説明

新規ペプチド

【課題】 T細胞が関与している又はリクルートされている障害の治療手段を提供すること。
【解決手段】 式:A-B-C-D-E(式中、Aは、不存在、または1個若しくは2個の疎水性アミノ酸、Bは、正に荷電したアミノ酸、Cは、3〜5個の疎水性アミノ酸、Dは、正に荷電したアミノ酸、およびEは、不存在または8個以下の疎水性アミノ酸である)を含む、5〜17個のアミノ酸を有するペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おそらくT細胞抗原受容体に対する作用によりT細胞に作用するペプチドに関する。さらに本発明は、このペプチドの使用を含む種々の炎症性および自己免疫疾患状態の治療に関する。特に、該ペプチドは、T細胞が関与している又はリクルートされている障害の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、他の免疫細胞型(多形核、好酸球、好塩基球、マスト細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理的条件下で、T細胞は免疫監視および外来抗原排除において機能する。しかしながら、病理的条件下で、T細胞が疾患の発生および伝達に大きな役割を果たしているという確固たる証拠がある。これらの疾患では、中枢的または末梢的のいずれかのT細胞免疫トレランスの破綻が、自己免疫疾患の発生の基本的な過程となっている。
【0003】
中枢的トレランスには、自己反応性細胞の胸腺除去(負の選択)および自己主要組織適合複合体抗原(MHC)に対して低い親和性を有するT細胞の正の選択が関与している。これに対して、組織特異的自己免疫疾患の予防に関与している末梢的T細胞トレランスを説明するために提案されている4つの非相互排除仮説(non-mutually exclusive hypotheses)がある。これらには、アネルギー(共刺激シグナルの喪失、T細胞活性化のために重要な受容体のダウンレギュレーション)、反応性T細胞の除去、免疫系による抗原の非認識、および自己反応性T細胞の抑制が含まれる。一旦誘導されたトレランスは、必ずしも無限に持続するわけではない。これらのメカニズムのいずれかの破綻により、自己免疫疾患が生じることがある。
【0004】
自己免疫疾患および他のT細胞媒介性障害は、炎症部位へのT細胞のリクルートメント(recruitment)により特徴づけられる。この部位のT細胞は、サイトカインを産生し調節してB細胞機能に影響を及ぼす能力を有し、免疫応答を調整し、最終的な臨床結果を形成する。したがって、抗原認識およびそれに続く、T細胞の増殖および分化につながるT細胞活性化の過程を理解することは、健康および疾患の両方を考える上で非常に重要である。T細胞表面上の抗原認識に非常に重要な成分は、複合体抗原受容体(TCR)であり、これは、抗原提示細胞表面上のMHC−コード化タンパク質との関連において抗原を認識する多サブユニット構造を有する。抗原認識とT細胞活性化とを統合するTCRのこの複雑な構造−機能関係を妨害することにより、炎症およびT細胞媒介性疾患を治療する手段が得られるかもしれない。
【0005】
TCRは、少なくとも7つの膜貫通タンパク質よりなる。ジスルフィド結合で連結した(αβ−Ti)ヘテロ二量体がクロノタイプ抗原認識単位を形成し、一方、ε、γ、δおよびζおよびη鎖よりなるCD3の非変異鎖は、T細胞活性化および細胞性免疫応答の修飾を起こすシグナル伝達経路に該リガンド結合を結び付ける。TCR鎖の遺伝子多様性にもかかわらず、2つの構造的特徴がすべての公知サブユニットに共通している。第1に、それらは、単一の膜貫通伸長ドメイン(おそらくα−ヘリカル)を有する膜貫通タンパク質である。第2に、該TCR鎖のすべては、予想される膜貫通ドメイン内に荷電アミノ酸を有するという独特の特徴を有する。該非変異鎖は、マウスとヒトとの間で保存されている単一の負電荷を有し、該非変異鎖は1つの(TCR−β)または2つの(TCR−α)正電荷を有する。以下の表1に、いくつかの種のTCR−αの膜貫通配列を示す。これは、系統発生的にこの領域が高度に保存されていることを示し、重要な機能的役割を果たしていることを示す。種間の置換は非常に保存的である。
【0006】
【表1】

TCR−αとCD3−δ、およびTCR−αとCD3−εとの間の安定な相互作用がTCR−αの膜貫通ドメイン内の8つのアミノ酸(前記において太字で示している)に局在し、この過程に非常に重要なのは荷電アミノ酸であるアルギニンおよびリジンであることが、Manoliosら(1990、 1991、 1994)による多成分TCRの集合に関する研究で示された。この知見は、該膜貫通ドメイン内のアミノ酸がアンカータンパク質に対して作用するだけでなく、サブユニット複合体の集合およびタンパク質−タンパク質相互作用において重要であるという事実を例示するものである。
【0007】
前記の系は、多数のタンパク質突然変異体をつくる相補鎖DNA(cDNA)の修飾に依存的であった。キメラcDNA分子をCOS(繊維芽細胞系)細胞中にトランスフェクションして、必要なタンパク質を発現させた。これらのキメラタンパク質の同時発現により相互作用領域を評価した。前記を再度説明すると、その技術はcDNA操作、代謝標識、免疫沈降法およびゲル電気泳動を含むものであった。
【0008】
膜貫通ドメインは小さく、この領域を横切るタンパク質は、通常、α−ヘリックス立体配置に拘束される。膜貫通荷電基を介したタンパク質−タンパク質相互作用の操作が可能であることと、これらの生物物理学的特徴とは、TCR機能に影響を及ぼしそれを潜在的に妨害するための可能な新しいアプローチを本発明者に示唆した。
【発明の開示】
【0009】
本発明者らは、この非常に重要な受容体の機能の阻害剤(おそらく、集合の阻害によるのであろう)である一連のペプチドを開発した。また、本発明者は、これらのペプチドがT細胞媒介性炎症に作用し、カルボキシ末端結合によっても該ペプチドの機能が改変されないことを見いだした。このことは、作用を増大させるが機能を喪失させない脂質担体系にペプチドを結合させることにより例示される。さらに、本発明者は、該ペプチドは単独で細胞内輸送能を有し、潜在的に有効な薬物送達系となりうることを見いだした。例えば関節炎のアジュバントモデルにおける関節炎の減少により示されるとおり、該投与ペプチドの有効な臨床的発現は炎症の減少であろう。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様は、式:
