説明

新規イリジウム錯体および有機発光素子および画像表示装置

【課題】発光スペクトルの半値幅が小さい新規イリジウム錯体とそれを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)に示されるイリジウム錯体。


[式中、RとRはいずれもアルキル基である。Rはアルキル基、置換あるいは未置換のフェニル基である。RとRはそれぞれ水素原子、アルキル基から選ばれる。Rは水素原子あるいはシアノ基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイリジウム錯体およびそれを有する有機発光素子と画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子の開発が盛んに行われている。有機発光素子の開発には新規な燐光発光材料の開発が行われている。特許文献1には以下の構造式で示されるイリジウム錯体が記載されている。また、この化合物にさまざまな置換基を導入した誘導体が特許文献2に記載されている。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2006/0008670号明細書
【特許文献2】特開2007−123392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記構造式の化合物、Ir(Pim)は、青色発光を示し(特許文献1)、また、さまざまな置換基を導入した誘導体が検討されているが、未だ十分な特性を得られていない(特許文献2)。
【0006】
そこで本発明は、青色から緑色領域での発光特性に優れた、新規なイリジウム錯体を提供することを目的とする。そして、それを有する発光特性の優れた有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって本発明は、
下記一般式(1)に示されるイリジウム錯体を提供する。
【0008】
【化2】

【0009】
(一般式(1)において、
Hは水素原子、Nは窒素原子、Irはイリジウム原子である。
とRはいずれもアルキル基である。
はアルキル基、置換あるいは未置換のフェニル基である。
とRはそれぞれ水素原子、アルキル基から選ばれる。
は水素原子あるいはシアノ基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発光スペクトルの半値幅の小さい新規なイリジウム錯体を提供することができる。また基本骨格に置換基を導入することによって発光波長の調整が可能な新規イリジウム錯体を提供することができる。そして、これら新規イリジウム錯体を有する有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】有機発光素子とその下の有機発光素子に接続されるスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【図2】本実施形態に係る化合物pi1−1と参考例のIr(Pim)のトルエン溶液の室温でのPLスペクトルである。
【図3】本実施形態に係る化合物と参考例のIr(Pim)のトルエン溶液の77KでのPLスペクトルである。
【図4】本実施形態に係る化合物と参考例のbIr−01、gIr−01のトルエン溶液の室温でのPLスペクトルである。
【図5】本実施形態に係る化合物と参考例のbIr−01、gIr−01のトルエン溶液の77KでのPLスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るイリジウム錯体は、下記一般式(1)で示される。
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(1)において、
Hは水素原子、Nは窒素原子、Irはイリジウム原子である。
とRはいずれもアルキル基である。
はアルキル基、置換あるいは未置換のフェニル基である。
とRはそれぞれ水素原子、アルキル基から選ばれる。
は水素原子あるいはシアノ基である。)
【0015】
本発明に係わる一般式(1)で示されるイリジウム錯体は、一般式(1)に示すようにトリアジン環−フェニル環−イミダゾール環が特定位置で結合した骨格を有している。この骨格を以降では、“一般式(1)の配位子主骨格”と記す。
【0016】
本発明のイリジウム錯体は、一般式(1)の配位子主骨格に由来する強い配位子場によって、青色、緑色発光錯体として優れている。
【0017】
トリアジン環−フェニル環−イミダゾール環からなる配位子構造は下記のA乃至Dの4つの構造が考えられるが、Cの構造、即ち一般式(1)の配位子主骨格が、特に青色領域における発光材料の基本骨格として優れている。
【0018】
【化4】

