説明

新規乳酸菌、並びに新規乳酸菌を含有する医薬、飲食品、及び飼料

【課題】本発明は、新規乳酸菌、並びに当該新規乳酸菌を含有する医薬、飲食品、及び飼料を提供することを課題とする。また、本発明は、抗菌、抗炎症、抗潰瘍、及び免疫抑制に有効な手段を提供することを課題とする。
【解決手段】新規乳酸菌ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)MCC1183株(受託番号:FERM P−21908)、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する医薬、飲食品、及び飼料、並びに、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗菌剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、及び免疫抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌に関する。また、本発明は、当該乳酸菌を含有する医薬、飲食品、及び飼料に関する。また、本発明は、当該乳酸菌を含有する抗菌剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、及び免疫抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌等の乳酸菌やビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌は、腸内細菌のバランスを改善することによる整腸作用や、免疫増強作用、及び発癌抑制作用等を有することが知られている。このため、乳酸菌は健康増進、又は疾患の予防若しくは治療を目的として、飲食品、及び医薬品等に広く利用されてきた。例えば、ラクトバチルス属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属等の乳酸菌、又はビフィドバクテリウム属細菌等の多種多様な菌種及び菌株が知られており、菌種及び菌株ごとにその性質に基づいた新たな用途が検討されている。
【0003】
一方、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、胃潰瘍患者の胃粘膜より分離されたグラム陰性桿菌であって、これまでに慢性胃炎や消化性潰瘍の重要な病原因子であることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。また、ヘリコバクター・ピロリは、胃がんやリンパ腫の発生に関与することも示唆されている。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の発症と症状の持続には、ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的なTh1細胞(タイプ1ヘルパーT細胞)が必須であることが報告されている(非特許文献3)。小腸のパイエル板に取り込まれたヘリコバクター・ピロリは、パイエル板の抗原提示細胞である樹状細胞に捕捉され、T細胞に抗原提示され、ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的Th1細胞を誘導及び活性化する。活性化されたTh1細胞は胃粘膜に移動し、サイトカインの1つであるインターフェロン−γ(IFN−γ)産生を介して胃粘膜で炎症を誘発及び維持する(非特許文献4)。従って、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の予防と治療のために、パイエル板の抗原提示細胞に作用し、ヘリコバクター・ピロリで誘導されるTh1の免疫反応を抑制する薬剤の開発が望まれている。
【0005】
ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の治療法としては、抗生物質に、プロトンポンプ阻害剤あるいはH2−受容体拮抗剤を併用した除菌療法が臨床的に行われている。しかし、この療法では、下痢、食欲不振、及び発疹等の副作用があること、並びに抗生剤耐性菌の出現しやすいこと等の問題が指摘されている。
【0006】
これらの問題を解決するために、乳酸菌等の安全性の高い微生物を用いて、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍を予防又は治療する試みがなされている(特許文献1〜3、非特許文献5)。
【0007】
例えば、特許文献1には、ヘリコバクター・ピロリを胃又は十二指腸から除菌しうる乳酸菌として、ラクトバチルス・サリバリウス(L.salivarius)WB1004株(FERM P−15360)、及びラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)WB1005株(FERM P−15361)が開示されている。また、特許文献2には、ヘリコバクター・ピロリ除菌能の高い乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)OLL2716株(FERM BP−6999)が開示されている。さらに、特許文献3には、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌剤の有効成分として、植物由来のラクトバチルス属に属する乳酸菌、及び植物由来のロイコノストック(Leuconostoc)属に属する乳酸菌が開示されている。さらに、乳酸菌のラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)GG株(ATCC 53103)が、ヒト試験でヘリコバクター・ピロリ除菌効果を有することが報告されている(非特許文献5)。
【0008】
しかしながら、このような用途に用いられる乳酸菌には、ヘリコバクター・ピロリに対する高い抗菌作用、例えば除菌効果又は増殖抑制効果等を有していることのみならず、低pH環境下での生残性が高いことが要求される。なぜなら、ヘリコバクター・ピロリは胃内に存在し、胃内は、強酸性の胃液が分泌されるために強酸性に保たれているからである。上述の通り、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用を有する乳酸菌は報告されているが、それらの乳酸菌は胃酸耐性の点で十分ではなかった。
【0009】
また、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリに誘導されるTh1の免疫反応を抑制する乳酸菌は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−241173号公報