A-B-C-D-E
(式中、
Aは、不存在または1個若しくは2個の疎水性アミノ酸、
Bは、正に荷電したアミノ酸、
Cは、3〜5個の疎水性アミノ酸よりなるペプチド、
Dは、正に荷電したアミノ酸、および
Eは、不存在または8個以下の疎水性アミノ酸である)
で示されるペプチドである。
【0011】
また本発明は、式:
A-B-C-D-E
(式中、
Aは、不存在、または1個若しくは2個の疎水性アミノ酸、
Bは、正に荷電したアミノ酸、
Cは、3〜5個の疎水性アミノ酸、
Dは、正に荷電したアミノ酸、および
Eは、不存在または8個以下の疎水性アミノ酸である)
を含む、5〜17個のアミノ酸を有するペプチドを提供する。
【0012】
本発明の好ましい実施態様では、Cは3〜4個の疎水性アミノ酸である。
【0013】
さらに本発明の好ましい実施態様では、Aは2個の疎水性アミノ酸であり、Eは1〜3個、好ましくは1個の疎水性アミノ酸である。
【0014】
本発明のさらに別の実施態様では、BがアルギニンでありDがリシンである、またはBがリシンでありDがアルギニンである。BおよびDは、Arg、LysおよびHisからなる群より選択されることが好ましい。
【0015】
本発明のさらに別の好ましい実施態様では、該ペプチドは、Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val、Leu-Lys-Ile-Leu-Leu-Leu-Arg-Val、Gly-Phe-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val、またはPhe-Lys-Ile-Leu-Leu-Leu-Arg-Valである。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の第1態様のペプチドと医薬上許容される担体とを含んでなる組成物(治療用組成物)である。該組成物は、T細胞が媒介する障害を治療するために用いることができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、T細胞が関与している又はリクルート(recruited、動員、補充)されている障害に罹患した患者の治療方法であって、本発明の第2態様の組成物の治療的有効量を患者に投与することを含んでなる方法である。
【0018】
該治療用組成物は、当業者に認識されるいずれの適当な経路により投与してもよい。かかる経路としては、経口、経皮、鼻内、非経口、関節内、眼内などが挙げられる。
【0019】
本発明の第4の態様は、化学的部分を細胞へ輸送する方法であって、上記ペプチド(好ましくは、そのカルボキシ末端)に結合した化学的部分に細胞をさらすことを含んでなる方法である。
【0020】
T細胞が関与している/リクルートされている障害としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:
アレルギー素質、例えば遅延型過敏症、接触皮膚炎、
自己免疫疾患、例えば全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、糖尿病、ギヤン−バレー症候群、橋本病、悪性貧血、
胃腸病状態、例えば炎症性腸疾患、クローン病気、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、
皮膚問題、例えば乾癬、尋常性天疱瘡、
感染性疾患、例えばエイズ、単純/帯状ヘルペス、
呼吸状態、例えばアレルギー性肺胞炎、
心臓血管問題、例えば自己免疫心膜炎、
臓器移植、
炎症状態、例えば筋炎、強直性脊椎炎。
【0021】
また本発明は、T細胞が媒介する障害を治療するための医薬の製造における、上記ペプチドの使用に関する。
【0022】
本明細書中で用いる「患者」なる語は、ヒトおよびヒト以外の動物の両方を包含する意である。
【0023】
前記の考察からわかるとおり、本発明のペプチドは、TCR−αの膜貫通ドメインの一部に基づく。この部分の完全なマウス配列は、

であり、一方、対応するヒト配列は、

である。本発明のペプチドの基礎となっている配列(太字で示している)の遠位にあるTCR−α鎖の最後の15個のアミノ酸においては、様々な種の間で、完全な配列の相同性がある。これらの追加的な15個の残基を含むペプチドは、本発明のペプチドと同様の活性を有するかもしれない。その本質的特徴は、該ペプチドが、3〜5個の疎水性アミノ酸により分離された2個の正に荷電したアミノ酸を含むことである。さらに、以下の実施例から明らかとなるように、本発明のペプチドは、活性の喪失を伴うことなくカルボキシ末端を修飾しうる。したがって、本発明のペプチドの「コア」配列に対する追加的アミノ酸を含みT細胞抗原受容体に作用するペプチドも、本発明の範囲内に包含されることが意図される。
【0024】
以下の実施例で示すとおり、本発明のペプチドは細胞に侵入する能力を有する。したがって、本発明のペプチドは、それが有する他の用途以外に、他の治療剤を細胞へ輸送する「担体」として使用できると考えられる。これは、例えば、細胞内へ輸送しようとする治療剤を本発明のペプチドに結合させることにより行うことができる。
【0025】
当業者であれば容易に理解できるように、疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Phe、TyrおよびMetであり、一方、正に荷電したアミノ酸はLys、Arg、およびHisである。
【0026】
本発明の性質の理解がより明確となるように、以下、実施例により本発明の好ましい態様を説明する。
【実施例1】
【0027】
ペプチドの合成
第1工程においては、前もって決定されている集合配列に対応する短い疎水性ペプチドを合成した。競合ペプチドのアミノ酸配列は、NH-Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-OHであり、以下これを「コアペプチド」と称する。ついで、表2に挙げるいくつかの他のペプチドを合成し(純度は95%以上、Auspep Australia, Melbourne, Australiaによる)、T細胞機能および炎症に対するそれらの効果を調べた。
