説明

新規化合物及びこれを含む潤滑油組成物

【課題】亜鉛、リン成分を含まず、ZnDTPに替わる潤滑油組成物用の新規な化合物の提供。
【解決手段】下記の一般式で示される化合物。式中のR、Rは、水素及び/または炭素数1〜30のヘテロ原子で置換されていてもよい炭化水素である。R及びRの炭素数の合計が40以下であり、Xは酸素または硫黄である。上記置換炭化水素中のヘテロ原子は、酸素、硫黄、窒素又はこれらの並存である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物及びこれを含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油に耐摩耗性および極圧性を付与する為の有効な添加剤として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が、長期にわたり、広範な分野の潤滑油に対して用いられてきた。
一方、近年、内燃機関の排出ガスに対する規制は年々厳しさを増しており、排出ガスを浄化するための各種触媒やフィルターの装着が必須のものとなって来ている。例えば、ガソリンエンジンを搭載した車両には、炭化水素(HC)や窒素酸化物(NOx)の浄化を目的として三元触媒が装着されている。また、最近のディーゼルエンジンを搭載した車両には、粒子状物質(PM:Particle Material)の低減を目的として酸化触媒やDPF(Diesel Particulate Filter)が、NOxの浄化を目的としてNOx吸蔵触媒等の後処理装置が装着されるようになってきた。
【0003】
更に、内燃機関においては燃料を燃焼させるが、燃料だけでなく使用される潤滑油(エンジン油)の一部も燃焼室内において燃焼することが避けられないために、エンジン油中に配合されているZnDTPも燃焼し、排出ガス中に亜鉛由来の灰分や、また硫黄分やリン分が含まれることになる。
排出ガスの浄化を目的として装着されている各種の後処理装置においては、排出ガスによる被毒や目詰まりなどによって浄化するための性能が次第に低下していくことが報告されている。例えば、三元触媒は硫黄やリンによる被毒により、また、酸化触媒やNOx吸蔵触媒も硫黄による被毒により著しく性能が低下することが知られている。さらに、DPFは灰分により目詰まりを起こし、車両の運行に悪い影響を及ぼしている。
【0004】
そこで、エンジン油中に使用されているZnDTPの量を減少させることは、これら後処理装置を効果的に作用させ、その使用寿命を延長させ、また環境の保全を図る上で非常に重要であるが、ZnDTPの使用量を減少させた場合にも潤滑油の耐摩耗性を低下させないように維持することが同時に重要である。
こうした背景からZnDTPをはじめとする既知の亜鉛及びリンを含有する添加剤の上記したような欠点を考慮して、亜鉛もリンも含まない、少なくともそれらの含有量を減少させた潤滑油用の添加剤を得るための努力が払われてきた。
このようなものの一環として、無亜鉛(無灰)、無リンの潤滑油添加剤としては、例えば、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールと不飽和モノ−、ジ−およびトリ−グリセリドとの反応生成物(特許文献1)、ジアルキルジチオカルバメート誘導有機エーテル(特許文献2)、及び5−アルキル−2−チオン−1,3,4−チアジアゾリジン化合物などが挙げられる(特許文献3)。
【0005】
また、上記した内燃機関用の潤滑油のみならず、機械油、油圧作動油、ギヤ油、グリース等においても、環境に対する負荷を低減するという観点から、亜鉛(Zn)やモリブデン(Mo)などの金属分、リン(P)を含有しないもの又はこれらを低減したものするという要請は一層強くなってきている。
【特許文献1】米国特許第5,512,190号
【特許文献2】米国特許第5,514,189号
【特許文献3】特表2004−528475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、亜鉛成分、リン成分を含まず、ZnDTPに替わる新規な化合物及びこれを使用した潤滑油組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の一般式(1)で示される化合物であって、
【化1】

