説明

新規分子腫瘍マーカー

【課題】肉眼又は顕微鏡を用いて行われる組織、細胞、染色体レベルでの大腸癌の診断に代わる、又は、相補的に利用することが出来る、簡便かつ信頼性の高い大腸癌の分子診断を提供する。
【解決手段】大腸癌の新規分子腫瘍マーカーCBX2を利用した、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法、および、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
遺伝子マーカーを利用して大腸癌の存在を検出する方法及び当該方法に使用されるプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、日本人の死亡原因第1位である癌のうち、大腸癌に注目し、新規腫瘍マーカーとなる分子を探索していた。
これまでに大腸癌の分子腫瘍マーカーとしてはolfactomedin 4 (OLFM4(GW112,/hGC-1)) 遺伝子(非特許文献1参照)、oestrogen receptor (OR) 遺伝子(非特許文献2参照)、cyclin Eタンパク質(非特許文献3参照)などが知られている。また、約22,000転写物を含むAffymetrix U133a GeneChipを用いた網羅的な解析において、23種類の遺伝子がDuke B大腸癌のマーカーとして使用できることが示唆されている(非特許文献4参照)。
しかし、これらの潜在的分子腫瘍マーカーのうち、実際に広く臨床的に実用化されているものはなく、また、伝統的に一個の疾患として纏められていた多くのヒトの癌は、幾つかの別個のサブカテゴリーの疾患に分類されるべきであるということが、共通認識となりつつある(非特許文献5、非特許文献6参照)。したがって、既知の大腸癌の分子腫瘍マーカーに代わる、又は、それらと相補的に利用される、優れた大腸癌の新規分子腫瘍マーカーの開発が望まれている。
【0003】
これまでにHOXB13遺伝子のメチル化が腎臓癌のマーカーになることが分かっており(非特許文献7参照)、発明者らは当初大腸癌検体におけるHox遺伝子群のメチル化をスクリーニングにより調べた。しかし、有意な結果が得られなかったことから、Hox遺伝子を制御するPolycomb遺伝子群に注目した。Polycomb遺伝子群を表1に示す。
【0004】
【表1】

転写因子群の発現は多くが一過性であるが、体節構造に位置特異性を与えるホメオボックス遺伝子などの発現パターンはクロマチン構造に記憶され、細胞分裂を経て娘細胞に伝達される。このエピジェネティックな発現維持において、遺伝子発現の抑制状態を維持するのがPolycomb遺伝子群である。
【0005】
Polycomb遺伝子群には、クラスI複合体とクラスII複合体がある。クラスI複合体の構成因子であるマウスEzh2はヒストンメチル化転移活性を有し、クラスI複合体はヒストンH3のテイル領域に存在する第27番目のリジン(H3K27)をメチル化することによって遺伝子発現を抑制すべき染色体ドメインに目印を付ける。このメチル化リジンを目印としてクラスII複合体が結合し、クロマチン構造を変化させることで、転写をより強く抑制すると考えられている。
ヒトにおいてEZH2は血液腫瘍や前立腺癌で過剰発現しており、癌の悪性度と有意に相関することが知られている。よって、発明者らは、EZH2がメチル化したH3K27を認識し、転写活性を抑制状態に維持するクラスII複合体の構成因子も過剰発現しているとの仮説を立てた。以下、本発明について詳細に説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Koshida S, Kobayashi D, Moriai R, Tsuji N, Watanabe N. Specific overexpression of OLFM4(GW112/HGC-1) mRNA in colon, breast and lung cancer tissues detected using quantitative analysis. Cancer Sci. 2007 Mar;98(3):315-20.
【非特許文献2】Fujii S, Tominaga K, Kitajima K, Takeda J, Kusaka T, Fujita M, Ichikawa K, Tomita S, Ohkura Y, Ono Y, Imura J, Chiba T, Fujimori T. Methylation of the oestrogen receptor gene in non-neoplastic epithelium as a marker of colorectal neoplasia risk in longstanding and extensive ulcerative colitis. Gut. 2005 Sep;54(9):1287-92. Epub 2005 May 3.
【非特許文献3】Sutter T, Dansranjavin T, Lubinski J, Debniak T, Giannakudis J, Hoang-Vu C, Dralle H. Overexpression of cyclin E protein is closely related to the mutator phenotype of colorectal carcinoma. Int J Colorectal Dis. 2002 Nov;17(6):374-80. Epub 2002 Mar 8.
【非特許文献4】Wang Y, Jatkoe T, Zhang Y, Mutch MG, Talantov D, Jiang J, McLeod HL, Atkins D. Gene expression profiles and molecular markers to predict recurrence of Dukes' B colon cancer. J Clin Oncol. 2004 May 1;22(9):1564-71. Epub 2004 Mar 29.
【非特許文献5】Robert A. Weinberg, The Biology of Cancer. June 2006, Garland Science, pp727-732
【非特許文献6】Staudt LM. Molecular diagnosis of the hematologic cancers.N Engl J Med. 2003 May 1;348(18):1777-85. Review.