【特許文献2】特開2001−2578号公報
【特許文献3】特開2008−266148号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ランセット(Lancet)、イギリス、Vol.1、p.1273−1275(1983)
【非特許文献2】ランセット(Lancet)、イギリス、Vol.1、p.1311−1314(1984)
【非特許文献3】プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.)、アメリカ、Vol.104、p.8971−8976(2007)
【非特許文献4】ザ ジャーナル オブ イムノロジー(The Journal of Immunology)、アメリカ、Vol.165、p.1022−1029(2000)
【非特許文献5】ダイジェスティブ アンド リバー ディジーズ(Digestive and Liver Disease)、イタリア、Vol.39(6)、p.516−523(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、優れた性質を有する新規乳酸菌、並びに、当該乳酸菌を含有する医薬、飲食品、及び飼料を提供することを課題とする。また、本発明は、抗菌、抗炎症、抗潰瘍、及び免疫抑制に有効な手段を提供することを課題とし、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎又は消化性潰瘍の予防又は治療に有効な手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、低pH環境における生残性が顕著に高く、且つ、高い抗菌作用、及び免疫抑制効果を有する新規乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を見出し、さらに本株が抗菌、抗炎症、抗潰瘍、免疫抑制等の用途に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0015】
第一の発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株である。
【0016】
第二の発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する医薬である。
【0017】
第三の発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品である。
【0018】
第四の発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飼料である。
【0019】
第五の発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗菌剤である。第五の発明の好ましい態様において、抗菌剤は、ヘリコバクター・ピロリの抗菌に用いられる。
【0020】
第六の本発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗炎症剤である。第六の発明の好ましい態様において、抗炎症剤は、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎の予防又は治療のために用いられる。
【0021】
第七の本発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗潰瘍剤である。第七の発明の好ましい態様において、抗潰瘍剤は、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の予防又は治療のために用いられる。
【0022】
第八の本発明は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する免疫抑制剤である。第八の発明の好ましい態様において、免疫抑制剤は、ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1細胞の免疫反応を抑制するために用いられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、従来知られている乳酸菌と比較して、低pH環境において高い生残性を示し、且つ、高い抗菌作用、及び免疫抑制効果を有する、新規乳酸菌ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を提供でき、該乳酸菌は医薬、飲食品及び飼料に含有して広く用いることができる。また、該乳酸菌を含有させることにより、抗菌剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤及び免疫抑制剤を提供できる。特に、本発明のラクトバチルス・ガセリMCC1183株により、ヘリコバクター・ピロリの胃や十二指腸での増殖を阻害してヘリコバクター・ピロリを排除することができ、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の予防又は治療を行うことが可能となる。また、特に、本発明のラクトバチルス・ガセリMCC1183株により、ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1細胞の免疫反応である、ヘリコバクター・ピロリによって誘導されるIFN−γの産生を抑えることができ、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の予防又は治療を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、人工胃液における乳酸菌の生残性を示すグラフである。
【図2】図2は、乳酸菌によるヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を示すグラフである。
【図3】図3は、ヘリコバクター・ピロリによって誘導されるIFN−γ産生に対する乳酸菌による抑制効果を示すグラフである。「*」は危険率5%で対照群と有意差があることを示す(t検定)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0026】
本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株である。本株は、ヒト糞便を分離源として分離された。
