説明

新規な含水試料の簡便かつ迅速乾燥方法

天然状態の含水試料の色彩および/または芳香を保ったまま、含水試料を迅速、効率的かつ低コストで乾燥する方法の提供。 含水試料の外表面を透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は植物、動物、微生物等の含水試料の乾燥方法に関する。具体的には、天然状態の含水試料の細胞および組織ならびに該試料が含む有用な含有成分を破壊させずに乾燥させる方法に関する。さらに具体的には、植物含水試料の天然状態の色彩および/または芳香を保ったまま、あるいは微生物細胞を生存したまま迅速、効率的かつ低コストで乾燥する方法に関する。
【背景技術】
従来より、植物体およびその部分を乾燥させる種々の方法があった。例えば、乾燥させようとする植物の上下もしくは、上下一方のいずれかに吸水性の材料を置き、植物中の水分を吸水させつつ乾燥させるという押し花製造法がある。押し花法として、従来より重りにより圧力をかけて植物中の水分を強制的に排出させる重石処理法があった。また、植物を吸水性材料およびセラミック板ではさみ圧縮しマイクロ波を照射し、水分蒸発を早める方法(特開平4−49202号公報)、植物を吸水性材料および多数の小孔を有する加圧用プレートではさみ圧縮しマイクロ波を照射し、水分蒸発を早める方法(米国特許第5948311号公報)、植物を吸水性材料および加圧用木製プレートではさみ圧縮しマイクロ波を照射し、水分蒸発を早める方法(特開2001−302401号公報)があった。また、乾燥させようとする植物をシリカゲル等の吸湿性材料中に入れ乾燥させる方法(米国特許第3861053号公報)があった。しかし、植物体を圧縮する方法は、圧縮により植物の組織、細胞を壊し内部の水分を強制的に排出させ、乾燥時間を早めようとするものであり、この時に色素および芳香成分も植物体から完全にまたは部分的に失われ、天然状態の植物が有する色彩および芳香は維持することはできなかった。また、圧縮する為に植物の立体形状を維持することも不可能であった。さらに、植物体をシリカゲル等の吸湿性材料中に入れる方法でも、吸湿性材料の重量のため植物は変形し立体形状の維持はできず、また吸湿するまでに時間がかかり、その間植物自体が変質し、天然状態の植物の色彩および芳香の維持は不可能であった。
また、微生物を保存する方法として、凍結、凍結乾燥等があった。しかし、凍結保存には、微生物を凍結状態に保つための凍結用設備等が必要になる。また、凍結乾燥法は、かならずしも微生物を生存させたまま保存する方法ではなく、培養微生物を凍結保存した後に再培養した場合の生存率は高くなかった。さらに、有用な色素成分や栄養成分を産生保持する微生物において該成分は凍結乾燥により変性し、天然状態で微生物が有する成分を保持させることはできなかった。
このような問題点を解決すべく、本発明者らは先に、含水試料の外表面を吸湿性の多孔質柔軟シートで覆い、当該シートの外周を含水試料が含んでいる水分をすべて吸収できる量の吸湿性粒状体で囲み、含水試料の外表面と吸湿性の多孔質柔軟シートと吸湿性粒状体とを密着させて、マイクロ波を照射し、放冷することを特徴とする含水試料の迅速乾燥方法を開発した(特開2001−071695号公報)。
この方法は、植物を圧縮する必要がなく植物の組織・細胞がそのまま維持されるので、天然状態の立体形状、色彩および芳香を維持することが可能であった。またマイクロ波照射により蒸発した水分を、一旦吸湿性の多孔質柔軟シートに吸収させ次いで、その水分をシリカゲル等の吸湿性粒状体に吸湿させるので、迅速な乾燥が可能であった。
この方法により天然状態の含水試料の色彩・芳香を保持した乾燥体の製造が可能になった。
【特許文献1】 特開平4−49202号公報
【特許文献2】 米国特許第5948311号公報
【特許文献3】 特開2001−302401号公報
【特許文献4】 米国特許第3861053号公報
【特許文献5】 特開2001−071695号公報
【発明の開示】
本発明は、天然状態の含水試料の細胞および組織ならびに該試料が含む有用な含有成分を破壊させずに乾燥させる方法の提供、例えば、天然状態の含水試料の色彩および/または芳香を保ったまま、含水試料を迅速、効率的かつ低コストで乾燥する方法の提供を目的とする。さらに、本発明は含水試料の細胞および組織ならびに含まれる有用な成分が破壊されずに保持されている乾燥体、例えば、天然状態の含水試料の色彩および/または芳香を保った乾燥体の提供を目的とする。
本発明者らは、先に開発した含水試料の迅速乾燥方法を改良し、より低コストで簡便かつ迅速に行える乾燥方法を開発しようと鋭意検討を行った。その過程で、先に開発した含水試料の迅速乾燥方法の乾燥メカニズムについて検討を行った結果、シリカゲル等の吸湿性粒状体は単にマイクロ波照射により含水試料から蒸発した水分を吸収するだけではなく、蒸発した水分が含水試料を囲む吸湿性粒状体の間隙を通って、吸湿性粒状体の外に放出されるという、「煙突効果」を担っていることを見出した。蒸発し外に放出された水分子は、加熱後の放冷過程において、運動性を失い再び含水試料に吸収されにくくなるので、含水試料の迅速かつ完全な乾燥が達成できたのである。しかしながら、この「煙突効果」の発揮という点において、シリカゲル等の吸湿性粒状体は、一旦蒸発した水分を完全に外に放出させるのではなく、その間隙に蒸気を保持している可能性があり、冷却時に間隙の水分が再び含水試料に戻る可能性が考えられた。そこで、本発明者らは、吸湿性粒状体の代わりに含水試料から蒸発した水分を外に放出し、なおかつ一旦放出された水分が再び含水試料に吸収されるのを妨げるような材料を用いることにより、より容易に含水試料の迅速乾燥が達成され得ると考え、材料および乾燥方法について鋭意検討を行った。その結果、一定の透湿性を有する材料ならば含水試料から蒸発した水分子を含水試料の周囲に留まらせることなく透過放出させることができ、一定の吸湿性を有する材料ならば一旦透過放出された水分子が運動性を失うときに水分子を内部に捕捉し乾燥した含水試料が水分を再吸収するのを防ぐことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 含水試料の外表面を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法、
(2) 含水試料の外表面を吸湿性の多孔質柔軟シートで囲みさらに該シートの周囲を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法、
(3) 吸湿性の多孔質柔軟シートおよび透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料をあらかじめ、マイクロ波照射により予備加熱しておく(1)または(2)の含水試料の迅速乾燥法、
(4) マイクロ波発生装置内で含水試料にマイクロ波を照射して乾燥させた後に、余熱乾燥させる(1)から(3)のいずれかの含水試料の迅速乾燥法、
(5) 余熱乾燥がマイクロ波発生装置内で行われる(4)の含水試料の迅速乾燥法、
(6) 透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料が段ボールである(1)から(3)のいずれかの含水試料の迅速乾燥法、
(7) 段ボールが吸湿性粒状体を含む(6)の含水試料の迅速乾燥法、
(8) マイクロ波照射直後の含水試料の周囲温度が60℃未満である(1)から(3)の含水試料の迅速乾燥法、
(9) 透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料がフェルトまたはフリースである(8)の含水試料の迅速乾燥法、
(10) マイクロ波の照射が含水試料中の水分減少率が95%以上になるまで行う、(1)から(9)のいずれかの含水試料の迅速乾燥法、
(11) 含水試料が生試料である(10)の含水試料の迅速乾燥法、
(12) 生試料が植物体またはその部分である(11)の含水試料の迅速乾燥法、
(13) 生試料が微生物であって、乾燥微生物が生存している、(11)の含水試料の迅速乾燥法、
(14) 植物の花弁1枚を候補多孔性材料で囲み、マイクロ波を照射し、一定時間毎に含水試料の水分減少率および含水試料近辺の温度を測定し、60秒から240秒で水分減少率が100%になりかつ温度が60℃以上に上昇しない材料を乾燥に用いるのに適した材料として選択する、(1)の含水試料の迅速乾燥法に適した透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料の選択方法、
(15) (14)の方法により選択された透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料、および多孔質柔軟シートを含む含水試料の迅速乾燥キット、
(16) 透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料がフェルトまたはフリースである(14)の含水試料の迅速乾燥キット、
(17) (13)の方法により製造された細胞および組織が破壊されていない、含水試料の乾燥体、
(18) (13)の方法により製造された天然状態の色彩および/または芳香が保持された、含水試料の乾燥体、ならびに
