説明

新規なアミダーゼ及びその遺伝子

【課題】アンモニア耐性が高い、アミダーゼ活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子の提供。
【解決手段】シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095から新規なアミダーゼを単離し、その遺伝子を同定した。そのアミダーゼは、アンモニア耐性が高く、かつ2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して非常に高い比活性を示す。すなわち、(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示し、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDa、(d)活性の至適温度が60から70℃、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア耐性が高い新規なアミダーゼ、アミダーゼ活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
アミダーゼは、アミドを加水分解して対応するカルボン酸に変換する酵素として知られている。アミダーゼを用いることによって、アミドから医農薬原料等に有用なカルボン酸を生成することができる。アミダーゼを用いると、例えば、α−アミノ酸アミドからα−アミノ酸を、α−ヒドロキシ酸アミドからα−ヒドロキシ酸を生産することができる。
【0003】
微生物由来のアミダーゼは、Arthrobacter sp. J-1、Brevibacterium sp. R 312、Aspergillus nidulans、Pseudomonas chlororaphis B23、及びシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)などから精製されている(例えば非特許文献1〜7参照)。
一方、Pseudomonas aeruginosa、Aspergillus oryzae、Rhodococcus sp.、Pseudomonas chlororaphis B23、Rhodococcus sp. N-774、Brevibacterium sp. R312、Rhodococcus rhodochrous J1、Pseudomonas putida、Bacillus stearothermophilus BR388、Agrobacterium tumefaciens d3、Sulfolobus solfataricus、及びRhodococcus erythropolis MP50などの微生物からは、アミダーゼ遺伝子がクローニングされており、その結果、種々のアミダーゼのアミノ酸配列が明らかになっている(例えば非特許文献8〜19参照)。
【0004】
アミダーゼ遺伝子に関する特許文献としては、Brevibacterium R312とRhodococcus(特許文献1)、Comamonas testosteroni NI 1(特許文献2)、Comamonas acidovorans KPO-2771-4(特許文献3)、Rhodococcus rhodochrous IFO 15564(特許文献4)、Enterobacter cloacae(特許文献5)、Pseudomonas putida(特許文献6)、Rhodococcus sp. (特許文献7)、Brevibacillus borstelensis(特許文献8)、Pseudomonas azotoformans IAM 1603(特許文献9)、Ochrobactrum anthropi NCIMB 40321(特許文献10)、Thermus sp. (特許文献11)、Pseudomonas sp. MCI 3434とPseudomonas aeruginosa PAO1(特許文献12)、Thermococcus GU5L5(特許文献13)、Variovorax paradoxus DSM 14468(特許文献14)、及びComamonas testosteroni 5-MGAM-4D(特許文献15)に関するものなどがある。また、本発明のアミダーゼ遺伝子の採取源であるシュードノカルディア・サーモフィラ由来のアミダーゼ及びその遺伝子も知られている(特許文献16)が、このアミダーゼは本発明のアミダーゼとは構造が明確に異なり、また、酵素学的性質も明らかに異なっている。
【0005】
このように、種々の微生物において、アミダーゼ及びアミダーゼ遺伝子が知られてはいたものの、これらの微生物又は酵素を用いて、工業的に、α−アミノ酸アミド又はα−ヒドロキシ酸アミドからα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸を生産しようとする場合、副生するアンモニアによって、アミダーゼ活性が強く阻害され、カルボン酸の生産効率が低下したり、カルボン酸の生産が停止するという問題があった(例えば非特許文献20参照)。なお、シュードノカルディア・サーモフィラの菌体を利用したDL−メチオニンの製造法は知られていた(特許文献17参照)が、アンモニア耐性を有するアミダーゼについての知見は全く得られていなかった。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5260208号明細書
【特許文献2】国際公開第94/17190号パンフレット
【特許文献3】特開平8−256771号公報
【特許文献4】特開平9−9973号公報
【特許文献5】米国特許第6617139号明細書
【特許文献6】米国特許第6251650号明細書
【特許文献7】国際公開第01/30994号パンフレット
【特許文献8】国際公開第03/008569号パンフレット
【特許文献9】特開2003−250558号公報
【特許文献10】国際公開第03/010312号パンフレット
【特許文献11】国際公開第03/020929号パンフレット
【特許文献12】特開2004−105152号公報
【特許文献13】国際公開第03/027315号パンフレット
【特許文献14】米国特許出願公開2003/0186423号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開2004/0225116号明細書
【特許文献16】国際公開第2004/083423号パンフレット
【特許文献17】特開2004−254690号公報
【非特許文献1】Y. Asano et al., 1982, Agric. Biol. Chem. 46:1175-1181
【非特許文献2】A. Thiery et al., 1986, J. Basic Microbiol. 26:299-311
【非特許文献3】J-F. Mayaux et al., 1990, J. Bacteriol. 172:6764-6773
【非特許文献4】C. M. Corrick et al., 1987, Gene 53:63-71
【非特許文献5】J. A. Fraser et al., 2002, Fungal Genet. Biol. 35:135-146
【非特許文献6】L. M. Ciskanik et al., 1995, Appl. Environ. Microbiol. 61:998-1003
【非特許文献7】K. Egorova et al., 2004, Appl. Microbiol. Biotechnol. 65:38-45
【非特許文献8】W. J. Brammar et al., 1987, FEBS Lett. 215:291-294
【非特許文献9】K. Gomi et al., 1991, Gene 108:91-98
【非特許文献10】J-F. Mayaux et al., 1991, J. Bacteriol. 173:6694-6704
【非特許文献11】M. Nishiyama et al., 1991, J. Bacteriol. 173:2465-2472
【非特許文献12】Y. Hashimoto et al., 1991, Biochim. Biophys. Acta 1088:225-233
【非特許文献13】F. Soubrier et al., 1992, Gene 116:99-104
【非特許文献14】M. Kobayashi et al., 1993. Eur. J. Biochem. 217:327-336
【非特許文献15】S. Wu et al., 1998, DNA Cell Biol. 17:915-920
【非特許文献16】T. K. Cheong and P. J. Oriel, 2000, Enzyme Microb. Technol. 26:152-158
【非特許文献17】S. Trott et al., 2001, Microbiology 147:1815-1824
【非特許文献18】A. S. d’Abusco et al., 2001, Extremophiles 5:183-192
【非特許文献19】S. Trott et al., 2002, Appl. Environ. Microbiol. 68:3279-3286
【非特許文献20】M. J. Woods et al., 1979, Biochim. Biophys. Acta 567:225-237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、公知のアミダーゼ活性を示す微生物又はそれから得られたアミダーゼ酵素等を用いて、工業的に、α―アミノ酸アミド又はα―ヒドロキシ酸アミドからα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸を生産しようとする場合、副生するアンモニアによって、アミダーゼ活性が強く阻害され、カルボン酸の生産効率が低下したり、カルボン酸の生産が停止するという問題があった。本発明の課題は、アンモニア耐性が高い、アミダーゼ活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095から新規なアミダーゼを単離し、そのアミダーゼのアンモニア耐性が高いことを見出すと共に、その遺伝子を同定することにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示し、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示すアミダーゼや、(2)シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)に由来することを特徴とする上記(1)記載のアミダーゼに関する。
【0010】
また本発明は、(3)(g)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質又は(h)配列番号10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質や、(4)(i)配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質又は(j)配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質に関する。また本発明は、(5)(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す上記(3)〜(4)のいずれか記載のタンパク質や、(6)(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す上記(3)〜(5)のいずれか記載のタンパク質や、(7)シュードノカルディア・サーモフィラに由来することを特徴とする上記(3)〜(6)のいずれか記載のタンパク質に関する。