上記一般式(1)中のR、Rは、水素及び/または炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和炭化水素又はこれらの一部をヘテロ原子で置換した置換を含む置換炭化水素である。また、このR、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R及びRの炭素数の合計が40以下であり、Xは酸素または硫黄で形成されている。
そして、上記一般式(1)のR、Rの置換炭化水素中のヘテロ原子は、酸素、硫黄、窒素のいずれかまたはこれらの組み合わせであり、このヘテロ原子は、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ニトリル、アミン、スルフィドリル、チオケトン、チオエステル、チオエーテル、ポリエーテル又はアミドなどの形をとっているものがある。
この化合物は、添加剤として潤滑油組成物中に含有されて使用され、通常、0.1質量%以上の添加量で使用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ZnDTPに替わる新規な化合物として潤滑油組成物、特にエンジン用の潤滑油組成物に対する添加剤として有用であり、耐摩耗性及び酸化防止性能に優れ、排出ガスの浄化に効果的である。また、機械油、油圧作動油、ギヤ油、グリース等においても有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記した一般式(1)で示される化合物において、
【化2】

式(1)中のR、Rは、水素及び/または炭素数1〜30の炭化水素である。この炭化水素は、直鎖であっても良いし、分岐鎖のものであってもよい。また、飽和炭化水素でも不飽和炭化水素でもよい。
【0010】
炭化水素としては、例えば、一般式(2)で表される飽和炭化水素がある。
(化3)
−C2n+1 (2)

こうしたものとして、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、ウンデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンタシルなどを挙げることができる。
【0011】
また、上記炭化水素は、その一部をヘテロ原子で置換した置換基とすることによって得られる物質(本発明においてはこれを「置換炭化水素」と称する。)とすることができる。
こうしたヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素のいずれか又はこれらが共存しているものがあり、このヘテロ原子は、通常、主としてアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ニトリル、アミン、スルフィドリル、チオケトン、チオエステル、チオエーテル(スルフィド)、ポリエーテル又はアミドなどの形をとっているものである。
【0012】
酸素を含む置換炭化水素としては、例えば、一般式(3)で表されるアルコール体がある。
(化4)
−C2nOH (3)

こうしたものには、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシドデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシトリデシル、ヒドロキシテトラデシル、ヒドロキシペンタデシル、ヒドロキシヘキサデシル、ヒドロキシヘプタデシル、ヒドロキシオクタデシル、ヒドロキシノナデシル、ヒドロキシエイコシル、ヒドロキシヘンイコシル、ヒドロキシドコシル、ヒドロキシトリコシル、ヒドロキシテトラコシル、ヒドロキシペンタコシル、ヒドロキシヘキコシル、ヒドロキシヘプタコシル、ヒドロキシオクタコシル、ヒドロキシノナコシル、ヒドロキシトリアコンタシルなどがある。
【0013】
酸素を含む置換炭化水素としては、例えば、一般式(4)で表されるケトン体がある。
(化5)
−C2n−C(O)−C2m+1 (4)
(式4中、n+m≦29, n≧0である。)
こうしたものには、例えば、−CC(O)C(3−オキソペンチル)がある。また、nが0の場合は、例えば−C(O)C(プロパノイル)が挙げられる。
【0014】
酸素を含む置換炭化水素としては、また、一般式(5)、(6)で表されるエステル体がある。
(化6)
−C2nCOOC2m+1 (5)
(式5中、n+m≦29 である。)
こうしたものには、例えば、 −CCOOCH(3−メトキシ3オキソプロピル)が挙げられる。
(化7)
−C2nOC(O)C2m+1 (6)
(式6中、n+m≦29 である。)
こうしたものには、例えば、−COC(O)CH(2−(1−オキソエトキシ)エチル)が挙げられる。
【0015】
酸素を含む置換炭化水素としては、下記する一般式(7)で表されるエーテル体がある。
(化8)
−C2nOC2m+1 (7)
(式7中、n+m≦30, n≧1 である。)
こうしたものには、例えば、−C−O−CH (3−メトキシプロピル)が挙げられる。
【0016】
窒素を含む置換炭化水素としては、例えば、一般式(8)で表されるニトリル体がある。
(化9)
−C2nCN (8)

