説明

新規なリポソーム製剤

【課題】 標的細胞内に医薬品が取り込まれるのに必要な時間だけ血中に滞留し,正常細胞に対して副作用を誘発するほど長い時間の血中滞留性を有しない適切な血中滞留性を示すリポソーム製剤を提供すること。
【解決手段】 リン脂質およびコレステロールから構成され,医薬品が封入され,標的細胞指向性のリガンドで誘導化されているリポソーム製剤であって,前記リポソーム製剤は,リン脂質の合計量に対して約1−12mol%のジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを含み,誘導化されていないホスファチジルエタノールアミンを含まず,前記リガンドは前記ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを介してリポソーム製剤に結合されていることを特徴とするリポソーム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,腫瘍の治療において用いられる,医薬品(化合物および遺伝子)を封入したリポソーム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品が正常細胞に及ぼす副作用を軽減させるため,および医薬品が不安定な場合に医薬品を標的とする細胞へ輸送し,到達するまで保護するために,医薬品をリポソーム中に封入して投与することが広く行われている。
【0003】
しかしながら,初期の頃のリポソームは,卵黄リン脂質および大豆リン脂質等の天然に存在する細胞膜のリン脂質が用いられたが,静脈内投与では肝臓,脾臓などの細網内皮系に取り込まれやすく,血中滞留性が低いことが問題であった。
【0004】
その後,この問題を解決する手段として,リポソーム膜を硬くするために,リポソーム膜構成成分として脂質部分が飽和結合のみである合成リン脂質等が用いられ,更にリポソーム表面をポリエチレングリコールで修飾したリポソーム(PEGリポソーム)が開発され,細網内皮系回避可能な血中滞留性の高い画期的なリポソームとして脚光を浴びて来ていた。しかしながら,血中滞留性を高くすることにのみ注力するあまり,それによる副作用(例えば,ドキソルビシンのリポソーム製剤であるドキシルにおける末梢系の副作用であるハンド・フット・シンドローム等)(ドキシル添付文書)が問題視されるようになってきた。
【0005】
リポソームは,リポソーム中への医薬品の取り込み,このようなリポソーム製剤自体の安定性,適切な血中滞留性および標的細胞への効率的な輸送の点で,更なる改良が必要である。
【特許文献1】US4983397
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は,医薬品を含有する,標的細胞内に医薬品が取り込まれるのに必要な時間だけ血中に滞留し,正常細胞に対して副作用を誘発するほど長い時間の血中滞留性を有しない適切な血中滞留性を示し,標的とする細胞への薬剤の輸送効率の高いリポソーム製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,リン脂質およびコレステロールから構成され,医薬品が封入され,標的細胞指向性のリガンドで誘導化されているリポソーム製剤であって,前記リポソーム製剤は,リン脂質の合計量に対して約1−12mol%のジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを含み,誘導化されていないホスファチジルエタノールアミンを含まず,前記リガンドは前記ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを介してリポソーム製剤に結合されていることを特徴とするリポソーム製剤を提供する。
【0008】
本発明のリポソーム製剤において,好ましくは,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンは式I:
【化2】

[式中,R1およびR2はアシル基であり,mは1−10である]
で表される。より好ましくは,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミン中のジカルボン酸は,コハク酸,グルタル酸またはアジピン酸である。
【0009】
本発明のリポソーム製剤の別の好ましい態様においては,標的細胞指向性のリガンドは,トランスフェリン,葉酸,ヒアルロン酸,糖鎖,モノクロナール抗体またはモノクロナール抗体のフラグメントから選ばれる。より好ましくは,標的細胞指向性のリガンドはトランスフェリンである。さらに好ましくは,トランスフェリンは,鉄と結合していないアポ型ではなく,鉄と結合しているホロ型である。また別の好ましい態様においては,本発明のリポソーム製剤においては,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンはリン脂質の合計量に対して約1−6mol%の量で存在する。
