説明

新たな質量分析信号の増幅技術

本発明は、新たな方式の質量分析信号の増幅技術に関する。より具体的には、本発明では、i)標的分子と選択的に結合するように表面を改質した金粒子に標的分子の存否を確認したい試料を接触させた後、ii)前記金粒子と標的分子との間で結合など相互作用が起これば、前記金粒子に修飾された低分子化合物が質量分析信号を発生し、iii)微量で存在する標的分子でも前記低分子化合物の質量信号を大規模に発生するようにすることで、信号の増幅が起こる新たな方式の検出方法とそのために分析システム、そして増幅用金粒子を提供する。本発明によれば、試料の前処理なしに所望の物質の信号を特異的に増幅できるので、標的分子を簡便、かつ、精密に測定できるという長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析による標的分子の検出に関する。より具体的に、本発明は低分子量有機分子で表面修飾された(surface-modified)金粒子を用いて生体分子などの標的分子を検出する新たな信号増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の平均寿命が延びると共に、出生率が低下していることから、人口の高齢化が進み、また、一方では肥満や生活習慣病にかかる人の増加のため、生活習慣病や慢性疾患などの複雑な疾病を正確に診断し、効果的に予防・治療することの重要性は日増しに高まっている。疾病などの診断に重要な端緒となる生体分子、即ち、バイオマーカー(biomarker)は大部分、体内又は試料中で非常に低い濃度で存在するため、超高感度(ultra-high sensitivity)の検出方法が必要である。現在まで知られている多くの測定方法はその感度において優れた結果を示しているが、大体次のような側面から不十分であったり、改善する余地がある。
(1)特定疾病、特定試料だけでなく、一般に使用され得る生物学的な信号増幅方法として使用され得るか?
(2)全般的に実験方法が容易であるか?
(3)非選択的吸着によって誘発される偽り信号の増幅を除去することが容易であるか?
(4)数多くの実験を行うにおいて費用的な側面から問題はないか?
【0003】
これらの要素は、制限された量の試料から精密な分析結果を得、更に正確な診断を行う上で重要な要件である。従って、このような意味で、同時に多様な疾患標識物質を比較分析できる測定方法を開発すれば、現存のELISAなどの分析方法、即ち、一回に1つの標識物質を分析しなければならない診断方法の限界を克服できるようになるだろう。
【0004】
質量分析法は、核酸、蛋白質、ペプチド、糖などの生体分子はもちろん、一般的な有機分子の質量と信号強度を測定することによって、分析対象となる標的分子の種類と量を正確に知らせることができる方法である。質量分析は、特定作用基の存在に拘らないため、理論的に適用可能な分子の範囲が広く、質量分析を利用すれば、しばしば複雑な試料中の多様な種類の標的分子を同時、かつ、正確に分析できるため、例えば、多様な疾患標識物質を同時に分析・診断するのに使用できる。
【0005】
質量分析は、試料のイオン化とイオンの検出方式によって多様な種類があるが、このような質量分析法の中でもマトリクス補助レーザ脱着イオン化-飛行時間(Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization-Time-Of-Flight、MALDI-TOF)方法が生体試料の質量分析に広く用いられてきた。MALDI-TOF方式の質量分析法は、多数の試料を迅速に測定しなければならない超高速診断のために、最も好適な質量分析法として知られている。しかしながら、MALDI-TOF方法で標的分子質量を直接測定することは敏感度が低下するため、少量のバイオマーカーを測定し難いという限界がある。また、バイオマーカーの存在有無だけでなく、その量に関する情報まで得るためには現在用いられているMALDI-TOF方法だけでは不十分であるのが現状である。従って、これを克服するためのMALDI-TOF高感度定量法の開発、ひいてはマトリクス補助方式ではなくても、微量生体分子を定量的に分析できる信号増幅が可能な質量分析方法の開発が切実に求められている。
【技術的な課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、1つの標的分子から数千又は数万倍に増幅された質量分析信号を放出できるシステムとそのための方法を考案することにある。
【技術的な解決方法】
【0007】
このような技術的課題を達成するために、本発明では表面を信号発生用低分子化合物で修飾した標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子とこれを用いた分析システム及び前記金粒子と分析システムを用いた標的分子の分析方法を提供する。
【0008】
本発明の一側面において、前記金粒子は信号発生部と連結部(linker)、捕獲子を備えている。前記信号発生部は、前記金粒子の表面に複数連結されており、前記表面で自己組織化単分子層(self assembled monolayer)をなす。前記連結部の一端は前記金粒子の表面に結合されており、この連結部の反対端は標的分子に特異的に結合するか、特異的に反応を起こす捕獲子に連結されている。ここで、前記信号発生部は複数の有機分子であって、前記金粒子の質量分析過程で前記金ナノ粒子から遊離して標的分子と質量が区別される大きさの有機カチオンを複数生成する。
【0009】
本発明の一実施態様において、前記信号発生部は一端部が金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記金粒子の表面に結合されており、反対側のエーテル末端部と、前記エーテル末端部に連結され、前記金粒子の表面に結合したアルカンチオール部を含有する。ここで、前記エーテル末端部は、エチレングリコール単位を1つ以上含むことが好ましい。本発明の一実施態様において、前記金粒子はレーザ脱着イオン化-飛行時間方式の質量分析で前記信号発生部の質量信号を発生する。
【0010】