【0027】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株の菌学的性質として、1.細胞の形態、2.運動性、3.胞子形成、4.グラム染色性、5.カタラーゼ、6.グルコースからのガスの産生、及び7.糖発酵性について表1に示す。糖発酵性については、細菌同定キットAPI50CH(bioMerieux Japan製)を用い、添付のマニュアルに記載された方法に従って測定した。すなわち、一晩培養後のラクトバチルス・ガセリMCC1183株培養液を各糖質を含む培地に接種し、これを37℃の嫌気グローブボックス中で培養し、培養開始から7日目に各糖質の利用性を判定した。
【0028】
【表1】

【0029】
また、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株の16SrRNA遺伝子の全領域1520bpについて公知の手法により解読を行なった。解読されたラクトバチルス・ガセリMCC1183株の16SrRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)は、ラクトバチルス・ガセリ(ATCC 33323T)の16SrRNA遺伝子の塩基配列と99%の相同性を示した。
【0030】
上記菌学的性質、及び16SrRNA遺伝子の塩基配列の相同性から、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株をラクトバチルス・ガセリに属する株であると同定した。さらに、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、ラクトバチルス・ガセリに属する既知の株と比較して、低pH環境下において高い生残性を示し、且つ、高い抗菌作用、及び免疫抑制効果を有することから、ラクトバチルス・ガセリに属する新規株であると判断した。
【0031】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国 〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に、平成22年2月9日より、FERM P−21908の受託番号で寄託されている。
【0032】
また、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、上記寄託株に制限されず、上記寄託株と実質同等の株であってもよい。実質同等の株とは、ラクトバチルス・ガセリに属する株であって、低pH環境における高い生残性、高いヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果、及び免疫抑制効果を有する株を言う。実質同等の株は、さらに、その16SrRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託株の16SrRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは上記寄託株と同一の菌学的性質を有する。
【0033】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、既知の乳酸菌と比較し、低pH環境において顕著に高い生残性を示す。低pH環境とは、好ましくはpHが2以下、より好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.6以下の環境である。高い生残性とは、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上の生残性である。また、低pH環境下での生残性が100%以上、すなわち低pH環境下で増殖可能であってもよい。pHと生残性の好ましい組み合わせは、例えば、pH2で100%以上、pH1.8で60%以上、pH1.6で40%以上である。低pH環境下での生残性は、例えば、後述の試験例1と同様の手法により評価できる。
【0034】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、抗菌作用を有する。抗菌作用としては、特に、既知の乳酸菌と比較して顕著に高いヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を有し、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を作用させない場合に比較してヘリコバクター・ピロリの菌数を顕著に減少させる。高いヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果とは、ヘリコバクター・ピロリの増殖を好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上抑制する効果である。また、ヘリコバクター・ピロリの増殖を完全に抑制してもよく、また、ヘリコバクター・ピロリの菌数がラクトバチルス・ガセリMCC1183株を作用させる前より減少してもよい。ヘリコバクター・ピロリの増殖抑制効果は、例えば、後述の試験例2と同様の手法により評価できる。
【0035】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、既知の乳酸菌と異なり、免疫抑制効果を示す。免疫抑制効果としては、例えば、ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1細胞の免疫反応を抑制する効果が挙げられ、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、特に、ヘリコバクター・ピロリによって誘導されるIFN−γ産生を抑制する効果を有する。免疫抑制効果は、例えば、後述の試験例3と同様の手法により評価できる。
【0036】
本発明に用いられるラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、例えば、上記菌株を培養することにより容易に増殖させることができる。培養する方法は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株が増殖できる限り特に限定されず、乳酸菌の培養に通常用いられる方法を必要により適宜修正して用いることができる。例えば、培養温度は25〜50℃でよく、35〜42℃であることが好ましい。また培養は嫌気条件下で行うことが好ましく、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら培養することができる。また、液体静置培養等の微好気条件下で培養してもよい。
【0037】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を培養する培地としては、特に限定されず、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を必要により適宜修正して用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて使用できる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類を使用できる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、調製済みの培地としては、例えばMRS培地を好適に用いることができる。