【非特許文献7】Okuda H, Toyota M, Ishida W, Furihata M, Tsuchiya M, Kamada M, Tokino T, Shuin T. Epigenetic inactivation of the candidate tumor suppressor gene HOXB13 in human renal cell carcinoma. Oncogene. 2006 Mar 16;25(12):1733-42.
【非特許文献8】Varambally S, Dhanasekaran SM, Zhou M, Barrette TR, Kumar-Sinha C, Sanda MG, Ghosh D, Pienta KJ, Sewalt RG, Otte AP, Rubin MA, Chinnaiyan AM. The polycomb group protein EZH2 is involved in progression of prostate cancer. Nature. 2002 Oct 10;419(6907):624-9.
【非特許文献9】Kirmizis A, Bartley SM, Farnham PJ. Identification of the polycomb group protein SU(Z)12 as a potential molecular target for human cancer therapy. Mol Cancer Ther. 2003 Jan;2(1):113-21.
【非特許文献10】Satijn DP, Olson DJ, van der Vlag J, Hamer KM, Lambrechts C, Masselink H, Gunster MJ, Sewalt RG, van Driel R, Otte AP. Interference with the expression of a novel human polycomb protein, hPc2, results in cellular transformation and apoptosis. Mol Cell Biol. 1997 Oct;17(10):6076-86.
【非特許文献11】Dietrich N, Bracken AP, Trinh E, Schjerling CK, Koseki H, Rappsilber J, Helin K, Hansen KH. Bypass of senescence by the polycomb group protein CBX8 through direct binding to the INK4A-ARF locus. EMBO J. 2007 Mar 21;26(6):1637-48. Epub 2007 Mar 1.
【非特許文献12】Liu ET. Expression genomics and drug development: towards predictive pharmacology. Brief Funct Genomic Proteomic. 2005 Feb;3(4):303-21. Review
【非特許文献13】Brockmoller J, Tzvetkov MV. Pharmacogenetics: data, concepts and tools to improve drug discovery and drug treatment. Eur J Clin Pharmacol. 2008 Feb;64(2):133-57. Epub 2008 Jan 26. Review.
【非特許文献14】Conrad DH, Goyette J, Thomas PS. Proteomics as a method for early detection of cancer: a review of proteomics, exhaled breath condensate, and lung cancer screening. J Gen Intern Med. 2008 Jan;23 Suppl 1:78-84. Review.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明が解決しようとする課題は、肉眼又は顕微鏡を用いて行われる組織、細胞、染色体レベルでの大腸癌の診断に代わる、又は、相補的に利用することが出来る、簡便かつ信頼性の高い大腸癌の分子診断を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明の課題を解決するための手段として本明細書においては、大腸癌の新規分子腫瘍マーカーCBX2を利用した、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法が開示される。また、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが開示される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[定義]
CBX2:本明細書において「CBX2」というときは、配列番号1又は2で現されるmRNA又はタンパク質又はこれらをコードする遺伝子を意味する。「CBX2遺伝子」、「CBX2 mRNA」、「CBX2タンパク質」などと表現することもあるが、文脈上又は技術的に明らかな場合は、単にCBX2と書く場合もある。また、単にCBX2と書いた場合には、これらのうち複数を表す場合もある。
検出する:本願明細書において、大腸癌又は大腸癌細胞を「検出する」というときは、当該分野の通常の意味で用いるが、大腸癌又は大腸癌細胞の存在の有無を判断する思索的行為のみならず、当該判断を行うための判断材用及び判断基準の両者を提供することを含む。
プローブ:本願明細書において「プローブ」というときは、当該分野の通常の意味で用いるが、検出したい標的分子に特異的に結合することにより当該標的分子の存在を検出することを可能にする任意の分子を意味する。
正常:本願明細書において、「正常」部位というときは、当該分野の通常の意味で用いるが、本願発明以外の方法で「正常」と判断された部位を意味する。この場合の判断は確定的なものである必要はない。
