新規プロトン伝導体及びその製造方法
【課題】超プロトン伝導相への相転移点以下の温度で無機固体酸のプロトン伝導度を向上させた大容量キャパシタ及び燃料電池を提供する。
【解決手段】陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させる。
【解決手段】陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量キャパシターや燃料電池に用いられている電気化学的エネルギー変換デバイス用プロトン伝導体の製造方法に関し、これを固体電解質として用いた大容量キャパシター並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素と酸素の化学反応により発電を行なうシステムである。反応生成物は原理的には水のみであるため、地球環境に与える負荷が小さいエネルギー源として大きな期待が寄せられている。このような世界的認識の高まりを背景として燃料電池の実用化技術の開発が緊急の社会要請となっている。燃料電池開発のための重要な技術要素として、高いプロトン伝導性能を持つ固体電解質材料の開発がある。現在、主に実用化研究が進められているのは、パーフルオロスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いた固体高分子型プロトン伝導体であるが、プロトンの移動媒体として水を必要とするなどの問題のため、作動温度の上限が通常は80℃程度までに限られるのが一般的である。
【0003】
一方、燃料電池の作動温度として好ましいのは、エネルギー効率、廃熱利用などの観点から、100℃以上、特に150℃以上と考えられている。この温度条件を満たす電解質材料として注目されているのが硫酸水素セシウムを代表とする無機固体酸である(特許文献1参照)。例えば、硫酸水素セシウムは143℃付近以上で構造相転移を起こし、超プロトン伝導相と呼ばれる高いプロトン伝導度を持つ固相状態に変化する。(超プロトン伝導相とは、10−3S/cm以上のプロトン伝導度を持つ固体状態をいう(非特許文献1参照)。)この超プロトン伝導相の状態を固体電解質材料として利用することにより、好ましい作動状況での燃料電池運転が可能となる。この他にも、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二硫酸水素三アンモニウム((NH4)3H(SO4)2)、リン酸二水素硫酸水素二セシウム(Cs2(HSO4)(H2PO4))、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO4)2)等、数種類の無機固体酸が同様の超プロトン伝導相を発現することが報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0004】
超プロトン伝導相への転移温度以下でも高いプロトン伝導性を発現させるため、シリカゲルのような微細孔を持つ物質と混合することで相転移を抑制する方法(特許文献2、非特許文献5、非特許文献6参照)や保水性を持つ有機ポリマーと混合して室温付近の伝導度を向上させる方法(特許文献3参照)などが知られている。これらは無機固体酸と、添加剤としての固体を混合して製造される点で共通しており、ここでは混合系プロトン伝導体と総称する。
【0005】
【特許文献1】特表2004-537834
【特許文献2】特開2005-183121
【特許文献3】特願2007-284846
【非特許文献1】Nature, vol.410, pp.910-913 (2001)
【非特許文献2】Journal of Materials Science Letters, vol.16, pp.2011-2016 (1981)
【非特許文献3】Solid State Ionics, vol.136-137, pp.229-241(2000)
【非特許文献4】JournalofThe Electrochemical Society, vol.155, pp.B958-B962(2008)
【非特許文献5】JournalofThe Electrochemical Society, vol.153, pp.A339-A342(2006)
【非特許文献6】Solic State Ionics, vol.179, pp.1170-1173(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの混合系プロトン伝導体は一般に、材料の混合方法として無機固体酸の水溶液に添加剤としての固体を含浸する方法や、固体状態の無機固体酸と添加剤を乳鉢などで擦る方法など物理的な手法を用いて合成されるが、実際に燃料電池として動作させると起電力がやや低いという問題がある。(非特許文献5のFig.8)起電力が低いことはエネルギー変換デバイスとしての効率が損なわれることを意味し、競合技術に比べて高い効率を実現できることが特徴である燃料電池としては、是非解決しなければならない課題である。
【0007】
起電力が低い理由として、非特許文献5では燃料電池として作動させる際に水素ガスが燃料極側から酸素極側に若干漏れ出すためであろうと結論付けている。また漏れの原因として、合成された材料の密度が低いことも指摘している。また、非特許文献5に開示されているとおり、この材料は一度加熱された後に冷却すると、可逆的に低温相に戻り、再び加熱した際に相転移を示す。このことは運転停止サイクルのたびに体積変化を伴う材料の変形が起きている可能性を示しており、微細な隙間が生じて水素ガスの漏れが生じるなどの機構によって燃料電池の性能が損なわれる可能性が否定できない。
【0008】
また、動作時の抵抗損失による効率の低下を避けるために電気伝導度のいっそうの向上が必要であることはいうまでもない。従って、無機固体酸型電解質を実用化するためには、従来よりも電気伝導度が高く、かつ相転移がなく、起電力が高い、優れたプロトン伝導体の新しい製造方法が必要である。本発明は、従来よりも高い電気伝導度と電圧を得ることができ、相転移の問題を解決した電気化学的エネルギー変換デバイス用プロトン伝導体の新しい製造方法を提供し、このプロトン伝導体を固体電解質として用いた大容量キャパシタ及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を重ね、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の溶液で中和することを特徴とする、プロトン伝導体の製造方法を開発した。また、この中和反応によって合成された混合系プロトン伝導体が、従来の物理的な混合法を用いて製造されたプロトン伝導体と相転移挙動が異なるとともに、高い電気伝導度を示すこと、また燃料電池に利用した際に従来の混合系プロトン伝導体よりも高い電圧を発生することを見出した。 すなわち、本発明は、陽イオンRi+(RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)で示される陽イオンRi+と、第一の酸化物陰イオンYpOqj−(式中jは3〜4の整数であり、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、第二の酸化物陰イオンXrOsk−(式中、kは1〜4の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させたプロトン伝導体である。また、本発明においては、第一の酸化物陰イオンが非晶質の構造をとっており、第二の酸化物陰イオンがプロトンと結合していることができる。さらに、本発明は、150℃以上の温度まで加熱後、室温まで冷却し、さらに再度150℃まで加熱した際に、示差熱分析計によって相転移が観測されないプロトン伝導体である。また、本発明は、このようなプロトン伝導体を電解質に用いた燃料電池である。さらに、本発明は、このようなプロトン伝導体を電解質に用いた大容量キャパシタである。
【0010】
