説明

新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】 化学的に安定で、燐光発光のホスト材料として好ましく用いることができる新規有機化合物を提供する。
【解決手段】 一般式[1]で示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物を提供する。
【化1】


式中、RおよびRは、それぞれ独立に無置換フェニル基、あるいは炭素数が1乃至6のアルキル基が置換された置換フェニル基を表す。また、Rは炭素数が1乃至6のアルキル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機化合物であるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物に関する。また、該新規化合物を有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、透明基板上に、上下2層の電極と、これらの電極の間に発光層を含む有機化合物を積層した構造を有している。該電極に電圧を印加すると、電極から供給された正孔と電子が発光層で再結合して励起子を生じ、該励起子から発光が得られる。
【0003】
有機発光素子は、高速応答性、高い発光効率、フレキシブル性を有する次世代のフルカラーディスプレイ技術の一つとして注目されており、材料技術開発および素子技術開発が精力的に行われている。有機発光素子のうち特に電界発光を利用するものを、有機電界発光素子、有機EL素子、または有機エレクトロルミネッセンス素子と呼ぶ場合がある。
【0004】
近年、発光効率を高めることを目的に、三重項励起子を経由した燐光発光を利用する形式の有機発光素子(以下、燐光発光素子と称する)の開発が盛んに行われている。
【0005】
一重項励起子を経由した蛍光発光を利用する形式も用いられるが、原理的に正孔と電子が結合して生ずる励起子の25%しか発光に利用できない。一方で、三重項励起子を経由する発光は、励起子の100%を発光に利用することが可能であり、発光効率が高い。
【0006】
発光材料としては、材料安定性と発光効率の観点から、(2−Carboxypyridyl)bis(3,5−difluoro−2−(2−pyridyl)phenyl)iridium(FIrpic)のようなIr(イリジウム)を用いた金属錯体が多用されている。
【0007】
最近では、発光効率の他に、環境保全、省エネルギーの観点から、特にディスプレイの低消費電力化のニーズが高まっており、ディスプレイの低電圧駆動を実現するための、有機発光素子の低電圧化を狙った開発が行われている。
【0008】
また、燐光発光素子では、発光層において、発光材料(ゲスト材料)と共に用いられるホスト材料の性能が素子性能に大きく反映されることから、ホスト材料開発が活発に行われている。
【0009】
燐光発光素子の高発光効率化と低電圧化を同時に達成するには、使用されるホスト材料が、発光材料に比べて三重項エネルギーが高く、且つ、発光を生ずる励起子の元となる、正孔と電子の輸送性が共に大きい事が必要となる。しかし、現状では十分な実用レベルに到達していない。
【0010】
特に、青色の燐光発光素子では発光材料の発光ピーク波長が450〜470nmと短波長であるため、ホスト材料にはそれよりも高い三重項エネルギーが求められる。このような厳しい要件を満たし、且つ実用レベルに達している材料は、未だ見いだされていない。
【0011】
特許文献1では、カルバゾールの窒素にフェニル基を置換した化合物が開示されている。このようなカルバゾール化合物は、高い三重項エネルギー、及び高い正孔輸送性を示すが、電子輸送性は正孔輸送性ほど大きくなく、低電圧化には不十分であった。
【0012】
特許文献2では、ベンズイミダゾール化合物を発光層に用いる素子が開示されている。しかし、ここで開示される化合物は、高い三重項エネルギーを示す化合物ではなく、燐光発光素子として使用した場合に、発光効率の向上と低電圧化を達成するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−154412号公報
【特許文献2】特開2004−288439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、新規な有機化合物を提供することを目的とする。また、発光効率が高く、且つ低電圧駆動を実現できる有機発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る新規有機化合物は、下記一般式[1]に示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物である。
【0016】
【化1】

