新規なトリアリールアミン化合物、それよりなるホール輸送材料およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】新規なトリアリールアミン化合物およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスの提供。
【解決手段】代表例を具体的に例示すると、下記式で合成される
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【解決手段】代表例を具体的に例示すると、下記式で合成される
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアリールアミン化合物、それよりなるホール輸送材料およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子を効率よく発光させるには、機能にあった材料を積層させていくことが重要である。
このことに関して、有機エレクトロルミネッセンス素子を効率よく、また高信頼性を保つためにこれまで多くの材料が研究されてきた。
【0003】
ホール輸送材料についても、多くの材料が素子と組み合わせて検討が行われてきており、たとえばその研究の初期においては、下記式
【化1】
に示されるTPD(N,N″−diphenyl−N,N″−bis(3−methlphenyl)−1,1′−diphenyl−4,4′diamine)が広く用いられた(非特許文献1)。
しかしこの化合物はガラス転移温度が63℃と低く、再結晶化しやすいためその後の研究においては、下記式
【化2】
に示されるα−NPD〔N,N″−diphenyl−N,N″−di(1−naphtalenyl)−1,1′−diphenyl−4,4′diamine〕
が用いられるようになった(特許文献1)。このもののガラス転移温度は、96℃と先のTPDに比べ30℃上昇し再結晶化が起こりにくくなった。
【0004】
有機ELに関しては、近年において発光層に蛍光材料から効率の高いリン光材料を使用される事例が増えてきた。例えば緑色材料として、下記式
【化3】
に示されるトリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〔Ir(ppy)3〕が広く利用されている(非特許文献2)。
また青色材料では、下記式
【化4】
で示すビス〔2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリネート(FIrpic)が注目を浴びるようになり、それ以降FIrpicを用いた有機EL素子の高効率化検討および新規な青色リン光錯体探索研究が盛んに行われるようになった(非特許文献3)。
リン光材料を効率よく発光させるには、ホール輸送材料などの周辺材料の見直しが必要である。リン光素子ではホスト材料と同様に輸送材料系においても、三重項励起子の閉じ込め効果が重要であり、十分でないものを用いても効率の高い素子を作成することが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.Adachi,T.Tsutsui and S.Saito,Appl.Phys.Lett.,55,1489(1989)
【非特許文献2】M.A.Baldo,S.LAmansky,P.E.Burrows,M.E.thompson and S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.,75,4(1999)
【非特許文献3】C.Adachi et al.,Appl.Phys.Lett.,79 13(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、素子の低電圧駆動を可能にし、高効率な素子を提供するために必要な新規なトリアリールアミン化合物およびそれよりなるホール輸送材料およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、下記一般式(1)
【化5】
(式中、Q1は下記式
【化6】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化7】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R1〜R33が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物に関する。
本発明の第2は、下記一般式(2)
【化8】
(式中、Q2は下記式
【化9】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはベンゾチオフェニル基からなる群より選ばれた基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化10】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R5〜R37は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R5〜R37が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物に関する。
本発明の第3は、請求項1記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料に関する。
本発明の第4は、請求項2記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料に関する。
本発明の第5は、請求項1記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
本発明の第6は、請求項2記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【0008】
本発明におけるR1〜R37における炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチルなどを挙げることができる。
【0009】
本発明の化合物は、下記の反応により製造することができる。
【化11】
なお前記式中Q1は下記式
【化12】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1およびAr2は、下記式
【化13】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。
R40、R41は水素、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または、両者が結合して環を形成していても構わない基からそれぞれ独立して選ばれた基であり、Xはハロゲンである。
反応式中の、Pd cat.はパラジウム触媒の、Base solutionは塩基性水溶液の、solventは有機溶媒のそれぞれ略称である。
【0010】
反応は、通常鈴木カップリング反応と称される反応を利用したものであり詳細は、Miyaura,N.;Suzuki,A.Chem.Rev.1995,95,2457などに記述されている。
用いる有機溶媒としては、反応基質のハロゲン化物とホウ酸化合物を溶かす溶媒なら特に問題ないが、例示すれば芳香族炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒の混合溶媒もしくはエーテル系溶媒が使用できる。混合溶媒は任意の混合比で使用することができるが、一般には芳香族炭化水素系溶媒3部に対してアルコール系溶媒1部を混ぜたものを使用する。芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどが例示できる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを例示することができる。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどの脂肪族エーテルなどが例示できる。本反応では、芳香族炭化水素系とアルコール系の混合溶媒が好ましく、特に好ましい組み合わせは、トルエンとエタノールの混合溶媒である。
塩基性水溶液として使用できる塩基はアルカリあるいはアルカリ土類金属を含有するものであれば、特に限定されるものではない。例示すれば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのような水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムのような炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素ベリリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウムのような重炭酸塩、あるいはこれらの金属を含むアルコラートや酢酸塩などの有機塩基である。本反応では、反応速度の関係から炭酸塩を用いることが好ましく、より好ましくは炭酸カリウムである。
パラジウム触媒は、ハロゲン化合物とホウ酸化合物とのカップリング反応であるためPd(0)のものが使用できる。例示化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム〔Pd(PPh3)4〕やトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム〔Pd2(dba)3〕やパラジウムジベンジリデンアセトンなどが挙げられる。好ましくは、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムである。
【0011】
反応で使用するハロゲン化物については、クロロ体、ブロモ体、ヨード体のいずれのものでも使用することができる。
ハロゲン化物と反応するホウ酸化合物については、ホウ酸もしくはホウ酸エステルが使用できる。ホウ酸エステルについては、メチルエステルやエチルエステルなどを挙げることができる。またホウ素を含む環状エステル構造に修飾した2つの下記一般式
【化14】
で示される(A)のような4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランや(B)のような5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサボリナンも使用することができる。
【0012】
本発明の化合物の具体例を例示する。なお、例示化合物においてメチル基は他のアルキル基例えばエチル基やプロピル基などと置き換えることができる。
【0013】
【化15】
【0014】
【化16】
【0015】
【化17】
【0016】
【化18】
【0017】
【化19】
【0018】
【化20】
【0019】
【化21】
【0020】
【化22】
【0021】
【化23】
【0022】
【化24】
【0023】
【化25】
【0024】
【化26】
【0025】
【化27】
【0026】
【化28】
【0027】
【化29】
【0028】
【化30】
【0029】
【化31】
【0030】
【化32】
【0031】
【化33】
【0032】
【化34】
【0033】
【化35】
【0034】
【化36】
【0035】
【化37】
【0036】
【化38】
【0037】
【化39】
【0038】
【化40】
【0039】
【化41】
【0040】
【化42】
【0041】
【化43】
【0042】
【化44】
【0043】
【化45】
【0044】
【化46】
【0045】
【化47】
【0046】
【化48】
【0047】
【化49】
【0048】
【化50】
【0049】
【化51】
【0050】
【化52】
【0051】
【化53】
【0052】
【化54】
【0053】
【化55】
【0054】
【化56】
【0055】
【化57】
【0056】
本発明のトリアリールアミン化合物は高いホール輸送性能を有する。従って、ホール輸送材料として使用することができる。これらはいずれも蒸着により層形成を行うのが望ましい。
【0057】
