説明

新規ラクタム開環酵素およびその用途

【課題】ストレプトスリシンに対し、原核細胞に対する抗生物質活性を失わせることなく
、真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)を低減することができる活性を有す
る酵素、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する毒性が低減された
ストレプトスリシン誘導体およびその製造方法などを提供する。
【解決手段】本発明の配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載の
アミノ酸配列を有するタンパク質などは、ストレプトスリシンのラクタムを開環させるこ
とによって、ストレプトスリシンDなどの原核細胞に対する抗生物質活性を失わせること
なく、真核細胞に対する抗生物質活性を低減することができる。したがって、本発明のタ
ンパク質などを用いることによって上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ラクタム開環酵素およびその用途に関する。より具体的には、ストレプ
トスリシン誘導体のラクタムを開環する活性を有する新規ラクタム開環酵素、当該酵素を
用いたラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体の製造方法、ラクタムが開環したス
トレプトスリシン誘導体を含有する抗菌剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトスリシン(streptothricin)(「ST」と略記する場合がある。)(図1参照
)は、1943年に初めてStreptomyces lavendulaeから単離された広域抗生物質である(非
特許文献1:Waksman, S. A. (1943) J. Bacteriol. 46, 299-310)。すべてのSTは、β-
リジンホモポリマー(1〜7残基)が結合する、カルバモイル化D-gulosamine基およびアミ
ド型の異常アミノ酸streptolidine(streptolidineラクタム)からなる。STは、原核細胞
における強力なタンパク質生合成阻害剤であり、さらに酵母、真菌、原虫、昆虫、植物な
どの真核細胞の成長を強力に阻害することから、このような生物の一部において、組換え
DNA技術のための効果的な選択薬剤として使用されている。しかし、STは腎毒性を示すこ
とから治療には用いられていない。
【0003】
現在までに、ST耐性細菌から単離されたTn1825およびTn1826などの転移因子中に、多く
のST耐性遺伝子が同定されており(非特許文献2)、この種の転移因子は、志賀毒素産生
性大腸菌(非特許文献3)やShigella菌株(非特許文献4)など、臨床的に問題となる病
原体からも単離されている。タンパク質生合成阻害活性を示す抗生物質(アミノ配糖体な
ど)に対する細菌耐性は、抗生物質の取り込みと蓄積の減少、16S RNAまたはリボゾーム
タンパク質の修飾、および抗生物質の酵素的修飾の、3つの原因により引き起こされる(
非特許文献5)。しかし、STに対する細菌耐性に関しては、現在までに、β-リジンのβ-
アミノ基(16位)のモノアセチル化(図1参照)によるST分子の修飾によりもたらされる
共通した耐性機序が唯一明らかにされているのみである。実際、Streptomyces lavendula
e(非特許文献6)、Streptomyces rochei(非特許文献7)、Streptomyces noursei(非
特許文献8、非特許文献9)などのST産生菌株でも、N-アセチルトランスフェラーゼ(NA
T)をコードするST耐性遺伝子が同定されており、自ら産生したSTに対する自己耐性にお
ける役割が研究されている。この耐性機序と、多くの細菌に対してST-DのほうがST-Fより
抗菌力が強いという事実に基づいて、β-リジン基が抗生物質活性において重要な役割を
果たしていることが示された。一方、Inamori(非特許文献10)およびTaniyama(非特
許文献11)のグループは、ST-Fから化学的に合成したST-F-acid(図1参照。彼らの論
文ではracenomycin-A-acid)は、細菌、真菌、植物に対する抗生物質活性を示さなかった
ことを独自に報告した。この結果から、streptolidineラクタムも抗生物質活性に不可欠
であることが確認された。しかしながら、ST-D-acidの抗生物質活性は試験されていない

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Waksman, S. A. (1943) J. Bacteriol. 46, 299-310
【非特許文献2】Partridge, S. R., & Hall, R. M. (2005) J. Clin. Microbiol. 43, 4298-4300
【非特許文献3】Singh, R., Schroeder, C. M., Meng, J., White, D. G., McDermott, P. F., Wagner, D. D., Yang, H., Simjee, S., Debroy, C., Walker, R. D., & Zhao, S. (2005) J. Antimicrob. Chemother. 56, 216-219
【非特許文献4】Peirano, G., Agerso, Y., Aarestrup, F. M., & dos Prazeres Rodrigues, D. (2005) J. Antimicrob. Chemother. 55, 301-305
【非特許文献5】Vakulenko, S. B., & Mobashery, S. (2003) Clin. Microbiol. Rev. 16, 430-450
【非特許文献6】Horinouchi, S., Furuya, K., Nishiyama, M., Suzuki, H., & Beppu, T. (1987) J. Bacteriol. 169, 1929-1937
【非特許文献7】Fernandez-Moreno, M. A., Vallin, C., & Malpartida, F. (1997) J. Bacteriol. 179, 6929-6936
【非特許文献8】Krugel, H., Fiedler, G., Haupt, I., Sarfert, E., & Simon, H. (1988) Gene. 62, 209-217
【非特許文献9】Grammel, N., Pankevych, K., Demydchuk, J., Lambrecht, K., Saluz, H. P., & Krugel, H. (2002) Eur. J. Biochem. 269, 347-357
【非特許文献10】Inamori, Y., Tominaga, H., Okuno, M., Sato, H., & Tsujibo, H. (1988) Chem. Pharm. Bull. (Tokyo) 36, 1577-80
【非特許文献11】Taniyama, H., Sawada, Y., & Kitagawa, T. (1971) J. Antibiot. (Tokyo) 24, 662-666
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記状況において、ストレプトスリシンに対し、原核細胞に対する抗生物質活性を失わ
せることなく、真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)を低減することができ
る活性を有する酵素、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する毒性
が低減されたストレプトスリシン誘導体およびその製造方法などが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、配列番号:2、4、6
、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が、ストレ
プトスリシンのラクタムを開環させる活性を有することを見出した。さらに、該酵素によ
ってラクタムが開環されたストレプトスリシンDの誘導体(ST-D-acid)が、原核細胞に
対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する毒性が低減されていることを見出した
。これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなる
ポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列か
らなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列に
おいて、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ
酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチ
ドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列に
対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有するタ
ンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列と相補的
な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、
かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリ
ヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列か
らなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなる
ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつラクタム開環活
性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(2) 以下の(g)〜(i)のいずれかである上記(1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列
または配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16のアミノ酸配列におい
て、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からな
り、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する
ポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列
に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなる
ポリヌクレオチド、又は配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の
塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下
でハイブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレ
オチドを含有するポリヌクレオチド、
(3) 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載
のポリヌクレオチド、
(4) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド、
(5) DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド、
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパ
ク質、
(7) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14または16に記載のアミノ酸配列
からなる上記(6)に記載のタンパク質。
(8) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる上記(7)に記載のタンパク質。
(9) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベク
ター、
(10) 上記(9)に記載の組換えベクターが導入された形質転換体、
(11) 上記(10)に記載の形質転換体を培養し、上記(6)に記載のタンパク質を
生成させる工程を含む、上記(6)に記載のタンパク質の製造方法、
(12) 上記(6)に記載のタンパク質を用いてラクタムを開環する工程を含む、ラク
タムが開環したストレプトスリシン誘導体またはその塩の製造方法、
(13) ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体が、式(I)
【化1】

(式中、nは1〜7の整数を表す。)
で表される化合物である、上記(12)に記載の製造方法、
(14) 式(I)で表される化合物が、式(II)
【化2】

で表される化合物である、上記(13)に記載の製造方法、
(15) 式(II)
【化3】

で表される化合物またはその塩を含有する抗菌剤
などを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質は、ストレプトスリシンのラクタムを開環させることにより、原核
細胞に対する抗生物質活性を失わせることなく真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち
、毒性)を低減させることができるので、臨床開発可能な、または創薬におけるリード化
合物にできるストレプトスリシン誘導体の製造に使用することができる。
また、本発明のポリヌクレオチドは、ストレプトスリシンに対する耐性を真核細胞(例
えば、酵母)に付与することができるので、抗生物質耐性マーカー遺伝子として、組換え
DNA技術に好適に使用することができる。
さらに、ST-D-acidは、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する
抗生物質活性(すなわち、毒性)が低減されているので、臨床開発可能な抗菌剤として、
または、そのような抗菌剤の創薬におけるリード化合物として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】streptothricin(ST)の化学構造を示す図である。
