説明

新規殺菌剤を同定する方法

本発明は、殺菌性化合物を同定する方法に関し、ここで、該方法は、菌類の細胞を当該化合物と接触させる段階、菌類の当該細胞をスペクトリンタンパク質に対して産生された抗体と接触させる段階、及び、対照と比較して、スペクトリン様タンパク質の分布を観察する段階(ここで、細胞膜の内面から細胞質ゾルの位置へのスペクトリン様タンパク質の再分配によって、殺菌剤候補が同定される)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤を同定する方法に関し、さらに詳細には、スペクトリン様タンパク質の分布を追跡する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の構造的完全性は、部分的には、細胞骨格によって維持される。細胞骨格は、主としてタンパク質で構成されている網目様構造であり、細胞の内部表面に隣接して存在している。多くの種類の細胞型の細胞骨格は、大量のタンパク質(例えば、チューブリン、アクチン、スペクトリン及びスペクトリンと密接な関係にあるタンパク質など)を含んでいる。
【0003】
スペクトリンは、大部分の後生動物細胞における原形質膜の細胞質面に結合している構造タンパク質の系の主成分である(Bennet and Gilligan 1993, Ann. Rev. Cell Biol. 9: 27-66)。スペクトリンの構造及び機能は、哺乳類の赤血球において広範囲に調べられた(Marchesi and Steer 1998, Science, 159: 203-204; Palek and Lambert 1990, Sem. Hematol. 27: 290-332; Bennet and Gilligan 1993, Ann. Rev. Cell Biol. 9: 27-66)。赤血球では、スペクトリンは、当該細胞の形状及び機械的特性の維持に関与する網目構造を形成している。この構造的な役割に加えて、スペクトリンは、原形質膜及び細胞内膜系(例えば、ゴルジ装置、小胞体及びリソソームの細胞内膜系)の両方の組織化に関与している(Beck et al., 1994, J. Cell Biol., 127: 707-723; 1997, J. Cell Sci., 110: 1239-1249; Devarajan et al., 1996, J. Cell Biol. 133: 819-830; Holleran et al., 1996, Trends Cell Biol., 8: 26-29; Hook et al., 1997, J; Cell Biol. 136: 1059-1070; De Matteis and Morrow, 2000, J. Cell Sci. 113: 2331-2343)。
【0004】
スペクトリン様タンパク質(SLP)は、植物において見いだされ(Michaud et al., 1991, FEBS lett., 294: 77-80; De Ruijter and Emons, 1993, Cell. Biol. Int. 17: 169-182; Faraday and Dpanswick, 1993, FEBS Lett., 318: 313-316; Bisikirska and Sikorski, 1997, Naturforsch. C, 52: 180-186.)、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)において見いだされ(Slaninova et al., 2003, Can. J. Microbiol., 49:189-196)、卵菌類サプロレグニア・フェラクス(Saprolegnia ferax)において見いだされ(Kaminskyj and Heath, 1996, Mycologia, 88: 20-37)、及び、真菌類ニューロスポラ・クラサ(Neurospora crassa)において見いだされた(Degousee et al., 2000, Fungal Genet. Biol., 30: 33-44)。植物では、数種類の植物種及び種々の細胞型における原形質膜にスペクトリン様エピトープが局在していた(Michaud et al., 1991, FEBS lett., 294: 77-80; De Ruijter and Emons, 1993, Cell. Biol. Int. 17:169-182, Wang and Yan, 1991 , Chin. Sci. Bull, 36: 862-866)。酵母では、原形質膜及び細胞内膜の両方の中にスペクトリン様タンパク質が局在していることが示された(Slaninova et al., 2003, Can. J. Microbiol., 49:189-196)。
【0005】
ニューロスポラ・クラサ(Neurospora crassa)において、大きく伸長している頂端部の領域の原形質膜にSLP及びアクチンパッチの大部分が局在しているということが、デゴウセら(Degousee et al. (2000))によって報告された。
【0006】
