説明

新規なポリスチレン担持アンモニウム塩およびその製造方法

【課題】相間移動触媒として有用な、4級アンモニウム塩の単位当たりのサイト数の減少を抑制し、かつリンカーを有さない新規なポリスチレン担持アンモニウム塩およびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩;およびN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、ジメチル硫酸および硫酸を反応させて、表記化合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリスチレン担持アンモニウム塩であるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩、およびこれらのメチル硫酸塩ないし硫酸水素塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相間移動反応は種々の有機反応への適応が可能な極めて有用な合成手法であり、その触媒(相間移動触媒)としては、主に4級アンモニウム塩が用いられる(非特許文献1、非特許文献2)。一般的には、相間移動触媒は反応溶液中で拡散するため反応終了後は廃棄されることが多い。これに対して、相間移動触媒をポリマービーズに担持させることにより濾別による触媒の回収、再利用が可能となり、環境調和型有機合成を達成することができるため、このようなポリマー担持型の相間移動触媒の開発が積極的に進められている(非特許文献3、非特許文献4)。ポリマー担持アンモニウム塩を用いた相間移動反応に関する報告は多数なされている(非特許文献5、非特許文献6)が、これに加えて、最近では光学活性4級アンモニウム塩をポリマーに担持させたポリマー担持光学活性アンモニウム塩を用いた不斉相間移動反応も報告されている(特許文献1)。
【0003】
これまでの報告によれば、ポリスチレンのp−位に4級アンモニウム塩を直接担持させたポリスチレン担持アンモニウム塩は、その溶解性の低さから触媒活性が低く、化学収率や不斉収率において満足な結果が得られないとされている(非特許文献7、非特許文献8)。よって、現在では、ポリスチレンのp−位に何らかのリンカーを介して4級アンモニウム塩を担持させたポリマー担持アンモニウム塩が主流となっている。特にポリマー担持アンモニウム塩の溶解性の向上が焦点となっており、それを解消する目的でポリエチレングリコール鎖やアミド基等の親水性のリンカーの利用が報告されている(非特許文献9、非特許文献10)。
【0004】
しかしながら、このような親水性のリンカーを利用したポリマー担持アンモニウム塩においては、分子全体に対するリンカーの割合が増加するため、分子全体に対する4級アンモニウム塩のサイト数(担持量)は相対的に減少する傾向が避けがたい。このため、4級アンモニウム塩自体の触媒活性能力は高いにもかかわらず、担持量が少ないため、結果として相間移動反応において相当量のポリマー担持アンモニウム塩を使用することが要求される。このような状況から、最近では4級アンモニウム塩の担持量と溶解性(親油性)の向上を目的とした、架橋構造を有さないポリスチレンのp−位に4級アンモニウム塩を直接担持させたポリスチレン担持アンモニウム塩の開発も行われている(非特許文献11)。
【0005】
他方、上記に記載した例を含め、ポリスチレン担持アンモニウム塩に関する報告例の殆どがハロゲン化物、特に臭化物や塩化物の形である(非特許文献12、非特許文献13)。溶解性の低さは触媒活性を低下させる1つの要因ではあるが、一般の相間移動反応では反応系中にハロゲンイオンが混入することにより反応が大きく阻害され、結果として反応収率および触媒活性の低下につながることも少なくない。そのため、最近の相間移動反応では反応収率・触媒活性の向上のため、アンモニウムハロゲン化物を用いることなく、アンモニウム硫酸水素塩を用いることが有効とされている(特許文献2、非特許文献14、非特許文献15)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−265526
【特許文献2】特願2005−143124
【非特許文献1】相間移動触媒(1978年、化学同人).
【非特許文献2】Phase-Transfer Catalysis(1997年、ACS、Washington).
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. Engl.,1979,18,421.
【非特許文献4】Chem. Rev.,2003,103,3401.
【非特許文献5】Tetrahedron,2004,60,4087.
【非特許文献6】Ind. Eng. Chem. Res.,2005,44,7098.
【非特許文献7】Polymer,1984,25,1499.
【非特許文献8】React. Funct. Polym.,1999,41,37.
【非特許文献9】Org. Lett.,2000,2,1737.
【非特許文献10】Tetrahedron Lett.,2002,43,3391.
【非特許文献11】React. Funct. Polym.,2004,61,139.
【非特許文献12】J.Am.Chem.Soc.,1975,97,5956.
【非特許文献13】Synlett,2000,807.
【非特許文献14】Organic Process Research & Development,2004,8,524.
【非特許文献15】Chem. Commun.,2003,1977.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した従来の課題を解消することが可能な、ポリマー担持アンモニウム塩を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、4級アンモニウム塩の単位当たりのサイト数の減少を抑制し、かつリンカーを有さない新規なポリスチレン担持アンモニウム塩であるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を提供することにある。
【0009】
本発明の更に他の目的は、上記したポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩および硫酸水素塩の新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、新規なポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩とそれらの製造方法について鋭意研究を重ねた結果、N−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンに対してジメチル硫酸を作用させることによりメチル化が容易に進行し、本発明の目的化合物である新規化合物ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩が1段階で簡便に得られることを見出した。
【0011】
本発明者らは、上記知見をベースに更に研究を進めた結果、メチル化の反応処理過程において硫酸を添加するだけで、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩が得られことをも見出した。
【0012】
本発明のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩、およびそれらの製造方法は、上記知見に基づくものである。
【0013】
本発明は、例えば以下の態様を含む。
[1] 下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0016】
[2] 下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0019】
[3] 下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩の製造方法。
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0024】
【化5】