本発明のトリアリールアミン化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子に使用する場合、適当な発光材料と組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明のトリアリールアミン化合物をホール輸送層(正孔輸送層)に用いる場合、本発明の化合物はホール輸送材料として使用できる。また他のホール輸送材料と組み合わせて使用することができる。
【0059】
次に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)について説明する。本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に複数層の有機化合物を積層した素子であり、該有機化合物層の少なくとも一層が本発明のトリアリールアミン化合物を含有する。発光層は、発光材料を含有し、それに加えて陽極から注入したホールもしくは陰極から注入した電子を発光材料まで輸送するのが目的で、本発明の化合物もしくは本発明の化合物と既存のホール輸送材料もしくは電子輸送材料とを含有させることができる。多層型の有機EL素子の構成例としては、例えば陽極(例えばITO)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール注入層(正孔注入層)/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極などの多層構成で積層したものが挙げられる。また、必要に応じて陰極上に封止層を有していても良い。
【0060】
ホール輸送層、電子輸送層、および発光層のそれぞれの層は、一層構造であっても、多層構造であっても良い。またホール輸送層、電子輸送層はそれぞれの層で注入機能を受け持つ層(ホール注入層および電子注入層)と輸送機能を受け持つ層(ホール輸送層および電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0061】
本発明の有機EL素子は、上記構成例に限らず、種々の構成とすることができる。必要に応じて、ホール輸送成分と発光成分、あるいは電子輸送成分と発光成分を混合した層を設けても良い。
【0062】
以下本発明の有機EL素子の構成要素に関して、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極からなる素子構成を例として取り上げて説明する。本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
【0063】
基板の素材については特に制限はなく、例えば、従来の有機EL素子に慣用されているものが使用でき、例えば、ガラス、石英ガラス、透明プラスチックなどからなるものを用いることができる。
【0064】
本発明の有機EL素子の陽極としては、仕事関数の大きな金属単体(4eV以上)、仕事関数の大きな金属同士の合金(4eV以上)または導電性物質およびこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の具体例としては、金、銀、銅などの金属、ITO(インジウム−スズオキサイド)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性透明材料、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子材料が挙げられる。陽極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリング、塗布などの方法により形成することができる。陽極のシート電気抵抗は数百Ω/cm2以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
【0065】
陰極としては、仕事関数の小さな金属単体(4eV以下)、仕事関数の小さい金属同士の合金(4eV以下)または導電性物質およびこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の具体例としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金などが挙げられる。陰極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作成することができる。陰極のシート電気抵抗は数百Ω/cm2以下が好ましい。陰極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。本発明の有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極または陰極の少なくとも一方の電極は透明もしくは半透明であることが好ましい。
【0066】
本発明の有機EL素子の電子輸送層は、電子輸送材料からなるもので、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に電子輸送材料が配置されて陰極から電子が注入された場合、少なくとも10−6cm2/V・秒以上の電子移動度を有する電子輸送材料が好ましい。本発明の有機EL素子に用いられる電子輸送層のための電子輸送材料は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料において電子の電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子の電子輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0067】
前記の電子輸送材料としては、たとえばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)のようなキノリン錯体、1−N−フェニル−2−(p−ビフェニルイル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TAZ)のようなトリアジン誘導体、1,4−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)ベンゼン(DPB)のようなフェナントロリン誘導体、フッ化リチウムのようなハロゲン化アルカリ金属などが挙げられる。電子輸送層は、これらの他の電子輸送材料の一種または二種以上からなる一層で構成されたものでよく、前記の電子輸送材料とは別の化合物からなる電子輸送層を積層したものでも良い。
即ち、電子輸送材料は、下記化学式に示すAlq3、TAZ、DPBなどを挙げられる。
【化58】
電子注入材料としては、下記化学式に示されるフッ化リチウム(LiF)や8−ヒドロキシキノリノラトリチウム錯体(Liq)などを挙げることができるが、本出願人の発明にかかる特開2008−106015号公報に記載のフェナントロリン誘導体のリチウム錯体(LiPB)や同じく特開2008−195623号公報に記載のフェノキシピリジンのリチウム錯体(LiPP)を用いることもできる。
【化59】
【0068】
本発明の有機EL素子の発光層に用いられる発光材料については、特に制限はなく、任意のものを選択して用いることができる。
【0069】
発光材料としては、ペリレン誘導体、ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体(例えばクマリン1、クマリン540、クマリン545等)、ピラン誘導体(例えばDCM−1、DCM−2、DCJTB等)、有機金属錯体、例えばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Almq3)などの蛍光材料や〔2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジル−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリレート(FIrpic)、トリス{1−〔4−(トリフルオロメチル)フェニル〕−1H−ピラゾラート−N,C2′}イリジウム(III)〔Ir(tfmppz)3〕、ビス〔2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′〕イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〔Ir(ppy)3〕などのリン光材料を挙げることができる。
上記したクマリン誘導体およびピラン誘導体の例示化合物は、下記化学式で示される。
【化60】
【0070】
発光層は、ホスト材料とゲスト材料(ドーパント)から形成することもできる〔Appl.Phys.Lett.,65 3610(1989)〕。特にリン光材料を発光層に使用する場合、ホスト材料の使用が必要であり、この時使用されるホスト材料としては4,4′−ジ(N−カルバゾリル)−1,1′−ビフェニル(CBP)、1,4−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン−2,2′−ジ〔4″−(N−カルバゾリル)フェニル〕−1,1′−ビフェニル(4CzPBP)などが挙げられる。
【0071】
ゲスト材料は、ホスト材料に対して好ましくは0.01〜40重量%であり、より好ましくは0.1〜20重量%である。ゲスト材料としては、下記に示す従来公知のFIrpic、Ir(ppy)3、FIr6などを挙げることができる。
【化61】
【0072】
本発明の有機EL素子のホール輸送層に用いるホール輸送材料としては、本発明のトリアリールアミン化合物を用いることができる。このものは単独で使用できるが他のホール輸送材料と併用しても構わない。
【0073】
本発明の有機EL素子は、ホール注入性をさらに向上させる目的で陽極と有機化合物の層の間に有機導電体から構成されるホール注入層をさらに設けても良い。ここで使用されるホール注入材料としては、本発明の化合物の他に銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、およびPEDOT−PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
【0074】
本発明の化合物を含むホール注入層、ホール輸送層の形成方法については特に限定されるものではない。例えば乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)、湿式製膜法〔溶媒塗布法(例えばスピンコート法、キャスト法、インクジェット法等)〕を使用することができる。本発明のトリアリールアミン化合物は乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)が好ましい。電子輸送層の製膜については、湿式製膜法で行うと下層が溶出する恐れがあるため乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)に限定される。素子の作成については上記の製膜法を併用しても構わない。
【0075】
真空蒸着法によりホール輸送層、発光層、電子輸送層などの各層を形成する場合、真空蒸着条件は特に限定されるものではない。通常10−5Torr程度以下の真空下で50〜500℃程度のボート温度(蒸着原温度)、−50〜300℃程度の基板温度で、0.01〜50nm/sec.程度蒸着することが好ましい。正孔輸送層、発光層、電子輸送層の各層を複数の化合物を使用して形成する場合、化合物を入れたボートをそれぞれ温度制御しながら共蒸着することが好ましい。
【0076】
ホール注入層、ホール輸送層を溶媒塗布法で形成する場合、各層を構成する成分を溶媒に溶解または分散させて塗布液とする。溶媒としては、炭化水素系溶媒(例えばヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ハロゲン系溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エーテル系溶媒(例えばジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等)、非プロトン性溶媒(例えばN,N′−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)、水などが挙げられる。溶媒は単独で使用しても良く、複数の溶媒を併用しても良い。
【0077】
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常5〜5,000nmになるようにする。