本発明の他の側面においては、前記金粒子及び分析対象試料を表面に固定させることができる標的固定面を含む分析システムを提供する。このとき、前記標的固定面は固相の支持体を備えており、前記支持体の表面に標的分子の存否を分析する試料を共有結合又は非共有結合を通じて固定させることができることに特徴がある。本発明の一実施態様において、前記標的固定面は金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記標的固定面の表面と連結され、前記表面で自己組織化単分子層をなす複数の信号発生部、前記標的固定面の表面に結合している1つ以上の連結部及び前記連結部に結合し、標的分子を共有結合又は非共有結合を通じて固定する捕獲子を備えている。このとき、前記信号発生部は、前記金粒子の質量分析過程で前記金ナノ粒子から遊離して標的分子及び前記金粒子の信号発生部と質量が区別される大きさの有機カチオンを複数生成する有機分子である。
【0011】
本発明の更に他の側面においては、前記金粒子を用いて試料中の標的分子を分析する方法を提供する。この方法は、標的分子の存否を分析する試料と捕獲固定面を互いに接触させて捕獲混合物を生成する結合段階、前記捕獲混合物から非特異的に結合した金粒子を除去する選別段階と、前記選別段階を終了し、捕獲混合物に残っている金粒子を質量分析する段階を含み、このとき、前記捕獲固定面は標的分子と結合する前記捕獲子が前記金粒子表面の固相支持体上に固定されている。このとき、前記質量分析は、前記捕獲混合物を対象とした無マトリクス方式のレーザ脱着イオン化質量分析であっても良く、通常のMALDI-TOF質量分析であっても良い。また、前記選別段階と質量分析段階との間に捕獲混合物から結合した金粒子を分離し、この金粒子のみを質量分析することもできる。
【有利な効果】
【0012】
本発明の質量分析信号の増幅システムとその方法を用いれば、前処理の必要なしに分析対象となる標的分子の質量分析信号を特異的に増幅でき、他の物質による干渉なしに定量的な測定が可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、具体的な一実施態様を挙げて本発明に係る質量信号の増幅原理を図式化した図であって、AM-質量標識を信号発生部として採択した質量分析システムの分析過程を示す。
【図2】図2は、本発明の金粒子又は標的固定面に使用され得る信号発生部の具体的な一実施態様であって、硫黄-金結合を通じて金の表面に固定させることができるAM-質量標識分子の構造式を示す。
【図3】図3は、図2のAM-質量標識1とAM-質量標識2で金粒子又は標的固定面の表面に自己組織化単分子層(SAM)が形成された様子を示す図である。図3では連結部として機能するAM-質量標識2に捕獲子を連結していない状態を示す。
【図4】図4は、実施例2によってAM-質量標識1とAM-質量標識2を表面に連結するものの、捕獲子を連結していない金粒子で自己組織化単分子層の形成如何を質量分析した質量スペクトラムを示す。
【図5】図5は、グルタチオン標的分子を固定した標的固定面の表面でSAMの形成を確認できるMALDI-TOFスペクトラムを示す。
【図6】図6は、グルタチオン標的分子を固定した標的固定面の形成過程で各段階別にAM-質量標識分子がSAMを形成することを示す質量分析スペクトラムである。図6(a)と図6(c)はビオチン標的固定面、図6(b)と図6(d)はグルタチオン(GSH)標的固定面の分析結果であって、グラフ内の百分率は標的固定面の表面における標的分子の高精度を示す。
【図7】図7は、本発明に係るAM-質量標識の特異的質量信号の発生を証明する対照群実験である。図7(a)はビオチン標的分子が固定された標的固定面とニュートラアビジン捕獲子を備えた金粒子を反応させた場合の質量スペクトラムであり、図7(b)はビオチン標的分子が固定された標的固定面とミオグロビン捕獲子を備えた金粒子を反応させた場合の質量スペクトラムであり、図7(c)はビオチンが固定されていない標的固定面とニュートラアビジン捕獲子を備えた金粒子を反応させた質量スペクトラムである。
【図8】図8は、本発明に係るAM-質量標識の特異的質量信号の発生を証明する対照群実験である。図8(a)は図2のAM-質量標識1のSAMが形成されたSAM金板をMALDI-TOF分析した質量スペクトラムであり、図8(b)は同じSAM金板をマトリクスの形成なしにレーザ脱着イオン化分析したスペクトラムであり、図8(c)は同じSAM金板にAM-質量標識5のSAMが形成された金粒子を反応させた質量スペクトラムである。
【図9】図9は、AFP標的分子又はアディポネクチン標的分子を液状で質量分析した結果を示す質量スペクトラムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で実現しようとする核心的な技術は、金粒子が標的分子(target molecule)と選択的に結合するように表面を改質した後、標的分子との相互作用を前記金粒子で修飾された低分子化合物の質量分析を通じて検出するものであって、1つの標的分子が数多くの低分子化合物を通じて検出される形式の新たな信号増幅方法である。
【0015】
本発明の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子はその表面が有機分子で改質されて低分子量有機分子で修飾される。このような改質された金粒子は、信号発生部、連結部と捕獲子を備えている。本発明の金粒子で捕獲子は標的分子と特異的に結合する部分であり、連結部は前記捕獲子に一端が連結されており、反対端は前記金粒子に連結されている。一方、信号発生部は有機分子であって、信号の増幅のために金粒子の表面に多数結合されており、質量分析過程でレーザなどによって金粒子から遊離して標的分子と区別される有機カチオンを生成する。本発明において、前記信号発生部をなす有機分子は自己組織化単分子層(SAM)を形成する。自己組織化単分子層を用いれば、後述するように、マトリクスの形成を省略しても、質量信号を検出できる。また、SAMを形成すれば、生物学的標識をビーズに安定的に連結しやすくなる。
【0016】
本発明の金粒子は、捕獲子の数より遥かに多い数の信号発生部を含むので、微量試料又は痕跡試料中に存在するたった1つの標的分子が1つの金粒子に捕獲された場合にも、質量分析過程で前記金粒子から発生する多数の信号発生部分子又はそのフラグメント(fragment)によって増幅される2次質量信号を検出することによって、分析の敏感度を高めることに特徴がある。
【0017】