【0010】
本発明のリポソーム製剤の特に好ましい態様においては,標的指向性のリガンドはトランスフェリンであり,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミン中のジカルボン酸は,コハク酸,グルタル酸またはアジピン酸である。
【0011】
また別の好ましい態様においては,本発明のリポソーム製剤に封入されている医薬品は抗癌剤であり,特に好ましくは細胞毒である。また好ましくは,封入されている医薬品は,トポテカン,イリノテカンからなる群より選ばれるトポイソメラーゼ1の阻害剤である。また好ましくは,リポソーム製剤に封入されている医薬品は,ビンクリスチン,ビンブラスチン,ビンロイロシン,ビンロドシンビンオレルビンおよびビンデシンからなる群より選ばれるビンカアルカロイドである。また好ましくは,リポソーム製剤に封入されている医薬品は核酸であり,特に好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである。また好ましくは,リポソーム製剤に封入されている医薬品は,シスプラチン,カルボプラチン,オルマプラチン,オキザリプラチン,ゼニプラチン,エンロプラチン,ロバプラチン,スピロプラチンからなる群より選ばれる白金化合物であり,特に好ましくはオキザリプラチンである。
【0012】
本発明の1つの好ましい態様においては,オキザリプラチンは,トレハロース,マルトース,ショ糖,ラクトース,マンニトール,グリセロールおよびデキストロース等の濃度数%の糖溶液に溶解してリポソーム製剤に封入されている。
【0013】
さらに別の観点においては,本発明は上述の本発明のリポソーム製剤および薬学的に許容される担体を含む,腫瘍を治療するための医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリポソーム製剤は,抗癌剤等の医薬品を含有し,保存安定性が高く,投与された場合に標的とする腫瘍細胞への薬剤の輸送効率が高く,かつ標的細胞に医薬品が取り込まれるのに必要なだけ血中に滞留し,正常細胞に対し副作用を誘発するほど長く血中に滞留性しない,適切な血中滞留性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
リポソームは,水性の内部を有する球形の脂質二重層である。リポソームを形成する時に水性溶液中に存在する分子は,水性の内部に取り込まれる。リポソームの内容物は,外部微小環境から保護され,かつ,リポソームが細胞膜と融合するため細胞質内に効率的に輸送される。
【0016】
1つの観点においては,本発明のリポソーム製剤は,リン脂質およびコレステロールから構成され,医薬品が封入され,標的細胞指向性のリガンドで誘導化されており,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを含み,これを介して標的細胞指向性のリガンドがリポソーム製剤に結合されており,さらにホスファチジルエタノールアミンを含まないことを特徴とする。
【0017】
リン脂質としては,ホスファチジルコリン,ホスファチジルイノシトール,スフィンゴミエリン,ホスファチジン酸等を用いることができる。さらに,脂質膜を安定化させるために,コレステロール等の脂質成分を加えることが好ましい。
【0018】
ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンは,ホスファチジルエタノールアミンのアミノ基にジカルボン酸を結合させたものであり,例えば,次式:
【化3】

[式中,R1およびR2はアシル基であり,mは1−10である]
で表されるものが含まれる。より好ましくは,mは1,2または3である。すなわちジカルボン酸として,コハク酸,グルタル酸またはアジピン酸を用いることが好ましい。ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンの好ましい含有量は,リン脂質の合計量に対して約1−12mol%であり,より好ましくは約1−6mol%である。このジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを用いてリポソームを形成すると,リン脂質部分がリポソームの脂質二重膜中に安定して保持され,外表面に遊離カルボキシル基を有するリポソームが得られる。このカルボキシル基は,標的細胞指向性のリガンドをリポソームに結合するための官能基として利用可能である。さらに,本発明のリポソーム製剤は,上述のジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンに加えて,ホスファチジルグリセロール,スフィンゴシン,セラミドおよびコレステロール誘導体等をジカルボン酸で誘導化したものを含んでいてもよい。