【0038】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株としては、培養後、得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、培養後に加熱、及び凍結乾燥等の種々の追加操作を行うことができる。
【0039】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、医薬、飲食品、及び飼料に広く用いることができる。また、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、抗菌剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、及び免疫抑制剤に広く用いることができる。
【0040】
本発明の医薬は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されない。本発明の医薬としては、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株をそのまま使用してもよく、生理的に許容される液体又は固体の製剤担体を配合し製剤化して使用してもよい。
【0041】
本発明の医薬の剤形は特に制限されず、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、及び点鼻剤等を例示できる。また、製剤化にあたっては、製剤担体として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、又は注射剤用溶剤等の添加剤を使用することができる。
【0042】
本発明の医薬における乳酸菌の含有量は、剤形、用法、患者の年齢、性別、疾患の種類、疾患の程度、及びその他の条件等により適宜設定されるが、通常、1×106〜1×1012cfu/gの範囲内であることが好ましく、1×107〜1×1011cfu/gの範囲内であることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の効果を損なわない限り、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する医薬と、他の医薬、例えば抗菌剤、抗炎症剤、抗潰瘍剤、及び免疫抑制剤等を併用してもよい。
【0044】
本発明の医薬の投与時期は特に限定されず、対象となる疾患の治療方法に従って、適宜投与時期を選択することが可能である。また、予防的に投与してもよく、維持療法に用いてもよい。また、投与形態は製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定されることが好ましい。なお、本発明の医薬は、いずれの場合も1日1回又は複数回に分けて投与することができ、また、数日又は数週間に1回の投与としてもよい。
【0045】
本発明の医薬は、抗菌剤として使用することができる。抗菌剤としては、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されない。抗菌剤としては、特にヘリコバクター・ピロリを対象とする抗菌剤であるのが好ましい。本発明の乳酸菌は、低pH環境下において高い生残性を示し、且つ、高いヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を有するため、低pH環境である胃内において、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用を発揮できる。また、抗菌作用の結果として、ヘリコバクター・ピロリに起因する炎症又は潰瘍の予防又は治療を行うことが可能である。本発明の抗菌剤は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば他の抗菌剤等と併用してもよい。
【0046】
本発明の医薬は、炎症の治療又は予防を目的とする抗炎症剤として使用することができる。抗炎症剤としては、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されない。炎症としては、例えば、胃炎が挙げられ、胃炎としては、例えば、出血性胃炎、慢性萎縮性胃炎等が挙げられる。また、炎症としては、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する炎症であるのが好ましい。本発明の乳酸菌は、低pH環境である胃内において、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用を発揮できるため、ヘリコバクター・ピロリに起因する炎症に特に有効である。本発明の抗炎症剤は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば他の抗炎症剤等と併用してもよい。
【0047】
本発明の医薬は、潰瘍の治療又は予防を目的とする抗潰瘍剤として使用することができる。抗潰瘍剤としては、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されない。潰瘍としては、例えば、消化性潰瘍が挙げられ、消化性潰瘍としては、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等が挙げられる。また、潰瘍としては、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する潰瘍であるのが好ましい。本発明の乳酸菌は、低pH環境である胃内において、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用を発揮できるため、ヘリコバクター・ピロリに起因する潰瘍に特に有効である。本発明の抗潰瘍剤は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば他の抗潰瘍剤等と併用してもよい。
【0048】
