説明

新規ディスコティック液晶性化合物

【課題】機能性化合物を2種類以上結合して得られる化合物で、基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示す化合物を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類の機能性化合物が結合した結合体であって、当該結合体において、基板上でホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示すことを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なディスコティック液晶性化合物に関する。詳しくは少なくとも2種類の機能性化合物を結合した結合体で、この結合体が基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー相を形成可能な新規なディスコティックカラムナー液晶性化合物に関するものであり、一次元伝導体への応用、さらに詳しくは電子写真感光体の電荷輸送物質、エレクトロルミネッセンス素子材料、イメージスキャナー材料、ホトリソグラフティブ材料、太陽電池材料、強磁性材料、ガスセンサー、触媒、配向膜等に有用な化合物とその化合物を用いた配向型機能性材料ならびにその配向型機能性材料を用いた配向型機能性デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスコティックカラムナー液晶性化合物、あるいはその可能性のある化合物に対して、機能性化合物を結合させる試みは、フタロシアニンをはじめとして、種々のディスコティックカラムナー液晶性を示す分子に導入され、従来から行われてきた(非特許文献1,2)。
しかしながら、これまで、機能性化合物を2種類以上結合して得られた化合物においてディスコティックカラムナー液晶性を示すものはごく少なく(例えば、非特許文献3)、さらに言えば、このような化合物で基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示すものは、本発明者らの知る限り現在までに報告されていない。
【非特許文献1】グロウミ(A.Gouloumis)外,「ケミストリー・ヨーロピアン・ジャーナル(Chemistry - A European Journal)」,2000年,第6巻,p.3600
【非特許文献2】アントニエッタ(M. Antonietta Loi)外,「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー(Journals of Materials Chemistry)」,2003年,第13巻,p.700
【非特許文献3】ブッシュバイ(R. J. Bushby)外,「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリー(Journals of Materials Chemistry)」,2001年,第15巻,p.4429
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は機能性化合物を2種類以上結合した結合体においても、ディスコティックカラムナー液晶性を示す材料を提供することであり、さらには当該結合体がこれを配置する基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示す材料を提供することである。加えて、ホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示す材料を用いて作製した配向型機能性材料ならびにこの配向型機能性材料を用いた配向型機能性デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、少なくとも2種類の機能性化合物が結合した結合体であって、当該結合体において、基板上でホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示すことを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物に関する。
また本発明は、前記の2種類の機能性化合物の可逆的な酸化還元電位が異なることを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物に関する。
また本発明は、前記の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物の結合体を構成する機能性化合物のうち少なくとも片方が、1つまたは複数個のアルキル基あるいはアルコキシ基を置換基として有するフェノキシまたはナフタロキシ構造の少なくともどちらか一方を修飾基として有することを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物に関する。
また本発明は、前記の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物を構成する機能性化合物の少なくとも一つが、フタロシアニンであることを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物に関する。
また本発明は、前記の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物を配向させて得られる配向型機能性材料に関する。