図1は、本発明の一部の実施態様を例に挙げてこのような原理を図式化した図であって、信号発生部を質量標識(mass tag)とした信号の増幅方式を示す。 図1(a)は、標的分子の捕獲と信号の増幅のための本発明の金粒子を用いて標的分子を検出する一態様である。 図1(a)の最左側の模式図は、標的分子を固定化できる表面を有する固相支持体を示す。この固相支持体に標的分子(白丸で示す)を固定する前処理を施した後(図1(a)の左側から2番目の模式図)、これに多様な種類の本発明に係る金粒子を加える(左側から3番目の模式図)。本発明の金粒子は、図1においてうねっている紐状の突起を備えた大きい白丸で示した。この模式図において放射状に丸に付いている突起は信号発生部を示し、黒半円状又はV字状部分は捕獲子を、捕獲子と大きい白丸を繋ぐ部分は連結部を示す。前記金粒子のうち、標的分子に特異的に結合するものだけが選別されて残される(図1(a)の左側から4番目の模式図)。続いて、この選別された金粒子は、質量分析過程でイオン化レーザなどによって金粒子から離脱するようになり(左側から5番目の模式図)、質量分析信号を発する(図1(a)の最後の模式図)。
【0018】
一方、本発明の他の実施態様である 図1(b)では図1(a)のような標的分子の固定化前処理を施さない。図1(b)では前記金粒子と固相支持体、そして固定されていない標的分子試料を混合して培養し、前処理は不要である(図1(b)の最左側の模式図)。標的分子とその他の分子を含む試料を加えて選別すれば、前記金粒子、標的分子、支持体が結合したものだけが残される(左側から2番目の模式図)。その後、この金粒子-標的分子-支持体は、図1(a)と同様の手順を経て質量分析信号を発するようになる。
【0019】
本発明の金粒子は、その大きさに特に制限はなく、用途に応じて適切な大きさを選択できる。即ち、ナノメートル規模のナノ粒子であっても良く、マイクロメートル規模のマイクロ粒子であっても良い。例えば、ナノ粒子の場合は細胞の表面のように微細な表面構造を有する対象の構造を区分しようとする際に有利であり得、マイクロ粒子の場合はコロイド状態での安全性が高く、表面改質が容易であるという長所があり、1粒子当りに表面に連結できる信号発生部の数が増加して信号の増幅が更に明確であるという利点がある。
【0020】
本発明において、前記金粒子で分析する標的分子とその特異的な捕獲のための捕獲子には特に制限がない。特異的な相互作用、例えば、水素結合により捕獲するか、高度に選択的な化学反応によって捕獲できる標的分子と捕獲子であれば、いずれも本発明の適用対象となる。従って、このような条件を満すあらゆる有機分子、無機分子、生体分子、巨大分子は標的分子になり得る。例えば、ビオチン(biotin)とアビジン(avidin)や小型リガンドとその蛋白質受容体の場合のように、小型有機分子を標的分子とし、捕獲子はそれに特異的に結合する蛋白質であり得る。もちろん、標的分子を蛋白質に、捕獲子を小型有機分子にする構成も可能である。或いは、クラウンエーテル(crown ether)又はクリプタンド(cryptand)とそれに特異的に結合するカチオンのように標的分子が無機イオンであり、捕獲子が有機分子で構成されることもできる。また、酵素とその非可逆的阻害剤(irreversible inhibitor)の場合(例えば、サリンなどの有機リン化合物とアセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase))のように、捕獲子と標的分子との間で特異的化学反応が起こり、共有結合を通じて互いに連結されるように構成することもできる。
【0021】
生体分子の場合、特異的な結合(specific binding)特性を示す多様な例があるので、本発明の標的分子として1つの好例となる。生体分子の中では、あらゆる生体分子、例えば、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物、脂質、炭水化物-蛋白質接合体(carbohydrate-protein conjugate)、脂質-蛋白質接合体がその対象となり得る。
【0022】
本発明の信号発生部は、自己組織化単分子層を形成する巨大分子ではなく、有機分子である。自己組織化単分子層(SAM)を形成する分子は、多様な長さと化学物質で製作できるので、多様な生物学的標的に対して質量値を異にする多様なSAM形成分子を生成して区別できる。このように、本発明において信号増幅の用途として用いられるSAM分子を増幅質量標識(amplifying mass tag)又はこれをAM-質量標識と略称する。
【0023】
本発明の一実施態様において、前記信号発生部は、一端部がアルカンチオール(alkanethiol)部位であって、金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記金粒子の表面に結合しており、その反対側にエーテル末端部を備えている。本発明の更に具体的な態様において、このエーテル末端部は1つ以上のエチレングリコール繰り返し単位を有することが好ましい。エチレングリコール繰り返し単位からなるエーテル末端部は、非特異的な蛋白質の吸着を抑止できる。このようなエチレングリコール繰り返し単位を有するAM-質量標識分子の例を図2に示す。図2に示したものを含む本発明に係るAM-質量標識は、MALDI-TOF質量分析などのレーザ脱着イオン化方式の質量分析時に特に金粒子から容易に離脱して質量分析信号を発生する。
【0024】
図1及び図2に示すように、本発明では標的分子毎に異なる捕獲子と異なるAM-質量標識を採択した金粒子を対応させることができる。このような複数の金粒子を用いて多様な標的分子を同時にマルチプレックス(multiplex)分析することもできる。質量分析は、微細な質量の差も容易に分析できるので、マルチ分析に適している。
【0025】
本発明の他の側面においては、このような金粒子を含む標的分子の分析システムを提供する。このような分析システムは、前記金粒子と分析対象試料を表面に固定させることができる標的固定面を含んでなる。このとき、前記標的固定面は、固相の支持体を備えており、前記支持体の表面に標的分子の存否を分析する試料を共有結合又は非共有結合を通じて固定させることができることに特徴がある。このような標的分子の分析システムは、図1(a)のように、標的固定面に試料を固定化する前処理を施して利用することもでき、図1(b)のように、前処理なしに利用することもできる。本発明の分析システムにおいて、標的固定面は固相の支持体上に標的分子を固定する手段を備えているが、そのために、支持体の表面を改質することもできる。標的分子の固定手段は特異的なものであることが好ましいが、本発明に係る金粒子の捕獲子が標的分子に特異的に結合できる以上、必ずしも特異的なものである必要はない。標的固定面の支持体の表面に標的分子を固定する方式は標的分子と表面、或いは改質表面の間に共有結合を形成するか、非共有結合(例えば、水素結合など分子間の力を利用した結合)を用いて固定する方式のどちらでも構わない。
