説明

新規不斉還元剤及びそれを用いた光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体の製造方法

【課題】 安価で入手容易な原料から簡便に調製可能な不斉還元剤を提供する。また、医薬品中間体として有用な光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体又はその塩を高い光学純度で、安価かつ簡便に製造可能な、工業的生産に適した方法を提供する。
【解決手段】 所定の酸性度を有する有機カルボン酸、光学活性プロリン誘導体、および金属ボロヒドリドから、不斉還元剤を調製する。また、この不斉還元剤を用いて1,2−ジヒドロイソキノリンを還元し、光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
新規不斉還元剤及びそれを用いた光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−ジヒドロイソキノリンを不斉還元することにより、光学活性なテトラヒドロイソキノリン誘導体を製造する方法としては、例えば、以下の方法が知られている。
1)ルテニウム-キラルホスフィン触媒存在下で、高圧下にて1,2−ジヒドロイソキノリンを還元する方法(特許文献1)。
2)ルテニウム-キラルアミン触媒存在下で、高圧下にて1,2−ジヒドロイソキノリンを還元する方法(非特許文献1)。
3)プロリン誘導体と水素化ホウ素ナトリウムから調製した不斉ボロヒドリド還元剤を用いて、1,2−ジヒドロイソキノリンを還元する方法(特許文献2、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
4)プロリン誘導体、有機カルボン酸および水素化ホウ素ナトリウムから調製した不斉ボロヒドリド還元剤を用いて、1,2−ジヒドロイソキノリンを還元する方法(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−281144
【特許文献2】特開昭57−146752
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society , 130 , 13208−13209 , 2008
【非特許文献2】Journal of Chemical society , Perkin Trans . I , 265−270 , 1983
【非特許文献3】Tetrahedron Letters , 22(39) , 3869−3872, 1981
【非特許文献4】Journal of Heterocyclic Chemistry , 28 , 329, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1)および2)の方法は、高圧条件下で反応を行うため、特殊な高圧設備が必要となる。さらに、高価なルテニウム金属と光学活性配位子を使用するため、経済的にも不利である。3)の方法は、水素化ホウ素ナトリウム1当量に対して、高価な光学活性プロリン誘導体を3当量使用するため、工業的な利用に問題がある。4)の方法ではプロリン誘導体と有機カルボン酸を併用することにより、プロリン誘導体の使用量を削減できることが記載されている。しかし、この場合、プロリン誘導体のみを用いた場合よりも光学純度が大幅に低下する。従って、プロリン誘導体と有機カルボン酸を併用する方法も、反応効率の面で問題を有していると言える。
【0006】
上記に鑑み、本発明の目的は、新規な不斉還元剤を安価で入手容易な原料から簡便に調製すること、および、医薬品中間体として有用な光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体又はその塩を立体選択性よく製造することが可能な、工業的生産に適した方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、光学活性なプロリン誘導体、金属ボロヒドリド、および所定の酸性度を呈する有機カルボン酸とから調製される化合物が、1,2−ジヒドロイソキノリン類に対して優れた不斉還元剤になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、光学活性なプロリン誘導体、金属ボロヒドリドMBH4(Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛またはジルコニウムを表す)及びpKaが1.5〜3.5である有機カルボン酸R1COOH(R1は水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す)より調製される不斉還元剤に関する。
【0009】
また、本発明は、一般式(2):
【0010】
【化1】

【0011】
(但し、R2、R3は水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基、水酸基、メトキシ基、メチレンジオキシ基を表し、R4は炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す)で示される1,2−ジヒドロキノリン誘導体に、上記不斉還元剤を作用させることを特徴とする、一般式(3):
【0012】
【化2】