また本発明は、前記の配向型機能性材料を用いて作製した機能性デバイスに関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明では、少なくとも2種類の機能性化合物を結合した結合体において、当該結合体が基板に対してホメオトロピックに配向したディスコティックカラムナー液晶性を達成することができ、本発明により得られた液晶性化合物の配向型機能性材料を用いることで、配向型機能性デバイスの開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物について説明する。
本発明の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物は、機能性化合物を少なくとも二種類以上結合した結合体であって、当該結合体がこの結合体を設置する基板に対して、ホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示すことを特徴とする。さらにディスコティックカラムナー液晶性をもつ分子は、分子自身が図1のように自発的に積み重なってカラムを形成する。これをディスコティックカラムナー相といい、カラム内では分子間を電子やホールが移動する、「ホッピング伝導」と呼ばれる事象を持つため、一次元伝導体として応用できることが報告されている。
【0007】
ディスコティック液晶とは、中心に堅い円盤状コアを持ち、その周辺にフレキシブルなアルキル長鎖等を持つ液晶化合物のことである。
ディスコティックカラムナー液晶性とは、中心の円盤状コア分子同士にπ−π相互作用とその周辺のアルキル長鎖が揺らぐことによって液体のような構造柔軟性を持ちながらも、固体固有の構造配向性を示すことである。さらにディスコティックカラムナー液晶性をもつ分子は、分子自身が自発的に積み重なって、カラム内の分子間を電子やホールが移動する、「ホッピング伝導」と呼ばれる事象を持つため、1次元伝導体として応用できる。
ディスコティックカラムナー液晶性の確認方法は、偏光顕微鏡観察(POM)と、加熱X線構造解析が主である。ディスコティックカラムナー液晶性化合物をPOMで観察すると、その化合物がもつ液晶相特有のテクスチャーを観察することができる。またスパチュラなどで擦ると柔らかい感触が得られることも確認方法の一つである。そして、ディスコティックカラムナー液晶性を示す化合物をX線構造解析すると、液晶相特有の回折ピークを観察することができる。
【0008】
ホメオトロピック配向とは、ディスコティック液晶分子が自発的かつ大面積に完璧なカラムをガラス基板上に垂直に形成するように配向することである。
ホメオトロピック配向の確認方法は偏光顕微鏡観察で確認することができる。ディスコティック液晶分子がホメオトロピック配向すると、直交ニコル下では暗視野となる。しかし、スパチュラなどで暗視野な部分を擦ると、分子の配向が乱れ、透過してくる光が複屈折をし、偏光を示す。
【0009】
本発明における結合体とは、以下に説明する機能性化合物を少なくとも2種類以上結合した結合体であって、その結合形態については、本発明の目的とするとおり、結合体において基板面に対してホメオトロピック配向するディスコティックカラムナー液晶性を示すことを妨げなければ、特に制限されるものではない。
【0010】
本発明における機能性化合物としては、安定的に酸化還元特性を示すような複数の芳香環または複素芳香環からなるか、あるいは芳香環または複数芳香環が縮環した平面あるいは球状構造を有するものが好適に用いられる。
例えば、ナフタレン、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、コロネン、ヘキサベンゾコロネン、フラーレン類または、ポルフィリン類、アザポルフィリン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、などが挙げられる。
また、いわゆるレドックス高分子として知られるπ共役系ポリマーあるいはオリゴマーなどを用いることも出来る。たとえば、オリゴまたはポリアセチレン、オリゴまたはポリフェニレンビニレン、オリゴまたはポリチオフェン、オリゴまたはポリアニリン、オリゴまたはポリピロールとそれらの誘導体を挙げることができる。
より具体的な構造としては、下記のような機能性化合物が挙げられるが、本発明の目的に適うものであれば、これに制限されるものではない。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
【化9】

【0020】
【化10】

【0021】
【化11】

【0022】
【化12】

【0023】
【化13】

【0024】
上記式中、Mはプロトン2個か金属カチオンを表す。例えば、Mg、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Biなどのカチオンを1つまたは2つ以上用いることができる。好ましくは、プロトン2個か2価の金属カチオンを一つ用いた場合であって、2価カチオンとしてはMg2+、Al2+、Mn2+、Fe2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+を用いたものである。
【0025】