本発明の医薬は、免疫抑制剤として使用することができる。免疫抑制剤としては、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されない。免疫抑制剤としては、特に、ヘリコバクター・ピロリによって誘発される抗原特異的Th1反応を抑制する免疫抑制剤であるのが好ましい。本発明の乳酸菌は、ヘリコバクター・ピロリによって誘発される抗原特異的なTh1の免疫反応であるヘリコバクター・ピロリによって誘導されるIFN−γ産生を抑制する効果を有する。従って、本発明の医薬は、特に、INF−γの産生に起因する疾患の改善又は予防に有用であり、例えば、本発明の医薬により、移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害及び脳血栓の予防又は治療を行うことが可能である。本発明の免疫抑制剤は、単独で投与してもよいし、他の医薬、例えば他の免疫抑制剤等と併用してもよい。
【0049】
本発明の飲食品は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する限り特に制限されず、飲食品としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、及び乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子等の菓子類;加工乳、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、及びバター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。また、飲食品は、サプリメントであってもよく、例えばタブレット状のサプリメントであってもよい。サプリメントである場合には、一日当りの食事量及び摂取カロリーについて他の食品に影響されることなく、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を摂取できる。
【0050】
本発明の飲食品は、飲食品の原料にラクトバチルス・ガセリMCC1183株を添加することにより製造することができ、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を添加すること以外は、通常の飲食品と同様にして製造することができる。ラクトバチルス・ガセリMCC1183株の添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。また、添加したラクトバチルス・ガセリMCC1183株による発酵工程を経て、飲食品が製造されてもよい。食品又は飲料の原料としては、通常の飲料や食品に用いられている原料を使用することができる。製造された飲食品は、経口的に摂取することが可能である。
【0051】
本発明の飲食品におけるラクトバチルス・ガセリMCC1183株の含有量は、飲食品の態様によって適宜設定されるが、通常、飲食品中に、1×106〜1×1012cfu/gの範囲内であることが好ましく、1×107〜1×1011cfu/gの範囲内であることがより好ましい。
【0052】
本発明の飲食品は、抗菌、抗炎症、抗潰瘍、免疫抑制等の効果を利用する種々の用途に用いることができる。すなわち、本発明の飲食品は、例えば、胃もたれが気になる方に適した飲食品、胃炎等の生活習慣病の危険要因の低減・除去に役立つ飲食品等の用途に用いることができる。
【0053】
なお、本発明の飲食品において、「抗菌」とは、病原菌等に起因する種々の健康被害を改善又は予防することを含む。また、本発明の飲食品において、「抗炎症」とは種々の炎症を改善又は予防することを意味している。さらに、本発明の飲食品において、「抗潰瘍」とは種々の潰瘍を改善又は予防することを意味している。そして、本発明の飲食品において、「免疫抑制」とは種々の免疫反応を抑制することを意味している。
【0054】
本発明の飲食品は、病原菌等に起因する疾患の改善又は予防に有用である。本発明の飲食品は、特に、ヘリコバクター・ピロリにより引き起こされる疾患の改善又は予防に有用である。
【0055】
本発明の飲食品は、炎症の改善又は予防に有用である。炎症としては、例えば、胃炎が挙げられ、胃炎としては、例えば、出血性胃炎、慢性萎縮性胃炎等が挙げられる。また、本発明の飲食品は、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎の改善又は予防に有用である。
【0056】
本発明の飲食品は、潰瘍の改善又は予防に有用である。潰瘍としては、例えば、消化性潰瘍が挙げられ、消化性潰瘍としては、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等が挙げられる。本発明の飲食品は、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する潰瘍の治療又は予防に有用である。
【0057】
本発明の飲食品は、免疫抑制に有用である。本発明の飲食品は、特に、ヘリコバクター・ピロリによって誘発される抗原特異的なTh1の免疫反応であるヘリコバクター・ピロリによって誘導されるIFN−γ産生を抑制する効果を有するため、INF−γの産生に起因する疾患の改善又は予防に有用である。従って、本発明の飲食品は、移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害及び脳血栓の改善又は予防に有用である。
【0058】
上記に記載した他、本発明の飲食品は、特に、ヘリコバクター・ピロリに起因する種々の疾病又は合併症等の改善又は予防に有効であり、これら疾病又は合併症等のリスクを低減することが可能である。
【0059】
本発明の飲食品は、抗菌用、との用途が表示された飲食品、例えば「抗菌用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」、あるいは「ヘリコバクター・ピロリ菌の抗菌用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」等として販売することが好ましい。
【0060】
本発明の飲食品は、抗炎症用、との用途が表示された飲食品、例えば「抗炎症用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」、あるいは「ヘリコバクター・ピロリ菌に起因する胃炎用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」等として販売することが好ましい。
【0061】
本発明の飲食品は、抗潰瘍用、との用途が表示された飲食品、例えば「抗潰瘍用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」、あるいは「ヘリコバクター・ピロリ菌に起因する潰瘍用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」等として販売することが好ましい。
【0062】
本発明の飲食品は、免疫抑制用、との用途が表示された飲食品、例えば「免疫抑制用と表示された、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品」等として販売することが好ましい。