【0078】
本発明の有機EL素子は、酸素や水分等の接触を遮断する目的で保護層(封止層)を設けたり、不活性物質中に素子を封入して保護することができる。不活性物質としては、パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボンなどが挙げられる。保護層に使用する材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、光硬化性樹脂などがある。
【0079】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常直流駆動の素子として使用できる。直流電圧を印加する場合、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として通常1.5〜20V程度印加すると発光が観察される。また本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は交流駆動の素子としても使用できる。交流電圧を印加する場合には、陽極がプラス、陰極がマイナスの状態になった時に発光する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば電子写真感光体、フラットパネルディスプレイなどの平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、計器等の光源、各種発光素子、各種表示装置、各種標識、各種センサー、各種アクセサリーなどに使用することができる。
【0080】
図18〜27に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい例を示す。
【0081】
図18は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における1例を示す断面図である。図18は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、発光層は電子輸送性の機能を有している場合に有用である。
【0082】
図19は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図19は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6および陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、材料選択の自由度が増すために、発光の高効率化や発光色の自由度が増すことになる。
【0083】
図20は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図20は、基板1上に陽極2、正孔注入層7、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、正孔注入層7を設けることにより、陽極2と正孔輸送層5の密着性を高め、陽極からの正孔の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
【0084】
図21は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図21は基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4からの電子の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
図22は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図22は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4から電子の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
【0085】
図23は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図23は、基板1上に陽極2、正孔注入層7、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陽極2から正孔の注入を良くし、陰極4から電子注入を良くし、最も低電圧駆動に効果がある構成である。
【0086】
図24〜27は素子の中に正孔ブロック層9を挿入したものの断面図である。正孔ブロック層は、陽極から注入された正孔、あるいは発光層3で再結合により生成した励起子が、陰極4に抜けることを防止する効果があり、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上に効果がある。正孔ブロック層9については、発光層3と陰極4の間もしくは発光層3と電子輸送層6の間あるいは発光層3と電子注入層8の間に挿入することができる。より好ましいものは発光層3と電子輸送層6の間である。
【0087】
図18〜27で、正孔輸送層5、正孔注入層7、電子輸送層6、電子注入層8、発光層3、正孔ブロック層9のそれぞれの層は、一層構造であっても多層構造であっても良い。
【0088】
図18〜27は、あくまでも基本的な素子構成であり、本発明の化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の構成はこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0089】
本発明のトリアリールアミン化合物は、ガラス転移温度が110〜120℃と高く実用的なレベルの熱特性を有している。またこのものをホール輸送層に用いた素子は、輝度−電流特性、電流密度−電圧特性がα−NPDに比べて良好で、長時間素子を点灯させても電圧上昇も少ないことからホール輸送性が高いと考えられる。
よって本発明の化合物は、素子を高効率化させるために必要なものであり工業的に極めて重要なものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1で得られた5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。
【図2】実施例2で得られた2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン(DBTDTA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。
【図3】実施例1で5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の低温リン光スペクトルを示す。
【図4】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つエネルギーダイアグラムを示す。
【図5】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ電流密度−電圧特性を示す。
【図6】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ輝度−電圧特性を示す。
【図7】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ視感効率−電圧特性を示す。
【図8】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ電流効率−電圧特性を示す。
【図9】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ外部量子収率−輝度特性を示す。
【図10】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つELスペクトルを示す。
【図11】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つエネルギーダイアグラムを示す。
【図12】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ電流密度−電圧特性を示す。
【図13】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ輝度−電圧特性を示す。
【図14】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ視感効率−電圧特性を示す。
【図15】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ電流効率−電圧特性を示す。
【図16】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ外部量子収率−輝度特性を示す。
【図17】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つELスペクトルを示す。
【図18】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図19】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図20】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図21】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図22】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図23】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図24】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図25】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図26】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図27】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0092】
実施例1
5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル
{5′−(carbazol−9−yl)−3,3″−bis−〔(N,N−di−p−tolyl)amino〕−(1,1′:3′,1″)terphenyl}(略号CzTDA)の合成
【化62】
9−(3,5−ジブロモフェニル)−9H−カルバゾール(略称DBrPCz)0.80g(2.0mmol)、{3−〔4,4,5,5−テトラメチル−(1,3,2)ジオキサボロラン−2−イル〕フェニル}−ジ−p−トリルアミン(略称DTAPDOB)1.68g(4.2mmol)、2M炭酸カリウム水溶液6.0ml、トルエン50ml、エタノール25mlを加え、1時間窒素バブリングをした。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム〔Pd(PPh3)4〕0.14g(0.12mmol)を加え、9時間還流した。有機層をトルエンで抽出、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/トルエン=4/1=>3/1=>5/2)にて精製することにより白色泡状固体を得た。目的物の確認は、1H−NMR、MS、元素分析により行った(収量1.00g、収率64%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ8.14(d,J=7.8Hz,2H)、7.66(t,J=1.8Hz,1H)、7.60(d,J=1.8Hz,2H)、7.44(d,J=8.2Hz,2H)、7.37(dt,J=8.2,1.4Hz,2H)、7.30−7.34(m,5H)、7.19−7.14(m,3H)、7.06−6.97(m,18H)、2.29(s,12H)ppm;MS:m/z787[M]+;Anal.Calcd for C58H47N3:C,88.63;H,6.03;N,5.35%.Found:C,88.85;H,5.96;N,5.33%.