さらに、上記機能性化合物は、目的の性能を示すために適当な修飾基を水素原子の代わりに置換して結合することが出来る。修飾基としては、ハロゲン原子または炭素数1〜30、好ましくは1〜18のアルキル基またはアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、2−エチルプロピル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。アルコシキ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。また、アルキル基の水素の一部または全部を、不飽和結合を含む基、フェニル基など芳香環を含む置換基などとしても良い。カルボニル基、カルボニルオキシ基またはオキシカルボニル基、アミノ基等を用いて上記アルキル基等を結合しても良い。また上記アルキル基等の末端が、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアナート基、アルデヒド基、アミノ基などであっても良い。また、アルキル鎖の途中に、エステル結合(−COO−)、酸アミド結合(−NH−CO−)、ウレタン結合(−NH−COO−)、エーテル結合(−O−)などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド基でも良い。2つの置換基が末端で結合をつくり環状となっていても良い。例えば、環状エーテル、環状エステル、酸無水物、カルボジイミドなどを挙げることができる。また、さらに芳香環が縮環している構造でもよい
【0026】
上記修飾基のうち、特に好ましいのはフェノキシおよびナフタロキシ構造を持つ化合物である。フェノキシ基あるいはナフタロキシ基はさらに置換基を有することが可能であり、ベンゼン環あるいはナフタレン環をアルキル基、アルコキシル基で置換したアルキル置換フェノキシ基、アルコキシ置換フェノキシ基、アルキル置換ナフタロキシ基、アルコキシ置換ナフタロキシ基などが好適に用いられる。その置換数および置換位置は、1つ以上で、目的の性能が得られれば特に制限されるものでは無く、例えば、2−アルキル、2−アルコキシ、3−アルキル、3−アルコキシ、4−アルキル、4−アルコキシなどの1置換体、2,4−ジアルキル、2,4−ジアルコキシ、2,6−ジアルキル、2,6−ジアルコキシ、2,3−ジアルキル、2,3−ジアルコキシ、3,4−ジアルキル、3,4−ジアルコキシの2置換体、2,4,6−トリアルキル、2,4,6−トリアルコキシ、3,4,5−トリアルキル、3,4,5−トリアルコキシの3置換体などが用いられるが、特に、3−アルキル、3−アルコキシの1置換体、2,4−ジアルキル、2,4−ジアルコキシ、3,4−ジアルキル、3,4−ジアルコキシの2置換体が好ましく、用いるアルキル鎖部分は炭素数1以上30以下、好ましくは25以下、さらに好ましくは18以下で、また上記アルキル基等の末端が、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアナート基、アルデヒド基、アミノ基などであっても良い。また、アルキル鎖の途中に、エステル結合、酸アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド鎖でも良い。2つの置換基が末端で結合をつくり環状となっていても良い。例えば、環状エーテル、環状エステル、酸無水物、カルボジイミドなどを挙げることができる。また、さらに芳香環が縮環している構造でもよい。末端が水酸基やアミノ基などのヘテロ元素を持つ反応性置換基、例えば、エステル基、エーテル基等を有していても良い。
【0027】
なお、酸化還元電位の測定を行う際はそれぞれを単体分子の状態で測定すればよい。その方法は、例えば、A.J.Bardら著『Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications』のCHAPTER6(p.226〜)に記載されているように、可溶な溶媒中でサイクリックボルタンメトリー測定等を行うことで決定することができる。
【0028】
2種類以上の機能性化合物を結合するための結合基としては、直鎖のアルキル鎖や、側鎖をもったアルキル鎖を用いることが出来、当該結合基中の炭素数は50以下であって、好ましくは30以下、20以下がさらに好ましい。アルキル鎖の途中に、エステル結合、酸アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合などを含んでも良く、繰り返し単位が1から15のエチレンオキシド鎖でも良い。
また、上記目的にかなう範囲であれば、導電性高分子に代表されるいわゆるレドックス高分子として知られるπ共役系ポリマーあるいはオリゴマーなどを用いることも出来る。たとえば、オリゴまたはポリアセチレン、オリゴまたはポリフェニレンビニレン、オリゴまたはポリチオフェン、オリゴまたはポリアニリン、オリゴまたはポリピロールとそれらの誘導体を挙げることができる。
さらに、上記目的を妨げなければ、ここに上記機能性分子に代表される可逆な酸化還元を示す構造を結合基として用いることができる。
【0029】
本発明の結合体は、上述のとおり機能性化合物を少なくとも2種類以上結合した結合体であり、結合体において基板面に対してホメオトロピック配向したディスコティックカラムナー液晶性を示せば、結合する機能性化合物の比については任意に選ぶことが出来る。すなわち、2種類の異なる機能性化合物をA、Bとし、1分子中でのそれぞれの機能性化合物数をそれぞれX、Yとしたとき、結合体の構造Aについて、任意の整数比のX、Yを選ぶことができる。具体的なX、Yについては、それぞれ1以上であれば特に制限されないが、結合体中での機能性化合物Aの数がBに比べて少ない(X<Y)の場合にはY/Xは当然1以上となり、特に最大値に制限は無いが、好ましいY/Xは100以下で、さらに好ましくは10以下である。