病変:本願明細書において、「病変」部位というときは、当該分野の通常の意味で用いるが、本願発明以外の方法で「病変」が存在すると判断された部位を意味する。この場合の判断は確定的なものである必要はない。
潜在的:本願明細書において、「潜在的」病変というときは、用語の通常の意味で用いるが、病変の存在を主観的に疑う事実があれば足りる。正常部位と対比されるものは、原則として、病変部位又は潜在的病変部位である。
RT-PCR:本願明細書において、「RT-PCR」というときは、当該分野の通常の意味で用いるが、(1)mRNAを鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成し、当該cDNAを鋳型としてPCRを行う一連の工程全体を意味することもあるし、場合によっては、(2)cDNAを鋳型としてPCRを行う工程のみを意味することもある。(2)の場合に、PCRと呼ばずに敢えて「RT-PCR」と呼ぶ理由は、mRNAを鋳型として逆転写酵素により合成されたcDNAを用いていることを強調することにある。さらに、(1)(2)のcDNA合成工程において、同時にcDNAの定量をする工程を含む。
オリゴヌクレオチド:本願明細書において、「オリゴヌクレオチド」というときは、ポリヌクレオチドを包含するものとする。一般に、オリゴヌクレオチドとポリヌクレオチドの呼び分けは長さに依存するが、境界となる長さは曖昧である。しかし、「オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド」という表現は煩雑となるので、「オリゴヌクレオチド」で総称することとした。
機能的な配列:本願明細書において、「機能的な配列」というときは、当該機能的な配列を含むオリゴヌクレオチドの検出・精製・使用を容易にするための任意の配列を意味する。CBX2遺伝子及びその発現産物の機能とは無関係である。
【0010】
[実験材料及び方法]
<ヒト組織サンプル>
大腸癌患者病変部位および正常部位大腸組織(21歳から91歳) 60検体
<組織からのRNAの抽出と定量>
上記ヒト組織サンプル(≦30mg)をホモジネートし、RNAをRNeasy Mini Kit(キアゲン社製) で抽出した。RNA濃度をGene Quant pro "S"(Amersham Pharmacia社製)で定量した。
<細胞株>
HCT 116細胞株(大腸細胞株):ECACC, Lot.05K025
LoVo細胞株(大腸癌細胞株):HSRRB, Lot.06262002
【0011】
<培養条件>
(1)試薬
McCoy's 5A(Invitrogen社製)
Ham's F12(ナカライテスク社製)
FBS(Fetal Bovine Serum)(BIOLOGICAL INDUSTRIES社製)
ペニシリン-ストレプトマイシン(Invitrogen社製), Lot.1409368)
PBS(ナカライテスク社製)
2.5g/L-トリプシン,1mmol/L-EDTA溶液(ナカライテスク)
(2)HCT 116細胞の培養
HCT116細胞株を、10%FBS、100μg/mLのストレプトマイシンおよび100unit/mLのペニシリンを含むMcCoy's 5A培地中、37℃、5%CO2下で、70〜80%コンフルエントまで培養した。継代のために、培地を除いて2mLのPBSで細胞を洗浄した後、1mLの2.5g,L-トリプシン/1mmol/L-EDTA溶液を添加して37℃、5%CO2下で5分間インキュベートすることで細胞を培養皿から剥がし、1.0×105個/mLになるよう10mLの上記と同組成のMcCoy's 5A培地を加えて細胞を再懸濁し、10cm培養皿に播種して37℃、5%CO2下で培養した。
(3)Lovo細胞の培養
LoVo細胞株を、20%FBS、100μg/mL のストレプトマイシンおよび100unit/mLのペニシリンを含むHam's F12培地中、37℃、5%CO2下で、40〜50%コンフルエントまで培養した。継代のために、培地を除いて2mLのPBSで細胞を洗浄した後、1mLの2.5g/L-トリプシン,1mmol/L-EDTA溶液を添加して37℃、5%CO2下で5分間インキュベートすることで細胞を培養皿から剥がし、1.0×105個/mLになるよう10mLの上記と同組成のHam's F12培地を加えて細胞を再懸濁し、10cm培養皿に播種して37℃、5%CO2下で培養した。
【0012】
<細胞株からのRNAの抽出>
(1)試薬
ISOGEN LS(WAKO社製, Lot.61007G)
クロロホルム(WAKO社製, Lot.DLK4887)
イソプロパノール(WAKO社製, Lot.TCP3407)
エタノール(関東化学社製, Lot.605F1249)
TE緩衝液(pH8.0)(ナカライテスク社製, Lot.L5M6477)
PBS(ナカライテスク社製, Lot.L7N6186)
大塚蒸留水(注射水用, Nuclease Free)(大塚製薬工場社製, Lot.K4L73)
(2)方法
750μLのISOGEN LSに細胞を溶解し、さらに200μLのクロロホルムを添加して、約15秒間激しく混和した。室温で3分間静置した後、12000×g、4℃、10分間遠心した。遠心によって分離した3層(下層の有機相、中間層、上層の水相)のうち、水相のみを採取し、等量のイソプロパノールを添加した。12000×g、4℃、10分間遠心した。上清を除去し、70%エタノールを1mL添加して、激しく混和した後、12000×g、4℃、5分間遠心した。再び上清を除き、風乾した後、ペレットを50μLのTE緩衝液(pH8.0)に溶解した。分光光度計(Amersham Pharmacia社製, Gene Quant pro "S")を用いてRNA濃度を定量した。定量したRNA溶液から4.5μg相当量(≦22.5μL)を、0.2mLのPCRチューブに分注し、RQ1 RNase-Free DNase kit(Promega社製)を用い、製造者のプロトコールに従ってDNase処理を行った。
【0013】
<cDNA合成>
(1)試薬
ReverTra Ace-α-kit(TOYOBO, Lot.71510D4)
5×RT Buffer
10mmol/L dNTP Mixture
10U/μ RNase Inhibitor
25pmol/μ Random Primer