また、本発明は、陽イオンRi+(RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)で示される陽イオンRi+と、第一の酸化物陰イオンYpOqj−(式中、jは1〜4の整数であり、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、第二の酸化物陰イオンXrOsk−(式中、kは1〜4の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法である。さらに、本発明においては、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−の組成比を、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−が溶解したアルカリ性の水溶液が、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができる範囲の組成比とすることができる。またさらに、本発明においては、第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の濃度を調節することにより、電解質の特性をコントロールすることができる。 また、本発明においては、第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の比率を調節することにより、電解質の特性をコントロールすることができる。さらに、本発明はこのようなプロトン伝導体を、150から300℃において熱処理を行うことを特徴とするプロトン伝導体の活性化方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、新しいプロトン伝導体であり、従来の物理的な混合法を用いて製造されたプロトン伝導体と異なった相転移挙動を示す、高いプロトン伝導度を示す混合系プロトン伝導体を作成することができる。さらに、本発明においては、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンと第二の酸化物陰イオンの添加割合により、種々の特性を有するプロトン伝導体を作ることができる。また燃料電池に利用した際に従来の混合系プロトン伝導体よりも高い電圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性
の水溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法を、詳しく述べる。 陽イオンRi+は特に限定されないが、長周期型周期律表第1A族、第4A族および第4B族の元素からなるイオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。例えば、Na+、K+,Cs+,Rb+などのアルカリ金属イオンが好ましいが、これに限定されない。
【0013】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−はY=B,Al,Si,Y,Sc,Laである元素の酸化物から選ばれる1種を好ましく用いることができるがこれに限定されない。とくにケイ酸イオンが好ましい。ケイ酸イオンとしては、オルトケイ酸イオンSiO44−の他にSiO32−、Si2O76−、Si4O116−,Si6O1812−など多様な化学種が知られている。 第二の酸化物陰イオンとしては、オキソ酸の陰イオンXrOsk−が好ましく、代表的には(SO4)2−,(PO4)3−,(SeO4)2−,(ClO4)−を挙げることが出来るがこれに限定されない。 陽イオンと第一の酸化物陰イオンの組み合わせは、アルカリ性の水溶液を構成することができればとくに限定されないが、Na+,K+,Cs+,Rb+などのアルカリ金属イオンとケイ酸イオンからなる組み合わせを特に好ましく用いることができる。
【0014】
陽イオンと第二の酸化物陰イオンの組み合わせは、上記のものであればとくに限定されないが、無機固体酸型プロトン伝導体を構成することが知られているものであれば特に好ましい。このような物質としては、CsHSO4の他に、CsH2PO4,KH2PO4, KHSO4, NH4HSO4,RbHSO4, CsHSeO4, Rb3H(SeO4)2,(NH4)3H(SO4)2,K3H(SO4)2,H3OClO4などが知られている。また、陰イオンを二種類以上含む、混酸タイプもあり、Cs2(HSO4)(H2PO4),Cs3(HSO4)2[H2−x(P1−xSx)O4]といったものが知られている。 第一の酸化物陰イオンと第二の酸化物陰イオンの組み合わせは、上記のものであればとくに限定されないが、相互に反応して安定な無機化合物を生じるものが特に好ましい。このような組み合わせを例示すると、第一の酸化物陰イオンがケイ酸、第二の酸化物陰イオンとしてリン酸を挙げることができるが、この二種類の酸化物を混合後加熱するとSiP2O7という安定な化合物を生じることが知られており、本発明においてこの組み合わせを用いた場合、安定な固体を生じることが期待できる。同様の効果が期待できる組み合わせを例示するならば、リン酸アルミニウムを生成する、第一の酸化物陰イオンとしてアルミン酸イオン(AlO33-)、第二の酸化物陰イオンとしてリン酸イオンの組み合わせを挙げることができる。
【0015】
本発明における、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の水溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させる手段は、公知技術を用いることができる。例えばマグネチックスターラーのようなものでアルカリ性の水溶液を攪拌しながら酸性水溶液を一滴ずつ滴下していくことができる。反応温度は常温でよいが、加熱あるいは冷却された状態で行うこともできる。滴下する速度は、滴下終了まで10秒から3時間程度が好ましいが、加減しても良い。滴下の際に、溶液のpHを監視しながら行い、途中で滴下を休止したり再開する手順をとっても良い。とくに、第一の酸化物としてケイ酸を用いた場合はケイ酸塩の析出が始まるpH10付近で滴下を休止することで析出する物質の微細構造に影響を与える可能性が高い。また、定められたpHへの到達を持って滴下終了とすることで、再現性を向上させることができる。 陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の水溶液の組成は、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができるものであれば任意の割合でよいが、たとえばセシウムとケイ酸の場合はCs4SiO4のように良く知られた水溶性化合物の組成を好ましく用いることができる。
【0016】
また、中和反応に用いる二種類の水溶液の濃度は得られる電解質の特性が最良となるように加減することができる。また、二種類の水溶液の比率は得られる電解質の特性が最良となるように加減することができる。この比率の管理が必要である場合には、中和終了時のpHを用いると簡便である。 反応が完了した後は、溶液から水分を取り除くことによって固形の製品を得ることができるが、乾燥させる手段は特に限定されない。例えば150℃程度のホットプレートによる加熱や、真空乾燥、乾燥剤との接触など公知技術を用いることができる。 乾燥によって得られた固体を成型する手段は公知技術を用いることができる。たとえば油圧プレスによって加圧成型しても良いがこれに限定されず、溶媒に混和して塗布する方法を用いても良い。さらに前記の乾燥工程と一括して進めるため、反応完了後ただちに溶液のまま塗布し、そのまま乾燥させて目的の形状を得る方法をとっても良い。
【0017】
前記の乾燥工程と一括して進める例としては、あらかじめ用意された第一の電極板の上に中和反応を終えた溶液を噴霧堆積させ、加熱乾燥した後に第二の電極板を重ねるような燃料電池の製造法が挙げられる。もちろん、前記のように油圧プレスによって加圧成型した電解質に第一の電極版と第二の電極板を圧着して燃料電池を製造することもできる。 得られた固体電解質、あるいはそれを組み込んだ大容量キャパシタや燃料電池は、熱処理を行って性能を向上させる、活性化方法をとることができる。 熱処理を行う温度は特に限定されないが、例えば190℃で数十分加熱することで、それより低い温度例えば150℃での性能を向上させることができる。熱処理を行う温度を決定するにあたって、示差熱分析DTAは有用である。たとえば、試料の温度を上昇させたときに150℃に大きな吸熱ピークがみられる固体電解質であれば、150℃以上で熱処理を行うことで、それ以下の温度における特性例えば電気伝導度、燃料電池セルの起電力、出力電力を向上させることができる。
【実施例1】
【0018】
はじめに陽イオンCs+と第一の酸化物陰イオンSiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を用意した。
この水溶液の製造法は特に限定されないが、例えば以下の方法を用いることができる。