また、結合の形態については特に制限されず、例えば、以下に示すような形態を挙げることができる。すなわち、(1)機能性化合物Aと機能性化合物Bが1:1で結合したもの、(2)機能性化合物AがX個(Xは2≦X≦10の整数)からなる結合体と機能性化合物BがY個(Yは2≦Y≦10の整数)からなる結合体が結合したもの、および、(3)機能性化合物Aに複数個の機能性化合物Bが結合したもの等を挙げることができる。
【0030】
次に、本発明により得られる結合体を用いて配向型機能性材料を形成する方法、より具体的には本発明の結合体を基板に対してホメオトロピックに配向させたディスコティックカラムナー相形成のための方法について説明する。
最も簡便な方法としては、本発明の結合体を二枚の平滑な基板間に挟むことにより、この目的は達成される。用いる基板としては、形成する配向型機能性材料の厚みに比べて充分平滑であれば特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。また、例えば金属板のように不透明であっても良く、金、銀、クロム、銅、タングステン、アルミニウム、クロムやステンレスなどの平滑な金属板などが挙げられる。二枚の基板に挟む際には、必要に応じて加熱・加圧等を行っても良い。
【0031】
また、本発明の結合体を溶解可能な溶媒に溶解して溶液とし、基板に塗布した後、溶媒を除去する方法も可能である。用いる溶媒は結合体を溶解し得るものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル等を挙げることがでる。また、溶液中の結合体の濃度については特に制限はないが、作製上の観点から0.1〜5質量%程度が好ましい。なお、結合体が溶解し難い場合には、撹拌、加熱等の操作を行ってもよい。
次いで、結合体溶液を基板表面に塗布する。基板としては、先に示した基板と同様で、適度に平滑性があれば問題ない。本発明の結合体の溶液を基板表面に塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、キャスト、スピンコート、スプレーコート、バーコート等の方法によって実施することができる。また、塗布量については特に制限はないが、通常は、基板1cm当たり0.002〜0.1ml程度が好ましい。次いで、上記溶媒を蒸発させることにより、結合体による機能性材料を形成することができる。溶媒を蒸発させる方法としては、例えば、基板を加熱する方法が挙げられる。
【0032】
作製法および用いた結合体の構造によっては、基板に挟むことで、あるいは溶液状態の結合体を塗布することで、自然に基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶状態が達せられる場合もある。しかしながら、自然に基板に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶状態が達せられない場合には、必要に応じて配向させるための操作を行うことができる。
配向させる手段としては、例えば機能性材料を基板ごと加熱するなどにより、一旦液晶相における等方相が得られるまで昇温させた後、ゆっくりと冷却する方法などをとることが出来る。
【0033】
結合体が基板面に対してホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶相をとって配向していることの確認方法は、例えばX線回折測定法によって機能性材料にディスコティックカラムナー相特有の規則構造があることを確認した後、偏光顕微鏡観察によって、基板との鉛直方向からクロスニコル下では暗視野、基板を傾けることにより明るくなることを観察することにより確認できる。
また、補助的には偏光顕微鏡によりカラムナー層に固有のホメオトロピックに配向したディスコティックカラムナー液晶相に特徴的なデンドリックなテクスチャー構造が観察される場合もある。
【0034】
次に、本発明の配向型機能性デバイスについて説明する。
本発明の配向型機能性デバイスとしては、例えば、透明導電性基板上に光吸収剤として本発明のディスコティックカラムナー液晶性化合物による配向型機能性材料、対極を順次積層配置した構造をもつものが挙げられる。あるいは、本発明の配向型機能性材料による薄膜を作製した導電性基板上と対極の間に適当な電解質を有する形を挙げることができる。本配向型機能性デバイスは、例えば配向型機能性材料が光吸収による電荷発生を行うことで、光照射により取り出し電荷量、すなわち電流値の変化する光電変換素子としての特性を示す。
【0035】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明電極層を積層させて製造される。透明基板としては特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0036】
また、電極の導電層を形成する透明導電膜としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されることはなく、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。
膜厚は通常、1nm〜50μm、好ましくは10nm〜10μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常、0.01〜500Ω/sq、好ましくは0.1〜50Ω/sqである。
【0037】
対極は、通常、金、白金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、カリウムなどの金属、あるいはカーボン電極などを用いることができる。対極の設置方法については、真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法や、溶媒に分散した金属微粒子を塗布し、溶媒を揮発除去する等の公知の方法で成膜しても良い。