5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(略号CzTDA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを図1に示す。
また熱および光学特性を表1に示す。
【表1】
Td:分解温度、
Tg:ガラス転移温度、
Tm:融点、
Ip:イオン化ポテンシャル、
Eg:エネルギーギャップ、
Ea:エレクトロアフィニティ(電子親和力)、
n.d.:検出されず。
Tg(ガラス転移温度)については、DSC(Differential Scanning Calorimeter 示差熱量計)中にサンプルを加え、溶融されたものを急冷し、2〜3回繰返すとガラス点を示すカーブがチャート上に現れるので、そのカーブを接線で結び、その交点の温度をTgとして採用する。
Tm(融点)は、同じくDSCにサンプルを加え、昇温させていくと急熱カーブが現れるのでその極大のところの温度を読んで、その温度をTmとする。
Td(分解温度)は、DTA(Differential Thermal Analyzer 示差熱分析装置)にサンプルを加え、加熱していくとサンプルが熱によって分解し、重量が減少しだす。その減少が開始し5%重量減少したところの温度を読んでその点をTdとする。
エネルギーギャップ(Eg)については、蒸着機で作成した薄膜を紫外−可視吸光度計で薄膜の吸収曲線を測定する。その薄膜の短波長側の立ち上がりのところに接線を引き、求まった交点の波長W(nm)を次の式に代入し目的の値を求める。それによって得た値がEgになる。
Eg=1240÷W
例えば接線を引いて求めた値W(nm)が470nmだったとしたらこの時のEgの値は
Eg=1240÷470=2.63(eV)
と言うことになる。
IP(イオン化ポテンシャル)はイオン化ポテンシャル測定装置(例えば理研計器AC−3)を使用して測定し、測定するサンプルがイオン化を開始したところの電圧(eV)の値を読む。
Ea(電子親和力)は、IpからEgを引いた値である。
【0093】
実施例2
2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン
〔2,8−Bis(3−di−p−tolylaminophenyl)benzothiophene〕(略号DBTDTA)の合成
【化63】
2,8−ジベンゾチオフェン(略号28DBT)1.0g(2.9mmol)、DTAPDOB2.4g(6.0mmol)、2M炭酸カリウム水溶液12.0ml、トルエン50ml、エタノール25mlを加え、1時間窒素バブリングをした。Pd(PPh3)40.14g(0.12mmol)を加え、15時間還流した。有機層をトルエンで抽出、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/トルエン=4/1=>2/1=>1/1)にて精製することにより白色泡状固体を得た。目的物の確認は,1H−NMR、MS、元素分析により行った(収量1.50g、収率71%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ8.26(d,J=1.7Hz,2H)、7.83(d,J=8.4Hz,2H)、7.57(dd,J=1.7,8.4Hz,2H)、7.38−7.16(m,6H)、7.10−6.99(m,18H)、2.31(s,12H)ppm;MS:m/z728[M]+;Anal.Calcd for C52H42N2S:C,85.91;H,5.82;N,3.85;S,4.41%.Found:C,85.88;H,5.84;N,3.80;S,4.23%.
得られた2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン(DBTDTA)の熱および光学特性を表2に示す。また得られたDBTDTAの蒸着膜(膜圧500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを図2に示す。
【表2】
Td:分解温度、
Tg:ガラス転移温度、
Tm:融点、
Ip:イオン化ポテンシャル、
Eg:エネルギーギャップ、
Ea:エレクトロアフィニティ(電子親和力)、
n.d.:検出されず。
【0094】
前記実施例1で得られたホール輸送材料としての5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の低温リン光スペクトル測定を行ったところ、リン光スペクトルの立ち上がりは460nm(T1=2.70eV)であり、その低温リン光スペクトル(T=4.2K)は図3に示す。
【0095】
比較例1および実施例3、4
比較例1として下記化合物
【化64】
の3,3″′−ジ〔N,N−ジ(p−トリル)〕1,1′:2′,1″:2″,1″′−クォーターフェニル(3DTAPBP)をホール輸送層に用い、実施例1、2で合成したホール輸送材料CzTDA、DBTDTAを用いた青色リン光素子を作成し、それぞれの素子の性能を評価した。
【化65】
これらの各素子のエネルギーダイアグラムを図4に示す。
また、各素子の構成は下記に示す。
比較例1:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/3DTAPBP(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例3:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/CzTDA(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例4:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/DBTDTA(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
電流密度−電圧特性は図5に、
輝度−電圧特性は図6に、
視感効率−電圧特性は図7に、
電流効率−電圧特性は図8に、
外部量子収率−輝度特性は図9に、
エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは図10に、
それぞれ示す。
また、前記青色リン光素子の特性とそのホストの効果を下記表3に示す。
【表3】
【0096】
比較例2および実施例5、6
比較例2として下記式
【化66】
で表される1,1−ビス{4−〔N,N−ジ(p−トリル)アミノ〕フェニル}シクロヘキサン(略称TAPC)をホール輸送層に用い、実施例1、2で合成したホール輸送材料CzTDA,DBTDTAを用いた緑色リン光素子を作成し、それぞれの素子の性能を評価した。
【化67】
これらの各素子のエネルギーダイアグラムを図11に示す。
また、各素子の構成は下記に示す。
比較例2:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/TAPC(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)
(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例5:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/CzTDA(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例6:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/DBTDTA(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
電流密度−電圧特性は図12に、
輝度−電圧特性は図13に、
視感効率−電圧特性は図14に、
電流効率−電圧特性は図15に、
外部量子収率−輝度特性は図16に、
エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは図17に、
それぞれ示す。
また、前記緑色リン光素子の特性とそのホストの効果を下記表4に示す。
【表4】
【符号の説明】
【0097】
1 基板
2 陽極(ITO)
3 発光層
4 陰極
5 正孔(ホール)輸送層
6 電子輸送層
7 正孔(ホール)注入層
8 電子注入層
9 正孔(ホール)ブロック層
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアリールアミン化合物、それよりなるホール輸送材料およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子を効率よく発光させるには、機能にあった材料を積層させていくことが重要である。
このことに関して、有機エレクトロルミネッセンス素子を効率よく、また高信頼性を保つためにこれまで多くの材料が研究されてきた。
【0003】
ホール輸送材料についても、多くの材料が素子と組み合わせて検討が行われてきており、たとえばその研究の初期においては、下記式
【化1】
に示されるTPD(N,N″−diphenyl−N,N″−bis(3−methlphenyl)−1,1′−diphenyl−4,4′diamine)が広く用いられた(非特許文献1)。
しかしこの化合物はガラス転移温度が63℃と低く、再結晶化しやすいためその後の研究においては、下記式
【化2】
に示されるα−NPD〔N,N″−diphenyl−N,N″−di(1−naphtalenyl)−1,1′−diphenyl−4,4′diamine〕
が用いられるようになった(特許文献1)。このもののガラス転移温度は、96℃と先のTPDに比べ30℃上昇し再結晶化が起こりにくくなった。
【0004】
有機ELに関しては、近年において発光層に蛍光材料から効率の高いリン光材料を使用される事例が増えてきた。例えば緑色材料として、下記式
【化3】
に示されるトリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〔Ir(ppy)3〕が広く利用されている(非特許文献2)。
また青色材料では、下記式
【化4】
で示すビス〔2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリネート(FIrpic)が注目を浴びるようになり、それ以降FIrpicを用いた有機EL素子の高効率化検討および新規な青色リン光錯体探索研究が盛んに行われるようになった(非特許文献3)。
リン光材料を効率よく発光させるには、ホール輸送材料などの周辺材料の見直しが必要である。リン光素子ではホスト材料と同様に輸送材料系においても、三重項励起子の閉じ込め効果が重要であり、十分でないものを用いても効率の高い素子を作成することが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.Adachi,T.Tsutsui and S.Saito,Appl.Phys.Lett.,55,1489(1989)
【非特許文献2】M.A.Baldo,S.LAmansky,P.E.Burrows,M.E.thompson and S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.,75,4(1999)