ムライトるつぼに無水けい酸SiO2 [Mw=60.084]3.00gおよび炭酸セシウムCs2CO3 [Mw=325.819]32.54gを量り取り、電気炉で990℃まで加熱したところ完全に溶融したので約20分後にアルミ板に流しだして固化した。この固体を粉砕し、得られた固体2.71gに水を加えて完全に溶解し全容を35mlとして、陽イオンCs+と第一の酸化物陰イオンSiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物陰イオンPO43-を含む酸性の水溶液である、リン酸水溶液(液状リン酸[85%, MW=97.995]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下したところ溶液はしだいにゲル状になった。リン酸水溶液を8.91ml滴下したところで操作を終了した。なおリン酸水溶液を滴下する量を加減することによって得られるプロトン伝導体の電気伝導度は変化する。
【0019】
得られたゲル状の溶液をホットプレート上で蒸発固化させた。この固体の粉末X線回折測定を行ったところ、同じ元素から構成されている、非特許文献5に開示されている物質とは異なる回折図形を示した。(図1)非特許文献5では第一の酸化物に相当するケイ酸が結晶性のSiP2O7を構成しており、回折図形はSiP2O7とCsH5(PO4)2の和となっている。これに対し、図1ではSiP2O7の回折ピークが見られず、CsH5(PO4)2と極めて少量のCsH2PO4からなると思われる回折図形を示している。以上のことから、非特許文献5に開示されている物質と構造が異なることは明らかである。
【0020】
この固体を加熱しながら粉末X線回折測定を行ったところ、140℃付近で回折が消失し、アモルファスからと思われる散乱が観察された。200℃まで加熱して20分間温度を維持した後、室温まで冷却して粉末X線回折測定を行ったところ、同様のアモルファス状散乱のみが観察された。そのまま室温で3時間放置し粉末X線回折測定を行ったところ、やはり同様のアモルファス状散乱のみが観察された。(図2)なお、2−theta=38.4度付近に見られる回折ピークは、試料ホルダーのアルミニウムからの回折である。非特許文献4では、CsH5(PO4)2を融点(約153℃)で融解した後、冷却すると結晶性成分が現れることが記述されている。この点において、非特許文献4に開示されている物質とは異なる物質が生成したものと考えられる。
【0021】
この固体を型に充填し、直径15.0mm厚さ1.6mmペレットを392MPaの油圧プレスを用いて成型、作成した。このペレットを厚み方向に破断し、へき開面を操作型電子顕微鏡(SEM)で観察し、さらにエネルギー分散型X線検出器(EDX)で元素分布を調べた。結果を図15から図19に示す。ペレット全体にわたり、ほぼ均一な構造と組成であることがわかる。比較例1で示すように、特許文献2に記載された固体酸とシリカゲルを物理的に混合する方法から得られたプロトン伝導体では、SiがSiO2として粗大粒子および粉砕された微細粒子が観察された。このことから、特許文献2に記載されているプロトン伝導体とは構造が異なることは明らかである。
【0022】
この固体を型に充填し、直径15.0mm厚さ1.6mmペレットを392MPaの油圧プレスを用いて成型、作成した。ペレットには直径13.00mmの白金担持炭素電極(Pt/C電極)を取り付けた。このペレットを用いて電気伝導率を評価した。プロトン伝導性の測定装置は、特許文献3で用いたものと同じものを用いた。まず、乾燥N2ガス雰囲気および湿潤N2ガス雰囲気における温度依存性を調べた。結果を図3および図4に示す。図中には比較のためにCsH2PO4の測定結果も示した。 3回目、4回目も2回目とほぼ同じ特性を示した。
乾燥雰囲気では、CsH2PO4単体と比較して全ての温度領域にわたって高い伝導率を示した。特に、相転移温度(約200℃)以下の伝導率が高く、相転移による伝導度ジャンプが見られなかった。
200℃付近における電気伝導度は、非特許文献5に記載されている電気伝導度の値よりも明らかに高かった。
図3に示す電気伝導率の温度依存性は、非特許文献4に記載されているCsH5(PO4)2のそれと類似しており、プロトン伝導のメカニズムにはリン酸ユニットを含む新規物質がかかわっていると推測される。
【0023】
次にペレットのTG(熱重量分析)およびDTA(示差熱分析)測定を乾燥N2ガス及び湿潤N2ガス気流下で行った。結果を図4から7に示す。図5は乾燥窒素ガスを流しながら昇温する測定を二度行った際のTG測定結果である。昇温1回目に脱水反応と考えられる重量減少が認められるが、それが収束した後、二回目には重量変化が見られなくなることから、安定な物質が得られたことが分かる。
図6は同時に測定されたDTA測定の結果である。DTA測定では、昇温1回目で140℃付近に現れた吸熱ピークが昇温2回目では見られなくなった。これは、1回目の昇温時に非可逆的な変化が起きて相転移が消失したものと考えられる。また、CsH2PO4で起こる220℃付近の相転移にともなう吸熱も観察されなかった。このことは、このプロトン伝導体に含まれるリン酸塩は、CsH2PO4とは異なる物質であることを示している。
湿潤雰囲気において同様に2回繰り返しの測定を行った図7と図8においても同様であったことから、湿潤雰囲気においても安定で、相転移が消失していることが分かる。
【0024】
このペレットを用いて、燃料電池のセルを構成し、発電試験を行った結果を図9から12に示す。測定には加湿していない空気と水素ガスを用いた。
図9は、セルの温度を150℃に上昇させたときの電流電圧特性と出力電力のグラフである。開回路電圧(OCV)は0.703Vであった。
図10は、さらに195度に上昇させて測定を行った結果で、OCVは0.910Vであり、非特許文献5のFig.8に開示されているOCV0.75Vと比較して約0.15V高かった。出力は19.5mw/cm2であった。
【0025】
再起動時の性能を測定するために、図9の測定の後セルを室温まで冷却し、再び150℃に加熱して測定を行った結果が図11である。OCVは0.908Vであり、最初の加熱を行うことによって電解質が活性化され、150℃でも高いOCVが得られる状態に変化したことがわかる。
同様の試験を別の試料に対して行ったところ、図12に示すように165℃で0.955Vの開回路電圧が得られた。
【0026】
実施例1で得られる固体の第一の酸化物陰イオン部分の構造を既存の二酸化ケイ素と比べるために、実施例1で得た固体を蒸留水を加えて第二の酸化物陰イオンを溶解し、不溶物を吸引ろ過し、蒸留水による洗浄を行った後に風乾して測定用試料とした。
この測定用試料のラマン散乱スペクトル及び赤外吸収スペクトルを室温で測定した。ラマン散乱スペクトルは、波長488nmのアルゴンレーザー光を光源に用いた。赤外吸収スペクトルは、ダイヤモンドアンビル・セルで挟み厚みを薄くした状態で測定した。結果を図13および14に示す。既存の不定形二酸化ケイ素の例として、同様にして測定したシリカゲル乾燥剤のスペクトルを併せて示す。図13のラマン散乱スペクトルにおいて、350及び1000 cm-1付近のピークプロファイルが特徴的であり、既存の二酸化ケイ素と異なる構造であることがわかる。図14の赤外吸収スペクトルでは、Si-O-Si結合に起因する450 cm-1付近のrocking mode、800, 1000 cm-1付近のbending mode、1100 cm-1付近のstretching modeが観測され、第一の酸化物陰イオン部分がSi-O-Si結合を有することがわかる。さらに1000 cm-1付近のbending modeのピーク位置が異なることから、微細な構造は既存の二酸化ケイ素とは異なっていることが赤外吸収スペクトルからもわかる。
(比較例1)
【0027】
実施例1で作成したプロトン伝導体と比較するため、特許文献2で開示されているリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とシリカゲルSiO2を、物理的に混合した試料を作成し、その構造をSEMで観察した。混合比CsH2PO4:SiO2 =
69.9 :30.1 (モル 比)=89.9 : 10.1 (重量比)で混合した粉末CsH2PO4/SiO2を試作し試料とした。(ここで、SiO2はNa2SiO3から作られる。)混合粉末であるCsH2PO4/SiO2はハンドプレスでー方向に加圧され、ペレット状に成形した後、EDXにてO,P,Si、Cs元素の分析を行った。(図20から図24)