(19) 含水試料の乾燥体が、培養した場合に増殖し得る微生物である、(17)または(18)の含水試料の乾燥体。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、含水試料の外表面を透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法である。
本発明で乾燥させ得る含水試料としては植物体全体および花、葉、茎、果実、根等の植物体の部分、昆虫、甲殻動物等の節足動物、昆虫、甲殻動物等の節足動物の卵、魚類の卵、動物の肉、皮等の動物体およびその部分、ならびに線虫、原生動物、大腸菌、枯草菌などの細菌、酵母、藻類、昆虫細胞、動物細胞等の微生物を含む生試料、岩石、泥、砂等の含水鉱物試料が含まれる。乾燥させる試料の用途も限定されず、食用植物、食用動物、観賞用植物、有用成分採取用植物・微生物、研究用微生物等、細胞および組織ならびに含有有用成分が破壊されることなく保持されることが望ましい試料の用途ならばどのような用途にも応用できる。これらの中でも特に植物体およびその部分ならびに微生物が好ましい。また、本発明の方法で乾燥させた乾燥体は、天然状態での色彩ばかりでなく、芳香も保持しているので、茶葉、ハーブ等の乾燥にも適する。また、本発明の乾燥法は押し花法のように圧縮して含水試料中の水分を強制的に放出させる必要がないので、天然の含水試料が有する立体構造を保持したまま、乾燥させることができる。従って、複雑な形状を有する植物体、壊れ易い植物体もその立体形状を保持したまま乾燥させることができる。この点で、本発明の方法はドライフラワーの製造にも適している。また、本発明の方法で乾燥させた動物体およびその部分の細胞、組織が破壊されることなく保持され、乾燥前の試料が含む有用成分も破壊されることなく保持される。したがって、動物体およびその部分の乾燥体は乾燥前の色彩や風味を保持している。さらに、本発明の方法で乾燥させた微生物は、組織が破壊されることなく保持され、乾燥前の試料が含む有用成分も破壊されることなく保持される。したがって、微生物はその生物学的活性を保持しており、生存したまま乾燥させることができ、保存後に培養等により増殖させることができる。
本発明は、前記含水試料の周囲を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲みマイクロ波を照射することにより含水試料を乾燥させる方法である。
ここで、含水試料を囲むとは含水試料の周囲全体または周囲のほぼ全体が透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で覆われていることをいい、このとき含水試料が部分的に好ましくは大部分が多孔性材料と接触していることが必要である。これは含水試料と透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料が接触することにより、含水試料から蒸発した水分子が直ちに前記多孔性材料に吸収されるようにである。また、後記のように、含水試料と多孔性材料の間に多孔質の柔軟シートが存在していてもよい。多孔性材料で含水試料を囲むには、多孔性材料が柔軟性に富む場合は含水試料を包めばよいし、多孔性材料が柔軟性に欠ける場合には含水試料をはさめばよい。含水試料を囲む場合、植物の花弁や葉を平らに維持する程度の圧力をかけてもよいが、本発明は天然の含水試料の色素および/または芳香が保持されている乾燥体の製造を目的とするため、含水試料の組織や細胞が破壊される強さの圧力はかけてはならない。植物の花弁や葉を平らに維持する程度の圧力は、重りを用いて押さえることによりかけることができる。材料の透湿性とはその材料の蒸発した水分子を透過させ得る特性をいい、透湿度ともいう。材料の吸湿性とは運動性を失った水分子をその材料が保持し得る性質をいい、吸水性ともいう。透湿性を有していると、マイクロ波照射により含水試料から蒸発した水分が容易に透過し、含水試料を囲んだ透湿性材料から放出され、含水試料から分離される。また、蒸発し熱を有する水分子が分離されると、含水試料の近辺に熱がこもりにくく、含水試料近辺の温度上昇を抑えることができる。透湿性(透湿度)は、一定条件下で一定面積の透湿性材料を一定時間に透過する水蒸気量(g)を測定することにより測定できる。透湿度は、例えばJISの繊維製品の透湿度試験方法(JIS L 1099−1993)のA−1法、A−2法、A−3法またはA−4法のいずれかに従って行うことができる。例えば、A−1法は、透湿カップに塩化カルシウム等の吸湿剤を入れ、カップの開口部を一定面積の被試験材料で覆い、高湿度条件下に一定時間置き、非試験材料の重量を測定し、さらに一定時間置いた後に再度被試験材料の重量を測定することにより行う。該試験法において、透湿度(PA1)は、式{10×(a−a)}/SA1で表される。ここで、a−aは、被試験材料の1時間あたりの質量の変化量(mg/h)を示し、SA1は、透湿面積(cm)を示す。PA1の単位は、g/m.hである。本発明で用いうる材料の透湿度は、ウール製のフェルト(例えば、日本フェルト工業株式会社、品番227)とほぼ同等であり、ほぼ同等とは、上述の試験法での透湿度の値がウール製のフェルトに対して±30%、好ましくは±20%、さらに好ましくは±10%、特に好ましくは±5%であることをいう。さらに、吸湿性(吸水性)を有していると、蒸発して孔を通っている水分子の一部およびマイクロ波照射終了後の冷却過程で運動性を失った水分子を吸収保持することができ、水分子が再び含水試料に吸収されるのを防止することができる。吸水性は、例えばJISの繊維製品の吸水性試験方法(JIS L 1907−1994)に従って行うことができる。該試験法は、吸水速度を測定するための滴下法、バイレク法、沈降法、吸水率を測定する方法、最大吸水速度及び最大吸水速度時点の吸水量を測定する方法を含み、このいずれかの方法で試験すればよい。例えば、吸水速度は、一定の大きさの被試験材料を試験片保持枠に取り付け、該試験材料にビュレットから水または砂糖水を滴下し、水滴が材料の表面に達したときからその水滴が特別な反射をしなくなるまでの時間を測定することにより行う。本発明で用いうる材料の吸水性は、ウール製のフェルト(例えば、日本フェルト工業株式会社、品番227)とほぼ同等であり、ほぼ同等とは、上述の試験法での透湿度の値が、ウール製のフェルトに対して±30%、好ましくは±20%、さらに好ましくは±10%、特に好ましくは±5%であることをいう。耐熱性とは熱に侵されにくい特性をいい、本発明においては特にマイクロ波を照射しても溶けたり、焦げたり、燃えたりしない特性をいう。すなわち、本発明において耐熱性を有するとは、耐マイクロ波照射性をいう。例えば、マイクロ波を直接照射した場合に、2分間、好ましくは3分間、さらに好ましくは5分間、さらに好ましくは10分間、溶けたり焦げたり燃えたりしなければ耐熱性を有するという。また、本発明の方法で実際に含水試料を乾燥させようとする場合、含水試料中の水がマイクロ波により蒸発し、発熱する。本発明で用いる材料は、本発明の方法で乾燥させるためにマイクロ波を照射する時間マイクロ波を照射しても発熱により変質が認められない耐熱性を有していればよい。例えば、本発明の方法で乾燥させるときに、含水試料が乾燥するに要する時間マイクロ波を照射しても変質しない材料であり、例えば、含水試料を乾燥させるためにマイクロ波を照射した場合に、2分間、好ましくは3分間、さらに好ましくは5分間、さらに好ましくは10分間、溶けたり焦げたり燃えたりしなければ耐熱性を有するという。また、多孔性材料とは、材料の表側から裏側に連絡する孔を多数有している材料をいい、該孔が存在するため透湿性、吸湿性および耐熱性を有する。孔の大きさは限られないが、少なくとも水分子が容易に透過し得る大きさである。図1に本発明の方法の該略図を示す。
さらに、該材料は含水試料を破壊したり変形しないようにするために、柔軟性を有しかつ単位体積または単位面積当たりの重量が小さいものが好ましい。
例えば、本発明の含水試料を囲む透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料として、繊維性多孔性材料が挙げられる。繊維性多孔性材料には、布や紙が含まれ、また布として成型されていない繊維そのものを用いてもよい。具体的には、毛(羊毛およびカシミヤ、アンゴラ、モヘヤ、アルパカ、キャメル等の獣毛)、絹、綿(コットン)、麻等の天然繊維、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、キュプラ、ポリプロピレン、ナイロン、レーヨン、アセテート、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ビニルデン、アクリル、アラミド、ポリエチレン、ポリウレタン、プロミックス、ポリクラール、ポリイミド、アルギン酸繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の合成繊維またはこれらのいずれかを混ぜた繊維等でできた布やこれらの繊維そのものが挙げられる。さらに、フェルト、フリース、ネル(フランネル)、ベロア、織物の表面をフェルト状にした毛布、ビリヤードクロス等の織フェルト、キルト芯やドミット芯等の不織布芯地または織物芯地等が挙げられる。ここで、フェルトとは、繊維を絡ませて布状にしたものをいい、羊毛からできた伝統的フェルト、材料の種類を問わないがクリンプ状に縮れた短繊維からできたフェルト、ポリエステル等の合成繊維からできたフェルトがある。フリースとは、繊維を高密度で織り起毛させた布をいい、その素材は羊毛、ポリエステル等である。