【0011】
さらに本発明は、(8)前述の(3)〜(7)のいずれか記載のタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNAや、(9)(k)配列番号9に示される塩基配列からなるアミダーゼ遺伝子DNA又は(l)配列番号9に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNAや、(10)配列番号9に示される塩基配列からなるDNAに対して相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNAに関する。また本発明は、(11)アミダーゼ活性を有するタンパク質が、(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す性質を有するタンパク質であることを特徴とする上記(9)又は(10)記載のアミダーゼ遺伝子DNAや、(12)アミダーゼ活性を有するタンパク質が、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す性質を有するタンパク質であることを特徴とする上記(9)〜(11)のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNAや、(13)アミダーゼ活性を有するタンパク質が、シュードノカルディア・サーモフィラに由来することを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNAに関する。
【0012】
また本発明は、(14) 前述の(8)〜(13)のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNAが組み込まれた組換えベクターに関する。
【0013】
さらに本発明は、(15) 前述の(14)記載の組換えベクターが導入されたことを特徴とする形質転換微生物に関する。
【0014】
また本発明は、(16) 前述の(1)若しくは(2)記載のアミダーゼ又はその生産菌若しくはその処理物、あるいは、前述の(3)〜(7)のいずれか記載のタンパク質又は上記(15)記載の形質転換微生物若しくはその処理物を、アミドに作用させることを特徴とするカルボン酸の製造方法や、(17) アミドがα−アミノ酸アミド又はα−ヒドロキシ酸アミドであり、カルボン酸がα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸であることを特徴とする上記(16)記載のカルボン酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアンモニア耐性が高いアミダーゼを用いると、工業的にアミドからカルボン酸を生産しようとする場合、副生するアンモニアによって反応速度が低下することが少ないので、効率の良い生産プロセスの構築が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のアミダーゼとしては、(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示し、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示すアミダーゼであれば特に制限されるものではなく、かかるアミダーゼとして、シュードノカルディア・サーモフィラに由来するアミダーゼを好適に例示することができる。以下、上記本発明のアミダーゼを総称して「本件アミダーゼ」ということがある。
【0017】
本発明において、「シュードノカルディア・サーモフィラに由来するアミダーゼ」とは、実際にシュードノカルディア・サーモフィラに存在するアミダーゼのほか、そのアミダーゼと同一又は類似である限り、形質転換等の手法を用いてシュードノカルディア・サーモフィラ以外の微生物等によって発現されたアミダーゼも含む意味で用いられる。
【0018】
また本発明において、「pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示す」とは、pH及びアンモニア濃度以外の条件については好適な条件にした上で、pH9.0及びアンモニア濃度0.2Mとした場合に示す、メチオニンアミドに対するアミダーゼの比活性が、pH9.0及びアンモニア濃度0Mとした場合に示すメチオニンアミドに対するアミダーゼの比活性の50%以上であることを意味し、例えば後述の実施例6の(6)に記載された方法にしたがって調べることができる。また、「メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す」とは、好適な条件下において、メチオニンアミドに対して示すアミダーゼの比活性と比較して、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して示すアミダーゼの比活性の方が高いことを意味し、さらに、好ましくは、前述の2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して示すアミダーゼの比活性が、前述のメチオニンアミドに対して示すアミダーゼの比活性の2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上であることを意味する。
【0019】
本件アミダーゼの製造方法としては、シュードノカルディア属に属する本件アミダーゼ生産菌を培地で培養し、本件アミダーゼを採取する方法であれば特に制限されず、シュードノカルディア属に属する本件アミダーゼ生産菌としては、シュードノカルディア・サーモフィラを好適に例示することができ、より具体的には、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095を挙げることができ、JCM3095株は Japan Collection of Microorganisms(JCM:理化学研究所微生物系統保存施設)から入手することができる。また、培養する培地としては、本微生物が生育できるものであれば何れのものでも良いが、例えば、ε−カプロラクタムやメタクリルアミドなどのようなアミド化合物を添加することによって、アミダーゼが誘導生成される。
【0020】
本発明のタンパク質としては、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質、配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質であれば特に制限されないが、(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示すものや、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示すものが好ましく、これら(a)〜(f)のすべての性質を有するものがより好ましく、好適には、シュードノカルディア・サーモフィラに由来するものを挙げることができる。以下、これら本発明のタンパク質を総称して「本件タンパク質」ということがある。
【0021】
また、本発明のアミダーゼ遺伝子DNAとしては、本件タンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNA、配列番号9に示される塩基配列からなるアミダーゼ遺伝子DNA、配列番号9に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNA、又は配列番号9に示される塩基配列からなるDNAに対して相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNAであれば特に制限されないが、上記アミダーゼ活性を有するタンパク質が、(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示し、(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示すものや、(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaであり、(d)活性の至適温度が60から70℃であり、(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定であり、(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示すものが好ましく、これら(a)〜(f)のすべての性質を有するものがより好ましく、好適には、シュードノカルディア・サーモフィラに由来するものを挙げることができる。以下、これら本発明のアミダーゼ遺伝子DNAを総称して「本件遺伝子DNA」ということがある。
【0022】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味し、また、上記「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個の任意の数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。
【0023】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号9に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989(以後、モレキュラークローニング第2版と略す)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0024】
本発明において「アミダーゼ活性を有する」とは、アミドを加水分解し、カルボン酸とアンモニアを生成する酵素活性を有することをいう。得られたそのタンパク質が、アミダーゼ活性を有するかどうかは、例えば後述の実施例2に記載したように、そのタンパク質とアミドを適当なバッファー又は塩溶液中で接触させ、カルボン酸の生成を調べることで容易に確認することができる。また、得られたタンパク質が、メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示すかどうかは、後述の実施例6の(4)に記載したように、そのタンパク質のメチオニンアミドに対する比活性及び2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対する比活性を測定し、それらの測定値を比較することで容易に確認することができる。
【0025】
上記「ストリンジェントな条件」とは、例えばサザンブロットハイブリダイゼーション法においては、0.1%SDSを含む0.5×SSC中で68℃で洗浄することを含む条件等、また、例えばコロニー・ハイブリダイゼーション法においては、0.1%SDSを含む1×SSC中で68℃で洗浄することを含む条件等である。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0026】
例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAを挙げることができ、例えば、配列番号10に示されるアミノ酸配列と86%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするDNAを好適に例示することができる。
【0027】