【0063】
本発明の飲食品は、抗菌、抗炎症、抗潰瘍、免疫抑制の用途を表示した飲食品として販売することが可能である。すなわち、本発明の飲食品には、「抗菌用」、「抗炎症用」、「抗潰瘍用」、「免疫抑制用」等の表示をすることができる。また、これ以外でも、抗菌、抗炎症、抗潰瘍、若しくは免疫抑制の効果を表す文言、又は抗菌、抗炎症、抗潰瘍、若しくは免疫抑制によって二次的に生じる効果を表す文言であれば、使用できることはいうまでもない。そのような文言としては「生活習慣病の危険要因(リスク)の低減・除去に役立つ」等の表示をすることができる。
【0064】
前記「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物及び媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。具体的には、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為、商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が例示でき、特に包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等への表示が好ましい。
【0065】
また、表示としては、行政等によって許可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができ、その他厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができる。さらに詳細には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保険の用途の表示)、及びこれに類する表示等を例示することができる。
【0066】
本発明の飼料としては、ペットフード、家畜飼料、及び養魚飼料等が例示される。本発明の飼料は、一般的な飼料、例えば、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、又は酵母類等にラクトバチルス・ガセリMCC1183株を混合することにより製造することができる。また、例えばサイレージの様に、添加したラクトバチルス・ガセリMCC1183株による発酵工程を経て、飼料が製造されてもよい。製造された飼料は、一般的な哺乳動物、家畜類、養魚類、及び愛玩動物等に経口的に投与することが可能である。
【0067】
本発明の飼料におけるラクトバチルス・ガセリMCC1183株の含有量は、飼料の態様や投与対象によって適宜設定されるが、1×106〜1×1012cfu/gの範囲内であることが好ましく、1×107〜1×1011cfu/gの範囲内であることがより好ましい。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]ラクトバチルス・ガセリMCC1183株の分離
ヒト糞便1gにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)9mlを加えて混合し、さらにPBSで段階的に希釈した。希釈液をラクトバチルス選択培地(0.8%Lab−lemco powder(Oxoid製)及び1.5%酢酸ナトリウムを含むLBS寒天培地(BBL製))に塗抹し、嫌気条件下、37℃で2〜3日間の培養を行った。形成されたコロニーを釣菌し、MRS寒天培地(Difco製)に画線接種し同様に培養した。さらに同じ操作を行い、単一のコロニーを形成する乳酸菌を分離した。得られた分離株について、菌学的性質及び16SrRNA遺伝子の塩基配列を決定した。
【0070】
[試験例1]人工胃液耐性試験
本試験では、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株の低pH環境における生残性を確認することを目的とした。
【0071】
[試料]
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)、及びラクトバチルス・ラムノサスGG株(ATCC 53103)を含む110株の乳酸菌を試験試料とした。ラクトバチルス・ガセリOLL
2716株(FERM BP−6999)は高い胃酸耐性を有すると報告されている菌株である。また、塩化ナトリウム(国産化学製)の0.2%水溶液、及びペプシン(Sigma製)の0.35%水溶液を調製したのち、pH1.4〜2.0の範囲となるように混合し、これを人工胃液とした。
【0072】
[試験方法]
各乳酸菌を、MRS培地(Difco製)で培養(37℃、16時間)し、乳酸菌培養液を得た。得られた乳酸菌培養液を人工胃液に0.01%で添加し、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション前後での生菌数をMRS寒天培地(Difco製)を用いて測定し、生残性を算出した。
【0073】
[結果]
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を試験群、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)を比較群として、人工胃液耐性試験の結果を図1に示す。
【0074】
pH2.0において、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株(試験群)の生残性は116%であり、110株の試験乳酸菌中で最も高い胃酸耐性を示した。一方、特許文献2において高い胃酸耐性を有すると報告されているラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)(比較群)の生残性は、pH2.0において13%であり、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株よりも低いものであった。また、非特許文献5に記載のラクトバチルス・ラムノサスGG株(ATCC 53103)の生残性は、pH2.0において検出限界以下(0.001%以下)であった。
【0075】
以上より、胃液を模した低pH環境において、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、既知の乳酸菌よりも顕著に高い生残性を示すことが明らかになった。よって、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、低pH環境である胃内において、特に安定して生存できると期待される。
【0076】
[試験例2]ヘリコバクター・ピロリ増殖抑制試験