ネルとは太番手の糸を用い、平織又はあや織の両面又は片面を起毛した織布をいい、ベロアとは縮充起毛して布面に毛羽を立てた布をいう。ガラスや石英繊維でできたグラスウールや石英ウールも用いられ、これらの材料も水蒸気を透過させ、多孔中に水分を保持しうるので吸湿性を有し、本発明の繊維性多孔性材料に含まれる。紙は吸湿性という観点から、ある程度の厚みが必要であり、薄い紙の場合は重ねて用いればよい。トータルの厚みは限定されないが、数mmから数cm、好ましくは1〜2cmである。紙として、段ボール、クレープ紙、ろ紙等が挙げられる。ここで、クレープ紙とはちりめん状のしわをつけた紙をいい、抄紙工程で湿紙にしわつけ加工をするウェットクレープと乾燥した紙に加工するドライクレープのいずれでもよい。クレープ紙の例として、紙タオル、紙ナプキン等が挙げられる。段ボールも、吸湿性の観点から、ある程度の厚みが必要である。段ボールの種類により必要な厚みは異なるが数mmから数cm、好ましくは1〜2cmである。薄い段ボールの場合は、紙と同様に数枚を重ねて用いればよい。布は織布でも不織布でもニットでもよく、また天然素材の布でも合成素材の布でもよい。また、吸湿性の観点からある程度の厚みが必要であり、その厚みは数mmから数cm、好ましくは5mm〜2cm、さらに好ましくは5mm〜1cmである。薄い布の場合は重ねて用いればよい。なお、段ボールを用いるときに、段ボールにシリカゲル等の吸湿性粒状体を含ませてもよい。段ボールは波形に成形した中しんの片面または両面にライナを貼ったものであり、中しんとライナの間に吸湿性粒状体を含ませることもできる。
なお、本方法を実施する際に含水試料を囲むのに適した透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料は以下のようにして選択することができる。すなわち、植物の花、花弁等の含水試料、例えば生重量0.03〜0.05のパンジーの花弁一枚または生重量0.3g〜0.5gのデルフィニウムの花を候補材料で囲み、家庭用電子レンジ(例えば、出力500Wから600Wのもの)を用いてマイクロ波を照射した場合に、60秒〜240秒で水分減少率が100%になる材料であって、水分減少率が95%の時点では含水試料に変色が認められない材料である。ここで、一定時間のマイクロ波照射後の水分減少率は(乾燥前の試料の重量―一定時間マイクロ波を照射した時の試料の重量)/(乾燥前の試料の重量―完全乾燥完了時の試料の重量)×100(%)で表される。
このような透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を用いて乾燥させようとする含水試料を囲み、マイクロ波を照射することにより含水試料を乾燥することができる。この際、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料と含水試料の間には多孔質柔軟シートを介するのが望ましい。ここで多孔質柔軟シートとしては、クレープ紙、和紙、ティッシュペーパー、新聞紙、ろ紙等の薄くて柔軟な紙類が挙げられる。多孔質柔軟シートは、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料でもあるが、布やダンボールを含まず、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料と区別するために本明細書中では多孔質柔軟シートという語を用いている。本発明の実施態様によっては、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料としてクレープ紙を複数枚重ねて用いることがあり、この場合はクレープ紙は、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料でもあり、多孔質柔軟シートでもある。多孔質柔軟シートは一枚でもよいし、複数枚を重ねて用いてもよい。乾燥させようとする含水試料の周囲を多孔質柔軟シートで囲み、さらに前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲みマイクロ波を照射する。この際多孔質柔軟シートは含水試料に部分的に、好ましくは含水試料の大部分を接触させる。ここで、大部分を接触させるとは含水試料の表面積の50%以上を多孔質柔軟シートに接触させることをいう。さらに、多孔質柔軟シートの外側に位置する透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料は多孔質柔軟シートに部分的に、好ましくは大部分を接触させる。ここで、大部分を接触させるとは多孔質柔軟シートの表面積の50%以上を多孔性材料に接触させることをいう。該多孔質柔軟シートは含水試料に接触し透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料がさらに多孔質柔軟シートに接触しているので、含水試料、多孔質柔軟シートおよび透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を通る水分子の通路が形成される。含水試料から蒸発した水分は直ちに多孔質柔軟シートに吸収され、次いでその水分は前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料中に移動し、該材料の孔を通って外に放出される。多孔質柔軟シートは十分な柔軟性を有するため、ある程度複雑な形状を有している含水試料であっても、その試料と接触させるのは容易である。しかし、植物の花そのもの、植物体そのもののような高度に複雑な形状を有する含水試料の場合、含水試料の複雑な形状を有する部分と多孔質柔軟シートを接触させるのは容易ではない。この場合は、多孔質柔軟シートを適当な大きさに切断し、その断片を含水試料の複雑な形状部分に挟んだり、差し込んだり、結んだりして接触させればよい。断片の大きさ、形状は限定されず、乾燥させようとする含水試料の大きさ、形状により適宜決定すればよい。例えば、バラの花、タンポポの花のように花弁が重なりあっている場合、多孔質柔軟シートを切って花弁より大きい断片(例えば、短冊状)を作製し、その断片を花弁と花弁の間に差し込めばよい。このまわりをさらに多孔質柔軟シートで囲み、さらに透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲むことにより、含水試料と多孔質柔軟シートとの間および多孔質柔軟シートと前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料との間に良好な接触を達成できる。より複雑な形状を有する植物体等を乾燥させようとする場合は、多孔質柔軟シートを糸状に切断したり、小さい断片に細切し、それらを植物体を囲むようにして用いて、このまわりを多孔質柔軟シートで囲めばよい。本明細書において、このように多孔質柔軟シートの断片を差し込んだり、挟んだりして含水試料と接触させる場合も、含水試料を多孔質柔軟シートで囲むという。
なお、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料として繊維を用いる場合は、繊維を束ねて多孔質柔軟シートを覆うようにすればよい。また、多孔性材料として段ボール以外のものを用いる場合、多孔性材料をさらに段ボールで挟んで乾燥を行ってもよい。例えば、含水試料を多孔質柔軟シートで挟み、さらに透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で覆い、それを段ボールの板で挟めばよい。このときの段ボールの枚数は限定されないが、合計数mm〜数cm程度、例えば2mm〜15mm程度の厚さになるようにする。
本発明の方法で用いる透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および多孔質柔軟シートの面積は乾燥させようとする含水試料の大きさにより適宜設定すればよい。また、含水試料の上下をはさんで用いるか、または包んで用いるかによっても面積を適宜変更することができる。
本発明で用いるマイクロ波の発生装置としては、市販の家庭用電子レンジを用いればよい。工業的に大量の乾燥体を作成するには、大型のマイクロ波発生装置を用いることができる。この場合、ベルトコンベア等を用いて含水試料が連続的にマイクロ波発生装置内に移動し、一定時間マイクロ波が照射されるようにすることにより、より大量に含水試料の乾燥体を製造することができる。なお、本発明においてはマイクロ波発生装置と称しているが、これはマイクロ波加熱炉ともいい、本発明で含水試料にマイクロ波を照射するとは、マイクロ波を作用させて水分子を誘電加熱し(マイクロ波加熱)蒸発させることをいう。