本件遺伝子DNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号9に示される塩基配列情報又は配列番号10に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて例えばシュードノカルディア・サーモフィラや、シュードノカルディア・サーモフィラ以外の生物のゲノムDNAライブラリー等から目的の遺伝子を単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。例えば、シュードノカルディア・サーモフィラより、常法に従ってゲノムDNAライブラリーを調製し、次いで、このライブラリーから、本件遺伝子DNAに特有の適当なプローブを用いて所望クローンを選抜することにより、本件遺伝子DNAを取得することができる。また、ゲノムDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本件遺伝子DNAをゲノムDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、後述の実施例に記載された方法の他、例えば、モレキュラークローニング第2版に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。また、変異遺伝子又は相同遺伝子としては、配列番号9に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を利用し、他の生物体等より、該DNAとホモロジーが高い塩基配列をもつDNAを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。その他、前述の変異DNAの作製方法により調製することもできる。
【0028】
本発明の組換えベクターとしては、本件遺伝子DNAが組み込まれた組換えベクターであれば特に制限されず、本発明の組換えベクターは、本件遺伝子DNAを発現ベクターに適切に組換えることにより構築することができる。例えば、本件遺伝子DNAを適当なプロモーターの下流につないだ構成を好適に例示することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明の遺伝子の発現に関与するプロモーター、ターミネーター等の制御配列及び転写制御因子の遺伝子を含有しているものを好適に使用することができる。
【0029】
細菌用の発現ベクターとして、例えば、T7ファージプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を具体的に例示することができる。
【0030】
また、本発明の形質転換微生物としては、上記本発明の組換えベクターが導入された形質転換微生物であれば特に制限されず、宿主としては、細菌、酵母等の微生物を挙げることができる。そのような細菌として、例えばエシェリヒア属細菌、シュードノカルディア属細菌、ストレプトミセス属細菌、バチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、スタフィロコッカス属細菌等を挙げることができる。上記組換えベクターを宿主微生物に導入する方法としては、モレキュラークローニング第2版など多くの標準的な実験室マニュアルに記載されている方法、例えば、エレクトロポレーション、形質導入、形質転換等により行うことができる。また、本発明の形質転換微生物を培養することによって、本件タンパク質を培養物中に生成蓄積させ、さらに、該培養物から該タンパク質を採取することにより、本件タンパク質を大量に製造することができる。
【0031】
前記本件タンパク質の由来は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質でも何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。例えば、シュードノカルディア・サーモフィラからの本発明のタンパク質の単離・精製は、シュードノカルディア・サーモフィラの菌株を、例えば、ε−カプロラクタムやメタクリルアミドなどのようなアミド化合物を添加した培地を用いて培養し、培養物から集菌し、集菌した菌体を破砕し細胞抽出液を得ること等により行うことができる。菌体の破砕法については特に制限はないが、超音波処理の場合は、菌体懸濁液にガラスビーズを加えて処理すると効果的である。このようにして得られた細胞抽出液から、タンパク質を精製する方法に特に制限はないが、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及びハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、上記タンパク質に対する抗体を結合させたカラムや、上記タンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、精製タンパク質を得ることができる。
【0032】
精製の各段階で得られた画分のアミダーゼ活性は、例えば、次のようにして定量することができる。試料液を、適当なバッファー又は塩溶液で希釈し、α−アミノ酸アミド又はα−ヒドロキシ酸アミド等のアミドを添加すると、加水分解反応が起こり、α−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸が生成する。反応条件としては、特に制限はないが、40〜60℃、pH6〜9が適している。反応液中に生成したα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸は、HPLCによって定量することができる。また、精製の各段階で得られた画分のタンパク質は、牛血清アルブミンをスタンダードとして用いて、Lowry法(O. H. Lowry et al., 1951, J. Biol. Chem. 193:265-275)などによって定量することができる。各精製段階でのアミダーゼの純度は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(U. K. Laemmli, 1970, Nature 227:680-685)によって調べることができる。
【0033】
化学合成により本発明のタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。
【0034】
遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。この遺伝子組換え技術による方法は、比較的容易な操作で、かつ大量に目的のタンパク質を調製することが可能である。
【0035】
さらに、配列番号10に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列と86%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号9に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号9に示される塩基配列又はその一部を有するDNAをプローブとしてシュードノカルディア・サーモフィラ以外の生物から得られたDNAを適当な条件下でスクリーニングすることにより、該DNAとホモロジーの高いDNAを単離することができる。こうして得られた遺伝子DNAを、発現ベクターに組み込み適当な宿主で発現させることにより、それによってコードされるタンパク質を製造することができる。
【0036】
なお、配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列は、本願で実際に得られたアミダーゼと、国際公開第2004/083423号パンフレットで実際に得られたアミダーゼとの間で、大きく異なる部分である(図2参照)。この部分のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む配列からなるタンパク質の中にも、本願配列番号10のアミダーゼと同様の性質を有するタンパク質が存在すると予測される。
【0037】
本発明のカルボン酸の製造方法としては、本発明の形質転換微生物の細胞又はその処理物をアミドに作用させることを含む方法であれば特に制限はない。ここでいう「形質転換微生物の細胞」は、生細胞であるか死細胞であるかを問わない。また、上記「細胞の処理物」とは、本発明の形質転換微生物の細胞を処理したものであって、アミドからカルボン酸の製造に用いることができる限り特に制限はなく、例えば、本発明の形質転換微生物の細胞について、機械的破砕処理、超音波処理、凍結融解処理、乾燥処理、溶媒処理、界面活性剤処理、酵素処理、加圧減圧処理及び浸透圧処理などを施したもの、ならびに、細胞又はその処理物をアルギン酸等で固定化した物などが挙げられる。また、本発明の形質転換微生物の細胞抽出液から、例えば硫安塩析、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、又はゲル濾過クロマトグラフィーなどによって精製された本発明のタンパク質及びその固定化物も、本発明の「細胞の処理物」に含まれる。なお、本発明のカルボン酸の製造法における、細胞又はその処理物は、固定化されていなくてもよいが、固定化されている方が好ましい。固定化されている細胞又は処理物を用いた場合は、細胞又はその処理物と生成物との分離が容易になるからである。このようにして生成したα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸は、通常の方法によって濃縮精製することができる。
【0038】
また、本発明のカルボン酸の製造方法に用いる、本発明の形質転換微生物の培養方法又はその処理物の製造方法については、その細胞又はその処理物がカルボン酸の製造方法に用いることができる限り特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
本発明のカルボン酸の製造方法では、例えば適当なバッファー又は塩溶液中で、本発明のアミダーゼ等をアミドに作用させることができる。バッファー又は塩は、アミドからカルボン酸への加水分解反応を阻害するものでなければ特に制限はない。
【0040】
本発明のカルボン酸の製造方法における「アミド」は、本発明のタンパク質が基質とすることができる限り、特に制限はないが、α−アミノ酸アミド又はα−ヒドロキシ酸アミドが好ましい。本発明の形質転換微生物の細胞又はその処理物を、例えばα−アミノ酸アミド、α−ヒドロキシ酸アミド、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドにそれぞれ作用させた場合は、α−アミノ酸、α−ヒドロキシ酸、2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸がそれぞれ生産される。
【0041】
本発明のカルボン酸の製造方法における反応液中のアミドの濃度については特に制限はないが、通常は0.1〜30重量%程度である。また、アミドは連続的又は間欠的に反応系に添加してもよい。本発明の形質転換微生物の細胞又はその処理物の反応系への添加量は、特に制限はないが、乾燥細胞重量換算で、0.1〜60g/Lの範囲で添加することができる。また、反応の温度及びpH等は、アミドからカルボン酸への加水分解反応が生じる限り特に制限はないが、例えば、40〜60℃、pH6〜9とすることができる。生成したα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸等のカルボン酸は、HPLCによって確認・定量することができる。
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
[シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095の培養]