【0025】
[4] 下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法において、単離・精製を行った下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩に対し、下記一般式(E)で表される硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0030】
【化8】

【0031】
[5] 下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させた後、続けて下記一般式(E)で表される硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
【0032】
【化9】

【0033】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0034】
【化10】

【0035】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
[6] [1]〜[5]に記載のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩中のR、Rの、少なくともいずれか一方の炭素数が6以上であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩。
【0039】
[7] [1]〜[6]に記載のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩中のR、Rの両方ともが炭素数6以上であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩。
【0040】
[8] [1]〜[6]に記載のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩中のR、Rが少なくともいずれか一方が炭素数8〜12であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩。
【0041】
[9] [1]〜[8」に記載のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩中のR、Rの両方ともが炭素数8〜12であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩。
【発明の効果】
【0042】
本発明で得られる新規なポリスチレン担持アンモニウム塩は、各種相間移動反応、特に2相系におけるエポキシ化反応に対し非常に有用な相間移動触媒である。
【0043】
本発明のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩は、リンカーを介さないN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンに対してジメチル硫酸を作用させることにより、メチル化が容易に進行するため、本発明の目的化合物である新規ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を1段階で得ることができる。
【0044】
また、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩は、ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を単離、精製することなしに、ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩の製造過程の後処理において硫酸を添加するだけで得られるため、非常に簡便である。
【0045】
更に、本発明の新規ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩はハロゲンイオンを含んでいないため、相間移動触媒として各種相間移動反応に使用する際にハロゲンイオンが含まれると反応が阻害される相間移動反応(特にエポキシ化反応)に対し高い活性を示すことができる。加えて、本発明の新規ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩は、触媒として作用するアンモニウム塩の単位当たりのサイト数も多く、非常に有用な相間移動触媒であることが期待される。
【0046】
また、本発明の新規ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩は、低コストで製造することができ、瀘別・回収が容易であるのみならず再利用も可能であり、更にハロゲン未使用のため環境に対する負荷を軽減できることも期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
(ポリスチレン担持アンモニウム塩)
本発明のポリスチレン担持アンモニウム塩は、以下の一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩ならびに以下の一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩である。
【0048】
【化13】

【0049】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0050】
【化14】

【0051】
(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【0052】
前記RおよびRのアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0053】
前記RおよびRの芳香族基の具体例としては、フェニル、p−トリル、p−エチルフェニル、p−プロピルフェニル、ベンジル基等が挙げられる。
【0054】
前記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を製造する方法は、以下の通りである。
【0055】
下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させる。
【0056】
【化15】