マイクロ波の照射時間は、乾燥させようとする含水試料の体積、含水量等により、さらに含水試料が植物の場合、表面のクチクラ層の有無等により異なるが、約十秒から数百秒でよい。例えば、葉が厚くクチクラ層の発達しているアオキの葉を一枚乾燥させる場合、約60秒で十分乾燥させることができる。また、微生物の場合、例えばOD650が3になる程度の微生物の懸濁液数μから数十μLを多孔性の柔軟紙であるろ紙に含浸または、はさむようにのせた場合も約十秒から数百秒で、好ましくは30秒から60秒でよい。マイクロ波の照射時間が長すぎると、含水試料が変色することがあるので望ましくない。マイクロ波発生装置の出力により照射時間を適宜変えることにより、良好な乾燥体を得ることができる。あらかじめ、用いようとする含水試料をマイクロ波の照射時間を変えて乾燥させ、乾燥状態および変色の程度を調べて、適切な照射時間を設定することができるし、また短い時間マイクロ波を照射し乾燥状態および変色の程度を確認することを繰り返すことにより最適の乾燥状態を達成することもできる。本明細書における実施例においては、乾燥中の水分蒸発に伴う重量減少を測定し、重量が減少しなくなった時点、すなわち含水試料からの水分減少率が100%となった時点を完全乾燥の完了としている。しかし、用いる透湿性吸湿性材料によっては、完全乾燥時に含水試料に変色が認められることがある。本発明の方法により作製した含水試料の乾燥体は、乾燥剤の存在下、あるいは低湿度条件下で乾燥状態を保持して保存することが望ましく、わずかに残った水分は保存時に乾燥剤により吸湿される。従って、変色が認められる場合は、完全乾燥に達する前にマイクロ波の照射を止め、後は乾燥剤の存在下あるいは低湿度条件下で保存すればよい。また、本発明の含水試料の乾燥体を、食用、飲用等あるいは生物資源の保存等の目的で用いるのではなく、装飾用として用いる場合は、必ずしも高度な乾燥状態を保持させる必要はなく、多少の水分が含まれていてもほとんど問題とはならない。従って、この場合変色が生じない程度の照射時間で乾燥を停止し、以後そのまま大気条件下に保存しておいても、実用上は何ら問題なく少なくとも数ヶ月から数年の極めて長期にわたって、天然状態の色彩および芳香を保持しうる。マイクロ波照射の過程における含水試料の重量減少がなくなった場合を、水分減少率100%とした場合、一定時間のマイクロ波照射後の水分減少率は(乾燥前の試料の重量―一定時間マイクロ波を照射した時の試料の重量)/(乾燥前の試料の重量―完全乾燥完了時の試料の重量)×100(%)で表される。本発明の方法により作製される含水試料の乾燥体の水分減少率は、好ましくは95%、さらに好ましくは98%、特に好ましくは99%である。
尚、含水試料を囲む透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を適宜選択することにより、含水試料が高温にさらされるのを防ぐことができる。例えば、多孔性材料としてフェルトまたはフリースを用いた場合、含水試料が過度の高温にさらされるのを防ぐことができる。これは、マイクロ波照射により分子運動が活発になり蒸発した水分子が、含水試料の周囲に留まることなく直ちに多孔性材料中に入りさらに該材料を透過していくためであると考えられる。この際、マイクロ波を照射した物質中の水分子は極めて高速で物質から放出される。この高速で運動する水分子と、多孔性材料の「煙突効果」があいまって、含水試料の温度を上昇させずに水分子を分離することが可能になるのである。マイクロ波は物質中の水分子の運動エネルギーを上昇させ、水分子同士の摩擦によりその物質を加熱するので、運動エネルギーが上昇した水分子が物質から直ちに分離されれば、その物質の温度上昇は抑えられる。すなわち、本発明の方法は、低温での乾燥を達成しうる。本発明の方法の温度上昇を抑える最適条件で乾燥を行った場合に、含水試料がさらされる温度は100℃未満、好ましくは90℃未満、さらに好ましくは80℃未満、特に好ましくは70℃未満、最も好ましくは60℃未満である。含水試料周囲の温度は、例えばマイクロ波の照射後直ぐに含水試料およびそれを囲む透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を取り出し、含水試料の近くに、温度計、熱電対等の温度センサーを置くことにより測定することができる。この方法により測定される温度は、実際にマイクロ波を照射している時の含水試料がさらされる正確な温度ではないが、実際に生試料がさらされる温度の目安となる。本発明の方法の温度上昇を抑える最適条件で乾燥を行った場合の前記温度測定方法で測定した含水試料近辺の温度は、100℃未満、好ましくは90℃未満、さらに好ましくは80℃未満、特に好ましくは70℃未満、最も好ましくは60℃未満である。
用いる透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料の種類によりある程度乾燥中に含水試料がさらされる温度をコントロールできる。含水試料によっては、もともと水分含量が多かったり、表面に水分蒸発を妨げる層が存在し、乾燥させにくいものがある。このような含水試料を乾燥させる場合は、ある程度高温条件下で行った方がよい場合がある。前記多孔性材料の種類を適宜選択することにより、乾燥時の温度を変えることができる。例えば、前記多孔性材料として、フリースやフェルトを用いた場合は比較的低温での乾燥が達成でき、段ボールやクレープ紙を用いた場合は、比較的高温で乾燥させることができる。
なお、含水試料を乾燥させる前に、乾燥に用いる前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および/または前記多孔質柔軟シートはあらかじめマイクロ波を照射しておくのが望ましい。あらかじめマイクロ波を照射しておくことにより、前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および/または前記多孔質柔軟シートがある程度加熱され以降の乾燥が迅速かつ効率的に行われる。この加熱を予備加熱といい、用いる前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および多孔質柔軟シートの種類にもよるが、60秒から90秒行うことが望ましい。
さらに、含水試料へのマイクロ波の照射終了後、乾燥させた含水試料は直ぐにマイクロ波発生装置から取り出さずに、そのままの状態で一定時間放置しておき、放冷または余熱乾燥させるのが望ましい。加熱された含水試料、前記透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および/または前記多孔質柔軟シートをマイクロ波発生装置中で放置することにより、保持されている熱により含水試料にわずかに残っている水分がさらに蒸発し、良好な乾燥体が得られる。予熱乾燥の時間は、5〜10分である。
図2に本発明の乾燥法の推定される原理を示す。図2中、斜め線の入ったブロックは透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を表し、円は水分子を表し、矢印は水分子の動きを表す。マイクロ波照射により含水試料中の水分子の運動が活発になり、含水試料から高速で放出される。放出された水分子は含水試料を囲む透湿性の多孔性材料中の孔を高速を保ったまま次々に透過し水分子の流れが新たに含水試料から放出された水分子を多孔性材料の孔中に導き水分子は次々に外に放出される(煙突効果)。一旦、外にでた水分子はマイクロ波照射終了後運動エネルギーが減少し、吸湿性の多孔性材料に吸収されそこに留まる。あるいは、含水試料から蒸発した水分子の一部は多孔性材料の孔を通るときに多孔性材料に吸収されそこに留まる。多孔性材料に一旦吸収保持された水分子が含水試料に再び吸収されることはない。
以上のように、本発明は含水試料の外表面を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法であり、また本発明は、含水試料の外表面を吸湿性の多孔質柔軟シートで囲みさらに該シートの周囲を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法である。さらに本発明は、含水試料の上下を、1から数枚の多孔質柔軟シートではさみ、さらにその上下を1から数枚の多孔性材料ではさみ、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法である。
本発明は、さらに前記の乾燥方法で得られた含水試料の乾燥体をも含む。該乾燥体は、含水試料の有する組織や細胞が破壊されていないため、栄養成分、色素や芳香物質が乾燥体内部に残り長期にわたって、天然状態での色彩および/または芳香が保持される。例えば、植物の赤から青系色の色素であるアントシアンは不安定であり、植物体を圧縮して乾燥させる重石押し花法等の乾燥法ではアントシアンを含む植物の色彩を保持することは困難であった。しかし、本発明の方法はアントシアンを含む植物でもその色彩を長期にわたって保持し得る。また、植物に含まれるフェノール色素は放置しておくと黒変することが報告されており、乾燥時に過度の加熱によっても黒変すると考えられる。本発明の乾燥法によれば、植物が過度の高温にさらされることなく乾燥できるので、熱によるフェノール色素の黒変を抑えられる。本発明の乾燥体の組織や細胞が破壊されず残っているかどうかは、顕微鏡で観察すればよく、例えば、乾燥体に色素が残存しているかどうか、細胞中の液胞が残っているかどうかで評価することができる。また、乾燥体から栄養成分、色素や酵素を抽出し、その活性が保持されているかどうかを測定することによっても評価することができる。植物の色素としては、前述のアントシアンの他、クロロフィル、カロテノイド、フェノール色素、ベタレイン等がある。植物の芳香成分としてテルペン類、チモール、カルバクロール、シメン、ピネン、リナロール、1,8−シオネール(ユーカリプトール)等がある。また、栄養成分としてアスコルビン酸等のビタミン等がある。本発明の乾燥法では、これらを含む植物の栄養成分、色素および芳香成分が部分的に、好ましくは大部分が保持されている。