本発明において用いられる電解質としては特に限定されず、液体系でも固体系のいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光電変換素子の作用する電位領域において、可逆的に電気化学的酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2V vs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
【0038】
電解質のイオン伝導度は、通常、室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上であることが望ましい。
電解質層の厚さは特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また、3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。かかる電解質としては、上記の条件を満足すれば特に制限されるものでなく、液体系および固体系とも、本技術分野で公知のものを使用することができる。
素子特性の評価については、透明電極および対極にそれぞれ電流測定用の端子を取り付け、光照射の有無による電流値の変化について測定を実施すれば良い。
【実施例】
【0039】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
溶媒のジクロロメタンは五酸化二リン上で蒸留し、トリエチルアミンはKOH上で常圧蒸留をしたものを用いた。化合物(1)0.065g(0.018mmol)を乾燥ジクロロメタン40mlに溶かし、それに乾燥トリエチルアミン10mlとマロニルクロライド0.0032g(0.023mmol)を加えた。この溶液を40℃で24時間攪拌した。反応終了確認後、クロロホルムで抽出、芒硝乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム,silicagel,Rf=0.5)にかけ、酢酸エチルから3回再結晶精製をして、緑色の化合物(2)を0.050g得た。収率は62%であった。
【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
IR(KBr法,cm−1);
1742(RCOO−),2923,2852(CH),1511(Ar−H)
分子式(分子量):C23036024Cu(3684.81)
質量分析値:3684.54
計算値(%):C,74.97;H,9.85;N,3.04
分析値(%):C,74.68;H,9.55;N,2.82
【0044】
次に、化合物(2)とC60の結合を行った。溶媒のトルエンは、ワイヤー状にした金属ナトリウムとともに蒸留したものを用いた。化合物(2)(0.050g,0.013mmol)とジアザビシクロウンデセン2滴、C60(0.050g,0.065mmol)、ヨウ素(0.0040g)を乾燥トルエン60mlに溶かし、室温で一昼夜攪拌した。反応終了確認後、クロロホルムで抽出、芒硝乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:n−ヘキサン=4:3,silicagel,Rf=0.65)にかけ、酢酸エチルから3回再結晶精製を行った。その後、リサイクルHPLCで精製し、それぞれ緑色である結合体(1)〜(3)の3種を得た。収量は次のとおりであった。
結合体(1)[1:1化合物]:0.012g
結合体(2)[1:2化合物]:0.020g
結合体(3)[1:3化合物]:0.0060g
【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
結合体(1):収率20%、
分子式(分子量):C29035824Cu(4403.62)
質量分析値:4404.91
計算値(%):C,79.59;H,8.93;N,2.54
分析値(%):C76.36;H,8.58;N,2.28
結合体(2):収率38%、
分子式(分子量):C5207161648Cu(8086.84)
質量分析値:8086.26
計算値(%):C,77.24;H,8.92;N,2.77
分析値(%):C,76.94;H,8.63;N,2.46
結合体(3):収率11%、
分子式(分子量):C75010742472Cu(11768.76)
質量分析値:11765.40
【0049】
本実験において使用した装置は以下の通りである。元素分析はPerkin-Elmer elemental analyzer 2400を用いて行った。質量分析測定はMALDI-TOF massスペクトル(PerSeptive Biosystems Voyager DE-Pro spectrometer)を用いて測定した。全てのフタロシアニン誘導体の吸収スペクトルは、日立U−4100型自動分光光度計を用いて測定した。溶液スペクトルは、クロロホルム中、光路長1cmの石英セルを用いて測定した。相転移挙動はホットステージ付き偏光顕微鏡オリンパスBH−2(Mettler FP82HT hot stage, Mettler FP-90 Central Processor)を用いて観察し、転移温度、転移エンタルピーは示査走査熱量計Simadzu DSC-50用いて測定した。液晶相の同定にはCu−Kα線を線源としたRigaku Rad 広角X線回折装置およびマックサイエンス(現:ブルカー・エイエックスエス)CCD/X線小角散乱装置SAXS−CCDを用いた。Rigaku Rad のX線装置には手作りの加熱装置を装着し、温度はコントローラーで制御した。マックサイエンス SAXS−CCD装置には、メトラーのホットステージFP82HTを装着し、温度はコントローラーFP90で制御した。各化合物の相転移図と各液晶相のX線データを表1と表2に示した。表1は結合体(1)および(2)の液晶相温度変化を示し、表2は結合体(1)および(2)のX線結晶解析の結果を示す。