【0026】
本発明の分析システムにおいて、前記標的固定面は支持体の素材として通常の材料、即ち、ガラス、シリコン、金属、半導体又はプラスチックを用いても良く、ある特定の実施態様では前記標的固定面が標的分子を含んで所定の生体試料から得たその他の生体分子が固定されたバイオチップであっても良い。例えば、特定状態の細胞から得た細胞溶解液(cell lysate)試料中の蛋白質を非特異的な共有結合の形成を通じて表面に固定したバイオチップであっても良い。
【0027】
本発明の一実施態様において、前記標的固定面は前記金粒子と同様に、低分子量有機分子の自己組織化単分子層と捕獲子を備えることができる。即ち、前記標的固定面は金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記標的固定面の表面と連結され、前記表面で自己組織化単分子層をなす複数の信号発生部、前記標的固定面の表面に結合している1つ以上の連結部と、前記連結部に結合し、標的分子を共有結合又は非共有結合を通じて固定する捕獲子を備えることができる。このとき、前記信号発生部は、前記金粒子の質量分析過程で前記金ナノ粒子から遊離して標的分子及び前記金粒子の信号発生部と質量が区別される大きさの有機カチオンを複数生成する有機分子(AM-質量標識)であることに特徴がある。本発明の更に具体的な態様においては、前記金粒子と前記標的固定面はアルカンチオール部とエチレングリコール繰り返し単位を備えた信号発生部の単一層を備えているものの、異なる信号発生部分子、即ち、AM分子を採択しており、捕獲子として同一の標的分子に対して特異的に結合する互いに異なる抗体を用いる。
【0028】
本発明の更に他の側面においては、このような標的固定面と金粒子を用いて試料中の標的分子を分析する方法を提供する。前記図1(a)のように、試料の前処理を伴う方法は、次のような段階を含んでなる。
【0029】
(i)試料を固相の支持体に接触させて試料中の物質(標的分子或いはその他の物質)を前記固相支持体の表面上に固定させた標的固定面を得る段階と、
(ii)本発明の金粒子に連結された捕獲子が標的分子と特異的に結合する条件の下で、第1項〜第8項のいずれか一項による金粒子と前記標的固定面を接触させて捕獲混合物を生成する段階と、
(iii)前記捕獲混合物から非特異的に結合した金粒子を除去する選別段階及び、
(iv)前記(iii)段階を終了し、捕獲混合物に残っている金粒子を質量分析する段階。
【0030】
一方、試料を標的固定面に固定せず、金粒子と試料を標的固定面と同時に培養して結合させる方法は、次のような段階を含む。
【0031】
(i)試料と第1項〜第8項のいずれか一項の金粒子に前記標的分子と結合する捕獲子が固相支持体の表面に固定されている捕獲固定面を互いに接触させて捕獲混合物を生成する段階と、
(ii)前記捕獲混合物から非特異的に結合した金粒子を除去する選別段階及び、
(iii)前記(ii)段階を終了し、捕獲混合物に残っている金粒子を質量分析する段階。
【0032】
本発明の標的分子の質量分析は、信号の増幅を利用するため、敏感度が高いだけでなく、質量分析器で検知される信号発生部の2次信号の強度を通じて標的分子の定量も行えるという有利な特徴がある。定量分析のためには、量を知っている内部標準物質(internal standard)とそれに対応する金粒子を用いる方法を利用できる。
【0033】
本発明の標的分子の分析方法は、試料を通じて金粒子と標的固定面が連結されている状態である捕獲混合物、特に、非特異的に標的固定面に結合していた金粒子を除去する選別を経た捕獲混合物を他の処理過程なしにそのまま使用できるという利点がある。本発明の信号発生部、即ち、AM-質量標識はレーザ脱着イオン化を通じて捕獲混合物から直ぐ分離されて質量分析信号を発生するカチオンを生成する。通常のレーザ脱着イオン化質量分析ではマトリクス形成物質と試料を混合してマトリクスを形成した後、このマトリクスにレーザを照射して分析対象物質を脱着、イオン化する方式であるマトリクス補助レーザ脱着イオン化(MALDI)を用いる。しかしながら、本発明の分析方法においては、このようなマトリクスを形成する必要なしに、選別を終了した捕獲混合物を直ちにレーザ脱着イオン化質量分析器に投入できるため、不要な過程を省略できる。本発明の金粒子がマルチ分析を裏付けると前述したことに加えて、最小限の選別過程を経た後、これ以上の試料処理なしに直ちに質量分析が可能であるので、本発明の分析方法は更に高速分析(high-throughput assay)に適している。一方、本発明の分析方法で捕獲混合物を通常のMALDI-TOF方式で分析すること、即ち、質量分析に先立ち、捕獲混合物にマトリクスを形成する段階を追加することも当然可能である。
【0034】
本発明の分析方法において質量分析方式は特に限定されず、質量分析装置内で金粒子から信号発生部を遊離できるあらゆる質量分析方法を用いることができる。そのうち、レーザ脱着イオン化質量分析は、前述したように、本発明の金粒子から質量分析信号を容易に発生させることができ、特に、生体分子試料のイオン化に適した方式である。レーザ脱着イオン化質量分析のうち、最も一般的なのはMALDI-TOF方式である。発売されている質量分析装置は大体MALDIイオン化とTOFイオン検出方式を結合するが、敢えてTOF検出方式に限定される必要はない。また、選別を終了した捕獲混合物から特異的に結合した金粒子又は結合した金粒子-試料のみを分離する段階を質量分析段階の前に追加することもできる。このように、金粒子のみを分離した場合はレーザ脱着イオン化方式ではなく、他のイオン化方式の質量分析装置にも本発明を適用できるようになる。
【0035】
普通のMALDI-TOF質量分析は、数ピコモル(picomole)の検出限界を有しているが、本発明で提示する信号増幅方式の分析方法を利用すれば、10-15モル(attomole)以下の痕跡試料も検出できる。
【発明の実施のための形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明する。下記の実施例、合成例などは本発明の例示であって、詳細に説明するためのものであり、いかなる場合でも本発明の範囲を制限するための意図ではない。
【0037】
<実施例1>AM分子の合成
第1段階:AM-質量標識の合成