【非特許文献3】C.Adachi et al.,Appl.Phys.Lett.,79 13(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、素子の低電圧駆動を可能にし、高効率な素子を提供するために必要な新規なトリアリールアミン化合物およびそれよりなるホール輸送材料およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、下記一般式(1)
【化5】
(式中、Q1は下記式
【化6】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化7】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R1〜R33が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物に関する。
本発明の第2は、下記一般式(2)
【化8】
(式中、Q2は下記式
【化9】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはベンゾチオフェニル基からなる群より選ばれた基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化10】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R5〜R37は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R5〜R37が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物に関する。
本発明の第3は、請求項1記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料に関する。
本発明の第4は、請求項2記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料に関する。
本発明の第5は、請求項1記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
本発明の第6は、請求項2記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【0008】
本発明におけるR1〜R37における炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチルなどを挙げることができる。
【0009】
本発明の化合物は、下記の反応により製造することができる。
【化11】
なお前記式中Q1は下記式
【化12】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1およびAr2は、下記式
【化13】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。
R40、R41は水素、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または、両者が結合して環を形成していても構わない基からそれぞれ独立して選ばれた基であり、Xはハロゲンである。
反応式中の、Pd cat.はパラジウム触媒の、Base solutionは塩基性水溶液の、solventは有機溶媒のそれぞれ略称である。
【0010】
反応は、通常鈴木カップリング反応と称される反応を利用したものであり詳細は、Miyaura,N.;Suzuki,A.Chem.Rev.1995,95,2457などに記述されている。
用いる有機溶媒としては、反応基質のハロゲン化物とホウ酸化合物を溶かす溶媒なら特に問題ないが、例示すれば芳香族炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒の混合溶媒もしくはエーテル系溶媒が使用できる。混合溶媒は任意の混合比で使用することができるが、一般には芳香族炭化水素系溶媒3部に対してアルコール系溶媒1部を混ぜたものを使用する。芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどが例示できる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを例示することができる。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどの脂肪族エーテルなどが例示できる。本反応では、芳香族炭化水素系とアルコール系の混合溶媒が好ましく、特に好ましい組み合わせは、トルエンとエタノールの混合溶媒である。
塩基性水溶液として使用できる塩基はアルカリあるいはアルカリ土類金属を含有するものであれば、特に限定されるものではない。例示すれば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのような水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムのような炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素ベリリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウムのような重炭酸塩、あるいはこれらの金属を含むアルコラートや酢酸塩などの有機塩基である。本反応では、反応速度の関係から炭酸塩を用いることが好ましく、より好ましくは炭酸カリウムである。
パラジウム触媒は、ハロゲン化合物とホウ酸化合物とのカップリング反応であるためPd(0)のものが使用できる。例示化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム〔Pd(PPh3)4〕やトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム〔Pd2(dba)3〕やパラジウムジベンジリデンアセトンなどが挙げられる。好ましくは、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムである。
【0011】
反応で使用するハロゲン化物については、クロロ体、ブロモ体、ヨード体のいずれのものでも使用することができる。
ハロゲン化物と反応するホウ酸化合物については、ホウ酸もしくはホウ酸エステルが使用できる。ホウ酸エステルについては、メチルエステルやエチルエステルなどを挙げることができる。またホウ素を含む環状エステル構造に修飾した2つの下記一般式
【化14】
で示される(A)のような4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランや(B)のような5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサボリナンも使用することができる。
【0012】
本発明の化合物の具体例を例示する。なお、例示化合物においてメチル基は他のアルキル基例えばエチル基やプロピル基などと置き換えることができる。
【0013】
【化15】
【0014】
【化16】
【0015】
【化17】
【0016】
【化18】
【0017】
【化19】
【0018】
【化20】
【0019】
【化21】
【0020】
【化22】
【0021】
【化23】
【0022】
【化24】
【0023】
【化25】
【0024】
【化26】
【0025】
【化27】
【0026】
【化28】
【0027】
【化29】
【0028】
【化30】
【0029】
【化31】
【0030】
【化32】
【0031】
【化33】
【0032】
【化34】
【0033】
【化35】
【0034】
【化36】
【0035】
【化37】
【0036】
【化38】
【0037】
【化39】
【0038】
【化40】
【0039】
【化41】
【0040】
【化42】
【0041】
【化43】
【0042】
【化44】
【0043】
【化45】
【0044】
【化46】
【0045】
【化47】
【0046】
【化48】
【0047】
【化49】
【0048】
【化50】
【0049】
【化51】
【0050】
【化52】
【0051】
【化53】
【0052】
【化54】
【0053】
【化55】
【0054】
【化56】
【0055】
【化57】
【0056】
本発明のトリアリールアミン化合物は高いホール輸送性能を有する。従って、ホール輸送材料として使用することができる。これらはいずれも蒸着により層形成を行うのが望ましい。
【0057】
本発明のトリアリールアミン化合物を有機エレクトロルミネッセンス素子に使用する場合、適当な発光材料と組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明のトリアリールアミン化合物をホール輸送層(正孔輸送層)に用いる場合、本発明の化合物はホール輸送材料として使用できる。また他のホール輸送材料と組み合わせて使用することができる。
【0059】
次に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)について説明する。本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に複数層の有機化合物を積層した素子であり、該有機化合物層の少なくとも一層が本発明のトリアリールアミン化合物を含有する。発光層は、発光材料を含有し、それに加えて陽極から注入したホールもしくは陰極から注入した電子を発光材料まで輸送するのが目的で、本発明の化合物もしくは本発明の化合物と既存のホール輸送材料もしくは電子輸送材料とを含有させることができる。多層型の有機EL素子の構成例としては、例えば陽極(例えばITO)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール注入層(正孔注入層)/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極などの多層構成で積層したものが挙げられる。また、必要に応じて陰極上に封止層を有していても良い。
【0060】
ホール輸送層、電子輸送層、および発光層のそれぞれの層は、一層構造であっても、多層構造であっても良い。またホール輸送層、電子輸送層はそれぞれの層で注入機能を受け持つ層(ホール注入層および電子注入層)と輸送機能を受け持つ層(ホール輸送層および電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0061】
本発明の有機EL素子は、上記構成例に限らず、種々の構成とすることができる。必要に応じて、ホール輸送成分と発光成分、あるいは電子輸送成分と発光成分を混合した層を設けても良い。
【0062】
以下本発明の有機EL素子の構成要素に関して、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極からなる素子構成を例として取り上げて説明する。本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