【0028】
【表2】

【実施例2】
【0029】
溶解性
コアペプチドおよび上に挙げた他のペプチドは、疎水性であり水溶液に不溶性であることが判明した。種々の溶媒および担体を試験した。これらには、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トリフルオロ酢酸(TFA)、スクアラン油(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチルテトラコサン)、およびトリス結合(TRIS-conjugation; Whittaker R.G., Bender V. J. 1991)を介してコアペプチドにパルミチン酸を付加させることによる溶解性を増大させるための脂質結合が含まれていた。好ましい溶媒はDMSOであり、細胞培養で用いた最終濃度は0.1%〜0.2%であった。DMSO濃度が1%を越えると、細胞に対する毒性が生じた。ペプチドおよびリポペプチド複合体の保存溶液をDMSOに溶解し、1/1000希釈で使用した。
【0030】
DMSO中のペプチド/リポペプチドを水溶液に加えることにより、組織培養フラスコの底に沈降する難溶性の「脂肪」または「結晶」粒を得た。これらの粒子は位相差顕微鏡で見ることができたが、脂質複合体についてはそれほど明白ではなかった。
【0031】
14−グリシン(C14−ペプチド)を含有するコアペプチドをAuspep Australiaにより合成し、溶解性を調べるのに使用した。DMSOに溶解/懸濁したC14−ペプチドを、T細胞培地(10%ウシ胎仔血清および0.3%メルカプトエタノールで補充したRPMI1640;TCM)に最終濃度が100μMになるまで加え、振盪した。該培地を遠心分離し、上清を0.2μMフィルターで濾過するか又は未分離のまま放置した。未分離培地中の全放射活性は20,000cpmであり、培地を遠心分離した後は1000cpmであり、培地を濾過した後は500cpmであった。これらの実験はin vitroでのペプチドの不溶性を強調するものであり、約5%が溶解することを示唆する。
【実施例3】
【0032】
細胞中へのペプチドの侵入
ペプチドが細胞へ侵入するか否かを調べるために、最終濃度が100μMの5×10個の2B4.11細胞(シトクロームcに特異的なT細胞ハイブリドーマ)および0.2%DMSOのフラスコにC14−ペプチドを加え、一晩インキュベーションした。付着細胞をフラスコ中でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で4回洗浄し、トリトン含有緩衝液で可溶化し、放射活性を計数した。上清中の放射活性量は70,000cpmであり、可溶化細胞中では5000cpmであった。
【0033】
前記実験の変法においては、2B4.11細胞(7.5×10個)を、2mlのTCMを含有するペトリ皿中で成長させ、0.4μMの膜を有する「トランスウェル(Transwell)」をペトリ皿中に入れた。最終濃度100μMのC14−ペプチドおよび0.1%DMSOを該「トランスウェル」に加え、24時間および48時間のインキュベーションの後、フィルターの両面上および細胞中の計数を測定した。放射活性の約85%が「トランスウェル」中に、8%がペトリ皿中に、7%が細胞内にそれぞれ保持された。前記実験は、ペプチドが細胞に侵入する能力を有することを示した。ペプチドの溶解性が低い(5%〜10%)ことを考慮すると、溶解している可能なペプチドのすべてが細胞に侵入したことになる(7%)。
【実施例4】
【0034】
T細胞中におけるフルオレセイン結合ペプチドの細胞内局在
溶解する僅かのペプチドが細胞に侵入または取り込まれうることが実験から示唆された。このことを確認するために、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)に共有結合したコアペプチドをT細胞に加え、共焦点または通常の紫外線顕微鏡を用いて可視化することにより細胞内局在を判定した。
【0035】
フルオレセイン結合標識コアペプチドを以下のとおり調製した。コアペプチド10.25mgをジメチルホルムアミド(DMF)0.5mlに溶解し、DMF0.5ml中のFITC2μMを室温で撹拌しながら滴下した。N−メチル,N,N−ジイソプロピルアミンでpHを9に調整し、反応を1時間進行させた。ついで、C−4カラム(6ml/分; 緩衝液A、0.1%TFA;緩衝液B、80%アセトニトリル、20%水;0.1%TFA;Bが40%〜100%である直線勾配)を用いる半分取HPLCにより、遊離FITCからFITC−ペプチドを分離した。分析用HPLCにより画分をモニターし、純粋なフルオレセイン結合コアペプチド(FITC−ペプチド)を含有する画分をプールした。
【0036】
2つのフラスコの培養2B4.11細胞(5×10個)を遠心沈殿させ、カルシウムおよびマグネシウムを含有するPBSに再懸濁した。1つのフラスコへは、DMSOに溶解したFITCを最終濃度が10μMになるまで加え、もう一方のフラスコへはFITC−ペプチド10μMを加えた。両フラスコ中のDMSOの最終濃度は、T細胞に影響を及ぼさないことが既に示されている0.1%であった。細胞を37℃で30分間インキュベーションし、ついで共焦点顕微鏡下で検査した。
【0037】
その観察は以下のとおり要約することができる:(i)FITCおよびFITC−ペプチドは細胞に侵入した;(ii)細胞中、遊離FITCはFITC−ペプチドより明るい蛍光を示した;(iii)細胞内染色パターンは、遊離FITCとFITC−ペプチドとの間で相違せず、核および特に明るい核小体の染色が観察された;(iv)FITCによるペプチドの結合は、細胞内へのペプチドの侵入を妨害しなかった;(v)細胞からのFITC−ペプチドの「浸出」は5時間にわたり全くなかった。これらの実験は、FITC−ペプチドが細胞に取り込まれ、細胞内に局在しうることを示す。C14−ペプチドによる細胞内取り込みを示す既に記載した実験と考え合わせると、細胞侵入を可能にするのは該ペプチド配列に固有の性質であり、その複合体(FITC、C14)の性質ではないことが明らかである。
【実施例5】
【0038】
コアペプチドカルボキシル末端のトリス−脂肪結合