【0057】
前記式中、RおよびRは、前記一般式(A)により示されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩のRおよびRの場合と同じである。
【0058】
【化16】

【0059】
(ポリスチレン担持アンモニウム塩の製法)
上記したような、ポリスチレン担持アンモニウム塩を製造するための反応は、反応溶媒の存在下で実施することが好ましい。この場合の反応溶媒は特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の有機溶媒を好適に使用することができる。また、これらの溶媒は、必要に応じて、単独または混合溶媒の形で使用することができる。
【0060】
(反応条件)
反応温度は、例えば、90℃〜150℃の範囲の温度で行うことができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、硫酸ジメチルの分解反応が生じる。このようなことから、前記温度範囲は、100℃〜140℃の範囲であることが好ましい。
【0061】
反応時間は、反応温度により左右される可能性があり、一概に定めることは比較的に困難であるが、通常は8〜24時間の反応時間で充分である。
【0062】
(置換アミノメチル基を有するポリスチレン)
前記反応の原料物質である(C)、すなわち、前記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンは公知物質である。
【0063】
原料(C)の製法の一例としては、塩基性条件下におけるクロロメチル担持ポリスチレンとN−1置換またはN,N−2置換アミン類との反応があげられる。
【0064】
前記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法は特に制限されないが、例えば以下の反応が好適に使用可能である。
【0065】
(好適な反応)
下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩と、下記一般式(E)で表される硫酸を反応させる。
【0066】
【化17】

【0067】
前記式中、RおよびRは、前記一般式(A)により示されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩のRおよびRの場合と同じである。
【0068】
【化18】

【0069】
(反応条件)
この反応は、反応溶媒の存在下で実施することが好ましい。この場合の反応溶媒は特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4−ジオキサン等の有機溶媒を好適に使用することができる。また、これらの溶媒は、必要に応じて単独または混合溶媒の形で使用することができる。
【0070】
この反応に用いられる硫酸は1%〜100%(重量パーセント)の範囲の濃度で行うことができる。好ましい硫酸の濃度は、20%〜70%の範囲である。
【0071】
反応温度は、0℃〜100℃の範囲の温度で行うことができるが好ましくは20℃〜90℃の範囲である。
【0072】
反応時間は、反応温度により左右される可能性があるため、一概に定めることは比較的に困難であるが、通常は2〜12時間で充分である。
【0073】
(好適な製法の他の態様)
前記一般式(A)により示されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を単離、精製しない場合であっても、下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させた後、後処理にて下記一般式(E)で表される硫酸を作用させることにより製造することも可能である。
【0074】
【化19】

【0075】
【化20】

【0076】
【化21】

【0077】
【化22】

【0078】
(反応条件)
上記反応においては、反応溶媒の追加は特に必要無い場合が多い。反応温度は、0℃〜100℃の範囲の温度で行うことができるが、好ましい温度は20℃〜90℃の範囲である。
【0079】
反応時間は、反応温度により左右されるため、一概に定めることは比較的に困難であるが、通常は2〜10時間で充分である。
【0080】
この反応に用いられる硫酸は1%〜100%(重量パーセント)の範囲の濃度で行うことができるが、好ましくは20%〜70%の範囲である。
【0081】
(ポリスチレン担持アンモニウム塩の具体例)
本発明のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の具体例について例示すると、以下の化学式(1)〜(4)で示される化合物が挙げられる。しかしながら、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0082】
【化23】