【図2】ST耐性に関わるクローン2.9 kb断片と塩基配列決定により推定されたORFの模式図である。斜線の四角はpWHM3プラスミドにクローニングされたDNA断片を示す。sttH遺伝子の開始コドン候補(第1ポジション〜第8ポジション)は灰色の四角で囲った。本研究で使用したPCRプライマーを矢印により模式的に示した。
【図3】rSttHにより生成された物質のHPLC分析の結果を示す図である。rSttHと反応させたST-F(C)、rSttHを添加しなかった場合のST-F(B)、および反応液とST-F標準物質(A)を逆相HPLCで分析した。HPLC条件は「材料と方法」に記載した通りである。
【図4】ST-FおよびrSttHの作用によりST-Fから生成された物質(ST-F-acid)のESI-MS/MS分析の結果を示す図である。ギ酸0.2%+アセトニトリル50%に溶解したST-F(A)およびST-F-acid(B)のESI-MS およびMS/MSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、ストレプトスリシン(ST)非産生菌株と考えられているStreptomyces a
lbulus NBRC14147からの、新たな機序を示すST耐性付与遺伝子(sttH)の単離に成功した
。SttHのin vivoおよびin vitroでの分析により、この酵素がstreptolidineラクタムのア
ミド結合の加水分解を触媒することにより、ST耐性が付与されることが証明された。興味
深いことに、ST-F(β-リジン残基1個)では、SttHの作用により原核細胞と真核細胞(酵
母)の両方に対する毒性が失われるが、3個のβ-リジン残基をもつST-Dの選択毒性は、st
reptolidine lactamの加水分解により広域性から細菌特異性に変換する。STは哺乳類に毒
性を示すことから、臨床開発されたことはない。しかし、本研究において、SttHにより加
水分解され、ラクタムが開環されたST-D(ST-D-acidと称することがある)は、真核細胞
に対する毒性が減少しても、依然として強い抗菌活性を示すことが明らかにされ、ST-D-a
cidを臨床開発できる、または創薬における新たなリード化合物にできる可能性が示唆さ
れた。さらに、sttH遺伝子と組み合わせたST-Dの使用は、酵母などの真核細胞を用いる組
換えDNA技術における非常に有力な手法となると考えられる。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づき、ストレプトスリシン(ST)の原核細胞に対する抗生
物質活性を失わせることなく真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち、毒性)を低減さ
せることができるタンパク質(新規ラクタム開環酵素)、当該タンパク質をコードするポ
リヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、当該ベクターまたはポリヌ
クレオチドが導入された形質転換体、当該形質転換体を用いる当該タンパク質の製造方法
、当該タンパク質を用いる原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する
抗生物質活性(すなわち、毒性)が低減されたストレプトスリシン誘導体の製造方法、ST
-D-acidを含有する抗菌剤などを提供するものである。
【0012】
1.本発明のポリヌクレオチド
本明細書中、配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリ
ヌクレオチドを「sttH遺伝子」と称することがある。
まず、本発明は、(a)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15の塩基配
列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、こ
れらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号:2、4、6、8、10、12、14
または16のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する
ポリヌクレオチドを提供する。本発明で対象とするDNAは、上記のStreptomyces albulus
NBRC14147由来の新規ラクタム開環酵素をコードするDNAに限定されるものではなく、この
タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。機能的に同等なタ
ンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2、4、6、8、10、12、14または1
6に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入およ
び/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質が
挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号:2、4、6、8、10、12、
14または16のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜70個、1〜50個、1
〜30個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5
個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/また
は付加されたアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質が挙げら
れる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さ
い程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2、4、6、8、
10、12、14または16のアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、88%以上、90%以
上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上、99
.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム
開環活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好まし
い。 なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S. F.
et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)やFASTA(Pearson W. R., M
ethods in Enzymology 183, 63 (1990)、など参照)等の解析プログラムを用いて決定で
きる。BLASTまたはFASTAを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメー
ターを用いる。ここで、ラクタム開環活性は、通常の方法またはそれに準じた方法によっ
て、例えば、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。本発明における
ラクタム開環活性は、より具体的にはストレプトスリシンのラクタムを開環する活性であ
り、さらに具体的には、ストレプトスリシンのstreptolidineラクタムを開環する活性で
ある。ラクタムの開環は、具体的には、加水分解によって行われる。
【0013】
また、本発明は、(e)配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の
塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハ
イブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチ
ドを含有するポリヌクレオチド;及び(f)配列番号:2、4、6、8、10、12、14
または16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩
基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイ
ブリダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
を含有するポリヌクレオチドも包含する。
【0014】
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNA)
」とは、配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列と相補
的な塩基配列からなるDNAまたは配列番号:2、4、6、8、10、12、14または
16に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの全部または一部をプローブとして、コロニ
ーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンハイブリ
ダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAをいう。具体的には、コロニーあ
るいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/
LのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度の
SSC(Saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmo
l/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃
条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることがで
きる。
【0015】
ハイブリダイゼーションは、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory
Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)(以下、モレキ
ュラー・クローニング第3版と略す)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Mo
lecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)、Glover D. M.
and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second E
dition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行う
ことができる。
【0016】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリ
ンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェン
トな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32
℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハ
ルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条
件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条
件である。条件を厳しくするほど、二本鎖形成に必要とする相補性が高くなる。具体的に
は、例えば、これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率
的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー
に影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃
度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のス
トリンジェンシーを実現することが可能である。
【0017】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct
Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合
は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを
一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで
洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0018】
これ以外にハイブリダイズ可能なDNAとしては、FASTA、BLAST等の解析プログラムによ
り、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、配列番号:2、4、6、8、10
、12、14または16に記載のアミノ酸配列をコードするDNAと約80%以上、85%以上
、88%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以
上、99.5%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するDNAをあげるこ
とができる。
【0019】
あるアミノ酸配列に対して、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/
または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、部位
特異的変異導入法(例えば、Gotoh, T. et al., Gene 152, 271-275 (1995)、Zoller, M.
J., and Smith, M., Methods Enzymol. 100, 468-500 (1983)、Kramer, W. et al., Nucl
eic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、Kramer W, and Fritz H.J., Methods. Enzymol.