【0017】
但し、式中、RおよびRは、それぞれ独立に無置換フェニル基、あるいは炭素数が1乃至6のアルキル基が置換された置換フェニル基を表す。また、Rは炭素数が1乃至6のアルキル基を表す。
【0018】
また、本発明の有機発光素子は、互いに対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子において、有機層の少なくとも一層が、上記一般式[1]で示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物からなる発光層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燐光発光素子のホスト材料として有用な新規化合物を提供できる。また、発光効率が高く、低電圧駆動を実現する有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】有機発光素子とこれに接続するスイッチング素子とを示す断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る新規有機化合物は、下記一般式[1]に示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
但し、式中、RおよびRは、それぞれ独立に無置換フェニル基、あるいは炭素数が1乃至6のアルキル基が置換された置換フェニル基を表す。また、Rは炭素数が1乃至6のアルキル基を表す。
【0024】
およびRが、それぞれ独立に無置換のフェニル基、あるいは炭素数が1乃至6のアルキル基が置換された置換フェニル基であることで、最低三重項エネルギーを高く保つことができる。特にトリル基、キシリル基、メシチル基であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の、一般式[1]で示される化合物は、カルバゾールの窒素に、一般式[1]で示される位置でベンズイミダゾールを置換させていることで、高い三重項エネルギーと、電子輸送性の改善とが同時に達成されている。
【0026】
このため、本発明に係るベンズイミダゾリルカルバゾール化合物は、発光ピーク波長が短い青色発光のIr金属錯体のホスト材料として利用できる。
【0027】
本発明によるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物の具体例を以下に示すが、本発明は以下の化合物に何ら限定されるものではない。
【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
【化7】

【0033】
【化8】


【0034】
(有機化合物の合成)
本発明に係る有機化合物は、後述の実施例1で詳細に記載されるように、以下のような2段階の合成経路で合成できる。
(第1段階)
【0035】
【化9】

