説明

新規糖脂質アジュバント組成物

本発明は、糖脂質、弱酸、アルコール、非イオン性界面活性剤および緩衝液を含む安定なアジュバント希釈剤ストック溶液および最終のアジュバント溶液を調製する組成物および方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖脂質アジュバントの新規組成物、それらを使用するための方法、およびそれらを調製するための方法に関する。本発明の新規組成物は、凝集することなく長期間安定である。本発明の新規組成物は、ワクチンを含む様々な医薬を送達するのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは、通常、細菌、ウイルス、および寄生生物によって引き起こされる感染性疾患からヒトおよび獣医学動物を守るために使用される。ワクチンにおいて使用される抗原は、任意の様々な作用物質であってよいが、通常、死んだ病原性生物、生きているが修飾または弱毒化されている病原性生物、タンパク質、組換えタンパク質またはそれらの断片からなっている。抗原の源が何であれ、抗原に対する宿主の免疫応答を高めるためにアジュバントを加えることが必要であることが多い。
【0003】
アジュバントは、2つの目的を達成するために使用され、すなわち、アジュバントは、注射部位からの抗原の放出を遅延させ、アジュバントは、免疫系を刺激する。
【0004】
文献で報告された最初のアジュバントは、フロイント完全アジュバント(FCA)であった。FCAは、油中水型乳剤およびマイコバクテリアの抽出物を含有する。マイコバクテリア抽出物は、粗製の形態で免疫刺激性分子を提供する。油中水型乳剤は、抗原がゆっくりと放出されるデポ効果を生み出す働きをする。残念なことに、FCAは、耐容性に乏しく、コントロール不良の炎症を引き起こすことがある。80年以上前のFCAの発見以来、アジュバントの望ましくない副作用を低減するための努力が行われてきた。
【0005】
現在、アジュバント特性を有する新しい種類の化合物を含む糖脂質類似体が知られている。米国特許第4,855,283号(以下‘283)は、N−グリコシルアミド、N−グリコシル尿素、N−グリコシルカルバメートを含む糖脂質類似体、具体的には、N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミドアセテート(Bay R1005として知られている、O Lockhoff、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.(1991)30:1611〜1620)の合成を開示している。‘283特許に記載されている化合物は、アジュバントとして使用するのに特に適している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
糖脂質アジュバント製剤は、製造が容易であり、脂質成分の凝集を示すことなく長期間保管した場合に安定である必要がある。糖脂質アミドまたはグリコシルアミドの非アセテート形態は、極めて不溶性であり、通常、室温またはそれ以下の温度で保管すると溶液から凝集する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明で提供されるグリコシルアミドを含む溶液およびアジュバントは、ほとんど凝集を示さず、全く安定である。それらは、製造が容易であり、商業規模で調製することができる。液状の糖脂質アジュバント製剤を希釈剤として用い、凍結乾燥抗原調製物を再水和することができる。リアルタイムで、および加速安定性試験プロトコルにより、これらの製剤の安定性を試験する方法も提供される。
【0008】
本発明は、グリコシルアミドストック溶液と糖脂質アジュバント溶液の両方を作製または製造する組成物および方法を含む。グリコシルアミドストック溶液は、式1の糖脂質をアルコールに溶かし、これを、適切な量の弱酸および「非イオン性」界面活性剤と混ぜ合わせることにより調製される。弱酸は、糖脂質に関してモル過剰の弱酸として糖脂質アルコール溶液に加える。一実施形態において、糖脂質は、N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカノイルアミドヒドロアセテートである。一実施形態において、アルコールは、エタノールである。一実施形態において、弱酸は、酢酸である。一実施形態において、非イオン性界面活性剤は、様々なソルビタン(Span(登録商標))またはポリオキシエチレンソルビタン(Tween(登録商標))、特に、モノラウレートソルビタン(Span20(登録商標))およびモノラウレートポリオキシエチレンソルビタン(Tween20(登録商標))である。糖脂質アジュバント溶液は、適切な量のグリコシルアミドストック溶液を「適当な緩衝液」に導入することにより調製される。本明細書に記載されている最終的な安定な糖脂質アジュバント溶液のpHは、約6〜約8とすべきである。約6〜約7の最終pHが好ましい。約6.3〜約6.4の最終pHが記載されている。糖脂質アジュバントの高い塩濃度、すなわち30mM NaClを超える塩濃度は、避けるべきである。
【0009】
これらの2つの溶液は、以下の通りさらに詳細に例示される。
グリコシルアミドストック溶液は、
a)塩形態である、式Iの糖脂質
(ここで、式Iは、
【0010】
【化1】

(式中、
は、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
Xは、−CH−、−O−または−NH−であり、
は、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
、R、およびRは、独立して、水素、−SO2−、−PO2−、−COC1〜10アルキルであり、
は、L−アラニル、L−α−アミノブチル、L−アルギニル、L−アスパルギニル、L−アスパルチル、L−システイニル、L−グルタミル、L−グリシル、L−ヒスチジル、L−ヒドロキシプロピル、L−イソロイシル、L−ロイシル、L−リシル、L−メチオニル、L−オルニチニル、L−フェニルアラニル、L−プロリル、L−セリル、L−スレオニル、L−チロシル、L−トリプトファニル、およびL−バリルまたはそれらのD−異性体であり、塩形態は、弱酸から誘導される)である)、
b)アルコール(ここで、アルコールは、HO−C1〜3アルキルである)、
c)弱酸(ここで、弱酸は、1)糖脂質含有量に関してモル過剰であり、2)標準的な表または値を用いて約1.0〜約9.5のpKa値を有する任意の酸である)、および
d)非イオン性界面活性剤(ここで、非イオン性界面活性剤は、それが溶解している材料の表面張力を下げる作用物質であり、疎水性である1構成成分と親水性である別の構成成分を有する)を含む組成物である。
糖脂質アジュバント溶液は、
a)グリコシルアミドストック溶液、および
b)適当な緩衝液(ここで、緩衝液は、獣医学的または医学的使用に適している緩衝液であり、約6.0〜約8.0の水溶液中での比較的一定したpHを維持することができる)を含む組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
特に指定のない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される以下の用語は、以下に示す意味を有する。
【0012】
用語「アルコール」は、式:HO−C1〜3アルキルの化合物を指す。アルコールは、メタノール、エタノール、またはn−プロパノールもしくはイソ−プロパノールなどの任意の形態のプロパノールであってよい。エタノールが好ましい。
【0013】
用語「アルキル」は、直鎖飽和炭化水素部分と分岐飽和炭化水素部分の両方を指す。
【0014】
用語「糖脂質」は、以下の式Iの化合物を指す。これらの化合物は、米国特許第6,290,971号、および1989年8月8日に出願された米国特許第4,855,283号に記載されている。米国特許第6,290,971号と米国特許第4,855,283号は共に、全体として参照により本明細書に組み込まれるものとする。ここに特に記載されている糖脂質は、そのアセテート形態である場合、商品名Bay R1005(登録商標)、および化学名「N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミドアセテート」を有する。この化合物のアミド形態は、商品名Bay 15−1583(登録商標)、および化学名「N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミド」を有する。
【0015】
式Iの糖脂質は、
【0016】
【化2】

(式中、
は、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
Xは、−CH−、−O−または−NH−であり、
は、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
、R、およびRは、独立して、水素、−SO2−、−PO2−、−COC1〜10アルキルであり、
は、L−アラニル、L−α−アミノブチル、L−アルギニル、L−アスパルギニル、L−アスパルチル、L−システイニル、L−グルタミル、L−グリシル、L−ヒスチジル、L−ヒドロキシプロピル、L−イソロイシル、L−ロイシル、L−リシル、L−メチオニル、L−オルニチニル、L−フェニルアラニル、L−プロリル、L−セリル、L−スレオニル、L−チロシル、L−トリプトファニル、およびL−バリルまたはそれらのD−異性体である)、
または薬学的に許容できるそれらの塩である。
【0017】
別の特定の実施形態は、
が、水素、または飽和C12〜18アルキルであり、
が、水素、または飽和C7〜11アルキルであり、
Xが、−CHであり、
、およびRが、独立して、水素であり、
が、L−ロイシルから選択される式1の糖脂質について記載している。
【0018】
式Iのための変数は、別個で独立しており、変数のすべての組合せは、本明細書において記載され、特許請求の範囲に記載されている。
【0019】
別の実施形態において、糖脂質は、式II(a)によって示される糖脂質である。
【0020】
【化3】