3000ml容のバッフル付三角フラスコに、500mlのTY培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、及び40μg/ml FeSO・7HO)を仕込み、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095(Japan Collection of Microorganismsから入手可能)を植菌し、50℃で2日間振盪培養した。次に、別の3000ml容のバッフル付三角フラスコに、500mlのTYC培地(10μg/ml CoCl・6HOと0.5%ε−カプロラクタムを含むTY培地)を仕込み、上の前培養の10mlを加え、50℃で2日間振盪培養した。遠心(5krpm、10min、4℃)によって集菌し、9.15gの湿菌体を得た。コントロールとして、ε−カプロラクタムを含まないTYC培地を用いて、同様にシュードノカルディア・サーモフィラJCM3095を培養し、集菌し、14.5gの湿菌体を得た。
【実施例2】
【0044】
[菌体のアミダーゼ活性の測定]
実施例1で得られた湿菌体を200mlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)で洗浄し、同じバッファーを加えてテフロンホモジェナイザーを用いて懸濁し、全量を50mlにした。この菌体懸濁液の50から100μlをエッペンドルフチューブにとり、100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)を加えて全量を500μlにし、30℃の水浴中で5分間保温した。これに50μlの1M L−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、30℃の水浴中で30分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する菌体量を1Uとした。TYC培地を用いたときのアミダーゼ活性は19.1U/g湿菌体であったのに対して、ε−カプロラクタムを含まないTYC培地を用いたときのアミダーゼ活性は3.14U/g湿菌体であった。この結果から、ε−カプロラクタムの添加によって、JCM3095のアミダーゼ活性が約6倍に増加することが分かった。
【実施例3】
【0045】
[pH7.5での菌体反応におけるアンモニアの影響]
実施例1と同様にして、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095を培養し、遠心によって菌体を集めた。集めた菌体に生理食塩水(0.8%NaCl)を加えて懸濁し、菌体懸濁液を調製した。一方、Rhodococcus rhodochrous IFO 15564(独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門NBRCから入手可能)を、CSL培地(2%コーンスティープリカー、1%スクロース、及び0.5%ε−カプロラクタム)を用いて、28℃で振盪培養し、遠心(16krpm、10min、4℃)によって菌体を集めた。集めた菌体に生理食塩水を加えて懸濁して、菌体懸濁液(コントロール)を調製した。これらの菌体懸濁液の一定量をエッペンドルフチューブにとり、50μlの1Mリン酸カリウムバッファー(pH7.5)と種々の量の2Mアンモニア水(塩酸でpH7.5に調整したもの)を添加し、水を加えて全量を450μlにした。これを30℃の水浴中で5分間保温し、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、30℃の水浴中で30分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する菌体量を1Uとした。その結果、図1に示したように、アンモニア濃度と菌体活性(アンモニア無添加のときの菌体活性を100%とした)との関係が求められた。Rhodococcus rhodochrous IFO 15564のアミダーゼ活性は、低濃度のアンモニアによっても強く阻害されたが、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095のアミダーゼ活性は、アンモニアによってほとんど影響を受けなかった。
【実施例4】
【0046】
[pH9.0での菌体反応におけるアンモニアの影響]
実施例3と同様にして、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095とRhodococcus rhodochrous IFO 15564の菌体懸濁液を調製した。これらの菌体懸濁液の一定量をエッペンドルフチューブにとり、50μlの1M Tris−HClバッファー(pH9.0)と種々の量の2Mアンモニア水(塩酸でpH9.0に調整したもの)を添加し、水を加えて全量を450μlにした。これを30℃の水浴中で5分間保温し、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、30℃の水浴中で30分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する菌体量を1Uとした。その結果、図3に示したように、アンモニア濃度と菌体活性(アンモニア無添加のときの菌体活性を100%とした)との関係が求められた。Rhodococcus rhodochrous IFO 15564のアミダーゼ活性は、低濃度のアンモニアによっても強く阻害されたが、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095のアミダーゼ活性は、アンモニアによる阻害を受けにくいことが分かった。
【実施例5】
【0047】
[アミダーゼの精製]
実施例1と同様にして、シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095を500mlのTYC培地を用いて培養した。遠心(5krpm、10min、4℃)によって集菌し、その菌体を200mlのTEDバッファー(50mM Tris−HClバッファー(pH7.5)、1mM EDTA、及び1mM DTT)で洗浄し、50mlの同じバッファーを加えてテフロンホモジェナイザーを用いて懸濁した。これに20gのガラスビーズ(粒径50μm)を加えて、超音波ホモジェナイザー(セイコー電子工業;モデル7500)によって処理(最大出力、実効時間3min、氷冷)し、遠心(16krpm、30min、4℃)によって上清を得た。この上清に、30%飽和になるように硫安を加え、氷中に1時間以上置いた後、生成した沈殿を遠心(同上)によって除き、上清に60%飽和になるように硫安を加え、氷中に1時間以上置いた後、生成した沈殿を遠心(同上)によって得た。
【0048】
上で得られた沈殿を、1M硫安を含む20mlのTEDバッファーに溶かし、同じバッファーで平衡化したフェニルセファロースCL−4B(ファルマシア)のカラム(2.2×16.5cm)に負荷した。その後、1M硫安を含む150mlのTEDバッファーでカラムを洗い、1から0M硫安のグラジェント溶出(全量300ml)を行い、最後に、150mlのTEDバッファーでの溶出を行った。カラムからの溶出液は、15gずつ分画した。各画分のアミダーゼ活性を、次のようにして測定した。適当量の試料液を、エッペンドルフチューブにとり、100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)を加えて、全量を500μlにした。これを50℃の水浴中で5分間保温した後、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、50℃の水浴中で30分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する酵素量を1Uとした。アミダーゼ活性は、硫安濃度がほぼ0Mになるあたりに溶出された。
【0049】
上のフェニルセファロースクロマトグラフィーで得られたアミダーゼ活性画分を硫安塩析(60%飽和)し、10mlのTEDバッファーを加えて溶かし、1000mlのTEDバッファーに対して一晩透析した。これを、TEDバッファーで平衡化したDEAEセファロースFast Flow(アマシャムバイオサイエンス)のカラム(1.6×13cm)に負荷し、75mlのTEDバッファーでカラムを洗い、0から0.5M NaClのグラジェント溶出(全量150ml)を行い、最後に、0.5M NaClを含む75mlのTEDバッファーでの溶出を行った。カラムからの溶出液を15gずつ分画し、各画分のアミダーゼ活性を、上に述べた方法により測定した。アミダーゼ活性は、約0.2M濃度のNaClで溶出された画分に見いだされた。
【0050】
上のDEAEセファロースクロマトグラフィーで得られたアミダーゼ活性画分を硫安塩析(60%飽和)し、5mlのTEDバッファーを加えて溶かし、TEDバッファーで平衡化したトヨパールHW−55S(TOSOH)のカラム(2.6×88cm)に負荷した。カラムからの溶出液を5gずつ分画し、各画分のアミダーゼ活性を、上述の方法で測定した。アミダーゼ活性は、100から200kDaに相当する画分に溶出された。分子質量マーカーとして、カタラーゼ(240kDa)、乳酸デヒドロゲナーゼ(140kDa)、アルブミン(67kDa)、α−キモトリプシノーゲンA(25kDa)、及びリゾチーム(14kDa)を用いた。
【0051】
上のゲル濾過クロマトグラフィーで得られたアミダーゼ活性画分を硫安塩析(60%飽和)し、2mlのTEDバッファーを加えて溶かし、500mlのTEDバッファーに対して透析(2回)し、−30℃で凍結保存した。表1に、各精製段階でのアミダーゼ活性画分の比活性等を示した。タンパク質は、牛血清アルブミンをスタンダードとして用いて、Lowry法によって定量した。アミダーゼは12%の収率で、6.7倍に精製された。最終的に得られた精製アミダーゼの比活性は14.7U/mgであった。図4に、各精製段階のアミダーゼ活性画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した結果を示した。アミダーゼの分子質量は、53kDaと求められた。上述のゲル濾過クロマトグラフィーにおいて、アミダーゼ活性が100から200kDaに相当する画分に溶出されたことを考え合わせると、自然状態のアミダーゼは2〜4量体であると考えられる。
【0052】
【表1】

【実施例6】
【0053】
[精製アミダーゼの酵素的性質]
(1)反応温度
36μgの精製アミダーゼを含む500μlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)をエッペンドルフチューブにとり、一定温度の水浴中で5分間保温した。これに50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、同じ温度の水浴中で10から30分間反応させた。これに100μlの2 N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する酵素量を1Uとした。その結果、図5に示したように、反応温度と酵素活性との関係が求められた。酵素活性の至適温度は65℃であった。
【0054】
(2)熱安定性
36μgの精製アミダーゼを含む500μlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)をエッペンドルフチューブにとり、一定温度の水浴中で30分間熱処理した。その後、50℃の水浴中で5分間保温し、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、50℃の水浴中で10分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する酵素量を1Uとした。その結果、図6に示したように、熱処理温度と酵素活性との関係が求められた。精製酵素は60℃まで安定であった。
