説明

新規クロレラ及びその製造方法並びにそのクロレラを含有する健康食品

【課題】 既存のクロレラ類に比べて新規な多糖たん白質複合体を含有し、熱水抽出物の含量が高く、熱水抽出物の生理活性がすぐれたクロレラを提供する。
【解決手段】 18SrRNAをコードする遺伝子の特定の塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であるクロレラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規クロレラ及びその製造方法並びにそのクロレラを含有する健康食品に関し、更に詳細には既存のクロレラ類に比べて新規な多糖たん白質複合体を含有し、熱水抽出物の含量が高く、熱水抽出物の生理活性がすぐれたクロレラ及びその製造方法並びにそのクロレラを含有する健康食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロレラ類は、葉緑素、カロテノイド、ビタミン類、食物繊維、ミネラル類、熱水抽出物などの栄養成分が豊富であるために健康食品として有用である。
クロレラ類の健康食品に用いられてきたクロレラの種株は主として大量培養が容易であることを基準に選ばれており、具体的にはクロレラブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラレギュラリス(Chlorella regularis)、クロレラピレノイドサ(Chlorella pyrenoidosa)などが使用されている。
【0003】
クロレラ類の有用性を高めるための知見は、高クロロフィルクロレラ(特許文献1参照)、高クロロフィルおよび高カロテノイドクロレラ(特許文献2参照)、高度不飽和脂肪酸含有クロレラ(特許文献3参照)、γアミノ酪酸含有クロレラ(特許文献4参照)などに関して報告されている。
更に、クロレラ類の熱水抽出物中に存在する糖たん白質(特許文献5参照)、培養液中に生産する糖たん白質(特許文献6参照)などが報告されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000-175680号
【特許文献2】特開2006-101795号
【特許文献3】特開平10-276684号
【特許文献4】特開平02-154681号
【特許文献5】特開昭61-69728号
【特許文献6】特開平04-300898号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クロレラ類の健康食品では、タンパク質含量、色素含量、熱水抽出物含量が高いほど高品質であるとされる。特に、熱水抽出物は免疫系を正常に保つ生体防御機能調節作用、クロレラグロースファクターとも呼ばれる微生物の成長促進作用、抗酸化作用などの生理活性を有する重要な成分である。
【0006】
しかし、上記特許文献には、本発明のごとく、新規な多糖たん白質複合体を含み、熱水抽出物含量が高く、熱水抽出物の生理活性がすぐれたクロレラ類を健康食品として利用する方法に関する知見は見出すことができない。
【0007】
本発明者らは、自然界から単離した多数のクロレラ株を培養して得られたクロレラ細胞に含まれる熱水抽出物の含有量を調査した。その結果、多数の株の中から選ばれた自然変異株であるCK-571029株は熱水抽出物の含有量が高いこと、新規な多糖たん白質複合体を含むこと、ペプトンまたは廃糖蜜添加培地で培養することによって熱水抽出物の含量を高めることができること、得られた熱水抽出物はすぐれた生理活性を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、新規な多糖たん白質複合体を含み、生理活性が高い熱水抽出物を高濃度に含む新規クロレラ及びクロレラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であるクロレラである。
【0010】
本発明は、クロレラ細胞を熱水抽出したときの抽出物が30%(w/w)以上で、且つ抽出物中のタンパク質の高分子画分の割合が60%(w/w)以上で、且つ糖質の高分子画分の割合が70%(w/w)以上である上記クロレラである。
【0011】
本発明は、クロレラがCK-571029株(FERM P-21327)である上記クロレラである。
【0012】
本発明は、18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であるクロレラ株を培養するクロレラの製造方法である。