ReverTra Ace
大塚蒸留水(注射水用)(大塚製薬工場社製, Lot. K4L73)
(2)試薬調製
1μg相当量(≦11μL)のTotal RNA、4μLの5×RT Buffer、2μLの10mmol/L dNTP Mixture、1μLの10U/μL RNase Inhibitor、1μLの25pmol/μ Random Primer、1μLのReverTra Aceに、総量が20μLになるよう蒸留水で調製し、逆転写反応溶液とした。
(3)逆転写反応
GeneAmp(登録商標) PCR System 9700(Applied Biosystems社製)を用いて、逆転写反応を行った。温度サイクルは以下に示すとおりである。
30℃を10分、42℃を20分で逆転写反応を行い、99℃を5分で酵素を失活させた。その後4℃で保存した。
【0014】
<cDNA合成の確認>
(1)試薬
Ampli Taq Gold kit(Roche社製, Lot.H03000)
10×PCR Gold Buffer
25mmol/L MgCl2
5U/μ Ampli Taq Gold
2mmol/L dNTP Mixture(Applied Biosystems社製, Lot.0512332)
β-actin Primer (Amersham Pharmacia社製)
Forward(9.79μmol/L):5'-(ACACTGTGCCCATCTACGAGG)-3'
Reverse(9.76μmol/L):5'-(AGGGGCCGGACTCGTCATACT)-3'
大塚蒸留水(注射水用)(大塚製薬工場社製, Lot. K4L73)
(2)調製
前記cDNA合成(3)で逆転写して得られた鋳型 cDNAをチューブに1μL分取し、2.5μLの10×PCR Gold Buffer、2.5μLの25mmol/L MgCl2、2.5μLの2mmol/L dNTP Mixture、0.625μLのForward primer、0.625μLのReverse primer、0.15μLのAmpli taq Goldに、総量が26μLになるよう蒸留水で調整し反応溶液とした。
(3)反応
GeneAmp(登録商標) PCR System 9700(Applied Biosystems社製)を用いて、PCR反応を行った。温度サイクルは以下に示すとおりである。
95℃、10分でテンプレートを熱変性させ、95℃を1分、59℃を1分、72℃を1.5分の増幅サイクルを31サイクル行い、最後に72℃、7分で保温し、サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0015】
<PCR反応>
(1)試薬
Ampli Taq Gold kit(Roche社製, Lot.H03000)
10×PCR Gold Buffer
25mmol/L MgCl2
5U/μ Ampli Taq Gold
2mmol/L dNTP Mixture(Applied Biosystems社製, Lot.0512332)
CBX2 Primer (日本遺伝子研究所製)
Forward(10μmol/L);5'-(AGCTGGAGTACCTGGTCAAGTG)-3'
Reverse(10μmol/L);5'-(TGAGGAAGAGGAGGATGACGTG)-3'
EZH2 Primer(日本遺伝子研究所製)
Forward(10μmol/L);5'-(TGCACACTGCAGAAAGATACAGCTG)-3'
Reverse(10μmol/L);5'-(CCTGCCACGTCAGATGGTG)-3'
大塚蒸留水(注射水用)(大塚製薬工場社製, Lot. K4L73)
(2)調製
前記cDNA合成(3)で逆転写して得られた鋳型 cDNAをチューブに1μL分取し、2.5μLの10×PCR Gold Buffer、2.5μLの25mmol/L MgCl2、1.5μLの2mmol/L dNTP Mixture、0.625μLのForward primer、0.625μLのReverse primer、0.15μLのAmpli taq Goldを加え、総量が26μLになるよう蒸留水で調整し反応溶液とした。
(3)反応
GeneAmp(登録商標) PCR System 9700(Applied Biosystems社製)を用いて、PCR反応を行った。温度サイクルは以下に示すとおりである。
94℃、10分でテンプレートを変性させ、94℃を30秒、61℃を30秒、72℃を1分の増幅サイクルを35サイクル行い、最後に72℃、7分で保温し、サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0016】
<アガロースゲル電気泳動>
(1)試薬
アガロースME(関東化学社製, Lot.AG5269)
100bp DNA Ladder(Invitrogen社製, Lot.1350364)
6×Loading Buffer Orange G(WAKO社製, Lot.07006C)
Ethidium Bromide Solution(Invitrogen社製, Lot.1222260)
10×TAE Buffer(終濃度1×に希釈して使用)
(2)方法
5μLのPCR産物に1μLの6×Loading Buffer Orange Gを加えて良く混和した。1×TAE Bufferで満たした泳動槽に2%アガロースゲルをセットし、サンプルを全量アプライした。100V、約35分間泳動した。100mLの1×TAEに10μLのEthidium Bromide Solutionを溶解した染色液に、アガロースゲルを入れ、振盪しながら20分間染色した。アガロースゲルが十分浸る程度の水道水に、染色したアガロースゲルを入れ、1時間振盪した。ライトキャプチャー(ATTO社製, Cool Saver AE-6955)でバンドを確認した。
【0017】
<mRNA発現量の定量>
(1)試薬
2×GeneAmp(登録商標) Fast PCR Master Mix(Applied Biosystems社製, Lot.0709080)
TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Applied Biosystems社製)
ACTB(β-actin)(Lot.451200)