154, 350-367 (1987)、Kunkel,T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492 (1985
)、Kunkel, Methods Enzymol. 85, 2763-2766 (1988)、など参照)、アンバー変異を利用
する方法(例えば、Gapped duplex法、Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、など
参照)などを用いることにより得ることができる。
【0020】
また目的の変異(欠失、付加、置換および/または挿入)を導入した配列をそれぞれの
5’端に持つ1組のプライマーを用いたPCR(例えば、Ho S. N. et al., Gene 77, 51
(1989)、など参照)によっても、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。
また欠失変異体の一種であるタンパク質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、
そのタンパク質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域
の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列
と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、そのタンパク質
をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。
【0021】
本発明のポリヌクレオチドとしては、具体的には、上記(a)〜(f)のいずれかに記載
のポリヌクレオチドがあげられる。本発明のポリヌクレオチドとしては、(g)配列番号:
2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列または配列番号:
2、4、6、8、10、12、14もしくは16のアミノ酸配列において、1〜10個のア
ミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム
開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド
;(h) 配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列
に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有する
タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;および(i)配列
番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列からなるポリヌクレ
オチド、又は配列番号:1、3、5、7、9、11、13または15に記載の塩基配列と
相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリ
ダイズし、かつラクタム開環活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含
有するポリヌクレオチドが好ましく、さらに、配列番号:2、4、6、8、10、12、
14もしくは16に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチ
ドを含有するポリヌクレオチドおよび配列番号:1、3、5、7、9、11、13または
15に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドが好ましい
。なかでも、コードされるタンパク質のラクタム開環活性の点で、配列番号:2に記載の
アミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオ
チドおよび配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌク
レオチドが好ましい。
【0022】
2.本発明のタンパク質
本発明は、上記本発明のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質も提供する。より
具体的には、上記ポリヌクレオチド(a)〜(i)のいずれかにコードされるタンパク質で
あり、好ましくは、配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載の
アミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号:2、4、6、8、10、12、14
もしくは16に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換
、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタ
ンパク質であり、より好ましくは、配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしく
は16に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である。なかでも、ラクタム開環活性の
点で、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が好ましい。
【0023】
配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列にお
いて、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸
配列からなり、かつラクタム開環活性を有するタンパク質としては、配列番号:2、4、
6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配列において、上記したような
数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、
かつラクタム開環活性を有するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質と
しては、配列番号:2、4、6、8、10、12、14もしくは16に記載のアミノ酸配
列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつラクタム開環活性を有する
タンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版
」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids
. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Ge
ne, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad.
Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得すること
ができる。
【0024】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入
および/または付加されたとは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中
の位置において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加がある
ことを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は
相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバ
リン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、
t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イ
ソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C
群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミ
ノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-
ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニ
ン、チロシン。
【0025】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tB
oc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。
また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテ
インテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製
、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0026】
3.本発明の組換えベクター及び形質転換体
さらに、本発明は、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)を含有する組換えベ
クター及び形質転換体を提供する。本発明の組換えベクターは、上記(a)〜(i)のいず
れかに記載のポリヌクレオチド(DNA)を含有する。本発明の形質転換体には、本発明
の組換えベクターが、本発明のポリヌクレオチド(DNA)が発現可能なように導入され
ている。
【0027】
(1)組換えベクターの作成
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリヌクレオチド(DNA)を
連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製されたDNAを適当
な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに
挿入して、ベクターに連結することにより得ることができる。本発明のポリヌクレオチド
を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば
、プラスミド、バクテリオファージ、動物ウイルス等が挙げられる。プラスミドとしては
、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119等)、枯草
菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YE
p24, YCp50等)などがあげられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージな
どがあげられる。動物ウイルスとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス
、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルスなど)などがあげられる。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクター中のプロモーターの下流に、発現
可能なように連結される。用いられるプロモーターとしては、形質転換する際の宿主が動
物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、
メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプ
ロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は
、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター
、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である
場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好
ましい。宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAP
プロモーター、ADH1プロモーター、GALプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫
細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシング
シグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカーなどを含
有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還
元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
【0029】
(2)形質転換体の作成
このようにして得られた、本発明のポリヌクレオチド(すなわち、本発明のタンパク質
をコードするDNA)を含有する組換えベクターを、適当な宿主中に導入することによっ
て、形質転換体を作成することができる。宿主としては、本発明のDNAを発現できるもの
であれば特に限定されるものではなく、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、シュ
ードモナス属菌、リゾビウム属菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などがあげられる。エ
シェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などがあげ
られる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)な
どがあげられる。シュードモナス属菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseud
omonas putida)などがあげられる。リゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・メリ
ロティ(Rhizobium meliloti)などがあげられる。酵母としては、例えば、サッカロミセス
・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosacchar
omyces pombe)などがあげられる。動物細胞としては、例えば、COS細胞、CHO細胞などが
あげられる。昆虫細胞としては、例えば、Sf9、Sf21などがあげられる。
【0030】
組換えベクターの宿主への導入方法およびこれによる形質転換方法は、一般的な各種方
法によって行うことができる。組換えベクターの宿主細胞への導入方法としては、例えば
、例えばリン酸カルシウム法(Virology, 52, 456-457 (1973))、リポフェクション法(
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987))、エレクトロポレーション法(EMBO J.
, 1, 841-845 (1982))などがあげられる。エシェリヒア属菌の形質転換方法としては、
例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)などに
記載の方法などがあげられる。バチルス属菌の形質転換方法としては、例えば、Molecula
r & General Genetics,168, 111 (1979)に記載の方法などがあげられる。酵母の形質転
換方法としては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,75,1929 (1978)に記載の方法
などがあげられる。動物細胞の形質転換方法としては、例えば、Virology,52, 456 (1973
)に記載の方法などがあげられる。昆虫細胞の形質転換方法としては、例えば、Bio/Techn
ology, 6, 47-55 (1988)に記載の方法などがあげられる。このようにして、本発明のタン
パク質をコードするDNAを含有する組換えベクターで形質転換された形質転換体を得る
ことができる。
【0031】
4.本発明のタンパク質の製造
また、本発明は、前記形質転換体を培養し、本発明のタンパク質を生成させる工程を含
む、本発明のタンパク質の製造方法を提供する。本発明のタンパク質は、前記形質転換体
を本発明のタンパク質をコードするDNAが発現可能な条件下で培養し、本発明のタンパ
ク質を生成・蓄積させ、分離・精製することによって製造することができる。
【0032】
(形質転換体の培養)
本発明の形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことが
できる。該培養によって、形質転換体によって本発明のタンパク質が生成され、形質転換
体内または培養液中などに本発明のタンパク質が蓄積される。
【0033】
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する培地としては、該
形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効
率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭
素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプンなどの炭水化物、酢酸
、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる
。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウ
ム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含
窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーなどが用いられる。無
機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸
マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムな
どが用いられる。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を
培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクター
で形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加
してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体
を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)などを、trpプロ
モーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはインドール
アクリル酸(IAA)などを培地に添加してもよい。
【0034】
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必
要により、通気や撹拌を加える。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃
で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加える。
【0035】
宿主が酵母である形質転換体を培養する培地としては、たとえばバークホールダー(Bu
rkholder)最小培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980))や0.5%カザミ
ノ酸を含有するSD培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5330 (1984))があげられ
る。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約2
4〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0036】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する培地としては、たとえば約5〜20%の胎
児牛血清を含むMEM培地(Science, 122, 501 (1952)),DMEM培地(Virology, 8,
396 (1959))などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約3
0℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0037】
宿主が昆虫細胞である形質転換体を培養する培地としては、Grace's Insect Medium(N
ature,195,788(1962))に非働化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが
用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27
℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0038】
(本発明のタンパク質の分離・精製)
上記培養物から、本発明のタンパク質を分離・精製することによって、本発明のタンパ
ク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、ま
たは培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分
離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
【0039】
具体的には、本発明のタンパク質が培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合に
は、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは
細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のタンパク
質の粗抽出液を得ることができる。本発明のタンパク質が培養液中に蓄積される場合には
、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培
養上清とを分離することにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる

【0040】
このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる本発明のタンパク質の精
製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例え
ば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィ
ー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限
外ろ過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0041】
5.ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体の製造
さらに、本発明は、本発明のタンパク質を用いてラクタムを開環する工程を含む、ラク
タムが開環したストレプトスリシン誘導体(ST-acidと称することがある。)の製造方法
を提供する。本発明のタンパク質は、ストレプトスリシンのラクタムを開環する活性を有
するので、本発明のタンパク質を用いることにより、ストレプトスリシンを原料として、
ラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体を製造することができる。
【0042】
以下、下記反応式1に従って、本発明のラクタムが開環したストレプトスリシン誘導体
の製造方法について説明する。
[反応式1]
【化4】

(式中、nは1〜7の整数を表す。)
【0043】
化合物(III)は、原料となるストレプトスリシンであり、β−リシン側鎖の長さが
異なるストレプトスリシンX(n=7)、A(n=6)、B(n=5)、C(n=4)、
D(n=3)、E(n=2)、F(n=1)が知られている。ストレプトスリシン(すな
わち、化合物(III))は、市販されているか、文献記載の方法(文献1,梅沢濱夫、
竹内富雄、黒須英二、(1949) J. Antibiot, 3, 232-235;文献2,Taniyam H., Sawads Y
., Kitagawa T. (1971) J. Antibiot, 24, 390-392;文献3,Miyashiro S, Ando T, Hi
rayama K, Kida T, Shibai H, Murai A, Shiio T, Udaka S.(1983) J. Antibiot, 36, 16
38-1643; 文献4,Ando T, Miyashiro S, Hirayama K, Kida T, Shibai H, Murai A, Ud
aka S. (1987) J. Antibiot, 40, 1140-1145 )に従って得ることができる。
【0044】
反応に用いられる溶媒としては、リン酸ナトリウム緩衝液、トリス塩酸緩衝液などの緩
衝液があげられる。反応液のpHは、通常約4.5〜8.0、好ましくは約6.0〜8.