【0021】
別の実施形態において、糖脂質は、式II(b)によって示される糖脂質である。
【0022】
【化4】

【0023】
別の実施形態において、糖脂質は、式IIIの構造を有する糖脂質である。
【0024】
【化5】

【0025】
式IIIの化合物は、アミド形態かアセテート形態のどちらかで存在することができる。この化合物のアミド形態は、商品名Bay 15−1583(登録商標)を有する。アセテート形態は、商品名Bay R1005(登録商標)を有する。
【0026】
式Iの糖脂質は、米国特許第4,855,283号から得られる以下の手順を用いて作製することができる。
【0027】
式1から分かるように、本発明による化合物は、置換2−アミノ−2−デオキシヘキソースをベースにしている。これらの糖は、常に、C−1、アノマー炭素原子を介して、アシルアミド、カルバミドまたはアルコキシカルボニルアミド基
【0028】
【化6】

(R、RおよびXは、上述の意味を有する)とN−グリコシド結合している。
【0029】
式Iの本発明による化合物におけるアミノ糖の2−アミノ基は、α−アミノ酸またはα−アミノ酸誘導体とアミド結合している。
【0030】
アミノ酸は、グリシン、サルコシン、馬尿酸、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、オルニチン、シトルリン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファンおよびヒスチジンなどの天然L−アミノ酸である。D−アラニンなどのD−アミノ酸、D体とL体の両方のα−アミノ酪酸、α−アミノ吉草酸、α−アミノカプロン酸もしくはα−アミノヘプタン酸などのアミノカルボン酸も、アミノ糖上の置換基としての役割を果たすと記載されている。
【0031】
式Iによる化合物を調製するためのプロセスも提供される。これは、アミノ基が保護されている2−アミノ−2−デオキシグリコピラノース誘導体(式IV)
【0032】
【化7】

(式中、R10は、ペプチドの合成から知られているアミノ基を保護するための保護基を表し、適切な場合、選択的に除去することができる)から出発するものである。
【0033】
適当な保護基の例は、トリフルオロアセチルまたはトリクロロアセチルなどのアシル基、o−ニトロフェニルスルフェニル、2,4−ジニトロフェニルスルフェニル、またはメトキシカルボニル、t−ブチルオキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニルもしくは2,2,2−トリクロロエチルオキシカルボニル基などの、置換されていてもよい低級アルコキシカルボニル基である。適当なN−保護アミノ−ヘキソース誘導体が知られている。例えば、M.BergmannおよびL.Zervas、Ber.64、975(1931);D.Horton、J.Org.Chem.29、1776(1964);P.H.GrossおよびR.W.Jeanloz、J.Org.Chem.32、2759(1967);M.L.WolfromおよびH.B.Bhat、J.Org.Chem.32、1821(1967);一般:J.F.W.McOmie(編集者).Prot.Groups.Org.Chem.、Plenum Press(1973);「The Peptides」第3巻、1〜99ページ、(1981)Academic Press中のGeiger;ならびにそこに引用されている文献。式Iによる化合物を調製するのに好ましいアミノ保護基は、BOC基(tert.ブチルオキシカルボニル)またはZ基(ベンジルオキシカルボニル)である。
【0034】
保護アミノ糖誘導体(IV)を、第1の反応ステップにおいて、アミン(式V)、
N−R(V)
(Rは、上述の意味を有する)と反応させると、グリコシルアミン(式VI)が得られる。
【0035】
【化8】

【0036】
このタイプのグリコシルアミン調製は、原則として知られており(ELLIS、Advances in Carbohydrate Chemistry 10、95(1955))、具体的には、DE−OS(ドイツ公開明細書(German Published Specification))第3,213,650号に記載されている。
【0037】
第2の反応ステップにおいて、グリコシルアミン(VI)を、カルボキシルハライド、またはカルボン酸無水物などの適当なカルボン酸誘導体(式VII)、
11−CO−CH−R(VII)
(Rは、上述の意味を有し、R11は、例えば、塩素などのハロゲンを表し、または−O−CO−R(Rは、上述の意味を有する)を表し、または−O−CO−O−低級アルキルを表す)のどれかと反応させる。このようにして、グリコシルアミド(式VIII)
【0038】
【化9】

(式中、R、およびRは、上述の意味を有し、R10は、Rと同じであり、Xは、−CH−を表す)が得られる。このタイプのN−アシル化の条件は、DE−OS(ドイツ公開明細書)第3,213,650号に示されている。
【0039】
好ましい実施形態において、式VIのグリコシルアミンを、1〜2当量のカルボニルクロリド(式VII)または文献から知られている方法により、有機補助塩基の存在下、関連するカルボン酸R−−CH−−COHおよびクロロギ酸エチルまたはクロロギ酸イソブチルから得られた1〜2当量の混合無水物と反応させると、X=−CH−である式VIIIのグリコシルアミドが得られる。
【0040】
これは、適切な場合に無機または有機塩基の存在下、0℃〜50℃の有機または水性−有機溶媒中行われる。適当な希釈剤は、メタノール、エタノール、1−プロパノールもしくは2−プロパノールなどのアルコール、またはジエチルエーテル、テトラヒドロフランもしくは1,4−ジオキサンなどのエーテル、またはジクロロメタン、トリクロロメタンもしくは1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、またはN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0041】
第1のステップにおいて得られるグリコシルアミン(VI)を、ハロゲノギ酸エステル(IX)
12−CO−O−R(IX)
(R12は、例えば、塩素または臭素などのハロゲンを表し、Rは、上述の意味を有する)と反応させた場合、グリコシルカルバメート(VIII)が得られ、式VIIIにおけるXは、酸素を表す。
【0042】
一実施形態において、式VIIIのグリコシルアミンを1〜2当量のクロロ炭酸エステルIXと反応させると、グリコシルカルバメートが得られる。これは、0℃〜50℃の温度であるが、特に好ましくは室温において、有機または水性−有機溶媒中で行われることが好ましい。適当な溶媒は、上記で述べたようなアルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素またはジメチルホルムアミドである。
【0043】
第1のステップにおいて得られるグリコシルアミン(VI)を、1〜2当量の有機イソシアネート(式X)
−NCO(X)
(Rは、上述の意味を有する)と反応させた場合、式VIIIのグリコシル尿素が得られ、Xは、−NH−である。このアシル化反応は、上述の反応と同様、−20℃〜60℃、好ましくは0℃〜25℃の反応温度で、有機溶媒中で行われることが好ましい。適当な溶媒は、上述のアルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素、またはジメチルホルムアミドである。
【0044】
このようにして得られるグリコシルアミド(式VIII、X=−CH−)、グリコシルカルバメート(式VIII、X=−O−)またはグリコシル尿素(式VIII、X=−NH−)は、それ自体知られているプロセスにより結晶性または非晶質の固体の形態で単離され、必要な場合、再結晶、クロマトグラフィー、抽出などの標準的な手順により精製される。
【0045】
多くの場合、上述の精製ステップと並行して、またはそれらの代わりに、良好な結晶化特性を有する式VIIIのグリコシルアミド、−カルバメートおよび−尿素の誘導体をもたらす化学誘導体化を行うことも有利である。このタイプの化学誘導体化は、本発明によるグリコシルアミド、グリコシルカルバメートおよびグリコシル尿素の場合、例えば、糖残基のヒドロキシル基上のエステル化反応である。適当なエステル基の例は、アセチル、ベンゾイルまたはp−ニトロベンゾイル基である。
【0046】
グリコシルアミド、グリコシル尿素またはグリコシルカルバメートのトリ−O−アセチル誘導体を調製するため、対応するトリオール(式VIII)を、無機または有機補助塩基の存在下、アシル化剤と反応させる。適当なアシル化剤は、塩化アセチル、塩化ベンゾイルもしくは塩化p−ニトロベンジルなどの酸塩化物、または、例えば、無水酢酸などの無水物である。これにより、式XIによるエステル
【0047】
【化10】