【0019】
本発明のリポソーム製剤は,リン脂質として遊離のホスファチジルエタノールアミンを含まないことを特徴とする。このことにより,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンへのリガンドの結合の効率をより高くすることができる。
【0020】
さらに,本発明のリポソーム製剤は,標的細胞指向性のリガンドで誘導化されていることを特徴とする。標的細胞指向性のリガンドとは,標的とする細胞表面上に存在するレセプターまたは表面抗原と結合することができる物質をいう。標的細胞指向性のリガンドは,好ましくはトランスフェリン,葉酸,ヒアルロン酸,ガラクトース,マンノースなどの糖鎖,モノクロナール抗体またはモノクロナール抗体のFab’フラグメントである。
【0021】
本発明の特に好ましい態様においては,標的細胞指向性のリガンドはトランスフェリンである。トランスフェリンは生体内に存在する鉄結合蛋白質であり,細胞表面上のトランスフェリンレセプターと結合して細胞内に取り込まれることにより,鉄を細胞に供給する役割を有する。トランスフェリンレセプターは,癌種を問わず正常組織に比べて発現量が高いため,薬剤をトランスフェリンと結合させることにより,トランスフェリンレセプターを介して薬剤の腫瘍細胞内への取り込みを促進することができると考えられる。
【0022】
本発明のリポソーム製剤の1つの好ましい例は,医薬品として抗癌剤であるオキザリプラチンを含有し,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを介してリガンドで誘導化されているリポソーム製剤である。オキザリプラチン(トランス−1−1,2−ジアミノシクロヘキサンの白金(II)シスオキサラト錯体)は,次式:
【化4】

を有する白金錯体化合物である。オキザリプラチンは,シスプラチンと同等の治療活性を示し,かつ比較低い腎毒性および嘔吐性を示すため,抗腫瘍剤として有用である。オキザリプラチンの製造方法は当該技術分野において知られている(例えば,特開平9−40685)。本発明のリポソーム製剤は,例えば,9%ショ糖溶液中8mg/mlの濃度のオキザリプラチンを含む。
【0023】
好ましくは,本発明のリポソーム製剤は,1−50μg/mg脂質のオキザリプラチンおよび1−150μg/mg脂質のリガンドを有する。また,オキザリプラチンはトレハロース,マルトース,ショ糖,ラクトース,マンニトール,グリセロールおよびデキストロース等の糖溶液に溶解するのが好ましい。糖溶液の濃度は数%程度が好ましい。
【0024】
本発明のリポソーム製剤は,リン脂質を適切な有機溶媒中に溶解し,これを薬剤を含有する水性溶液中に分散させて超音波処理または逆相蒸発法を行うことにより製造することができる。非限定的例としては,逆相蒸発法(REV法)を用いて製造することができる(米国特許4,235,871号)。勿論,単純水和法やエタノール注入法等の一般的なリポソーム作成法をも用いることが出来る。ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを脂質二重層中に安定して保持させるためには,あらかじめジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを調製し,これをリン脂質およびコレステロールと共に用いてリポソームを調製することが好ましい。ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンは,非限定的例としては,例えば,米国特許4,534,899号に記載のようにして調製することができる。簡単には,ジカルボン酸の無水物をホスファチジルエタノール等のリン脂質と反応させて,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを得る。
【0025】
非限定的例としては,リン脂質(例えばジステアロイルホスファチジルコリン),脂質
(例えばコレステロール)およびジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを混合し,適切な有機溶媒中に溶解する。リン脂質と脂質との混合比率は,2:1である。ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンの混合比率は,リン脂質に対して6%である。次にこの溶液をオキザリプラチンの水性緩衝液中の溶液と混合する。オキザリプラチンの水溶液中の濃度は8mg/mlの濃度の9%ショ糖溶液である。この溶媒混合物を超音波処理した後,溶媒を蒸発させる。次に,形成されたリポソームをサイズ分画して,約0.2ミクロンの直径を有するオキザリプラチン含有リポソームを調製することができる。リポソーム液を濃縮するために限外濾過を使用する。