0、より好ましくは約6.5である。反応温度は、通常約25〜65℃、好ましくは約3
5〜65℃、より好ましくは約45℃である。反応時間は、通常30分〜2時間程度であ
るが、反応速度などに応じて適宜設定することができる。
【0045】
上記の反応によって生成された化合物(I)は、逆相高速液体クロマトグラフィー、ゲ
ルろ過クロマトグラフィー、抽出などの通常用いられる方法によって単離・精製すること
ができる。
【0046】
このようにして得られた化合物(I)が遊離体で得られた場合には、通常の方法によっ
て塩に変換することができる。逆に、化合物(I)が塩で得られた場合には、通常の方法
によって遊離体または他の塩に変換することができる。このような塩としては、生理学的
に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸など)や塩基(例えば、アルカリ金属など)な
どとの塩が好ましい。無機酸との塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸
などとの塩があげられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢
酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸
、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アジピン酸、プロ
ピオン酸、ソルビン酸、安息香酸、アスコルビン酸などとの塩があげられる。塩基との塩
としては、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩などがあげられる。金属塩としては
、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩との塩;カルシウム、マグネシウ
ム、バリウムなどのアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩などがあげられる。有機塩
基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン
、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、
シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミ
ンなどとの塩があげられる。
【0047】
6.本発明のストレプトスリシン誘導体を含有する抗菌剤
また、本発明は、ラクタムが開環されたストレプトスリシンDの誘導体(ST-D-acid)
またはその塩などの、本発明のストレプトスリシン誘導体またはその塩を含有する抗菌剤
を提供する。上記の製造方法によって製造することができるラクタムが開環されたストレ
プトスリシンD誘導体(ST-D-acid)またはその塩などは、真核細胞に対する抗生物質活
性(すなわち、毒性)は低減されているが、原核細胞に対する抗生物質活性は保持してい
る。したがって、ヒトを含む哺乳動物(例、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、
ブタ、ヒツジ、ウシなど)、鳥類、は虫類などの真核生物に対して安全に使用しうる抗菌
剤として使用することができる。
【0048】
本発明の抗菌剤に用いられる、ラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体として
は、原核細胞に対する抗生物質活性の点で、ラクタムが開環されたストレプトスリシンD
誘導体(ST-D-acid)、すなわち、上記式(II)で表される化合物が好ましい。
【0049】
本発明のラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体が抗菌活性を示す原核生物(
例、細菌など)としては、大腸菌などのグラム陰性菌;結核菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌
などのグラム陽性菌などの病原性細菌などがあげられる。
【0050】
本発明のラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体またはその塩を上述の抗菌剤
として使用する場合、通常の方法によって実施することができる。具体的には、例えば、
以下に記載するようにして実施することができる。本発明のラクタムが開環されたストレ
プトスリシン誘導体またはその塩を抗菌剤として使用する場合には、それ自体または医薬
組成物として、例えば、経口、非経口、静脈、口内、直腸、膣、経皮、鼻腔経路経由また
は吸入経由で投与することができるが、経口的に投与するのが好ましい。経口投与のため
の医薬組成物としては、錠剤(糖衣錠、コーティング錠、有核錠、舌下錠、口腔内貼付錠
、口腔内崩壊錠を含む)、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイク
ロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ剤、液剤(シロップ剤、乳剤、懸
濁剤を含む)などが挙げられる。非経口投与のための医薬組成物としては、注射剤、クリ
ーム剤、軟膏剤、坐剤などが挙げられる。このような医薬組成物は、例えば、生理学的に
許容される賦形剤、担体などと混合し、常法に従って製造することができる。生理学的に
許容される賦形剤、担体などとしては、例えば、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊
剤、滑沢剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、乳化剤な
どがあげられる。また、必要に応じて、着色剤、甘味剤、抗酸化剤などの製剤添加剤も用
いることができる。
【0051】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプ
ン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース(例えば、微結晶セルロースなど)、
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラ
ビアゴム、デキストリン、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケ
イ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、α化デンプン
、ショ糖、ゼラチン、マクロゴール、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチ
ルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マ
ンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース(
HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(
PVP)などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、カルボキ
シメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリド
ン、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスター
チナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、陽イオン交換
樹脂、部分α化でんぷん、トウモロコシデンプンなどがあげられる。滑沢剤としては、例
えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ワ
ックス類、コロイドシリカ、DL−ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マ
グネシウム、マクロゴール、エアロジルなどがあげられる。
【0052】
溶剤としては、例えば、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレ
ングリコール、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油
(例えば、サフラワー油、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油、大豆レシチン
など)などがあげられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロ
ピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、
トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン
酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどがあげられる。懸濁化剤とし
ては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルア
ミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステア
リン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリド
ン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセル
ロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分
子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などがあげられる。緩衝剤とし
ては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などがあげられる。
増粘剤としては、例えば、天然ガム類、セルロース誘導体などがあげられる。乳化剤とし
ては、例えば、脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エ
ステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど)、ワッ
クス(例えば、ミツロウ、菜種水素添加油、サフラワー水素添加油、パーム水素添加油、
シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、カカオ
脂粉末、カルナウバロウ、ライスワックス、モクロウ、パラフィンなど)、レシチン(例
えば、卵黄レシチン、大豆レシチンなど)などがあげられる。
【0053】
着色剤としては、例えば、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用
黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素、水不溶性レーキ色素(例
、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例、β−カロチン、ク