【0055】
(3)反応pH
250μlの200mMの種々のpHのバッファーをエッペンドルフチューブにとり、36μgの精製アミダーゼを添加し、水を加えて全量を500μlにした。これを50℃の水浴中で5分間保温し、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩を加え撹拌し、50℃の水浴中で10分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する酵素量を1Uとした。その結果、図7に示したように、反応pHと酵素活性との関係が求められた。精製酵素はpH5.5から10の広いpH範囲で高い活性を示した。
【0056】
(4)基質特異性
100mM濃度の各種アミド化合物を含む500μlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)をエッペンドルフチューブにとり、50℃の水浴中で5分間保温し、36μg(20μl)の精製アミダーゼを加え撹拌し、50℃の水浴中で10分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolの酸を生成する酵素量を1Uとした。その結果を表2に示した。HMB−アミドに対する比活性は、メチオニンアミドに対する比活性の約12倍であった。
【0057】
【表2】

【0058】
(5) 反応速度論的解析
基質として、メチオニンアミド、HMB−アミド(2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミド)、又はクロトンアミドを用いて、反応速度論的解析を行った。種々の濃度のアミド化合物、一定量(0.5から10μg)の精製アミダーゼ、100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)からなる500μlの反応混合液を、50℃の水浴中で1から10分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を添加することによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。その結果から、Lineweaver-Burkプロットを作成し、表3に示したように、KとVmaxが求められた。HMB−アミド基質のときのVmaxは、メチオニンアミド基質のときのVmaxの約12倍であった。
【0059】
【表3】

【0060】
(6)アンモニアの影響
エッペンドルフチューブに、50μlの1M Tris−HClバッファー(pH9.0)、50μlの1M DL−メチオニンアミド塩酸塩、及びいろいろな量の2Mアンモニア(塩酸でpHを9.0に調整したもの)を入れ、イオン交換水を加えて全量を490μlにした。これを30、40、又は50℃の水浴中で5分間保温し、10μl(18μg)の精製アミダーゼを添加し、同じ温度の水浴中で30分間反応させた。これに100μlの2N塩酸を加えることによって反応を停止させ、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた上清をHPLC(イオン交換水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。1分間に1μmolのメチオニンを生成する酵素量を1Uとした。その結果、図8に示したように、アンモニア濃度と酵素活性(アンモニア無添加のときの比活性を100%とした)の関係が求められた。アンモニアによる阻害は、反応温度が高くなると、わずかに増加した。しかしながら、50℃で0.2Mアンモニア存在下でも、本アミダーゼは57%の酵素活性を保持していた。
【実施例7】
【0061】
[アミダーゼのN末端アミノ酸配列と内部アミノ酸配列の決定]
実施例5で得られた精製アミダーゼをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、泳動後、エレクトロブロッティングによって、ポリアクリルアミドゲルからPVDF(ポリビニリデンフルオライド)メンブレン(イモビロン−PSQ;ミリポア)に、タンパク質バンドを移した。その後、PVDFメンブレンを水で軽くすすぎ、CBB染色液(0.1%クマジーブリリアントブルーR−250、45%メタノール、10%酢酸)中で5分間振盪した。これを脱色液1(45%メタノール、7%酢酸)中で15分間振盪し、水で3回すすぎ、脱色液2(90%メタノール、7%酢酸)中で40秒間振盪し、風乾した。53kDaのタンパク質バンドを切り取り、エドマン法によってN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、配列番号1のアミノ酸配列が得られた。
【0062】
また、実施例5で得られた精製アミダーゼをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、泳動後、ポリアクリルアミドゲルから53kDaのタンパク質バンドを切り出した。このゲル切片を用いて、リジルエンドペプチダーゼ消化処理し、生成したペプチドをHPLCによって分離した。これらのペプチドのいくつかについて、エドマン法によってN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、配列番号2、3、及び4のアミノ酸配列が得られた。
【実施例8】
【0063】
[ゲノムDNAの調製]
250mlのTY培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、及び40μg/ml FeSO・7HO)を2000ml容のバッフル付三角フラスコに入れた。その培地にシュードノカルディア・サーモフィラJCM3095を植菌し、50℃で2日間振盪培養した。得られた培養液を遠心(5krpm、10min、4℃)して集菌し、集菌した菌体を100mlのTENバッファー(10mM Tris−HCl[pH8.0]、1mM EDTA、10mM NaCl)で洗浄した。ついで、その菌体に同じバッファーを加えてテフロンホモジェナイザーを用いて懸濁し、全量20mlの懸濁液を得た。
【0064】
この懸濁液に40mgのリゾチームを溶かした200μlのTENバッファーを加え、37℃で1時間ゆっくり振盪した。さらに、2mlの10%SDSと100μlの20mg/mlプロテイナーゼKを加え、37℃で1時間ゆっくり振盪した後、440μlの5M NaClを加え、さらに1%SDSと0.1M NaClを含む12mlの10mM Tris−HClバッファー(pH8.0)を加え、それを遠心チューブに移した。これに同容量のバッファー平衡化フェノール(フェノール結晶に約0.1%の8−ヒドロキシキノリンを加え、これに同容量の1M Tris−HClバッファー[pH8.0]を加え撹拌し、フェノール結晶を溶解して静置した。上の水層をデカンテーションによって除き、下のフェノール層を0.2%β−メルカプトエタノールを含む0.1M Tris−HClバッファー(pH8.0)で平衡化した。以後、このフェノール層を「バッファー平衡化フェノール」という。)を加えて撹拌し、遠心(3000rpm、10min、室温)によって二層に分離した。上の水層を新しい遠心チューブに移し、1/2容量のバッファー平衡化フェノールと1/2容量のイソアミルアルコール含有クロロホルム(4%イソアミルアルコールを含むクロロホルム)を加え撹拌し、遠心(同上)によって二層に分離した。上の水層を新しい遠心チューブに移し、同容量のイソアミルアルコール含有クロロホルムを加え撹拌し、遠心(同上)によって二層に分離した(以後、この一連の操作をフェノール/クロロホルム抽出と呼ぶことにする)。上の水層を新しい遠心チューブに移し、2倍容量のエタノールを加え、ガラス棒で撹拌することによって、不溶化するDNAを巻き取った。このDNAを5mlのTENバッファーに溶解し、1000mlのTENバッファーに対して2回透析した。透析後、25μlの10mg/mlリボヌクレアーゼAを加え、37℃で2時間保温した。これに25μlの20mg/mlプロテイナーゼKを加え、37℃で1時間保温した後、5mlのTENバッファーと200μlの5M NaClを加え、フェノール/クロロホルム抽出を行った。水層に2倍容量のエタノールを加え、ガラス棒で撹拌することによって、不溶化するDNAを巻き取った。このDNAを5mlのTENバッファーに溶解し、1000mlのTENバッファーに対して2回透析し、得られたゲノムDNA溶液を4℃で保存した。このDNA溶液のA260は0.200であったことから、DNA濃度は0.500mg/mlと求められた。
【実施例9】
【0065】
[PCRによるアミダーゼ遺伝子の増幅]
実施例7で得られた配列番号3のアミダーゼの内部アミノ酸配列のうち、Leu-Gly-Ala-Trp-Ala-Val-Gln-Thrの配列に基づいて、配列番号5に示されるPCRのセンスプライマーを合成した。また、配列番号4のアミダーゼの内部アミノ酸配列のうち、Lys-Val-Ala-Asn-Ala-Phe-Glu-Glnの配列(リジルエンドペプチダーゼ消化によって生じたペプチドであるので、N末端側にLysがあるものとした)に基づいて、配列番号6に示されるPCRのアンチセンスプライマーを合成した。なお、上の2本のPCRプライマーの設計において、コドンの3番目の塩基は、G又はC(S)とした。
【0066】
氷冷した0.2ml容のPCR用チューブに、0.5μl(2.5U)のTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、10μlの10倍濃度反応バッファー、8μlのdNTP混合液(各2.5mM)、4μlのゲノムDNA(0.1μg/μl;実施例7で得られたゲノムDNA溶液を5倍希釈したもの)、1μlの配列番号5に示されるセンスプライマー(100μM)、1μlの配列番号6に示されるアンチセンスプライマー(100μM)、5μlのジメチルスルホキシド、及び70.5μlの水を加えた。これをPCR装置にセットし、94℃で5分間の処理によってDNAを変性させた後、30回の温度サイクル(94℃で20秒間の変性ステップ、59℃で30秒間のアニーリングステップ、及び72℃で120秒間の伸長反応ステップ)によってDNAを増幅し、最後に72℃で2分間の処理によって反応を完結させた。反応終了後、反応液を1%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1320bpのDNAフラグメントを含むゲルを切り出し、QIAquickゲル抽出キット(キアゲン)を用いて、ゲルからDNAを抽出した。
【実施例10】
【0067】
[PCRによって増幅されたDNAの塩基配列決定]
実施例9で得られたPCRによって増幅されたDNAを、pGEM-T Easy Vector System(プロメガ)を用いて、次のようにしてクローニングした。エッペンドルフチューブに、2倍濃度ラピッドライゲーションバッファーを5μl、pGEM-T Easy Vectorを1μl(50ng)、実施例9のPCRによって増幅されたDNAを1μl、T4 DNAリガーゼを1μl(3U)、及び、水を2μl入れ、室温で1時間反応させた。この反応液を5μl取り出して、200μlの大腸菌JM103コンピテントセルに加え、氷中に30分間置いた後、42℃で45秒間の熱処理をした。その後、氷冷し、800μlのLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、及び1%NaCl)を加えた後、37℃で1時間ゆっくり振盪した。このうちの、100μlを、選択寒天培地(50μg/mlアンピシリン、0.5mM IPTG、及び40μg/ml X−galを含むLB寒天培地)に塗布し、その選択寒天培地を37℃で一晩保温した。