【0026】
次に,このリポソームの外表面にリガンドを結合させる。非限定的例として,リガンドとしてトランスフェリンを用いる場合,トランスフェリンは精製された蛋白質として市販されている。勿論,遺伝子組み換え体を使用しても良い。リポソームの外表面にトランスフェリンを結合させるためには,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンの末端カルボキシル基を利用する。これに,1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミド塩酸(EDC)およびN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)を結合させる。次に,このリンカーを付加したリポソームをトランスフェリンと反応させると,外表面にトランスフェリンが結合したアポ型のトランスフェリン結合リポソームを得ることができる。これを,クエン酸鉄−クエン酸ナトリウムで処理して,ホロ型のトランスフェリン結合リポソームを得る。勿論,最初からホロ型のトランスフェリンを使用しても良い(図1)。
【0027】
別の観点においては,医薬品が兼ね備えるべき要件として,有効性,安全性および品質の確保の3つがある。いかに薬効に優れ,安全性が確認された医薬品であろうとも,実際に製造され,流通するとき一定の品質を保つことが出来ないのであれば,その医薬品は医薬品としての存在意義が失われることはもとより,むしろ有害な事態を惹起することになると考えられる。
【0028】
このように医薬品において品質の確保は極めて重要なものの一つであり,規格および試験方法はそれを規定するものとして重要視される。したがって,承認審査の際,規格および試験方法は厳重に審査され,また,承認後製造される医薬品の品質は承認された内容と完全に合致することが法的に義務づけられている。
【0029】
医薬品を承認申請する際には,試験方法すなわち分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)およびこれを補完するための分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)を参考にした分析法バリデーションに関する資料を合わせて当該申請資料に添付することとなっている。
【0030】
このように分析法は非常に重要であるので,実施例8に示したように,分析定量方法が簡単になることの意義は大変に大きい。
【0031】
別の観点においては,本発明は,上述の本発明のリポソーム製剤および薬学的に許容される担体を含む,腫瘍を治療するための医薬組成物を提供する。担体としては,滅菌水,緩衝液および食塩水を用いることができる。医薬組成物は,さらに,種々の塩類,糖類,蛋白質,澱粉,ゼラチン,植物油およびポリエチレングリコール等を含んでいてもよい。本発明の組成物は,ボーラス注射または連続注入により非経口的に投与することができる。投与量は,投与経路,症状の重篤度,患者の年齢および状態,副作用の程度等により様々でありうるが,一般に,10−100mg/m2/日の範囲である。
【0032】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが,これらの実施例は本発明の範囲を限
定するものではない。
【実施例1】
【0033】
オキザリプラチンの細胞毒性試験
オキザリプラチン(l−OHP)溶液は,オキザリプラチンを9%ショ糖溶液に8mg/mlの濃度で溶解することにより調製した。細胞生存率の測定には,市販の細胞毒性アッセイキットを用いた。10%FCSを補充したRPMI1640培地中で培養したAsPC−1細胞を,種々の濃度のl−OHP溶液で,37℃,5%CO2で48時間処理した。次に培地を除去し,基質を加えて,37℃,5%CO2で2時間呈色させ,450nm(参照波長620nm)の吸光度を測定した。
【0034】
結果を図2に示す。l−OHPの細胞毒性はLD50>8μg/mlであった。
【実施例2】
【0035】
オキザリプラチン含有リポソーム製剤の製造
リポソームの組成は以下のとおりである:
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)
コレステロール(CH)
N−グルタリル−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン
(DSPE−(CH23−COOH;以下,NG―DSPEと表す)
DSPC:CH:NG−DSPE=2:1:0.2(m/m)
水相としては,l−OHP溶液(8mg/ml,9%ショ糖溶液中)を用いた。