ロロフィル、ベンガラなど)などがあげられる。甘味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖
、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなど
があげられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸及びそれらのアル
カリ金属塩、アルカリ土類金属塩などがあげられる。
【0054】
錠剤、顆粒剤、細粒剤などに関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上
あるいは腸溶性などの目的のため、コーティング基材を用いて通常の方法でコーティング
してもよい。そのコーティング基剤としては、糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基
材、腸溶性フィルムコーティング基材などがあげられる。糖衣基剤としては、例えば、白
糖があげられ、さらにタルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン
、カルナバロウなどから選ばれる1種または2種以上を併用してもよい。水溶性フィルム
コーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロ
キシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセル
ロース、メチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子;ポリビニルアセ
タールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイ
ドラギットE(登録商標))ポリビニルピロリドンなどの合成高分子;プルランなどの多
糖類などがあげられる。腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシ
プロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート
サクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセル
ロース系高分子;メタアクリル酸コポリマーL(オイドラギットL(登録商標))、メタ
アクリル酸コポリマーLD(オイドラギットL−30D55(登録商標))メタアクリル
酸コポリマーS(オイドラギットS(登録商標))などのアクリル酸系高分子;セラック
などの天然物などがあげられる。これらのコーティング基剤は、単独で、または2種以上
を適宜の割合で混合してコーティングしてもよく、また2種以上を順次コーティングして
もよい。
【0055】
本発明の抗菌剤における本発明のラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体また
はその塩の含有量は、通常0.01重量%〜100重量%、好ましくは1〜99重量%で
ある。
【0056】
本発明のラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体またはその塩の投与量は、抗
菌作用の有効量の範囲内であればよく、対象疾患、投与対象、投与方法、症状などによっ
ても異なるが、通常、体重1kg当たり、1日につき、約0.001〜約1000mgで
ある。より具体的には、例えば、前記したような病原性細菌に感染した患者に、経口的に
投与する場合、体重1kg当たり、1日につき、本発明のラクタムが開環されたストレプ
トスリシン誘導体を約0.01〜100mg、好ましくは0.05〜50mg、より好ま
しくは、0.1〜10mg投与する。非経口的に投与する場合、体重1kg当たり、1日
につき、本発明のラクタムが開環されたストレプトスリシン誘導体を約0.001〜50
mg、好ましくは0.005〜20mg、より好ましくは、0.01〜10mg投与する

【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【0058】
[材料と方法]
まず、本発明で用いた材料、実験方法について説明する。
(1)化学薬品
ストレプトスリシン(ST)(クローンNAT、ST-FとST-Dの混合物;ST-FとST-Dの割合は
約5:1)はWERNER BioAgents(Meisenweg、イェナ、ドイツ)から入手した。その他すべ
ての試薬は分析用特級とした。
【0059】
(2)細菌株、プラスミド、DNA操作の一般的手法
S. albulus NBRC14147のDNAをsttH遺伝子のクローニングに使用した。S. albulus NBRC
14147の培地と生育条件は以前報告したとおりである(Takagi, H., Hoshino, Y., Nakamo
ri, S., & Inouye, S. (2000) J. Biosci. Bioeng. 89, 94-96)。E. coli−Streptomyce
sシャトルベクターであるpWHM3(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K
. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Founda
tion, Norwich, U.K))とS. lividans TK23(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J.
, Chater, K. F., & Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John I
nnes Foundation, Norwich, U.K))をsttH遺伝子のクローニングに使用した。ST産生株と
して、S. lavendulae NBRC12789を使用した。STに対するNATをコードするnat遺伝子は、p
HN15プラスミド(WERNER BioAgents)から切り出した。pQE30プラスミド、E. coli M15(
pREP4)(Qiagen)、およびE. coli XL1-Blue MRF((東洋紡、日本、大阪府)を組換えタ
ンパク質の過剰発現に用いた。 E. coli 菌株とStreptomyces 菌株のDNA組換えは標準的
な技術を用いて行った(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., &
Hopwood, D. A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, No
rwich, U.K),Sambrook, J., & Russell, D. W. (2001) Molecular Cloning: A Laborator
y Manual (Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, New York))。サザンブロット
分析はECL直接核酸標識・検出システム(Amersham Bioscience、ニュージャージー州ピス
カタウェイ)を用いて行った。S. cerevisiae におけるsttHとnat遺伝子の発現には、S.
cerevisiae CKY8菌株(MAT( ura3-52 leu2-3、112)と酵母エピソーム様pAD4プラスミド
を使用した。このプラスミドはアンピシリン耐性遺伝子(E. coli用)およびLEU2遺伝子
(酵母用)の選択マーカーを含むE. coli−Saccharomycesシャトルベクターである。CKY8
菌株の形質転換はBD Yeastmaker Yeast Transformation System 2(BD Biosciences Clon
tech、カリフォルニア州パロアルト)を用いて実施した。pAD4誘導体を保有するS. cerev
isiae CKY8菌株は、L-leucine(SC-Leu)を含まない合成完全培地(Sherman, F. (1991)
Methods Enzymol. 194, 3-21)またはYPD培地(Sherman, F. (1991) Methods Enzymol. 1
94, 3-21)で生育させた。STおよびST-acidの最小発育阻止濃度(MIC)試験では、微生物
としてS. cerevisiae S288C(CKY8菌株と同じ遺伝子背景のもの)、S. pombe L972、E. c
oli W3110、B. subtilis NBRC13169、S. aureus AB、およびS. aureus FIR1169(Igarash
i, H., Fujikawa, H., Usami, H., Kawabata, S., & Morita, T. (1984) Infect. Immun.
44, 175-181)を使用した。
【0060】
(3)Streptomyces 菌株のN−アセチルトランスフェラーゼ(NAT)をコードする遺伝子
のPCR増幅
S. lavendulae(Horinouchi, S., Furuya, K., Nishiyama, M., Suzuki, H., & Beppu,
T. (1987) J. Bacteriol. 169, 1929-1937)、 S. rochei(Fernandez-Moreno, M. A.,
Vallin, C., & Malpartida, F. (1997) J. Bacteriol. 179, 6929-6936)、S. noursei(
Krugel, H., Fiedler, G., Haupt, I., Sarfert, E., & Simon, H. (1988) Gene. 62, 20
9-217, Grammel, N., Pankevych, K., Demydchuk, J., Lambrecht, K., Saluz, H. P., &
Krugel, H. (2002) Eur. J. Biochem. 269, 347-357)の高度に保存されたNATのアミノ
酸配列に基づいて、5(-GACGC(G/C)GA(A/G)GC(G/C)ATCGA(A/G)G(G/C)(G/C)CT(G/C)GA-3(
(配列番号:17)および 5(-GTTST(C/T)GTT(G/C)GT(G/C)AC(C/T)TC(G/C)AGCCA-3( (配
列番号:18)の、2つのプライマーを設計した。PCR増幅は、94℃で1分間変性、60℃で1
分間アニーリング、72℃で1分間伸長を30サイクルの条件で実施した。
【0061】
(4)S. albulus NBRC14147のsttH遺伝子のクローニング
S. albulus NBRC14147のゲノムDNAをSau3AIを用いて部分的に消化した。2.0 kb を超え
るSau3AI断片を、thiostrepton 耐性遺伝子をもつpWHM3プラスミドのBamHI部位に組込ん
だ。このようにして作製した組込みDNAを用いてS. lividans TK23を形質転換させ、ST(1
00 μg/mL)およびthiostrepton(20 μg/mL)の両方に対して耐性を示す形質転換体をR5
寒天培地(Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M. J., Chater, K. F., & Hopwood, D.