【0063】
基板の素材については特に制限はなく、例えば、従来の有機EL素子に慣用されているものが使用でき、例えば、ガラス、石英ガラス、透明プラスチックなどからなるものを用いることができる。
【0064】
本発明の有機EL素子の陽極としては、仕事関数の大きな金属単体(4eV以上)、仕事関数の大きな金属同士の合金(4eV以上)または導電性物質およびこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の具体例としては、金、銀、銅などの金属、ITO(インジウム−スズオキサイド)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性透明材料、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子材料が挙げられる。陽極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリング、塗布などの方法により形成することができる。陽極のシート電気抵抗は数百Ω/cm2以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
【0065】
陰極としては、仕事関数の小さな金属単体(4eV以下)、仕事関数の小さい金属同士の合金(4eV以下)または導電性物質およびこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の具体例としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金などが挙げられる。陰極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作成することができる。陰極のシート電気抵抗は数百Ω/cm2以下が好ましい。陰極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。本発明の有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極または陰極の少なくとも一方の電極は透明もしくは半透明であることが好ましい。
【0066】
本発明の有機EL素子の電子輸送層は、電子輸送材料からなるもので、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に電子輸送材料が配置されて陰極から電子が注入された場合、少なくとも10−6cm2/V・秒以上の電子移動度を有する電子輸送材料が好ましい。本発明の有機EL素子に用いられる電子輸送層のための電子輸送材料は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料において電子の電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子の電子輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0067】
前記の電子輸送材料としては、たとえばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)のようなキノリン錯体、1−N−フェニル−2−(p−ビフェニルイル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TAZ)のようなトリアジン誘導体、1,4−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)ベンゼン(DPB)のようなフェナントロリン誘導体、フッ化リチウムのようなハロゲン化アルカリ金属などが挙げられる。電子輸送層は、これらの他の電子輸送材料の一種または二種以上からなる一層で構成されたものでよく、前記の電子輸送材料とは別の化合物からなる電子輸送層を積層したものでも良い。
即ち、電子輸送材料は、下記化学式に示すAlq3、TAZ、DPBなどを挙げられる。
【化58】
電子注入材料としては、下記化学式に示されるフッ化リチウム(LiF)や8−ヒドロキシキノリノラトリチウム錯体(Liq)などを挙げることができるが、本出願人の発明にかかる特開2008−106015号公報に記載のフェナントロリン誘導体のリチウム錯体(LiPB)や同じく特開2008−195623号公報に記載のフェノキシピリジンのリチウム錯体(LiPP)を用いることもできる。
【化59】
【0068】
本発明の有機EL素子の発光層に用いられる発光材料については、特に制限はなく、任意のものを選択して用いることができる。
【0069】
発光材料としては、ペリレン誘導体、ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体(例えばクマリン1、クマリン540、クマリン545等)、ピラン誘導体(例えばDCM−1、DCM−2、DCJTB等)、有機金属錯体、例えばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Almq3)などの蛍光材料や〔2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジル−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリレート(FIrpic)、トリス{1−〔4−(トリフルオロメチル)フェニル〕−1H−ピラゾラート−N,C2′}イリジウム(III)〔Ir(tfmppz)3〕、ビス〔2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′〕イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〔Ir(ppy)3〕などのリン光材料を挙げることができる。
上記したクマリン誘導体およびピラン誘導体の例示化合物は、下記化学式で示される。
【化60】
【0070】
発光層は、ホスト材料とゲスト材料(ドーパント)から形成することもできる〔Appl.Phys.Lett.,65 3610(1989)〕。特にリン光材料を発光層に使用する場合、ホスト材料の使用が必要であり、この時使用されるホスト材料としては4,4′−ジ(N−カルバゾリル)−1,1′−ビフェニル(CBP)、1,4−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン−2,2′−ジ〔4″−(N−カルバゾリル)フェニル〕−1,1′−ビフェニル(4CzPBP)などが挙げられる。
【0071】
ゲスト材料は、ホスト材料に対して好ましくは0.01〜40重量%であり、より好ましくは0.1〜20重量%である。ゲスト材料としては、下記に示す従来公知のFIrpic、Ir(ppy)3、FIr6などを挙げることができる。
【化61】
【0072】
本発明の有機EL素子のホール輸送層に用いるホール輸送材料としては、本発明のトリアリールアミン化合物を用いることができる。このものは単独で使用できるが他のホール輸送材料と併用しても構わない。
【0073】
本発明の有機EL素子は、ホール注入性をさらに向上させる目的で陽極と有機化合物の層の間に有機導電体から構成されるホール注入層をさらに設けても良い。ここで使用されるホール注入材料としては、本発明の化合物の他に銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、およびPEDOT−PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
【0074】
本発明の化合物を含むホール注入層、ホール輸送層の形成方法については特に限定されるものではない。例えば乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)、湿式製膜法〔溶媒塗布法(例えばスピンコート法、キャスト法、インクジェット法等)〕を使用することができる。本発明のトリアリールアミン化合物は乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)が好ましい。電子輸送層の製膜については、湿式製膜法で行うと下層が溶出する恐れがあるため乾式製膜法(例えば真空蒸着法、イオン化蒸着法等)に限定される。素子の作成については上記の製膜法を併用しても構わない。
【0075】
真空蒸着法によりホール輸送層、発光層、電子輸送層などの各層を形成する場合、真空蒸着条件は特に限定されるものではない。通常10−5Torr程度以下の真空下で50〜500℃程度のボート温度(蒸着原温度)、−50〜300℃程度の基板温度で、0.01〜50nm/sec.程度蒸着することが好ましい。正孔輸送層、発光層、電子輸送層の各層を複数の化合物を使用して形成する場合、化合物を入れたボートをそれぞれ温度制御しながら共蒸着することが好ましい。
【0076】
ホール注入層、ホール輸送層を溶媒塗布法で形成する場合、各層を構成する成分を溶媒に溶解または分散させて塗布液とする。溶媒としては、炭化水素系溶媒(例えばヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ハロゲン系溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、エステル系溶媒(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エーテル系溶媒(例えばジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等)、非プロトン性溶媒(例えばN,N′−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)、水などが挙げられる。溶媒は単独で使用しても良く、複数の溶媒を併用しても良い。
【0077】
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常5〜5,000nmになるようにする。
【0078】
本発明の有機EL素子は、酸素や水分等の接触を遮断する目的で保護層(封止層)を設けたり、不活性物質中に素子を封入して保護することができる。不活性物質としては、パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボンなどが挙げられる。保護層に使用する材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、光硬化性樹脂などがある。
【0079】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常直流駆動の素子として使用できる。直流電圧を印加する場合、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として通常1.5〜20V程度印加すると発光が観察される。また本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は交流駆動の素子としても使用できる。交流電圧を印加する場合には、陽極がプラス、陰極がマイナスの状態になった時に発光する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば電子写真感光体、フラットパネルディスプレイなどの平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、計器等の光源、各種発光素子、各種表示装置、各種標識、各種センサー、各種アクセサリーなどに使用することができる。