【0036】
DSPC,コレステロール,NG−DSPEの2:1:0.2(m/m)混合物をクロロホルムおよびイソプロピルエーテルに溶解した。これにl−OHP溶液(9%ショ糖溶液中)を加えて超音波処理した。60℃で溶媒を蒸発させ,凍結融解を5回繰り返した。次にEXTRUDERフィルターを用いて60℃でサイジング(400nmで2回,次に100nmで5回)した後,限外濾過した。9%ショ糖溶液またはMES緩衝液(pH5.5)に置換して,l−OHP封入NG−DSPEリポソームを得た。
【0037】
次に,NG―DSPEリポソームをトランスフェリン(Tf)で誘導化した。上述のように調製したl−OHP封入NG−DSPEリポソームに,1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミド塩酸(EDC)(脂質重量の2.7%)およびN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)(脂質重量の7.3%)を加え,室温で10分間放置した。次に,トランスフェリン(Tf)(脂質重量の20%)を加えて,室温で3時間撹拌した。脱塩膜を使用して脱塩し,その後限外濾過した。9%ショ糖溶液に置換した。
【0038】
このようにして得たアポ型Tf−NG−DSPEリポソームにクエン酸鉄−クエン酸ナトリウムを加え,室温で15分間撹拌した。これを限外濾過した。9%ショ糖溶液に置換して,ホロ型Tf−NG−DSPEリポソームを得た。以後,このリポソームをTf−NG−DSPEリポソーム(426)と称する。
【0039】
また,PEGで誘導化したリポソームを同様の方法により作成した。
Tf−PEG―DSPEリポソーム(324)
DSPC:コレステロール:DSPE-PEG(2K)-OMe:DSPE-PEG(3.4K)-COOH=
2:1:0.16:0.03
このリポソームは,PEG脂質として6mol%,PEG-COOH脂質として1mol%を含有しており,TfはPEG-COOHを介してリポソームに結合している。
Tf/PEG―DSPEリポソーム(427)
DSPC:コレステロール:DSPE-PEG(2K)-OMe:NG-DSPE=2:1:0.16:0.03
このリポソームはPEGで誘導化されており,TfはNG-DSPEを介してリポソームに結合している。
【実施例3】
【0040】
細胞表面のトランスフェリンレセプターの数の測定
細胞としては,ヒト正常白血球およびヒト悪性腫瘍由来の細胞株(K562,MKN45PおよびHL60)を用い,細胞の表面にあるTfレセプター数をスキャッチャード解析により行った。4℃において,125I標識したTf溶液を種々の濃度で細胞の培養液中に添加し,1時間インキュベートした。Tfの濃度は蛋白質定量により求め,同時にγカウンターで放射活性を測定した。遠心分離により細胞を沈降させ,細胞画分を氷冷したバッファーで洗浄し,γカウンターで測定し,結合濃度を求めた。同時に,蛋白質定量により細胞数を求めた。既知の添加濃度より,結合濃度を差し引いて遊離型濃度を求めた。スキャッチャードプロット,つまり横軸に結合濃度,縦軸に結合濃度/遊離型濃度の比をプロットし,x切片より結合数(レセプター数)を求めた。それぞれの細胞の表面に結合した125I−Tfの量を図3に示す。すなわち,正常白血球と比較して,ヒト悪性腫瘍由来の細胞においては,細胞表面に存在するトランスフェリンレセプターの数が有意に多いことが認められた。
【実施例4】
【0041】
担癌マウスにおけるl−OHP内封Tf修飾リポソーム製剤の血中滞留性および臓器移行性について比較検討した。5週齢の雄BALB/cマウスを用い,腫瘍細胞としてはColon26細胞(マウス大腸癌由来)を用いた。
【0042】
インビトロで継代・培養したColon26細胞(2x106セル)をマウスの背部皮下に移植した。腫瘍径が約8〜10mm(平均的に8〜10日後)に達したものをColon担癌マウスとして用いた。実施例2で作成した各リポソームまたはl−OHP溶液(8mg/ml,9%ショ糖溶液中)を尾静脈注射した。オキザリプラチンの濃度はいずれも5mgl−OHP/kg体重に調節した。リポソームとしては,Tf−NG―DSPEリポソーム(426),Tf−PEG―DSPEリポソーム(324)およびTf/PEG―DSPEリポソーム(427)を用いた。
【0043】
採血および採材部位は,血液,血漿,肝臓,脾臓,腎臓,心臓,肺および癌組織とした。採血および採材時間は投与後,1,3,6,24,48,72時間とし,例数は各時間3例とした。得られた血液,各臓器および癌組織中のPt濃度をIP−MASSを用いて測定し,l−OHP濃度を算出し,投与量に対する%で示す。血液中の濃度を図4に示す。Tf−NG―DSPE−リポソーム(426)は,3時間まではTf−PEG―DSPEリポソーム(324)およびTf/PEG―DSPEリポソーム(427)と比較して同等程度の血中滞留性を示すが,6時間値以降は血中滞留性は示すもののPEGリポソームと比較すると血中からの消失が早い。一方,癌組織中の濃度を図5に示す。Tf−NG―DSPE−リポソーム(426)は,Tf−PEG−DSPEリポソーム(324)およびTf/PEG−DSPEリポソーム(427)と同等程度の癌組織への移行を示す。