長いアルキル基を持つ長鎖チオール(long chain thiol)に、多様な長さのエチレングリコール(ethylene glycol)繰り返し単位を部分結合して、図2に示すように、多様な質量値を有するAM-質量標識を合成した。
【0038】
<実施例2>捕獲子を備えた金粒子の製造
本発明に係る具体的な一態様において捕獲子を備えた金粒子を製造した。この粒子は、AM-質量標識からなる自己組織化単分子層中に連結部と捕獲子が含まれている構造である。表1に示すように、5種類金粒子を準備した。
【表1】

【0039】
AFPの多重クローン抗体としては、英国のAbcam製のab8201、単一クローン抗体としては、ab3980を用いた。アディポネクチンの多重クローン抗体としては、米国のR&D systems製のMAB1065、単一クローン抗体としては、MAB10651を用いた。
【0040】
前記金粒子の信号発生部は、図2に示すAM-質量標識1を金粒子に硫黄-金結合を通じて連結させ、連結部は、図2に示すAM-質量標識2を同様に硫黄-金結合を通じて粒子の表面に連結させた。捕獲子蛋白質を連結部に結合させる前にAM-質量標識1の自己組織化単分子層(SAM)が形成された様子を示したものが図3であるが、完成した金粒子は連結部として機能するAM-質量標識2のカルボキシ基末端と捕獲子蛋白質のアミノ基をペプチド結合により連結するようになる。
【0041】
第1段階:金粒子の表面に自己組織化単分子層(SAM)を形成
(1) 平均粒径が2μmの金粒子(gold bead、韓国の Nomadien製)1mgを無水エタノール(absolute ethanol)で洗浄した後、2分程度遠心分離した後、その上澄液を除去する。このような過程を3回繰り返す。
(2)前記金粒子懸濁液を5分間超音波処理(sonication)した後、無水エタノールで洗浄し、2分間遠心分離した後、その上澄液を除去する。このような過程を3回繰り返す。
(3)図2に示すAM-質量標識1(信号発生部として機能)の1mM無水エタノール溶液とAM-質量標識2(連結部として機能)の1mM無水エタノール溶液を体積比で1:99の割合で混ぜる。
(4)前記(2)の金粒子に前記(1)の混合溶液1mLを混ぜた後、回転器(rotator)を用いて暗室で1日間(約12時間以上)反応させる。
(5)前記反応混合物を5分程度遠心分離させた後、その上澄液を除去する。
(6)無水エタノール1mLを混ぜた後、約3分間遠心分離した後、その上澄液を除去する。この過程を5回繰り返す。その後、その結果を無水エタノールに入れて-20℃で保管する。
【0042】
図4は、金粒子の表面にAM-質量標識1の自己組織化単分子層(SAM)の形成を確認するためのMALDI-TOF質量スペクトラムである。図4の質量分析は、下記実施例8に記載するように、DHBをマトリクスとして用いて実施した。図4の質量分析において(s-EG-OH)+Naで示した最も強いピーク(m/z=694.183)はAM-質量標識1のアルカンチオール部位が二硫化物(disulfide、S-S結合)を形成した分子にナトリウムイオンが結合したイオン種である。図4では、その他にAM-質量標識2と1の結合イオンも観測でき、質量スペクトラムは金粒子の表面にAM-質量標識1が主化学種であるSAMが形成されたという結論に十分に符合する。
【0043】
第2段階:金粒子に捕獲子を結合
前記表1に示す5種類の捕獲子蛋白質を、ペプチド結合の形成を通じて第1段階で得た金粒子の表面に連結されたAM-質量標識2のCOOH末端に結合させた。
(1)1%のAM-質量標識2/99%のAM-質量標識1の単一層を形成した金粒子をPCRチューブに移動して遠心分離させた後、その上澄液を除去する。
(2)塩化メチレン(Methylence chloride)100μLを混ぜた後、遠心分離し(5000×g、5分)、その上澄液を除去する。この過程を3回繰り返す。
(3)N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)溶液(塩化メチレン中に5mg/mL)50μLを前記遠心分離した金粒子に混ぜた後、3分間反応させる。
(4)これに、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)溶液(塩化メチレン中に20mg/mL)20μLを混ぜた後、常温で2時間反応させる。
(5)遠心分離機を用いて(5000×g、5分)、その上澄液を除去する。
(6)前記金粒子に100μLの塩化メチレンを混ぜた後、遠心分離機を用いて(5000×g、5分)その上澄液を除去する。この過程を5回繰り返す。
(7)連結部に連結する捕獲子蛋白質の10μLのPBS溶液を各50μLずつ前記粒子に加えて混ぜた後、常温で1時間反応させる。捕獲子蛋白質は、それぞれGSTとミオグロビン(米国のSigma Aldrich製)、ニュートラアビジン(米国のPierce Biotech製)、AFP-特異的単一クローン抗体と多重クローン抗体(英国のAbcam製)、アディポネクチン-特異的単一クローン抗体1(米国のR&D systems製)であった。
(8)遠心分離機を用いて(5000×g、5分)、その上澄液を除去する。
(9)金粒子にPBSを混ぜた後、遠心分離機を用いて(5000×g、5分)、その上澄液を除去する過程を2回繰り返した後、チューブに移動する。
(10)無水エタノールに入れて完成した金粒子を-20℃で使用前まで保管する。
【0044】
<実施例3>捕獲分子が予め固定されている標的固定面の準備
ビオチン又はグルタチオン標的分子が化学結合により固定されている標的固定面を製造した。
【0045】
グルタチオン標的分子が捕獲されている標的固定面の製造
(1)シリコンウエハの表面にチタニウム(100Å)を真空積層した後、金(900Å)を積層して金めっき板を製作した。この金めっき板を適切な大きさ、例えば、横×縦が5×5mmの大きさに切断する。
(2)AM-質量標識1の1mM無水エタノール溶液と図2のAM-質量標識3の1mM無水エタノール溶液を所望の体積割合(約90:10から99.9999999:0.0000001まで)で混ぜる。
(3)(2)段階で作ったエタノール溶液中に前記金めっき板を沈漬した後、暗室で1日間反応させて自己組織化単分子層(SAM)を形成する。
(4)このように得られたSAM金板に無水エタノールを散布して洗浄した後、窒素(N)気体で乾燥させる。
(5)DMSOとPBSを1:1(v/v)で混合した溶液を用いて50mMのN-スクシンイミド3-マレイミドプロピオネート(N-succinimidyl 3-maleimidopropinate)溶液を作る。