単極細胞では、動物の赤血球スペクトリンに対して産生された抗体でスペクトリン様タンパク質が標識されているのが、根毛の成長している先端内の原形質膜で見いだされ(Miller et al., 1997,J. Exp. Bot., 48: 1881-1896; De Ruijter et al., 1998, Plant J., 13: 3411-3500)、花粉管の成長している先端内の原形質膜で見いだされ(Derksen et al., 1995, Acta Bot. Neerl., 44: 93-119)、及び、菌類の菌糸の成長している先端内の原形質膜で見いだされた(Kaminsky and Heath, 1995, J. Cell Sci., 108: 849-856)。子嚢菌類及び卵菌類では、スペクトリン様タンパク質は、膜安定性の維持、特に、先端の伸長中における膜安定性の維持において、役割を果たしていると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特定の殺菌性化合物を投与された直後にスペクトリン様タンパク質の再分配を示す菌類が、その菌類自体の成長を阻止するか又は死ぬということを見いだした。かくして、スペクトリン様タンパク質の分布は、殺菌性化合物を同定するのに有用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の殺菌性化合物を投与された直後にスペクトリン様タンパク質の再分配を示す菌類が、その菌類自体の成長を阻止するか又は死ぬということを見いだした。菌類細胞の原形質膜から細胞質へスペクトリン様タンパク質が再分配されるのは、スペクトリンタンパク質に対して産生された抗体を用いて観察することができる。従って、本発明は、スペクトリン様タンパク質の再分配を惹起する化合物を同定する方法を提供する。本発明の該方法は、殺菌剤を同定するのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
特に別途示されていない限り、下記用語は、以下の意味を有することが意図されている。
【0010】
本発明についての本明細書における用語「スペクトリン」は、スペクトリンの反復、アクチン結合領域及びEFハンド(カルシウム結合モチーフ)が存在していることを特徴とするタンパク質を意味する。さらに、スペクトリンは、特殊化されたタンパク質−タンパク質相互作用モチーフ、並びに、膜及びリン脂質と相互作用するための領域を含んでいる。
【0011】
本出願における用語「スペクトリン様タンパク質」は、スペクトリンタンパク質に対して産生された抗体に結合するタンパク質を意味する。
【0012】
用語「結合する(binds to)」は、2つの分子を一緒に保持する非共有結合相互作用又は共有結合相互作用を意味し、好ましくは、非共有結合相互作用を意味する。非共有結合相互作用には、水素結合、荷電基間のイオン相互作用、ファンデルワールス相互作用及び非極性基間の疎水性相互作用などが包含される。2つの分子の互いへの結合は、これらの相互作用のうちの1つ又は2つ以上によって媒介され得る。本明細書においては、「結合する(binds to)」又は「結合(binding)」は、より特定的には、スペクトリンタンパク質に対して産生された抗体と対応するスペクトリン様タンパク質の間の特異的な相互作用を意味する。
【0013】
用語「有効で且つ植物に対して毒性を示さない量(effective and non-phytotoxic amount)」及び「農学的に有効な(agronomical effective)」は、作物上に存在しているか又はおそらく出現するであろう菌類を防除又は駆除するのに充分で、且つ、該作物について植物毒性の感知可能などのような症状も引き起こすことのない、本発明化合物の量を意味する。そのような量は、防除対象の菌類、作物の種類及び使用する化合物に応じて、広い範囲で変動し得る。該量は、当業者が実行可能な範囲内にある体系的な圃場試験により決定することが可能である。
【0014】
本発明による処理方法で同定された化合物は、塊茎又は根茎のような繁殖材料を処置するのに有用であり、さらには、種子、実生又は移植実生(seedlings pricking out)及び植物又は移植植物(plants pricking out)を処置するのにも有効である。本発明によるこの処置方法は、関係している植物の幹、茎又は柄、芽、葉、花及び果実のような植物の地上部を処置するのにも有用であり得る。
【0015】
本発明の方法で同定された化合物を用いて保護可能な植物の中で、以下のものを挙げることができる:ワタ;アマ;ブドウ;果実又は野菜作物、例えば、バラ科各種(Rosaceae sp.)(例えば、ピップフルーツ(pip fruit)、例えば、リンゴ及びナシ、さらに、核果、例えば、アンズ、アーモンド及びモモ)、リベシオイダエ科各種(Ribesioidae sp.)、クルミ科各種(Juglandaceae sp.)、カバノキ科各種(Betulaceae sp.)、ウルシ科各種(Anacardiaceae sp.)、ブナ科各種(Fagaceae sp.)、クワ科各種(Moraceae sp.)、モクセイ科各種(Oleaceae sp.)、マタタビ科各種(Actinidaceae sp.)、クスノキ科各種(Lauraceae sp.)、バショウ科各種(Musaceae sp.)(例えば、バナナの木及びプランタン)、アカネ科各種(Rubiaceae sp.)