【0044】
以上の結果から,マウスにおいて,癌組織中へ移行した医薬品の濃度を有意である程度以上にするためには,血中滞留性は投与後から6時間程度の血中滞留性が必要であり,かつ十分であることが判明した。これ以上長い血中滞留性は,正常細胞に対する副作用を引き起こす可能性が高くなると考えられる。
【実施例5】
【0045】
l−OHP内封Tf修飾リポソーム製剤(426,324および427:(+)TF;各9匹)ならびにトランスフェリンが結合されていないそれぞれのリポソーム((―)TF;各6匹)について,大腸がんColon26担癌マウスに対する抗腫瘍性を比較検討した。担癌マウスは,実施例4と同様に準備した。対照としては,l−OHP溶液(8mg/ml,9%ショ糖溶液中)を用いた。l−OHP5mg/kgを投与した日を開始日とし,4日後にl−OHP5mg/kgを再び投与した。0日の腫瘍の大きさを1として,それに対する比で示した。0,2,5,7,10,13,15,18,21日に腫瘍の大きさを測定し生存日数を数えた。
【0046】
結果を図6に示す。トランスフェリンが結合したリポソーム製剤は腫瘍増殖抑制を示した。これに対し,トランスフェリンが結合していないリポソーム製剤は,トランスフェリンが結合したものに比べて腫瘍増殖抑制効果が弱い。実施例4および実施例5の結果から,腫瘍増殖抑制効果を有し,かつ腫瘍組織へ移行した医薬品の濃度が有意で同等程度にするためには,トランスフェリンが結合したリポソームは投与後から6時間程度の血中滞留性が必要であり,かつ十分であることが判明した。これ以上長い血中滞留性は正常細胞に対する副作用を引き起こす可能性が高くなると考えられる。
【実施例6】
【0047】
リポソームを構成するNG−DSPEの最適配合比を決定するために,正常マウスにおいて,抗癌剤未封入NG−DSPEの血中滞留性について検討した。抗癌剤未封入のリポソームは,水相としてl−OHP溶液の代わりに水を用いて,種々のNGPE含有量で,実施例2と同様にして作製した。NGPEの含有量は,リポソームを構成する全脂質組成の総mol量を100%とした時の,NGPEが全脂質組成に占める割合(mol%)で示す。また,構成脂質としてMPB脂質またはPDP脂質を各6mol%含むリポソームも作製した。MPBリポソームは,脂質のエタノールアミンのアミノ基にマレイミドフェニルブチレート(MPB)を結合させてリポソームを形成し,MPBを介してリポソームにTfを結合させたものである。PDPリポソームは,脂質のエタノールアミンのアミノ基に(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(PDP)を結合させてリポソームを形成し,PDPを介してリポソームにTfを結合させたものである。
【0048】
実験には,マウス(ICR雄,6週齢)を用いた。トレーサーとして125Iをチラミニルイヌリンと結合させ,各組成のリポソームにこのイヌリン溶液を内封させた。採取した血液および摘出臓器の全例について重量を測定後,γカウンター(アロカ・オート・ガンマシステム,エイアールシ−300)を用いてリポソームマーカの放射能活性(単位:cpm)を定量した。また,各投与液(100μl)および尾の放射活性を定量する。投与液100μl(スタンダード:Std.)の放射活性を100%として,各臓器あたりの値を%換算(% オブ 投与量)して表示した。血中リポソーム量は,体重の7.3%を全血量と想定し,全血量に換算して算出した。空の測定チューブのカウント値をバックグラウンド(b.g.)値として,各々のカウント値より差し引いた。
血液中の分布量(%)
=(血液のカウント値―b.g.値)×マウス体重(g)×0.073×100/{(Std.のカウント値―尾のカウント値)×血液重量(g)}
【0049】
結果を図7に示す。6時間後の血中での濃度を見ると,NG−DSPEリポソームは脂質の含有量が3mol%以上で高い血中滞留性を示している。マレイミドリポソーム(MBP6%)では,血中滞留性が低かった。
【実施例7】
【0050】
トランスフェリン結合の有る無し,およびジカルボン酸の種類の影響を検討するために,正常マウスにおける抗癌剤未封入トランスフェリン結合リポソームの血中滞留性を調べた。実験方法は実施例6と同様である。
【0051】