(6)SAM金板に50mMのN-スクシンイミド3-マレイミドプロピオネート(N-succinimidyl 3-maleimidopropinate)溶液10μLを乗せて常温で4時間反応させてマレイミドSAM金板を製造する。
(7)DMSO/PBS(1:1)溶液を用いてマレイミドSAM金板を軽く洗浄する。
(8)無水エタノールを散布して洗浄した後、N気体で乾燥させる。
(9)マレイミドSAM金板に50mMのグルタチオン(PBS溶液)10μLを乗せて常温で2時間反応させてGSH SAM金板を製造する。
(10)反応させたGSH SAM金板をPBSで軽く洗浄する。
(11)無水エタノールを散布して洗浄した後、N気体で乾燥させる。
【0046】
図5に示す質量スペクトラムは順に、前記(4)段階を終了したSAM金板(1%のNH SAM金板)、マレイミドSAM金板(1%のマレイミドSAM金板)とGSH SAM金板のMALDI-TOF分析結果として前記金板の表面にSAMが形成されたことを示す。(4)段階を終了したSAM金板では、図4と同様に、AM-質量標識1の両分子間の二硫化物である(s-EG-OH)+Naイオンを観測できる。1%のマレイミドSAM金板ではAM-質量標識1とマレイミドがAM-質量標識3に連結された分子間の二硫化物であるイオン種(s-EG-OH)-(s-EG-maleimide)+Naを観測できる。1%のGSH SAM金板では、最終的にビオチン標的分子が連結されたAM-質量標識3とAM-質量標識1間の二硫化物である(s-EG-OH)-(s-EG-GSH)+Naを観測できる。
【0047】
ビオチン標的分子が捕獲されている標的固定面の製造
前記N-スクシンイミド3-マレイミドプロピオネートの代わりに、50mMのスルホクシンイミド-6-(ビオチンアミド)ヘキサンノーエイト(sulfosuccinimdyl-6-(biotinamido)hexanoate)のPBS溶液を10μL用いたことを除けば、グルタチオン標的分子固定面と同一の方法で製造した。
【0048】
<実施例4>標的分子が固定されている標的固定面の質量分析
実施例2で製造したGST捕獲子を備えた金粒子(表1の金粒子1)で実施例3で製造したGSH標的分子が固定された標的固定面を、ニュートラアビジン捕獲子を備えた金粒子(表1の金粒子2)でビオチン標的固定面を分析した。1mgのニュートラアビジン又はGST金粒子を100μLのPBS中に懸濁した後、この懸濁液10μLをビオチン又はGSH標的固定面に加えた。5分後、標的固定面をPBSと蒸留水で洗浄した後、窒素を流して乾燥させ、質量分析を行った。
【0049】
図6は、このような質量分析結果を示す質量スペクトラムである。図6(a)と図6(c)は、ビオチン標的固定面を分析した実験であり、図6(b)と図6(d)は、グルタチオン(GSH)標的固定面を分析した実験である。図6の質量スペクトラムにおいてグラフ内の百分率は標的固定面全体における標的分子の固定密度を示すが、このような固定密度は前記実施例3で標的固定面の製造時に標的分子が連結されるAM-質量標識3とAM-質量標識1の割合を調節する段階(即ち、実施例3の(2)段階)で質量標識間の混合割合を調節することによって定められる値である。
【0050】
図6(a)は、ニュートラアビジン捕獲子を備えた金粒子を使用せず、遊離したニュートラアビジンを直接ビオチン標的固定面に結合させた後、これを通常のMALDI-TOF分析した質量スペクトラムである。ニュートラアビジン蛋白質の質量信号(14.6kDa)をビオチンの固定密度が1%である場合には観測できるが、それ以下では観測が難しい。従って、本発明に係る金粒子を使用しない直接蛋白質分析では標的分子の固定密度は、1%の水準が観測下限値であることが分かる。図6(c)の実験では、本発明に係る金粒子(表1の金粒子2)を用いて、無マトリクス方式のレーザ脱着イオン化-TOF分析を行った。その結果、図7(c)の実験では10%の低い固定密度でも金粒子の表面から由来したAM-質量標識1の二硫化物のピークである693.2信号を観測でき、信号増幅効果が極めて優れていることが明確に分かる。
【0051】
グルタチオン(GSH)標的固定面の分析結果もこれと類似する。図6(b)は、グルタチオン標的固定面をグルタチオン-S-伝達酵素蛋白質(GST、27.0kDa)で直接MALDI-TOF分析した結果である。5%以上の表面にGSH標的分子が固定された場合にのみGST質量信号が観測されることが分かる。本発明の金粒子(表1の粒子1)を用いた無マトリクス方式で質量分析した図6(d)では10-4水準の固定密度でも本発明に係る信号発生部の2次信号(693.2、図6(c)と同一にAM-質量標識1の二硫化物)を観測できる。
【0052】
<実施例5>信号発生の特異性:非特異的信号が発生するか否か
実施例4と図6を通じて本発明の原理を1つの具体例を挙げて立証した。本発明者らは、図6のm/z=693.2信号が標的分子と捕獲子とが非特異的に結合したためであるか、捕獲子と標的分子の結合と関係なく、標的固定面や金粒子から信号発生部が遊離したため、観測されたものではないという点を明確にするために、次のような対照群の実験を行った。
【0053】
図7(a)は、陽性対照群の実験であって、実施例3で製造したビオチン標的固定面にニュートラアビジン捕獲子を備えた金粒子を反応させた結果である。AM-質量標識1の二硫化物信号(693.2)を明確に観測できる。図7(b)は、前記ビオチン標的固定面にミオグロビン捕獲子を備えた金粒子(表1の金粒子5)を反応させた結果を示す。図7(a)と図7(b)の信号発生部はAM-質量標識1で同一であるが、捕獲子が標的分子に対して特異性がない図7(b)の場合は693.2信号が現れない。図7(c)は、標的分子が固定されていない標的固定面とニュートラアビジン金粒子を反応させた質量分析の結果である。図7(c)に用いられた標的固定面は実施例3の(4)段階を終了した標的固定面、即ち、AM-質量標識1と3でSAM形成した標的固定面である。図7の結果を見ると、捕獲子と標的分子が反応混合物中に存在し、その間に特異的結合性がある場合にのみ本発明に係る間接的信号を観察できるということが分かる。
【0054】
図7では標的固定面と金粒子の両側にAM-質量標識が共通して含まれていたので、693.2の信号の根源が標的固定面ではないと完全に排除することは難しかった。本発明者らは下記図8に示す実験を通じて金粒子からのみからのみ信号発生部が離脱したため信号が観測されたわけではないという点を明確にするために次のような対照群の実験を行った。即ち、標的固定面のSAMの構成成分としてはAM-質量標識1を用い、金粒子の信号発生部としては図2のAM-質量標識5を用いてどの質量標識が信号として観測されるかを詳察した。
