装置1は、モータMによって回転されるカム6と、そのカム6によりクラッチ20を押圧する第1従節9と、その第1従節9と異なる位置に配設される第2従節10とを主に備えて構成されている。
【0019】
カム6は板カムから構成され、カム軸7に固定されている。そのカム軸7は軸受8を介して両端が回動可能に筐体2に固定されている。一方、筐体2の外部にはモータMが配設されている。モータMの回転を出力するモータ軸3はカム軸7と交差して筐体2内に延設されており、モータ軸3の端部は軸受4を介して回動可能に筐体2に固定されている。モータ軸3にはウォーム5が形成されており、カム軸7の端部側に形成されるウォームホイール(図示せず)と係合している。これにより、モータ軸3の回動に伴い、ウォーム5、ウォームホイール(図示せず)と動力が伝達されてカム6は回動する。
【0020】
図2に示すように、第2従節10は、ローラフォロアから構成されカム6の輪郭に直接接触する接触子10aと、接触子10aが一端に支承されると共に他端が筐体2に固定され伸縮自在に形成されるシャフト10bと、そのシャフト10bに配設される蓄力部10cとを主に備えて構成されている。蓄力部10cはコイルスプリングから構成されると共に、シャフト10bの外周に配設され、一端がシャフト10bの先端側に固定され他端が筐体2に固定されている。カム6の回動に伴いシャフト10bは収縮と伸長を繰り返し、これに応じて蓄力部10cも圧縮と伸長を繰り返す。カム6の回動によって圧縮された蓄力部10cの付勢力により、接触子10aはカム6に押し付けられる。
【0021】
第1従節9は、第2従節10と異なる位置に配設されており、ローラフォロアから構成されカム6の輪郭に直接接触する接触子9aと、接触子9aが一端に支承されると共に他端側が筐体2の外に延設される突き棒9bとを主に備えて構成されている。突き棒9bの外周にはコイルスプリングから構成される付勢手段9cが配設されている。付勢手段9cは、一端が突き棒9bの先端側に固定され他端が筐体2に固定されている。上述の蓄力部10cと同様に、付勢手段9cの付勢力により接触子9aはカム6に押し付けられる。また、第1従節9及び第2従節10はローラフォロアから構成される接触子9a,10aを備えているので、カム6との摩擦を低減することができ、エネルギー損失を抑制できる。
【0022】
図1に戻って、断続装置1に連係されるクラッチ20について説明する。クラッチ20は、フライホイール21と、フライホイール21の円板面に配設されるクラッチ板22と、クラッチ板22の円板面に貼付される摩擦パッド23と、摩擦パッド23から離隔して配設されるプレッシャプレート24と、プレッシャプレート24をその付勢力によってクラッチ板22側に押圧して摩擦パッド23に摩擦力を発生させるスプリング25と、スプリング25の付勢力を解除してプレッシャプレート24を摩擦パッド23から離隔するレリーズ軸受26及びレリーズフォーク27とを主に備えて構成されている。レリーズフォーク27は出力エレメント28によって操作され、出力エレメント28は断続装置1の第1従節9(突き棒9b)に連結される。
【0023】
このクラッチ20によれば、出力エレメント28を断続装置1側に変位させると、スプリング25の付勢力によってプレッシャプレート24がクラッチ板22側に押圧される。その結果、摩擦パッド23に摩擦力が生じる。これによりクラッチ20が係合されて動力が伝達される。一方、出力エレメント28をクラッチ20側に変位させると、レリーズフォーク27が操作されスプリング25の付勢力が解除される。これによりクラッチ20が解放されて動力の伝達が遮断される。
【0024】
断続装置1は、出力エレメント28を操作してクラッチ20の係合および解放を行う装置である。以下、図3を参照して、断続装置1の動作について説明する。図3(a)はクラッチ20が係合されるときの断続装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図3(b)は蓄力部10cに保持した荷重をクラッチ20に出力するときの断続装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図3(c)はクラッチ20が解放されるときの断続装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。なお、図3においては、第1従節9の付勢手段9cの記載は省略している。また、クラッチ20が係合しているときを「Lock」と表記し(図3(a)参照)、クラッチ20が解放しているときを「Free」と表記している(図3(c)参照)。
【0025】