本試験では、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株のヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を確認することを目的とした。
【0077】
[試料]
乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)、及びラクトバチルス・ラムノサスGG株(ATCC 53103)を用いた。ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)、及びラクトバチルス・ラムノサスGG株(ATCC 53103)は、いずれもヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果が知られている株である。また、ヘリコバクター・ピロリとして、ヘリコバクター・ピロリ(ATCC 43504T)を用いた。
【0078】
[試験方法]
MRS培地(Difco製)で培養(37℃、16時間)した乳酸菌の培養液を、5%非働化ウシ胎仔血清(FCS)を含有するBHI培地(Difco製)で希釈し、乳酸菌濃度が1×109cfu/mlになるように650nmにおける吸光度に基づいて調製し、乳酸菌懸濁液とした。ヘリコバクター・ピロリを5%FCS含有BHI培地に接種し、10%CO2存在下で37℃、24時間培養し、ヘリコバクター・ピロリ濃度が1×107cfu/mlになるように調製し、ヘリコバクター・ピロリ懸濁液とした。4mlの5%FCS含有BHI培地に、0.5mlのヘリコバクター・ピロリ懸濁液と0.5mlの乳酸菌懸濁液とを添加し、10%CO2存在下で37℃、12時間培養した。
【0079】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を添加したものを試験群、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)、及びラクトバチルス・ラムノサスGG株(ATCC 53103)を添加したものをそれぞれ比較群1、2とした。また、対照群として、乳酸菌懸濁液の代わりに0.5mlの5%FCS含有BHI培地を添加したものを準備し、同様に培養した。培養前後のヘリコバクター・ピロリ菌数を、ヘリコバクター寒天培地(ニッスイ製)を用いて算出した。なお、用いた乳酸菌は、いずれもヘリコバクター寒天培地上では生育しない。
【0080】
[結果]
結果を図2に示す。培養前のヘリコバクター・ピロリ菌数は0.946×106cfu/mlであった。対照群では、培養後に5.95×106cfu/mlとなり、培養前と比較して6倍以上の濃度に増殖した。また、ヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を有することが知られている既知の乳酸菌と混合した比較群1及び2では、培養後のヘリコバクター・ピロリ菌数はそれぞれ1.87×106cfu/ml、2.05×106cfu/mlであり、培養前と比較していずれも2倍以上の濃度に増殖した。
【0081】
一方、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株と混合して培養した試験群では、培養後のヘリコバクター・ピロリ菌数は1.06×106cfu/mlであり、培養前と比較してほとんど増殖が認められなかった。よって、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株がヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0082】
また、培養前後での菌数の増加分は、対照群で約5×106cfu/ml、比較群1及び2でそれぞれ約0.92×106cfu/ml、約1.1×106cfu/mlであるのに対し、試験群では約0.11×106cfu/mlであった。すなわち、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、ヘリコバクター・ピロリ菌数の増殖を対照群と比較して約1/45(=0.11/5)にまで、すなわち97%以上抑制することができ、また、上記既知の乳酸菌と比較しても、それぞれ約1/8(=0.11/0.92)及び約1/10(=0.11/1.1)にまで抑制することができることが示された。よって、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、既知の乳酸菌と比較して、顕著に高いヘリコバクター・ピロリ増殖抑制効果を有することが明らかとなった。
【0083】
[試験例3]ヘリコバクター・ピロリの抗原特異的Th1反応に対する抑制効果
本試験は、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株のヘリコバクター・ピロリの抗原特異的Th1反応に対する抑制効果を確認することを目的とした。具体的には、マウスパイエル板由来の抗原提示細胞とヘリコバクター・ピロリ抗原で感作したマウスのT細胞にヘリコバクター・ピロリ加熱菌体を添加することで誘導されるIFN−γの産生量を指標とした。
【0084】
[試料]
乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株及びラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)を用いた。ヘリコバクター・ピロリとして、ヘリコバクター・ピロリ(ATCC 43504T)を用いた。
【0085】
[試験方法]
各乳酸菌をMRS培地で16時間培養し、菌体をPBSで2回洗浄し、さらに蒸留水で2回洗浄した後に蒸留水で懸濁し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥した菌体をPBSで懸濁して10mg/mlに調整し、100℃、30分間の加熱処理を行い、乳酸菌加熱菌体とした。ヘリコバクター・ピロリを5%FCS含有BHI培地で24時間培養し、菌体をPBSで2回洗浄し、PBSで10mg/mlに調整した。さらに、100℃、30分間の加熱処理を行い、ヘリコバクター・ピロリ加熱菌体懸濁液とした。
【0086】
不完全フロイントアジュバント(Difco製)とヘリコバクター・ピロリ加熱菌体懸濁液を1:1で混合した混合液100μlを、C57BL/6マウス(日本チャールス・リバーより入手)に腹腔内投与し、ヘリコバクター・ピロリで感作した。感作2週間後にヘリコバクター・ピロリ抗原で感作したマウスの脾細胞を常法により調製し、磁気細胞分離装置(ミルテニーバイオテク製)を用いてCD90.2陽性細胞を採取し、ヘリコバクター・ピロリ抗原に特異的に反応するヘリコバクター・ピロリ抗原特異的T細胞として用いた。また、C57BL/6マウスの腸管よりパイエル板を採取しリンパ球を常法により調製し、磁気細胞分離装置を用いてCD90.2陰性細胞を採取し、パイエル板由来抗原提示細胞として用いた。