【0019】
青色と緑色の発光領域で優れた発光特性を得るためには、より強い配位子場を形成できる配位子を用いる必要がある。一般的に配位子場を大きくするためには、メタルから配位子へのπバックドネーション(π−back donation)を大きくすることが重要である。トリアジン環の電子求引性に由来するπバックドネーションをもっとも効果的に働かせるためには、以下の2つの要件が重要であると本発明者等は気付いた。
要件1.イリジウムに結合するフェニル環と結合するトリアジン環の、フェニル環上の置換位置が、イリジウムに対してオルト位、またはパラ位にあること。
要件2.トリアジン環とフェニル環が同一平面に位置できること。
Bは、イリジウムとトリアジン環はフェニル環上においてメタ位の関係にあり、上記の要件1を満たさない。
また、A、Dは、トリアジン環の結合位の隣接位にAはイリジウム原子による立体反発、Dはイミダゾール環による立体反発により、フェニル環とトリアジン環は立体的に平面構造を保つことが出来ない。よって、AとDは要件2を満たさない。
したがって、Cの構造のみが要件1と要件2を満たし、一般式(1)の配位子主骨格が青色から緑色に優れており、特に青色領域で優れている。
更に、フェニル環が有する2つのH、即ち一般式(1)で示す2つのHで示される水素原子は、トリアジン環−フェニル環との平面性を維持する上で必須である。ファンデルワールス半径が小さい水素原子は、隣接するトリアジン環の窒素原子との立体的反発や電子的反発が無い。フェニル環とトリアジン環の2つの環が同一平面になる状態が最も安定化するので、これら水素原子が他の原子や置換基に仮に置き換わった場合、立体反発と電子的反発によって、トリアジン環とフェニル環は同一平面から大きく捩れる構造になる。
【0020】
以下の表にトリアジン環とフェニル環との2面角を分子軌道計算によって求めた値を示す。
【0021】
【化5】