【0013】
本発明は、ペプトンまたは廃糖蜜の少なくともいずれかを0.02-5%(w/v)添加した培地で培養し、且つ、培養したクロレラ生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.05以下である上記クロレラの製造方法である。
【0014】
本発明は、クロレラ細胞を熱水抽出したときの抽出物が30%(w/w)以上で、且つ抽出物中のタンパク質の高分子画分の割合が60%(w/w)以上で、且つ糖質の高分子画分の割合が70%(w/w)以上である上記クロレラの製造方法である。
【0015】
本発明は、クロレラCK-571029株(FERM P-21327)を培養する上記クロレラの製造方法である。
【0016】
本発明は、18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であるクロレラを含む健康食品である。
【0017】
本発明は、クロレラ細胞を熱水抽出したときの抽出物が30%(w/w)以上で、且つ抽出物中のタンパク質の高分子画分の割合が60%(w/w)以上で、且つ糖質の高分子画分の割合が70%(w/w)以上である上記クロレラを含む健康食品である。
【0018】
健康食品に使用されるクロレラとしては、クロレラCK-571029株(FERM P-21327)が好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新規な多糖たん白質複合体を含み、生理活性が高い熱水抽出物を高濃度に含む新規クロレラ及びクロレラの製造方法が提供できる。
また、新規な多糖たん白質複合体を含み、生理活性が高い熱水抽出物を高濃度に含むクロレラを含んだ健康食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施には、クロレラCK-571029株(FERM P-21327)を使用することができる。また、18SrRNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下である新規クロレラ株を使用することができる。
【0021】
クロレラCK-571029株の形態的特長は、細胞は単細胞性、浮遊性、形状は球形から卵形、細胞の大きさは2.5〜6×3〜 8μm、細胞の周りに2〜 4μmの厚さのゲル状の鞘が存在する。葉緑体は1個で、カップ型、澱粉粒で囲まれた楕円形のピレノイドを有する。主として4個のオートスポアにより増殖する。増殖の至適温度は30℃前後、至適pHは6〜8、ビタミンB12要求性である。炭素源としてグルコース、ガラクトース、フラクトース、マンノース、酢酸を利用するが、ショ糖、ラクトース、マルトースは利用できない。
【0022】
クロレラCK-571029株を培養して得られるクロレラ粉末は25%以上の熱水抽出物を含み、一般成分として、蛋白質60〜65%、脂質10〜15%、食物繊維10〜15%、糖質1〜5%、葉緑素約3.5%含む。一般的なクロレラに比べて熱水抽出物含量が高く、蛋白質、葉緑素、カロテノイドなどの有用成分含量も同等量を含むためクロレラ食品としての利用価値が高い。
【0023】
クロレラCK-571029株はゲル状の鞘を有する点が特徴である。そのゲル状物質は多量の多糖体と少量の蛋白質からなる多糖たん白質複合体によって構成される。本多糖たん白質複合体は細胞成分および熱水抽出物の構成成分であり、熱水抽出物の収量を増加させると共に生体防御機能調節作用などの生理活性に役立っているため重要である。
【0024】
ゲル状の鞘の含有量は、クロレラの生細胞の細胞乾燥重量と細胞容積の比によって知ることができる。すなわち、細胞本体の容積当りの乾燥重量はゲル状鞘の部分の容積当りの乾燥重量に比べて著しく大きいため、ゲル状部分を多量に有する株ではゲル状部分を持たない株に比べて細胞乾燥重量/細胞容積が小さくなる。
【0025】
クロレラ細胞の乾燥重量は、例えば、細胞懸濁液の一定量をあらかじめ重量を測定したスピッツ管に量り取り、遠心分離によって細胞を沈めて上清を捨て、105℃にて恒量になるまで乾燥して乾物重量を測定することによって求めることができる。生細胞の容積は、例えば、細胞懸濁液の一定量をヘマトクリット管に計り取り、3500回転で20分間遠心分離した後に、沈殿した細胞の容積をヘマトクリット管の目盛りで読み取ることによって知ることができる。