(R、R、R10およびXは、上述の意味を有し、
13は、アセチル、ベンゾイルまたはp−ニトロベンゾイルを表す)が生成する。
【0048】
O−アシル化反応は、不活性有機溶媒中で行われることが好ましい。使用することができる溶媒は、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたは1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、または1,4−ジオキサンなどのエーテル、酢酸エチルなどのエステル、およびジメチルホルムアミドなどのアミドである。
【0049】
トリエチルアミンまたはピリジンなどの有機塩基単独を、適当な溶媒として示すことも可能である。使用することができる塩基は、O−アシル化のために有機化学において使用されるすべての塩基である。トリエチルアミン、ピリジンまたは混合物ピリジン/4−ジメチルアミノピリジンを使用することが好ましい。トリエステル(式XI)は、有機溶媒から容易に結晶化することができる。結晶化にとって、短鎖アルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールなどの極性溶媒が特に好ましい。トリエステル(式XI)の結晶化に適している他の溶媒は、有機溶媒と極性の無機または有機溶媒の混合物、例えば、テトラヒドロフラン−メタノール、テトラヒドロフラン−水、エタノール−水、およびイソプロパノール−水である。単回または、適切な場合、複数回の再結晶によって精製されたトリエステル(式XI)を、3個のO−アセチル基の加水分解またはエステル交換によってトリオール(式VIII)に戻す。有機化学では、多くのタイプのエステル切断が知られている。トリエステル(式XI)からのトリオール(式VIII)の調製については、有機化学においてZEMPLEN加水分解として知られているメタノールおよび触媒量のナトリウムメタノレートの存在下でのアシル基のエステル交換を挙げることができる。
【0050】
本発明による式Iの化合物の調製における第3の反応ステップは、式VIIIの化合物における糖上の2−アミノ基の保護基の選択的切断を含む。この反応において、式VIIIの化合物における糖上の1−アミドまたは1−カルバミドまたは1−(アルコキシカルボニルアミド)基が同時に除去されないように特別の注意を払わなければならない。
【0051】
アミノヘキサンのC−2上の使用されることが好ましいベンジルオキシカルボニル基は、水素化分解の条件下で、1−アミド、1−カルバミドまたは1−アルコキシカルボニルアミド基を保持しながら定量的および選択的に切断することができる。この水素化分解は、以下の構造式(XII)
【0052】
【化11】

(R、RおよびXは、上述の意味を有する)の糖上に遊離の2−アミノ基を有するグリコシルアミド、グリコシル尿素またはグリコシルカルバメートを提供する。
【0053】
水素化分解に適している触媒の例は、活性炭上に吸着されている白金またはパラジウムなどの貴金属である。パラジウム/炭素(5%または10%)を使用することが好ましい。水素化分解は、適当な圧力容器中で大気圧または高圧下で行うことができる。例えば、メタノール、エタノール、もしくはプロパノールなどのアルコール、テトラヒドロフランもしくは1,4−ジオキサンなどのエーテル、または酢酸などのカルボン酸、またはそれらの混合物などの不活性溶媒が、水素化に適している。適切な場合、溶媒を、水または塩酸もしくは硫酸などの希酸と混ぜる。言うまでもなく、そのような酸を加える場合、式XIIによる2−アミノ−2−デオキシ−グリコシルアミド、−カルバメートおよび−尿素は、これらの酸のアンモニウム塩として得られる。式VIIIの化合物において同様に使用されることが好ましいt−ブチルオキシカルボニル保護基は、塩酸または硫酸などの鉱酸を用いる文献から知られている方法により切断することができる。この場合も、式XIIの2−アミノ−2−デオキシ−グリコシルアミド、−カルバメートおよび−尿素は、切断に使用される酸のアンモニウム塩として選択的に得られる。
【0054】
本発明による式Iの化合物を合成するための第4の反応ステップは、式XIIによるアミノグリコシルアミド、アミド、−カルバメートもしくは−尿素、またはそれらの塩の、適当なアミノ酸誘導体との連結を含む。 適当なアミノ酸誘導体は、N−保護アミノ酸(式XIII)
【0055】
【化12】

(Rは、上述の意味を有し、
は、水素またはメチルを表し、
14は、ペプチド合成において習慣的に使用され、ペプチド結合を保持しながら選択的に再び除去することができる保護基を表す)である。
【0056】
使用されることが好ましい式XIIIにおけるアミノ基のための保護基は、上述の通りであり、ベンジルオキシカルボニルまたはt−ブチルオキシカルボニル基が特に好ましい。式XIIの2−アミノ−2−デオキシ−グリコシルアミド、−カルバメートまたは−尿素の式XIIIのアミノ酸誘導体との連結は、ペプチド合成の従来の方法(E.Wunsch他:Synthese von Peptiden(Synthesis of peptides) in:Methoden der Org.Chemie(Methods of org.chemistry)(Houben−Weyl)(E.Muller、編集者)、第XV/I巻および第XV/2巻、第4版、Thiemeより発行、Stuttgart(1974))により行うことができる。
【0057】
従来のプロセスの例は、水除去剤(water−removing agent)、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドまたはジイソプロピルカルボジイミドの存在下での式XIIの化合物中のアミノ基と式XIIIのアミノ酸誘導体との縮合である。
【0058】
式XIIの化合物と式XIIIの化合物の縮合は、カルボキシル基を活性化する場合にも行うことができる。可能な活性化されたカルボキシル基は、例えば、酸無水物、好ましくは、酸の酢酸エステルなどの混合無水物、またはイミダゾリドなどの酸のアミド、または活性化されたエステルである。活性化されたエステルの例は、シアノメチルエステル、ペンタクロロフェニルエステル、およびN−ヒドロキシフタルイミドエステルである。活性化されたエステルは、カルボジイミドなどの水除去剤の存在下で酸(式XIII)およびN−ヒドロキシスクシンイミドまたは1−ヒドロキシベンゾチアゾールからも得ることができる。アミノ酸の誘導体は、知られており、知られている方法で調製することができる。式XIIのアミノ化合物と、式XIIIの活性化されていてもよいカルボキシル化合物との縮合は、式XIVのペプチド糖脂質を提供する
【0059】
【化13】

(R、R、R、R、R14およびXは、上述の意味を有する)。
【0060】
式Iによる化合物を調製するための最終プロセスステップにおいて、式XIVの化合物における保護基R14が除去される。式XIVの化合物中に存在する他のアミド、ウレタンまたは尿素基が切断されないようにこのステップの間は注意を払わなければならない。式XIVの化合物において使用されることが好ましい保護基R14、N−カルボベンゾキシ基およびN−tert.−ブチルオキシカルボニル基は、アミド、ウレタンまたは尿素基を保持しながら除去することができる。カルボベンゾキシ基は、エタノール、メタノール、氷酢酸またはテトラヒドロフランなどの適当な溶媒中、例えば、活性炭上のパラジウムなどの貴金属の存在下での水素化分解により選択的に除去することができる。溶媒は、純粋な溶媒として使用するか、または、お互いに、もしくは水と混ぜ合わせることができる。反応は、大気圧または高圧下のどちらかで行うことができる。式XIVの化合物におけるtert.−ブチルオキシカルボニル基R14は、酸分解プロセスにより除去することができる。適当な条件の例は、室温における、例えば、氷酢酸、ジエチルエーテル、ジオキサンまたは酢酸エチルなどの適当な溶媒中での塩化水素の使用である。t−ブチルカルバメートを切断するためのこのタイプのプロセスは、原則的に知られている。このようにして得られる式Iのペプチドグリコシルアミド、−カルバメートおよび−尿素は、それ自体知られているプロセスにより結晶性または非晶質の固体の形態で単離され、必要な場合、再結晶、クロマトグラフィー、抽出などの標準的な手順により精製される。
【0061】
式Iの本発明による化合物は、同様に良好な結果で、第2の合成経路により調製することもできる。この第2の合成経路は、シントンのアミノ糖アミノ酸、アミンR−NHおよびカルボン酸R−CH−CO−H、または炭酸誘導体R−O−CO−−ハロゲン、またはR−NCO(RおよびRは、上述の意味を有する)の連結順序が異なるという点で、上記に記載されている第1の合成経路と異なる。この第2の経路において、式XVの適当な2−N−(アミノアシル)アミノ糖
【0062】
【化14】

(RおよびRは、上述の意味を有し、R14は、ペプチド化学において知られているアミノ保護基、好ましくは、ベンジルオキシカルボニルまたはt−ブチルオキシカルボニル基を表す)が、出発成分として使用される。次いで、このようにして得られる式XVの化合物を、式IIIのアミノ化合物と縮合させると、一般式XVIのグリコシルアミン
【0063】
【化15】

(R、R、RおよびR14は、式IおよびRの定義と一致する意味を有する)が得られる。
【0064】
一般式VIの化合物を調製するための上記に記載されているすべてのプロセスは、一般式XVIの化合物を調製するために使用することができる。次いで、式XVIの化合物を、上述のカルボン酸誘導体(VII)またはハロゲノギ酸エステル(式IX)または有機イソシアネート(式X)のどれかと反応させると、式XIVの2−(アミノアシル)−アミノグリコシルアミド(X=−CH−)、または式XIVの−カルバメート(X=−O−)、または式XIVの−尿素(X=−NH−)が得られる。これらのアシル化反応は、一般的に、グリコシルアミンとカルボン酸または炭酸誘導体との反応について上記に記載されているプロセスにより行うことができる。
【0065】
このようにして得られる中間体(式XIV)は、上述の物理的精製法により精製することができる。しかしながら、上記に記載されているO−アシル化の方法により、式XIVの化合物を、一般式XVII
【0066】
【化16】