、ツバキ科各種(Theaceae sp.)、アオギリ科各種(Sterculiceae sp.)、ミカン科各種(Rutaceae sp.)(例えば、レモン、オレンジ及びグレープフルーツ);ナス科各種(Solanaceae sp.)(例えば、トマト)、ユリ科各種(Liliaceae sp.)、キク科各種(Asteraceae sp.)(例えば、レタス)、セリ科各種(Umbelliferae sp.)、アブラナ科各種(Cruciferae sp.)、アカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)、ウリ科各種(Cucurbitaceae sp.)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)(例えば、エンドウ)、バラ科各種(Rosaceae sp.)(例えば、イチゴ);主要作物(major crop)、例えば、イネ科各種(Graminae sp.)(例えば、トウモロコシ、芝、又は、禾穀類、例えば、コムギ、イネ、オオムギ及びライコムギ)、キク科各種(Asteraceae sp.)(例えば、ヒマワリ)、アブラナ科各種(Cruciferae sp.)(例えば、ナタネ)、マメ科各種(Fabacae sp.)(例えば、ピーナッツ)、マメ科各種(Papilionaceae sp.)(例えば、ダイズ)、ナス科各種(Solanaceae sp.)(例えば、ジャガイモ)、アカザ科各種(Chenopodiaceae sp.)(例えば、ビートルート(beetroot));園芸作物及び森林作物(forest crops);さらに、これら作物の遺伝子組み換えが行われた相同物。
【0016】
本発明の方法で防除可能な植物又は作物の病害の中で、以下のものを挙げることができる:
・ うどんこ病(powdery mildew disease)、例えば、
ブルメリア(Blumeria)病、例えば、ブルメリア・グラミニス(Blumeria graminis)に起因するもの;
ポドスファエラ(Podosphaera)病、例えば、ポドスファエラ・レウコトリカ(Podosphaera leucotricha)に起因するもの;
スファエロテカ(Sphaerotheca)病、例えば、スファエロテカ・フリギネア(Sphaerotheca fuliginea)に起因するもの;
ウンシヌラ(Uncinula)病、例えば、ウンシヌラ・ネカトル(Uncinula necator)に起因するもの;
・ さび病(rust disease)、例えば、
ギムノスポランギウム(Gymnosporangium)病、例えば、ギムノスポランギウム・サビナエ(Gymnosporangium sabinae)に起因するもの;
ヘミレイア(Hemileia)病、例えば、ヘミレイア・バスタトリクス(Hemileia vastatrix)に起因するもの;
ファコプソラ(Phakopsora)病、例えば、ファコプソラ・パキリジ(Phakopsora pachyrhizi)又はファコプソラ・メイボミアエ(Phakopsora meibomiae)に起因するもの;
プッシニア(Puccinia)病、例えば、プッシニア・レコンジタ(Puccinia recondita)に起因するもの;
ウロミセス(Uromyces)病、例えば、ウロミセス・アペンジクラツス(Uromyces appendiculatus)に起因するもの;
・ 卵菌類による病害(Oomycete disease)、例えば、
ブレミア(Bremia)病、例えば、ブレミア・ラクツカエ(Bremia lactucae)に起因するもの;
ペロノスポラ(Peronospora)病、例えば、ペロノスポラ・ピシ(Peronospora pisi)又はペロノスポラ・ブラシカエ(P. brassicae)に起因するもの;
フィトフトラ(Phytophthora)病、例えば、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)に起因するもの;
プラスモパラ(Plasmopara)病、例えば、プラスモパラ・ビチコラ(Plasmopara viticola)に起因するもの;
プセウドペロノスポラ(Pseudoperonospora)病、例えば、プセウドペロノスポラ・フムリ(Pseudoperonospora humuli)又はプセウドペロノスポラ・クベンシス(Pseudoperonospora cubensis)に起因するもの;
ピシウム(Pythium)病、例えば、ピシウム・ウルチムム(Pythium ultimum)に起因するもの;
・ 葉斑点性、葉汚斑性及び葉枯れ性の病害(leafspot, leaf blotch and leaf blight disease)、例えば、
アルテルナリア(Alternaria)病、例えば、アルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani)に起因するもの;
セルコスポラ(Cercospora)病、例えば、セルコスポラ・ベチコラ(Cercospora beticola)に起因するもの;
クラジオスポルム(Cladiosporum)病、例えば、クラジオスポルム・ククメリヌム(Cladiosporium cucumerinum)に起因するもの;