これらの栄養成分、色素および/または芳香成分が保持されていることの確認は、視覚により天然状態の色とほぼ同じであること、または嗅覚により天然状態の芳香が残っていることを確認することにより行うことができる。また、公知の化学的手法、物理学的手法、または生化学的手法により色素成分および/または芳香成分を測定することによっても、色素成分および/または芳香成分が保持されていることを確認することが可能である。公知の手法により本発明の方法により得られる乾燥体の栄養成分、色素成分および/または芳香成分を測定した場合、本発明の方法により得られる乾燥体は、天然状態の栄養成分、色素成分および/または芳香成分の少なくとも10%、好ましくは25%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは75%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上が残っている。従って、本発明の方法により得られる乾燥体は、組織、細胞が破壊されておらず、細胞中の液胞が残っており、天然状態で存在していた栄養成分、色素および/または芳香成分が部分的に残っているか、または大部分が残っている生試料の乾燥体である。さらに、本発明の方法により得られる乾燥体は天然状態で保持していた酵素等のタンパク質や核酸の一部またはほとんどが天然状態の構造や活性を保ったまま保持される。このため、乾燥体が微生物の場合、天然状態の栄養成分、色素成分および/または芳香成分が保持されるだけでなく、生物学的活性を有する酵素等の物質も保持されるため、乾燥過程で死滅することがなく乾燥体として保存することができる。なお、この場合、乾燥微生物のすべてが生存している必要はなく、乾燥微生物集団を一定期間乾燥後、微生物の培養用培地に入れたときに、増殖を開始するだけの数の微生物が生存していればよい。例えば、乾燥微生物の数の0.01%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは1%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の数が生存していればよい。本発明の方法で乾燥させた微生物は、4℃で5日間以上、好ましくは10日間以上、さらに好ましくは1ヶ月以上、さらに好ましくは3ヶ月以上、さらに好ましくは6ヶ月以上、さらに好ましくは1年以上、さらに好ましくは2年以上、さらに好ましくは3年以上、さらに好ましくは5年以上、さらに好ましくは10年以上、さらに好ましくは20年以上生存しており、これらの期間保存した後に微生物の培養用培地に入れたときに、増殖を開始し得る。
さらに、昆虫等を本発明の方法で乾燥させた場合、乾燥体は天然状態の色を保持した昆虫標本として利用することができる。さらに、本発明の方法で乾燥させた昆虫、甲殻類などの節足動物の卵、魚類の卵を水に入れたり、湿度の高い条件下におくことにより、孵化させることもできる。
本発明の方法により得られた乾燥体は、そのまま大気中で保存してもよく、この場合であっても長期にわたって天然状態の栄養成分、色彩および/または芳香が保持される。また、食品や飲料等の分野で用いる場合のように高度な乾燥状態を保持しておく必要がある場合は、乾燥剤等と一緒に密閉状態で保存しておけばよいし、湿度をコントロール可能な容器または部屋で低湿度状態で保存しておいてもよい。
本発明の方法により得られた乾燥体は、天然状態の栄養成分、色彩および/または芳香を保持しているので、装飾品または芳香付装飾品として利用することができる。また、芳香剤として利用することができる。さらに、茶等を乾燥させれば、乾燥茶として利用することができる。さらにまた、植物標本等の科学標本として用いることもできる。特に、本発明の方法で用いる透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料の種類ならびにマイクロ波照射時間をコントロールすることにより含水試料がさらされる温度が過度に高くなるのを防止でき、酵素等のタンパク質の一部またはほとんどが変性せずに保持される可能性がある。従って、本発明で乾燥させた乾燥体を含水試料と同等の生物学的実験材料として用いることも可能である。例えば、本発明の乾燥体から変性していないタンパク質、核酸等を抽出することが可能である。乾燥体のタンパク質および/または核酸が残っていることは、公知の化学的手法、物理学的手法または生化学的手法により確認することができる。例えば、乾燥させようとする生試料が天然状態で有する特定のタンパク質を定量してもよいし、天然状態で有する特定の酵素の活性を測定してもよい。本発明の方法により得られる乾燥体は、天然状態で有している任意のタンパク質の少なくとも10%、好ましくは25%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは75%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上が残っている。また、本発明の方法により得られる乾燥体は、天然状態で有している任意の酵素の酵素活性の少なくとも10%、好ましくは25%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは75%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上が残っている。従って、本発明の方法により得られる乾燥体は、天然状態のタンパク質および/または核酸が部分的に残っているか、または大部分が残っている乾燥体である。
また、本発明の方法で乾燥させた微生物は一定期間の保存後も生存しているので、微生物を低コストで簡便に乾燥保存できる。
さらに、本発明は含水試料乾燥キットをも包含する。該キットは、少なくとも透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を含み、さらに多孔質柔軟シートを含んでいてもよい。ここで、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料ならびに多孔質柔軟シートの定義は前記のとおりである。特に、本発明の含水試料乾燥キットは家庭で簡単に天然状態の栄養成分、色彩および/または芳香を長期間にわたって保持し得る押し花やドライフラワーを作製することを目的としている。前述のように、用いる透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料の種類により、含水試料がさらされる温度が異なるので、含水試料の種類により乾燥時の温度を変えられるように、キット中に種類の異なる複数の透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を含んでいてもよい。例えば、低温乾燥用多孔性材料としてフェルトまたはフリース、高温乾燥用多孔性材料として段ボールまたはクレープ紙があげられるので、本発明のキットがフェルトまたはフリースならびに段ボールまたはクレープ紙を含んでいれば、高温乾燥も低温乾燥も行うことができる。すなわち、本発明のキットは、低温乾燥および高温乾燥の両方を適宜選択できるキットも含む。押し花作製キットの場合、そのキットには板状の透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料、多孔質柔軟シートならびに含水試料の細胞および組織を破壊しない程度の圧力をかけるおもり等の手段を含む。おもりとしては、例えば段ボールを用いることができる。多孔性材料および多孔質柔軟シートの面積は乾燥させようとする対象の大きさによって異なるが、例えば、5〜30cm×5〜30cmの大きさの矩形のものを数枚ずつ含んでいればよいし、大き目のものを含ませ適宜それを折り畳んだり、切って用いるようにしてもよい。さらに、本発明のキットは、段ボール等の厚手の紙、耐熱性樹脂等の耐熱性材料ででき、マイクロ波を透過させ得る容器を含んでいてもよい。容器を含むことにより乾燥に用いる材料一式を容易に持ち運ぶことができるし、また一般家庭では通常は料理に用いている電子レンジをマイクロ波発生装置として用いるので、悪臭を発する含水試料等含水試料によっては電子レンジの床や壁に付着するのが望ましくない場合があり、この場合は容器に入れた状態で電子レンジに入れ乾燥を行えばよい。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2001−306868号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の乾燥法の概略を示す図である。図1中、横線を引いたブロックは本発明の透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を表す。白抜きのブロックは、吸湿性の多孔質柔軟シートを表す。
図2は、本発明の乾燥法の原理を示す図である。
図3は、実施例1で行った方法を示す図である。図3Aは、フェルト、フリースまたは段ボールを用いた方法、図3Bは、クレープ紙を用いた方法、図3Cはタオルを用いた方法を示す。図3中、横線を引いたブロックは本発明の透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料を示す。図3Cの多孔性材料であるタオルは4つ折りされていることを示す。白抜きのブロックは、吸湿性の多孔質柔軟シート(クレープ紙)を表す。