【0026】
通常のクロレラ類の細胞乾燥重量/細胞容積は約0.2g/mlであるが、クロレラCK-571029株の細胞乾燥重量/細胞容積は通常は0.15g/ml以下である。
【0027】
クロレラCK-571029株が有するゲル状の鞘の成分は新規な多糖たん白質複合体であることが確認された。すなわち、同株の培養細胞濃縮液を穏やかな破砕処理によってゲル状物質を遊離させ、アルコール沈殿、分子ふるいなどによってゲル状物質を単離することができた。ゲル状物質は約60%の多糖、約10%の蛋白質とウロン酸を含み、構成糖としてガラクトース、グルコース、マンノース、アラビノース、ラムノースを含み、構成アミノ酸としてグルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、ヒドロキシプロリンなどを含む新規な多糖たん白質複合体であった。
【0028】
クロレラCK-571029株が生産する多糖たん白質複合体は細胞の構成成分の一つであると共に、熱水抽出物の構成成分の一つでもある。熱水抽出物中に当該多糖タンパク複合体が存在することは、高分子中の多糖と蛋白質の存在比が高いことによって知ることができる。熱水抽出物の高分子と低分子の存在比は、セファデックスG-75を用いたゲルろ過によって高分子画分と低分子画分に分離し、それぞれをフェノール硫酸法による糖質の分析、ローリー法による蛋白質の分析を行い、高分子中の存在量(%)={〔高分子中の存在量/(高分子+低分子中の存在量)〕×100}を算出することによって求められる。
【0029】
クロレラCK-571029株から抽出した熱水抽出物はすぐれた生理活性を有していた。すなわち、一般のクロレラから抽出した熱水抽出物に比べて、抗酸化活性(フリーラジカル消去活性、スーパーオキシド消去活性)、乳酸菌生長促進活性、紫外線による細菌の致死抑制活性が同等またはそれ以上であった。生体内で発生するフリーラジカルおよびスーパーオキシドなどの活性酸素は動脈硬化、発がん、老化などの原因と考えられており、抗酸化活性を有する食品の摂取によってこれらの疾病の予防効果が期待される。乳酸菌成長促進作用を有する食品の摂取により腸内細菌叢の改善効果が期待される。また、紫外線による細菌の致死抑制活性があることから生体内で体細胞を保護する効果が期待される。上記から、クロレラCK-571029株は熱水抽出物の量が多いだけではなく生理活性もすぐれていることが確認された。
【0030】
新規な糖たん白質複合体が含まれることの有用性は、例えば、動物を用いた細菌感染実験によって知ることができる。すなわち、一般に免疫系への作用物質は高分子の糖蛋白質や多糖といわれるが、本発明のクロレラCK-571029株および糖たん白質複合体からなる包膜を有しない一般のクロレラから調整した熱水抽出物をマウスに投与し、致死量の大腸菌を感染させた時の生残率は、〔本発明のクロレラCK-571029株>糖たん白質複合体からなる包膜を有しない一般のクロレラ〕であった。上記から、新規多糖たん白質複合体の生体防御機能に関わる生理活性への寄与が示されたと同時に、食品として摂取した時に生体防御機能を改善して感染抵抗性を高める効果が期待される。
【0031】
クロレラCK-571029株は、一般的なクロレラ類と同様の方法で培養することができる。すなわち、クロレラ類は無機の炭素源と光を与えて光合成的に増殖する光独立栄養培養、有機炭素を与えて暗黒化で増殖する従属栄養培養、光独立栄養培養と従属栄養培養を組み合わせる混合栄養培養の3種類の培養を行なうことができるが、これらの培養のいずれも用いることができる。
【0032】
光独立栄養培養で用いることができる培養装置は試験管、フラスコ、ビーカー、屋外池など光を与えることができれば制限はなく、光源は蛍光灯、電灯、発光ダイオード、太陽光など制限はない。炭素源は炭酸ガスや炭酸塩などを有効に用いることができ、窒素源は硝酸塩、アンモニウム塩、尿素などを有効に用いることができ、特段の制限はない。その他の培地成分はリン酸塩、カリウム塩、マグネシウム塩、鉄その他の微量元素が必要量含まれていれば特段の制限はない。例えば、改変金沢培地(尿素0.6g、リン酸一カリウム0.3g、硫酸マグネシウム7水塩0.3g、硫酸第一鉄7水塩5mg、EDTA 7mg、ホウ酸2.86mg、塩化マンガン4水塩1.81mg、硫酸亜鉛7水塩0.22mg、硫酸銅5水塩0.08mg、モリブデン酸ナトリウム0.021mg、ビタミンB12 50μg/l、水道水1000ml)に1〜5%の炭酸ガスを含む空気を通気することによって培養に用いることができる。