図22に示したようにSiの分析でSiがSiO2として粗大粒子および粉砕された微細粒子が観察された。実施例1による本製造方法による混合物のEDX分析では、図17に示すようにSiはほぼ均一に分散されている。このことから、特許文献2に記載されているプロトン伝導体と本発明に係るプロトン伝導体の構造が異なることは明らかである。
【実施例2】
【0028】
水酸化カリウムKOH[Mw=56.11]2.24gを量り取り、これを入れた10mlのムライトるつぼに水酸化アルミニウムAl(OH)3[Mw=78]0.78gを入れて、電気炉で加熱した。430℃で蒸発するような音がしたので加熱を休止し、音が収まるのを待って980℃まで加熱した。10分間保持した後放冷したところ、未反応のアルミナと思われる少量のやや褐色がかった粉末以外は白い固体に変化していた。得られた白い固体をを粉砕し、その固体0.20gに水を20g加えて溶解し、5cのろ紙でろ過し陽イオンK+と第一の酸化物AlO33−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物PO43−を含む酸性の水溶液である、リン酸水溶液(液状リン酸[85%, MW=97.995]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下した。溶液のpHが3.03になったところで、溶液をホットプレート上で蒸発固化させ、プロトン伝導体を得た。
【実施例3】
【0029】
るつぼに無水けい酸SiO2 [Mw=60.084]3.00gおよび炭酸セシウムCs2CO3 [Mw=325.819]32.5gを量り取り、電気炉で990℃まで加熱したところ完全に溶融したので約20分後にアルミ板に流しだして固化した。この固体を粉砕し、得られた固体0.61gに水を20g加えて完全に溶解し、陽イオンCs+と第一の酸化物SiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物SO44−を含む酸性の水溶液である、硫酸水溶液(液状硫酸[98%, MW=98]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下したところ溶液はしだいに濁りをおびた。溶液のpHが2.03になったところで、得られた溶液をホットプレート上で蒸発固化させ、プロトン伝導体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で得られる新しいプロトン伝導体は、燃料電池、大容量キャパシタの電解質に用いることができるため、これらを利用する自動車や発電機に極めて有用な材料であり、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られるプロトン伝導体の粉末X線回折図形
【図2】実施例1で得られるプロトン伝導体を200℃まで加熱、室温冷却後の粉末X線回折図形
【図3】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥伝導度
【図4】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤伝導度
【図5】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥TG
【図6】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥DTA
【図7】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤TG
【図8】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤DTA
【図9】実施例1で得られる電解質の起電力測定1の一回目、150℃乾燥雰囲気のデータ。OCVは0.703V
【図10】実施例1で得られる電解質の測定1の一回目、195℃乾燥雰囲気のデータ。OCV=0.910V
【図11】実施例1で得られる電解質の測定1の二回目、150℃乾燥雰囲気のデータ。 OCV=0.908V
【図12】実施例1で得られる電解質の測定2の一回目、165℃乾燥雰囲気のデータOCV=0.955V
【図13】実施例1で得られるプロトン伝導体を水洗した残渣試料のラマン散乱スペクトル
【図14】実施例1で得られるプロトン伝導体を水洗した残渣試料の赤外吸収スペクトル
【図15】実施例1で得られたプロトン伝導体のSEM画像(×3000)
【図16】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(O)
【図17】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Si)
【図18】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(P)
【図19】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Cs)
【図20】比較例1で得られたプロトン伝導体のSEM画像(×3000)
【図21】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(O)
【図22】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Si)
【図23】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(P)
【図24】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Cs)
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量キャパシターや燃料電池に用いられている電気化学的エネルギー変換デバイス用プロトン伝導体の製造方法に関し、これを固体電解質として用いた大容量キャパシター並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は水素と酸素の化学反応により発電を行なうシステムである。反応生成物は原理的には水のみであるため、地球環境に与える負荷が小さいエネルギー源として大きな期待が寄せられている。このような世界的認識の高まりを背景として燃料電池の実用化技術の開発が緊急の社会要請となっている。燃料電池開発のための重要な技術要素として、高いプロトン伝導性能を持つ固体電解質材料の開発がある。現在、主に実用化研究が進められているのは、パーフルオロスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いた固体高分子型プロトン伝導体であるが、プロトンの移動媒体として水を必要とするなどの問題のため、作動温度の上限が通常は80℃程度までに限られるのが一般的である。
【0003】
一方、燃料電池の作動温度として好ましいのは、エネルギー効率、廃熱利用などの観点から、100℃以上、特に150℃以上と考えられている。この温度条件を満たす電解質材料として注目されているのが硫酸水素セシウムを代表とする無機固体酸である(特許文献1参照)。例えば、硫酸水素セシウムは143℃付近以上で構造相転移を起こし、超プロトン伝導相と呼ばれる高いプロトン伝導度を持つ固相状態に変化する。(超プロトン伝導相とは、10−3S/cm以上のプロトン伝導度を持つ固体状態をいう(非特許文献1参照)。)この超プロトン伝導相の状態を固体電解質材料として利用することにより、好ましい作動状況での燃料電池運転が可能となる。この他にも、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二硫酸水素三アンモニウム((NH4)3H(SO4)2)、リン酸二水素硫酸水素二セシウム(Cs2(HSO4)(H2PO4))、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO4)2)等、数種類の無機固体酸が同様の超プロトン伝導相を発現することが報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0004】
超プロトン伝導相への転移温度以下でも高いプロトン伝導性を発現させるため、シリカゲルのような微細孔を持つ物質と混合することで相転移を抑制する方法(特許文献2、非特許文献5、非特許文献6参照)や保水性を持つ有機ポリマーと混合して室温付近の伝導度を向上させる方法(特許文献3参照)などが知られている。これらは無機固体酸と、添加剤としての固体を混合して製造される点で共通しており、ここでは混合系プロトン伝導体と総称する。