コクリオボルス(Cochliobolus)病、例えば、コクリオボルス・サチブス(Cochliobolus sativus)に起因するもの;
コレトトリクム(Colletotrichum)病、例えば、コレトトリクム・リンデムタニウム(Colletotrichum lindemuthanium)に起因するもの;
シクロコニウム(Cycloconium)病、例えば、シクロコニウム・オレアギヌム(Cycloconium oleaginum)に起因するもの;
ジアポルテ(Diaporthe)病、例えば、ジアポルテ・シトリ(Diaporthe citri)に起因するもの;
エルシノエ(Elsinoe)病、例えば、エルシノエ・ファウセッチイ(Elsinoe fawcettii)に起因するもの;
グロエオスポリウム(Gloeosporium)病、例えば、グロエオスポリウム・ラエチコロル(Gloeosporium laeticolor)に起因するもの;
グロメレラ(Glomerella)病、例えば、グロメレラ・シングラタ(Glomerella cingulata)に起因するもの;
グイグナルジア(Guignardia)病、例えば、グイグナルジア・ビドウェリ(Guignardia bidwelli)に起因するもの;
レプトスファエリア(Leptosphaeria)病、例えば、レプトスファエリア・マクランス(Leptosphaeria maculans)又はレプトスファエリア・ノドルム(Leptosphaeria nodorum)に起因するもの;
マグナポルテ(Magnaporthe)病、例えば、マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)に起因するもの;
ミコスファエレラ(Mycosphaerella)病、例えば、ミコスファエレラ・グラミニコラ(Mycosphaerella graminicola)、ミコスファエレラ・アラキジコラ(Mycosphaerella arachidicola)又はミコスファエレラ・フィジエンシス(Mycosphaerella fijiensis)に起因するもの;
ファエオスファエリア(Phaeosphaeria)病、例えば、ファエオスファエリア・ノドルム(Phaeosphaeria nodorum)に起因するもの;
ピレノホラ(Pyrenophora)病、例えば、ピレノホラ・テレス(Pyrenophora teres)に起因するもの;
ルムラリア(Ramularia)病、例えば、ルムラリア・コロ−シグニ(Ramularia collo-cygni)に起因するもの;
リンコスポリウム(Rhynchosporium)病、例えば、リンコスポリウム・セカリス(Rhynchosporium secalis)に起因するもの;
セプトリア(Septoria)病、例えば、セプトリア・アピイ(Septoria apii)又はセプトリア・リコペルシシ(Septoria lycopercisi)に起因するもの;
チフラ(Typhula)病、例えば、チフラ・インカルナタ(Typhula incarnata)に起因するもの;
ベンツリア(Venturia)病、例えば、ベンツリア・イナエクアリス(Venturia inaequalis)に起因するもの;
・ 根及び茎の病害(root and stem disease)、例えば、
コルチシウム(Corticium)病、例えば、コルチシウム・グラミネアルム(Corticium graminearum)に起因するもの;
フサリウム(Fusarium)病、例えば、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)に起因するもの;
ガエウマンノミセス(Gaeumannomyces)病、例えば、ガエウマンノミセス・グラミニス(Gaeumannomyces graminis)に起因するもの;
リゾクトニア(Rhizoctonia)病、例えば、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)に起因するもの;
タペシア(Tapesia)病、例えば、タペシア・アクホルミス(Tapesia acuformis)に起因するもの;
チエラビオプシス(Thielaviopsis)病、例えば、チエラビオプシス・バシコラ(Thielaviopsis basicola)に起因するもの;
・ 穂の病害(ear and panicle disease)、例えば、
アルテルナリア(Alternaria)病、例えば、アルテルナリア属種(Alternaria spp.)に起因するもの;
アスペルギルス(Aspergillus)病、例えば、アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)に起因するもの;
クラドスポリウム(Cladosporium)病、例えば、クラドスポリウム属種(Cladosporium spp.)に起因するもの;
クラビセプス(Claviceps)病、例えば、クラビセプス・プルプレア(Claviceps purpurea)に起因するもの;
フサリウム(Fusarium)病、例えば、フサリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)に起因するもの;