【0033】
従属栄養培養で用いることができる培養装置は試験管、フラスコ、ジャーファメンター、ステンレス製のタンクなど、攪拌や通気によって培養液に酸素を供給できて滅菌できるものであれば制限はない。炭素源はグルコースや酢酸などを有効に用いることができ、窒素源は硝酸塩、アンモニウム塩、尿素などを有効に用いることができ、特段の制限はない。その他の培地成分はリン酸塩、カリウム塩、マグネシウム塩、鉄その他の微量元素が必要量含まれていれば特段の制限はない。例えば、前記の改変金沢培地にグルコースを10g/l追加することによって培養に用いることができる。
【0034】
混合栄養培養では、光独立栄養培養を基本として有機炭素を補助的に与える培養方法と従属栄養培養を基本として補助的に光を与える方法があるが、光独立栄養培養および従属栄養培養と同じ培養装置、光源、培地成分を用いることができ、特段の制限はない。
【0035】
更に、本発明者らはクロレラCK-571029株を用い、培養時の培地組成と生産された細胞の熱水抽出物含量に関して広範な調査を行い、培地中にペプトンまたは廃糖蜜を加えることによって得られた細胞は熱水抽出物を多量に含むことを見出した。この現象は培地中にペプトンまたは廃糖蜜を加えることによって、ゲル状の鞘が発達して熱水抽出物の含量に反映されることが大きな要因であり、その他に細胞内成分が溶出され易くなる可能性も考えられる。また、一般的なクロレラでは培地中にペプトンまたは廃糖蜜を加えても熱水抽出物の含量が増えることはなく、クロレラCK-571029株に特異的な現象であると考えられる。
【0036】
ペプトンおよび糖蜜の培地中への可能な添加量は0.02%〜5%(w/v)の範囲であり、効果面、コスト面、排水処理の負荷などを加味した実用上の最適添加量は0.05〜0.5%(w/v)、更に好ましくは0.05〜0.2%(w/v)である。
【0037】
本発明では、ペプトンはカゼインや獣肉タンパク質などの原料の相違、ペプシンやパパインなどの分解酵素の相違にかかわらず使用することができる。廃糖蜜はサトウキビを原料として砂糖を製造するときの副生品を有効に利用することができる。
【0038】
クロレラCK-571029株をペプトンおよび糖蜜を添加した培地で培養することによってゲル状の鞘の発達がすぐれ細胞懸濁液の(細胞重量/細胞容積)は0.05g/ml以下となる。そして、細胞を乾燥した粉末の熱水抽出物含量は30%以上、より好ましくは32%以上、更に好ましくは35%以上となる。
【0039】
培養を終了した細胞は、クロレラ類で通常行われている方法によって収穫することができる。例えば、ドラバル型の遠心分離機によって濃縮し、プレートヒーターによって100℃、3分程度の加熱可消化処理を行い、噴霧乾燥機によって乾燥してクロレラ粉末を得ることができる。
【0040】
ゲル状の鞘の含有量は、粉末化した細胞では、熱水抽出物の含有量と高分子多糖と蛋白質の含量比によって知ることができる。すなわち、ゲル状の鞘は熱水に溶解する高分子の多糖たん白質複合体であるために、熱水抽出物の含有量が高くなり、熱水抽出物中の糖質と蛋白質の高分子画分の割合が多くなる。
【0041】
得られたクロレラ粉末は生理効果の高い熱水抽出物が豊富に含まれ、クロレラ粉末が一般的に用いられる様々な用途に用いることが可能である。例えば、単独または他の健康食品素材と混合し、錠剤、顆粒に加工して健康食品として用いることができる。また、乾燥前の生細胞または乾燥粉末を熱水抽出し、遠心分離などによって細胞残渣を除いた熱水抽出物はドリンク、顆粒などに加工して健康食品として用いることができる。
【実施例1】
【0042】
野外より多数の試水を採取してクロレラ株を単離し、熱水抽出物含量の多い株を検索した。採取した試水は改変金沢培地に接種して1〜3%の炭酸ガスを含む空気を通気した。数日間の培養の後、緑色に増殖した培養液をシャーレに拡げた寒天培地(1.5%の寒天と2g/lのグルコースを加えた改変金沢培地)に接種し、生育したコロニーを釣り上げた。この様にして単離した105種類のクロレラ株を、グルコース10g/lを添加した2倍濃度の改変金沢培地に接種して、蛍光灯による約3000luxの照射下で、25℃、3日間の培養を行い、収穫した細胞を100℃、20分間の加熱を行い、熱水抽出物の含有量を調査し、熱水抽出物の含有量が高い自然突然変異のクロレラCK-571029株を得た。