図4は、本発明の方法およびOK001法で乾燥させたデルフィニウムの花の写真である。図4AはOK001法、図4Bはフェルトを用いた方法、図4Cはフリースを用いた方法、図4Dはタオルを用いた方法、図4Eはクレープ紙を用いた方法、図4Fは段ボールを用いた方法で乾燥させたデルフィニウムである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
〔実施例1〕 デルフィニウムの花の乾燥
乾燥させる含水試料としては、青色のデルフィニウムの花1つ(花弁5枚)を用いた。乾燥前の生重量は、0.3〜0.5gであった。含水試料を覆う材料として、フェルト(羊毛製、日本フェルト工業株式会社、品番227または229(品番277と229は色違いで実質的には同製品)、厚さ約2mm)、フリース(ダイソー製、ポリエステル100%、厚さ約3mm)、段ボール(厚さ約3mm)、紙ナプキン(クレープ紙)およびタオル(綿100%、厚さ約1.25mm)を用いた。また、含水試料と多孔性材料の間に多孔質柔軟シートを置く場合は、クレープ紙を用いた。フェルト、フリース、段ボール、クレープ紙およびタオルを用いた実施例をそれぞれ、実施例1A、1B、1C、1Dおよび1Eとした。上から見たときの大きさはフェルトが15×19cm、フリースが10×15cm、段ボールが10×15cm、クレープ紙が19×30cm、タオルが2つ折りにして28×19cmであった。
フェルト、フリースおよび段ボールは図3Aに示すように、デルフィニウムの花弁の上下をクレープ紙ではさみ、さらに上下を4枚のフェルト、フリースまたは段ボールではさんで用いた。クレープ紙は図3Bに示すように、デルフィニウムの花弁の上下を4枚のクレープ紙ではさんで用いた。タオルは図3Cに示すように、デルフィニウムの花弁をクレープ紙ではさみ、さらに4つ折りのタオルではさんだ。ここで、上下とは電子レンジに入れる際の上下関係を示す。
次いで、このようにして準備した多孔質柔軟シートおよび透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲まれた含水試料を市販の電子レンジ(岩谷産業(株)製、型番IMO600、出力600W)に入れ、マイクロ波を照射した。照射は、10秒から60秒の間歇照射を行い、照射後に温度計を用いて積層体の含水試料が存在する部分の温度を測定すると共に、含水試料の重量をバランス(SHIMAZU CORPORATION社製、型番D417400157)で測定した。この作業を繰り返し行った。含水試料の重量が減少しなくなった時点を乾燥完了時とした。また、この際色彩の変化等の外観の変化を観測した。含水試料の乾燥を行う前に、含水試料をはさむクレープ紙および上記材料は、マイクロ波を60秒照射して、予備加熱しておいた。なお、対照として特開2001−071695号公報に記載の方法(OK001法とする)でも乾燥を行った。すなわち、含水試料をティッシュで覆い、耐熱性容器中にシリカゲルとともにシリカゲルで覆われるようにして入れ、マイクロ波を照射した。対照乾燥法においては、含水試料のマイクロ波照射条件は前記の通りであるが、乾燥用材料(柔軟シートおよびシリカゲル)の予備加熱は行わなかった。
また、完全乾燥が完了し最終的にマイクロ波照射が終了した後、乾燥体は直ぐに電子レンジから取り出さず、5分から10分間放置し、余熱乾燥を行った。
表1にマイクロ波の照射時間ごとの含水試料の重量と温度変化を示した。温度は電子レンジ内部でのマイクロ波照射を停止した後に、電子レンジから含水試料、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および存在する場合は多孔質柔軟シートを取り出し、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および多孔質柔軟シートを開き、試料のあった近辺にアルコール温度計の測定部分を接触させ再び、透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料および多孔質柔軟シートを閉じ上から軽く押さえて温度計の目盛りを読んだ。マイクロ波照射の停止から温度測定までの時間は極力短くしているが(60秒〜180秒)、マイクロ波照射中の含水試料の実際の温度よりは低い可能性がある。

表1に示すように、対照乾燥法であるOK001法の乾燥完了が280秒であるのに対し、フェルトを用いた実施例1Aで320秒、フリースを用いた実施例1Bで200秒、段ボールを用いた実施例1Cで240秒、クレープ紙を用いた実施例1Dで180秒、タオルを用いた実施例1Eで120秒であった。各実施例における温度上昇は、OK001法が最高102℃、フェルトを用いた実施例1Aで最高51℃、フリースを用いた実施例1Bで56℃、段ボールを用いた実施例1Cで91℃、クレープ紙を用いた実施例1Dで96℃、タオルを用いた実施例1Eで94℃であった。含水試料の乾燥体の外観は段ボール(実施例1C)およびクレープ紙(実施例1D)を用いた場合に180秒で変色が認められた。対象乾燥法および実施例1A、1Bおよび1Eでは変色は認められなかった。
含水試料が天然状態の色彩および/または芳香を維持できるか否かは、含水試料が乾燥過程でどれ位の時間高温にさらされるかで決まり、タンパク質変性温度である約60℃以上の温度に長時間さらされるのは、好ましくない。この点で、フェルトおよびフリースは対照乾燥法であるOK001法と比較して乾燥にかかる時間は大差ないが、温度上昇はタンパク質変性温度以下であり、またタオルおよびクレープ紙は60℃以上の高温にさらされるが乾燥は迅速に終了する。また段ボールは比較的高温にさらされ乾燥完了までの時間も長いが、OK001法に比較すると時間は若干短く、また温度も低い。従って、乾燥時の含水試料へ与えるダメージが少ないという点で実施例1A〜1Eの方法は、いずれもOK001法より優れている。OK001法により乾燥したものは、乾燥終了時に全体的に変色が認められる。段ボール、クレープ紙およびタオルを用いた場合は、乾燥完了時に、花弁の縁が茶色に変色しているのが観察された。図4に本方法で乾燥させ約3ヶ月間保存したデルフィニウムの花の写真を示す。OK001法により乾燥したものは全体的に変色が認められる。また、段ボール、クレープ紙およびタオルを用いた方法により乾燥したものも、乾燥終了時と同様に花弁の縁の変色が認められる。
〔実施例2〕 予備加熱の乾燥に与える影響の検討
実施例1においては、予備過熱を行って含水試料の乾燥を行ったが、本実施例においては予備加熱の必要性を検討した。用いた含水試料は実施例1と同様にデルフィニウムの花弁であった。用いた透湿性吸湿性乾燥用材料は実施例1Aおよび1Bと同様にフェルト(実施例2A)およびフリース(実施例2B)であった。対照乾燥として、特開2001−071695号公報に記載の方法(OK001法)で乾燥を行った。OK001法も含めて予備加熱を行った場合と行わない場合で含水試料の乾燥を行った。また、含水試料と多孔性材料の間に多孔質柔軟シートとして、クレープ紙を置いた。含水試料の乾燥は、実施例1と同様にマイクロ波の間歇照射により行い、経時的に重量及び温度を測定した。マイクロ波照射終了後は、実施例1と同様に余熱乾燥を行った。
結果を表2に示した。

表2に示すように、対照乾燥法であるOK001法で、乾燥完了までの時間は予備加熱なしの場合は240秒、予備加熱ありの場合は270秒と予備加熱なしの場合の方が早く乾燥が完了した。フェルト(実施例2A)では予備加熱なしの場合が300秒、予備加熱ありの場合が180秒と予備加熱ありの場合の方が乾燥完了が早かった。フリース(実施例2B)では予備加熱なしの場合が240秒、予備加熱ありの場合が180秒と予備加熱ありの場合の方が若干乾燥完了が早かった。
OK001法では、予備加熱なしの場合は120秒照射で、予備加熱ありの場合は180秒照射で、色彩の変化が認められ、乾燥完了時には花弁全体が青紫色から赤紫色に変色した。また、フリースを用いた実施例では、予備加熱なしの場合、ありの場合ともに180秒で含水試料がやや茶色に変色した。但し、乾燥させたものの装飾的効果を減じるほどの変色ではなかった。フェルトを用いた場合は、乾燥完了後も色彩の変化は認められなかった。
〔実施例3〕 パンジーの花弁の乾燥
乾燥させる含水試料としては、紫色のパンジーの花弁1枚を用いた。乾燥前の生重量は、0.036〜0.044gであった。含水試料を覆う多孔性材料として、フェルト(羊毛製、日本フェルト工業株式会社、品番227または229、厚さ約2mm)、クレープ紙、段ボールを用いた。また、含水試料と多孔性材料の間に多孔質柔軟シートを置く場合は、クレープ紙を用いた。実施例3Aにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト1枚ずつではさんだ。実施例3Bにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をフェルト1枚ずつではさんだ。実施例3Cにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト1枚ずつではさみ、さらにその上下を段ボール2枚ずつではさんだ。実施例3Dにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト1枚ずつではさみ、さらにその上のみに段ボール2枚をのせた。実施例3Eにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト2枚ずつではさんだ。実施例3Fにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト2枚ずつではさみ、さらにその上下を段ボール2枚ずつではさんだ。実施例3Gにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト3枚ずつではさんだ。実施例3Hにおいては、パンジーの花弁1枚の上下をクレープ紙4枚ずつではさみ、さらにフェルト4枚ずつではさんだ。対照として特開2001−071695号公報に記載の方法(OK001法とする)でも乾燥を行った。対照乾燥および実施例3Aおよび3Bでは、予備加熱をした場合としない場合で乾燥を行い、実施例3Cから3Gはいずれも予備加熱を行った。予備加熱は実施例1と同様の方法で行った。含水試料の乾燥は、実施例1と同様にマイクロ波の間歇照射により行い、経時的に重量及び温度を測定した。マイクロ波照射終了後は、実施例1と同様に余熱乾燥を行った。