ジベレラ(Gibberella)病、例えば、ジベレラ・ゼアエ(Gibberella zeae)に起因するもの;
モノグラフェラ(Monographella)病、例えば、モノグラフェラ・ニバリス(Monographella nivalis)に起因するもの;
・ 黒穂病(smut and bunt disease)、例えば、
スファセロテカ(Sphacelotheca)病、例えば、スファセロテカ・レイリアナ(Sphacelotheca reiliana)に起因するもの;
チレチア(Tilletia)病、例えば、チレチア・カリエス(Tilletia caries)に起因するもの;
ウロシスチス(Urocystis)病、例えば、ウロシスチス・オクルタ(Urocystis occulta)に起因するもの;
ウスチラゴ(Ustilago)病、例えば、ウスチラゴ・ヌダ(Ustilago nuda)に起因するもの;
・ 果実の腐敗性及び黴性の病害(fruit rot and mould disease)、例えば、
アスペルギルス(Aspergillus)病、例えば、アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)に起因するもの;
ボトリチス(Botrytis)病、例えば、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に起因するもの;
ペニシリウム(Penicillium)病、例えば、ペニシリウム・エクスパンスム(Penicillium expansum)に起因するもの;
スクレロチニア(Sclerotinia)病、例えば、スクレロチニア・スクレロチオルム(Sclerotinia sclerotiorum)に起因するもの;
ベルチシリウム(Verticilium)病、例えば、ベルチシリウム・アルボアトルム(Verticilium alboatrum)に起因するもの;
・ 種子及び土壌が媒介する腐朽性、黴性、萎凋性、腐敗性及び苗立ち枯れ性の病害(seed and soilborne decay, mould, wilt, rot and damping-off disease)、
フサリウム(Fusarium)病、例えば、フサリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)に起因するもの;
フィトフトラ(Phytophthora)病、例えば、フィトフトラ・カクトルム(Phytophthora cactorum)に起因するもの;
ピシウム(Pythium)病、例えば、ピシウム・ウルチムム(Pythium ultimum)に起因するもの;
リゾクトニア(Rhizoctonia)病、例えば、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)に起因するもの;
スクレロチウム(Sclerotium)病、例えば、スクレロチウム・ロルフシイ(Sclerotium rolfsii)に起因するもの;
ミクロドキウム(Microdochium)病、例えば、ミクロドキウム・ニバレ(Microdochium nivale)に起因するもの;
・ 腐乱性病害、開花病及び枯れ込み性病害(canker, broom and dieback disease)、例えば、
ネクトリア(Nectria)病、例えば、ネクトリア・ガリゲナ(Nectria galligena)に起因するもの;
・ 枯損性病害(blight disease)、例えば、
モニリニア(Monilinia)病、例えば、モニリニア・ラキサ(Monilinia laxa)に起因するもの;
・ 葉水泡性病害又は縮葉病(leaf blister or leaf curl disease)、例えば、
タフリナ(Taphrina)病、例えば、タフリナ・デホルマンス(Taphrina deformans)に起因するもの;
・ 木本植物の衰退性病害(decline disease of wooden plant)、例えば、
エスカ(Esca)病、例えば、ファエモニエラ・クラミドスポラ(Phaemoniella clamydospora)に起因するもの;
・ 花及び種子の病害、例えば、
ボトリチス(Botrytis)病、例えば、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に起因するもの;
・ 塊茎の病害、例えば、
リゾクトニア(Rhizoctonia)病、例えば、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)に起因するもの。
【0017】
用語「殺菌性化合物(fungicidal compound)」又は「殺菌剤(fungicide)」は、少なくとも1種類の菌、菌類の細胞、菌類の組織、遊走子又は胞子を殺すか又はそれらの成長、生存力若しくは病原性を阻害する化合物を意味する。
【0018】
本開示で使用される場合、生物についての用語「成長(growth)」及び「細胞成長(cell growth)」は、当該生物の細胞の質量、密度又は数の増大を意味する。成長を測定するための一般的な方法としては、細胞懸濁液の光学密度の測定、一定の体積中の細胞数の計数、細胞分裂の測定による細胞数の計数、細胞質量若しくは細胞容積の測定などがある。