【0022】
このように、フェニル環上のトリアジン環が置換した隣接位は水素原子であることが2つの環の平面性を維持する上で有用である。
【0023】
なお、2面角の計算には、市販の電子状態計算ソフトウェアであるGaussian03* Revision D.01を用いて基底状態の構造最適化計算を行なった。その際、量子化学計算法として、密度汎関数法(Density Functional Theory)を採用し、汎関数にはB3LYPを用いた。基底関数はGaussian 03, Revision D.01では6−31G*を用いた。
* Gaussian 03, Revision D.01,
M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria,
M. A. Robb, J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven,
K. N. Kudin, J. C. Burant, J. M. Millam, S. S. Iyengar, J. Tomasi,
V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi, G. Scalmani, N. Rega,
G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota,
R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao,
H. Nakai, M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Hratchian, J. B. Cross,
V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann,
O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski,
P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg,
V. G. Zakrzewski, S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain,
O. Farkas, D. K. Malick, A. D. Rabuck, K. Raghavachari,
J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul, S. Clifford,
J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz,
I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham,
C. Y. Peng, A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill,
B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C. Gonzalez, and J. A. Pople,
Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.
【0024】
、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−1−イル基、1−アダマンチル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、R、Rは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、R、Rは、大きな排除体積を持つアルキル基が好ましい。なぜなら、トリアジン環の孤立電子対を立体的に覆うことで、トリアジン環上の窒素原子の配位能力を抑制できる。具体的な排除体積の大きい置換基としては、SP混成軌道からなる3級炭素の置換基が有効である。例えば、tert−ブチル基やビシクロ[2.2.2]オクタン−1−イル基、1−アダマンチル基等が好ましい。
【0025】
排除体積の大きなアルキル基を導入することで、以下の少なくとも何れかが期待できる。
効果1.高純度かつ、高収率で得ることが可能である。
効果2.窒素原子の配位能力を抑制することで、孤立電子対によるイオン性不純物の取り込みを抑制し、有機発光素子の寿命が向上する。
効果3.分子間相互作用を抑制し、発光材料の濃度消光を抑制できる。濃度消光とは高濃度の場合に発光強度が低下する現象のことである。
【0026】
、R、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、R、R、Rで表されるアルキル基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0027】
しかしながら、Rは、錯体の精製の観点から分子量の小さいアルキル基や置換または未置換のフェニル基が好ましい。また、錯体が励起して、中心金属から配位子へ電荷移動遷移した際に置換基が遊離しにくい方が素子の寿命にとって良いという観点からも、アルキル基や置換または未置換のフェニル基が好ましい。また、Rで表されるフェニル基が置換しても良い置換基はメチル基、エチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。しかしながら、分子量の観点からメチル基やエチル基が好ましい。
【0028】
また、Rは、錯体の精製の観点から分子量の小さい水素原子やアルキル基が好ましい。また、電子供与することにより、電子状態を変化させて錯体の発光色を変化させたい場合にはアルキル基が置換することが有効である。具体的には、メチル基やエチル基が好ましい。
【0029】
は、立体的に隣接する配位子と近いため、錯体の合成収率の観点から、排除体積の小さい置換基が好ましい。具体的には水素原子、シアノ基が好ましい。また、金属からのバックドネーションをより大きくして、配位子場の分裂を大きくするために、シアノ基が置換することが有効である。
【0030】
本発明に係るイリジウム錯体は、有機発光素子の発光層のゲスト材料またはホスト材料として用いることができる。有機発光素子は対向する一対の電極とその間に配置される発光層を有している。有機発光素子は発光層以外に別の層を有しても良い。
【0031】
本発明に係るイリジウム錯体は、発光層以外の層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、あるいは電子注入層のいずれの層に適宜用いることができる。ここでホスト材料とゲスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で、重量比が最も大きいものがホスト材料であり、発光層を構成する化合物の中でホスト材料よりも重量比が小さいものがゲスト材料である。
【0032】
本発明に係るイリジウム錯体は、有機発光素子の発光層のゲスト材料として好ましく用いることができる。特に青色あるいは緑色発光素子のゲスト材料として用いられることが好ましい。
【0033】
本発明に係るイリジウム錯体の基本骨格に、置換基を導入することで発光波長を変化させることが可能である。発光波長を変化させる置換基としては、アルキル基やシアノ基等が挙げられる。
【0034】
本発明に係るイリジウム錯体を発光層のゲスト材料として用いる場合は、ホスト材料はこのイリジウム錯体よりもLUMO準位が高い材料、言い換えれば真空順位により近いホスト材料を用いることが好ましい。というのも本発明に係るイリジウム錯体はLUMO準位が低いため発光層、すなわちホスト材料に供給される電子をホスト材料からより良好に受けることができるからである。LUMO準位とは最低空軌道準位の略である。なおHOMO準位とは最高被占準位の略である。ホスト材料とゲスト材料の更なる説明は後述する。
【0035】
(本発明に係るイリジウム錯体の例示)
上記一般式(1)に該当する化合物の具体例を以下に示す。本発明はこれらに限られるものではない。
【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
本発明のイリジウム錯体の特徴を以下の4つの群として挙げた。
(pi1−1乃至pi1−5)
一般式(1)のRとRに相当するトリアジン環の孤立電子対を立体的に覆う排除体積の大きな置換基を有し、フェニル環とイミダゾール環が無置換のIr錯体群。
(pi2−1乃至pi2−11)
イミダゾール環の窒素に置換または未置換のフェニル基が置換して、中心金属から配位子へ電荷移動遷移した際に置換基がより遊離しにくくなったIr錯体群。
(pi3−1乃至pi3−10)
イミダゾール環に電子供与基が置換して電子状態を変えて発光の最大波長を450nmから500nmの間で調節できるIr錯体群。
(pi4−1乃至pi4−5)
フェニル環に電子求引基が置換して金属からのバックドネーションをより大きくし、配位子場分裂幅を大きくさせたIr錯体群。
【0041】
以上のように例示化合物を挙げた。また本発明に係るイリジウム錯体の基本骨格は置換基を設けることにより青から緑色に発光しうる。
【0042】
(合成ルートの説明)
本発明に係るイリジウム錯体の合成ルートの一例を説明する。以下に反応式を記す。
【0043】
一般式(1)で示される有機化合物の配位子は、文献 Angew.Chem.Int.Ed.,(2008),Vol.47,8246−8250、Org.Lett.,(2007),Vol.9,4195−4198、Organic Syntheses,(2005),Vol.81,105−111、WO2008/124850号公報、J.Med.Chem.,(2007),Vol.50,528−542等を参考にして以下に示す合成ルート1、2、3、4のように合成することができる。
【0044】
置換基についても前記文献において種々の置換基を導入しているのでtert−ブチル基を例えば1−アダマンチル基といった他の置換基に置き換えて合成することができる。また同様に水素原子を例えば、アルキル基、シアノ基といった他の置換基に置き換えて合成することができる。
【0045】
<合成ルート1>
【0046】
【化10】

【0047】
<合成ルート2>
【0048】
【化11】

【0049】
<合成ルート3>
【0050】
【化12】

【0051】
<合成ルート4>
【0052】
【化13】

【0053】
原料P1乃至P6を変える事による配位子への置換基の導入合成例を以下に示す。ただし、これらの合成例によって、これらに限定されるものではない。
【0054】
【化14】