【0005】
【特許文献1】特表2004-537834
【特許文献2】特開2005-183121
【特許文献3】特願2007-284846
【非特許文献1】Nature, vol.410, pp.910-913 (2001)
【非特許文献2】Journal of Materials Science Letters, vol.16, pp.2011-2016 (1981)
【非特許文献3】Solid State Ionics, vol.136-137, pp.229-241(2000)
【非特許文献4】JournalofThe Electrochemical Society, vol.155, pp.B958-B962(2008)
【非特許文献5】JournalofThe Electrochemical Society, vol.153, pp.A339-A342(2006)
【非特許文献6】Solic State Ionics, vol.179, pp.1170-1173(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの混合系プロトン伝導体は一般に、材料の混合方法として無機固体酸の水溶液に添加剤としての固体を含浸する方法や、固体状態の無機固体酸と添加剤を乳鉢などで擦る方法など物理的な手法を用いて合成されるが、実際に燃料電池として動作させると起電力がやや低いという問題がある。(非特許文献5のFig.8)起電力が低いことはエネルギー変換デバイスとしての効率が損なわれることを意味し、競合技術に比べて高い効率を実現できることが特徴である燃料電池としては、是非解決しなければならない課題である。
【0007】
起電力が低い理由として、非特許文献5では燃料電池として作動させる際に水素ガスが燃料極側から酸素極側に若干漏れ出すためであろうと結論付けている。また漏れの原因として、合成された材料の密度が低いことも指摘している。また、非特許文献5に開示されているとおり、この材料は一度加熱された後に冷却すると、可逆的に低温相に戻り、再び加熱した際に相転移を示す。このことは運転停止サイクルのたびに体積変化を伴う材料の変形が起きている可能性を示しており、微細な隙間が生じて水素ガスの漏れが生じるなどの機構によって燃料電池の性能が損なわれる可能性が否定できない。
【0008】
また、動作時の抵抗損失による効率の低下を避けるために電気伝導度のいっそうの向上が必要であることはいうまでもない。従って、無機固体酸型電解質を実用化するためには、従来よりも電気伝導度が高く、かつ相転移がなく、起電力が高い、優れたプロトン伝導体の新しい製造方法が必要である。本発明は、従来よりも高い電気伝導度と電圧を得ることができ、相転移の問題を解決した電気化学的エネルギー変換デバイス用プロトン伝導体の新しい製造方法を提供し、このプロトン伝導体を固体電解質として用いた大容量キャパシタ及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を重ね、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の溶液で中和することを特徴とする、プロトン伝導体の製造方法を開発した。また、この中和反応によって合成された混合系プロトン伝導体が、従来の物理的な混合法を用いて製造されたプロトン伝導体と相転移挙動が異なるとともに、高い電気伝導度を示すこと、また燃料電池に利用した際に従来の混合系プロトン伝導体よりも高い電圧を発生することを見出した。 すなわち、本発明は、陽イオンRi+(RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)で示される陽イオンRi+と、第一の酸化物陰イオンYpOqj−(式中jは3〜4の整数であり、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、第二の酸化物陰イオンXrOsk−(式中、kは1〜4の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させたプロトン伝導体である。また、本発明においては、第一の酸化物陰イオンが非晶質の構造をとっており、第二の酸化物陰イオンがプロトンと結合していることができる。さらに、本発明は、150℃以上の温度まで加熱後、室温まで冷却し、さらに再度150℃まで加熱した際に、示差熱分析計によって相転移が観測されないプロトン伝導体である。また、本発明は、このようなプロトン伝導体を電解質に用いた燃料電池である。さらに、本発明は、このようなプロトン伝導体を電解質に用いた大容量キャパシタである。
【0010】
また、本発明は、陽イオンRi+(RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)で示される陽イオンRi+と、第一の酸化物陰イオンYpOqj−(式中、jは1〜4の整数であり、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、第二の酸化物陰イオンXrOsk−(式中、kは1〜4の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法である。さらに、本発明においては、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−の組成比を、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−が溶解したアルカリ性の水溶液が、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができる範囲の組成比とすることができる。またさらに、本発明においては、第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の濃度を調節することにより、電解質の特性をコントロールすることができる。 また、本発明においては、第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の比率を調節することにより、電解質の特性をコントロールすることができる。さらに、本発明はこのようなプロトン伝導体を、150から300℃において熱処理を行うことを特徴とするプロトン伝導体の活性化方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、新しいプロトン伝導体であり、従来の物理的な混合法を用いて製造されたプロトン伝導体と異なった相転移挙動を示す、高いプロトン伝導度を示す混合系プロトン伝導体を作成することができる。さらに、本発明においては、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンと第二の酸化物陰イオンの添加割合により、種々の特性を有するプロトン伝導体を作ることができる。また燃料電池に利用した際に従来の混合系プロトン伝導体よりも高い電圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性
の水溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法を、詳しく述べる。 陽イオンRi+は特に限定されないが、長周期型周期律表第1A族、第4A族および第4B族の元素からなるイオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。例えば、Na+、K+,Cs+,Rb+などのアルカリ金属イオンが好ましいが、これに限定されない。
【0013】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−はY=B,Al,Si,Y,Sc,Laである元素の酸化物から選ばれる1種を好ましく用いることができるがこれに限定されない。とくにケイ酸イオンが好ましい。ケイ酸イオンとしては、オルトケイ酸イオンSiO44−の他にSiO32−、Si2O76−、Si4O116−,Si6O1812−など多様な化学種が知られている。 第二の酸化物陰イオンとしては、オキソ酸の陰イオンXrOsk−が好ましく、代表的には(SO4)2−,(PO4)3−,(SeO4)2−,(ClO4)−を挙げることが出来るがこれに限定されない。 陽イオンと第一の酸化物陰イオンの組み合わせは、アルカリ性の水溶液を構成することができればとくに限定されないが、Na+,K+,Cs+,Rb+などのアルカリ金属イオンとケイ酸イオンからなる組み合わせを特に好ましく用いることができる。