こうしたものには、例えば、シアノメチル、シアノエチル、シアノプロピル、シアノブチル、シアノペンチル、シアノヘキシル、シアノヘプチル、シアノオクチル、シアノノニル、シアノデシル、シアノドデシル、シアノウンデシル、シアノトリデシル、シアノテトラデシル、シアノペンタデシル、シアノヘキサデシル、シアノヘプタデシル、シアノオクタデシル、シアノノナデシル、シアノエイコシル、シアノヘンイコシル、シアノドコシル、シアノトリコシル、シアノテトラコシル、シアノペンタコシル、シアノヘキコシル、シアノヘプタコシル、シアノオクタコシル、シアノノナコシル、シアノトリアコンタシルなどが挙げられる。
【0017】
窒素を含む置換炭化水素として、例えば、一般式(9)で表される1級アミン体がある。
(化10)
−C2nNH (9)

こうしたものには、例えば、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチル、アミノペンチル、アミノヘキシル、アミノヘプチル、アミノオクチル、アミノノニル、アミノデシル、アミノドデシル、アミノウンデシル、アミノトリデシル、アミノテトラデシル、アミノペンタデシル、アミノヘキサデシル、アミノヘプタデシル、アミノオクタデシル、アミノノナデシル、アミノエイコシル、アミノヘンイコシル、アミノドコシル、アミノトリコシル、アミノテトラコシル、アミノペンタコシル、アミノヘキコシル、アミノヘプタコシル、アミノオクタコシル、アミノノナコシル、アミノトリアコンタシルなどがある。
【0018】
窒素を含む置換炭化水素として、また、一般式(10)で表される2級アミン体がある。
(化11)
−C2nNHC2m+1 (10)
(式10中、n+m≦30 である。)
こうしたものには、例えば、−CNHCH (3−(N−メチルアミノ)プロピル)が挙げられる。
【0019】
窒素を含む置換炭化水素として、一般式(11)で表される3級アミン体がある。
(化12)
−C2nN(C2m+1)(C2q+1) (11)
(式11中、n+m+q≦30 である。)
こうしたものには、例えば、−CN(CH)(C) (3−(N,N−メチル エチルアミノ)プロピル)が挙げられる。
【0020】
硫黄を含む置換炭化水素としては、例えば、一般式(12)で表されるスルフィドリル体がある。
(化13)
−C2nSH (12)
こうしたものには、例えば、スルフィドリルメチル、スルフィドリルエチル、スルフィドリルプロピル、スルフィドリルブチル、スルフィドリルペンチル、スルフィドリルヘキシル、スルフィドリルヘプチル、スルフィドリルオクチル、スルフィドリルノニル、スルフィドリルデシル、スルフィドリルドデシル、スルフィドリルウンデシル、スルフィドリルトリデシル、スルフィドリルテトラデシル、スルフィドリルペンタデシル、スルフィドリルヘキサデシル、スルフィドリルヘプタデシル、スルフィドリルオクタデシル、スルフィドリルノナデシル、スルフィドリルエイコシル、スルフィドリルヘンイコシル、スルフィドリルドコシル、スルフィドリルトリコシル、スルフィドリルテトラコシル、スルフィドリルペンタコシル、スルフィドリルヘキコシル、スルフィドリルヘプタコシル、スルフィドリルオクタコシル、スルフィドリルノナコシル、スルフィドリルトリアコンタシル等が挙げられる。
【0021】
硫黄を含む置換炭化水素として、一般式(13)で表されるチオケトン体がある。
(化14)
−C2nC(S)C2m+1 (13)
(式13中、n+m≦29, n≧0 である。)
こうしたものには、例えば、−CC(S)C (4−チオヘキシル)が挙げられる。
【0022】
硫黄を含む置換炭化水素として、一般式(14)、(15)で表されるチオエステル体がある。
(化15)
−C2nCSSC2m+1 (14)
(式14中、n+m≦30 である。)
こうしたものには、例えば、 −CCSSCH (3−メチルスルフィドチオプロピル)が挙げられる。
(化16)
−C2nSC(S)C2m+1 (15)
(式15中、n+m≦30 である。)
こうしたものには、例えば、 −CSC(S)CH (2−(1−チオエチルスルフィド)エチル)が挙げられる。
【0023】
硫黄を含む置換炭化水素として、また、一般式(16)で表されるチオエーテル体(スルフィド体)がある。
(化17)
−C2nSC2m+1 (16)
(式16中、n+m≦30, n≧1 である。)
こうしたものには、例えば、 −CSCH (2−(メチルスルフィド)エチル)が挙げられる。
【0024】
酸素と窒素を含む置換炭化水素として、一般式(17)で表されるアミド体がある。
(化18)
−C2nCONH2 (17)
こうしたものには、例えば、 −C10CONH (6−アミドヘキシル)が挙げられる。
【0025】
複数のエーテル結合を有する置換炭化水素として、エーテル結合の数に応じて、一般式(18)、(19)、(20)で表されるポリエーテル体がある。
(化19)
−C2nOC2mOC2q+1 (18)
(式18中、n+m+q≦30である。)
こうしたエーテル結合が2個存在する置換炭化水素には、例えば、 −CHOC24OCH3 (2,5−ジオキサヘキシル)がある。
(化20)
−C2nOC2mOC2qOC2r+1 (19)
(式19中、n+m+q+r≦30である。)