CBX2(Lot.50296285_C 0318)
大塚蒸留水(注射水用)(大塚製薬工場社製, Lot. K5I74)
(2)検量線用cDNAの希釈系列の作製
RT-PCR法により遺伝子の発現が最も高かったサンプル(β-actin:G401、CBX2:大腸癌臨床検体No.11の癌部)のcDNAを以下のように4段階に希釈して調製した。
β-actin測定用:4倍希釈系列(10000、2500、625、156.25、39.0625)、Lot.080108
CBX2測定用:3倍希釈系列(10000、3333.33、1111.11、390.39、123.46)、Lot.080108
(3)方法
1μLのcDNA溶液をチューブに分取し、10μLの2×GeneAmp(登録商標) Fast PCR Master Mix、1μLのTaqMan(登録商標) Gene Expression Assaysを加え、総量が20μLになるよう蒸留水で調製した。
Applied Biosystems 7500 Fast リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製)を用いて、リアルタイムPCRを行った(n=3)。β-actinサンプルは5倍希釈して用いた。
反応条件は、95℃、20秒でテンプレートを熱変性させ、95℃を5秒、60℃を30秒の増幅サイクルを40サイクルであった。
【0018】
[結果及び考察]
[Polycomb遺伝子クラスI分子の発現]
EZH2遺伝子は血液腫瘍や前立腺癌で過剰発現しており、癌の悪性度と有意に相関していることが報告されている(非特許文献8参照)。本願の参考例1においては、EZH2 mRNAの発現は、正常サンプル(N)と比較して、大腸癌サンプル(T)において多く発現する傾向が観察された。このことは、EZH2遺伝子が、血液腫瘍や前立腺癌のみならず大腸癌においてもマーカーとして使用しうることを示唆している。
【0019】
また、SU(Z)12 mRNAは大腸癌を含む多くのヒトの腫瘍においてアップレギュレートされていることが報告されているが(非特許文献9参照)、本願の参考例においてもSU(Z)12 mRNAの発現は、正常サンプル(N)と比較して、大腸癌サンプル(T)において多く発現する傾向が観察された。本例においては、非特許文献9のFigure 6の結果と比較して、正常サンプル(N)でのSU(Z)12 mRNAの発現が多いように思われるが、これはRT-PCRのサイクル数(本例では35回、非特許文献9では28回)の違いのせいかもしれない。
【0020】
これらの結果は、本願発明の大腸組織検体において大腸癌の存在を検出する方法において、CBX2遺伝子の発現量を定量する工程と併せて、EZH2遺伝子の発現量を定量する工程又はSU(Z)12遺伝子の発現量を定量する工程を行うことにより、より詳細な検出が行える可能性があることを示唆する。
【0021】
[Polycomb遺伝子クラスII分子の発現]
本願の実施例1においては、CBX2 mRNAの発現が、正常サンプルと比較して、大腸癌サンプルにおいて多く発現する顕著な傾向が観察された。一般的に言って、CBX2遺伝子は発現量が少なく、これまでにヒトにおけるCBX2遺伝子の機能については注目されてこなかった。参考例2から明らかなように、CBX2遺伝子は特に正常大腸組織において発現が少ないが、このことはCBX2遺伝子を大腸癌のマーカー遺伝子として使用する場合に大きな利点となりうる。即ち、対照となる正常大腸組織サンプルにおけるCBX2遺伝子の発現量と病変部大腸組織サンプルにおけるCBX2遺伝子の発現量の比率が大きくなるので、大腸癌細胞の検出が容易に行えることが期待される。この観点からすると、骨格筋又は小腸の癌細胞の検出においても、CBX2遺伝子をマーカーとして利用できることが期待される。
【0022】
ドミナントネガティブ型のCBX4(別名hPc2)タンパク質を培養細胞に過剰発現させて、内在性のCBX4タンパク質の機能を阻害することにより、当該培養細胞を癌化させ得ることが報告されている(非特許文献10参照)。本願の参考例においてはCBX4 mRNAの発現が、正常サンプル(N)と比較して、大腸癌サンプル(T)において比較的多く発現する傾向が観察された。また、CBX8遺伝子を過剰発現させると、Ink4a-Arf 遺伝子座が発現抑制され、細胞の不死化が生ずることが報告されている(非特許文献11参照)。いずれの報告においても、CBX4又はCBX8が癌細胞の検出マーカーとして使用しうることは示唆されていないが、本願発明の大腸組織検体において大腸癌の存在を検出する方法において、CBX2遺伝子の発現量を定量する工程と併せて、CBX4遺伝子の発現量を定量する工程又はCBX8遺伝子の発現量を定量する工程を行うことにより、より詳細な検出が行える可能性がある。
【0023】
本願発明を実施するための形態には、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法であって、病変部位又は潜在的病変部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、正常部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、前記二つの発現量を比較する工程、を含む方法、が含まれるが、ヒト以外の哺乳動物には牛、馬、豚、鶏などの家畜動物が含まれ、また、犬、猫などの愛玩動物も含まれる。
【0024】
大腸組織検体の摘出方法としては外科的切除でも良いし、大便に含まれる大腸組織細胞を回収しても良い。
【0025】
大腸癌の存在を検出するに当たっては、正常検体及び病変検体それぞれにおける発現量を数値で表して判断しても良いし、色や音などの知覚で認識できる表現形式を用いて判断しても良い。
【0026】
CBX2遺伝子の発現量を定量するためには、一般的にmRNAの発現量を定量するのが簡便であるが、場合によってはタンパク質の発現量を定量しても良い。多くの場合mRNAの発現量とその翻訳産物であるタンパク質の発現量は正に相関することは当業者常識である。したがって、本願明細書の開示内容に基づき、CBX2タンパク質に対する抗体を既知の方法で作成し、CBX2タンパク質の発現量を定量し、もって大腸癌を検出することは当業者にとり容易である。