【0014】
陽イオンと第二の酸化物陰イオンの組み合わせは、上記のものであればとくに限定されないが、無機固体酸型プロトン伝導体を構成することが知られているものであれば特に好ましい。このような物質としては、CsHSO4の他に、CsH2PO4,KH2PO4, KHSO4, NH4HSO4,RbHSO4, CsHSeO4, Rb3H(SeO4)2,(NH4)3H(SO4)2,K3H(SO4)2,H3OClO4などが知られている。また、陰イオンを二種類以上含む、混酸タイプもあり、Cs2(HSO4)(H2PO4),Cs3(HSO4)2[H2−x(P1−xSx)O4]といったものが知られている。 第一の酸化物陰イオンと第二の酸化物陰イオンの組み合わせは、上記のものであればとくに限定されないが、相互に反応して安定な無機化合物を生じるものが特に好ましい。このような組み合わせを例示すると、第一の酸化物陰イオンがケイ酸、第二の酸化物陰イオンとしてリン酸を挙げることができるが、この二種類の酸化物を混合後加熱するとSiP2O7という安定な化合物を生じることが知られており、本発明においてこの組み合わせを用いた場合、安定な固体を生じることが期待できる。同様の効果が期待できる組み合わせを例示するならば、リン酸アルミニウムを生成する、第一の酸化物陰イオンとしてアルミン酸イオン(AlO33-)、第二の酸化物陰イオンとしてリン酸イオンの組み合わせを挙げることができる。
【0015】
本発明における、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の水溶液を第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させる手段は、公知技術を用いることができる。例えばマグネチックスターラーのようなものでアルカリ性の水溶液を攪拌しながら酸性水溶液を一滴ずつ滴下していくことができる。反応温度は常温でよいが、加熱あるいは冷却された状態で行うこともできる。滴下する速度は、滴下終了まで10秒から3時間程度が好ましいが、加減しても良い。滴下の際に、溶液のpHを監視しながら行い、途中で滴下を休止したり再開する手順をとっても良い。とくに、第一の酸化物としてケイ酸を用いた場合はケイ酸塩の析出が始まるpH10付近で滴下を休止することで析出する物質の微細構造に影響を与える可能性が高い。また、定められたpHへの到達を持って滴下終了とすることで、再現性を向上させることができる。 陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−を溶解したアルカリ性の水溶液の組成は、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができるものであれば任意の割合でよいが、たとえばセシウムとケイ酸の場合はCs4SiO4のように良く知られた水溶性化合物の組成を好ましく用いることができる。
【0016】
また、中和反応に用いる二種類の水溶液の濃度は得られる電解質の特性が最良となるように加減することができる。また、二種類の水溶液の比率は得られる電解質の特性が最良となるように加減することができる。この比率の管理が必要である場合には、中和終了時のpHを用いると簡便である。 反応が完了した後は、溶液から水分を取り除くことによって固形の製品を得ることができるが、乾燥させる手段は特に限定されない。例えば150℃程度のホットプレートによる加熱や、真空乾燥、乾燥剤との接触など公知技術を用いることができる。 乾燥によって得られた固体を成型する手段は公知技術を用いることができる。たとえば油圧プレスによって加圧成型しても良いがこれに限定されず、溶媒に混和して塗布する方法を用いても良い。さらに前記の乾燥工程と一括して進めるため、反応完了後ただちに溶液のまま塗布し、そのまま乾燥させて目的の形状を得る方法をとっても良い。
【0017】
前記の乾燥工程と一括して進める例としては、あらかじめ用意された第一の電極板の上に中和反応を終えた溶液を噴霧堆積させ、加熱乾燥した後に第二の電極板を重ねるような燃料電池の製造法が挙げられる。もちろん、前記のように油圧プレスによって加圧成型した電解質に第一の電極版と第二の電極板を圧着して燃料電池を製造することもできる。 得られた固体電解質、あるいはそれを組み込んだ大容量キャパシタや燃料電池は、熱処理を行って性能を向上させる、活性化方法をとることができる。 熱処理を行う温度は特に限定されないが、例えば190℃で数十分加熱することで、それより低い温度例えば150℃での性能を向上させることができる。熱処理を行う温度を決定するにあたって、示差熱分析DTAは有用である。たとえば、試料の温度を上昇させたときに150℃に大きな吸熱ピークがみられる固体電解質であれば、150℃以上で熱処理を行うことで、それ以下の温度における特性例えば電気伝導度、燃料電池セルの起電力、出力電力を向上させることができる。
【実施例1】
【0018】
はじめに陽イオンCs+と第一の酸化物陰イオンSiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を用意した。
この水溶液の製造法は特に限定されないが、例えば以下の方法を用いることができる。
ムライトるつぼに無水けい酸SiO2 [Mw=60.084]3.00gおよび炭酸セシウムCs2CO3 [Mw=325.819]32.54gを量り取り、電気炉で990℃まで加熱したところ完全に溶融したので約20分後にアルミ板に流しだして固化した。この固体を粉砕し、得られた固体2.71gに水を加えて完全に溶解し全容を35mlとして、陽イオンCs+と第一の酸化物陰イオンSiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物陰イオンPO43-を含む酸性の水溶液である、リン酸水溶液(液状リン酸[85%, MW=97.995]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下したところ溶液はしだいにゲル状になった。リン酸水溶液を8.91ml滴下したところで操作を終了した。なおリン酸水溶液を滴下する量を加減することによって得られるプロトン伝導体の電気伝導度は変化する。
【0019】
得られたゲル状の溶液をホットプレート上で蒸発固化させた。この固体の粉末X線回折測定を行ったところ、同じ元素から構成されている、非特許文献5に開示されている物質とは異なる回折図形を示した。(図1)非特許文献5では第一の酸化物に相当するケイ酸が結晶性のSiP2O7を構成しており、回折図形はSiP2O7とCsH5(PO4)2の和となっている。これに対し、図1ではSiP2O7の回折ピークが見られず、CsH5(PO4)2と極めて少量のCsH2PO4からなると思われる回折図形を示している。以上のことから、非特許文献5に開示されている物質と構造が異なることは明らかである。
【0020】
この固体を加熱しながら粉末X線回折測定を行ったところ、140℃付近で回折が消失し、アモルファスからと思われる散乱が観察された。200℃まで加熱して20分間温度を維持した後、室温まで冷却して粉末X線回折測定を行ったところ、同様のアモルファス状散乱のみが観察された。そのまま室温で3時間放置し粉末X線回折測定を行ったところ、やはり同様のアモルファス状散乱のみが観察された。(図2)なお、2−theta=38.4度付近に見られる回折ピークは、試料ホルダーのアルミニウムからの回折である。非特許文献4では、CsH5(PO4)2を融点(約153℃)で融解した後、冷却すると結晶性成分が現れることが記述されている。この点において、非特許文献4に開示されている物質とは異なる物質が生成したものと考えられる。
【0021】
この固体を型に充填し、直径15.0mm厚さ1.6mmペレットを392MPaの油圧プレスを用いて成型、作成した。このペレットを厚み方向に破断し、へき開面を操作型電子顕微鏡(SEM)で観察し、さらにエネルギー分散型X線検出器(EDX)で元素分布を調べた。結果を図15から図19に示す。ペレット全体にわたり、ほぼ均一な構造と組成であることがわかる。比較例1で示すように、特許文献2に記載された固体酸とシリカゲルを物理的に混合する方法から得られたプロトン伝導体では、SiがSiO2として粗大粒子および粉砕された微細粒子が観察された。このことから、特許文献2に記載されているプロトン伝導体とは構造が異なることは明らかである。
【0022】