【0019】
用語「菌類(fungi)」は、完全な菌類、菌類の器官、菌類の組織、菌類の細胞及びそれらの子孫を意味し、それは、子嚢菌類(Ascomycetes)、担子菌類(Basidiomycetes)及び卵菌類(Oomycetes)を包含する。
【0020】
本発明についての本明細書における用語「菌類の細胞(fungal cell)」は、子嚢、菌糸、偽性菌糸、仮根、菌核、小柄、胞子、遊走子、分生子座、胞子嚢、分生子柄束、分生子、子嚢子座、閉子嚢殻(cleistotheicia)、菌糸体、子嚢殻及び担子器などを意味し、また、任意の発育段階にある菌類の細胞を意味する。
【0021】
本発明は、殺菌性化合物を同定する方法を提供し、ここで、該方法は、
(a) 菌類の細胞を当該化合物と接触させること;
(b) 菌類の当該細胞をスペクトリンタンパク質に対して産生された抗体と接触させること;及び、
(c) 対照と比較して、スペクトリン様タンパク質の分布を観察すること(ここで、細胞膜の内面から細胞質ゾルの位置へのスペクトリン様タンパク質の再分配によって、殺菌剤候補が同定される);
を含む。
【0022】
本発明の別の態様において、該方法は、菌類の細胞の成長の阻害、病原性の欠如又は死を検出する追加の段階をさらに含んでいる。
【0023】
本発明の方法は、菌糸又は遊走子に施用された化合物を用いて実施することができる。
【0024】
本発明の実施形態では、当該化合物を菌糸に施用し、光学密度を600nmで測定することによりその菌糸の成長をモニターする。
【0025】
本発明では、用語「化合物」は、任意の化学化合物又は化合物の混合物を意味することが意図されており、それは、ペプチド類及びタンパク質類を包含する。
【0026】
用語「化合物の混合物」は、少なくとも2種類の異なった化合物(例えば、分子のジアステレオ異性体又は立体異性体)、生物学的物質(植物、植物の組織、細菌培養物、酵母若しくは菌類の培養物、昆虫、動物の組織など)の抽出物に由来する天然起源の混合物、又は、反応混合物(これは、精製されていないか、又は、完全に若しくは部分的に精製されている)を意味するか、あるいは、コンビナトリアルケミストリー技術により誘導された生成物の混合物を意味する。
【0027】
別の態様において、本発明は、殺菌性化合物を同定するためのキットを提供し、ここで、該キットは、
(a) スペクトリンタンパク質に対して産生された一次抗体;及び
(b) シグナル生成標識にコンジュゲートさせた二次抗体(ここで、該二次抗体は、前記一次抗体に結合するものである);
を含んでいる。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、スペクトリンタンパク質に対して産生された抗体の、殺菌性化合物を同定するための使用に関する。
【0029】
本発明は、さらにまた、植物病原性菌類を殺す方法にも関し、ここで、該方法は、菌類の細胞に施用されることによってスペクトリン様タンパク質の再分配を引き起こす化合物の有効量を植物に施用することを含むことを特徴とする。
【0030】
さらに別の実施形態では、本発明は、植物病原性菌類に起因する植物病害を予防的又は治療的に防除する方法に関し、ここで、該方法は、菌類の細胞に施用されることによってスペクトリン様タンパク質の再分配を引き起こす化合物の有効量を植物に施用することを含むことを特徴とする。
【0031】
以下の実施例は、本発明を例証することを意図されている。しかしながら、本発明の実施は、決して以下の実施例に限定も制限もされない。
【実施例】
【0032】
実施例1: スペクトリン様タンパク質の局在化に対するフルオピコリド(2,6−ジクロロ−N−{[3−クロロ−5−(トリフルオロメチル)−2−ピリジニル]メチル}−ベンズアミド)の効果が、新しい作用機序を明らかにした
【0033】
種々の抗卵菌性化合物を試験した:フルオピコリド、ゾキサミド(これは、はチューブリン集合の阻害薬として作用する化合物の代表として使用する)、フェンアミドン(これは、呼吸の阻害薬(より特定的には、シトクロムbc1の阻害薬)として使用する)、ジメトモルフ(これは、細胞壁合成に作用するものとして使用する)、及び、メタラキシル(これは、タンパク質合成の阻害薬(より特定的には、RNAポリメラーゼIの阻害薬)として使用する)。
【0034】
フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)菌株を暗所において18℃でエンドウ寒天培地上で12日間成長させる。
【0035】
研究に使用する組織は、以下のように調製する:培養皿から取った菌糸体のプラグを用いて接種したV8ブロス培養を10日間培養したものから菌糸を得る。
【0036】
以下のプロトコルを用いて、上記した種々の抗卵菌性化合物について試験した:
全ての被験殺菌剤を3mg/mLでジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させる。その殺菌剤溶液を培地中で希釈して、10ppmの溶液(最終濃度1%DMSO)を得る。対照は、1%DMSOの存在下で薬物は含んでいない培養である。
【0037】