【0013】
で示される光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる不斉還元剤は、安価で入手容易な原料から簡便に調製することが可能である。また、このようにして得られた不斉還元剤を用いることにより、医薬品中間体として有用な光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体又はその塩を、立体選択性よく、安価かつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる不斉還元剤は、一般式(4):
MBH4 (4)
で表される金属ボロヒドリドに一般式(5):
1COOH (5)
で表される有機カルボン酸と一般式(6):
ACOOH (6)
で表される光学活性プロリン誘導体を作用させることによって得られる。このようにして得られる不斉還元剤は、一般式(1):
M[(R1COO)m・(ACOO)n・BH(4-m-n)] (1)
の構造を有すると考えられる。
【0016】
上記において、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛またはジルコニウムを表し、このうち、1,2−ジヒドロキノリン誘導体を立体選択性よく還元できる点からナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、ジルコニウムが好ましく、より好ましくは、ナトリウム、リチウムであり、容易に入手できる点から、特に好ましくはナトリウムである。
【0017】
上記化合物(5)はpKaが1.5〜3.5である有機カルボン酸であって、R1は水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す。R1としては、CH2Cl、CH2CN、CH2Br、CH3CHCl、C64Cl、C65OCH2等が例示できる。このうち、1,2−ジヒドロキノリン誘導体を立体選択性よく還元できる点から、有機カルボン酸として特に好ましくはpKa2.0〜3.0の酸性度を呈するものであり、とりわけ好ましくはR1がCH2ClまたはCH2CNである。
【0018】
Aは光学活性なプロリン誘導体からカルボキシル基を除いた残基を表す。プロリン誘導体としては、プロリンの窒素原子上に保護基を導入した化合物を用いる。窒素原子上の保護基としては、ピバロイル、プロピロイル、ベンゾイル等のアシル基、ベンジルオキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基、メチル、エチル、tert−ブチル等のアルキル基、ベンジル、トリチル等のアラルキル基、フェニル等のアリール基が挙げられ、立体選択性の点から、好ましくはピバロイル基、プロピロイル基、ベンゾイル基である。
【0019】
m及びnは、それぞれ1.0〜2.0であり、経済的観点から、好ましくは、mが1.8〜2.0であり、nは1.0〜1.2である。また、不斉還元剤の反応活性を向上させるという観点から、m+nが3.0であるのが好ましい。
【0020】
次に、上記不斉還元剤の調製方法について説明する。
【0021】
不斉還元剤は、有機溶媒中で金属ボロヒドリド(4)と有機カルボン酸(5)と光学活性プロリン誘導体(6)を1:m:nのモル比率で反応させて調製する。
【0022】
本反応においては、まず、金属ボロヒドリド(4)と有機カルボン酸(5)を反応させ、次に光学活性プロリン誘導体(6)を反応させてもよい。また、まず、金属ボロヒドリド(4)と光学活性プロリン誘導体(6)を反応させ、次いで有機カルボン酸(5)を反応させてもよい。また、金属ボロヒドリド(4)と有機カルボン酸(5)とプロリン誘導体(6)を同時に反応させても良い。
【0023】
反応溶媒としては、反応が円滑に進行する程度に試剤が溶解し、且つ、試剤と反応しない限りにおいては特に限定されるものではないが、例えばテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、アセトニトリル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロベンゼン、またはこれらの混合溶媒が好適に挙げられる。
【0024】
反応は、−50〜40℃の間で実施するのが好ましい。
【0025】
反応時間は15分から12時間が好ましい。
【0026】
尚、上記反応で得られる不斉還元剤は単離しても良いが、単離することなく反応液のまま用いても良い。
【0027】
上記のようにして製造される不斉還元剤(1)のうち、MがNa、mが1.8〜2.0、m+nが3.0、プロリン誘導体の保護基がピバロイル、プロピロイルまたはベンゾイル基、かつ、R1がCH2ClまたはCH2CNであるものは新規化合物である。
【0028】
次に、上記反応で得た不斉還元剤(1)を用いてジヒドロイソキノリン誘導体(2):
【0029】
【化3】