【0083】
(ポリスチレンの粒径)
本発明のポリスチレン担持アンモニウム塩を構成するポリスチレンの粒径は、相間移動触媒としての活性の点では粒径が細かいほうが好ましいが、他方、反応系からの分離回収を考えると、ある程度粒径は大きい方がよい。従って、これらのバランスの点からは、ポリスチレン粒径は50〜8000μm、より好ましくは100〜3000μmが好ましい。
【0084】
(細孔容積・細孔径)
ポリスチレンの細孔容積や細孔径は、細孔径が小さく細孔容積が大きければ、表面積が広くなり単位体積あたりの効率を上げることができるが、細孔径が小さすぎると反応基質が拡散しづらくなるため、かえって効率が悪くなる。従って好適な細孔容積や細孔径を一律に定義することは比較的に困難である、通常は、細孔容積としては、乾燥樹脂において0.1〜1.0ml/gの範囲、好ましくは0.3〜0.6ml/gの範囲であることが望ましい。
【0085】
(塩素イオン含有量)
ポリスチレン中に含まれる塩素イオン含有量についても、塩素イオンは触媒を被毒する働きがあるために、塩素量は1.9mmol/g以下、より好ましくは0.5mmol/g以下に抑えることが望ましい。
【0086】
(用途)
これら本発明の化合物は特に制限されないが、例えば、各種相間移動反応、特に2相系におけるエポキシ化反応に対する相間移動触媒として特に好適に用いることができる。
【0087】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0088】
以下に述べる実施例は本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の一例をあげたものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
下記実施例に記載されているポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩は、すべて新規化合物である。構造決定は元素分析ならびに赤外吸収スペクトル(IR)にて同定した。
【0090】
また、製造された化合物(1)〜(3)は、前記で示した化合物(1)〜(3)に対応するもため、その物性値としては、融点、元素分析、赤外吸収スペクトル(IR)の順にそれぞれ記した。
【0091】
実施例において、各装置としては、以下のものを使用した。
【0092】
融点測定装置:METTLER FP90(温度制御ユニット)、METTLER FP82HT(試料台)
【0093】
元素分析装置:CE INSTRUMENTS EA1110(CHN/CHNS分析)
赤外分光装置:JASCO FT/IR−60
【0094】
実施例1
内容積30mlのガラス製容器中に以下の化学式(F)で表されるN,N−ジオクチルアミノメチル基を有するポリスチレン(Argonaut Technologies,800257,PS−Clに塩基性条件下でジオクチルアミンを作用させてできた化合物;アミン担持量 1.56mmol/g)0.70gをトルエン(6ml)に懸濁させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸(10.6mmol,1.34g)を滴下した。その後140℃に昇温し9時間攪拌した。
【0095】
【化24】

【0096】
反応溶液の温度を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水2mlを加え、90℃にて7時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻し吸引ろ過を行い、得られた固形物をトルエン、水およびジエチルエーテルにて洗浄した後、真空乾燥(1mmHg)を12時間行ったところ、黄褐色の目的生成物を得た。収量0.774g。
【0097】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩(1)であることを、以下の結果から確認した。
【0098】
融点:ca.247℃(分解)
元素分析:
C,76.90%;H,8.91%;N,1.77%;S,3.79%(実測値)
C,75.76%;H,9.24%;N,1.87%;S,4.29%(計算値)
【0099】
IR(KBr,pellet)νmax 1604,1454,1222,1012,833,757,694cm−1
【0100】
実施例2
内容積30mlのガラス製容器中に以下の化学式(F)で表されるN,N−ジオクチルアミノメチル基を有するポリスチレン(Argonaut Technologies,800257,PS−Clに塩基性条件下でジオクチルアミンを作用させてできた化合物;アミン担持量 1.34mmol/g)0.81gをトルエン(7.5ml)に懸濁させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸(10.6mmol,1.34g)を滴下した。
【0101】
【化25】

【0102】
反応液の温度を、その後140℃に昇温し12時間、続けて90℃にて15時間攪拌した。反応溶液を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水3mlを加え、90℃にて15時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻した後、65%硫酸水溶液 4mlを加え室温にて更に12時間攪拌した。吸引ろ過を行い、得られた固形物を水およびジエチルエーテルによる洗浄した後、真空乾燥(1mmHg)を12時間行ったところ、黄褐色の目的生成物を得た。収量0.868g。
【0103】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)であることを以下の結果から確認した。
【0104】
融点:ca.260℃(分解)
【0105】
元素分析:
C,78.72%;H,8.83%;N,1.54%;S,3.26%(実測値)
C,77.58%;H,8.72%;N,1.66%;S,3.80%(計算値)
【0106】
IR(KBr,pellet)νmax 1600,1454,1218,1010,862,817,746,698cm−1
【0107】
実施例3
内容積30mlのガラス製容器中に以下の化学式(G)で表されるN,N−ジドデシルアミノメチル基を有するポリスチレン(Argonaut Technologies,800257,PS−Clに塩基性条件下でジドデシルアミンを作用させてできた化合物;アミン担持量 1.60mmol/g)0.250gをトルエン(6ml)に懸濁させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸(10.6mmol,1.34g)を滴下した。
【0108】
【化26】

