説明

断線判定方法

【課題】専用の検出機構を別途設けなくとも可動部に配線された電線の断線を検出することが可能な断線判定方法を提供すること。
【解決手段】可動部と固定部との間を接続する電線の断線の有無を判定する断線判定方法。可動部の動作停止時に電線を流れる電気量V0を検知する停止時検知工程と、可動部に断線検知用のダミー動作を行わせ、電線を流れる電気量を検知する動作時検知工程と、停止時検知工程で検知した電気量と動作時検知工程で検知した電気量との差に基づいて電線の断線の有無を判定する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部と固定部との間を接続する電線の断線判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液等の生体試料を分析する分析装置は、検体と試薬とを反応容器内で混合して反応させ、この反応液を光学的に測定することにより検体の成分や濃度等を分析している。このとき、分析装置は、分注用のプローブを支持した分注装置のアーム部材を昇降或いは回動させ、分注位置に搬送されてくる反応容器に前記プローブから検体や試薬を分注している(例えば、特許文献1参照)。分析装置は、分注や測定等の機能を達成するためにアーム部材に複数の電線が配線され、アーム部材は昇降或いは回動する際に往復運動をする。従って、分析装置は、アーム部材の往復運動に伴って配線された電線に繰返し応力が作用し、電線が経年劣化によって断線する恐れがあった。このため、分析装置は、アーム部材等の可動部に異常検出回路を組み込むことにより、断線に起因した電気的な異常を検出している。
【0003】
【特許文献1】特開平9−274047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、異常検出回路を組み込んだ分析装置は、分析に伴って可動部が作動すると、電気的状態が不規則に変化する信号系では、ノイズと断線に起因した電気的な異常との判別が困難になる。一方、可動部の停止中には、分析装置は、電気的状態が一定で電線も動かないことから、断線があっても検出することができないという問題がある。この場合、可動部の動作と無関係に断線の有無を検出するには、専用の検出機構を別途設ける必要があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、専用の検出機構を別途設けなくとも可動部に配線された電線の断線を検出することが可能な断線判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に係る断線判定方法は、可動部と固定部との間を接続する電線の断線の有無を判定する断線判定方法であって、前記可動部の動作停止時に前記電線を流れる電気量を検知する停止時検知工程と、前記可動部の断線検知用のダミー動作を行わせ、前記電線を流れる電気量を検知する動作時検知工程と、前記停止時検知工程で検知した電気量と前記動作時検知工程で検知した電気量との差に基づいて前記電線の断線の有無を判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る断線判定方法は、上記の発明において、前記電線の断線の有無を判定する工程は、前記停止時検知工程で検知した電気量と、前記動作時検知工程で検知した電気量との差が予め設定した値よりも小さい場合に前記電線が断線していると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる断線判定方法は、アーム部材の動作が停止した停止時検知工程で検知した電気量と、前記アーム部材が断線検知動作をする動作時検知工程で検知した電気量との差に基づいて電線の断線の有無を判定するので、新たに専用の検出機構を別途設けなくとも可動部であるアーム部材に配線された電線の断線を検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の断線判定方法にかかる実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明の断線判定方法を適用した分析装置の概略構成を示すブロック図である。図2は、図1の分析装置における断線判定方法を説明するフローチャートである。
【0010】
分析装置1は、図1に示すように、アーム部材2と、駆動部6と、分析部7と、液面検知回路8と、判定制御部9を備えている。
【0011】
アーム部材2は、支柱2aの上部にアーム2bが水平に支持され、アーム2bの先端側に電気伝導性を有するプローブ3が鉛直に支持されている。アーム2bは、内部にセンサ4が配置され、プローブ3と液面検知回路8とをセンサ4を介して接続する電線5が配線されている。センサ4は、プローブ3の下端が試薬10aの液面に接触或いは離脱することによる電気的変化を感知し、所定のアナログ信号を接触信号或いは離脱信号として液面検知回路8に出力する。
【0012】
駆動部6は、判定制御部9の制御の下に支柱2aを昇降および回動させ、アーム部材2に昇降動作および回動動作をさせる。これにより、プローブ3は、試薬容器10や検体容器から試薬10aや検体を所定位置に配置した反応容器に分注することができる。このとき、駆動部6は、支柱2aの昇降或いは回動を区別する信号を判定制御部9に出力している。これにより、判定制御部9は、駆動部6の昇降および回動に関する動きをモニタしている。