このようなエーテル結合が3個存在する置換炭化水素には、例えば、 −CHOC4OC24OCH3 (2,5,8−トリオキサノニル)がある。
(化21)
−C2nOC2mOC2qOC2rOC2t+1 (20)
(式20中、n+m+q+r+t≦30である。)
こうしたエーテル結合が4個存在する置換炭化水素には、例えば、−CHOC24OC24OC24OCH3 (2,5,8,11−テトラオキサドデシル)等が挙げられる。
【0026】
上記のR、Rは、それぞれ同一のものであってもよいし、異なっていてもよく、通常そのR及びRの炭素数の合計が40以下になるようにするとよい。
また、上記の式1中のXは、酸素または硫黄によって構成されている。
【0027】
この化合物は、潤滑油組成物の構成成分として添加されて使用することができる。その添加量は特に限定されるものではないが、通常、潤滑油組成物中の含有量として0.1質量%以上となる量で使用すると好ましい。
特に、エンジン用の潤滑油組成物に使用すると、高性能を得ることができるが、通常、下記する金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などと併用することによって、一層効果的に使用することができる。
また、この潤滑油組成物をギヤ油、機械油、油圧作動油またはグリースにする場合には、用途に応じた適宜の添加剤と併せて用いることができる。
【0028】
上記金属清浄剤としては、例えば、アルカリ土類金属塩型清浄剤があり、こうしたものとしてCaサリシレート、Caスルフォネート、Caフィネート、Mgサリシレート、Mgスルフォネート、Mgフィネートなどを用いることができる。
【0029】
無灰分散剤としては、例えば、モノイミド型あるいはビスイミド型のアルケニルコハク酸イミド若しくはアルキルコハク酸イミド、またはそれらのホウ素誘導体を使用することができる。また、必要に応じてさらに異なる種類の無灰分散剤を使用してもよく、こうしたものとして、例えば、ポリアルキレンアミド系、ベンジルアミン系、コハク酸エステル系のものがある。これらの分散剤は、ホウ素化されていてもよい。
これらの無灰分散剤は1種類を単独で用いたり、2種以上を併用してもかまわない。
上記した無灰分散剤として、分散性を有する添加剤、例えば、粘度指数向上剤等の分散性を付与することができる重合性化合物を併用したり、単独で用いることもできる。
【0030】
上記酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤を使用することができる。
アミン系酸化防止剤としては、芳香族アミン系酸化防止剤があり、例えば、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミンなどのジアルキル−ジフェニルアミン類、モノ−t−ブチルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン類、ジ(2,4−ジエチルフェニル)アミン、ジ(2−エチル−4−ノニルフェニル)アミンなどのビス(ジアルキルフェニル)アミン類、オクチルフェニル−1−ナフチルアミンなどのアルキルフェニル−1−ナフチルアミン類、フェニル−1−ナフチルアミンなどのアリール−ナフチルアミン類、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、3,7−ジオクチルフェノチアジンなどのフェノチアジン類などが挙げられる。
【0031】
また、フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2−t−ブチルフェノールなどのアルキルフェノール類、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノールなどのアルコキシフェノール類、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプト−オクチルアセテートなど、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−C7〜C9側鎖アルキルエステル(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL135)などのアルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート類、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージRC)、2,2’−チオビス(4,6−ジ−t−ブチル−レゾルシン)などのビスフェノール類、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチル−ベンジル)−4−メチルフェノールなどのポリフェノール類がある。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
上記化学式(1)で示される化合物の一つとして、下記の化学式(21)で表される4,5−Bis(dodecathio)−1,3−dithiole−2−thione(DTTC12)がある。
【化22】