脂質結合で例示したのと同様にして、この非常に重要な受容体の機能を競合的に阻害するペプチドの能力に対してコアペプチドのカルボキシル結合が与える影響を調べた。投与リポペプチドの有効臨床発現は、例えば、ペプチドの場合に観察され、関節炎のアジュバントモデルにおける関節炎の減少により示されるのと同様、炎症の減少であろう。コアペプチドを脂質結合させたほか、いくつかの他のリポペプチドを合成し、後続の実験の対照として使用した。該リポペプチドは、Whittaker, R.G., Hayes, P.J.およびBender, V.J. (1993) Peptide Research 6, 125および豪州特許第649242号に記載の方法により合成した。これらに文献の開示は、クロスレファレンスにより本明細書の一部とする。
【0039】
フルオレセイン標識されたGly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val-Gly-トリス-モノ−およびトリ−パルミテートの調製。DCM(1ml)中の脱保護されたリポペプチド(15および6mg)のそれぞれの溶液へ、撹拌しながらFITC(4mg10μモル)のDMF(500μl)溶液を加えた。トリエチルアミン(TEA)を加えることにより、反応の見かけpHを9.0に維持した。ペプチドのフルオレセイン−標識モノおよびトリ−パルミトイル誘導体を、半分取HPLC(C4カラム、System B)により精製した。精製化合物を蒸発乾固させ、tert-ブチルアルコールから凍結乾燥して、フルオレセイン標識ペプチドモノパルミテート(Rt、7.83)およびトリパルミテート(Rt、9.85)を得、これらを以下のとおり試験した。
【0040】
フルオレセイン標識リポペプチドのTLC(DCM:MeOH, 95:5)は、遊離FITCおよび遊離Gly-トリス−モノパルミテートおよびGly-トリス−トリパルミテート(リポペプチド合成で使用したもの)の不存在を示した(ニンヒドリン染色による)。
【0041】
固相ペプチド合成。Gly-Leu-Arg-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys-Val(コアペプチド)およびその完全保護形態であるBoc-Gly-Leu-Arg(PMC)-Ile-Leu-Leu-Leu-Lys(Boc)-Val-OH(およびC14−標識ペプチド)をAuspep Pty Ltd.より入手した。両方とも、手動形式のFMOC−化学法により合成した。
【0042】
また、カルボキシル基を有する化合物(例、ペプチド)をアミノ基に結合させるのに使用できる多数のよく知られたリンカーがあることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。これらには、以下のものが挙げられる。
a)該化合物に対するアミノ基およびトリス(または存在するのであればアミノ酸)に対するカルボキシル基を有するリンカー、例えばアミノ酸または抗生物質。
b)該化合物に対するアミノ基およびトリス(または存在するのであればアミノ酸)に対するスルホン酸基を有するリンカー、例えば2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)。
c)該化合物に対するヒドロキシル基およびトリス(または存在するのであればアミノ酸)に対するカルボキシル基を有するリンカー、例えばグリコール酸、乳酸など。
d)該化合物に対するヒドロキシル基およびトリス(または存在するのであればアミノ酸)に対するスルホン酸基を有するリンカー、例えば2−ヒドロキシエタンスルホン酸(イセチオン酸)。
e)該化合物に対するヒドロキシル基およびトリス(または存在するのであればアミノ酸)に対する反応性ハライド基を有するリンカー、例えば2−クロロエタノール。
f)反応性カルボキシルを有する化合物とトリス(または存在するのであればアミノ酸)のアミノ基との間の潜在的に適当なリンカーの他の具体例としては、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、2−クロロ酢酸、1,2−ジブロモエタン、エチレンオキシドなどの化合物群が挙げられる。
【0043】
また、リンカーは、還元されて修飾ペプチドを細胞内に遊離させるジスルフィド基を含有していてもよい。
【実施例6】
【0044】
COS細胞におけるFITC結合リポペプチドの局在
共焦点顕微鏡を用いて、FITC結合リポペプチドが非T細胞(COS細胞−繊維芽細胞)へ侵入する能力を調べた。
【0045】
材料:
DMSO中の保存濃度− コアペプチド.トリス.モノパルミテート.FITC(分子量1862)10mM; コアペプチド.トリス.ジパルミテート.FITC(分子量2334)10mM; コアペプチド.トリス.トリパルミテート.FITC(分子量2806)10mM; グリシン.トリス.モノパルミテート.FITC(分子量805)10mM; グリシン.トリス.トリパルミテート.FITC(分子量1286)10mM; FITC(分子量390)6.4mM。
【0046】
方法:
COS細胞をカバーグラス上で80%密集まで成長させ、PBSで2回洗浄し、FITC結合リポペプチドと共に15分間または2時間インキュベーションした。リポペプチドの最終濃度は、それぞれの時点でFITCについて10μMおよび6.4μMであった。細胞をPBSで2回洗浄し、PBS/グリセロールと共にスライドに載せ、共焦点顕微鏡で検査した。
【0047】
結果:
実験が示したところによると、フルオレセイン結合リポペプチドは細胞膜を横切って移動し細胞質内に局在でき、タンパク質合成の場である小胞体(ER)にまで到達する。細胞貫通の程度は、ペプチドに結合している脂質部分により影響された。前記リポペプチドのうち、モノパルミテートの場合には、これまで検査した繊維芽細胞およびT細胞内で浸潤する能力がより大きかった。ERは、集合を試行し実施する最良の部位である。すべての鎖が集合し、細胞表面まで輸送されたら、細胞表面膜にて受容体を破壊することは一層困難となるであろう。ペプチドの標的となるERは、TCR複合体を破壊する理想的な部位である。
【実施例7】
【0048】
FITC結合リポペプチドのT細胞における局在
共焦点顕微鏡を用いて、FITC結合リポペプチドがT細胞に侵入する能力を調べた。
【0049】
材料:
前記のリポペプチド。2B4.11T細胞ハイブリドーマ細胞系。
【0050】