【0013】
分析部7は、判定制御部9の制御の下に試薬10aと検体とを反応させた反応容器内の反応液を光学的に測定することにより検体の成分や濃度等を分析し、分析結果を判定制御部9に出力する。
【0014】
液面検知回路8は、センサ4から出力されるアナログの接触信号或いは離脱信号によって試薬10aや検体の液面を検知すると共に、接触信号と離脱信号をデジタル信号に変換して駆動部6および判定制御部9に出力する。
【0015】
判定制御部9は、判定部9a、制御部9bおよび記憶部9cを備え、制御信号を出力して駆動部6の分注動作や分析部7の分析動作を制御する。判定部9aは、液面検知回路8から入力される接触信号や離脱信号に関する信号のタイミングに基づいて真の液面か否かを判定する。また、判定部9aは、アーム部材2の動作停止時に液面検知回路8から出力される信号の電圧値とアーム部材2の断線検知動作時に液面検知回路8から出力される信号の電圧値との差に基づいてアーム2b内に配線された電線5の断線の有無を判定する。制御部9bは、駆動部6や分析部7の作動を制御する。記憶部9cは、分析部7から出力される検体の分析結果を記憶する。
【0016】
ここで、アーム部材2の断線検知動作とは、試薬10aや検体が入っていない空の試薬容器10や検体容器を分注位置に配置し、試薬や検体の吸引動作と吐出動作をすることなく、駆動部6によってアーム部材2に昇降動作および回動動作をさせることをいい、以下の説明においてはこの動作をダミー動作と呼ぶ。このように、アーム部材2を駆動して電線5を動かすことにより、手作業で行う断線検知動作を機械的に行うのがダミー動作である。従って、試薬容器10や検体容器を配置することなく分注位置をブランクの状態にしておき、このブランク状態でアーム部材2に昇降動作および回動動作をさせてもよい。
【0017】
次に、図2に示すフローチャートを参照して、分析装置1の分析動作中に組み込まれ、判定制御部9の制御の下に実行される電線5の断線判定方法について説明する。
【0018】
まず、分析装置1のスイッチがオンされると、判定制御部9は、分析装置1の初期化処理を実行する(ステップS20)。次に、判定制御部9は、分析装置1のスイッチがオンされているが、アーム部材2が昇降動作および回動動作をしていない場合に電線5を流れる動作停止時の電圧値(V0)を取得する(ステップS21)。動作停止時の電圧値(V0)は、昇降動作および回動動作をしていないアーム部材2の動作停止時に液面検知回路8から出力される信号から検知するが、分析装置1の製造時にメーカーが測定して記憶部9cに記録しておくか、断線した電線5を新品に交換したときにユーザーが測定して記憶部9cに記憶しておき、この値を記憶部9cから読み出してもよい。
【0019】
次に、判定制御部9は、駆動部6に制御信号を出力してアーム部材2にダミー動作を実行させ、電線5を流れるダミー動作時の電圧値(Vd)を取得する(ステップS22)。次いで、判定制御部9は、取得した停止時の電圧値(V0)とダミー動作時の電圧値(Vd)との差に基づいて電線5の断線の有無を判定する(ステップS23)。この判定は、電圧値(V0)と電圧値(Vd)との差が予め設定した断線判定閾値Vtよりも小さいか否か、即ち、|Vd−V0|<Vtに基づいて行う。
【0020】
判定制御部9は、停止時の電圧値(V0)とダミー動作時の電圧値(Vd)との差が断線判定閾値Vtよりも小さい場合(ステップS23,Yes)に、電線5が断線していると判定し、断線告知処理をする(ステップS24)。断線告知処理は、制御部9bによる制御の下に、例えば、ディスプレイ上に断線の旨を表示するか、或いは警報を発生する等によって行う。これにより、オペレータは、引き続く分析装置1の分析処理を停止することによって試薬等を無駄にすることを回避することができる。また、オペレータは、分析処理の停止と併せて、サービスマンに断線の旨を通報し、メンテナンスを依頼する。この場合、分析装置1がネットワークを通じてメーカーの管理局と接続されている場合には、管理局へ断線の旨が自動的に通報されるようにしてもよい。一方、停止時の電圧値(V0)とダミー動作時の電圧値(Vd)との差が断線判定閾値Vt以上の場合(ステップS23,No)、判定制御部9は、電線5に断線がないものとして正常と判定する。
【0021】
ここで、図3を参照してこの断線判定における停止時の電圧値(V0)とダミー動作時の電圧値(Vd)との関係を説明する。まず、アーム部材2が昇降動作および回動動作をしていない動作停止時、断線がない正常な状態の電線5には、図3に示すように、停止時の電圧値(V0)が流れているとする。これに対し、アーム部材2がダミー動作をしているとき、断線がない正常な状態の電線5には、ピーク値が図3に示す動作時電圧値(Vdn)が流れている。一方、電線5が断線していると、アーム部材2がダミー動作をしているときには、図3に示すように、正常な場合よりもピーク値が低下した動作時電圧値(Vdb)が流れる。このため、正常な電線5の停止時電圧値(V0)と動作時電圧値(Vdn)との差|Vdn−V0|と、断線した電線5の停止時電圧値(V0)と動作時電圧値(Vdb)との差|Vdb−V0|との間は、大きな相違が生じる。このため、この相違を考慮した断線判定閾値Vtを予め決めておけば、電線5の断線の有無を判定することができることになり、本発明方法はこの原理に基づくものである。