【0109】
反応液の温度を、その後140℃に昇温し4時間、続けて125℃にて15時間攪拌した。反応溶液を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水2mlを加え、90℃にて8時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻した後、65%硫酸水溶液 2mlを加え室温にて更に15時間攪拌した。吸引ろ過を行い、得られた固形物を水、エタノールおよびヘキサンによる洗浄をした後、真空乾燥(1mmHg)を12時間行ったところ、茶褐色の目的生成物を得た。収量0.278g。
【0110】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(3)であることを以下の結果から確認した。
【0111】
融点: 268℃(分解)
【0112】
元素分析:
C,76.06%;H,8.74%;N,1.63%;S,3.75%(実測値)
C,75.72%;H,8.17%;N,1.94%;S,4.43%(計算値)
【0113】
IR(KBr,pellet)νmax 1604,1473,1209,1056,863,736,669cm−1
【0114】
実施例4
実施例2で得られたポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)(30.0mg,アンモニウム担持量1.02mmol/g)、タングステン酸ナトリウム2水和物(NaWO・2HO,16.4mg,0.050mmol)、アミノメチルホスホン酸(NHCHPO,3.3mg,0.030mmol)を入れた内容積10mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液(670mg,5.9mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。
【0115】
その後cis−シクロオクテン(441mg,4.0mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85℃まで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、生成物として1,2−エポキシシクロオクタンが91%の収率で得られていることが確認された。原料であるcis−シクロオクテンの転化率は94%であった。
【0116】
実施例5
実施例4で回収したポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)(21.0mg,アンモニウム担持量1.02mmol/g)、タングステン酸ナトリウム2水和物(NaWO・2HO,11.5mg,0.035mmol)、アミノメチルホスホン酸(NHCHPO,2.3mg,0.021mmol)を入れた内容積10mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液(470mg,4.2mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。
【0117】
その後cis−シクロオクテン(309mg,2.8mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85℃まで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、生成物として1,2−エポキシシクロオクタンが92%の収率で得られていることが確認された。原料であるcis−シクロオクテンの転化率は96%であった。
比較例1
【0118】
以下の化学式(H)で表されるポリスチレン担持アンモニウム塩化物(25.2mg,アンモニウム担持量1.19mmol/g)、タングステン酸ナトリウム2水和物(NaWO・2HO,26.4mg,0.080mmol)、アミノメチルホスホン酸(NHCHPO,4.5mg,0.040mmol)を入れた内容積10mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液(680mg,6.0mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。その後cis−シクロオクテン(441mg,4.0mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85℃まで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。
【0119】
【化27】

【0120】
反応液から固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、反応は殆ど進行しておらず、生成物として1,2−エポキシシクロオクタンが10%の収率で得られていることが確認された。原料であるcis−シクロオクテンの転化率は18%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【請求項3】
下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩の製造方法。
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化4】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化5】

【請求項4】
下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法において、単離・精製がなされた下記一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩に対し、下記一般式(E)で表される硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
【化6】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化7】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化8】

【請求項5】
下記一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるN−1置換またはN,N−2置換アミノメチル基を有するポリスチレンと、下記一般式(D)で表されるジメチル硫酸を反応させた後、続けて下記一般式(E)で表される硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
【化9】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化10】

(式中、Rは、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。Rは、連結して環を形成していてもよい。)
【化11】

【化12】

【請求項6】
ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩中のR、Rの、少なくともいずれか一方の炭素数が6以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩。

【公開番号】特開2008−94899(P2008−94899A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276015(P2006−276015)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発(非フェノール系樹脂原料を用いたレジスト材料の開発)」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】