図3(a)に示すように、断続装置1の第1従節9をカム6側に変位させると、出力エレメント28(図1参照)が断続装置1側に変位される。これにより、上述のようにクラッチ20が係合される。一方、第1従節9をカム6側に変位させるのに伴い、第2従節10に配設される蓄力部10cは圧縮され荷重が蓄積される。ここで、カム6はクラッチ20が係合されるときの第2従節10の運動方向に対する圧力角(カム6の輪郭および第2従節10の共通法線nと第2従節10の運動方向mとのなす角)が実質的に0°に設定されている(なお、tはカム6の輪郭に接触子10aが接触する点におけるカム6の接線)。
【0026】
これにより、共通法線nと第2従節10の運動方向mとが一致するため、カム6は蓄力部10cの弾性変形による付勢力(第2従節10の付勢力)によっては回転できない。これにより、クラッチ20の係合時に、クラッチ20を解放させる方向の回転力が第2従節10からカム6に与えられることが防止される。その結果、第2従節10の付勢力によってクラッチ20の係合力が弱くなり、伝達トルクが低下することを防止できる。
【0027】
また、上述のように、クラッチ20の係合時に第2従節10の付勢力はカム6を回転させないため、クラッチ20の係合を維持するのにモータM(図1参照)が消費するエネルギーを大幅に削減できる。さらに、カム6の回転角を制御して圧力角が実質的に0°になるようにカム6を停止させるだけでクラッチ20の係合を維持できるため、機構を大幅に簡素化でき断続装置1を小型化できる。
【0028】
次に、クラッチ20を解放させる場合には、図3(b)に示すようにモータM(図1参照)を用いてカム軸7の回りにカム6を回転させる(カム軸7の周りの矢印はカム6の回転方向を示す)。その結果、カム6は第2従節10に対する圧力角θpが発生すると共に、蓄力部10cは蓄積された荷重をカム6側に出力する。これにより、モータMの駆動力に加え、蓄力部10cが出力する荷重および圧力角θpによってカム6は回転する。このカム6の回転に伴って第1従節9はクラッチ20側に変位し、クラッチ20のスプリング25(図1参照)を押圧する。
【0029】
次いで、図3(c)に示すように、クラッチ20側に変位する第1従節9が停留するまでカム6を回転させる。蓄力部10cは第1従節9が停留するようになるまで荷重を出力する。第1従節9がクラッチ20側に変位することで、レリーズフォーク27(図1参照)が操作されスプリング25の付勢力が解除される。これによりクラッチ20が解放される。ここで、カム6は、クラッチ20が解放されるときの第1従節9に対する圧力角(カム6の輪郭および第1従節の共通法線nと第1従節9の運動方向mとのなす角)が実質的に0°に設定されている。
【0030】
これにより、共通法線nと第1従節9の運動方向mとが一致するため、クラッチ20のスプリング25(図1参照)による付勢力で第1従節9がカム6の方向に運動しても、カム6は回転運動をすることができない。従って、クラッチ20の解放状態を維持するのにモータM(図1参照)が消費するエネルギーを大幅に削減できる。また、カム6の回転角を制御して圧力角が実質的に0°になるようにカム6を停止させるだけでクラッチ20の解放状態を維持できるため、機構を大幅に簡素化することができ、断続装置1を小型化できる。
【0031】
また、断続装置1はカム6によってモータM(図1参照)の回転運動を直線運動に変換できるため、構造を簡素化できる。また、クランクを利用してクラッチの解放および係合を行う場合には、クランクが揺動できるだけの空間を確保する必要があるが、カム6で第1従節9及び第2従節10を変位させる断続装置1では、クランクを揺動させるのに必要な空間を確保する必要がないので、断続装置1を小型・簡素化できる。さらに、第1従節9及び第2従節10の位置、速度、タイミングはカム形状から任意に決められるので、断続装置1の設計の自在性を向上できる。
【0032】
なお、圧力角が実質的に0°に設定されているというのは、第1従節9(又は第2従節10)の運動方向mとカム6の共通法線nとを実質的に一致させることにより、第1従節9(又は第2従節10)とカム6との摩擦を無視できるほど小さくすることをいう。
【0033】
次に、図4を参照して、カム6の回転に必要なカム軸トルクについて説明する。図4(a)は第1従節9(突き棒9b)を変位させるときのカム軸トルクを説明するカム6及び第1従節9の模式図であり、図4(b)は第2従節10(シャフト10b)を変位させるときのカム軸トルクを説明するカム6及び第2従節10の模式図である。図4(a)において、Rnはカム半径、dαはカム軸7を中心にカム6をカム軌道面上の点aから点bまで回転させるときの回転角、Sncはカム6の点bにおける接線方向に作用する力、Pはクラッチ20のスプリング25(図1参照)により生ずる力である。また、図4(b)において、Snsはカム6の点bにおける接線方向に作用する力、Pns0は蓄力部10c(図1参照)が出力する初期荷重(蓄力部10cがカム基礎円半径により圧縮されて生ずる荷重)である。