【0068】
上記選択寒天培地上に現れた白色コロニーを、50μg/mlアンピシリンを含む50mlのLB培地に植菌し、37℃で一晩振盪培養した。菌体を遠心(16krpm、10min、4℃)によって集めた後、10mlのTENバッファーで洗浄し、次いで、2.5mlの溶液I(25mM Tris−HClバッファー[pH8.0]、50mMグルコース、及び10mM EDTA)を加えて懸濁した。これに2.5mgのリゾチームを溶かした250μlのTEバッファー(10mM Tris−HClバッファー[pH8.0]、1mM EDTA)を加え、室温に10分間置いた。次に、新しく調製した5mlの溶液II(0.2N NaOH、1%SDS)をその液に加えて良く撹拌した後、それを室温に10分間置いた。次いで、その溶菌液に氷冷した3.75mlの溶液III(60mlの5M酢酸カリウム、11.5mlの酢酸、及び28.5mlの水を混合したもの)を加え良く撹拌し、氷中に10分間置いた。それを遠心(16krpm、10min、4℃)することによって不溶物を除き、上清を別の遠心チューブに移した。その上清に、0.6倍容量のイソプロパノールを加え、室温に10分間置いた。遠心(16krpm、10min、20℃)によって得られた沈殿を、氷冷した70%エタノールでリンスし、風乾した後、750μlのTEバッファーを加えて溶かし、エッペンドルフチューブに移した。この溶液に氷冷した750μlの5M LiClを加え、氷中に10分間置いた後、遠心(16krpm、5min、4℃)によって不溶物を除き、上清を別のエッペンドルフチューブに移して、同容量のイソプロパノールを加え、室温に10分間置いた。次いで、遠心(16krpm、5min、20℃)によって得られた沈殿を、氷冷した70%エタノールでリンスし、風乾した後、125μlのTEバッファーを加えて溶かした。この溶液に0.5μlの10mg/mlリボヌクレアーゼAを加え、室温に30分間置いた。これに13%PEG8000を含む125μlの1.6M NaClを加えて良く撹拌し、遠心(16krpm、5min、4℃)によって沈殿を得た。この沈殿を200μlのTEバッファーに溶かし、フェノール/クロロホルム抽出を行い、50μlの10M酢酸アンモニウムと500μlのエタノールを加え、室温に10分間置き、遠心(16krpm、5min、20℃)によって沈殿を得た。この沈殿を氷冷した70%エタノールでリンスし、200μlのTEバッファーに溶かした。
【0069】
このようにして調製したプラスミドDNAを用いて、挿入DNA部分の塩基配列を、ジデオキシ法によって決定した。その結果、配列番号7に示した塩基配列が得られた。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列(配列番号8)について、DDBJ(日本DNAデータバンク)のFASTA(相同性検索ソフトウェア)によってホモロジー検索を行った結果、このアミノ酸配列は、種々の微生物由来のアミダーゼのアミノ酸配列と高いホモロジーがあることが分かった。最も高いホモロジーを示したものは、Rhodococcus rhodochrous J1由来のものであり、それは本願配列番号8のアミノ酸配列に対して68.7%のホモロジーを示した。以上のことから、実施例9において、PCRによって増幅されたDNAは、アミダーゼ遺伝子の一部であると考えられた。
【実施例11】
【0070】
[PCRによって増幅されたDNAのジゴキシゲニン標識]
実施例9で得られたPCRによって増幅されたDNAを、ジゴキシゲニン(DIG)DNA標識及び検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて、次のようにしてジゴキシゲニン標識した。15μl(約3μg)のPCR増幅DNAをエッペンドルフチューブにとり、沸騰水中で5分間熱変性させた後、氷水中で急冷した。これに2μlのヘキサヌクレオチド混合液、2μlのdNTPラベリング混合液、及び1μlのクレノウ酵素を加え、37℃で一晩反応させた。これに2μlの200mM EDTA(pH8.0)を加え反応を停止させ、これを−20℃で凍結保存した。
【実施例12】
【0071】
[ゲノムDNAの制限酵素消化とアミダーゼ遺伝子を含むDNAフラグメントの調製]
実施例8で得られたゲノムDNAの5μl(2.5μg)をエッペンドルフチューブにとり、5μlの10倍濃度反応バッファー、5μl(50U)の制限酵素(Sac I、Kpn I、Sma I、又はBamH I)、及び35μlの水を加え、37℃(Sma Iの場合は30℃)で2時間反応させた。これに1μlの5M NaClを加え、フェノール/クロロホルム抽出を行った後、100μlのエタノールを加え、氷中に1時間以上置いた後、遠心(16krpm、5min、4℃)によって沈殿を得た。これを氷冷した70%エタノールでリンスし、風乾した後、20μlのTEバッファーを加えて溶解した。このDNA溶液の5μlを、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけた。DNAサイズマーカーとして、ジゴキシゲニンで標識されたλファージDNAのHind III消化物(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた。電気泳動後のアガロースゲルを、100mlの変性溶液(0.5N NaOH、1.5M NaCl)に浸し、15分間ゆっくり振盪し、液を換えて、この操作をもう1回行った。次に、100mlのサザントランスファー用中和バッファー(0.5M Tris−HClバッファー[pH7.5]、3M NaCl)に浸し15分間ゆっくり振盪し、液を換えて、この操作をもう1回行った。このようにして処理したアガロースゲルから、20×SSC(3M NaCl、0.3Mクエン酸ナトリウム)を用いて、ナイロンメンブレン(Hybond−N;アマシャムバイオサイエンス)に、キャピラリー法によって、DNAを移した。その後、ナイロンメンブレンを風乾し、2枚の濾紙の間に挟んで、80℃で2時間ベーキングし、DNAを固定した。
【0072】
ジゴキシゲニン標識PCR増幅DNAとのハイブリダイゼーション及び検出は、ジゴキシゲニン(DIG)DNA標識及び検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて、次のようにして行った。上で得られたベーキングしたメンブレンを、ハイブリダイゼーションバッグに入れ、100μg/mlサカナ精子DNA(ロシュ・ダイアグノスティックス)を含む6mlの高濃度SDSハイブリダイゼーションバッファー(7%SDS、50%ホルムアミド、5×SSC、2%ブロッキング試薬、50mMリン酸ナトリウムバッファー[pH7.0]、及び0.1%N−ラウロイルサルコシンナトリウム)を加え、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。次に、液を捨て、5μlのジゴキシゲニン標識PCR増幅DNA(実施例11で調製されたものを、沸騰水中で5分間熱変性させた後、氷水中で急冷したもの)を含む1mlの高濃度SDSハイブリダイゼーションバッファーを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッグから取り出し、0.1%SDSを含む50mlの2×SSCを用い、室温で5分間2回洗浄した。続いて、0.1%SDSを含む50mlの0.5×SSCを用い、68℃で15分間2回洗浄した。このメンブレンを、0.3%Tween20を含む50mlのマレイン酸バッファー(0.15M NaCl、0.1Mマレイン酸;10N NaOHでpH7.5に調整したもの)で1分間リンスし、30mlのブロッキング溶液(1%ブロッキング試薬を含むマレイン酸バッファー)に浸し、30分間ゆっくり振盪した。次に、4μlのアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体を含む20mlのブロッキング溶液に浸し、30分間ゆっくり振盪した。その後、ナイロンメンブレンを、0.3%Tween20を含む50mlのマレイン酸バッファーで15分間2回洗浄し、50mlの検出バッファー(0.1M Tris−HClバッファー[pH9.5]、0.1M NaCl、50mM MgCl)に2分間浸し平衡化した。このナイロンメンブレンを、新しく調製した発色基質溶液(200μlのNBT/BCIPストック溶液を含む10mlの検出バッファー)に浸し、暗下に1時間静置した。バンドの発色を確認した後、ナイロンメンブレンをTEバッファーで洗浄し、暗下で風乾した。実施例9で得られたPCR増幅DNAとハイブリダイズするDNAフラグメントの大きさは、Sac I消化では6010bp、Kpn I消化では9810bp、Sma I消化では3740bp、及びBamH I消化では1690bpであった。
【0073】
実施例8で得られたゲノムDNAの80μl(40μg)をエッペンドルフチューブにとり、40μlの10倍濃度反応バッファー、40μl(400U)の制限酵素(Sac I、Kpn I、Sma I、又はBamH I)、及び240μlの水を加え、37℃(Sma Iの場合は30℃)で2時間反応させた。これに8μlの5M NaClを加え、フェノール/クロロホルム抽出を行った後、800μlのエタノールを加え、氷中に1時間置いた後、遠心(16krpm、5min、4℃)によって沈殿を得た。これを氷冷した70%エタノールでリンスし、風乾した後、100μlのTEバッファーを加えて溶解した。このDNA溶液の全量を、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけた。DNAサイズマーカーとして、ジゴキシゲニン標識されたλファージDNAのHind III消化物(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた。泳動終了後、Sac I消化では6010bp、Kpn I消化では9810bp、Sma I消化では3740bp、及びBamH I消化では1690bpのDNAフラグメントを含むゲルをそれぞれ切り出し、QIAquickゲル抽出キット(キアゲン)を用いて、切り出したそれぞれのゲルからDNAを抽出した。
【実施例13】
【0074】
[アミダーゼ遺伝子を含むDNAフラグメントのクローニング]
2.7μgのプラスミドpUC18をエッペンドルフチューブにとり、これに20μlの10倍濃度反応バッファー、5μl(50U)の制限酵素(Sac I、Kpn I、Sma I、又はBamH I)を添加し、水を加えて全量を200μlにした。これを37℃(Sma Iの場合は30℃)で1時間反応させ、65℃で15分間熱処理することによって制限酵素を失活させた。これに27μlの10倍濃度DPバッファー(0.5M Tris−HClバッファー[pH8.5]、50mM MgCl)、30μl(30U)のシュリンプアルカリホスファターゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス)、及び13μlの水を加え、37℃で30分間反応させ、65℃で15分間熱処理することによって酵素を失活させた。これに5.4μlの5M NaClを加え、フェノール/クロロホルム抽出を行った後、540μlのエタノールを加え、氷中に1時間置いた後、遠心(16krpm、15min、4℃)によって沈殿を得た。この沈殿を、氷冷した70%エタノールでリンスし、風乾した後、50μlのTEバッファーを加えて溶解した。
【0075】