【0036】
(第2段階)
【0037】
【化10】

【0038】
第1段階における出発物質A−2、あるいは第2段階における中間体C−2を変更することで、上記に示すような本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物をそれぞれ合成できる。
【0039】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
本実施形態に係る有機発光素子は、対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子であって、前記有機層のうち少なくとも一層が上記の一般式[1]に示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物を有する発光層であることを特徴とする。
【0040】
本発明者らは種々の検討を行い、本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物を発光層のホスト材料として用いた素子が、発光効率が高く、低電圧で駆動することが可能であることを見出した。
【0041】
燐光発光性Ir錯体などの燐光発光を利用する有機発光素子では、ホスト材料の創出をするにあたり、ホスト材料の最低三重項エネルギーが発光材料より高くなるように分子設計を行う。これにより、発光層内で三重項励起エネルギーが発光材料に閉じ込められるため、高効率化を達成できる。
【0042】
しかし、青色の燐光発光素子では発光波長のピーク波長が450nm〜470nmと短波長であり、このような高い最低三重項エネルギーに対応できる公知のホスト材料は限られていた。このような最低三重項エネルギーの高い材料として、カルバゾール化合物が知られている。
【0043】
ところで、正孔、電子、励起子などの高エネルギー化学種が高密度で存在する発光層では、使用する材料が化学的に安定であることが極めて重要である。
【0044】
しかし、カルバゾールは、化学的に活性の高い窒素−水素結合を持つため、そのままではホスト材料として利用できない。
【0045】
また、カルバゾールは高い正孔輸送性を示すが、電子輸送性は正孔輸送性ほど大きくなかった。
【0046】
すなわち、三重項エネルギーを高く保ちながら、化学的安定性と電子輸送性を両立する新規な化合物が求められていた。
【0047】
上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物が燐光発光素子のホスト材料として有用であることを見出した。本発明の化合物は、カルバゾール化合物として三重項エネルギーを高く保ちながら、且つ化学的安定性と電子輸送性の改善が達成されている。
【0048】
本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物は、カルバゾールにベンズイミダゾールが導入されていることで、従来のフェニル基置換カルバゾール化合物よりも電子輸送性が向上されている。
【0049】
さらに、本発明に係るベンズイミダゾリルカルバゾール化合物は、ベンズイミダゾールとカルバゾールとの結合位置に工夫が施されている。
【0050】
ベンズイミダゾールの2つの窒素に挟まれた炭素−水素結合は、化学的に活性であることが知られている。
【0051】
そこで、一般式[1]で示されるような、カルバゾールの該窒素とベンズイミダゾールの該炭素とを結合させた新規な分子構造により、化学的に活性な箇所を互いに塞ぐことで、化合物の化学的な安定性が得られる。
【0052】
一般式[1]以外の箇所でベンズイミダゾールとカルバゾールとを結合した場合、前記活性の高い箇所を別途塞ぐために、新たな置換基を追加導入する必要がある。しかし、置換基数の増加は一般に三重項エネルギーの低下を招くため、好ましくない。
【0053】
また、ベンズイミダゾールのRが結合する窒素とカルバゾールの窒素とを結合させることも考えられるが、窒素−窒素結合は、窒素−炭素結合と比較して化学的に不安定であるため、好ましくない。
【0054】
カルバゾールは、3位及び6位も化学的に活性であり、通電による素子劣化の原因となり得る電気化学反応を起こすことが知られている。本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物は、電気化学的に活性な部位である3位と6位にRとRの置換基を有するので、電気化学的な安定性が得られる。
【0055】
また、置換基Rも、前記の化学的な安定性を得るために必須である。高い三重項エネルギーを得るために、Rは1乃至6のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0056】
さらに、Rを導入することにより、Rとカルバゾール骨格との間に立体反発が生じ、ベンズイミダゾール骨格はカルバゾール骨格に対して捩れ、分子全体の平面性が低下する。このことにより、分子内の共役が広がるのを抑え、三重項エネルギーをより高くする効果がある。さらに、分子全体の平面性が低下する効果により、発光波長の長波長化や発光効率の低下の原因となる、分子の平面性に起因するスタッキング、及び燐光発光材料との分子間相互作用を抑えることができる。
【0057】
ではなく、ベンズイミダゾールの六員環側の水素原子に置換基を導入することも可能であるが、カルバゾール環との立体反発が生じない。すなわち、前記した効果は期待できない上に、置換基数の増加による三重項エネルギーの低下を招く。
【0058】
上記作用により、本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物は、高い三重項エネルギー、及び優れた電子輸送性を有している。これにより、ホスト材料としてホールと電子の良好な再結合の場を提供でき、三重項エネルギーをゲスト材料に効率良く移動させることができるので、発光効率が高く、且つ低電圧駆動を実現できる有機発光素子が得られる。
【0059】
発光層に用いられる発光材料としては、既知のものが利用できるが、燐光発光材料をゲスト材料として発光層に有することが好ましい。ゲスト材料としては、例えば、FIrpic、Iridium,bis(3,5−difluoro−2−(2−pyridinyl)phenyl)tetrakis(1H−pyrazolyl)borate(FIr6)、後述する構造式[化16]で示される燐光発光性Ir錯体が挙げられる。
また、他のゲスト材料としては、fac−Tris(2−(2−pyridinyl)phenyl)iridium(Ir(ppy))、fac−Tris(1−phenylisoquinoline)iridium(Ir(piq))等が挙げられる。
本発明の有機発光素子において、ホール輸送層に使用する正孔輸送性材料としては、例えば、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)等が挙げられる。
【0060】
また、電子輸送層に使用する電子輸送性材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリノールアルミニウム錯体等の有機金属錯体等が挙げられる。
【0061】
本発明に係る有機発光素子としては、基板上に、順次陽極/発光層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。他にも順次陽極/正孔輸送層/電子輸送層/陰極を設けた構成のものが挙げられる。また順次陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものや順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。あるいは順次陽極/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極を設けたものを挙げることができる。ただしこれら5種の多層型有機発光素子の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなどの多様な層構成をとることができる。
【0062】
ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料は、ホール移動度が高いことが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0063】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料は、ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0064】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0065】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0066】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、様々な既知の方法により形成できる。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマ、あるいは適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成できる。ここで真空蒸着法や塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0067】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0068】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。
【0069】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例として薄膜トランジスタを有し、この有機発光素子の陽極または陰極と薄膜トランジスタのドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0070】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0071】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0072】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例である薄膜トランジスタとを示した断面模式図である。本図では有機発光素子と薄膜トランジスタとの組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0073】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部に薄膜トランジスタ又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極である。符号4はゲート絶縁膜であり、符号5は半導体層である。
【0074】
薄膜トランジスタ8は、半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。薄膜トランジスタ8の上部には絶縁膜9が設けられ、コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方と薄膜トランジスタソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0075】
有機化合物層12は本図では簡略化して1つの層として図示しているが、実際には多層の有機化合物層からなる。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0076】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、MIM素子、アモルファスシリコン型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)[例示化合物H−08の合成]
【0079】
【化11】