(変数の意味は、式1と一致している)のトリ−O−アセテートまたはトリ−O−ベンゾエートに変換することが好ましい。
【0067】
これらの化合物は、好ましくは、メタノールまたはエタノールなどの極性溶媒から容易に結晶化し、それによって精製することができる。次いで、式XVIIの精製された結晶性誘導体は、特に糖化学において広く使用されている上述のエステル加水分解の方法により、式XIVのトリオールに変換される。式XIVの化合物におけるアミノ酸中の保護基の最終除去は、式Iの化合物の調製について上記にすでに記載されている。本発明は、式Iの化合物の塩にも関する。これらは、主に、薬学において習慣的に使用することができる式Iの化合物の無毒性の塩、例えば、塩化物、酢酸塩および乳酸塩、または不活性な塩である。
【0068】
用語「弱酸」は、標準的な表または値を用いて約1.0〜約9.5のpKa(Kaの−log)値を有する任意の酸を意味する。本発明を限定することは意図していないが、弱酸の以下の例を、名前、式、およびおおよそのpKaと共に記載する。酢酸、H(C)(pKa4.76);アスコルビン酸(1)、H(C)(pKa4.10);アセチルサリチル酸、H(C)、(pKa3.5);ブタン酸、H(C)(pKa4.83);炭酸、HCO、(pKa4.83 1形);クロム酸、HCrO−、(pKa6.49 2形);クエン酸、H(C)、(pKa3.14 1形);クエン酸、H、(pKa4.77 2形);クエン酸、(HC、(pKa6.39 3形);ギ酸、H(CHO)、(pKa3.75);フマル酸、H(C)(pKa3.03);ヘプタン酸、H(C13)、(pKa4.89);ヘキサン酸、H(C11)、(pKa4.84);フッ化水素酸、HF、(pKa3.20);イソシトレート(isocitrate)、H(C)(pKa3.29);乳酸、H(C)、(pKa3.08);マレイン酸、H(C)(pKa1.83);ニコチン酸、H(CNO)(pK3.39);シュウ酸、H(C)、(pKa1.23 1形);シュウ酸、(HC、(pKa4.19 2形);ペンタン酸、H(C)、(pKa4.84);リン酸、HPO、(pKa2.16 1形);プロパン酸、H(C)、(pKa4.86);ピルビン酸、H4(C)(pKa2.39);コハク酸H(C)(pKa4.19)およびトリクロロ酢酸、H(CCl)(pKa0.70)。これらの酸の任意の組合せも例示される。
【0069】
酢酸が好ましい。アセチルサリチル酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、フッ化水素酸、イソシトレート、マレイン酸、ニコチン酸、リン酸、ピルビン酸、コハク酸およびトリクロロ酢酸は、組合せで、およびコレクションとして個別に具体化されている、より一般的な弱酸である。
【0070】
用語「非イオン性界面活性剤」は、それが溶解している材料の表面張力を下げる物質である界面活性剤を意味し、非イオン性は、電荷を帯びていない極性基を有することを意味する。用語両親媒性界面活性剤は、界面活性剤分子の一部が疎水性であり、一部が親水性である界面活性剤を意味する。適当な界面活性剤は、非イオン性でもあり両親媒性でもあり、獣医学的または医学的使用に許容できるであろう。特定の非イオン性界面活性剤が、医学的または獣医学的使用に許容できるか否かは、当業者によって容易に決定することができる。本発明と共に使用することができる多くの適当な非イオン性界面活性剤が存在し、多数の例を以下に提供する。
【0071】
本明細書では、2つのよく知られているタイプの非イオン性界面活性剤が具体化されている。これらは、Span(登録商標)という商標で一般的に販売されているソルビタン、およびTween(登録商標)という商標で一般的に販売されているポリオキシエチレンソルビタンとして知られている。具体的には、以下のソルビタンモノラウレート(Span20(登録商標))、ソルビタンモノパルミテート(Span40(登録商標))、ソルビタンモノステアレート(Span60(登録商標))、ソルビタントリステアレート(Span65(登録商標))、ソルビタンモノオレエート(Span80(登録商標))、ソルビタントリオレエート(Span85(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(Tween40(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノステレート(monosterate)(Tween60(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)、およびポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Tween85)が本明細書で具体化されている。これらの記述には、これらの界面活性剤用の供給カタログに列挙されているように、商品名成分、または等価成分が含まれることを意味している。界面活性剤は、個別に、または任意の組合せで使用することができる。
【0072】
ソルビタンモノラウレート(Span20(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20(登録商標))、ソルビタンモノオレエート(Span80(登録商標))、ソルビタントリオレエート(Span85(登録商標))、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Tween85)が、特に記載されている。
【0073】
用語「適当な緩衝液」は、獣医学的または医学的使用に適しており、約6.0〜約8.0の水溶液中での比較的一定したpHを維持することができる緩衝液を意味する。リン酸緩衝液は、本明細書に記載されている一実施形態である。リン酸緩衝液は、異なる比率でリン酸ナトリウムおよび/またはリン酸カリウムの一塩基塩および二塩基塩を混ぜることにより、広い範囲で特定のpHにおいて作製することができる。様々なナトリウムおよびカリウム緩衝液の作製および使用は、当業者によく知られている。
【0074】
緩衝液の他の例は、以下の
2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MESとしても知られている)、
3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPSとしても知られている)、
n−[トリス(ヒドロキシメチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TESとしても知られている)、
4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸(HEPESとしても知られている)、
[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(TRISとしても知られている)
である。
【0075】
パートI。溶液の調製。
本明細書に開示されている新規製剤は、1)グリコシルアミドストック溶液および2)糖脂質アジュバント溶液である。
【0076】
1)グリコシルアミドストック溶液は、糖脂質をアルコールに溶かし、適切な量の弱酸と混ぜ合わせることにより調製される。弱酸は、糖脂質に関してモル過剰の弱酸として、糖脂質アルコール溶液に加える。非イオン性界面活性剤を、糖脂質アルコール酸混合物に加え、グリコシルアミドストック溶液を作製する。例示される糖脂質は、N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカノイルアミドアセテートである。例示されるアルコールは、エタノールである。例示される弱酸は、酢酸である。非イオン性界面活性剤は、上記に記載されている通りである。
【0077】
グリコシルアミドストック溶液の調製。弱酸を、糖脂質を含有するアルコール溶液に加える。弱酸は、糖脂質含有量に関してモル過剰で加える。弱酸成分は、糖脂質に対するモル当量で、糖脂質の1.25〜5倍量を加えるべきである。特定の実施形態において、酸の以下の相対量が推奨される。弱酸は、2.0倍、2.5倍、2.7倍、3.0倍、および5.0倍とすべきであり、酸が、糖脂質のモルの2.7倍のモルであることが最も好ましい。
【0078】
非イオン性界面活性剤を、弱酸を加える前、または弱酸を加えた後に、上記のアルコール糖脂質混合物に加え、最終グリコシルアミドストック溶液を作製する。
【0079】
弱酸の存在下で、グリコシルアミドは、糖脂質のアセテート形態に変換される。式Iの糖脂質は、緩衝水溶液に直接単に導入される場合、十分に可溶性ではない。式Iの糖脂質を緩衝水溶液に溶かして通常得られる溶液は、乳状の混合物である。以前の研究者は、乳状の溶液を超音波処理することにより、そのような混合物の溶液を均一にしようと試みてきた。しかしながら、超音波処理は、溶液が保管中に均一のままであることを保証しない。これらの化合物を懸濁するための化学的アプローチは、適切なpHにおいて、水性緩衝糖脂質の十分に可溶性で、ほぼ光学的に澄明な溶液をもたらす。弱酸が、糖脂質と比較して過剰量で加えられる場合、すべての糖脂質が可溶形態に変換され、元の非可溶形態への復帰が妨げられることが保証される。
【0080】
弱酸は、糖脂質を薬学的に許容できる塩に変換する。好ましい塩は、薬学的および生物学的調製物において習慣的に使用される無毒性の塩である。例えば、式Iの化合物の塩化物、酢酸塩、乳酸塩、および不活性な塩が、本明細書に記載されている弱酸で得られる。
【0081】
糖脂質を溶かすのに使用されるアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノールの任意の異性形態、またはそれらの任意の組合せであってよい。得られる糖脂質アルコール溶液は、光学的に澄明であろう。糖脂質のアセテート形態を元の非アセテート形態に変換することができる任意の化学反応は、水溶液の中で糖脂質の凝集を引き起こすであろう。糖脂質の凝集が起こる場合、糖脂質分子は、薄片として溶液から現れ、容器の底にたまる。糖脂質およびアルコールのグリコシルアミドストック溶液における弱酸の初期濃度は、糖脂質の凝集があるか否か決定する。弱酸は、糖脂質に関してモル過剰とし、凝集を避けるべきである。
【0082】