結果を表3に示した。


予備加熱を行った場合と行わなかった場合で、行った場合の方が完全乾燥が完了するまでの時間がやや短かった。含水試料をクレープ紙で囲んだ方が完全乾燥が完了するまでの時間が短かった(実施例3Aおよび3B)。フェルトは1、2枚よりも3枚または4枚重ねた方が完全乾燥が完了するまでの時間が短かった(実施例3Fおよび3G)。乾燥時の温度は、対照乾燥法で80〜90℃以上に上昇したのに対して、実施例3Aから3Fでは約50℃以下であった。フェルトを上下4枚ずつ用いた実施例3Gではフェルトが3枚以下の場合に比べて、若干温度が高くなったが、60℃以下であった。実施例3においては、含水試料の変色は認められなかった。
この結果より、含水試料を多孔性柔軟シートで囲い、さらにフェルトを3枚ずつ上下に重ねた場合、完全乾燥が完了するまでの時間および温度上昇の点で良好な乾燥が達成できることがわかった。
〔実施例4〕 アオキの葉の乾燥
乾燥させる含水試料としては、アオキの葉1枚を用いた。乾燥前の生重量は、0.5〜0.7gであった。含水試料を覆う多孔性材料として、フリース(ダイソー製、ポリエステル100%、厚さ約3mm)、ポリプロピレン不織布(ダイソー製、厚さ約0.8mm)およびコルク板(ダイソー製、厚さ約2mmを用いた。含水試料と多孔性材料の間に多孔質柔軟シートを置く場合は、ティッシュ(株式会社ネピア社製)、キムワイプ(株式会社クレシア社製)またはクレープ紙を用いた。ティッシュおよびキムワイプの上からみた場合の大きさは、それぞれ20×23cmおよび12×22cmであった。実施例4Aは、含水試料の上下をティッシュ2枚ではさみ、さらにその上下をフリース4枚ずつではさんだ。実施例4Bは、含水試料の上下をクレープ紙2枚ではさみ、さらにその上下をフリース4枚ではさんだ。実施例4Cは、含水試料の上下をキムワイプ2枚ではさみ、さらにその上下をフリース4枚ではさんだ。実施例4Dは、含水試料の上下をキムワイプ2枚ではさみ、さらにその上下をポリプロピレン不織布16枚ではさんだ。実施例4Eは、含水試料の上下をキムワイプ2枚ではさみ、さらにその上下をコルク板4枚ではさんだ。上から見た場合のコルク板、ポリプロピレン不織布の大きさはどちらも13×18cmであった。対照として特開2001−071695号公報に記載の方法(OK001法)でも乾燥を行った。OK001法、実施例4C、実施例4Dおよび実施例4Eは、予備加熱をした場合としない場合とで行った。実施例4Aおよび4Bは予備加熱を行った。予備加熱は実施例1と同様の方法で行った。含水試料の乾燥は、実施例1と同様にマイクロ波の間歇照射により行い、経時的に重量及び温度を測定した。マイクロ波照射終了後は、実施例1と同様に余熱乾燥を行った。
結果を表4に示す。


完全乾燥が完了するまでの時間は、フリースを用い予備加熱を行った場合で330〜420秒、予備加熱を行わなかった場合で約600秒であった、ポリプロピレン不織布を用いた場合およびコルク板を用いた場合の完全乾燥が完了するまでの時間は未測定であるが、ポリプロピレンがほぼフリースと同等で、コルク板がそれよりも早い。乾燥時の温度は、フリースを用いた場合は50℃以下、ポリプロピレン不織布を用いた場合は60℃以下、コルク板を用いた場合はOK001法と同等で約90℃であった。
OK001法では、乾燥完了時に葉全体が黒変していた。また、コルク板およびポリプロピレン不織布を用いた場合は、乾燥完了時に葉の縁が黒変していた。また、フリースを用いた場合、予備加熱をしないときおよび予備加熱をした場合で多孔質柔軟シートとしてティッシュを用いたとき乾燥完了時に葉の縁が黒変していた。フリースを用いた場合で多孔質柔軟シートとしてクレープ紙またはキムワイプを用いたときは葉の変色は認められなかった。
〔実施例5〕 ポリエステル製の繊維性多孔性材料を用いての乾燥
乾燥させる含水試料としては、パセリを用いた。乾燥前の生重量は、0.3〜0.7gであった。含水試料を覆う多孔性材料として、ポリエステル100%のキルト芯(日本バイリーン株式会社、厚さ約10mm)、ポリエステル100%のドミット芯(日本バイリーン株式会社、厚さ約7mm)およびウール100%のフェルト作製用繊維(クローバー株式会社)を用いた。また、含水試料と多孔性材料の間の多孔質柔軟シートとしては、クレープ紙を用いた。
パセリの上下をクレープ紙ではさみ、さらに上下を4枚のキルト芯、2から4枚のドミット芯ではさんだ。フェルト作製用ウール繊維は、パセリの上下をクレープ紙ではさんだものの上下に、束ねたウール繊維(束の厚さが約10mm)をクレープ紙を覆うように置いた。
次いで、このようにして準備した多孔質柔軟シートおよび透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲まれた含水試料を市販の電子レンジ(岩谷産業(株)製、型番IMO600、出力500W)に入れ、マイクロ波を照射した。照射は、90秒間行った。マイクロ波照射が終了した後、乾燥体は直ぐに電子レンジから取り出すか(余熱乾燥0分)、あるいは5分または10分間放置し、余熱乾燥を行った。ウール繊維の場合は、10分間放置し、余熱乾燥を行った。
表5、表6および表7に、それぞれキルト芯、ドミット芯およびウール繊維を用いた乾燥法の結果を示す。



表には、余熱時間それぞれの多孔性材料の重ね合せ枚数、乾燥前重量、乾燥後重量および水分除去率を示した。
いずれの材料でもパセリは、同程度の水分除去率を示し、乾燥後の変色等も認められなかった。
〔実施例6〕 各種素材の繊維性多孔性材料を用いての乾燥
繊維性多孔性材料として以下のものを用いた。
(1) ウール製不織布(ウール100%)
(2) 段ボール(厚さ8/3mmのものを3枚重ねで使用)
(3) 綿製(綿100%)コットンキルト綿(日本バイリーン株式会社製、型番KMW−1P)
(4) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット薄手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番QB−95)
(5) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット薄手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番TKS−35P)
(6) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット厚手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番KSP−120A)
(7) コットン&ポリエステルキルト芯(綿60%、ポリエステル40%)(KINKAME社製、型番480557)
(8) パッチワークキルト綿(黒色)(ポリエステル60%、レーヨン40%)(日本バイリーン株式会社製、型番MH−14−BKP)
上記繊維性多孔性材料は、すべて2枚重ねで用いた。
材料は、約0.2g〜0.6gのパセリを用いた。
乾燥方法は、実施例5とほぼ同様であるが、マイクロ波の照射を最初60秒間行い、次いで、30秒間の照射を間歇的に2から3回行うことにより乾燥した(トータルの乾燥時間は、120から180秒間)。間歇照射毎にパセリを取り出し、触覚により乾燥程度を判断すると共に、重量を測定した。
以下に、それぞれの材料についての乾燥結果を示す。表8から15は、それぞれ上記の(1)から(8)の繊維性多孔性材料に対応している。表において、乾燥過程のマイクロ波間歇照射の後に取り出したパセリの乾燥状態および/または重量を記載した。








表8から表15が示すように、いずれの繊維性多孔性材料を用いても良好に乾燥できた。
〔実施例7〕 繊維性多孔性材料の耐熱性(耐マイクロ波性)
各種繊維性多孔性材料の耐熱性(耐マイクロ波性)について検討を行った。
用いた繊維性多孔性材料は以下の通りであった。
(1) ウール製不織布(ウール100%)
(2) 段ボール(厚さ8/3mmのものを3枚重ねで使用)
(3) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット薄手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番QB−95)
(4) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット薄手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番TKS−35P)