【0080】
図18〜27に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい例を示す。
【0081】
図18は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における1例を示す断面図である。図18は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、発光層は電子輸送性の機能を有している場合に有用である。
【0082】
図19は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図19は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6および陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、材料選択の自由度が増すために、発光の高効率化や発光色の自由度が増すことになる。
【0083】
図20は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図20は、基板1上に陽極2、正孔注入層7、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、正孔注入層7を設けることにより、陽極2と正孔輸送層5の密着性を高め、陽極からの正孔の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
【0084】
図21は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図21は基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4からの電子の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
図22は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図22は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4から電子の注入を良くし、発光素子の低電圧化に効果がある。
【0085】
図23は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子における他の例を示す断面図である。図23は、基板1上に陽極2、正孔注入層7、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8および陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陽極2から正孔の注入を良くし、陰極4から電子注入を良くし、最も低電圧駆動に効果がある構成である。
【0086】
図24〜27は素子の中に正孔ブロック層9を挿入したものの断面図である。正孔ブロック層は、陽極から注入された正孔、あるいは発光層3で再結合により生成した励起子が、陰極4に抜けることを防止する効果があり、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上に効果がある。正孔ブロック層9については、発光層3と陰極4の間もしくは発光層3と電子輸送層6の間あるいは発光層3と電子注入層8の間に挿入することができる。より好ましいものは発光層3と電子輸送層6の間である。
【0087】
図18〜27で、正孔輸送層5、正孔注入層7、電子輸送層6、電子注入層8、発光層3、正孔ブロック層9のそれぞれの層は、一層構造であっても多層構造であっても良い。
【0088】
図18〜27は、あくまでも基本的な素子構成であり、本発明の化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の構成はこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0089】
本発明のトリアリールアミン化合物は、ガラス転移温度が110〜120℃と高く実用的なレベルの熱特性を有している。またこのものをホール輸送層に用いた素子は、輝度−電流特性、電流密度−電圧特性がα−NPDに比べて良好で、長時間素子を点灯させても電圧上昇も少ないことからホール輸送性が高いと考えられる。
よって本発明の化合物は、素子を高効率化させるために必要なものであり工業的に極めて重要なものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1で得られた5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。
【図2】実施例2で得られた2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン(DBTDTA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを示す。
【図3】実施例1で5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の低温リン光スペクトルを示す。
【図4】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つエネルギーダイアグラムを示す。
【図5】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ電流密度−電圧特性を示す。
【図6】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ輝度−電圧特性を示す。
【図7】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ視感効率−電圧特性を示す。
【図8】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ電流効率−電圧特性を示す。
【図9】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つ外部量子収率−輝度特性を示す。
【図10】比較例1および実施例3、4の有機EL素子の持つELスペクトルを示す。
【図11】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つエネルギーダイアグラムを示す。
【図12】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ電流密度−電圧特性を示す。
【図13】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ輝度−電圧特性を示す。
【図14】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ視感効率−電圧特性を示す。
【図15】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ電流効率−電圧特性を示す。
【図16】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つ外部量子収率−輝度特性を示す。
【図17】比較例2および実施例5、6の有機EL素子の持つELスペクトルを示す。
【図18】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図19】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図20】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図21】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図22】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図23】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図24】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図25】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図26】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図27】本発明における有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0092】
実施例1
5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル
{5′−(carbazol−9−yl)−3,3″−bis−〔(N,N−di−p−tolyl)amino〕−(1,1′:3′,1″)terphenyl}(略号CzTDA)の合成
【化62】
9−(3,5−ジブロモフェニル)−9H−カルバゾール(略称DBrPCz)0.80g(2.0mmol)、{3−〔4,4,5,5−テトラメチル−(1,3,2)ジオキサボロラン−2−イル〕フェニル}−ジ−p−トリルアミン(略称DTAPDOB)1.68g(4.2mmol)、2M炭酸カリウム水溶液6.0ml、トルエン50ml、エタノール25mlを加え、1時間窒素バブリングをした。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム〔Pd(PPh3)4〕0.14g(0.12mmol)を加え、9時間還流した。有機層をトルエンで抽出、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/トルエン=4/1=>3/1=>5/2)にて精製することにより白色泡状固体を得た。目的物の確認は、1H−NMR、MS、元素分析により行った(収量1.00g、収率64%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ8.14(d,J=7.8Hz,2H)、7.66(t,J=1.8Hz,1H)、7.60(d,J=1.8Hz,2H)、7.44(d,J=8.2Hz,2H)、7.37(dt,J=8.2,1.4Hz,2H)、7.30−7.34(m,5H)、7.19−7.14(m,3H)、7.06−6.97(m,18H)、2.29(s,12H)ppm;MS:m/z787[M]+;Anal.Calcd for C58H47N3:C,88.63;H,6.03;N,5.35%.Found:C,88.85;H,5.96;N,5.33%.