【0027】
mRNAの発現量を定量するためにはRT-PCR法を使用するのが簡便であるが、必要に応じてノーザンブロッティング法、マイクロアレイ法、ジーンチップ法(Affimetrix)などを用いても良い(非特許文献12、非特許文献13参照)。
【0028】
タンパク質の発現量を定量するためには、ウェスタンブロット法を使用するのが簡便であるが、必要に応じてプロテインアレイ法などを用いても良い(非特許文献14参照)。これらの方法を実施するためには、抗体を用いても良いし、タンパク質を特異的に認識できる分子であれば何でも良い。
【0029】
CBX2遺伝子の病変部位及び正常部位における発現量を比較する際には、病変部位における発現量が正常部位における発現量の2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、などの場合に大腸癌の存在が検出されたと判断することが出来る。本願明細書の実施例2で示したように、大腸癌細胞株HCT116の発現量の平均値を1とした場合、正常組織の発現量の平均値は0.016であった。ここで、大腸癌が存在すると判断するための閾値を2倍(0.032)以上とした場合には、54症例の癌組織について大腸癌が存在すると判断される結果となる。この場合、検査を行った病変部位又は潜在的病変部位由来の検体の90%(54/60症例)の癌組織が検出できると予言され、非常に好ましい。これらの値は、3倍(0.048)以上とした場合には80%(48/60症例)、5倍(0.08)以上とした場合には58%(35/60症例)、10倍(0.16)以上とした場合には28%(17/60症例)、であり、目的に応じて使い分けることができる。
【0030】
病変部位又は潜在的病変部位由来の検体と正常部位由来の検体は同一個体から採取されたものでも良いし、異なる個体から採取されたものでも良い。正常部位由来の検体が異なる個体から採取されたものである場合には、複数個体から採取された検体を混合したものの発現量を比較対照としても良いし、複数個体から採取された検体における発現量の平均値を対照としても良い。
【0031】
本願発明を実施するための形態には、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブ、が含まれるが、当該プローブは、CBX2遺伝子の発現産物を検出するものであれば如何なるものであっても良い。即ち、プローブにはmRNAを検出するためのオリゴヌクレオチド(DNA、RNA、DNA-RNAキメラ、PNA、修飾あり、修飾なし、など)、一本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖DNA、二本鎖RNAなどが含まれる。また、プローブにはタンパク質を検出するための抗体、人工抗体、ペプチド、DNA、RNAなどが含まれる。
【0032】
mRNAを検出するための上記オリゴヌクレオチドなどは、CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部と同一の配列からなるが、当該mRNAを特異的に認識できる長さであればどのような長さであっても良く、使用する方法に応じて適当に選ぶことが出来る。特異性を確保するためには、15ヌクレオチド以上の長さであることが好ましく、16、17、18、19、20、25、30、40、50、75、100、200、500、1000、2000、又は4000ヌクレオチド以上の長さであることが好ましい。当該プローブを利用する方法がRT-PCR法である場合には、オリゴヌクレオチドの長さは15-100ヌクレオチドであることが望ましく、18-50ヌクレオチドであることが更に望ましい。
【0033】
これらのオリゴヌクレオチドの配列は、CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部と完全同一の場合だけでなく、特異性が確保される限り、99%以上、98%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上同一であってもよい。当該RT-PCR用のオリゴヌクレオチドには当該mRNAの配列又はその相補配列と異なる機能的な配列を付加しても良い。当該機能的な配列には、制限酵素や組換え酵素の認識部位、他のプライマーの結合部位などが含まれる。一般的に、これらの機能的配列はオリゴヌクレオチドの5’側末端に付加される。
【0034】
即ち、本件発明は以下のものに関する。
(1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法であって、
病変部位又は潜在的病変部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、
正常部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、
上記二つの発現量を比較する工程、
を含む方法。
(2)CBX2遺伝子の発現量の定量が、CBX2 mRNAの測定によって行われる、(1)に記載の方法。
(3)病変部位又は潜在的病変部位由来の検体におけるCBX2 mRNAの発現量が、正常部位由来の検体におけるCBX2 mRNAの発現量の2倍以上である場合に、大腸癌の存在が検出される、(2)に記載の方法。
(4)病変部位又は潜在的病変部位由来の検体と正常部位由来の検体が、同一個体から摘出されたものである、(3)に記載の方法。
(5)CBX2 mRNAの測定がRT-PCRによって行われる、(3)に記載の方法。
(6)ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブ。
(7)CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが、CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部(15ヌクレオチド以上)と同一の配列からなるオリゴヌクレオチドである、(6)に記載のプローブ。
(8)オリゴヌクレオチドの長さが15-100ヌクレオチドである、(7)に記載のプローブ。
(9)オリゴヌクレオチドがRT-PCR用の単数又は複数のプライマー対である、(8)に記載のプローブ。