【0080】
[(1)中間体(B)の合成]
A−1(商品名;3,6−Dibromocarbazole、和光純薬工業)を13.2g(41mmol)、A−2(商品名;2,4,6−Trimethylphenylboronic Acid、和光純薬工業)を20g(122mmol)、Pd(PPhを0.938g(0.8mmol)、CsCOを40g(123mmol)、トルエンを150ml、エタノールを100ml、水を100ml、それぞれ用意し、容量500mlのフラスコに入れ、100℃で8時間攪拌した。反応溶液を室温に戻し、有機層を抽出、濃縮し、得られた残留物を、カラム精製(展開溶媒;酢酸エチル/ヘプタン=1/4)し、中間体(B)を9.8g(24mmol)得た。収率は60%であった。
【0081】
[(2)中間体(C−2)の合成]
【0082】
【化12】

【0083】
500ml三ツ口フラスコに、2−クロロ−ベンズイミダゾール20g(131mmol、商品名;2−Chlorobenzimidazole、Aldrich社製)およびTHF150mlを入れた。氷冷下でt−ブトキシナトリウム13.8g(144mmol)を添加した。室温で1時間撹拌した後、氷冷下、ヨウ化メチル24.2g(170mmol)およびTHF30mlの溶液を滴下し、室温で5時間攪拌した。反応液をクロロホルムで抽出、次いで無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、中間体(C−2)(2−クロロ−1−メチル−1H−ベンズイミダゾール、白色結晶)18.6g(収率85%)を得た。
【0084】
[(3)例示化合物H−08の合成]
【0085】
【化13】

【0086】
容量100mlのフラスコに、中間体(B),1.32g(3.3mmol)、DMF50ml、NaH(60重量%)0.130g(3.3mmol)の順に投入した。室温で20分攪拌した後、上記中間体(C−2)0.54g(3.3mmol)を更に投入した。その後、120℃で8時間攪拌し、水50mlを加え、反応を終了させ、水で洗浄吸引ろ過した。得られた残渣を、カラム精製(展開溶媒;クロロホルム/ヘプタン=1/1)した後、メタノールで分散洗浄した。更に、得られた粉末を乾燥させ、昇華精製(10−4Pa,300℃)し、例示化合物(H−08)を0.26g(0.5mmol)得た。収率は15%であった。
【0087】
NMR(CDCl);δ7.9(1H)、δ7.8(2H)、δ7.5(1H)、δ7.4−7.5(4H)、δ7.2(2H)、δ7.0(4H)、δ3.8(3H)、δ2.4(6H)、δ2.0(6H)、δ2.0(6H)。
MALDI−MS;533.3。
【0088】
(実施例2)
合成により得られた本発明の例示化合物H−08の、トルエン溶液(濃度;10−3mol/l)の77Kにおける燐光の0−0バンド(三重項エネルギー準位)を分光蛍光光度計(日立製作所製、品名F−4500)で測定したところ、417nmであった。
【0089】
(実施例3)
[有機発光素子の作成]
[化合物E−01の合成]
【0090】
【化14】