【0055】
図8(a)は、陽性対照群の実験であって、AM-質量標識1の自己組織化単分子層のみを表面に備えたSAM金板に対して通常のMALDI-TOF分析(DHBをマトリクスとして使用、実施例8参照)した結果である。標的分子と金粒子を使用しないこの場合にMALDI-TOF質量スペクトラムでAM-質量標識1の二硫化物信号を観測できる。図8(b)は、同じSAM金板に対してやはり金粒子を加えず、マトリクスの形成なしにレーザ脱着イオン化質量分析した結果である。この場合、SAM金板から由来するAM-質量標識1の二硫化物信号(693.2)が観測されないことが分かる。図8(c)は、AM-質量標識5の信号発生部を備えた金粒子を同じSAM金板に加え、マトリクスの形成なしにレーザ脱着イオン化質量分析した結果である。図8(c)の質量スペクトラムでは金粒子から由来するAM-質量標識5の二硫化物信号(780.6)は観測されるが、SAM金板から由来する693.2信号は観測されない。
【0056】
このように、本発明に係るAM-質量標識を用いる場合、マトリクスの形成なしにレーザ脱着イオン化方式の質量分析が可能であるだけでなく、標的固定面から非特異的な信号の発生・検出を排除でき、高度に特異的な標的分子の検出が可能である。本発明に係る質量分析において質量信号は標的固定面ではなく、金粒子の信号発生部から由来する。
【0057】
<実施例6>抗体捕獲子を有する標的固定面の製造
実施例3、4のように、標的分子を固定せず、液体状態の試料に存在する標的分子の分析のために前記表1の金粒子3と4に適用する標的固定面を製造した。この標的固定面は、金粒子と別途に表面に捕獲子を備えているが、金粒子と標的固定面の捕獲子としては、1つの共通の標的分子に特異的に結合する単一クローン抗体を用いた。
【0058】
簡略に、AM-質量標識1のエタノール溶液とAM-質量標識2のエタノール溶液を99:5の体積比で混合した溶液に金チップを12時間沈漬した。この金チップを無水エタノールで洗浄し、窒素下で乾燥させた。この金チップをNHS(20mg/mLのPBS溶液)7μLとEDC(20mg/mLのPBS溶液)3μLで2時間処理し、PBSで洗浄した後、窒素下で乾燥させた。該当単一クローン抗体を含有する3.3μMのPBS溶液10μLをこの金チップに加えて1時間培養した後、PBSで洗浄して乾燥させ、4℃で保管した。単一クローン抗体としては、抗AFP抗体(表1の金粒子3に対応)又は抗アディポネクチン抗体(表1の金粒子4に対応)を用いた。
【0059】
<実施例7>アディポネクチン、AFP標的分子の液状分析
実施例6で製造した標的固定面と実施例2の金粒子3又は4をそれぞれ液状試料中のAFP又はアディポネクチン標的分子に対して適用した。簡略に、実施例6の標的固定面にAFP又はアディポネクチン抗原を5μL加えたが、最終の抗原濃度は1pMから1aM(=10-18M)にかけて変化させた。30分後、これに抗体捕獲子を備えた金粒子の懸濁液(10mg/mL PBS懸濁液)10μLを加え、30分間培養した。この捕獲混合物をPBSと蒸留水で洗浄し、窒素で乾燥させた後、マトリクスの形成なしに直ちにレーザ脱着イオン化質量分析を行った。
【0060】
図9は、質量分析結果を示す。図9(a)は、アディポネクチン標的分子に対して互いに異なる単一クローン抗体をそれぞれ金粒子と標的固定面の捕獲子として用いた場合である。図9(a)で金粒子の信号発生部から由来した693.2信号を1aM水準の低い試料濃度でも観測でき、本発明に係る超高感度の検出特性が分かった。AFPを対象とした図9(b)の実験でも少なくとも10aM水準の検出限界を確認することができた。
【0061】
このように、本発明の信号増幅方式の質量分析法は、痕跡量水準の標的分子の存在も特異的に検出できるという長所を有するということを実施例を通じて確認した。
【0062】
<実施例8>標的分子の質量分析条件
質量分析機器としては、AutoflexIII MALDI-TOF質量分析器(ドイツのBruker Daltonics製)を用い、イオン化源としては、SmartBeamレーザを用いた。全ての質量スペクトラムは19kVの加速電圧、50Hzの繰り返し速度の陽性モード(positive mode)下で平均1000回又は500回測定して得た。
【0063】
試料中の標的分子が捕獲された捕獲混合物はマトリクスの形成なしに直ちに質量分析器に投入した。金粒子又は標的固定面でAM-質量標識の自己組織化単分子層が形成されたか否かはReflectron Positive modeでMALDI-TOF測定したが、この際は2,5-ジヒドロキシベンゾ酸(DHB、5mg/mLアセトニトリル溶液)をマトリクスとして用いた。AM-質量標識の間接信号ではなく、標的分子蛋白質の信号を直接確認した実験では、Linear Positive modeでシナピン酸(sinapinic acid(SA)、5mg/mLのアセトニトリル溶液)をマトリクスとして用いて測定した。
以上のように、本発明の好適な実施態様の例を上げて本発明の技術的思想を説明した。本明細書の詳細な説明と実施例に用いられた用語は該当分野において通常の技術者に本発明を詳細に説明するための目的として用いられたものに過ぎず、ある特定の意味に限定したり、請求範囲に記載された発明の範囲を制限したりするための意図ではなかったことを明確にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が有機分子で改質された金粒子であって、
前記金粒子は前記金粒子の表面に連結されており、前記表面で自己組織化単分子層をなす複数の信号発生部と、
前記金粒子の表面に結合している1つ以上の連結部と、
前記連結部に連結されており、標的分子に特異的に結合したり、特異的に反応を起こす捕獲子とを備えてなり、
前記信号発生部が、前記金粒子の質量分析過程で前記金ナノ粒子から遊離して標的分子と質量が区別される大きさの有機カチオンを複数生成する有機分子であることを特徴とする、標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項2】
前記金粒子が、捕獲子を異にする多様な種類の金粒子が含まれている集合であり、各捕獲子別に信号発生部を異にすることを特徴とする、請求項1に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項3】