【0043】
次に、複数のクロレラ株を用いて生細胞の(細胞重量/細胞容積)、熱水抽出物の収率、熱水抽出物高分子画分に含まれる糖質と蛋白質の割合を調査した。
クロレラ株は、CK-571029株、IAMカルチャーコレクションより入手したクロレラブルガリスC-209、クロレラブルガリスC-30、SAGカルチャーコレクションより入手したクロレラソロキニアナSAG211-8k、野外より分離したクロレラブルガリスCK-73107、クロレラエスピーCK-T80、クロレラエスピーCK-155、クロレラエスピーCK-H41、クロレラエスピーCK-H51、クロレラエスピーCK-EL342、クロレラエスピーCK-HK1を用いた。
【0044】
培養には改変金沢培地(尿素0.6g、リン酸一カリウム0.3g、硫酸マグネシウム7水塩0.3g、硫酸第一鉄7水塩5mg、EDTA 7mg、ホウ酸2.86mg、塩化マンガン4水塩1.81mg、硫酸亜鉛7水塩0.22mg、硫酸銅5水塩0.08mg、モリブデン酸ナトリウム0.021mg、ビタミンB12 50μg/l、水道水1000ml)を用いた。培養は容量20Lの平型培養層を用い、2%の炭酸ガスを含む空気を通気し、蛍光灯で約10000luxの光を両面から照射して培養を行なった。培養を終了したクロレラは国産製遠心分離機H700FRを用い3500回転、20分の遠心分離で濃縮し、東京理科製のスプレイドライヤーSD-1により乾燥して粉末とした。
【0045】
クロレラからの熱水抽出は、クロレラ粉末を6%(w/v)になるよう純水に懸濁し、銅管に封入して105℃、20分間の加熱を行った。急冷後に銅管から取り出し、国産製遠心分離機H200NRを用いて3500rpm、20分間の遠心分離によって上清を採取し、測定用の熱水抽出物を得た。
【0046】
熱水抽出物の乾物重量は100℃、16時間乾燥して求めた。タンパク質濃度は銅フォリン法で測定し、牛血清アルブミン換算で表した。糖質濃度はフェノール硫酸法で測定し、グルコース換算で表した。熱水抽出物の高分子画分と低分子画分の分離はセファデックスG75を用いたゲルろ過によって行った。熱水抽出物中の高分子蛋白質(%)は{〔高分子中の蛋白質量/(高分子+低分子中の蛋白質量)〕×100}、高分子糖質(%)は{〔高分子中の糖量/(高分子+低分子中の糖質量)〕×100}で算出した。
【0047】
表1にクロレラ類の生細胞の(細胞重量/生細胞容積)、熱水抽出物の収率、熱水抽出物中の糖質と蛋白質の高分子画分に含まれる割合を示した。CK-571029株は、生細胞の(細胞重量/細胞容積)が低く、熱水抽出物の収率および熱水抽出物高分子画分に含まれる糖質と蛋白質の割合が高かった。
【0048】
【表1】

【実施例2】
【0049】
クロレラCK-571029株の分類学的な性質を調べた。
細胞は単細胞性、浮遊性、形状は球形から卵形、細胞の大きさは2.5〜6×3〜 8μm、細胞の周りに2〜 4μmの厚さのゲル状の鞘が存在する。葉緑体は1個で、カップ型、澱粉粒で囲まれた楕円形のピレノイドを有する。4個のオートスポアを形成して増殖する。増殖の至適温度は30℃前後、至適pHは6〜8、ビタミンB12要求性である。炭素源としてグルコース、ガラクトース、フラクトース、マンノース、酢酸を利用するが、ショ糖、ラクトース、マルトースは利用できない。
【0050】
18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列は、生細胞からDNA抽出液(20mM EDTA 2Na、100 mM Tris-HCl、1.4M NaCl、2%CTAB)を用いてゲノム DNAを抽出し、プライマー〔(5’-ACCTGGTTGATCCTGCCAGT-3’)、(5’-TCAGGTCTGGTAATTGGA-3’)〕を用いてPCR(TaKaRa PCR Thermal Cycler MP)により遺伝子を増幅し、電気泳動(ADVANCE Mupid-2plus)によって18SrRNAをコードする遺伝子を確認し、当該遺伝子をシークエンサー(ABI PRISM 310 Genetic Analyzer)によって読み取った。
【0051】
クロレラCK-571029株の18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列(配列番号1)はクロレラ属ケセリ種(最新の学説ではクロレラ科パラクロレラ属に変更された)と相同率99.5%で最も近いが一致しなかった。また、この分類群とはビタミンB12要求性である点で明らかに異なり、ケセリ種(=パラクロレラ属)に近縁の新規株であると考えられる。