方法:
2B4.11T細胞をTCM中で成長させ、8×10細胞/mlの濃度で再懸濁した。生存度>95%(トリパンブルーを使用)。細胞1mlをポリプロピレン管に加え、PBSで2回洗浄した。細胞をPBSに再懸濁し、1マイクロリットルの保存FITC結合リポペプチドを30分間加えた。細胞をPBSで洗浄し、PBS/グリセロールと共にスライドに載せ、共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0051】
結果:
COS細胞(前記)と同様であった。結果は、リポペプチドがT細胞へ侵入する能力を有することを示した。ペプチドの脂質結合は、細胞へのペプチドの侵入を妨害しない。そして、それは、溶解性を増大させる担体ビヒクルとしての潜在的な用途を有する。
【実施例8】
【0052】
フローサイトメトリー分析を用いた場合のT細胞上でのTCRの集合および細胞表面発現に対するペプチドおよびリポペプチドの効果
材料:
完全TCRを細胞表面上で発現するT細胞ハイブリドーマ2B4.11を陽性対照として使用して、TCR発現に対するペプチドの効果を評価した。該細胞をTCM中で成長させた。2B4.11細胞の反復サブクローニング(Sussmanら,1988)およびTCR発現の喪失により誘導したβ−欠陥変異体21.2.2並びにβ−およびζ−欠陥細胞系3.12.29を陰性対照として使用した。
【0053】
被検ペプチドには、コアペプチド、リポペプチドおよび558と称される腫瘍壊死因子受容体からのペプチド(陰性対照として使用)が含まれた。インキュベーションで使用した各物質の最終濃度は、10μMであった。
【0054】
抗体
免疫沈降法およびフローサイトメトリー分析には以下の抗体を使用した:T細胞ハイブリドーマ2B4(A2B4−2, Samelsonら, 1983)のTCR−α鎖に対するマウスIgG2aモノクローナル抗体(MAb)、2B4.11TCR−β鎖(KJ25)に対するMAb、ハムスターIgG抗CD3−εMAb(145−2C11[2C11], Leoら, 1987)、精製マウスCD3−εに対して産生させたウサギ抗CD3−εポリクローナル抗血清(127, Minamiら, 1987)、マウスCD3−δ鎖のCOOH末端ペプチドで免疫したヤギで産生させた抗CD3−δポリクローナル抗体(R9)(Samelsonら, 1986)。
【0055】
方法:
FACS分析:1×10個の(2B4.11,21.2.2)細胞を、最終濃度10μMのいくつかの別々のペプチドおよびリポペプチドと共に一晩インキュベーションした。ついで、細胞をPBSで洗浄し、50μlの一次抗体(A2B4または2C11)と共に4℃で30分間インキュベーションした。細胞をPBSおよび0.1%BSA中で2回洗浄し、FITC標識二次抗体と共に4℃でさらに30分間インキュベーションした。細胞をPBSおよび0.1%BSAでさらに2回洗浄した後、Becton-Dickson FACS AnalyserまたはBecton-Dickson FACSScan上で分析した。
【0056】
結果
コアペプチド対照ペプチドまたはリポペプチドで処理した2B4.11細胞上でのTCRの発現は、受容体の細胞表面発現を変化させなかった。より高濃度(100μM)のコアペプチドを用い、より長時間のインキュベーション時間(1〜10日間)をかけてこれらの実験を繰り返したところ、結果は同じであり、T細胞表面抗原受容体発現の変化は示されなかった。
【0057】
以下の実験は、T細胞機能に対するペプチド/リポペプチドのin vitro効果を評価するために行った。
【実施例9】
【0058】
抗原提示アッセイI
抗原提示アッセイ(以下に記載)では、T細胞活性化産物であるインターロイキン−2(IL−2)を定量することにより、抗原認識後にいくつかのペプチドがT細胞活性化を阻害する能力を調べた。
【0059】
材料
以下の細胞系を使用した:2B4.11、完全抗原受容体を細胞表面上で発現し(Samelsonら, 1983)、抗原認識後にIL−2を産生するT細胞ハイブリドーマ(シトクロームc)、通常の生物学的IL−2アッセイのためのインターロイキン−2依存性T細胞系(CTLL)、および抗原提示細胞として作用するB細胞ハイブリドーマ細胞系LK35.2(LK、I−E担持;Kapplerら, 1982)。ハイブリドーマをTCM中で成長させた。シトクロームc(Sigma, USA)を培地に加えて、抗原提示アッセイにおける50μMの最終濃度を得た。
【0060】
調べたペプチドには以下のものが含まれていた:コアペプチド、コアペプチドと同等の長さを有する種々の起源からの7個の他の対照ペプチド並びにペプチドA、B、C、D、EおよびF。抗原提示アッセイにおけるペプチドの最終濃度を、10μM〜100μMのいくつかのレベルで調べた。
【0061】
方法
T細胞抗原刺激のために、2×10個のLK35.2細胞を、PBSに溶解した50μMのハトのシトクロームcおよび2×10の2B4.11T細胞と共に16時間共培養した。アッセイは3つ組で行った。上清を回収し、IL−2含量をCTLL増殖により測定した。H−チミジンの取り込みは、上清中に存在するIL−2量と正比例する。種々のペプチドのIL−2産生阻害能を調べた。H−チミジン取り込み量の測定に加えて、IL−2量(IU/ml)も測定した。
【0062】
結果
シトクロームc(抗原)またはLK細胞(抗原提示細胞)のいずれかの不存在下でのアッセイでは、IL−2産生は生じなかった。このような条件下でT細胞活性化が生じないことは、非特異的にT細胞を活性化している可能性がある溶液中にリポ多糖(LPS)もエンドトキシンも存在しないことを示すものであった。CTLL細胞による高いH−チミジン取り込み(22,000cpm)により測定したところ、前記濃度でのアッセイ成分の3個すべての組み合わせによりIL−2の産生が生じた。コアペプチドまたは他の類似体を該アッセイ系に加えた場合、IL−2の産生量はそれぞれで異なっていた。10μMのすべての被検ペプチドは、IL−2産生に影響を及ぼさなかった。最良の効果は、100μMのコアペプチドおよびペプチドC(100μM)で認められ、対照と比較してIL−2産生の15%〜30%の減少につながった。これは少なくとも3つの独立した場合で再現性があった。ペプチドA、B、D、EおよびFのT細胞活性化に対する影響は、一定せず小さかった。該ペプチドに対して同等の長さを有するが配列相同性を有さない7個の対照ペプチドは、IL−2産生に影響を及ぼさなかった。