【0091】
300ml三ツ口フラスコに、2−ヨード−9,9−ジメチルフルオレン[中間体(D)]5.8g(18.1mmol)およびジエチルエーテル80mlを入れ、窒素雰囲気中、−78℃で撹拌下、n−ブチルリチウム(15重量%ヘキサン溶液)11.7ml(18.1mmol)を滴下した。室温まで昇温し1時間撹拌した後、−20℃に冷却しフェナントロリン[中間体(E)]0.81g(4.51mmol)のトルエン100ml分散液を滴下した。室温で12時間撹拌後、水を加え有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(ヘキサン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、化合物E−01(白色結晶)2.04g(収率80%)を得た。
【0092】
[素子作成]
ガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜した。成膜されたITO膜をパターニングして、対向する電極面積が4mmになるようにした。これを超純水、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した。さらに、UV/オゾン洗浄を行い、透明且つ導電性を有する支持基板として使用した。
【0093】
次に、正孔注入材料として、下記式で示される下記構造式[化15]で示される既知正孔輸送材料(商品名;4,4’,4”−Tris(carbazol−9−yl)triphenylamine(TCTA)、Luminescence Technology社(台湾))の、濃度が0.1重量%であるクロロホルム溶液を調製した。この溶液を上記のITO電極上に滴下し、1000rpmの回転で60秒スピンコートを行い、膜を30nm形成した。この後、80℃の真空オーブンで10分間乾燥し、薄膜中の溶剤を完全に除去することで、正孔注入層を製膜した。
【0094】
次に、上記正孔注入層の上に、前記TCTAを蒸着し、正孔輸送層を20nmの厚さで形成し、正孔注入・輸送層を形成した。
【0095】
【化15】

【0096】
次に、上記正孔輸送層の上に、本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物の例示化合物H−08に対して、下記構造式[化16]で示される燐光発光性Ir錯体が10重量%濃度になるように蒸着レートを変えて共蒸着し、40nmの発光層を設けた。蒸着時の真空度が2.0×10−5Paの条件で成膜した。
【0097】
【化16】

【0098】
更に、発光層の上に、化合物E−01を蒸着して、30nmの電子注入・輸送層を設けた。蒸着時の真空度は2.0×10−5Pa、成膜速度は0.1nm/secの条件であった。
【0099】
次に、陰極としてフッ化リチウム(LiF)を0.5nmの膜厚で蒸着し、更にアルミニウム(Al)を120nm蒸着した。蒸着時の真空度は4.0×10−5Pa、成膜速度はフッ化リチウム(LiF)では0.015nm/sec、アルミニウム(Al)では0.4〜0.5nm/secの条件で成膜した。
【0100】
得られた有機発光素子は、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ樹脂系接着材で封止した。
【0101】
[素子評価]
この様にして得られた素子に、ITO電極を正極、LiF/Al電極を負極にして電圧を印加したところ、発光輝度500cd/m時の印加電圧は11.2Vとなり、発光効率4.2lm/Wの青色発光が観測された。
【0102】
(比較例)
実施例1の化合物H−08に代えて、特許文献1に記載されている下記構造式[化17]で示される比較化合物R−01を使用する以外は、実施例3と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。発光輝度500cd/m時の印加電圧は13.8Vであり、H−08と比較して高電圧化した。さらに、H−08と同様に青色発光が観測されたが、発光効率は3.0lm/Wと低下した。
【0103】
【化17】

【0104】
以上の結果から、本発明のベンズイミダゾリルカルバゾール化合物を、有機発光素子用材料として用いることによって、発光効率が高く、且つ低電圧駆動を実現することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の技術は、フルカラーディスプレイ等の表示装置だけでなく、照明機器、光電変換素子を使用した機器または電子写真機器等にも応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0106】
1 基板
2 防湿膜
3 ゲート電極
4 ゲート絶縁膜
5 半導体層
6 ドレイン電極
7 ソース電極
8 薄膜トランジスタ
9 絶縁膜
10 コンタクトホール
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極
14 第一の保護層
15 第二の保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されるベンズイミダゾリルカルバゾール化合物。
【化1】


但し、式中、RおよびRは、それぞれ独立に無置換フェニル基、あるいは炭素数が1乃至6のアルキル基が置換された置換フェニル基を表す。また、Rは炭素数が1乃至6のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記RおよびRが、トリル基、キシリル基、メシチル基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
対向する一対の電極間に配置された少なくとも一層の有機層を有する有機発光素子であって、前記有機層のうち少なくとも一層が、請求項1に記載の化合物を有する発光層であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層は、ゲスト材料として燐光発光性Ir錯体を有する発光層である請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
請求項3乃至請求項4に記載の有機発光素子と、薄膜トランジスタとを組み合わせて成る画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213650(P2011−213650A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82828(P2010−82828)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】