【0052】
この新規クロレラCK-571029株は、以下の国際機関に寄託されている。
名称: 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
寄託日: 平成19年7月26日
受託番号:FERM P-21327(クロレラエスピー(Chlorella sp.)CK-571029株)
【実施例3】
【0053】
クロレラCK-571029株のゲル状の鞘を分取してその化学的性質を調べた。実施例1の方法で培養・収穫した細胞の濃縮液(細胞濃度100mg乾物重量/ml)100mlを、IKA-WERK製ホモジナイザーULTRA-TURRAXにより2分×5回ホモジナイズしてゲル状の鞘を遊離させた後、5000回転、20分の遠心分離によって細胞を沈殿させた。上清をエバポレーターによって10mlに濃縮し、5%TCAによる除タンパクの後、4倍容積のエタノールを加えて沈殿物を分取し、限外ろ過(分子量1万)による脱塩の後に凍結乾燥して分析に供した。なお、比較例として実施したクロレラブルガリスCK-73107からはエタノール沈殿物を得ることができなかった。
【0054】
標品の全糖はフェノール硫酸法、蛋白質はローリー法によって行った。構成糖は2Nトリクロル酢酸中で、100℃、16時間の処理で加水分解し、生成した単糖を水酸化ホウ素ナトリウムで還元して糖アルコールとし、ガスクロマトグラフィー島津GC-14Aによって分析した。構成アミノ酸は塩酸加水分解後にフェニルチオカルバミンアミノ酸誘導体としHPLCギルソン306/305/806によって分析した。カルバゾール法によりトリクロル酢酸分解液のウロン酸の分析を行った。
【0055】
得られた標品は60%の糖、約10%の蛋白質とウロン酸を含んでいた。食塩濃度勾配を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(Dowex1-X4)により0.2M付近と0.7M付近の同一ピークに糖および蛋白質の溶出が認められ、糖と蛋白質は複合体を形成していることが示された(図1)。
【0056】
構成糖および構成アミノ酸は表2に示す通りで、主要構成糖としてガラクトースを含み、構成アミノ酸としてクロレラ細胞に通常は検出されないヒドロキシプロリンを含む点で特異的であった。なお、海藻の細胞壁においてヒドロキシプロリンは糖とアミノ酸を結合して糖たん白質を作ることが知られている。
上記からクロレラCK-571029株は細胞成分および熱水抽出物の成分として新規な多糖たん白質複合体を含んでいることが示された。
【0057】
【表2】

【実施例4】
【0058】
クロレラCK-571029株およびクロレラブルガリスCK-73107を実施例1の方法によって生産し、得られたクロレラ粉末の成分分析を行った。蛋白質はケルダール法、脂質は酸分解法、灰分は直接灰化法、食物繊維は酵素−重量法、糖質は計算、葉緑素はアルカリピリジン法、総カロテノイドは吸光光度法、熱水抽出物は100℃・20分の加熱によって求めた。
クロレラCK-571029株は熱水抽出物含量が高いのが特徴であり、その一般成分組成は一般的なクロレラと同様に蛋白質、葉緑素、総カロテノイドの含量が高く(表3)、クロレラ食品としてすぐれていることが確認された。
クロレラ粉末の測定結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【実施例5】
【0060】
クロレラCK-571029株およびクロレラブルガリスCK-73107を実施例1の方法によって生産し、クロレラ粉末の細胞懸濁液〔乾物濃度100g/l〕をプレートヒータSTS-100(日阪製作所製)によって120℃、10分の加熱処理し、遠心分離上清を凍結乾燥して得られた熱水抽出物の生理活性を調べた。
【0061】
(1) 抗酸化活性I(フリーラジカル消去活性)
熱水抽出物(乾物重量として1mg/ml) 400μg/ml、100mlトリス緩衝液(pH7.4)1.6ml、 500μMのDPPH(Diphenyl picrylhydrazyl)2mlを混合し、暗所に室温で20分間放置して波長517nmの吸光度を測定した。標準物質として抗酸化剤BHAを用いてフリーラジカル消去活性を評価した。
【0062】
(2) 抗酸化活性II(スーパーオキシド消去活性)