グルタル酸の代わりにコハク酸を結合させたリン脂質を含むリポソームを作製した。NG−DSPEは以下のようにして製造した。遮光並びに窒素気流下で,DSPEをDSPEの10倍容量の脱水クロロホルムに懸濁させ,トリエチルアミンを1.3当量加え,室温下で無水グルタル酸の脱水クロロホルム溶液(DSPEの1倍容量の脱水クロロホルムに溶解)を滴下した。滴下終了後,30℃で2時間攪拌して反応させた。その後,酢酸バッファ(pH4.5)で反応液を3回程度洗浄し,有機層を硫酸マグネシウムで脱水後ろ過し,ろ液を30℃で減圧濃縮した。オイル状(DSPEの2倍容量程度)になった時点で,メタノールを加えて,晶析させ,ろ取した。これを再度クロロホルムに溶解させ,この操作を2回程度繰り返してから,室温で減圧乾燥して,目的物を白色結晶として得た。NG−DSPEリポソームは実施例2と同様の方法により作製した。
【0052】
結果を図8に示す。ジカルボン酸を介してトランスフェリンが結合しているリポソーム(NG−DSPE:N−グルタリルジステアロイルホスファチジルエタノールアミン,NS−DSPE:N−サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)では,高い血中滞留性を示すが,マレイミドによるS−S結合を介してトランスフェリンが結合しているリポソーム(MPB)の場合,同じリガンドであるトランスフェリンを結合していても血中滞留性は低かった。
【実施例8】
【0053】
分析方法の一例として,電気泳動の一例を示す。7.5%から10%程度のポリアクリルアミドゲル(フナコシ,EASY-GEL(II)プリキャスト・ゲル)を用いて,サンプル各5μlを穴に準備し,20mAの定電流下で泳動を1〜2時間行った。泳動終了後,銀染色キット(和光純薬,銀染色IIキットワコー)を用いてゲルを銀染色した。結果を図9に示す。本発明の一例であるトランスフェリン−N−グルタリル−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−リポソーム(Tf−NG−DSPEリポソーム)(426)および比較例としてトランスフェリン−ポリエチレングリコールージステアロイルホスファチジルエタノールアミン−リポソーム(Tf−PEG−DSPEリポソーム)(324)を示す。比較例の324の場合は,ポリエチレングリコールが分子量分布を有するために,帯が何本も連なる複雑な泳動像となるのに対して,本発明の一例である426では,一本の帯となった。すなわち,本発明にしたがうリポソーム製剤は,PEG誘導化リポソーム製剤と比較して,分析定量法が簡単である。
【実施例9】
【0054】
リポソーム中の遊離のホスファチジルエタノールアミンの存在の影響を検討するために,Tf−NG−DSPEリポソームと,ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)を加えて製造したリポソームについて,Tfの結合能力を調べた。Tf−NG−DSPEリポソームは,DSPC(64部),CH(32部)およびNG−DSPE(4部)から,Tf−NG−DSPE+DSPEリポソームは,DSPC(64部),CH(32部),NG−DSPE(4部)およびDSPE(10部)から,それぞれ実施例2と同様にして製造した。次に,NG−DSPEに対して,10当量のNHSおよびECD・HClおよび0.05当量のTfを用いてTfを結合させた後,脂質1mgに相当する量のリポソームのサンプルをSDS−PAGEで分離し,銀染色により可視化した。
【0055】
結果を図10に示す。NG−DSPEリポソームと比較して,10mol%のDSPEを添加したNG−DSPE+DSPEリポソームは,Tfの結合量が著しく低いことがわかった。これは,NG−DSPEのカルボキシル基にTfを結合させる反応の際に,Tfのアミノ基とDSPEのアミノ基とが競合するためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は,本発明のリポソームの製造方法を示す。
【図2】図2は,オキザリプラチンの細胞毒性を示す。
【図3】図3は,正常白血球および腫瘍由来細胞株の細胞表面に存在するトランスフェリンレセプターの数を示す。
【図4】図4は,本発明のリポソームの血液中の濃度を示す。
【図5】図5は,本発明のリポソームの癌組織中の濃度を示す。
【図6】図6は,本発明のリポソームの腫瘍増殖抑制効果を示す。
【図7】図7は,本発明のリポソームの血中滞留性を示す。
【図8】図8は,本発明のリポソームの血中滞留性を示す。
【図9】図9は,本発明のリポソームの電気泳動による分析例を示す。