2)糖脂質アジュバント溶液は、適切な量のグリコシルアミドストック溶液を「適当な緩衝液」に導入することにより調製される。本明細書に記載されている最終の安定な糖脂質アジュバント溶液のpHは、約6〜約8とすべきである。約6〜約7の最終pHが好ましい。約6.3〜約6.4の最終pHが記載されている。
【0083】
グリコシルアミドストック溶液は、過剰の酸を含有するため、アジュバントとして使用するために緩衝化すべきである。例えば、リン酸緩衝液は、異なる比率でリン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムの一塩基塩および二塩基塩を混ぜることにより、広い範囲で特定のpHにおいて作製することができる。リン酸緩衝液が使用される場合、約20mMにおいて作製することができ、これは、約7.8のpHを有する。グリコシルアミドストック溶液を緩衝液に加える場合、緩衝液のpHは低下する。pH7.8のリン酸緩衝溶液は、pHが約6.4の最終糖脂質アジュバント溶液をもたらす。最終的なpH調整を行うことができるが、通常は必要でない。
【0084】
弱酸および糖脂質を含有するグリコシルアミドストック溶液は、極めて低いpHを有する。pHを許容できるレベルまで上げることが必要であることがある。強塩基は、強塩基の添加が、糖脂質の塩形態を元の非塩形態に変換し、水性環境において非塩形態の沈殿(凝集)をもたらすことがあるため、この目的には避けるべきである。しかしながら、強塩基が望まれる場合、ほんの少量を使用すべきである。例えば、100mM以下のNaOHを使用することが推奨されるが、4.0mM以下が最適である。
【0085】
緩衝溶液には、いくらかのNaClが含まれていてもよいが、必要ではない。NaCl濃度は、約1〜約50mMの範囲であってよい。より少量のNaClは、より大量より好ましい。本明細書の実施例は、NaClを有しないか、または15mM NaClを有するかのどちらかである。100mM NaClは、凝集が起きることから適当ではない。15mM以下のNaCl濃度では、凝集は予想されない。30mM以下のNaCl濃度では、凝集は予想されない。50mM以下のNaCl濃度では、凝集は予想されない。
【0086】
パートII。糖脂質アジュバント溶液の特徴付け。
保管中の糖脂質アジュバント溶液の安定性は、単純な目視観察により、または適切な分析機器を用いることによりモニターすることができる。糖脂質分子は、水溶液中にある場合、ミセルを形成し、レーザー回折計で正確にミセルのサイズを決定することが可能である。そのような測定を用い、糖脂質分子の凝集があるか否かを決定することができる。
【0087】
リアルタイムの安定性測定への代替アプローチは、加速安定性試験を行うことである。加速安定性試験では、アジュバント溶液を、約7日間にわたり約37℃の温度と、続いて、絶え間ないかき混ぜ下で約2日間にわたり約4℃におけるインキュベーションにさらす。約7日間の約37℃におけるインキュベーションは、約1年間の約4℃における保管に相当する。絶えずかき混ぜながらの約2日間の約4℃におけるインキュベーションは、糖脂質アジュバント溶液が輸送中に直面する可能性があるストレス条件に相当する。
【0088】
糖脂質アジュバント溶液が細胞質と等張であるか否かを決定するため、浸透圧を決定することができる。様々な濃度の塩化ナトリウムを加え、浸透圧計を用いて、得られる溶液の浸透圧を決定することができる。塩化ナトリウムの濃度を増加させることは、浸透圧を増加させることに加えて、溶液をより濁らせる傾向がある。濁りは、ミセルが集合してより大きな粒子を形成することによって引き起こされると考えられる。0.2μmのフィルターを用いて濾過することが困難であるか、または不可能である溶液が、一般的に、商業使用に許容できないのは、商業規模で調製されるアジュバント溶液の無菌性を保証するために最終的な濾過が用いられることが多いためである。電子顕微鏡分析を用い、過剰な塩の結果としてのミセルの集合があるか否かを決定することができる。
【0089】
上記に記載されているアジュバントと合わせ、追加の非糖脂質アジュバントを糖脂質アジュバント溶液において使用することができる。本発明の別の実施形態において、追加の免疫刺激性分子を、糖脂質アジュバント溶液に加える。免疫刺激性分子は、当技術分野においてよく知られており、それらには、サポニン、Quil A、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)およびカルボポール(Carbopol)が含まれる。
【0090】
Quil Aは、南米の木キラヤサポナリア(Quillaja saponaria)の樹皮から精製された抽出物である。Quil Aは、体液性応答と細胞性応答の両方を誘発する。Quil Aがコレステロールと一緒に使用されることが多いのは、コレステロールが、適切な比率で加えられた場合、あまり望ましくない副作用を除去するためである。コレステロールは、Quil Aと不溶性の複合体を形成し、コレステロールがQuil Aと結合するにつれてラセン状構造を形成するため、分子の糖単位を露出させ、免疫応答を刺激する助けになる。
【0091】
臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、DDAは、18個の炭素アルキル鎖を有する陽イオン性界面活性剤である。DDAは、両親媒性四級アミンである。最適な免疫応答を得るためにDDAと抗原の直接的相互作用が必要なのは、DDAが、油/水界面における抗原の直接結合を介して抗原の担体としての役割を果たすためである。DDAは、体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を刺激する。
【0092】
カルボポールは、本発明で使用することができる別の有用な免疫刺激性分子である。カルボポールは、ポリアルケニルエーテルで架橋されているアクリル酸ホモポリマーである。
【0093】
パートIII。糖脂質アジュバント溶液の使用。
糖脂質アジュバント溶液は、薬学的に許容できる塩形態で、抗原と混ぜることができる。好都合な抗原には、微生物病原体タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、トキソイド、炭水化物、および腫瘍特異性抗原が含まれる。抗原は、様々な源から誘導することができる。微生物病原体由来の抗原には、疾患を引き起こす細菌、ウイルス、および寄生生物が含まれる。2種以上の抗原の混合物を用いることができる。抗原は、死んでいる、自然に弱毒化されている、修飾型生存の(modified live)、またはタンパク質抽出物、組換え的に産生されたタンパク質、化学的に合成されたペプチドまたは免疫応答を刺激する他のいかなるものであってもよい。ペプチド抗原は、遊離のペプチドとして存在するか、または糖脂質にコンジュゲートされているか、または他の知られているB細胞もしくはT細胞エピトープにコンジュゲートされていてもよい。
【0094】
安定な糖脂質アジュバント溶液は、アジュバント特性を有することが知られている追加のアジュバントまたは構成成分と組み合わせることができる。糖脂質アジュバント溶液と組み合わせることができる追加のアジュバントには、ポリマー、それらの粗製または部分精製された形態の天然に存在するテルペノイド化合物、両親媒性四級アミン、細菌の細胞壁材料の誘導体および細菌の細胞壁またはDNA成分の合成類似体が含まれる。糖脂質アジュバント溶液は、抗生物質または様々な抗原などの1種または複数の作用物質と一緒に使用するか、それらと組み合わせることができる。細菌またはウイルス抗原は、死んでいるか、または修飾型生存のどちらかであってよい。死んだウイルスの抗原は、組織培養においてウイルスを増殖させ、化学的処理によりウイルスを不活性化することにより調製される。一部のウイルスは、孵化卵において増殖させることができる。死んだウイルスの抗原は、糖脂質アジュバント溶液を含有する溶液に加えることができ、得られる溶液を使用して動物にワクチン接種し、ウイルス感染に対する防御を実現することができる。
【0095】
本発明の一実施形態において、糖脂質アジュバント溶液は、修飾型生存ウイルス抗原のための希釈剤として使用することができる。ウイルス病原体は、それらを組織培養で数世代にわたって継代することによるか、またはウイルスゲノムの特異的操作を介して、それらの毒性を弱毒化することができる。ウイルスのそのような弱毒化株は、組織培養で極めて高い力価まで増殖させることができ、ワクチン抗原として使用することができる。弱毒化ウイルス株は、修飾型生存ウイルス抗原と呼ばれる。これらの株は、毒性が少ないが、それらは、ワクチン中の抗原として使用される場合、依然として極めて免疫原性であり、毒性株による感染に対する防御を提供する。糖脂質アジュバント溶液は、修飾型生存ウイルス抗原のための希釈剤として使用すべきであり、糖脂質アジュバント溶液は、関心のある特定のウイルスに対していかなる殺ウイルス効果も有していないことを保証するために試験されるべきである。
【0096】
修飾型生存ウイルス抗原に対する糖脂質アジュバント溶液の殺ウイルス特性は、in vitro実験において決定することができる。凍結乾燥したウイルス抗原を、糖脂質アジュバント溶液または水で再水和する。得られるウイルス溶液を、許容細胞の単層上にプレートする。ウイルス抗原の力価は、単層上に形成されるプラーク数をカウントすることにより決定される。水と糖脂質アジュバント溶液で再水和されたサンプル間で得られるウイルス力価の差を用い、もしあれば、任意の生ウイルスに対する糖脂質アジュバント溶液の殺ウイルス効果を決定することができる。
【0097】
修飾型生存ウイルス抗原は、凍結乾燥し、商業用のワクチン調製物における凍結乾燥ケーキとして提供することができる。一般に、これらの修飾型生存ウイルス抗原の凍結乾燥ケーキは、希釈剤溶液で再水和され、非経口ワクチン接種のために使用される。希釈剤の例には、リン酸緩衝溶液を含有する水溶液が含まれる。希釈剤溶液が、知られている免疫刺激性分子を含有する場合、修飾型生存ウイルス抗原によるワクチン接種の効率が改善されることがある。本発明の一実施形態において、糖脂質アジュバント溶液は、希釈剤溶液として使用される。
【実施例】
【0098】
(実施例1)
等濃度のBay 15−5831(登録商標)および酢酸による不溶性のグリコシルアミン組成物の調製
【0099】
【表1】