【0087】
ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的Th1反応を評価するために、96ウェルのプレートにヘリコバクター・ピロリ抗原特異的T細胞とパイエル板由来抗原提示細胞をそれぞれ1×106細胞/ウェルとなるよう混合して培養した。ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的T細胞とパイエル板由来抗原提示細胞を混合したウェルに、何も添加していないものを無刺激群、ヘリコバクター・ピロリ加熱菌体を100μg/mlの濃度で添加したものを対照群とした。そして、対照群に、さらに、乳酸菌加熱菌体として、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株及びラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)の加熱菌体を10μg/mlの濃度で添加したものをそれぞれ試験群及び比較群とした。
【0088】
培養は、RPMI1640(SIGMA製)に10%FCS(Gibco製)、100IU/mlペニシリン、及び0.1mg/mlストレプトマイシンを加えた培地で、5%CO2存在下、37℃で行った。4日間の培養後に培養上清を回収し、培養上清中のIFN−γ濃度をDuo Set(R&D systems製)を用いてELISA法により測定した。統計解析はt検定により行った。
【0089】
[結果]
ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的Th1反応に対する乳酸菌による抑制試験の結果を図3に示す。無刺激群ではIFN−γの産生が認められないのに対し、無刺激群にヘリコバクター・ピロリ加熱菌体を添加した対照群では、ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的反応によるIFN−γの産生が認められた。乳酸菌加熱菌体として、ラクトバチルス・ガセリOLL 2716株(FERM BP−6999)加熱菌体を添加した比較群のIFN−γ産生量は、対照群に対して有意な差は認められなかった。
【0090】
一方、乳酸菌加熱菌体として、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株加熱菌体を添加した試験群のIFN−γ産生量は、対照群と比較して有意(p<0.05)に低い値(2.55ng/ml)を示した。従って、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、ヘリコバクター・ピロリにより誘発されるIFN−γ産生について、抑制効果を有することが明らかとなった。
【0091】
ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の発症と症状の持続には、ヘリコバクター・ピロリ抗原特異的なTh1細胞が必須であり、Th1の免疫反応を抑制することにより、効果的に、ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍の予防又は治療を行うことができる。ラクトバチルス・ガセリMCC1183株は、ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1の免疫反応である、ヘリコバクター・ピロリにより誘発されるIFN−γ産生を抑制する効果を有することから、特に、INF−γの産生に起因する疾患の改善又は予防に有用であり、例えば、移植拒絶反応、自己免疫病、マクロファージ活性化による炎症反応、脳卒中、脳血管障害及び脳血栓の予防又は治療に用いることができる。
【0092】
また、ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1の免疫反応を抑制する効果は既知の乳酸菌においては報告されていない。よって、ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を用いることにより、抗菌作用に加え、免疫抑制という既知の乳酸菌とは異なる作用によって、炎症や潰瘍、特にヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎や消化性潰瘍を有効に予防又は治療できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)MCC1183株(受託番号:FERM P−21908)。
【請求項2】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する医薬。
【請求項3】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飲食品。
【請求項4】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する飼料。
【請求項5】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗菌剤。
【請求項6】
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の抗菌に用いられる、請求項5に記載の抗菌剤。
【請求項7】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗炎症剤。
【請求項8】
ヘリコバクター・ピロリに起因する胃炎の予防又は治療に用いられる、請求項7に記載の抗炎症剤。
【請求項9】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する抗潰瘍剤。
【請求項10】
ヘリコバクター・ピロリに起因する胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の予防又は治療に用いられる、請求項9に記載の抗潰瘍剤。
【請求項11】
ラクトバチルス・ガセリMCC1183株を含有する免疫抑制剤。
【請求項12】
ヘリコバクター・ピロリによって誘発されるTh1細胞の免疫反応を抑制するために用いられる、請求項11に記載の免疫抑制剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−200211(P2011−200211A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73674(P2010−73674)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】