【図10】図10は,本発明のリポソームのトランスフェリン結合能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質およびコレステロールから構成され,医薬品が封入され,標的細胞指向性のリガンドで誘導化されているリポソーム製剤であって,前記リポソーム製剤は,リン脂質の合計量に対して約1−12mol%のジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを含み,誘導化されていないホスファチジルエタノールアミンを含まず,前記リガンドは前記ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンを介してリポソーム製剤に結合されていることを特徴とするリポソーム製剤。
【請求項2】
ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンが式I:
【化1】

[式中,R1およびR2はアシル基であり,mは1−10である]
で表される,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項3】
ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミン中のジカルボン酸がコハク酸,グルタル酸またはアジピン酸である,請求項2記載のリポソーム製剤。
【請求項4】
標的細胞指向性のリガンドがトランスフェリン,葉酸,ヒアルロン酸,糖鎖,モノクロナール抗体またはモノクロナール抗体のフラグメントから選ばれることを特徴とする,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項5】
標的細胞指向性のリガンドがトランスフェリンである,請求項4記載のリポソーム製剤。
【請求項6】
トランスフェリンが鉄と結合していないアポ型ではなく,鉄と結合しているホロ型である,請求項5記載のリポソーム製剤。
【請求項7】
ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミンがリン脂質の合計量に対して約1−6mol%である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項8】
標的指向性のリガンドがトランスフェリンであり,ジカルボン酸誘導化ホスファチジルエタノールアミン中のジカルボン酸がコハク酸,グルタル酸またはアジピン酸である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項9】
封入されている医薬品が抗癌剤である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項10】
封入されている医薬品が細胞毒である医薬品である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項11】
封入されている医薬品が,トポテカン,イリノテカンからなる群より選ばれるトポイソメラーゼ1の阻害剤である,請求項10記載のリポソーム製剤。
【請求項12】
封入されている医薬品が,ビンクリスチン,ビンブラスチン,ビンロイロシン,ビンロドシンビンオレルビンおよびビンデシンからなる群より選ばれるビンカアルカロイドである,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項13】
封入されている医薬品が核酸である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項14】
核酸がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである,請求項13記載のリポソーム製剤。
【請求項15】
封入されている医薬品が,シスプラチン,カルボプラチン,オルマプラチン,オキザリプラチン,ゼニプラチン,エンロプラチン,ロバプラチン,スピロプラチンからなる群より選ばれる白金化合物である,請求項1記載のリポソーム製剤。
【請求項16】
白金化合物がオキザリプラチンである,請求項15項記載のリポソーム製剤。
【請求項17】
オキザリプラチンが,トレハロース,マルトース,ショ糖,ラクトース,マンニトール,グリセロールおよびデキストロース等の濃度数%の糖溶液に溶解してリポソーム製剤に封入されている,請求項16項記載のリポソーム製剤。
【請求項18】
請求項1−17のいずれかに記載のリポソーム製剤および薬学的に許容される担体を含む,腫瘍を治療するための医薬組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−248978(P2006−248978A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67469(P2005−67469)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(502189775)メビオファーム株式会社 (6)
【Fターム(参考)】