【0055】
【化15】

【0056】
【化16】

【0057】
【化17】

【0058】
【化18】

【0059】
【化19】

【0060】
【化20】

【0061】
この様にして合成できる種々の配位子は以下の合成ルート5、合成ルート6もしくは合成ルート7の様に合成することで、例示に示す錯体にする事ができるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
<合成ルート5>
【0063】
【化21】

【0064】
<合成ルート6>
【0065】
【化22】

【0066】
<合成ルート7>
【0067】
【化23】

【0068】
(有機発光素子の説明)
次に本発明に係る有機発光素子を説明する。
【0069】
本発明に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する。この有機化合物層が一般式(1)で表されるイリジウム錯体を有する。有機発光素子とは、前記陽極および前記陰極からキャリアを注入することで前記有機化合物層中の発光性イリジウム錯体の励起子を生成させ、該励起子が基底状態に戻る際に光を放出する素子である。
【0070】
この有機化合物層が発光層である場合、発光層は本発明に係るイリジウム錯体のみから構成されていても良いし、発光層には他の成分が存在しても良い。
【0071】
発光層が本発明に係るイリジウム錯体を一部有しても良い場合とは、本発明に係るイリジウム錯体が発光層の主成分であってもよく、あるいは副成分であってもよい。
【0072】
ここで主成分と副成分とは、発光層を構成する化合物の中で重量比が最も大きいものを主成分と呼び、主成分よりも重量比が小さいものを副成分と呼ぶ。
【0073】
主成分である材料は、ホスト材料と呼ぶこともできる。
【0074】
副成分である材料は、ドーパント(ゲスト)材料である。他にも発光アシスト材料、電荷注入材料を副成分として挙げることができる。
【0075】
なお、本発明に係るイリジウム錯体をゲスト材料として用いる場合、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.01wt%以上20wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0076】
本発明者らは種々の検討を行い、本発明の前記一般式(1)で表されるイリジウム錯体を発光層のホスト材料またはゲスト材料、特にゲスト材料として用いた素子が高効率で高輝度な光出力を有し、耐久性が高いことを見出した。
【0077】
以下に、本発明に係るイリジウム錯体を用いた有機発光素子の例を示す。
【0078】
本発明に係るイリジウム錯体を用いて作製される有機発光素子としては、基板上に、順次陽極、発光層、陰極を設けた構成のものが挙げられる。他にも順次陽極、ホール輸送層、電子輸送層、陰極)を設けた構成のものが挙げられる。また順次陽極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けた構成が挙げられる。他にも順次陽極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けた構成や順次、陽極、ホール輸送層、発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、陰極を設けた構成が挙げられる。ただしこれら5種の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係るイリジウム錯体を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0079】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体は、該発光素子の有機化合物層としていずれの層構成でも使用することができる。
ここで本発明のイリジウム錯体以外にも、必要に応じて他の化合物を一緒に用いることができる。例えばホール注入性化合物あるいは輸送性化合物、あるいはホスト材料であるホスト化合物、あるいは発光性化合物、あるいは電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等である。これら化合物は従来公知の低分子系あるいは高分子系の化合物である。
【0080】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0081】
ホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物としては、ホール移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0082】
ホスト化合物としては、具体的な構造式を以下表に示す。ホスト化合物は以下表に示す構造式を有する誘導体である化合物であってもよい。またそれ以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0083】
電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物としては、ホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する化合物としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0084】
【化24】

【0085】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0086】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0087】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係るイリジウム錯体を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0088】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0089】
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0090】
表示装置は本発明に係る有機発光素子を表示部に有する。表示部とは画素を有しており、該画素は本発明に係る有機発光素子を有する。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0091】
表示装置はデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いられてもよい。撮像装置は該表示部と撮像するための撮像光学系を有する撮像部とを有する。
【0092】
次に、本発明に係る有機発光素子を使用した表示装置について説明する。
【0093】
図1は、本発明に係る有機発光素子とそれを駆動するための有機発光素子に接続されているスイッチング素子であるTFTを有する基板の断面構造を示した模式図である。構造の詳細を以下に説明する。
【0094】
図1の表示装置3は、ガラス等の基板31とその上部にTFT又は有機化合物層を保護するための防湿膜32が設けられている。また符号33はCr等の金属のゲート電極33である。符号34はゲート絶縁膜34であり35は半導体層である。
【0095】
TFT素子38は半導体膜35とドレイン電極36とソース電極37とを有している。TFT素子38の上部には絶縁膜39が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)310を介して有機発光素子の陽極311とソース電極37とが接続されている。
【0096】
有機化合物層312は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如き図示をしている。陰極313の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層314や第二の保護層315が設けられている。
【0097】
有機発光素子はTFT素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。TFTをスイッチング素子の一例としてあげたが他にもMIM素子等を用いることができる。
【0098】
本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
<実施例1>
例示化合物pi1−1の合成
【0101】
【化25】