この固体を型に充填し、直径15.0mm厚さ1.6mmペレットを392MPaの油圧プレスを用いて成型、作成した。ペレットには直径13.00mmの白金担持炭素電極(Pt/C電極)を取り付けた。このペレットを用いて電気伝導率を評価した。プロトン伝導性の測定装置は、特許文献3で用いたものと同じものを用いた。まず、乾燥N2ガス雰囲気および湿潤N2ガス雰囲気における温度依存性を調べた。結果を図3および図4に示す。図中には比較のためにCsH2PO4の測定結果も示した。 3回目、4回目も2回目とほぼ同じ特性を示した。
乾燥雰囲気では、CsH2PO4単体と比較して全ての温度領域にわたって高い伝導率を示した。特に、相転移温度(約200℃)以下の伝導率が高く、相転移による伝導度ジャンプが見られなかった。
200℃付近における電気伝導度は、非特許文献5に記載されている電気伝導度の値よりも明らかに高かった。
図3に示す電気伝導率の温度依存性は、非特許文献4に記載されているCsH5(PO4)2のそれと類似しており、プロトン伝導のメカニズムにはリン酸ユニットを含む新規物質がかかわっていると推測される。
【0023】
次にペレットのTG(熱重量分析)およびDTA(示差熱分析)測定を乾燥N2ガス及び湿潤N2ガス気流下で行った。結果を図4から7に示す。図5は乾燥窒素ガスを流しながら昇温する測定を二度行った際のTG測定結果である。昇温1回目に脱水反応と考えられる重量減少が認められるが、それが収束した後、二回目には重量変化が見られなくなることから、安定な物質が得られたことが分かる。
図6は同時に測定されたDTA測定の結果である。DTA測定では、昇温1回目で140℃付近に現れた吸熱ピークが昇温2回目では見られなくなった。これは、1回目の昇温時に非可逆的な変化が起きて相転移が消失したものと考えられる。また、CsH2PO4で起こる220℃付近の相転移にともなう吸熱も観察されなかった。このことは、このプロトン伝導体に含まれるリン酸塩は、CsH2PO4とは異なる物質であることを示している。
湿潤雰囲気において同様に2回繰り返しの測定を行った図7と図8においても同様であったことから、湿潤雰囲気においても安定で、相転移が消失していることが分かる。
【0024】
このペレットを用いて、燃料電池のセルを構成し、発電試験を行った結果を図9から12に示す。測定には加湿していない空気と水素ガスを用いた。
図9は、セルの温度を150℃に上昇させたときの電流電圧特性と出力電力のグラフである。開回路電圧(OCV)は0.703Vであった。
図10は、さらに195度に上昇させて測定を行った結果で、OCVは0.910Vであり、非特許文献5のFig.8に開示されているOCV0.75Vと比較して約0.15V高かった。出力は19.5mw/cm2であった。
【0025】
再起動時の性能を測定するために、図9の測定の後セルを室温まで冷却し、再び150℃に加熱して測定を行った結果が図11である。OCVは0.908Vであり、最初の加熱を行うことによって電解質が活性化され、150℃でも高いOCVが得られる状態に変化したことがわかる。
同様の試験を別の試料に対して行ったところ、図12に示すように165℃で0.955Vの開回路電圧が得られた。
【0026】
実施例1で得られる固体の第一の酸化物陰イオン部分の構造を既存の二酸化ケイ素と比べるために、実施例1で得た固体を蒸留水を加えて第二の酸化物陰イオンを溶解し、不溶物を吸引ろ過し、蒸留水による洗浄を行った後に風乾して測定用試料とした。
この測定用試料のラマン散乱スペクトル及び赤外吸収スペクトルを室温で測定した。ラマン散乱スペクトルは、波長488nmのアルゴンレーザー光を光源に用いた。赤外吸収スペクトルは、ダイヤモンドアンビル・セルで挟み厚みを薄くした状態で測定した。結果を図13および14に示す。既存の不定形二酸化ケイ素の例として、同様にして測定したシリカゲル乾燥剤のスペクトルを併せて示す。図13のラマン散乱スペクトルにおいて、350及び1000 cm-1付近のピークプロファイルが特徴的であり、既存の二酸化ケイ素と異なる構造であることがわかる。図14の赤外吸収スペクトルでは、Si-O-Si結合に起因する450 cm-1付近のrocking mode、800, 1000 cm-1付近のbending mode、1100 cm-1付近のstretching modeが観測され、第一の酸化物陰イオン部分がSi-O-Si結合を有することがわかる。さらに1000 cm-1付近のbending modeのピーク位置が異なることから、微細な構造は既存の二酸化ケイ素とは異なっていることが赤外吸収スペクトルからもわかる。
(比較例1)
【0027】
実施例1で作成したプロトン伝導体と比較するため、特許文献2で開示されているリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とシリカゲルSiO2を、物理的に混合した試料を作成し、その構造をSEMで観察した。混合比CsH2PO4:SiO2 =
69.9 :30.1 (モル 比)=89.9 : 10.1 (重量比)で混合した粉末CsH2PO4/SiO2を試作し試料とした。(ここで、SiO2はNa2SiO3から作られる。)混合粉末であるCsH2PO4/SiO2はハンドプレスでー方向に加圧され、ペレット状に成形した後、EDXにてO,P,Si、Cs元素の分析を行った。(図20から図24)
図22に示したようにSiの分析でSiがSiO2として粗大粒子および粉砕された微細粒子が観察された。実施例1による本製造方法による混合物のEDX分析では、図17に示すようにSiはほぼ均一に分散されている。このことから、特許文献2に記載されているプロトン伝導体と本発明に係るプロトン伝導体の構造が異なることは明らかである。
【実施例2】
【0028】
水酸化カリウムKOH[Mw=56.11]2.24gを量り取り、これを入れた10mlのムライトるつぼに水酸化アルミニウムAl(OH)3[Mw=78]0.78gを入れて、電気炉で加熱した。430℃で蒸発するような音がしたので加熱を休止し、音が収まるのを待って980℃まで加熱した。10分間保持した後放冷したところ、未反応のアルミナと思われる少量のやや褐色がかった粉末以外は白い固体に変化していた。得られた白い固体をを粉砕し、その固体0.20gに水を20g加えて溶解し、5cのろ紙でろ過し陽イオンK+と第一の酸化物AlO33−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物PO43−を含む酸性の水溶液である、リン酸水溶液(液状リン酸[85%, MW=97.995]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下した。溶液のpHが3.03になったところで、溶液をホットプレート上で蒸発固化させ、プロトン伝導体を得た。
【実施例3】
【0029】
るつぼに無水けい酸SiO2 [Mw=60.084]3.00gおよび炭酸セシウムCs2CO3 [Mw=325.819]32.5gを量り取り、電気炉で990℃まで加熱したところ完全に溶融したので約20分後にアルミ板に流しだして固化した。この固体を粉砕し、得られた固体0.61gに水を20g加えて完全に溶解し、陽イオンCs+と第一の酸化物SiO44−を溶解したアルカリ性の水溶液を得た。
この水溶液を攪拌しながら、第二の酸化物SO44−を含む酸性の水溶液である、硫酸水溶液(液状硫酸[98%, MW=98]10mlを全容50mlにしたもの)を滴下したところ溶液はしだいに濁りをおびた。溶液のpHが2.03になったところで、得られた溶液をホットプレート上で蒸発固化させ、プロトン伝導体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で得られる新しいプロトン伝導体は、燃料電池、大容量キャパシタの電解質に用いることができるため、これらを利用する自動車や発電機に極めて有用な材料であり、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られるプロトン伝導体の粉末X線回折図形
【図2】実施例1で得られるプロトン伝導体を200℃まで加熱、室温冷却後の粉末X線回折図形
【図3】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥伝導度
【図4】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤伝導度
【図5】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥TG
【図6】実施例1で得られるプロトン伝導体の乾燥DTA