【0034】
図4において、カム6の回転角がdαの場合、db=Rn(1−cos(dα))、da=Rn・sin(dα)と表わされる。また、点aにおけるカム6の接線と点a及び点bを結ぶ直線とのなす角をθnとすれば、θn=tan−1{(dR+db)/da}−tan−1(db/da)と表わされる。ここで、図4(a)において、突き棒9bのクラッチ20側への変位量δnは、カム基礎円半径をRとすれば、δn=(Rn−R)+dRと表わされる。突き棒9bがクラッチ20側に変位(変位量δn)することによりクラッチ20が突き棒9bに作用する力Pncは、クラッチ20のスプリング25(図1参照)により生ずる力P及びクラッチ20のレバー比iを考慮した関数f(δn)で表わされる。
【0035】
これらの結果、係合するクラッチ20を解放するときに要するカム6の点bにおける接線方向の力Sncは、Snc=Pnc(tanθn+μ)と表わされる。なお、μはカム6と接触子9a(図1参照)との摩擦係数である。ここで、クラッチ20を解放させる方向に第1従節9(突き棒9b)を変位させるときのカム軸トルク(以下「第1カム軸トルク」と称す)Mncは、Mnc=Snc(Rn+dR)と表わされる。この式に上述の各式を代入することにより第1カム軸トルクMncを概算できる。
【0036】
次に、図4(b)において、シャフト10bが変位(変位量δn)することにより第2従節10の蓄力部10c(図1参照)がシャフト10bに作用する力Pnsは、蓄力部10cの弾性率k及び蓄力部10cの初期荷重Pns0より、Pns=k・δn+Pns0と表わされる。クラッチ20を係合するときに蓄力部10cはカム6によって荷重が入力されるが、このときに作用するカム6の点bにおける接線方向の力Snsは、Sns=Pns(tanθn−μ)と表わされる。なお、μはカム6と接触子10a(図1参照)との摩擦係数である。
【0037】
ここで、クラッチ20を係合させる方向に第2従節10を変位させて蓄力部10cに荷重を蓄積するのに必要なカム軸トルク(以下「第2カム軸トルク」と称す)Mnsは、Mns=Sns(Rn+dR)と表わされる。この式に上述の各式を代入することにより第2カム軸トルクMnsを概算できる。
【0038】
以上のように、第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクは、カム6の半径および形状(輪郭)、クラッチ20のスプリング25(図1参照)の弾性率等の特性、クラッチ20のレバー比、蓄力部10cの弾性率等の特性(第2従節10の付勢力)、カム6と接触子9a,10a(図1参照)との摩擦係数等から求められる。
【0039】
ここで、クラッチ20のスプリング25の特性やレバー比は既知であり、カム6と接触子9a,10aとの摩擦係数も設定可能である。従って、カム6の半径および形状(輪郭)、並びに第2従節10の付勢力は、第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクから設定できる。以上のように、断続装置1はカム6を用いて第1従節9及び第2従節10を変位させているので、第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクを設定することにより、カム6の半径および形状(輪郭)、並びに第2従節10の付勢力を設定できる。
【0040】
ここで、図5はクラッチ20を解放するときの第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクの計算結果の一例を示す図である。図5において、横軸はカム6の回転角を示し、縦軸はトルクを示している。A,Bは第1従節9又は第2従節10が停留状態にあるときのカム6の回転角である。また、図5では、第2カム軸トルクは0以下(第1カム軸トルクと向きが異なる)としている。これは、クラッチ20を係合するときに第2従節10に入力された荷重が、クラッチ20を解放するときに、対応する回転角において第2従節10からクラッチ20側へ出力され、クラッチ20の解放をアシストすることを示している。また、図5に図示したカム軸トルクの曲線は、第1カム軸トルクと第2カム軸トルクとを互いに打ち消し合わせたものである。
【0041】
図5を参照して、第1カム軸トルクは、Bの区間(トルクが0の付近)を除いて平準化されていることがわかる。同様に第2カム軸トルクも、A及びBの区間(トルクが0の付近)を除いて平準化されていることがわかる。これらの結果、蓄力部10c(図1参照)に蓄積された荷重が、クラッチ20を解放するときに蓄力部10cからクラッチ20側へ出力されるので、モータM(図1参照)が必要とするカム軸トルクを平準化して、モータMの負担を小さくできる。
【0042】