【0102】
【化26】

【0103】
(中間体1−2、1−3の合成)
化合物1−1、25.08g(137.8mmol)、メチルアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、14.79g(124.1mmol)、塩化銅(I)、13.64g(137.8mol)を窒素雰囲気中で90度に昇温し12時間攪拌した。反応後、混合物を1,4−ジオキサン250mlに溶解させ、室温にて5規定の水酸化ナトリウム水溶液を80mlを加えて1時間攪拌した。セライトでろ過した後、濃縮し、蟻酸150mlを加え、窒素雰囲気中で110度に昇温し2時間攪拌した。反応後、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液で中和し、有機層を酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=1/1)で精製し、化合物1−2と1−3の混合物を14.6g(収率55.4%)得た。
【0104】
(中間体1−4の合成)
化合物1−2と1−3の混合物、14.6g(68.7mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン、22.68g(89.3mmol)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、2.37g(4.12mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル、3.38g(8.24mmol)、酢酸カリウム、20.23g(206.1mmol)を脱水1,4−ジオキサン300mlに溶解させ、窒素雰囲気中で105度に昇温し、5時間攪拌した。反応後、100mlの水を加え、有機層をトルエンで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=1/2)で精製し、化合物1−4を5.7g(収率29.1%)得た。
【0105】
(中間体1−6の合成)
化合物1−5、40.0g(216.9mmol)、塩化銅(I)、1.5g(7.88mol)を脱水テトラヒドロフラン150mlに溶解させ、氷点下5度でtert−ブチルマグネシウムクロリド(23%テトラヒドロフラン溶液)、210ml(420.0mmol)を滴下しながら添加した。添加後、0度にて3時間攪拌し、100mlの水を加えた。反応後、セライトでろ過し、有機層を酢酸エチルで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=4/1)で精製し、化合物1−6を41.2g(収率83.3%)得た。
【0106】
(中間体1−7の合成)
化合物1−4、5.2g(18.3mmol)、化合物1−6、4.58(20.1mmol)をトルエン80ml、エタノール40ml、二規定の炭酸セシウム水溶液40mlの混合溶液に溶解させ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)1.41g(1.22mmol)を添加した。85度に昇温し、4時間攪拌した。反応後、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=2/1)で精製し、化合物1−7を5.9g(収率84.0%)得た。
H−NMR測定(400MHz,CDCl)により、この化合物の構造を確認した。σ(ppm):8.83(s,1H),8.64−8.62(d,1H),7.89−7.87(d,1H),7.61−7.57(t,1H),7.17(s,1H),7.02(s,1H),3.82(s,3H),1.44(s,18H)
【0107】
(中間体1−8の合成)
化合物1−7,1.0g(2.86mmol),塩化イリジウム(III)水和物,0.46g(1.30mmol)を2−エトキシエタノール30mlに溶解させ、窒素雰囲気中で120度に昇温し12時間攪拌した。反応終了後、50mlの水を加え、析出した粉をメンブレンフィルターでろ取し、水とメタノールで洗浄した。乾燥後、化合物1−8を1.7g(収率70.7%)得た。
【0108】
(中間体1−9の合成)
化合物1−8、1.5g(0.81mmol)、アセチルアセトン2.0g(20.2mmol)、炭酸ナトリウム、3.4g(32.1mmol)を2−エトキシエタノール25mlに溶解させ、窒素雰囲気中で90度に昇温し、5時間攪拌した。反応後、水を100ml添加し、有機層をトルエンで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘプタン/酢酸エチル=1/1)で精製し、化合物1−9を1.2g(収率37.5%)得た。
H−NMR測定(400MHz,CDCl)により、この化合物の構造を確認した。σ(ppm):8.65(s,1H)、8.64(s,1H),7.83−7.82(d,1H)、7.81−7.80(d,1H),7.04−7.03(d,2H),6.97(d,2H),6.56(s,1H),6.54(s,1H),5.18(s,1H),4.24(s,6H),1.80(s,6H),1.34(s,36H)
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である1237を確認した。
【0109】
(pi1−1の合成)
化合物1−9、0.45g(0.45mmol)、化合物1−7、0.95g(2.71mmol)を窒素雰囲気中で220度に昇温し、12時間攪拌した。反応後、ヘプタンを添加し、析出した粉をろ取した。ろ取した粉をトルエンに溶解させ、シリカゲルカラム(展開溶媒:トルエン)で精製し、化合物pi1−1のフェイシャル体を185mg(収率33.1%)得た。
H−NMR測定(400MHz,CDCl)により、この化合物の構造を確認した。σ(ppm):8.76−8.75(d,3H),7.97−7.95(dd,3H),7.16−7.14(d,3H),6.73−6.72(d,3H),6.41(d,3H),4.12(s,9H),1.37(s,54H)
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である1237を確認した。
【0110】
次に化合物pp1−1と下記に示すIr(Pim)との発光特性の比較を行った。
【0111】
【化27】