5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(略号CzTDA)の蒸着膜(膜厚500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを図1に示す。
また熱および光学特性を表1に示す。
【表1】
Td:分解温度、
Tg:ガラス転移温度、
Tm:融点、
Ip:イオン化ポテンシャル、
Eg:エネルギーギャップ、
Ea:エレクトロアフィニティ(電子親和力)、
n.d.:検出されず。
Tg(ガラス転移温度)については、DSC(Differential Scanning Calorimeter 示差熱量計)中にサンプルを加え、溶融されたものを急冷し、2〜3回繰返すとガラス点を示すカーブがチャート上に現れるので、そのカーブを接線で結び、その交点の温度をTgとして採用する。
Tm(融点)は、同じくDSCにサンプルを加え、昇温させていくと急熱カーブが現れるのでその極大のところの温度を読んで、その温度をTmとする。
Td(分解温度)は、DTA(Differential Thermal Analyzer 示差熱分析装置)にサンプルを加え、加熱していくとサンプルが熱によって分解し、重量が減少しだす。その減少が開始し5%重量減少したところの温度を読んでその点をTdとする。
エネルギーギャップ(Eg)については、蒸着機で作成した薄膜を紫外−可視吸光度計で薄膜の吸収曲線を測定する。その薄膜の短波長側の立ち上がりのところに接線を引き、求まった交点の波長W(nm)を次の式に代入し目的の値を求める。それによって得た値がEgになる。
Eg=1240÷W
例えば接線を引いて求めた値W(nm)が470nmだったとしたらこの時のEgの値は
Eg=1240÷470=2.63(eV)
と言うことになる。
IP(イオン化ポテンシャル)はイオン化ポテンシャル測定装置(例えば理研計器AC−3)を使用して測定し、測定するサンプルがイオン化を開始したところの電圧(eV)の値を読む。
Ea(電子親和力)は、IpからEgを引いた値である。
【0093】
実施例2
2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン
〔2,8−Bis(3−di−p−tolylaminophenyl)benzothiophene〕(略号DBTDTA)の合成
【化63】
2,8−ジベンゾチオフェン(略号28DBT)1.0g(2.9mmol)、DTAPDOB2.4g(6.0mmol)、2M炭酸カリウム水溶液12.0ml、トルエン50ml、エタノール25mlを加え、1時間窒素バブリングをした。Pd(PPh3)40.14g(0.12mmol)を加え、15時間還流した。有機層をトルエンで抽出、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾別、濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/トルエン=4/1=>2/1=>1/1)にて精製することにより白色泡状固体を得た。目的物の確認は,1H−NMR、MS、元素分析により行った(収量1.50g、収率71%)。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ8.26(d,J=1.7Hz,2H)、7.83(d,J=8.4Hz,2H)、7.57(dd,J=1.7,8.4Hz,2H)、7.38−7.16(m,6H)、7.10−6.99(m,18H)、2.31(s,12H)ppm;MS:m/z728[M]+;Anal.Calcd for C52H42N2S:C,85.91;H,5.82;N,3.85;S,4.41%.Found:C,85.88;H,5.84;N,3.80;S,4.23%.
得られた2,8−ビス(3−ジ−p−トリルアミノフェニル)ベンゾチオフェン(DBTDTA)の熱および光学特性を表2に示す。また得られたDBTDTAの蒸着膜(膜圧500Å)の紫外線吸収スペクトルと蛍光スペクトルを図2に示す。
【表2】
Td:分解温度、
Tg:ガラス転移温度、
Tm:融点、
Ip:イオン化ポテンシャル、
Eg:エネルギーギャップ、
Ea:エレクトロアフィニティ(電子親和力)、
n.d.:検出されず。
【0094】
前記実施例1で得られたホール輸送材料としての5′−(カルバゾール−9−イル)−3,3″−ビス〔(N,N−ジ−p−トリル)アミノ〕−(1,1′:3′,1″)ターフェニル(CzTDA)の低温リン光スペクトル測定を行ったところ、リン光スペクトルの立ち上がりは460nm(T1=2.70eV)であり、その低温リン光スペクトル(T=4.2K)は図3に示す。
【0095】
比較例1および実施例3、4
比較例1として下記化合物
【化64】
の3,3″′−ジ〔N,N−ジ(p−トリル)〕1,1′:2′,1″:2″,1″′−クォーターフェニル(3DTAPBP)をホール輸送層に用い、実施例1、2で合成したホール輸送材料CzTDA、DBTDTAを用いた青色リン光素子を作成し、それぞれの素子の性能を評価した。
【化65】
これらの各素子のエネルギーダイアグラムを図4に示す。
また、各素子の構成は下記に示す。
比較例1:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/3DTAPBP(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例3:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/CzTDA(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例4:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/DBTDTA(20nm)(ホール輸送層)/4CzPBP:12wt%FIrpic(10nm)(発光層)/BmPyPB(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
電流密度−電圧特性は図5に、
輝度−電圧特性は図6に、
視感効率−電圧特性は図7に、
電流効率−電圧特性は図8に、
外部量子収率−輝度特性は図9に、
エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは図10に、
それぞれ示す。
また、前記青色リン光素子の特性とそのホストの効果を下記表3に示す。
【表3】
【0096】
比較例2および実施例5、6
比較例2として下記式
【化66】
で表される1,1−ビス{4−〔N,N−ジ(p−トリル)アミノ〕フェニル}シクロヘキサン(略称TAPC)をホール輸送層に用い、実施例1、2で合成したホール輸送材料CzTDA,DBTDTAを用いた緑色リン光素子を作成し、それぞれの素子の性能を評価した。
【化67】
これらの各素子のエネルギーダイアグラムを図11に示す。
また、各素子の構成は下記に示す。
比較例2:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/TAPC(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)
(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例5:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/CzTDA(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
実施例6:[ITO/TPDPES:10wt%TBPAH(20nm)(ホール注入層)/DBTDTA(30nm)(ホール輸送層)/CBP:8wt%Ir(ppy)3(10nm)(発光層)/B3PyPPM(50nm)(電子輸送層)/LiF(0.5nm)(電子注入層)/Al(100nm)(陰極)]
電流密度−電圧特性は図12に、
輝度−電圧特性は図13に、
視感効率−電圧特性は図14に、
電流効率−電圧特性は図15に、
外部量子収率−輝度特性は図16に、
エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは図17に、
それぞれ示す。
また、前記緑色リン光素子の特性とそのホストの効果を下記表4に示す。
【表4】
【符号の説明】
【0097】
1 基板
2 陽極(ITO)
3 発光層
4 陰極
5 正孔(ホール)輸送層
6 電子輸送層
7 正孔(ホール)注入層
8 電子注入層
9 正孔(ホール)ブロック層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化68】
(式中、Q1は下記式
【化69】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化70】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R1〜R33が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化71】
(式中、Q2は下記式
【化72】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基からなる群より選ばれた基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化73】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R5〜R37は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R5〜R37が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物。
【請求項3】
請求項1記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料。
【請求項4】
請求項2記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料。
【請求項5】
請求項1記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項2記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
下記一般式(1)
【化68】
(式中、Q1は下記式
【化69】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化70】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R1〜R33は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R1〜R33が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化71】
(式中、Q2は下記式
【化72】
で示されたカルバゾリルフェニル基またはジベンゾチオフェニル基からなる群より選ばれた基であり、Ar1、Ar2はそれぞれ下記式
【化73】
で示されたフェニル基またはナフチル基からなる群よりそれぞれ独立して選ばれた基であり、R5〜R37は水素および炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。但し、R5〜R37が全て水素である場合を除く。)
で示されることを特徴とするトリアリールアミン化合物。
【請求項3】
請求項1記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料。
【請求項4】
請求項2記載のトリアリールアミン化合物よりなるホール輸送材料。
【請求項5】
請求項1記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項2記載のトリアリールアミン化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−254635(P2010−254635A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108288(P2009−108288)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】
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