(10)病変部位又は潜在的病変部位由来の検体と正常部位由来の検体が、異なる個体から摘出されたものである、(3)に記載の方法。
(11)CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが、CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部(15ヌクレオチド以上)と90%以上同一の配列からなるオリゴヌクレオチドである、(6)に記載のプローブ。
(12)オリゴヌクレオチドの長さが101-4192ヌクレオチドである、(7)に記載のプローブ。
(13)CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが、
CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部と連続して15ヌクレオチド以上の長さにおいて同一な配列、及び、
上記各配列と異なる機能的な配列
からなるオリゴヌクレオチドである、(6)に記載のプローブ。
(14)オリゴヌクレオチドの長さが16-100ヌクレオチドである、(13)に記載のプローブ。
(15)オリゴヌクレオチドがRT-PCR用の単数又は複数のプライマー対である、(14)に記載のプローブ。
(16)CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが、CBX2遺伝子のタンパク質発現産物に特異的に結合する抗体である、(6)に記載のプローブ。
(17)CBX2遺伝子のタンパク質発現産物に特異的に結合する抗体がポリクローナル抗体である、(16)に記載のプローブ。
(18)CBX2遺伝子のタンパク質発現産物に特異的に結合する抗体がモノクローナル抗体である、(16)に記載のプローブ。
【0035】
[参考例1]
[Polycomb遺伝子クラスI分子の発現]
浜松医科大学で外科的に切除された大腸癌臨床検体60症例を用いて、各遺伝子の発現をRT-PCR法を用いて調べた。同一患者における癌患部に隣接する正常部位臨床検体をコントロールとして用いた。60症例のうち、代表的な16症例のみを図1に示した。定量においてはβアクチンの発現量を内部コントロールとして用いた。
<EZH2及びSUZ12>
EZH2 mRNA及びSUZ12 mRNAの発現は、正常サンプル(N)と比較して、大腸癌サンプル(T)において多く発現する傾向が観察された。
<EED及びEZH1>
EED mRNA及びEZH1 mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
【実施例1】
【0036】
[Polycomb遺伝子クラスII分子の発現]
浜松医科大学で外科的に切除された大腸癌臨床検体60症例を用いて、各遺伝子の発現をRT-PCR法を用いて調べた。同一患者における癌患部に隣接する正常部位臨床検体をコントロールとして用いた。60症例のうち、代表的な16症例のみを図2に示した。定量においてはβアクチンの発現量を内部コントロールとして用いた。
【0037】
<Phホモログ>
PHC1、PHC2及びPHC3の各mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
<Pscホモログ>
MEL18、BMI1及びMBLRの各mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
<dRingホモログ>
RING1及びRNF2の各mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
<Pcホモログ>
CBX2 mRNAの発現は、正常サンプルと比較して、本例で検討したPCR条件では大腸癌サンプルにおいて多く発現する顕著な傾向が観察された。
CBX4 mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
CBX8 mRNAの発現は、正常サンプルと比較して、僅かながら大腸癌サンプルにおいて多く発現する傾向が観察された。
<Scmホモログ>
SCMH1、SCML1、SCML2及びSFMBT1の各mRNAの発現は、本例で検討したPCR条件では正常サンプルと大腸癌サンプルとの間で違いは見られなかった。
【0038】
[参考例2]
[正常組織におけるCBX2遺伝子の発現]
正常組織RNA(Ambion社製)を用いて、RT-PCR法によりCBX2遺伝子の発現を調べた。この結果は図3に示した。CBX2 mRNAの発現は正常大腸、骨格筋及び小腸において弱く、精巣においては他の臓器に比べて強い発現が観察された。胸腺においても比較的強い発現が観察された。
【0039】
[参考例3]
[種種の癌細胞株におけるCBX2遺伝子の発現]
白血病、胃癌、腎癌、肝癌及び大腸癌由来の細胞株(合計31種類)におけるCBX2遺伝子の発現を調べた。上記癌細胞株から抽出したRNAを用いて、RT-PCR法によりCBX2遺伝子の発現を調べた。この結果を図4に示した。
多種の癌細胞株でCBX2遺伝子の発現が確認されたが、特に大腸癌細胞株では他の癌細胞株に比べCBX2遺伝子の発現量が多い傾向を示した。取り扱いの容易さなどの生育条件も考慮し、以後の実験にLoVo細胞株及びHCT116細胞株を用いることにした。
【実施例2】
【0040】
[大腸癌臨床検体におけるCBX2遺伝子の発現]
大腸癌患者の正常部位と病変部位におけるCBX2遺伝子の発現を、リアルタイムRT-PCR法を用いて定量した。この結果を図5に示した。βアクチンを内部コントロールとして用いてデータを標準化した後、大腸癌細胞株HCT116における発現量を1として評価した。横棒は平均値を表す。CBX2遺伝子発現は、病変部位では正常部位と比較してそれぞれの平均値において約9倍(9.44倍)であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本件発明によれば、肉眼又は顕微鏡を用いて行われる組織、細胞、染色体レベルでの大腸癌の診断に代わる、又は、相補的に利用することが出来る、簡便かつ信頼性の高い大腸癌の分子診断を可能になる。