【0100】
Bay 15−5831(登録商標)は、Bayer Companyに登録されており、N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカノイルアミドの商品名である。この化合物を使用し、酢酸が、糖脂質に対して等モル濃度で使用され、糖脂質が、その遊離の塩基形態である上記の表1に記載されている組成を用いてアジュバント溶液を作製する場合、糖脂質は、不溶性であり、凝集する。
【0101】
(実施例2)
実施例1と同じ構成成分を用いるが、糖脂質の濃度に対して酢酸濃度を増加させた可溶性のグリコシルアミドストック溶液は、可溶性のグリコシルアミドストック溶液をもたらす。
【0102】
【表2】

【0103】
ここでは、60%エタノール(v/v)を使用した。糖脂質に対する酢酸のモル比は、2.0である。実施例1の200−プルーフエタノールは、60%エタノール水で置き換えた。得られたグリコシルアミドストック溶液は、光学的に澄明であり、容器の底に沈殿はなかった。このグリコシルアミドストック溶液を様々な緩衝液に加え、以下の実施例3における糖脂質アジュバント溶液を作製した。
【0104】
(実施例3)
糖脂質アジュバント溶液の調製。異なるpHでリン酸緩衝液を調製した。一塩基性リン酸ナトリウム溶液の2Mストックは、ビーカー中でNaHPO・HO138グラムをDI水250mLに溶かし、500mLの最終容積にすることにより調製した。同様に、二塩基性リン酸ナトリウム溶液の2Mストックは、ビーカー中でNaHPO142グラムをDI水300mLに溶かし、500mLの最終容積にすることにより調製した。両ストック溶液は、0.2ミクロンのフィルターを用いて無菌濾過した。
【0105】
【表3】

【0106】
表3に示すような一塩基性リン酸ナトリウムおよび二塩基性リン酸ナトリウム溶液の様々な容積の2Mストックを調製し、次いで、様々なpHレベルで、リン酸ナトリウム緩衝溶液の1Mストック溶液を得た。次いで、1Mリン酸緩衝溶液を50倍に希釈し、20mMリン酸緩衝液を得た。
【0107】
糖脂質アジュバント溶液は、これらのストック緩衝液および実施例2からのグリコシルアミドストック溶液を用いて調製した。
【0108】
これらの20mMリン酸溶液の各々96mLに、実施例2において調製されたようなグリコシルアミドストック溶液5mLを加えた。得られた糖脂質アジュバント溶液は、12.5mM酢酸および6.33mM糖脂質を含有していた。糖脂質は、この時点でアセテート形態である。
【0109】
(実施例4)
糖脂質アジュバント溶液の最終pHの意義
別の一連の実験において、様々な溶液の最終pHの意義を試験し、pHが凝集にどのように影響するかを評価した。20mMリン酸緩衝液は、7.8の初期pHにおいて調製した。表4は、糖脂質および酢酸が、等モル濃度で使用された実施例1におけるように調製されたグリコシルアミドを用いて調製された糖脂質アジュバントを示している。最終pHは、極めて大きくは低下せず(表4)、緩衝液の有効性を示していることに留意されたい。NaCl濃度を変化させた。表4における600nmにおける光学密度の読み取り値(O.D.)を、糖脂質アジュバント溶液が、実施例2において調製されたような糖脂質に対して2倍のモル比の酢酸を含有するグリコシルアミドストック溶液で調製された表5における類似の読み取り値と比較した。より大きな濃度または量の酢酸を用いると、最低限の凝集が生じる。凝集は、濾過したサンプルにおけるよりも濾過しないサンプルにおいて多かった。さらに、NaCl濃度が増加すると、凝集の増加および沈殿さえも認められた。表5に記載されている糖脂質アジュバント溶液は、8.0の初期pHを有するリン酸緩衝液で調製し、糖脂質アジュバント溶液の最終pHは、6.8〜7.0であった。糖脂質アジュバント溶液の最終pHをさらに下げると、濁度の低く凝集のない糖脂質アジュバント溶液が得られることがある。
【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
0.1未満の光学密度(O.D.)は、半透明の溶液に相当する。0.1〜0.5の光学密度は、濁度がわずかで均一であり、0.5〜1.0の光学密度は、ある程度の濁度を有し、1.0〜1.5の光学密度は、濁っていると見なされる。1.5を超える光学密度は、濁っており、0.2ミクロンのフィルターを用いて濾過できる可能性はない。後者は、一般的に、商業的に適しているとは見なされないであろう。
【0113】
(実施例5)
凝集を示す糖脂質アジュバントの酢酸による滴定は、逆転することができる。凝集を示す糖脂質アジュバントに漸増量の酢酸を加えることが凝集を逆転させるか否かを決定するため、実施例1に記載されているような糖脂質アジュバントを調製した。この糖脂質アジュバントは、NaClがなくても凝集を示した。漸増濃度の酢酸を、この凝集した糖脂質アジュバント混合物に加えた。酢酸を水で16.6倍に希釈し、1モルの作業溶液濃度を得た。次いで、この1M溶液15μlを、糖脂質アジュバント混合物15mlに加え、酢酸濃度を1mMずつ増加させた。漸増濃度の酢酸で、糖脂質アジュバントのpHは下がり、凝集物は溶けた。しかしながら、糖脂質アジュバントは、いくらか濁ったままであった。この知見は、酢酸濃度を増加させることが、Bay 15−5381の遊離塩基を、水溶液により可溶性であるアセテート形態に変換することを裏付けている。
【0114】
【表6】

【0115】
(実施例6)
NaClを含む、およびNaClを含まない第2の安定な糖脂質アジュバント溶液の調製。糖脂質溶液の安定性を維持する際の酢酸の量の増加の重要性を証明した後、表8に示す組成を用いてまずグリコシルアミドストック溶液を調製し、次いで、これを用いてNaClを含む、およびNaClを含まない別の糖脂質アジュバント溶液を調製することを決定した。このグリコシルアミドストック溶液は、総容積が4倍で比較的大量の酢酸およびTween20である実施例2における溶液と同様である。
【0116】
【表7】

【0117】
様々な濃度のNaClを含む3つの異なる糖脂質アジュバント溶液を、実施例3からのリン酸緩衝液および表8におけるように調製されたグリコシルアミドストック溶液を用いて調製した。
【0118】
実施例4、表5における製剤と同様、0mM、15mM、および100mM NaClを含有する糖脂質アジュバント溶液を作製した。0mMおよび15mM NaCl溶液は、0.2ミクロンのフィルターに通して濾過することができた。100mM NaClを含有する糖脂質アジュバント溶液は、0.2ミクロンのフィルターに通して濾過することができなかった。
【0119】
【表8】