(5) ポリエステル製(ポリエステル100%)パッチワークキルト綿 ドミット厚手タイプ(日本バイリーン株式会社製、型番KSP−120A)
(6) コットン&ポリエステルキルト芯(綿60%、ポリエステル40%)(KINKAME社製、型番480557)
(7) パッチワークキルト綿(黒色)(ポリエステル60%、レーヨン40%)(日本バイリーン株式会社製、型番MH−14−BKP)
上記繊維性多孔性材料の上下を段ボール(厚さ8/3mmを3枚)で挟み込み、これを500Wで60秒間加熱した。加熱後、材料を速やかに取り出し、変化を確認した。まだ乾燥していない場合は速やかに(平均15秒以内)電子レンジ内に戻し、更に500Wで60秒間加熱した。以後、材料に変化が現れるまで一分刻みで加熱した。材料から発煙もしくは異臭の発生があり次第、速やかに電子レンジを停止し、材料を取り出した。







また、段ボールで挟まずに、各材料を直接マイクロ波照射した。いずれの材料もマイクロ波を少なくとも10分、照射しても変化は認められなかった。
実施例5より、いずれの材料も耐熱性(耐マイクロ波性)を有していることがわかった。
〔実施例8〕 乾燥体の色素、芳香成分の分析
実施例5の方法のうち、本発明の方法で乾燥させたパセリ、および同様の方法で乾燥させた月桂樹の葉を分析に用いた。乾燥前の試料と乾燥後の試料について水分含量を調べ、パセリについては乾燥前後のアスコルビン酸含量を測定し、月桂樹の葉については、乾燥前後の1,8−シネオール(ユーカリプトール)の含量を測定した。測定は、財団法人 日本食品分析センターに委託して行った。また、コントロールとして凍結乾燥法により乾燥したサンプルについても測定を行った。測定は1から2サンプルについて行った。
含水試料 アスコルビン酸含量
パセリ(乾燥前) 0.78%
パセリ(乾燥後:本発明法) 0.79%
含水試料 1,8−シオネール含量
月桂樹の葉(乾燥前) 0.77%
月桂樹の葉(乾燥後:凍結乾燥) 0.81%
月桂樹の葉(乾燥後:本発明法) 0.79%
表中の値は、()内の状態の試料をさらに70℃で5時間乾燥した乾燥体重量ベースである。
表に示すように、本発明の方法で、パセリ中のアスコルビン酸および月桂樹の葉中の1,8−シネオールは分解されることなく保持されていた。
〔実施例9〕 微生物の乾燥
大腸菌の乾燥
大腸菌(Escherichiacoli IAM1264株)を27℃で2日間培養し、生理食塩水にOD650=3になるように懸濁し、その8μlを薄手の直径6mmのペーパーディスクにのせた。大腸菌をのせたペーパーディスクをクレープ紙、ウール製フェルト、ダンボールで挟んで、30秒または60秒、家庭用電子レンジ(500W)を用いてマイクロ波を照射し、乾燥させた。マイクロ波照射後5分間余熱乾燥させ、PYS−2培地(ポリペプトン8g、酵母エキス3g、NaCl5gを蒸留水1000mlに溶解させたもの)に乾燥大腸菌を含むペーパーディスクを入れ、5日間27℃で培養し、大腸菌が増殖するかを調べた。保護剤有り無しで実験を行い、保護剤有りのものは菌体懸濁液中に10%スキムミルクおよび2%グルタミン酸ナトリウムを添加した。実験はN=3で行った。
結果を以下に示す。
照射時間 保護剤有 保護剤無
30秒 3/3 3/3
60秒 3/3 0/3
上記表中、3/3は3試料のうち、3試料が乾燥後の再培養で増殖したことを示す(以下の実験においても同様である)。
酵母の乾燥
上記の実験を大腸菌の代わりに酵母(Saccharomycecereviciae JCM7255T)について行った。但し、培地は市販のポテトデキストロース培地を用いた。
結果を以下に示す。
照射時間 保護剤有 保護剤無
30秒 2/3 0/3
60秒 0/3 0/3
乾燥大腸菌の保存
照射時間30秒で、保護剤有りで乾燥させた大腸菌を5日間4℃に保存した後に、培地に入れ増殖するかどうかを調べた。N=3で調べたところ3回の実験すべてで乾燥保存した大腸菌を再培養したところ増殖が認められた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
本発明の方法によれば、従来の乾燥法に比べ、より迅速にかつ試料を高温にさらすことなく、含水試料をその細胞および組織ならびに含有する有用な成分を破壊しないで乾燥させることができる。本発明の方法により、含水試料の天然状態の栄養成分、色彩および/または芳香を有する乾燥体を得ることができる。また、本発明の方法により微生物を生存させたまま乾燥することができ、微生物の保存方法としても有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水試料の外表面を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法。
【請求項2】
含水試料の外表面を吸湿性の多孔質柔軟シートで囲みさらに該シートの周囲を透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料で囲み、マイクロ波発生装置に入れマイクロ波を照射することを含む含水試料の迅速乾燥法。
【請求項3】
吸湿性の多孔質柔軟シートおよび透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料をあらかじめ、マイクロ波照射により予備加熱しておく請求項1または2に記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項4】
マイクロ波発生装置内で含水試料にマイクロ波を照射して乾燥させた後に、余熱乾燥させる請求項1から3のいずれか1項に記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項5】
余熱乾燥がマイクロ波発生装置内で行われる請求項4記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項6】
透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料が段ボールである請求項1から3のいずれか1項に記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項7】
段ボールが吸湿性粒状体を含む請求項6記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項8】
マイクロ波照射直後の含水試料の周囲温度が60℃未満である請求項1から3に記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項9】
透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料がフェルトまたはフリースである請求項8記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項10】
マイクロ波の照射が含水試料中の水分減少率が95%以上になるまで行う、請求項1から9のいずれか1項に記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項11】
含水試料が生試料である請求項10記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項12】
生試料が植物体またはその部分である請求項11記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項13】
生試料が微生物であって、乾燥微生物が生存している、請求項11記載の含水試料の迅速乾燥法。
【請求項14】
植物の花弁1枚を候補多孔性材料で囲み、マイクロ波を照射し、一定時間毎に含水試料の水分減少率および含水試料近辺の温度を測定し、60秒から240秒で水分減少率が100%になりかつ温度が60℃以上に上昇しない材料を乾燥に用いるのに適した材料として選択する、請求項1に記載の含水試料の迅速乾燥法に適した透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料の選択方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法により選択された透湿性、吸湿性および耐熱性を有する多孔性材料、および多孔質柔軟シートを含む含水試料の迅速乾燥キット。
【請求項16】
透湿性かつ吸湿性を有する多孔性材料がフェルトまたはフリースである請求項14記載の含水試料の迅速乾燥キット。
【請求項17】
請求項13記載の方法により製造された細胞および組織が破壊されていない、含水試料の乾燥体。
【請求項18】
請求項13記載の方法により製造された天然状態の色彩および/または芳香が保持された、含水試料の乾燥体。
【請求項19】
含水試料の乾燥体が、培養した場合に増殖し得る微生物である、請求項17または18に記載の含水試料の乾燥体。

【国際公開番号】WO2004/048866
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555012(P2004−555012)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014928
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】