熱水抽出物(乾物重量として5mg/ml)400μg/mlを作成し、SOD assay Kit-WST(Dojin Molecular Technologies, Inc.)を用いてスーパーオキシド生成の阻害率を算出した。
【0063】
(3) 乳酸菌生長促進活性
熱水抽出物を添加した培地で乳酸菌Lactobacillus casei NBRC15883を培養し、その増殖速度から生長促進活性を評価した。1/8濃度のGAMブイヨン(日水製薬)にて、37℃、24時間の前培養を行った乳酸菌を菌体濃度(純水で7倍に希釈してOD660を測定)が0.1となるように同培地で希釈し、その0.1mlを熱水抽出物が乾物換算で2mg/mlとなるように添加した試験用培地5mlに接種した。37℃で培養を行い、2時間後と6時間後の菌体濃度の差によって増殖速度を調べた。
【0064】
(4) 紫外線による細菌の致死率抑制活性
熱水抽出物が紫外線感受性株であるサルモネラ菌Salmonella enterica TA98の致死率を抑制する作用を調べた。熱水抽出物水溶液(乾物換算で50mg/ml濃度)1mlに、ニュートリエントブロス(Difco製)を用いて37℃で24時間前培養したサルモネラ菌の培養液の114倍希釈液を0.1ml加えて37℃で20分間保持し、45℃の軟寒天溶液(0.8% Difuco Agar)1mlを加えて攪拌し、標準寒天培地(日水製薬製)を広げたシャーレ上に重層した。シャーレを紫外線照射(HITACHI殺菌ランプGL-15、距離30cmで照射、10秒間)した後、37℃で2日間培養してコロニーを計数し、紫外線照射しないときのコロニー数に対する生残率を求めた。
【0065】
(5) 大腸菌感染抵抗性
マウスに熱水抽出物を投与し、致死量の大腸菌を感染させた時の生残率によって感染抵抗性を評価した。マウスはCDF−1系の9週令を1試験区当り10匹使用し、熱水抽出物は乾物換算で体重当り50mg/kgを皮下注射によって投与した。その24時間後にトリプチックソイブロス(和光純薬)で培養した大腸菌(Escherichia coli E77156:06:H1)2.7×107を腹腔内投与し、5日間飼育後の生残数によって感染抵抗性を評価した。
【0066】
それぞれの項目の試験結果を表4に示す。クロレラCK-571029株から抽出した熱水抽出物はすぐれた生理活性を有していた。すなわち、一般のクロレラから抽出した熱水抽出物に比べて、抗酸化活性(フリーラジカル消去活性、スーパーオキシド消去活性)、乳酸菌生長促進活性、紫外線による細菌の致死抑制活性が同等またはそれ以上であった。
【0067】
生体内で発生するフリーラジカルおよびスーパーオキシドなどの活性酸素は動脈硬化、発がん、老化などの原因と考えられており、抗酸化活性を有する食品の摂取によってこれらの疾病の予防効果が期待される。乳酸菌成長促進作用を有する食品の摂取により腸内細菌叢の改善効果が期待される。また、紫外線による細菌の致死抑制活性があることから生体内で体細胞を保護する効果が期待される。上記から、クロレラCK-571029株は熱水抽出物の量が多いだけではなく生理活性もすぐれていることが確認された。
【0068】
本発明のクロレラCK-571029株および糖たん白質複合体からなる包膜を有しない比較例のクロレラから調整した熱水抽出物をマウスに投与し、致死量の大腸菌を感染させた時の生残率は、〔本発明のクロレラCK-571029株>糖たん白質複合体からなる包膜を有しない一般のクロレラ〕であった。以上から、食品として摂取した時に生体防御機能を改善して感染抵抗性を高める効果が期待されると同時に、一般に免疫系への作用物質は高分子の糖蛋白質や多糖といわれており、本発明に係る新規多糖たん白質複合体の生体防御機能に対する生理活性の寄与が示された。
熱水抽出物の生理活性測定結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【実施例6】
【0070】
クロレラCK-571029株をペプトンまたは廃糖蜜添加培地を用いて培養し、生細胞乾物重量/細胞容積および熱水抽出物の量を調べた。培地は2倍濃度の改変金沢培地にグルコース10g/lを添加し、更にポリペプトン(日本純薬工業製)または廃糖蜜(日本澱粉工業製)を添加した。培養はフラスコを用い、25℃、蛍光灯によって2000-3000luxの光を照射して振とう培養を行った。
【0071】
表5に示すように細胞が持つゲル状の鞘が発達したために、生細胞重量/容積は著しく低下し、熱水抽出物の含有量が増加した。