A. (2000) Practical Streptomyces Genetics (John Innes Foundation, Norwich, U.K)
から単離した。13個の形質転換体から、2.9 kb挿入断片(pWHM3-st11)をもつプラスミド
を保有する形質転換体の1つを、その後の実験用に選出した。この2.9 kb断片の完全なヌ
クレオチド配列を決定後、pWHM3を用いて、ORF2-ORF3(pWHM3-orf2-3)、ORF1(pWHM3-or
f1)のそれぞれをもつ2つのプラスミドを作製した。
【0062】
(5)sttH(ORF2)遺伝子の開始コドンの推定
sttH遺伝子の開始コドンを推定するため、7つのフォワードプライマーと1つのリバース
プライマーを図2に模式的に示したとおりに設計し、sttH遺伝子の増幅に使用した。BamH
I部位(5(-GGGGGATCC-3()をすべてのフォワードプライマーに付加し、HindIII部位(5(-
ACCAAGCTT-3()をリバースプライマーに付加した。PCRは標準的な条件で実施した。配列
の確認後、7つの増幅断片のそれぞれをpQE30プラスミドの同じ部位に挿入し、pQE30-SHF1
R(SH-F1とSH-Rプライマーで増幅したPCR断片をもつ)、pQE30-SHF2R(SH-F2とSH-R)、p
QE30-SHF3R(SH-F3とSH-R)、pQE30-SHF4R(SH-F4とSH-R)、pQE30-SHF5R(SH-F5とSH-R
)、 pQE30-SHF6R(SH-F6とSH-R)、およびpQE30-SHF7R(SH-F7とSH-R)プラスミドを作
製した。各プラスミドをE. coli XL1-Blue MRF(に導入した。これらの形質転換体におけ
るSTのMICを、アンピシリン(100 (g/mL)、isopropyl-(-D-thiogalactoside(IPTG)0.1
mM、ST(0〜100 (g/mL)を含むLuria-Bertani(LB)寒天平板(Sambrook, J., & Russel
l, D. W. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab.
Press, Plainview, New York))上で決定した。
【0063】
(6)SttHの組換え酵素(rSttH)により生成されたST-FおよびST-D由来化合物の同定とr
SttHの速度反応試験(反応速度論的解析)
製造者(Qiagen)のプロトコルに従って、反応液(500 μL)は、リン酸ナトリウム緩
衝液100 mM(pH 6.5)、ST-FまたはST-D 1 mg/mL、pQE30-SHF6Rを保有する E. coli M15
(pREP4)から精製したrSttH 100 μg/mLを用いて作製した。反応液をrSttHとともに、ま
たはrSttHを添加せずに、30℃で1時間反応させた後、タンパク質除去のためのクロロフォ
ルム抽出を行った。イオン対試薬を用いた逆相HPLCにより水層を分析した。分析条件は、
カラム、C18逆相カラム[COSMOSIL 5C18-AR-II(250×4.6 mm)(ナカライテスク、日本
、京都府)];カラム温度、30℃;検出、210 nm;流速、1mL/分、とした。ヘプタフルオ
ロ酪酸0.1%+アセトニトリル18%(ST-F反応用)、およびヘプタフルオロ酪酸0.1%+ア
セトニトリル23%(ST-D反応用)の、2つの異なる移動相を使用した。反応速度試験は、
安定状態の反応速度パラメータの測定に適合させるために酵素濃度(2 μg/mL)と反応時
間(5分)を減少させた以外は、上述と同様の条件で実施した。全試験は直線性の範囲内
で実施した。2N HClを15 μl添加して反応を終了させたあとに、HPLCを用いて分析した。
ラインウィーバー-バークプロットを用いて反応速度定数を推定した。硫酸ナトリウム100
mMを含むリン酸ナトリウム緩衝液20 mM(pH 7.0)で緩衝化したCOSMOSIL 5Diol-300(7.
8 mm×600 mm)カラム(ナカライテスク)を用いたゲルろ過により、rSttHのネイティブ
の分子量を推定した。
【0064】
(7)ST-化合物(STおよびST由来化合物)の精製
逆相HPLCにより、カラムサイズ(250×10 mm、流速(4.72 mL/min)、アセトニトリル
濃度(25%)以外は基本的に上述と同様の条件で、市販のSTからST-FおよびST-Dを精製し
た。HPLC分画から有機溶媒を除去後、水相を凍結乾燥して化合物の白色粉末を作製した。
酵素的に合成したST-F-acidおよびST-D-acidを、ST-FおよびST-Dの精製について記した手
順と同様の手順で精製した。
【0065】
(8)ST-F-acidおよびST-D-acidの構造決定
Finnigan MAT TSQ 7000(四重極型タンデム質量分析計)を用いてST化合物のESI-MS/MS
スペクトルを算出した。ST-F-acidおよびST-D-acidの1H-NMRスペクトルデータは、JEOL L
NM-LA500 分光計を用いて500 MHzで記録した。(i) ST-F-acid, 1H-NMR (500 MHz, D2O)
δ: 1.60 (4H, m, H-17, 18), 2.51 (1H, dd, J = 8 and 17 Hz, H-15), 2.62 (1H, dd,
J = 5 and 17 Hz, H-15), 2.86 (2H, br s, H-19), 2.94 (1H, dd, J = 10 and 13 Hz, H
-4), 3.08 (1H, dd, J = 3 and 13 Hz, H-3), 3.49 (1H, m, H-16), 3.55 (2H, d, J = 6
Hz, H-12), 3.98 (2H, m, H-5), 3.99 (1H, t, J = 3 Hz, H-9), 4.05 (1H, dd, J = 3
and 10 Hz, H-8), 4.14 (1H, t, J = 6 Hz, H-11), 4.31 (1H, d, J = 5 Hz, H-2), 4.59
(1H, d, J = 4 Hz, H-10), 4.95 (1H, d, J = 9 Hz, H-7). (ii) ST-D-acid, 1H-NMR (5
00 MHz, D2O) δ: 1.43 (4H, m, H-18, 24), 1.51 (4H, m, H-17, 23), 1.60 (4H, m, H-
29, 30), 2.40 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-27), 2.43 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-
21), 2.48 (1H, dd, J = 8 and 16 Hz, H-15), 2.50 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-27),
2.53 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-21), 2.57 (1H, dd, J = 5 and 17 Hz, H-15), 2.8