【0033】
この化学式(21)の化合物は次のようにして製造することができる。
【化23】

【0034】
合成に当りナスフラスコ、スターラーを準備し、ドラフト内に反応装置を用意する。
ナスフラスコに、ビス(テトラ−n−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛錯体20.045g(21.256mmol)、1−ヨードドデカン25.180g(85.004mmol)、アセトニトリルを加え、スターラーチップを投入し、室温、窒素雰囲気下で8時間攪拌し反応を行った。
反応終了後、エバポレーターにて溶媒(アセトニトリル)を留去し、次に、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、ジクロロメタン:n−ヘキサン=2:3の混合溶液)により不純物を分離し、展開溶媒を留去した後、減圧乾燥し16.830g(収率74%)の黄色板状結晶の化学式(21)の化合物を得た。
この化合物について、質量分析を行い(EI+,70eV)、相対強度m/z=534〔M,100%〕と、m/z=536〔(M+2),約26%)を確認し、同定した。
【0035】
(実施例2)
上記した一般式(1)で示される化合物の一つとして、下記の化学式(22)で表される4,5−Bis(octadecathio)−1,3−dithiole−2−thione(DTTC18)がある。
【化24】

【0036】
この化学式(22)の化合物は次のようにして製造することができる。
【化25】

【0037】
合成に当りナスフラスコ、スターラーを準備し、ドラフト内に反応装置を用意する。
ナスフラスコに、ビス(テトラ−n−ブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛錯体12.003g(12.728mmol)、1−ヨードオクタデカン19.375g(50.935mmol)、アセトニトリルを加え、スターラーチップを投入し、室温窒素雰囲気下で8時間攪拌し反応を行った。
反応終了後、エバポレーターにて溶媒(アセトニトリル)を留去し、次に、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、ジクロロメタン:n−ヘキサン=2:3の混合溶液)により不純物を分離し、展開溶媒を留去した後、減圧乾燥し11.1g(収率62%)の黄色板状結晶の化学式(22)の化合物を得た。
この化合物について、質量分析を行い(EI+,70eV)、相対強度m/z=702〔M,100%〕と、m/z=702〔(M+2),約30%)を確認し、同定した。
【0038】
(実施例3)
上記した一般式(1)で示される化合物の一つとして、下記の化学式(23)で表される4,5−Bis(dodecathio)−1,3−dithiole−2−one(DTTOC12)がある。
【化26】