前記標的分子が、生体分子であることを特徴とする、請求項1に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項4】
前記捕獲子が、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物、脂質、炭水化物-蛋白質接合体、脂質-蛋白質接合体及び小型有機分子からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項5】
前記捕獲子が蛋白質であり、前記連結部にペプチド結合により連結されていることを特徴とする、請求項4に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項6】
前記信号発生部が、一端部がアルカンチオール部位であって、金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記金粒子の表面に結合しており、
反対側にエーテル末端部を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項7】
前記エーテル末端部が、エチレングリコール単位を1つ以上含むことを特徴とする、請求項6に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項8】
前記質量分析が、レーザ脱着イオン化-飛行時間方式であることを特徴とする請求項1に記載の標的分子の捕獲と信号の増幅のための金粒子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項の金粒子及び分析対象試料を表面に固定させることができる標的固定面を含む分析システムであって、
前記標的固定面が固相の支持体を備えており、前記支持体の表面に標的分子の存否を分析する試料を共有結合又は非共有結合を通じて固定させることができることを特徴とする、標的分子の分析システム。
【請求項10】
前記固相の支持体が、ガラス、シリコン、金属、半導体及びプラスチックで構成された群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の標的分子の分析システム。
【請求項11】
前記標的固定面が、バイオチップであることを特徴とする、請求項9に記載の標的分子の分析システム。
【請求項12】
前記標的固定面が、
金-硫黄(Au-S)結合を通じて前記標的固定面の表面と連結され、前記表面で自己組織化単分子層をなす複数の信号発生部と、
前記標的固定面の表面に結合している1つ以上の連結部と、
前記連結部に結合し、標的分子を共有結合又は非共有結合を通じて固定する捕獲子とを備えてなり、
前記信号発生部が、前記金粒子の質量分析過程で前記金ナノ粒子から遊離して標的分子及び前記金粒子の信号発生部と質量が区別される大きさの有機カチオンを複数生成する有機分子であることを特徴とする、請求項9に記載の標的分子の分析システム。
【請求項13】
前記標的固定面の信号発生部が、エーテル末端部と前記エーテル末端部に連結され、前記金粒子の表面に結合したアルカンチオール部を含有することを特徴とする、請求項12に記載の標的分子の分析システム。
【請求項14】
前記エーテル末端部が、エチレングリコール単位を1つ以上含むことを特徴とする、請求項13に記載の標的分子の分析システム。
【請求項15】
前記金粒子の捕獲子と前記標的固定面の捕獲子が、前記標的分子に特異的に結合する同一の抗体又は互いに異なる抗体であることを特徴とする、請求項12に記載の標的分子の分析システム。
【請求項16】
質量分析を用いて試料中の標的分子の存否を検出する方法において、
(i)前記試料を固相の支持体に接触させて試料中の物質を前記固相支持体の表面上に固定させた標的固定面を得る段階と、
(ii)前記金粒子に連結された捕獲子が標的分子と特異的に結合する条件の下で、請求項1〜8のいずれか一項による金粒子と前記標的固定面を接触させて捕獲混合物を生成する段階と、
(iii)前記捕獲混合物から非特異的に結合した金粒子を除去する選別段階と、
(iv)前記(iii)段階を終了し、捕獲混合物に残っている金粒子を質量分析する段階とを含んでなる、標的分子の質量分析検出方法。
【請求項17】
質量分析を用いて試料中の標的分子の存否を検出する方法において、
(i)前記試料と請求項1〜8のいずれか一項の金粒子に前記標的分子と結合する捕獲子が固相支持体の表面に固定されている捕獲固定面を互いに接触させて捕獲混合物を生成する段階と、
(ii)前記捕獲混合物から非特異的に結合した金粒子を除去する選別段階と、
(iii)前記(ii)段階を終了し、捕獲混合物に残っている金粒子を質量分析する段階とを含んでなる、標的分子の質量分析検出方法。
【請求項18】
前記非特異的に結合した金粒子を除去する段階が、前記捕獲混合物の洗浄を含むことを特徴とする、請求項16又は17に記載の標的分子の質量分析検出方法。
【請求項19】
前記質量分析が、前記捕獲混合物に対する無マトリクス方式のレーザ脱着イオン化によりなされることを特徴とする、請求項16又は17に記載の標的分子の質量分析検出方法。
【請求項20】
前記質量分析が、マトリクス補助レーザ脱着イオン化-飛行時間質量分析によりなされることを特徴とする、請求項16又は17に記載の標的分子の質量分析検出方法。
【請求項21】
前記捕獲混合物の選別段階と質量分析段階との間に、
前記選別された捕獲混合物から金粒子を分離する段階を更に含んでなり、
前記質量分析段階が、前記分離された金粒子を対象としてなされることを特徴とする、請求項16又は17に記載の標的分子の質量分析検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−516880(P2011−516880A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503911(P2011−503911)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/KR2009/001839
【国際公開番号】WO2009/125989
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510268532)プロバイオン、カンパニー、リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PROBIOND CO., LTD.
【Fターム(参考)】