このようにして調製したクローニングベクターの1μlと実施例12で調製したDNAフラグメントの5μlを混合し、3μlのLigation high(TOYOBO)を加えて、16℃で1時間反応させた。このうちの5μlを、100μlの大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)に加え、氷中に30分間置いた後、42℃で45秒間の熱処理をした。その後、氷冷し、900μlのSOC培地(2%トリプトン、0.5%酵母エキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgSO、10mM MgCl、20mMグルコース)を加え、37℃で1時間ゆっくり振盪した。このうちの100μlを、50μg/mlアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、その寒天培地を35℃で一晩保温した。
【0076】
コロニーが出現した寒天培地を、4℃に30分間以上置き冷却した。この寒天培地上に、ピンセットを用いてナイロンメンブレン(Hybond−N;アマシャムバイオサイエンス)をのせ、1分間経過後にはがし、コロニーに接していた面を上にして、変性溶液(0.5M NaOH、1.5M NaCl)を浸した2枚の濾紙の上に置いた。この状態で15分間静置した後、ナイロンメンブレンを乾いた濾紙上に移し、余分な水分を吸い取った。次に、コロニーハイブリダイゼーション用中和バッファー(1M Tris−HClバッファー[pH7.5]、1.5M NaCl)を浸した2枚の濾紙の上に、このナイロンメンブレンを、コロニーに接していた面を上にして置いた。この状態で15分間静置した後、ナイロンメンブレンを乾いた濾紙上に移し、余分な水分を吸い取った。その後、2×SSC(30mMクエン酸ナトリウム、0.3M NaCl)を浸した2枚の濾紙の上に、そのナイロンメンブレンを置いた。この状態で10分間静置した後、そのナイロンメンブレンを乾いた濾紙上で風乾させた後、80℃で2時間ベーキングすることによってDNAをナイロンメンブレンに固定した。その後、このナイロンメンブレンを2×SSCに5分間浸し、次に、プレ洗浄液(5×SSC、0.5%SDS、1mM EDTA)に浸し、50℃で30分間振盪した。ナイロンメンブレン上のセルデブリスを、プレ洗浄液を浸したキムワイプを用いてふき取った後、ナイロンメンブレンを2×SSCで2回洗浄した。
【0077】
前述のナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッグに入れ、そこに50μg/mlサカナ精子DNA(ロシュ・ダイアグノスティックス)を含む10mlのホルムアミド含有標準ハイブリダイゼーションバッファー(50mlのホルムアミド[脱イオン化済み]、25mlの20×SSC、20mlの10%ブロッキング試薬、1mlの10%N−ラウロイルサルコシンナトリウム、0.2mlの10%SDS、及び3.8mlの水を混合したもの)を加えて、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。次に、このプレハイブリダイゼーション液を捨てた後、ハイブリダイゼーションバッグに10μlのジゴキシゲニン標識PCR増幅DNA(実施例11で調製されたものを、沸騰水中で5分間熱変性させた後、氷水中で急冷したもの)を含む2mlのホルムアミド含有標準ハイブリダイゼーションバッファーを加えて、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッグから取り出し、0.1%SDSを含む2×SSCを用い、室温で5分間2回ナイロンメンブレンを洗浄した。続いて、0.1%SDSを含む1×SSCを用い、68℃で15分間2回ナイロンメンブレンを洗浄した。このナイロンメンブレンを、0.3%Tween20を含むマレイン酸バッファーで1分間リンスした後、ブロッキング溶液に浸して30分間ゆっくり振盪した。次に、このナイロンメンブレンを、10μlのアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体を含む50mlのブロッキング溶液に浸し、30分間ゆっくり振盪した。その後、このナイロンメンブレンを、0.3%Tween20を含むマレイン酸バッファーで15分間2回洗浄した後、検出バッファーに2分間浸して平衡化した。このナイロンメンブレンを、コロニーの面を上にしてシャーレに入れ、そこに新しく調製した10mlの発色基質溶液を加えて、暗下に数時間静置した。コロニーの発色を確認した後、このナイロンメンブレンをTEバッファーで洗浄し、暗下で風乾した。
【0078】
上述のコロニーハイブリダイゼーションによって陽性と判断されたコロニーを、元の寒天培地から拾い上げ、50μg/mlアンピシリンを含む50mlのLB培地に植菌して、37℃で一晩振盪培養した。この培養液から菌体を集め、実施例10で用いた方法によってプラスミドを調製した。Sac Iを用いて得られたプラスミドをpASC2、Kpn Iを用いて得られたプラスミドをpAKP1、Sma Iを用いて得られたプラスミドをpASM3、及びBamH Iを用いて得られたプラスミドをpABM11と命名した。また、これらのプラスミドの挿入DNAの向きを変えたプラスミドを作製し、それぞれ、pASC2R、pAKP1R、pASM3R、及びpABM11Rと命名した。
【実施例14】
【0079】
[アミダーゼ遺伝子の塩基配列決定]
実施例13で得られた各種プラスミドを種々の制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動によって分析することによって、挿入DNA部分の制限酵素地図を作成した。その結果、図9に示したように、クローニングされた各DNAフラグメントの位置関係が明らかになった。すべてのDNAフラグメントに共通して存在するDNA領域における制限酵素パターンと実施例10で得られたPCRによって増幅されたDNAの塩基配列(配列番号7)から求められた制限酵素パターンを比較することによって、アミダーゼ遺伝子の位置と方向は、図9に示したようであると推定された。そこで、この近傍の塩基配列を決定した結果、配列番号9に示したアミダーゼ遺伝子の全塩基配列が求められた。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列(配列番号10)について、DDBJ(日本DNAデータバンク)のFASTA(相同性検索ソフトウェア)によってホモロジー検索を行った結果、最も高いホモロジーを有するものは、Rhodococcus rhodochrous J1由来のアミダーゼであり、このアミダーゼは本願配列番号10のアミノ酸配列に対して63.7%のホモロジーを示した。
【0080】
なお、国際公開2004/083423号パンフレットに記載されているシュードノカルディア・サーモフィラのアミダーゼのアミノ酸配列は、本願配列番号10のアミノ酸配列に対して85.6%のホモロジーを示した。ただし、図2に示したように、両アミノ酸配列はN末端側の約20アミノ酸残基が一致しているものの、その後の約70アミノ酸残基の広い領域にわたって、配列が異なっており、別の酵素であることが明らかになった。また、本願配列番号10のアミノ酸配列中には、タンパク質レベルで決定されたN末端アミノ酸配列及び内部アミノ酸配列が見出された(図2の網掛けを施したアミノ酸配列)。このことから、本願配列番号9の塩基配列が、シュードノカルディア・サーモフィラから精製されたアミダーゼタンパク質をコードするものであることが確認された。
【実施例15】
【0081】
[アミダーゼ遺伝子の大腸菌での発現]
上述のクローニングされたアミダーゼ遺伝子を発現ベクターに組み込むために、PCRのフォワードプライマー(配列番号11)とリバースプライマー(配列番号12)を合成した。PCRは次のようにして行った。氷冷した0.2ml容のPCR用チューブに、0.5μl(2.5U)のTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、5μlの10倍濃度反応バッファー、4μlのdNTP混合液(各2.5mM)、1.8ngのプラスミドpASM3(実施例13で得られたもの)、10pmolの上のフォワードプライマー、10pmolの上のリバースプライマー及び2.5μlのジメチルスルホキシドを入れ、水を加えて50μlにした。これをPCR装置にセットし、94℃で5分間の処理によってDNAを変性させた後、30回の温度サイクル(94℃で60秒間の変性ステップ、45℃で30秒間のアニーリングステップ、及び68℃で120秒間の伸長反応ステップ)によってDNAを増幅し、最後に68℃で2分間の処理によって反応を完結させた。反応終了後、反応液を1%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1600bpのDNAフラグメントを含むゲルを切り出し、QIAquickゲル抽出キット(キアゲン)を用いて、切り出したゲルからDNAを抽出した。
【0082】
上述のPCRによって増幅されたDNAを、次のようにしてpGEM-T Vector(プロメガ)に組み込んだ。エッペンドルフチューブに、5μlの2倍濃度ラピッドライゲーションバッファー、1μl(50ng)のpGEM-T Vector、3μlの上で得られたPCRによって増幅されたDNA、及び1μl(3U)のT4 DNAリガーゼを入れ、室温で1時間反応させた。この反応液の5μlを、100μlの大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ)に加え、氷中に30分間置いた後、42℃で45秒間の熱処理をした。その後、氷冷し、900μlのSOC培地(2%トリプトン、0.5%酵母エキス、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgSO、10mM MgCl、20mMグルコース)を加えた後、それを37℃で1時間ゆっくり振盪した。このうちの100μlを、選択寒天培地(50μg/mlアンピシリン、0.5mM IPTG、及び40μg/ml X−galを含むLB寒天培地)に塗布し、これを37℃で一晩保温した。選択寒天培地上に現れた白色コロニーを、50μg/mlアンピシリンを含む50mlのLB培地に植菌し、37℃で一晩振盪培養した。この培養液から菌体を集め、実施例10で用いた方法によってその菌体からプラスミドを調製した。このようにして得られたプラスミドをpGEM-fPTAMと命名した。
【0083】
プラスミドpGEM-fPTAMをTEバッファー(10mM Tris−HClバッファー[pH8.0]、1mM EDTA)で100倍希釈し、この1μlを、100μlの大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(Novagen)に加え、氷中に30分間置いた後、42℃で45秒間の熱処理をした。その後、氷冷し、900μlのSOC培地を加え、37℃で1時間ゆっくり振盪した。このうちの100μlを、50μg/mlアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、これを37℃で一晩保温した。この寒天培地に出現したコロニーを、100ml容のバッフル付三角フラスコ中の50μg/mlアンピシリンを含む20mlのLB培地に植菌し、37℃で振盪培養した。A600が0.6になった時点で、終濃度0.4mMになるようにIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を加え、さらに37℃で5時間振盪培養した。培養液を遠心(16krpm、10min、4℃)して集菌し、得られた菌体を100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)に懸濁した。
【0084】