【0063】
抗原提示アッセイに加える前にコアペプチドおよび他のペプチドをTCM中37℃で前インキュベーションすると、溶解性および活性が向上した。これは、新たに調製されたペプチドで認められる基準活性を越える追加的増加として示された。
【実施例10】
【0064】
抗原提示アッセイII
T細胞機能に対するリポペプチドのin vitro効果を評価するために以下の実験を行った。
【0065】
材料
被検リポペプチドには、コアペプチドトリス−モノパルミタート(100μMおよび0.1%DMSO)およびコアペプチドトリス−トリパルミタート(100μMおよび0.2%DMSO)が含まれていた。抗原刺激アッセイにおけるその2つのリポペプチドの最終濃度を、括弧内に示す。
【0066】
方法
実施例9で示したとおりである。
【0067】
結果
まず、コアペプチドトリス−トリパルミタート(100μMおよび0.2%DMSO)を加えた場合、T細胞活性化は75%減少した(最高計数5,190cpm。対照の22,000と比較されたし)。コアペプチドトリス−モノパルミタート(100μMおよび0.1%DMSO)の添加は、IL−2産生に対して顕著な効果を示し、わずか137cpm(バックグラウンドと同等)が記録されたにすぎなかった。試験系で用いた0.1%DMSOおよび0.2%DMSOの濃度に関して調べたが、IL−2産生に影響を及ぼさないことが判明した。後続の実験によりこれらの知見が確認され、対照と比較して86%〜92%のIL−2産生が示された。抗原提示アッセイ系に加えた、ペプチドに結合させるのに用いたパルミチン酸(100μM)は、単独ではIL−2産生に影響を及ぼさなかった。
【0068】
以下の実験では、コアペプチドが投与後に動物体内を循環する能力および実験的に誘導された炎症に対する効果を調べた。
【実施例11】
【0069】
14−コアペプチドの分布
皮下注射したペプチドのマウスにおける分布を調べるために、C14−コアペプチド(5mg/マウス)を150マイクロリットルのスクアラン油に溶解し、Balb/cマウスの尾の基部に注射した。24時間後に、パルプ化(pulped)器官から計数を測定した。該ペプチドの分布は、胸腺(5%)、脾臓(7%)、血液(3%)で、またリンパ節(28%)、腎臓(30%)および肝臓(28%)では大きな比率で認められた。
【0070】
実験をさらに拡大して、コアペプチドが炎症の動物モデルで疾患を予防する能力についても調べた。ラットにおけるアジュバント誘導関節炎、NODマウスにおけるシクロホスファミド誘導糖尿病およびラットにおける実験アレルギー性神経炎を含むin vivoでの3つの実験モデルを用いた。2つの種を含むこれらのモデルでは、コアペプチドは炎症の程度に影響を及ぼす能力を有していた。
【実施例12】
【0071】
実施例12(a) ラットにおけるアジュバント誘導関節炎
ラットアジュバント関節炎モデルは、疾患の進行およびそれに対する潜在的な新規抗炎症薬の効果を研究するために多数の研究所でここ30年間にわたり広範に用いられている、炎症の古典的なモデルである(Pearsonら, 1961; Cremerら, 1990; HomdahlおよびKvick, 1992; Cannonら, 1993)。また、このモデルは、Royal North Shore Hospitalの研究者によりここ10年にわたり広範に用いられており、この炎症モデルの研究のための方法は確立している。動物に対するすべての操作は、ハロタン/酸素/一酸化二窒素麻酔(1リットル/分Oおよび2リットル/分NO中の2% v/vハロタン)下で行った。ラットの尾の基部に最小アジュバント量(100μlのスクアラン中の1mgの熱不活化結核菌(マイコバクテリウム・ツベルクローシス, Mycobacterium tuberculosis(MTB)))を1回および1回だけ皮内注射した。試験サンプルをMTBと共投与する方法は、Whitehouseら(1990)が最初に記載している。0〜28日の一定の間隔で、動物を秤量し、最大の尾の太さおよび後脚の太さを測定することにより(マイクロメーターねじゲージ)、その関節炎状態を評価した。最初の尾注射後、ラットを保存箱に収容し、水および固形飼料に自由に近づけるようにした。29日目に、該動物を殺した。
【0072】
材料
第1の実験では、Perth Animal Resource Centre(ARC)より購入しGore Hill Animal House施設で飼育した体重が約190〜210グラムの12匹のラットを使用した。アジュバント(7mgMTBを含有する0.6mlスクアラン)に懸濁したコアペプチド(30mg)、0.6mlのアジュバントに懸濁したコアペプチドトリス−モノパルミタート(15mg)、コアペプチドトリス−トリパルミタート20mg(0.6mlのアジュバントあたり)を使用した。
【0073】
ラットを、それぞれ3匹のラットを含む4群に分けた。第1群には、アジュバントのみ(陽性対照)を、第2群にはアジュバントおよびコアペプチドを、第3群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド.トリス.モノパルミタートを、そして最後の群にはアジュバントに懸濁したコアペプチド.トリス.トリパルミタートをそれぞれ投与した。ラットの尾の基部に、0.1ml容量中の前記化合物を注射した。ラットの体重、脚の太さおよび尾の直径の基準測定を、0日目、およびついで4、7、9、14、16、18、21、25および28日目に行った。顕著な膨潤、発赤および明らかな不快感があれば、関節炎を等級付けし、動物を殺した。MTBを投与したすべてのラットが関節炎を発症したわけではなかった。一般に、対照ラットの80%以上が関節炎を発症した。
【0074】
結果
18日後、アジュバントのみを投与したすべての対照動物が関節炎を発症し、殺さなければならなかった。3匹のコアペプチド処理動物のうちの2匹(2/3)は、関節炎の徴候を示さなかった。同様に、コアペプチド.トリス.トリパルミタートを投与した3匹の動物のうちの2匹は、関節炎の徴候を示さなかった。コアペプチド.トリス.モノパルミタートおよびアジュバントを投与した動物はすべて関節炎を発症した。しかしながら、この最後の群における関節炎の発現および発症は、対照と比べて3〜4日遅延し、臨床的重症度ははるかに減少した(関節数、脚膨潤、体重減少)。