菌糸体(処理されたフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の野生型株と処理されていないフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の野生型株から得たもの)を、100mMリン酸緩衝液(pH7)中の3%パラホルムアルデヒドを用いて室温で30分間固定し、同じ緩衝液を用いて3回濯ぎ洗いした。その細胞を5mg/mLのNovozym(Sigma)と一緒に室温で10分間インキュベートすることにより当該細胞壁を部分的に消化させ、該細胞をリン酸緩衝液で4回濯ぎ洗いすることにより消化を停止させた。次いで、その細胞を、同じ緩衝液中の0.1%Triton X−100を用いて室温で10分間透過化処理した。Tritonは、リン酸緩衝液(pH7)中で3回洗浄することによって除去した。
【0038】
固定した上記細胞を、3%BSA含有リン酸緩衝液を用いて室温で一晩遮断し、次いで、1:50に希釈した抗ニワトリスペクトリン抗体(Sigma)と一緒に、3%BSAリン酸緩衝液(pH7)中で37℃で2時間インキュベートした。
【0039】
リン酸緩衝液中で濯ぎ洗いした後、そのサンプルを、対応する免疫グロブリンにコンジュゲートさせたフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を1:50に希釈したもの(Sigma)と一緒に、37℃で1時間インキュベートした。
【0040】
リン酸緩衝液中で最後の濯ぎ洗いをした後、該細胞を、2.5μg/mLの4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含んでいるp−フェニレンジアミン−グリセロールの中に置いた。
【0041】
処理されていない菌糸体を共焦点免疫蛍光顕微鏡で観察することによって、スペクトリン様タンパク質が当該菌糸の周辺領域で染色されているということが明らかになった。フルオピコリドで処理された後は、細胞質の小さな球形の点のみが観察される。このことは、フルオピコリドがスペクトリン様タンパク質の分布を当該膜から細胞質へ変化させていることを示している。この非局在化は、菌糸をゾキサミド、フェンアミドン、ジメトモルフ又はメタラキシルで処理した場合には存在しない(図1)。
【0042】
実施例2: フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の菌糸内のスペクトリン様タンパク質の分布に対するフルオピコリドの効果
フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)菌株を暗所において18℃でエンドウ寒天培地上で12日間成長させる。
【0043】
フルオピコリドの効果についての研究に使用する組織は、以下のように調製する:培養皿から取った菌糸体のプラグを用いて接種したV8ブロス培養を10日間培養したものから菌糸を得る。
【0044】
フルオピコリドを3mg/mLでジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させる。そのフルオピコリド溶液を培地中で希釈して、10ppmの溶液(最終濃度1%)を得る。対照は、1%DMSOの存在下で薬物は含んでいない培養である。
【0045】
菌糸体(フルオピコリドで処理されたフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の野生型株と処理されていないフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の野生型株から得たもの)を、100mMリン酸緩衝液(pH7)中の3%パラホルムアルデヒドを用いて室温で30分間固定し、同じ緩衝液を用いて3回濯ぎ洗いした。その細胞を5mg/mLのNovozym(Sigma)と一緒に室温で10分間インキュベートすることにより当該細胞壁を部分的に消化させ、該細胞をリン酸緩衝液で4回濯ぎ洗いすることにより消化を停止させた。次いで、その細胞を、同じ緩衝液中の0.1%Triton X−100を用いて室温で10分間透過化処理した。Tritonは、リン酸緩衝液(pH7)中で3回洗浄することによって除去した。
【0046】
スペクトリン様タンパク質の分布について、対応する抗体を用いて調べた。固定した上記細胞を、3%BSA含有リン酸緩衝液を用いて室温で一晩遮断し、次いで、1:50に希釈した抗ニワトリスペクトリン抗体(Sigma)と一緒に、3%BSAリン酸緩衝液(pH7)中で37℃で2時間インキュベートした。
【0047】
リン酸緩衝液中で濯ぎ洗いした後、そのサンプルを、対応する免疫グロブリンにコンジュゲートさせたフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を1:5に希釈したもの(Sigma)と一緒に、37℃で1時間インキュベートした。
【0048】
リン酸緩衝液中で最後の濯ぎ洗いをした後、該細胞を、2.5μg/mLの4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含んでいるp−フェニレンジアミン−グリセロールの中に置いた。
【0049】