これは、図4を参照して説明した第1カム軸トルク及び第2カム軸トルクの算出方法に基づいて、カム6の形状を最適化すると共に、第2従節10の付勢力を最適化したことによる。カム6の形状および第2従節10の付勢力は、第1カム軸トルクを、対応する回転角において第2カム軸トルクにより打ち消すように設定されている。その結果、カム軸トルクのピークトルク(第1カム軸トルク−第2カム軸トルク)を小さくすることができ、ピーク電流を低減できる。従って、モータMを小型化できる。さらに、カム軸トルクを平準化できるため、カム6のガタつきや回転ムラをなくすことができる。
【0043】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0044】
上記実施の形態では、断続装置1のカム6は、板カムで構成されている場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他のカムを採用することも当然可能である。他のカムとしては、例えば、板カムと同様な平面カムの溝カム、立体カムである端面カムや円筒溝カムを挙げることができる。クラッチ1や蓄力部10cの特性に応じて、任意のカムを適宜選択することができる。
【0045】
上記実施の形態では、カム軸7に1個のカム6が配設されている場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カム軸7に2個以上のカムを並設し、各々のカムに第1従節9及び第2従節10を配設することも当然可能である。この場合は、第1従節9が配設されるカムのカム形状は、クラッチ20の特性に応じて設計され、第2従節10が配設されるカムのカム形状は、蓄力部10cの特性に応じて設計される。各々のカム形状はクラッチ20又は蓄力部10cの特性を考慮して行えば良いため、各々のカム形状の設計を容易にできる。
【0046】
上記実施の形態では、クラッチ20が単板式の摩擦クラッチとして構成されている場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他のクラッチを採用することも当然可能である。他のクラッチとしては、例えば、多板クラッチ、ディスククラッチ、ドラムクラッチ、円すいクラッチ等の他の摩擦クラッチが挙げられる。
【0047】
上記実施の形態では、モータMからカム6への動力の伝達手段がウォーム5及びウォームホイール(図示せず)の場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の伝達手段を採用することも可能である。他の伝達手段としては、例えば、平歯車装置、遊星歯車装置およびこれらの組合せを挙げることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 断続装置
6 カム
9 第1従節
9a 接触子(第1従節の一部)
9b 突き棒(第1従節の一部)
10 第2従節
10a 接触子(第2従節の一部)
10b シャフト(第2従節の一部)
10c 蓄力部(第2従節の一部)
20 クラッチ
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングの付勢力により係合されると共に前記付勢力に抗する力が入力されることで解放されるクラッチの係合および解放を行う断続装置において、
モータにより回転されるカムと、
そのカムにより前記クラッチを押圧する第1従節と、
その第1従節と異なる位置に配設されると共に前記カムに向かって付勢され、前記クラッチを解放させる方向の回転力を前記カムに与える第2従節とを備えていることを特徴とする断続装置。
【請求項2】
前記カムは、前記クラッチが係合されるときの前記第2従節の運動方向に対する圧力角が実質的に0°に設定されていることを特徴とする請求項1記載の断続装置。
【請求項3】
前記カムは、前記クラッチが解放されるときの前記第1従節の運動方向に対する圧力角が実質的に0°に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の断続装置。
【請求項4】
前記カムの形状および前記第2従節の付勢力は、前記第2従節の付勢力により前記クラッチを解放させる方向に前記カムを回転させようとする第1カム軸トルクと、前記スプリングの付勢力により前記クラッチを係合させる方向に前記カムを回転させようとする第2カム軸トルクとの差が、停留区間を除き、前記カムの回転角に対して略一定となるように設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の断続装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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