【0039】
この化学式(23)の化合物は次のようにして製造することができる。
【化27】

【0040】
ナスフラスコ、スターラーを準備し、ドラフト内に反応装置を用意する。
ナスフラスコに、実施例1で合成した4,5−Bis(dodecathio)−1,3−dithiole−2−thione(DTTC12)11.0g(20.56mmol)、酢酸水銀(II)1.638g(5.1400mmol)、クロロホルム50ml、酢酸65mlを加え、スターラーチップを投入し、室温、窒素雰囲気下で30分間攪拌し反応を行った。
反応終了後、溶液をセライトを用いて吸引ろ過し、ろ液を水、炭酸水素ナトリウム、水の順序で洗浄した。洗浄した有機層を硫酸マグネシウムで脱水乾燥させ、硫酸マグネシウムをろ過し、エバポレーターにて溶媒を留去した後、減圧乾燥し9.180g(収率86%)の桃色結晶の化学式(23)の化合物を得た。
この化合物について、質量分析を行い(EI+,70eV)、相対強度m/z=518〔M,100%〕と、m/z=520〔(M+2),約30%)を確認し、同定した。
【0041】
(実施例4、5:潤滑油組成物)
上記実施例1、3に記載の化合物を用いて実施例4、5、及び比較例1、2の潤滑油組成物を調製するために、下記の組成材料を用意した。
1 基油:GIII基油;API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでGIII(グループ3)の基油(特性:100℃における動粘度 8.152mm/s、 40℃における動粘度 47.92mm/s、 粘度指数 144である。)
2 添加剤
2−1 Ca系金属清浄剤:Infineum M7101(インフィニアム社製); 代表値として塩基価168mgKOH/g、硫酸灰分20%であるCaサリシレート
2−2 無灰系分散剤:OLOA5093(オロナイト社製); 代表値として塩基価24mgKOH/g、ビスタイプ、窒素量:1.2%であるもの。
2−3 フェノール系酸化防止剤:IrganoxL135(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−C7〜C9側鎖アルキルエステル
2−4 ZnDTP(セカンダリータイプ):Lubrizol Lz 1371(ルーブリゾール社製)
【0042】
実施例4、5及び比較例1、2のエンジン用潤滑油組成物の配合組成は、表1に示すとおりである。
また、各実施例4、5及び比較例1、2について、下記の性状値を同じく表1に表示した。
3−1 窒素分量(計算値)
3−2 リン分量(計算値)
3−3 硫酸灰分(計算値)
3−4 動粘度(40℃)
3−5 動粘度(100℃)
3−6 粘度指数(VI)
【0043】
(試験1)
エンジン用潤滑油組成物の性能を評価するために、シェル4球試験をASTM D4172に準拠して下記の条件で行った。
(4−1)荷 重:392N(40kgf)
(4−2)温 度:75℃
(4−3)回転数 :1800rpm
(4−4)試験時間:30分
【0044】
(試験2)
また、ホットチューブ試験(HTT)をJPI 5S−55−99(石油学会法)に準拠して下記の条件で行った。
(5−1)温 度 :280℃
(5−2)試験時間 :16時間
(5−3)空気送り量:10ml/min
(5−3)油送り量 :0.3ml/hr
【0045】
(結果)
上記試験1、2の結果を表1に示す。
(評価)
実施例4は、比較例1に比べてシェル4球試験から判るように耐摩耗性の改善が図られており、HTTにおいては比較例の評点5.0から8.0まで向上(JASO M355:2005規格では、合格点は7.0以上とされている)しており、清浄性が向上し、酸化劣化物の生成が抑制されたことが判る。
また、実施例5は、比較例1に比べてシェル4球試験から判るように耐摩耗性の改善が図られており、HTTにおいても評点8.5と実施例4と同等以上の良好な結果を示し、清浄性に優れていることが判る。
また、比較例2として示す市販ZnDTP(ジンクジチオフォスフェート)を使用したものでは、亜鉛金属分があるため硫酸灰分が増加しており、またリン(P)分も混入している。
実施例4、5は比較例2に比べてHTTの結果が優れていることから、酸化劣化物の生成が抑制されたことにより清浄性が向上したといえる。また、耐摩耗性は、シェル4球試験から判るように、実施例4は比較例2と同等の性能を有しており、実施例5は比較例2には劣るものの、比較例1より優れており、ZnDTPの一部に代替使用することにより、組成中のリン分低減に寄与することが可能である。
従って、両実施例のものはZnDTPを使用した比較例2に替えて用いることができるもので、しかも清浄性が良好で、金属分、リン分を含有しない、環境面にも配慮したものであることが示されている。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で示される化合物。
【化1】

(式1中、R、Rは、水素及び/または炭素数1〜30の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和炭化水素又はこれらの一部をヘテロ原子で置換した置換を含む置換炭化水素である。R、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、R及びRの炭素数の合計が40以下であり、Xは酸素または硫黄である。)
【請求項2】
上記一般式(1)のR、Rの置換炭化水素中のヘテロ原子が酸素、硫黄、窒素のいずれかまたはこれらの組み合わせである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
上記一般式(1)のR、Rの置換炭化水素中のヘテロ原子がアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ニトリル、アミン、スルフィドリル、チオケトン、チオエステル、チオエーテル、ポリエーテル又はアミドの形をとっている請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を含有する潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物の含有量が0.1質量%以上である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物が含まれる潤滑油組成物の基油が、鉱油、ポリアルファオレフィン、エステル、エーテル、フィッシャートロプッシュ合成油も含める合成油の単独物または混合物である請求項4または5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
潤滑油組成物が内燃機関油、ギヤ油、機械油、油圧作動油またはグリースの形態である請求項4〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−222639(P2008−222639A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63706(P2007−63706)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】