前述の菌体懸濁液の適当量をエッペンドルフチューブにとり、100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)を加えて全量を487.5μlにし、50℃の水浴中で5分間保温した。これに12.5μlの20%DL−メチオニンアミド塩酸塩を添加し、50℃の水浴中で20分間反応させた。100μlの2N塩酸を加えることによって反応を停止させた後、それを遠心(16krpm、5min、20℃)することによって得られた上清をHPLC(水/アセトニトリル/TFA=950/50/1)によって分析した。その結果、1gの湿菌体当たり278Uのアミダーゼ活性が得られた。それに対して、元のシュードノカルディア・サーモフィラ JCM3095の湿菌体1g当たりのアミダーゼ活性は、同じ条件で分析したとき、138Uであった。すなわち、アミダーゼ遺伝子を大腸菌で高発現させることによって、元の菌の約2倍のアミダーゼ活性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
国際公開2004/083423号パンフレットには、本発明と同じ微生物であるシュードノカルディア・サーモフィラ由来のアミダーゼが記載されている。しかしながら、このアミダーゼは、構成酵素であるとされ、その酵素活性は、メチオニンアミドを基質としたとき、HMB−アミド(2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミド)よりも約2.5倍高いと記載されている。一方、本発明のアミダーゼは、同じくシュードノカルディア・サーモフィラ由来であるが、誘導酵素であり、その酵素活性は、前者の酵素とは逆に、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミド(HMB−アミド)を基質としたとき、メチオニンアミドよりも約12倍も高いことが明らかになった。したがって、本発明のアミダーゼは、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドからの2−ヒドロキシ−4−メチルチオ酪酸(HMBA)の生産に有利である。
【0086】
さらに、アミダーゼの遺伝子をクローニングして、塩基配列を決定した結果、両アミダーゼのアミノ酸配列は、N末端側の約20アミノ酸残基は一致していたが、その後の約70アミノ酸残基の広い範囲にわたって、配列が異なっており、別の酵素であることが明らかになった(図2)。
【0087】
これまでに種々のアミダーゼが、いろいろな微生物において見出されているが、それらのアミダーゼは、アミドの加水分解で生じるアンモニアによって活性が強く阻害される(M.J.Woods et al., 1979, Biochim. Biophys. Acta 567:225-237)という致命的な問題があった。それに対して、本発明のアミダーゼは、アンモニアによって活性が阻害されにくいという性質をもっていることが明らかになった。したがって、本発明のアミダーゼは、アミドからカルボン酸を工業的に生産する場合等に非常に有利であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】pH7.5での菌体反応におけるアンモニアの影響を示す図である。●は本発明のシュードノカルディア・サーモフィラJCM3095菌体、○はコントロールとして用いたRhodococcus rhodochrous IFO 15564菌体の場合である。
【図2】本発明のアミダーゼのアミノ酸配列(Nisso)と国際公開2004/083423号パンフレット記載のアミダーゼのアミノ酸配列(Degussa)とを比較した図である。網掛けを施したアミノ酸配列は、タンパク質レベルで決定されたN末端アミノ酸配列又は内部アミノ酸配列である。
【図3】pH9.0での菌体反応におけるアンモニアの影響を示す図である。●は本発明のシュードノカルディア・サーモフィラJCM3095菌体、○はコントロールとして用いたRhodococcus rhodochrous IFO 15564菌体の場合である。
【図4】アミダーゼの各精製段階での活性画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した図である。レーン1は細胞抽出液、レーン2は硫安塩析画分、レーン3はフェニルセファロース活性画分、レーン4はDEAEセファロース活性画分、レーン5はゲル濾過活性画分、及びレーンMは分子質量マーカーである。
【図5】精製アミダーゼを用いた酵素反応における温度の影響を示す図である。
【図6】精製アミダーゼの熱安定性を示す図である。
【図7】精製アミダーゼを用いた酵素反応におけるpHの影響を示す図である。◇は酢酸ナトリウムバッファー、●はリン酸カリウムバッファー、△はTris−HClバッファー、及び■は塩化アンモニウムバッファーを用いた場合である。
【図8】精製アミダーゼを用いた酵素反応におけるアンモニアの影響を示す図である。●は30℃、▲は40℃、及び■は50℃の場合である。
【図9】アミダーゼ遺伝子を含むDNAフラグメントの制限酵素地図である。pAKP1はKpn Iフラグメント、pASM3はSma Iフラグメント、pASC2RはSac Iフラグメント、及びpABM11はBamH Iフラグメントを含むプラスミドである。白抜き矢印はアミダーゼ遺伝子の位置と方向を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)のすべての性質を有することを特徴とするアミダーゼ。
(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示す。
(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す。
(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaである。
(d)活性の至適温度が60から70℃である。
(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定である。
(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す。
【請求項2】
シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)に由来することを特徴とする請求項1記載のアミダーゼ。
【請求項3】
下記(g)又は(h)に示すタンパク質。
(g)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(h)配列番号10に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
下記(i)又は(j)に示すタンパク質。
(i)配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質。
(j)配列番号10に示されるアミノ酸配列の24〜95位のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項5】
以下の(a)及び(b)の性質を有することを特徴とする請求項3〜4のいずれか記載のタンパク質。
(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示す。
(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す。
【請求項6】
以下の(c)〜(f)のすべての性質を有することを特徴とする請求項3〜5のいずれか記載のタンパク質。
(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaである。
(d)活性の至適温度が60から70℃である。
(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定である。
(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す。
【請求項7】
シュードノカルディア・サーモフィラに由来することを特徴とする請求項3〜6のいずれか記載のタンパク質。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか記載のタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNA。
【請求項9】
下記(k)又は(l)に示すアミダーゼ遺伝子DNA。
(k)配列番号9に示される塩基配列からなるアミダーゼ遺伝子DNA。
(l)配列番号9に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNA。
【請求項10】
配列番号9に示される塩基配列からなるDNAに対して相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアミダーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミダーゼ遺伝子DNA。
【請求項11】
アミダーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(a)及び(b)の性質を有するタンパク質であることを特徴とする請求項9又は10記載のアミダーゼ遺伝子DNA。
(a)pH9.0の反応条件において、0.2Mアンモニア存在下でも、アンモニア非存在下の50%以上のアミダーゼ活性を示す。
(b)メチオニンアミドよりも、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミドに対して、より高い比活性を示す。
【請求項12】
アミダーゼ活性を有するタンパク質が、以下の(c)〜(f)のすべての性質を有するタンパク質であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNA。
(c)SDS−PAGE上での、みかけの分子質量が53kDaである。
(d)活性の至適温度が60から70℃である。
(e)中性付近のpHにおいて、60℃以下の温度で安定である。
(f)pH5.5〜pH10.0の広いpH範囲で高い活性を示す。
【請求項13】
アミダーゼ活性を有するタンパク質が、シュードノカルディア・サーモフィラに由来することを特徴とする請求項9〜12のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNA。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか記載のアミダーゼ遺伝子DNAが組み込まれた組換えベクター。
【請求項15】
請求項14記載の組換えベクターが導入されたことを特徴とする形質転換微生物。
【請求項16】
請求項1若しくは2記載のアミダーゼ又はその生産菌若しくはその処理物、あるいは、請求項3〜7のいずれか記載のタンパク質又は請求項15記載の形質転換微生物若しくはその処理物を、アミドに作用させることを特徴とするカルボン酸の製造方法。
【請求項17】
アミドがα−アミノ酸アミド又はα−ヒドロキシ酸アミドであり、カルボン酸がα−アミノ酸又はα−ヒドロキシ酸であることを特徴とする請求項16記載のカルボン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−340630(P2006−340630A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167524(P2005−167524)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】