【0030】
を還元し、テトラヒドロイソキノリン誘導体(3):
【0031】
【化4】

【0032】
を得る方法について説明する。
【0033】
ジヒドロキノリン誘導体(2)及びテトラヒドロイソキノリン誘導体(3)のR2、R3は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基、水酸基、メトキシ基、またはメチレンジオキシ基を表す。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基としては、例えば、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基などが挙げられる。好ましくは、水素原子、メトキシ基である。
【0034】
4は炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基としては、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、o−クロロフェニル基、p−メトキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。好ましくは、フェニル基、フェニルエチル基である。
【0035】
反応は、不斉還元剤(1)の溶液にジヒドロキノリン誘導体(2)を添加して実施しても良いし、ジヒドロキノリン誘導体(2)溶液に不斉還元剤(1)を添加して実施しても良い。
【0036】
溶媒は、反応が円滑に進行する程度に試剤が溶解し、且つ、試剤と反応しない限りにおいては特に限定するものではなく、例えばテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、アセトニトリル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロベンゼン、トルエン、またはこれらの混合溶媒が挙げられ、好ましくは塩化メチレン、トルエン、クロロベンゼンである。尚、不斉還元剤(1)を単離せずに反応液のまま用いる場合は、ジヒドロイソキノリン誘導体を反応させる前に、還元反応に好適な溶媒に置換してもよい。
【0037】
反応は−78〜40℃の間で実施するのが好ましい。
【0038】
反応時間は1時間から72時間が好ましく、より好ましくは6時間から48時間である。
【0039】
反応後の処理としては、反応液から生成物を取得するための一般的な処理を行えばよい。例えば、反応終了後の反応液に、必要に応じて水酸化ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液等のアルカリ水溶液を加えて中和し、一般的な抽出溶媒、例えば酢酸エチル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、トルエン、ヘキサン等を用いて抽出操作を行なう。得られた抽出液から減圧加熱等の操作により、反応溶媒及び抽出溶媒を留去すると目的物が得られる。
【0040】
このようにして得られた目的物は十分な純度を有しているが、晶析、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な精製手法により、さらに純度を高めてもよい。
【0041】
以上のように、所定の酸性度を有する有機カルボン酸を用いて製造される本願発明にかかる不斉還元剤は、高価なプロリン誘導体を過剰に用いずとも、高い立体選択性でジヒドロキノリン誘導体の還元を行うことが可能であり、工業的実施に好適である。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(15.2mg、1eq)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ベンゾイルプロリン(88.0mg、1eq)のTHF溶液(ml)を添加し、5℃で1時間攪拌した。次に、クロロ酢酸(pKa=2.9、75.9mg、2eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、5℃で1時間攪拌した後、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(83.2mg、1eq)のTHF(1ml)溶液を5℃で添加した。その後、25℃に昇温しつつ、4時間攪拌した。その結果、変換率63%、光学収率55%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0044】
(実施例2)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(36.6mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(192.26mg、1eq)及びクロロ酢酸(182.4mg、2eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、5℃で1時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、クロロベンゼン(1ml)を添加した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(200mg、1eq)のクロロベンゼン(1ml)溶液を添加した。その後、25℃に昇温しつつ、13.5時間反応させた結果、変換率59%、光学収率71%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0045】
(実施例3)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(36.6mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(230.7mg、1.2eq)及びクロロ酢酸(164.1mg、1.8eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、5℃で1時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、クロロベンゼン(1ml)を添加した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(200mg、1eq)のクロロベンゼン(1ml)溶液を添加した。その後、25℃に昇温しつつ、42時間反応させたところ、変換率75%、光学収率73%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0046】
(実施例4)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(36.6mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(230.7mg、1.2eq)及びシアノ酢酸(pKa=2.4、147.8mg、1.8eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、25℃に昇温しつつ、1.5時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、クロロベンゼン(1ml)を添加した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(200mg、1eq)のクロロベンゼン(1ml)溶液を添加した。5〜25℃にて86時間反応させたところ、変換率75%、光学収率76%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0047】