5 (2H, m, H-31), 2.86 (2H, br s, H-19), 2.94 (1H, dd, J= 10 and 13 Hz, H-4), 3.0
5 (3H, m, Acetyl), 3.08 (1H, dd, J= 3 and 13 Hz, H-3), 3.45 (4H, m, H-19, 25), 3
.48 (3H, m, H-16, 22, 28) , 3.54 (2H, d, J= 6 Hz, H-12), 3.98 (1H, t, J= 3 Hz, H
-9), 3.99 (2H m, H-5), 4.06 (1H, dd, J= 3 and 10 Hz, H-8), 4.14 (1H, t, J= 6 Hz,
H-11), 4.31 (1H, d, J= 5 Hz, H-2), 4.58 (1H, d, J= 4 Hz, H-10), 4.94 (1H, d, J=
9 Hz, H-7).
【0066】
(9)sttH遺伝子またはnat遺伝子を過剰発現するE. coliおよび S. cerevisiae菌株のST
-D耐性プロフィールの検討
nat遺伝子を過剰発現するE. coli菌株を作製するため、以下のプライマーを設計してPC
Rに使用した。5(-GGGGGATCCACCACTCTTGACGACACGGCT-3((フォワード)(配列番号:19
)、5(-ACCAAGCTT TCAGGGGCAGGGCATGCTCAT-3((リバース)(配列番号:20)。制限酵
素部位(GGATCCまたはAAGCTT、下線)と停止コドン(TCA、下線)をこれらのプライマー
に挿入した。pQE30を用いてこれらのプライマーをもつ増幅断片を組込んだ発現ベクター
(pQE30-nat)を作製した。pQE30-natおよびpQE30-SHF6Rのそれぞれを保有する E. coli
XL1-Blue MRF(菌株におけるST-FおよびST-DのMICを、アンピシリン(100 (g/mL)、IPTG
0.1 mM、ST(0〜4 mM)を含むLB寒天平板上で決定した。また、nat遺伝子およびsttH遺伝
子のそれぞれを過剰発現するS. cerevisiae CKY8菌株を、以下の手順で作製した。制限部
位(AAGCTTまたはCTGCAG、下線)と停止コドン(TCA、下線)を付加した以下の2セットの
プライマーを設計し、PCRに使用した:
5(-ACCAAGCTTAATATGACCACTCTTGACGACACG-3((nat遺伝子のフォワードプライマー)(配列
番号:21)、
5(-AAACTGCAG TCAGGGGCAGGGCATGCTCAT-3((nat遺伝子のリバースプライマー)(配列番号
:22)、
5(-ACCAAGCTTACCATGCCCCCCGAGACCGCCGCG-3((sttH遺伝子のフォワードプライマー)(配
列番号:23)、
5(-AAACTGCAG TCAGCGCGCTGGAGCGGGCGG-3((sttH遺伝子のリバースプライマー)(配列番
号:24)。
配列を確認後、増幅断片をpAD4の同じ部位に挿入し、酵母アルコール脱水素酵素の恒常
的プロモーターの調節下でこれらの遺伝子が発現するpAD4-natおよびpAD4-sttHを作製し
た。pAD4-natおよびpAD4-sttHのそれぞれを保有するS. cerevisiae CKY8菌株を、ST(ST-
FまたはST-D、0〜4 mM)を含むSC-Leu培地で生育させ、ST-FおよびST-DのMICを決定した

【0067】
実施例1:ストレプトスリシン(ST)耐性遺伝子のクローニングと塩基配列決定
興味深いことに、ST非産生菌株であると考えられているStreptomyces菌株を用いたSTの
最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration、MIC)試験により、Streptomyce
s albulus NBRC14147がST産生菌株のS. lavendulae NBRC12789よりST耐性が高いことが判
明した(表1)。さらに、STに作用するN−アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltran
sferese、NAT)をコードするnat遺伝子などの遺伝子用に設計されたプライマーを使用し
、NBRC14147菌株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、増幅断片が認められなか
った。一方で、S. lavendulae NBRC12789のゲノムDNAを鋳型に用いた場合には、特定の増
幅断片が検出された。NBRC14147菌株にはNATをコードしている相同遺伝子が存在しないと
考えられたため、この菌株をST耐性遺伝子の単離用に選択した。thiostrepton耐性遺伝子
をもつpWHM3プラスミドを用いて作製したNBRC14147菌株のゲノムライブラリーと、STおよ
びthiostrepton感受性を示す異種宿主としてStreptomyces lividans TK23菌株を用いるこ
とにより、thiostrepton(20 μg/mL)とST(400 μg/mL超、ST-FとST-Dの混合物)の両
方に耐性を示すTK23菌株の形質転換体が多数単離された。2.9 kb断片をプローブとして実
施したサザンブロット分析により、これらの形質転換体から単離されたすべてのプラスミ
ドにこの2.9 kb断片が認められたため、その後の実験用に、これらの形質転換体から、2.
9 kb断片をもつpWHM3プラスミド(pWHM3-st11、図2および表1)を保有する形質転換体
の1つを選出した。
2.9 kb DNA断片の塩基配列決定とStreptomyces菌株のコドンフレーム解析(Bibb, M. J
., Findlay, P. R., & Johnson, M. W. (1984) Gene. 30, 157-166)により、2つのORF(
ORF1および2)と1つの部分ORF(ORF3)が示された(図2)。個別のORFの機能を解明する
ため、BLAST(Altschul, S. F., Gish, W., Miller, W., Myers, E. W., & Lipman, D. J
. (1990) J. Mol. Biol. 215, 403-410)および3D-PSSM(Kelley, L. A., MacCallum, R.
M., & Sternberg, M. J. (2000) J. Mol. Biol. 299, 499-520)を用いてこれらの翻訳
産物についてのデータベース(UniPro)検索を行った。結果を図2にまとめた。要約する
と、各ORFは、エステラーゼおよびβ-ラクタマーゼ(ORF1)、isochorismataseなどの加
水分解酵素(ORF2)、リパーゼ(ORF3)と類似していた。したがって、いずれの遺伝子に
ついてもnat遺伝子に対する相同性はこの断片上では認められなかった。どの遺伝子がST
耐性に関与しているかを確認するため、ORF1およびORF2〜3のそれぞれをもつpWHM3-orf1
およびpWHM3-orf2-3プラスミドを作製し(図2)、S. lividans TK23に導入した。MIC試
験により、pWHM3-orf2-3を保有する形質転換体がST耐性を示すことが確認された(表1)
。pWHM3-orf2-3プラスミドがORF3の一部をもつという事実から考えて、ORF2がST耐性を付
与することが示された。本研究では、加水分解酵素遺伝子に対する類似性が認められたOR
F2をsttHと名付けた。
【表1】

【0068】
実施例2:sttH遺伝子の開始コドンの推定
塩基配列決定とフレーム解析の結果に基づいて、8つの開始コドン候補(図2に示した
第1〜8ポジションのATGおよびGTG)がsttH遺伝子中に確認された。さらに、一般的に知
られているStreptomyces菌株のプロモーター領域とリボソーム結合部位のセットの明白で
特徴的な塩基配列がないため、塩基配列の情報による開始コドンの予測が困難であった。
そこでわれわれは、それぞれ異なるN末端領域をもつ6種類のSttHの組換え酵素(「rSttH
」と略記する場合がある。)を、N末端6×His Tag融合タンパク質として作製し、MIC値に
より判断したそれぞれの酵素活性に基づいて、開始コドンを推定した。E. coliの発現プ
ラスミドとなるpQE30-SHF1R(第1ポジションからsttH遺伝子をもつ)、pQE30-SHF2R(第
2ポジション)、pQE30-SHF3R(第3および第4ポジション)、pQE30-SHF4R(第5ポジシ
ョン)、pQE30-SHF5R(第6および第7ポジション)、pQE30-SHF6R(第8ポジション)を
作製した。第9ポジションのGTGコドンは、翻訳産物のペプチド鎖が極めて短かったため
開始コドン候補とはみなされなかったが、pQE30-SHF7Rも作製した。これらの7つのプラス
ミドとpQE30(挿入なし)をE. coliに導入後、STのMICは、12.5μg/mL(pQE30を
保有するE. coli菌株)、50μg/mL(pQE30-SHF1R)、50μg/mL(pQE30-SHF2
R)、 50μg/mL(pQE30-SHF3R)、100μg/mL(pQE30-SHF4R)、100μg
/mL(pQE30-SHF5R)、 >100μg/mL(pQE30-SHF6R)、および12.5μg/
mL(pQE30-SHF7R)であり、第8ポジションのコドンがS.albulus NBRC14147の開始コド
ンであることが示唆された。
【0069】
実施例3:rSttHにより変換されたST-FおよびST-D由来化合物の同定と構造決定
Ni アフィニティクロマトグラフィを用いて高度精製したrSttHをST-Fと反応させた。溶
出したrSttH依存性生成物は、逆相HPLC上の保持時間がST-Fより長く、特に補因子や金属
イオンなどのいかなる添加物も含まない反応液で検出された(図3C)。同様に、ST-Dを
基質に用いた場合にも、rSttH依存性生成物が検出された。このようにして得られたrSttH
依存性生成物の構造を決定するため、これらの化合物を精製し、正イオンモードのエレク
トロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)およびNMRにより分析した。ESI-MS分析の結果
、ST-F由来化合物の分子量は521であり、ST-Fの分子量(503 Da)より分子量が18増加し
ていることが確認された(図4)。また、タンデム質量分析(ESI-MS/MS)により、この
分子量変化はstreptolidineラクタム基で起こっていることが示された。同様の事象がST-
D由来化合物でもみられた。これらの結果から、rSttHがstreptolidineラクタムのアミド
結合の加水分解を触媒することが強く示唆された。これらの予測された構造を確認するた
めにNMR分析を行ったところ、得られたstreptolidine基の1H NMRスペクトルの特徴
(「材料と方法」を参照)は、Zabriskieら(Jackson, M. D., Gould, S. J., & Zabrisk