【0112】
化合物pi1−1の1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の室温での発光スペクトルを、日立製F−4500を用いて350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果を図2に示す。図2には比較例としてIr(Pim)の結果も合わせて示してある。図2は測定データの重ね書きであり、第1ピークを1.0として重ね合わせたスペクトルである。
【0113】
図2に示すように、化合物pi1−1は487nmに最大強度の第1ピークを有し、515nm付近に第2ピークを有する、半値幅35nmのスペクトルであった。比較化合物Ir(Pim)は467nmに第1ピークを有し、498nmに最大強度の第2ピークを有する、半値幅70nmのスペクトルであった。
【0114】
次いで化合物pi1−1の1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の77Kでの発光スペクトルを、日立製F−4500を用いて350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果を図3に示す。図3には比較例として同様にIr(Pim)の同条件でのPL測定の結果も合わせて示してある。図3は測定データの重ね書きであり、最大強度の第1ピークを1.0として重ね合わせたスペクトルである。
【0115】
図3に示すように、化合物pi1−1は491nmに最大強度の第1ピークを有し、527nmに第2ピークを有するスペクトルであった。また、最大強度の第1ピークを1.0としたときの第2ピークの大きさは0.30であった。比較化合物Ir(Pim)は462nmに最大強度の第1ピークを有し、495nmに第2ピークを有するスペクトルであった。また、最大強度の第1ピークを1.0としたときの第2ピークの大きさは0.62であった。
【0116】
また、化合物pi1−1の室温、溶液状態での絶対量子収率を浜松ホトニクス社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920−02)を用いて測定したところ、0.80であった。また、比較化合物Ir(Pim)の絶対量子収率を1.00としたときの化合物pi1−1の絶対量子収率は1.14であった。
【0117】
次に、化合物pi1−1と一般的な青色である下記に示すbIr−01と一般的な緑色であるgIr−01との発光特性の比較を行った。
【0118】
【化28】