【0050】
【表1】

【表2】

【0051】
液晶相の同定は加熱X線構造解析とDSC、偏光顕微鏡(POM)観察で行った。結合体はPOM観察でモノドメインなホメオトロピック配向を示すことが確認できたことにより、分子がface−to−faceに積み重なってカラムを形成するテトラゴナル相、あるいは、ヘキサゴナル相を形成していることがわかった。さらに、加熱X線構造解析より、回折ピークのスペーシング比がテトラゴナル相特有のものであることを確認し、生成した結合体がモノドメインなホメオトロピック配向を示し、その液晶相がテトラゴナル相であると同定できた。
【0052】
[実施例2]
実施例1により合成した結合体(1)を少量スパチュラでとり、二枚の清浄なガラスの間に挟みこんだ。このガラスを、ヒーターの間に挟みこみ、同時にPOMにて観察しながら昇温すると122℃以上において、均一なアイソトロピック状態となった。そこで、この結合体をガラス基板ごと冷却すると、顕微鏡視野の全面に渡ってホメオトロピックな配向が広がり、配向型機能性材料による薄膜を形成することができた。
【0053】
[実施例3]
実施例1により合成した結合体(1)をクロロホルムに1wt%で溶解させ溶液とした。この溶液を、ITO付きガラス基板上に500rpmスピンコート法により塗布すると、光学的には均一な薄膜を形成した。POMで観察すると、クロスニコル下、暗視野状態においても、光は透過しなかったことから、既にホメオトロピックな配向が出来上がった配向型機能性材料による薄膜を形成することができた。
【0054】
[実施例4]
短冊状にパターニングしたITO基板上に、実施例3と同様の方法で機能性材料による薄膜を塗布、作製した。次に、短冊状のITOパターンと直交し、一部が交差する長方形の窓をもった蒸着用マスクを用いて、その窓を通してアルミニウムを1000オングストロームの厚みで成膜した。基板上のITO端とアルミニウム端にそれぞれ導線をハンダで固定し、配向型機能性デバイスを作製した。本配向型機能性デバイスをI−Vカーブトレーサーに接続し、キセノンランプより光照射を行い、光照射の有無におけるI−Vカーブ特性を測定したところ、光照射により光電流の変化が観測され、本配向型機能性デバイスが、光応答性素子として利用できることを確認した(図2)。
【0055】
本発明により、ディスコティックカラムナー液晶性分子を基板上に塗布し、テトラゴナル相を形成し、モノドメイン性のホメオトロピック配向状態の配向型機能性材料による薄膜を形成することができた。この配向型機能性材料による薄膜を用いることで、配向型機能性デバイスを作成することができた。このデバイスは、配向型機能性材料による薄膜を用いることで、配向型機能性デバイスは光照射に対して光電流を変化させる、光電変換デバイスとして用いることができた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ディスコティックカラムナー液晶性分子がカラムナー相をとって配向した際の分子の配置を示す模式図である。
【図2】本発明の配向性デバイスの光照射に伴う電圧電流特性の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の機能性化合物が結合した結合体であって、当該結合体において、基板上でホメオトロピックなディスコティックカラムナー液晶性を示すことを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の2種類の機能性化合物の可逆的な酸化還元電位が異なることを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物の結合体を構成する機能性化合物のうち少なくとも片方が、1つまたは複数個のアルキル基あるいはアルコキシ基を置換基として有するフェノキシまたはナフタロキシ構造の少なくともどちらか一方を修飾基として有することを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物を構成する機能性化合物の少なくとも一つが、フタロシアニンであることを特徴とする新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の新規ディスコティックカラムナー液晶性化合物を配向させて得られる配向型機能性材料。
【請求項6】
請求項5記載の配向型機能性材料を用いて作製した配向型機能性デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−214227(P2008−214227A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51926(P2007−51926)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年日本液晶学会討論会講演予稿集,第197〜198ページ,平成18年9月1日発行
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】