ie, T. M. (2002) J. Org. Chem. 67, 2934-2941)により報告された化学合成streptolid
ineの特徴と完全に一致していた。したがって、rSttHの作用により生成されたST-Fおよび
ST-D由来化合物は、それぞれ、ST-F-acid(前記式(I)において、n=1である化合物
)およびST-D-acid(前記式(I)において、n=3である化合物)であることが確認さ
れた。
【0070】
実施例4:rSttHの酵素特性
pHの異なる数種類の緩衝液100 mM(リン酸ナトリウム(NaPB)、pH 4.5〜7;トリス塩
酸、pH 7〜10)を用いて最適pHを測定した。pH 6.5で最大活性が認められ、pHが低下(約
4)すると、活性は急速に低下した。また、温度が酵素活性に与える影響を、NaPB緩衝液1
00 mM(pH 6.5)を用いて25〜75℃の範囲で検討した。酵素活性は45℃で最大であったが
、65℃でも最大活性の約90%が検出された。反応速度パラメータを表2にまとめた。rStt
HのKm値はST-Fで0.96±0.19 mM、ST-Dで5.74±0.99 mMと算出され、この酵素は短鎖β-リ
ジンポリマーをもつST化合物に対する親和性が高いことが示された。しかし、rSttHのVma
x値は、ST-DのほうがST-Fと比べてわずかに高かった。ST-Fとの反応におけるVmax/Km値を
算出したところ、ST-Dより4倍高かった。rSttH ORF2のネイティブの分子量は、ゲルろ過
により50 kDaと推定され、rSttHがホモダイマーとして存在していることが示唆された。
【表2】

【0071】
実施例5:SttH遺伝子またはnat遺伝子を過剰発現するE. coliおよび酵母細胞ならびにそ
の他の微生物におけるST-D耐性プロフィールの検討
化学合成ST-F-acidの生物学的活性は、微生物や植物において無視できるレベルである
ことが以前に報告されているが(20,21)、ST-D-acidについては依然として不明である。
そこでわれわれは、sttH遺伝子またはnat遺伝子を過剰発現するE. coliおよびSaccharomy
ces cerevisiaeにおけるST-FおよびST-DのMICをそれぞれ検討した(表3)。以前報告さ
れたとおり、nat遺伝子をもつE. coli(pQE-nat)およびS. cerevisiae(pAD4-nat)の菌
株は、ST-FおよびST-Dの両方に耐性を示した。しかし、興味深いことに、ST-DのMIC値は
、rSttHを過剰発現するS. cerevisiae(pAD4-sttH)での結果とは対照的に、rSttHを過剰
発現するE. coli(pQE30-SHF6R)では極めて低いことが判明し、ST-D-acidは依然として
原核細胞に対して抗生物質活性を示すことが示唆された。このことを確認するため、グラ
ム陽性およびグラム陰性細菌、臨床的に単離された病原細菌、酵母などのさまざまな微生
物に対するST-acidとSTの選択毒性を検討した。MIC試験により、ST-F-acidの抗生物質活
性が原核細胞および真核細胞のどちらにおいてもほぼ完全に失われていたのとは対照的に
、ST-D-acidは、S. cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombeなどの真核細胞に対しては
活性を示さなかったが、E. coli、Bacillus subtilis、およびStaphylococcus aureusな
どの細菌に対しては実際高い活性を示した(表3)。表中のカッコ内のc/aはST-F -ac
idとST-Fの最小発育阻止濃度の比を表し、d/bはST-D -acidとST-Dの最小発育阻止濃度
の比を表す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のタンパク質は、ストレプトスリシンのラクタムを開環させることにより、原核
細胞に対する抗生物質活性を失わせることなく真核細胞に対する抗生物質活性(すなわち
、毒性)を低減させることができるので、臨床開発可能な、または創薬におけるリード化
合物にできるストレプトスリシン誘導体の製造に有用である。
また、本発明のポリヌクレオチドは、ストレプトスリシンに対する耐性を真核細胞(例
えば、酵母)に付与することができるので、組換えDNA技術に使用しうる抗生物質耐性
マーカー遺伝子として有用である。現在STとnat遺伝子が、原核生物と真核生物の組換えD
NA技術に用いられているが、真核細胞、特に酵母において、ST-D(ST-Fより活性が高い抗
生物質)とsttH遺伝子の組合せに代わっていくことになるだろう。
さらに、ST-D-acidは、原核細胞に対する抗生物質活性を保持しつつ真核細胞に対する
抗生物質活性(すなわち、毒性)が低減されているので、臨床開発可能な抗菌剤として、
または、そのような抗菌剤の創薬におけるリード化合物として有用である。すなわち、表
3に示されるように、酵母においては、ST-D-acidの生理活性が不活化された割合は、細
菌よりも約4〜17倍高かった。特に、臨床的に単離された病原細菌であるS. aureus AB(
未報告のエンテロトキシンAB産生菌株)およびS. aureus FIR 1169(トキシックショック
シンドローム外毒素産生菌株)(Igarashi, H., Fujikawa, H., Usami, H., Kawabata, S
., & Morita, T. (1984) Infect. Immun. 44, 175-181.)に対するST-D-acidの強い坑菌
活性が認められた。STは、さまざまな細菌に対する強力な抗生物質であるが、哺乳類に対
して毒性を示すため、臨床開発されたことはない。しかし、本発明において、ST-D-acid
は、真核細胞に対する毒性が減少しても、依然として抗菌活性が強いことが示されたため
、ST-D-acidを臨床開発できる、または創薬における新規のリード化合物にできる可能性
が明らかとなった。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
[配列番号:1]sttH遺伝子(図2の第8ポジションから開始)の塩基配列を示す。
[配列番号:2]配列番号:1に記載の塩基配列からなるsttH遺伝子にコードされるSttH
タンパク質のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:3]図2の第7ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配
列を示す。
[配列番号:4]配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミ
ノ酸配列を示す。
[配列番号:5]図2の第6ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配
列を示す。
[配列番号:6]配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミ
ノ酸配列を示す。
[配列番号:7]図2の第5ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配
列を示す。
[配列番号:8]配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのアミ
ノ酸配列を示す。
[配列番号:9]図2の第4ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基配
列を示す。
[配列番号:10]配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHのア
ミノ酸配列を示す。
[配列番号:11]図2の第3ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基
配列を示す。
[配列番号:12]配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHの
アミノ酸配列を示す。
[配列番号:13]図2の第2ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基
配列を示す。
[配列番号:14]配列番号:13に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHの
アミノ酸配列を示す。
[配列番号:15]図2の第1ポジションから開始される、rSttHをコードするDNAの塩基
配列を示す。
[配列番号:16]配列番号:15に記載の塩基配列からなるDNAにコードされるrSttHの
アミノ酸配列を示す。
[配列番号:17]上記実施例の[材料と方法](3)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:18]上記実施例の[材料と方法](3)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:19]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:20]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:21]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:22]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:23]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。
[配列番号:24]上記実施例の[材料と方法](9)において用いられたプライマーの
塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化5】


(式中、nは1〜7の整数を表す。)
で表される化合物またはその塩を含有する抗菌剤。
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、式(II)
【化6】


で表される化合物である、請求項1に記載の抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−41360(P2012−41360A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237228(P2011−237228)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2006−50371(P2006−50371)の分割
【原出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(507157045)公立大学法人福井県立大学 (22)
【Fターム(参考)】