【図7】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤TG
【図8】実施例1で得られるプロトン伝導体の湿潤DTA
【図9】実施例1で得られる電解質の起電力測定1の一回目、150℃乾燥雰囲気のデータ。OCVは0.703V
【図10】実施例1で得られる電解質の測定1の一回目、195℃乾燥雰囲気のデータ。OCV=0.910V
【図11】実施例1で得られる電解質の測定1の二回目、150℃乾燥雰囲気のデータ。 OCV=0.908V
【図12】実施例1で得られる電解質の測定2の一回目、165℃乾燥雰囲気のデータOCV=0.955V
【図13】実施例1で得られるプロトン伝導体を水洗した残渣試料のラマン散乱スペクトル
【図14】実施例1で得られるプロトン伝導体を水洗した残渣試料の赤外吸収スペクトル
【図15】実施例1で得られたプロトン伝導体のSEM画像(×3000)
【図16】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(O)
【図17】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Si)
【図18】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(P)
【図19】実施例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Cs)
【図20】比較例1で得られたプロトン伝導体のSEM画像(×3000)
【図21】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(O)
【図22】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Si)
【図23】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(P)
【図24】比較例1で得られたプロトン伝導体のEDX元素マッピング(Cs)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは正の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させたプロトン伝導体。
【請求項2】
第一の酸化物陰イオンが非晶質の構造をとっており、第二の酸化物陰イオンがプロトンと結合していることを特徴とする請求項1に記載したプロトン伝導体。
【請求項3】
150℃以上の温度まで加熱後、室温まで冷却し、さらに再度150℃まで加熱した際に、示差熱分析計によって相転移が観測されない請求項1または請求項2に記載したプロトン伝導体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を用いた電気化学デバイス
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を電解質に用いた燃料電池。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を電解質に用いた大容量キャパシタ。
【請求項7】
陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中、j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは正の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法。
【請求項8】
陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−の組成比を、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−が溶解したアルカリ性の水溶液が、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができる範囲の組成比とする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項9】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の濃度を調節することにより、電解質の特性をコントロールする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項10】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の比率を調節することにより、電解質の特性をコントロールする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれかひとつに記載したプロトン伝導体を、150から300℃において熱処理を行うことを特徴とするプロトン伝導体の活性化方法。
【請求項1】
陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは正の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させたプロトン伝導体。
【請求項2】
第一の酸化物陰イオンが非晶質の構造をとっており、第二の酸化物陰イオンがプロトンと結合していることを特徴とする請求項1に記載したプロトン伝導体。
【請求項3】
150℃以上の温度まで加熱後、室温まで冷却し、さらに再度150℃まで加熱した際に、示差熱分析計によって相転移が観測されない請求項1または請求項2に記載したプロトン伝導体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を用いた電気化学デバイス
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を電解質に用いた燃料電池。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプロトン伝導体を電解質に用いた大容量キャパシタ。
【請求項7】
陽イオンRi+(式中、iは整数であり、RはNa、K、Rb、Csからなる群れより選ばれる元素の1種またはアンモニウムイオンから選ばれる1種である。)と、陰イオンYpOqj−(式中、j、p、qは正の整数であり、YがAl、Siからなる群れより選ばれる元素の1種である。)で示される第一の酸化物陰イオンYpOqj−とを溶解したアルカリ性の水溶液を、陰イオンXrOsk−(式中、kは正の整数であり、XはP、S、Seからなる群れより選ばれる元素であり、r、sは正の整数である。)で示される第二の酸化物陰イオンXrOsk−の酸性水溶液と反応させることによるプロトン伝導体の製造方法。
【請求項8】
陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−の組成比を、陽イオンRi+と第一の酸化物陰イオンYpOqj−が溶解したアルカリ性の水溶液が、第一の酸化物を所要量だけ溶存させることができる範囲の組成比とする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項9】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の濃度を調節することにより、電解質の特性をコントロールする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項10】
第一の酸化物陰イオンYpOqj−と第二の酸化物陰イオンXrOsk−による中和反応において、用いる二種類の酸化物陰イオン水溶液の比率を調節することにより、電解質の特性をコントロールする請求項6に記載したプロトン伝導体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれかひとつに記載したプロトン伝導体を、150から300℃において熱処理を行うことを特徴とするプロトン伝導体の活性化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−103047(P2010−103047A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275520(P2008−275520)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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