【0120】
糖脂質アジュバント溶液の各々20mLを、30mlのガラスバイアルに入れ、室温および4℃においてインキュベートした。目視観察を規則的間隔で行った。当初、0mM NaClを含む糖脂質アジュバント溶液は、光学的に澄明であった。15mM NaClを含有する糖脂質アジュバント溶液は、わずかに濁っており、600nmにおいて0.073のO.D.を有していた。100mM NaClを含有する糖脂質アジュバント溶液は、濁っており、600nmにおいて0.439のO.D.を有していた。表9。これらの糖脂質アジュバント溶液のどれも、室温と4℃の両方において凝集のいかなる徴候も示さなかった。これらの糖脂質アジュバント溶液は、外見の変化なしに1年間にわたって観察された。
【0121】
(実施例7)
NaOHによる安定な糖脂質アジュバント溶液の滴定。
最初に、光学的に澄明で安定な糖脂質アジュバント溶液を、NaOHなしで得た。最少量のNaOHの除去または使用が、凝集を防ぐのに不可欠であることを証明するため、NaOHの段階的添加が、さもなければ安定な糖脂質混合物において凝集を誘発することを示す必要がある。以下の表10において調製されるように、適切な容積の1N NaOHを、NaClを全く加えていない糖脂質アジュバント溶液15mLに加えた。NaOHは、1mMから12mMまで徐々に増加させた(表10)。この実験において使用される糖脂質アジュバント溶液は、実施例6に記載されているグリコシルアミドストック溶液を用いて調製した。糖脂質アジュバント溶液における漸増濃度のNaOHにより、製剤のpHは、凝集の出現を伴って徐々に増加した。
【0122】
【表9】

【0123】
(実施例8)
HPLCを用いる糖脂質成分の定量
以下の方法を、Bay 15−5381(登録商標)のHPLC分析において使用した。表11に記載されているHPLCパラメーターを使用した。
【0124】
【表10】

【0125】
【表11】

【0126】
0.10〜1.03mMの範囲の標準品を調製し、HPLCに注入した。標準品の要約を表12に示す。サンプルを、室温まで温め、使用する前に5分逆さにした。サンプル1mlを、10mlのメスフラスコ中のメタノール6mlに加えた。次いで、サンプルを10分間超音波処理し、次いで、定容積まで希釈し、混ぜた。濃度に対してプロットされたピーク面積で標準品に対して直線回帰を行った。次いで、サンプルを、曲線に対して計算した。
【0127】
(実施例9)
30リットル規模の生産。実施例6に記載されているような組成の30リットルバッチの糖脂質アジュバント溶液を調製した。このバッチは、15mM NaClを含有していた。
【0128】
この30L調製物を用い、5つの異なるサブ溶液を、漸増濃度のNaOHと共に調製した。NaOH濃度は、0mMから、1mM、2mM、4mM、8mM、および12mMまで増加させた。各NaOH濃度についてのサンプルを、pH測定および目視観察のために等分した。漸増量のNaOHにより、糖脂質アジュバントのpHは、凝集の増加と共に増加した。凝集は、室温において2mM NaOH濃度で現れ始め、4℃において、凝集は、4mM NaOHにおいて現れ始めた。
【0129】
【表12】

【0130】
表13に示す6つのサンプルすべてにおけるBay 15−5381の量は、実施例8に記載されているHPLC法を用いて定量した。様々なpHのサンプルは、同じ濃度のBay 15−5381を示し、アジュバント成分が、NaOHの添加によるpH増加および付随する凝集の間に分解されないことを示唆していた。
【0131】
(実施例10)
加速ストレス試験を用いる安定性評価。この実施例は、糖脂質アジュバント溶液に対する加速ストレス試験の方法および結果について記載している。実施例6に記載されているような糖脂質アジュバント溶液の3つのバッチを500L規模で調製した。3つのバッチはすべて、15mM NaClを有し、NaOHは含有していなかった。これら3つの500Lバッチからの糖脂質アジュバント溶液を、加速安定性試験を用いる糖脂質の安定性を研究するために使用した。
【0132】
加速ストレス試験の場合、糖脂質アジュバント溶液を、37℃における7日間にわたるかき混ぜと、続いて、2日間にわたる4℃におけるかき混ぜにさらす。37℃における7日間のかき混ぜは、1年間の4℃における経年劣化に相当する。2日間の4℃におけるかき混ぜは、輸送中のストレスに相当する。
【0133】
1組の糖脂質アジュバント溶液を、7日間にわたり37℃において静止状態に保ち、次いで、さらに2日間にわたり4℃において100rpmにてかき混ぜた。4つの時点、すなわち、T=0、3、7、および9日目に、観察および写真を記録した。次いで、2つの時点、すなわち、T=0および9日目に、屈折率および粒径分析を行った。
【0134】
第2組の糖脂質アジュバント溶液を、7日間にわたり37℃において100rpmにてかき混ぜ、次いで、さらに2日間にわたり4℃において100rpmにてかき混ぜた。4つの時点、すなわち、T=0、3、7、および9日目に、観察および写真を記録した。次いで、2つの時点、すなわち、T=0および9日目に、屈折率および粒径分析を行った。
【0135】
第3組の糖脂質アジュバント溶液を、対照として、9日間にわたり4℃において静止状態にした。4つの時点、すなわち、T=0、3、7、および9日目に、観察および写真を記録した。次いで、2つの時点、すなわち、T=0および9日目に、屈折率および粒径分析を行った。
【0136】
ストレス試験の結果として、粒径の変化はなかった。すべてのサンプルは、調製された直後のサンプルにおいて観察されるサブミクロンの粒径を維持した。さらに、7日間にわたり4℃において保たれたか、または37℃においてストレスにさらされたサンプル中のBay 15−5381(登録商標)成分のHPLC測定は、Bay 15−5381(登録商標)の量に何らの変化も示さなかった。
【0137】
【表13】

【0138】
表15において、対照サンプルは、7日間にわたり4℃において保ち、試験サンプルは、7日間にわたり37℃においてかき混ぜた。7日間にわたり37℃においてかき混ぜたサンプルは、4℃において保管したサンプルと同様の濃度を有している。
【0139】
(実施例11)
糖脂質アジュバント溶液の殺ウイルス試験。
殺ウイルス試験は、実施例9において上記に記載されているような30L規模で調製された糖脂質アジュバント溶液について行った。この糖脂質アジュバント溶液は、15mM NaClを含有し、NaOHは含有していなかった。
【0140】
糖脂質アジュバントを、修飾型生存ウイルスと一緒に希釈剤としてそれを使用するための適合性について試験した。修飾型生存ウイルス抗原は、凍結乾燥プラグとして調製される。適当な糖脂質アジュバント溶液でこれらのプラグを再水和すると、使用された糖脂質アジュバント溶液が修飾型生存ウイルスを殺さないことが裏付けられた。糖脂質アジュバント溶液を、3種のウシウイルス抗原、すなわち、ウシRSウイルス(BRSV)、パラインフルエンザウイルス3(PI3)、および伝染性ウシ鼻気管炎(IBR)ウイルスに対して試験した。
【0141】
ウイルスプラグを、糖脂質アジュバント溶液を用いて再水和した。1時間にわたる室温(RT)におけるインキュベーション後、サンプルを、段階希釈で許容細胞系の単層上にプレートした。単層上に現れるウイルスプラグ数をカウントすることにより、滅菌水または糖脂質アジュバント溶液で再水和された各ウイルス抗原について、1ml当たりの50%組織培養感染量(TCID50/ml)値が得られた。このアッセイにおいて、試験糖脂質アジュバント溶液による再水和後の0.7の力価の減少は、殺ウイルス性であるとして扱われた。
【0142】
結果を表16に示す。糖脂質アジュバント溶液は、これらの3種のウシウイルスに対していなかる殺ウイルス効果も示さなかった。
【0143】
【表14】

【0144】
この実施例は、糖脂質アジュバント溶液が、Animal Healthワクチンの商業製剤において使用することができることを示している。Rispoval(登録商標)は、3種の修飾型生存ウイルス抗原を用いる3種の異なるウシウイルス疾患を含有している。これらのウシウイルス抗原は、修飾型生存ウシヘルペスウイルス、修飾型生存ウシRSウイルス、および修飾型生存パラインフルエンザウイルス3である。これらのウイルス抗原は、凍結乾燥ケーキとして製造され、本発明により製造される糖脂質アジュバント溶液を、これらの抗原のための希釈剤溶液として使用することができる。使用される糖脂質は、N−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミドアセテートであった。
【0145】
実施例は、本発明を例示するために提供される。実施例は、本発明の範囲を限定していると受け止められるべきではない。本発明の多くの変更形態、変形形態、修正形態、ならびに他の用途および応用は、当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)塩形態の、式Iの糖脂質
(ここで、式Iは、
【化1】