【0075】
ラットにおけるアジュバント誘導関節炎を用いる実験は、ペプチドおよびその脂質複合体が、この動物モデルにおける関節炎の誘導に対して防御的効果を有することを示した。いくつかの異なるペプチド(7mg/ラット)および薬物を用いる反復的なその後の実験の結果を、表3に要約する。
【0076】
【表3】

【0077】
前記実験の結果は、コアペプチドが炎症に影響を及ぼして、その発現を遅延させ、重症度を減少させ、そして疾患の発現を防ぐことを示した。これらの効果は、シクロスポリンとアジュバントとの共投与で得たものと同様であった。シクロスポリンは、よく知られ広く使用されている免疫抑制剤である。ペプチド作用の無差別な効果はなかった。コアペプチド、ペプチドCおよびFで最良の結果が認められた。コアペプチドおよびペプチドCはそれぞれ、同じ部位に荷電アミノ酸基を有するが、アミノ酸は逆になっている。このことは、重要なのは特定のアミノ酸ではなく荷電基であることを示すものであった。これに対して、それぞれ荷電基を有さないか又は負の荷電基を有するペプチドBまたはDでは効果は認められなかった。アミノ酸をカルボキシ末端へ下流に伸長させても、負の効果は生じなかった。この観察は、カルボキシ修飾を行っても生物学的活性が喪失しないことを証明するものである。したがって、これらのペプチドは、他の化学的部分の輸送のための担体ペプチドとして使用することができる。その2つの極性荷電基の間のアミノ酸数を増加させると(ペプチドE)、効力が減少した。荷電基の間のアミノ酸数を減少させても(ペプチドF)、負の効果は生じなかった。
【0078】
実施例12(b) コアペプチドの用量効果
Whitehouseら(個人的書信)により既に行われている実験に基づき、初期投与量
を5〜7mg/ラットとした。下限を評価するために、いくつかの異なるコアペプチド濃度を調べた。その結果(表4)は、それは、コアペプチドの特異的作用に加えて、投与量によるその効果により制限されることを示した。
【0079】
【表4】

【0080】
実施例12(c) 尾の直径の測定
アジュバント誘導関節炎の特徴は、尾における炎症の発症である。生理食塩水を注射したラットとコアペプチドで処理したラットとの間の尾の測定値差(mm)は統計学的に有意ではなかった。しかしながら、MTB処理ラットの尾の直径は、生理食塩水およびコアペプチド処理ラット(p<0.001)に比べて有意に増加した(p<0.001)(表5)。
【0081】
【表5】

【0082】
MTBのみをラットに投与した場合、尾に浮腫が認められたほか、注射部位に潰瘍および炎症が生じた。これは、コアペプチドまたは生理食塩水を投与したラットには存在しなかった。
【実施例13】
【0083】
実験アレルギー性神経炎(EAN)
T細胞により誘導された疾患の重症化を遅延させ抑制するコアペプチドの能力をさらに確認するために、異なる施設(University of Sydney)での独立した実験者(Pollard準教授およびJ Taylor氏)により「盲検的」に、異なるモデル(実験アレルギー性神経炎)を試験した。
【0084】
材料および方法
動物
体重239〜451グラムの雄LewisラットをBosch Animal House, University of SydneyのコロニーまたはARC, Perthから入手した。すべての実験は、University of SydneyのAnimal Care and Ethics Committeeにより承認されている実験ガイドラインに従って行った。
【0085】
EANの誘導
完全フロインドアジュバント中に乳化した50〜75μlのウシ末梢神経ミエリン(PNM)を、Lewisラットのそれぞれの後足蹠に免疫した。免疫エマルションは、等容量の生理食塩水および不完全フロインドアジュバント(Sigma, USA)にそれぞれ15mg/mlおよび5mg/mlのウシPNMおよびMTB(H37RA株, DIFCO)を加えて混合したものよりなるものであった。動物に卵アルブミン/ペプチドを投与する場合は、ペプチドを70mg/mlにて免疫エマルションへ加えた。これらの実験は、免疫エマルション中のペプチドの種類を伏せた実験と共に行った。
【0086】
動物は、臨床徴候に関して免疫後少なくとも2日おきに観察し、以下の分類によりスコア化した:0、正常;0.5、弱っている尾;1、弛緩性の尾;1.5、しまりのない尾および後脚の運動失調;2、不全対麻痺;2.5、しまりのない尾および重篤な不全対麻痺;3、対麻痺;3.5、しまりのない尾および対麻痺および前肢不全麻痺;4、四肢麻痺(quadraparesis);4.5、しまりのない尾および四肢麻痺(quadraplegia);5、死亡。
【0087】
末梢神経ミエリンの単離
ウシPNMは、本質的にNortonおよびPodulso(1973)の記載のとおりに調製した。
【0088】
結果
代表例を図1に示す。この実験では、コアペプチドは疾患の誘導および臨床的重症化を遅延させた。ペプチドCについても同様のデータを得た。これらのデータは、コアペプチドおよびペプチドCの一般的な免疫抑制剤としての有効性を証明するものである。
【実施例14】
【0089】
NOD/Lt(F)マウスにおける糖尿病
T細胞媒介性疾患のさらに別のモデルでは、NOD/Lt(F)マウスにおける糖尿病の誘導に対する皮下注射コアペプチドの効果を、独立した実験者(L Harrison教授, WEHI, Melbourne)により「盲検的」に試験した。
【0090】
膵島β細胞を選択的に破壊する細胞性自己免疫過程は、ヒトおよびNODマウス(Leiterら, 1987)などの自発性動物モデルにおけるインスリン依存性糖尿病(IDDM)の発症の原因となると考えられている。IDDMの発症に関連した共通の組織病理学的特徴は、インスリン炎、すなわち主としてTリンパ球およびそれより少量のマクロファージよりなる単核細胞が島内部および周辺部に存在することである(Foulisら, 1986)。新生児の胸腺摘出、シクロスポリンAの投与、抗Tリンパ球抗体の投与などの細胞性自己免疫を抑制するための実験戦略により、糖尿病の発症が予防される(Campbellら, 1991)。
【0091】
動物