処理されていない菌糸体を共焦点免疫蛍光顕微鏡で観察することによって、スペクトリン様タンパク質が当該菌糸の周辺領域で染色されているということが明らかになった。フルオピコリドで処理された後は、細胞質の小さな球形の点のみが観察される。このことは、フルオピコリドがスペクトリン様タンパク質の分布を当該膜から細胞質へ変化させていることを示している。この非局在化は、3分以内に観察され、処理の24時間後にも維持されている(図2)。
【0050】
実施例3: フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の遊走子内のスペクトリン様タンパク質の分布に対するフルオピコリドの効果
当該アッセイのために、10日間培養した培養皿に10mLの冷水を注ぎ入れることによって、遊走子を得る。その冷水を注ぎ入れた培養皿を4℃で3時間インキュベートすることにより、遊走子を放出させた。その遊走子懸濁液中で上記フルオピコリド溶液を希釈して、3ppmの溶液(最終濃度1%DMSO)を得る。対照は、1%DMSOの存在下における遊走子である。
免疫蛍光測定実験のために、フルオピコリドで処理した後、遊走子を、3.7%ホルムアルデヒド溶液中で固定する。遠心分離機にかけた遊走子を、次に、実施例1及び実施例2に記載されているように、透過化処理し、抗スペクトリン抗体を用いて標識する。
【0051】
処理されていない遊走子内では、スペクトリン様タンパク質は細胞の周辺に局在している。フルオピコリドを加えると、スペクトリン様タンパク質が細胞質全体に有意に分散されるのが観察される(図3)。この効果は、処理後1分以内に観察されるので、極めて速い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】種々の殺菌剤で処理されたフィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の菌糸の中のスペクトリン様タンパク質の局在化を示す図である。(a)未処理対照細胞;(b)10ppmのフルオピコリドで24時間処理された菌糸;(c)ゾキサミド;(d)フェンアミドン;(e)ジメトモルフ;(f)メタラキシル。
【図2】フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の菌糸の中のスペクトリン様タンパク質の分布に対するフルオピコリドの効果の動力学を示す図である。菌糸は、10ppmのフルオピコリドで処理した。(a)未処理対照細胞;(b)3分間処理された菌糸;(c)10分間;(d)2時間;(e)24時間。
【図3】フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)の遊走子の中のスペクトリン様タンパク質の分布に対するフルオピコリドの効果の動力学を示す図である。遊走子は、3ppmのフルオピコリドで処理した。(a)未処理対照細胞;(b)1分間処理された菌糸;(c)5分間;(d)10分間;(e)20分間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌性化合物を同定する方法であって:
(a) 菌類の細胞を当該化合物と接触させること;
(b) 菌類の当該細胞をスペクトリンタンパク質に対して産生された抗体と接触させること;及び、
(c) 対照と比較して、スペクトリン様タンパク質の分布を観察すること(ここで、細胞膜の内面から細胞質ゾルの位置へのスペクトリン様タンパク質の再分配によって、殺菌剤候補が同定される);
を含む、前記方法。
【請求項2】
菌類の細胞を当該化合物と接触させ、成長の阻害、病原性の欠如又は死を検出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物を菌糸に対して施用する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物を遊走子に対して施用する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
光学密度を600nmで測定することにより前記成長阻害をモニターする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
殺菌性化合物を同定するためのキットであって、
(d) スペクトリンタンパク質に対して産生された一次抗体;及び
(e) シグナル生成標識にコンジュゲートさせた二次抗体(ここで、該二次抗体は、前記一次抗体に結合するものである);
を含んでいる、前記キット。
【請求項7】
スペクトリンタンパク質に対して産生された抗体の、殺菌性化合物を同定するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−545982(P2008−545982A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515218(P2008−515218)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063016
【国際公開番号】WO2006/131546
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(503325538)バイエル・クロツプサイエンス・エス・アー (73)
【Fターム(参考)】