であり、
(式中、
およびRは、独立して、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
Xは、−CH−、−O−または−NH−であり、
は、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和もしくは不飽和アルキル基であり、
、R、およびRは、独立して、水素、−SO2−、−PO2−、−COC1〜10アルキルであり、
は、L−アラニル、L−α−アミノブチル、L−アルギニル、L−アスパルギニル、L−アスパルチル、L−システイニル、L−グルタミル、L−グリシル、L−ヒスチジル、L−ヒドロキシプロピル、L−イソロイシル、L−ロイシル、L−リシル、L−メチオニル、L−オルニチニル、L−フェニルアラニル、L−プロリル、L−セリル、L−スレオニル、L−チロシル、L−トリプトファニル、およびL−バリルまたはそれらのD−異性体であり、塩形態は、弱酸から誘導される))、
b)アルコール(ここで、アルコールは、HO−C1〜3アルキルである)、
c)弱酸(ここで、弱酸は、1)糖脂質含有量に関してモル過剰であり、2)標準的な表または値を用いて1.0〜9.5のpKa(Kaの−log)値を有する任意の酸である)、
d)非イオン性界面活性剤(ここで、非イオン性界面活性剤は、それが溶解している材料の表面張力を下げる作用物質であり、疎水性である1構成成分と親水性である別の構成成分を有する)
を含む組成物。
【請求項2】
糖脂質が、式II(a)の化合物であり、
【化2】

弱酸が、以下の弱酸、酢酸、H(C)(pKa4.76);アスコルビン酸(1)、H(C)(pKa4.10);アセチルサリチル酸、H(C)、(pKa3.5);ブタン酸、H(C)(pKa4.83);炭酸、1形、HCO、(pKa4.83);クロム酸、2形、HCrO−、(pKa6.49);クエン酸1形、H(C)、(pKa3.14);クエン酸2形、H、(pKa4.77);クエン酸3形、(HC、(pKa6.39);ギ酸、H(CHO)、(pKa3.75);フマル酸、H(C)(pKa3.03);ヘプタン酸、H(C13)、(pKa4.89);ヘキサン酸、H(C11)、(pKa4.84);フッ化水素酸、HF、(pKa3.20);イソシトレート、H(C)(pKa3.29);乳酸、H(C)、(pKa3.08);マレイン酸、H(C)(pKa1.83);ニコチン酸、H(CNO)(pK3.39);シュウ酸1形、H(C)、(pKa1.23);シュウ酸2形、(HC、(pKa4.19);ペンタン酸、H(C)、(pKa4.84);リン酸1形、HPO、(pKa2.16);プロパン酸、H(C)、(pKa4.86);ピルビン酸、H4(C)(pKa2.39);コハク酸H(C)(pKa4.19)およびトリクロロ酢酸、H(CCl)(pKa0.70)のうちの1つまたは任意の組合せから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
糖脂質が、式II(b)の化合物であり、
【化3】

弱酸が、以下の弱酸、すなわち、酢酸、アセチルサリチル酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、フッ化水素酸、イソシトレート、マレイン酸、ニコチン酸、リン酸、ピルビン酸、コハク酸およびトリクロロ酢酸のうちの1つまたは任意の組合せから選択される請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
糖脂質が、式IIIの構造を有するN−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミドアセテートであり、
【化4】

弱酸が、酢酸である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
弱酸が、酢酸、アセチルサリチル酸、クエン酸1形、クエン酸2形、クエン酸3形、ギ酸、フマル酸、フッ化水素酸、イソシトレート、マレイン酸、ニコチン酸、リン酸1形、ピルビン酸、コハク酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選択される請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記弱酸が、糖脂質のモル当量より大きい量であるか、または糖脂質のモル当量より以下の倍数、すなわち
a)1.25倍大きい、
b)2.0倍大きい、
c)2.5倍大きい、
d)2.7倍大きい、
e)3.0倍大きい、
f)5.0倍大きい
量である請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
アルコールが、エチルアルコールである請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤が、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ならびにワクチンにおいて一般的に使用される他のソルビタンおよびポリオキシエチレンソルビタンからなる群のうちの任意の1つまたは組合せから選択される請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
a)塩形態の、式Iの糖脂質
(ここで、式Iは、
【化5】

であり、
(式中、
およびRは、独立して、水素、または20個までの炭素原子を有する飽和アルキル基であり、
Xは、−CH−、−O−または−NH−であり、
、R、およびRは、独立して、水素、−SO2−、−PO2−、−COC1〜10アルキルであり、
は、L−アラニル、L−α−アミノブチル、L−アルギニル、L−アスパルギニル、L−アスパルチル、L−システイニル、L−グルタミル、L−グリシル、L−ヒスチジル、L−ヒドロキシプロピル、L−イソロイシル、L−ロイシル、L−リシル、L−メチオニル、L−オルニチニル、L−フェニルアラニル、L−プロリル、L−セリル、L−スレオニル、L−チロシル、L−トリプトファニル、およびL−バリルまたはそれらのD−異性体であり、塩形態は、弱酸から誘導される))、
b)アルコール(ここで、アルコールは、HO−C1〜3アルキルである)、
c)弱酸(ここで、弱酸は、1)糖脂質含有量に関してモル過剰であり、2)標準的な表または値を用いて約1.0〜約9.5のpKa(Kaの−log)値を有する任意の酸である)、
d)非イオン性界面活性剤(ここで、非イオン性界面活性剤は、それが溶解している材料の表面張力を下げる作用物質であり、疎水性である1構成成分と親水性である別の構成成分を有する)、および
e)水性緩衝液(ここで、適当な緩衝液は、ワクチン使用に適しており、約6〜約8のpH範囲内に他の構成成分のpHを維持することができるが、ただし、50mM以下のNaClが使用される)
を含む組成物。
【請求項10】
溶液のpHが、約6〜約7の水溶液中での比較的一定なpHに調整され、緩衝液が、同じまたは異なる比率でリン酸ナトリウムおよび/またはリン酸カリウムの一塩基性塩と二塩基性塩のどちらかまたは双方を有するリン酸緩衝液からなる群から選択される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記緩衝液が、
a)2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MESとしても知られている)、
b)3−N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPSとしても知られている)、
c)n−[トリス(ヒドロキシメチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TESとしても知られている)、
d)4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸(HEPESとしても知られている)、および
e)[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(TRISとしても知られている)の群から選択される、
またはそれらの任意の組合せである請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
修飾型生存ウシヘルペスウイルス、修飾型生存ウシRSウイルス、および修飾型生存パラインフルエンザウイルス3からなる群から選択される抗原、またはそれらの任意の組合せをさらに含む請求項1から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
a)式IIIの構造を有するN−(2−デオキシ−2−L−ロイシルアミノ−β−D−グルコピラノシル)−N−オクタデシルドデカンアミドアセテート、
【化6】

b)エタノール、
c)酢酸、
d)ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエートから選択される非イオン性界面活性剤、
e)水性緩衝液(ここで、溶液のpHは、約6〜約7の水性緩衝溶液中での比較的一定なpHに調整され、緩衝液は、
(i)2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MESとしても知られている)、
(ii)3−N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPSとしても知られている)、
(iii)n−[トリス(ヒドロキシメチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TESとしても知られている)、
(iv)4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸(HEPESとしても知られている)、および
(v)[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(TRISとしても知られている)の群から選択される、
またはそれらの任意の組合せであり、
ただし、15mM以下のNaClが使用される)、および
f)本質的に修飾型生存ウシヘルペスウイルス、修飾型生存ウシRSウイルス、および修飾型生存パラインフルエンザウイルス3からなる抗原、
を含む組成物。
【請求項14】
組成物を調製するための方法であって、以下の、
A)式Iの糖脂質、
B)アルコール(ここで、アルコールは、HO−C1〜3アルキルである)、
C)弱酸(ここで、弱酸の量は、糖脂質含有量に関してモル過剰である)、および
D)非イオン性界面活性剤
を混ぜ合わせることを含む方法。
【請求項15】
組成物を調製するための方法であって、以下の、
A)式Iの糖脂質、
B)アルコール(ここで、アルコールは、HO−C1〜3アルキルである)、
C)弱酸(ここで、弱酸の量は、糖脂質含有量に関してモル過剰である)、
D)非イオン性界面活性剤
を混ぜ合わせること、次いで、
E)適当な緩衝液
を加えることを含む方法。

【公表番号】特表2009−524638(P2009−524638A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551904(P2008−551904)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000258
【国際公開番号】WO2007/085962
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】