【0022】
電線5が断線していない正常の場合、判定制御部9は、分析指示があるか否かを判定する(ステップS25)。この分析指示有無の判定は、分析装置1のキーボード等の入力装置から入力され、記憶部9cに記憶された記録から実行する。判定の結果、分析指示がある場合(ステップS25,Yes)、判定制御部9は、分析処理を実行した後(ステップS26)、ステップS21へ戻って動作停止時の電圧値(V0)を取得する以降の工程を繰り返す。このとき、ステップS26における分析処理を実行する検体数は、予め記憶部9cに記憶されている。従って、判定制御部9は、所定数検体を分析する毎にステップS21以降のステップを繰り返し、ダミー動作を実行させる。一方、分析指示がなかった場合(ステップS25,No)、判定制御部9は、分析終了指示があったか否かを判定する(ステップS27)。この分析終了指示有無の判定は、分析指示有無の判定の場合と同様に、記憶部9cに記憶された記録から実行する。
【0023】
判定の結果、分析終了指示がなかった場合(ステップS27,No)、判定制御部9は、ステップS25に戻って分析指示があるか否かの判定を繰り返す。これに対して、分析終了指示があった場合(ステップS27,Yes)、判定制御部9は、動作停止時の電圧値(V0)の取得(ステップS28)、ダミー動作時の電圧値(Vd)の取得(ステップS29)並びに取得した電圧値(V0)と電圧値(Vd)との差が予め設定した断線判定閾値Vtよりも小さいか否か(|Vd−V0|<Vt?)の判定を実行する(ステップS30)。
【0024】
そして、動作停止時の電圧値(V0)とダミー動作時の電圧値(Vd)との差が断線判定閾値Vtよりも小さい場合には(|Vd−V0|<Vt)、判定制御部9は、電線5が断線していると判定し、断線告知処理をする(ステップS24)。一方、電圧値(V0)と電圧値(Vd)との差が断線判定閾値Vt以上の場合には(|Vd−V0|≧Vt)、判定制御部9は、電線5が断線してなく、正常であると判定し、ステップS27における分析終了指示に従って分析装置1を停止する。
【0025】
従って、分析装置1は、電線5が断線していないことを判定して検体の分析作業を終了するので、電線5が断線していない正常状態で次回の分析作業を開始することができ、装置の信頼性が向上する。
【0026】
なお、分析装置1で使用するセンサ4は、液面を検知することができれば、例えば、プローブ3内の圧力変化を感知する圧力センサ、プローブ3内に生ずる気流を感知するセンサ或いはプローブ3と検体や試薬等の液体試料との間の静電容量を検出するセンサ等を用いることができる。また、電線5は、ケーブルであってもよい。さらに、上記実施の形態は、分析装置において可動部であるアーム部材に配線された電線の断線の有無を判定する場合について説明した。しかし、本発明の断線判定方法は、分析装置における電線の断線判定方法に限定されるものではなく、可動部と固定部との間を接続する電線であれば、どのような装置における電線の断線判定に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の断線判定方法を適用した分析装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の分析装置における断線判定方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の断線判定方法の断線判定における停止時電圧値と動作時電圧値との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1 分析装置
2 アーム部材
3 プローブ
4 センサ
5 電線
6 駆動部
7 分析部
8 液面検知回路
9 判定制御部
9a 判定部
9b 制御部
9c 記憶部
10 試薬容器
10a 試薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部と固定部との間を接続する電線の断線の有無を判定する断線判定方法であって、
前記可動部の動作停止時に前記電線を流れる電気量を検知する停止時検知工程と、
前記可動部に断線検知用のダミー動作を行わせ、前記電線を流れる電気量を検知する動作時検知工程と、
前記停止時検知工程で検知した電気量と前記動作時検知工程で検知した電気量との差に基づいて前記電線の断線の有無を判定する工程と、
を含むことを特徴とする断線判定方法。
【請求項2】
前記電線の断線の有無を判定する工程は、前記停止時検知工程で検知した電気量と、前記動作時検知工程で検知した電気量との差が予め設定した値よりも小さい場合に前記電線が断線していると判定することを特徴とする請求項1に記載の断線判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−303962(P2007−303962A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132554(P2006−132554)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】