(実施例5)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(36.6mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(230.7mg、1.2eq)及びシアノ酢酸(147.8mg、1.8eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、5〜25℃で1.5時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、トルエン(1ml)を添加した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(200mg、1eq)のトルエン(1ml)溶液を添加した。その後、25℃に昇温しつつ、18時間反応させたところ、変換率68%、光学収率71%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0048】
(実施例6)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(36.6mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(230.7mg、1.2eq)及びシアノ酢酸(147.8mg、1.8eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、25℃に昇温しつつ、1.5時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、塩化メチレン(1ml)を添加した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(200mg、1eq)の塩化メチレン(1ml)溶液を添加した。5〜25℃にて18時間反応させたところ、変換率75%、光学収率63%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0049】
(実施例7)(1S)−6,7−ジメトキシ−1−(2−フェニルエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(15.4mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ピバロイルプロリン(97.1mg、1.2eq)及びシアノ酢酸(62.2mg、1.8eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、25℃に昇温しつつ、1.5時間攪拌した。反応液を減圧下で留去し、トルエン(1ml)を添加した。反応液を−20℃に冷却し、6,7−ジメトキシ−1−(2−フェニルエチル)−3,4−ジヒドロキノリン(100mg、1eq)のトルエン(1ml)溶液を添加した。同温にて17.5時間攪拌したところ、変換率73%、光学収率53%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0050】
(比較例1)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
水素化ホウ素ナトリウム(15.2mg)とTHF(1ml)を混合し、5℃に冷却した。N−L−ベンゾイルプロリン(264mg、3eq)のTHF溶液(1ml)を添加し、5℃で1時間攪拌した。反応液を5℃に冷却し、1−フェニル−3,4−ジヒドロキノリン(83.2mg)のTHF(1ml)溶液を添加した。その後、25℃に昇温しつつ、7時間反応させたところ、変換率83%、光学収率53%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0051】
(比較例2)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
クロロ酢酸の代わりに酢酸(pKa=4.8)を用いて実施例1と同様に操作を行ったところ、変換率38%、光学収率28%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0052】
(比較例3)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
有機カルボン酸としてトルフルオロ酢酸(pKa=0.5)を用いて実施例2と同様に反応を行ったところ、変換率43%、光学収率40%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。
【0053】
(比較例4)(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造方法
有機カルボン酸としてイソ酪酸(pKa=4.6)を用いて実施例2と同様に反応を行ったところ、変換率27%、光学収率41%e.e.(S体)で標題化合物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性なプロリン誘導体、金属ボロヒドリドMBH4(Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛またはジルコニウムを表す。)及びpKaが1.5〜3.5である有機カルボン酸R1COOH(R1は水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す。)より調製される不斉還元剤。
【請求項2】
一般式:
M[(R1COO)m・(ACOO)n・BH(4-m-n)] (1)
(但し、Aは光学活性なプロリン誘導体からカルボキシル基を除いた残基を表す。m及びnは、それぞれ1.0〜2.0である。M,R1は前記に同じ。)で示される金属ボロヒドリド誘導体からなる、請求項1に記載の不斉還元剤。
【請求項3】
MがNaであり、R1がCH2ClまたはCH2CNである請求項1または2に記載の還元剤。
【請求項4】
有機溶媒中で光学活性なプロリン誘導体、金属ボロヒドリドMBH4(Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛またはジルコニウムを表す)及びpKaが1.5〜3.5である有機カルボン酸R1COOH(R1は水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す)を混合することを特徴とする不斉還元剤の製造方法。
【請求項5】
MがNaであり、R1がCH2ClまたはCH2CNである請求項4に記載の還元剤の製造方法。
【請求項6】
一般式(2):
【化5】

(但し、R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基、水酸基、メトキシ基、またはメチレンジオキシ基を表す。R4は炭素数1〜10の置換基を有していても良いアルキル基、炭素数1〜10の置換基を有していても良いアラルキル基、または炭素数1〜10の置換基を有していても良いアリール基を表す)で示されるジヒドロキノリン誘導体に、請求項1または2に記載の不斉還元剤を作用させることを特徴とする、一般式(3):
【化6】

(*は不斉炭素原子を表す)で示される光学活性テトラヒドロイソキノリン誘導体の製造方法。
【請求項7】
2、R3が水素原子であり、R4がフェニル基である請求項6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−180186(P2010−180186A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27079(P2009−27079)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】