なお、比較例として実施したクロレラブルガリスCK-73107、クロレラブルガリスC-30、クロレラソロキニアナSAG211-8kではペプトンまたは廃糖蜜を添加しても培養終了時の生細胞重量/容積と熱水抽出物の含有量に変化は認められなかった。
培養終了時の生細胞重量/容積と熱水抽出物の含有量を表5に示す。
【0072】
【表5】

【実施例7】
【0073】
クロレラCK-571029株を培養してクロレラ粉末を作成し、クロレラ錠剤およびドリンクを試作した。
培養にはグルコース10g/lを添加した2倍濃度の改変金沢培地を用い、培養装置は容積1m3のジャーファメンターを用いた。培養温度25℃にて通気、攪拌して5日間の培養を行った後、ドラバル型遠心分離機(斎藤遠心機製)によって収穫・濃縮し、プレートヒーター(イズミフード社製)による100℃、3分の加熱処理の後、スプレードライヤー(ニロ社製)によって乾燥粉末を作成した。
クロレラ粉末は賦形剤を添加することなく、錠剤機(畑鉄工製、PT-22)を用いて、直径8mm、重量200mgの錠剤に加工した。試作した錠剤は健康食品として良好に摂取することができた。
【0074】
クロレラ粉末を100g/lの濃度で水道水に懸濁し、プレートヒーター(イズミフード社製)によって120℃、10分の加熱処理、遠心分離を行い、遠心分離上清液(=熱水抽出物)を用いてドリンクを試作した。ドリンク100ml当たり、熱水抽出物を10ml、クエン酸(玉井化学製、食添)を0.2g、ブドウ糖果糖糖液(日本コーンスターチ(株)製、F-2)を12g、香料(長谷川香料製、ドリンクフレーバー)を0.1g配合した。試作したドリンクは健康食品として良好に摂取することができた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】食塩濃度勾配を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(Dowex1-X4)による糖および蛋白質の溶出パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であることを特徴とするクロレラ。
【請求項2】
クロレラ細胞を熱水抽出したときの抽出物が30%(w/w)以上で、且つ抽出物中のタンパク質の高分子画分の割合が60%(w/w)以上で、且つ糖質の高分子画分の割合が70%(w/w)以上であることを特徴とする請求項1記載のクロレラ。
【請求項3】
請求項1または2記載のクロレラがCK-571029株(FERM P-21327)であることを特徴とするクロレラ。
【請求項4】
18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列に99.5%以上の相同性を有し、且つ、その生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.15以下であるクロレラ株を培養することを特徴とするクロレラの製造方法。
【請求項5】
ペプトンまたは廃糖蜜の少なくともいずれかを0.02-5%(w/v)添加した培地で培養し、且つ、培養したクロレラ生細胞の細胞乾物重量と細胞容積の比が0.05以下であることを特徴とする請求項4記載のクロレラの製造方法。
【請求項6】
クロレラ細胞を熱水抽出したときの抽出物が30%(w/w)以上で、且つ抽出物中のタンパク質の高分子画分の割合が60%(w/w)以上で、且つ糖質の高分子画分の割合が70%(w/w)以上であることを特徴とする請求項4または5記載のクロレラの製造方法。
【請求項7】
クロレラCK-571029株(FERM P-21327)を培養することを特徴とする請求項4,5または6記載のクロレラの製造方法。
【請求項8】
請求項1,2または3記載のクロレラを含むことを特徴とする健康食品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−60807(P2009−60807A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229229(P2007−229229)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000105051)クロレラ工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】