実験初日(0日目)に10週齢のNOD/Lt(F)マウス。これは、糖尿病の動物モデルとして一般に使用される高発生系統である。
【0092】
材料
保存濃度が3.33mg/mlの、スクアランに溶解したコアペプチド。対照として使用する卵アルブミンを、保存濃度が3.33mg/mlとなるようスクアランに懸濁した。ペプチドおよび卵アルブミンを、注射直前にボルテックスして可溶化した。合計250μg(75μl)を右脇に−1、0および1日目に皮下注射した。0日目に、水中のシクロホスファミドを300mg/kgでマウスに腹腔内投与した。0、10、14および21日目に、血液グルコースの測定を行った。処理群には16匹のマウスを、卵アルブミン対照群には16匹のマウスを用いた。
【0093】
結果
実験は、糖尿病として発現される自己免疫β細胞破壊の誘導に対するコアペプチドの防御的効果を示す(表6)。この場合もまた、この知見は、異なるT細胞媒介性疾患モデルにおけるコアペプチドの一般的な免疫抑制能を証明するものである。
【0094】
【表6】

【0095】
要約
近年、TCR、MHCまたは抗原(三分子複合体)の間の相互作用を妨害し、それにより免疫応答に影響を与えるための非常に多くの種々の方法が使用され工夫されてきている。これらの着想および適用方法の開発に関連した治療的潜在性が見落とされているわけではない。その戦略としては、MHCまたはTCRの相互作用を遮断するモノクローナル抗体、T細胞表面上の重要な共刺激または調節タンパク質に対する遮断抗体の使用、疾患誘導T細胞またはTCRエピトープによるワクチン接種、競合抗原、サイトカインまたはその受容体の阻害などが挙げられる。集合に影響を及ぼすように設計された特異的競合ペプチドによりTCR機能を破壊しうることについては、これまで報告も検討もなされていない。本発明者は、本発明のペプチドが、これまで報告されていないメカニズムにより少なくとも3つの異なるモデルでT細胞媒介性免疫応答を阻害する能力を有することを明確に示した。
【0096】
本明細書中に記載の実験は、マウスおよびラットのTCRα鎖の公知配列と相同となるように故意に選択したコアペプチドを主に用いて行った。しかしながら、ヒトの臨床的治療においては、該コアペプチドのアミノ末端のロイシンの代わりにフェニルアラニン残基を含有するペプチドが、公知のヒト配列との相同性を最大にするのに好ましいかもしれない(表1)。
【0097】
広く記載している本発明の精神または範囲から逸脱することなく、具体的な実施態様で示している本発明に対して多数の変形および/または修飾を施してもよいと当業者には理解されるであろう。したがって、本実施態様は、すべての点において、限定的ではなく例示とみなされるべきである。
【0098】
参照文献
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Bevins C.L., Zasloff M.(1990). Am Rev Biochem. 59, 395
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【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1A】実験アレルギー性神経炎(EAN)を誘導したラット(対照、ペプチド処理)の疾患重症度の経時的変化を示す。
【図1B】実験アレルギー性神経炎(EAN)を誘導したラット(対照、ペプチド処理)の平均重量の経時的変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
A-B-C-D-E
(式中、
Aは、不存在、または1個若しくは2個の疎水性アミノ酸、
Bは、正に荷電したアミノ酸、
Cは、3〜5個の疎水性アミノ酸、
Dは、正に荷電したアミノ酸、および
Eは、不存在または8個以下の疎水性アミノ酸である)
を含む、5〜17個のアミノ酸を有するペプチド。
【請求項2】
BおよびDがArg、LysおよびHisからなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
Eが1〜3個の疎水性アミノ酸である、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドと医薬上許容される担体とを含んでなる組成物。
【請求項5】
T細胞が媒介する障害を治療するために用いられる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
障害が、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、糖尿病、ギヤン−バレー症候群、橋本病、悪性貧血、炎症性腸疾患、クローン病気、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、乾癬、尋常性天疱瘡、アレルギー性肺胞炎、自己免疫心膜炎、筋炎、および脊椎炎からなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
T細胞が媒介する障害を治療するための医薬の製造における、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドの使用。
【請求項8】
障害が、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、糖尿病、ギヤン−バレー症候群、橋本病、悪性貧血、炎症性腸疾患、クローン病気、原発性胆汁性肝硬変、活動性慢性肝炎、乾癬、尋常性天疱瘡、アレルギー性肺胞炎、自己免疫心膜炎、筋炎、および脊椎炎からなる群より選択される、請求項7に記載の使用。


【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2006−117697(P2006−117697A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2633(P2006−2633)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【分割の表示】特願2005−34053(P2005−34053)の分割
【原出願日】平成8年1月16日(1996.1.16)
【出願人】(505013103)ノーザン シドニー エリア ヘルス サービス (3)
【Fターム(参考)】