【0119】
化合物pi1−1の1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の室温での発光スペクトルを、日立製F−4500を用いて350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果を図4に示す。図4には比較例として青色発光を示す同じホモレプティック錯体であるbIr−01と緑色発光を示すホモレプティック錯体であるgIr−01のPL測定の結果も合わせて示してある。図4は測定データの重ね書きであり、第1ピークを1.0として重ね合わせたスペクトルである。
【0120】
図4に示すように、化合物pi1−1は487nmに最大強度の第1ピークを有し、515nm付近に第2ピークを有する、半値幅35nmのスペクトルであった。比較化合物bIr−01は468nmに第1ピークを有し、492nmに最大強度の第2ピークを有する、半値幅66nmのスペクトルであった。また、比較化合物gIr−01は510nmに最大強度の第1ピークを有し、540nm付近に第2ピークを有する半値幅58nmのスペクトルであった。
【0121】
次いで化合物pi1−1の1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の77Kでの発光スペクトルを、日立製F−4500を用いて350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果を図5に示す。図5には比較例として同様にbIr−01とgIr−01の同条件でのPL測定の結果も合わせて示してある。図5は測定データの重ね書きであり、最大強度の第1ピークを1.0として重ね合わせたスペクトルである。
【0122】
図5に示すように、化合物pi1−1は491nmに最大強度の第1ピークを有し、527nmに第2ピークを有するスペクトルであった。また、最大強度の第1ピークを1.0としたときの第2ピークの大きさは0.30であった。比較化合物bIr−01は460nmに最大強度の第1ピークを有し、492nmに第2ピークを有するスペクトルであった。また、最大強度の第1ピークを1.0としたときの第2ピークの大きさは0.77であった。比較化合物gIr−01は500nmに最大強度の第1ピークを有し、535nmに第2ピークを有するスペクトルであった。また、最大強度の第1ピークを1.0としたときの第2ピークの大きさは0.45であった。
【0123】
以上より、本発明に関わるイリジウム錯体は半値幅も第2ピークも小さく、高い量子収率を有するため、有機発光素子用材料として優れていることが分かる。
【0124】
<実施例2>
有機発光素子を以下に示す方法で作成した。
【0125】
基板としてのガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0126】
下記に示す化合物2−1の0.3重量%のクロロホルム溶液を準備し、基板上に準備した溶液を垂らし、1000rpmで40秒の条件でスピンコートすることでホール注入層として化合物2−1を30nmの膜厚に形成した。次いでホール輸送層として下記に示す化合物2−1を用いて、真空蒸着法にて20nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は0.1nm/secの条件であった。
【0127】
次に、ホール輸送層の上に発光層として、ホストである下記に示す化合物2−2とゲストである例示化合物pi1−1を、pi1−1の含有量が発光層の全体量に対して10重量%となるように共蒸着した。このとき発光層の膜厚を40nmとした。また蒸着時の真空度を1.0×10−4Pa、成膜速度を0.1nm/secとした。
【0128】
更に電子輸送層として下記化合物2−3を真空蒸着法にて30nmの膜厚に形成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は0.2−0.3nm/secの条件であった。
【0129】
【化29】

【0130】
次に、フッ化リチウムを先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ0.5nm形成し、更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け、アルミニウム−リチウム合金膜を電子注入電極(陰極)とする有機発光素子を作成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は1.0−1.2nm/secの条件で成膜した。
【0131】
得られた有機EL素子は、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。
【0132】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極)を正極、Al電極(陰極)を負極にして、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。8.0Vの印加電圧で、発光輝度100cd/mを観測し、その時の外部量子効率(Φexe)は15.0%であり、高効率で発光することが確認された。また最大波長494nmの青緑色発光が観測された。
【0133】
さらに、窒素雰囲気下で電流密度を1mA/cmに保ち、電圧を印加したところ、初期輝度に対する10時間後の輝度劣化は小さかった。
【0134】
(結果と考察)
本発明に係わるイリジウム錯体は高い量子収率と青から緑色に適した発光を有する新規化合物であり、有機発光素子に用いた場合、良好な発光特性を有する発光素子を作ることができる。
【符号の説明】
【0135】
311 陽極
312 有機化合物層
313 陰極
38 TFT素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示されるイリジウム錯体。
【化1】


(一般式(1)において、
Hは水素原子、Nは窒素原子、Irはイリジウム原子である。
とRはいずれもアルキル基である。
はアルキル基、置換あるいは未置換のフェニル基である。
とRはそれぞれ水素原子、アルキル基から選ばれる。
は水素原子あるいはシアノ基である。)
【請求項2】
一般式(1)において、前記RとRがいずれもtert−ブチル基であることを特徴とする請求項1に記載のイリジウム錯体。
【請求項3】
一般式(1)において、RとRとRがいずれも水素原子であることを特徴とする請求項2に記載のイリジウム錯体。
【請求項4】
陰極と陽極と、前記陽極と陰極の間に配置される有機化合物層とを有する有機発光素子において、前記有機化合物層は請求項1乃至3記載のいずれか一項に記載のイリジウム錯体を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、前記複数の画素のそれぞれは、請求項4乃至5記載のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されるスイッチング素子を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−121874(P2011−121874A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278966(P2009−278966)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】