また、本件発明を利用すれば、大腸癌の新規分子腫瘍マーカーCBX2を利用した、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法が実施できる。また、ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、Polycomb遺伝子クラスI分子の発現を表す。
【図2】図2は、Polycomb遺伝子クラスII分子の発現を表す。
【図3】図3は、正常組織におけるCBX2遺伝子の発現を表す。
【図4】図4は、種種の癌細胞におけるCBX2遺伝子の発現を表す。
【図5】図5は、大腸癌臨床検体におけるCBX2遺伝子の発現を表す。
【符号の説明】
【0043】
[組織]
adipose 脂肪
bladder 膀胱
brain 脳
cervix 子宮頚部
colon 大腸
esophagus 食道
heart 心臓
kidney 腎臓
liver 肝臓
lung 肺
ovary 卵巣
placenta 胎盤
prostate 前立腺
skeletal muscle 骨格筋
small intestine 小腸
spleen 脾臓
testes 精巣
thymus 胸腺
thyroid 甲状腺
trachea 気管
【0044】
[遺伝子]
ACTB βアクチン遺伝子
BMI1 BMI1遺伝子
CBX2 CBX2遺伝子
CBX4 CBX4遺伝子
CBX8 CBX8遺伝子
dRing1 Sex comb extra遺伝子又はそのホモログ
E(Z) Enhancer of Zeste遺伝子又はそのホモログ
EED EED遺伝子
Enhancer of Zeste Enhancer of Zeste遺伝子
Esc Extra sex comb遺伝子又はそのホモログ
Extra sex comb Extra sex comb遺伝子
EZH1 EZH1遺伝子
EZH2 EZH2遺伝子
MBLR MBLR遺伝子
MEL18 MEL18遺伝子
Pc Polycomb遺伝子又はそのホモログ
Ph Polyhomeothic遺伝子又はそのホモログ
PHC1 PHC1遺伝子
PHC2 PHC2遺伝子
PHC3 PHC3遺伝子
Polycomb Polycomb遺伝子
Polyhomeothic Polyhomeothic遺伝子
Posterior sex combs Posterior sex combs遺伝子
Psc Posterior sex combs遺伝子又はそのホモログ
RING1 RING1遺伝子
RNF2 RNF2遺伝子
Scm Sex comb on midleg遺伝子又はそのホモログ
SCMH1 SCMH1遺伝子
SCML1 SCML1遺伝子
SCML2 SCML2遺伝子
Sex comb extra Sex comb extra遺伝子
Sex comb on midleg Sex comb on midleg遺伝子
SMBT SMBT遺伝子
Su(Z)12 Suppressor of Zeste遺伝子又はそのホモログ
SU(Z)12 SU(Z)12遺伝子
Suppressor of Zeste Suppressor of Zeste遺伝子
β-actin βアクチン遺伝子
【0045】
[その他]
Class クラス
Drosophila ショウジョウバエ
Human ヒト
Relative CBX2 expression levels 相対CBX2発現レベル
Cancer 癌
Normal 正常

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出する方法であって、
病変部位又は潜在的病変部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、
正常部位由来の検体におけるCBX2遺伝子の発現量を定量する工程、
上記二つの発現量を比較する工程、
を含む方法。
【請求項2】
CBX2遺伝子の発現量の定量が、CBX2 mRNAの測定によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
病変部位又は潜在的病変部位由来の検体におけるCBX2 mRNAの発現量が、正常部位由来の検体におけるCBX2 mRNAの発現量の2倍以上である場合に、大腸癌の存在が検出される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
病変部位又は潜在的病変部位由来の検体と正常部位由来の検体が、同一個体から摘出されたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
CBX2 mRNAの測定がRT-PCRによって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ヒト又はヒト以外の哺乳動物から摘出した大腸組織検体において、大腸癌の存在を検出するためのプローブであって、CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブ。
【請求項7】
CBX2遺伝子の発現産物を検出するプローブが、CBX2遺伝子のRNA転写発現産物の配列又はその相補配列の一部(15ヌクレオチド以上)と同一の配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項6に記載のプローブ。
【請求項8】
オリゴヌクレオチドの長さが15-100ヌクレオチドである、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
オリゴヌクレオチドがRT-PCR用の単数又は複数のプライマー対である、請求項8に記載のプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172280(P2010−172280A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19358(P2009−19358)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年8月30日 日本臨床化学会主催の「第48回日本臨床化学会年次学術集会」において文書をもって発表
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】